(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記垂直磁性層を積層する工程において、スパッタリング法により垂直磁性層を形成することを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
非磁性基板の上に、直上の層の配向性を制御する配向制御層と、磁化容易軸が前記非磁性基板に対して主に垂直に配向した垂直磁性層とを少なくとも備える磁気記録媒体であって、
前記配向制御層は、Ru又はRuを主成分とする材料からなり、酸化物を含まない低ガス圧層、Ru又はRuを主成分とする材料とB2O3、In2O3、Sb2O3、TeO2の何れかの酸化物とを含むグラニュラー構造を有する高ガス圧層、を前記非磁性基板側から順に含み、
前記垂直磁性層は、前記配向制御層を構成する結晶粒子と共に厚み方向に連続した柱状晶を含み、
前記磁気記録媒体の表面を原子間力顕微鏡で測定した表面粗さ(Ra)が3オングストローム以下であることを特徴とする磁気記録媒体。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態における、磁気記録媒体の製造方法、磁気記録媒体及び磁気記録再生装置について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、本発明をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0025】
(磁気記録媒体)
以下、本発明の磁気記録媒体の一例として、
図1に示す磁気記録媒体を例に挙げて説明する。
図1は、本発明の磁気記録媒体の製造方法を適用して製造される磁気記録媒体の一例を示したものである。
図1に示す磁気記録媒体は、非磁性基板1の上に、軟磁性下地層2と、直上の層の配向性を制御する配向制御層3と、非磁性下地層8と、磁化容易軸が非磁性基板1に対して主に垂直に配向した垂直磁性層4と、保護層5と、潤滑層6とが順次積層された構造を有している。
【0026】
本発明の磁気記録媒体は、表面を原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;AFM)で測定した表面粗さ(Ra)が3オングストローム以下のものであり、この表面粗さは平滑であるほど好ましい。
本実施形態の磁気記録媒体は、表面の表面粗さ(Ra)が、3オングストローム以下であるため、磁気ヘッドと垂直磁性層との距離を低減でき、高密度記録に適した信号/ノイズ比(SNR)が得られる。なお、本発明の磁気記録媒体は、その表面粗さが原子間力顕微鏡で測定すると3オングストローム以下のものであるが、この表面粗さは磁気記録媒体の最表面の潤滑層を除去して測定したものでも良い。
【0027】
「非磁性基板」
非磁性基板1としては、アルミニウムやアルミニウム合金などの金属材料からなる金属基板を用いてもよいし、ガラスや、セラミック、シリコン、シリコンカーバイド、カーボンなどの非金属材料からなる非金属基板を用いてもよい。また、非磁性基板1としては、これら金属基板や非金属基板の表面に、例えばメッキ法やスパッタ法などを用いて、NiP層又はNiP合金層が形成されたものを用いてもよい。
【0028】
ガラス基板としては、例えば、アモルファスガラスや結晶化ガラスなどを用いることができる。アモルファスガラスとしては、例えば、汎用のソーダライムガラスや、アルミノシリケートガラスなどを用いることができる。結晶化ガラスとしては、例えば、リチウム系結晶化ガラスなどを用いることができる。
セラミック基板としては、例えば、汎用の酸化アルミニウムや、窒化アルミニウム、窒化珪素などを主成分とする焼結体、又はこれらの繊維強化物などを用いることができる。
【0029】
非磁性基板1は、平均表面粗さ(Ra)が2nm(20Å)以下、好ましくは1nm以下のものであることが、磁気ヘッドを低浮上させた高記録密度記録に適している点から好ましい。
また、非磁性基板1は、表面の微小うねり(Wa)が0.3nm以下(より好ましくは0.25nm以下)であることが、磁気ヘッドを低浮上させた高記録密度記録に適している点から好ましい。なお、微少うねり(Wa)は、例えば、表面荒粗さ測定装置P−12(KLM−Tencor社製)を用い、測定範囲80μmでの表面平均粗さとして測定することができる。
また、非磁性基板1としては、端面のチャンファー部の面取り部と側面部との少なくとも一方の表面平均粗さ(Ra)が10nm以下(より好ましくは9.5nm以下)のものを用いることが、磁気ヘッドの飛行安定性にとって好ましい。
【0030】
非磁性基板1は、Co又はFeが主成分となる軟磁性下地層2と接することで、表面の吸着ガスや、水分の影響、基板成分の拡散などにより、腐食が進行する可能性がある。非磁性基板1と軟磁性下地層2の間に密着層を設けることにより、これらを抑制できる。密着層の材料としては、例えば、Cr、Cr合金、Ti、Ti合金などを適宜選択できる。
密着層の厚みは、2nm(20Å)以上であることが好ましい。
【0031】
「軟磁性下地層」
非磁性基板の上には、軟磁性下地層2が形成されている。軟磁性下地層2は、磁気ヘッドから発生する磁束の基板面に対する垂直方向成分を大きくするとともに、情報が記録される垂直磁性層4の磁化の方向をより強固に非磁性基板1と垂直な方向に固定するために設けられている。この作用は、特に記録再生用の磁気ヘッドとして垂直記録用の単磁極ヘッドを用いる場合に、より顕著なものとなる。
【0032】
軟磁性下地層2としては、例えば、Feや、Ni、Coなどを含む軟磁性材料を用いることができる。具体的な軟磁性材料としては、例えば、CoFe系合金(CoFeTaZr、CoFeZrNbなど)、FeCo系合金(FeCo、FeCoVなど)、FeNi系合金(FeNi、FeNiMo、FeNiCr、FeNiSiなど)、FeAl系合金(FeAl、FeAlSi、FeAlSiCr、FeAlSiTiRu、FeAlOなど)、FeCr系合金(FeCr、FeCrTi、FeCrCuなど)、FeTa系合金(FeTa、FeTaC、FeTaNなど)、FeMg系合金(FeMgOなど)、FeZr系合金(FeZrNなど)、FeC系合金、FeN系合金、FeSi系合金、FeP系合金、FeNb系合金、FeHf系合金、FeB系合金などを挙げることができる。
