(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
シリカ粒子、塩基性化合物、及び水溶性高分子化合物を含むシリコンウェーハ用研磨液組成物(以下、単に「研磨液組成物」と言う場合もある。)を用いて被研磨シリコンウェーハを研磨する最中、水溶性高分子化合物は、シリカ粒子と被研磨シリコンウェーハの両方に吸着することができる。その為、水溶性高分子化合物は、シリカ粒子を被研磨シリコンウェーハに近づけ、表面粗さ(ヘイズ)の悪化の原因となるシリカ粒子が直接被研磨シリコンウェーハに接触することを抑制し、且つ、表面粗さ(ヘイズ)の悪化の原因となる塩基性化合物によるウェーハ表面の腐食を抑制するように作用する。故に、水溶性高分子化合物は、研磨速度の向上、研磨されたシリコンウェーハの洗浄工程におけるパーティクル(シリカ粒子や研磨くず)の脱離性向上、及び表面粗さ(ヘイズ)の低減に寄与している。パーティクルの脱離性向上は、表面欠陥(LPD)の低減に寄与する。
【0013】
しかし、同組成の研磨液組成物を用いても、表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)がばらつくことがあった。本発明者は、このバラツキの原因を探求した結果、調製後14日以上経た、研磨液組成物の濃縮液を、希釈後2日以内に被研磨シリコンウェーハの研磨に使用すれば、前記研磨液組成物の性能が安定して発揮されて、シリコンウェーハ表面の表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)の低減が安定して可能となること(以下「本発明の安定化効果」という場合もある。)を見出した。
【0014】
表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)についてバラツキが生じる原因は明らかではないが、水溶性高分子化合物がシリカ粒子に吸着するためには前記濃縮液の調製後、所定の保存時間を必要とし、且つ、濃縮液の希釈後、所定の期間を経過すると、シリカ粒子へ水溶性高分子化合物が更に吸着して、水溶性高分子化合物のウェーハに対する上記作用が十分に発揮されないため、表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)のバラツキが生じると推察される。
【0015】
本発明の半導体基板の製造方法(以下「本発明の製造方法」と言う場合もある。)及び本発明の被研磨シリコンウェーハの研磨方法(以下「本発明の研磨方法」と言う場合もある。)は、各々、前記研磨液組成物を用いて被研磨シリコンウェーハを研磨する工程を含む。前記研磨液組成物は、シリカ粒子、水溶性高分子化合物、及び塩基性化合物を含む。
【0016】
[シリカ粒子(成分A)]
前記研磨液組成物には、研磨材としてシリカ粒子(成分A)が含まれる。シリカ粒子の具体例としては、コロイダルシリカ、フュームドシリカ等が挙げられるが、シリコンウェーハの表面平滑性を向上させる観点から、コロイダルシリカがより好ましい。
【0017】
シリカ粒子(成分A)の使用形態としては、操作性の観点からスラリー状が好ましい。本発明の製造方法及び本発明の研磨方法に含まれる研磨材がコロイダルシリカである場合、アルカリ金属やアルカリ土類金属等によるシリコンウェーハの汚染を防止する観点から、コロイダルシリカは、アルコキシシランの加水分解物から得たものであることが好ましい。アルコキシシランの加水分解物から得られるシリカ粒子は、従来から公知の方法によって作製できる。
【0018】
前記研磨液組成物に含まれるシリカ粒子(成分A)の平均一次粒子径は、本発明の安定化効果の観点から特に拘らないが、研磨速度の確保の観点から、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、更に好ましくは15nm以上であり、更により好ましくは20nm以上である。また、研磨速度の確保及び表面欠陥(LPD)の低減との両立の観点から、好ましくは50nm以下、より好ましくは45nm以下、更に好ましくは40nm以下である。
【0019】
特に、シリカ粒子(成分A)としてコロイダルシリカを用いた場合には、研磨速度の確保及びシリコンウェーハの表面欠陥(LPD)の低減の観点から、平均一次粒子径は、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、更に好ましくは15nm以上、更により好ましくは20nm以上であり、また、好ましくは50nm以下、より好ましくは45nm以下、更に好ましくは40nm以下である。
【0020】
シリカ粒子の平均一次粒子径は、BET(窒素吸着)法によって算出される比表面積S(m
2/g)を用いて算出される。比表面積は、例えば、実施例に記載の方法により測定できる。
【0021】
シリカ粒子の会合度は、研磨速度の確保及びシリコンウェーハの表面欠陥の低減の観点から、3.0以下が好ましく、2.5以下がより好ましく、2.3以下が更に好ましく、また、1.1以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、1.8以上が更に好ましい。シリカ粒子の形状はいわゆる球型といわゆるマユ型であることが好ましい。シリカ粒子がコロイダルシリカである場合、その会合度は、研磨速度の確保及び表面欠陥の低減の観点から、3.0以下が好ましく、2.5以下がより好ましく、2.3以下が更に好ましく、また、1.1以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、1.8以上が更に好ましい。
【0022】
シリカ粒子の会合度とは、シリカ粒子の形状を表す係数であり、下記式により算出される。平均二次粒子径は、動的光散乱法によって測定される値であり、例えば、実施例に記載の装置を用いて測定できる。
