特許第6265313号(P6265313)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6265313KCNQ2〜5チャネル活性化剤の結晶多形
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6265313
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】KCNQ2〜5チャネル活性化剤の結晶多形
(51)【国際特許分類】
   C07D 213/61 20060101AFI20180115BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20180115BHJP
   A61P 13/10 20060101ALI20180115BHJP
   A61K 31/44 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   C07D213/61CSP
   A61P43/00 111
   A61P13/10
   A61K31/44
【請求項の数】20
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2017-546923(P2017-546923)
(86)(22)【出願日】2017年4月21日
(86)【国際出願番号】JP2017016109
【審査請求日】2017年9月5日
(31)【優先権主張番号】特願2016-86239(P2016-86239)
(32)【優先日】2016年4月22日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000185983
【氏名又は名称】小野薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100164563
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 貴英
(72)【発明者】
【氏名】八代 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】木嶋 秀臣
(72)【発明者】
【氏名】若松 大将
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 哲二
【審査官】 伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】 特表2016−508960(JP,A)
【文献】 特表2015−514728(JP,A)
【文献】 特表2010−535244(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末X線回折スペクトルにおいて、少なくとも15.3±0.2、16.9±0.2、17.4±0.2、19.3±0.2および19.6±0.2度2θにピークを有する、1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアの結晶。
【請求項2】
粉末X線回折スペクトルにおいて、7.0±0.2および9.2±0.2度2θにピークを有さない、請求項1記載の1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアの結晶。
【請求項3】
粉末X線回折スペクトルにおいて、11.3±0.2、11.6±0.2、11.9±0.2、12.8±0.2、13.9±0.2、15.3±0.2、16.4±0.2、16.9±0.2、17.4±0.2、18.1±0.2、19.3±0.2、19.6±0.2、20.5±0.2、21.1±0.2、22.2±0.2、22.8±0.2、23.5±0.2、23.8±0.2、24.3±0.2および24.7±0.2度2θにピークを有する、請求項1または請求項2記載の1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアの結晶。
【請求項4】
図3に示される粉末X線回折スペクトルチャートを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアの結晶。
【化1】
【請求項5】
示差走査熱量測定において、オンセット温度が166±2℃またはピーク温度が167±2℃である吸熱ピークを有する、1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアの結晶。
【請求項6】
図4に示される示差走査熱量測定チャートを特徴とする、請求項5記載の1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアの結晶。
【化2】
【請求項7】
1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアの水和物の結晶。
【請求項8】
粉末X線回折スペクトルにおいて、少なくとも13.0±0.2、14.5±0.2、18.3±0.2、19.0±0.2および21.7±0.2度2θにピークを有する、請求項7記載の1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアの水和物の結晶。
【請求項9】
粉末X線回折スペクトルにおいて、7.0±0.2および9.2±0.2度2θにピークを有さない、請求項8記載の1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアの水和物の結晶。
【請求項10】
粉末X線回折スペクトルにおいて、6.5±0.2、8.6±0.2、11.4±0.2、11.7±0.2、13.0±0.2、14.5±0.2、15.1±0.2、16.3±0.2、18.3±0.2、19.0±0.2、19.4±0.2、20.1±0.2、20.5±0.2、21.7±0.2、21.9±0.2、22.3±0.2、23.0±0.2、23.5±0.2、23.8±0.2、24.2±0.2および24.5±0.2度2θにピークを有する、請求項8または請求項9記載の1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアの水和物の結晶。
【請求項11】
図7に示される粉末X線回折スペクトルチャートを特徴とする、請求項8〜10のいずれか1項に記載の1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアの水和物の結晶。
【化3】
【請求項12】
示差走査熱量測定において、オンセット温度が3±2℃またはピーク温度が4±2℃である吸熱ピークを有する、請求項7記載の1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアの水和物の結晶。
【請求項13】
図8に示される示差走査熱量測定チャートを特徴とする、請求項12記載の1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアの水和物の結晶。
【化4】
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の結晶と薬学的に許容される担体とを含有してなる医薬組成物。
【請求項15】
KCNQ2〜5チャネル関連疾患の予防および/または治療剤である、請求項14記載の医薬組成物。
【請求項16】
KCNQ2〜5チャネル関連疾患が排尿障害である、請求項15記載の医薬組成物。
【請求項17】
排尿障害が過活動膀胱である、請求項16記載の医薬組成物。
【請求項18】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の結晶を含有する、KCNQ2〜5チャネル関連疾患の予防および/または治療剤。
【請求項19】
KCNQ2〜5チャネル関連疾患の予防および/または治療のための請求項1〜13のいずれか1項に記載の結晶。
【請求項20】
KCNQ2〜5チャネル関連疾患の予防および/または治療剤の製造のための請求項1〜13のいずれか1項に記載の結晶の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレア(以下、化合物Iと略記する場合がある。)の新規な結晶形に関する。