【0033】
軟磁性下地層2としては、Feを60at%(原子%)以上含有するFeAlO、FeMgO、FeTaN、FeZrN等の微結晶構造、又は微細な結晶粒子がマトリクス中に分散されたグラニュラー構造を有する材料を用いることができる。
その他にも、軟磁性下地層2としては、Coを80at%以上含有し、Zr、Nb、Ta、Cr、Mo等のうち少なくとも1種を含有し、アモルファス構造を有するCo合金を用いることができる。アモルファス構造を有するCo合金としては、例えば、CoZr、CoZrNb、CoZrTa、CoZrCr、CoZrMo系合金などを好適なものとして挙げることができる。
【0034】
軟磁性下地層2の保磁力Hcは、100(Oe)以下(好ましくは20(Oe)以下)とすることが好ましい。1Oeは79A/mである。軟磁性下地層2の保磁力Hcが上記範囲を超えると、軟磁気特性が不十分となり、再生波形がいわゆる矩形波から歪みをもった波形になるため好ましくない。
軟磁性下地層2の飽和磁束密度Bsは、0.6T以上(好ましくは1T以上)とすることが好ましい。軟磁性下地層2のBsが上記範囲未満であると、再生波形がいわゆる矩形波から歪みをもった波形になるため好ましくない。
また、軟磁性下地層2の飽和磁束密度Bs(T)と軟磁性下地層2の層厚t(nm)との積Bs・t(T・nm)は、15(T・nm)以上(好ましくは25(T・nm)以上)であることが好ましい。軟磁性下地層2のBs・tが上記範囲未満であると、再生波形が歪みを持つようになり、OW(OverWrite)特性(記録特性)が悪化するため好ましくない。
【0035】
軟磁性下地層2は、2層の軟磁性膜から構成されていることが好ましく、2層の軟磁性膜の間にはRu膜が設けられていることが好ましい。Ru膜の膜厚を0.4〜1.0nm、又は1.6〜2.6nmの範囲で調整することで、2層の軟磁性膜をAFC(反強磁性結合)構造とすることができる。軟磁性下地層2が、このようなAFC構造を採用したものである場合、いわゆるスパイクノイズを抑制できる。
【0036】
軟磁性下地層2の最表面(配向制御層3側の面)は、磁性下地層2を構成する材料が、部分的又は完全に酸化されているものであることが好ましい。具体的には例えば、軟磁性下地層2の表面(配向制御層3側の面)及びその近傍に、軟磁性下地層2を構成する材料を部分的に酸化してなるもの、若しくは上記材料の酸化物を形成してなるものが配置されていることが好ましい。これにより、軟磁性下地層2の表面の磁気的な揺らぎを抑えることができ、磁気的な揺らぎに起因するノイズを低減して、磁気記録媒体の記録再生特性を改善することができる。
【0037】
軟磁性下地層2と配向制御層3との間には、シード層が設けられていてもよい。シード層は、配向制御層3の結晶粒径を制御するものである。シード層に用いられる材料は、NiW合金を用いることができる。その他、シード層として、fcc構造を有する層等を用いることができ、具体的には、Ni、Cu、Rh、Pd、Ag、Ir、Pt、Au、Alを含む層が例示できる。
【0038】
「配向制御層」
軟磁性下地層2の上には、垂直磁性層4の配向性を制御する配向制御層3が形成されている。配向制御層3は、垂直磁性層4の結晶粒を微細化し、記録再生特性を改善するものである。
配向制御層3は、垂直磁性層4の磁性粒子を微細化するために、
図1に示すように、軟磁性下地層2の上に形成された低ガス圧層3aと、低ガス圧層3a上に形成された高ガス圧層(グラニュラー層)3bとからなるものであることが好ましい。
【0039】
低ガス圧層3aは、配向制御層3の核発生密度を高めるためのものである。
低ガス圧層3aは、Ru又はRuを主成分とする材料からなるものである。低ガス圧層3aを構成するRuを主成分とする材料としては、Ru系合金が挙げられる。
本実施形態においては、低ガス圧層3aがRu又はRuを主成分とする材料からなるものであるので、低ガス圧層3aを構成する柱状晶の頂部にドーム状の凸部が形成される。
よって、低ガス圧層3a上に、高ガス圧層3bおよび垂直磁性層4を順に形成することで、低ガス圧層3aのドーム状の凸部上に、高ガス圧層3bおよび垂直磁性層4の結晶粒子を成長させることができる。したがって、本実施形態の配向制御層3は、垂直磁性層4の結晶粒子の分離を促進し、結晶粒子を孤立化させて柱状に成長させることができる優れた配向性を有するものとなる。
【0040】
低ガス圧層3aは、層厚8nm〜12nmの範囲内のものであることが好ましい。低ガス圧層3aの層厚が8nm〜12nmの範囲内である場合、記録時における磁気ヘッドと軟磁性下地層2との距離が小さいものとなり、再生信号の分解能を低下させることなく記録再生特性を高めることができる。
低ガス圧層3aの層厚が上記範囲未満であると、垂直磁性層4の配向性を高め、垂直磁性層4を構成する磁性粒子42を微細化する効果が不十分となり、良好なS/N比が得られない場合がある。また、低ガス圧層3aの層厚が上記範囲を超えると、記録時における磁気ヘッドと軟磁性下地層2との距離が大きくなり、磁気ヘッドと軟磁性下地層2との磁気結合が弱まり高密度記録に適さない記録特性(OW)となる恐れがある。
【0041】
高ガス圧層3bは、Ru又はRuを主成分とする材料と、融点が450℃以上1000℃以下の酸化物とを含むグラニュラー構造を有するものである。この酸化物は融点が450℃以上850℃以下であることが好ましい。このような高ガス圧層3bでは、融点が450℃以上1000℃以下の酸化物がRu又はRuを主成分とする材料の周囲を取り囲みやすいため、Ru又はRuを主成分とする粒子の偏析構造が得られやすい。このため、スパッタリングガス圧を6Pa以下の低い範囲内としてスパッタリング法により形成しても、結晶粒子が分離されたものとなる。そのため、その上に成長される垂直磁性層4の柱状構造の磁性粒子を微細化できるものとなる。
