特許第6265555号(P6265555)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6265555カーボン部材、カーボン部材の製造方法、レドックスフロー電池および燃料電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6265555
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】カーボン部材、カーボン部材の製造方法、レドックスフロー電池および燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/96 20060101AFI20180115BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20180115BHJP
   H01M 8/18 20060101ALI20180115BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20180115BHJP
【FI】
   H01M4/96 B
   H01M4/96 H
   H01M4/96 M
   H01M4/88 C
   H01M8/18
   !H01M8/10 101
【請求項の数】14
【全頁数】42
(21)【出願番号】特願2015-511238(P2015-511238)
(86)(22)【出願日】2014年4月4日
(86)【国際出願番号】JP2014059961
(87)【国際公開番号】WO2014168081
(87)【国際公開日】20141016
【審査請求日】2017年2月9日
(31)【優先権主張番号】特願2013-82949(P2013-82949)
(32)【優先日】2013年4月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100146879
【弁理士】
【氏名又は名称】三國 修
(72)【発明者】
【氏名】飯野 匡
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 俊也
【審査官】 守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−205901(JP,A)
【文献】 特開2006−079856(JP,A)
【文献】 特開2004−055271(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/165492(WO,A1)
【文献】 特開2008−091097(JP,A)
【文献】 特表2008−544444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86、4/88、4/96
H01M 8/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂を含み、230℃において荷重2.16kgで測定したメルトフローレートが0.01〜10g/10minである第1樹脂組成物100質量部と、第1炭素質材料100〜1000質量部とを含む第1層と、
前記第1層の少なくとも一方の主面に接して配置され、ポリオレフィン系樹脂を含み、前記メルトフローレートが5〜1000g/10minであって前記第1樹脂組成物より大きく、融点が80℃以上であって前記第1樹脂組成物より10℃以上低い第2樹脂組成物100質量部と、第2炭素質材料100〜1000質量部とを含む第2層と、
前記第2層を介して前記第1層に対向配置された嵩密度60〜800kg/mの多孔質炭素材料からなる第3層とが、溶着されて一体化されていることを特徴とするカーボン部材。
【請求項2】
前記第1炭素質材料および/または前記第2炭素質材料が、平均繊維径0.01〜0.3μmの炭素繊維を1〜50質量%含むものであることを特徴とする請求項1に記載のカーボン部材。
【請求項3】
前記多孔質炭素材料が、平均繊維径0.01〜0.3μmの炭素繊維からなるものであることを特徴とする請求項1に記載のカーボン部材。
【請求項4】
前記第1炭素質材料および/または前記第2炭素質材料が、ホウ素を0.01〜4質量%含むものであることを特徴とする請求項1に記載のカーボン部材。
【請求項5】
前記第1樹脂組成物が、ポリプロピレン樹脂10〜99質量%と、スチレン系熱可塑性エラストマー1〜40質量%とを含むものであることを特徴とする請求項1に記載のカーボン部材。
【請求項6】
前記第2樹脂組成物が、
(a)主たるモノマー単位であるプロピレン単位にエチレン単位が共重合されてなるプロピレンエチレン共重合体、
(b)主たるモノマー単位であるエチレン単位に、炭素数3〜10のα−オレフィン単位が共重合されてなるエチレン系共重合体、または、
(c)主たるモノマー単位である1−ブテン単位に、炭素数2〜10のα−オレフィン(ただし1−ブテンを除く)が共重合されてなるポリブテン系樹脂から選ばれる少なくともいずれかのα−オレフィン重合体を10〜100質量%含むものであることを特徴とする請求項1に記載のカーボン部材。
【請求項7】
前記第2樹脂組成物が、アタクチックポリプロピレンを2〜40質量%、粘着付与樹脂を1〜30質量%及びスチレン系熱可塑性エラストマーを0.5〜40質量%含有するものであることを特徴とする請求項1に記載のカーボン部材。
【請求項8】
前記多孔質炭素材料が、炭素繊維からなる不織布であり、該炭素繊維同士の接触部の少なくとも一部が炭化して結合していることを特徴とする請求項1に記載のカーボン部材。
【請求項9】
ポリオレフィン系樹脂を含み、230℃において荷重2.16kgで測定したメルトフローレートが0.01〜10g/10minである第1樹脂組成物100質量部と、第1炭素質材料100〜1000質量部とを含む第1層と、
ポリオレフィン系樹脂を含み、前記メルトフローレートが5〜1000g/10minであって前記第1樹脂組成物より大きく、融点が80℃以上であって前記第1樹脂組成物より10℃以上低い第2樹脂組成物100質量部と、第2炭素質材料100〜1000質量部とを含む第2層とを共押出成形して、前記第1層の少なくとも一方の主面に接して前記第2層が配置され、前記第1層と前記第2層とが一体化されてなる積層体を形成する工程と、
前記積層体の前記第1層に、嵩密度60〜800kg/mの多孔質炭素材料からなる第3層を、前記第2層を介して対向配置し、前記第2層の融点以上の温度で前記第2層に前記第3層を溶着する工程とを備えることを特徴とするカーボン部材の製造方法。
【請求項10】
ポリオレフィン系樹脂を含み、230℃において荷重2.16kgで測定したメルトフローレートが0.01〜10g/10minである第1樹脂組成物100質量部と、第1炭素質材料100〜1000質量部とを含む第1層を押出成形する第1成形工程と、
ポリオレフィン系樹脂を含み、前記メルトフローレートが5〜1000g/10minであって前記第1樹脂組成物より大きく、融点が80℃以上であって前記第1樹脂組成物より10℃以上低い第2樹脂組成物100質量部と、第2炭素質材料100〜1000質量部とを含む第2層を押出成形する第2成形工程と、
前記第1層の少なくとも一方の主面に接して前記第2層を配置して、前記第1層および前記第2層の融点以上の温度で、前記第1層に前記第2層を溶着し、前記第1層と前記第2層とが一体化されてなる積層体を形成する工程と、
前記積層体の前記第1層に、嵩密度60〜800kg/mの多孔質炭素材料からなる第3層を、前記第2層を介して対向配置し、前記第2層の融点以上の温度で前記第2層に前記第3層を溶着する工程とを備えることを特徴とするカーボン部材の製造方法。
【請求項11】
前記第1成形工程において、
前記第1樹脂組成物と前記第1炭素質材料とを二軸押出機の投入口に供給して混合して第1混合物とする工程と、
前記第1混合物を前記二軸押出機のダイスで賦形して押し出すことにより、シート状の第1層を成形する工程とを連続して行うことを特徴とする請求項10に記載のカーボン部材の製造方法。
【請求項12】
前記第2成形工程において、
前記第2樹脂組成物と前記第2炭素質材料とを二軸押出機の投入口に供給して混合して第2混合物とする工程と、
前記第2混合物を前記二軸押出機のダイスで賦形して押し出すことにより、シート状の第2層を成形する工程とを連続して行うことを特徴とする請求項10に記載のカーボン部材の製造方法。