【背景技術】
【0002】
KCNQチャネルには、KCNQ1、KCNQ2、KCNQ3、KCNQ4及びKCNQ5の5種類のサブタイプが認められている。このうち、KCNQ1以外のKCNQ2〜5は、脊髄後根神経節や脊髄などの侵害性の感覚神経系(nociceptive sensory system)に発現しており、KCNQ2〜5チャネルの活性化は、侵害性のシグナル経路内の神経細胞の過分極を引き起こす。
【0003】
KCNQ2〜5チャネル活性化剤はてんかん、疼痛、片頭痛及び不安症を含むニューロン興奮性の異常を特徴とする多数の障害の治療に有用であると報告されており(非特許文献1参照)、実際にKCNQ2〜5チャネル活性化剤であるレチガビンは、抗てんかん薬として既に上市されている。
【0004】
また、近年レチガビンが膀胱障害(過活動膀胱など)の治療に有用であることも報告されている(非特許文献2、3参照)。
【0005】
過活動膀胱は、潜在的な排尿筋過活動状態に起因していると考えられることから、その治療には主に膀胱収縮抑制作用を有するムスカリン受容体拮抗薬が広く用いられてきた。しかしながら、ムスカリン受容体は、膀胱以外に唾液腺、腸管および毛様体筋などにも存在し、機能的役割も伴っているため、口内乾燥、便秘および霧視などの副作用を伴うことがあること、ムスカリン受容体拮抗薬の膀胱収縮抑制作用による排尿困難、残尿量の増加および尿閉などの副作用も懸念され、必ずしも満足な治療効果をあげているとは言い切れない。また、ムスカリン受容体拮抗薬の問題点を克服する薬剤として、選択的β3アドレナリン受容体作動薬が2011年に日本で上市された。選択的β3アドレナリン受容体作動薬は、膀胱弛緩作用により蓄尿機能を亢進させる一方、排尿機能に影響を及ぼしにくいことが示唆され、収縮刺激に依らない膀胱弛緩作用を発揮することから、幅広い患者層での効果が期待されている。一方で、増量に伴いQT延長リスクが増大することや心臓のβ受容体に作用することで心拍数増加作用を示すことから、それらが用量の制限因子となっている。
【0006】
以上のことから、本領域では、収縮刺激に依らない膀胱弛緩作用を有し、副作用懸念のない薬剤が望まれており、KCNQ2〜5チャネル活性化剤はそのアンメットメディカルニーズに応える薬剤として期待される。
【0007】
これまでに、単環アミド骨格を有するKCNQ活性化剤としては、例えば、一般式(a)
【化1】
(式中、ZaがOまたはSであり;qaが0または1であり;Ra1およびRa2がそれぞれ、ハロゲン、シアノ、アミノ、C1-6−アルキル(アルケニル/アルキニル)等からなる群から独立して選択され;Ra3がC1-8−アルキル(アルケニル/アルキニル)、C3-8−シクロアルキル(シクロアルケニル)、C3-8−シクロアルキル(シクロアルケニル)−C1-6−アルキル(アルケニル/アルキニル)、アリール−C1-6−アルキル(アルケニル/アルキニル)、アリール−C3-8−シクロアルキル(シクロアルケニル)等からなる群から選択され;Ra4がハロゲン、シアノ、C1-6−アルキル(アルケニル/アルキニル)、C3-8−シクロアルキル(シクロアルケニル)、C3-8−シクロアルキル(シクロアルケニル)−C1-6−アルキル(アルケニル/アルキニル)等からなる群から選択される(基の定義は一部抜粋した。)。)で示される化合物(特許文献1参照)が知られている。化合物Iは特許文献1の一般式(a)には含まれないし、特許文献1には、特許文献1に記載の化合物から化合物Iに至る手法についての記載も示唆もない。
【0008】
また、国際公開第2016/063990号(以下、特許出願2と略記する場合がある。)には、化合物IがKCNQ活性化剤として記載されている。しかしながら、特許出願2には化合物Iに関して結晶多形が存在することの記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2006/029623号
【特許文献2】国際公開第2016/063990号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】カレント・トピックス・イン・メディシナル・ケミストリー(Current Topics in Medicinal Chemistry)、6巻、999〜1023頁、2006年
【非特許文献2】ザ・ジャーナル・オブ・ウロロジー(The Journal of Urology)、172巻、2054〜2058頁、2004年
【非特許文献3】ユーロピアン・ジャーナル・オブ・ファーマコロジー(European Journal of Pharmacology)、638巻、121〜127頁、2010年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、KCNQ2〜5チャネルに対し強い開口作用を有する化合物を提供することである。
【0012】
また、結晶性化合物には、結晶多形が存在する場合がある。結晶多形が存在する場合、結晶形によって、溶解度、溶解速度、または熱、光、湿度等に対する安定性等が異なる。したがって、医薬品の製造において、その適応疾患や剤形に最も適した原薬の結晶形を選択することは、非常に重要な課題である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、化合物Iに、上記特許出願2の実施例25(5)で製造した化合物Iの結晶形(M晶)以外に、他の結晶形が存在することを見出した。そこで、化合物Iの結晶多形について鋭意検討したところ、化合物Iの新たな結晶形としてA晶、W晶を同定し、さらに化合物Iの水和物の結晶(H晶)を同定した(これら新規結晶形を本発明の結晶形と略記する場合がある。)。
【0014】
すなわち、本発明は、
(1)粉末X線回折スペクトルにおいて、少なくとも約15.3、16.9、17.4、19.3および19.6度2θにピークを有する、1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアの結晶、
(2)粉末X線回折スペクトルにおいて、約7.0および9.2度2θにピークを有さない、前記(1)記載の1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアの結晶、
(3)粉末X線回折スペクトルにおいて、約11.3、11.6、11.9、12.8、13.9、15.3、16.4、16.9、17.4、18.1、19.3、19.6、20.5、21.1、22.2、22.8、23.5、23.8、24.3および24.7度2θにピークを有する、前記(1)または前記(2)記載の1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアの結晶、
(4)図3に示される粉末X線回折スペクトルチャートを特徴とする、前記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアの結晶、
(5) 示差走査熱量測定において、オンセット温度が約166℃またはピーク温度が約167℃である吸熱ピークを有する、1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアの結晶、
(6)図4に示される示差走査熱量測定チャートを特徴とする、前記(5)記載の1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアの結晶、
(7)1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアの水和物の結晶、
(8)粉末X線回折スペクトルにおいて、少なくとも約13.0、14.5、18.3、19.0および21.7度2θにピークを有する、前記(7)記載の1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアの水和物の結晶、
(9)粉末X線回折スペクトルにおいて、約7.0および9.2度2θにピークを有さない、前記(8)記載の1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアの水和物の結晶、