【0042】
高ガス圧層3bに含まれる融点が450℃以上1000℃以下の酸化物としては、In
2O
3、TeO
2、Sb
2O
3、B
2O
3などが挙げられ、特に融点が著しく低いため、B
2O
3であることが好ましい。高ガス圧層3bに含まれる酸化物は、全体としての融点が450℃以上1000℃以下であれば、2種類以上の酸化物からなる混合物であっても良く、例えば、In
2O
3、TeO
2、Sb
2O
3、B
2O
3などの融点1000℃以下の酸化物と、SiO
2、TiO
2、Cr
2O
3、Ta
2O
5、Nb
2O
5などの融点1000℃超えの酸化物との混合物であっても良い。表1は、高ガス圧層の材料として使用される酸化物の融点を示したものである。
【0044】
また、高ガス圧層3bを構成するRuを主成分とする材料としては、Ru系合金が挙げられる。
【0045】
高ガス圧層3bは、融点が450℃以上1000℃以下の酸化物を合計で2体積%〜20体積%の範囲内で含むものであることが好ましく、10体積%〜13体積%の範囲内で含むものであることがより好ましい。高ガス圧層3bが、融点450℃以上1000℃以下の酸化物を合計で2体積%〜20体積%の範囲内で含むものである場合、より優れた配向性を有する配向制御層3となる。
高ガス圧層3b中の融点が450℃以上1000℃以下の酸化物の含有量が上記範囲を超える場合、高ガス圧層3b中の金属粒子中に酸化物が残留し、金属粒子の結晶性及び配向性を損ねることがあり、また、配向制御層3上に形成された垂直磁性層4の結晶性及び配向性を損ねるおそれがあるため好ましくない。また、高ガス圧層3b中の融点が450℃以上1000℃以下の酸化物の含有量が上記範囲未満である場合、高ガス圧層3b中に融点が450℃以上1000℃以下の酸化物を含有させることによる結晶粒子の分離効果が十分に得られない恐れがあるため好ましくない。
【0046】
ここで、本実施形態の磁気記録媒体において、配向制御層3を構成する結晶粒子と垂直磁性層4を構成する磁性粒子との関係について図面を用いて説明する。
図2は、配向制御層3と垂直磁性層4との積層構造を説明するための拡大模式図であり、各層の柱状晶が基板面に対して垂直に成長した状態を示す断面図である。なお、
図2においては、配向制御層3を構成する低ガス圧層3aおよび高ガス圧層3bと垂直磁性層4以外の部材の記載を省略して示している。
【0047】
図2に示すように、低ガス圧層3a上には、低ガス圧層3aを構成する柱状晶S1の頂部をドーム状の凸とする凹凸面S1aが形成されている。低ガス圧層3aの凹凸面S1a上には、凹凸面S1aから厚み方向に高ガス圧層3bを構成する結晶粒子が柱状晶S2となって成長している。高ガス圧層3bは、グラニュラー構造を有するものであるので、高ガス圧層3bを構成する柱状晶S2の周囲には酸化物15が形成されている。そして、高ガス圧層3bを構成する柱状晶S2の上には、垂直磁性層4の結晶粒子が柱状晶S3となって厚み方向に成長している。
【0048】
このように、本実施形態の磁気記録媒体においては、低ガス圧層3aの柱状晶S1上に高ガス圧層3bの柱状晶S2と垂直磁性層4の柱状晶S3とが連続した柱状晶となってエピタキシャル成長する。本実施形態においては、垂直磁性層4が多層化されており、垂直磁性層4の各層を構成する結晶粒子は、配向制御層3から最上層の垂直磁性層4に至るまで連続した柱状晶となってエピタキシャル成長を繰り返している。したがって、本実施形態においては、低ガス圧層3aを構成する結晶粒子を微細化し、柱状晶S1を高密度化することで、柱状晶S1の頂部から厚み方向に柱状に成長する高ガス圧層3bの柱状晶S2および垂直磁性層4の柱状晶S3も高密度化される。その結果、本実施形態の磁気記録媒体は表面の硬度が高く、傷がつきにくい磁気記録媒体となっている。
【0049】
「非磁性下地層」
本実施形態の磁気記録媒体においては、配向制御層3と垂直磁性層4の間に、非磁性下地層8が設けられている。なお、配向制御層3と垂直磁性層4の間には、非磁性下地層8が設けられていることが好ましいが、非磁性下地層8が設けられていなくてもよい。配向制御層3直上の垂直磁性層4の初期部には、結晶成長の乱れが生じやすく、これがノイズの原因となる。非磁性下地層8を設けることで、ノイズの発生を抑制できる。
【0050】
本実施形態の非磁性下地層8は、配向制御層3の低ガス圧層3aおよび高ガス圧層3bの柱状晶と連続した柱状晶として、エピタキシャル成長されたものである。
非磁性下地層8の厚みは、0.2nm以上3nm以下であることが好ましい。非磁性下地層8の厚さが3nmを超えると、Hc及びHnの低下が生じるために好ましくない。
【0051】
非磁性下地層8は、Crと酸化物とを含んだ材料からなるものであることが好ましい。Crの含有量は、25at%(原子%)以上50at%以下とすることが好ましい。酸化物としては、例えばCr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Coなどの酸化物を用いることが好ましく、その中でも特に、TiO
2、Cr
2O
3、SiO
2などを好適に用いることができる。酸化物の含有量としては、磁性粒子を構成する、例えばCo、Cr、Pt等の合金を1つの化合物として算出したmol総量に対して、3mol%以上18mol%以下であることが好ましい。
【0052】
また、非磁性下地層8は、酸化物を2種類以上添加した複合酸化物からなることが好ましい。その中でも特に、Cr
2O
3−SiO
2、Cr
2O
3−TiO
2、Cr
2O
3−SiO
2−TiO
2などを好適に用いることができる。さらに、CoCr−SiO
2、CoCr−TiO
2、CoCr−Cr
2O
3−SiO
2、CoCr−TiO
2−Cr
2O
3、CoCr−Cr
2O
3−TiO
2−SiO
2などを好適に用いることができる。また、結晶成長の観点からPtを添加してもよい。
【0053】
「垂直磁性層」
非磁性下地層8の上には、垂直磁性層4が形成されている。