会合度=平均二次粒子径/平均一次粒子径
【0023】
シリカ粒子の会合度の調整方法としては、特に限定されないが、例えば、特開平6−254383号公報、特開平11−214338号公報、特開平11−60232号公報、特開2005−060217号公報、特開2005−060219号公報等に記載の方法を採用することができる。
【0024】
前記研磨液組成物の濃縮液に含まれるシリカ粒子(成分A)の含有量は、製造及び輸送コストを低くできる等の経済性の観点から、10000質量ppm以上が好ましく、より好ましくは30000質量ppm以上、更に好ましくは40000質量ppm以上である。また、濃縮液中におけるシリカ粒子の含有量は、保存安定性を向上させる観点から、400000質量ppm以下が好ましく、より好ましくは100000質量ppm以下、更に好ましくは80000質量ppm以下である。
【0025】
[水溶性高分子化合物(成分B)]
本発明の製造方法及び本発明の研磨方法で使用される研磨液組成物に含まれる水溶性高分子化合物(成分B)は、研磨速度の確保、シリコンウェーハの表面欠陥(LPD)及び表面粗さ(ヘイズ)の低減の観点から、例えば、下記一般式(1)で表される構成単位Iを75質量%以上含む水溶性高分子化合物A、又はヒドロキシエチルセルロース(HEC)を含有する。ただし、下記一般式(1)において、R
1は炭素数1〜2のヒドロキシアルキル基である。ヒドロキシエチルセルロース(HEC)及び水溶性高分子化合物Aのうち、シリコンウェーハの表面粗さ(ヘイズ)の低減の観点から、HECがより好ましい。
【化1】
【0026】
本発明の製造方法及び本発明の研磨方法で使用される水溶性高分子化合物(成分B)は、本発明の研磨実施濃度領域において溶解していれば特に溶解度は限定されないが、本発明において、水溶性高分子化合物の「水溶性」とは、水に対して0.5g/100ml以上の溶解度を有することをいい、好ましくは2g/100ml以上の溶解度を有することをいう。
【0027】
<水溶性高分子化合物A>
本発明の製造方法及び本発明の研磨方法で使用される研磨液組成物に含まれる水溶性高分子化合物(成分B)の一例である水溶性高分子化合物Aについて、「構成単位Iを75質量%以上含む」とは、水溶性高分子化合物Aの1分子中における前記構成単位Iの質量が、水溶性高分子化合物Aの重量平均分子量(Mw)の75%以上であることを意味する。また、本明細書において、水溶性高分子化合物Aを構成する全構成単位中に占める構成単位Iの含有量(質量%)として、合成条件によっては、水溶性高分子化合物の合成の全工程で反応槽に仕込まれた全構成単位を導入するための化合物中に占める前記反応槽に仕込まれた該構成単位Iを導入するための化合物量(質量%)から計算される値を使用してもよい。
【0028】
研磨速度の確保、シリコンウェーハの表面欠陥(LPD)及び表面粗さ(ヘイズ)の低減の観点から、上記一般式(1)において、R
1は、炭素数1〜2のヒドロキシアルキル基であり、より好ましくはヒドロキシエチル基である。
【0029】
一般式(1)で表される構成単位Iの供給源である単量体としては、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド(HEAA)またはN−ヒドロキシメチルアクリルアミド(HMAA)等のアクリルアミド誘導体であるが、これらは、1種単独または2種以上組み合わせて用いることができる。これらの単量体のなかでも、シリコンウェーハの表面欠陥(LPD)及び表面粗さ(ヘイズ)の低減の観点から、HEAAが好ましい。
【0030】
水溶性高分子化合物Aの全構成単位中における前記構成単位Iの割合は、シリコンウェーハの表面欠陥(LPD)及び表面粗さ(ヘイズ)の低減の観点から、75質量%以上であり、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、実質的に100質量%が更に好ましく、100質量%が更により好ましい。
【0031】
水溶性高分子化合物Aは、本発明の効果が奏される限りにおいて、前記構成単位I以外の構成単位を含んでいてもよい。構成単位I以外の構成単位(「構成単位II」ともいう。)を含む場合には、構成単位I以外の構成単位は、シリコンウェーハの表面欠陥(LPD)及び表面粗さ(ヘイズ)の低減の観点から、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)、アクリル酸(AA)、メタクリル酸(MAA)、ビニルピロリドン(VP)、ジメチルアクリルアミド(DMAA)及びジエチルアクリルアミド(DEAA)からなる群から選ばれる少なくとも一種のモノマーに由来する構成単位IIが好ましく、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)がより好ましい。
【0032】
尚、水溶性高分子化合物Aが、一般式(1)で表される構成単位Iと構成単位I以外の構成単位IIとを含む共重合体である場合、構成単位Iと構成単位IIの共重合体における構成単位の配列は、ブロックでもランダムでもよい。
【0033】
水溶性高分子化合物Aの具体例としては、HEAA単独重合体、HMAA単独重合体、HEAAとHMAAの共重合体、HEAAとNIPAMの共重合体、HMAAとNIPAMの共重合体、HEAAとHMAAとNIPAMの共重合体、HEAAとAAの共重合体、HEAAとMAAの共重合体、HEAAとVPの共重合体、HEAAとDMAAの共重合体、HEAAとDEAAの共重合体、HMAAとAAの共重合体、HMAAとMAAの共重合体、HMAAとVPの共重合体、HMAAとDMAAの共重合体、HMAAとDEAAの共重合体等のアクリルアミド誘導体に由来の構成単位を含む単独重合体又は共重合体が挙げられ、これらは1種単独又は2種以上用いられてもよいが、シリコンウェーハの表面欠陥の低減の観点から、HEAA単独重合体、HMAA単独重合体、HEAAとHMAAの共重合体、HEAAとNIPAMの共重合体、HMAAとNIPAMの共重合体、HEAAとHMAAとNIPAMの共重合体が好ましく、HEAA単独重合体、HMAA単独重合体、及びHEAAとHMAAの共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体がより好ましく、HEAA単独重合体が更に好ましい。
