特許第6265410号(P6265410)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6265410
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】コア−シェル型光触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/648 20060101AFI20180115BHJP
   B01J 23/58 20060101ALI20180115BHJP
   B01J 23/652 20060101ALI20180115BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20180115BHJP
   B01J 37/34 20060101ALI20180115BHJP
   B01J 37/16 20060101ALI20180115BHJP
   C01B 3/04 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   B01J23/648 M
   B01J23/58 M
   B01J23/652 M
   B01J35/02 J
   B01J37/34
   B01J37/16
   C01B3/04 A
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-207046(P2013-207046)
(22)【出願日】2013年10月2日
(65)【公開番号】特開2015-71128(P2015-71128A)
(43)【公開日】2015年4月16日
【審査請求日】2016年9月29日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人科学技術振興機構、科学技術試験研究委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】高田 剛
(72)【発明者】
【氏名】堂免 一成
(72)【発明者】
【氏名】潘 成思
【審査官】 延平 修一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−168495(JP,A)
【文献】 特開2010−088964(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0184592(US,A1)
【文献】 特開2011−173102(JP,A)
【文献】 特開2012−081391(JP,A)
【文献】 特開2008−104996(JP,A)
【文献】 特開2002−320862(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0189607(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0265587(US,A1)
【文献】 特開2006−182791(JP,A)
【文献】 特開平10−067516(JP,A)
【文献】 釘島裕洋 ほか,ペルオキソチタン型光触媒技術の開発に関する研究(その3),佐賀県窯業技術センター平成20年度業務報告書,2009年,p.65-76
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
C01B 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体表面に助触媒を担持させるステップと、
前記半導体及び水溶性遷移金属ペルオキソ錯体を含む水溶液に光を照射することにより、前記水溶性遷移金属ペルオキソ錯体が還元されて生成した前記遷移金属の酸化物または水酸化物で前記半導体表面の少なくとも一部を被覆するステップを設け、
前記遷移金属はTi、Nb、Ta、W、V、Zrからなる群から選択された少なくとも一であり、
前記半導体は、TiO、LaTaON、LaNbON、AETaON(ここで、AEはCa、SrまたはBa)、AENbON(ここで、AEはCa、SrまたはBa)、LaTiON、Ta、TaON、SrTiOからなる群から選択された少なくとも一である
コア−シェル型光触媒の製造方法。
【請求項2】
水溶性遷移金属ペルオキソ錯体を含む水溶液に光を照射することにより、前記水溶性遷移金属ペルオキソ錯体中が還元されて生成した前記遷移金属の酸化物または水酸化物が分散した溶液を得るステップと、
前記遷移金属の酸化物または水酸化物が分散した溶液中に助触媒を担持させた半導体を添加して、前記半導体に前記遷移金属の酸化物または水酸化物を吸着させて前記半導体表面の少なくとも一部を前記遷移金属の酸化物または水酸化物により被覆するステップと
を設け、
前記遷移金属はTi、Nb、Ta、W、V、Zrからなる群から選択された少なくとも一であり、
前記半導体は、TiO、LaTaON、LaNbON、AETaON(ここで、AEはCa、SrまたはBa)、AENbON(ここで、AEはCa、SrまたはBa)、LaTiON、Ta、TaON、SrTiOからなる群から選択された少なくとも一である
コア−シェル型光触媒の製造方法。
【請求項3】
前記被覆するステップの前に、少なくとも前記助触媒表面にSiOコーティングを形成するステップを設けた、請求項1または2に記載のコア−シェル型光触媒の製造方法。
【請求項4】
前記遷移金属の酸化物はTiO、Nb、Ta、WO、V及びZrOからなる群から選択された少なくとも一である、請求項1〜3の何れかに記載のコア−シェル型光触媒の製造方法。
【請求項5】
前記助触媒はPt、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Re、Au、Ag、Fe、Co、Ni、Cu及びCrからなる群から選択された少なくとも一の金属またはその酸化物である、請求項1〜4の何れかに記載のコア−シェル型光触媒の製造方法。
【請求項6】
前記半導体は、TiO、LaTaON、LaNbON、AETaON(ここで、AEはCa、SrまたはBa)、AENbON(ここで、AEはCa、SrまたはBa)、LaTiON、Ta、TaON、SrTiOからなる群から選択された少なくとも一にHf4+、Zr4+、Sc3+、Mg2+、Y3+から選択された少なくとも一を組み込むことにより得られる化合物である、請求項1〜5の何れかに記載のコア−シェル型光触媒の製造方法。
