(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、「前後室交互切替方式」の液圧式打撃装置は、ピストンが前進する打撃工程から反転して後退工程に移行する通常の打撃局面において、前室において作動油の急激な圧力変動が生じる。このような前室での作動油の圧力変動の問題は、「後室交互切替方式」の液圧式打撃装置では、前室が常時高圧回路に連通されているため、重大な問題とはならないのに対し、「前後室交互切替方式」の液圧式打撃装置では、負圧状態が生じるため、キャビテーションエロージョンが起き易くなるという問題がある。
【0007】
例えばさく岩機(ドリフタ)では、ピストンの前方にシャンクロッドが配置され、ピストンが前進してシャンクロッド後端を打撃するようになっている。
図7に一例を示す。
同図に示す例では、ピストン120の前方にシャンクロッド160が配置されている。シリンダ110の内部の前側には、円環状の前室ポート104が形成され、この前室ポート104の前方に、銅合金製の一体構造の前室用ライナ130がシリンダ110の内面に嵌合されている。なお、この例では、前室用ライナ130の後部に、作動油が満たされる液室空間が画成され、この液室空間が前室102と連通するクッション室103になっている。
【0008】
ピストン120は、打撃効率が最大のときにシャンクロッド160の後端を打撃する。シャンクロッド160がピストン120により打撃されると、打撃により発生する衝撃波が、シャンクロッド160の先端側のロッドを介して先端のビット(不図示)まで伝播し、さく孔のエネルギーとして使用される。
ここで、「前後室交互切替方式」の液圧式打撃装置において、打撃局面では、前室が低圧回路に連通されるところ、ピストンがシャンクロッドを打撃するとピストンには急制動がかかる。このとき、ピストンが急制動されても作動油は慣性によって流出を続けるので、前室において負圧状態が生じる。そのため、作動油の圧力がごく短時間だけ飽和蒸気圧より低くなったとき、作動油中に多数の微小気泡、つまりキャビテーション(cavitation)が生じ易くなるのである。そして、打撃後にピストンが後退工程に移行時に、切換弁機構により前室が高圧回路に連通される。そのため、発生したキャビテーションが圧縮されて消滅するときの衝撃圧力により前室内でエロージョン(壊食)が発生し易いという問題がある。
【0009】
ところで、本発明者は、上記前室でのキャビテーションエロージョンの問題は、ピストン前進時に前室を低圧回路に切り替えることから、ピストン前進時に前室が低圧になることが根本的な原因であることに思い至った。すなわち、ピストン前進時に前室が低圧となる上記の「前後室交互切替方式」に加えて、後室が常時高圧接続され前室が高圧と低圧に交互に切換される「前室交互切替方式」(例えば特許文献3参照)においても同様の課題がある。
【0010】
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、ピストン前進時に前室を低圧回路に切り替える方式の液圧式打撃装置において、前室でのキャビテーションエロージョンを効果的に防止若しくは抑制、またはキャビテーションエロージョンによって引き起こされる不具合を最小限に止めることのできる液圧式打撃装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者による実験研究の結果によれば、ピストン前進時に前室を低圧回路に切り替える方式の液圧式打撃装置において、前室での作動油の圧力低下時のキャビテーションエロージョンは、前室の作動油を給排させる前室通路の開口部に対して周方向で最も離れた側に偏在して発生するという知見を得た。
すなわち、上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る液圧式打撃装置は、シリンダ内に摺嵌されたピストンを前後進させて打撃用のロッドを打撃する液圧式打撃装置であって、前記ピストンの外周面と前記シリンダの内周面との間に画成されて前後に離隔配置された前室および後室と、前記ピストンの前進時に前記前室を低圧回路に切り替えて前記ピストンの前進および後退が繰返されるように作動油を給排させる切換弁機構とを備え、前記前室は、前記シリンダ
の内
周面に嵌合された前室用ライナを有し、前記シリンダ
の内
