【実施例】
【0057】
以下、実施例によって本発明を詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0058】
クロマトグラフィーによる分離の箇所およびTLCに示されているカッコ内の溶媒は、使用した溶出溶媒または展開溶媒を示し、割合は体積比を表す。
【0059】
本発明において、シリカゲルカラムクロマトグラフィーには、富士シリシア化学社製クロマトレックス(登録商標)、山善ハイフラッシュカラム(商品名)等を使用し、精製装置としては、例えば、山善社製中圧分取クロマトグラフW−prep 2XY(商品名)を使用した。
【0060】
NMRデータは特に記載しない限り、
1H−NMRのデータである。
【0061】
NMRの箇所に示されているカッコ内は測定に使用した溶媒を示す。
【0062】
本明細書中に用いた化合物名は、一般的にIUPACの規則に準じて命名を行なうコンピュータプログラム、Advanced Chemistry Development社のACD/Name(登録商標)を用いるか、または、IUPAC命名法に準じて命名したものである。
【0063】
実施例1
2−(4−ブロモフェニル)−1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノール
アルゴン雰囲気下、減圧下で加熱乾燥した塩化セリウム(51g)をテトラヒドロフラン(316mL)に懸濁させ、室温で1時間撹拌した後、−70℃に冷却した。メチルリチウム(3.0Mジエチルエーテル溶液、185mL)を滴下し、−70℃で30分撹拌した後、1−(4−ブロモフェニル)−2,2,2−トリフルオロエタノン(40g)(CAS登録番号:16184−89−7)のテトラヒドロフラン(30mL)溶液を加え、室温で1.5時間撹拌した。反応液を飽和塩化アンモニウム水溶液(500mL)と氷水(500mL)の混合液中へ注いだ後、混合物の色が薄黄色になるまで1N塩酸を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を水、飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮することにより、以下の物性値を有する標題化合物を得た(51g)。
TLC:Rf 0.59(ヘキサン:酢酸エチル=4:1);
1H−NMR(CDCl
3):δ 1.77, 2.42, 7.44-7.47, 7.52-7.55。
【0064】
実施例2
(2S)−2−(4−ブロモフェニル)−1,1,1−トリフルオロ−2−プロパニル[(1S)−1−(1−ナフチル)エチル]カルバメート
実施例1で製造した化合物(43g)のジクロロメタン(237mL)溶液に氷冷下でジメチルアミノピリジン(23.2g)と4−ニトロフェニルクロロホルメート(35.1g)を加えた後、室温で1時間撹拌した。反応溶液を再び氷冷し、(1S)−1−(1−ナフチル)エチルアミン(33.2mL)(CAS登録番号:10420−89−0)を加えた後、室温で1時間撹拌した。反応混合物にtert−ブチルメチルエーテル(500mL)を加え、析出物を濾過濾別し、ヘキサン/酢酸エチル(1/1)で洗浄した。濾液と洗浄液を合わせ、約半量まで減圧濃縮した後、1N水酸化ナトリウム水溶液(150mL×4回)、1N塩酸(200mL)、水(150mL)、飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=90:10→80:20)で精製することにより、標題化合物のジアステレオマー混合物を得た(70g)。ジアステレオマー混合物はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:tert−ブチルメチルエーテル=80:20)で分離精製することにより、以下の物性値を有する標題化合物(33g)を得た。
TLC:Rf 0.58(ヘキサン:ジイソプロピルエーテル=2:1);
1H−NMR(CDCl
3):δ 1.69, 2.17, 5.25, 5.49-5.58, 7.22-7.25, 7.43-7.58, 7.80-7.95。
【0065】
実施例3
(2S)−2−(4−ブロモフェニル)−1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノール
実施例2で製造した化合物(50g)の1,4−ジオキサン(540mL)溶液に水酸化リチウム1水和物(45g)の水(270mL)溶液を加え、55℃で1時間撹拌した。反応混合物を10℃に冷却した後、2N塩酸(540mL)を加えてpH=3とし、酢酸エチルで抽出した。有機層を炭酸水素ナトリウム水溶液、水、塩化アンモニウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=90:10→80:20)で精製することにより、以下の物性値を有する標題化合物を得た(27g)。
TLC:Rf 0.59(ヘキサン:酢酸エチル=4:1);
1H−NMR(CDCl
3):δ 1.78, 2.42, 7.43-7.56。
【0066】
実施例4
2−メチル−2−プロパニル{4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}カルバメート
実施例3で製造した化合物(30g)、tert−ブチルカルバメート(17g)、酢酸パラジウム(II)(2.5g)、4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)−9,9−ジメチルキサンテン(9.7g)、炭酸セシウム(55g)、1,4−ジオキサン(225mL)の混合物をアルゴン雰囲気下、100℃で1.5時間撹拌した。反応混合物を室温まで冷却した後、水(250mL)と酢酸エチル(250mL)を加えてセライト(商品名)で濾過した。濾液に水(250mL)を加えて二層を分離した後、水層を酢酸エチルで抽出した。有機層を合わせて、塩化アンモニウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=90:10→20:80)で精製することにより、以下の物性値を有する標題化合物を得た(31g)。
TLC:Rf 0.31(ヘキサン:酢酸エチル=4:1);
1H−NMR(CDCl
3):δ 1.52, 1.77, 2.56, 6.57, 7.37-7.40, 7.48-7.51。
【0067】
実施例5
(2S)−2−(4−アミノフェニル)−1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノール
実施例4で製造した化合物(31g)のジクロロメタン(200mL)溶液にトリフルオロ酢酸(102mL)を加えて室温で2時間撹拌した。反応混合物にトルエンを加え減圧濃縮した。得られた残渣に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(300mL)を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を塩化アンモニウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をtert−ブチルメチルエーテル−ヘキサン(1:1、60mL)に60℃で溶解させ、5℃まで冷却し、析出した固体を濾別した。濾液を濃縮することにより、以下の物性値を有する標題化合物を得た(15g)。
TLC:Rf 0.37(ヘキサン:酢酸エチル=3:2);
1H−NMR(CDCl
3):δ 1.74, 2.38, 3.77, 6.67-6.70, 7.33-7.36。
【0068】
実施例6
(2S)−2−(4−アミノフェニル)−1,1,1−トリフルオロ−2−プロパノール塩酸塩
実施例5で製造した化合物(13g)のtert−ブチルメチルエーテル(127mL)溶液を氷水浴で冷却した後、4N塩化水素/1,4−ジオキサン溶液(19mL)を加えて撹拌した。生じた析出物を濾取し、tert−ブチルメチルエーテルで洗浄した。得られた固体にアセトニトリル(200mL)を加え、80℃で撹拌し、溶解後、室温まで冷却し終夜撹拌した。析出した結晶を濾取し、アセトニトリルで順次洗浄した後、乾燥することにより、以下の物性値を有する標題化合物(12.7g)を得た。
TLC:Rf 0.34(ヘキサン:酢酸エチル=3:2);
1H−NMR(DMSO−d
6):δ1.64, 3.57, 6.61, 7.19-7.22, 7.58-7.61。
【0069】
実施例7
4−{(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−[(トリメチルシリル)オキシ]−2−プロパニル}アニリン
