(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一例としての実施の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための図面において、同一の構成要素には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0019】
図1は本実施の形態の泥土圧シールド掘進機の内部を側面から透かして見せた構成図、
図2(a)は
図1の泥土圧シールド掘進機のカッタヘッドの正面図、
図2(b)は
図1の泥土圧シールド掘進機の位置Aを矢印で示す方向から見た構成図である。
【0020】
本実施の形態の泥土圧シールド掘進機1は、カッタヘッド(カッタ盤)2により掘削された土砂に添加材を注入して練り混ぜることで生成された不透水性と塑性流動性(自由に変形および移動できる性質)とを持つ泥土をカッタヘッド2と機器本体3との間の室内に充満した状態で掘進することで泥土圧を発生させ、その泥土圧を切羽の土圧に対抗させた状態で掘削坑を構築する機器である。
【0021】
この泥土圧シールド掘進機1は、特に、巨礫が混在する玉石混じり砂礫層や玉石層を含む地山を掘削する場合に好適であるが、巨礫が混在しない玉石混じり砂礫層や玉石層あるいは通常の砂礫層に適用しても良い。
【0022】
なお、泥土圧シールド掘進機1の掘削外径は、例えば5900mm程度である。また、泥土圧シールド掘進機1の機長は、例えば7140mm程度である。また、泥土圧シールド掘進機1の運転は、その後方に配置された後続台車SB内の運転室内でオペレータにより制御される。また、その運転室内に設けられた制御部Cにより泥土圧シールド掘進機1の全体動作が制御される。この制御部Cは、運転室内に設けられた表示部Dに電気的に接続されている。表示部Dには、制御部Cから送られた各種の情報が表示される。
【0023】
カッタヘッド2は、地山の切羽を掘削する部材であり、機器本体3の前面に機器本体3の周方向に沿って回転自在の状態で設置されている。このカッタヘッド2には、例えば、円盤状のスポークタイプが採用されている。すなわち、
図2(a)に示すように、カッタヘッド2は、中央のハブ部2aと、ハブ部2aから外周に向かって放射状に延びる6本のスポーク部2bと、スポーク部2bの延在方向の中途部同士を結ぶ中間リング部2cと、スポーク部2bの先端部同士を結ぶ外周リング部2dと、これらの部材間に形成された貫通穴2eとを備えている。
【0024】
カッタヘッド2の中央のハブ部2aには、センタービット4aが装着されている。各スポーク部2bには、複数のビット4bが規則的に並んで装着されている。なお、ハブ部2aには、コーンヘッド型のローラビット等のような他の掘削部材が装着される場合もある。また、スポーク部2bには、ビット4bの他に、ローラビット等のような他の掘削部材が装着される場合もある。
【0025】
また、ハブ部2aおよびスポーク部2bには、添加材注入部5a1,5a2,5a3,5a4が設けられている。この添加材注入部5a1〜5a4は、例えばベントナイト系の添加材のような作泥土材をカッタヘッド2の前面の切羽に向けて注入する構成部である。なお、添加材注入部5a1〜5a4の各々から注入される添加材には、ベントナイト系の添加材に代えて気泡材を用いても良いし、ベントナイト系の添加材と気泡材との両方を用いても良い。
【0026】
中間リング部2cにおいて隣接するスポーク部2b,2b間の中央には、制限突起2fが設けられている。カッタヘッド2で掘削された土砂は貫通穴2eを通じて後述のチャンバ6(
図1参照)内に取り込まれるが、制限突起2fは、貫通穴2eの開口面積を規制することで、地中の巨礫や玉石等が貫通穴2eを通じてチャンバ6内に入り込むのを規制する部分である。この制限突起2fの表面にもビット4bが設けられている。
【0027】
外周リング部2dにおいて切羽側の前面には、複数のビット4cがその刃を外周側に向けた状態で並んで装着されている。また、外周リング部2dの外周面には、例えば2個のコピービット4dが対極する位置に設けられている。このコピービット4dは、急曲線施工時の余堀りや泥土圧シールド掘進機1の姿勢制御等を行う役割を備えている。
【0028】
一方、機器本体3は、
