【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて、本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0040】
実施例1
タンパク質として、K. Iwahori, T. Enomoto, H. Furusho, A. Miura, K. Nishio, Y. Mishima, I. Yamashita, Chem. Mater., 19, 3105 (2007)に記載されたListeria Dpsを使用し、Listeria Dpsの表面に、I. Inoue, B. Zheng, K. Watanabe, Y. Ishikawa, K. Shiba, H. Yasueda, Y. Uraoka, I. Yamashita.Chem. Commun., 47, 12649 (2011)に記載された方法で特開2004−121154号公報に記載の配列番号1(DYFSSPYYEQLF)で示されるアミノ酸配列からなるペプチド(NHBP−1)を付与した。以下、この分子をC−Dpsという。次に、K. Iwahori, K. Yoshizawa, M.Muraoka, I. Yamashita, Inorg. Chem., 44, 6393 (2005)とR. Tsukamoto, K.Iwahori, M. Muraoka, I. Yamashita, Bull. Chem. Soc. Jpn., 78, 2075 (2005)に記載の方法に従い、コバルトをC−Dpsに内包させ、C−Dpsがシェル部分、コバルトがコア部分を構成するコアシェル粒子を得た。このコアシェル粒子の直径は約9nm、コア部分の直径は約4.5nmであった。以下、得られたコアシェル粒子をC−Dps(Co)のように表記する。次に、単層カーボンナノチューブ(CNT、純度50−70%、金属半導体混合、シグマ・アルドリッチ社製)を用い、以下の手順でCNTとC−Dps(Co)との複合材料を作製した。以下、この複合材料(熱電変換材料)をCNT/C−Dps(Co)のように表記する。
【0041】
まず、CNTの水分散液(濃度0.2g/l)と、C−Dps(Co)の水分散液(濃度0.3g/l)とを混合し、超音波を用いて水中で分散させつつ、CNTにC−Dps(Co)を付着させた。次に、遠心分離機を用い、CNTに付着しなかったC−Dps(Co)を水分散液から取り除いた。得られた水分散液を、UV/O
3処理によって親水化したガラス基板上に滴下し、大気中で乾燥させ、薄膜状のCNT/C−Dps(Co)を得た。
図1に、得られたCNT/C−Dps(Co)のX線回折(XRD)パターンと、Co
3O
4のパウダーのXRDパターンとの比較を示す。この結果から、CNT/C−Dps(Co)に内包されているコバルトは、Co
3O
4として存在していることが確認された。また、
図2に、CNT/C−Dps(Co)の透過電子顕微鏡(TEM)写真を示す。なお、透過電子顕微鏡(TEM)写真は、後述の熱電特性を測定した試料より薄いものを用いて観察した。この写真から、CNT/C−Dps(Co)においては、CNTがランダムネットワークを形成しており、CNT間の少なくとも一部がC−Dps(Co)によって接合されていることがわかる。
【0042】
<熱電特性の測定>
次に、マスク蒸着によって、ガラス基板上のCNT/C−Dps(Co)に金電極パターンを形成し、M.Nakamura,A. Hoshi, M.Sakai, and K.Kudo, Mat. Res. Soc. Symp. Proc. 1197, 1197−D09−07(2010)に記載の有機薄膜用熱電特性評価装置を用いて、室温・高真空中において、電流−電圧測定、ゼーベック係数の測定を行った。測定対象試料の横幅は2mm、長さは10mm、膜厚は約50nmとした。
図3(a)及び
図3(b)に、CNT/C−Dps(Co)の熱電特性の測定結果を示す。
図3(a)は、電流−電圧測定結果を示すグラフである。このグラフの傾きから電気伝導率を求めたところ、0.86S/cmという値が得られた。また、
図3(b)は、2電極間の温度差と熱起電力の関係である。あらかじめ求めた上記装置のゼーベック係数17.5μV/Kをこのグラフの傾きから差し引くことで、CNT/C−Dps(Co)の絶対ゼーベック係数として85.4μV/Kという値が得られた。他の実施例等との熱電性能比較のために、縦軸をゼーベック係数の対数値、横軸を導電率の対数値としたグラフにCNT/C−Dps(Co)についての測定結果を表示したものを
図10に示す。
図10のグラフにおいて、斜線は等パワーファクター線を示しており、パワーファクターという点では、右上ほど性能が良いということになる。また、エラーバーは、それぞれの試料の複数回の測定結果から統計処理により得られた信頼区間95%の範囲を表している。
【0043】
実施例2
コバルトの代わりに鉄を内包させたこと以外は、実施例1と同様にして、C−Dpsに鉄を内包させたコアシェル粒子CNT/C−Dps(Fe)を得た。
