(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記コンバータ(3)は、前記単相交流電圧(Vin)を全波整流して得られる整流電圧(Vrec)を、前記第1直流電源線(LH;LH1,LH2)を前記第2直流電源線(LL)よりも高電位として前記直流リンク(7)に印加し、
前記第3電流は前記第4電流(il)であり、
前記電力バッファ回路(4)は、
コンデンサ(C4)と、前記コンデンサに対して前記第1直流電源線側で前記第1直流電源線と前記第2直流電源線との間で前記コンデンサに対して直列に接続された第1スイッチ(Sc,D42)とを有する放電回路(4a)と、
前記コンデンサを充電する充電回路(4b)と
を含み、
前記制御装置は、
前記放電デューティ(dc’)に基づいて前記第1スイッチを導通させる放電スイッチ信号(SSc)を出力し、
前記放電デューティは、前記コンデンサの両端電圧(Vc,Vc*)に対する前記所定電圧(Vdc)の第3比(Vdc/Vc)と前記交流電圧の位相(ωt)の二倍の値の余弦値(cos(2ωt))との積、及び前記両端電圧に対する前記振幅(Vm)の第4比(Vm/Vc)と前記第2比(il/Idc)と前記正弦値の前記絶対値(|sin(ωt)|)との積とに基づいて設定される、請求項1記載の直接形電力変換器用の制御装置。
前記コンバータ(3)は、前記単相交流電圧(Vin)を全波整流して得られる整流電圧(Vrec)を、前記第1直流電源線(LH;LH1,LH2)を前記第2直流電源線(LL)よりも高電位として前記直流リンク(7)に印加し、
前記第3電流は前記第4電流(il)の前記高調波成分の前記低減量(il’)であり、
前記電力バッファ回路(4)は、
コンデンサ(C4)と、前記コンデンサに対して前記第1直流電源線側で前記第1直流電源線と前記第2直流電源線との間で前記コンデンサに対して直列に接続された第1スイッチ(Sc,D42)とを有する放電回路(4a)と、
前記コンデンサを充電する充電回路(4b)と
を含み、
前記制御装置は、
前記放電デューティ(dc’’)に基づいて前記第1スイッチを導通させる放電スイッチ信号(SSc)を出力し、
前記放電デューティは、前記コンデンサの両端電圧(Vc,Vc*)に対する前記所定電圧(Vdc)の第3比(Vdc/Vc)と前記交流電圧の位相(ωt)の余弦値の二乗(cos2(ωt))との積、及び前記両端電圧に対する前記振幅(Vm)の第4比(Vm/Vc)と前記第2比(il’/Idc)と前記正弦値の前記絶対値(|sin(ωt)|)との積とに基づいて設定される、請求項1記載の直接形電力変換器用の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0027】
A.電力変換器およびその制御装置の構成.
図1は、本発明にかかる制御技術を適用することができる、直接形電力変換器の構成を示すブロック図である。当該直接形電力変換器は、コンバータ3と、電力バッファ回路4と、インバータ5と、直流リンク7とを備えている。電力バッファ回路4は上述のアクティブバッファとして機能する。
【0028】
コンバータ3は例えばフィルタ2を介して単相交流電源1と接続されている。フィルタ2はリアクトルL2とコンデンサC2とを備えている。リアクトルL2は単相交流電源1の2つの出力端のうちの一つとコンバータ3との間に設けられている。コンデンサC2は単相交流電源1の2つの出力端の間に設けられている。フィルタ2は電流の、主としてインバータ5のスイッチング動作に由来する高周波成分を除去する。フィルタ2は省略してもよい。あるいはコンバータ3と電力バッファ回路4との間に設けてもよい。フィルタ2の位置については第2の変形で後述する。簡単のため、以下ではフィルタ2の機能を無視して説明する。
【0029】
直流リンク7は直流電源線LH,LLを有する。
【0030】
コンバータ3は例えばダイオードブリッジを採用し、ダイオードD31〜D34を備えている。ダイオードD31〜D34はブリッジ回路を構成し、単相交流電源1から入力される入力電圧である単相交流電圧Vinを単相全波整流して整流電圧Vrec(=|Vin|;Vin=Vm・sin(ωt))に変換し、これを直流電源線LH,LLの間に出力する。直流電源線LHには直流電源線LLよりも高い電位が印加される。コンバータ3には単相交流電源1から入力電流Iinが流れ込み、コンバータ3は電流irec(=|Iin|;Iin=Im・sin(ωt))を出力する。
【0031】
電力バッファ回路4は放電回路4a、充電回路4b及び電流阻止回路4cを有し、直流リンク7との間で電力を授受する。放電回路4aはバッファコンデンサとしてコンデンサC4を含み、充電回路4bは整流電圧Vrecを昇圧してコンデンサC4を充電する。電流阻止回路4cは放電回路4aから充電回路4bへ向かう電流を阻止する。
【0032】
放電回路4aはダイオードD42と、これと逆並列接続されたトランジスタ(ここでは絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ:以下「IGBT」と略記)Scとを更に含んでいる。トランジスタScはコンデンサC4に対して直流電源線LH側で、直流電源線LH,LLの間で直列に接続されている。
【0033】
ここで逆並列接続とは、順方向が相互に逆となって並列に接続されていることを指す。具体的にはトランジスタScの順方向は直流電源線LLから直流電源線LHへと向かう方向であり、ダイオードD42の順方向は直流電源線LHから直流電源線LLへと向かう方向である。トランジスタScとダイオードD42とはまとめて一つのスイッチ素子(スイッチSc)として把握することができる。スイッチScの導通によってコンデンサC4が放電して直流リンク7へと電力を授与する。
【0034】
充電回路4bは、例えばダイオードD40と、リアクトルL4と、トランジスタ(ここではIGBT)Slとを含んでいる。ダイオードD40は、カソードと、アノードとを備え、当該カソードはスイッチScとコンデンサC4との間に接続される。かかる構成はいわゆる昇圧チョッパとして知られている。
【0035】
リアクトルL4は直流電源線LHとダイオードD40のアノードとの間に接続される。トランジスタSlは直流電源線LLとダイオードD40のアノードとの間に接続される。トランジスタSlにはダイオードD41が逆並列接続されており、両者をまとめて一つのスイッチ素子(スイッチSl)として把握することができる。具体的にはトランジスタSlの順方向は直流電源線LHから直流電源線LLへと向かう方向であり、ダイオードD41の順方向は直流電源線LLから直流電源線LHへと向かう方向である。
【0036】
コンデンサC4は、充電回路4bにより充電され、整流電圧Vrecよりも高い両端電圧Vcが発生する。具体的には直流電源線LHからスイッチSlを経由して直流電源線LLへと電流を流すことによってリアクトルL4にエネルギーを蓄積し、その後にスイッチSlをオフすることによって当該エネルギーがダイオードD40を経由してコンデンサC4に蓄積される。
【0037】
両端電圧Vcは整流電圧Vrecより高いので、基本的にはダイオードD42には電流が流れない。従ってスイッチScの導通/非導通は専らトランジスタScのそれに依存する。ここで、ダイオードD42は両端電圧Vcが整流電圧Vrecより低い場合の逆耐圧を確保するとともに、インバータ5が異常停止したときに誘導性負荷6から直流リンク7へ還流する電流を逆導通させるように作用する。
【0038】
また、直流電源線LHの方が直流電源線LLよりも電位が高いので、基本的にはダイオードD41には電流が流れない。従ってスイッチSlの導通/非導通は専らトランジスタSlのそれに依存する。ここで、ダイオードD41は逆耐圧や逆導通をもたらすためのダイオードであり、IGBTで実現されるトランジスタSlに内蔵されるダイオードとして例示したが、ダイオードD41それ自体は回路動作には関与しない。
【0039】
電流阻止回路4cは充電回路4bと放電回路4aとの間で直流電源線LH上に設けられ、例えばダイオードD43で実現される。ダイオードD43のアノードはスイッチSlとは反対側で(つまりコンバータ3側で)リアクトルL4に接続される。ダイオードD43のカソードはコンデンサC4とは反対側で(つまりインバータ5側で)スイッチScに接続される。かかる電流阻止回路4cは例えば特許文献5によって公知である。
【0040】