図1に示すように、垂直磁性層4は、非磁性基板1側から、下層の磁性層4aと、中層の磁性層4bと、上層の磁性層4cとの3層を含むものである。本実施形態の磁気記録媒体では、磁性層4aと磁性層4bとの間に下層の非磁性層7aを含み、磁性層4bと磁性層4cとの間に上層の非磁性層7bを含むことで、これら磁性層4a〜4cと非磁性層7a,7bとが交互に積層された構造を有している。
【0054】
各磁性層4a〜4c及び非磁性層7a,7bを構成する結晶粒子は、配向制御層3を構成する結晶粒子と共に、厚み方向に連続した柱状晶を形成している。垂直磁性層4(磁性層4a〜4cおよび非磁性層7a,7b)は、配向制御層3の低ガス圧層3aおよび高ガス圧層3bの柱状晶と連続した柱状晶として、非磁性下地層8上にエピタキシャル成長されたものである。
【0055】
非磁性層7a、7bとしては、特に限定されないが、例えば、Ru又はRu合金からなるものが挙げられる。特に、非磁性層7a、7bの層厚を0.6nm以上1.2nm以下の範囲とすることで、磁性層4a,4b,4cをAFC結合(反強磁性交換結合)させることができる。また、本発明においては、各磁性層4a,4b,4cをFC結合(強磁性交換結合)で静磁結合させても良い。
【0056】
図3は、垂直磁性層を構成する磁性層と非磁性層との積層構造を拡大して示した断面図である。
図3に示すように、垂直磁性層4を構成する磁性層4aは、グラニュラー構造の磁性層であり、Co、Cr、Ptを含む磁性粒子(磁性を有した結晶粒子)42と、酸化物41とを含むものであることが好ましい。
【0057】
酸化物41としては、例えばCr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Coなどの酸化物を用いることが好ましい。その中でも特に、TiO
2、Cr
2O
3、SiO
2などを好適に用いることができる。また、磁性層4aは、酸化物を2種類以上添加した複合酸化物からなることが好ましい。その中でも特に、Cr
2O
3−SiO
2、Cr
2O
3−TiO
2、Cr
2O
3−SiO
2−TiO
2などを好適に用いることができる。
【0058】
磁性粒子42は、磁性層4a中に分散していることが好ましい。磁性粒子42は、磁性層4a,4b、更には磁性層4cを上下に貫いた柱状構造を形成していることが好ましい。このような構造を有することにより、磁性層4aの配向及び結晶性が良好なものとなり、結果として高密度記録に適した信号/ノイズ比(S/N比)が得られる。
【0059】
磁性層4aに含まれる酸化物41の含有量は、磁性粒子42を構成する、例えばCo、Cr、Pt等の合金を1つの化合物として算出したmol総量に対して、3mol%以上18mol%以下であることが好ましく、6mol%以上13mol%以下であることがより好ましい。磁性層4a中の酸化物41の含有量として上記範囲が好ましいのは、磁性層4aを形成した際に磁性粒子42の周りに酸化物41が析出し、磁性粒子42の孤立化及び微細化が可能となるためである。
【0060】
一方、酸化物41の含有量が上記範囲を超えた場合には、酸化物41が磁性粒子42中に残留し、磁性粒子42の配向性及び結晶性を損ねたり、磁性粒子42の上下に酸化物41が析出して、磁性粒子42が磁性層4a〜4cを上下に貫いてなる柱状構造が形成されなくなったりする恐れが生じるため好ましくない。また、酸化物41の含有量が上記範囲未満である場合には、磁性粒子42の分離及び微細化が不十分となり、結果として記録再生時におけるノイズが増大し、高密度記録に適した信号/ノイズ比(S/N比)が得られなくなる場合があるため好ましくない。
【0061】
磁性層4a中のCrの含有量は、4at%以上19at%以下(さらに好ましくは6at%以上17at%以下)であることが好ましい。磁性層4a中のCrの含有量を上記範囲とした場合、磁性粒子42の磁気異方性定数Kuを下げ過ぎず、また、高い磁化を維持し、結果として高密度記録に適した記録再生特性と十分な熱揺らぎ特性が得られる。
【0062】
一方、磁性層4a中のCrの含有量が上記範囲を超えた場合、磁性粒子42の磁気異方性定数Kuが小さくなるため、熱揺らぎ特性が悪化し、また、磁性粒子42の結晶性及び配向性が悪化することで、結果として記録再生特性が悪くなるため好ましくない。また、Crの含有量が上記範囲未満である場合には、磁性粒子42の磁気異方性定数Kuが高くなるため、垂直保磁力が高くなり過ぎて、データを記録する際に磁気ヘッドで十分に書き込むことができず、結果として高密度記録に適さない記録特性(OW)となるため好ましくない。
【0063】
磁性層4a中のPtの含有量は、8at%以上20at%以下であることが好ましい。Ptの含有量が8at%未満であると、高密度記録に適した熱揺らぎ特性を得るために垂直磁性層4に必要な磁気異方性定数Kuが得られないため好ましくない。Ptの含有量が20at%を超えると、磁性粒子42の内部に積層欠陥が生じ、その結果、磁気異方性定数Kuが低くなる。また、Ptの含有量が上記範囲を超えた場合、磁性粒子42中にfcc構造の層が形成され、結晶性及び配向性が損なわれるおそれがあるため好ましくない。したがって、高密度記録に適した熱揺らぎ特性及び記録再生特性を得るためには、磁性層4a中Ptの含有量を上記範囲とすることが好ましい。
【0064】
磁性層4aの磁性粒子42には、Co、Cr、Ptの他に、B、Ta、Mo、Cu、Nd、W、Nb、Sm、Tb、Ru、Reの中から選ばれる1種類以上の元素が含まれていてもよい。上記元素を含むことにより、磁性粒子42の微細化を促進、又は結晶性や配向性を向上させることができ、より高密度記録に適した記録再生特性、熱揺らぎ特性を得ることができる。
【0065】
また、磁性粒子42中に含まれるCo、Cr、Ptの他の上記元素の合計の含有量は、8at%以下であることが好ましい。上記元素の合計の含有量が8at%を超えると、磁性粒子42中にhcp相以外の相が形成されるため、磁性粒子42の結晶性及び配向性が乱れ、結果として高密度記録に適した記録再生特性及び熱揺らぎ特性が得られないため好ましくない。
