(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6265429
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】スピニング加工用金型及びそれを使用したアンダーカット部を有する製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 37/02 20060101AFI20180115BHJP
B21D 22/16 20060101ALI20180115BHJP
B21H 1/10 20060101ALN20180115BHJP
【FI】
B21D37/02 Z
B21D22/16 Z
!B21H1/10
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-175633(P2014-175633)
(22)【出願日】2014年8月29日
(65)【公開番号】特開2016-49543(P2016-49543A)
(43)【公開日】2016年4月11日
【審査請求日】2016年12月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229047
【氏名又は名称】日本スピンドル製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(74)【代理人】
【識別番号】100097755
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 勉
(72)【発明者】
【氏名】高田 佳昭
【審査官】
石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】
独国特許出願公開第03112136(DE,A1)
【文献】
特開2009−183978(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/038551(WO,A1)
【文献】
特開2006−122945(JP,A)
【文献】
特開平05−031548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 37/02
B21D 22/14−22/16
B21H 1/10
B21D 53/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素材にスピニング加工を施すことによってアンダーカット部を有する製品を製造するために用いるスピニング加工用金型において、該金型を、固定部と、製品のアンダーカット部に対応する可動部とで構成し、該可動部を、周方向に分割形成した複数の可動片で構成するとともに、各可動片の中心側の面を、金型の中心軸に沿って軸方向に可動に配設した芯部材により当接、支持するようにし、かつ、芯部材による支持を解除した状態で、可動片を径方向及び軸方向に可動に配設するようにし、かつ、各可動片の一端側の面を、金型の中心軸に対して傾斜した傾斜面に形成するとともに、金型の固定部の内側に、該各可動片の傾斜面が当接する可動片案内面を、それに対応する錐状に形成するようにしたことを特徴とするスピニング加工用金型。
【請求項2】
素材にスピニング加工を施すことによってアンダーカット部を有する製品を製造するために用いるスピニング加工用金型において、該金型を、固定部と、製品のアンダーカット部に対応する可動部とで構成し、該可動部を、周方向に分割形成した複数の可動片で構成するとともに、各可動片の中心側の面を、金型の中心軸に沿って軸方向に可動に配設した芯部材により当接、支持するようにし、かつ、芯部材による支持を解除した状態で、可動片を径方向及び軸方向に可動に配設するようにし、かつ、各可動片を、固定部の中心側の面で反力を受ける、付勢力を周方向に並ぶ可動片に対して交互に異ならせるようにした第2のばね部材により、金型の中心に向けて付勢するようにしたことを特徴とするスピニング加工用金型。
【請求項3】
素材にスピニング加工を施すことによってアンダーカット部を有する製品を製造するために用いるスピニング加工用金型において、該金型を、固定部と、製品のアンダーカット部に対応する可動部とで構成し、該可動部を、周方向に分割形成した複数の可動片で構成するとともに、各可動片の中心側の面を、金型の中心軸に沿って軸方向に可動に配設した芯部材により当接、支持するようにし、かつ、芯部材による支持を解除した状態で、可動片を径方向及び軸方向に可動に配設するようにし、かつ、芯部材の背面側の面を製品に当接して、製品を離型するようにしたことを特徴とするスピニング加工用金型。
【請求項4】
前記芯部材を、錐状に形成するとともに、該芯部材により当接、支持される各可動片の中心側の面をそれに対応する錐状に形成するようにしたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のスピニング加工用金型。
【請求項5】
前記芯部材を、第1のばね部材により可動部に向けて付勢することによって、各可動片を支持するようにしたことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のスピニング加工用金型。
