(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1合金が、Alおよび/またはGaである金属元素Mを0〜1.6原子%含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のR−T−B系希土類焼結磁石の製造方法。
前記第1合金の、全希土類元素中のDyの割合が0〜29原子%であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のR−T−B系希土類焼結磁石の製造方法。
前記第2合金が、Alおよび/またはGaである金属元素Mを0〜1.6原子%含むことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載のR−T−B系希土類焼結磁石の製造方法。
前記第2合金の、全希土類元素中のDyの割合が0〜29原子%であることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載のR−T−B系希土類焼結磁石の製造方法。
前記焼結工程において、800〜1150℃の温度で、30〜180分間焼結を行うことを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれか一項に記載のR−T−B系希土類焼結磁石の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、重希土類の使用量を抑制し、尚且つ保磁力の高いR−T−B系磁石およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた。
その結果、R−T−B系磁石用合金粉末の成形体を焼結する際に、焼結炉のチャンバー内に、成形体とともに粒界相成分を含む合金材料を配置して焼結することにより、保磁力が向上することを見出した。
この場合、焼結時に合金材料から成形体に、主相よりRを多く含む粒界相成分が供給される。成形体に供給された粒界相成分は、R
2Fe
14Bの組成を有する主相粒子の周囲に拡散する。その結果、焼結後に得られたR−T−B系磁石は、主相粒子を取り囲む粒界相によって、主相粒子が孤立された状態になる。このようなR−T−B系磁石では、主相粒子の孤立により磁区の反転が抑制される。このため、優れた保磁力が得られる。
本発明者らは、上記の知見に基づいて、本発明を想到した。
【0008】
(1) 第1合金の粉末の成形体を形成する成形工程と、前記成形体と第2合金の合金材料とを焼結炉のチャンバー内に配置して焼結することにより、前記成形体を焼結体とする焼結工程とを備え、前記第1合金が、希土類元素であるRと、Feを必須とする遷移金属であるTと、Bと、Cuおよび不可避不純物からなり、Rを11〜17原子%含み、Bを4.5〜6原子%含み、Tが残部であり、前記第2合金が、希土類元素であるRと、Feを必須とする遷移金属であるTと、Bおよび不可避不純物からなり、Rを11〜20原子%含み、Bを4.5〜6原子%含み、Tが残部であることを特徴とするR−T−B系希土類焼結磁石の製造方法。
(2) 前記第1合金が、Cuを0.05〜0.2原子%含むことを特徴とする(1)に記載のR−T−B系希土類焼結磁石の製造方法。
(3) 前記第1合金が、Alおよび/またはGaである金属元素Mを0〜1.6原子%含むことを特徴とする(1)または(2)に記載のR−T−B系希土類焼結磁石の製造方法。
【0009】
(4) 前記第1合金の、全希土類元素中のDyの割合が0〜29原子%であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のR−T−B系希土類焼結磁石の製造方法。
(5) 前記第1合金が、Rを13.5〜17原子%含み、Dyを含有しないものであることを特徴とする(4)に記載のR−T−B系希土類焼結磁石の製造方法。
(6) 前記第2合金が、Cuを0.05〜0.2原子%含むことを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のR−T−B系希土類焼結磁石の製造方法。
(7) 前記第2合金が、Alおよび/またはGaである金属元素Mを0〜1.6原子%含むことを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のR−T−B系希土類焼結磁石の製造方法。
(8) 前記第2合金の、全希土類元素中のDyの割合が0〜29原子%であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載のR−T−B系希土類焼結磁石の製造方法。
【0010】
(9) 前記第2合金が、Rを13.5〜17原子%含み、Dyを含有しないものであることを特徴とする(8)に記載のR−T−B系希土類焼結磁石の製造方法。
(10) 前記第2合金が、R
2T
14Bの組成を有する主相と、主相よりもRを多く含む粒界相により構成され、前記第2合金に含まれる前記粒界相の量が6質量%以上15質量%未満であることを特徴とする(1)〜(9)のいずれかに記載のR−T−B系希土類焼結磁石の製造方法。
(11) 前記焼結工程において、800〜1150℃の温度で、30〜180分間焼結を行うことを特徴とする(1)〜(10)のいずれかに記載のR−T−B系希土類焼結磁石の製造方法。
【0011】