図1に示すように、ガーダー部の前胴プレート3aと、その後方のテール部の後胴プレート3bとを備えている。前胴プレート3aおよび後胴プレート3bは、例えば円筒状の鋼製板により形成されており、機器本体3の外形を形成するとともに、機器本体3の内部に中空空間を形成する部材である。前胴プレート3aと後胴プレート3bとは、前胴プレート3aの後端側において後胴プレート3bの先端部分が前胴プレート3aの内周面に接した状態で入り込むことで係合されている。
【0029】
前胴プレート3aの前面側において、その前面から機器本体3の内方に後退した位置には、機器本体3内の中空空間を切羽側と機内側とに分ける隔壁7が設けられている。この隔壁7の切羽側、すなわち、上記カッタヘッド2と隔壁7との間には、上記チャンバ6が設けられ、隔壁7の機内側には、添加材注入部5bと、カッタ駆動体8と、中折れジャッキ9aと、シールドジャッキ9bと、スクリューコンベア10と、土圧検出部11とが設けられている。
【0030】
添加材注入部5bは、機器本体3の外回りやチャンバ6内に向けて添加材を注入する機器であり、添加材注入部5bの注入口を機器本体3の外部に表出させた状態で隔壁7の外周近傍に設けられている。添加材注入部5bから注入される添加材には、例えばベントナイト系の添加材のような作泥土材が使用される。なお、添加材注入部5bから注入される添加材には、ベントナイト系の添加材に代えて気泡材を用いても良いし、ベントナイト系の添加材と気泡材との両方を用いても良い。
【0031】
チャンバ6は、カッタヘッド2により掘削された土砂等が取り込まれる空間である。このチャンバ6内において、隔壁7の前面にはチャンバ6内に突出する円柱状等の練混ぜ翼15a,15bが設けられている一方、カッタヘッド2の背面にはチャンバ6内に突出する円柱状等の練混ぜ翼16a,16bが設けられている。これらの練混ぜ翼15a,15b,16a,16bは、カッタヘッド2の径方向の位置が互いにずれており、カッタヘッド2が回転するとチャンバ6内に入り込んだ土砂とチャンバ6内に注入された添加材とを混合するとともに撹拌する役割を備えている。
【0032】
また、隔壁7の面内中央側に設けられた練混ぜ翼15bは、その先端側からチャンバ6内に向けて添加材を注入する添加材注入部を兼ねている。この練混ぜ翼15bから注入される添加材には、例えば気泡材が使用される。なお、練混ぜ翼15bから注入される添加材には、気泡材に代えてベントナイト系の添加材を用いても良いし、ベントナイト系の添加材と気泡材との両方を用いても良い。
【0033】
カッタ駆動体8は、カッタヘッド2を回転させる駆動源である。ここでは、カッタ駆動方式として中間支持駆動方式が例示されており、カッタ駆動体8は、
図1に示すように、カッタヘッド2の正面内の中央と外周とのほぼ中央の位置に、カッタヘッド2の周方向に沿って複数個並んで配置されている。
【0034】
中折れジャッキ9aは、前胴プレート3aと後胴プレート3bとを連結するとともに、泥土圧シールド掘進機1の推進方向を修正する機器であり、
図1に示すように、機器本体3内において前胴プレート3aと後胴プレート3bとの境界を跨ぐ位置に、泥土圧シールド掘進機1の周方向に沿って複数個並んで配置されている。この中折れジャッキ9aに圧油を供給し前胴プレート3aと後胴プレート3bとを予め決められた方向および角度に屈折させた状態で泥土圧シールド掘進機1を推進することにより、泥土圧シールド掘進機1の推進方向を制御することが可能になっている。
【0035】
シールドジャッキ9bは、機器本体3の後方に設置されたセグメントSGに反力をとって泥土圧シールド掘進機1を前進させるための推進力を発生させる機器であり、
図1に示すように、機器本体3内において前胴プレート3aと後胴プレート3bとの境界を跨ぐ位置に、
図2(b)に示すように、泥土圧シールド掘進機1の周方向に沿って複数個並んで配置されている。
【0036】
スクリューコンベア10は、チャンバ6内に取り込まれた土砂を機外に排出するための機器であり、
図1に示すように、機器本体3の底部において隔壁7を貫通しチャンバ6内に配置された土砂取込端部10aから機器本体3の後方において機器本体3の高さ方向中央より若干高い位置に配置された排出端部10bに向かって斜め上向きに連続的に延在した状態で設けられている。
【0037】