インバータ5は直流電源線LH,LLの間の直流電圧を交流電圧に変換して出力端Pu,Pv,Pwに出力する。インバータ5は6つのスイッチング素子Sup,Svp,Swp,Sun,Svn,Swnを含む。スイッチング素子Sup,Svp,Swpはそれぞれ出力端Pu,Pv,Pwと直流電源線LHとの間に接続され、スイッチング素子Sun,Svn,Swnはそれぞれ出力端Pu,Pv,Pwと直流電源線LLとの間に接続される。インバータ5はいわゆる電圧形インバータを構成し、6つのダイオードDup,Dvp,Dwp,Dun,Dvn,Dwnを含む。
【0041】
ダイオードDup,Dvp,Dwp,Dun,Dvn,Dwnはいずれもそのカソードを直流電源線LH側に、そのアノードを直流電源線LL側に向けて配置される。ダイオードDupは、出力端Puと直流電源線LHとの間で、スイッチング素子Supと並列に接続される。同様にして、ダイオードDvp,Dwp,Dun,Dvn,Dwnは、それぞれスイッチング素子Svp,Swp,Sun,Svn,Swnと並列に接続される。出力端Pu,Pv,Pwからは、それぞれ負荷電流iu,iv,iwが出力され、これらは三相交流電流を構成する。例えばスイッチング素子Sup,Svp,Swp,Sun,Svn,SwnにはIGBTが採用される。
【0042】
誘導性負荷6は例えば回転機であり、誘導性負荷であることを示す等価回路で図示されている。具体的には、リアクトルLuと抵抗Ruとが相互に直列に接続され、この直列構造の一端が出力端Puに接続される。リアクトルLv,Lwと抵抗Rv,Rwについても同様の直列構造が得られる。またこれらの直列構造の他端同士が相互に接続される。
【0043】
誘導性負荷6を同期機として制御系を例示すると、速度検出部9は、誘導性負荷6に流れる負荷電流iu,iv,iwを検出し、これらから得られる回転角速度ωmならびにq軸電流Iq及びd軸電流Idを(正確に言えばそれらを示す情報を;以下同様)直接形電力変換器用の制御装置10に与える。
【0044】
制御装置10は、回転角速度ωmならびにq軸電流Iq及びd軸電流Idの他、単相交流電圧Vinの振幅Vm,角速度ω(あるいはこれと時間tとの積である位相θ=ωt)、回転角速度の指令値ωm*、q軸電圧の指令値(以下「q軸電圧指令値」とも称す)Vq*、d軸電圧の指令値(以下「d軸電圧指令値」とも称す)Vd*、及び電流Ish,ilを入力する。
【0045】
ここで電流Ishはインバータ5に流れる電流の瞬時値であり、直流電源線LL,LHのいずれかにおいて周知技術によって測定される。電流ilは、リアクトルL4に流れるリアクトル電流であって、上述のバッファ電流に相当する。リアクトル電流ilは例えば周知の電流保護装置によって測定される。電流Ish,ilを得るための構成は周知の技術であるので、図示を省略する。
【0046】
図2は制御装置10の構成を例示するブロック図である。制御装置10は、インバータ制御部101と、放電制御部102と、充電制御部103とを備える。
【0047】
インバータ制御部101は、後述する「B.電力バッファ回路4の動作の概略.」で説明する放電デューティdc’と、整流デューティdrec’と、インバータ5が出力する電圧の指令値(以下「電圧指令値」とも称す)Vu*,Vv*,Vw*とに基づいて、インバータ制御信号SSup,SSvp,SSwp,SSun,SSvn,SSwnを出力する。インバータ制御信号SSup,SSvp,SSwp,SSun,SSvn,SSwnは、それぞれスイッチング素子Sup,Svp,Swp,Sun,Svn,Swnの動作を制御する。
【0048】
インバータ制御部101は、出力電圧指令生成部1011を有しており、これが位相θ(=ωt)、q軸電流Iq、d軸電流Id、回転角速度ωmおよびその指令値ωm*に基づいて、電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を生成する。
【0049】
インバータ制御部101は更に、振幅変調指令部1012、積和演算部1013、比較部1014、論理演算部1015を有している。
【0050】
振幅変調指令部1012は放電デューティdc’と、整流デューティdrec’とに基づいて、積和演算部1013の動作を制御する。積和演算部1013は(簡単のために乗算器のみの記号で示しているが)、電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*と、放電デューティdc’および整流デューティdrec’との積和演算を行って信号波Mを生成する。
【0051】
比較部1014は信号波MとキャリアCAとの値の比較結果を論理演算部1015へ出力する。論理演算部1015は当該比較結果に対して論理演算を行って、インバータ制御信号SSup,SSvp,SSwp,SSun,SSvn,SSwnを出力する。
【0052】
放電制御部102は、デューティ演算部1021、比較器1022、デューティ補正部1023を有する。
【0053】
デューティ演算部1021は位相θ、振幅Vm、両端電圧Vcの指令値Vc*、後述する直流電圧Vdcの指令値Vdc*を入力し、原放電デューティdcと原整流デューティdrecとを求める。
【0054】
デューティ補正部1023は原放電デューティdcおよび原整流デューティdrecを補正して、それぞれ放電デューティdc’および整流デューティdrec’を得る。
【0055】
よってデューティ演算部1021とデューティ補正部1023とを纏めて、放電デューティdc’及び整流デューティdrec’を生成するデューティ生成部として把握することができる。
【0056】
これら原放電デューティdc、原整流デューティdrec、放電デューティdc’および整流デューティdrec’の生成については後述する。
【0057】
比較器1022は放電デューティdc’とキャリアCAとを比較して、スイッチScを導通させる放電スイッチ信号SScを生成する。
【0058】
このようなインバータ制御部101および比較器1022の動作それ自体は公知の技術(例えば特許文献1,2参照)であるので、ここではその詳細を省略する。
【0059】
充電制御部103は、スイッチSlのオン、オフを制御する制御信号SSlを生成する、スイッチ制御信号生成部1031を有する。スイッチ制御信号生成部1031は非特許文献4,5で公知であるので、その詳細は省略するが後に簡単に説明する。例えばスイッチ制御信号生成部1031はインバータ5が出力する瞬時電力たる出力電力Poutと、振幅Vmとに基づいて制御信号SSlを生成する。
【0060】
B.電力バッファ回路4の動作の概略.
コンバータ3に入力する瞬時電力たるコンバータ入力電力Pinは、入力電流Iinの振幅Imを導入し、入力力率を1として、下式(1)で表される。
【0062】
コンバータ入力電力Pinは、式(1)の最右辺の第2項で示される交流成分(−1/2)・Vm・Im・cos(2ωt)を有する(以下、「交流成分Pin^」とも称す)。よって以下ではコンバータ入力電力Pinを脈動電力Pinと称することもある。
【0063】
図1に示された電力変換器は、下記のように把握することができる。
【0064】
コンバータ3は単相交流電圧Vinを入力し、脈動電力Pinを出力する:
電力バッファ回路4は、瞬時電力Pl(以下「受納電力Pl」とも称す)を直流リンク7から入力し、瞬時電力Pc(以下「授与電力Pc」とも称す)を直流リンク7へ出力する:
インバータ5は直流リンク7から、脈動電力Pinと授与電力Pcとの和から受納電力Plを引いた瞬時電力であるインバータ入力電力Pdc(=Pin+Pc−Pl)を入力し、負荷電流iu,iv,iwを出力する。インバータ5の損失を無視すればインバータ入力電力Pdcは出力電力Poutと等しい。
【0065】
図3は
図1に示された直接電力変換器での電力の収支を模式的に示すブロック図である。バッファリングされる瞬時電力Pbuf(以下、「バッファリング電力Pbuf」とも称す)は授与電力Pcから受納電力Plを差し引いた電力差(Pc−Pl)と等しい。またコンバータ3からインバータ5へと向かう瞬時電力Precは電力差(Pin−Pl)に等しい。よってPdc=Prec+Pcが成立する。
【0066】
さて、電力バッファ回路4が、交流成分Pin^の絶対値|Pin^|に相当する電力を直流リンク7との間で授受している場合、Pdc=Pin−Pin^であって、下式(2)が成立する。
【0068】
C.直接形電力変換器の等価回路と各種デューティ.