(12) 希土類元素であるRと、Feを必須とする遷移金属であるTと、Bと、Cuおよび不可避不純物からなり、Rを11〜20原子%含み、Bを4.5〜6原子%含み、Tが残部であり、R
2Fe
14Bからなる主相と、前記主相よりRを多く含む粒界相とを備えた焼結体からなり、外面から0.5mm内側の位置と、前記外面から10mm内側の位置との間における単位面積あたりの粒界相の面積の割合の変化量が、10%以下であることを特徴とするR−T−B系希土類焼結磁石。
(13) 前記R−T−B系希土類焼結磁石が、Cuを0.05〜0.2原子%含むことを特徴とする(12)に記載のR−T−B系希土類焼結磁石。
(14) 前記R−T−B系希土類焼結磁石が、Alおよび/またはGaである金属元素Mを0〜1.6原子%含むことを特徴とする(12)または(13)に記載のR−T−B系希土類焼結磁石。
(15) 前記R−T−B系希土類焼結磁石の、全希土類元素中のDyの割合が0〜29原子%であることを特徴とする(12)〜(14)のいずれかに記載のR−T−B系希土類焼結磁石。
(16) 前記粒界相が、希土類元素の合計原子濃度が70原子%以上のRリッチ相と、前記希土類元素の合計原子濃度が25〜35原子%である遷移金属リッチ相とを含むことを特徴とする(12)〜(15)のいずれかに記載のR−T−B系希土類焼結磁石。
(17) 外面から0.5mm以上内側の位置の前記単位面積当たりの粒界相の面積の割合が、10〜20%であることを特徴とする(12)〜(16)のいずれかに記載のR−T−B系希土類焼結磁石。
【発明の効果】
【0012】
本発明のR−T−B系希土類焼結磁石の製造方法は、第1合金の粉末の成形体と第2合金(合金材料)とを焼結炉のチャンバー内に配置して、成形体を焼結する焼結工程を備えているので、主相粒子を取り囲む粒界相によって主相粒子が孤立させられた状態になり、優れた保磁力を有するR−T−B系希土類焼結磁石が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
〔R−T−B系磁石〕
本実施形態のR−T−B系希土類焼結磁石(以下、「R−T−B系磁石」と略記する。)は、本発明のR−T−B系磁石の製造方法を用いて製造したものである。
本実施形態のR−T−B系磁石は、希土類元素であるRと、Feを必須とする遷移金属であるTと、Alおよび/またはGaである金属元素Mと、Bと、Cuおよび不可避不純物からなる組成を有している。本実施形態のR−T−B系磁石は、Rを11〜20原子%含み、Bを4.5〜6原子%含み、Mを0〜1.6原子%含み、Tが残部であり、全希土類元素中のDyの割合が0〜29原子%であるものである。本実施形態のR−T−B系磁石は、上記元素に加えてZrおよび/またはNbを0.05〜1.0原子%含んでもよい。
【0015】
希土類元素であるRの含有量が11原子%以上であると、高い保磁力を有するR−T−B系磁石となる。Rの含有量は、13.5原子%以上であることが好ましい。Rの含有量が20原子%を超えると、R−T−B系磁石の残留磁化が低くなり、磁石として不適合になる。Rの含有量は、20原子%以下であり、17原子%以下であることが好ましい。
【0016】
全希土類元素中のDyの含有量は0〜29原子%とされている。本実施形態のR−T−B系磁石は、主相粒子を取り囲む粒界相によって主相粒子が孤立している。このことにより、本実施形態のR−T−B系磁石は、優れた保磁力が得られる。したがって、本実施形態のR−T−B系磁石は、Dyを含まなくても良い。Dyを含む場合でも29原子%以下の含有量で、充分に高い保磁力向上効果が得られる。Dyの含有量は0〜15原子%であることが好ましい。Dyの含有量が15原子%以下であっても、25kOe程度の十分に高い保磁力が得られる。
【0017】
R−T−B系磁石のDy以外の希土類元素Rとしては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Ho、Er、Tm、Yb、Luが挙げられる。上記の希土類元素Rの中でも特に、Nd、Pr、Tbが好ましく用いられる。また、希土類元素Rは、Ndを主成分とすることが好ましい。
【0018】
R−T−B系磁石に含まれるBは、ホウ素であり、一部をCまたはNで置換できる。B含有量は4.5〜6原子%である。Bの含有量は、4.8原子%以上であることが好ましく、5.5原子%以下であることが好ましい。R−T−B系磁石に含まれるBの含有量を4.5原子%以上とすることで、十分な保磁力が得られる。また、Bの含有量を6原子%以下とすることで、R−T−B系磁石を製造する工程において、RT
4B
4の生成を抑制することができる。
【0019】
本実施形態のR−T−B系磁石は、Alおよび/またはGaである金属元素Mを0〜1.6原子%含む。金属元素Mの含有量は0.1原子%以上であることが好ましい。また、金属元素Mの含有量は1.4原子%以下であることが好ましい。
金属元素Mの含有量を0.1原子%以上とすることで、R−T−B系磁石を製造する工程において、遷移金属リッチ相が生成しやすくなる。遷移金属リッチ相が生成することで、後述するように、保磁力向上効果が得られる。
Al原子が主相に入ると、残留磁化の低下が起こる。金属元素MがAlである場合、Alの含有量を1.6原子%以下とすることで、R−T−B系磁石を製造する工程において、Al原子が主相に入っても、残留磁化の低下量を許容範囲内にすることができる。