【請求項13】
隔膜の両側に電極と双極板とがそれぞれ配置されたセルを備えるレドックスフロー電池であって、
前記隔膜の一方側または両側に、前記電極と前記双極板とが一体化された電池部材として、請求項1〜8のいずれか1項に記載のカーボン部材が配置されていることを特徴とするレドックスフロー電池。
【請求項14】
電解膜の一方の面に燃料極と第1ガス拡散層とが配置され、前記電解膜の他方の面に空気極と第2ガス拡散層とが配置された複数の単セルが、前記第1ガス拡散層と前記第2ガス拡散層とを仕切るセパレータを介して積層されている燃料電池であって、
前記セパレータと、前記セパレータに隣接する前記第1ガス拡散層および/または前記第2ガス拡散層とが一体化された電池部材として、請求項1〜8のいずれか1項に記載のカーボン部材が配置されていることを特徴とする燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボン樹脂組成物材料層と多孔質炭素材料層とが一体化された多層構造を有するカーボン部材およびその製造方法に関し、特に、レドックスフロー電池や燃料電池などの電池に使用される電池部材として好適なカーボン部材およびその製造方法に関する。本願は、2013年4月11日に、日本に出願された特願2013−082949に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、電極などの電池部材として使用されるカーボン部材の材料には、高温処理により焼結された焼結カーボンが多く用いられてきた。焼結カーボンを用いることで、電気抵抗が低く、耐熱性、耐食性に優れた高性能のカーボン部材が得られる。
しかし、焼結カーボンからなるカーボン部材は、割れやすく、曲げ強度が不十分であり、取り扱いしにくいという問題があった。このため、焼結カーボンからなるカーボン部材を用いて電池を製造した場合、作業性および加工性が不足して、十分な生産性が得られなかった。
【0003】
このため、近年、カーボン部材の材料として、カーボンと樹脂とからなるカーボン樹脂複合材料が用いられるようになってきている。カーボン樹脂複合材料からなるカーボン部材は、容易に十分な曲げ強度を有するものとすることができるとともに、樹脂加工技術を用いて容易に製造および加工できるため、好ましい。
【0004】
しかし、カーボン樹脂複合材料からなるカーボン部材は、焼結カーボンからなるカーボン部材と比較して電気抵抗が高いものとなる。このため、例えば、カーボン樹脂複合材料からなるカーボン部材と他の電池部材とを積層して配置してなる電池を形成した場合には、カーボン部材と他の電池部材との接触抵抗が大きいことが問題となる。特に、他の電池部材が、不織布、フェルト、織布などの圧縮弾性率の小さい材料からなるものである場合に、低い面圧でカーボン樹脂複合材料からなるカーボン部材と積層すると、さらに接触抵抗が大きくなる。
【0005】
複数の電池部材を積層してなる積層構造を有する電池を形成する場合に、複数の電池部材間の接触抵抗を低減させるには、隣接する電池部材間を密着させることが有効である。
例えば、複数の電池部材を一体化することで接触抵抗を低くする技術として、特許文献1〜特許文献4に記載の技術がある。
また、電池の内部抵抗を低くする技術として、気相法炭素繊維を含む電極材料が提案されている(例えば、特許文献5参照。)。
また、電池の双極板の導電性を向上させるために、カーボンナノチューブを含有した双極板が提案されている(例えば、特許文献6参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62−276761号公報
【特許文献2】特開平1−065776号公報
【特許文献3】特開平6−290796号公報
【特許文献4】特開2004−273299号公報
【特許文献5】特開2006−156029号公報
【特許文献6】特開2011−228059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のカーボン部材において、隣接する電池部材間を接着剤で接着した場合、電池部材界面での導通が十分に得られなかった。この問題を解決するために、接着剤として導電材を含むものを用いることが考えられる。しかし、接着剤として導電材を含むものを用いて隣接する電池部材間を接着した場合、電池部材界面での導通が十分に得られるように、導電材の含有量を多くすると、接着材の接合性が不充分となり、電池部材が剥離しやすくなるという問題があった。
【0008】
また、従来、カーボン部材からなる電池部材を用いて電池を製造した場合に、優れた生産性が得られるカーボン部材が要求されている。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、レドックスフロー電池や燃料電池の電池部材として好適に使用でき、十分な導電性および曲げ強度を有し、これを電池部材として用いて電池を製造した場合に、優れた生産性が得られるカーボン部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1) ポリオレフィン系樹脂を含み、230℃において荷重2.16kgで測定したメルトフローレートが0.01〜10g/10minである第1樹脂組成物100質量部と、第1炭素質材料100〜1000質量部とを含む第1層と、前記第1層の少なくとも一方の主面に接して配置され、ポリオレフィン系樹脂を含み、前記メルトフローレートが5〜1000g/10minであって前記第1樹脂組成物より大きく、融点が80℃以上であって前記第1樹脂組成物より10℃以上低い第2樹脂組成物100質量部と、第2炭素質材料100〜1000質量部とを含む第2層と、前記第2層を介して前記第1層に対向配置された嵩密度60〜800kg/mの多孔質炭素材料からなる第3層とが、溶着されて一体化されていることを特徴とするカーボン部材。
【0011】
(2) 前記第1炭素質材料および/または前記第2炭素質材料が、平均繊維径0.01〜0.3μmの炭素繊維を1〜50質量%含むものであることを特徴とする(1)に記載のカーボン部材。
(3) 前記多孔質炭素材料が、平均繊維径0.01〜0.3μmの炭素繊維からなるものであることを特徴とする(1)または(2)に記載のカーボン部材。
(4)前記第1炭素質材料および/または前記第2炭素質材料が、ホウ素を0.01〜4質量%含むものであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のカーボン部材。
【0012】
(5) 前記第1樹脂組成物が、ポリプロピレン樹脂10〜99質量%と、スチレン系熱可塑性エラストマー1〜40質量%とを含むものであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のカーボン部材。
(6) 前記第2樹脂組成物が、
(a)主たるモノマー単位であるプロピレン単位にエチレン単位が共重合されてなるプロピレンエチレン共重合体、
(b)主たるモノマー単位であるエチレン単位に、炭素数3〜10のα−オレフィン単位が共重合されてなるエチレン系共重合体、または、
(c)主たるモノマー単位である1−ブテン単位に、炭素数2〜10のα−オレフィン(ただし1−ブテンを除く)が共重合されてなるポリブテン系樹脂から選ばれる少なくともいずれかのα−オレフィン重合体を10〜100質量%含むものであることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載のカーボン部材。
(7) 前記第2樹脂組成物が、アタクチックポリプロピレンを2〜40質量%、粘着付与樹脂を1〜30質量%及びスチレン系熱可塑性エラストマーを0.5〜40質量%含有するものであることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項に記載のカーボン部材。
(8) 前記多孔質炭素材料が、炭素繊維を含む不織布からなり、前記炭素繊維同士の接触部の少なくとも一部が炭化して結合していることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載のカーボン部材。
【0013】
