特許第6265362号(P6265362)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6265362-CIGS系化合物太陽電池 図000003
  • 特許6265362-CIGS系化合物太陽電池 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6265362
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】CIGS系化合物太陽電池
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0749 20120101AFI20180115BHJP
【FI】
   H01L31/06 460
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-283071(P2012-283071)
(22)【出願日】2012年12月26日
(65)【公開番号】特開2013-211524(P2013-211524A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2015年9月24日
(31)【優先権主張番号】特願2012-40152(P2012-40152)
(32)【優先日】2012年2月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】寺地 誠喜
(72)【発明者】
【氏名】河村 和典
(72)【発明者】
【氏名】西井 洸人
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 太一
【審査官】 山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−323733(JP,A)
【文献】 特開2013−093484(JP,A)
【文献】 特開2010−192689(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02−31/078、31/18−31/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、少なくともI-III-VI族化合物半導体層と、バッファ層と、透明電極層とをこの順で備え、上記バッファ層が上記I-III-VI族化合物半導体層に接しており、上記バッファ層がIIa族金属およびZn酸化物の混晶とし、上記混晶のX線回折によって示される特性が、下記の式(1)〜(4)のいずれも満たしていることを特徴とするCIGS系化合物太陽電池。
0.5≦A/(A+B+C)<1 ・・・(1)
0<B/(A+B+C)<0.2 ・・・(2)
0<C/(A+B+C)<0.3 ・・・(3)
0.7<(A+C)/(A+B+C)<1 ・・・(4)
(ただし、A,B,Cはいずれも0ではない)
A:(002)面におけるピーク強度
B:(100)面におけるピーク強度
C:(101)面におけるピーク強度
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CIGS系化合物太陽電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Ib族、IIIb族およびVIb族の元素からなるCuInSe2(CIS)あるいはこれにGaを固溶させたCu(In,Ga)Se2(CIGS)化合物半導体(I-III-VI族化合物半導体)を光吸収層に用いた化合物太陽電池は、高い光変換効率(以下「変換効率」とする)を有し、薄膜に形成できるとともに、光照射等による変換効率の劣化が少ないという利点を有していることが知られている。
【0003】
このようなCISまたはCIGS(以下「CIGS系」という)化合物半導体を光吸収層に用いたCIGS系太陽電池のバッファ層には、一般に、化学析出法で形成したCdSやZn(O,S)等が用いられている(例えば、特許文献1参照)。しかし、化学析出法でバッファ層を形成する場合は、真空下で蒸着あるいはセレン化法によりCIGS系化合物半導体層を形成した後に、一旦、大気下に取り出してバッファ層を形成し、再び真空下で透明電極層を形成する必要があり、生産性に劣るという問題がある。
【0004】
そこで、この問題を解決するため、バッファ層の形成を、大気下に取り出すことなく真空下で、連続的にスパッタ法により行うことが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−343987号公報
