【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成25年10月20日に一般社団法人日本鉄道電気技術協会に予稿論文として提出された後、一次審査が行われ、「第27回鉄道電気テクニカルフォーラム論文集」に収録され、平成26年2月7日開催の「第27回鉄道電気テクニカルフォーラム」において配布された。
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記棒状部材の表面に、前記上側握り部材及び前記下側握り部材の前記スライド穴の縁がスライド方向において引っ掛かる引っ掛かり部が形成されていることを特徴とする請求項3記載のハンガ設置補助工具。
【背景技術】
【0002】
例えば、既設のハンガを交換する場合など、ハンガを設置する際には、まず、適正な長さに形成されたハンガバーを取付位置の吊架線に引っ掛けて吊り下げた後、トロリ線をハンガイヤー近傍まで引き上げて、ハンガイヤーをトロリ線の溝に噛ませたうえでくさびをたたき込んで固定する作業が行われている。
【0003】
このとき、トロリ線が所望の姿勢から捻れている場合も多く、ハンガイヤーをトロリ線の溝に噛み込ませるのに、トロリキー(下記特許文献1参照)を使用して捻れを修正している。しかし、トロリキーをトロリ線の溝に引っ掛けても、作業員がトロリキーから手を離すと落下するおそれがあるため、作業員が常にトロリキーを握っておく必要があることから、ハンガイヤーの取り付けを両手で行うことができず、作業性が悪い。
【0004】
また、垂れ下がったトロリ線をハンガイヤー近傍まで引き上げる作業は、作業員の肩で押し上げたり、ベビーシメラーを使用して吊架線に対して吊り上げたりする方法で行われているが、トロリ線を吊り上げるためには、約390N程度の力が必要となるため、作業に非常に手間がかかり、作業員への負担が大きいといった問題がある。
【0005】
ここで、下記特許文献2には、トロリ線の姿勢を矯正させる作業の作業性を向上させるための補助工具として、吊下げ用補助工具と姿勢矯正用補助工具とが開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本実施形態に係るハンガ設置補助工具について説明する。本実施形態に係るハンガ設置補助工具は、吊り下げるための溝が両側に形成された溝付きトロリ線に対して使用される補助工具である。
【0013】
図1は、本実施形態に係るハンガ設置補助工具の正面図である。
図2は、本実施形態に係るハンガ設置補助工具のトロリ線挟持具の拡大正面図である。
図3は、本実施形態に係るハンガ設置補助工具のトロリ線挟持具の拡大側面図である。
図4は、本実施形態に係るハンガ設置補助工具のトロリ線挟持具の拡大正面図である。
【0014】
ハンガ設置補助工具10は、吊架線3に引っ掛けられる棒状部材15と、棒状部材15に対してスライド自在且つ所望の位置に固定可能なトロリ線挟持具20とを備えている。棒状部材15は、略全長に渡ってネジ溝が刻まれたステンレス鋼製の長ネジ棒である。その一方の端部は、120°程度折り返されており、吊架線3に引っ掛ける吊架線引掛部16として機能する。棒状部材15の全長は120cm程度、直径は6mm程度であるが、棒状部材15のサイズは適宜変更可能である。なお、通常、ハンガの長さは15〜98cmであり、98cmのハンガにも対応可能なように、棒状部材15の長さは98cm以上であることが望ましい。
【0015】
トロリ線挟持具20は、トロリ線5を挟持するイヤー部30と、イヤー部30を棒状部材15に対してスライド自在且つ所望の位置に固定可能に支持するイヤースライド部50とを備えている。イヤー部30は、固定爪31と、可動爪32と、回動軸33と、くさび部材35とを備えている。なお、回動軸33は、
図2において紙面に垂直な方向である。
【0016】
可動爪32は、固定爪31に対して回動軸33周りに回動自在に設置されている。固定爪31に対して可動爪32が閉じた状態、すなわちイヤー部30が閉じた状態では、イヤー部30は、両爪31,32をトロリ線5の両側溝に噛み込ませて、トロリ線5を挟持する。また、可動爪32が開いた状態、すなわちイヤー部30が開いた状態では、イヤー部30はトロリ線5を解放することができる。