このスクリューコンベア10には、例えば、回転軸を持たない螺旋状のブレード10cを管内に備えるリボン式のスクリューコンベアが使用されている。回転軸を持つスクリューコンベアの場合は礫等により閉塞し易いのに対して、リボン式のスクリューコンベア10の場合は搬送可能な礫等の最大径を搬送路の半径以上とすることができ、回転軸を持つスクリューコンベアでは搬送し得ないような大きさの礫等をも搬送することができる。これにより、本実施の形態の泥土圧シールド掘進機1においては、スクリューコンベア10で排出可能な大きさの玉石等を破砕せずにチャンバ6内に取り込むことが可能な構成となっている。
【0038】
なお、スクリューコンベア10の排出端部10bには排土管(図示せず)が連結されており、スクリューコンベア10の排出端部10bに搬送された土砂は、排土管を通じてズリ搬出台車(図示せず)等に搬送されるようになっている。
【0039】
土圧検出部11は、チャンバ6内の泥土による圧力を歪ゲージを介して電気信号に変換するセンサ部分であり、その土圧検出面をチャンバ6内に配置した状態で設けられている。泥土圧シールド掘進機1は、土圧検出部11で検出されたチャンバ6内の泥土圧が予め決められた値の範囲になるように管理することで切羽の安定性を維持しながら掘削処理を進めるようになっている。
【0040】
次に、
図3は
図1の泥土圧シールド掘進機のカッタヘッドの正面図、
図4は
図3のカッタヘッドの要部拡大正面図、
図5は
図4のI−I線の断面図、
図6は
図5のカッタヘッドの正面側に設けられたビットおよび温度計の拡大断面図、
図7(a)は
図5のカッタヘッドの外周側に設けられた温度計の拡大断面図、
図7(b)は
図7(a)の温度計の平面図、
図8(a)は
図1の泥土圧シールド掘進機の添加材注入部の正面図、
図8(b)は
図8(a)のII−II線の断面図である。なお、
図5は断面図であるが図面を見易くするためにハッチングを省略している。
【0041】
本実施の形態の泥土圧シールド掘進機1においては、
図3〜
図5に示すように、カッタヘッド2の正面内および外周面内に、掘削土砂の温度(以下、土砂温度という)を測定する複数の温度計(温度測定手段)20a〜20eが配置されている。
【0042】
各温度計20a〜20eは、例えばシース型熱電対で構成されており、故障に強い上、場所をとらず安価なのでカッタヘッド2に複数配置することが可能である。このため、カッタヘッド2の前面および外周側の土砂温度の測定精度を向上させることができる。なお、
図3は平面図であるが図面を見易くするため温度計20a〜20eの配置領域にハッチングを付した。
【0043】
カッタヘッド2の正面内の温度計20a〜20dは、所定のスポーク部2bにおいて異なる回転軌跡上、すなわち、カッタヘッド2の径方向の異なる位置に分散された状態で配置されている。各温度計20a〜20dは、
図5および
図6に示すように、温度センサ部S1とこれに電気的に接続された配線L1とを有している。各温度計20a〜20dの温度センサ部S1は、ビット4bの内部に埋め込まれた状態で設けられている。
【0044】
一方、カッタヘッド2の外周面内の温度計20eは、
図5および
図7に示すように、温度センサ部S2とこれに電気的に接続された配線L2とを有している。温度計20eの温度センサ部S2は、ビット4bの隣接間の位置において、測定面を外周リング部2dの内周面に接触させた状態で外周リング部2dの内周面に着脱自在の状態で設置されている。
【0045】
各温度計20a〜20eの温度センサ部S1,S2は、
図5に示すように、配線L1,L2を通じてカッタヘッド2の面内中央側に配置された分配器21に電気的に接続され、分配器21からカッタヘッド2の面内中央の添加材注入管5tに沿って延び、上記した制御部C(
図1参照)に電気的に接続されている。これにより、土砂温度は、リアルタイムで測定され制御部Cに送信されるようになっている。
【0046】
制御部Cでは、温度計20a〜20eから送信された温度情報に基づいて、カッタヘッド2の前面内および外周面内の温度分布をグラフ化(可視化)するとともに、添加材の注入条件を調整するようになっている。この添加材の注入条件の調整については後述する。
【0047】
また、本実施の形態の泥土圧シールド掘進機1においては、
図3に示すように、添加材注入部5a1〜5a4がカッタヘッド2の正面内の異なる回転軌跡上に分散して配置されている。ここでは、例えば、カッタヘッド2の正面内中央に添加材注入部5a1が配置され、カッタヘッド2の正面内最外周に添加材注入部5a4が配置され、それらの間の2箇所に添加材注入部5a2,5a3が配置されている。これにより、添加材の注入制御をより多様化させることができるので、掘削土砂の塑性流動化をより精度良く効率的に行うことができる。