周面には、前記前室用ライナの後方側の外周面に対向して円環状に形成された前室ポートを有し、該前室ポートに連通するように前記前室の作動油の高低圧を切替える高低圧切替ポートが接続され、前記前室用ライナは、前記前室ポートに対向する位置まで延設されるとともに、前記前室ポートに対向する面に、周方向に離隔する複数の貫通孔が径方向に貫通して形成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様に係る液圧式打撃装置によれば、シリンダ
の内
周に円環状に形成された前室ポートを設け、この前室ポートに連通するように高低圧を切替える前室通路を接続し、
前室用ライナは、前室ポートに対向する位置まで延設されるとともに
、前室ポートに対向する面に、周方向に離隔する複数の貫通孔が径方向に貫通して形成されているので、
前室用ライナの複数の貫通孔が、発生したキャビテーションの分散領域として働く。
【0013】
これにより、前室用ライナの内側で発生したキャビテーションは、
前室用ライナの複数の貫通孔によって前室ポートに入る前に分散される。そのため、仮にキャビテーションが発生した場合であっても、前室通路の開口部に対して周方向で最も離れた側の部分へのキャビテーションの偏在が緩和される。したがって、この部分における集中的なエロージョンを効果的に防止若しくは抑制、またはキャビテーションエロージョンによって引き起こされる不具合を最小限に止めることができる。さらに、
前室用ライナの後側を前室ポートの後方まで延設しているため、シリンダ内径摺動面でのエロージョンの発生を防止できる。そのため、エロージョンによる消耗部品を最小限に抑えることができる。
【0014】
ここで、貫通孔を矩形や楕円形等のように、複数の貫通孔が、軸方向よりも周方向を長くしたスロット形状(長穴形状)であることは好ましい。このような構成であれば、個々の貫通孔の通路面積が拡大するので、作動油の流速を抑えてキャビテーションの発生を低減する上で好適である。
また、前記
前室用ライナは、前記複数の貫通孔の後方側縁面の位置にて軸方向前後に二分割された分割構造を有し、当該分割構造によって、周方向で隣りあう貫通孔同士の間に形成された各柱部が片持ち梁とされていることは好ましい。このような構成であれば、ピストンの往復に伴ってサージ圧が発生するところ、複数の柱部を片持ち梁とすれば、柱部にサージ圧による引張り圧力は作用しない。そのため、サージ圧による柱部の破壊を防止または抑制する上で好適である。
【0015】
ここで、液圧式打撃装置において、例えばさく岩機(ドリフタ)では、ピストン前側ストローク端でピストンの大径部がシリンダと衝突することを防止するために、制動機構として前室にクッション室を設けることが行われているところ、本発明の一態様に係る液圧式打撃装置において、前記前室用ライナには、前記前室と連通して作動油が満たされる液室空間がクッション室として設けられており、前記複数の貫通孔は、前記
前室用ライナの内周面に形成された内面側円環状溝内に設けられ、前記クッション室は、軸方向後方が内面側円環状溝に全周に亘って連通していることは好ましい。このような構成であれば、本発明の実施形態で詳しく説明するように、クッション室によるクッション効果を所期の位置で開始させて、打撃効率の低下を防止する上で好適である。
【発明の効果】
【0016】
上述のように、本発明によれば、ピストン前進時に前室を低圧回路に切り替える方式の液圧式打撃装置における、前室でのキャビテーションエロージョンを効果的に防止若しくは抑制、またはキャビテーションエロージョンによって引き起こされる不具合を最小限に止めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。
本実施形態の液圧式打撃装置1は、「前後室交互切替方式」の打撃装置であって、
図1に示すように、ピストン20は、中実円筒状の軸部材であって、軸方向中央の大径部21、22と、この大径部21、22の前後に形成された小径部23、24とを有する。そして、このピストン20が、シリンダ10内に摺嵌して設けられることで、ピストン20の外周面20gとシリンダ10の内周面10nとの間に前室2と後室8とがそれぞれ画成されている。なお、軸方向前側の大径部21と小径部23とが接続する段部は、ピストン20の進行方向に推力を与えるための、前室2側での受圧面とされ、本実施形態では、前室2側での受圧面は、大径部21側から小径部23側に向けて縮径する円錐面26となっている。一方、軸方向後側の大径部22と小径部24とが接続する段部は、後室8側での受圧面とされ、本実施形態では、後室8側での受圧面は、大径部22側の端面が、軸方向と直交する直交面27となっている。