(9) ポリオレフィン系樹脂を含み、230℃において荷重2.16kgで測定したメルトフローレートが0.01〜10g/10minである第1樹脂組成物100質量部と、第1炭素質材料100〜1000質量部とを含む第1層と、ポリオレフィン系樹脂を含み、前記メルトフローレートが5〜1000g/10minであって前記第1樹脂組成物より大きく、融点が80℃以上であって前記第1樹脂組成物より10℃以上低い第2樹脂組成物100質量部と、第2炭素質材料100〜1000質量部とを含む第2層とを共押出成形して、前記第1層の少なくとも一方の主面に接して前記第2層が配置され、前記第1層と前記第2層とが一体化されてなる積層体を形成する工程と、前記積層体の前記第1層に、嵩密度60〜800kg/mの多孔質炭素材料からなる第3層を、前記第2層を介して対向配置し、前記第2層の融点以上の温度で前記第2層に前記第3層を溶着する工程とを備えることを特徴とするカーボン部材の製造方法。
【0014】
(10) ポリオレフィン系樹脂を含み、230℃において荷重2.16kgで測定したメルトフローレートが0.01〜10g/10minである第1樹脂組成物100質量部と、第1炭素質材料100〜1000質量部とを含む第1層を押出成形する第1成形工程と、ポリオレフィン系樹脂を含み、前記メルトフローレートが5〜1000g/10minであって前記第1樹脂組成物より大きく、融点が80℃以上であって前記第1樹脂組成物より10℃以上低い第2樹脂組成物100質量部と、第2炭素質材料100〜1000質量部とを含む第2層を押出成形する第2成形工程と、前記第1層の少なくとも一方の主面に接して前記第2層を配置して、前記第1層および前記第2層の融点以上の温度で、前記第1層に前記第2層を溶着し、前記第1層と前記第2層とが一体化されてなる積層体を形成する工程と、前記積層体の前記第1層に、嵩密度60〜800kg/mの多孔質炭素材料からなる第3層を、前記第2層を介して対向配置し、前記第2層の融点以上の温度で前記第2層に前記第3層を溶着する工程とを備えることを特徴とするカーボン部材の製造方法。
【0015】
(11) 前記第1成形工程において、前記第1樹脂組成物と前記第1炭素質材料とを二軸押出機の投入口に供給して混合して第1混合物とする工程と、前記第1混合物を前記二軸押出機のダイスで賦形して押し出すことにより、シート状の第1層を成形する工程とを連続して行うことを特徴とする(10)に記載のカーボン部材の製造方法。
(12) 前記第2成形工程において、前記第2樹脂組成物と前記第2炭素質材料とを二軸押出機の投入口に供給して混合して第2混合物とする工程と、前記第2混合物を前記二軸押出機のダイスで賦形して押し出すことにより、シート状の第2層を成形する工程とを連続して行うことを特徴とする(10)または(11)に記載のカーボン部材の製造方法。
【0016】
(13) 隔膜の両側に電極と双極板とがそれぞれ配置されたセルを備えるレドックスフロー電池であって、前記隔膜の一方側または両側に、前記電極と前記双極板とが一体化された電池部材として、(1)〜(8)のいずれかに記載のカーボン部材が配置されていることを特徴とするレドックスフロー電池。
(14) 電界膜の一方の面に燃料極と第1ガス拡散層とが配置され、前記電界膜の他方の面に空気極と第2ガス拡散層とが配置された複数の単セルが、前記第1ガス拡散層と前記第2ガス拡散層とを仕切るセパレータを介して積層されている燃料電池であって、前記セパレータと、前記セパレータに隣接する前記第1ガス拡散層および/または前記第2ガス拡散層とが一体化された電池部材として、(1)〜(8)のいずれかに記載のカーボン部材が配置されていることを特徴とする燃料電池。
【発明の効果】
【0017】
本発明のカーボン部材は、第1樹脂組成物と第1炭素質材料とを含む第1層と、第1層の少なくとも一方の主面に接して配置され、第2樹脂組成物と第2炭素質材料とを含む第2層と、第2層を介して第1層に対向配置された多孔質炭素材料からなる第3層とが、溶着されて一体化されているものであり、厚み方向の抵抗(貫通抵抗)が低く、優れた導電性が得られるとともに、優れた曲げ強度が得られる。
【0018】
また、本発明のカーボン部材では、カーボン部材を電池部材として用いて電池を製造した場合に、優れた作業性および加工性が得られるとともに、第1層を例えば、レドックスフロー電池の双極板や、燃料電池のセパレータとして機能させることができる。
本発明のカーボン部材は、例えば、レドックスフロー電池の電極と双極板とが一体化された電池部材として好適に使用できる。この場合、レドックスフロー電池を、電極と双極板とをそれぞれ用いて製造する場合と比較して、電池部材の数を減らすことができ、生産性を向上させることができる。
【0019】
また、本発明のカーボン部材では、カーボン部材を電池部材として用いて電池を製造した場合に、第3層を例えば、レドックスフロー電池の電極や、燃料電池のセパレータに隣接するガス拡散層として機能させることができる。
本発明のカーボン部材は、例えば、燃料電池のセパレータと、セパレータに隣接するガス拡散層とが一体化された電池部材として、好適に使用できる。この場合、燃料電池のセパレータおよびセパレータに隣接するガス拡散層を容易に製造することができ、生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明のカーボン部材の一例を説明するための断面模式図である。
図2図2は、本発明のレドックスフロー電池の一例を説明するための断面模式図である。
図3図3は、本発明の燃料電池の一例を説明するための断面模式図である。
図4図4は、貫通抵抗を測定する方法を説明するための説明図である。
図5図5は、実施例において評価したレッドクスフロー電池を説明するための説明図である。
図6図6は、実施例において評価した燃料電池の評価用セルを説明するための説明図である。
図7図7は、締め付け面圧0.8MPaの時の電圧と電流密度との関係を示したグラフである。
図8図8は、締め付け面圧0.3MPaの時の電圧と電流密度との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
「カーボン部材」
図1は、本発明のカーボン部材の一例を説明するための断面模式図である。図1に示すカーボン部材10は、第1樹脂組成物と第1炭素質材料とを含む第1層1と、第1層1の両面に接して配置され、第2樹脂組成物と第2炭素質材料とを含有する第2層2、2と、第2層2、2を介して第1層1に対向配置された多孔質炭素材料からなる第3層3,3とが、溶着されて一体化されているものである。
【0022】
「第1層」
第1層1は、第1樹脂組成物と第1炭素質材料とを含むものである。
第1樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂を含み、230℃において荷重2.16kgで測定したメルトフローレートが0.01〜10g/10minであるものである。
以下の説明において「メルトフローレート」とは、230℃において荷重2.16kgで測定したメルトフローレートを意味し、「MFR」と略記する場合がある。なお、メルトフローレートの測定は、ISO1133に準拠して行う。
【0023】
本実施形態においては、第1樹脂組成物のMFRが、0.01g/10min以上であるので、第1樹脂組成物と第1炭素質材料との混合物を所望の形に成形することができ、第1層1が電池内を仕切る隔壁としての機能を有するものとなる。第1樹脂組成物のMFRは、0.5g/10min以上であることが好ましい。また、第1樹脂組成物のMFRが、10g/10min以下であるので、高い曲げ強度を有するカーボン部材10が得られる。第1樹脂組成物のMFRは、6g/10min以下であることが好ましく、2g/10min以下であることがより好ましい。
【0024】
第1樹脂組成物としては、オレフィン由来のモノマー単位を50〜100モル%含む重合体、またはそれらの変性樹脂から選ばれるポリオレフィン系樹脂を1種以上含むものが挙げられる。ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、シクロオレフィンポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリスチレン、アイオノマー、エチレン−プロピレン共重合体(ブロックPPおよびランダムPP)、プロピレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体、ポリブテン−1、ポリペンテン等が挙げられる。
第1樹脂組成物は、これらのポリオレフィン系樹脂を、好ましくは10〜100質量%、より好ましくは80〜98質量%含む。