【請求項6】
前記芯部材を、アクチュエータによって可動部に向けて付勢することによって、各可動片を支持するようにしたことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のスピニング加工用金型。
【請求項7】
前記可動部の可動片は、拡大した状態で、隣接する可動片の先端部分同士が隙間なく密着するようにされるようにしたことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のスピニング加工用金型。
【請求項8】
前記素材の外周端縁部を外周側から拘束する拘束手段を設けるようにしたことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のスピニング加工用金型。
【請求項9】
前記拘束手段が、素材を挟んで可動部と対向する位置に設けるようにしたことを特徴とする請求項8記載のスピニング加工用金型。
【請求項10】
スピニング加工用金型を使用して素材にスピニング加工を施すことによってアンダーカット部を有する製品の製造方法において、該金型を、固定部と、製品のアンダーカット部に対応する可動部とで構成し、該可動部を、周方向に分割形成した複数の可動片で構成するとともに、各可動片の中心側の面を、金型の中心軸に沿って軸方向に可動に配設した芯部材により当接、支持するようにし、かつ、芯部材による支持を解除した状態で、可動片を径方向及び軸方向に可動に配設するようにし、スピニングローラによって、素材に固定部及び可動部からなる金型に沿った成形を施すようにした後、芯部材の背面側の面を製品に当接して、製品を離型するようにすることを特徴とするスピニング加工用金型を使用したアンダーカット部を有する製品の製造方法。
【請求項11】
前記素材の外周端縁部を外周側から拘束手段により拘束した状態で、スピニングローラによって、素材に固定部及び可動部からなる金型に沿った成形を施すようにすることを特徴とする請求項10記載のスピニング加工用金型を使用したアンダーカット部を有する製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピニング加工用金型及びそれを使用したアンダーカット部を有する製品の製造方法に関し、特に、素材にスピニング加工を施すことによってアンダーカット部を有する製品を製造するために用いるスピニング加工用金型及びそれを使用したアンダーカット部を有する製品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スピニング加工装置は、素材にスピニング加工を施すために用いられるもので、車両用ホイール等の種々の製品(主として、円筒状の製品)を製造するために汎用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、従来のスピニング加工装置によるスピニング加工によっては、アンダーカット部を有する製品(成形した製品を金型から取り出すとき、そのままの状態では離型できない凸形状や凹形状の部分を有する製品をいう。)、例えば、アンダーカット部を有する車両用ホイールは、そのままでは成形することができなかった。
【0004】
このため、アンダーカット部を有する製品をスピニング加工によって製造するために、ホイール素材を第1スピニング加工を施すことによって中間部材を形成し、その後、中間部材との間に余裕空間を設けた金型を用い、前記余裕空間がアンダーカット部として残留するように第2スピニング加工を施す方法が提案されている(特許文献2参照。)。
【0005】
この特許文献2記載のスピニング加工方法によれば、複雑な構造の金型を用いることなくアンダーカット部を有する車両用ホイールを成形することができる反面、2工程のスピニング加工が必要であり、また、成形した製品である車両用ホイールの機械的強度及び精度の信頼性が低いという問題があった。
【0006】
このような問題点がないものとして、スピニング加工用金型を、固定部と、製品のアンダーカット部に対応する可動部とで構成し、可動部を、周方向に分割形成した複数の可動片で構成するようにしたものが提案されている(特許文献3参照。)。
【0007】
この特許文献3記載のスピニング加工用金型によれば、機械的強度及び精度の信頼性が高いアンダーカット部を有する車両用ホイールを成形することができるという利点があった。
【0008】
しかしながら、その反面、特許文献3記載のスピニング加工用金型は、周方向に分割形成した可動片をピンで軸支して揺動させるという複雑な構造のもので、また、可動片の移動形態がピンを中心にした揺動のため、成形した製品である車両用ホイールを離型する際に、可動片と車両用ホイールとが干渉しないように、両者の形状に制約がかかるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第WO2006/038551号公報
【特許文献2】特開平5−31548号公報