【0019】
大径部21、22の間には、凹の段部により制御用溝25が形成されている。制御用溝25は、複数の制御ポートを介して切換弁機構9に接続される。また、前室2および後室8は、それぞれの高低圧切替ポート5、85を介して切換弁機構9に接続される。そして、この切換弁機構9により所期のタイミングで作動油を給排させて前室2および後室8が高圧回路91と低圧回路92のそれぞれに交互に連通され、上記受圧面が作動油の油圧で軸方向に押されることにより、シリンダ10内でピストン20の前進および後退が繰返されるようになっている。なお、シリンダ10の前後には、さく岩機やブレーカ等の打撃装置に応じたフロントヘッド6とバックヘッド7がそれぞれ装着される。
【0020】
ここで、前室2は、前室2の前方に設けられてシリンダ内周面10nに嵌合された前室用ライナ30を有する。前室用ライナ30の前側には、シリンダ内周面10nに環状のシールリテーナ32が嵌合されている。シールリテーナ32は、その内外周面の適宜の位置に形成された複数の環状溝32aにパッキン等が嵌め込まれており、前室2の前方への作動油の漏れを防止している。また、後室8は、後室8の後方に設けられてシリンダ内周面10nに嵌合された筒状の後室用ライナ80を有する。
【0021】
後室用ライナ80は、軸方向前方から順に、後室画成部81、軸受部82、シールリテーナ部83を一体に有する。後室画成部81の前側内周の円筒状空間、シリンダ10内周面およびピストン20の小径部の外周面との間の液室空間により上記後室8が画成されている。後室8を画成するシリンダ10内周面に連通して後室通路85が接続される。軸受部82は、ピストン20の後方側の小径部外周面に摺接されてピストン20の後部を軸支している。軸受部82の内周面には、複数条の円環状油溝82aが軸方向に離隔してラビリンスを形成している。シールリテーナ部83には、その内外周面の適宜の位置に形成された複数の環状溝83aにパッキン等が嵌め込まれており、後室8後方への作動油の漏れを防止している。軸受部82とシールリテーナ部83との間には、ドレン用の連通孔84が径方向に貫通形成され、この連通孔84が後室用低圧ポート(不図示)に接続される。
【0022】
前室用ライナ30は、軸方向前後一組の前ライナ40と後ライナ50とから構成されている。つまり、本実施形態では、前室用ライナ30は、軸方向の前方側と後方側とが別個のライナによって分割されている。そして、本実施形態では、前ライナ40には液室を設けず、後ライナ50にのみ液室空間を設けており、後ライナ50の後部に前室2と連通して形成された液室空間がクッション室3になっている。クッション室3は、ピストン前側ストローク端でピストン20の大径部21がシリンダ10と衝突することを防止するために、ピストン20の大径部21が侵入したときに液室を閉空間にしてピストン20の移動を規制する。
【0023】
詳しくは、上記前ライナ40は、銅合金製であり、
図2に拡大図示するように、前側端部に径方向外側に向けて円環状に張り出すつば部41を有し、つば部41よりも後方の部分は円筒状の軸受部42になっている。つば部41の外周には、シリンダ10内周面との間に、円環状をなすドレンポート45が形成され、このドレンポート45がドレン通路49に接続されている。
【0024】
前ライナ40は、後ライナ50の前端側内周の小径部54の所定の対向隙間(ピストン20の外径とライナ内径とのクリアランス)よりも狭い対向隙間をもってピストン20の小径部23の外周面23gに摺接している。前ライナ40の内周の摺接面40nには、複数条の円環状の油溝40mが軸方向に離間してラビリンスを形成している。前ライナ40は、この油溝40m以外には液室空間を設けておらず、ピストン20を摺動支持する軸受となっている。
【0025】
前ライナ40の後端面42tは、後ライナ50の前端面50tに当接しており、前ライナ40の後端面42tには、周方向に離隔して複数の第一端面溝46が、径方向連通路として径方向に沿って形成されている。この例では、複数の第一端面溝46は、周方向に離隔して4か所に等配されている(
図3(b)参照)。
さらに、前ライナ40には、円筒状の軸受部42の外周面42gに、上記第一端面溝46の形成位置に合せて、軸方向に沿って複数のスリット48が軸方向連通路として形成されている。この例では、複数のスリット48は、上記第一端面溝46の位置に合せて4か所に等配されている(