(10)粉末X線回折スペクトルにおいて、約6.5、8.6、11.4、11.7、13.0、14.5、15.1、16.3、18.3、19.0、19.4、20.1、20.5、21.7、21.9、22.3、23.0、23.5、23.8、24.2および24.5度2θにピークを有する、前記(8)または前記(9)記載の1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアの水和物の結晶、
(11)図7に示される粉末X線回折スペクトルチャートを特徴とする、前記(8)〜(10)のいずれか1つに記載の1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアの水和物の結晶、
(12)示差走査熱量測定において、オンセット温度が約32℃またはピーク温度が約48℃である吸熱ピークを有する、前記(7)記載の1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアの水和物の結晶、
(13)図8に示される示差走査熱量測定チャートを特徴とする、前記(12)記載の1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアの水和物の結晶、
(14)粉末X線回折スペクトルにおいて、約10.6、15.2、19.6、20.7、22.4および24.1度2θにピークを有する、1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアの結晶、
(15)粉末X線回折スペクトルにおいて、約7.0および9.2度2θにピークを有さない、前記(14)記載の1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアの結晶、
(16)図5に示される粉末X線回折スペクトルチャートを特徴とする、前記(14)または前記(15)記載の1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアの結晶、
(17)示差走査熱量測定において、オンセット温度が約89℃またはピーク温度が約94℃である吸熱ピークを有する、前記(14)〜(16)のいずれか1つに記載の1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアの結晶、
(18)図6に示される示差走査熱量測定チャートを特徴とする、前記(17)記載の1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアの結晶、
(19)前記(1)〜(18)のいずれか1つに記載の結晶と薬学的に許容される担体とを含有してなる医薬組成物、
(20)KCNQ2〜5チャネル関連疾患の予防および/または治療剤である、前記(19)記載の医薬組成物、
(21)KCNQ2〜5チャネル関連疾患が排尿障害である、前記(20)記載の医薬組成物、
(22)排尿障害が過活動膀胱である、前記(21)記載の医薬組成物、
(23)前記(1)〜(18)のいずれか1つに記載の結晶を含有する、KCNQ2〜5チャネル関連疾患の予防および/または治療剤、
(24)前記(1)〜(18)のいずれか1つに記載の結晶の有効量を哺乳動物に投与することを特徴とするKCNQ2〜5チャネル関連疾患の予防および/または治療方法、
(25)KCNQ2〜5チャネル関連疾患の予防および/または治療のための前記(1)〜(18)のいずれか1つに記載の結晶、
(26)KCNQ2〜5チャネル関連疾患の予防および/または治療剤の製造のための前記(1)〜(18)のいずれか1つに記載の結晶の使用等に関する。
【発明の効果】
【0015】
化合物Iは、KCNQ2〜5チャネル関連疾患の予防および/または治療剤として有用である。また、本発明の結晶形は、医薬品の原薬として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、化合物IのM晶の粉末X線回折スペクトルチャートを示す。
図2図2は、化合物IのM晶の示差走査熱量測定(DSC)チャートを示す。
図3図3は、化合物IのA晶の粉末X線回折スペクトルチャートを示す。
図4図4は、化合物IのA晶のDSCチャートを示す。
図5図5は、化合物IのW晶の粉末X線回折スペクトルチャートを示す。
図6図6は、化合物IのW晶のDSCチャートを示す。
図7図7は、化合物Iの水和物の結晶(H晶)の粉末X線回折スペクトルチャートを示す。
図8図8は、化合物Iの水和物の結晶(H晶)のDSCチャートを示す。
図9図9は、化合物Iの水和物の結晶(H晶)の水蒸気吸着/脱着等温線を示す。横軸は相対湿度(RH(%))を、縦軸は乾燥時(0%RH)を基準とした各湿度での重量の変化率(Change in Mass(%)−Ref)を表す。
図10図10は、化合物Iの水和物の結晶(H晶)の粉末X線回折−示差走査熱量同時測定を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明において、化合物Iは、以下の構造:
【化2】
で示される化合物である。
【0018】
本発明において、化合物Iの新たな結晶形として、A晶およびW晶の2種類の無水和物結晶およびH晶の水和物の結晶を同定した。結晶形の相違は、特に、粉末X線回折スペクトルまたは/および示差走査熱量測定(DSC)によって区別される。
【0019】
化合物IのA晶は、以下の(a)および(b)の少なくとも一つの物理化学データによって特徴づけられる。好ましくは、(a)および(b)の両方の物理化学データによって特徴づけられる。(a)以下の図3に示される粉末X線回折スペクトルチャート、以下の表2に示される回折角(2θ)、または粉末X線回折スペクトルにおいて少なくとも約15.3、16.9、17.4、19.3および19.6度2θにピークを有する(さらに好ましくは約7.0および/または9.2度2θにピークを有さない)、(b)以下の図4に示されるDSCチャート、またはDSCにおいてオンセット温度が約166℃および/またはピーク温度が約167℃である吸熱ピークを有する。
【0020】
化合物IのW晶は、以下の(c)および(d)の少なくとも一つの物理化学データによって特徴づけられる。好ましくは、(c)および(d)の両方の物理化学データによって特徴づけられる。(c)以下の図5に示される粉末X線回折スペクトルチャートまたは以下の表3に示される回折角(2θ)(さらに好ましくは約7.0および/または9.2度2θにピークを有さない)、(d)以下の図6に示されるDSCチャートまたはDSCにおいてオンセット温度が約89℃および/またはピーク温度が約94℃である吸熱ピークを有する。
【0021】
化合物Iの水和物の結晶であるH晶は、以下の(e)および(f)の少なくとも一つの物理化学データによって特徴づけられる。好ましくは、(e)および(f)の両方の物理化学データによって特徴づけられる。(e)以下の図7に示される粉末X線回折スペクトルチャート、以下の表4に示される回折角(2θ)、または粉末X線回折スペクトルにおいて少なくとも約13.0、14.5、18.3、19.0、21.7度2θにピークを有する(さらに好ましくは約7.0および/または9.2度2θにピークを有さない)、(f)以下の図8に示されるDSCチャート、またはDSCにおいてオンセット温度が約32℃および/またはピーク温度が約48℃である吸熱ピークを有する。
【0022】
一方、上記特許出願2に記載された化合物IのM晶は、(g)図1に示される粉末X線回折スペクトルチャートまたは以下の表1に示される回折角(2θ)、および/または(h)図2に示されるDSCチャート(オンセット温度:約90℃、ピーク温度:約100℃)の物理化学データによって特徴づけられる。
【0023】
本発明において、化合物Iの各結晶形は、本明細書に記載された物理化学データによって特定されるものであるが、各スペクトルデータは、その性質上多少変わり得るものであるから、厳密に解されるべきではない。
【0024】
例えば、粉末X線回折スペクトルデータは、その性質上、結晶の同一性の認定においては、回折角(2θ)や全体的なパターンが重要であり、相対強度は結晶成長の方向、粒子の大きさ、測定条件によって多少変わり得る。
【0025】
また、DSCデータにおいても、結晶の同一性の認定においては、全体的なパターンが重要であり、測定条件によって多少変わり得る。
【0026】
したがって、本発明の結晶形において、粉末X線回折スペクトルまたはDSCとパターンが、それぞれ全体的に類似するものは、本発明の結晶形に含まれるものである。
【0027】