【特許文献2】特開2002−124688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2にあるように、スパッタ装置として汎用されているマグネトロンスパッタ装置を用いて真空下で連続的にバッファ層を形成すると、生産効率は改善されるものの、変換効率の改善は見込めない。このため、生産性を高めるとともに、より一層の高い変換効率を実現させることが強く望まれている。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑み、バッファ層を、大気下に取り出すことなく真空下で形成することができ、しかも、従来にない高い変換効率のCIGS系化合物太陽電池を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明は、基板上に、少なくともI-III-VI族化合物半導体層と、バッファ層と、透明電極層とをこの順で備え、上記バッファ層が上記I-III-VI族化合物半導体層に接しており、上記バッファ層がIIa族金属およびZn酸化物の混晶とし、上記混晶のX線回折によって示される特性が、下記の式(1)〜(4)のいずれも満たしているCIGS系化合物太陽電池をその要旨とする。
0.5≦A/(A+B+C)<1・・・(1)
0<B/(A+B+C)<0.2 ・・・(2)
0<C/(A+B+C)<0.3 ・・・(3)
0.7<(A+C)/(A+B+C)<1 ・・・(4)
(ただし、A,B,Cはいずれも0ではない)
A:(002)面におけるピーク強度
B:(100)面におけるピーク強度
C:(101)面におけるピーク強度
【発明の効果】
【0009】
本発明のCIGS系化合物太陽電池は、カルコパイライト構造を有するI-III-VI族化合物半導体を光吸収層として有するとともに、そのバッファ層が、IIa族金属およびZn酸化物の混晶からなっている。このため、I-III-VI族の化合物半導体層とバッファ層との境界で、高い変換効率の電流を生み出すようになっている。また、上記混晶のX線回折によって示される特性が、上記の式(1)を満たすようになっているため、CIGS系化合物太陽電池において、従来にない高い変換効率を達成することができる。
【0010】
また、混晶のX線回折によって示される特性が、下記の式(2)を満たしているため、バッファ層にクラックが入りにくくなるとともに、電子が透明電極層側に流れにくくなることによる電流の損失を減少させることができる。
0<B/(A+B+C)<0.2 ・・・(2)
(ただし、A,B,Cはいずれも0ではない)
A:(002)面におけるピーク強度
B:(100)面におけるピーク強度
C:(101)面におけるピーク強度
【0011】
さらに、混晶のX線回折によって示される特性が、下記の式(3)を満たしているため、バッファ層にクラックが入りにくくなるとともに、電子が透明電極層側に流れにくくなることによる電流の損失をより減少させることができる。
0<C/(A+B+C)<0.3 ・・・(3)
(ただし、A,B,Cはいずれも0ではない)
A:(002)面におけるピーク強度
B:(100)面におけるピーク強度
C:(101)面におけるピーク強度
【0012】
そして、混晶のX線回折によって示される特性が、下記の式(4)を満たしているため、バッファ層にクラックが入りにくくなるとともに、バッファ層がCIGS層の界面とより欠陥なく結合でき、界面電子が透明電極層側に流れにくくなることによる電流の損失をさらに減少させることができる。
0.7<(A+C)/(A+B+C)<1 ・・・(4)
(ただし、A,B,Cはいずれも0ではない)
A:(002)面におけるピーク強度
B:(100)面におけるピーク強度
C:(101)面におけるピーク強度
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施の形態におけるCIGS太陽電池の断面図である。
図2】上記CIGS太陽電池のバッファ層を形成する装置におけるターゲットの配置状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