図3(a)参照)。さらに、前ライナ40のつば部41の後方側を向く面には、複数のスリット48の位置に合せて、複数の第二端面溝47が径方向に沿って径方向連通路として形成されている。
【0026】
複数の第二端面溝47は、前ライナ40のつば部41の外周に設けられた上記ドレンポート45に連通している。これにより、後ライナ50のクッション室3内の作動油を、後ライナ50の前端側の小径部54の所定隙間に通し、さらに、「第一端面溝46〜スリット48〜第二端面溝47〜ドレンポート45」を通してドレン通路49へと逃がすことができる。つまり、この回路がいわば「ドレン回路」として機能するようになっている。なお、ライナ軸受部(ピストン20の小径部23と前ライナ40の内周の摺接面40nとの内外径方向の対向隙間)を通る圧油のドレン回路(以下、「第一のドレン回路」ともいう)とは別個に形成されていることから、この回路を「第二のドレン回路」ということができる。
【0027】
「第一端面溝46〜スリット48〜第二端面溝47」からなる連通孔は、第一端面溝46、スリット48、第二端面溝47の各通路面積が、略等しい面積に設定されている。そして、本実施形態の連通孔は4箇所形成されているが、これら複数の連通孔の通路面積を合計した「連通孔の総通路面積」は、「ライナ軸受部のクリアランス量」に対して、下記(式1)に規定する所定範囲内の面積に設定され、これにより、「ドレン回路」からの圧油のリーク量が所定量に制限されている。ここで、「ライナ軸受部のクリアランス量」とは、ピストン20の小径部23と前ライナ40の内周の摺接面40nとの内外径方向の対向隙間により形成される円環状隙間の面積である。
0.1Apf<A<2.5Apf ・・・・・(式1)
但し、Apf:ライナ軸受部のクリアランス量
A:連通孔の総通路面積
【0028】
上記後ライナ50は、上記銅合金製の前ライナ40よりも機械的強度が高い合金製である。本実施形態では、合金鋼の機械的強度は、合金鋼の熱処理により向上させている。例えば、はだ焼き鋼に浸炭焼入れ焼き戻しを施して表面に硬化層を形成することができる。後ライナ50は、円筒状をなし、その円筒形状の外径寸法は、上記前ライナ40の軸受部42の外径寸法と同寸法とされている。後ライナ50の内径寸法は、後端側内周部50nの内径寸法が、ピストン20の大径部21に対して僅かな隙間を隔てた摺接面とされている。一方、後ライナ50の前端側内周の小径部54の寸法は、前ライナ40の内周の摺接面40nの内径寸法よりも大径とされ、ピストン20の外周面に対して上記ライナ軸受部のクリアランスよりも大きな所定の対向隙間を隔てている。
【0029】
後ライナ50の後方側の外周面50gとシリンダ10内周面との間には、円環状の前室ポート4が形成され、この前室ポート4に、前室2の高低圧を切替える前室通路5が接続されている。換言すれば、本実施形態の後ライナ50は、前室ポート4よりも後方に延びる延設部55を有している。
本実施形態においては、後ライナ50には、上記延設部55の外周面に、前室ポート4に対向する位置に外面側円環状溝56が形成されるとともに、延設部55の内周面に内面側円環状溝57が形成されている。そして、この内外の円環状溝56,57内に、周方向に離隔する複数の貫通孔58が径方向に穿孔されている。複数の貫通孔58は、周方向に等配されることは好ましい(
図3(c)に示す例では、貫通孔58が16か所に等配されている。)。複数の貫通孔58の形状は特に限定されないが、例えば円形(
図4(a)参照)、または
図4(b)に示すように、矩形(但し角はR形状)や楕円形等にすることができる。貫通孔58を矩形や楕円形等のように、軸方向よりも周方向のを長くした「スロット形状」とすれば、個々の貫通孔58の通路面積が拡大するので、作動油の流速を抑えてキャビテーションの発生を低減する上で好ましい。
【0030】
なお、
図4(c)に示すように、後ライナ50を更に分割構造にすることもできる。同図に示す例では、
図4(b)に示した「スロット形状(長穴形状)」とした貫通孔58の後方側縁面の位置にて分割構造とし、これにより、後ライナ(前)63と後ライナ(後)64とから後ライナ50を構成している。この位置で後ライナ50を二分割することにより、周方向で隣りあう貫通孔58同士の間に形成された柱部62は、後ライナ(前)63の後端から後方に向けて張り出す片持ち梁となっている。
【0031】
さらに、
