(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
直列接続された2つの半導体スイッチと前記2つの半導体スイッチに並列接続された直流コンデンサとからなり前記2つの半導体スイッチのうちの一方の半導体スイッチの各端子を出力端とするチョッパセルを、それぞれが備える第1および第2のアームであって、各前記第1および第2のアームにおいてそれぞれ同数の前記チョッパセルが、当該チョッパセルが有する前記出力端を介してカスケード接続された第1および第2のアームと、
第1の端子、第2の端子、および前記第1の端子と前記第2の端子との間の巻線上に位置する第3の端子を有する3端子結合リアクトルであって、前記第1の端子には前記第1のアームが、前記第2の端子には前記第2のアームが、前記第3の端子には駆動すべきモータが、それぞれ接続される3端子結合リアクトルと、
を備えるインバータであって、前記第1および第2のアームの、前記3端子結合リアクトルが接続されない側の各端子に、直流電源電圧が印加されるインバータ、を用いて前記モータを始動させる速度センサレスモータ始動方法であって、
負荷トルクおよびモータトルクに応じてフィードフォワードで与えられる振幅指令値と、所定の期間にわたって0から所定の値まで増加する周波数指令値と、を用いて電流指令値を作成する電流指令値作成ステップと、
前記第3の端子から出力されるモータ駆動電流が前記電流指令値に追従するよう制御することで前記モータを始動させるモータ始動制御ステップと、
を備えることを特徴とする速度センサレスモータ始動方法。
直列接続された2つの半導体スイッチと前記2つの半導体スイッチに並列接続された直流コンデンサとからなり前記2つの半導体スイッチのうちの一方の半導体スイッチの各端子を出力端とするチョッパセルおよびリアクトルを、それぞれが備える第1および第2のアームであって、各前記第1および第2のアームにおいてそれぞれ同数の前記チョッパセルが、当該チョッパセルが有する前記出力端を介してカスケード接続されるとともに、前記リアクトルが、互いにカスケード接続された前記チョッパセル間の任意の位置に接続された第1および第2のアーム、を備えるインバータであって、前記第1および第2のアームの、互いが接続されない側の各端子に直流電源電圧が印加されるインバータ、を用いて前記第1のアームと前記第2のアームとの接続端子に接続された駆動すべきモータを始動させる速度センサレスモータ始動方法であって、
負荷トルクおよびモータトルクに応じてフィードフォワードで与えられる振幅指令値と、所定の期間にわたって0から所定の値まで増加する周波数指令値と、を用いて電流指令値を作成する電流指令値作成ステップと、
前記第1のアームと前記第2のアームとの接続端子から出力されるモータ駆動電流が前記電流指令値に追従するよう制御することで前記モータを始動させるモータ始動制御ステップと、
を備えることを特徴とする速度センサレスモータ始動方法。
直列接続された2つの半導体スイッチと前記2つの半導体スイッチに並列接続された直流コンデンサとからなり前記2つの半導体スイッチのうちの一方の半導体スイッチの各端子を出力端とするチョッパセルを、それぞれが備える第1および第2のアームであって、各前記第1および第2のアームにおいてそれぞれ同数の前記チョッパセルが、当該チョッパセルが有する前記出力端を介してカスケード接続された第1および第2のアームと、
第1の端子、第2の端子、および前記第1の端子と前記第2の端子との間の巻線上に位置する第3の端子を有する3端子結合リアクトルであって、前記第1の端子には前記第1のアームが、前記第2の端子には前記第2のアームが、前記第3の端子には駆動すべきモータが、それぞれ接続される3端子結合リアクトルと、
を備えるインバータであって、前記第1および第2のアームの、前記3端子結合リアクトルが接続されない側の各端子に、直流電源電圧が印加されるインバータ、を用いて前記モータを始動させる速度センサレスモータ始動装置であって、
負荷トルクおよびモータトルクに応じてフィードフォワードで与えられる振幅指令値と、所定の期間にわたって0から所定の値まで増加する周波数指令値と、を用いて電流指令値を作成する電流指令値作成手段と、
前記第3の端子から出力されるモータ駆動電流が前記電流指令値に追従するよう制御することで前記モータを始動させるモータ始動制御手段と、
を備えることを特徴とする速度センサレスモータ始動装置。
直列接続された2つの半導体スイッチと前記2つの半導体スイッチに並列接続された直流コンデンサとからなり前記2つの半導体スイッチのうちの一方の半導体スイッチの各端子を出力端とするチョッパセルおよびリアクトルを、それぞれが備える第1および第2のアームであって、各前記第1および第2のアームにおいてそれぞれ同数の前記チョッパセルが、当該チョッパセルが有する前記出力端を介してカスケード接続されるとともに、前記リアクトルが、互いにカスケード接続された前記チョッパセル間の任意の位置に接続された第1および第2のアーム、を備えるインバータであって、第1および第2のアームの、互いが接続されない側の各端子に直流電源電圧が印加され、前記第1のアームと前記第2のアームとの接続端子にモータが接続されるインバータ、を用いて前記第1のアームと前記第2のアームとの接続端子に接続された駆動すべきモータを始動させる速度センサレスモータ始動装置であって、
負荷トルクおよびモータトルクに応じてフィードフォワードで与えられる振幅指令値と、所定の期間にわたって0から所定の値まで増加する周波数指令値と、を用いて電流指令値を作成する電流指令値作成手段と、
前記第1のアームと前記第2のアームとの接続端子から出力されるモータ駆動電流が前記電流指令値に追従するよう制御することで前記モータを始動させるモータ始動制御手段と、
を備えることを特徴とする速度センサレスモータ始動装置。
【背景技術】
【0002】
大容量のファン、ブロアあるいはコンプレッサなどの風量・水量制御に、インバータを用いた高圧交流モータ可変速ドライブ技術を導入することによって、従来のダンパ制御によるものに比べて大幅な省エネルギーを達成することができる。
【0003】
上述のような大型の負荷に対応すべくインバータの大容量化・高圧化の手法として、変換器用変圧器を用いた多重化方式がある。これに対し、近年、高耐圧化が可能なダイオードクランプ形マルチレベル変換器を用いたトランスレスモータドライブシステムが提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0004】