また、金属元素MがGaである場合、Gaは主相には入らず、遷移金属リッチ相に入りやすいため、好ましい。金属元素MがGaである場合、1.6原子%を超えて含有させても、保磁力向上効果は飽和し、それ以上保磁力は向上しない。
【0020】
本実施形態のR−T−B系磁石に含まれるCuは、主相粒子を粒界相によって孤立させて、保磁力を向上させる効果を有する。Cuの含有量は0.05〜0.2原子%であることが好ましい。Cuを0.05原子%以上含む場合、焼結工程において、後述する第2合金から成形体に供給された粒界相成分が、主相粒子の周囲に拡散する。その結果、主相粒子が孤立した状態になり、優れた保磁力が得られる。さらに、R−T−B系磁石中において、粒界相が均一に分布し、保磁力のばらつきを小さくすることができる。Cuを含まない場合には、焼結工程において、主相粒子が孤立した状態にならず、高い磁石特性が得られない。また、Cuを0.05原子%以上含有させることにより、R−T−B系磁石の焼結が容易となる。また、Cuの含有量を0.2原子%以下にすることで、保磁力を低下させるR−T−Cu相が、焼結時に生成することを抑制できる。
【0021】
R−T−B系磁石に含まれるTは、Feを必須とする遷移金属である。R−T−B系磁石のTに含まれるFe以外の遷移金属としては、3〜11族元素を用いることができる。R−T−B系磁石のTがFe以外にCoを含む場合、Tc(キュリー温度)を改善することができ好ましい。
【0022】
本実施形態のR−T−B系磁石は、Zrおよび/またはNbを0.05〜1.0原子%含んでもよい。R−T−B系磁石がZrおよび/またはNbを0.05〜1.0原子%含む場合、焼結時の主相の異常粒成長を防止できるので、好ましい。Zrおよび/またはNbの含有量が0.05原子%未満であると、Zrおよび/またはNbを含有することによる効果が十分に得られない。したがって、Zrおよび/またはNbの含有量は、0.05原子%以上が好ましく、より好ましくは0.1原子%以上である。また、Zrおよび/またはNbの含有量を1.0原子%以下、より好ましくは0.5原子%以下とすることで、Zrおよび/またはNbの添加による磁化の低下を避けることができる。
【0023】
本実施形態のR−T−B系磁石は、R
2Fe
14Bである主相と、前記主相よりRを多く含む粒界相とを備えた焼結体からなる。
本実施形態のR−T−B系磁石においては、粒界相が、希土類元素Rの合計原子濃度が70原子%以上のRリッチ相と、希土類元素Rの合計原子濃度が25〜35原子%である遷移金属リッチ相とを含むものであることが好ましい。
【0024】
本実施形態においては、遷移金属リッチ相は、Feを必須とする遷移金属であるTを50〜70原子%含むものであることが好ましい。遷移金属リッチ相は、主としてR
6T
13M型の金属化合物を含むものである。このため、遷移金属リッチ相に含まれるTの原子濃度は、R
6T
13M型の金属化合物のTの組成比に対応する65原子%に近い値となる。遷移金属リッチ相中のTの原子濃度が50〜70原子%であると、遷移金属リッチ相が含まれていることによる保磁力(Hcj)向上効果が、より効果的に得られる。これに対し、遷移金属リッチ相のTの原子濃度が上記範囲を超えると、過剰なTがR
2T
17相あるいはT原子単体として析出して磁気特性に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0025】
本実施形態のR−T−B系磁石においては、粒界相が均一に分布している。磁石外面から0.5mm内側の位置と、前記外面から10mm内側の位置との間の粒界相面積率の変化量は10%以下である。上記変化量が10%以下であると、磁石特性のばらつきが十分に小さくなる。上記変化量は4%以下であることが更に好ましい。
ここで、粒界相面積率とは、磁石の断面を観察して、単位面積当たりに粒界相が占める面積を算出したものである。
粒界相面積率が高いほど、主相粒子を取り囲む粒界相によって主相粒子が孤立しやすくなり、高い保持力が得られる。外面から0.5mm以上内側の位置の粒界相面積率は10%以上であることが好ましく、12%以上であることがより好ましい。また、粒界相は、非磁性あるいは主相に比較して磁性が弱いため、粒界相面積率が高いほど磁化が低下する。そのため、外面から0.5mm以上内側の位置の粒界相面積率は20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。
【0026】
〔R−T−B系磁石の製造方法〕
本実施形態のR−T−B系磁石の製造方法では、まず、焼結前の成形体の材料として使用するR−T−B系磁石用合金である第1合金を用意する。
第1合金は、希土類元素であるRと、Feを必須とする遷移金属であるTと、Alおよび/またはGaである金属元素Mと、Bと、Cuおよび不可避不純物からなる。第1合金は、Rを11〜17原子%含み、Bを4.5〜6原子%含み、Mを0〜1.6原子%含み、Tが残部であり、全希土類元素中のDyの割合が0〜29原子%であるものである。第1合金は、上記元素に加えて、ZrまたはNbを0.05〜1.0原子%含んでもよい。
【0027】
希土類元素であるRの含有量が11原子%以上であると、高い保磁力を有するR−T−B系磁石が得られる。Rの含有量は、13.5原子%以上であることが好ましい。Rの含有量が17原子%を超えると、焼結後に得られるR−T−B系磁石の残留磁化が低くなり磁石として不適合になる。Rの含有量は、17原子%以下であり、16原子%以下であることが好ましい。