【0034】
水溶性高分子化合物Aの重量平均分子量は、シリコンウェーハの表面欠陥(LPD)及び表面粗さ(ヘイズ)の低減の観点から、5万以上が好ましく、10万以上がより好ましく、20万以上が更に好ましく、30万以上が更により好ましく、40万以上が更により好ましく、また、200万以下が好ましく、150万以下がより好ましく、100万以下が更に好ましく、90万以下が更により好ましく、80万以下が更により好ましい。水溶性高分子化合物Aの重量平均分子量は後の実施例に記載の方法により測定される。
【0035】
<ヒドロキシエチルセルロース(HEC)>
本発明の製造方法及び本発明の研磨方法で使用される研磨液組成物に含まれる水溶性高分子化合物(成分B)の一例であるヒドロキシエチルセルロース(HEC)は、セルロースを構造ユニットとして含有する水溶性高分子化合物(セルロース誘導体)である。
【0036】
HECの重量平均分子量は、シリコンウェーハの表面欠陥(LPD)及び表面粗さ(ヘイズ)の低減の観点から、10万以上が好ましく、20万以上がより好ましく、24万以上が更に好ましい。また、HECの重量平均分子量は、シリカ粒子の凝集抑制の観点から、150万以下が好ましく、110万以下がより好ましく、90万以下が更に好ましい。HECの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、実施例に記載の測定条件でポリエチレングリコールを標準として求めることができる。
【0037】
前記研磨液組成物の濃縮液に含まれる水溶性高分子化合物(成分B)の含有量は、製造及び輸送コストを低くできる等の経済性の観点から、500質量ppm以上が好ましく、1000質量ppm以上がより好ましく、4000質量ppm以上が更に好ましく、また、保存安定性の向上の観点から、50000質量ppm以下が好ましく、30000質量ppm以下がより好ましく、20000質量ppm以下が更に好ましく、15000質量ppm以下が更により好ましい。
【0038】
前記研磨液組成物の濃縮液に含まれる水溶性高分子化合物(成分B)とシリカ粒子(成分A)の質量比(水溶性高分子化合物の質量/シリカ粒子の質量)は、シリカ粒子の分散性向上の観点及びシリコンウェーハの表面欠陥の低減の観点から、0.005以上が好ましく、0.0075以上がより好ましく、0.009以上が更に好ましく、0.015以上が更により好ましく、また、1.0以下が好ましく、0.8以下がより好ましく、0.6以下が更に好ましく、0.4以下が更により好ましく、0.3以下が更により好ましい。
【0039】
[塩基性化合物(成分C)]
本発明の製造方法及び本発明の研磨方法で使用される研磨液組成物の濃縮液には、研磨液組成物の保存安定性の向上、研磨速度の確保、シリコンウェーハの表面欠陥(LPD)の低減の観点から、水溶性の塩基性化合物(成分C)が含まれる。
【0040】
水溶性の塩基性化合物(成分C)としては、アミン化合物及びアンモニウム化合物から選ばれる少なくとも1種類以上の含窒素塩基性化合物である。前記研磨液組成物の濃縮液に含まれる含窒素塩基性化合物(成分C)は、本発明の実施濃度領域において溶解していれば特にその溶解度は限定されないが、ここで、「水溶性」とは、水に対して0.5g/100ml以上の溶解度を有することをいい、好ましくは2g/100ml以上の溶解度を有することをいい、「水溶性の塩基性化合物」とは、水に溶解したとき、塩基性を示す化合物をいう。
【0041】
アミン化合物及びアンモニウム化合物から選ばれる少なくとも1種類以上の含窒素塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、水酸化アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N一メチルエタノールアミン、N−メチル−N,N一ジエタノ−ルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジブチルエタノールアミン、N−(β−アミノエチル)エタノ−ルアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン・六水和物、無水ピペラジン、1−(2−アミノエチル)ピペラジン、N−メチルピペラジン、ジエチレントリアミン、及び水酸化テトラメチルアンモニウムが挙げられる。これらの含窒素塩基性化合物は2種以上を混合して用いてもよい。前記研磨液組成物の濃縮液に含まれる含窒素塩基性化合物としては、シリコンウェーハの表面粗さ(ヘイズ)及び表面欠陥(LPD)の低減、前記研磨液組成物の濃縮液の保存安定性の向上、及び、研磨速度の確保の観点からアンモニアがより好ましい。
【0042】
前記研磨液組成物の濃縮液に含まれる塩基性化合物(成分C)の含有量は、製造及び輸送コストを低くできる等の経済性の観点から、1000質量ppm以上が好ましく、2000質量ppm以上がより好ましく、3000質量ppm以上が更に好ましい。また、前記濃縮液中における塩基性化合物の含有量は、保存安定性の向上の観点から50000質量ppm以下が好ましく、10000質量ppm以下がより好ましく、6000質量ppm以下が更に好ましい。
【0043】
[水系媒体]