また、実装が容易で大容量・高圧用途に適したダブルスターチョッパセル(Double Star Chopper Cell:DSCC)方式のモジュラーマルチレベルカスケードインバータ(Modular Multilevel Cascade Inverter:MMCI、以下、単に「モジュラーマルチレベルインバータ」と称することがある。)が提案されている(例えば、特許文献1および非特許文献2参照。)。
【0005】
図16は、モジュラーマルチレベルインバータの主回路構成を示す回路図であり、
図17は、モジュラーマルチレベルインバータの一構成要素であるチョッパセルを示す回路図、
図18は、モジュラーマルチレベルインバータの一構成要素である3端子結合リアクトルを示す回路図である。以降、異なる図面において同じ参照符号が付されたものは同じ機能を有する構成要素であることを意味するものとする。また、各相の回路構成、動作原理および制御方法は同様であるため、以下、主としてu相について説明する。
【0006】
図16に示すモジュラーマルチレベルインバータ1(以下、単に「インバータ1」とも称する。)は、u相、v相およびw相の電圧形フルブリッジインバータである。インバータ1の直流側(直流リンク)には、大容量の平滑コンデンサ(図示せず)が接続され、直流電圧Eが印加されることになる。直流電圧Eは必ずしも固定値である必要はなく、例えばダイオード整流器に起因する低次高調波成分やスイッチングリプル成分を含んでいても構わない。したがって、平滑コンデンサは省略可能である。
【0007】
図16に示すインバータ1のu、vおよびw各相は、
図17に示すチョッパセル11−j(ただし、j=1〜8、以下同様。)と、
図18に示す3端子結合リアクトル12とで構成される。なお、
図16におけるチョッパセル11−jについては、理解を容易にするために、
図17に示すチョッパセル11−jにおける直流コンデンサCを当該チョッパセル11−jの外側に記載している。
【0008】
図16に示す例では、一例として、各相におけるチョッパセルの個数を8個としており、このため、インバータ1の出力は、相電圧が9レベル、線間電圧が17レベルのPWM波形となる。
【0009】
図17に示すように、チョッパセル11−jは、2つの半導体スイッチSW1およびSW2と、直流コンデンサCとを有する2端子回路であり、双方向チョッパの一部とみなせる。チョッパセル11−jは、2つの半導体スイッチSW1およびSW2は互いに直列接続され、これに、直流コンデンサCが並列接続されることで構成される。2つの半導体スイッチSW1およびSW2のうち、図示の例では半導体スイッチSW2の各端子が、当該チョッパセル11の出力端となる。本明細書では、直流コンデンサの電圧値をv
Cju(ただし、j=1〜8)、チョッパセル11−jの出力電圧(すなわち、半導体スイッチSW2の両端の電圧)の値を、u相の場合、v
juと定義する。
【0010】
上述のように、インバータ1は電圧形インバータであるため、各半導体スイッチSW1およびSW2は、それぞれ、オン時に一方向に電流を通す半導体スイッチング素子Sと、この半導体スイッチング素子に逆並列に接続された帰還ダイオードDと、で構成される。半導体スイッチング素子Sは例えばIGBT(Insulated Gate Bipopar Transistor)である。
【0011】
u相における8個のチョッパセル11−1〜11−8のうち、チョッパセル11−1〜11−4は、それぞれの出力端を介してカスケード接続される。本明細書では、これを第1のアーム(arm)2u−Pと称する。また、チョッパセル11−5〜11−8は、それぞれの出力端を介してカスケード接続される。本明細書では、これを第2のアーム2u−Nと称する。v相およびw相についても同様であり、それぞれ、第1のアーム2v−Pおよび第2のアーム2v−N、ならびに第1のアーム2w−Pおよび第2のアーム2w−Nが構成される。本明細書では、u相については、第1のアームに流れる電流をi
Pu、第2のアームに流れる電流をi
Nu、v相については、第1のアームに流れる電流をi
Pv、第2のアームに流れる電流をi
Nv、w相については、第1のアームに流れる電流をi
Pw、第2のアームに流れる電流をi
Nw、と定義し、以下、「アーム電流」と称する。
【0012】
3端子結合リアクトル12(以下、単に「結合リアクトル12」と称する。)は、第1の端子a、第2の端子b、および、第1の端子aと第2の端子bとの間の巻線上に位置する第3の端子cを有する。u相について言えば、結合リアクトル12の第1の端子aには第1のアーム2u−Pが、結合リアクトル12の第2の端子bには第2のアーム2uーNが、それぞれ接続される。結合リアクトル12の第3の端子cは、インバータ1のu相の出力端となる。同様に、v相について言えば、結合リアクトル12の第1の端子aには第1のアーム2v−Pが、結合リアクトル12の第2の端子bには第2のアーム2vーNが、それぞれ接続され、結合リアクトル12の第3の端子cは、インバータ1のv相の出力端となる。また、w相について言えば、結合リアクトル12の第1の端子aには第1のアーム2w−Pが、結合リアクトル12の第2の端子bには第2のアーム2wーNが、それぞれ接続され、結合リアクトル12の第3の端子cは、インバータ1のw相の出力端となる。つまり、u、vおよびw各相の各結合リアクトル12の第3の端子cが、インバータ1のu、vおよびw各相の出力端となる。
【0013】
また、u相において、第1のアーム2u−Pおよび第2のアーム2u−Nの、結合リアクトル12が接続されない側の各端子には、大容量の平滑コンデンサ(図示せず)が接続され、直流側の電源電圧Eが印加されることになる。同様に、v相においては、第1のアーム2v−Pおよび第2のアーム2u−Nの、結合リアクトル12が接続されない側の各端子に、w相においては、第1のアーム2w−Pおよび第2のアーム2w−Nの、結合リアクトル12が接続されない側の各端子に、直流側の電源電圧Eがそれぞれ印加されることになる。
【0014】
本明細書では、インバータ1のu相、v相およびw相の各出力端から流れ出る電流(すなわち、インバータ1の負荷として例えばモータが接続された場合はモータに流れ込む電流)を、それぞれ、i
u、i
vおよびi
uと定義し、以下、「負荷側電流」と称する。
【0015】
このとき、u相について、リアクトル12のインダクタンスをlとしたとき、式1で表わされる回路方程式が成り立つ。
【0016】
【数1】
【0017】
上記式1から、負荷を経由しない閉回路が存在することがわかるが、本明細書ではこの閉回路を「直流ループ」と称することにする。u相の直流ループを循環する電流をi
Zu(以下、「循環電流」と称する。)としたとき、アーム電流i
Puおよびi
Nuと負荷側電流i
uとの間には以下の関係が成立する。
【0018】
【数2】
【0019】