実施例6で製造した化合物(12.7g)をメタノール(10mL)と酢酸エチル(70mL)に溶解し、撹拌しながら飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(150mL)を数回に分けて加えた後、反応混合物を酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣にテトラヒドロフラン(210mL)溶液を加え、氷水浴で冷却した後、イミダゾール(20g)とクロロトリメチルシラン(33.4mL)を加え、室温で15時間撹拌した。反応混合物を水(400mL)中に注ぎ、酢酸エチルで抽出した。有機層を水と飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮することにより、以下の物性値を有する標題化合物を得た(14.4g)。
TLC:Rf 0.52(ヘキサン:酢酸エチル=2:1);
1H−NMR(CDCl
3):δ 0.12, 1.77, 3.69, 6.64-6.67, 7.29-7.32。
【0070】
実施例8
2,6−ジクロロ−4−{(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−[(トリメチルシリル)オキシ]−2−プロパニル}アニリン
実施例7で製造した化合物(14.4g)のN,N−ジメチルホルムアミド(144mL)溶液にN−クロロスクシンイミド(13.8g)を加えて室温で15時間撹拌した後、40℃でさらに5時間撹拌した。反応混合物を水(500mL)中に注ぎ、ヘキサン−酢酸エチル(1:2、150mL×3回)で抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=90:10→50:50)で精製することにより、以下の物性値を有する標題化合物を得た(17.4g)。
TLC:Rf 0.56(ヘキサン:酢酸エチル=4:1);
1H−NMR(CDCl
3):δ 0.15, 1.75, 4.51, 7.33。
【0071】
実施例9
1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアのM晶
【化3】
実施例8で製造した化合物(250mg)のテトラヒドロフラン(3.6mL)溶液にN,N−ジイソプロピルエチルアミン(137μL)とトリホスゲン(235mg)を加えた。反応混合物を室温で30分間撹拌した後、減圧濃縮した。得られた残渣をテトラヒドロフラン(3.6mL)に溶解し、(5−クロロピリジン−2−イル)メタンアミン塩酸塩(186mg)(CAS登録番号:871826−13−0)とトリエチルアミン(241μL)を加え、室温で1時間撹拌した。反応混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を水、飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣にメタノール(3.6mL)とトリフルオロ酢酸(1mL)を加え、室温で5時間撹拌した。反応混合物を減圧濃縮後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて、酢酸エチルで抽出した。有機層を水、飽和食塩水で順次洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=60:40→10:90)によって精製することにより、以下の物性値を有する標題化合物(243mg)を得た。本発明の実施例は、特許出願2の実施例25(5)と同じ製法で製造している。
TLC:Rf 0.22(ヘキサン:酢酸エチル=1:1);
1H−NMR(DMSO−d
6):δ 1.69, 4.36, 6.93, 7.06, 7.38, 7.64, 7.94, 8.37, 8.55。
【0072】
下記の条件で測定した該結晶の粉末X線回析スペクトルチャートを
図1に、DSCチャートを
図2にそれぞれ示す。
(1)粉末X線回折スペクトル
装置:リガク製 SmartLab
ターゲット:Cu
電圧:45kV
電流:200mA
走査速度:5度/min
【0073】
Cu−Kα線を使用した粉末X線回折スペクトル法で得られた回折角(2θ)(度)および相対強度(%)の結果を表1に示す。
【表1】
【0074】
(2)示差走査熱量測定(DSC)
装置:メトラー・トレド製 DSC822e 示差走査熱量分析装置
試料量:1.18mg
試料セル:アルミニウムスタンダード40μL
窒素ガス流量:40mL/min
昇温速度:10℃/min(25〜200℃)