【0028】
第1合金において、全希土類元素中のDyの含有量は0〜29原子%とされている。本実施形態においては、後述する焼結工程を行って主相粒子を孤立させることにより、保磁力を向上させている。このため、第1合金はDyを含まなくても良い。第1合金がDyを含む場合でも、29原子%以下の含有量で充分に高い保磁力向上効果が得られる。Dyの含有量は0〜15原子%であることが好ましい。
【0029】
第1合金のDy以外の希土類元素Rとしては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Ho、Er、Tm、Yb、Luが挙げられる。上記の希土類元素Rの中でも特に、Nd、Pr、Tbが好ましく用いられる。また、希土類元素Rは、Ndを主成分とすることが好ましい。
【0030】
第1合金に含まれるBは、ホウ素であり、一部をCまたはNで置換できる。B含有量は4.5〜6原子%である。Bの含有量は、5.2原子%以上であることが好ましく、5.6原子%以下であることが好ましい。第1合金に含まれるBの含有量を4.5原子%以上とすることで、高い保磁力を有するR−T−B系磁石が得られる。また、Bの含有量を6原子%以下とすることで、R−T−B系磁石を製造する工程においてRT
4B
4の生成を抑制することができる。
【0031】
本実施形態の第1合金は、Alおよび/またはGaである金属元素Mを0〜1.6原子%含む。金属元素Mの含有量は0.1原子%以上であることが好ましい。また、金属元素Mの含有量は1.4原子%以下であることが好ましい。
金属元素Mの含有量を0.1原子%以上とすることで、R−T−B系磁石を製造する工程において、遷移金属リッチ相が生成しやすくなる。遷移金属リッチ相が生成することで、保磁力向上効果が得られる。
Al原子が主相に入ると残留磁化の低下が起こる。金属元素MがAlである場合、Alの含有量を1.6原子%以下とすることで、R−T−B系磁石を製造する工程においてAl原子が主相に入っても、残留磁化の低下量を許容範囲内にすることができる。
また、金属元素MがGaである場合、Gaは主相には入らず、遷移金属リッチ相に入りやすいため、好ましい。金属元素MがGaである場合、1.6原子%を超えて含有させても、保磁力向上効果は飽和し、それ以上保磁力は向上しない。
【0032】
本実施形態の第1合金に含まれるCuは、主相粒子を粒界相によって孤立させて保磁力を向上させる効果を有する。第1合金に含まれるCuの含有量は0.05〜0.2原子%であることが好ましい。Cuを0.05原子%以上含む場合、焼結工程において、後述する第2合金から成形体に供給された粒界相成分が、主相粒子の周囲に拡散する。その結果、主相粒子が孤立した状態になり、優れた保磁力が得られる。さらに、R−T−B系磁石中において、粒界相が均一に分布し、保磁力のばらつきを小さくすることができる。Cuを含まない場合には、焼結工程において、主相粒子が孤立した状態にならず、高い磁石特性が得られない。また、Cuを0.05原子%以上含有させることにより、R−T−B系磁石の焼結が容易になる。また、Cuの含有量を0.2原子%以下にすることで、保磁力を低下させるR−T−Cu相が焼結時に生成することを抑制できる。
【0033】
第1合金に含まれるTは、Feを必須とする遷移金属である。第1合金のTに含まれるFe以外の遷移金属としては、3〜11族元素を用いることができる。第1合金のTがFe以外にCoを含む場合、Tc(キュリー温度)を改善することができ好ましい。
【0034】
本実施形態の第1合金は、Zrおよび/またはNbを0.05〜1.0原子%含んでもよい。第1合金がZrおよび/またはNbを0.05〜1.0原子%含む場合、焼結時の主相の異常粒成長を防止できるので、好ましい。Zrおよび/またはNbの含有量が0.05原子%未満であると、Zrおよび/またはNbを含有することによる効果が十分に得られない。このため、Zrおよび/またはNbの含有量は、0.05原子%以上が好ましく、より好ましくは0.1原子%以上である。また、Zrおよび/またはNbの含有量を1.0原子%以下、より好ましくは0.5原子%以下とすることで、Zrおよび/またはNbの添加による磁化の低下を避けることができる。
【0035】
また、本実施形態のR−T−B系磁石の製造方法では、成形体とともに焼結炉のチャンバー内に配置される合金材料として使用する第2合金を用意する。
第2合金は、希土類元素であるRと、Feを必須とする遷移金属であるTと、Alおよび/またはGaである金属元素Mと、Bおよび不可避不純物からなる。第2合金は、Rを11〜20原子%含み、Bを4.5〜6原子%含み、Mを0〜1.6原子%含み、Tが残部であり、全希土類元素中のDyの割合が0〜29原子%であるものである。
第2合金は、上記元素に加えて、ZrまたはNbを0.05〜1.0原子%含んでもよい。第2合金は、上記元素に加えて、Cuを0.05〜0.2原子%含んでもよい。
【0036】
希土類元素であるRの含有量が11原子%以上であると、焼結時の熱処理によって、第2合金である合金材料から成形体に、主相よりRを多く含む粒界相成分が必要量供給される。したがって、焼結後に、主相粒子が粒界相によって孤立させられ、高い保磁力を有するR−T−B系磁石が得られる。Rの含有量は、13.5原子%以上であることがより好ましい。Rの含有量が20原子%を超えると、焼結後に得られるR−T−B系磁石の残留磁化が低くなる。Rの含有量は、20原子%以下であり、17原子%以下であることがより好ましい。