【数3】
【0020】
【数4】
【0021】
次に、
図16〜
図18に示すインバータ1の動作原理および制御方法について、主としてu相について説明する。
【0022】
モジュラーマルチレベルインバータであるインバータ1における各チョッパセル11−j内の直流コンデンサの電圧v
Cjuの制御は、2つの制御からなる。
【0023】
その1つは、各相独立に実行される、チョッパセル11−j内の直流コンデンサ全ての電圧を平均した値v
Cuaveを所望のコンデンサ電圧指令値v
C*に追従させる制御である。本明細書では、この制御を「平均値制御(Averaging Control)」と称する。
【0024】
もう1つは、各チョッパセル11−jの直流コンデンサの電圧v
Cjuを所望の直流コンデンサ電圧指令値v
C*に追従させる制御である。本明細書では、この制御を「バランス制御(Balancing Control)」と称する。
【0025】
平均値制御の動作原理は以下の通りである。
図19は、モジュラーマルチレベルインバータにおける直流コンデンサの平均値制御を示すブロック図である。ここで、u相の直流コンデンサ全ての電圧を平均した値v
Cuaveは式5で表わされる。
【0026】
【数5】
【0027】
図19より、循環電流i
Zuの電流指令値i
Zu*は、K
1およびK
2をゲインとしたとき、式6で表わされる。
【0028】
【数6】
【0029】
このとき、平均値制御の電圧指令値V
Au*は、K
3およびK
4をゲインとしたとき、式7で表わされる。
【0030】
【数7】
【0031】
平均値制御では、循環電流の実際の電流量i
Zuを指令値i
Zu*に追従させるための電流マイナーループを構成する。実際の循環電流i
Zuは式4より導出されるが、この循環電流i
Zuを電流マイナーループを介して制御することによって、負荷電流i
uに影響を与えることなく平均値制御を実現することができる。式6において、直流コンデンサ全ての電圧を平均した値v
Cuaveが直流コンデンサ電圧指令値v
C*よりも小さい場合(v
Cuave<v
C*)、電流指令値i
Zu*は増加する。実際の循環電流i
Zuが電流指令値i
Zu*よりも減少した場合(i
Zu<i
Zu*)、各チョッパセル11−jの出力電圧v
juを直流側の電源電圧Eに対して減少させ、循環電流i
Zuを増加させる。一方、実際の循環電流i
Zuが電流指令値i
Zu*よりも増加した場合(i
Zu>i
Zu*)、各チョッパセル11−jの出力電圧v
juを直流側の電源電圧Eに対して増加させ、循環電流i
Zuを減少させる。
【0032】
バランス制御の動作原理は以下の通りである。
図20は、モジュラーマルチレベルインバータにおける直流コンデンサのバランス制御を示すブロック図である。上述のように、バランス制御は、各チョッパセル11−jの直流コンデンサの電圧v
Cjuを所望の直流コンデンサ電圧指令値v
C*に追従させる制御である。ここで、バランス制御の電圧指令値をv
Bju*で表わす。
【0033】
各チョッパセル11−jの出力電圧v
juとアーム電流i
Puおよびi
Nuとの間で有効電力を形成することで、直流コンデンサの電圧v
Cjuを直流コンデンサ電圧指令値v
C*に追従させる。例えば、
図16に示す第1のアーム2u−P内の各チョッパセル11−j(ただし、j=1〜4)において、直流コンデンサの電圧v
Cjuが直流コンデンサ電圧指令値v
*Cuよりも小さい場合(v
Cju<v
*Cu)、直流コンデンサの電圧v
Cjuを増加させるためにチョッパセル11−jに正の有効電流を流入させる。このために、式8で示されるバランス制御の電圧指令値v
Bju*(ただし、j=1〜4)を用いる。ここで、K
5をゲインとする。
【0034】
【数8】
【0035】
式8において、v
u*は負荷に印加すべき電圧の指令値を表す。線間電圧指令値の実効値をV
*、周波数をfとしたとき、式9で表わされる。
【0036】
【数9】
【0037】
誘導電動機の可変速駆動システムの場合、v
u*と負荷電流i
uは同相にはならず、i
uがv
u*よりも遅れるが、安定に動作できる。直流コンデンサの電圧v
Cjuが直流コンデンサ電圧指令値v
*Cよりも小さい場合(v
Cju<v
*C)、アーム電流i
Puと電圧指令値v
Bju*は式9より同相となる。したがって、チョッパセル11−jには正の有効電力「v
*Bju×i
Pu」が流入する。一方、直流コンデンサの電圧v
Cjuが直流コンデンサ電圧指令値v
*Cよりも大きい場合(v
Cju>v
*C)、アーム電流i
Puと電圧指令値v
Bju*は式9より逆相となる。したがって、チョッパセル11−jには負の有効電力「v
*Bju×i
Pu」が流入する。
【0038】
同様に、
図16に示す第2のアーム2u−P内の各チョッパセル11−j(ただし、j=5〜8)については、式10で示されるバランス制御の電圧指令値v
Bju*(ただし、j=5〜8)を用いる。ここで、K
5をゲインとする。
【0039】
【数10】
【0040】
このように、モジュラーマルチレベルインバータであるインバータ1における各チョッパセル11−j内の直流コンデンサの電圧v
Cjuは、上記平均値制御および上記バランス制御により制御される。
【0041】
各チョッパセル11−j内の半導体スイッチSW1およびSW2のスイッチング信号を生成するのに用いられる出力電圧指令値の生成について説明する。
図21は、モジュラーマルチレベルインバータにおける各チョッパセルについての出力電圧指令値の生成を示すブロック図である。
【0042】
各チョッパセル11−jの出力電圧指令値v
ju*は、第1のアーム2u−P内のチョッパセル11−j(ただし、j=1〜4)については式11、第1のアーム2u−N内のチョッパセル11−j(ただし、j=5〜8)については式12で表わされる。出力電圧指令値v
ju*の生成にあたっては、直流側の電源電圧Eをフィードフォワード項として利用する。
【0043】
【数11】
【0044】
【数12】
【0045】
上述のようにして生成される出力電圧指令値v
ju*は、各直流コンデンサの電圧v
Cjuで規格化された後、キャリア周波数f
cの三角波キャリア信号と比較され、PWMのスイッチング信号が生成される。生成されたスイッチング信号は、対応するチョッパセル11−j内の半導体スイッチSW1およびSW2のスイッチングに用いられる。なお、各チョッパセル11−jのスイッチング周波数f
sはキャリア周波数f
