(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6265326
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】酸化触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 31/22 20060101AFI20180115BHJP
B01J 31/28 20060101ALI20180115BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20180115BHJP
C01B 15/027 20060101ALI20180115BHJP
C01B 3/04 20060101ALI20180115BHJP
C25B 1/30 20060101ALI20180115BHJP
C25B 1/04 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
B01J31/22 M
B01J31/28 M
B01J35/02 J
C01B15/027
C01B3/04 A
C25B1/30
C25B1/04
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-141776(P2013-141776)
(22)【出願日】2013年7月5日
(65)【公開番号】特開2015-13262(P2015-13262A)
(43)【公開日】2015年1月22日
【審査請求日】2016年7月1日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 日本化学会第93春季年会講演予稿集(DVD−ROM・冊子体・Web予稿集:講演予稿集発行日:平成25年3月8日(金)、編集:公益社団法人 日本化学会) 日本化学会第93春季年会、立命館大学びわこ・くさつキャンパス、平成25年3月22日(金)〜25日(月)
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】公立大学法人首都大学東京
(74)【代理人】
【識別番号】100150876
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】井上 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】立花 宏
(72)【発明者】
【氏名】鍋谷 悠
(72)【発明者】
【氏名】ファザルラーマン クッタセリー
(72)【発明者】
【氏名】佐川 正悟
(72)【発明者】
【氏名】小貫 聖美
【審査官】
磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−305542(JP,A)
【文献】
特開2003−251190(JP,A)
【文献】
特開2010−050115(JP,A)
【文献】
国際公開第2005/063393(WO,A1)
【文献】
王 晟 他,スズポルフィリン含有高分子膜を用いる水の可視光励起光酸素・水素発生,平成14年度繊維学会年次大会予稿集,日本,社団法人繊維学会,2002年 5月22日,p.273
【文献】
栗本和典他,金属ポルフィリンを用いた可視光による水の分解酸化反応と水素発生システムの構築,日本化学会講演予稿集,日本,社団法人日本化学会,2011年 3月11日,Vol.91, No.4,p.1333
【文献】
栗本和典他,金属ポルフィリンを用いた水の酸化反応と水素発生システムの構築,光化学討論会講演要旨集,日本,2011年 9月 1日,Vol.2011,p.118
【文献】
大石圭他,金属ポルフィリン吸着n型半導体を用いた、光酸素化反応と光電変換反応の共役,光化学討論会講演要旨集,日本,2006年 9月 9日,Vol.2006,p.351
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 31/22
B01J 31/28
B01J 35/02
C01B 3/04
C01B 15/027
C25B 1/04
C25B 1/30
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を過酸化水素に酸化分解するための酸化触媒であって、Al,Si,P,Ga,Ge,In,Sn又はSbを含むポルフィリン誘導体を主たる成分とすることを特徴とする酸化触媒。
【請求項2】
上記ポルフィリン誘導体が、アルミニウムテトラキストリメチルアニリニウムポルフィリン(AlTMAP)、アルミニウムテトラカルボキシフェニルポルフィリン(AlTCPP)又はアルミニウムテトラメシチルポルフィリン(AlTMP)であることを特徴とする請求項1記載の酸化触媒。