図1に示された直接形電力変換器の等価回路として
図4を示す。当該等価回路は、例えば特許文献1,2で紹介されている。当該等価回路において電流irec1は、スイッチSrecが導通するときにこれを経由する電流irec1として等価的に表されている。同様に、放電電流icは、スイッチScが導通するときにこれを経由する電流icとして等価的に表されている。
【0069】
また、インバータ5において出力端Pu,Pv,Pwが直流電源線LH,LLのいずれか一方に共通して接続されるときにインバータ5を介して誘導性負荷6に流れる電流も、スイッチSzが導通するときにこれを経由して流れる零相電流izとして等価的に表されている。
【0070】
また
図4では、充電回路4bを構成するリアクトルL4とダイオードD40とスイッチSlとが表され、リアクトルL4を流れるリアクトル電流ilが付記されている。
【0071】
このようにして得られた等価回路において、スイッチSrec,Sc,Szが導通するそれぞれのデューティdrec’,dc’,dz’を導入する。但し、上述の文献から公知のように、0≦drec’≦1,0≦dc’≦1,0≦dz’≦1,drec’+dc’+dz’=1である。
【0072】
デューティdrec’はコンバータ3が直流リンク7と接続されて電流をインバータ5に流し得る期間を設定するデューティであるので、上述の整流デューティdrec’を指す。
【0073】
デューティdc’は、コンデンサC4が放電するデューティであるので、上述の放電デューティdc’を指す。
【0074】
デューティdz’はインバータ5においてその出力する電圧によらずに必ず零相電流izが流れるデューティであるので、零デューティdz’と称することがある。
【0075】
直流電流Idcはインバータ5を経由して誘導性負荷6に流れる電流であり、後述するようにして電流Ishから求めることができる。電流irec1,ic,izはそれぞれ、直流電流Idcにデューティdrec’,dc’,dz’を乗算したものである。よってこれらはスイッチSrec,Sc,Szのスイッチング周期における平均値である。またデューティdrec’,dc’,dz’は、各電流irec1,ic,izに対する直流電流Idcの電流分配率と見ることもできる。
【0076】
なお、コンバータ3にダイオードブリッジを採用する場合、コンバータ3が能動的に整流デューティdrec’でスイッチングすることはできない。よって零デューティdz’と、放電デューティdc’とに従って、それぞれインバータ5と、スイッチScがスイッチングすることによって、電流irec1を得ることができる。
【0077】
インバータ5は零相電流izが流れる期間においては、直流リンク7における直流電圧を利用することができない。よって、直流リンク7においてインバータ5への電力供給に利用される直流電圧が電力変換において意味を持つ。換言すれば瞬時的な直流電圧であってインバータ5が電力変換に用いないものは意味を有しない。電力変換において意味を持つ直流電圧Vdcを導入し、式(2)を考慮して直流電流Idcは下式(3)で表現できる。また、直流電圧Vdcは下式(4)で表現できる。
【0080】
他方、直流電圧Vdcは、インバータ5が出力できる電圧の最大値の、スイッチSc,Slやインバータ5のスイッチングを制御する周期についての平均値として、直流リンク7に印加される電圧と把握することもできる。インバータ5は零デューティdz’という比率で直流リンク7の電圧に寄与し得るものの、零デューティdz’に対応する期間においてはインバータ5は直流電源線LL,LHのいずれか一方と絶縁されているからである。
【0081】
直流電圧Vdcは、
図4において、インバータ5及び誘導性負荷6を表す電流源Idc(これは直流電流Idcを流す)の両端に生じる電圧として付記した。
【0082】
さて、本発明において入力電流の振幅Imを用いた式が登場するものの、振幅Imは必ずしも測定する必要は無い。例えばインバータ入力電力Pdcは、以下のようにして求めることができる。
【0083】
通常の交流負荷の動作について、良く知られたdq軸の制御を行う場合を例に採る。dq軸上の電力式は一般に式(5)で示される。記号V*,Iはそれぞれ交流負荷に印加される電圧の指令値と、交流負荷に流れる電流とを示す。これらはいずれも交流であるので、これらは複素数として表されることを示すドットが記号V*,Iのそれぞれに載っている。但し、q軸電圧はその指令値たるq軸電圧指令値Vq*に、d軸電圧はその指令値たるd軸電圧指令値Vd*に、それぞれ理想的に追従するとしている。
【0085】
直流電源線LH,LLからインバータ5に供給されるインバータ入力電力Pdcには無効電力が存在しないので、当該電力は式(5)の最右辺の第2項を無視して、式(6)で表される。
【0087】
よって式(6)の脈動(交流成分)を0にする制御を行うことにより、式(3),(4)を実現する制御を行うことができる。上記の制御を行うための構成の一例を、ブロック図として
図5に示す。当該構成は、例えば
図1において出力電圧指令生成部1011として示された構成において設けられる。
【0088】
図5の構成において、公知の技術を示す部分について簡単に説明すると、電流位相指令値β*から三角関数値cosβ*,−sinβ*を求め、これと電流指令値Ia*とからq軸電流指令値Iq*及びd軸電流指令値Id*を生成する。誘導性負荷6が回転機であるとして、その回転角速度ωmと、当該回転機の界磁磁束Φaと、回転機のd軸インダクタンスLd及びq軸インダクタンスLqと、q軸電流指令値Iq*及びd軸電流指令値Id*と、q軸電流Iq及びd軸電流Idとに基づいて、q軸電圧指令値Vq*及びd軸電圧指令値Vd*を求める。q軸電圧指令値Vq*及びd軸電圧指令値Vd*からインバータ5を制御するための電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を生成する。
【0089】
例えば
図1に示された構成では速度検出部9が、誘導性負荷6に流れる負荷電流iu,iv,iwを検出し、これらから得られる回転角速度ωmならびにq軸電流Iq及びd軸電流Idを制御装置10に与える。
【0090】
直流電力計算部711は、q軸電圧指令値Vq*及びd軸電圧指令値Vd*と、q軸電流Iq及びd軸電流Idとを入力し、上記の式(6)に基づいてインバータ入力電力Pdcを計算し、これを脈動抽出部712に与える。
【0091】
脈動抽出部712は、式(6)の交流成分を抽出して出力する。脈動抽出部712は例えばハイパス(高域透過)フィルタHPFで実現される。当該交流成分にPI処理部716による比例積分制御を施した値を減算器715に出力する。
【0092】
減算器715は、通常の処理における電流指令値Ia*をPI処理部716の出力で補正する処理を行う。具体的には、まず、電流指令値Ia*を求める通常の処理として、減算器701によって回転角速度ωmと、その指令値ωm*との偏差を求める。当該偏差はPI処理部702において比例積分制御を受け、電流指令値Ia*を一旦求める。そして減算器715が、電流指令値Ia*を、PI処理部716からの出力で減少させる処理を行う。
【0093】
このようにして処理部71で補正された電流指令値Ia*に対して、上述の公知の技術を適用し、q軸電圧指令値Vq*及びd軸電圧指令値Vd*を生成する。このような制御により、q軸電圧指令値Vq*及びd軸電圧指令値Vd*と、q軸電流Iq及びd軸電流Idとについてのフィードバックを施した制御を行って、インバータ入力電力Pdcの交流成分を0に収束させる。
【0094】
D.本実施の形態の原理.
