【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1は、炭酸化処理された製鋼スラグから生物にミネラルを供給する方法において、炭酸化処理された製鋼スラグを、単独で、または、土壌、肥料、土壌改良材の少なくとも一種と配合することによってpH8.7以下とすることを特徴とするミネラル供給方法である。
【0008】
従来技術の問題を解決する為に、発明者は検討を重ね、以下のことを突き止めた。製鋼スラグはスラグ中のf-CaOやケイ酸カルシウムが原因でアルカリ性を示し、カルシウムイオンが優先的に溶出する為、他のミネラルが溶出し難いことを明らかにした。
【0009】
製鋼スラグのアルカリ水問題を解明する為に、製鋼スラグである脱Pスラグで連続通水テストを実施した。クロマトグラフ管に脱Pスラグ10gを装入し、pHを6.0に調整した水を連続的に注水し、抽出した液体のpH及び成分を分析した。サンプル採取は、任意の液固比(脱Pスラグに対して通水した水の量比)で採取し、分析を行った。脱Pスラグの組成を「表1」に示す。pHはpHメーター
((株)堀場製作所D−54S
)で測定を行った。またCa
2+、Mg
2+はイオンクロマトグラフィー、Fe
2+は吸光光度法、Si,PはICP-AESで分析を行った。それらの結果を「表2」に示す。
通水初期より高いpHを示し、カルシウムイオン以外、他の成分はほとんど溶出しなかった。通水開始後、液固比が増加するにつれ、pHは徐々に低下し、液固比2500でpHが10未満となるが、カルシウムイオン以外の成分はほとんど溶出しなかった。
「表1」
「表2」
【0010】
また、発明者らは、この製鋼スラグのアルカリ水問題を緩和する為に、例えば製鋼スラグである脱Pスラグを炭酸化し、そのアルカリ性を緩和することが可能かを確かめた。
【0011】
製鋼スラグの炭酸化処理方法は、水共存下で製鋼スラグ中のf-CaOやケイ酸カルシウムから溶出するカルシウムを二酸化炭素含有ガスと接触させ、炭酸カルシウムにすることである。
【0012】
炭酸化処理が製鋼スラグのアルカリ水問題を緩和できるか確かめる為に、脱Pスラグ及び炭酸化処理された脱Pスラグ(以下、「炭酸化スラグ」と称する。)で振盪試験を行い、pH及びEC(電気伝導度)を測定した。炭酸化スラグの物性を「表3」に示す。各スラグ10gを別々のビーカーに採取し、純水を50g加え、1時間振盪した。
その後、抽出した液体をpHメーター((株)堀場製作所製D−54S)を用いてpHとECを測定した。
【0013】
その結果を「表4」に示す。炭酸化処理によりECが6840から193μS/cmまで低下した。このことから、脱Pスラグから溶出するカルシウムイオンが、炭酸化処理により抑制されていることが示唆された。
また、炭酸化処理によりpHは12.6から8.7に低下し、アルカリ水問題を緩和していることが確認できた。
「表3」
「表4」
【0014】
さらに発明者らは、炭酸化された製鋼スラグをpH8.7以下に調整することでミネラル溶出量をコントロールできることを見出した。
炭酸化された製鋼スラグをpH調整することでミネラル溶出量がコントロール可能か調査を行った。
【0015】
脱Pスラグを炭酸化処理した炭酸化スラグと人工腐植土をある割合で配合した数種類の試料を作成し、溶出テストを実施した。ここで使用した人工腐植土は木質チップを木酢液に浸漬させた人工的な腐植土である。作成した試料40gを純水400gに浸漬し、撹拌機を用いてその溶媒を60rpmで24時間撹拌した。その後、その溶媒を採取し、pHの測定と溶出した成分の分析を実施した。pHはpHメーター((株)堀場製作所製D−54S)で測定した。Ca
2+,Mg
2+はイオンクロマトグラフィ、Fe
2+は吸光光度法、Si,PはICP-AESで分析を行った。なお、参考の為に、炭酸化処理を実施していない脱Pスラグの溶出テストも行った。それらの結果を「表5」に示す。
【0016】
炭酸化処理により、Ca
2+以外のMg
2+、Fe
2+、Si、Pが溶出した。また、pH調整により、ミネラル溶出量をコントロールでき、pHを下げることでミネラル溶出量を増加することが確認できた。
「表5」
【0017】
具体的には、炭酸化処理された製鋼スラグを単独で、または、土壌、肥料、土壌改良材の少なくとも一種と配合することで、例えば植物の根から出る弱酸性の根酸により、ミネラルが溶出し、植物へ吸収されると考えた。また、炭酸化したスラグを土壌表面に施肥する場合は、弱酸性の雨水によりミネラルが溶出し、植物に吸収されると考えた。
【0018】
本発明の第2は、ミネラル供給方法において、炭酸化されていない製鋼スラグが、雨水や、大気もしくは土壌からの二酸化炭素と接触し、pH8.7以下となるように散布され、生物にミネラルを供給することを特徴とするものである。
【0019】
自然界の森林では,太陽の光エネルギーを用いて二酸化炭素から有機物を合成する光合成が行われ,一方では呼吸によって酸素を取り込んで二酸化炭素を排出している。
これらの反応をまとめると植物の呼吸による酸素消費量と光合成の酸素放出量は健全な森林であれば1:2で,土壌中の微生物に消費される酸素の量を1とすると森林全体の酸素消費量と酸素放出量は,2:2となって均衡している。
【0020】
スギやヒノキの造林によって作られた人工林では,若齢段階から壮齢段階までは酸素消費量と酸素放出量が均衡しているが、壮齢段階から老齢段階では酸素消費量が酸素放出量を上回る。つまり,現在の間伐等の森林整備が遅れているスギ,ヒノキによる人工林では光合成よりも呼吸量の方が高い状態になっている。
【0021】
若齢段階から壮齢段階では二酸化炭素を取り込んで光合成が活発に行われる為、製鋼スラグをミネラル供給材として施肥した場合、製鋼スラグ中のf-CaOやケイ酸カルシウムからのアルカリ成分溶出が原因で土壌が高pHとなり、植物の生育に障害を起こす。ゆえに、アルカリ性を緩和する為に、炭酸化処理したスラグが有効となる。
【0022】
一方、老齢林については,光合成よりも呼吸の方が森林内で多く行われることから,森林内の二酸化炭素によって製鋼スラグが自然状態で炭酸化されるので、pHが異常に高くなる状態は起こらない。
【0023】
つまり、製鋼スラグを炭酸化する方法として、工業的な炭酸化処理のほかに、炭酸化されていない製鋼スラグを、雨水や大気もしくは土壌からの二酸化炭素に接するように施肥することで、炭酸化することを見出した。
【0024】
また、炭酸化されていない製鋼スラグを土壌表面に施肥した場合は、一旦雨水や大気もしくは土壌からの二酸化炭素により炭酸化され、そのアルカリ性を緩和することが出来る。その後、弱酸性の雨水等によりミネラルが緩やかに溶出し、植物に吸収されると考えた。