【特許文献3】ドイツ特許第3112136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来の素材にスピニング加工を施すことによってアンダーカット部を有する製品を成形する場合の問題点に鑑み、簡単な構造の金型によって、機械的強度及び精度の信頼性が高いアンダーカット部を有する製品を成形することができるスピニング加工用金型及びそれを使用したアンダーカット部を有する製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明のスピニング加工用金型は、素材にスピニング加工を施すことによってアンダーカット部を有する製品を製造するために用いるスピニング加工用金型において、該金型を、固定部と、製品のアンダーカット部に対応する可動部とで構成し、該可動部を、周方向に分割形成した複数の可動片で構成するとともに、各可動片の中心側の面を、金型の中心軸に沿って軸方向に可動に配設した芯部材により当接、支持するようにし、かつ、芯部材による支持を解除した状態で、可動片を径方向及び軸方向に可動に配設するようにしたことを特徴とする。
【0012】
この場合において、前記芯部材を、錐状に形成するとともに、該芯部材により当接、支持される各可動片の中心側の面をそれに対応する錐状に形成するようにすることができる。
【0013】
また、前記芯部材を、第1のばね部材により可動部に向けて付勢することによって、各可動片を支持するようにすることができる。
【0014】
また、前記芯部材を、アクチュエータによって可動部に向けて付勢することによって、各可動片を支持するようにすることができる。
【0015】
また、前記可動部の可動片は、拡大した状態で、隣接する可動片の先端部分同士が隙間なく密着するようにされるようにすることができる。
【0016】
また、前記各可動片の一端側の面を、金型の中心軸に対して傾斜した傾斜面に形成するとともに、金型の固定部の内側に、該各可動片の傾斜面が当接する可動片案内面を、それに対応する錐状に形成するようにすることができる。
【0017】
また、前記各可動片を、固定部の中心側の面で反力を受ける第2のばね部材により、金型の中心に向けて付勢するようにすることができる。
【0018】
また、前記固定部の中心側の面で反力を受ける第2のばね部材の付勢力を、周方向に並ぶ可動片に対して交互に異ならせるようにすることができる。
【0019】
また、前記芯部材の背面側の面を製品に当接して、製品を離型するようにすることができる。
【0020】
また、前記素材の外周端縁部を外周側から拘束する拘束手段を設けるようにすることができる。
【0021】
また、前記拘束手段が、素材を挟んで可動部と対向する位置に設けるようにすることができる。
【0022】
また、上記本発明のスピニング加工用金型を使用したアンダーカット部を有する製品の製造方法は、スピニング加工用金型を使用して素材にスピニング加工を施すことによってアンダーカット部を有する製品の製造方法において、該金型を、固定部と、製品のアンダーカット部に対応する可動部とで構成し、該可動部を、周方向に分割形成した複数の可動片で構成するとともに、各可動片の中心側の面を、金型の中心軸に沿って軸方向に可動に配設した芯部材により当接、支持するようにし、かつ、芯部材による支持を解除した状態で、可動片を径方向及び軸方向に可動に配設するようにし、スピニングローラによって、素材に固定部及び可動部からなる金型に沿った成形を施すようにすることを特徴とする。
【0023】
この場合において、前記芯部材の背面側の面を製品に当接して、製品を離型するようにすることができる。
【0024】
また、前記素材の外周端縁部を外周側から拘束手段により拘束した状態で、スピニングローラによって、素材に固定部及び可動部からなる金型に沿った成形を施すようにすることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明のスピニング加工用金型及びそれを使用したアンダーカット部を有する製品の製造方法によれば、金型を、固定部と、製品のアンダーカット部に対応する可動部とで構成し、該可動部を、周方向に分割形成した複数の可動片で構成するとともに、各可動片の中心側の面を、金型の中心軸に沿って軸方向に可動に配設した芯部材により当接、支持するようにし、かつ、芯部材による支持を解除した状態で、可動片を径方向及び軸方向に可動に配設するようにすることにより、簡単な構造の金型によって、アンダーカット部を可動部により支持した状態で成形することができ、機械的強度及び精度の信頼性が高いアンダーカット部を有する製品を成形することができる。
また、可動片の移動形態が、径方向と軸方向とを組み合わせた斜め方向となるため、成形した製品を離型する際に、可動片と製品とが干渉しないように容易に設定することができ、両者の形状に制約がかかることがない。
【0026】
また、前記芯部材を、錐状に形成するとともに、該芯部材により当接、支持される各可動片の中心側の面をそれに対応する錐状に形成するようにすることにより、各可動片の拡縮動作及び拡大した状態での維持を、芯部材を金型の中心軸に沿って軸方向に移動することによって、円滑かつ確実に行うことができる。
【0027】