図2は、イヤー部30が開いた状態、
図4は、イヤー部30が閉じてトロリ線5を挟持した状態を示している。
【0017】
くさび部材35は、可動爪32を閉じた状態で固定するための爪固定部材であり、くさび36と、くさび用取っ手37と、回動軸38とを備えている。なお、回動軸38は、
図2において略水平な方向であり、
図3において略紙面に垂直な方向である。
【0018】
くさび36は、回動軸38周りに回動自在であり、固定爪31と可動爪32との間に押し込まれて介在し、イヤー部30を閉じた状態に固定する固定位置(
図4参照)と、固定爪31と可動爪32との間から退避し、イヤー部30を開いた状態に動かすことが可能な解放位置(
図2、
図3参照)との間を移動可能である。
【0019】
くさび36とくさび用取っ手37は一体に形成されており、作業員がくさび用取っ手37を握って回動軸38周りに回動させるように動かすことで(
図3において、左右矢印方向)、くさび36を回動軸38周りに回動させて、上述した固定位置と解放位置との間で動かすことができる。
【0020】
くさび36は、固定位置に位置していると、可動爪32を閉じる方向に押し込むよう機能するので、これにより、固定爪31と可動爪32の爪先端がトロリ線5の溝に噛み込み、イヤー部30によりトロリ線5が強固に固定挟持される。このように、くさび部材35により両爪31,32の爪がトロリ線5の溝に噛み込んだ状態に固定することで、トロリ線挟持具20により一端トロリ線5を固定挟持すれば、作業員が手を離してもトロリ線5が外れることがなく、その後の作業性を向上させることができる。
【0021】
トロリ線5を外す際には、作業員によってくさび用取っ手37を動かすことで、可動爪32を固定位置から解放位置へ回動させる。これにより、両爪31,32の爪先端がトロリ線5の溝から離れ、トロリ線5を解放することができる。このように、本実施形態では、くさび部材35による締め付け又は解放を、特別な工具を使用することなく、作業員がくさび用取っ手37を操作するという簡単な手作業で行うことができる。
【0022】
イヤースライド部50は、上側握り板52と下側握り板53とを有する握り部51と、上側握り板52と下側握り板53の一方の端部同士を垂直方向に揺動可能に連結する連結部材55と、上側握り板52と下側握り板53とを離れる方向に付勢する間隔拡大バネ58とを備えている。
【0023】
上側握り板52は、細長い鋼板であり、他方の端部に棒状部材15を通すスライド穴52aが形成されている。下側握り板53も同様に細長い鋼板であり、他方の端部に棒状部材15を通すスライド穴53a(図示せず)が形成されている。スライド穴52a,53aの直径は、棒状部材15の直径よりも若干大きく7mm程度である。
【0024】
また、上側握り板52と下側握り板53の一方の端部には、後述する間隔規制部材56を通すための連結穴52b,53b(図示せず)が形成されている。なお、連結部材55で連結される側が作業員の手元側になるため、本明細書では、握り部51を構成する握り板52,53の棒状部材15側を先端側、連結部材55で連結されている側を根元側とする。
【0025】
下側握り板53の先端部には、イヤー部30を固定するためのイヤー部固定部材54が固定設置されている。イヤー部30の固定爪31はイヤー部固定部材54に溶接により固定されており、これにより、イヤー部30は下側握り板53に一体に固定される。
【0026】
図2に示すように、上側握り板52と下側握り板53とは、上下に並べて設置され、握り部51の図中右側の先端側(棒状部材15側)は、棒状部材15に沿って両者の間に介在する間隔拡大バネ58により、根元側よりも広い所定の間隔が空けられている。また、根元側は、連結部材55により、上側握り板52と下側握り板53とが接近した状態で垂直方向にそれぞれ揺動可能となるように連結されている。よって、上側握り板52と下側握り板53とは、側方から見ると、略三角形を構成する二辺のように見える。
【0027】