【0066】
磁性層4aに適した材料としては、例えば、90(Co14Cr18Pt)−10(SiO
2){Cr含有量14at%、Pt含有量18at%、残部Coからなる磁性粒子を1つの化合物として算出したモル濃度が90mol%、SiO
2からなる酸化物組成が10mol%}、92(Co10Cr16Pt)−8(SiO
2)、94(Co8Cr14Pt4Nb)−6(Cr
2O
3)の他、(CoCrPt)−(Ta
2O
5)、(CoCrPt)−(Cr
2O
3)−(TiO
2)、(CoCrPt)−(Cr
2O
3)−(SiO
2)、(CoCrPt)−(Cr
2O
3)−(SiO
2)−(TiO
2)、(CoCrPtMo)−(TiO)、(CoCrPtW)−(TiO
2)、(CoCrPtB)−(Al
2O
3)、(CoCrPtTaNd)−(MgO)、(CoCrPtBCu)−(Y
2O
3)、(CoCrPtRu)−(SiO
2)などを挙げることができる。
【0067】
図3に示すように、垂直磁性層4を構成する磁性層4bも磁性層4aと同様に、グラニュラー構造の磁性層であり、Co、Cr、Ptを含む磁性粒子(磁性を有した結晶粒子)42と、酸化物41とを含むものであることが好ましい。
磁性層4bに含まれる酸化物41は、磁性層4aに含まれる酸化物41と同様のものを用いることができる。
【0068】
磁性層4bを構成する磁性粒子42は、磁性層4b中に分散していることが好ましい。磁性粒子42は、磁性層4a,4b、更には磁性層4cを上下に貫いた柱状構造を形成していることが好ましい。このような構造を形成することにより、磁性層4bの磁性粒子42の配向及び結晶性が良好なものとなり、結果として高密度記録に適した信号/ノイズ比(S/N比)が得られる。
【0069】
磁性層4b中の酸化物41の含有量は、磁性粒子42を構成する、例えばCo、Cr、Pt等の化合物の総量に対して、3mol%以上18mol%以下であることが好ましく、さらに好ましくは6mol%以上13mol%以下である。磁性層4b中の酸化物41の含有量として上記範囲が好ましい理由は、垂直磁性層4を構成する磁性層4a中の酸化物41の含有量と同じである。
【0070】
磁性層4b中のCrの含有量は、4at%以上18at%以下(さらに好ましくは8at%以上15at%以下)であることが好ましい。Crの含有量を上記範囲としたのは、磁性粒子42の磁気異方性定数Kuを下げ過ぎず、また、高い磁化を維持し、結果として高密度記録に適した記録再生特性と十分な熱揺らぎ特性が得られるためである。
【0071】
一方、磁性層4b中のCrの含有量が上記範囲を超えた場合には、磁性粒子42の磁気異方性定数Kuが小さくなるため、熱揺らぎ特性が悪化し、また、磁性粒子42の結晶性及び配向性が悪化することで、結果として記録再生特性が悪くなるため好ましくない。また、Crの含有量が上記範囲未満である場合には、磁性粒子42の磁気異方性定数Kuが高くなるため、垂直保磁力が高くなり過ぎてデータを記録する際に、磁気ヘッドで十分に書き込むことができず、結果として高密度記録に適さない記録特性(OW)となるため好ましくない。
【0072】
磁性層4b中のPtの含有量は、10at%以上22at%以下であることが好ましい。Ptの含有量が10at%未満であると、高密度記録に適した熱揺らぎ特性を得るために垂直磁性層4に必要な磁気異方性定数Kuが得られないため好ましくない。Ptの含有量が22at%を超えると、磁性粒子42の内部に積層欠陥が生じ、その結果、磁気異方性定数Kuが低くなる。また、Ptの含有量が上記範囲を超えた場合、磁性粒子42中にfcc構造の層が形成され、結晶性及び配向性が損なわれるおそれがあるため好ましくない。したがって、高密度記録に適した熱揺らぎ特性及び記録再生特性を得るためには、磁性層4b中のPtの含有量を上記範囲とすることが好ましい。
【0073】
磁性層4bの磁性粒子42には、磁性層4aの磁性粒子42と同様に、Co、Cr、Ptの他に、B、Ta、Mo、Cu、Nd、W、Nb、Sm、Tb、Ru、Reの中から選ばれる1種類以上の元素が含まれていてもよい。上記元素を含むことにより、磁性粒子42の微細化を促進、又は結晶性や配向性を向上させることができ、より高密度記録に適した記録再生特性、熱揺らぎ特性を得ることができる。
また、磁性層4bの磁性粒子42中に含まれるCo、Cr、Ptの他の上記元素の合計の含有量は、磁性層4aの磁性粒子42と同様の理由により、8at%以下であることが好ましい。
【0074】
垂直磁性層4を構成する磁性層4cは、
図3に示すように、Co、Crを含む磁性粒子(磁性を有した結晶粒子)42を含み、酸化物41を含まないものであることが好ましい。磁性層4c中の磁性粒子42は、磁性層4a中の磁性粒子42から柱状にエピタキシャル成長しているものであることが好ましい。この場合、磁性層4a〜4cの磁性粒子42が、各層において1対1に対応して、柱状にエピタキシャル成長することが好ましい。また、磁性層4bの磁性粒子42が磁性層4a中の磁性粒子42からエピタキシャル成長していることで、磁性層4cの磁性粒子42が微細化され、さらに結晶性及び配向性が向上したものとなる。
【0075】
磁性層4c中のCrの含有量は、10at%以上24at%以下であることが好ましい。Crの含有量を上記範囲とすることで、データの再生時における出力を十分確保でき、更に良好な熱揺らぎ特性を得ることができる。一方、Crの含有量が上記範囲を超える場合、磁性層4cの磁化が小さくなり過ぎるため好ましくない。また、Cr含有量が上記範囲未満である場合には、磁性粒子42の分離及び微細化が十分に生じず、記録再生時のノイズが増大し、高密度記録に適した信号/ノイズ比(S/N比)が得られなくなるため好ましくない。
【0076】