本明細書中、粉末X線回折パターンにおける回折角(2θ(度))及びDSC分析における吸熱ピークのオンセット温度(℃)及びピーク温度(℃)の記載は、当該データ測定法において通常許容される誤差範囲を含むことを意味し、おおよそその回折角及び吸熱ピークのオンセット温度及びピーク温度であることを意味する。例えば、粉末X線回折における回折角(2θ(度))の「約」は、ある態様としては±0.2度であり、さらに別の態様としては、±0.1度である。DSC分析における吸熱ピークのオンセット温度(℃)またはピーク温度(℃)の「約」は、ある態様としては±2℃であり、さらに別の態様としては、±1℃である。また、最初の数字の前の「約」は、そのあとの数字にもかかる。例えば、約15.3、16.9、17.4、19.3および19.6度2θは、約15.3、約16.9、約17.4、約19.3および約19.6度2θを意味する。
【0028】
本発明の一実施形態において、化合物Iの各結晶形は実質的に純粋である。「実質的に純粋である」への言及は、特定の結晶形が、存在する化合物のうちの少なくとも50%を占めることを意味する。また、別の一実施形態において、各結晶形は、存在する化合物Iのうちの少なくとも75%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%または約94%〜98%を占める。
【0029】
本発明において、化合物Iの水和物の結晶としては、0.5水和物ないし5水和物が挙げられる。本発明の一実施形態において、水和物は0.5水和物、1水和物、1.5水和物、2水和物、2.5水和物である。本発明の一実施形態において、水和物は0.5水和物ないし1.0水和物であり、特定の実施形態において0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1水和物である。
【0030】
本発明において、水和物とは、医薬品が通常保存−使用される環境下(温度、相対湿度など)で、安定して相当量の水分を保持する結晶であれば特に限定されない。例えば、ここで、1水和物とは、医薬品が通常保存−使用される環境下(温度、相対湿度など)で、安定して1当量の水分を保持する結晶である。
【0031】
本発明において、本発明の結晶形は、例えば以下に示す方法、これらに準ずる方法または実施例に従って製造することが出来る。なお、再結晶を行う際、種晶は、使用しても、または使用しなくてもよい。
【0032】
化合物IのA晶は、例えば特許出願2の実施例25(5)と同様に製造した化合物Iから、例えば下記の方法によって製造することができる。
【0033】
化合物Iを溶媒(例えば、エタノール)、または混合溶媒(例えば、エタノールと水の混合溶媒)に溶解し、その後冷却することで、化合物IのA晶を得ることができる。
【0034】
化合物Iの水和物の結晶であるH晶は、例えば特許出願2の実施例25(5)と同様に製造した化合物I、または後述の実施例10と同様に製造した化合物Iから、例えば下記の方法によって製造することができる。
【0035】
化合物Iを、溶媒(例えば、水)または混合溶媒(例えば、アセトンと水の混合溶媒)に加え25〜40℃で1週間以上撹拌することで、化合物Iの水和物の結晶であるH晶を得ることができる。
【0036】
または、化合物Iをアセトンと水の混合溶媒に溶解し、その後冷却することで、化合物Iの水和物の結晶であるH晶を得ることができる。
【0037】
化合物IのW晶は、例えば特許出願2の実施例25(5)、または後述の実施例10と同様に製造した化合物Iから、例えば下記の方法によって製造することができる。
【0038】
化合物Iを、溶媒(例えば、メタノール)または混合溶媒(例えば、メタノールと水の混合溶媒)に40〜60℃で溶解させ、その後冷却することで、化合物IのW晶を得ることができる。
【0039】
または、化合物Iを溶媒(例えば、メタノール)または混合溶媒(例えば、メタノールと水の混合溶媒)に加え、室温で8時間以上撹拌することで、化合物IのW晶を得ることができる。
【0040】
[毒性]
化合物Iの毒性は十分に低いものであり、医薬品として安全に使用することができる。
【0041】
[医薬品への適用]
化合物Iは、KCNQ2〜5チャネル関連疾患の予防および/または治療に適している。
【0042】
化合物Iは、KCNQ2〜5チャネル関連疾患を予防および/または治療するために使用されうる。かかる疾患としては、例えば、てんかん、疼痛性障害(例えば、神経因性疼痛、片頭痛)、糖尿病性末梢神経障害、不安障害、気分適応障害、統合失調症、薬物依存、注意適応障害、睡眠障害、脳卒中、耳鳴、記憶障害(例えば、アルツハイマー病、認知症)、筋委縮性側索硬化症、運動障害(例えば、パーキンソン病、ジストニアに関連する運動障害)、排尿障害(例えば、過活動膀胱、頻尿、夜間頻尿、尿意切迫感、切迫性尿失禁、腹圧性尿失禁、間質性膀胱炎、慢性前立腺炎、前立腺肥大症)、難聴、喘息、慢性閉塞性肺疾患、咳嗽、肺高血圧症、視覚器官の神経変性疾患(例えば、緑内障、進行性糖尿病網膜症、加齢に伴う黄斑症、網膜色素変性症)、真性糖尿病、早期陣痛・切迫早産、機能性ディスペプシア、過敏性腸症候群等が挙げられる。
【0043】
化合物Iは、好ましくは排尿障害の予防および/または治療に適している。
【0044】
化合物Iは、より好ましくは過活動膀胱の予防および/または治療に適している。
【0045】
過活動膀胱は、尿意切迫感を必須とし、通常は頻尿と夜間頻尿を伴い、切迫性尿失禁を伴うこともある症状症候群である。
【0046】
化合物Iは、
1)予防および/または治療効果の補完および/または増強、
2)動態・吸収改善、投与量の低減、および/または
3)副作用の軽減のために、他の薬物と組み合わせて、併用薬として投与してもよい。
【0047】
化合物Iと1種以上の他の薬物の併用薬は、1つの製剤中に全成分を配合した配合剤の形態で投与してもよく、また別々の製剤にして投与する形態をとってもよい。この別々の製剤にして投与する場合には、同時投与および時間差による投与が含まれる。また、時間差による投与は、化合物Iを先に投与し、他の薬物を後に投与してもよいし、他の薬物を先に投与し、化合物Iを後に投与してもよい。それぞれの投与方法は同じでも異なっていてもよい。
【0048】
上記併用薬により、予防および/または治療効果を奏する疾患は特に限定されず、化合物Iの予防および/または治療効果を補完および/または増強する疾患であればよい。
【0049】
化合物Iの過活動膀胱に対する予防および/または治療効果の補完および/または増強のための他の薬物としては、例えば、(1)ムスカリン性受容体アンタゴニスト(例えば、トルテロジン、オキシブチニン、ヒヨスチアミン、プロパンテリン、プロピベリン、トロスピウム、ソリフェナシン、ダリフェナシン、イミダフェナシン、フェソテロジン、テミベリン、フラボキサート、タラフェナシン(tarafenacin)、アファシフェナシン(afacifenacin)、THVD−101、THVD−201)等)、(2)β3アドレナリン受容体作動薬(ミラベグロン、KRP−114V、ソラベグロン(Solabegron)、TRK−380等)、(3)NK−1または−2アンタゴニスト(例えば、アプレピタント、シゾリルチ等)、(4)遺伝子組換えボツリヌス毒素(センレボターゼ(senrebotase)等)、(5)オピオイドμ受容体作動薬(TRK−130等)、(6)α4β2ニコチン性アセチルコリン受容体アンタゴニスト(デックスメカミラミン(dexmecamylamine)等)、(7)C線維阻害剤(ベシピルジン(Besipirdine)等)、(8)TRPV1アンタゴニスト(XEN−D0501等)、(9)EP1アンタゴニスト(KEA−0447等)、(10)中枢神経薬(REC−1819等)(11)α1アドレナリン受容体アンタゴニスト(例えば、タムスロシン、シロドシン、ナフトピジル、ウラピジル等)、(12)5α還元酵素阻害剤(デュタステリド、フィナステリド等)、(13)ホスホジエステラゼー5阻害剤(シルデナフィル、タダラフィル、バルデナフィル)、(14)バソプレシンV2受容体作動薬(デスモプレシン)等が挙げられる。
【0050】
