(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6265269
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】2サイクルエンジン、エンジン作業機
(51)【国際特許分類】
F02F 7/00 20060101AFI20180115BHJP
F02B 63/02 20060101ALI20180115BHJP
F02F 3/24 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
F02F7/00 301F
F02B63/02
F02F3/24
F02F7/00 301A
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-545498(P2016-545498)
(86)(22)【出願日】2015年8月21日
(86)【国際出願番号】JP2015073536
(87)【国際公開番号】WO2016031718
(87)【国際公開日】20160303
【審査請求日】2016年9月6日
(31)【優先権主張番号】特願2014-175811(P2014-175811)
(32)【優先日】2014年8月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005094
【氏名又は名称】日立工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(74)【代理人】
【識別番号】100194146
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 明
(74)【代理人】
【識別番号】100194283
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 大勇
(72)【発明者】
【氏名】吉▲崎▼ 陽祐
(72)【発明者】
【氏名】一橋 直人
【審査官】
堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−018848(JP,A)
【文献】
特開2007−239509(JP,A)
【文献】
実開平06−022550(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/00−1/42; 7/00
F02B 61/00−79/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンピンがピストンピンボスを介して装着されてシリンダ中で上下往復運動をするピストンが用いられ、当該ピストンの下側に設けられたクランクケース内に導入された混合気が、前記ピストンの下降に伴って、掃気通路を介して前記ピストンの上側に形成された燃焼室内に導入される構成を具備する2サイクルエンジンであって、
前記シリンダの内面に沿って摺動する前記ピストンの側壁部には部分的に下端側から切り欠き部が形成され、前記ピストンが下死点に位置する際に、前記切り欠き部は前記掃気通路と連通し、前記クランクケースには、前記掃気通路の下側において、前記ピストンが下死点に位置する際に前記切り欠き部を貫通し、前記ピストンの内面より前記シリンダの中心軸側に突出するクランクケース突き出し部が設けられ、
前記クランクケース突き出し部は、前記ピストンが下死点に位置する際に、前記ピストンの外周から前記ピストンの中心軸側に突出する量が、前記ピストンの外径に対して10〜35%の範囲となるように形成されたことを特徴とする2サイクルエンジン。
【請求項2】
前記クランクケース突き出し部の上面と、前記ピストンピンボスの下面とが対向して前記ピストンの径方向に延びることを特徴とする請求項1に記載の2サイクルエンジン。
【請求項3】
前記掃気通路は、前記シリンダの内面に形成された溝と、前記ピストンの外周面とを有し、前記ピストンピンボスの下面に沿って前記掃気通路に流入した混合気が、前記ピストンの外周面に沿って前記燃焼室内に導入されることを特徴とする請求項2に記載の2サイクルエンジン。
【請求項4】
前記切り欠き部の最上部は、前記ピストンピンボスよりも上側に設けられたことを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項に記載の2サイクルエンジン。
【請求項5】