【0025】
第1樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂の他に、スチレン系熱可塑性エラストマーを含むものであってもよい。スチレン系熱可塑性エラストマーとは、スチレンまたは置換スチレン由来のモノマー単位を10〜90モル%含む熱可塑性エラストマー、あるいはその水素化物である。第1樹脂組成物がスチレン系熱可塑性エラストマーを含むものである場合、曲げひずみが大きくなり、割れにくくなるので、好ましい。
スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、水添スチレンブタジエンラバー(HSBR)、スチレン・エチレンブチレン・スチレンブロックコポリマー(SEBS)、スチレン・エチレンプロピレン・スチレンブロックコポリマー、スチレン・エチレンブチレン・オレフィン結晶ブロックコポリマー、スチレン・イソプレン・スチレンブロックコポリマー、スチレン・ブタジエン・スチレンブロックコポリマー等が挙げられる。中でも、水添スチレンブタジエンラバー、スチレン・エチレンブチレン・スチレンブロックコポリマー、スチレン・エチレンプロピレン・スチレンブロックコポリマーから選ばれる1種以上であると、ポリオレフィン系樹脂への分散性が良く、好ましい。
【0026】
第1樹脂組成物は、特に、ポリプロピレン樹脂とスチレン系熱可塑性エラストマーとを含むものであることが好ましい。このような第1樹脂組成物は、耐熱性と割れにくさを併せ持つ材料となり、好ましい。
第1樹脂組成物がポリプロピレン樹脂とスチレン系熱可塑性エラストマーとを含むものである場合、第1樹脂組成物中に、ポリプロピレン樹脂10〜99質量%と、スチレン系熱可塑性エラストマー1〜40質量%とを含むものであることが好ましく、ポリプロピレン樹脂80〜98質量%、スチレン系熱可塑性エラストマー2〜20質量%を含むものであることがより好ましい。
【0027】
第1樹脂組成物中に含まれるポリプロピレン樹脂の含有量が上記範囲である場合、第1樹脂組成物の融点が高く、黒鉛との親和性が良好となるので、好ましい。
第1樹脂組成物中に含まれるスチレン系熱可塑性エラストマーの含有量が上記範囲である場合、耐熱性を落とさずに柔軟性を付与できるので、好ましい。
【0028】
第1樹脂組成物は、必要に応じて、各種の添加剤、例えば、可塑剤、溶剤、紫外線安定剤、酸化防止剤、熱安定剤、消泡剤、レベリング剤、離型剤、滑剤、撥水剤、増粘剤、または親水性付与剤等から選ばれる成分を含有してもよい。これら添加剤の含有量は、通常、ポリオレフィン系樹脂とスチレン系熱可塑性エラストマーとの合計100質量部に対し、合計で0.1〜10質量部である。
【0029】
第1炭素質材料としては、例えば、炭素微粉、炭素繊維、炭素微粉と炭素繊維との混合物などを用いることができる。
第1炭素質材料が炭素微粉を含むものである場合、炭素微粉として、例えば、平均粒径10〜50μmの黒鉛微粉を含むことが好ましく、平均粒径10〜30μmの黒鉛微粉を含むことがより好ましい。炭素微粉の平均粒径が上記範囲である場合、第1樹脂組成物と第1炭素質材料との混合物の成形加工性と、得られるカーボン部材10の機械的強度のバランスがよいため、好ましい。また、第1炭素質材料が黒鉛微粉からなるものである場合、カーボン部材10の導電性が高くなるため、好ましい。
炭素微粉の平均粒径は、光学顕微鏡で100〜1000個の炭素微粉を観察して、各粒子の最大径を測定し、得られた測定値の算術平均値として求める。
【0030】
第1炭素質材料が炭素繊維を含むものである場合、優れた強度を有するカーボン部材10が得られるため、好ましい。第1炭素質材料が炭素繊維を含むものである場合、例えば、平均繊維径0.01〜0.3μmの炭素繊維を1〜50質量%含むものであることが好ましく、該炭素繊維を10〜40質量%含むものであることがより好ましい。炭素繊維の平均繊維径が上記範囲である場合、強度が向上し、少量の添加で導電パスを形成できるので、好ましい。炭素繊維の平均繊維径は、光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡で100〜1000本の炭素繊維を観察して、その繊維径を測定し、得られた繊維径の算術平均値として求める。
【0031】
第1炭素質材料には、ホウ素が含有されていてもよい。第1炭素質材料にホウ素が含有されている場合、第1炭素質材料中にホウ素が0.01〜4質量%含まれていることが好ましく、0.1〜3質量%含まれていることがより好ましい。第1炭素質材料中のホウ素の含有量が上記範囲である場合、カーボン部材10の導電性が向上するので、好ましい。
【0032】
第1層1は、第1樹脂組成物100質量部と、第1炭素質材料100〜1000質量部とを含むものであり、第1樹脂組成物100質量部に対して第1炭素質材料を200〜800質量部含むものであることがより好ましく、第1樹脂組成物100質量部に対して第1炭素質材料を400〜800質量部含むものであることがさらに好ましい。
第1樹脂組成物100質量部に対する第1炭素質材料の含有量が、100質量部以上であると、カーボン部材10の導電性に優れる。上記第1炭素質材料の含有量が1000質量部以下であると、カーボン部材10の強度に優れる。
【0033】
「第2層」
第2層2は、第2樹脂組成物と第2炭素質材料とを含むものである。
第2樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂を含み、230℃において荷重2.16kgで測定したメルトフローレート(MFR)が5〜1000g/10minであって第1樹脂組成物より大きいものである。第2樹脂組成物のMFRは、10〜100g/10minであることが好ましく、10〜60g/10minであることがより好ましい。第2樹脂組成物のMFRがこの範囲であると、炭素質材料の充填性に優れた樹脂組成物となり、また第2層と、第1層および第3層との接合強度が高くなるため好ましい。
【0034】
第2樹脂組成物の融点は、80℃以上であって、第1樹脂組成物より10℃以上低い。
融点が80℃以上であると、十分な耐熱性を有するカーボン部材10を得ることができ、融点が第1樹脂組成物より10℃以上低いと、加熱により第2層を介して第1層と第3層とを溶着する際に、第1層への熱によるダメージを低減することができる。第2樹脂組成物の融点は好ましくは100℃以上であり、より好ましくは120℃以上である。また通常、第2樹脂組成物の融点は145℃以下である。第1樹脂組成物の第2樹脂組成物との融点の差は、10℃以上であれば特に制限はないが、通常、60℃以下である。樹脂組成物の融点は、JIS K7121に従って、試験片を標準状態で調整し、示差走査熱量計(DSC)を用いて、融解ピーク温度として測定することができる。2以上の融解ピークが観察される場合は、高温側のピーク温度を融点とする。
【0035】
本実施形態においては、第2樹脂組成物が、MFRが5〜1000g/10minであって第1樹脂組成物より大きく、融点が80℃以上であって第1樹脂組成物より10℃以上低いものであるので、第1層1と第2層2とのMFRおよび融点の差を利用して、例えば、第2層2に第1層1(第3層3)を積層して加圧しながら加熱することにより、容易かつ確実に第1層1に第2層2を溶着できるとともに、第1層1上に形成された第2層2に多孔質炭素材料からなる第3層3を溶着できる。
【0036】
MFRが5〜1000g/10minである第2樹脂組成物としては、α−オレフィン重合体を含むものであることが好ましい。α−オレフィン重合体としては、具体的には、アタクチックポリプロピレン(アタクチックPP)、アイソタクチックポリプロピレン、ポリブテン−1などα−オレフィンの単独重合体;エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、プロピレンと炭素数2〜8のα−オレフィンとの共重合体、下記のα−オレフィン共重合体(a)(b)(c)、およびこれら重合体の変性樹脂が挙げられる。これらα−オレフィン重合体は、1種単独でまたは2種以上を併用して用いることができる。
【0037】
α−オレフィン共重合体(a):主たるモノマー単位であるプロピレン単位にエチレン単位が共重合されてなるプロピレンエチレン共重合体。α−オレフィン共重合体(a)としては、具体的には、エチレン−プロピレンランダム共重合体、エチレン−プロピレンブロック共重合体が挙げられる。