【0075】
DSCチャートにおいて、2つの吸熱ピークと1つの発熱ピークが観察された。第1吸熱ピークがM晶の融解によるものである。
第1吸熱ピーク:オンセット温度89.8℃、ピーク温度100.0℃
第2吸熱ピーク:オンセット温度157.5℃、ピーク温度163.8℃
発熱ピーク:オンセット温度114.2℃、ピーク温度121.5℃
【0076】
実施例10
1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアのA晶
実施例9で製造した化合物(10mg)にエタノール50μLを加えて、40〜60℃で溶解させた。この溶液を室温で一晩撹拌して得られた固体をろ取、乾燥することにより、以下の物性値を有する結晶性の白色固体(A晶)を得た。
【0077】
下記の条件で測定した該結晶の粉末X線回析スペクトルチャートを
図3に、DSCチャートを
図4にそれぞれ示す。
【0078】
(1)粉末X線回折スペクトル
装置:リガク製 SmartLab
ターゲット:Cu
電圧:45kV
電流:200mA
走査速度:5度/min
Cu−Kα線を使用した粉末X線回折スペクトル法で得られた回折角(2θ)(度)および相対強度(%)の結果を表2に示す。
【表2】
【0079】
(2)示差走査熱量測定(DSC)
装置:メトラー・トレド製 DSC822e 示差走査熱量分析装置
試料量:1.8mg
試料セル:アルミニウムスタンダード40μL
窒素ガス流量:40mL/min
昇温速度:10℃/min(25〜180℃)
【0080】
DSCチャートにおいて、A晶の融解による吸熱ピーク(オンセット温度166.0℃、ピーク温度167.3℃)が観察された。
【0081】
実施例11
1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアのW晶
実施例9で製造した化合物(10mg)にメタノール30〜40μLを加えて、40〜60℃で溶解させた。この溶液を室温で一晩撹拌して得られた固体をろ取、乾燥することにより、以下の物性値を有する結晶性の白色固体(W晶)を得た。
【0082】
下記の条件で測定した該結晶の粉末X線回析スペクトルチャートを
図5に、DSCチャートを
図6にそれぞれ示す。
【0083】
(1)粉末X線回折スペクトル
装置:リガク製 SmartLab
ターゲット:Cu
電圧:45kV
電流:200mA
走査速度:20度/min
【0084】
Cu−Kα線を使用した粉末X線回折スペクトル法で得られた回折角(2θ)(度)および相対強度(%)の結果を表3に示す。
【表3】
【0085】
(2)示差走査熱量測定(DSC)
装置:メトラー・トレド製 DSC822e 示差走査熱量分析装置
試料量:0.71mg
試料セル:アルミニウムスタンダード40μL
窒素ガス流量:40mL/min
昇温速度:10℃/min(25〜180℃)
【0086】
DSCチャートにおいて、2つの吸熱ピークと1つの発熱ピークが観察された。第1吸熱ピークがW晶の融解によるものである。
第1吸熱ピーク:オンセット温度88.6℃、ピーク温度94.3℃
第2吸熱ピーク:オンセット温度165.1℃、ピーク温度167.0℃
発熱ピーク:オンセット温度113.0℃、ピーク温度119.0℃
【0087】
実施例12
1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアの水和物の結晶(H晶)
実施例10で製造した化合物(20mg)に水400μLを加えて、25〜40℃で15日〜一か月撹拌して得られた固体をろ取することにより、以下の物性値を有する結晶性の白色固体(H晶)を得た。
【0088】
下記の条件で測定した該結晶の粉末X線回析スペクトルチャートを
図7に、DSCチャートを
図8にそれぞれ示す。
【0089】
(1)粉末X線回折スペクトル
装置:リガク製 SmartLab
ターゲット:Cu
電圧:45kV
電流:200mA
走査速度:5度/min
【0090】
Cu−Kα線を使用した粉末X線回折スペクトル法で得られた回折角(2θ)(度)および相対強度(%)の結果を表4に示す。
【表4】
【0091】
(2)示差走査熱量測定(DSC)
装置:メトラー・トレド製 DSC822e 示差走査熱量分析装置
試料量:0.68mg
試料セル:アルミニウムスタンダード40μL
窒素ガス流量:40mL/min
昇温速度:10℃/min(25〜180℃)
【0092】