連結部材55は、上側握り板52と下側握り板53との根元側における間隔が所定距離以上に拡がらないように規制する間隔規制部材56と、当該連結箇所において上側握り板52と下側握り板53とが離れる方向に付勢する連結間隔拡大バネ57とを備えている。
【0028】
間隔規制部材56は、ネジ561とナット562とを備え、ネジ561は、上側握り板52の連結穴52bと下側握り板53の連結穴53bとを貫通している。ネジ561の頭部は上側握り板52の上方に位置し、ネジ561の先端には、下側握り板53の下方においてナット562が固定されている。
【0029】
よって、上側握り板52はネジ561の頭部により上方への移動を規制され、下側握り板53はナット561により下方への移動を規制されており、両握り板52,53は、ネジ561とナット562とにより接近した状態で所定の間隔以上に開かないように規制されている。
【0030】
連結間隔拡大バネ57は、上側握り板52と下側握り板53との間に介在すると共に、ネジ561に内部を貫通されて設置されており、その弾性力により上側握り板52と下側握り板53との間隔が当該連結箇所において拡がるように付勢している。
【0031】
よって、上側握り板52及び下側握り板53からなる握り部51が作業員の手によって握られていない解放状態では、連結間隔拡大バネ57の弾性力により、上側握り板52はネジ561の頭部に押し付けられ、下側握り板53はナット562に押し付けられた状態となっている。
【0032】
一方、作業員による力が加えられて握り部51が握られた握り状態では、両握り板52,53は、連結間隔拡大バネ57の弾性力に抗して近付く。
図2は、握り部51の解放状態を示し、
図4は、握り部51の握り状態を示している。
【0033】
このように構成されたイヤースライド部50は、作業員に握られていない解放状態では、握り板52,53の先端側が間隔拡大バネ58により最大限に開いた状態となり、握り板52,53の根元側間が連結部材55により近接して連結された状態となっている。
【0034】
この状態では、上側握り板52と下側握り板53との開き角が最大となり、握り板52,53と棒状部材15とは垂直に交差するのではなく、斜めに交わっている(本実施形態では、垂直状態から15〜30°程度傾いた状態)。このため、握り板52,53のスライド穴52a,53aの縁が棒状部材15のネジ溝に引っ掛かり、イヤースライド部50は、棒状部材15に対して垂直方向に滑ってスライドすることなく、垂直方向の所定の高さに固定された固定状態(
図2参照)となる。
【0035】
一方、作業員が握り部51を握っている握り状態では、間隔拡大バネ58の弾性力に抗して、上側握り板52と下側握り板53の先端側が近づき、両者が平行に近い状態になる。このように握り板52,53が棒状部材15と垂直に近い状態となると、棒状部材15とスライド穴52a,53aの縁との引っ掛かりが解け、両握り板52,53は、棒状部材15に対して滑って移動することが可能なスライド状態(
図4参照)となる。
【0036】
そして、このスライド状態のままイヤースライド部50を所望の場所までスライドさせてから、作業員が手を離すと、イヤースライド部50は再び棒状部材15に対して固定状態となる。このように、作業員は、握り板52,53を握ったり離したりすることで、イヤースライド部50の棒状部材15に対する固定状態とスライド状態とを容易に切り替えることができ、トロリ線挟持具20を棒状部材15の所望の高さへスライドさせて固定する作業を容易に行うことができる。
【0037】
ここで、本実施形態では、連結部材55により上側握り板52と下側握り板53の根元側がそれぞれ垂直方向に揺動可能に連結されているので、両握り板52,53は、先端側だけでなく、根元側においても垂直方向に移動できる。よって、イヤースライド部50の固定状態を解放したり、スライド状態時にイヤースライド部50をスライドさせたりする際に、棒状部材15のネジ溝と握り板52,53のスライド穴52a,53aの縁との引っ掛かりを解消し易く、イヤースライド部50を垂直方向にスムーズにスライドさせることができる。
【0038】