特許文献1,2等で示される様に、本実施の形態でも受納期間、授与期間の区別を特に設定すること無く整流デューティdrec’、放電デューティdc’を定める。まず、一旦、原整流デューティdrec及び原放電デューティdcを、それぞれ式(7),(8)で定義する。但し直流電圧Vdcにはその指令値Vdc*を採用することができる。つまり以下において直流電圧Vdcは所定電圧として取り扱う。
【0097】
Vdc≦Vmである限り、0≦drec≦1を満足する。また直流電圧Vdcを指令値Vc*以下に設定することにより、0≦dc≦1を満足させるような設定が可能である。
【0098】
式(7),(8)から式(9)が求められ、これは式(4)においてdrec’=drec,dc’=dc,dz’=dzと設定した場合と一致する。よって式(4),(9)は原整流デューティdrec及び原放電デューティdcを用いた制御の妥当性を示す。
【0100】
式(3),(7)から、原整流デューティdrecを用いた制御を行う場合の電流irec1は下式(10)で求められる。
【0102】
特許文献1,2で示される様に、リアクトル電流ilが下式(11)で示される値il0=irec1を採ることにより、原整流デューティdrec及び原放電デューティdcを用いて入力電流Iinが正弦波となる。
【0104】
図6は、
図1に示された直接形電力変換器の動作を示すグラフであり、原整流デューティdrec及び原放電デューティdcで制御した場合の動作を示している(dz=1−dc−drec)。
【0105】
図6において、最上段にデューティdrec,dc,dzを、上から二段目に直流電圧Vdc及びこれを構成する電圧drec・Vrec,dc・Vc(式(4)参照)並びに直流電流Idcを、上から三段目に電流irec,ic,il,irec1を、最下段に瞬時電力Pin,Pdc,Pbuf,Pc,−Pl,Precを、それぞれ示した。両端電圧Vcは指令値Vc*に正確に追従しているとした。
【0106】
図6において横軸は位相ωtを「度」を単位として採用して示した。また、電流Idc,irec,ic,il,irec1は、振幅Imを√2として換算した。電圧Vrec・drec,Vc・dcは振幅Vmを1として換算し、Vc=1.14Vmに設定した。またVdc=0.86Vmに設定することにより、dz=1−dc−drecの最小値を0にした。瞬時電力Pin,Pout,Pbuf,Pc,−Pl,Precは、上記のように換算された電圧と、電流との積として求めている。
【0107】
図6ではリアクトル電流ilが値il0を採る場合を例示しており、電流irecの波形は正弦波の絶対値を呈する。
【0108】
しかし原整流デューティdrecを用いた制御において、正弦波の絶対値の波形をとらないリアクトル電流ilを流すと、入力電流Iinが正弦波から歪む可能性がある。そこで、以下のように原整流デューティdrecを補正して得られる整流デューティdrec’を用いて直接形電力変換器の制御を行う。
【0109】
リアクトル電流ilが値il0よりも大きい場合に入力電流Iinへの影響を相殺する要求から、電流irec1を減少させる。よって整流デューティdrec’は原整流デューティdrecよりも減少する。よって電流の連続性に鑑みて下式(12)の関係を成立させる。il=il0であればdrec’=drecである。
【0111】
式(12)を変形して下式(13)が得られ、最右辺の角括弧(記号“[”と記号“]”)で囲まれた第2項が、原整流デューティdrecに対する補正項となる。当該補正項は原整流デューティdrecから比(il/Idc)を差し引いた値である。
【0113】
整流デューティdrec’を採用することにより、リアクトル電流ilの波形によらず、入力電流Iinの正弦波に対する歪みが低減する。
【0114】
原放電デューティdcを用いた制御において、正弦波の絶対値の波形をとらないリアクトル電流ilを流すと、電力バッファという機能は維持されながらも、バッファリング電力Pbufの波形が歪み、出力電力Pout(=Pdc)が脈動を有する。そこで、以下のように原放電デューティdcを補正して得られる放電デューティdc’を用いて直接形電力変換器の制御を行う。
【0115】
リアクトル電流ilが値il0よりも大きい場合に両端電圧Vcへの影響を相殺する要求から、放電電流icを増大させる。よって放電デューティdc’を原放電デューティdcよりも増大させる。よってコンデンサC4へ充電する電力に鑑みて下式(14)の関係を成立させる。il=il0であればdc’=dcである。
【0117】
式(14)の右辺の一部に関して下式(15)が得られる。
【0119】
よって式(14),(15)から下式(16)が得られる。
【0121】
式(16)の右辺第1項について下式(17)が得られる。
【0123】
式(16),(17)から下式(18)が得られ、右辺の角括弧(記号“[”と記号“]”)で囲まれた第2項が、原放電デューティdcに対する補正項となる。当該補正項は原放電デューティdcに対して第1値を加算した値であり、この第1値は第2値を指令値Vc*で除した値であり、この第2値は比(il/Idc)と整流電圧Vrecとの積から直流電圧Vdcを差し引いた値である。
【0125】
放電デューティdc’を採用することにより、リアクトル電流ilの波形によらず、出力電力Poutが平滑され、脈動分が除去される。
【0126】
出力電力Poutは積Vdc・Idcに等しく、これがインバータ入力電力Pdcに等しいことから、式(2),(9),(11)を参照して下式(19)が成立する。
【0128】
これは式(4)と一致し、整流デューティdrec’及び放電デューティdc’を採用することにより直流電圧Vdcを一定にする制御が可能であることが判る。
【0129】
式(13)、(18)に示された補正は、デューティ補正部1023によって実現される。当該補正において直流電圧Vdcが必要となるが、これは式(9)で示される様に原整流デューティdrec及び原放電デューティdcと、振幅Vmと位相θ、指令値Vc*から計算される。あるいは指令値Vdc*を用いてもよい。
【0130】
よって比(il/Idc)に基づいて式(13)、(18)に示された補正が行われる、ということができる。しかも、入力電流の振幅Imは、原整流デューティdrec及び原放電デューティdcの生成のみならず、整流デューティdrec’及び放電デューティdc’を得るための補正にも必要ではない。
【0131】
E.直流電流Idcの取得.
上述の様に、直流電流Idcは電流Ishの測定値から求めることができる。その説明の準備のため、以下の諸量を導入する。周期T0はキャリアCAの一周期である。期間τ4,τ6はそれぞれ第1状態及び第2状態が周期T0において実現される期間の長さを示す。
【0132】
第1状態及び第2状態を、キャリアCAの一周期のうち、インバータ5においてスイッチング素子Swpがオフし続け、スイッチング素子Swnがオンし続ける周期に着目して説明する。第1状態とはスイッチング素子Sup,Svnがオンし、スイッチング素子Sun,Svpがオフする状態である。第2状態とはスイッチング素子Sup,Svpがオンし、スイッチング素子Sun,Svnがオフする状態である。インバータ5が出力する電圧の位相θvと、0<k<1の係数を導入して、式(20)が成立することが公知である(例えば特許文献4参照)。
【0134】
同様に、負荷電流iuの位相θi及び振幅Ioを導入して、負荷電流iu,iv,iwは三相交流であって式(21)が成立する。
【0136】
直流電流Idcには、式(22)に示される電流Iaを用いる。周期T0はキャリアCAの一周期であり、期間τ4,τ6はそれぞれ第1状態及び第2状態が周期T0において実現される期間の長さを示す。また、電流Ish(t4),Ish(t6)は、それぞれ時刻t4,t6において測定される電流Ishの値を示す。時刻t4,t6は、それぞれ第1状態及び第2状態が実現される時点から選択される。
【0138】
よって第1状態では負荷電流iuが出力端Puから誘導性負荷6に流れ、出力端Pv,Pwから直流電源線LLに流れる。第2状態では負荷電流iu,ivがそれぞれ出力端Pu,Pvから誘導性負荷6に流れ、出力端Pwから直流電源線LLに流れる。iu+iv+iw=0の関係から、式(23)が得られる。
【0140】
式(20),(21),(23)を用いて、式(22)は下式(24)のように変形される。ここでΨ=θv−θiはインバータ5から出力される電圧と電流との位相差であるので、cosΨはインバータ5の力率を示す。
【0142】
一方、力率cosΨを用いれば、式(25)が成立する。電圧Vr、電流irはインバータ5から出力される電圧及び電流のそれぞれの実効値である。
【0144】
式(25)から下式(26)が得られる。
【0146】
式(24),(26)の比較から、電流Iaを直流電流Idcとして採用できることが判る。
【0147】
式(22)に基づく計算は、放電制御部102に備えられるリンク電流演算部1024で実行される。周期T0は既定値であり、期間τ4,τ6は信号波Mから求められるので、リンク電流演算部1024には電流Ishと信号波Mが入力され、直流電流Idcが求められる。
【0148】
F.リアクトル電流ilの例.