図4に、得られたCNT/C−Dps(Fe)のX線回折(XRD)パターンと、Fe
2O
3・nH
2OのパウダーのXRDパターンとの比較を示す。この結果から、CNT/C−Dps(Fe)に内包されている鉄は、Fe
2O
3・nH
2Oとして存在していることが確認された。また、このコアシェル粒子の直径は約9nm、コア部分の直径は約4.5nmであった。
【0044】
<熱電特性の測定>
次に、実施例1と同様にして、CNT/C−Dps(Fe)について、電流−電圧測定、ゼーベック係数の測定を行った。
図5(a)及び
図5(b)に、CNT/C−Dps(Fe)の熱電特性の測定結果を示す。
図5(a)は、電流−電圧測定結果を示すグラフである。このグラフの傾きから電気伝導率を求めたところ、0.81S/cmという値が得られた。また、
図5(b)は、2電極間の温度差と熱起電力の関係である。あらかじめ求めた上記装置のゼーベック係数17.5μV/Kをこのグラフの傾きから差し引くことで、CNT/C−Dps(Fe)の絶対ゼーベック係数として55.0μV/Kという値が得られた。他の実施例及び比較例との熱電性能の比較のために、縦軸をゼーベック係数の対数値、横軸を導電率の対数値としたグラフにCNT/C−Dps(Fe)についての測定結果を表示したものを
図10に示す。
【0045】
比較例1
C−Dps(Co)を付着させなかったCNTをそのままCNT(pristine)として用い、熱電特性を測定した。
<熱電特性の測定>
実施例1と同様にして、CNT(pristine)について、電流−電圧測定、ゼーベック係数の測定を行った。
図6(a)及び
図6(b)に、CNT(pristine)の熱電特性の測定結果を示す。
図6(a)は、電流−電圧測定結果を示すグラフである。このグラフの傾きから電気伝導率を求めたところ、0.31S/cmという値が得られた。また、
図6(b)は、2電極間の温度差と熱起電力の関係である。あらかじめ求めた上記装置のゼーベック係数17.5μV/Kをこのグラフの傾きから差し引くことで、CNT(pristine)の絶対ゼーベック係数として33.2μV/Kという値が得られた。他の実施例等との熱電性能比較のために、縦軸をゼーベック係数の対数値、横軸を導電率の対数値としたグラフにCNT(pristine)についての測定結果を表示したものを
図10に示す。
【0046】
参考例1
コバルトを内包させなかったこと以外は、実施例1と同様にして、CNT/C−Dps(apo)を得た。
<熱電特性の測定>
次に、実施例1と同様にして、CNT/C−Dps(apo)について、電流−電圧測定、ゼーベック係数の測定を行った。
図7(a)及び
図7(b)に、CNT/C−Dps(apo)の熱電特性の測定結果を示す。
図7(a)は、電流−電圧測定結果を示すグラフである。このグラフの傾きから電気伝導率を求めたところ、0.61S/cmという値が得られた。また、
図7(b)は、2電極間の温度差と熱起電力の関係である。あらかじめ求めた上記装置のゼーベック係数17.5μV/Kをこのグラフの傾きから差し引くことで、CNT/C−Dps(apo)の絶対ゼーベック係数として37.0μV/Kという値が得られた。他の実施例等との熱電性能比較のために、縦軸をゼーベック係数の対数値、横軸を導電率の対数値としたグラフにCNT(apo)についての測定結果を表示したものを
図10に示す。
【0047】
参考例2
コバルトの代わりに硫化カドミウム(CdS)を内包させたこと以外は、実施例1と同様にして、硫化カドミウムを内包させたコアシェル粒子CNT/C−Dps(CdS)を得た。このコアシェル粒子の直径は約9nm、コア部分の直径は約4.5nmであった。
【0048】
<熱電特性の測定>
次に、実施例1と同様にして、CNT/C−Dps(CdS)について、電流−電圧測定、ゼーベック係数の測定を行った。
図8(a)及び
図8(b)に、CNT/C−Dps(CdS)の熱電特性の測定結果を示す。
図8(a)は、電流−電圧測定結果を示すグラフである。このグラフの傾きから電気伝導率を求めたところ、0.14S/cmという値が得られた。また、
図8(b)は、2電極間の温度差と熱起電力の関係である。あらかじめ求めた上記装置のゼーベック係数17.5μV/Kをこのグラフの傾きから差し引くことで、CNT/C−Dps(CdS)の絶対ゼーベック係数として34.3μV/Kという値が得られた。他の実施例等との熱電性能比較のために、縦軸をゼーベック係数の対数値、横軸を導電率の対数値としたグラフにCNT/C−Dps(CdS)についての測定結果を表示したものを
図10に示す。
【0049】
参考例3
コバルトの代わりにカドミウムセレニド(CdSe)を内包させたこと以外は、実施例1と同様にして、カドミウムセレニドを内包させたコアシェル粒子CNT/C−Dps(CdSe)を得た。このコアシェル粒子の直径は約9nm、コア部分の直径は約4.5nmであった。
【0050】
<熱電特性の測定>