【0037】
第2合金において、全希土類元素中のDyの含有量は0〜29原子%とされている。本実施形態においては、後述する焼結工程を行って主相粒子を孤立させることにより、R−T−B系磁石の保磁力を向上させる。このため、第2合金はDyを含まなくても良い。第2合金がDyを含む場合でも、29原子%以下の含有量で充分に高い保磁力向上効果が得られる。Dyの含有量は0〜15原子%であることが好ましい。
【0038】
第2合金のDy以外の希土類元素Rとしては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Ho、Er、Tm、Yb、Luが挙げられる。上記の希土類元素Rの中でも特に、Nd、Pr、Tbが好ましく用いられる。また、希土類元素Rは、Ndを主成分とすることが好ましい。
【0039】
第2合金に含まれるBは、ホウ素であり、一部をCまたはNで置換できる。B含有量は4.5〜6原子%である。Bの含有量は、5.2原子%以上であることが好ましく、5.6原子%以下であることが好ましい。第2合金に含まれるBの含有量を4.5原子%以上とすることで、R
2−T
17が析出するのを防止し、焼結工程中に成形体に粒界相成分を供給するのに好適な合金となる。その結果、焼結工程後に高い保磁力を有するR−T−B系磁石が得られる。また、Bの含有量を6原子%以下とすることで、ホウ化物が析出するのを防止し、焼結工程中に成形体に粒界相成分を供給するために好適な合金となる。
【0040】
本実施形態の第2合金は、Alおよび/またはGaである金属元素Mを0〜1.6原子%含む。金属元素Mの含有量は0.1原子%以上であることが好ましい。また、金属元素Mの含有量は1.4原子%以下であることが好ましい。金属元素Mの含有量が少ない場合には、焼結時に第2合金から成形体に供給される粒界相成分中のRリッチ相の割合が多くなる。そして、金属元素Mの含有量が多くなるにつれて、焼結時に第2合金から成形体に供給されるTとMの量が増加し、成形体中に生成する遷移金属リッチ相の量が増加する。しかし、金属元素Mの含有量が1.6原子%を超えると、第2合金中で生成する粒界相成分が減少するので、第2合金から第1合金に必要量の粒界相成分を供給しにくくなる。
【0041】
本実施形態の第2合金がCuを含有する場合、その含有量は0.05〜0.2原子%であることが好ましい。Cuを0.05〜0.2原子%含む場合、焼結工程において、第2合金である合金材料から成形体に、粒界相成分を効率よく供給できる。Cuの含有量が0.05原子%未満である場合、第2合金がCuを含有することによる効果が十分に得られない場合がある。また、Cuの含有量を0.2原子%以下にすることで、成形体に生成する遷移金属リッチ相のうち保磁力を低下させるR−T−Cu相の生成量を、悪影響を及ぼさない程度に抑えることができるので、好ましい。
【0042】
第2合金に含まれるTは、Feを必須とする遷移金属である。第2合金のTに含まれるFe以外の遷移金属としては、3〜11族元素を用いることができる。
【0043】
第2合金は、R
2T
14Bの組成を有する主相と、主相よりもRを多く含む粒界相とからなる。第2合金中に含まれる粒界相の割合は、6質量%以上15質量%未満が好ましい。粒界相が6質量%以上15質量%未満含まれる第2合金は、焼結工程において、必要な量の粒界相成分を成形体に供給できる。このため、焼結後に得られるR−T−B系磁石の主相粒子を孤立させることができる。第2合金中に含まれる粒界相が15質量%以上であっても、焼結後に得られるR−T−B系磁石の保磁力を向上させる効果の向上は見られない。
第2合金中の粒界相の量は、第2合金の組成から計算できる。具体的には、主相の組成はR
2T
14Bなので、合金中の主相の量はBの含有量により決定され、残りが粒界相となる。
【0044】
本実施形態における第1合金の組成と第2合金の組成は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
次に、上述した第1合金の組成を有する鋳造合金薄片を、例えば、以下に示す方法を用いて製造する。なお、上述した第2合金の組成を有する鋳造合金薄片は、第2合金の組成を有する合金溶湯を用いること以外は、第1合金の組成を有する鋳造合金薄片と同様にして製造できる。
【0045】
まず、上述した第1合金(または第2合金)の組成を有する合金溶湯を、冷却ロールに供給して凝固させるSC(ストリップキャスト)法により、鋳造合金を製造する(鋳造工程)。
本実施形態においては、例えば、1200℃〜1500℃の温度で、上述した組成を有する合金溶湯を調製する。次いで、得られた合金溶湯を、タンディッシュを用いて冷却ロールに供給して凝固させ、冷却ロールから400℃〜800℃で鋳造合金を離脱し、平均厚み0.15〜0.50mmの鋳造合金を得る。
【0046】
本実施形態においては、冷却ロールから離脱する鋳造合金の温度を400℃〜800℃とすることが好ましい。この場合、粒界相の間隔を、成形体の作製に用いる粉末の粒径と同程度にすることができる。
【0047】