【請求項3】
上記ポルフィリン誘導体が、アルミニウムテトラキストリメチルアニリニウムポルフィリン(AlTMAP)又はアルミニウムテトラメシチルポルフィリン(AlTMP)であることを特徴とする請求項1記載の酸化触媒。
【請求項4】
更に、n型半導体を含有し、上記ポルフィリン誘導体が上記n型半導体に担持されており、光照射により上記の酸化分解を行うことを特徴とする請求項1〜3記載の酸化触媒。
【請求項5】
上記ポルフィリン誘導体と上記n型半導体物質との配合割合が、上記n型半導体1質量部に対して、上記ポルフィリン誘導体0.01質量部〜0.25質量部であることを特徴とする請求項4記載の酸化触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生可能エネルギーである太陽光エネルギーを物質に貯蔵する人工光合成技術を応用してなる、水を分解する酸化触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水を酸化分解することにより酸素を発生する酸化触媒が知られており、種々の酸化触媒が提案されている(たとえば、非特許文献1および2等)。
また、特許文献1には、光を吸収して電子の授受を行うことのできる増感剤と、水の酸化触媒とを、複合化させた水の光酸化触媒が提案されており、増感剤としてRuを含有するポルフィリン誘導体を用いることが開示されている。
また、特許文献2には、水に対して効果的な触媒活性を発現し、水を酸化して酸素を生成する酸化触媒としてMnまたはFeを具備するポルフィリン錯体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−234374号公報
【0004】
【特許文献2】特開2003−251190号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Gersten, S. W.; Sasmuels, G. J.; Meyer, T. J., J.Am. Chem. Soc. 1982, 104, 4029
【非特許文献2】L. Duan, F. Bozoglian, S. Mandal, B. Stewart,T. Privalov, A. Llobet, L. Sun,Nature Chemistry, 2012, 4, 418.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献や特許文献1で提案されている従来の水を酸化する触媒は、ルテニウムなどの希少金属を主成分とするものであり汎用性に問題があった。
また、上述のすべての従来の水を酸化する触媒は、酸素発生を目的とするものであり、水の酸化反応に4つの光子を必要とする酸化反応系を利用したものであり、酸化反応の効率面で十分に酸化反応が生じていないという問題があった。
すなわち、従来提案されている光エネルギーを利用する酸化触媒における作用機構は、例えば特許文献2に示されているように、直接又は増感剤を介して光子を吸収することにより酸化触媒に電子移動を生じさせて高酸化状態とし、この高酸化状態の酸化触媒により水を酸化して酸素(0
2)を発生させるものである。
このため、水を酸化する触媒において、希少金属を主成分とせず、汎用性の高いもので、且つより酸化反応効率の高い光酸化触媒の開発が要望されている。
【0007】
したがって、本発明の目的は、従来技術における上記の課題を解決し、光エネルギーを利用した光酸化反応においては、光エネルギーを効率良く利用して水を酸化分解することができ、電気化学的酸化や化学的酸化反応においても高い反応性を示す等汎用性が高く、また使用する原料元素についても汎用性が高く、コスト面や普及性においても有利な酸化触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解消すべく水の酸化触媒能を有する金属錯体について鋭意研究を重ねた結果、従来の水から酸素を生成する反応系ではなく、過酸化水素を発生させる反応系とすることで光エネルギーを効率よく反応に用いることができることを知見し、さらに検討した結果、ポルフィリン化合物を配位子とし汎用性元素を中心金属原子とするポルフィリン錯体が過酸化水素を発生させる反応系に有効であり且つ酸素を発生させる反応系においても有効であることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の各発明を提供するものである。
1.水を酸化分解するための酸化触媒であって、第3周期以降の元素で且つ13属,14属又は15属に属する元素を含むポルフィリン誘導体を主たる成分として含有することを特徴とする酸化触媒。
2.上記ポルフィリン誘導体は、親水性置換基を具備し、該親水性置換基がカチオン性又はアニオン性の親水性基である1記載の酸化触媒。