DSCチャートにおいて、2つの吸熱ピークが観察された。第1吸熱ピークは水和物(H晶)の脱水によるものである。
第1吸熱ピーク:オンセット温度31.7℃、ピーク温度48.2℃
第2吸熱ピーク:オンセット温度165.3℃、ピーク温度166.8℃
【0093】
続いて、H晶の水蒸気吸着/脱着等温線およびX線回折−示差走査熱量同時測定(XRD−DSC同時測定)の結果を
図9および
図10に示す。
【0094】
(3)水蒸気吸着/脱着等温線測定
装置:SMS製 DVS Intrinsic
試料量:5.5mg
温度:25℃
相対湿度の変化:0%〜95%(5%STEP)
STEP移行時の基準:重量変化率0.002%/min
【0095】
25℃で、段階的(相対湿度0%RH〜95%RH)に湿度を変化させた時の重量変化を経時的に記録し、各湿度での平衡重量を求めた。次に、乾燥時(0%RH)を基準とし、各湿度での重量の変化率及び水和数を求めた。
【0096】
その結果を
図9に示す。相対湿度を段階的に増加させた際、30%付近から重量変化が認められ、相対湿度50%RHで平衡に達し、相対湿度50%RH以上における重量変化率は一定の4%であった。続けて、相対湿度を段階的に減少させた場合、15%付近まで重量変化率は一定の4%であった。1水和物の理論上の水含量は4%であることから、本試験の結果は、H晶が1水和物である可能性を示している。
【0097】
(4)粉末X線回折−示差走査熱量同時測定(PXRD−DSC同時測定)
装置:リガク製 SmartLab
ターゲット:Cu
電圧:45kV
電流:200mA
走査速度:20°/min
昇温速度:2℃/min(室温〜150℃)
【0098】
40〜50℃付近で、結晶構造変化に伴う、脱水に伴う吸熱ピーク、およびX線回折スペクトルチャートにおけるパターンの変化が認められた。
【0099】
比較例1
1−[4−(1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル)フェニル]−3−{[5−(トリフルオロメチル)−2−ピリジニル]メチル}ウレア
【化4】
特許出願2の比較例1と同様の操作を行って、以下の物性値を有する標題化合物を得た。
TLC:Rf 0.25(ヘキサン:酢酸エチル=1:1);
1H−NMR(DMSO−d
6):δ 1.63, 4.49, 6.42, 6.86, 7.41, 7.57, 8.18, 8.90。
【0100】
比較例2
N−(2−ブロモ−4,6−ジクロロフェニル)−2−(4−フルオロフェニル)アセタミド(特許文献1 実施例1g)
【化5】
特許出願2の比較例2と同様の操作を行って、以下の物性値を有する標題化合物(1.28g)を得た。
TLC:Rf 0.43(ヘキサン:酢酸エチル=1:1);
1H−NMR(CD
3OD):δ 3.72, 7.02-7.08, 7.38-7.43, 7.58, 7.69。
【0101】
化合物Iの効果は以下の実験によって証明することができるが、これに限定されるものではない。
【0102】
(1)生物学的実施例1:脱分極刺激によるKCNQ2/3チャネルに対する開口作用
ヒトKCNQ2/3の発現細胞(CHO−DHFR−細胞)を384穴プレート(コラーゲンコート、黒、クリアボトム)1穴あたり0.5×10
4個/50μLずつ播種し、MEM ALPHA培地(10vol%非働化(56℃、30min)済みFetal Bovine Serum及び100IU/mL Penicillin−100μg/mL Streptomycin−2mM L−Glutamine含有)を用いて、37℃にて5%CO
2下で18〜24時間培養した。プレート内の培地を除去した後、ローディングバッファー(FluxOR Thallium Detection Kit(invitrogen、F10016、F10017)のマニュアルに記載された方法で調製)中でインキュベーション(室温、60分、遮光)した。FLIPR TETRA(Molecular Devices)で脱分極刺激(5mMカリウム及び0.5mMタリウム)によるKCNQ2/3チャネル開口作用(細胞内タリウム流入)を測定した。化合物Iは脱分極刺激5分前に処置し、脱分極刺激で誘発される反応を180秒間経時的に測定した。化合物Iのチャネル開口作用は、脱分極刺激前から180秒後までの蛍光強度変化量で評価し、本実験条件下におけるレチガビンの最大反応(10μM処置時)の蛍光強度変化の50%を満たす濃度(ECrtg50)を算出した。
【0103】