前記他の薬物の投与量は、臨床上用いられている用量を基準として適宜選択することができる。また、化合物Iと他の薬剤の配合比は、投与対象の年齢及び体重、投与方法、投与時間、対象疾患、症状、組み合わせ等により適宜選択することができる。例えば、化合物I1質量部に対し、他の薬剤を0.01乃至100質量部用いればよい。他の薬剤は任意の2種以上を適宜の割合で組み合わせて投与してもよい。また、前記他の薬物には、現在までに見出されているものだけでなく今後見出されるものも含まれる。
【0051】
化合物Iまたは化合物Iと他の薬剤の併用剤を上記の目的で用いるには、通常、薬学的に許容される担体とともに適当な医薬組成物として製剤化したうえで、全身的または局所的に、経口または非経口の形で投与される。
【0052】
化合物Iは、薬学的有効量で哺乳動物(好ましくはヒト、より好ましくは患者)へ投与される。
【0053】
化合物Iの投与量は年令、体重、症状、望まれる治療効果、投与の経路、治療の期間等に依存するため、必然的に変動が生じる。一般的に、患者一人当たり、一回につき、0.1mgから1000mgの範囲で一日1回から数回経口投与されるか、または患者一人当たり、一回につき、0.01mgから100mgの範囲で一日1回から数回非経口投与されるか、または一日1時間から24時間の範囲で静脈内に持続投与される。
【0054】
もちろん前記したように、投与量は、種々の条件によって変動するので、上記投与量より少ない量で十分な場合もあるし、また範囲を越えて必要な場合もある。
【0055】
化合物I又は化合物Iと他の薬剤の併用剤を投与する際には、経口投与のための内服用固形剤若しくは内服用液剤、経口投与における徐放性製剤、放出制御製剤、または非経口投与のための注射剤、外用剤、吸入剤若しくは坐剤等として用いられる。
【0056】
本発明の結晶形は、上記医薬品の原薬として使用される。
【実施例】
【0057】
以下、実施例によって本発明を詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0058】
クロマトグラフィーによる分離の箇所およびTLCに示されているカッコ内の溶媒は、使用した溶出溶媒または展開溶媒を示し、割合は体積比を表す。
【0059】
本発明において、シリカゲルカラムクロマトグラフィーには、富士シリシア化学社製クロマトレックス(登録商標)、山善ハイフラッシュカラム(商品名)等を使用し、精製装置としては、例えば、山善社製中圧分取クロマトグラフW−prep 2XY(商品名)を使用した。
【0060】
NMRデータは特に記載しない限り、1H−NMRのデータである。
【0061】
NMRの箇所に示されているカッコ内は測定に使用した溶媒を示す。
【0062】
本明細書中に用いた化合物名は、一般的にIUPACの規則に準じて命名を行なうコンピュータプログラム、Advanced Chemistry Development社のACD/Name(登録商標)を用いるか、または、IUPAC命名法に準じて命名したものである。
【0063】
実施例1
2−(4−ブロモフェニル)−1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノール
アルゴン雰囲気下、減圧下で加熱乾燥した塩化セリウム(51g)をテトラヒドロフラン(316mL)に懸濁させ、室温で1時間撹拌した後、−70℃に冷却した。メチルリチウム(3.0Mジエチルエーテル溶液、185mL)を滴下し、−70℃で30分撹拌した後、1−(4−ブロモフェニル)−2,2,2−トリフルオロエタノン(40g)(CAS登録番号:16184−89−7)のテトラヒドロフラン(30mL)溶液を加え、室温で1.5時間撹拌した。反応液を飽和塩化アンモニウム水溶液(500mL)と氷水(500mL)の混合液中へ注いだ後、混合物の色が薄黄色になるまで1N塩酸を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を水、飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮することにより、以下の物性値を有する標題化合物を得た(51g)。
TLC:Rf 0.59(ヘキサン:酢酸エチル=4:1);
1H−NMR(CDCl3):δ 1.77, 2.42, 7.44-7.47, 7.52-7.55。
【0064】
実施例2
(2S)−2−(4−ブロモフェニル)−1,1,1−トリフルオロ−2−プロパニル[(1S)−1−(1−ナフチル)エチル]カルバメート
実施例1で製造した化合物(43g)のジクロロメタン(237mL)溶液に氷冷下でジメチルアミノピリジン(23.2g)と4−ニトロフェニルクロロホルメート(35.1g)を加えた後、室温で1時間撹拌した。反応溶液を再び氷冷し、(1S)−1−(1−ナフチル)エチルアミン(33.2mL)(CAS登録番号:10420−89−0)を加えた後、室温で1時間撹拌した。反応混合物にtert−ブチルメチルエーテル(500mL)を加え、析出物を濾過濾別し、ヘキサン/酢酸エチル(1/1)で洗浄した。濾液と洗浄液を合わせ、約半量まで減圧濃縮した後、1N水酸化ナトリウム水溶液(150mL×4回)、1N塩酸(200mL)、水(150mL)、飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=90:10→80:20)で精製することにより、標題化合物のジアステレオマー混合物を得た(70g)。ジアステレオマー混合物はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:tert−ブチルメチルエーテル=80:20)で分離精製することにより、以下の物性値を有する標題化合物(33g)を得た。
TLC:Rf 0.58(ヘキサン:ジイソプロピルエーテル=2:1);
1H−NMR(CDCl3):δ 1.69, 2.17, 5.25, 5.49-5.58, 7.22-7.25, 7.43-7.58, 7.80-7.95。
【0065】
実施例3
(2S)−2−(4−ブロモフェニル)−1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノール
実施例2で製造した化合物(50g)の1,4−ジオキサン(540mL)溶液に水酸化リチウム1水和物(45g)の水(270mL)溶液を加え、55℃で1時間撹拌した。反応混合物を10℃に冷却した後、2N塩酸(540mL)を加えてpH=3とし、酢酸エチルで抽出した。有機層を炭酸水素ナトリウム水溶液、水、塩化アンモニウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=90:10→80:20)で精製することにより、以下の物性値を有する標題化合物を得た(27g)。
TLC:Rf 0.59(ヘキサン:酢酸エチル=4:1);
1H−NMR(CDCl3):δ 1.78, 2.42, 7.43-7.56。
【0066】
実施例4
2−メチル−2−プロパニル{4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}カルバメート
実施例3で製造した化合物(30g)、tert−ブチルカルバメート(17g)、酢酸パラジウム(II)(2.5g)、4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)−9,9−ジメチルキサンテン(9.7g)、炭酸セシウム(55g)、1,4−ジオキサン(225mL)の混合物をアルゴン雰囲気下、100℃で1.5時間撹拌した。反応混合物を室温まで冷却した後、水(250mL)と酢酸エチル(250mL)を加えてセライト(商品名)で濾過した。濾液に水(250mL)を加えて二層を分離した後、水層を酢酸エチルで抽出した。有機層を合わせて、塩化アンモニウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=90:10→20:80)で精製することにより、以下の物性値を有する標題化合物を得た(31g)。
TLC:Rf 0.31(ヘキサン:酢酸エチル=4:1);
1H−NMR(CDCl3):δ 1.52, 1.77, 2.56, 6.57, 7.37-7.40, 7.48-7.51。
【0067】
実施例5
(2S)−2−(4−アミノフェニル)−1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノール
実施例4で製造した化合物(31g)のジクロロメタン(200mL)溶液にトリフルオロ酢酸(102mL)を加えて室温で2時間撹拌した。反応混合物にトルエンを加え減圧濃縮した。得られた残渣に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(300mL)を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を塩化アンモニウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をtert−ブチルメチルエーテル−ヘキサン(1:1、60mL)に60℃で溶解させ、5℃まで冷却し、析出した固体を濾別した。濾液を濃縮することにより、以下の物性値を有する標題化合物を得た(15g)。
TLC:Rf 0.37(ヘキサン:酢酸エチル=3:2);
1H−NMR(CDCl3):δ 1.74, 2.38, 3.77, 6.67-6.70, 7.33-7.36。
【0068】
実施例6
(2S)−2−(4−アミノフェニル)−1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノール塩酸塩
実施例5で製造した化合物(13g)のtert−ブチルメチルエーテル(127mL)溶液を氷水浴で冷却した後、4N塩化水素/1,4−ジオキサン溶液(19mL)を加えて撹拌した。生じた析出物を濾取し、tert−ブチルメチルエーテルで洗浄した。得られた固体にアセトニトリル(200mL)を加え、80℃で撹拌し、溶解後、室温まで冷却し終夜撹拌した。析出した結晶を濾取し、アセトニトリルで順次洗浄した後、乾燥することにより、以下の物性値を有する標題化合物(12.7g)を得た。
TLC:Rf 0.34(ヘキサン:酢酸エチル=3:2);
1H−NMR(DMSO−d6):δ1.64, 3.57, 6.61, 7.19-7.22, 7.58-7.61。
【0069】
実施例7
4−{(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−[(トリメチルシリル)オキシ]−2−プロパニル}アニリン
実施例6で製造した化合物(12.7g)をメタノール(10mL)と酢酸エチル(70mL)に溶解し、撹拌しながら飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(150mL)を数回に分けて加えた後、反応混合物を酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣にテトラヒドロフラン(210mL)溶液を加え、氷水浴で冷却した後、イミダゾール(20g)とクロロトリメチルシラン(33.4mL)を加え、室温で15時間撹拌した。反応混合物を水(400mL)中に注ぎ、酢酸エチルで抽出した。有機層を水と飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮することにより、以下の物性値を有する標題化合物を得た(14.4g)。
TLC:Rf 0.52(ヘキサン:酢酸エチル=2:1);
1H−NMR(CDCl3):δ 0.12, 1.77, 3.69, 6.64-6.67, 7.29-7.32。
【0070】
実施例8
2,6−ジクロロ−4−{(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−[(トリメチルシリル)オキシ]−2−プロパニル}アニリン
実施例7で製造した化合物(14.4g)のN,N−ジメチルホルムアミド(144mL)溶液にN−クロロスクシンイミド(13.8g)を加えて室温で15時間撹拌した後、40℃でさらに5時間撹拌した。反応混合物を水(500mL)中に注ぎ、ヘキサン−酢酸エチル(1:2、150mL×3回)で抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=90:10→50:50)で精製することにより、以下の物性値を有する標題化合物を得た(17.4g)。
TLC:Rf 0.56(ヘキサン:酢酸エチル=4:1);
1H−NMR(CDCl3):δ 0.15, 1.75, 4.51, 7.33。
【0071】
実施例9
1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアのM晶
【化3】
実施例8で製造した化合物(250mg)のテトラヒドロフラン(3.6mL)溶液にN,N−ジイソプロピルエチルアミン(137μL)とトリホスゲン(235mg)を加えた。反応混合物を室温で30分間撹拌した後、減圧濃縮した。得られた残渣をテトラヒドロフラン(3.6mL)に溶解し、(5−クロロピリジン−2−イル)メタンアミン塩酸塩(186mg)(CAS登録番号:871826−13−0)とトリエチルアミン(241μL)を加え、室温で1時間撹拌した。反応混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を水、飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣にメタノール(3.6mL)とトリフルオロ酢酸(1mL)を加え、室温で5時間撹拌した。反応混合物を減圧濃縮後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて、酢酸エチルで抽出した。有機層を水、飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=60:40→10:90)によって精製することにより、以下の物性値を有する標題化合物(243mg)を得た。本発明の実施例は、特許出願2の実施例25(5)と同じ製法で製造している。
TLC:Rf 0.22(ヘキサン:酢酸エチル=1:1);
1H−NMR(DMSO−d6):δ 1.69, 4.36, 6.93, 7.06, 7.38, 7.64, 7.94, 8.37, 8.55。
【0072】
下記の条件で測定した該結晶の粉末X線回析スペクトルチャートを図1に、DSCチャートを図2にそれぞれ示す。
(1)粉末X線回折スペクトル
装置:リガク製 SmartLab
ターゲット:Cu
電圧:45kV
電流:200mA
走査速度:5度/min
【0073】
Cu−Kα線を使用した粉末X線回折スペクトル法で得られた回折角(2θ)(度)および相対強度(%)の結果を表1に示す。
【表1】
【0074】
(2)示差走査熱量測定(DSC)
装置:メトラー・トレド製 DSC822e 示差走査熱量分析装置
試料量:1.18mg
試料セル:アルミニウムスタンダード40μL
窒素ガス流量:40mL/min
昇温速度:10℃/min(25〜200℃)
【0075】
DSCチャートにおいて、2つの吸熱ピークと1つの発熱ピークが観察された。第1吸熱ピークがM晶の融解によるものである。
第1吸熱ピーク:オンセット温度89.8℃、ピーク温度100.0℃
第2吸熱ピーク:オンセット温度157.5℃、ピーク温度163.8℃
発熱ピーク:オンセット温度114.2℃、ピーク温度121.5℃
【0076】
実施例10
1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアのA晶
実施例9で製造した化合物(10mg)にエタノール50μLを加えて、40〜60℃で溶解させた。この溶液を室温で一晩撹拌して得られた固体をろ取、乾燥することにより、以下の物性値を有する結晶性の白色固体(A晶)を得た。
【0077】
下記の条件で測定した該結晶の粉末X線回析スペクトルチャートを図3に、DSCチャートを図4にそれぞれ示す。
【0078】
(1)粉末X線回折スペクトル
装置:リガク製 SmartLab
ターゲット:Cu
電圧:45kV
電流:200mA
走査速度:5度/min
Cu−Kα線を使用した粉末X線回折スペクトル法で得られた回折角(2θ)(度)および相対強度(%)の結果を表2に示す。
【表2】
【0079】
(2)示差走査熱量測定(DSC)
装置:メトラー・トレド製 DSC822e 示差走査熱量分析装置
試料量:1.8mg
試料セル:アルミニウムスタンダード40μL
窒素ガス流量:40mL/min
昇温速度:10℃/min(25〜180℃)
【0080】
DSCチャートにおいて、A晶の融解による吸熱ピーク(オンセット温度166.0℃、ピーク温度167.3℃)が観察された。
【0081】
実施例11