前記切り欠き部は前記ピストンの周方向において前記ピストンピンボスの中心を挟んで設けられ、前記ピストンピンの中心を挟んだ両側において、それぞれ隣り合う別の掃気通路と連通し、前記クランクケース突き出し部の上面は、前記隣り合う別の掃気通路に跨って配置されることを特徴とする請求項4に記載の2サイクルエンジン。
【請求項6】
前記クランクケース突き出し部における前記シリンダの中心側の面と上面の接続部が曲面として形成されることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の2サイクルエンジン。
【請求項7】
前記ピストンが下死点に位置する際に前記燃焼室に前記掃気通路が開口する面積に対して、前記クランクケース突き出し部と前記切り欠き部によって形成された前記掃気通路の入口の面積が1.2倍乃至4倍とされることを特徴とする請求項1から6までのいずれか1項に記載の2サイクルエンジン。
【請求項8】
前記ピストンが下死点に位置する際の前記クランクケース突き出し部の前記ピストンの外周から前記ピストンの中心軸側に突出する量が、前記ピストンピンボスから前記ピストンの下端までの上下方向の距離に対して5〜75%の範囲であることを特徴とする請求項1から7までのいずれか1項に記載の2サイクルエンジン。
【請求項9】
前記ピストンの上下往復運動によって回転駆動されクランクケース内に設けられたクランク軸にはカウンターウエイトが固定され、
前記クランクケース突き出し部の上面は、最上部に位置する際の前記カウンターウエイトよりも上側に設定されたことを特徴とする請求項8に記載の2サイクルエンジン。
【請求項10】
シリンダ中で上下往復運動をするピストンの下側に設けられたクランクケース内に導入された混合気が、前記ピストンの下降に伴って、掃気通路を介して前記ピストンの上側に形成された燃焼室内に導入される構成を具備する2サイクルエンジンであって、
前記シリンダの内面に沿って摺動する前記ピストンの側壁部には部分的に下端側から切り欠き部が形成され、前記ピストンが下死点に位置する際に、前記切り欠き部は前記掃気通路と連通し、前記クランクケースには、前記掃気通路の下側において、前記ピストンが下死点に位置する際に前記切り欠き部を貫通し前記シリンダの中心軸側に突出するクランクケース突き出し部が設けられ、
前記ピストンの上下往復運動によって回転駆動されクランクケース内に設けられたクランク軸にはカウンターウエイトが固定され、
前記ピストンが下死点に位置する際に、前記クランクケース突き出し部は前記カウンターウエイトの上側に突出するように形成されたことを特徴とする2サイクルエンジン。
【請求項11】
請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載の2サイクルエンジンを動力源とすることを特徴とするエンジン作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2サイクルエンジンの構造、及びこれが用いられるエンジン作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
刈払機、送風機、チェーンソー、パワーカッタ等、小型のエンジンが動力源として使用される各種のエンジン作業機が知られている。
【0003】
例えば刈払機においては、エンジンによって駆動される刈刃によって草木等の切断が行われ、作業を効率的に行うためには、エンジンの出力が高いことが要求される。一方、刈払機は通常は作業者に携帯されて使用されるために、軽量であることが要求される。このため、刈払機に使用されるエンジンとしては、小型軽量であり、高い出力を得ることのできる2サイクルエンジンが特に好ましく用いられている。
【0004】
2サイクルエンジンにおいては、シリンダ内において形成された燃焼室に、燃料と空気とが混合された混合気が導入され、ピストンが上昇し混合気の圧縮が行われた後に、圧縮された混合気が点火されて爆発する。ここで、ピストンが上昇し燃焼室内での圧縮が行われる際に、ピストンの下側のクランクケース内に新たな混合気が吸気される。爆発によってピストンが下降する際に、クランクケース内に溜められた新たな混合気が圧縮(1次圧縮)され、掃気通路を介して燃焼室に新たに導入される。これにより、燃焼室において燃焼後の排気ガスが排出(掃気)されると同時に新たな混合気が導入された後に、再びピストンが上昇するという動作が繰り返される。
【0005】
2サイクルエンジンの出力を高めるためには、掃気効率を向上させる、すなわち、新しい混合気を燃焼室に効率的に導入して排気ガスを効率的に排出させることが有効である。掃気効率を向上させるためには、1次圧縮比を高めることによってより多くの混合気を燃焼室に送ることが有効であり、1次圧縮比を高めるためには、クランクケースの容積が小さくなる構造が有効である。