3.上記ポルフィリン誘導体は、中性の置換基を具備する1記載の酸化触媒。
4.更に、n型半導体を含有し、上記ポルフィリン誘導体が上記n型半導体に担持されていることを特徴とする1記載の酸化触媒。
5.上記ポルフィリン誘導体と上記n型半導体物質との配合割合が、上記n型半導体1質量部に対して、上記ポルフィリン誘導体0.01質量部〜0.25質量部であることを特徴とする3記載の酸化触媒。
【発明の効果】
【0009】
本発明の酸化触媒は、光エネルギーを利用した光酸化反応においては、光エネルギーを効率良く利用して水を酸化分解することができ、電気化学的酸化や化学的酸化反応においても高い反応性を示す等汎用性が高く、また使用する原料元素についても汎用性が高く、コスト面や普及性においても有利なものである。
詳細には、本発明の酸化触媒は、電気化学的、化学的および光化学的な方法により水を分解し得る触媒であって、低い過電圧で水を電気分解することが可能であり、陽極では酸素の発生、陰極では水の電気分解による水素生成、二酸化炭素還元など電気化学エネルギーの化学エネルギーへの変換に利用可能である。
また、太陽光の照射により水を分解する光酸化触媒として機能するので、水を原料とする人工光合成として光電流の生成と共に、酸化側では基質の酸化による有用物質生産、過酸化水素の生成、還元側では水素生成、二酸化炭素の還元、に利用可能であり、再生可能エネルギー分野において高い利用価値を有するものである。さらにこのような光反応系においては、生成する物質が気体である水素と液体である過酸化水素とであるため、分離が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の酸化触媒である実施例1で得られた酸化触媒を用いた、アルミニウムテトラキストリメチルアニリニウムポルフィリン水溶液のサイクリックボルタンメトリーを示すチャートである。
【
図2】
図2は、本発明の酸化触媒である実施例1で得られた酸化触媒を用いた、アルミニウムテトラキストリメチルアニリニウムポルフィリン水溶液の定電位電解状態を示すチャートである。
【
図3】
図3は、本発明の酸化触媒(実施例2の酸化触媒)を用い、可視光照射により生成した過酸化水素を検出し定量した結果を示す吸収スペクトル変化を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0012】
本発明の酸化触媒は、水を酸化分解するための酸化触媒であって、特定の元素を含むポルフィリン誘導体を主たる成分として含有することを特徴とする。
本発明の酸化触媒は、好ましくは上記ポルフィリン誘導体単独あるいは該ポルフィリン誘導体とn型半導体の複合体からなる。
以下、さらに詳細に説明する。
<ポルフィリン誘導体>
ポルフィリン化合物は、多様な機能を有する機能性色素として知られている化合物であり、分子内では芳香環が高度に共役し、可視光領域に強い吸収を有する。また、その性質は分子内の置換基や中心元素により多様に調節することが可能である。
【0013】
(構造)
本発明で用いられるポルフィリン誘導体は、4個のピロール核が4個のメチン橋によって結合し下記化学式に示す環状テトラピロール(ポルフィリン環)となったものの誘導体であり、ポルフィリン環の中心に金属および金属類縁元素が配位したものの誘導体であるポルフィリン錯体である。
【化1】
【0014】
本発明において用いられる上記ポルフィリン誘導体は、上記ポルフィリン環が各種置換基で修飾されていてもよい。具体的には、親水性置換基または中性の置換基を具備し、該親水性置換基がカチオン性又はアニオン性の親水性基であるのが好ましい。
上記のカチオン性の親水性基としては、ピリジニウム基やアニリニウム基、イミダゾリウム基、などのカチオン性の置換芳香族基などをあげることができる。
上記の中性の置換基としては、フェニル基あるいはメシチル基などアルキル基で置換された置換フェニル基(メチルベンゼン、ジメチルべンゼン等)等のフェニル基含有置換基が挙げられる。
上記のアニオン性の親水性基としては、カルボキシフェニル基、スルフォフェニル基、ニトロフェニル基などのアニオン性の置換フェニル基などを好ましく挙げることができる。
これらの親水性置換基の導入位置は特に制限されないが、ポルフィリン環のメソ位であるのが好ましい。
【0015】
上記ポルフィリン誘導体において中心に配位される金属または金属類緑元素は、3周期以降の元素、すなわち周期表の第3周期、第4周期、第5周期、第6周期等に属する元素で、且つ13属、14属及び15属に属する元素、具体的には、Al,Si,P,Ga,Ge,In,Sn又はSbである。
これらの中でも特にアルミニウム(Al)、ケイ素(Si)が好ましく用いられる。
【0016】
上記ポルフィリン誘導体としては、具体的には以下の化合物(構造を下記化学式に示す)等が挙げられる。