前記研磨液組成物の濃縮液に含まれる水系媒体としては、イオン交換水や超純水等の水、又は水と溶媒との混合媒体等が挙げられ、上記溶媒としては、水と混合可能な溶媒(例えば、エタノール等のアルコール)が好ましい。水系媒体としては、なかでも、シリコンウェーハの表面欠陥(LPD)及び表面粗さ(ヘイズ)の低減の観点から、イオン交換水又は超純水がより好ましく、超純水が更に好ましい。前記水系媒体が、水と溶媒との混合媒体である場合、混合媒体全体に対する水の割合は、本発明の効果が妨げられなければ、特に限定されるわけではないが、経済性の観点から、95質量%以上が好ましく、98質量%以上がより好ましく、実質的に100質量%が更に好ましく、100質量%が更により好ましい。
【0044】
前記研磨液組成物の濃縮液に含まれる水系媒体の含有量は、特に限定されるわけではなく、シリカ粒子、水溶性高分子、塩基性化合物、及び後述する任意成分の残余であってよい。
【0045】
前記研磨液組成物の濃縮液の25℃におけるpHは、表面粗さ(ヘイズ)の低減の観点から、8以上が好ましく、9以上がより好ましく、10以上が更に好ましく、また、13以下が好ましく、12以下がより好ましく、11以下が更に好ましい。pHの調整は、pH調整剤(例えば、アンモニア)を適宜添加して行うことができる。ここで、25℃におけるpHは、pHメータ(東亜電波工業株式会社、HM−30G)を用いて測定でき、電極の研磨液組成物への浸漬後1分後の数値である。
【0046】
[ポリオキシアルキレン化合物(成分D)]
本発明の研磨液組成物は、更にポリオキシアルキレン化合物を含んでいてもよい。ポリオキシアルキレン化合物は、被研磨シリコンウェーハに吸着する。その為、ポリオキシアルキレン化合物は、塩基性化合物によるウェーハ表面の腐食を抑制しつつ、ウェーハ表面に濡れ性を付与することにより、ウェーハ表面の乾燥により生じると考えられるウェーハ表面へのパーティクルの付着を抑制するよう作用する。また、研磨されたシリコンウェーハの洗浄工程において、ポリオキシアルキレン化合物が、シリカ粒子とシリコンウェーハとの間におこる相互作用を弱める。したがって、ポリオキシアルキレン化合物は、水溶性高分子化合物と相まって、表面粗さ(ヘイズ)と表面欠陥(LPD)の低減を増進するものと考えられる。
【0047】
前記研磨液組成物の濃縮液には、シリコンウェーハの表面欠陥(LPD)及び表面粗さ(ヘイズ)の低減の観点から、助剤としてポリオキシアルキレン化合物(成分D)が含まれていてもよい。ポリオキシアルキレン化合物(成分D)は、多価アルコールアルキレンオキシド付加物であり、多価アルコールにエチレンオキシドやプロピレンオキシド等のアルキレンオキシドを付加重合させて得られる多価アルコール誘導体である。ポリオキシアルキレン化合物は、エチレンオキシ基及びプロピレンオキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種のアルキレンオキシド基を含む。
【0048】
ポリオキシアルキレン化合物(成分D)の元(原料)となる多価アルコールの水酸基数は、シリコンウェーハ表面へのポリオキシアルキレン化合物の吸着強度を高める観点、シリコンウェーハの表面欠陥(LPD)及び表面粗さ(ヘイズ)の低減の観点から、2個以上が好ましく、研磨速度の確保の観点から、10個以下が好ましく、8個以下がより好ましく、6個以下が更に好ましく、4個以下が更により好ましい。
【0049】
ポリオキシアルキレン化合物(成分D)は、具体的には、ポリエチレングリコール(PEG)及びポリプロピレングリコール等のエチレングリコールアルキレンオキシド付加物、グリセリンアルキレンオキシド付加物、ペンタエリスリトールアルキレンオキシド付加物等が挙げられるが、これらの中でも、エチレングリコールアルキレンオキシド付加物が好ましい。
【0050】
ポリオキシアルキレン化合物(成分D)は、エチレンオキシ基(EO)及びプロピレンオキシ基(PO)からなる群から選ばれる少なくとも1種のアルキレンオキシド基を含むが、シリコンウェーハの表面欠陥(LPD)及び表面粗さ(ヘイズ)の低減の観点から、ポリオキシアルキレン化合物に含まれるアルキレンオキシド基は、EO及びPOからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルキレンオキシド基からなると好ましく、EOからなるとより好ましい。ポリオキシアルキレン化合物が、EOとPOの両方を含む場合、EOとPOの配列はブロックでもランダムでもよい。
【0051】
ポリオキシアルキレン化合物(成分D)の重量平均分子量は、ポリオキシアルキレン化合物の被研磨シリコンウェーハへの吸着量を増大させて、表面粗さ(ヘイズ)を低減する観点から、500以上が好ましく、700以上がより好ましく、900以上が更に好ましく、水溶性高分子のシリカ粒子への吸着量を増大させて、表面粗さ(ヘイズ)を低減する観点から、25万以下が好ましく、10万以下がより好ましく、2万以下が更に好ましく、1万以下が更により好ましい。ポリオキシアルキレン化合物の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法を下記の条件で適用して得たクロマトグラム中のピークに基づき算出できる。
〈測定条件〉
装置:HLC-8320 GPC(東ソー株式会社、検出器一体型)
カラム:GMPWXL+GMPWXL(アニオン)
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/CH
3CN=9/1
流量:0.5ml/min
カラム温度:40℃
検出器:RI 検出器
標準物質:重量平均分子量が既知の単分散ポリエチレングリコール
【0052】
前記研磨液組成物の濃縮液に含まれるポリオキシアルキレン化合物(成分D)の含有量は、製造及び輸送コストを低くできる等の経済性の観点から、5質量ppm以上が好ましく、10質量ppm以上がより好ましく、15質量ppm以上が更に好ましく、また、保存安定性の向上の観点から、5000質量ppm以下が好ましく、3000質量ppm以下がより好ましく、1500質量ppm以下が更に好ましく、1000質量ppm以下が更により好ましく、250質量ppm以下が更により好ましい。