【0006】
例えば、特許文献1には、クランクケース内部や掃気通路の構造を工夫することによって、このように掃気効率を高めた2サイクルエンジンの構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−170538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の技術のようにクランクケース内部や掃気通路の構造を工夫することによって掃気効率を高める場合には、クランクケース内に何らかの構造物を設けることが必要となる。このため、構造が複雑となり、かつ、この構造物を設けるためにクランクケース内の容積をその分大きくすることも必要となる。このため、上記の効果は不充分となった。
【0009】
このため、単純な構造でクランクケース内の容積を小さくし、掃気効率を高めることは困難であった。
【0010】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記の問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の2サイクルエンジンは、
ピストンピンがピストンピンボスを介して装着されてシリンダ中で上下往復運動をするピストン
が用いられ、当該ピストンの下側に設けられたクランクケース内に導入された混合気が、前記ピストンの下降に伴って、掃気通路を介して前記ピストンの上側に形成された燃焼室内に導入される構成を具備する2サイクルエンジンであって、前記シリンダの内面に沿って摺動する前記ピストンの側壁部には部分的に下端側から切り欠き部が形成され、前記ピストンが下死点に位置する際に、前記切り欠き部は前記掃気通路と連通し、前記クランクケースには、前記掃気通路の下側において、前記ピストンが下死点に位置する際に前記切り欠き部を貫通し
、前記ピストンの内面より前記シリンダの中心軸側に突出するクランクケース突き出し部が設けられ
、前記クランクケース突き出し部は、前記ピストンが下死点に位置する際に、前記ピストンの外周から前記ピストンの中心軸側に突出する量が、前記ピストンの外径に対して10〜35%の範囲となるように形成されたことを特徴とする。
本発明の2サイクルエンジンは、前記クランクケース突き出し部の上面と、前記ピストンピンボスの下面とが対向して前記ピストンの径方向に延びることを特徴とする。
本発明の2サイクルエンジンにおいて、前記掃気通路は、前記シリンダの内面に形成された溝と、前記ピストンの外周面とを有し、前記ピストンピンボスの下面に沿って前記掃気通路に流入した混合気が、前記ピストンの外周面に沿って前記燃焼室内に導入されることを特徴とする。
。
本発明の2サイクルエンジンにおいて、前記切り欠き部の最上部は、
前記ピストンにおいてピストンピンが装着されるピストンピンボスよりも上側に設けられたことを特徴とする。
本発明の2サイクルエンジンにおいて、前記切り欠き部は前記ピストンの周方向において前記ピストン
ピンボスの中心を挟んで設けられ、前記ピストンピンの中心を挟んだ両側において、それぞれ隣り合う別の掃気通路と連通
し、前記クランクケース突き出し部の上面は、前記隣り合う別の掃気通路に跨って配置されることを特徴とする。
本発明の2サイクルエンジンは、前記クランクケース突き出し部における前記シリンダの中心側の面と上面の接続部が曲面として形成されることを特徴とする。
本発明の2サイクルエンジンは、前記ピストンが下死点に位置する際に前記燃焼室に前記掃気通路が開口する面積に対して、前記クランクケース突き出し部と前記切り欠き部によって形成された前記掃気通路の入口の面積が1.2倍乃至4倍とされることを特徴とする。
本発明の2サイクルエンジンは、前記ピストンが下死点に位置する際の前記クランクケース突き出し部の前記ピストンの外周から前記ピストンの中心軸側に突出する量が、前記ピストンピンボスから前記ピストンの下端までの上下方向の距離に対して5〜75%の範囲であることを特徴とする。
本発明の2サイクルエンジンは、前記ピストンの上下往復運動によって回転駆動されクランクケース内に設けられたクランク軸にはカウンターウエイトが固定され、前記クランクケース突き出し部の上面は、最上部に位置する際の前記カウンターウエイトよりも上側に設定されたことを特徴とする。