図2に示すように、後ライナ50の後方側の内周面には、上記クッション室3が形成されている。本実施形態においては、クッション室3は、軸方向後方の第一円環部51と、この第一円環部51の前方に形成された第二円環部52とを有する。第一円環部51と第二円環部52とが接続する部分は、第一円環部51側から第二円環部52側に向けて拡径する円錐面59となっている。
【0032】
第一円環部51は、軸方向後方が上記内面側円環状溝57に全周に亘って連通している。第一円環部51は、上記内面側円環状溝57の深さ(内径)よりも浅い径(小径)であり、自身後方が内面側円環状溝57の前方に隣接して形成されている。第二円環部52は、第一円環部51よりも大径であり、自身後方が第一円環部51の前方に隣接して形成されている。第二円環部52を形成する前方側の端面は、軸方向と直交する直交面53とされている。
【0033】
次に、この液圧式打撃装置1の動作、および作用・効果について説明する。ここでは、本実施形態の液圧式打撃装置1をさく岩機に適用した例として、
図5を適宜参照して説明する。なお、さく岩機は、
図5(a)に示すように、上記液圧式打撃装置1のピストン20の前方に、シャンクロッド60を有する。シャンクロッド60は、後部にスプライン61が形成され、フロントカバー70に所定範囲で軸方向に摺動可能に支持されている。シャンクロッド60は、後方側への移動限が不図示のダンパ機構により規制されている。また、さく岩機は、不図示のフィード機構および回転機構を備え、シャンクロッド60は、スプライン61に歯合する回転機構により回転可能とされるとともに、液圧式打撃装置1のシリンダ10側がフィード機構により破砕量に応じてフィードされるようになっている。
【0034】
通常の打撃は、同図(a)に示す、シャンクロッド60の後方移動限において、ピストン20の打撃効率が最大のときに打撃が行われる。シャンクロッド60がピストン20により打撃されると、打撃により発生する衝撃波がシャンクロッド60からロッドを介して先端のビット(不図示)まで伝播し、ビットが岩盤を破砕するエネルギーとして使用される。シリンダ10側は不図示のフィード機構により破砕量に応じてフィードされる。そして、上記液圧式打撃装置1の切換弁機構9により所期のタイミングで作動油が給排されると、同図(b)に示すように、シリンダ10内でピストン20が後退され、同図の中心線上側に示す後退方向の所定位置で減速し、その後、同図中心線下側に示すように、ピストン20が後死点で再び前進方向に移動を開始する。
【0035】
ここで、この液圧式打撃装置1は、上記切換弁機構9により所期のタイミングで作動油が給排されると、前室2および後室8が、各高低圧切替ポート5、85を介して交互に高圧回路91と低圧回路92に連通され、これにより、シリンダ10内でピストン20の前進および後退が繰返し行なわれる。つまり、この液圧式打撃装置1は、「前後室交互切替方式」の打撃により、前室2側の作動油が打撃方向へのピストンの移動に抗することがない。そのため、打撃効率を向上させる上で好適である。
【0036】
しかし、この種の「前後室交互切替方式」の液圧式打撃装置にあっては、前室において作動油に急激な圧力変動により負圧状態が生じるとキャビテーションが起き易くなる。特に、本発明者による実験研究の結果によれば、「前後室交互切替方式」の液圧式打撃装置において、前室でのキャビテーションエロージョンは、前室から作動油を給排させる高低圧切替ポートの開口部に対して周方向で最も離れた側に偏在して発生することが確認された。
【0037】
これに対し、本実施形態の液圧式打撃装置1によれば、シリンダ10の内面に円環状に形成された前室ポート4を設け、この前室ポート4に連通するように高低圧を切替える前室通路5を接続し、前室用ライナ30を構成する後ライナ50は、前室ポート4に対向する位置まで延設されるとともに、前室ポート4に対向する面に、周方向に離隔する複数の貫通孔58が径方向に貫通して穿孔されているので、複数の貫通孔58が、発生したキャビテーションの分散領域として働く。
【0038】
これにより、前室用ライナ30を構成する後ライナ50の内側で発生したキャビテーションは、複数の貫通孔58によって前室ポート4に入る前に分散される。そのため、仮にキャビテーションが発生した場合でも、前室通路5の開口部に対して周方向で最も離れた側の部分へのキャビテーションの偏在が緩和される。したがって、この部分における集中的なエロージョンを効果的に防止若しくは抑制、またはキャビテーションエロージョンによって引き起こされる不具合を最小限に止めることができる。さらに、後ライナ50の後側を前室ポート4の後方まで延設しているため、シリンダ内径摺動面でのエロージョンの発生を防止できる。そのため、エロージョンによる消耗部品を最小限に抑えることができる。