【請求項7】
前記Hf4+、Zr4+、Sc3+、Mg2+、Y3+から選択された少なくとも一を組み込む量は1〜50atm%の範囲である、請求項6に記載のコア−シェル型光触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水を水素と酸素とに分解するための光触媒の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
水の分解反応では図1のエネルギーダイアグラムに示すように、自由エネルギー変化が正のエネルギー蓄積型反応である。このような反応を進行させるには、外部からエネルギーを注入することが必要であり、水の電気分解はその代表的な方法の一つである。光触媒反応では、光触媒が光を吸収することにより、一時的に高エネルギー状態に遷移するため、最終的に生成物側のポテンシャルが高くなるような反応を進めることが可能である。
【0003】
光触媒としては主に半導体粉末が用いられる。半導体は図2に示すように禁制帯をはさんで電子の詰まった価電子帯と空の伝導帯が存在する。禁制帯のエネルギー幅をバンドギャップと呼ぶが、それ以上のエネルギーをもつ光を半導体に照射し、吸収されると価電子帯の電子が伝導帯に励起される。ここで価電子帯に電子の抜けた正孔(h)と伝導帯に励起電子(e)が生成する。これらは両バンド端の準位まですぐに緩和される。伝導帯下端がプロトンの還元電位(2H+2e→H,0V vs.NHE,pH=0)より負であり、価電子帯上端が水の酸化電位(2HO+4h→4H+O,1.23V vs.NHE,pH=0)より正である材料の場合、励起電子と正孔はそれぞれプロトンを水素に還元、水を酸素に酸化できる可能性をもつ。両者が同時に起きた場合、水を水素と酸素に光分解できる。
【0004】
実際の光触媒としては、マイクロメートルオーダーの半導体粒子表面に、ある種の金属(酸化物)微粒子を助触媒としてとして担持し、水素生成もしくは酸素生成反応を促進させる。この助触媒の部分が実質、"触媒"としての作用を示し、Pt、Ni、RuO(非特許文献1〜4)などの促進効果があるものが用いられる。一方、これらによって逆方向の反応も促進されることがあるため、見かけ上、水分解反応は進行しなくなる。そのため、逆反応を抑制するために様々な工夫がなされてきた。
【0005】
光触媒による水分解は、バンドギャプに相当する電圧をもった電池で水を電気分解するのと原理的には類似しているが、必要な構造体をミクロンオーダーの粒子上という微小スケールで調製、さらに光励起されているごく短い寿命の間に目的とする反応を達成するのには高度な性能が触媒に対して求められ、その設計指針も模索している段階である。
【0006】
この分野での研究開始当初では、水の中で光照射しても反応が起こらず、微量の水素のみしか生成しないケースが多かった。またこのような場合に生成した水素は、相当量の酸素が生成しない限りは水の分解に基づくものとは言えず、触媒中にトラップされていた何らかの電子や不純物として混入していた有機物の分解に由来することになる。しかし、長年の取り組みから、水を化学量論比の水素と酸素に定常的に分解できる高活性な光触媒が、2000年頃までに多く開発された。
【0007】
水分解光触媒としては、これまでに様々な化合物について検討がなされ、幾つかの系統の金属酸化物が水を紫外光で分解できることが見出されてきた。中でも、特定の電子配置の金属成分を含んだものが水分解に有効ということが半経験的に明らかになっている。Ti4+,Nb5+,Ta5+,Zr4+のようなd0電子配置を有する遷移金属カチオンをベースとした酸化物(非特許文献2〜6)やGa3+,In3+,Ge3+,Sn3+,Sb3+のようなd10電子配置を有する典型金属カチオンをベースとした金属酸化物(非特許文献7〜10)が現在のところ大半を占めている。一方、d電子の配置が1〜9の間になる金属はでは、活性を示さない場合が多い。この理由は定かではないが、局在化したバンドが構成されるために、光励起により生成した電子と正孔の移動度が低く、すぐに失活してしまうためと考えられる。
【0008】
上記のd0もしくはd10電子配置を有する金属をベースとした酸化物では水を水素と酸素に分解できることが実証されてきたが、いずれの場合もバンドギャップが3eV以上であり、従って紫外光励起を必要とする。紫外光は太陽光中には3〜4%程度しか含まれないため、より長波長側の光を利用できる水分解光触媒の開発が必要となる。これらの金属酸化物光触媒の場合、価電子帯はO2p軌道から構成され、伝導帯は遷移金属のd軌道、典型金属ではs−p軌道からなる。ここでO2p軌道が正の深い準位にあるため、多くの金属酸化物においては価電子帯の上端が3V(vs.NHE)付近にあり、水の酸化に対して余剰な電圧を有することになる(非特許文献11)。価電子帯の上端から、バンドギャップに相当する分だけ伝導帯は負の電位側にあるわけであり、その化合物がプロトンを還元できるならば、バンドギャップは必然的に3eV以上となり、可視光を吸収できなくなる。
【0009】
可視光を吸収し、水を分解できるバンド位置を有する光触媒を開発するためには、金属酸化物において比較的余剰のポテンシャルがある価電子帯側を操作し、バンドギャップを狭めることが常套手段となる。図3に示すように、O2p軌道より負側に準位を形成する元素を組み込むことが一つの開発指針となる。この新たな準位を形成する元素としては、CdSを代表とする硫化物のS3p軌道があるが、これらは不安定であり、正孔が表面でS2−を酸化して分解する致命的な問題がある(非特許文献12)。別途検討されてきた手法として、窒素を導入しN2p軌道を価電子帯上部の構成要素とすることによって、バンドギャップの縮小と可視光化を行うというものがある。具体的には、金属に窒素(及び酸素)が配位した化合物として(酸)窒化物があるが、これらの光触媒の可視光照射下での光触媒機能が検討された。
【0010】