本発明の2サイクルエンジンは、シリンダ中で上下往復運動をするピストンの下側に設けられたクランクケース内に導入された混合気が、前記ピストンの下降に伴って、掃気通路を介して前記ピストンの上側に形成された燃焼室内に導入される構成を具備する2サイクルエンジンであって、前記シリンダの内面に沿って摺動する前記ピストンの側壁部には部分的に下端側から切り欠き部が形成され、前記ピストンが下死点に位置する際に、前記切り欠き部は前記掃気通路と連通し、前記クランクケースには、前記掃気通路の下側において、前記ピストンが下死点に位置する際に前記切り欠き部を貫通し前記シリンダの中心軸側に突出するクランクケース突き出し部が設けられ、前記ピストンの上下往復運動によって回転駆動されクランクケース内に設けられたクランク軸にはカウンターウエイトが固定され、前記ピストンが下死点に位置する際に、前記クランクケース突き出し部は前記カウンターウエイトの上側に突出するように形成されたことを特徴とする
。
本発明のエンジン作業機は、前記2サイクルエンジンを動力源とすることを特徴とする
。
【発明の効果】
【0012】
本発明は以上のように構成されているので、単純な構造でクランクケース内の容積を小さくし、掃気効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態となる刈払機全体の構成を示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施の形態となる刈払機における動力部の正面図である。
【
図3】本発明の実施の形態となる刈払機における動力部のA−A方向の断面図である。
【
図4】本発明の実施の形態となる刈払機における動力部のA−A方向の断面の部分拡大図である。
【
図5】本発明の実施の形態において用いられるピストンの斜視図である。
【
図6】本発明の実施の形態となる刈払機における動力部のB−B方向の断面図である。
【
図7】本発明の実施の形態において用いられるシリンダ、クランクケースの内部の構造を示す斜視図である。
【
図8】本発明の実施の形態の第1の変形例における動力部の一部を拡大した断面図である。
【
図9】本発明の実施の形態の第2の変形例において用いられるピストンの斜視図である。
【
図10】本発明の実施の形態の第2の変形例における動力部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態となるエンジン作業機(刈払機)の構成について説明する。
図1は、この刈払機100の構成を示す斜視図である。この刈払機100においては、前後方向に細長い操作棹101の前端(一端)側には、回転する刈刃102が設けられる。刈刃102は、操作棹101の後端(他端)側に設けられた動力部200中のエンジン(図示せず)によって駆動される。このため、操作棹101中には、エンジンの回転運動を前端側に伝達するための伝達軸(図示せず)が設けられている。操作棹101の前後方向における中央付近には、作業時に作業者が把持するためのハンドル103が設けられている。動力部200には、小型の2サイクルエンジンが内蔵されている。
【0015】
図2は、動力部200を前方から見た正面図である。
図3は、そのA−A方向に沿った断面図であり、動力部200におけるクランク軸に沿った断面構造が示されている。ここで、クランク軸の中心軸は、操作棹101の中心軸の延長線上に存在する。
図2に示されるように、この動力部200においては、エンジン(
図2において図示せず)はシリンダカバー201で覆われた内部に設けられ、動力部200の下側には、燃料が溜められる燃料タンク202が装着される。燃料は、燃料タンク202から
図2における右側に設けられた気化器203に供給され、エアクリーナ204を介して気化器203に導入された空気との混合気がエンジンに供給される。なお、図示が省略されているが、
図2における左側には、排気ガスを通過させるマフラもエンジンに装着され、このマフラも、シリンダカバー201と一体化されたマフラカバーで覆われる。このため、
図2における左右方向が吸排気方向となっており、
図3においては、吸排気方向と垂直な断面が示されている。また、エンジンの前方側において装着されたファンケース205中で冷却風が生成され、この冷却風がシリンダカバー201内を流れ、エンジンやマフラ等が冷却される。
【0016】
この動力部200においては、動力源となるエンジンとして2サイクルエンジンが使用され、このエンジンの内部構造に特徴を有する。