【0039】
さらに、複数の貫通孔58が、軸方向よりも周方向を長くした矩形や楕円形等のスロット形状とされているので、個々の貫通孔58の通路面積が拡大することにより、作動油の流速を抑えてキャビテーションの発生を低減することができる。
ここで、周方向で隣りあう貫通孔58同士の間に形成された複数の柱部62を片持ち梁とすることは好ましい。この場合において、
図4(c)に示した第三実施例のように、「スロット形状」とした貫通孔58の後方側縁面の位置にて後ライナ50を分割して後ライナ(前)63と後ライナ(後)64とから後ライナ50を構成することは好ましい。
【0040】
つまり、ピストン20の往復に伴ってサージ圧が発生するところ、
図4(b)のような両持ちの柱部であると、発生するサージ圧が、柱部に対して前後方向の引張り圧力として作用する。そのため、柱部の部分でエロージョンが進行すると、柱部が引張り圧力に耐えられなくなって壊れてしまうおそれがある。これに対し、
図4(c)に示したように、複数の柱部62を片持ち梁とすれば、柱部62にサージ圧による引張り圧力は作用しない。そのため、サージ圧による柱部62の破壊を防止または抑制することができる。
【0041】
ここで、図
5(c)に示すように、さく孔中において、ビットが空洞帯に入るなどして正常に着岩しないと、シャンクロッド60が通常の打撃位置よりも前方に移動して「シャンクロッド前進状態」が生じる。このとき、ピストン前側ストローク端でピストン20の大径部21がシリンダ10と衝突することを防止するために、前室2と連通するクッション室3が設けられている。同図(c)の中心線上側に示すように、クッション室3は、ピストン20の大径部21がクッション室3に侵入したときに液室を閉空間にしてピストンの移動を規制する。これにより、同図(c)の中心線下側に示すように、ピストン20の大径部21の端部(円錐面26の位置)が、クッション室3内で留まるため、ピストン前側ストローク端でピストン20の大径部21がシリンダ10と衝突することを防止することができる。
【0042】
そして、上記複数の貫通孔58は、後ライナ50の内周面に形成された内面側円環状溝57内に設けられており、クッション室3は、軸方向後方が内面側円環状溝57に全周に亘って連通しているので、クッション室3によるクッション効果を所期の位置で開始させて、打撃効率の低下を防止することができる。
つまり、
図6(a)に示すように、仮に、複数の貫通孔58の部分に内面側円環状溝57を設けない場合には、貫通孔58の部分をピストン20の大径部21が直接摺接して通過することになる。そのため、貫通孔58の部分をピストン20の大径部21が通過するときに、同図(c)に示すように、低圧側(前室ポート4側)への圧油の流出通路面積の変化が大きくなる(同図の二点鎖線は、大径部端部稜線が通過する過程のイメージを示す)。そのため、クッション室3に突入する前の段階からクッション作用が生じて打撃効率が低下する。
【0043】
これに対し、同図(b)に示すように、本実施形態のように内面側円環状溝57を設ければ、貫通孔58の部分をピストン20の大径部21が通過するときに、内面側円環状溝57を介することで、同図(d)に二点鎖線で通過過程のイメージを示すように、低圧側への圧油の流出通路面積の変化率を一定にすることができる。そのため、クッション室3に突入前の段階でのクッション作用の発生が防止され、所期の位置、つまり内面側円環状溝57の前方側端部に続く第一円環部51の後端位置から、所期のクッション効果を開始させることができる。
【0044】
また、本実施形態の液圧式打撃装置1によれば、クッション室3は、後端部側の第一円環部51と、この第一円環部51の前方に隣接して形成されて第一円環部51よりも大径の第二円環部52とを有するので、第一円環部51の前側に設けた第二円環部52による容積拡大により作動油の圧力低下を緩和できるため、前室2でのキャビテーションの発生を抑制することができる。また、キャビテーションが発生しても、破裂してエロージョンを生じることを抑制することができる。
【0045】