つぎに、本発明を実施するための形態について説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施の形態におけるCIGS太陽電池の断面図である。このCIGS太陽電池は、基板1と、裏面電極層2と、CIGS光吸収層(化合物半導体層)3と、バッファ層4と、透明電極層5とをこの順で備え、上記バッファ層4が、IIa族金属およびZn酸化物の混晶からなり、この混晶のX線回折によって示される特性が、下記の式(1)を満たすようになっている(下記A,B,Cは以下において同じ)。
0.5≦A/(A+B+C)<1・・・(1)
(ただし、A,B,Cはいずれも0ではない)
A:(002)面におけるピーク強度
B:(100)面におけるピーク強度
C:(101)面におけるピーク強度
【0016】
以下に、このCIGS太陽電池を、詳細に説明する。なお、図1において、厚み、大きさ、外観等は模式的に示したものであり、実際のものとは異なっている(図2において同じ)。
【0017】
上記基板1は、ガラス基板、金属基板、樹脂基板等を用いることができる。上記ガラス基板としては、アルカリ金属元素の含有量が極めて低い低アルカリガラス(高杢点ガラス)、アルカリ金属元素を含まない無アルカリガラス、青板ガラス等があげられる。ただし、低アルカリガラス、無アルカリガラス、金属基板、樹脂基板を用いる場合には、CIGS光吸収層3の形成中もしくは形成後に、Naを微量添加することが望ましい。
【0018】
また、上記基板1の形状が、可撓性を有する長尺状であると、ロールトゥロール方式またはステッピングロール方式でCIGS化合物太陽電池を製造することができるため、好ましい。上記「長尺状」とは長さ方向が幅方向の10倍以上あるものをいい、30倍以上あるものがより好ましく用いられる。さらに、基板1の厚みは、5〜200μmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは10〜100μmの範囲である。すなわち、厚みが厚すぎると、CIGS化合物太陽電池の屈曲性が失われ、CIGS化合物太陽電池を曲げた際にかかる応力が大きくなり、CIGS光吸収層3等の積層構造にダメージを与えるおそれがあり、逆に薄すぎると、CIGS化合物太陽電池を製造する際に、基板1が座屈して、CIGS化合物太陽電池の製品不良率が上昇する傾向がみられるためである。
【0019】
つぎに、上記基板1の上に形成された裏面電極層2は、スパッタ法、蒸着法、インクジェット法等により形成することができ、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、クロム(Cr)、チタン(Ti)等が単層もしくは複層に形成されている。また、その厚み(複層の場合は、各層の厚みの合計)は、10〜1000μmの範囲にあることが好ましい。なお、基板1が裏面電極層2の機能を有する場合(導電性を有する場合)には、この裏面電極層2を設けなくてもよい。また、基板1由来の不純物が熱拡散するとCIGS化合物太陽電池の性能が悪影響を受けるため、これを防止することを目的として、基板1または裏面電極層2の上にバリア層(図示せず)を設けてもよい。このようなバリア層は、例えば、Cr等を用いて、スパッタリング法、蒸着法、CVD法、ゾル・ゲル法、液相析出法等によって形成することができる。
【0020】
さらに、裏面電極層2の上に形成されたCIGS光吸収層(化合物半導体層)3は、銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)の4元素を含む化合物半導体からなっている。そして、その厚みは、1.0〜3.0μmの範囲にあることが好ましく、1.5〜2.5μmの範囲にあることがより好ましい。厚みが薄すぎると、光吸収層として用いた際の光吸収量が少なくなり、太陽電池の性能が低下する傾向がみられ、逆に、厚すぎると、CIGS光吸収層3の形成にかかる時間が増加し、生産性に劣る傾向がみられるためである。このようなCIGS光吸収層3の形成方法としては、真空蒸着法、セレン化/硫化法、スパッタ法等があげられる。
【0021】
また、上記CIGS光吸収層3におけるCu、In、Gaの組成比は、0.7<Cu/(Ga+In)<0.95(モル比)の式を満たすことが好ましい。この式を満たすようになっていると、上記CIGS光吸収層3内にCu(2-x)Seが過剰に取り込まれることをより阻止でき、しかも層全体としてわずかにCuが不足した状態にできるためである。また、同属元素であるGaとInとの比は、0.10<Ga/(Ga+In)<0.40(モル比)の範囲にあることが好ましい。
【0022】