また、前記芯部材を、第1のばね部材により可動部に向けて付勢することによって、各可動片を支持するようにすることにより、各可動片の拡大した状態での維持を、無動力で、一定の支持力の下で行うことができる。
【0028】
また、前記芯部材を、アクチュエータによって可動部に向けて付勢することによって、各可動片を支持するようにすることにより、各可動片を拡大した状態で維持する支持力の大きさを調節することができる。
【0029】
また、前記可動部の可動片は、拡大した状態で、隣接する可動片の先端部分同士が隙間なく密着するようにされるようにすることにより、スピニング加工を施した際に、素材が隣接する可動片間に入り込むことを防止することができ、製品の離型の際の可動部の可動片の収縮動作の支障なくし、製品の離型を円滑に行うことができる。
【0030】
また、前記各可動片の一端側の面を、金型の中心軸に対して傾斜した傾斜面に形成するとともに、金型の固定部の内側に、該各可動片の傾斜面が当接する可動片案内面を、それに対応する錐状に形成するようにすることにより、各可動片の拡縮動作及び拡大した状態での維持を、簡単な構造によって、円滑かつ確実に行うことができる。
【0031】
また、前記各可動片を、固定部の中心側の面で反力を受ける第2のばね部材により、金型の中心に向けて付勢するようにすることにより、各可動片の拡縮動作を、簡単な構造によって、無動力で、円滑かつ確実に行うことができる。
【0032】
また、前記固定部の中心側の面で反力を受ける第2のばね部材の付勢力を、周方向に並ぶ可動片に対して交互に異ならせるようにすることにより、各可動片の拡縮動作を、簡単な構造によって、円滑かつ確実に行うことができる。
【0033】
また、前記芯部材の背面側の面を製品に当接して、製品を離型するようにすることにより、製品の離型を、製品を傷付けることなく、円滑かつ確実に行うことができる。
【0034】
また、前記素材の外周端縁部を外周側から拘束する拘束手段を設けるようにすることにより、素材にスピニング加工を施す際に素材の外周端縁部が変形することを防止することができ、精度の信頼性が高い製品を成形することができる。
【0035】
また、前記拘束手段が、素材を挟んで可動部と対向する位置に設けるようにすることにより、素材の拘束を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明のスピニング加工用金型を用いたスピニング加工装置の一実施例を示す正面断面図(金型の可動部については、
図2のX−X断面に対応。)で、(a)はスピニング加工時の状態を示す全体図、(b)は離型時の状態を示す要部図である。
【
図2】同スピニング加工用金型の平面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明のスピニング加工用金型及びそれを使用したアンダーカット部を有する製品の製造方法の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0038】
図1〜
図2に、本発明のスピニング加工用金型を用いた車両用ホイールを製造するためのスピニング加工装置の一実施例を示す。
【0039】
このスピニング加工装置1は、縦軸型のもので、回転駆動機構により回転駆動される主軸2に金型3を配設し、この金型3に取り付けた素材Woを、素材Woの上方から回転駆動機構により回転駆動される心押し台4の押圧部材5によって押圧、固定し、スピニングローラRによってスピニング加工を施すためのものである。
【0040】
この場合、スピニング加工装置1は、横軸型とすることもでき、また、主軸2又は心押し台4の一方を、他方に従動して回転駆動するように構成することもできる。
【0041】
スピニング加工装置1のその他の基本構成は、公知のスピニング加工装置1と同様である。
【0042】
ところで、このスピニング加工装置1の主軸2に配設されている金型3は、素材Woにスピニング加工を施すことによってアンダーカット部Wuを有する製品Wである車両用アルミホイールを製造するために、固定部31と、製品Wのアンダーカット部Wuに対応する可動部32とで構成し、可動部32を、周方向に分割形成した複数の可動片32a、32b(本実施例においては、各々10個ずつ。)で構成するとともに、各可動片32a、32bの中心側の面を、金型3の中心軸に沿って軸方向に可動に配設した芯部材6により当接、支持するようにし、かつ、芯部材6による支持を解除した状態で、可動片32a、32bを径方向及び軸方向に可動に配設するようにしている。
【0043】
この場合において、金型3の固定部31は、製品Wのアンダーカット部Wu以外の部位の成形を担当する部分で、主軸2に固定され、本実施例においては、略円錐台の形状をした外周面が成形面を構成するようにしている。
【0044】
金型3の可動部32は、製品Wのアンダーカット部Wuの成形を担当する部分で、固定部31の内側で径方向及び軸方向に可動に配置され、本実施例においては、略円盤の形状をした一端側(
図1において、上端側)の先端部分32a1、32b1が、固定部31の上端縁に当接、支持されて、その上端縁から外周側に突出することにより、成形面を構成するようにしている。
【0045】