α−オレフィン共重合体(b):主たるモノマー単位であるエチレン単位に、炭素数3〜10のα−オレフィン単位が共重合されてなるエチレン系共重合体。α−オレフィン共重合体(b)としては、具体的には、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)が挙げられる。
【0038】
α−オレフィン共重合体(c):主たるモノマー単位である1−ブテン単位に、炭素数2〜10のα−オレフィン(ただし1−ブテンを除く)が共重合されてなるポリブテン系樹脂。α−オレフィン共重合体(c)としては、具体的には、エチレン−ブテン1共重合体、プロピレン−ブテン1共重合体、ヘキセン−ブテン1共重合体が挙げられる。
【0039】
第2樹脂組成物がα−オレフィン重合体を含むものである場合、第2樹脂組成物中にα−オレフィン重合体を10〜100質量%含むものであることが好ましく、50〜100質量%含むものであることがより好ましい。第2樹脂組成物中に含まれるα−オレフィン重合体の含有量が上記範囲である場合、第2層と第1層との界面強度に優れるため、好ましい。
【0040】
第2樹脂組成物は、上記のα−オレフィン重合体の中でもα−オレフィン共重合体を含むことがより好ましく、上記(a)(b)(c)から選ばれる少なくともいずれかのα−オレフィン共重合体を含むものであると、さらに好ましい。その理由は、これらのα−オレフィン共重合体を含む第2樹脂組成物を用いると、第2層と、第1層および第3層との接合性が優れるためである。上記(a)(b)(c)から選ばれるα−オレフィン共重合体は、第2樹脂組成物中に、好ましくは10〜100質量%、より好ましくは50〜100質量%含まれる。
【0041】
また、第2樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂の他に、粘着付与樹脂やスチレン系熱可塑性エラストマーから選ばれる1種以上を含むものであることも好ましい。
特に、第2樹脂組成物が、アタクチックポリプロピレンと粘着付与樹脂とスチレン系熱可塑性エラストマーとを含むものである場合、第2層と第3層との接合性が向上するため、好ましい。
粘着付与樹脂としては例えば、脂環式飽和炭化水素樹脂、脂肪族系石油樹脂、テルペン系樹脂、水添テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、フェノール系樹脂、キシレン樹脂、クマロン−インデン系樹脂などが挙げられ、好ましくは脂環式飽和炭化水素樹脂である。
スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、第1樹脂組成物に用いることができるものとして挙げたものを用いることができる。
【0042】
このような第2樹脂組成物では、アタクチックポリプロピレンを2〜40質量%、粘着付与樹脂を1〜30質量%、スチレン系熱可塑性エラストマーを0.5〜40質量%含有することが好ましく、アタクチックポリプロピレンを5〜40質量%、粘着付与樹脂を5〜25質量%、スチレン系熱可塑性エラストマーを5〜30質量%含有することがより好ましく、アタクチックポリプロピレンを15〜40質量%、粘着付与樹脂を10〜20質量%、スチレン系熱可塑性エラストマーを10〜20質量%含有することがさらに好ましい。
【0043】
第2樹脂組成物中に含まれるアタクチックポリプロピレンの含有量が上記範囲である場合、第2層と、第1層および3層との接合強度が向上するので、好ましい。
第2樹脂組成物中に含まれる粘着付与樹脂の含有量が上記範囲である場合、第2層と、第1層および3層との低温接合性が良くなるので、好ましい。
第2樹脂組成物中に含まれるスチレン系熱可塑性エラストマーの含有量が上記範囲である場合、弾性が付与され変形に対する接合性が良くなるので、好ましい。
第2樹脂組成物は、上記の成分の他、第1樹脂組成物と同様の各種添加剤を含んでもよい。その添加量は、通常、ポリオレフィン系樹脂、粘着付与樹脂およびスチレン系熱可塑性エラストマーの合計100質量部に対して、合計で0.1〜10質量部である。
【0044】
第2炭素質材料としては、第1炭素質材料と同様のものを用いることができる。第2炭素質材料は、第1炭素質材料と同じであってもよいし、異なっていてもよい。具体的には、第2炭素質材料の平均粒径、平均繊維径、炭素繊維、ホウ素含有量などは、第1炭素質材料と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
第2炭素質材料は、第1炭素質材料と同様に、平均繊維径0.01〜0.3μmの炭素繊維を1〜50質量%含むものであることが好ましく、該炭素繊維を10〜40質量%含むものであることがより好ましい。
第2素質材料には、第1炭素質材料と同様に、ホウ素が0.01〜4質量%含まれていることが好ましく、0.1〜3質量%含まれていることがより好ましい。
【0045】
第2層2は、第2樹脂組成物100質量部と、第2炭素質材料100〜1000質量部とを含有するものである。第2樹脂組成物100質量部に対する第2炭素質材料の含有量が、100質量部以上であると、高い導電性を有するカーボン部材10が得られる。第2樹脂組成物100質量部に対する第2炭素質材料の含有量が、1000質量部以下であると、第2層と、第1層および第3層との溶着性に優れるため、優れた曲げ強度を有するカーボン部材10が得られる。第2樹脂組成物100質量部に対する第2炭素質材料の含有量は、200〜800質量部であることが好ましく、200〜600質量部であることがより好ましい。
【0046】
「第3層」
第3層3は、嵩密度60〜800kg/m、好ましくは80〜600kg/mの多孔質炭素材料からなる。本実施形態においては、多孔質炭素材料の嵩密度が60kg/m以上であるので、第3層が優れた導電性と強度を有するものとなる。また多孔質炭素材料の嵩密度が800kg/m以下であるので、第3層が優れた流体透過性を有するものとなる。よって、カーボン部材10を電池部材として用いて電池を製造した場合に、第3層3を例えば、レドックスフロー電池の電極や、燃料電池のセパレータに隣接するガス拡散層として機能させることができる。
【0047】
第3層3の多孔質炭素材料としては、平均繊維径0.01〜3μmの炭素繊維からなる不織布であることが好ましく、平均繊維径0.1〜0.5μmの炭素繊維からなる不織布であることがより好ましい。不織布としては、炭素繊維同士の接触部の少なくとも一部が炭化して結合しているものを用いることが好ましい。炭素繊維同士の接触部の少なくとも一部が炭化して結合する場合、第3層3が十分な強度を有するとともに十分な導電性を有するものとなり、好ましい。
【0048】
第3層3の多孔質炭素材料が、平均繊維径0.01〜3μmの炭素繊維からなる不織布である場合、平均繊維径が十分に細いことにより、例えば、本実施形態のカーボン部材10を電池部材として用いて電池を製造し、第3層3内に流体を流す場合の圧力損失が小さくなる。その結果、電池の出力密度を向上させることができる。
【0049】
また、多孔質炭素材料が、平均繊維径0.01〜0.3μmの炭素繊維からなる不織布である場合、炭素繊維の比表面積が大きいため、優れた導電性を有するものとなる。このため、本実施形態のカーボン部材10を電池部材として用いてレドックスフロー電池を製造した場合に、電極反応場が増え、電池の出力密度を向上させることができる。さらには、本実施形態のカーボン部材10を電池部材として用いた燃料電池において、ガスを均一に拡散させることができ、電池反応を均一化できるとともに、出力密度を向上することができる。炭素繊維の平均繊維径の測定は、上述の第1炭素質材料に用いる炭素繊維と同様にして行うことができる。
【0050】
平均繊維径0.01〜3μmの炭素繊維からなる不織布であり、炭素繊維同士の接触部の少なくとも一部が炭化して結合している多孔質炭素材料は、例えば、以下に示す方法により得られる。
【0051】