さらに、クッション室3は、第二円環部52を形成する前方側の端面が、軸方向と直交する直交面53とされているので、仮にキャビテーションがクッション室3内で発生してエロージョンに到っても、軸受機能をもつ前ライナ40側に向かうキャビテーションを直交面53によってクッション室3の第二円環部52に留め、エロージョンをピストンとの摺動に影響の無い箇所に発生させることができる。そのため、キャビテーションエロージョンによって引き起こされる不具合を最小限に止め、直ちに打撃不能状態となることを防止することができる。
【0046】
ここで、上記クッション室3を設けることにより、「シャンクロッド前進状態」におけるピストン前側ストローク端でのピストン20の大径部21とシリンダ10との衝突が防止される一方、クッション室3内では圧油が急激に圧縮されて超高圧状態となることから、前室2およびクッション室3において作動油の油温が上昇する。さらに、クッション室3内が超高圧となると、前室2側への圧油の流出速度も過剰となる。そのため、クッション室3から前室2に流入する作動油の速い流れにより、局所的なキャビテーションの発生と圧縮に伴う作動油の更なる温度上昇もおこる。そのため、前室用ライナ30の銅合金部が膨張して、ピストン20が「かじる」という不具合の発生が懸念される。さらに、ピストン20と前室用ライナ30との隙間が減少することにより、ドレン機能が低下して高温の圧油の排出が抑制されるため温度上昇が加速されるという問題もある。
【0047】
これに対し、本実施形態の液圧式打撃装置1によれば、前室用ライナ30は、前室用ライナ30を構成する後ライナ50内のクッション室3よりも前方の部分に第一端面溝46を設け、「第一端面溝46〜スリット48〜第二端面溝47」からなる通路が低圧回路であるドレン通路49に常に連通されているので、この連通回路が「第二のドレン回路」として機能する。つまり、「シャンクロッド前進状態」時などのように、前室2において作動油の油温上昇が生じるときに、クッション室3の作動油を「第二のドレン回路」から逃がすことができる。
【0048】
これにより、「第二のドレン回路」を有しない場合に比べて、クッション室3および前室2での圧縮が緩和されるので作動油の油温上昇も抑制される。さらに、前室2に流入する作動油の流速が下がるので、局所的なキャビテーションの発生が抑制される。次いで、切換弁機構9により前室2が高圧に切り換わるが、局所的なキャビテーションが抑制されているので、キャビテーションの圧縮による発熱も緩和される結果、作動油温度上昇を劇的に下げることができる。そのため、これに伴う前室用ライナ30の銅合金部(本実施形態では、前室用ライナ30を構成する前ライナ40)の膨張も緩和されるので、前室用ライナ30との摺接箇所でのピストン20の「カジリ」の発生という不具合も防止または抑制される。なお、上記「第一のドレン回路」による通路面積は、温度上昇による膨張で急激に減少するのに対し、「第二のドレン回路」による通路面積は、温度上昇による影響を受けにくい。
【0049】
さらに、ピストン20がクッション室3内でストローク前端まで前進して停止する場合のピストン作動に着目すると、バルブ切換により前室2に供給される圧油は、後ライナ50の内径とピストン20の大径部21の隙間からクッション室3内へと供給されてピストン20は後退に転じるが、このとき、圧油の一部が「第二のドレン回路」から排出されるので、クッション室3内の圧力上昇は穏やかなものとなる。したがって、ピストン20の後退速度が遅くなり、「シャンクロッド前進状態」における時間当たりの打撃数が減少するので、前室2における油温上昇は緩和されるのである。
【0050】
さらに、本実施形態の液圧式打撃装置1によれば、前室用ライナ30を軸方向前後に二分割した前ライナ40と後ライナ50とから構成し、前ライナ40は、銅合金製であって油溝40m以外には液室空間を設けないことでピストン20の摺動を支持する軸受部材とされ、後ライナ50は、表面に硬化層を形成した合金鋼製であって前室2と連通して作動油が満たされる液室空間がクッション室3として設けられているので、キャビテーションエロージョンについては、硬度の高い合金鋼製の後ライナ50で受け持たせ、ピストン20を摺動支持する軸受機能については、液室空間を設けない銅合金製の前ライナ40で受け持たせることができる。よって、前室2側で必要な軸受としてのピストン摺動支持機能を前ライナ40で維持しつつ、後ライナ50によって前室2でのキャビテーションの消滅による衝撃圧力に対抗してキャビテーションエロージョンによって引き起こされる不具合を最小限に止めることができる。
【0051】