【0053】
前記研磨液組成物の濃縮液に含まれるポリオキシアルキレン化合物(成分D)とシリカ粒子(成分A)の質量比(ポリオキシアルキレン化合物の質量/シリカ粒子の質量)は、シリコンウェーハの表面欠陥(LPD)及び表面粗さ(ヘイズ)の低減の観点から、0.00004以上が好ましく、0.0012以上がより好ましく、0.002以上が更に好ましく、また、0.02以下が好ましく、0.0080以下がより好ましく、0.0072以下が更に好ましい。
【0054】
前記研磨液組成物の濃縮液に含まれる水溶性高分子化合物(成分B)とポリオキシアルキレン化合物(成分D)の質量比(水溶性高分子化合物の質量/ポリオキシアルキレン化合物の質量)は、シリコンウェーハの表面欠陥(LPD)及び表面粗さ(ヘイズ)の低減の観点から、1以上が好ましく、3以上がより好ましく、5以上が更に好ましく、また、500以下が好ましく、200以下がより好ましく、100以下が更に好ましく、60以下が更により好ましく、40以下が更により好ましい。
【0055】
[その他の任意成分]
前記研磨液組成物の濃縮液には、本発明の効果が妨げられない範囲で、ポリオキシアルキレン化合物(成分D)以外の任意成分として、更に前記水溶性高分子以外の水溶性高分子化合物、pH調整剤、防腐剤、アルコール類、キレート剤及びノニオン性界面活性剤から選ばれる少なくとも1種の任意成分が含まれてもよい。
【0056】
〈防腐剤〉
防腐剤としては、ベンザルコニウムクロライド、ベンゼトニウムクロライド、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、(5−クロロ−)2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、過酸化水素、又は次亜塩素酸塩等が挙げられる。
【0057】
〈アルコール類〉
アルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、2−メチル−2−プロパノオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。アルコール類の含有量は、前記研磨液組成物の濃縮液を希釈して得られる希釈液において、0.1〜5質量%であると好ましい。
【0058】
〈キレート剤〉
キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウム等が挙げられる。キレート剤の含有量は、前記研磨液組成物の濃縮液を希釈して得られる希釈液において、0.01〜1質量%であると好ましい。
【0059】
〈非イオン性界面活性剤〉
非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレン(硬化)ヒマシ油等のポリエチレングリコール型と、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリンアルキルエーテル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、アルキルグリコシド等の多価アルコール型及び脂肪酸アルカノールアミド等が挙げられる。
【0060】
次に、前記研磨液組成物の濃縮液の調製方法の一例について説明する。
【0061】
前記研磨液組成物の濃縮液の調製方法は、何ら制限されず、前記研磨液組成物の濃縮液は、例えば、水溶性高分子化合物(成分B)と塩基性化合物(成分C)とシリカ粒子(成分A)と水系媒体と、必要に応じて任意成分とを混合することによって調製できる。
【0062】
シリカ粒子(成分A)の水系媒体への分散は、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、超音波分散機、湿式ボールミル、又はビーズミル等の撹拌機等を用いて行うことができる。シリカ粒子の凝集等により生じた粗大粒子が水系媒体中に含まれる場合、遠心分離やフィルターを用いたろ過等により、当該粗大粒子を除去すると好ましい。シリカ粒子(成分A)の水系媒体への分散は、水溶性高分子化合物(成分B)の存在下で行うと好ましい。
【0063】
本発明の製造方法及び本発明の研磨方法では、研磨液組成物の濃縮液を調製した後、当該濃縮液を、所定の保存時間、保存してから、前記濃縮液を、水系媒体で所定の希釈倍率で希釈し、得られた希釈液(研磨液組成物)を所定の時間以内に被研磨シリコンウェーハの研磨に使用する。
【0064】
前記研磨液組成物の濃縮液は、表面粗さ(ヘイズ)の低減の観点から、可能なかぎり空気及び光が入らないように容器に充填された状態で保存されると好ましい。また、研磨液組成物の濃縮液を保存する雰囲気の温度は、1℃〜45℃であると好ましい。
【0065】
研磨液組成物の濃縮液の前記保存時間は、シリコンウェーハの表面欠陥(LPD)及び表面粗さ(ヘイズ)の安定した低減を可能とする観点から、14日(14日±6時間)以上、好ましくは21日(21日±6時間)以上、より好ましくは30日(30日±6時間)以上であり、720日(720日±6時間)以下、好ましくは360日(360±6時間)以下、より好ましくは180日(180日±6時間)以下である。尚、前記「保存時間」は、前記濃縮液の構成成分を混合し終わった時点からカウントされ、当該時点から、希釈が開始される前までに経過した時間である。従って、前記「保存時間」は、倉庫等で保存されている時間のみならず、輸送等が行われている場合は当該輸送時間も含む。
【0066】