まず、樹脂繊維をフェルト化して不織布を作製する。次いで、不織布を炭化する。このことにより、炭素繊維を含み、炭素繊維同士の接触部の少なくとも一部が炭化して結合された不織布となる。不織布の材料として使用する樹脂繊維としては、ポリアクリロニトリル樹脂やフェノール樹脂からなる樹脂繊維などが挙げられる。その後、例えば、レドックスフロー電池用途では、第2層と第3層の接合性の向上や水濡れ性を向上させて電極反応を促進するため、炭素繊維を含む不織布を1〜40%の酸素とイナートガスが混合された雰囲気で、400〜800℃の温度で熱処理する。このことにより、炭素繊維表面が酸化し、多孔質炭素材料が得られる。また、撥水性が求められる燃料電池用途等においては、例えば、炭素繊維を含む不織布にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョンを塗布、乾燥し、300〜400℃で熱処理させて得られる多孔質炭素材料を用いることもできる。
多孔質炭素材料は、ホウ素を好ましくは0.01〜4質量%含むと、カーボン部材10の導電性が優れるため、好ましい。
【0052】
「カーボン部材の製造方法」
次に、本発明のカーボン部材の製造方法として、図1に示すカーボン部材10の製造方法を例に挙げて説明する。
図1に示すカーボン部材10を製造するには、まず、第1樹脂組成物と第1炭素質材料とを所定の割合で混合混練(コンパウンド)して混合物とする。また、第2樹脂組成物と第2炭素質材料とを所定の割合で混合混練(コンパウンド)して混合物とする。
【0053】
第1炭素質材料と混合混練される第1樹脂組成物は、第1樹脂組成物となる原料を混合混練してなる第1樹脂組成物の状態であってもよいし、第1樹脂組成物となる原料の状態であってもよい。また、第2炭素質材料と混合混練される第2樹脂組成物は、第2樹脂組成物となる原料を混合混練してなる第2樹脂組成物の状態であってもよいし、第2樹脂組成物となる原料の状態であってもよい。
【0054】
第1樹脂組成物(第2樹脂組成物)を製造するために行う第1樹脂組成物(第2樹脂組成物)となる原料のみの混合混練および/または第1樹脂組成物(第2樹脂組成物)と第1炭素質材料(第2炭素質材料)との混合物を製造するための混合混練には、押出機やニーダー等の混練機を用いることができる。
【0055】
次いで、第1樹脂組成物と第1炭素質材料との混合物と、第2樹脂組成物と第2炭素質材料との混合物とを用いて、第1層1と第2層2とを共押出成形する。このことにより、シート状の第1層1の両面に接してシート状の第2層2が配置され、第1層1と第2層2とが一体化されてなる積層体を形成する。このとき、第1層の押出は、シリンダー温度220〜250℃、ダイス温度160〜200℃とすることが好ましく、第2層の押出は、シリンダー温度180〜230℃、ダイス温度120〜180℃とすることが好ましい。
次に、積層体の両面に第3層3として多孔質炭素材料を配置する。このことにより、第1層1に第3層3を、第2層2を介して対向配置する。この際、シート状の前記積層体の上に、長尺の第3層3をロールで送り出しながら配置し、後述の溶着工程を連続で行ってもよい。
【0056】
次に、第1層1の両面に第2層2が配置された積層体の両面に、第3層3を配置したものを、加圧しながら加熱し、第2層2に第3層3を溶着する。
第2層2に第3層3を溶着する際の温度は、第2層2と第3層3との接触抵抗の低いものとするために、第2樹脂組成物の融点以上の温度、好ましくは第2樹脂組成物の融点より2℃以上高い温度、より好ましくは第2樹脂組成物の融点より5℃以上高い温度とされる。また、第2層2に第3層3を溶着する際の温度は、第1層の溶融を防ぐため、第1樹脂組成物の融点より10℃以上低い温度であることが好ましく、通常は160℃以下である。第1層が溶融すると、第1層が膨張して密度が下がるため、カーボン部材10の貫通抵抗が高くなる。
また、第2層2に第3層3を溶着する際の圧力は、第3層の構造が破壊されないように、0.5〜8MPaとすることが好ましく、1〜5MPaとすることがより好ましい。
以上の工程により、図1に示すカーボン部材10が得られる。
【0057】
また、図1に示すカーボン部材10の製造方法は、上記の方法のみに限定されるものではない。図1に示すカーボン部材10は、例えば、以下に示す製造方法を用いて製造してもよい。
まず、上述した製造方法と同様にして第1樹脂組成物と第1炭素質材料との混合物を作成し、得られた混合物を押出成形することにより、シート状の第1層1を形成する(第1成形工程)。このときのシリンダー温度は220〜250℃、ダイス温度は160〜200℃であることが好ましい。得られたシート状の第1層1は、ロール圧延する方法などにより、必要に応じて厚みを薄くしてもよい。
【0058】
第1成形工程は、生産性を向上させるために、第1樹脂組成物と第1炭素質材料とを二軸押出機の投入口に供給して混合して第1混合物とする工程と、第1混合物を二軸押出機のダイスで賦形して押し出すことにより、シート状の第1層1を成形する工程とを連続して行う工程であることが好ましい。
【0059】
また、上述した製造方法と同様にして第2樹脂組成物と第2炭素質材料との混合物を作成し、得られた混合物を押出成形することにより、シート状の第2層2を形成する(第2成形工程)。このときのシリンダー温度は180〜230℃、ダイス温度は120〜180℃であることが好ましい。得られたシート状の第2層2は、ロール圧延する方法などにより、必要に応じて厚みを薄くしてもよい。
第2成形工程は、生産性を向上させるために、第2樹脂組成物と第2炭素質材料とを二軸押出機の投入口に供給して混合して第2混合物とする工程と、第2混合物を二軸押出機のダイスで賦形して押し出すことにより、シート状の第2層2を成形する工程とを連続して行う工程であることが好ましい。
【0060】
次に、シート状の第1層1の両面に接してシート状の第2層2を配置して、加圧しながら加熱し、第1層1に第2層2を溶着する。このことにより、第1層1と、第1層1の両面に接して配置された第2層2とが一体化されてなる積層体を形成する。
第1層1に第2層2を溶着する際の温度は、第1層1および第2層2の融点以上の温度とされ、第1層と第2層との間の接触抵抗を低減し、強固な接合を達成させるため、第1樹脂組成物の融点に比べ、好ましくは20℃以上、より好ましくは40℃以上高い温度とし、通常は180〜250℃である。また、第1層1に第2層2を溶着する際の圧力は、両者を確実に密着させて界面にボイドが残らないようにするため、10〜50MPaとすることが好ましい。
【0061】
その後、上述した製造方法と同様にして、積層体の両面に第3層3として多孔質炭素材料を配置し、第2層2に第3層3を溶着する。以上の工程により、図1に示すカーボン部材10が得られる。
【0062】
「レドックスフロー電池」
図2は、本発明のレドックスフロー電池の一例を説明するための断面模式図である。図2に示すレドックスフロー電池20は、銅板28、28間に複数のセル20aを備えたものである。各セル20aは、隔膜24の両側に電極23と双極板27とがそれぞれ配置されたものである。本実施形態においては、双極板27として、双極板本体21と、双極板本体21と電極23との間に配置された双極板表面層22とからなるものが用いられている。双極板本体21は、隣接して配置された2つのセル20aにおいて共有されている。
【0063】
各セル20aには、電極23として正極23aと負極23bとが備えられている。各セル20aの正極23aは、隔膜24を介して隣接するセル20aの負極23bと対向して配置されている。正極23aおよび負極23bは、多孔質炭素材料からなるものであり、正極23a内には、正極用配管25を介して正極電解液が供給され、負極23b内には、負極用配管26を介して負極電解液が供給されている。
【0064】
本実施形態においては、図2に示すように、隔膜24の両側にそれぞれ、電極23と双極板27とが一体化された電池部材として、図1に示すカーボン部材10を配置することで、複数のセル20aが積層された構造を形成している。したがって、図1に示すカーボン部材10における第1層1が双極板本体21として機能し、第2層2が双極板表面層22として機能し、第3層3が電極23として機能している。
【0065】
また、図2に示すように、複数の隔膜24のうち、最も外側に配置された両側2つの隔膜24の外側には、正極23aまたは負極23bと双極板27とが一体化されたカーボン部材10aが配置されている。カーボン部材10aは、第1層1と、第1層1の一方の主面に接して配置された第2層2と、第2層2を介して第1層1に対向配置された第3層3とが、溶着されて一体化されているものであり、第1層1の一方の主面にのみ第2層2および第3層3が形成されていること以外は、図1に示すカーボン部材10と同じものである。
【0066】