以上説明したように、この液圧式打撃装置によれば、前室でのキャビテーションエロージョンを効果的に防止若しくは抑制、またはキャビテーションエロージョンによって引き起こされる不具合を最小限に止めることができる。なお、本発明に係る液圧式打撃装置は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能であることは勿論である。
【0052】
例えば、上記実施形態の液圧式打撃装置1は、「前後室交互切替方式」の打撃装置を例に説明したが、これに限らず、本発明は、ピストン前進時に前室を低圧回路に切り替える方式の液圧式打撃装置に適用することができる。
例えば特許文献3に開示されるような、「前室交互切替方式」の打撃装置にも適用することができる。つまり、「前室交互切替方式」の打撃装置は、後室が常時高圧回路に連通される一方、前室が切換弁機構により高圧回路と低圧回路のそれぞれに交互に連通される。前室が高圧回路に連通時は、後退方向にピストンが移動するように前後の受圧面積を異ならせており、これにより、シリンダ内でピストンの前進および後退が繰返される。よって、ピストン前進時に前室を低圧回路に切り替える方式なので、前室でのキャビテーションエロージョン等の問題が同様の作用機序にて生じることから、本発明を適用することができるのである。
【0053】
また、例えば上記実施形態では、前室用ライナ30を軸方向前後に二分割した前ライナ40と後ライナ50とから構成した例で説明したが、これに限定されず、図
7の比較例に示す
符号130の形態のように、前室用ライナ30を一体構造のライナから構成してもよい。
しかし、前室2側で必要な軸受としてのピストン摺動支持機能を前ライナ40で維持しつつ、後ライナ50によって前室2でのキャビテーションの消滅による衝撃圧力に対抗してエロージョンを効果的に防止若しくは抑制、またはキャビテーションエロージョンによって引き起こされる不具合を最小限に止める上では、上記実施形態のように、前室用ライナ30を軸方向前後に二分割した前ライナ40と後ライナ50とから構成することが好ましい。なお、二分割した前ライナ40と後ライナ50とから構成する場合において、後ライナ50は、前ライナ40よりも機械的強度が高い合金製であれば、種々の材料や表面硬化処理を採用可能である。
【0054】
また、例えば上記実施形態では、クッション室3の液室形状と容積につき、第一円環部51と、これよりも大径な第二円環部52とからクッション室3を構成し、さらに、第二円環部52を形成する前方側の端面が、軸方向と直交する直交面53とされている例で説明したが、これに限定されず、クッション室3の液室形状を、例えば図
7の比較例に示す
符号103の形態のように、一の円環部のみから構成してもよい。
【0055】
しかし、前室2でのキャビテーションを効果的に防止若しくは抑制、またはキャビテーションエロージョンによって引き起こされる不具合を最小限に止める上では、クッション室3を、第一円環部51と、この第一円環部51の前側に設けた容積の大きな第二円環部52とを有する構成とすることが好ましい。また、軸受機能をもつ前ライナ40側に向かうキャビテーションをより好適に抑制する上では、第二円環部52を形成する前方側の端面は、軸方向と直交する直交面53とすることが好ましい。
【0056】
また、例えば上記実施形態では、「第二のドレン回路」として、クッション室3よりも前方の位置に、周方向に離隔して径方向に沿って貫通形成された複数の連通孔として、前ライナ40と後ライナ50との境界部に第一端面溝46を形成し、「第一端面溝46〜スリット48〜第二端面溝47」からなる複数の連通孔が、低圧回路に常に連通されている例で説明したが、これに限定されず、このような複数の連通孔を設けない構成としてもよい。
【0057】
しかし、「シャンクロッド前進状態」時の油温上昇を抑制する上では、ライナ軸受部(ピストン20の小径部23と前ライナ40の内周の摺接面40nとの内外径方向の対向隙間)を通る圧油の「第一のドレン回路」とは別個に形成されて、クッション室3に連通する「第二のドレン回路」を有することが好ましい。また、「第二のドレン回路」を形成する場合に、クッション室3よりも前方の位置に、周方向に離隔して径方向に沿って貫通形成された複数の径方向連通路を設けこの複数の径方向連通路が低圧回路に常に連通されるように「第二のドレン回路」を構成することは好ましい。なお、前室用ライナ30を二分割した前ライナ40と後ライナ50とから構成する場合においては、前ライナ40と後ライナ50との境界部に、上記複数の第一端面溝46のように、複数の径方向連通路を形成することが好ましい。