次に、実施例1と同様にして、CNT/C−Dps(CdSe)について、電流−電圧測定、ゼーベック係数の測定を行った。
図9(a)及び
図9(b)に、CNT/C−Dps(CdSe)の熱電測定結果を示す。
図9(a)は、電流−電圧測定結果を示すグラフである。このグラフの傾きから電気伝導率を求めたところ、0.22S/cmという値が得られた。また、
図9(b)は、2電極間の温度差と熱起電力の関係である。あらかじめ求めた上記装置のゼーベック係数17.5μV/Kをこのグラフの傾きから差し引くことで、CNT/C−Dps(CdSe)の絶対ゼーベック係数として28.1μV/Kという値が得られた。他の実施例等との熱電性能比較のために、縦軸をゼーベック係数の対数値、横軸を導電率の対数値としたグラフにCNT/C−Dps(CdSe)についての測定結果を表示したものを
図10に示す。
【0051】
考察
実施例1のCNT/C−Dps(Co)では、比較例1のCNT(pristine)と比較して、ゼーベック係数が2.3倍、導電率が2.9倍になることによって、パワーファクターPが15倍になった。また、実施例2のCNT/C−Dps(Fe)では、比較例1のCNT(pristine)と比較して、ゼーベック係数が1.7倍、導電率が2.8倍になることによって、パワーファクターPが8倍になった。また、参考例1のCNT/C−Dps(apo)と比較しても、実施例1のCNT/C−Dps(Fe)及び実施例2のCNT/C−Dps(Co)を用いると、導電率及びゼーベック係数ともに増加することが分かる。
【0052】
一方、C−Dps(apo)を付着させた参考例1のCNT/C−Dps(apo)と、C−Dpsを付着させていないCNT比較例1の(pristine)との比較から、C−Dps(apo)の付着によっては、ゼーベック係数に変化が生じないことが分かる。一方、参考例1では、比較例1と比較して、導電率は増加していた。この理由としては、C−Dps(apo)の付着によって半導体性のCNTにキャリアドーピングが生じている可能性と、C−Dps(apo)の界面活性剤としての効果によって、両者の間にCNTネットワークの接続状態に差が生じている可能性との両方が考えられる。
【0053】
一方、参考例2のC−Dps(CdS)及び参考例3のC−Dps(CdSe)では、ゼーベック係数はわずかに減少し、導電率も減少していることが分かる。この理由については、例えば次のように考えることができる。
図11に、CNT/C−Dps/CNT接合部のエネルギーダイアグラムを模式的に示す。
図11において、C−Dpsの導電性のコア部分については、価電子帯端及び伝導帯端のエネルギー位置が描かれ、CNTについては電子のフェルミ−ディラック分布f(E)が描かれている。実施例1で用いたC−Dps(Co)及び実施例2で用いたC−Dps(Fe)の内包物であるCo
3O
4及びFe
2O
3・nH
2Oは、いずれもp型の半導体になりやすいことが知られており、
図11の左側(p−type)のようなエネルギーダイアグラムとなる。一方、参考例2で用いたDps(CdS)及び参考例3で用いたC−Dps(CdSe)の内包物は、いずれもn型の半導体になりやすいことが知られており、
図11の右側(n−type)のようなエネルギーダイアグラムとなる。それぞれのフェルミ−ディラック関数は、左側が低温、右側が高温の状態を表しており、高温側で電子の熱励起が盛んになるに従って、コア部分の上下非対称な状態密度関数(DOS)によって、電子または正孔のどちらかが優先的に低温側へ輸送されることで正味の電流が生じる。これによって、p型のコア部分ではp型のゼーベック効果が、n型のコア部分ではn型のゼーベック効果が生じると考えらえる。実施例などで用いたCNTは、実用的な状態においてp型のゼーベック効果を示す。このため、実施例1及び実施例2では、p型的なCNT/C−Dps/CNT接合による同極性のゼーベック効果が直列的に加わることにより、コンポジット熱電変換材料としてのゼーベック係数が増加したと考えられる。一方、参考例2及び参考例3のようなn型的なCNT/C−Dps/CNT接合では、逆極性のゼーベック効果が直列的に加わることにより、ゼーベック係数が減少すると考えられる。ただし、CNTの導電率、すなわち、キャリア密度も減少していることから、CNT部分のゼーベック係数は半導体のゼーベック効果理論に従い増加すると考えられ、そのためにコンポジット熱電変換材料としてのゼーベック係数の変化が相殺される傾向が見られているものと考えられる。以上の考察より、内包するナノ粒子の状態密度関数を室温付近でのゼーベック効果が最大化するように調整することで、更にゼーベック係数を増加させることができると考えられる。なお、コア部分の種類による導電率の増減については、半導体性のCNTがp型であることからp型的な状態密度関数を持つ粒子の方が、トンネル電流が流れやすくなるという効果、CNT周囲に多くのC−Dpsが吸着することでCNT/C−Dps接合部の熱平衡時の電荷移動によって、半導体性CNTにキャリアドーピングが生じる効果が生じると考えられる。