可動部32は、2種類の可動片32a及び可動片32bを、周方向に交互に並べて配設し、スピニング加工を行う際は、可動片32a、32bが拡大した状態で、隣接する可動片32a及び可動片32bの先端部分32a1、32b1同士が隙間なく密着した略円盤の形状をなすようにされ、離型する際は、可動片32a、32bが縮小した状態にされる。
これにより、スピニング加工を施した際に、素材Woが隣接する可動片32a、32b間に入り込むことを防止することができ、製品Wの離型の際の可動部32の可動片32a、32bの収縮動作の支障なくし、製品Wの離型を円滑に行うことができる。
【0046】
芯部材6は、外周面を円錐状(円錐台状)又は角錐状(角錐台状)に形成するとともに、芯部材6により当接、支持される可動部32、すなわち、各可動片32a、32bの中心側の面をそれに対応する錐状に形成するようにしている。
これにより、各可動片32a、32bの拡縮動作及び拡大した状態での維持を、芯部材6を金型3の中心軸に沿って軸方向に移動することによって、円滑かつ確実に行うことができる。
【0047】
芯部材6は、主軸2の内部に配設した付勢機構7としての第1のばね部材71により、ロッド72を介して、主軸2の側に付勢されるようにし、これによって、芯部材6の外周面が、可動部32、すなわち、各可動片32a、32bの中心側の面を、外周側に向けて付勢して、各可動片32a、32bを支持するようにしている。
これにより、各可動片32a、32bの拡大した状態での維持を、無動力で、一定の支持力の下で行うことができる。
【0048】
また、芯部材6は、その上部の中心に、素材Wo(製品W)を貫通して、押圧部材5に設けた案内筒51に挿入される支持軸61を立設するようにしている。
【0049】
なお、芯部材6の付勢機構7は、シリンダ等のアクチュエータを用いることもできる。
これにより、各可動片32a、32bを拡大した状態で維持する支持力の大きさを調節することができる。
【0050】
芯部材6は、離型する際に、付勢機構7の背部の主軸2の内部に配設したノックアウト軸73をシリンダ等のアクチュエータで操作することによって、付勢機構7の第1のばね部材71の付勢力に抗して、付勢機構7のロッド72を介して、主軸2の反対側に移動するようにされている。
これにより、芯部材6による可動部32、すなわち、各可動片32a、32bの支持を解除し、各可動片32a、32bが固定部31の内側で移動して、縮小した状態になることができるようにしている。
【0051】
芯部材6は、離型する際に主軸2の反対側に移動することによって、その背面側の面62を製品Wに当接して、製品Wを離型するようにしている。
これにより、製品Wの離型を、製品Wを傷付けることなく、円滑かつ確実に行うことができる。
【0052】
各可動片32a、32bは、その一端側(
図1において、下端側)の面32a2、32b2を、金型3の中心軸に対して傾斜した傾斜面(円錐面又は角錘面)に形成するとともに、金型3の固定部31の内側に、各可動片32a、32bの面32a2、32b2が当接する可動片案内面33を、それに対応する錐状(円錐面又は角錘面)に形成するようにしている。
これにより、各可動片32a、32bの拡縮動作及び拡大した状態での維持を、簡単な構造によって、円滑かつ確実に行うことができる。
【0053】
各可動片32a、32bは、固定部31の中心側の面で反力を受ける第2のばね部材8により、金型3の中心に向けて付勢するようにしている。
これにより、各可動片32a、32bの拡縮動作を、簡単な構造によって、無動力で、円滑かつ確実に行うことができる。
【0054】
ところで、本実施例においては、第2のばね部材8の付勢力を、周方向に並ぶ可動片32a、32bに対して交互に異ならせるようにすること、より具体的には、可動片32aに対しては、3個のばね部材8を配設し、可動片32bに対しては、2個のばね部材8を配設することにより、可動片32aに働く金型3の中心に向けての付勢力が、可動片32bのそれより大きくなるようにしている。
これにより、ノックアウト軸73を操作することによって、芯部材6による可動部32、すなわち、各可動片32a、32bの支持を解除したとき、可動片32aが可動片32bより金型3の中心に向けての移動量が大きくなるようにしている。
【0055】
なお、第2のばね部材8の付勢力を異ならせる手段としては、ばね部材8の個数を変える方式のほか、ばね定数の異なるばね部材8を用いる方式を採用することもできる。
【0056】
また、第2のばね部材8に代えて、シリンダ等のアクチュエータを用いることもできる。
【0057】
さらに、このスピニング加工装置1は、素材Woの外周端縁部を外周側から拘束する拘束手段9としてのクランプ91を備えるようにしている。
【0058】
クランプ91は、心押し台4の押圧部材5にクランプリンク92を介して取り付けられ、クランプリンク92を第3のばね部材93によって付勢することによって拘束状態が維持されるようにするとともに、心押し台4の内部に配設した操作軸94をシリンダ等のアクチュエータで操作することによって、第3のばね部材93の付勢力に抗して、クランプリンク92を動作させて拘束状態が解除されるようにしている。
【0059】