cと等しい。チョッパセルが例えば8個の場合には、各チョッパセル11−jに対応するキャリア信号の初期位相は45度ずつずらす。すなわち、初期位相は、チョッパセル11−1については0度、チョッパセル11−2については90度、チョッパセル11−3については180度、チョッパセル11−4については270度、チョッパセル11−5については45度、チョッパセル11−6については135度、チョッパセル11−7については225度、チョッパセル11−8については315度とする。また、各相のキャリア信号の初期位相については、120度ずつずらす。これにより、インバータ1の出力電圧の線間電圧は17レベルの交流波形となり、等価スイッチング周波数は8f
cとなる。
【0046】
上述のチョッパセル内のスイッチSW1およびSW2のためのスイッチング信号の生成は、例えばDSPやFPGAなどの演算処理装置を用いて実現される。
【0047】
図16に示したモジュラーマルチレベルインバータ1の変形例として、3端子結合リアクトルを、通常のリアクトル(すなわち、非結合リアクトル)を用いたものもある。
図22は、モジュラーマルチレベルインバータの別の例の主回路構成を示す回路図であり、
図23は、
図22に示すモジュラーマルチレベルインバータ内のリアクトルの配置例を示す回路図である。この例では、第1のアーム2u−P内にチョッパセル11−j(ただし、j=1〜4)とリアクトル12−1とを備え、第2のアーム2u−N内にチョッパセル11−j(ただし、j=5〜8)とリアクトル12−1とを備える。第1のアーム2u−Pにおいては、4個のチョッパセル11−j(ただし、j=1〜4)が、当該チョッパセルが有する出力端を介してカスケード接続されるとともに、リアクトル12−1が、互いにカスケード接続されたチョッパセル間の任意の位置に接続される。また、第2のアーム2u−Nにおいては、4個のチョッパセル11−j(ただし、j=5〜8)が、当該チョッパセルが有する出力端を介してカスケード接続されるとともに、リアクトル12−2が、互いにカスケード接続されたチョッパセル間の任意の位置に接続される。
図22に示すモジュラーマルチレベルインバータ1においては、リアクトル12−1については、一方の端子にチョッパセル11−4が接続され、他方の端子にはリアクトル12−2が接続される。また、リアクトル12−2については、一方の端子にリアクトル12−1が接続され、他方の端子にはチョッパセル11−5が接続される。第1のアーム2u−Pおよび第2のアーム2u−Nの、互いが接続されない側の各端子に、直流電源電圧が印加される。また、第1のアーム2u−Pと第2のアーム2u−Nとの接続端子が、インバータ1のu相の出力端子となる。
【0048】
図22に示すような非結合リアクトルを用いたモジュラーマルチレベルインバータ1においては、リアクトル12−1および12−2は、互いにカスケード接続されたチョッパセル11−j間の任意の位置に接続される。
図23(a)は、
図22に示す第1のアームを示したものであるが、リアクトルの配置位置の他の例として、例えば
図23(b)に示すように、チョッパセル11−1の、直流電源電圧が印加される側の端子に接続してもよい。また、
図23(c)に示すように、チョッパセル11−3とチョッパセル11−4との間に接続してもよい。
【0049】
なお、これ以外の回路構成要素については
図16に示す回路構成要素と同様であるので、同一の回路構成要素には同一符号を付して当該回路構成要素についての詳細な説明は省略する。
【0050】
また、コモンモード電圧を用いないでモジュラーマルチレベルインバータを制御する方法も提案されている(例えば、非特許文献4)。
【0051】
一方、汎用インバータを用いてモータ(誘導電動機)を駆動する場合、可変電圧可変周波数速度制御(以下、「V/f制御」と称する。)が広く用いられている(例えば、非特許文献3)。V/f制御は、モータの始動時から定格周波数に達するまでの間にわたって定トルク運転を実現できる点に特長がある。
【0052】
しかしながら、V/f制御を用いて
図16に示したモジュラーマルチレベルインバータ1を駆動制御した場合、非特許文献3に記載されているように、チョッパセル11−j内の直流コンデンサの電圧に、モータ駆動周波数を主成分とする交流電圧変動が生じる。
図16のチョッパセル11−1の直流コンデンサの電圧v
C1uに含まれる交流変動分v
C1u’は、非特許文献3に記載されているように式13および式14で近似できる。
【0053】
【数13】
【0054】
【数14】
【0055】
ここで、ΔV
C1uはv
C1u’の最大電圧変動、Iはモータに流れ込む電流(以下、単に「モータ電流」と称する。)の実効値、fはモジュラーマルチレベルインバータ1の出力周波数、Cはチョッパセル11−1内の直流コンデンサの静電容量を表わす。
【0056】
式13および式14より、交流変動分v
C1u’は、モータ電流の実効値Iに比例し、出力周波数fに反比例する。したがって、低周波数領域において定格電流と同程度の始動電流が発生するV/f制御をモジュラーマルチレベルインバータ1を用いたモータ駆動に適用すると、モータの始動時に、定格周波数動作時の数倍の交流電圧変動が発生してしまう。
【0057】
このように、モジュラーマルチレベルインバータを用いたモータ駆動では、モータの始動時や低速時に、モジュラーマルチレベルインバータの各チョッパセル内の直流コンデンサの電圧変動が増大し、不安定動作が発生するといった問題がある。
【0058】
この問題を回避するため、始動時のモータ駆動電流について適切な周波数を固定設定して設定する技術が提案されている(例えば、非特許文献5参照。)。
【0059】
同じくこの問題を回避するため、速度センサ付ベクトル制御により始動する技術が提案されている(例えば、非特許文献6参照。)。この技術によれば、モータの始動時や低速時におけるモジュラーマルチレベルインバータの各チョッパセル内の直流コンデンサの電圧変動を抑制するために40〜50Hzのコモンモード電圧と循環電流を重畳し、速度センサ付ベクトル制御を用いて零速度からの始動を実現している。
【発明を実施するための形態】
【0073】
以下に説明する第1および第2の実施例については、主としてu相について説明するが、v相およびw相についても同様である。また、各実施例では、ダブルスターチョッパセル(DSCC)方式のモジュラーマルチレベルカスケードインバータ(MMCI)におけるチョッパセルの個数は一例として8個としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、チョッパセルの個数は偶数個であればよい。
【0074】
図1は、本発明の第1の実施例による速度センサレスモータ始動装置を示す原理ブロック図である。
図2は、本発明の第1の実施例による速度センサレスモータ始動方法の動作フローを示すフローチャートである。
図3は、本発明の第1の実施例に用いられるモジュラーマルチレベルインバータを示す回路図である。