本実施形態では、鋳造工程において平均厚み0.15〜0.50mmの鋳造合金を製造することが好ましい。鋳造合金の平均厚みは0.18〜0.35mmであることがより好ましい。鋳造合金の平均厚みが0.15〜0.50mmである場合に、冷却ロールから離脱する鋳造合金の温度を400℃〜800℃とすることで、鋳造合金中の粒界相が均一に分布し、隣接する粒界相間の間隔が1〜10μmとなるため、好ましい。鋳造合金の平均厚みが0.50mmを超えると、鋳造合金が十分に冷却されないために、鋳造合金中にFeが析出して粉砕性が悪化するため、好ましくない。また、鋳造合金の平均厚みが0.15mm未満であると、鋳造合金中の粒界相の間隔が小さくなり、粉砕工程において粉末の粒径の制御が困難になるため好ましくない。
【0048】
本実施形態では、冷却ロールに供給した合金溶湯が、鋳造合金として冷却ロールから離脱するまでの平均冷却速度を800℃/s〜1000℃/sとすることが好ましく、850℃/s〜980℃/sとすることがより好ましい。平均冷却速度を800℃/s〜1000℃/sとすることで、冷却ロールから離脱する鋳造合金の温度を容易に400℃〜800℃とすることができ、粒界相の間隔を、成形体の作製に用いる粉末の粒径とほぼ同じにすることができるため、好ましい。平均冷却速度が800℃/s未満であると、鋳造合金中にFeが析出して粉砕性が大幅に悪化するため、好ましくない。また、平均冷却速度が1000℃/sを超えると主相の結晶性が悪いものとなるため好ましくない。
【0049】
得られた鋳造合金は、破砕することにより第1合金(または第2合金)の組成を有する鋳造合金薄片とされる。
このようにして得られた第2合金の組成を有する鋳造合金薄片は、このままチャンバー内に配置する合金材料として用いることができる。また、第2合金の組成を有する鋳造合金薄片は、第1合金の組成を有する鋳造合金薄片と同様に、粉末状に粉砕した後、合金材料として用いてもよい。本実施形態において用いる合金材料の形状は、特に限定されるものではない。
【0050】
また、第1合金の組成を有する鋳造合金薄片は、水素解砕法などにより解砕し、ジェットミルなどの粉砕機により粉砕することによって粉末状のR−T−B系合金とされる。
水素解砕法は、例えば、以下の手順で行われる。まず、室温で鋳造合金薄片に水素を吸蔵させる。次いで、水素を吸蔵させた鋳造合金薄片を、水素中で300℃程度の温度で熱処理する。その後、減圧して500℃程度の温度で熱処理して、鋳造合金薄片中の水素を除去する。水素解砕法において水素が吸蔵された鋳造合金薄片は、体積が膨張するので、合金内部に多数のひび割れ(クラック)が発生し、容易に解砕される。
【0051】
このようにして得られた第1合金の粉末の粒径(d50)は3.5〜4.5μmであることが好ましい。第1合金の粉末の粒径が上記範囲内である場合、製造工程中における第1合金の酸化を防止できるため、好ましい。
本実施形態においては、R−T−B系合金である第1合金の粉末に、潤滑剤として0.02質量%〜0.03質量%のステアリン酸亜鉛を添加し、横磁場中成形機などを用いてプレス成形して成形体を形成する(成形工程)。
その後、第1合金の粉末の成形体と第2合金の合金材料とを焼結炉のチャンバー内に配置して焼結することにより、成形体を焼結体とする(焼結工程)。
【0052】
焼結工程においては、第2合金の合金材料が平面視でチャンバー内の全面に配置されていることが好ましい。合金材料を平面視でチャンバー内の全面に配置することで、合金材料からチャンバー内に粒界相成分の蒸気が均一に供給される。その結果、成形体に粒界相成分を均一に拡散させることができる。
【0053】
また、第2合金の合金材料は、成形体の上面全面を覆うように配置することが好ましい。成形体は、焼結工程の間に、油や酸素で汚染される場合がある。合金材料を成形体の上面全面を覆うように配置して焼結工程を行うことで、焼結工程における成形体の汚染を防止できる。
第2合金の合金材料は、チャンバー内に配置されていればよく、成形体に接して配置されていてもよいし、成形体と離間して配置されていてもよい。
【0054】
焼結工程においては、800〜1150℃の温度で、30〜180分の焼結を行うことが好ましい。焼結温度および焼結時間を上記範囲とすることで、第2合金の合金材料から成形体に、粒界相成分の蒸気が供給される。そして、成形体に供給された粒界相成分が、主相粒子の周囲を取り囲むように拡散する。その結果、焼結後に得られた焼結体は、主相粒子を取り囲む粒界相によって、主相粒子が孤立させられた状態となる。
【0055】
焼結温度が800℃以上であれば、第2合金中の粒界相成分が溶融あるいは蒸発しやすくなり、焼結体の主相粒子を孤立させることができる。このため、焼結温度は、800℃以上であることが好ましく、900℃以上であることがより好ましく、1010℃以上であることがさらに好ましい。また、焼結温度が1150℃以下であれば、第1合金の主相の粒成長を防止できる。したがって、焼結温度は、1150℃以下あることが好ましく、1100℃以下であることがより好ましい。
【0056】
焼結時間が30分未満であると、焼結が不十分となる恐れがある。このため、焼結時間は30分以上であることが好ましい。また、焼結時間が180分以下であれば、主相粒子の成長を防止し、R−T−B系磁石の保磁力および角形性を維持できる。したがって、焼結時間は、180分以下であることが好ましい。
【0057】
また、焼結温度および焼結時間を上記範囲とした場合、第2合金の合金材料を成形体に接して配置しても、焼結後に得られた焼結体に合金材料が固着することはない。したがって、成形体に接して配置した合金材料は、焼結工程後に焼結体の表面から容易に剥がすことができる。よって、焼結後に、焼結体から合金材料を削り取る作業を行う必要はない。