1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアのW晶
実施例9で製造した化合物(10mg)にメタノール30〜40μLを加えて、40〜60℃で溶解させた。この溶液を室温で一晩撹拌して得られた固体をろ取、乾燥することにより、以下の物性値を有する結晶性の白色固体(W晶)を得た。
【0082】
下記の条件で測定した該結晶の粉末X線回析スペクトルチャートを図5に、DSCチャートを図6にそれぞれ示す。
【0083】
(1)粉末X線回折スペクトル
装置:リガク製 SmartLab
ターゲット:Cu
電圧:45kV
電流:200mA
走査速度:20度/min
【0084】
Cu−Kα線を使用した粉末X線回折スペクトル法で得られた回折角(2θ)(度)および相対強度(%)の結果を表3に示す。
【表3】
【0085】
(2)示差走査熱量測定(DSC)
装置:メトラー・トレド製 DSC822e 示差走査熱量分析装置
試料量:0.71mg
試料セル:アルミニウムスタンダード40μL
窒素ガス流量:40mL/min
昇温速度:10℃/min(25〜180℃)
【0086】
DSCチャートにおいて、2つの吸熱ピークと1つの発熱ピークが観察された。第1吸熱ピークがW晶の融解によるものである。
第1吸熱ピーク:オンセット温度88.6℃、ピーク温度94.3℃
第2吸熱ピーク:オンセット温度165.1℃、ピーク温度167.0℃
発熱ピーク:オンセット温度113.0℃、ピーク温度119.0℃
【0087】
実施例12
1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアの水和物の結晶(H晶)
実施例10で製造した化合物(20mg)に水400μLを加えて、25〜40℃で15日〜一か月撹拌して得られた固体をろ取することにより、以下の物性値を有する結晶性の白色固体(H晶)を得た。
【0088】
下記の条件で測定した該結晶の粉末X線回析スペクトルチャートを図7に、DSCチャートを図8にそれぞれ示す。
【0089】
(1)粉末X線回折スペクトル
装置:リガク製 SmartLab
ターゲット:Cu
電圧:45kV
電流:200mA
走査速度:5度/min
【0090】
Cu−Kα線を使用した粉末X線回折スペクトル法で得られた回折角(2θ)(度)および相対強度(%)の結果を表4に示す。
【表4】
【0091】
(2)示差走査熱量測定(DSC)
装置:メトラー・トレド製 DSC822e 示差走査熱量分析装置
試料量:0.68mg
試料セル:アルミニウムスタンダード40μL
窒素ガス流量:40mL/min
昇温速度:10℃/min(25〜180℃)
【0092】
DSCチャートにおいて、2つの吸熱ピークが観察された。第1吸熱ピークは水和物(H晶)の脱水によるものである。
第1吸熱ピーク:オンセット温度31.7℃、ピーク温度48.2℃
第2吸熱ピーク:オンセット温度165.3℃、ピーク温度166.8℃
【0093】
続いて、H晶の水蒸気吸着/脱着等温線およびX線回折−示差走査熱量同時測定(XRD−DSC同時測定)の結果を図9および図10に示す。
【0094】
(3)水蒸気吸着/脱着等温線測定
装置:SMS製 DVS Intrinsic
試料量:5.5mg
温度:25℃
相対湿度の変化:0%〜95%(5%STEP)
STEP移行時の基準:重量変化率0.002%/min
【0095】
25℃で、段階的(相対湿度0%RH〜95%RH)に湿度を変化させた時の重量変化を経時的に記録し、各湿度での平衡重量を求めた。次に、乾燥時(0%RH)を基準とし、各湿度での重量の変化率及び水和数を求めた。
【0096】
その結果を図9に示す。相対湿度を段階的に増加させた際、30%付近から重量変化が認められ、相対湿度50%RHで平衡に達し、相対湿度50%RH以上における重量変化率は一定の4%であった。続けて、相対湿度を段階的に減少させた場合、15%付近まで重量変化率は一定の4%であった。1水和物の理論上の水含量は4%であることから、本試験の結果は、H晶が1水和物である可能性を示している。
【0097】
(4)粉末X線回折−示差走査熱量同時測定(PXRD−DSC同時測定)
装置:リガク製 SmartLab
ターゲット:Cu
電圧:45kV
電流:200mA
走査速度:20°/min
昇温速度:2℃/min(室温〜150℃)
【0098】
40〜50℃付近で、結晶構造変化に伴う、脱水に伴う吸熱ピーク、およびX線回折スペクトルチャートにおけるパターンの変化が認められた。
【0099】
比較例1
1−[4−(1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル)フェニル]−3−{[5−(トリフルオロメチル)−2−ピリジニル]メチル}ウレア
【化4】
特許出願2の比較例1と同様の操作を行って、以下の物性値を有する標題化合物を得た。
TLC:Rf 0.25(ヘキサン:酢酸エチル=1:1);
1H−NMR(DMSO−d6):δ 1.63, 4.49, 6.42, 6.86, 7.41, 7.57, 8.18, 8.90。
【0100】
比較例2
N−(2−ブロモ−4,6−ジクロロフェニル)−2−(4−フルオロフェニル)アセタミド(特許文献1 実施例1g)
【化5】
特許出願2の比較例2と同様の操作を行って、以下の物性値を有する標題化合物(1.28g)を得た。
TLC:Rf 0.43(ヘキサン:酢酸エチル=1:1);
1H−NMR(CD3OD):δ 3.72, 7.02-7.08, 7.38-7.43, 7.58, 7.69。
【0101】
化合物Iの効果は以下の実験によって証明することができるが、これに限定されるものではない。
【0102】
(1)生物学的実施例1:脱分極刺激によるKCNQ2/3チャネルに対する開口作用
ヒトKCNQ2/3の発現細胞(CHO−DHFR−細胞)を384穴プレート(コラーゲンコート、黒、クリアボトム)1穴あたり0.5×104個/50μLずつ播種し、MEM ALPHA培地(10vol%非働化(56℃、30min)済みFetal Bovine Serum及び100IU/mL Penicillin−100μg/mL Streptomycin−2mM L−Glutamine含有)を用いて、37℃にて5%CO2下で18〜24時間培養した。プレート内の培地を除去した後、ローディングバッファー(FluxOR Thallium Detection Kit(invitrogen、F10016、F10017)のマニュアルに記載された方法で調製)中でインキュベーション(室温、60分、遮光)した。FLIPR TETRA(Molecular Devices)で脱分極刺激(5mMカリウム及び0.5mMタリウム)によるKCNQ2/3チャネル開口作用(細胞内タリウム流入)を測定した。化合物Iは脱分極刺激5分前に処置し、脱分極刺激で誘発される反応を180秒間経時的に測定した。化合物Iのチャネル開口作用は、脱分極刺激前から180秒後までの蛍光強度変化量で評価し、本実験条件下におけるレチガビンの最大反応(10μM処置時)の蛍光強度変化の50%を満たす濃度(ECrtg50)を算出した。
【0103】
その結果、化合物IのKCNQ2/3チャネルに対する開口作用(ECrtg50値)は、0.6μMであった。一方、比較例1のECrtg50値は>10μM、比較例2のECrtg50値は0.2μMであった。
【0104】
また、上記方法においてヒトKCNQ2/3の発現細胞の代わりに、ヒトKCNQ4またはヒトKCNQ5の発現細胞を使用し、当業者の通常の知識に基づいて上記条件を適宜変更することで、ヒトKCNQ4チャネルまたはヒトKCNQ5チャネルに対する開口作用を測定することができる。
【0105】
(2)生物学的実施例2:ラット摘出膀胱に対する弛緩作用
ペントバルビタール(ソムノペンチル、シェーリング・プラウ アニマルヘルス社)を雌性Jcl:Wistarラット(日本クレア、使用時体重:170〜200g)に約40mg/kgを腹腔内投与することで麻酔を施し、放血致死させた。腹部を切開して膀胱を摘出し、直ちに混合ガス(95%O2,5%CO2)で飽和させた氷冷Krebs buffer(炭酸水素ナトリウム(終濃度:15mM)及び塩化カルシウム(終濃度:2.5mM)を添加したKrebs Ringer bicarbonate buffer(Sigma−Aldlich Co.))に浸した。
【0106】