上述のようにして、リアクトル電流ilの波形が正弦波の絶対値を呈さなくても、入力電流Iinを正弦波にしつつ、電力のバッファリングを行うことができる。そこで、以下では、簡易スイッチングを採用したときのリアクトル電流ilを例にとって、本実施の形態の動作を説明する。簡易スイッチングによってリアクトル電流ilを流すことにより、スイッチSlが発生するノイズの発生が低減され、入力電流Iinの正弦波からの歪みを小さくすることにより、電源高調波を低減することができる。
【0149】
図7は、簡易スイッチングを採用したときのリアクトル電流ilの波形を示すグラフである。ここでは位相ωtとして0〜180度の領域を示す。参考のため、値il0の波形も併記した。
【0150】
簡易スイッチングでは位相0度でスイッチSlの導通が開始し、位相ωt=φ(0<φ<180)(度)においてスイッチSlが非導通となり、位相180度までスイッチSlの非導通が維持される。つまり簡易スイッチングではスイッチSlは整流電圧Vrecの一周期(これは単相交流電圧Vinの半周期に等しい)において、オン、オフをそれぞれ一回ずつ行う。
【0151】
位相φは例えば以下のようにして設定される。非特許文献5ではその
図10においてスイッチSlが導通する期間に相当する値Ts、両端電圧Vc、力率、出力される電力の関係が示される。例えばリアクトルL4のインダクタンスを1H、Vm=1V、Vc=1.14Vとし、力率を最大とする電力として45mWを採用する。このときTs=0.194となる。これは位相に換算してφ≒70(度)である。よって
図7に示されたグラフでは位相ωtが0〜70度でリアクトル電流ilが増大する。リアクトル電流ilは位相ωtが70〜180度で減少し、値0に至ると位相ωtが進んでも値0を維持する。
【0152】
後述するように、リアクトル電流ilが減少して値0に至る位相は約170度である。同様に、位相ωtが180度〜360度の範囲では、リアクトル電流ilは位相ωtが180度〜約250(=180+70)度である期間において上昇して最大値をとり、位相ωtが約250〜約350(=170+180)度において下降して値0に至る。
【0153】
なお、上記の説明で採用されたVm=1,Im=√2を用いると出力される電力は1/2√2と計算される。よってリアクトルL4のインダクタンスは、非特許文献4に基づいて計算して、単相交流電圧Vinの周波数を1Hzとすれば(0.045×1)/(1/2√2)=0.127(H)になる。
【0154】
非特許文献4により、リアクトル電流ilのより具体的な波形が計算される。スイッチSlが導通する期間ではil=Ip・(1−cos(ωt))となり、Vm=1であることに鑑みてIp=1/(2π)/0.127=1.253と求まる。よって
図7ではリアクトル電流ilの極大値は1.253×(1−cos(φ))=0.82となる(φ=70(度))。
【0155】
スイッチSlが非導通となる期間であってかつil>0では、il=Ip・(1−cos(ωt))−(Vc/L)・(ωt−φ)/ωとなる。ここで値LはリアクトルL4のインダクタンスであって、上述の例ではVc/L=1.14/0.127=8.976である。
【0156】
G.諸量の振る舞い.
図8は、
図1に示された直接形電力変換器の動作を示すグラフであり、本実施の形態に基づいてデューティdrec’,dc’,dz’(=1−drec’−dc’)を設定した場合の動作を示している。リアクトル電流ilとして
図7に示された波形を採用した。
【0157】
図8においても振幅Imを√2として、振幅Vmを1として、それぞれ換算し、Vc=1.14Vm,Vdc=0.86Vmに設定した。よってこれらの条件は
図6に示された場合と一致する。
図8も
図6と同様に諸量を示した。具体的には、最上段にデューティdrec’,dc’,dz’を、上から二段目に直流電圧Vdc及びこれを構成する電圧drec’・Vrec,dc’・Vc(式(19)参照)並びに直流電流Idcを、上から三段目に電流irec,ic,il,irec1を、最下段に瞬時電力Pin,Pdc,Pbuf,Pc,−Pl,Precを、それぞれ示した。
【0158】
簡易スイッチングを採用して電力バッファ回路4にリアクトル電流ilを流しても、整流デューティdrec’及び放電デューティdc’を用いた制御を行うことにより、インバータ入力電力Pdcのみならず直流電圧Vdc及び直流電流Idcが一定となり、しかも電流irecの波形は正弦波の絶対値を呈する。このことから入力電流Iinの波形が正弦波であることがわかる。
【0159】
また瞬時電力Pin,Pdc,Pbufの波形から、電力バッファ回路4が電力バッファとして機能していることがわかる。
【0160】
但し
図8に示される場合にはdz’<0となる位相の領域が存在するので、かかる領域においては整流デューティdrec’、零デューティdz’をそれぞれ修正して、drec’=1−dc’、dz’=0とする。このように位相の全てにおいて非負の零デューティを得るための整流デューティの修正については、例えば特許文献3によって公知であるので、その詳細は省略する。
【0161】
図9は振幅Imを√2として、振幅Vmを1として、それぞれ換算し、Vc=1.14Vmに設定した。但し、drec’=1−dc’となる領域において式(19)が成立しないので、dz’=0である領域で直流電圧Vdcは0.86Vmを下回り、直流電圧Vdcの最小値は0.80Vmとなる。これに伴い、dz’=0である領域で電流irecの波形は正弦波の絶対値からわずかに歪むことがわかる。これによりインバータ入力電力Pdcも位相に対して一定値からわずかに歪むものの、電力バッファ回路4が電力バッファとして機能していることがわかる。
【0162】
かかる歪みが、入力電流Iinの正弦波からの歪みの許容量を越える場合には、他の手法で零デューティを非負とすることができる。
【0163】
図10は、
図1に示された直接形電力変換器の動作を示すグラフであり、本実施の形態に基づいてデューティdrec’,dc’,dz’(=1−drec’−dc’)を設定した場合の動作を示している。リアクトル電流ilとして
図7に示された波形を採用した。
図10も
図8と同様に諸量を示した。
【0164】
図10においても振幅Imを√2として、振幅Vmを1として、それぞれ換算した。但し、Vc=1.14Vmではあるものの、直流電圧Vdcは
図8、
図9に示す場合よりも低く、Vdc=0.76Vmに設定した。
【0165】
このように直流電圧Vdcを低く設定すると、原整流デューティdrec及び原放電デューティdcが小さくなり(式(7),(8)参照)、ひいては整流デューティdrec’及び放電デューティdc’が小さくなり、これらを用いた制御でも全ての位相においてdz’の最小値を0とすることができる。
【0166】
また式(8)を参照して指令値Vc*を大きくすれば(これは両端電圧Vcを高める制御を行うことになる)、原放電デューティdcが小さくなり(式(8)参照)、ひいては放電デューティdc’が小さくなり、これらを用いた制御でも全ての位相においてdz’≧0とすることができる。但し、この場合、上記「F.リアクトル電流ilの例.」で説明した諸量が変更され、あるいは電力バッファ回路4の力率が変動することになる。
【0167】
H.リアクトルの小型化と直流電圧Vdcの改善.
(h-1)昇圧動作とインダクタンスとの関係.
本実施の形態において簡易スイッチングを採用すると、非特許文献5で例示された技術と比較して、リアクトルに要求されるインダクタンスは増大する。これは非特許文献5で例示される技術とは異なり、本実施の形態では簡易スイッチングにおいて昇圧動作を行うことに由来する。
【0168】
非特許文献5では100V系の電源(単相で電圧実効値100V)から倍電圧整流によって270Vの直流電圧を得る場合が例示される。インダクタンスを1Hに、本実施の形態の振幅Vmに相当する電圧のピーク値を1Vに、それぞれ換算すると、Vc=270/2/(100×√2)≒0.95である。また非特許文献5では入力電力が1800Wである場合について、50Hzのスイッチング周期に対してスイッチが導通する期間が2.8msの場合が例示されており、Ts=(2.8/1000)×50=0.14となる。このとき非特許文献5の
図10が示すグラフに鑑みれば、力率を最大とする電力は30mW程度である。この電力と比較して、
図7を用いた説明において例示した電力(45mW)は高い。これは本実施の形態では昇圧動作によってVc=1.14(>0.96)を得ることに由来する。
【0169】
非特許文献5に示されたインダクタンスの計算式によれば、インダクタンスの値は、30[mW]×(100[V]×√2)
2/1800[W]/50[Hz]=6.7[mH]として求まる。他方、回路定数表においてはインダクタンスの値が6.2mHとして挙げられている。非特許文献5に例示された倍電圧整流に必要なインダクタンスの値は6.5mH程度と考えられる。これは200V系の電源を用いた場合においては、6.5[mH]×(200/100)
2=26[mH]に換算される。
【0170】
非特許文献5に対して本実施の形態では、電力が45/30倍である。本実施の形態の単相交流電源1が200V系である場合にはVm=230Vである。よって、非特許文献5で採用される倍電圧整流と比較すると、本実施の形態で採用される全波整流がインダクタンスに与える影響は(230/100)
2倍である。よって必要なインダクタンスの値は、6.5[mH]×45/30×(230/100)
2≒52[mH]となる。
【0171】
以上のことから、非特許文献5で例示される簡易スイッチングを、昇圧動作が行われる電力バッファ回路4において採用することは、リアクトルL4のインダクタンスを大きくしてしまいがち(上述の例示では約二倍)になる。
【0172】
(h-2)インダクタンスの低減と直流電圧Vdcとの関係.