以上、ハンガ設置補助工具10の構成について詳細に説明したが、続いて、ハンガ設置補助工具10の使用方法について説明する。
図5は、ハンガ設置補助工具10の使用状態を示す図である。例えば、ハンガを設置する際には、先にハンガ設置補助工具10を設置し、トロリ線5を所望の高さまで引き上げて固定することで、ハンガの設置作業の作業負担を軽減し、容易に設置作業を行うことができる。
【0039】
まず、作業員は、イヤー部30でトロリ線5を挟持させる。具体的には、固定爪31と可動爪32の爪先端をトロリ線5の溝に食い込ませた状態で、くさび用取っ手37を操作してくさび36を押し込み、くさび部材35によりこの挟持状態を固定する。
【0040】
続いて、棒状部材15の吊架線引掛部16を吊架線3に引っ掛け、ハンガ設置補助工具10を吊架線3にぶら下げる。ここで、トロリ線5が捻れている場合には、吊架線3に引っ掛ける前のハンガ設置補助工具10は、
図5に示すような吊架線引掛部16が上端に位置する垂直状態ではなく、この垂直状態から傾いた状態となっている。
【0041】
これに対して、吊架線引掛部16を吊架線3に引っ掛けるためにハンガ設置補助工具10を回転させると、上述した垂直状態なる。この状態では、
図4に示すように、トロリ線5は、その両側溝が上方に位置する、略捻れのない状態となる。このように、本実施形態によれば、ハンガ設置補助工具10を設置する作業を行うことで、トロリ線5の捻れを簡単に矯正することもできる。
【0042】
次に、設置するハンガのハンガイヤーの位置にトロリ線5が位置するように、イヤースライド部50を操作して、棒状部材15に沿ってトロリ線挟持具20をスライドさせ、所望の位置で固定状態とする。このトロリ線5を所望の高さに位置させる作業では、イヤースライド部50を解放状態にしてから、作業員の肩で担いでイヤー部30により挟持されたトロリ線5を所望の位置まで押し上げ、イヤースライド部50を固定状態とすれば良い。
【0043】
このように、ハンガ設置補助工具10によりトロリ線5を所望の高さに吊り下げ、所望の姿勢を保持した状態を維持できる結果、作業員は、トロリ線5から肩を外した状態で、その後の作業、例えば、設置するハンガのハンガイヤーの取り付け作業を、両手を使って容易に行うことができ、ハンガ設置作業の作業性を格段に向上させることができる。
【0044】
以上、本実施形態について説明したが、本実施形態によれば、ハンガ設置補助工具10単体で、トロリ線5の捻れ解消と、トロリ線5の所望の高さへの引き上げを一緒に行うことができ、ハンガを設置する際の作業性を大きく向上させ、作業員への負担を大幅に軽減することができる。
【0045】
トロリ線5を所望の高さに位置させる際には、作業員は、握り部51を握ったり離したりするだけで、イヤースライド部50を棒状部材15に対して固定状態又はスライド状態に切り替えることができ、トロリ線5の高さ調整を容易に行うことができる。
【0046】
なお、本発明の実施の形態は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。例えば、本実施形態では、溝付きトロリ線に対して使用するハンガ設置補助工具について説明したが、溝の付いていないトロリ線に対して使用するハンガ設置補助工具としても良い。この場合には、トロリ線を挟持する部材の構成を適宜変更する必要がある。
【0047】
また、ハンガ設置補助工具を構成する部材の形状やサイズは適宜変更可能であり、上側握り部材としての上側握り板や下側握り部材としての下側握り板は平板形状ではなくても良い。また、握り板におけるスライド穴や連結穴の位置も適宜変更可能である。
【0048】
また、上記実施形態では、棒状部材としてネジ溝が刻まれた長ネジ棒を用いたが、ネジ溝の刻まれていない普通の棒状部材であっても良い。但し、握り部をスライド方向において固定するため、傾斜した握り板のスライド穴の縁がスライド方向において引っ掛かる引っ掛かり部が表面に形成された棒状部材であるのが望ましい。引っ掛かり部としては、例えば、鋸刃形状等の凹凸形状を棒状部材の表面に形成した構成や、ゴムシート等の高摩擦部材を棒状部材の表面に配置した構成を採用することができる。