【0075】
本発明の第1の実施例は、
図16〜
図21を参照して説明したモジュラーマルチレベルインバータをモータの駆動に用いた場合に関するものである。すなわち、
図3に示すモジュラーマルチレベルインバータ1の回路構成自体は、
図16に示したそれと同様であり、チョッパセル11−jは
図17に示されたものであり、3端子結合リアクトル12は
図18に示されたものである。チョッパセル11−j内の各半導体スイッチSW1およびSW2が、オン時に一方向に電流を通す半導体スイッチング素子Sと、半導体スイッチング素子Sに逆並列に接続された帰還ダイオードDと、を有する点も同様である。
【0076】
図3に示すように、モジュラーマルチレベルインバータ1の各チョッパセル11−j内の半導体スイッチSW1およびSW2のスイッチング動作の指示に用いられるスイッチング信号は、参照符号10で示されるDSPによって生成される。DSP10には、公知の検出器(図示せず)によって検出された、モジュラーマルチレベルインバータ1の第1のアーム2u−P、2v−Pおよび2w−Pを流れるアーム電流i
Pu、i
Pv、およびi
Pw、第2のアーム2u−N、2v−Nおよび2w−Nを流れるアーム電流i
Nu、i
Nv、およびi
Nw、各チョッパセル11−jにおける直流コンデンサの電圧v
Cju、v
Cjv、v
Cjw、ならびに、インバータ1から出力される各相の電流(すなわち、負荷であるモータに流れ込む各相の電流))i
u、i
v、およびi
w、が入力され、演算処理が実行される。
【0077】
モジュラーマルチレベルインバータ1の制御は、大きく分けて、各チョッパセル内の直流コンデンサ電圧の脈動を抑制する直流コンデンサ電圧制御と、一次電流制御とで構成される。ここで、本発明の第1の実施例による速度センサレスモータ始動制御は、一次電流制御に含まれる。
【0078】
まず、直流コンデンサ電圧制御について説明する。モジュラーマルチレベルインバータ1は、非特許文献2に記載されているように、各チョッパセルの直流コンデンサ電圧が一次電流(アーム電流)の周波数に反比例して変動する。そこで、本発明の第1の実施例においては、モジュラーマルチレベルインバータ1の各チョッパセル内の直流コンデンサの電圧制御として、モータの低速運転時には非特許文献6に記載されている50Hzの方形波状のコモンモード電圧と循環電流を重畳する方形波重畳方法を採用し、モータの中速運転時にはコモンモード電圧を用いない非特許文献4に記載の制御方法を採用する。具体的には次の通りである。
【0079】
モータの低速運転時の直流コンデンサ電圧制御は、非特許文献6に記載されているように、方形波状のコモンモード電圧と循環電流を利用する方法を利用する。このとき、アーム電流の最大値|i
Pu|
maxは、直流リンク電圧をV
dc、方形波状の循環電流指令のためのコモンモード電圧実効値V
com、u相のアーム電流i
uの実効値(以下、「一次電流の実効値」と称することがある)をI
1としたとき、式15のように近似できる。
【0081】
式15の第1項は方形波状の循環電流を示し、第2項はモジュラーマルチレベルインバータ1の上下アームで分担する一次電流を示す。モータの低速運転時に一次電圧に重畳するコモンモード電圧V
comは、変換器の過変調を避けるために、モータの回転速度の増加(誘起電圧の増加)に伴い減少させる必要がある。このとき、式15の第1項で与えられる循環電流指令値がV
comに反比例して増加する。この増加を防ぐために、方形波状の循環電流指令値を一定値として与え、コモンモード電圧と同様に低減させる。V
comを減少させる回転速度は式16で与えられるモジュラーマルチレベルインバータの変調度mが過変調とならないようにし、式17で与えられる直流コンデンサ電圧の変動幅ΔV
Cjuが設計値以下となる速度とする。式16および式17において、直流コンデンサの静電容量をC、直流コンデンサ電圧の平均値をV
C、一次電圧実効値をV
1、一次電流周波数をfとする。
【0084】
このようにモジュラーマルチレベルインバータ1の直流コンデンサ電圧制御においては、直流コンデンサ電圧とアーム電流を検出し、循環電流を制御することで直流コンデンサ電圧の変動を抑制する。したがって、本発明の第1の実施例においては、モジュラーマルチレベルインバータ1の各チョッパセル11−j内の直流コンデンサの電圧を検出するための電圧検出手段と各アームを流れるアーム電流を検出する電流検出手段が設けられる。モジュラーマルチレベルインバータ1では各アーム電流を検出して直流コンデンサ電圧の制御を行うので、誘導電動機の一次電流は電流センサを付加することなく演算により検出できるので、回路構成は複雑にはならない。
【0085】
次にモジュラーマルチレベルインバータ1の一次電流制御について説明する。本発明の第1の実施例による速度センサレスモータ始動制御は、一次電流制御に含まれ、速度センサレスモータ始動装置100により実行される。速度センサレスモータ始動装置100は、上述のDSP10の機能の1つとして構成される。
図1に示すように、本発明の第1の実施例による速度センサレスモータ始動装置100は、一次電流の振幅指令値I
1*と所定の期間にわたって0から所定の値まで増加する周波数指令値f
*とを用いて電流指令値i
u*を作成する電流指令値作成手段31と、第3の端子c(
図18参照)から出力されるモータ駆動電流i
uが電流指令値i
u*に追従するよう制御することでモータを始動させるモータ始動制御手段32と、を備える。モータ始動制御手段32は、モータ駆動電流i
uを電流指令値i
u*に追従させるための相電圧指令値v
u*を出力する。なお、ここではu相について説明したが、v相およびw相についても同様の電流指令値作成手段31およびモータ始動制御手段32が設けられる。
【0086】
速度センサレスモータ始動装置100は、
図3に示すフローチャートに従って動作する。下記各ステップS101およびS102における演算処理は、DSP10によって実行される。まず、ステップS101において、電流指令値作成手段31は、一次電流の振幅指令値I
1*と所定の期間にわたって0から所定の値まで増加する周波数指令値f
*とを用いて電流指令値i
u*を作成する。電流指令値i
u*は式18のように表される。
【0088】
ここで、周波数指令値f
*は所定の期間にわたって0から所定の値まで増加するものであればよく、例えば、ランプ関数状に増加する周波数指令値がある。周波数指令値f
*は例えばメモリに予め記憶しておき、DSP10内の電流指令値作成手段31はモータ始動時にこれをメモリから読み出して電流指令値i
u*の作成に用いる。
【0089】
また、振幅指令値I