図4に様々な酸窒化物の紫外可視拡散反射スペクトルを示す。Ti4+やTa5+をベースとした遷移金属酸化物を前駆体としてアンモニア気流中下で焼成することにより酸窒化物が得られる。これらの酸窒化物では吸収端が500〜600nm付近まで長波長側に伸び、吸収端から見積ったバンドギャップは2.0〜2.5eV程度となる。理論計算や種々の分析の結果から、バンドギャップの縮小は、酸素が窒素に置き換わることにより、価電子帯の上端が負の電位にシフトすることに起因することが明らかになった(非特許文献13)。金属酸化物は価電子帯がO2p軌道からなり、水を酸化する準位より十分に深い位置にある。ここをN2p軌道で置き換えることにより、価電子帯の位置を負の電位方向にシフトし、バンドギャップを縮小する。表1には電子供与剤(MeOH)および電子受容体(AgNO)存在下で水素および酸素生成反応をそれぞれ別々に行った結果を示す(非特許文献19〜22)。これらの犠牲試薬存在下では、それぞれ以下のような反応が起こる。
CHOH+HO→3H+CO
4Ag+2HO→4Ag+O+4H
【0011】
【表1】
【0012】
これらの反応が進行すれば、その材料は水素および酸素を生成するためのバンドポテンシャルを有していることを意味する。
【0013】
このような条件下では幾つかの材料では水素と酸素が生成可能であり、なおかつ触媒自身の分解に伴う窒素生成はほとんど見られなかったことから、可視光で水分解を行うための必要条件は満たしていることが確認された(非特許文献14〜17)。しかし実際にはこれらの遷移金属酸窒化物では水を水素と酸素に直接分解することはできていない。これは、現在の合成方法では、得られた化合物の結晶性が低いといった理由で、励起電子−正孔の再結合が優先的に起こり、水の分解反応が進行しないものと考えられる。つまり、十分条件にあたる部分が満たされておらず、さらなる改良が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、助触媒により生起する逆反応を抑止することにより水分解光反応を効率化するとともに、これまで水分解が達成できていなかったバンドギャップの小さい遷移金属酸窒化物を逆反応が抑止された助触媒と組み合わせることにより、可視光域の大部分の光エネルギーを利用して水分解を行う水分解光触媒を構成できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一側面によれば、半導体及び水溶性遷移金属ペルオキソ錯体を含む水溶液に光を照射することにより、前記水溶性遷移金属ペルオキソ錯体が還元されて生成した前記遷移金属の酸化物または水酸化物で前記半導体表面の少なくとも一部を被覆するステップを設けた、コア−シェル型光触媒の製造方法が与えられる。
本発明の他の側面によれば、水溶性遷移金属ペルオキソ錯体を含む水溶液に光を照射することにより、前記水溶性遷移金属ペルオキソ錯体が還元されて生成した前記遷移金属の酸化物または水酸化物が分散した溶液を得るステップと、前記粒子が分散した溶液中に半導体を添加して、前記半導体に前記粒子を吸着させて前記半導体表面の少なくとも一部を前記遷移金属の酸化物または水酸化物により被覆するステップとを設けた、コア−シェル型光触媒の製造方法が与えられる。
上記何れかの側面において、前記被覆するステップの前に、前記半導体表面に助触媒を担持させるステップを設けてよい。
また、前記被覆するステップの前に、少なくとも前記助触媒表面にSiOコーティングを形成するステップを設けてよい。
また、前記遷移金属はTi、Nb、Ta、W、V、Zrからなる群から選択された少なくとも一であってよい。
また、前記遷移金属の酸化物はTiO、Nb、Ta、WO、V及びZrOからなる群から選択された少なくとも一であってよい。
また、前記助触媒はPt、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Re、Au、Ag、Fe、Co、Ni、Cu及びCrからなる群から選択された少なくとも一の金属またはその酸化物であってよい。
また、前記半導体は、TiO、SrTiO、LaTaON、LaNbON、AETaON(ここで、AEはCa、SrまたはBa)、AENbON(ここで、AEはCa、SrまたはBa)、LaTiON、Ta、TaON、SrTiOからなる群から選択された少なくとも一であってよい。
あるいは、前記半導体は、TiO、LaTaON、LaNbON、AETaON(ここで、AEはCa、SrまたはBa)、AENbON(ここで、AEはCa、SrまたはBa)、LaTiON、Ta、TaON、SrTiOからなる群から選択された少なくとも一にHf4+,Zr4+、Sc3+、Mg2+、Y3+から選択された少なくとも一を組み込むことにより得られる化合物であってよい。
前記Hf4+、Zr4+、Sc3+、Mg2+、Y3+から選択された少なくとも一を組み込む量は、1〜50atm%の範囲であってよい。
本発明の更に他の側面によれば、上記何れかの方法で製造されたコア−シェル型光触媒が与えられる。
本発明の更に他の側面によれば、上記コア−シェル型光触媒を含む水に光を照射する、水分解方法が与えられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の水分解光触媒は、紫外光のみならず、可視光域の光エネルギーの多くの部分を利用して水分解を行うことができ、また毒性の強い重金属を含まないため、産業上の利用に当たって環境負荷を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】水の光分解のエネルギーダイアグラム。
図2】半導体光触媒による水分解の原理を示す図。
図3】バンド操作による可視光化の概念図。
図4】種々の遷移金属酸窒化物の紫外可視拡散反射スペクトルを示す図。
図5】半導体粒子上に助触媒を担持させた光触媒による水分解を説明する概念図
図6】助触媒表面で正反応と逆反応の両者が起こる様子を示す概念図。
図7】Crシェルによる逆反応の抑止を説明する概念図。
図8】Crシェルの機能を更に詳しく説明する概念図。
図9】バンドギャップの小さな光触媒にCrを光電着することは困難、あるいは不可能であることを説明する図。
図10】複数の原子価状態を取り得る金属元素の原子価状態とpHとの関係を示す図。
図11】バンドギャップの小さな光触媒でもペルオキソ錯体の中心金属に配位している−1価の酸素の還元反応が起こりやすいことを説明する図。