非特許文献4では、スイッチング素子の導通の開始時期を遅延させる技術を紹介する。かかる技術によれば、小さなインダクタンスでも高い力率が得られる。
【0173】
図11は、非特許文献4に基づいて、本実施の形態において1.84kWの電力(電圧実効値230V、電流実効値8A)を採用した場合の、インダクタンスLと力率との関係を示すグラフである。但し単相交流電圧Vinの周波数を50Hzとした。またスイッチSlが導通を開始する位相(以下「導通開始位相」と称す)が、整流電圧Vrecが値0となる位相を基準として、0度、27(=360×0.075)度、36(=360×0.1)度、45(=360×0.125)度の場合を、それぞれグラフG0,G1,G2,G3で示した。
【0174】
これらのグラフから、インダクタンスLには力率を最大にする値が存在することがわかる。グラフG0,G1,G2,G3のそれぞれにおいて力率が最大値をとるデータを、白抜きにしてプロットした。
【0175】
導通開始位相が大きいほど力率は低下する。しかし導通開始位相が大きいほど、力率を最大にするインダクタンスLの値を小さくすることができる。
【0176】
例えばグラフG0では力率が最大となるのはインダクタンスLが51.37mHのときである。
図8、
図9、
図10に示した場合において、周波数50Hz、電圧実効値230V、電流実効値8Aとの条件下では、力率を最大とするインダクタンスLは51.75(=0.045×(230×√2)
2/(1840×50)(mH)であり、力率を最大とするインダクタンスLの間にほぼ等しい。
【0177】
本実施の形態における直接形電力変換器を小型の、例えば2kW以下の電力で使用される空気調和機に採用する場合、リアクトルL4はそのインダクタンスが15mH〜30mHに設定され、これによって小型の部品が採用されることが望まれる。
【0178】
例えばインダクタンスLとして28mH程度を採用すれば、平坦な力率特性の観点からは導通開始位相は45度(グラフG3参照)とすることが望ましい。但し力率を大きくする観点からは、導通開始位相は36度(グラフG2参照)とすることが望ましい。以下の説明では全て導通開始位相に36度を採用して説明する。
【0179】
図12〜
図14は、
図1に示された直接形電力変換器の動作を示すグラフである。これらの図においても
図8〜
図11と同様に、Vc=1.14Vmに設定し、振幅Imを√2として、振幅Vmを1としてグラフが描画されている。
【0180】
1.84kWの電力(電圧実効値230V、電流実効値8A)を採用し、インダクタンスLを28.54mHとした。導通開始位相を36度としたことにより、スイッチSlが導通から非導通へ移行する位相は約68(360×0.19)度となり、この位相でリアクトル電流ilは最大値をとる。その後に位相が増大するにつれリアクトル電流ilは減少し、約155(360×0.430)度でリアクトル電流ilは0となる。
【0181】
本実施の形態では全波整流が行われているので、スイッチSlは位相が約216(=36+180)度〜約248(=68+180)度の間でも導通し、リアクトル電流ilは位相が約216度〜約335(=155+180)度の間でも流れ、約248(=68+180)度の位相でも最大値をとる。
【0182】
なお、
図8〜
図11で示された場合は、1.84kWの電力(電圧実効値230V、電流実効値8A)を採用し、インダクタンスLを51.37mHとした場合に相当し、リアクトル電流ilは位相が0度〜約170(=360×0.471)度の間と、180度〜約350(=170+180)度の間とで流れ、約70(=360×0.194)度と、約250(=70+180)度)度の位相で最大値をとる。
【0183】
図12では、
図8についての条件と同様に、式(13)に基づいて整流デューティdrec’を、式(18)に基づいて放電デューティdc’を、1−drec’−dc’で零デューティdz’を、Vdc=0.86Vmに、それぞれ設定した場合の動作を示している。
【0184】
図12も
図8と同様に諸量を示した。具体的には、最上段にデューティdrec’,dc’,dz’を、上から二段目に直流電圧Vdc及びこれを構成する電圧drec’・Vrec,dc’・Vc並びに直流電流Idcを、上から三段目に電流irec,ic,il,irec1を、最下段に瞬時電力Pin,Pdc,Pbuf,Pc,−Pl,Precを、それぞれ示した。
【0185】
図8を用いた説明と同様に、入力電流Iinの波形を正弦波にしつつもdz’<0となる位相の領域が存在することがわかる。しかも当該領域において、
図8に示された場合と比較して、
図12に示された場合の方が、零デューティdz’の絶対値は大きい。
【0186】
図13では、
図9における条件と同様に、1−drec’−dc’<0となる領域においてdrec’=1−dc’,dz’=0を採用した場合の諸量を示している。
図13も
図12と同様に諸量を示した。
図9を用いた説明と同様に、dz’=0である領域で直流電圧Vdcは0.86Vmを下回り、電流irecの波形は正弦波の絶対値よりも歪む。また直流電圧Vdcの最小値は、
図13では0.72Vmであり、
図9での最小値0.80Vmよりも低い。
【0187】
図14では直流電圧Vdcを一定にしつつ、dz’=1−drec’−dc’<0となる位相の領域が存在しないように直流電圧Vdcを設定した場合の諸量を示し、
図10に対応している。
図10についての条件ではVdc=0.76Vmでdz’≧0とすることができた。
図14についての条件では、インダクタンスLが28.54mHであり、導通開始位相が36度であることにより、1−drec’−dc’≧0とするにはVdc=0.69Vmまで低下させる必要がある。
【0188】
このような、変動する直流電圧Vdcの最小値の低下、一定にできる直流電圧Vdcの最大値の低下は、インダクタンスLの低下によってリアクトル電流ilが流れる期間が短くなり、リアクトル電流ilには高調波成分(具体的には単相交流電圧Vinの周波数の3次以上の奇数次成分)が多く含まれることに由来すると考えられる。
【0189】
(h-3)高調波の規制と直流電圧Vdcの改善.