【0048】
また、添加材注入部5a2と、添加材注入部5a3,5a4とは、中央の添加材注入部5a1を挟んで左右に離れて配置されている。これにより、添加材をカッタヘッド2の前面内においてより広い範囲に行き渡らせることができる。なお、
図3の破線は添加材注入部5a2〜5a4の回転軌跡を示している。
【0049】
各添加材注入部5a1〜5a4は、
図8に示すように、カッタヘッド2の前面と背面とを貫通する貫通穴22に装着された添加材注入管5tと、添加材注入管5tの先端面の添加材注入口5mの前方に配置された保護板5pとを備えている。
【0050】
添加材注入管5tは、添加材を泥土圧シールド掘進機1の後方からカッタヘッド2の前面側に導く配管である。この添加材注入管5tの添加材注入口5mの前方において、その添加材注入口5mから離れた位置には、添加材注入口5mを覆うように保護板5pが設置されている。
【0051】
この保護板5pは、添加材注入口5mが掘削土砂等で塞がれてしまうのを防ぐ部材であり、
図8(b)に示すように、断面逆コ字状に形成されている。保護板5pは、添加材注入口5mを覆うように凹部側をカッタヘッド2の前面に向け、長手方向両端の脚部をカッタヘッド2の前面に溶接させた状態で設けられれている。また、保護板5pを正面から見て保護板5pの短方向両側面には、添加材注入口5mと外部とを連通する開口部が形成されており、添加材注入口5mから吐出された添加材は該開口部を通じて外部に吐出されるようになっている。
【0052】
ここで、
図9は
図1の泥土圧シールド掘進機の添加材注入系統の一例を示している。
【0053】
各添加材注入部5a1〜5a4の添加材注入管5tは、Y型ストレーナ22および接続部23を順に介して、添加材注入用のポンプ24に機械的に接続されている。添加材注入用のポンプ24は、上記した後続台車SB内に設置されている。
【0054】
ここでは、添加材の注入系統が、例えば、カッタヘッド2の前面内の最外周および内周の添加材注入部5a4,5a2と、カッタヘッド2の前面内の中央および中間の添加材注入部5a1,5a3との2系統に分かれている。ただし、添加材の注入系統は図示したものに限定されるものではなく種々変更可能である。
【0055】
また、各添加材注入部5a1〜5a4の添加材注入管5tの流路途中には、電動式またはエア式のバルブ25が設けられている。各バルブ25は制御部Cに電気的に接続されており、制御部Cによりバルブ25の開閉動作が制御されている。すなわち、添加材の注入条件の制御を後続台車SBの運転室からの遠隔操作または自動制御により行えるようになっている。
【0056】
ここで、
図10は
図1の泥土圧シールド掘進機の基本的な添加材の注入タイミングの一例を示している。
【0057】
各添加材注入部5a1〜5a4から切羽への添加材の注入は、例えば、タイマー制御によるローテーション注入を基本としている。すなわち、添加材の注入箇所を時間毎に変えている。添加材の注入箇所を固定してしまうと、使用頻度の少ない添加材注入口5mで閉塞が生じる場合があるが、上記のように添加材の注入箇所を時間毎に変えることにより、添加材注入口5mの閉塞を抑制または防止することができる。
【0058】
ただし、添加材の注入制御は、上記したタイマー制御に限定されるものではなく種々変更可能であり、例えばプログラム制御やカッタヘッド2の位置検出機能を利用した角度制御方式を採用しても良い。角度制御方式を採用した場合は、例えば、カッタヘッド2の上半部のみを指定して添加材を注入したり、カッタ角度毎に切り替えて添加材を注入する。カッタヘッド2の上半部のみを指定して添加材を注入することにより、添加材の注入位置がスクリューコンベア10の下端の土砂取込口から遠くなるので、添加材と掘削土砂との攪拌混合の効果を向上させることができる。このため、掘削土砂の塑性流動性を向上させることができる。
【0059】
添加材の注入量(注入時間)は、掘進速度や掘進データに応じて自動制御されており、掘進開始前に目標注入率を指定することで自動的に制御されるようになっている。
図10では、各添加材注入部5a1〜5a4での注入時間Taは、例えば0.5分であり、4箇所あるので、サイクルタイムTは、例えば2分とされている。また、各添加材注入部5a1〜5a4の切り替え時には、例えば5秒ほどのラップタイムTbを持たせている。
【0060】