なお、本発明のレドックスフロー電池においては、電池部材として本発明のカーボン部材10、10aが用いられていること以外に特に制限はなく、例えば、隔膜や正極電解液、負極電解液などには、レドックスフロー電池に用いられる公知のものを用いることができる。
【0067】
図2に示すレドックスフロー電池20では、隔膜24とカーボン部材10、10aとを積層することにより、容易にセル20aを組み立てることができる。すなわち、図2に示すレドックスフロー電池20は、電極23と双極板27とが一体化された電池部材としてカーボン部材10、10aを用いているので、レドックスフロー電池を、電極と双極板とをそれぞれ用いて製造する場合と比較して、電池部材の数を減らすことができ、生産性を向上させることができる。
図2に示すレドックスフロー電池20は、電池部材として本発明のカーボン部材10、10aを用いたものであるので、導電性に優れた電極23を有する内部抵抗の低いものとなる。
【0068】
「燃料電池」
図3は、本発明の燃料電池の一例を説明するための断面模式図である。図3に示す燃料電池30は、集電板39、39の間に複数の単セル30aを有している。各単セル30aは、MEA膜34の一方の面に第1ガス拡散層33aと第1ガス流路38aとが配置され、MEA膜34の他方の面に第2ガス拡散層33bと第2ガス流路38bとが配置されたものである。MEA膜34は、電解膜の一方の面に空気極となる電極が接合され、他方の面に燃料極となる電極が接合された接合体である。第1ガス拡散層33aおよび第2ガス拡散層33bは、電極を兼ねるものであってもよい。
【0069】
図3に示すように、複数の単セル30aは、第1ガス流路38aおよび第1ガス拡散層33aと、第2ガス流路38bおよび第2ガス拡散層33bとを仕切るセパレータ37を介して積層されている。本実施形態においては、セパレータ37として、セパレータ本体31と、セパレータ本体31と第1ガス拡散層33aまたは第2ガス拡散層33bとの間に配置されたセパレータ表面層32とからなるものが用いられている。セパレータ本体31は、隣接して配置された2つの単セル30aにおいて共用されている。
【0070】
各単セル30aの第1ガス拡散層33aは、MEA膜34を介して第2ガス拡散層33bと対向して配置されている。第1ガス拡散層33aおよび第2ガス拡散層33bは、多孔質炭素材料からなるものであり、第1ガス拡散層33a内には、配管(不図示)を介して水素などの燃料が供給され、第2ガス拡散層33b内には、配管(不図示)を介して空気が供給されている。
第1ガス流路38aおよび第2ガス流路38bは、セパレータ37の表面に設けられた線状の複数の溝からなるものである。
【0071】
本実施形態においては、セパレータ37と、セパレータ37に隣接する第1ガス拡散層33aおよび第2ガス拡散層33bとが一体化された電池部材として、カーボン部材10bが配置されている。カーボン部材10bは、第1層1の両面に第2層2が配置された積層体の一方の面に第1ガス流路38aとなる線状の複数の溝を形成し、他方の面に第2ガス流路38bとなる線状の複数の溝を形成したこと以外は、図1に示すカーボン部材10と同じものである。図3に示す燃料電池30においては、カーボン部材10bにおける第1層がセパレータ本体31として機能し、第2層がセパレータ表面層32として機能し、第3層が第1ガス拡散層33aまたは第2ガス拡散層33bとして機能している。
【0072】
また、図3に示すように、複数のMEA膜34のうち、最も外側に配置された両側2つのMEA膜34の外側には、セパレータ37と、セパレータ37に隣接する第1ガス拡散層33aまたは第2ガス拡散層33bとが一体化された電池部材として、カーボン部材10cが配置されている。カーボン部材10cは、セパレータ本体31として機能する第1層の一方の主面にのみ、セパレータ表面層32として機能する第2層と、第1ガス拡散層33aまたは第2ガス拡散層33bとして機能する第3層とが形成されていること以外は、カーボン部材10bと同じものである。
【0073】
なお、本発明の燃料電池においては、電池部材として本発明のカーボン部材10b、10cが用いられていること以外に特に制限はなく、例えば、電解膜などの部材には、燃料電池に用いられる公知のものを用いることができる。
また、第1層1の両面または片面に第2層2が配置された積層体に、第1ガス流路38aまたは第2ガス流路38bとなる溝を形成する方法としては、圧縮成形機を用いる方法など、公知の方法を用いることができる。
図3に示す燃料電池30は、電池部材として本発明のカーボン部材10b、10cを用いたものであるので、生産性に優れ、優れた発電特性が得られる。
【0074】
本実施形態のカーボン部材10は、ポリオレフィン系樹脂を含み、230℃において荷重2.16kgで測定したMFRが0.01〜10g/10minである第1樹脂組成物100質量部と、第1炭素質材料100〜1000質量部とを含む第1層1と、第1層1の両面に接して配置され、ポリオレフィン系樹脂を含み、MFRが5〜1000g/10minであって第1樹脂組成物より大きく、融点が80℃以上であって第1樹脂組成物より10℃以上低い第2樹脂組成物100質量部と、第2炭素質材料100〜1000質量部とを含む第2層2と、第2層2を介して第1層1に対向配置された嵩密度60〜800kg/mの多孔質炭素材料からなる第3層3とが、溶着されて一体化されているものであるので、以下に示す効果が得られる。
【0075】
すなわち、本実施形態のカーボン部材10では、第2層2に含まれる第2樹脂組成物のMFRが5〜1000g/10minであって第1樹脂組成物より大きく、融点が80℃以上であって第1樹脂組成物より10℃以上低いので、容易かつ確実に第1層1に第2層2を溶着できるとともに、第2層2に多孔質炭素材料からなる第3層3を溶着できる。よって、本実施形態のカーボン部材10は、第1層1と第2層2との界面全体および第2層2と第3層3との界面全体が密着して一体化されたものとなり、厚み方向の抵抗(貫通抵抗)が低く、優れた導電性が得られるとともに、優れた曲げ強度が得られるものとなる。
【0076】
また、本実施形態のカーボン部材10では、第1層1に含まれる第1樹脂組成物のMFRが0.01〜10g/10minであるので、高い曲げ強度が得られるとともに電池内を仕切る隔壁としての機能が得られるカーボン部材10となる。その結果、カーボン部材10を電池部材として用いて電池を製造する場合に、優れた作業性および加工性が得られるとともに、第1層1を例えば、レドックスフロー電池の双極板や、燃料電池のセパレータとして機能させることができる。
【0077】
また、本実施形態のカーボン部材10では、第3層3が嵩密度60〜800kg/mの多孔質炭素材料からなるものであり、優れた導電性を有する多孔質のものとなる。よって、カーボン部材10を電池部材として用いて電池を製造した場合に、第3層3を例えば、レドックスフロー電池の電極や、燃料電池のセパレータに隣接するガス拡散層として機能させることができる。
【0078】
このように、本実施形態のカーボン部材10は、例えば、レドックスフロー電池の電極と双極板とが一体化された電池部材として好適に使用できる。この場合、レドックスフロー電池を、電極と双極板とをそれぞれ用いて製造する場合と比較して、電池部材の数を減らすことができ、生産性を向上させることができる。
また、本実施形態のカーボン部材10は、例えば、燃料電池のセパレータと、セパレータに隣接するガス拡散層とが一体化された電池部材として、好適に使用できる。この場合、燃料電池のセパレータおよびセパレータに隣接するガス拡散層を容易に製造することができ、生産性を向上させることができる。
【0079】
また、本実施形態のカーボン部材10は、第3層3が嵩密度60〜800kg/mの多孔質炭素材料からなるものであり、第1層1および第2層2に炭素質材料が十分に含有されているものであり、しかも溶着により第1層1と第2層2との界面全体および第2層2と第3層3との界面全体が密着して一体化されたものであるので、高い導電性が得られる。したがって、本実施形態のカーボン部材10は、これを電池部材として用いて電池を製造した場合に、優れた特性を有する電池が得られるものである。
【0080】
また、本実施形態のカーボン部材10を構成する第1層1および第2層2は、それぞれ個別に押出成形する方法や、共押出成形する方法を用いて容易に連続的に製造でき、生産性に優れている。
【0081】
なお、本発明のカーボン部材は、上述した実施形態に限定されるものではない。