図12】SrTiO:Sc5%粒子上に助触媒としてRhを担持させた光触媒上に、TiO、Nb、Taのシェルを担持させた本発明の光触媒を使用した場合の、光照射による酸素及び水素の発生量の時間累積を示すグラフ。
図13】SrTiO:Sc5%にRhを助触媒として担持させた粒子に本発明を適用した例による水分解速度を、シェルとしてCrを使用した従来例と比較するグラフ。
図14】SrTiO:Sc5%に助触媒としてRhを担持させた場合(左端のグラフ)、RhにCrを含浸させた場合(中央のグラフ)及び助触媒を担持させなかった場合(右端のグラフ)の三通りの構成に対して、Taのシェルを担持させた本発明の光触媒による水分解速度を示すグラフ。
図15】Rh(0.5w%)担持SrTiO:Sc上(左側)及び助触媒を担持させていないSrTiO:Sc上(右側)にTaシェルを担持させる過程を示すグラフ。
図16】本発明のシェルが可逆的犠牲試薬存在下での反応にも適用可能であることを示すグラフ。
図17】ヨウ素レドックス系Z−スキームによる二段階水分解の進行を示す概念図。
図18】シェルを担持していない光触媒の一例のSEM像。
図19】シェルを担持した本発明の光触媒の一例のSEM像。
図20】シェルを担持した本発明の光触媒の別の例のSEM像。
図21】光触媒表面へのシェルの担持状態を示す概念図。
図22】本発明と異なる方法で作成したシェルと本発明のシェルとの光化学活性を比較するグラフ。
図23】ペルオキソ錯体の光分解生成物の吸着によるシェル担持方法を概念的に説明する図。
図24】Rhを0.5wt%担持させたSrTiO:Scに、図23に示した方法によってTaのシェルを5wt%担持させる過程を説明するグラフ。
図25】Rh担持LMTON上にTiOシェルを担持させた本発明の光触媒による水分解速度を示すグラフ。
図26】LMTONを使用して従来技術に基づいて作成した光触媒による、水素、酸素及び窒素の発生量の時間推移を示すグラフ。
図27】LMTONを使用した本発明の光触媒による、水素、酸素及び窒素の発生量の時間推移を示すグラフ。
図28】シェルの下層にSiOコーティングを設けることによる効果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
先ず、本発明の前提としての、助触媒を使用した水分解光触媒について説明する。
【0019】
図5は半導体粒子上に助触媒を付加した光触媒による水分解を説明する概念図である。ここで、半導体粒子の価電子帯(V.B.)上端と伝導体(C.B.)下端が水分解の電位(図5のH/H:プロトンの還元電位、及び0/HO:水の酸化電位)を挟むことが必要である。このような半導体粒子を光励起すると、キャリアー(電子e及び正孔h)が生成され、その電荷が半導体粒子表面に移動する。電子eは助触媒に到達して助触媒表面で水中のプロトンを還元して水素Hを生成する。正孔hはHOを分解して酸素分子O及びプロトンを生成する。以上の反応をまとめると下式のようになる。
【0020】
【化1】
【0021】
しかしながら、先に述べたように、Pt、Ph、Ru、Ni等の金属(もしくはその酸化物)はプロトン還元による水素生成(正反応)の促進機能があるものの、図6に示すように、酸素還元による逆反応促進機能も有している。多くの場合、この逆反応の方が優勢なため、水分解反応は見かけ上進行しない。従って、助触媒に求められる機能は、正反応を促進することと、逆反応を抑止することの両方である。
【0022】
従来、プロトン還元反応は阻害せず、酸素還元による逆反応だけを抑止するため、図7に示すように、金属(もしくはその酸化物)コアの上にCrを薄くコーティングすることが行われていた。このコーティングにより酸素分子がコアに到達するのを阻害し、酸素還元を抑止する。
【0023】
図8を用いてシェルであるCr層の機能を更に説明すれば、図中、左端に示す半導体粒子表面にRh等のコアが設けられ、その上に厚さ2nm程度のCrシェルが形成されている様子を示す。ここで、Cr自体は触媒活性がなく、コアの金属部分が活性を有する。使用状態では図8に示す系全体が水中に浸漬されるので、Crは水和して水酸化物状態になり、これにより、反応サイトであるコアに水分子が供給される。半導体粒子側から供給されるeによりコア表面で生成した水素分子はCrシェルを透過して外部に放出される。一方、酸素分子に対してはCrシェルはその内部への侵入を阻止する。Crシェルのこの選択的透過膜としての機能により、コア表面において正反応だけが進行するという反応選択性が実現される。以上の作用により、水分解が効率的に進行する。
【0024】
このコア−シェル型助触媒のためのCrのコーティングは、下式に示すように、励起電子による水溶性Cr(VI)種の光還元により行われる。
2Cr(VI)O2−+6e → Cr(III)O+OH
より具体的には、二段階光電着法、つまり、先ず半導体粒子上に助触媒(例えばRh)のコアを光電着により担持させ、次に上の反応を利用してCrシェルを光電着により担持させる。あるいは例えばRh及びCrの水溶性塩から含浸法により担持させることも可能である。後者の場合には、コアはRh単独ではなくRh(III)酸化物とCr(III)酸化物が混合された状態となり、その表面に薄いCr層が形成されると考えられる。
【0025】
しかし、上で説明したCrシェルはCr種が溶解するという大きな問題がある。周知のとおり、Cr6+は毒性が強いことから、その環境中への漏出や作業者の摂取の危険性の回避のための強い規制がかかるので、産業上利用しにくい。
【0026】
更には、水分解に使用できる光の帯域を可視光域内のできるだけ長波長の光まで伸ばすにはバンドギャップの小さな光触媒(半導体粒子)を使用すれば良いが、そのような半導体粒子にCrを光電着することは困難、あるいは不可能である。
【0027】
より具体的に説明すれば、Crを光電着する場合には、光触媒上で以下の素反応(1)及び(2)を同時に遂行しなければならない:
2KCr(VI)O+6e → Cr(III)O+4KOH+OH (1)
3HO+6h → 3/2O+6H (2)