また、添加材の注入量や注入位置等のような注入条件は、カッタトルク、推力、推進速度、スクリューコンベア10のトルクに基づいて制御される他、本実施の形態においては、上記温度計20a〜20eで測定された土砂温度に基づいて添加材の注入条件を制御することが可能な構成になっている。この土砂温度に基づく添加材の注入制御については後述する。
【0061】
次に、
図1の泥土圧シールド掘進機1による泥土圧シールド工法について説明する。
【0062】
本実施の形態の泥土圧シールド掘進機1においては、カッタヘッド2を切羽に押し付け回転させながら機器本体3を推し進めることで地中に掘削抗を構築する。ここでは、例えば、粒径2mm未満の細粒(砂分)が20%を超えず、粒径2mm以上の礫石(礫分)が80%を超える地山が掘削対象とされている。
【0063】
この掘削作業に際して、カッタヘッド2で掘削した土砂に上記添加材を添加するとともに、その土砂と添加材とをカッタヘッド2の回転やその回転に追従する練混ぜ翼16a,16b等の動作により撹拌混合して掘削土砂を塑性流動性と不透水性を持つ泥土に変換する。そして、その泥土をチャンバ6内およびスクリューコンベア10内に充満させ、その充満した泥土をシールドジャッキ9bの推進力により加圧して泥土圧を発生させ、この泥土圧を切羽の土圧に対抗させることで切羽の安定性を維持する。また、例えば、カッタヘッド2の回転速度を一定にし、シールドジャッキ9bの伸長速度やスクリューコンベア10の回転速度を調整し、チャンバ6内の泥土圧を上記土圧検出部11により測定しこれが一定になるようにすることで切羽の安定性を維持する。
【0064】
添加材として加えるベントナイト系の添加材(作泥土材)は、土砂の塑性流動性や不透水性を高める作用を有する上、巨礫を破砕した礫や玉石等の礫分を掘削土砂とともに包み込んで当該礫分が掘削土砂から分離しないように掘削土砂と礫分との一体性を向上させる作用を有している。
【0065】
一方、添加材として加える気泡材は、上記礫分がカッタヘッド2や隔壁7に付着するのを抑制する分離作用を有する上、ベントナイト系の添加材では得られないクッション作用により掘削土砂や作泥土材の圧縮性を高めてチャンバ6内やスクリューコンベア10内で礫分が転がり移動するのを抑制し、また、転がり移動したとしてもクッション作用により泥土圧の急激な変動を抑制する作用を有している。
【0066】
このため、チャンバ6内への取り込みが好ましくないような巨礫が混在する玉石混じり砂礫層や玉石層が存在する地山を掘削する場合でも、泥土圧を安定化することができ、切羽の安定性を維持できる上、スクリューコンベア10による礫分の排土を円滑に移動させて閉塞の発生を防止でき、噴出が発生するのを防止することができる。
【0067】
ところで、泥土圧シールド掘進機1による掘削作業に際し、掘削土砂が流動している場合は、土砂温度はほぼ均一に保たれるが、掘削土砂の塑性流動性が低下している場所では、掘削土砂とカッタヘッド2との摩擦による熱が発生するため、相対的に土砂温度が上昇する。
【0068】
そこで、本実施の形態の泥土圧シールド掘進機1においては、掘進動作中にカッタヘッド2の前面および外周の土砂温度を温度計20a〜20eにより測定し、その情報を制御部Cに送信する。
【0069】
制御部Cでは、温度計20a〜20eで測定された土砂温度値と、予め決められた管理温度値とを比較し、土砂温度値が管理温度値以上となる領域を高温領域として検出し、その高温領域を塑性流動性の不足領域として検出するとともに、カッタヘッド2の前面内および外周面内の温度分布をリアルタイムでグラフ化(可視化)して表示部Dに表示する。すなわち、カッタヘッド2の前面内および外周面内の温度分布図により掘削土砂の塑性流動性が不足している領域やビット4a〜4dの摩耗が進行している領域を可視化する。これにより、カッタヘッド2の前面内および外周面内において掘削土砂の塑性流動性の不足領域やビット4a〜4dの摩耗の進行領域を把握することができる。このため、カッタヘッド2の前面内および外周面内の掘削土砂の塑性流動性の状態と、ビット4a〜4dの摩耗状態とを、より早く、より定量的に管理することができる。
【0070】
また、制御部Cは、上記高温領域(塑性流動性の不足領域)が検出された場合は、
図10で例示した添加材の基本的な注入制御を中断し、高温領域の掘削土砂の塑性流動性が高まるように、添加材の注入量、注入位置または配合等のような添加材の注入条件を調整する。具体的には、ポンプ24やバルブ25(