1*は、一定値であっても可変値であってもよい。また、振幅指令値I
1*は、例えば駆動すべきモータのイナーシャが既知であるならば予め実験で最適な値を求めておき、これを固定値として用いればよい。また例えば、振幅指令値I
1*作成のための制御回路を別途構成し、駆動すべきモータのイナーシャの変動に応じて振幅指令値I
1*をその都度作成するようにしてもよい。
【0090】
周波数指令値f
*および振幅指令値I
1*の決め方の詳細については後述する。
【0091】
図2のステップS102では、モータ始動制御手段32が、第3の端子cから出力されるモータ駆動電流i
uが電流指令値i
u*に追従するようにするための相電圧指令値として、式19に示されるv
u*を出力する。式19においてKは比例ゲインを示す。
【0093】
なお、ここでは式19に示すように比例制御のみを採用しているが、本発明はこれに限定されず、例えば比例積分(PI)制御を採用してもよい。
【0094】
モータを始動させるための相電圧指令値はuvw各相ごとに作成され、モジュラーマルチレベルインバータ1内の各チョッパセル11−j内の半導体スイッチSW1およびSW2のスイッチング動作の指令として用いられる。
【0095】
上述の速度センサレスモータ始動装置100では、モータ(誘導電動機)の一次電流(
図3のi
u、i
vおよびi
w)を検出しこれを用いて一次電流のフィードバック制御を構成する。以下、これについて説明する。
【0096】
理想状態においては方形波状の循環電流はモジュラーマルチレベルインバータ1のレグ間を循環するため、直流リンク電流や一次電流に表れない。しかし、方形波状の循環電流を現実的に発生させることは困難である。式15より、アーム電流に含まれる方形波状の循環電流は、コモンモード電圧を重畳できる最大値であるV
dc/2に設定したとしても、一次電流の50%の振幅となる。したがってモータの低速運転時に、この循環電流が一次電流に表れると、モータの制御に対して外乱となる。この外乱抑制のために、一次電流のフィードバック制御を行う。
【0097】
図4は、本発明の第1の実施例における一次電流フィードバック制御のブロック図である。一次電流制御の性能向上のために、一次電流の周波数指令値f
*から得られる位相θ
*を用いてdq変換し直流量として制御する。d軸とq軸の電流指令値i
d*とi
q*は、後述する方法によりまず一次電流の振幅指令値I
1*を決定し、これを式20に示すように均等に分担するように設定する。
【0099】
図5は、本発明の第1の実施例において、モータ(誘導電動機)の二次鎖交磁束に着目した一相あたりの等価回路を示す図である。以下では定常状態を仮定する。
図5に示す等価回路の励磁電流I
0は二次鎖交磁束電流に対応し、二次電流I
2はトルク電流に対応する。さらに、モータ(誘導電動機)の励磁電流I
0と二次電流I
2は互いに直交する。
【0100】
図6は、一次電流のフェーザ図である。ここでは、3つの一次電流実効値I
1i、I
1jおよびI
1kの間にI
1i<I
1j<I
1kの関係があると仮定する。虚軸Iの電流は、
図4の励磁電流I
0に対応し、実軸Rの電流は、二次電流I
2に対応する(
図5および
図6においては励磁電流I
0および二次電流I
2に「ドット・」をつけて表現したが、本明細書中の記載ではこれを省略している)。モータトルクT
Mは、極対数をPとしたとき、等価回路より式21のように表せる。
【0102】
図5および式21より、モータトルクT
MはI
1、I
2およびI
0に囲まれた三角形の面積に比例する。負荷トルク一定の条件で、一次電流フェーザがI
1i、I
1j、I
1kの順に変化すると、二次電流実効値はI
2i、I
2j、I
2kの順に減少し、励磁電流実効値はI
0i、I
0j、I
0kの順に増加する。これはI
1、I
2およびI
0に囲まれた三角形の面積を一定に保つように、つまりモータトルクが一定となるように励磁電流と二次電流が変化することを意味している。
【0103】
すべり周波数f
Sは、二次電流実効値I
2と励磁電流実効値I
0との比で表され、式22で与えられる。
【0105】
図6に関してすべり周波数には、f
Si>f
Sj>f
Skの関係があり、最終的にはモータトルクと一次電流から一義的に決定される。
【0106】
次に、電流指令値i
u*の決定方法について説明する。
【0107】
フィードフォワードで与える電流指令値i
u*の実効値である一次電流の振幅指令値I
1*と周波数指令値f
*は、モータトルクT
Mと負荷トルクから決定する。ここで、一次電流実効値I
1は式23で与えられる。
【0109】
式21および式22より、モータトルクT
Mとすべり周波数f
Sから励磁電流実効値I
0と二次電流実効値I
2が決定され、式23より一次電流実効値I
1が与えられる。一次電流の振幅指令値I
1*は、モジュラーマルチレベルインバータ1の電流容量が増加しないように、アーム電流の最大値が誘導電動機の定格電流以下となるように設定する。
【0110】
モータ(誘導電動機)を加速させるために、式24を満足するようにモータトルクT
Mを決定する。式24において、モータの慣性モーメントをJ
M、負荷の慣性モーメントをJ
L、モータの回転角周波数をω
m、負荷トルクをT
Lとする。
【0112】
周波数指令値f
*はモータの回転角速度ω
mに対応し、その変化の割合は設定したモータトルクT
Mと負荷トルクT
Lの関係から、式24を満たすように設定する。
【0113】
上述の電流指令値i
u*は、
図5に示す等価回路をベースに決定するか、あるいは実験により決定する。
【0114】
図5に示す等価回路をベースに電流指令値i
u*を決定する場合は、負荷トルクT
Lを推定し、電動機定数を用いて解析的に決定する。ファン、ブロア、ポンプおよびコンプレッサなど2乗低減トルク負荷を想定した場合、始動トルクには30〜40%必要である。誘導機回転速度が増加すると負荷トルクT
Lが低下し、負荷トルクT
Lがモータの回転速度の2乗に比例する特性を示す。このような2乗低減トルク負荷がモータに接続されている場合は、2乗低減負荷トルク特性から電流指令値i
u*を決定することで高効率なモータ始動を実現することができる。
【0115】
一方で、回転数に対する負荷トルク特性が未知の場合には、電流指令値i
u*は実験的に決定する。電流指令値i
u*の振幅指令値I
1*は、アーム電流の最大値がモータの定格電流を超えない範囲で実験的に調整し、周波数指令値f
*の変化率(すなわち増加率)は式24を満たすように調整することで、負荷トルクと加速トルクとの和に等しいモータトルクを発生させる。このように、V/f制御と同様に本発明では電動機定数やケーブル定数を用いることなく電流指令値i