そして、上記CIGS光吸収層3の上に形成されたバッファ層4が、IIa族金属およびZn酸化物の混晶からなり、上述のとおり、この混晶がX線回折によって示される特性が上記式(1)を満たすようになっている。これが本発明の最大の特徴である。上記混晶の特性が上記式(1)を満たすことは、そのAピーク強度がB,Cに比べて非常に強いことを示しており、A/(A+B+C)=1のときは(002)の完全配向を示している。すなわち、上記式(1)を満たすことは、(002)配向、すなわち、C軸(CIGS光吸収層3から透明電極層5に向かう方位)に、上記混晶が配向する割合が高いことを示している。その結果、CIGS光吸収層3で生成した電子が、粒界等で再結合することなく透明電極層に到達する割合が高まるため、変換効率が向上すると推察される。なお、A/(A+B+C)<0.5であると、変換効率が著しく低下し、本発明の効果を得ることができない。また、A/(A+B+C)=1であると、バッファ層4にクラックが生じやすくなり、CIGS太陽電池の電池特性の低下およびハンドリング性が悪くなる傾向がみられる。
【0023】
さらに、上記混晶の特性が上記式(1)だけでなく、上記式(2)〜(4)を満たしているため、変換効率の損失の低減ができるだけでなく、基材1としてフレキシブル基板を用いた場合であっても、バッファ層4にクラックが入りにくくなり、高い変換効率を維持することができるので好適である。すなわち、バッファ層4は、(002)配向の結晶だけではなく、(100)(101)配向の結晶をわずかに有することで、クラックが生じにくくなり、変換効率が向上する。
【0024】
上記バッファ層4は、上記CIGS光吸収層3とpn接合できるよう、高抵抗のn型半導体であることが好ましく、単層だけでなく、複数の層を積層したものであってもよい。バッファ層4として、複数の層が積層したものを用いると、上記CIGS光吸収層3とのpn接合をより良好にできる。このようなバッファ層4の形成材料としては、MgおよびZnOの混晶の他、CdS、ZnMgO、ZnCaO、ZnMgCaO、ZnMgSrO、ZnSrO、ZnO、ZnS、Zn(OH)2、In23、In23およびこれらの混晶であるZn(O,S,OH)、Zn(O,S)等があげられる。また、その厚みは、50〜200nmの範囲にあることが好ましい。
【0025】
上記バッファ層4は、例えば、対向ターゲットスパッタ法において、一対のターゲットの印加を、高周波(RF)電源を用いて、もしくは高周波(RF)電源に直流(DC)電源を重畳することによって、形成することができる。上記対向ターゲットスパッタ法は、一般的なマグネトロンスパッタ法とは異なり2枚の陰極ターゲットを対向して配置し、ターゲット表面に垂直に片方のターゲットからもう一方のターゲットに向かって磁界を印加してスパッタリングを行う方法である。この対向ターゲットスパッタ法において、基板1は、ターゲットの側面にターゲットと垂直に設置される。
【0026】
また、対向ターゲットスパッタ法のなかでも、上記1対のターゲットを、図2に示すように、基板1の層形成面から垂直状に延びる仮想中心軸Xを想定し、この仮想中心軸Xを挟んだ両側にこれら2枚のターゲット6,6’を対向して配置したものを用いると、上記式(1)に示される特性を有するバッファ層4をより得やすいため好適である。このとき、ターゲット6,6’のうち少なくとも一方のターゲットの、仮想中心軸Xに対する角度θが5〜15°の範囲に設定されていると、上記式(1)に示される特性を有するバッファ層4を、一層得やすいため好ましい。なお、図2においては、基板1に形成された裏面電極層2およびCIGS光吸収層3の図示を省略している。
【0027】
得られたバッファ層4が上記式(1)を満たすか否かは、例えば、ブルカー社製のXRD D8 DISCOVER with GADTSの装置を用い、入射角5°固定、ディテクタースキャン3°/minの条件で測定することにより、確認することができる。なお、上記バッファ層4が複層である場合は、少なくともCIGS光吸収層3に接する層が、上記式(1)を満たしていればよい。また、バッファ層4が上記式(2)〜(4)を満たすか否かについても、上記同様の条件で測定することにより、確認することができる。
【0028】
つぎに、上記バッファ層4の上に形成された透明電極層5は、高透過率を有する材料により形成されることが好ましく、ITO、IZO、酸化亜鉛アルミニウム(AlZnO)等を用いて形成することができる。また、その厚みは、50〜300nmの範囲にあることが好ましい。そして、この透明電極層5の光透過率は、80%を超えるものであることが好ましい。なお、このような透明電極層5は、例えば、スパッタ法、蒸着法、有機金属気相成長法(MOCVD法)等により形成することができる。