希釈液(研磨液組成物)が被研磨シリコンウェーハの研磨に使用されるまでの前記所定の時間は、シリコンウェーハの表面欠陥(LPD)及び表面粗さ(ヘイズ)の安定した低減を可能とする観点から、2日(2日±6時間)以下、好ましくは1日(1日±6時間)以下であるが、希釈液は、調製直後、即ち、水系媒体に濃縮液を添加し、濃度が均一になるまでこれらを十分に撹拌することにより希釈液を得た直後に使用されるのがより好ましい。尚、希釈液(研磨液組成物)が被研磨シリコンウェーハの研磨に使用されるまでの前記「所定の時間」は、希釈液の調製直後からカウントされ、当該時点から研磨機に供給されるまでに経過した時間である。
【0067】
前記希釈倍率は、濃縮液の製造及び輸送コストを低くできる等の経済性の観点から、2倍以上が好ましく、10倍以上がより好ましく、20倍以上が更に好ましく、30倍以上が更により好ましく、また、100倍以下が好ましく、80倍以下がより好ましく、70倍以下が更に好ましく、50倍以下が更により好ましい。
【0068】
前記希釈液に含まれるシリカ粒子(成分A)の含有量は、研磨速度の確保の観点から、500質量ppm以上が好ましく、700質量ppm以上がより好ましく、900質量ppm以上が更に好ましい。また、経済性及び研磨液組成物の保存安定性の向上の観点から100000質量ppm以下が好ましく、75000質量ppm%以下がより好ましく、50000質量ppm以下が更に好ましく、10000質量ppm以下が更により好ましく、5000質量ppm以下が更により好ましい。
【0069】
前記希釈液に水溶性高分子化合物(成分B)の含有量は、シリコンウェーハの表面欠陥(LPD)及び表面粗さ(ヘイズ)の低減の観点から、60質量ppm以上であり、70質量ppm以上が好ましく、80質量ppm以上がより好ましく、520質量ppm以下であり、300質量ppm以下が好ましく、250質量ppm以下がより好ましく、200質量ppm以下が更に好ましい。
【0070】
前記希釈液に含まれる塩基性化合物(成分C)の含有量は、シリコンウェーハの表面欠陥の低減、研磨液組成物の保存安定性の向上、及び研磨速度の確保の観点から、60質量ppm以上であり、70質量ppm以上が好ましく、80質量ppm以上がより好ましく、100質量ppm以上が更に好ましい。また、300質量ppm以下であり、250質量ppm以下が好ましく、200量ppm以下がより好ましく、175質量ppm以下が更に好ましく、150質量ppm以下が更により好ましい。
【0071】
前記希釈液にポリオキシアルキレン化合物(成分D)が含まれる場合、ポリオキシアルキレン化合物(成分D)の含有量は、シリコンウェーハの表面欠陥(LPD)及び表面粗さ(ヘイズ)の低減の観点から、0.4質量ppm以上が好ましく、0.5質量ppm以上がより好ましく、0.8質量ppm以上が更に好ましく、また、保存安定性の向上の観点から、100質量ppm以下が好ましく、50質量ppm以下がより好ましく、25質量ppm以下が更に好ましく、10質量ppm以下が更により好ましい。
【0072】
前記希釈液は、研磨速度の確保、シリコンウェーハの表面欠陥(LPD)及び表面粗さ(ヘイズ)の低減、及び研磨液組成物の保存安定性の向上の観点から、成分Aを900質量ppm以上5000質量ppm以下の濃度で含み、成分Bを60質量ppm以上520質量ppm以下の濃度で含み、成分Cを60質量ppm以上300質量ppm以下の濃度で含むと好ましい。前記希釈液に成分Dが含まれる場合、前記希釈液は、成分Aを900質量ppm以上5000質量ppm以下の濃度で含み、成分Bを60質量ppm以上520質量ppm以下の濃度で含み、成分Cを60質量ppm以上300質量ppm以下の濃度で含み、成分Dを0.8質量ppm以上10質量ppm以下の濃度で含むと好ましい。
【0073】
前記希釈液の25℃におけるpHは、研磨速度の確保の観点から、8.0以上が好ましく、9.0以上がより好ましく、10以上が更に好ましく、また、12.0以下が好ましく、11.5以下がより好ましく、11.0以下が更に好ましい。25℃における前記希釈液のpHは、pHメータ(東亜電波工業株式会社、HM−30G)を用いて測定でき、電極の研磨液組成物への浸漬後1分後の数値である。
【0074】
前記被研磨シリコンウェーハを研磨する工程には、シリコン単結晶インゴットを薄円板状にスライスすることにより得られたシリコンウェーハを平坦化するラッピング(粗研磨)工程と、ラッピングされたシリコンウェーハをエッチングした後、シリコンウェーハ表面を鏡面化する仕上げ研磨工程とがある。本発明の研磨液組成物は、上記仕上げ研磨工程で用いられるとより好ましい。
【0075】
前記被研磨シリコンウェーハを研磨する工程では、例えば、研磨パッドを貼り付けた定盤で被研磨シリコンウェーハを挟み込み、3〜20kPaの研磨圧力で被研磨シリコンウェーハを研磨する。
【0076】
上記研磨圧力とは、研磨時に被研磨シリコンウェーハの被研磨面に加えられる定盤の圧力をいう。研磨圧力は、研磨速度を向上させ経済的に研磨を行う観点から、3kPa以上が好ましく、4kPa以上がより好ましく、5kPa以上が更に好ましく、5.5kPa以上が更により好ましい。また、表面品質を向上させ、且つ研磨物の残留応力を緩和する観点から、研磨圧力は、20kPa以下が好ましく、より好ましくは18kPa以下、更に好ましくは16kPa以下である。
【0077】
本発明の製造方法及び本発明の研磨方法では、前記被研磨シリコンウェーハを研磨する工程の前に、前記研磨液組成物の濃縮液を希釈する希釈工程を含む。希釈媒体には、前記水系媒体を用いればよい。
【0078】
本発明の製造方法及び本発明の研磨方法は、前記研磨液組成物(希釈液)を用いて被研磨シリコンウェーハを研磨する工程の後に、研磨された被研磨シリコンウェーハを洗浄する工程を更に含む。
【実施例】
【0079】
(水溶性高分子化合物)
[HEAA単独重合体]
下記の実施例2〜6、8、比較例1及び3で用いた水溶性高分子化合物は下記のようにして合成した。
【0080】