u*を決定することができる。
【0116】
次に、本発明と従来のV/f制御と従来のすべり周波数制御とを比較する。本発明の第1の実施例による速度センサレスモータ始動装置100は、モータ(誘導電動機)の一次電流(
図3のi
u、i
vおよびi
w)を検出しこれを用いて一次電流のI
1フィードバック制御を構成している点で従来のV/f制御やすべり周波数制御と類似している。しかしながら、本発明の第1の実施例による速度センサレスモータ始動装置100では、負荷トルクに応じて一次電流の振幅指令値I
m*と周波数指令値f
*をフォードフォワードで与えるオープンループ制御である点に特徴がある。
【0117】
表1に、本発明によると従来のV/f制御と従来のすべり周波数制御との関係を示す。
【0119】
まず、本発明による制御とV/f制御とを比較する。V/f制御では独立変数は一次電圧V
1と一次周波数fであり、一次電圧V
1のフィードフォワード制御を行っており、その結果として、従属変数である一次電流I
1とすべり周波数f
Sが決定される。一方、本発明による制御においては独立変数は一次電流I
1と一次周波数fであり、一次電流I
1のフィードバック制御を行うことから、その結果として、従属変数である一次電圧V
1とすべり周波数f
Sが決定される。また、V/f制御では負荷トルク急変時の過電流が問題となる。このため、V/f制御では、過電流を抑制するために、電流センサを取り付け一次電流を監視し、電流制限をかけるのが一般的である。一方、本発明による制御によれば、一次電流のフィードバックループを構成しているので過電流は発生しない。また、本発明による制御によれば、推定負荷トルクからモータトルクを設定することで、従属変数として与えられるすべり周波数を任意に設定できる。なお、本発明による制御およびV/f制御ともにモータの検出速度については制御パラメータとして用いておらず、したがって速度センサは必要ない。
【0120】
次に本発明による制御とすべり周波数制御とを比較する。すべり周波数制御では、独立変数として一次電流I
1およびすべり周波数f
Sを与える。その結果として、従属変数である一次電圧V
1と一次周波数fが決定される。しかし、従来のすべり周波数制御が速度センサを用いてモータ回転速度を検出し、一次電流の振幅と周波数の指令値を決定するのに対し、本発明による制御では、一次電流の振幅指令値I
1*と周波数指令値f
*をフォードフォワードで与える点で異なる。したがって、すべり周波数制御は速度センサが不可欠であるのに対し、本発明による制御では速度センサは不要である。また、すべり周波数制御では負荷トルクが変化したとしてもすべり周波数を制御できるのに対し、本発明による制御ではすべり周波数は負荷トルクに応じて変化する。
【0121】
このように本発明による制御は、従来のV/f制御およびすべり周波数制御の特徴を併せ持つ。具体的にいえば、本発明による制御は、一次電流フィードバック制御によって過電流を発生することなく、速度センサレスで安定に始動を行うことができる特徴がある。しかし、本発明による制御は、負荷トルク急変時にはすべり周波数は制御できないので、2乗低減負荷でしかも比較的速度変化や負荷トルク変化の緩やかな大容量のファン、ブロア、ポンプおよびコンプレッサなどの可変速駆動に適しているといえる。
【0122】
次に、本発明の第1の実施例による速度センサレスモータ始動装置の実験結果について説明する。
【0123】
図7は、本発明の第1の実施例による速度センサレスモータ始動方法についての実験に用いた回路を示す図である。
【0124】
実験には、
図7に示す回路を用いた。表2は、
図7に示すモジュラーマルチレベルインバータの回路定数を示す。表2に示す結合インダクタについては、400V、15kW、50Hzをベースにしたパーセントインピーダンスを表している。
【0126】
実験における制御システムは、DSPおよびFPGAをベースとした全ディジタル制御により実現し、デッドタイムは4μ秒、各チョッパセル11−jのキャリア周波数f
cは2kHzとした。DSPには、テキサスインスツルメンツ(Texas Instruments)社のTMS320C6713を用いた。また、FPGAにはアルテラ社のAltera Cyclone IIを用いた。
【0127】
表3は、実験において負荷として用いた誘導電動機の仕様を示す。
【0129】
また、
図7に示す回生負荷は、インバータ1で駆動するモータの始動負荷トルクを模擬するためのものであり、190V、15kW定格、極対数4の誘導発電機IGとBTB(Back−to−Back)構成の変換器21および22とで構成した。これにより、ベクトル制御を適用することで誘導電動機IMの瞬時負荷トルクτ
Lを可変にした。
【0130】
図7に示す実験システムの三相12パルス整流回路と
図3の直流リンクには、電解コンデンサやフィルムコンデンサは接続していない。なお、
図7では三相12パルス整流回路用変圧器を使用しているが、三相6パルス整流回路を使用する場合にはトランスレスが実現できる。
【0131】
本発明の第1の実施例によるモータ始動装置における始動特性についての実験結果を示す
図8〜
図11に示す。
図8〜11の一次線間電圧v
1uvは、スイッチングリプル除去を目的としたローパスフィルタ(カットオフ周波数400Hz)を使用して基本波電圧を抽出している。実験では、モジュラーマルチレベルインバータ1の各チョッパセル11−jの直流コンデンサ電圧指令値V
c*を140Vに設定した。モータの低速運転時の直流コンデンサ電圧変動の抑制制御は、非特許文献6に記載の方形波重畳方式を採用した。重畳する方形波状のコモンモード電圧の実効値V
comを240V(V
DC/2=280Vで規格化したとき64%)に、その周波数はf
comを50Hzに設定した。一次電流の振幅指令値I
1*と周波数指令値f
Sの変化率は予め実験をして決定した。
【0132】
図8は、本発明の第1の実施例によるモータ始動装置における無負荷時の始動特性についての実験結果を示す図である。
【0133】
図8の実験では、一次電流の振幅指令値I
1*は6.4A(20%)とし、周波数指令値f
*は20秒間で0Hzから20Hzまで増加するランプ関数で与えた。この場合の加速トルクは、式24から定格トルクの1.3%となる。一次線間電圧v
1uvは従来のV/f制御と同様の特性を示し、その振幅は回転速度に比例して増加する。モータの回転速度N
rmは、0から同期速度の600min
-1までランプ関数状に増加する。モータの低速運転時に重畳する方形波状のコモンモード電圧と循環電流は、t=t
0からt=t