【0058】
焼結を行う際のチャンバー内の雰囲気は、成形体の酸化による損傷を防ぐために、真空もしくはアルゴンであることが好ましい。
【0059】
また、焼結工程においては、第1合金粉末の成形体と第2合金の合金材料とをカーボン製のトレイ内に設置し、成形体および合金材料の入れられたトレイを焼結炉のチャンバー内に配置して焼結してもよい。トレイを用いることで、焼結炉のチャンバー内壁への粒界相成分の付着を抑制できるので、効率的に合金材料から成形体に粒界相成分を供給することができ、好ましい。
【0060】
焼結後に得られた焼結体は、その後、必要に応じて熱処理することにより、R−T−B系磁石となる。
焼結後の熱処理は、R−T−B系磁石の主相表面を粒界相によって均一に被覆するために、必要に応じて行う。熱処理温度は1段階でも良いし、2段階でも良い。2段階の場合、例えば、第1段階として600〜850℃の温度での熱処理を行い、第2段階として300〜600℃の温度で熱処理を行うことができる。第1段階および第2段階それぞれにおける熱処理時間は30〜180分であることが好ましい。
【0061】
本実施形態のR−T−B系磁石の製造方法によれば、第1合金の粉末の成形体と第2合金の合金材料とを焼結炉のチャンバー内に配置して焼結するので、得られた磁石は、上述した組成を有し、外面から0.5mm内側の位置と、前記外面から10mm内側の位置との間における粒界相面積率の変化量が、10%以下であり、主相粒子を取り囲む粒界相によって主相粒子が孤立された状態となる。
このようなR−T−B系磁石は、磁石中における粒界相の割合が均一であるため、保磁力のばらつきが小さく、主相粒子を取り囲む粒界相によって主相粒子が孤立されていることにより、優れた保磁力が得られる。したがって、モーターなどに好適に用いることができる。
【実施例】
【0062】
「実験例1〜12、51〜54」
Ndメタル(純度99wt%以上)、Prメタル(純度99wt%以上)、Dyメタル(純度99wt%以上)、Coメタル(純度99wt%以上)、フェロボロン(Fe80%、B20w%)、鉄塊(純度99%wt以上)、Gaメタル(純度99wt%以上)、Alメタル(純度99wt%以上)、Cuメタル(純度99wt%)、Zrメタル(純度99wt%以上)を表1に示す合金1〜8の組成となるように秤量し、アルミナるつぼに装填した。なお、表1において「TRE」は、希土類元素の合計を示す。また、Feの組成「bal.」は残部を意味する。また、表1に示すC、O、Nは、原料に含まれる不可避不純物である。
【0063】
その後、アルミナるつぼを高周波真空誘導炉の炉内に入れ、炉内をArで置換し、1450℃まで加熱して溶融させて合金溶湯とした。次いで、得られた合金溶湯を、タンディッシュを用いて銅合金の水冷ロールに供給して凝固させ(SC(ストリップキャスト)法)、鋳造合金として冷却ロールから離脱した。
【0064】
その後、鋳造合金を直径5mm程度になるように破砕することにより、合金1〜8の各組成の鋳造合金薄片を得た。
合金2の鋳造合金薄片の反射電子像を
図1に示す。
図1に示す反射電子像は、鋳造合金薄片を樹脂に埋込み、鏡面研磨した断面を反射電子像にて500倍の倍率で観察したものである。
【0065】
上記の手順で得られた合金1〜8の鋳造合金薄片の約90%を第1合金、残りの約10%を第2合金として取り分けた。次に、第1合金を以下に示す水素解砕法により解砕した。まず、室温、1気圧の水素雰囲気で鋳造合金薄片に水素を吸蔵させた。続いて、水素を吸蔵させた鋳造合金薄片を300℃まで水素中で加熱する熱処理を行った。その後、減圧して300℃から500℃まで昇温し、500℃で1時間保持する熱処理を行って、鋳造合金薄片中の水素を放出除去した。続いて、炉内にArを供給して室温まで冷却した。
【0066】
次に、ジェットミル(ホソカワミクロン100AFG)により、0.6MPaの高圧窒素を用いて、水素解砕された鋳造合金薄片を粉砕し、合金1〜8のR−T−B系合金粉末を得た。
【0067】
このようにして得られた第1合金の粉末に、潤滑剤として0.02質量%〜0.03質量%のステアリン酸亜鉛を添加し、横磁場中成形機により、1.0Tの磁場を印加しながら、成形圧力0.8t/cm
2でプレス成形した。このことにより、表3に示す実験例1〜12、51〜54の成形体を形成した(成形工程)。成形体の形状は、一辺が10mmの立方体である。
【0068】
その後、実験例1〜12の成形体については、表3に示す合金材料(第2合金の鋳造合金薄片)とともに、焼結炉のチャンバー内に配置して焼結することにより、焼結体とした(焼結工程)。焼結工程は、合金材料を、平面視で、カーボン製のトレイ内の全面に敷き詰めるように配置した後、合金材料の上に成形体を設置し、トレイを焼結炉のチャンバー内に配置して行った。
また、実験例51〜54の成形体については、成形体のみを焼結炉のチャンバー内に配置して焼結することにより、焼結体とした。
【0069】
実験例1〜12、51〜54の焼結条件は、真空中、温度1010℃、180分である。
焼結後、合金材料をチャンバーから除去した。その後、アルゴン雰囲気中で第1段階の熱処理として800℃、第2段階の熱処理として500℃で、それぞれ1時間保持する熱処理を行って、実験例1〜12、51〜54のR−T−B系磁石を作製した。
【0070】