この場合、素材Woの拘束を確実に行うことができようにするために、クランプ91を、素材Woを挟んで可動部32の可動片32a、32bの先端部分32a1、32b1と対向する位置に設けるようにすることが好ましい。
これにより、素材Woにスピニング加工を施す際に素材Woの外周端縁部を拘束して、外周端縁部が変形することを防止することができ、精度の信頼性が高い製品Wを成形することができる。
【0060】
また、クランプ91は、素材Woの外周端縁部を数カ所外周側から拘束するように、略等角度間隔で複数個を備えるようにするが、素材Woがスポークを備えたものである場合は、素材Woを主軸2に配設した金型3に取り付ける際に素材Woの回転角度位置の制御を行い、クランプ91による拘束を素材Woの外周端縁部をスポークのある箇所で行うようにすることが好ましい。
これにより、クランプ91によって素材Woの外周端縁部に付与される拘束力を、スポークによって支持して、拘束力によって素材Woの外周端縁部が変形することを防止することができ、精度の信頼性が高い製品Wを成形することができる。
【0061】
次に、このスピニング加工装置1の動作について説明する。
スピニング加工を行うに際し、芯部材6を、主軸2の内部に配設した付勢機構7としての第1のばね部材71により、ロッド72を介して、主軸2の側に付勢されるようにし、これによって、芯部材6の外周面が、可動部32、すなわち、各可動片32a、32bの中心側の面を、外周側に向けて付勢して、各可動片32a、32bを支持するようにする。
【0062】
この状態で、主軸2に配設した金型3に素材Woを取り付け、素材Woを、その上方から心押し台4の押圧部材5によって押圧、固定するとともに、素材Woの外周端縁部を外周側からクランプ91によって拘束し、主軸2及び心押し台4を回転駆動機構により回転駆動しながら、スピニングローラRによってスピニング加工を施すようにする。
【0063】
これによって、素材Woに固定部31及び可動部32からなる金型3に沿った成形が行われ、可動部32の可動片32a、32bの先端部分32a1、32b1の形状に沿ったアンダーカット部Wuを有する製品Wである車両用アルミホイールを製造することができる。
【0064】
スピニング加工による成形が完了すると、製品Wである車両用アルミホイールの心押し台4の押圧部材5による押圧、固定及び製品Wの外周端縁部のクランプ91による拘束を解除する。
そして、芯部材6を、付勢機構7の背部の主軸2の内部に配設したノックアウト軸73を操作することによって、付勢機構7の第1のばね部材71の付勢力に抗して、付勢機構7のロッド72を介して、主軸2の反対側に移動するようにし、これにより、芯部材6による可動部32、すなわち、各可動片32a、32bの支持を解除し、各可動片32a、32bが固定部31の内側で移動して、縮小した状態になるようにして、可動部32の可動片32a、32bの先端部分32a1、32b1とアンダーカット部Wuを有する製品Wとが干渉しないようにする。
この状態で、芯部材6の背面側の面62を製品Wに当接して、製品Wを離型するようにする。
【0065】
そして、このスピニング加工装置1によれば、簡単な構造の金型3によって、アンダーカット部Wuを可動部32の可動片32a、32bの先端部分32a1、32b1により支持した状態で成形することができ、機械的強度及び精度の信頼性が高いアンダーカット部Wuを有する製品Wを成形することができる。
【0066】
また、可動片32a、32bの移動形態が、径方向と軸方向とを組み合わせた斜め方向となるため、成形した製品Wを離型する際に、可動片32a、32bと製品Wとが干渉しないように容易に設定することができ、両者の形状に制約がかかることがない。
【0067】
以上、本発明のスピニング加工用金型について、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【0068】
そして、本発明のスピニング加工用金型及びそれを使用したアンダーカット部を有する製品の製造方法は、上記実施例に記載したアンダーカット部を有する車両用ホイールを製造するために用いられる金型及び製造のほか、アンダーカット部を有する種々の製品を製造するために用いられる金型及び製造に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のスピニング加工用金型及びそれを使用したアンダーカット部を有する製品の製造方法は、簡単な構造の金型によって、機械的強度及び精度の信頼性が高いアンダーカット部を有する製品を成形することができることから、素材にスピニング加工を施すことによってアンダーカット部を有する車両用ホイールを始めとして、アンダーカット部を有する種々の製品を製造するための用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0070】
1 スピニング加工装置
2 主軸
3 金型
31 固定部
32 可動部
32a 可動片
32b 可動片
33 可動片案内面
4 心押し台
5 押圧部材
6 芯部材
7 付勢機構
71 第1のばね部材
72 ロッド
73 ノックアウト軸
8 第2のばね部材
9 拘束手段
91 クランプ
W 製品
Wo 素材
Wu アンダーカット部