また、磁性層4cを構成する磁性粒子42が、Co、Crの他にPtを含んだ材料である場合、磁性層4c中のPtの含有量は、8at%以上20at%以下であることが好ましい。Ptの含有量が上記範囲である場合、高記録密度に適した十分な保磁力を得ることができ、更に記録再生時における高い再生出力を維持し、結果として高密度記録に適した記録再生特性および熱揺らぎ特性が得られる。一方、磁性層4c中のPtの含有量が上記範囲を超えると、磁性層4c中にfcc構造の相が形成され、結晶性及び配向性が損なわれるおそれがあるため好ましくない。また、Ptの含有量が上記範囲未満である場合、高密度記録に適した熱揺らぎ特性を得るための磁気異方性定数Kuが得られないため好ましくない。
【0077】
磁性層4cを構成する磁性粒子42は、非グラニュラー構造の磁性層であり、Co、Cr、Ptの他に、B、Ta、Mo、Cu、Nd、W、Nb、Sm、Tb、Ru、Re、Mnの中から選ばれる1種類以上の元素を含むことができる。上記元素を含むことにより、磁性粒子42の微細化を促進、又は結晶性や配向性を向上させることができ、より高密度記録に適した記録再生特性及び熱揺らぎ特性を得ることができる。
【0078】
また、磁性層4cの磁性粒子42中に含まれるCo、Cr、Ptの他の上記元素の合計の含有量は、16at%以下であることが好ましい。上記元素の合計の含有量が16at%を超えると、磁性粒子42中にhcp相以外の相が形成される。そのため、磁性粒子42の結晶性及び配向性が乱れ、結果として高密度記録に適した記録再生特性、熱揺らぎ特性が得られないため好ましくない。
【0079】
磁性層4cに適した材料としては、特に、CoCrPt系、CoCrPtB系を挙げることできる。CoCrPtB系としては、CrとBとの合計の含有量が18at%以上28at%以下であるものが好ましい。
磁性層4cに適した材料としては、例えば、CoCrPt系では、Co14〜24Cr8〜22Pt{Cr含有量14〜24at%、Pt含有量8〜22at%、残部Co}、CoCrPtB系では、Co10〜24Cr8〜22Pt0〜16B{Cr含有量10〜24at%、Pt含有量8〜22at%、B含有量0〜16at%、残部Co}が好ましい。
【0080】
磁性層4cに適したその他の系としては、CoCrPtTa系では、Co10〜24Cr8〜22Pt1〜5Ta{Cr含有量10〜24at%、Pt含有量8〜22at%、Ta含有量1〜5at%、残部Co}、CoCrPtTaB系では、Co10〜24Cr8〜22Pt1〜5Ta1〜10B{Cr含有量10〜24at%、Pt含有量8〜22at%、Ta含有量1〜5at%、B含有量1〜10at%、残部Co}の他にも、CoCrPtBNd系、CoCrPtTaNd系、CoCrPtNb系、CoCrPtBW系、CoCrPtMo系、CoCrPtCuRu系、CoCrPtRe系などの材料を挙げることができる。
【0081】
「保護層」
垂直磁性層4上には保護層5が形成される。保護層5は、垂直磁性層4の腐食を防ぐとともに、磁気ヘッドが磁気記録媒体に接触したときの媒体表面の損傷を防ぐためのものである。保護層5としては、従来公知の材料を使用することができ、例えばC、SiO
2、ZrO
2を含むものを使用することが可能である。保護層5の厚みは、1〜10nmとすることが、磁気ヘッドと磁気記録媒体との距離を小さくできるので高記録密度の点から好ましい。
【0082】
「潤滑層」
保護層5上には潤滑層6が形成される。潤滑層6には、例えば、パーフルオロポリエーテル、フッ素化アルコール、フッ素化カルボン酸などの潤滑剤を用いることが好ましい。
【0083】
(磁気記録媒体の製造方法)
図1に示す磁気記録媒体を製造するには、まず、非磁性基板1の上に、例えばスパッタリング法などを用いて密着層を形成する。次いで、密着層の上に例えばスパッタリング法などを用いて軟磁性下地層2を形成する。その後、軟磁性下地層2上に、例えばスパッタリング法などを用いてシード層を形成する。次いで、シード層上に配向制御層3を形成する。
【0084】
配向制御層3を形成する工程では、まず、スパッタリング法により、スパッタリングガス圧0.1Pa〜3Paの範囲内で、Ru又はRuを主成分とする材料からなる低ガス圧層を形成するサブ工程を行う。低ガス圧層を形成するサブ工程で用いられるスパッタリングガス圧は、2段成膜を用いて配向制御層を形成する場合に一般に行われる範囲とすることができる。
本実施形態においては、低ガス圧層3aを形成する際のスパッタリングガス圧が0.1Pa〜3Paの範囲内であるので、垂直磁性層4を構成する磁性粒子42を微細化する効果が十分に得られ、なおかつ、十分に高い硬度を有するものとなる。
【0085】
低ガス圧層3aのスパッタリングガス圧が上記範囲未満であると、低ガス圧層3aの配向性が低下し、垂直磁性層4を構成する磁性粒子42を微細化する効果が不十分となる場合がある。また、低ガス圧層3aのスパッタリングガス圧が上記範囲を超えると、低ガス圧層3aの結晶性が低下し、低ガス圧層3aの硬度が低くなり、磁気記録媒体の信頼性が低下する。
【0086】
低ガス圧層3aをスパッタリング法で成膜する際に用いるスパッタリングガスとしては、Ar、Kr又はXeのいずれか1種以上を用いることが好ましい。低ガス圧層3aを成膜する際に用いるスパッタリングガスとして、Ar、Kr又はXeから選ばれる2種以上を用いる場合、例えば、Arに対してKrを40体積%以上、Xeを30体積%以上含有させたスパッタリングガスを用いることできる。
【0087】
なお、Kr及びXeは、Arに比べてイオン化ポテンシャルが低いため、低ガス圧でも電離し易く、原子量が大きいため高エネルギーのスパッタ粒子を形成できる。さらに、KrよりもXeの方が高エネルギーのスパッタ粒子を形成できる。したがって、スパッタリングガスとして、Ar、Kr又はXeから選ばれる2種以上を用いる場合、Kr又はXeは、スパッタリングガス中になるべく多く含有させることが好ましく、最も好ましくは、Xeを100%で使用する。
【0088】
次に、低ガス圧層3a上に、スパッタリング法により、B
2O
3などの融点1000℃以下の酸化物を含み、Ru又はRuを主成分とする材料からなるグラニュラー構造を有する高ガス圧層3b(グラニュラー層)を形成するサブ工程を行う。