既に水分解ができるようになった、ある程度バンドギャップの大きな光触媒(半導体粒子)では、図9(A)に示すように、これらの反応は比較的容易に実現できるので、Crにより必要な助触媒構造をこの半導体粒子上に構築することができる。なお、図9(A)においては、光励起により生成された電子及び正孔によりそれぞれ上記素反応(1)及び(2)が起こることを示す実線の矢印にそれぞれ記号(1)及び(2)を付した。ところが、そのままでは水分解が達成されていなかったところのバンドギャップの小さな光触媒では、図9(B)中で素反応の記号(1)及び(2)を付した矢印が破線になっていることで示したように、これら素反応(1)及び(2)が進行しにくい、あるいは進行しないことが問題となる。
【0028】
上記の問題は何れもシェルの材料としてCrを使用する限り本質的な解決は困難であるため、本発明ではCrを代替するシェルを与える。
【0029】
代替シェル材料に求められる条件は以下のとおりである:
・無害であること(少なくともCrよりも低毒性であること)
・化学的安定性に優れていること
・水及び水素に対する透過性が高いこと
・外部から触媒側への酸素の透過を抑制すること
・前駆体中での高原子価状態がCr6+よりも容易に還元できること
【0030】
ここにおいて、複数の原子価状態を取り得る金属元素の原子価状態とpHに着目すると、図10に示すように、高原子価状態はアルカリ性側で安定化する傾向があることがわかる。しかし、図10に示したアルカリ金属オキソメタレートでシェル材料前駆物質として好適なものは見出されていない。
【0031】
そこで、本願発明者は水溶性遷移金属ペルオキソ錯体に着目した。Ti(IV)、Nb(V)、Ta(V)等のペルオキソ錯体は水溶性である。その中心金属に配位している−1価の酸素の2p軌道内の非占有順位に電子を注入して還元すると、不可逆的に不溶な酸化物へと変化する。これを利用して上記元素の酸化(水酸化)物を光電着することを着想した。二酸化チタンを過酸化水素水溶液で処理することによりTi(IV)ベルオキソ錯体の水溶液を作製し、その後、上述の電子注入によって水に不溶の二酸化チタンを得る過程を以下の化学式に示す。
【0032】
【化2】
【0033】
図11に示すように、Cr6+からCr3+への還元電位(Cr6+/Cr3+)よりもペルオキソ錯体の中心金属に配位している−1価の酸素の2p軌道内の非占有順位への電子注入による還元電位(O/O2−)の方が低いため、バンドギャップの小さな光触媒でもこの還元反応が起こりやすい。
【実施例】
【0034】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。
【0035】
[ペルオキソ錯体を含むシェル前駆体溶液の作製]
○ペルオキソTi錯体
Ti(i−Pro)/i−ProOHに水を加えて沈殿させた。これをろ過して室温で乾燥させることにより、TiO/nHOを得た。これにH水溶液を加えて超音波処理し、更にNaOH水溶液をNa:Ti=2:1となるように添加した。これにより透明なNaTiO(O/NaOH+H水溶液を得た。
【0036】
○ペルオキソNb、Ta錯体
M(V)Cl5(M=Nb、Ta)にH水溶液を加えて超音波処理し、更にHaOH水溶液をNa:M=5:1となるように添加した。これにより透明なNa[M(O]/NaOH+H水溶液を得た。
【0037】
[ペルオキソ錯体を使用したシェルの担持及び性能測定]
半導体上に助触媒を担持させた各種の光触媒及び水が入った反応溶液に、このようにして作製したペルオキソTi錯体、ペルオキソNb、Ta錯体溶液を添加して光照射を行うことにより、水分解を行った。このようにしてTi、Nb、またはTaの酸化物からなるシェルを担持させた光触媒による水分解速度を測定した。また、比較対象として、ペルオキソ錯体溶液ではなくHのみを添加することを除いては上と同じ処理を行った光触媒の水分解速度も測定した。
【0038】
図12は、SrTiO:Sc5%(SrTiO中のTiサイトの5at%をScで置き換えたもの)粒子上に助触媒としてRhを含浸法により0.5wt%担持させた光触媒上に、TiO、Nb、Taのシェルを上述のペルオキソ錯体溶液を使用した光電着(RPD)により担持させた場合の、光照射による酸素及び水素の発生量の時間累積を示すグラフである。光照射は300Wのキセノンランプ(波長>300nm)により行った。図中、「imp」は含浸法(impregnation method)による担持を意味する。また、「○wt%RPD」は光電着されたシェルの量を光触媒に対する重量%で表している。また、「evacuation」あるいは「evac.」とあるのは、その時点で系から排気して、発生した酸素及び水素の累積量をそこでリセットすることを表している。なお、上記の条件や表記法はこれ以降のグラフについても同様である。なお、光電着法は還元反応によって析出させる場合と酸化反応によって析出させる場合があるが、ここで使用している略号「RPD」の先頭の「R」は、光電着法のうちの還元反応による析出を利用する光電着法であることを意味している。
【0039】
更に、ペルオキソ錯体を含まないHのみを使用して光電着処理を行った(つまり、シェルが担持されていない)光触媒についてのグラフを図12の右端に示す。図12に示す結果から、光電着によりTiO、Nb、Taのシェルを担持させた光触媒は、水分解に有効であることが確認された。なお、ここでは助触媒としてRhを0.5wt%担持したものを用いたが、利用可能な金属種としては例えばFe,Co,Ni,Cu,Ru,Rh,Pd,Ag,Re,Os,Ir,Pt,Auが挙げられる。また、担持量は0.01〜10wt%の範囲が好ましい。
【0040】
図13は、SrTiO:Sc5%にRhを助触媒として担持させた粒子に本発明を適用した例による水分解速度を、シェルとしてCrを使用した従来例と比較するグラフである。図13はまた、シェルを担持させなかった場合(左端)、及び共含浸法によりシェルを形成した場合(右端及び右から3番目)との比較も行っている。これにより、本発明のシェルはCrと同等以上の性能を有し、また共含浸法による共担持に対しても有効であることが確認できた。図中、「co−imp」は2成分の共含浸法による担持という意味である。具体的には、右から3番目の例では、SrTiO:Scに対しCrが1wt%、及びRhが0.5wt%共担持されている。
【0041】