図9参照)等の動作を制御することにより、高温領域(塑性流動性の不足領域)に近い添加材注入部5a1〜5a4,5bから注入される添加材の量を必要量だけ増やすように調整する。所定の添加材注入部5a1〜5a4からの添加材の注入量を増やすには、例えば、
図10に示したサイクルタイムT中において、当該添加材注入部から注入される添加材の注入時間Taを相対的に長くすれば良い。これにより、掘削土砂の塑性流動性の不足領域に、その塑性流動性を高める上で必要な量の添加材を注入することができる。すなわち、添加材の過不足が生じないように添加材を効率的に注入することができる。
【0071】
上記した管理温度値は、例えば、複数段階に設定されている。ここでは、管理温度値は、例えば、30度以下、31〜33度、34度以上とされている。そして、各温度計20a〜20eで測定された土砂温度値が30度以下であれば、「良好な塑性流動性を維持した掘進状態である」と推定される。また、各温度計20a〜20eで測定された土砂温度値が31〜33度の範囲であれば、「掘削土砂の塑性流動性が低下の傾向にあり、要注意である」と推定される。さらに、各温度計20a〜20eで測定された土砂温度値が34度以上であれば、「掘削土砂の塑性流動性が不足しており、対策が必要」と推定される。この場合は、上記したように添加材の注入条件を調整する。
【0072】
このような添加材の注入条件の調整は、温度計20a〜20eで測定された土砂温度値が管理温度値以下になるまで継続され、管理温度値以下になれば、掘削土砂の塑性流動性が回復したと推定され、
図10で例示した基本的な注入制御に戻る。一方、添加材を増量しても土砂温度値が上昇する場合には、泥土圧シールド掘進機1の掘進動作を中断し、点検補修を実施する。
【0073】
また、添加材の注入条件の調整は、自動でも良いし、オペレータが表示部Dに表示された土砂温度分布図に応じて操作パネルを操作し制御部Cから各部(バルブ25やポンプ24等)に指示を出すようにしても良い。また、添加材の注入条件の調整は、掘進動作中に行っても良いし、掘進動作の停止後に行っても良い。
【0074】
なお、管理温度値は、地山の状態やシールド掘進機の仕様により異なるので、工事毎に掘進初期段階の区間で得られるデータに基づいて補正を行うことが好ましい。また、各管理温度値および測定温度値は、表示部Dに表示されるようになっており、オペレータが双方の温度値を目視確認できるようになっている。
【0075】
このように本実施の形態においては、泥土圧シールド掘進機1のカッタヘッド2の前面内および外周面内において掘削土砂の塑性流動性の不足領域に添加材を効率的に注入することができるので、掘削土砂の塑性流動性を効率的に向上させることができる。そして、より精度の高い添加材の注入管理と、掘削土砂の塑性流動化の管理とを行うことができる。
【0076】
このため、掘削土砂による閉塞を抑制または防止することができる。また、複数のビット4a〜4dのうち高温のビットに対して選択的に添加材を注入することができるので、塑性流動性不足に起因するビットの摩耗を低減することができる。さらに、添加材の過不足を抑制または防止することができるので、閉塞のみならず噴発の発生をも抑制または防止することができる。
【0077】
したがって、閉塞、噴発およびビット4a〜4dの摩耗に因る掘削作業の中断を低減することができ、より効率的な掘削動作を行えるので、掘削作業の工期を短縮することができ、泥土圧シールド掘進機1の長距離施工を推進することができる。また、閉塞、噴発およびビット4a〜4dの摩耗を低減することができるので、掘削作業にかかるコストを低減することができる。
【0078】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本明細書で開示された実施の形態はすべての点で例示であって、開示された技術に限定されるものではないと考えるべきである。すなわち、本発明の技術的な範囲は、前記の実施の形態における説明に基づいて制限的に解釈されるものでなく、あくまでも特許請求の範囲の記載に従って解釈されるべきであり、特許請求の範囲の記載技術と均等な技術および特許請求の範囲の要旨を逸脱しない限りにおけるすべての変更が含まれる。
【0079】
例えば前記実施の形態においては、リボンスクリュー型のスクリューコンベアを用いた場合について説明したが、これに限定されるものではなく種々変更可能であり、例えばリボン型と軸付き型とを組み合わせたスクリューコンベアを用いても良い。