図3に示されるように、この2サイクルエンジンは、その中心軸が上下方向とされた略円筒形状の表面に冷却フィンが形成された形態を具備するシリンダ10と、その下側においてクランク軸21が内部に設けられたクランクケース20とが組み合わされて構成される。シリンダ10の内部には、上下往復運動をするピストン11が設けられ、ピストン11の上側には燃焼室12が形成される。ピストン11の内側にはコンロッド13の上端側がピストンピン14を介して連結され、コンロッド13の下端側はクランク軸21と連結されることによって、ピストン11の上下往復運動がクランク軸21の回転運動に変換される。この動作を円滑に行わせるために、クランク軸21には錘となるカウンターウエイト22が固定されている。クランクケース20は、カウンターウエイト22が固定されたクランク軸21を回転可能な状態として収容できる形状とされている。ピストン11の上下往復運動に伴ってカウンターウエイト22も移動し、ピストン11が下死点側に位置する場合には、カウンターウエイト22はその最上部に位置する。
【0017】
また、ピストン11が下死点付近にある場合には、ピストン11の下側のクランクケース20内と、ピストン11の上側の燃焼室12とは、シリンダ10に形成された掃気通路15を介して連通する。これによって、ピストン11の下降時に掃気通路15を介した掃気が可能となる。
図3においては、ピストン11が下死点側にある状態が示されている。
【0018】
また、クランク軸21の後方(
図3における右方)には、クランク軸21を強制的に回転させてエンジンを始動させるために用いられる始動装置30が装着される。一方、クランク軸21の前方(
図3における左方)には、冷却ファン31及び遠心クラッチ32が固定される。クランク軸21の回転に伴って冷却ファン31によって冷却風が生成され、この冷却風がファンケース205内からシリンダカバー201内にかけて流れることによって、運転時に発熱するシリンダ10等が冷却される。また、遠心クラッチ32は、高速回転時にその外径が広がるように構成され、外径が広がった場合には、遠心クラッチ32を覆うように設けられたクラッチドラム33の内面と遠心クラッチ32の外周とが接する。これによって、遠心クラッチ32(クランク軸21)と、クラッチドラム33が固定され操作棹101内に同軸に設けられた伝達軸104との間の動力の伝達が制御される。また、冷却ファン31には、発電用の磁石(図示せず)が固定され、その回転に伴って電力を発生させる。この電力は、点火コイル34を用いて昇圧され、プラグコード(図示せず)を介してプラグキャップ35で覆われた点火プラグ(図示せず)に適正な点火タイミングで供給されることによって、エンジンが動作する。
【0019】
上記の構成は、通常知られるエンジン作業機におけるものと同様であるが、上記のエンジンにおいては、2サイクルエンジンの特に掃気に関わる構造に特徴を有する。この点について以下に説明する。
図4は、
図3において破線で囲まれた領域Xの構造を拡大して示す図である。また、
図5は、ここで用いられるピストン11の形状を示す斜視図である。
図6は、
図3におけるB−B方向からこの動力部200を見た断面図である。前記の通り、
図3、4、6においては、ピストン11は下死点側に位置する。
【0020】
図5に示されるように、ここで用いられるピストン11は、略円形のピストン上面111と、ピストン上面111と同一径の円筒形状の側面を具備しシリンダ10の内面に沿って摺動するピストン側壁部(側壁部)112を具備する。コンロッド13を連結するために用いられるピストンピン14は、このピストン側壁部112を横方向で貫通する。このため、ピストン側壁部112には、ピストンピン14を係止するためのピストンピンボス113が径方向において対称な2箇所に設けられている。
図3、4は、円筒形状のピストンピン14の中心軸に沿った断面構造を示し、
図6は、この中心軸に垂直な断面構造を示している。なお、
図6は、ピストン11、シリンダ10、クランクケース20の構成要素を抜き出した状態を示す。ピストンピンボス113においては、ピストンピン14が貫通する円形の孔部113Aが設けられ、ピストン側壁部112における孔部113Aの周囲は、ピストンピン14を高い機械的強度で支持するために、内側において特に厚く形成されている。
【0021】
ここで、ピストン側壁部112におけるピストンピンボス113の下側周辺には、局所的にピストン側壁部112が除去された切り欠き部114が下端側から設けられている。すなわち、ピストン側壁部112は、切り欠き部114が設けられた箇所ではピストンピンボス113付近までしか下側に延伸していないのに対し、切り欠き部114が設けられた箇所以外ではより下側(ピストン上面111と反対側)まで延伸している。
図5においては、切り欠き部114が設けられない場合のピストン側壁部112の形状がピストン外周Hとして示されている。