高調波は、例えば規格IEC61000-3-2によって規制される。例えば
図12〜
図14で例示されたリアクトル電流ilでは、3次高調波成分の大きさが、規格IEC61000-3-2を上回る。irec=irec1+il(
図1、
図4参照)であるので、リアクトル電流ilの3次高調波成分はそのまま電流irecに反映され、ひいては入力電流Iinの3次高調波成分に影響することになる。そこで以下では、リアクトル電流ilに含まれる高調波を低減する技術を考察する。
【0190】
図15は
図12〜
図14で例示されたリアクトル電流ilの、単相交流電圧Vinの半周期分、具体的には位相ωtが0〜180度のときの波形を示すグラフである。位相ωtが180〜360度のときにもリアクトル電流ilは同一の波形を示す。上述の様に、1.84kWの電力(電圧実効値230V、電流実効値8A)を採用し、インダクタンスLを28.54mHとした。またリアクトル電流ilは振幅Imを√2として示した。
【0191】
例えば、規格IEC61000-3-2では、定格電圧230Vとの条件下で、実効値2.30Aまでの3次高調波成分を許容する。他方、
図15に示されたリアクトル電流ilは、電圧実効値が230Vのときに実効値2.87Aの3次高調波成分を含み、他の次数の高調波成分は規格IEC61000-3-2の許容範囲にある。よって0.571(=2.87−2.30)Aの3次高調波成分を低減するために、これを補正量として、リアクトル電流ilから減算する。
【0192】
図16は、上述の様にリアクトル電流ilから補正量を減算したときの入力電流Iinの波形を示すグラフである。但し、Vc=1.14Vmに設定し、振幅Vmを1とし、補正量を減算する前の入力電流Iinの振幅Imを√2とした。補正量の減算により、入力電流linの高調波は規格IEC61000-3-2の許容範囲となる。
【0193】
このような補正量の減算を行うために、次のようにして整流デューティdrec’’、放電デューティdc’’、零デューティdz’’を設定する。
【0194】
まず、リアクトル電流ilの補正量il’を導入する。上述の例では、補正量il’はリアクトル電流ilの3次高調波成分の低減量(0.571A)である。式(12)では、リアクトル電流ilの値il0からの乖離量(il−i0)を用いていた。よって補正量il’の減算によって原整流デューティdrecから整流デューティdrec’’を求めるには、式(12)において形式的に、整流デューティdrec’を整流デューティdrec’’に、乖離量(il−i0)を値(−il’)に、それぞれ置き換えればよい。更に式(7)を考慮して、式(27)が得られる。
【0196】
同様に、式(14)において形式的に、放電デューティdc’を放電デューティdc’’に、乖離量(il−i0)を値(−il’)に、それぞれ置き換えて式(28)が得られる。更に式(8)を考慮して、式(29)が得られる。
【0199】
このようにして得られた整流デューティdrec’’、放電デューティdc’’を用いて式(19)と同様に計算して、式(30)が得られる。つまり整流デューティdrec’’及び放電デューティdc’’を採用することにより直流電圧Vdcを一定にする制御が可能であることが判る。
【0201】
但し
図8や
図12を用いて説明されたように、零デューティdz’’を1−drec’’−dc’’で設定すれば、dz’’<0となる位相の領域が存在してしまう。
図17は
図12を用いた説明と諸元の値を揃えて、整流デューティdrec’’、放電デューティdc’’をそれぞれ式(27),(29)で設定し、零デューティdz’’を1−drec’’−dc’’で設定した場合の諸量を示すグラフである。dz’’<0となる位相の領域が存在することがわかる。
【0202】
図18は
図13を用いた説明と諸元の値を揃えて、整流デューティdrec’’、放電デューティdc’’をそれぞれ式(27),(29)で設定し、零デューティdz’’を1−drec’’−dc’’で設定し、1−drec’’−dc’’<0となる位相においてのみ、dz’’=0,drec’’=1−dc’’に修正した場合の諸量を示すグラフである。
【0203】
図12に示された零デューティdz’と比較して、
図17に示された零デューティdz’’は、その値が負であるときの絶対値が小さい。よって
図13で示された場合と比較して、
図18で示された場合の方が、直流電圧Vdcの最小値は大きい。具体的にはdz’’>0となる領域では直流電圧Vdcは0.86Vmの一定値をとり、dz’’=0において直流電圧Vdcの最小値は0.84Vmである(
図13で示された場合では、直流電圧Vdcの最小値は0.72Vm)。
【0204】
整流デューティdrec’’、放電デューティdc’’、dz’’=1−drec’’−dc’’を全ての位相で維持しつつ、
図14と同様に直流電圧Vdcを小さくしてこれを一定にすることができる。
図19は
図17と同様にして整流デューティdrec’’、放電デューティdc’’、零デューティdz’’を設定した場合の諸量を示すグラフである。Vdc=0.82Vmに設定することにより、零デューティdz’’の最小値を正値ではなく0にすることができる。つまり、
図14に示された場合(Vdc=0.69Vm)と比較して、一定にできる直流電圧Vdcの最大値が大きい。
【0205】
以上のように、インダクタンスLを小さくしてリアクトルL4を小型化し、これに伴うリアクトル電流ilの高調波成分を抑制することで、入力電流Iinの高調波を低減し、かつ入力電流Iinの波形の正弦波からの歪みを許容しつつ、インバータ5が電力変換に利用できる直流電圧Vdcが高められる。
【0206】
インダクタンスLを小さくするとリアクトル電流ilの5次以上の高調波成分も増大する。よって補正量il’として他の高調波成分をも採用することが望ましい場合がある。
【0207】
図20はリアクトル電流ilの、単相交流電圧Vinの半周期分での波形を示すグラフであり、具体的には位相ωtが0〜180度のときの波形を示すグラフである。位相ωtが180〜360度のときにもリアクトル電流ilは同一の波形を示す。
【0208】
ここでも
図15を用いて説明された場合と同様に1.84kWの電力(電圧実効値230V、電流実効値8A)を採用するが、インダクタンスLを18mHとし、
図15を用いて説明された場合よりもインダクタンスLを小さく設定した。リアクトル電流ilの振幅は、入力電流Iinの振幅Imを√2として換算した。
【0209】
導通開始位相が36度であることにより、スイッチSlが導通から非導通へと移行する位相は約61(360×0.17)度となり、この位相でリアクトル電流ilは最大値をとり、約141(360×0.394)度でリアクトル電流ilは0となる。
【0210】
例えば、規格IEC61000-3-2では、定格電圧230Vとの条件下で、3次高調波成分、7次高調波成分、11次高調波成分を、それぞれ実効値2.30A,0.77A,0.33Aまで許容する。他方、
図20に示されたリアクトル電流ilは、電圧実効値が230Vのときに、実効値3.66Aの3次高調波成分、実効値1.17Aの7次高調波成分、実効値0.38Aの11次高調波成分をそれぞれ含み、他の次数の高調波成分は規格IEC61000-3-2の許容範囲にある。
【0211】
よって補正量il’としては、1.36(=3.66−2.30)Aの3次高調波成分と、0.40(=1.17−0.77)Aの7次高調波成分と、0.05(=0.38−0.33)Aの11次高調波成分との和を採用する。
【0212】
図21は、上述の様にリアクトル電流ilから補正量il’を減算したときの入力電流Iinの波形を示すグラフである。但し、Vc=1.14Vmに設定し、振幅Vmを1とし、補正量il’を減算する前の入力電流Iinの振幅Imを√2とした。補正量il’の減算により、入力電流linの高調波成分は、規格IEC61000-3-2の許容範囲となる。
【0213】
図22は、
図18を用いた説明とインダクタンスL以外の諸元の値を揃えて、整流デューティdrec’’、放電デューティdc’’をそれぞれ式(27),(29)で設定し、零デューティdz’’を1−drec’’−dc’’で設定し、1−drec’’−dc’’<0となる位相においてのみ、dz’’=0、drec’’=1−dc’’に修正した場合の諸量を示すグラフである。
【0214】
dz’’>0となる領域では直流電圧Vdcは0.86Vmの一定値をとり、dz’’=0において直流電圧Vdcの最小値は0.81Vmである。これはインダクタンスLが28mHである場合(
図18を用いて説明された場合)の当該最小値0.84Vmよりも低い。
【0215】
図23は、Vdc=0.78Vmに設定した場合の諸量を示すグラフである。このような設定によって零デューティdz’’の最小値を正値ではなく0にすることができる。つまり、整流デューティdrec’’、放電デューティdc’’、零デューティdz’’を採用すれば、インダクタンスLが18mH程度に小さくても、インダクタンスLが51mH程度であって整流デューティdrec’、放電デューティdc’、零デューティdz’を採用する場合(
図10参照:Vdc=0.76Vm)よりも、一定となる直流電圧Vdcの最大値を高めることができる。しかも入力電流Iinの高調波成分を規格の許容範囲とすることができる。
【0216】
式(12)、(27)の類似性から、式(7)を考慮して、整流デューティdrec’,drec’’を次のように纏めることができる:
整流デューティ(drec’,drec’’)は、
振幅Vmに対する直流電圧Vdcの比Vdc/Vmと、位相ωtの正弦値の絶対値|sin(ωt)|との積(Vdc/Vm)・|sin(ωt)|;及び
“電流”(il,il’)の直流電流Idcに対する比(il/Idc,il’/Idc)に基づいて設定される。
【0217】
上記の積は原整流デューティdrecを示す(式(7)参照)。上記の"電流"は、整流デューティdrec’についてはリアクトル電流ilであり、整流デューティdrec’’については補正量il’である。補正量il’は低減すべき次数の高調波成分の低減量である。
【0218】
そして整流デューティdrec’は積(Vdc/Vm)・|sin(ωt)|の二倍から比il/Idcを差し引いた値をとる(式(13)参照)。整流デューティdrec’’は積(Vdc/Vm)・|sin(ωt)|に比il’/Idcを加えた値をとる(式(27)参照)。
【0219】
放電デューティdc’については式(16)に基づいて次の様に表現することができる:
コンデンサC4の両端電圧Vc(これは指令値Vc*に正確に追従する)に対する直流電圧Vdcの比Vdc/Vcと、位相ωtの二倍の値の余弦値cos(2ωt)との積(Vdc/Vc)・cos(2ωt);及び
両端電圧Vcに対する振幅Vmの比Vm/Vcと、比il/Idcと、絶対値|sin(ωt)|との積(Vm/Vc)・(il/Idc)・|sin(ωt)|
に基づいて設定される。具体的には、放電デューティdc’の値はこれら二つの積の和に等しい。
【0220】
放電デューティdc’’については式(29)に基づいて次の様に表現することができる:
コンデンサC4の両端電圧Vc(これは指令値Vc*に正確に追従する)に対する直流電圧Vdcの比Vdc/Vcと、位相ωtの余弦値の二乗cos
2(ωt)との第1の積(Vdc/Vc)・cos
2(ωt);及び
両端電圧Vcに対する振幅Vmの比Vm/Vcと、比il’/Idcと、絶対値|sin(ωt)|との第2の積(Vm/Vc)・(il’/Idc)・|sin(ωt)|
に基づいて設定される。具体的には、放電デューティdc’’の値は第1の積から第2の積を差し引いた値をとる。第1の積は原放電デューティを示す(式(8)参照)。
【0221】
上述の整流デューティdrec’,drec’’、放電デューティdc’,dc’’のいずれの導出においても、リアクトル電流ilの歪みは簡易スイッチングに由来することを前提としてはいない。よって整流デューティdrec’,drec’’、放電デューティdc’,dc’’を用いた技術は、簡易スイッチングを前提とするものではないことは明白である。
【0222】
(h-4)補正量il’を得るための構成例.