図14は、SrTiO:Sc5%に助触媒としてRhを担持させた場合(左端のグラフ)、RhにCrを含浸させた場合(中央のグラフ)及び助触媒を担持させなかった場合(右端のグラフ)の三通りの構成に対して、本発明を適用してTaのシェルを担持させた光触媒による水分解速度を示す。また、それぞれのグラフの下に、対応するTa担持状態の概念図を示す。
【0042】
図14において、Rh−Cr酸化物担持系(中央のグラフ)ではRh酸化物担持の場合(左端のグラフ)よりも光電着過程での酸素生成活性が低く、また未担持の場合(右端のグラフ)と同程度の活性であることがわかる。すなわち、図14で行った比較により、光触媒上の助触媒で被覆されていない表面でも過酸化物(過酸化水素、金属ペルオキソ錯体)の還元は可能であることが示された。この場合、助触媒のみではなく光触媒表面全体を酸化物層がコーティングした状態になる。
【0043】
図14の中央のグラフが示しているところによれば、Crのシェルを形成する際にはもっぱら助触媒上に析出していたが、ペルオキソ錯体は還元されやすいため、助触媒上に限らず、励起電子が出てくるところではどこでもシェルが形成される。なお、シェルの酸素透過性には方向性があり、外部から光触媒表面への酸素の透過は防止するが、光触媒表面で生成された酸素はシェルを透過して外部へ離脱することが可能である。従って、シェルが光触媒表面全体を被覆した場合であっても、光触媒による水分解が起こらなくなるというわけではない。
【0044】
[シェル担持量の光触媒活性への影響]
シェル担持量を増加させた場合の光触媒活性への影響を以下のように検証した。
【0045】
図15は、Rh(0.5w%)担持SrTiO:Sc上(左側)及び助触媒を担持させていないSrTiO:Sc上(右側)にTaシェルを担持させる過程を示すグラフである。これまで説明した同種のグラフと同様、横軸は時間経過を示し、反応系にTa源を投入するタイミング(下向き矢印)及び排気のタイミング(縦方向の破線)を表示している。また、縦軸は酸素及び水素の発生量の時間累積を示す。図示したように、ペルオキソ錯体によるシェル担持の開始時だけではなく、シェル担持過程の途中でも、H水溶液に溶解したペルオキソ錯体を間欠的に追加で添加した。ペルオキソ錯体の総添加量は、光触媒表面を完全にまた厚く被覆するに十分な量とした。ペルオキソ錯体の1回あたりの投入量はTaに換算して光触媒に対して5wt%とした。投入は都合3回行ったので、総添加量は光触媒の15wt%であった。このようにして、光電着により光触媒量の15wt%のTaを含む酸化物溶液中で吸着によるシェル担持処理を行うことにより得られたコア−シェル構造の光触媒は、光電電着法で5wt%のシェル担持を行った場合と同等の水分解活性を示した。
【0046】
[可逆的犠牲試薬存在下での反応への本発明のシェルの適用]
本発明のシェルは、可逆的犠牲試薬存在下での反応にも適用可能である。例えば、図16に示すように、本発明のシェルはI、IOイオンに対して特異的な選択反応性を示す。従って、本発明をヨウ素レドックス系Z−スキームによる二段階水分解に適用することができる。
【0047】
ヨウ素レドックス系Z−スキームによる二段階水分解は図17に示すように進行する。水素生成系では励起電子がHをHへ還元し、また正孔がIをIOに酸化する。一方、酸素生成系では正孔がHOを酸化してOを生成し、また励起電子がIOを還元してIを生成する。これにより、二段階で水分解反応が進行する。ところが、本反応系では図17で破線の矢印で示す各素過程の逆方向の反応が併発することが、目的の反応を阻害する。ペルオキソ錯体を用いた表面コーティングにより逆反応を抑制すれば、よりバンドギャップの小さい半導体を用いても効率的に水分解を進行させることができる。なお、図17には助触媒が図示されていないが、これは同図がI/IO3−がある場合の反応の概念を示すものであるので、これに直接関係しない要素については省略したためである。実際には、どの半導体材料を使うかによって、助触媒が必要である場合とそうではない場合がある。
【0048】
[本発明のシェルを担持した光触媒のSEM像]
図18に、SrTiO:Sc5%の粉末に0.5wt%のRh助触媒を担持させた光触媒(シェルなし)のSEM像を示す。図19及び図20は、図18の光触媒にそれぞれ2wt%及び5wt%の本発明のTaシェルを担持させたもののSEM像である。図21(A)〜(C)は、それぞれ図18図20中の粒子におけるシェルの被覆状態を概念的に示す。シェルの担持量を多くすると、図21(C)に示すように、シェルが光触媒粒子全体を覆うようになる。
【0049】
[ベルオキソ錯体を用いない他のコーティング方法との比較]
以下に示すようにしてTi(i−pro)4を用いてRh/SrTiO:Sc光触媒にTiOシェルを担持させ、その光化学活性を、ペルオキソ錯体を用いて同じ光触媒に担持させたTiOシェルと比較した。
【0050】
先ず、Rh/SrTi0:Scにエタノールを添加して超音波処理を行った。これにTi(i−pro)4エタノール溶液を添加し、水浴(water bath)上で乾燥させた。これに水滴を加えて水浴上で乾燥させることにより、TiO(re−imp)/Rh/SrTiO:Sc(TiOを再含浸させたRh/StTiO:Sc)を得た。
【0051】
図22には、左端から、Rh/SrTiO:Scにシェルを担持させない場合、上の方法で光触媒の3wt%のシェルを再担持させた場合、同じく10wt%のシェルを再担持させた場合、最後に光電着によって3wt%のシェルを担持させた場合の、光照射による水素及び酸素の発生量の時間累計をそれぞれ示す。なお、図22中の右端のグラフ(本発明)については、この場合だけ水素及び酸素の発生量が他の例に比べて非常に多いので、縦軸を1/5縮尺に縮めることで、プロットが紙面から外にはみ出さないようにしてある。図22からわかるように、本発明によるペルオキソ錯体からの光電着によって作成したシェルの方が水素、酸素の発生量が直線的に増加し、また発生量の絶対値も他に比較して高い値を示すなど、良好な活性を有していることが確認された。
【0052】
[ペルオキソ錯体の光分解生成物の吸着によるシェル担持方法]
本発明のシェル担持光触媒は、上述した光電着法によらなくても形成することが可能である。具体的には、ペルオキソ錯体溶液を光分解して金属酸化物の微粒子を溶液中に形成する。そこに光触媒を投入して光触媒表面に金属酸化物の微粒子を吸着させる。この吸着された金属酸化物がシェルとして機能する。