高ガス圧層3bを形成するサブ工程は、低ガス圧層3aを形成する工程よりも高く、かつ3Pa以上6Pa以下のスパッタリング圧で行うことが好ましい。低ガス圧層3aを形成するサブ工程を3Paのスパッタリング圧で行う場合には、高ガス圧層3bを形成するサブ工程は、3Paを超えたスパッタリング圧で行う。
高ガス圧層3bをスパッタリング法で成膜する際に用いるスパッタリングガスとしては、低ガス圧層3aをスパッタリング法で成膜する際に用いるスパッタリングガスと同様のものを用いることができる。
【0089】
本実施形態においては、高ガス圧層3bが融点1000℃以下の酸化物を含み、Ru又はRuを主成分とする材料からなるグラニュラー構造を有するものである。そのため、高ガス圧層3bに含まれる融点1000℃以下の酸化物が、Ruの周囲を取り囲みやすい。これによって、Ru又はRuを主成分とする粒子の偏析構造が得られやすい。したがって、本実施形態においては、スパッタリングガス圧を6Pa以下の低い範囲内としても、結晶粒子が十分に分離された高ガス圧層3bが得られ、その上に成長される垂直磁性層4の柱状構造の磁性粒子を微細化できる高ガス圧層3bを形成できる。
【0090】
よって、本実施形態においては、スパッタリングガス圧を高くすることによる高ガス圧層3b硬度の低下を抑制して、磁気記録媒体の信頼性を向上させることができる。
また、本実施形態においては、高ガス圧層3bを形成する際のスパッタガス圧を6Pa以下の低い範囲とすることができるため、高ガス圧層3bの成長表面の表面粗さを低減できる。その結果、原子間力顕微鏡(AFM)で測定した場合の表面粗さ(Ra)が3オングストローム以下である平滑な表面を有する磁気記録媒体が得られ、磁気ヘッドの浮上走行安定性が得られ、電磁変換特性が向上する。
【0091】
高ガス圧層3bのスパッタリングガス圧が上記範囲を超えると、配向制御層3の配向の劣化による静磁気特性の低下が起こり、高ガス圧層3bの硬度が不十分となるとともに、良好な熱揺らぎ特性が得られない恐れがある。
高ガス圧層3bのスパッタリングガス圧が、低ガス圧層3aを形成する工程未満である場合、高ガス圧層3bを形成する前に低ガス圧層3aが形成されていることによる高ガス圧層3bの配向性を高める効果が十分に得られない恐れがある。
【0092】
次に、高ガス圧層3bの上に、非磁性下地層8を形成する。非磁性下地層8は、スパッタリング法を用いて形成することが好ましい。このことにより、配向制御層3の低ガス圧層3aおよび高ガス圧層3bの柱状晶と連続した柱状晶として、非磁性下地層8を配向制御層3の高ガス圧層3b上に容易にエピタキシャル成長させることができる。
【0093】
次に、非磁性下地層8の上に、磁化容易軸が非磁性基板1に対して主に垂直に配向した垂直磁性層4を形成する。垂直磁性層4を形成する工程は、配向制御層3を構成する結晶粒子と共に厚み方向に連続した柱状晶を形成するように結晶粒子を結晶成長させる工程である。垂直磁性層4(磁性層4a〜4cおよび非磁性層7a,7b)は、スパッタリング法を用いて形成することが好ましい。このことにより、配向制御層3の低ガス圧層3aおよび高ガス圧層3bの柱状晶と連続した柱状晶として、垂直磁性層4を非磁性下地層8上に容易にエピタキシャル成長させることができる。
【0094】
保護層5は、例えば、CVD(化学気相成長)法などを用いて形成できる。
潤滑層6は、例えば、ディッピング法などを用いて形成できる。
なお、本実施形態においては、配向制御層3の高ガス圧層3bを形成する工程の前に、低ガス圧層3aを形成する場合を例に挙げて説明したが、配向制御層3は、低ガス圧層3aを含まないものであってもよく、低ガス圧層3aは形成しなくてもよい。
【0095】
(磁気記録再生装置)
図4は、本発明を適用した磁気記録再生装置の一例を示すものである。
この磁気記録再生装置は、上述した製造方法により製造された
図1に例示するような磁気記録媒体50と、磁気記録媒体50を回転駆動させる媒体駆動部51と、磁気記録媒体50に対する情報の記録再生を行う磁気ヘッド52と、この磁気ヘッド52を磁気記録媒体50に対して相対運動させるヘッド駆動部53と、記録再生信号処理系54とを備えている。
【0096】
記録再生信号処理系54は、外部から入力されたデータを処理して記録信号を磁気ヘッド52に送り、磁気ヘッド52からの再生信号を処理してデータを外部に送ることが可能となっている。磁気ヘッド52としては、再生素子として巨大磁気抵抗効果(GMR)を利用したGMR素子などを有した、より高記録密度に適した磁気ヘッドを用いることができる。
【0097】
図4に示す磁気記録再生装置は、本発明の磁気記録媒体の製造方法により製造された
図1に例示するような磁気記録媒体50と、磁気記録媒体50に対する情報の記録再生を行う磁気ヘッド52とを備えるものである。このため、更なる高記録密度化を可能とした信頼性の高い磁気記録媒体50を備えた優れたものとなる。
【実施例】
【0098】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
(実施例1〜25、比較例1〜15)
以下に示す製造方法により、実施例1〜25、比較例1〜15の磁気記録媒体を作製し、評価した。
【0099】
まず、洗浄済みのガラス基板(コニカミノルタ社製、外形2.5インチ)を、DCマグネトロンスパッタ装置(アネルバ社製C−3040)の成膜チャンバ内に収容して、到達真空度1×10
−5Paとなるまで成膜チャンバ内を排気した。
その後、このガラス基板の上に、Crターゲットを用いて、スパッタリング法(ガス圧0.8Pa(実施例1〜25、比較例1〜15では、スパッタリングガスとして全てArを用いた。))で、層厚10nmの密着層を成膜した。
【0100】
次に、密着層の上に、Co−20Fe−5Zr−5Ta{Fe含有量20at%、Zr含有量5at%、Ta含有量5at%、残部Co}のターゲットを用いて100℃以下の基板温度で、スパッタリング法(ガス圧0.8Pa)で、層厚25nmの軟磁性層を成膜し、この上にRu層を層厚0.7nmで成膜し、さらにCo−20Fe−5Zr−5Taからなる層厚25nmの軟磁性層を成膜し、これを軟磁性下地層とした。