アルミニウムテトラキストリメチルアニリニウムポルフィリン(AlTMAP)、アルミニウムテトラカルボキシフェニルポルフィリン(AlTCPP)、アルミニウムテトラメシチルポルフィリン(AlTMP)等
【化2】
【0017】
(製造方法)
上記ポルフィリン誘導体は、上記ポルフィリン環に公知の手法で上記親水性置換基を導入し、上記金属または金属類縁元素を配位させることにより製造することができる。
【0018】
<他の成分>
(n型半導体)
本発明で上記ポルフィリン誘導体に併用されるn型半導体は、公知のn型半導体を特に制限なく用いることができるが、主に金属酸化物に微量の異種元素をドープした半導体を好ましく用いることができる。上記金属酸化物としては、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化錫が特に好ましい。また、ドープされる異種元素としては、クロム(Cr)、プラチナ(Pt)等を挙げることができる。
【0019】
本発明において上記n型半導体を用いる場合、上記ポルフィリン誘導体はn型半導体に担持される。担持の態様や担持方法は特に制限されず、通常この種の担持物における担持形態や担持方法を特に制限なく採用することができる。
n型半導体を用いる場合の使用量比は次の通りである。
ポルフィリン錯体化合物はn型半導体1質量部に対して、0.01質量部〜0.25質量部、好ましくは、0.02質量部〜0.10質量部である。
担持の手法については後述する。
本発明の酸化触媒には上述のn型半導体に加えてさらに必要に応じて本発明の所望の効果を損なわない範囲で種々添加剤を添加することができる。
【0020】
<使用法>
本発明の酸化触媒は、以下の各方法により水を分解させるように使用できる。
(1)電気分解による水の酸化により酸素を発生させると同時に水素を生成させる
(2)太陽光など光照射による光電流の発生と同時に陽極で水の酸化により過酸化水素を生成し陰極で水素の発生または二酸化炭素を還元する
(3)太陽光など可視光照射による水の酸化により過酸化水素を生成すると同時に水素を発生させる
【0021】
上記(1)の場合には、上記ポルフィリン誘導体を単独で用いることができ、上記ポルフィリン誘導体単独からなる本発明の酸化触媒の水溶液として、または含水有機溶媒溶液として使用することで水の酸化を行うことができる。
上記水溶液における酸化触媒の使用量は特に制限がないが、0.01〜1ミリモル/リットルとするのが好ましい。
また、上記含水有機溶媒溶液を用いる場合、使用する有機溶媒としてはアセトニトリル等を好ましく用いることができ、水と有機溶媒の配合割合は、水1〜15質量部に対して有機溶媒100質量部とするのが好ましい。この場合の酸化触媒の
使用量は、0.01〜1ミリモル/リットルとするのが好ましい。
【0022】
上記(2)の場合には、酸化触媒として、上記ポルフィリン誘導体をn型半導体に担持してなるものを用い、上記(1)の場合と同様に水溶液又は含水有機溶媒溶液として用いるか、陽極に本発明の酸化触媒を積層した透明電極を用い、陰極に白金電極を使用することで電極を構成し、かかる電極が水中に位置するように構成された水槽中で水の酸化分解を行うことで使用することができる。上記透明電極としては特に制限なく公知の透明電極を用いることができ、また、電極構成や水槽の構成も公知の光による酸化分解で用いられる水槽や電極構成を特に制限なく採用することができる。
【0023】
上記(3)の場合には、上記ポルフィリン誘導体をn型半導体に担持してなる本発明の酸化触媒を水または含水有機溶媒に分散して分散液を調製し、かかる分散液に光を当てることで使用することができる。
この場合の酸化触媒の使用量は特に制限がないが、n型半導体1質量部に対して、0.01質量部〜0.25質量部、好ましくは、0.02質量部〜0.10質量部である。
また、上記含水有機溶媒を用いる場合、使用する有機溶媒としてはアセトニトリル等を好ましく用いることができ、水と有機溶媒の配合割合は、水1〜15質量部に対して有機溶媒100質量部とするのが好ましい。
【0024】
本発明の酸化触媒として上記ポルフィリン誘導体をn型半導体に担持させたものを用いる場合において該担持を行うには、ポルフィリン誘導体の溶液とn型半導体の微粒子を分散した溶液とを超音波照射を行うなどして混合し、さらに、この混合して得られた混合液をろ過あるいは遠心分離して分散されている粒子を水から分離し、得られた粒子を乾燥することにより薄膜状または塊状の固体として得ることができる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明について実施例及び比較例を示してさらに具体的に説明するが本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