得られた実験例1〜12、51〜54のR−T−B系磁石を、それぞれエポキシ樹脂に埋込み、磁化容易軸(C軸)に平行な面を削りだし、鏡面研磨した。この鏡面研磨面を反射電子像にて1500倍の倍率で観察し、そのコントラストにより主相、Rリッチ相、遷移金属リッチ相を判別した。
その結果、実験例1〜12では、黒色の主相粒子の粒界に白色のRリッチ相と薄い灰色の遷移金属リッチ相とが存在していることが分かった。
【0071】
図2は、実験例3のR−T−B系磁石を反射電子像にて観察した顕微鏡写真であり、
図3は、実験例51のR−T−B系磁石を反射電子像にて観察した顕微鏡写真である。なお、
図2および
図3に示すR−T−B系磁石の磁化容易軸(c軸)方向は、
図2および
図3における左右方向である。
図2に示すように、実験例3のR−T−B系磁石においては、主相粒子を取り囲む粒界相によって主相粒子が孤立された状態になっていた。
これに対し、
図3に示す実験例51のR−T−B系磁石においては、実験例3のR−T−B系磁石と比較して、主相粒子の輪郭がはっきりしておらず、複数の主相粒子が接触している状態であった。
【0072】
また、実験例1〜12、51〜54のR−T−B系磁石の組成を、誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma(ICP))装置を用いて測定した。その結果を表2に示す。
【0073】
表1〜表3に示すように、成形体と合金材料の両方に合金1を用いた実験例1のR−T−B系磁石では、合金材料を用いずに合金1からなる成形体を焼結した実験例51のR−T−B系磁石と比較して、TREが多くなっている。
また、成形体と合金材料の両方に合金2を用いた実験例8のR−T−B系磁石では、合金材料を用いずに合金2からなる成形体を焼結した実験例52のR−T−B系磁石と比較してTREが多くなっている。
また、成形体と合金材料の両方に合金7を用いた実験例12のR−T−B系磁石では、合金材料を用いずに合金7からなる成形体を焼結した実験例54のR−T−B系磁石と比較してTREが多くなっている。
これらの結果から、合金材料を焼結炉のチャンバー内に配置して成形体を焼結することにより、合金材料から成形体に粒界相成分が供給されたことが分かる。
【0074】
また、合金材料として合金3を用いた実験例3では、合金材料として合金3よりもTREの多い合金を用いた実験例4および実験例5と比較して、TREが多くなっている。合金3にはCuが含まれており、実験例4および実験例5において合金材料として用いた合金(合金4、5)にはCuが含まれていない。このことから、合金材料がCuを含むことにより、合金材料から成形体に粒界相成分を効率よく供給できることが分かる。
【0075】
また、実験例1〜12、51〜54のR−T−B系磁石それぞれの磁気特性を、BHカーブトレーサー(東英工業TPM2−10)で測定した。その結果を表3および
図4〜6に示す。表3および
図4〜6において「Hcj」とは保磁力であり、「Br」とは残留磁化である。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
表3および
図4より、実験例1〜6のR−T−B系磁石は、実験例51のR−T−B系磁石と比較して、保磁力が高く、残留磁化が低いという結果になった。
また、表3および
図5より、実験例7〜11のR−T−B系磁石は、実験例52のR−T−B系磁石と比較して、保磁力が高く、残留磁化が低いという結果になった。
表3および
図6より、実験例12のR−T−B系磁石は、実験例54のR−T−B系磁石と比較して、保磁力が高く、残留磁化が低いという結果になった。
以上の様に、成形体と合金材料とを、焼結炉のチャンバー内に配置して焼結することにより、R−T−B系磁石の保磁力を向上させることができるという結果が得られた。
【0080】
また、以下に示す方法により、実験例3のR−T−B系磁石の深さ方向において、単位面積あたりに粒界相が占める面積の割合(粒界相面積率)の変化量を調べた。その結果を
図7および
図8に示す。なお、本測定に用いた磁石の形状は、一辺が20mmの立方体である。
粒界相面積率の測定は、次の様に行った。R−T−B系磁石をそれぞれエポキシ樹脂に埋込み、磁化容易軸(C軸)に平行な面を削りだし、鏡面研磨した。この鏡面研磨面を反射電子像にて1500倍の倍率で観察し、そのコントラストにより主相、Rリッチ相、遷移金属リッチ相を判別した。このあと、画像解析ソフトウェアにより、Rリッチ相と遷移金属リッチ相の面積を測定し、それらの合計の面積を観察視野の面積で割ることにより、粒界相面積率を算出した。
図7は、実験例3のR−T−B系磁石の下面からの距離と、粒界相面積率との関係を示したグラフである。
図8は、実験例3のR−T−B系磁石の中心から側面までの距離と、粒界相面積率との関係を示したグラフである。なお、
図7および
図8には、比較のために実験例51の粒界相面積率も示している。
【0081】
図7および
図8に示すように、実験例3のR−T−B系磁石は、外面(上下面、対向する側面)から0.5mm内側の位置と、前記外面から10mm内側の位置との間における粒界相面積率の変化量が、4%以下であった。
【0082】
図7および
図8に示すように、実験例3のR−T−B系磁石は、焼結工程を行うことにより、合金材料(第2合金)から成形体中に粒界相成分が拡散したため、実験例51よりも全体的に粒界相比率が高くなった。