図5に示されるように、切り欠き部114の最上部は、ピストンピンボス113の両側では、ピストンピンボス113の下端よりも上に設けられている。この切り欠き部114は、ピストン11が下端側に位置する際に、掃気通路15と連通する箇所に設けられる。切り欠き部114は、ピストン側壁部112の周方向において、ピストンピンボス113の中心を挟んだ両側でピストンボス113の下端よりも上に設けられており、両側でそれぞれ隣り合う別の掃気通路15と重なって連通している。
【0022】
図4においては、クランクケース20内から燃焼室12に至るまでの混合気の流れ(掃気流)Sが矢印で示されている。ここで示されるように、ピストン11が下死点側にある場合において、ピストン11における切り欠き部114に対応した箇所には、クランクケース20の内面が内側(シリンダ10の中心軸がある側)に突出し、切り欠き部114を内側に向かって貫通するクランクケース第1突き出し部(突き出し部)20Aが形成されている。一方、ピストン11において切り欠き部114が形成されていない箇所に対応した箇所におけるクランクケース20は、内側に突出した形状とされていない。こうした形状のピストン11、クランクケース20を組み合わせることによって、ピストン11をクランクケース20と干渉させずに上下往復運動させることができる。この際、クランクケース第1突き出し部20Aを設けることによって、クランクケース20内の容積を小さくすることができる。クランクケース20内の容積を小さくし、かつ掃気を円滑に行わせるためには、クランクケース突き出し部20Aは、ピストン11の外周(
図4におけるピストン外周Hの右端部)よりもピストン11側に突出して重なる量が、ピストン11の外径(半径)に対して10〜35%となり、ピストンピンボス113からピストン11の下端までの距離に対して5〜75%となるよう設定されることが望ましい。また、クランクケース突き出し部20Aは、シリンダ10の中心側の面と上面を連結する接続部が緩やかな曲面として形成されており、クランクケース20の内部から掃気通路15への混合気の流れを滑らかに誘導している。
【0023】
図6においては、シリンダ10の中心軸周りで90°異なる向きの構造が示されている。ピストン11が下死点側にある場合に、掃気通路15は、下側において切り欠き部114を介してクランクケース20内と連通し、上側で燃焼室12と連通する。これによって、切り欠き部114を介して掃気が行われる。この際、ピストン側壁部112に切り欠き部114を設けることによって、掃気通路15のクランクケース20側における間口(掃気入口O)を広くすることができ、掃気効率を高めることができる。
図6においては、切り欠き部114と掃気通路15との重複部分がこの掃気入口Oであり、ハッチングで示されている。掃気入口Oの面積は、特に掃気効率を考慮して、ピストン11が下死点に位置する際に掃気通路15が燃焼室12に開口する面積より大きくなるよう構成されており、この開口面積の1.2倍乃至4倍の範囲とすることが望ましい。
【0024】
この際、切り欠き部144の最上部を高い位置に設定する、具体的には、切り欠き部144の最上部がピストンピンボス113の両側においてピストンピンボス113の下端よりも上に存在するように切り欠き部114を形成することによって、掃気入口Oの面積をより大きくすることができ、掃気効率をより高めることができる。この際、切り欠き部114の存在がピストンピンボス113におけるピストンピン14の支持に悪影響を与えることもない。あるいは、この切り欠き部114に対応してクランクケース第1突き出し部20Aをより上側まで形成することができ、クランクケース20内の容積をより小さくすることができる。
【0025】
上記の構成では、ピストン11に切り欠き部114を設け、クランクケース20内面形状を、クランクケース第1突き出し部20Aが設けられるような形状とすることのみによって、クランクケース20内の容積を小さくしている。すなわち、部品を追加することなく、ピストン11やクランクケース20の形状を調整したのみの単純な構造によって掃気効率を高めている。
【0026】
図5に示されたような切り欠き部114が設けられたピストン11は、金属加工によって容易に製造することができる。一方、
図7は、クランクケース第1突き出し部20Aが設けられたクランクケース20、シリンダ10の内部構造を示す斜視図である。この構造も掃気通路15の下側に部分的にクランクケース第1突き出し部20Aを設けるだけで容易に製造することができる。すなわち、上記の2サイクルエンジンを容易に製造することができる。
【0027】
次に、上記の構造の第1の変形例について説明する。
図8は、第1の変形例の構造を示す、