図24は、整流デューティdrec’’、放電デューティdc’’を得るための放電制御部102の第1の構成及びその近傍を例示するブロック図である。かかる放電制御部102も、
図2に示されたインバータ制御部101、充電制御部103と共に、制御装置10を構成する。
【0223】
図24において放電制御部102は、
図2を用いて説明されたデューティ演算部1021、比較器1022、デューティ補正部1023、リンク電流演算部1024に加え、補正量生成部1025を備える。但しデューティ補正部1023は、式(27),(29)(特にそれぞれの最初の等式)に従って原整流デューティdrec、原放電デューティdcから、それぞれ整流デューティdrec’’、放電デューティdc’’を得る。
【0224】
図25は補正量生成部1025の構成を例示するブロック図である。補正量生成部1025は、入力電流推定部1025aと、補正高調波テーブル1025bとを有する。入力電流推定部1025aは出力電力Pout、振幅Vm、及び位相ωtに基づいて、入力電流Iinの推定値Isを求める。例えば次式を採用することができる。
【0226】
補正高調波テーブル1025bは、入力電流Iinと高調波成分の規制量との関係を示すテーブルを格納し、推定値Isを入力電流Iinに採用して当該テーブルを検索し、対応する補正量il’を出力する。
【0227】
つまり、この第1の構成においては、入力電流Iinの歪みに基づいて補正量il’を求める。よって第1の構成では制御装置10にはリアクトル電流ilは不要である。
【0228】
図26は、整流デューティdrec’’、放電デューティdc’’を得るための放電制御部102の第2の構成及びその近傍を例示するブロック図である。かかる放電制御部102も、
図2に示されたインバータ制御部101、充電制御部103と共に、制御装置10を構成する。
【0229】
図26において放電制御部102は、
図2を用いて説明されたデューティ演算部1021、比較器1022、デューティ補正部1023、リンク電流演算部1024に加え、補正量生成部1026を備える。但しデューティ補正部1023は、式(27),(29)(特にそれぞれの最初の等式)に従って整流デューティdrec’’、放電デューティdc’’を得る。
【0230】
図27は補正量生成部1026の構成を例示するブロック図である。補正量生成部1026はFFT演算部1026aと、補正高調波選択部1026bと、逆FFT演算部1026cとを有する。FFT演算部1026aはリアクトル電流ilに対して高速フーリエ変換を行って、そのn次周波数の成分毎の振幅Ilh(n)を求める。補正高調波選択部1026bは、次数毎に設定された上限を超える高調波の次数を選択する。そして選択された次数(以下、α次として示す)について、α次高調波成分の振幅Ilh(α)が、α次高調波について設定された上限を超える量を、α次高調波の補正量Il’(α)として求める。選択されなかった次数の補正量Il’(β)(β≠α)は0とされる。逆FFT演算部1026cは補正量Il’(n)あるいは補正量Il’(α)を用いて逆高速フーリエ変換を行って、補正量il’を求める。
【0231】
つまり、この第2の構成においては、リアクトル電流ilの歪み(
図15、
図20参照)に基づいて補正量il’を求める。
【0232】
I.変形.
(i-1)第1の変形.
図28は電力変換装置の第1の変形として、コンバータ3をダイオードブリッジ3a,3bに置換した場合の、それらの近傍のみを示す回路図である。かかる構成それ自体は例えば非特許文献1によって公知である。
【0233】
ダイオードブリッジ3aは、上記実施の形態で説明されたコンバータ3と同様に、ダイオードD31,D32,D33,D34を有し、これらがブリッジ回路を構成する。ダイオードブリッジ3bはダイオードD35,D36,D32,D34を有し、これらがブリッジ回路を構成する。つまりダイオードブリッジ3a,3bはダイオードD32,D34を共有する。
【0234】
また当該変形では上記実施の形態で示された直流電源線LHが、二本の直流電源線LH1,LH2に置換される。他方、直流電源線LLは、上記実施の形態と同様に、ダイオードD32,D34のアノードと、リアクトルL4とは反対側でスイッチSlと、スイッチScとは反対側でコンデンサC4と、インバータ5とにそれぞれ接続される。
【0235】
直流電源線LH1は、直流電源線LHと同様に、ダイオードD31,D33のカソードが共通に接続され、コンデンサC4とは反対側でスイッチScとインバータ5とに接続される。直流電源線LH2には、ダイオードD35,D36のカソードが共通に接続され、スイッチSlとは反対側でリアクトルL4に接続される。
【0236】
従って、直流電源線LH1に対する、ダイオードブリッジ3a及び放電回路4aからの電力の授与は、上記実施の形態における直流電源線LHに対する、コンバータ3及び放電回路4aからの電力の授与と同等である。また、直流電源線LH2からの、ダイオードブリッジ3bを介した充電回路4bへの電力の授与(充電回路4bによる電力の受納)は、上記実施の形態における直流電源線LHからの、コンバータ3を介した充電回路4bへの電力の授与(充電回路4bによる電力の受納)と同等である。
【0237】
このように電力の授与と受納の経路が異なるので、第1の変形では上記実施の形態で示された電流阻止回路4cは不要となる。
【0238】
(i-2)第2の変形.
電流阻止回路4cは、放電回路4aからコンバータ3へ向かう電流を阻止する機能も有する。よって、フィルタ2をコンバータ3と電流阻止回路4cとの間に配置することができる。
【0239】
図29及び
図30は電力変換装置において、フィルタ2をコンバータ3と電流阻止回路4cとの間に配置した場合の、インバータ5よりも単相交流電源1側の構成を示す回路図である。
【0240】
図29に示される構成は、リアクトルL2がコンバータ3と、リアクトルL4との間に介在する。かかる構成は、例えば非特許文献1によって公知である。
【0241】
図30に示される構成は、リアクトルL4がリアクトルL2のコンバータ3側の端に接続されている。換言すれば、フィルタ2はコンバータ3と電流阻止回路4cとの間に配置されてはいるが、充電回路4bに含めて考えることもできる。
【0242】
具体的にはリアクトルL2は、リアクトルL4に関してコンバータ3と反対側で直流電源線LH上に設けられる。コンデンサC2はリアクトルL2に関してコンバータ3と反対側で直流電源線LH,LLの間に接続され、リアクトルL2と共にフィルタを構成する。
【0243】
このように、リアクトルL4の、ダイオードD40とは反対側の端を、リアクトルL2よりもコンバータ3側に接続しても、インバータ5のスイッチング動作による高調波が単相交流電源1へ伝播しないことは明白である。
【解決手段】デューティ演算部1021は位相θ、振幅Vm、両端電圧Vcの指令値Vc*、直流電圧Vdcの指令値Vdc*を入力し、原放電デューティdcと原整流デューティdrecとを求める。デューティ補正部1023は原放電デューティdcおよび原整流デューティdrecを補正して、それぞれ放電デューティdc’および整流デューティdrec’を得る。デューティ演算部1021とデューティ補正部1023とを纏めて、放電デューティdc’及び整流デューティdrec’を生成するデューティ生成部として把握することができる。