【0053】
図23を参照して更に具体的に説明すれば、所望の金属のペルオキソ錯体溶液に光を照射することによりこのペルオキソ錯体を光分解して、溶液中に当該金属酸化物のクラスタを形成する。これにより、金属錯体が分散した酸化物溶液が得られる。この状態でシェルを担持させたい光触媒の粉末を酸化物溶液に添加する。すると溶液中の酸化物クラスタが光触媒の表面に吸着されることにより、光触媒と所望の金属酸化物とのコア−シェル構造が形成される。
【0054】
図24はRhを0.5wt%担持させたSrTiO:Scに、図23に示した方法によってTaのシェルを5wt%担持させるプロセスを説明するグラフである。グラフの横軸は時間の推移を示し、縦軸は発生した水素及び酸素の時間累計を示す。このグラフにおいて、左端の時刻0の時点でTa源をH水溶液に溶解した溶液(最終的に光触媒にTaのシェルを5wt%担持させるだけのペルオキソTa錯体を含有)への300nmより長い波長の光照射(300Wキセノンランプ)を開始した。時刻25時間においてペルオキソTa錯体が十分に分解してTa酸化物が分散した水溶液中に、上記した光触媒を投入した。光触媒投入後は、グラフから明らかなように、水の分解が、図12を参照して既に説明したところの光電着により形成したコア−シェル構造を有する光触媒の場合と同様な活性で進行した。このことは、酸化物溶液中に生成されたTa酸化物種が光触媒粒子の表面に吸着されてコアーシェル構造を形成したことを示している。
【0055】
[本発明により新たに水の完全分解(overall water splitting)に使用できるようになる光触媒半導体用化合物]
本発明のシェルを適用することで、以下の化合物を光触媒として使用して1ステップまたは2ステップでの可視光による水の完全分解を達成することが可能となる。
LaTaON
LaNbON
AETaON(AE=Ca,Sr,Ba)
AENbON(AE=Ca,Sr,Ba)
LaTiO
Ta
TaON
また、上記化合物に異元素を組み込む(すなわち、Ti、Ta、Nbのサイトを置換する)ことにより得られる関連化合物についても同様の効果が期待できる。導入する異元素はHf4+,Zr4+,Sc3+,Mg2+,Y3+などが挙げられ、導入量は1〜50atm%の範囲である。
【0056】
これらの化合物のうちのLaTaON:Mgについて本発明のシェルの有効性を確認した。
【0057】
LaTaONは650nmまでの可視光を吸収するとともに、高いH生成活性を有するがO生成はできないことが知られている。非特許文献22に開示されているMgドープしたLaTaON(LaMgxTa1-x1+3x2-3x(主にx=1/3だがxが1/100〜1/2の範囲、すなわち1〜50atm%とすることが可能である)、バンドギャップ約2.2eV)(以下、LMTONと称する)に助触媒を担持させた光触媒に本発明のシェルを適用して、その光化学活性を調べた。
【0058】
先ず、LMTONを以下の手順で合成した。先ず、40mlのメタノール中にTaClとクエン酸とを重量比1:10で添加し、室温で20分間攪拌することにより、透明な溶液を得た。この透明溶液中にMgOとLa(NOとを重量比1:3、更に水200mlを添加して室温で4時間攪拌し、透明溶液を得た。次に、その液体成分を蒸発させ、800℃で5時間か焼することにより、LaMg2/3Ta1/3とLaTaOとの混合物を得た。この混合物を100ml/分の流量でNHを流している雰囲気中で10K/分の速度で昇温し、900℃で10時間反応させることにより、窒化処理した。この処理の生成物をエタノール中で72時間攪拌することにより、LMTONを得た。
【0059】
このようにして得られたLMTONに、以下のようにして助触媒(Rh、RhCrO)を担持させ、光電着によりTiOのシェルを担持させた。
【0060】
・TiO/Rh/LMTONの合成
LMTONと0.5wt%のRhに相当するRhClとを混合し、Nを100ml/分の流速で流している雰囲気中で350℃で1時間熱処理することにより、Rhが担持されたLMTON(Rh/LMTON)を得た。この粉末を水250mlに所定量入れて、そこにさらに2mgのTiOを0.2mlのH水溶液(市販品、約35wt%)に溶かしたものを加えた水溶液にキセノンランプで光照射を行うことにより、LMTON上に担持されたRh酸化物助触媒上にシェルとしてTiOが光電着された光触媒TiO/Rh/LMTONを得た。
【0061】
このようにして得られた、Rhを0.5wt%含浸担持したLMTON上にTiOを1wt%電着で担持させた光触媒を使用し、紫外光及び可視光で水分解を行った結果を図25に示す。ここでは、0.2gの光触媒を含む250mlの水を側方照射反応セルに収容して300Wのキセノンランプで照射した。先ずキセノンランプの光をフィルターを介さずに反応セルに照射し、その後排気してから波長420nm以下の紫外光を遮断するフィルターを介して照射を行った。いずれの場合も酸素の発生開始はやや遅れるものの、水素と酸素の発生量はモル比で2:1となり、また窒素の発生も見られなかった。この結果から、紫外光、可視光照射の何れにおいても光による水分解が起こったことが確認できた。
【0062】
・TiO/RhCrO/LMTONの合成
LMTONに0.5wt%のRhに相当するRhCl及び0.5wt%のCrに相当するCr(NO/9HO)を混合し、N雰囲気中で350℃で1時間加熱して含浸処理することにより、RhCrOが担持されたLMTON(RhCrO/LMTON)を得た。これを2mgのTiO及び0.2mlのHを含有する水溶液中に投入してキセノンランプで20時間光照射することにより、LMTON上に担持されたRhCrOy助触媒上にシェルとしてTiOが光電着された光触媒TiO/Rh/LMTONを得た。
【0063】
・従来技術による水分解
図26は、LMTON上に助触媒RhCrOyを担持させただけの(シェルなし)光触媒RhCrO/LMTON(左側)及びこれにCo(NO水溶液から含浸法で担持させたCoOの助触媒粒子を有する構造を有する光触媒CoO/RhCrO/LMTON(右側)の2つの光触媒をそれぞれ0.2gを使用し、これを水400mlに分散させ、内部照射反応セルに収容して450Wの水銀ランプで7時間にわたって照射したときの水素、酸素及び窒素の発生量の時間推移を示すグラフである。これらのグラフの何れにおいても、窒素の発生が抑止されていないこと、また水素と酸素との生成量の比が2:1にならないことがわかり、何れの光触媒を使用した場合も水の分解反応が起こっていると判断することはできない。