図4に対応した断面図である。この構造においては、カウンターウエイト22の上方まで延伸するクランクケース第2突き出し部(突き出し部)20Bが、クランクケース第1突き出し部20Aに加えて更に設けられている。
図8においては、ピストン11が下死点側にある場合が示されているために、カウンターウエイト22は最上部に位置している。
【0028】
図8に示されたクランクケース第2突き出し部20Bを設けても、クランク軸21が回転する際に、クランクケース第2突き出し部20Bがピストン11、カウンターウエイト22と干渉することはない。一方、クランクケース第2突き出し部20Bを設けることによって、クランクケース20内の容積を更に低減することができる。クランクケース第2突き出し部20Bを更に設けたクランクケース20が容易に製造できることも明らかである。
【0029】
また、
図4と
図8における掃気流Sを比較して明らかなように、
図8の構成においては、クランクケース第2突き出し部20Bが設けられたことによって、クランクケース20内から燃焼室12に至るまでの掃気経路がより長くなる。このため、掃気時における燃焼室12からクランクケース20内への排気ガスの逆流が、クランクケース第2突き出し部20Bが設けられたことによって、より抑制される。これによっても、より良好なエンジン特性を得ることができる。
【0030】
次に、第2の変形例について説明する。
図9は、ここで用いられるピストン61の斜視図であり、
図5に相当する。
図10は、この場合の動力部の
図6に相当する断面図である。ここで用いられるピストン61においても、前記のピストン11と同様にピストン側壁部112に切り欠き部114が設けられている。ただし、このピストン61においては、切り欠き部114とは別に、更にピストン側壁部112にはピストン開口部(開口部)611が設けられている。ピストン開口部611は、切り欠き部114の最上部よりも上側に設けることができる。
【0031】
図10に示されるように、ピストン61が下死点側に位置する場合に、ピストン開口部611は、掃気通路15と重複する箇所に設けられている。
図10においては、ピストン61が下死点側に位置する際に掃気通路15のクランクケース20側における間口(掃気入口O)がハッチングで示されている。この場合には、ピストン開口部611を設けることによって、掃気入口Oの面積をより大きくし、掃気効率をより高めることができる。
【0032】
なお、上記の構成において、切り欠き部やクランクケース突き出し部の形状や数は、上記の効果を奏する限りにおいて、任意である。上記の例ではクランクケース突き出し部としてクランクケース第1突き出し部とクランクケース第2突き出し部とが設けられていたが、ピストンが下死点側にある場合に切り欠き部を貫通して内側(シリンダの中心軸側)に突出しピストンやカウンターウエイトと干渉しない形状であれば、クランクケース突き出し部として使用することができる。また、開口部の形状や数も、任意である。この際、切り欠き部や開口部を設けることによって、ピストン全体の軽量化が図れ、これによるエンジンの高出力化や軽量化が図れることも明らかである。掃気通路の形態や数も、切り欠き部や開口部に応じて適宜設定することができる。クランクケース突き出し部の形状も、これに応じて設定することができる。
【0033】
単純な構造によって掃気効率を高め、出力特性を向上させた上記の2サイクルエンジンは、軽量で高出力となるため、作業者に携帯されて使用される刈払機においては、特に有効である。しかしながら、他のエンジン作業機においても同様に有効であることは明らかである。
【符号の説明】
【0034】
10…シリンダ、11,61…ピストン、12…燃焼室、13…コンロッド、14…ピストンピン、15…掃気通路、20…クランクケース、20A…クランクケース第1突き出し部(クランクケース突き出し部)、20B…クランクケース第2突き出し部(クランクケース突き出し部)、21…クランク軸、22…カウンターウエイト、30…始動装置、31…冷却ファン、32…遠心クラッチ、33…クラッチドラム、34…点火コイル、35…プラグキャップ、100…刈払機(エンジン作業機)、101…操作棹、102…刈刃、103…ハンドル、104…伝達軸、111…ピストン上面、112…ピストン側壁部(側壁部)、113…ピストンピンボス、113A…孔部、114…切り欠き部、200…動力部、201…シリンダカバー、202…燃料タンク、203…気化器、204…エアクリーナ、205…ファンケース、611…ピストン開口部(開口部)、H…ピストン外周、O…掃気通路入口、S…掃気流