その結果、化合物IのKCNQ2/3チャネルに対する開口作用(ECrtg50値)は、0.6μMであった。一方、比較例1のECrtg50値は>10μM、比較例2のECrtg50値は0.2μMであった。
【0104】
また、上記方法においてヒトKCNQ2/3の発現細胞の代わりに、ヒトKCNQ4またはヒトKCNQ5の発現細胞を使用し、当業者の通常の知識に基づいて上記条件を適宜変更することで、ヒトKCNQ4チャネルまたはヒトKCNQ5チャネルに対する開口作用を測定することができる。
【0105】
(2)生物学的実施例2:ラット摘出膀胱に対する弛緩作用
ペントバルビタール(ソムノペンチル、シェーリング・プラウ アニマルヘルス社)を雌性Jcl:Wistarラット(日本クレア、使用時体重:170〜200g)に約40mg/kgを腹腔内投与することで麻酔を施し、放血致死させた。腹部を切開して膀胱を摘出し、直ちに混合ガス(95%O
2,5%CO
2)で飽和させた氷冷Krebs buffer(炭酸水素ナトリウム(終濃度:15mM)及び塩化カルシウム(終濃度:2.5mM)を添加したKrebs Ringer bicarbonate buffer(Sigma−Aldlich Co.))に浸した。
【0106】
ラット摘出膀胱の体部を縦長の短冊状(約10×3mm)となるよう氷上にて標本を作製した。直ちに混合ガスで通気したKrebs buffer(37℃)で満たしたマグヌス管中に500mgの張力負荷をかけ、懸垂した。なお、標本は組織摘出後24時間以内に作製した。
【0107】
標本の張力変化は、等尺性トランスデューサー(UFER UM−203,いわしや岸本医科産業株式会社)及びアンプ(UFER AP−5,いわしや岸本医科産業株式会社)を装備したマグヌス装置システムを介して、データ収集システム(NR−1000,キーエンス株式会社)に記録し、レコーダ解析ソフトWAVE THERMO 1000(キーエンス株式会社)にてコンピュータ上に表示させた。標本を懸垂して1時間以上経過した後、2.5M KClを終濃度100mMとなるよう添加し、収縮反応が確認できた標本を使用した。
【0108】
1μMの濃度でカルバコール(収縮惹起物質)収縮を惹起させた。収縮の程度が群間で差がないように、また同一個体から採取する標本が同一群とならないように任意に各群に割り付けた。収縮反応が安定した後に生理食塩液あるいは化合物Iを終濃度1,10,100nM,1及び10μMとなるよう低濃度から累積的に添加した。
【0109】
摘出膀胱における張力(mg)を評価項目とした。張力は解析ソフトWAVE THERMO 1000を用いて読み取った。収縮惹起物質添加後の張力を0%としたときの化合物I添加後の張力の変化率を張力変化率(%)とし、評価指標とした。張力変化率(%)は以下の式より算出する。
【0110】
張力変化率(%)={化合物I等添加後の張力(mg)−収縮惹起物質添加前の張力(mg)}/{収縮惹起物質添加後の張力(mg)−収縮惹起物質添加前の張力(mg)}×100−100
【0111】
張力変化率(%)が−20%となる値をIC
20として算出し、摘出膀胱弛緩作用の指標とした。
【0112】
その結果、化合物Iのラットマグヌス試験におけるIC
20値は0.5μMであった。化合物Iはラット摘出膀胱に対し弛緩作用を有するため、化合物Iは過活動膀胱治療剤として有用である。
【0113】
(3)溶解性試験
検量線溶液は、被験物質(10mM DMSO溶液)をアセトニトリルで希釈し、内標準物質(カンデサルタン)を含むアセトニトリルを添加して0.1、0.4及び2μMに調製した。
【0114】
試料溶液は、日本薬局方溶出試験第2液(pH=6.8)495μLに化合物I(10mM DMSO溶液)5μLを添加し、室温で5時間攪拌した後、溶液を溶解度用フィルタープレートに移し吸引ろ過してろ液20μLをアセトニトリルで希釈し、内標準物質(カンデサルタン)を含むアセトニトリルを添加して調製した。
【0115】
検量線および試料溶液5μLをLC−MS/MS(Thermo Scientific社製 Discovery Max)に注入し定量した(定量範囲5〜100μM)。定量範囲以下の値が得られた場合の溶解度は<5μM、定量範囲以上の値が得られた場合の溶解度は100μMとした。
【0116】
その結果、化合物Iは、優れた溶解性(98μM)を示した。それに対し、比較例2(特許文献1 実施例1g)の溶解度は検出限界以下(<5μM)であり、比較例2の溶解性は低かった。