1の期間にランプ関数状に低減させる。低減を開始する一次電流周波数は、変換器のPWM変調度が過変調とならない値に設定する。実験では、変調度が0.9となる周波数である12Hzから20Hzの期間で低減させている。アーム電流i
Puおよびi
Nuに着目すると、t=t
0以前は方形波状の循環電流を重畳させているために振幅が大きくなり、t=t
1以降は方形波状の循環電流を0とするために振幅が小さくなる。直流コンデンサ電圧v
C1uおよびv
C5uは指令値140Vに対して良好に追従している。直流コンデンサ電圧v
C1uおよびv
C5uの変動幅は19V(14%)となった。
【0134】
図9および
図10は、本発明の第1の実施例によるモータ始動装置において、負荷トルクを定格の20%としたときの始動特性についての実験結果を示す図である。
【0135】
図9の実験における一次電流の振幅指令値は、定格すべり周波数(0.36Hz)付近となるように調整した電流値I
1*=10A(31%)とした。モータの回転速度N
rmの最終値は、591min
-1となり、その時のすべり周波数は0.30Hzとなる。アーム電流i
Puおよびi
Nuの最大値は、モータの定格電流(45A)以下の23A(51%)となった。直流コンデンサ電圧v
C1uおよびv
C5uの変動幅は、28V(20%)となった。
【0136】
図10の実験における一次電流の振幅指令値は、I
1*=10A(50%)に増加させた。
図10から、一次電流の振幅指令値を任意の値に増加させても安定に始動できることが確認できる。モータの回転速度N
rmの最終値は、596min
-1に増加し、すべり周波数は0.10Hzに低下する。すべり周波数の低下は、
図6に示す励磁電流I
0が増加し、二次鎖交磁束が増加したことを意味している。I
1*を10Aから16Aに増加させたため、
図8の実験結果と比較して一次線間電圧v
1uvの振幅が増加している。アーム電流i
Puおよびi
Nuの最大値は、定格以下の38A(84%)となった。直流コンデンサ電圧v
C1uおよびv
C5uの変動幅はI
1が増加したため46V(33%)に増大した。
【0137】
図11は、本発明の第1の実施例によるモータ始動装置において、負荷トルクを定格の40%としたときの始動特性についての実験結果を示す図である。
【0138】
図11の実験における一次電流の振幅指令値は、定格すべり周波数付近となるように調整した電流値I
1*=14A(43%)とした。モータの回転速度N
rmの最終値は590min
-1であり、そのときのすべり周波数は0.33Hzとなる。アーム電流i
Puおよびi
Nuの最大値は定格以下の34A(76%)となった。直流コンデンサ電圧v
C1uおよびv
C5uの変動幅は36V(26%)となった。
【0139】
本発明の第1の実施例によるモータ始動装置における定常特性についての実験結果を示す
図12〜
図14に示す。
図10〜
図14の実験では、負荷トルクT
Lを定格の40%、一次電流指令値I
1*=14A(43%)とした。
【0140】
図12は、本発明の第1の実施例によるモータ始動装置において、周波数指令値f
*を0.5Hzに設定したときのモータの極低速運転時の定常特性についての実験結果を示す図である。
【0141】
図12の実験において、重畳するコモンモード電圧V
comは180V(64%)に設定している。
図12から、モータの極低速運転時においても直流コンデンサ電圧は指令値に良好に追従していることがわかる。モータの回転速度N
rmは6min
-1であり、そのときのすべり周波数は0.30Hzとなる。アーム電流i
Puおよびi
Nuの最大値は定格以下の30A(66%)となった。直流コンデンサ電圧v
C1uおよびv
C5uの変動幅は25V(18%)となった。
【0142】
図13は、本発明の第1の実施例によるモータ始動装置において、周波数指令値f
*を15Hzに設定したときのモータの極低速運転時の定常特性についての実験結果を示す図である。
【0143】
図13の実験において、重畳するコモンモード電圧V
comはf
*=20Hzで0Vとなるように設定したため、15Hzではコモンモード電圧V
comは113V(40%)となる。アーム電流i
Puおよびi
Nuの最大値は、重畳する50Hzの方形波状の循環電流を低減させているため、
図12の周波数指令値f
*が0.5Hzの時より低い25A(55%)となった。このときモータの回転速度N
rmは440min
-1となり、すべり周波数は0.33Hzとなった。
図13から、コモンモード電圧低減時においても直流コンデンサ電圧v
C1uおよびv
C5uは指令値に良好に追従することがわかる。直流コンデンサ電圧v
C1uおよびv
C5uの変動幅は36V(26%)となった。
【0144】
図14は、本発明の第1の実施例によるモータ始動装置において、周波数指令値f
*を20Hzに設定したときのモータの極低速運転時の定常特性についての実験結果を示す図である。
【0145】
図14の実験において、重畳するコモンモード電圧V
comは0(0%)に設定した。アーム電流i
Puおよびi
Nuの最大値は、方形波状の50Hzの循環電流を重畳していないため、定格より十分に低い15A(33%)となった。モータの回転速度N
rmは590min
-1となり、すべり周波数は0.33Hzとなった。直流コンデンサ電圧v
C1uおよびv
C5uの変動幅は、28V(20%)となった。
【0146】
上述の
図8〜
図14の実験結果から、本発明の第1の実施例による速度センサレスモータ始動装置において一次電流のフィードバック制御系を構成し、負荷トルクに応じて一次電流指令値を適切に調整することによって、ゼロ速度から中速度までの安定した始動が実現できることを確認できる。
【0147】
上述の第1の実施例は3端子結合リアクトルを用いたものであるが、
図22を参照して説明した非結合リアクトルを用いたモジュラーマルチレベルインバータ1を用いても、第1の実施例によるモータ始動方法の動作原理を適用することができ、本明細書ではこれを第2の実施例として扱う。
【0148】
図15は、本発明の第2の実施例によるモジュラーマルチレベルインバータを示す回路図である。すなわち、本発明の第2の実施例は、
図3における3端子結合リアクトル12を、
図15では非結合リアクトル12−1および12−2に置き換えたものである。モジュラーマルチレベルインバータ1の出力端子は、第1の実施例の場合は3端子結合リアクトル12の第3の端子であったが、第2の実施例では、u相の場合、第1のアーム2u−Pと第2のアーム2u−Nとの接続端子である。これ以外の回路構成要素とこのモジュラーマルチレベルインバータ1を用いたモータ始動方法の動作原理および制御方法については
図1〜
図14を参照して説明した第1の実施例と同様である。