【0029】
この構成によれば、バッファ層4をスパッタで連続的に得ることができ、しかも、CIGS光吸収層3がカルコパイライト構造を有しているため、変換効率がよい。したがって、CIGS光吸収層3を薄膜にでき、CIGS太陽電池全体を薄膜に構成できる。また、CIGS太陽電池を薄膜に構成できるため、利用しない波長の光を高い確率で透過させることができ、電池の使用用途、利用部位の幅を広げることができる。さらに、バッファ層4がIIa族金属およびZn酸化物の混晶からなり、上述のとおり、この混晶がX線回折によって示される特性が上記式(1)を満たすようになっているため、一層変換効率がよい。さらに、X線回折によって示されるバッファ層4の特性が上記(2)〜(4)を満たすようになっていると、基材1としてフレキシブル基板を用いた場合であってもバッファ層4にクラックが入りにくく、ハンドリング性に優れる。
【実施例】
【0030】
つぎに、実施例について比較例および参考例と併せて説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
〔実施例1〕
(裏面電極層の形成)
まず、脱脂したソーダライムガラス(厚み0.55mm、大きさ20mm)からなる基板の表面に、マグネトロンスパッタ装置(アルバック社製、型番SH−450)を用いて、放電ガスにはアルゴンを使用し、スパッタ圧力が1Paとなるよう直流(DC)電源を用い、スパッタレート60m/minで、厚み0.8mmのMoからなる裏面電極層を形成した。
【0032】
(CIGS光吸収層の形成)
つぎに、上記で形成された裏面電極層の上に、CIGS光吸収層を形成した。すなわち、真空蒸着装置のチャンバー内に、Ga、In、Cu、Seのそれぞれを蒸着源として配置し、このチャンバー内を真空度1×10-4Paとし、基板を、昇温速度550℃/hにて550℃まで加熱した。このとき、上記蒸着源をそれぞれGa(950℃)、In(780℃)、Cu(1100℃)、Se(140℃)となるように加熱し、これらの元素を同時に蒸発させることにより、上記裏面電極層の上にCIGS光吸収層を形成した。得られたCIGS光吸収層の組成(原子数%)は、Cu/III族=0.89、Ca/III族=0.31であり、膜厚は2.1μmであった。
【0033】
(バッファ層の形成)
つづいて、上記で形成されたCIGS光吸収層の上に、バッファ層を形成した。バッファ層は、図2に示す一対のターゲット6,6’が略V字に配置された対向ターゲットスパッタ装置(中心線に対するターゲット6,6’の角度θがそれぞれ10°)を用いて形成した。このとき、スパッタリングターゲットには、Zn0.85Mg0.15Oなる組成のターゲットを用い、ターゲット6’のエッジ6’aを基板1表面から160mm離れた位置に設置し、基板1の温度を25℃に設定した。本ターゲット6,6’を組成分析したところ、Mgに対して約3原子数%のCaが混在していた。スパッタ時の放電ガスにはアルゴンを用い、高周波(RF)電源にて、電力密度0.7W/cm2、スパッタ圧力0.3Paで、膜厚70nmとなるよう電力および形成時間を調整した。なお、ターゲット6’のエッジ6’aは、基板1から最短距離にある個所を示している。
【0034】
(透明電極層の形成)
さらに、上記で形成されたバッファ層の上に、透明電極層を形成した。透明電極層は、マグネトロンスパッタ装置(アルバック社製、型番SH−450)を用いて形成した。このとき、スパッタリングターゲットは、ITO(In23:90〔原子数%〕、SnO2:10〔原子数%〕)なる組成のターゲットを用いた。スパッタ時の放電ガスにはアルゴンガスおよびアルゴンガス流量の1/10のO2ガスを併用し、高周波(RF)電源にて、電力密度1.6W/cm2、スパッタ圧力0.3Pa、スパッタレート20nm/minで、厚み200nmのITO膜(透明電極層)を形成し、実施例1のCIGS太陽電池を得た。実施例1のバッファ層のX線回折によって示される特性は、A/(A+B+C)=0.6を示していた。
【0035】
〔実施例2〕
バッファ層形成の条件を、高周波(RF)電源にて、電力密度6.0W/cm2で行った他は、実施例1と同様にして、実施例2のCIGS太陽電池を得た。実施例2のバッファ層のX線回折によって示される特性は、A/(A+B+C)=0.8を示していた。
【0036】