【0064】
・本発明による水分解
図27は、上で説明したようにして作製した光触媒を使用し、触媒及び水の量並びに使用機器を図26の場合と同じにして6.5時間の光照射を行った時の水素、酸素及び窒素の発生量の時間推移を示す。ただし、右側のグラフは更に400nmより短波長の紫外光カットオフフィルターであるNaNO2 aq filterを使用した場合の結果である。これからわかるように、本発明のTiOシェルにより、水素と酸素との生成量比がほぼ2:1となり、また窒素生成も抑制できた。この結果から、光触媒TiO/RhCrO/LMTONにより水の光分解が行われたと結論付けることができる。これはバンドギャップが2eV程度の半導体を使用して水分解に成功した最初の例である。
【0065】
[SiOコート後のシェル担持による光化学活性の向上]
本発明の光触媒の光化学活性は、SiOコートを施してからシェルを担持させることで更に向上させることができる。
【0066】
先ず助触媒RhCrOyを担持させたLMTON(RhCrO/LMTON)を準備し、これに3wt%のSiOに相当するSi源を含む22.5μlのTEOSと30mlのEtOHと0.5mlの0.1M NaOHとを混合して8時間攪拌し、80℃で乾燥させた。これにより、SiOをコートしたRhCrO/LMTON(SiO/RhCrO/LMTON)を得た。更に、TiOを含むH水溶液中で24時間キセノンランプ照射を行うことで、光電着によりTiOシェルを担持させた。
【0067】
上のようにして得られた、SiO−TiO共コーティング(co-coating)シェルを有する光触媒の光化学活性を、RhCrO/LMTONにシェルとしてSiO、TiO、及びTaを担持させたもの、並びにシェルを何も担持させないものと比較した。具体的には、250mlの水に各光触媒0.2gを分散させた溶液を側方照射反応セルに収容して300Wのキセノンランプで照射した。その結果を図28に示す。図28からわかるように、SiO−TiO共コーティングシェルを有する光触媒を使って発生した水素と酸素とのモル比は2:1であり、また窒素の発生は見られなかった。また、他の光触媒に比較して明らかに高い活性を示した。
【0068】
このように高い光化学活性が得られたのは、SiOコーティングにより触媒粒子の親水性が高まり、その結果、TiOの担持が容易になったためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上詳細に説明したように、本発明によれば、光触媒の高効率化と可視光域のエネルギーの利用率を向上させることができるので、産業上大いに利用されることが期待される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0070】
【非特許文献1】S. Sato et al., Chem. Phys. Lett., 72, 83 (1980).
【非特許文献2】K. Domen et al., J. Phys. Chem., 90, 292 (1986).
【非特許文献3】Y. Inoue et al., J. Chem. Soc., Chem. Commun., 579 (1992)
【非特許文献4】K. Sayama et al., J. Chem. Soc., Chem. Commun., 150, (1992).
【非特許文献5】H. Kato et al., J. Phys. Chem. B, 105, 4285 (2001).
【非特許文献6】K. Sayama et al., J. Phys. Chem., 97, 531 (1993).
【非特許文献7】K. Ikarashi et al., J. Phys. Chem. B, 106, 9048 (2002).
【非特許文献8】N. Arai et al., J. Phys. Chem. C, 112, 5000 (2008).
【非特許文献9】J. Sato et al., J. Phys. Chem. B, 108, 4369 (2004).
【非特許文献10】J. Sato et al., J. Photochem. Photobiol. A. Chem., 148, 85 (2002).
【非特許文献11】D. E. Scaife, Sol. Energy, 25, 41 (1980).
【非特許文献12】A. J. Bard et al., J. Electrochem. Soc., 124, 1706 (1977).
【非特許文献13】W.-J. Chun et al., J. Phys. Chem. B, 107, 1798 (2003).
【非特許文献14】G. Hitoki et al., Electrochem., 70, 463 (2002).
【非特許文献15】A. Kasahara et al., J. Phys. Chem. B, 107, 791 (2003).
【非特許文献16】G. Hitoki et al., Chem. Commun., 1698 (2002).
【非特許文献17】G. Hitoki et al., Chem. Lett., 7, 736 (2002).
【非特許文献18】K. Maeda et al., J. Am. Chem. Soc., 127, 8286 (2005).
【非特許文献19】K. Maeda et al., J. Phys. Chem. B, 110, 13107 (2006).
【非特許文献20】K. Maeda et al., J. Phys. Chem. B, 110, 13753 (2006).
【非特許文献21】K. Maeda et al., J. Catal., 243, 303 (2006).
【非特許文献22】Y. Kim, et al., J. Solid State Chem., 180, 3224-3233 (2007)
図1
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