ラット摘出膀胱の体部を縦長の短冊状(約10×3mm)となるよう氷上にて標本を作製した。直ちに混合ガスで通気したKrebs buffer(37℃)で満たしたマグヌス管中に500mgの張力負荷をかけ、懸垂した。なお、標本は組織摘出後24時間以内に作製した。
【0107】
標本の張力変化は、等尺性トランスデューサー(UFER UM−203,いわしや岸本医科産業株式会社)及びアンプ(UFER AP−5,いわしや岸本医科産業株式会社)を装備したマグヌス装置システムを介して、データ収集システム(NR−1000,キーエンス株式会社)に記録し、レコーダ解析ソフトWAVE THERMO 1000(キーエンス株式会社)にてコンピュータ上に表示させた。標本を懸垂して1時間以上経過した後、2.5M KClを終濃度100mMとなるよう添加し、収縮反応が確認できた標本を使用した。
【0108】
1μMの濃度でカルバコール(収縮惹起物質)収縮を惹起させた。収縮の程度が群間で差がないように、また同一個体から採取する標本が同一群とならないように任意に各群に割り付けた。収縮反応が安定した後に生理食塩液あるいは化合物Iを終濃度1,10,100nM,1及び10μMとなるよう低濃度から累積的に添加した。
【0109】
摘出膀胱における張力(mg)を評価項目とした。張力は解析ソフトWAVE THERMO 1000を用いて読み取った。収縮惹起物質添加後の張力を0%としたときの化合物I添加後の張力の変化率を張力変化率(%)とし、評価指標とした。張力変化率(%)は以下の式より算出する。
【0110】
張力変化率(%)={化合物I等添加後の張力(mg)−収縮惹起物質添加前の張力(mg)}/{収縮惹起物質添加後の張力(mg)−収縮惹起物質添加前の張力(mg)}×100−100
【0111】
張力変化率(%)が−20%となる値をIC20として算出し、摘出膀胱弛緩作用の指標とした。
【0112】
その結果、化合物Iのラットマグヌス試験におけるIC20値は0.5μMであった。化合物Iはラット摘出膀胱に対し弛緩作用を有するため、化合物Iは過活動膀胱治療剤として有用である。
【0113】
(3)溶解性試験
検量線溶液は、被験物質(10mM DMSO溶液)をアセトニトリルで希釈し、内標準物質(カンデサルタン)を含むアセトニトリルを添加して0.1、0.4及び2μMに調製した。
【0114】
試料溶液は、日本薬局方溶出試験第2液(pH=6.8)495μLに化合物I(10mM DMSO溶液)5μLを添加し、室温で5時間攪拌した後、溶液を溶解度用フィルタープレートに移し吸引ろ過してろ液20μLをアセトニトリルで希釈し、内標準物質(カンデサルタン)を含むアセトニトリルを添加して調製した。
【0115】
検量線および試料溶液5μLをLC−MS/MS(Thermo Scientific社製 Discovery Max)に注入し定量した(定量範囲5〜100μM)。定量範囲以下の値が得られた場合の溶解度は<5μM、定量範囲以上の値が得られた場合の溶解度は100μMとした。
【0116】
その結果、化合物Iは、優れた溶解性(98μM)を示した。それに対し、比較例2(特許文献1 実施例1g)の溶解度は検出限界以下(<5μM)であり、比較例2の溶解性は低かった。
【0117】
(4)ヒト肝ミクロソーム中での安定性評価
被験化合物(10mmol/L DMSO溶液、5μL)を50%アセトニトリル水溶液(195μL)で希釈し、0.25mmol/L溶液を作製した。
【0118】
あらかじめ37℃に温めた反応用容器に0.5mg/mLヒト肝ミクロソーム(Xenotech社)およびNADPH−Co−factor(BD Biosciences社)を含む0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)245μLを添加して5分間プレインキュベーション後、先の被験化合物溶液(5μL)を加えて反応を開始した(最終濃度5μmol/L)。開始直後に20μLを採取し、内部標準物質(ワルファリン)を含むアセトニトリル180μLに添加して反応を停止した。この溶液20μLを除タンパク用フィルター付プレート上で50%アセトニトリル水溶液180μLと攪拌後、吸引ろ過してろ液を標準サンプルとした。
【0119】
先の反応溶液を37℃にて15分間インキュベーション後、20μLを冷アセトニトリル(内部標準物質ワルファリンを含む)180μLに添加し、反応を停止した。この20μLを除タンパク用フィルター付プレート上で50%アセトニトリル水溶液180μLと攪拌後、吸引ろ過してろ液を反応サンプルとした。
【0120】
残存率(%)は、試料溶液1μLをLC−MS/MS(Thermo Scientific社製 Discovery Max)に注入し、反応サンプルのピーク面積比(被験化合物のピーク面積/内部標準物質のピーク面積)を標準サンプルのピーク面積比で除した値を100倍して算出した。
【0121】
その結果、化合物Iは、ヒト肝ミクロソームに対して高い安定性(87%)を有しており、代謝安定性に優れていることが分かった。
【0122】
(5)hERG IKr電流に対する作用の評価
ヒト ether−a−go−go−related gene(hERG)を過剰発現したHEK293細胞を用いて、脱分極パルスに続く再分極パルスによって誘導されるhERG IKr電流の最大テール電流をパッチクランプ法で測定し、被験物質適用前の最大テール電流に対する被験物質適用10分後の変化率(抑制率)を算出した(バイオフィジカル・ジャーナル、74巻、230−241頁(1998年)参照)。その結果、化合物Iは、hERGチャネルの50%阻害活性が>10μMであり、薬物によるQT延長を誘発する可能性が低い、安全性に優れた化合物であることが分かった。
【0123】
(6)化学的安定性試験
各種保管条件下で本発明の結晶形の安定性について検討を行った。保存後、HPLCで−20℃保存サンプルの面積百分率に対する各条件下保存サンプルの残存率(%)を算出した。また粉末X線回折スペクトルを用いてピークをサンプルと比較した。外観を目視で観察し、サンプルと比較した。
【0124】
<保存条件およびサンプリングタイム>
5℃:3か月
60℃:1か月
25℃−60%RH(開封):3か月
40℃−75%RH(開封):3か月
2500Lux:20D(遮光、透明)
【0125】
<A晶>
いずれの条件においても、残存率は99.9%〜100.1%であった。また、粉末X線回折スペクトルを用いた検討において、ピーク数の増加は認められず、目視による外観変化も認められなかった。したがって、A晶は化学的安定性に優れた結晶形であることが分かった。
【0126】
[製剤例]
本発明に用いられる代表的な製剤例を以下に示す。
製剤例1
以下の各成分を常法により混合した後打錠して、一錠中に10mgの活性成分を含有する錠剤1万錠を得る。
・1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアのA晶(100g);
・カルボキシメチルセルロースカルシウム(崩壊剤)(20g);
・ステアリン酸マグネシウム(潤滑剤)(10g);
・微結晶セルロース(870g)。
【0127】
製剤例2
以下の各成分を常法により混合した後、除塵フィルターでろ過し、5mLずつアンプルに充填し、オートクレーブで加熱滅菌して、1アンプル中20mgの活性成分を含有するアンプル1万本を得る。
・1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアのA晶(200g);
・マンニトール(2kg);
・蒸留水(50L)。
【産業上の利用可能性】
【0128】
化合物Iの毒性は十分に低く、医薬品として安全に使用することができ、KCNQ2〜5チャネル関連疾患の治療剤として有用である。また本発明の結晶形は、医薬品の原薬として有用である。
【要約】
結晶性化合物には、結晶多形が存在する場合がある。結晶多形が存在する場合、結晶形によって、溶解度、溶解速度、または熱、光、湿度等に対する安定性等が異なる。したがって、医薬品の製造において、その適応疾患や剤形に最も適した原薬の結晶形を選択することは、非常に重要な課題である。本発明は、KCNQ2〜5チャネルに対し強い開口作用を有する化合物Iの新規結晶形(A晶、W晶および水和物結晶(H晶))に関する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10