【0117】
(4)ヒト肝ミクロソーム中での安定性評価
被験化合物(10mmol/L DMSO溶液、5μL)を50%アセトニトリル水溶液(195μL)で希釈し、0.25mmol/L溶液を作製した。
【0118】
あらかじめ37℃に温めた反応用容器に0.5mg/mLヒト肝ミクロソーム(Xenotech社)およびNADPH−Co−factor(BD Biosciences社)を含む0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)245μLを添加して5分間プレインキュベーション後、先の被験化合物溶液(5μL)を加えて反応を開始した(最終濃度5μmol/L)。開始直後に20μLを採取し、内部標準物質(ワルファリン)を含むアセトニトリル180μLに添加して反応を停止した。この溶液20μLを除タンパク用フィルター付プレート上で50%アセトニトリル水溶液180μLと攪拌後、吸引ろ過してろ液を標準サンプルとした。
【0119】
先の反応溶液を37℃にて15分間インキュベーション後、20μLを冷アセトニトリル(内部標準物質ワルファリンを含む)180μLに添加し、反応を停止した。この20μLを除タンパク用フィルター付プレート上で50%アセトニトリル水溶液180μLと攪拌後、吸引ろ過してろ液を反応サンプルとした。
【0120】
残存率(%)は、試料溶液1μLをLC−MS/MS(Thermo Scientific社製 Discovery Max)に注入し、反応サンプルのピーク面積比(被験化合物のピーク面積/内部標準物質のピーク面積)を標準サンプルのピーク面積比で除した値を100倍して算出した。
【0121】
その結果、化合物Iは、ヒト肝ミクロソームに対して高い安定性(87%)を有しており、代謝安定性に優れていることが分かった。
【0122】
(5)hERG IKr電流に対する作用の評価
ヒト ether−a−go−go−related gene(hERG)を過剰発現したHEK293細胞を用いて、脱分極パルスに続く再分極パルスによって誘導されるhERG IKr電流の最大テール電流をパッチクランプ法で測定し、被験物質適用前の最大テール電流に対する被験物質適用10分後の変化率(抑制率)を算出した(バイオフィジカル・ジャーナル、74巻、230−241頁(1998年)参照)。その結果、化合物Iは、hERGチャネルの50%阻害活性が>10μMであり、薬物によるQT延長を誘発する可能性が低い、安全性に優れた化合物であることが分かった。
【0123】
(6)化学的安定性試験
各種保管条件下で本発明の結晶形の安定性について検討を行った。保存後、HPLCで−20℃保存サンプルの面積百分率に対する各条件下保存サンプルの残存率(%)を算出した。また粉末X線回折スペクトルを用いてピークをサンプルと比較した。外観を目視で観察し、サンプルと比較した。
【0124】
<保存条件およびサンプリングタイム>
5℃:3か月
60℃:1か月
25℃−60%RH(開封):3か月
40℃−75%RH(開封):3か月
2500Lux:20D(遮光、透明)
【0125】
<A晶>
いずれの条件においても、残存率は99.9%〜100.1%であった。また、粉末X線回折スペクトルを用いた検討において、ピーク数の増加は認められず、目視による外観変化も認められなかった。したがって、A晶は化学的安定性に優れた結晶形であることが分かった。
【0126】
[製剤例]
本発明に用いられる代表的な製剤例を以下に示す。
製剤例1
以下の各成分を常法により混合した後打錠して、一錠中に10mgの活性成分を含有する錠剤1万錠を得る。
・1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアのA晶(100g);
・カルボキシメチルセルロースカルシウム(崩壊剤)(20g);
・ステアリン酸マグネシウム(潤滑剤)(10g);
・微結晶セルロース(870g)。
【0127】
製剤例2
以下の各成分を常法により混合した後、除塵フィルターでろ過し、5mLずつアンプルに充填し、オートクレーブで加熱滅菌して、1アンプル中20mgの活性成分を含有するアンプル1万本を得る。
・1−[(5−クロロ−2−ピリジニル)メチル]−3−{2,6−ジクロロ−4−[(2S)−1,1,1−トリフルオロ−2−ヒドロキシ−2−プロパニル]フェニル}ウレアのA晶(200g);
・マンニトール(2kg);
・蒸留水(50L)。