〔実施例3〕
バッファ層形成の条件を、直流(DC)電源(電力密度6.0W/cm2)+高周波(RF)電源(電力密度6.0W/cm2)の重畳で行った他は、実施例1と同様にして、実施例3のCIGS太陽電池を得た。実施例3のバッファ層のX線回折によって示される特性は、A/(A+B+C)=0.7を示していた。
【0037】
参考
バッファ層形成の条件を、直流(DC)電源(電力密度2.5W/cm2)+高周波(RF)電源(電力密度0.5W/cm2)の重畳とし、スパッタ圧力0.1Paで、ター
ゲット6'のエッジ6'aを基板1表面から40mm離れた位置に設置し(Y=40mm)、基板1の温度を200℃に設定して、バッファ層の形成を行った他は、実施例1と同様にして、参考のCIGS太陽電池を得た。参考のバッファ層のX線回折によって示される特性は、A/(A+B+C)=0.6を示していた。
【0038】
参考
バッファ層形成の条件を、直流(DC)電源(電力密度2.5W/cm2)+高周波(RF)電源(電力密度1.5W/cm2)の重畳とし、スパッタ圧力0.1Paで、ター
ゲット6'のエッジ6'aを基板1表面から160mm離れた位置に設置し(Y=160mm)、基板1の温度を200℃に設定した他は、実施例1と同様にして、参考のCIGS太陽電池を得た。参考のバッファ層のX線回折によって示される特性は、A/(A+B+C)=0.7を示していた。
【0039】
〔比較例1〕
バッファ層の形成を、一般的なマグネトロンスパッタ装置(アルバック社製、型番SH−450)で行った他は、実施例1と同様にして、比較例1のCIGS太陽電池を得た。なお、マグネトロンスパッタは、直流(DC)電源(電力密度0.5W/cm2)を用いた。比較例1のバッファ層のX線回折によって示される特性は、A/(A+B+C)=0.2を示していた。
【0040】
〔比較例2〕
バッファ層形成条件を、直流(DC)電源(電力密度1.5W/cm2)で行った他は、比較例1と同様にして、比較例2のCIGS太陽電池を得た。比較例2のバッファ層のX線回折によって示される特性は、A/(A+B+C)=0.1を示していた。
【0041】
〔比較例3〕
バッファ層形成条件を、高周波(RF)電源(電力密度0.5W/cm2)で行った他は、比較例1と同様にして、比較例3のCIGS太陽電池を得た。比較例3のバッファ層のX線回折によって示される特性は、A/(A+B+C)=0.3を示していた。
【0042】
〔比較例4〕
バッファ層形成条件を、高周波(RF)電源(電力密度2.5W/cm2)で行った他は、比較例1と同様にして、比較例4のCIGS太陽電池を得た。比較例4のバッファ層のX線回折によって示される特性は、A/(A+B+C)=0.2を示していた。
【0043】
〔比較例5〕
バッファ層の形成に用いる対向ターゲットスパッタ装置に、直流(DC)電源(電力密度0.7W/cm2)を印加した他は、実施例1と同様にして、比較例5のCIGS太陽電池を得た。比較例5のバッファ層のX線回折によって示される特性は、A/(A+B+C)=0.2を示していた。
【0044】
<変換効率の測定>
上記実施例1〜参考例1,2、比較例1〜5のCIGS太陽電池をそれぞれ20個準備し、これらに擬似太陽光(AM1.5)を照射し、IV計測システム(山下電装社製、YSS−150)を用いて、それぞれの変換効率を測定した。得られた結果(平均)を下記の〔表1〕に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
上記の変換効率の測定の結果、実施例1〜3および参考例1,2のCIGS太陽電池は、平均変換効率がいずれも3.3%以上あり、優れた変換効率を有することが示された。とりわけ、X線回析によって示されるバッファ層の特性が、式(1)〜(4)のすべてを満たす実施例1〜3のCIGS太陽電池は、平均変換効率がいずれも4%を上回り、極めて優れた変換効率を有することが示された。一方、X線回折によって示されるバッファ層の特性が式(1)を満たしていない比較例1〜5のCIGS太陽電池は、いずれも変換効率の平均が低いことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のCIGS系化合物太陽電池は、薄型でありながら、変換効率が非常に高いため、様々な分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 基板
2 裏面電極層
3 CIGS光吸収層
4 バッファ層
5 透明電極層
図1
図2