【0026】
〔実施例1〕
(電気分解による水の酸化)
アルミニウムテトラキストリメチルアニリニウムポルフィリン(AlTMAP)単独で構成された本発明の酸化触媒を濃度(2x10
−4M)で含有してなる水溶液を調製した。この水溶液を電解質(Na
2SO
4,0.1M)の存在下、窒素雰囲気下、陽極(グラッシーカーボン、またはダイアモンド電極)と陰極(白金網)を有する電気化学セル中、定電圧で電気分解した。電解時間と共に陽極からは酸素が発生し陰極からは水素が発生した。
電極反応の特性を見るために、サイクリックボルタンメトリーにより電位掃引し、酸化還元波を測定した。その結果を
図1に示す。
図1に示すように、正方向に掃引して応答電流が測定され、触媒電流に特徴的なサイクリックボルタモグラム(酸化波)が観測された。また、本発明の触媒を用いていない系(Blank)では掃引による応答電流は見られなかった。このことから本発明の酸化触媒は酸化反応を生じさせる触媒として機能していることがわかる。
なお、図中縦軸は電流値を、横軸は掃引電位を表す。非可逆的な触媒電流が流れていることが分かる。
また、定電圧(1.2V)で電気分解した際の酸素の発生についても、ガスクロマトグラフィーにより測定した。その結果を
図2に示す。なお、図中縦軸は酸素発生量、横軸は電解時間を表す。
図2に示す結果から、水分解触媒がない系(Blank)では酸素は発生しないのに対し、本発明の酸化触媒を用いた系では効率よく酸素が発生しており、酸化触媒として機能していることがわかる。
【0027】
〔実施例2〕
(可視光照射による水の酸化分解触媒の調製)
中心金属がアルミニウム(Al)であるAlポルフィリン誘導体(Alテトラカルボキシフェニルポルフィリン(AlTCPP))をn型半導体としての二酸化チタン(Ptドープ物)に以下のようにして担持させた。
AlTCPP 0.5mgをエタノール50mlに溶解させた後、TiO
2/Pt粒子(50mg)を加えて、30分間、超音波照射装置(商品名「YAMATO−3510」BRANSON社製)を用いて超音波照射を行い、さらに24時間攪拌させることによってAlTCPPを吸着させて分散液を得た。
得られた分散液をポアサイズ0.1μm径のメンブランフィルターによって濾過し、エタノールで洗浄後、さらに回収した粒子をエタノール200mlに再分散させ、12時間洗浄操作を行い、濾過した。濾過して得られた粒子を真空乾燥して本発明の酸化触媒を得た。
【0028】
(可視光照射による水の酸化分解:光電気化学系)
得られた酸化触媒を透明電極(フッ素化酸化錫)上にキャスト成膜してこれを陽極とし、陰極(白金)と共に電解質(Na
2SO
4,濃度0.1M)を含む水溶液中に設置し、窒素雰囲気で陽極に可視光(太陽光)を照射した。
可視光照射時における電流を測定したところ照射と共にアノード定常電流が観測され、酸化触媒による陽極への電子注入とそれに伴う水の分解が進行したことを確認した。
2時間の光照射後、反応水溶液を採取し、過酸化水素検出試薬である
図3に示すチタンポルフィリン誘導体を添加した混合液の吸収スペクトルを測定した。その結果を
図3に示す。
図3に示す結果から明らかなように、430nmのチタンポルフィリンの吸収が減衰し450nmに過酸化水素付加体に特徴的な吸収帯が新たに出現している。このことから上記の可視光照射により過酸化水素が生成していることが観測された。
【0029】
〔実施例3〕
(可視光照射による水の酸化分解:懸濁系)
実施例2で得られた酸化触媒をガラス容器中、水溶液に分散させ攪拌しながら、窒素雰囲気下、可視光を照射した。
一定時間照射後、ガラス容器中の気体をガスクロマトグラフィーにより分析した結果水素の発生が見られた。
同時に溶液部分を採取し、実施例2と同様にして過酸化水素検知試薬のチタンポルフィリン誘導体水溶液を添加し、その吸収スペクトル変化を測定したところ、過酸化水素が水溶液中に生成していることが確認された。
これらの結果からこの酸化触媒は可視光照射により水を分解し、水素の発生と同時に水の酸化物としての過酸化水素を発生させる触媒として機能することがわかる。
水素はクリーンエネルギー燃料として利用され、過酸化水素は有用な酸化剤として、また燃料電池の燃料としても利用し得る。本実例では可視光照射により水の還元生成物としての気体である水素が発生すると同時に溶液中に水の酸化生成物として過酸化水素が生成するが、従来、半導体触媒などによる水の分解による水素発生と酸素の同時発生系では、気体状態で水素と酸素が混合して同時生成するために爆鳴気を形成する可能性が大きく、安全上問題があった。本発明の酸化触媒は、このような危険性がなく、気体としての水素の発生と溶液部分に残留する液体の過酸化水素が自動的に分離されるので、反応生成物の分離や利用の観点で優れており、大きい利点がある。