ヒドロキシエチルアクリルアミド150 g(1.30 mol 興人製)を100 gのイオン交換水に溶解し、モノマー水溶液を調製した。また、別に、2,2’-アゾビス(2‐メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド 0.035g(重合開始剤、V-50 1.30 mmol 和光純薬製)を70 gのイオン交換水に溶解し、重合開始剤水溶液を調製した。ジムロート冷却管、温度計及び三日月形テフロン製撹拌翼を備えた2Lセパラブルフラスコに、イオン交換水1180 gを投入した後、セパラブルフラスコ内を窒素置換した。次いで、オイルバスを用いてセパラブルフラスコ内の温度を68℃に昇温した後、予め調製した上記モノマー水溶液と上記重合開始剤水溶液を各々3.5時間かけて撹拌を行っているセパラブルフラスコ内に滴下した。滴下終了後、反応溶液の温度及び撹拌を4時間保持し、無色透明の10質量%ポリヒドロキシエチルアクリルアミド(HEAAの単独重合体(重量平均分子量:720000)水溶液1500 gを得た。
【0081】
下記の実施例1、比較例2では、水溶性高分子化合物として、ヒドロキシエチルセルロース(HEC、重量平均分子量25万)を、実施例7では、水溶性高分子化合物として、ヒドロキシエチルセルロース(HEC、重量平均分子量80万)を用いた。
【0082】
〈水溶性高分子化合物の重合平均分子量の測定〉
水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法を下記の条件で適用して得たクロマトグラム中のピークに基づき算出した。尚、HECの重量平均分子量はカタログ値である。
〈測定条件〉
装置:HLC-8320 GPC(東ソー株式会社、検出器一体型)
カラム:GMPWXL+GMPWXL(アニオン)
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/CH
3CN=9/1
流量:0.5ml/min
カラム温度:40℃
検出器:RI 検出器
標準物質:重量平均分子量が既知の単分散ポリエチレングリコール
【0083】
〈水溶性の測定〉
各水溶性高分子化合物の水溶性は、0.5g/100mlの水溶性高分子化合物水溶液を調整し、下記の評価方法に従って目視で状態を確認した。
(評価方法)
(1)スクリュー管に約90mlの水を注ぎ、室温で攪拌を開始する。
(2)0.5gの水溶性高分子化合物をスクリュー管に計量し投入する。
(3)室温で3時間攪拌した後に、70度まで昇度し更に3時間攪拌する。
(4)室温まで冷却した後に、水を添加し100mlとする。
(5)目視で水溶液の状態を確認する。透明であれば、水溶性化合物である。
今回用いた水溶性高分子化合物は全て0.5重量%で透明であり、本発明において水溶性であると判断した。
【0084】
<研磨材(シリカ粒子)の平均一次粒子径の測定>
研磨材の平均一次粒子径(nm)は、BET(窒素吸着)法によって算出される比表面積S(m
2/g)を用いて下記式で算出した。
平均一次粒子径(nm)=2727/S
【0085】
研磨材の比表面積は、下記の[前処理]をした後、測定サンプル約0.1gを測定セルに小数点以下4桁まで精量し、比表面積の測定直前に110℃の雰囲気下で30分間乾燥した後、比表面積測定装置(マイクロメリティック自動比表面積測定装置 フローソーブ
III2305、島津製作所製)を用いて窒素吸着法(BET法)により測定した。
【0086】
[前処理]
(a)スラリー状の研磨材を硝酸水溶液でpH2.5±0.1に調整する。
(b)pH2.5±0.1に調整されたスラリー状の研磨材をシャーレにとり150℃の熱風乾燥機内で1時間乾燥させる。
(c)乾燥後、得られた試料をメノウ乳鉢で細かく粉砕する。
(d)粉砕された試料を40℃のイオン交換水に懸濁させ、孔径1μmのメンブランフィルターで濾過する。
(e)フィルター上の濾過物を20gのイオン交換水(40℃)で5回洗浄する。
(f)濾過物が付着したフィルターをシャーレにとり、110℃の雰囲気下で4時間乾燥させる。
(g)乾燥した濾過物(砥粒)をフィルター屑が混入しないようにとり、乳鉢で細かく粉砕して測定サンプルを得た。
【0087】
<研磨材(シリカ粒子)の平均二次粒子径>
研磨材の平均二次粒子径(nm)は、研磨材の濃度が0.25質量%となるように研磨材をイオン交換水に添加した後、得られた水分散液をDisposable Sizing Cuvette(ポリスチレン製 10mmセル)に下底からの高さ10mmまで入れ、動的光散乱法(装置名:ゼータサイザーNano ZS、シスメックス(株)製)を用いて測定した。
【0088】
(1)濃縮研磨液組成物の調製方法
イオン交換水に対し、シリカ粒子(コロイダルシリカ、平均一次粒子径35nm、平均二次粒子径67nm、会合度1.9)、28質量%アンモニア水(キシダ化学(株)試薬特級)、水溶性高分子化合物としてHEAA単独重合体又はHEC、及び必要に応じてポリオキシアルキレン化合物としてPEG(重量平均分子量6000又は1000、和光純薬工業)を添加し、これらを30分間攪拌混合して、実施例1〜8、比較例1〜3の濃縮研磨液組成物(pH10.6±0.1(25℃))を得た。表1には、各濃縮研磨液組成物をイオン交換水で40倍に記載した時の各成分の含有量を記載している。研磨液組成物における、シリカ粒子、水溶性高分子化合物、ポリオキシアルキレン化合物、アンモニアを除いた残余の成分はイオン交換水である。
【0089】
(2)研磨方法
(2−1)濃縮研磨液組成物の保存時間が及ぼすシリコンウェーハ表面への影響