続いて、軟磁性下地層の上に、シード層として層厚10nmのNi5Wからなる膜を、スパッタリング法(ガス圧0.8Pa)で成膜した。
【0101】
次に、シード層の上に配向制御層として、低ガス圧層と高ガス圧層とを形成した。
まず、シード層の上に、低ガス圧層として層厚10nmのRuを、スパッタリング法(ガス圧0.8Pa)で成膜した。
次に、低ガス圧層の上に、層厚10nmの高ガス圧層を表2に示す材料およびガス圧で、スパッタリング法により成膜した。
【0102】
その後、配向制御層上に、垂直磁性層を形成した。
まず、配向制御層の高ガス圧層上に、(Co15Cr16Pt)91−(SiO
2)6−(TiO
2)3{Cr含有量15at%、Pt含有量16at%、残部Coの合金を91mol%、SiO
2からなる酸化物を6mol%、TiO
2からなる酸化物を3mol%}の組成のグラニュラー構造の下層の磁性層を、スパッタリングガス圧を2Paとして層厚9nmで成膜した。
【0103】
次に、磁性層の上に、(Co30Cr)88−(TiO
2)12からなる層厚0.3nmの非磁性層を成膜した。
次に、非磁性層の上に、(Co11Cr18Pt)92−(SiO
2)5−(TiO
2)3からなるグラニュラー構造の層厚6nmの中層の磁性層を、スパッタリングガス圧を2Paとして成膜した。
【0104】
次に、磁性層の上に、Ruからなる層厚0.3nmの非磁性層を成膜した。
次に、非磁性層の上に、Co20Cr14Pt3B{Cr含有量20at%、Pt含有量14at%、B含有量3at%、残部Co}からなるターゲットを用いて、スパッタリングガス圧を0.6Paとして層厚7nmの上層の磁性層を成膜した。
【0105】
次に、CVD法により層厚3.0nmのCからなる保護層を成膜し、次いで、ディッピング法によりパーフルオロポリエーテルからなる層厚2nmの潤滑層を成膜し、実施例1〜25、比較例1〜15の磁気記録媒体を作製した。
【0106】
このようにして製造した実施例1〜25、比較例1〜15の磁気記録媒体について、中層のグラニュラー構造の磁性層の結晶粒径を測定した。具体的には、実施例1〜25、比較例1〜15の磁気記録媒体について、(Co11Cr18Pt)92−(SiO
2)5−(TiO
2)3からなる中層のグラニュラー構造の磁性層を形成した後、基板をスパッタ装置内から取り出し、断面TEM観察により、中層のグラニュラー構造の磁性層の磁気的に結合した平均結晶粒径を測定した。
その結果を表2に示す。
【0107】
また、実施例1〜25、比較例1〜15の磁気記録媒体について、米国GUZIK社製のリードライトアナライザRWA1632及びスピンスタンドS1701MPを用いて、記録再生特性としてSNR(信号/ノイズ比(S/N比))の評価を行った。
なお、磁気ヘッドには、書き込み側にシングルポール磁極を用い、読み出し側にTMR素子を用いたヘッドを使用した。信号/ノイズ比(S/N比)については、記録密度750kFCIとして測定した。記録特性(OW)については、先ず、750kFCIの信号を書き込み、次いで100kFCIの信号を上書し、周波数フィルターにより高周波成分を取り出し、その残留割合によりデータの書き込み能力を評価した。
実施例1〜25、比較例1〜15の磁気記録媒体のSNRの結果を表2に示す。
【0108】
また、実施例1〜25、比較例1〜15の磁気記録媒体について、表面粗さを原子間力顕微鏡(AFM)で測定した。その結果を表2に示す。
【0109】
また、実施例1〜25、比較例1〜15の磁気記録媒体について、配向制御層を構成する膜の硬度の評価として、磁気記録媒体の傷付き(スクラッチ)耐性を評価した。具体的には、クボタコンプス社製のSAFテスター及びCandela社製の光学式表面検査装置(OSA)を用い、ディスクの回転数5000rpm、気圧100Torr、室温という測定条件にて、SAFテスターでヘッドをロードさせたまま2000秒保持し、その後に、OSAにてスクラッチの本数をカウントした。その結果を表2に示す。
【0110】
【表2】
【0111】
表2に示すように、高ガス圧層が、Ru又はRuを主成分とする材料と、融点1000℃以下の酸化物であるB
2O
3を含むグラニュラー構造を有するグラニュラー層である実施例1〜5では、高ガス圧層のスパッタリングガス圧が3Pa〜10Paである場合、磁気的に結合した平均結晶粒径が27.5nm以下となっており、十分に微細化されていることが確認できた。特に、実施例1〜5では、高ガス圧層のスパッタリングガス圧が6Pa以下である場合に、酸化物を含まない比較例1〜5、融点1000℃超えの酸化物であるCr
2O
3を含む比較例6〜10、融点1000℃超えの酸化物であるTiO
2を含む比較例11〜15と比較して、磁気的に結合した平均結晶粒径が小さいものとなっている。
【0112】
さらに、高ガス圧層が、Ruを主成分とする材料と、融点1000℃以下の酸化物であるIn
2O
3を含むグラニュラー構造を有するグラニュラー層である実施例6〜10、およびRuを主成分とし、Crを10体積%含む材料と、融点が450℃以上1000℃以下の酸化物であるB
2O
3を13体積%含むグラニュラー構造を有するグラニュラー層である実施例11〜15においても、同様に高ガス圧層のスパッタリングガス圧が6Pa以下である場合に、上記比較例と比較して磁気的に結合した平均結晶粒径が小さいものとなっている。
【0113】
また、表2に示すように、実施例1〜25では、十分に大きいSNRが得られ、比較例1〜15と比較して、高ガス圧層のスパッタリングガス圧を低下させた場合のSNRの変化が少なく、6Pa以下である場合にも、SNRが17.5dB以上となった。
さらに、表2に示すように、実施例1〜25では、比較例1〜15と比較して、スクラッチの本数も少なく、硬度が高いことが確認できた。
さらに、表2に示すように、実施例1〜25では、表面を原子間力顕微鏡(AFM)で測定した表面粗さ(Ra)が3オングストローム以下であり、比較例1〜15と比較して、小さいことが確認できた。