濃縮研磨液組成物の調製後、直ちに、濃縮研磨液組成物を、5L成型液体容器フジテーナー(登録商標)(藤森工業社製)に空気が入らいないように充填し、室温下(20〜25度)で所定時間保存した後、濃縮研磨液組成物を40倍に希釈して希釈研磨液組成物を得た。具体的には、濃縮研磨液組成物とイオン交換水との体積比が1:39(イオン交換水:濃縮研磨液組成物)となるように、濃縮研磨液組成物をイオン交換水に添加し、これらの濃度が均一になるまでこれらを十分に撹拌(例えば5分間撹拌)することにより希釈研磨液組成物を得た。尚、表1中の記載「濃縮研磨液組成物の調製直後からの日数(時間)」は、前記「保存時間」であり、濃縮研磨液組成物の構成成分の濃度が均一になるまで十分に攪拌(例えば30分間撹拌)し終わった時点からカウントした。
【0090】
濃縮研磨液組成物の希釈後すぐに、得られた希釈研磨液組成物を用いて下記の研磨条件((2−3)仕上げ研磨条件)で、シリコンウェーハ(直径200mmのシリコン片面鏡面ウェーハ、伝導型:P、結晶方位:100、抵抗率0.1Ω・cm以上100Ω・cm未満)に対して仕上げ研磨を行った。当該仕上げ研磨に先立ってシリコンウェーハに対して市販の研磨剤組成物を用いてあらかじめ粗研磨を実施した。粗研磨を終了したシリコンウェーハの表面粗さ(ヘイズ)は、2.680ppbであった。
【0091】
(2−2)希釈研磨液組成物の所定の時間の保存が及ぼすシリコンウェーハ表面への影響
濃縮研磨液組成物の調製後、直ちに、濃縮研磨液組成物を、5L成型液体容器フジテーナー(登録商標)(藤森工業社製)に空気が入らいないように充填し、室温(20〜25度)で14日間保存した後、濃縮研磨液組成物を40倍に希釈して希釈研磨液組成物を得た。具体的には、濃縮研磨液組成物とイオン交換水との体積比が1:39(イオン交換水:濃縮研磨液組成物)となるように、濃縮研磨液組成物をイオン交換水に添加し、これらの濃度が均一になるまでこれらを十分に撹拌(例えば5分間撹拌)することにより希釈研磨液組成物を得た。得られた希釈研磨液組成物を表1に示す様に所定の期間保存した後、直ちに、当該希釈研磨液組成物を、下記の研磨条件((2−3)仕上げ研磨条件)の、シリコンウェーハ(直径200mmのシリコン片面鏡面ウェーハ、伝導型:P、結晶方位:100、抵抗率0.1Ω・cm以上100Ω・cm未満)の仕上げ研磨に用いた。当該仕上げ研磨に先立ってシリコンウェーハに対して市販の研磨剤組成物を用いてあらかじめ粗研磨を実施した。粗研磨を終了したシリコンウェーハの表面粗さ(ヘイズ)は、2.680ppbであった。尚、表1中の「希釈してからの日数(時間)」は、上記のとおり希釈研磨液組成物を得た直後から研磨機に供給されるまでに経過した時間(「所定の時間」)である。
【0092】
(2−3)仕上げ研磨条件
研磨機:片面8インチ研磨機GRIND-X SPP600s(岡本工作製)
研磨パッド:スエードパッド(東レ コーテックス社製 アスカー硬度64 厚さ 1.37mm ナップ長450um 開口径60um)
ウェーハ研磨圧力:100g/cm
2
定盤回転速度:60rpm
研磨時間:10分
研磨剤組成物の供給速度:200ml/min
研磨剤組成物の温度:20℃
キャリア回転速度:60rpm
【0093】
(3)洗浄方法
仕上げ研磨後、シリコンウェーハに対して、オゾン洗浄と希フッ酸洗浄を下記のとおり行った。オゾン洗浄では、20ppmのオゾンを含んだ純水をノズルから流速1L/minで600rpmで回転するシリコンウェーハの中央に向かって3分間噴射した。このときオゾン水の温度は常温とした。次に希フッ酸洗浄を行った。希フッ酸洗浄では、0.5%のフッ化水素アンモニウム(特級:ナカライテクス株式会社)を含んだ純水をノズルから流速1L/minで600rpmで回転するシリコンウェーハの中央に向かって6秒間噴射した。上記オゾン洗浄と希フッ酸洗浄を1セットとして計2セット行い、最後にスピン乾燥を行った。スピン乾燥では1500rpmでシリコンウェーハを回転させた。
【0094】
(4)シリコンウェーハ表面の表面欠陥(LPD)及び表面粗さ(ヘイズ)の評価
洗浄後のシリコンウェーハ表面の表面粗さ(ヘイズ)は、表面粗さ測定装置「Surfscan SP1」(KLA Tencor社製)を用いて測定される、暗視野ワイド斜入射チャンネル(DWO)の値を用いた。また、表面欠陥(LPD)はHaze測定時に同時に測定され、シリコンウェーハ表面上の粒径が50nm以上のパーティクル数を測定することによって評価した。表面欠陥(LPD)の数値が小さいほど表面欠陥が少ないことを示す。また、Haze(DWO)の数値が小さいほど表面の平滑性が高いことを示す。尚、濃縮研磨液組成物の保存時間が及ぼすシリコンウェーハ表面への影響を評価するにあたり、調製後30日経た濃縮研磨液組成物を希釈して直ぐに研磨に使用した場合の表面欠陥(LPD)及びHaze(DWO)の値を1.0(基準値)とし、下記評価基準により、表面欠陥(LPD)及び表面粗さ(ヘイズ)の相対評価を行った。また、希釈研磨液組成物の所定の時間の保存が及ぼすシリコンウェーハ表面への影響を評価するにあたり、調製後14日経た濃縮研磨液組成物を希釈して得た希釈研磨液組成物を直ぐに研磨に使用した場合の表面欠陥(LPD)及びHaze(DWO)の値を1.0(基準値)とし、下記評価基準により、表面欠陥(LPD)及び表面粗さ(ヘイズ)の相対評価を行った。
【0095】
<評価基準>
○:測定値が基準値1.0に対して、+20%以下
△:測定値が基準値1.0に対して、20%を超え200%以下
×:測定値が基準値1.0に対して、200%を超える
【0096】
【表1】
【0097】
表1に示されるように、調製後、14日以上経過した濃縮研磨液組成物を用いた場合、保存時間が14日未満の濃縮研磨液組成物を用いた場合よりも、研磨されたシリコンウェーハの表面欠陥(LPD)及び表面粗さ(ヘイズ)は小さい。また、表1に示されるように、調製後14日以上経た濃縮研磨液組成物を、希釈後2日以内にシリコンウェーハの研磨に使用した場合、希釈後2日を超えた後にシリコンウェーハの研磨に使用する場合よりも、研磨されたシリコンウェーハの表面欠陥(LPD)及び表面粗さ(ヘイズ)は小さい。