例えば、図1に示すカーボン部材10では、第1層1の両面に第2層が配置されている場合を例に挙げて説明したが、本発明のカーボン部材において、第2層は、第1層の少なくとも一方の主面に接して配置されていればよい。すなわち、本発明のカーボン部材は、例えば、第1層と、第1層の一方の主面に接して配置された第2層と、第2層を介して第1層に対向配置された第3層とが、溶着されて一体化されているものであってもよい。
【実施例】
【0082】
「実施例1〜実施例29、参考例1〜2、比較例1〜比較例10」
表1に示す樹脂組成物P01〜P15と、表2に示す炭素質材料C1〜C7と、表3に示す多孔質炭素材料EL1〜EL8とを用いて、以下に示す方法により、表4〜表10に示す実施例1〜実施例29、参考例1〜2、比較例1〜比較例10のカーボン部材を製造し、評価した。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
【表3】
【0086】
【表4】
【0087】
【表5】
【0088】
【表6】
【0089】
【表7】
【0090】
【表8】
【0091】
【表9】
【0092】
【表10】
【0093】
(樹脂組成物P01〜P15)
表1に示す樹脂組成物P01〜P15は、混練機を用いて、それぞれ樹脂組成物P01〜P15となる原料の全てを、表1に示す割合で混合混練(コンパウンド)することにより製造した。得られた樹脂組成物のメルトフローレートおよび融点を、表1に示す。
【0094】
なお、樹脂組成物P01〜P15の製造に用いた原料はそれぞれ下記の通りである:
プロピレン単独重合体−1:サンアロマー社製 商品名VS200A
プロピレン単独重合体−2:サンアロマー社製 商品名PL400A
プロピレン単独重合体―3:サンアロマー社製 商品名PM801A
エチレン−プロピレン共重合体(ブロックPP)−1:サンアロマー社製 商品名PMB60A
エチレン−プロピレン共重合体(ブロックPP)−2:サンアロマー社製 クオリア(登録商標)PP2228
エチレン−プロピレン共重合体(ブロックPP)−3:Catalloy Adflex(登録商標)Q100F
エチレン−プロピレン共重合体(ランダムPP):サンアロマー社製 商品名PM940M
ポリブテン−1:サンアロマー社製 商品名PB0800M
エチレン−ブテン1共重合体:サンアロマー社製 商品名DP8510M
水添スチレンブタジエンラバー:JSR社製 商品名ダイナロン1320P
スチレン・エチレンブチレン・スチレンブロックコポリマー1:クレイトン・ポリマーズ社製 商品名クレイトンG1652
スチレン・エチレンブチレン・スチレンブロックコポリマー2:クレイトン・ポリマーズ社製 商品名クレイトンG1657
アタクチックポリプロピレン:イーストマンケミカル社製 商品名イーストフレックスM−1030S
脂環式飽和炭化水素樹脂:荒川化学工業社製 商品名アルコンP−125
酸化防止剤:BASF社製 IRGANOX(登録商標)1330
耐熱安定剤:BASF社製 IRGANOX PS802FL
二次酸化防止剤:BASF社製 商品名IRGAFOS(登録商標) 126
滑剤:ステアリン酸カルシウム
【0095】
(炭素質材料C1〜C7)
「C1:ホウ素(1.9質量%)含有黒鉛微紛」
非針状コークス(エム・シー・カーボン(株)社製商品名:MCコークス)をパルベライザー(ホソカワミクロン(株)製)で2mm〜3mm以下の大きさに粗粉砕した。その後、粗粉砕したコークスをジェットミル(IDS2UR、日本ニューマチック(株)製)で微粉砕し、分級により粒径24μmに調整した。
【0096】
その後、微粉砕したコークスを、ターボクラシファイアー(TC15N、日清エンジニアリング(株)製)を用いて気流分級し、5μm以下の粒子を除去した。得られたコークス14.4kgに、炭化ホウ素(BC)0.6kgを加え、ヘンシェルミキサー(登録商標)にて800rpmで5分間混合した。
得られた混合物を内径40cm、容積40リットルの蓋付き黒鉛ルツボに封入し、黒鉛ヒーターを用いた黒鉛化炉に入れてアルゴンガス雰囲気下2900℃の温度で黒鉛化し、放冷した。その結果、14kgの黒鉛微粉が得られた。得られた黒鉛微粉は、平均粒径20.5μm、B含有量が1.9質量%であった。このようにしてホウ素含有黒鉛微粉(C1)を得た。
【0097】
「C2:人造黒鉛微粉」
昭和電工(株)製の人造黒鉛粉末ショーカライザーSをジェットミル(IDS2UR、日本ニューマチック(株)製)で微粉砕した。その後、分級により粒径を調整し、ターボクラシファイアー(TC15N、日清エンジニアリング(株)製)を用いて気流分級して、5μm以下の粒子を除去し、平均粒径23μmの人造黒鉛微粉(C2)を得た。
【0098】
「C3:天然黒鉛微粉」
BTR社製 商品名:SG18−0.95(平均粒径19μm)を用いた。
「C4:炭素繊維」
気相法炭素繊維(昭和電工社製。商品名:VGCF(登録商標)−H(平均繊維径0.15μm、繊維長10〜20μm))を用いた。
「C5:炭素繊維」
気相法炭素繊維(昭和電工社製。商品名:VGCF−X(平均繊維径0.015μm、繊維長3〜5μm))を用いた。
【0099】
「C6:ホウ素(0.03質量%)含有黒鉛微紛」
炭化ホウ素(BC)を9.5g(0.0095kg)加えたこと以外、C1と同様の方法で得た。得られた黒鉛微粉は、平均粒径20.5μm、B含有量が0.03質量%であった。
「C7:ホウ素(3.2質量%)含有黒鉛微紛」
炭化ホウ素(BC)を1.01kg加えたこと以外、C1と同様の方法で得た。得られた黒鉛微粉は、平均粒径20.5μm、B含有量が3.2質量%であった。
【0100】
(多孔質炭素材料EL1〜EL8)
「EL1」
平均繊維径16μmのポリアクリロニトリル樹脂繊維を空気中200〜300℃で耐炎化してなる耐炎化繊維の短繊維(長さ約70mm)をフェルト化し、目付量500g/m、厚み5.0mmの不織布を作製した。
該不織布を窒素ガス雰囲気で1000℃まで100℃/分の昇温速度で昇温し、その後アルゴンガス雰囲気に切り替えて1800℃まで昇温し、この温度で1時間保持することにより炭化し、冷却した。その後、炭化した不織布を酸素濃度7%の窒素ガス雰囲気下で600℃で20分熱処理し、平均繊維径16μm、嵩密度100kg/mの多孔質炭素材料(EL1)を得た。
【0101】
「EL2」
ポリアクリロニトリル樹脂(アルドリッチ社製)をN,N−ジメチルホルムアミドに溶解して、10質量%の溶液とした。得られた樹脂溶液を、エレクトロスピニング装置を用いて、電圧20kV、コレクターまでの距離10cmとして紡糸して、目付量0.75g/mとなるようにポリアクリロニトリル樹脂繊維を積層した。
続いて、得られたポリアクリロニトリル樹脂繊維を空気中200〜300℃で耐炎化してなる耐炎化繊維の短繊維(長さ約10mm)を用いてフェルト化し、目付量300g/m、厚み5.0mmの不織布を作成した。
【0102】
該不織布を窒素ガス雰囲気で1000℃まで100℃/分の昇温速度で昇温し、その後アルゴンガス雰囲気に切り替えて1800℃まで昇温し、この温度で1時間保持することにより炭化し、冷却した。その後、炭化した不織布を酸素濃度7%の窒素ガス雰囲気下で600℃で20分熱処理し、多孔質炭素材料(EL2)を得た。
得られた多孔質炭素材料(EL2)の平均繊維径は160nm、嵩密度は100kg/mであった。
【0103】
「EL3」
ポリアクリロニトリル樹脂のN,N−ジメチルホルムアミド溶液に替えて、昭和電工製フェノール樹脂(BRL−120Z)の10質量%水溶液を用いた他は、EL2と同様にして、目付量0.75g/mとなるようにフェノール樹脂繊維を積層した。
得られたフェノール樹脂繊維に対して加熱炉を用いて、加熱開始温度60℃とし、最初の1時間で65℃まで上昇させ、次の1時間で75℃まで上昇させ、更に1時間かけて95℃まで上昇させ、その後の1時間で150℃まで連続して温度を上昇させる熱処理を行って平均繊維径18μmの不溶不融のフェノール樹脂繊維を得た。
【0104】
このようにして得られたフェノール樹脂繊維を約60mmの短繊維に切断してフェルト化し、目付け量300g/m、厚み5.0mmの不織布を作成した。
該不織布を窒素ガス雰囲気で1000℃まで100℃/分の昇温速度で昇温し、その後アルゴンガス雰囲気に切り替えて1800℃まで昇温し、この温度で1時間保持することにより炭化し、冷却した。その後、炭化した不織布を酸素濃度7%の窒素ガス雰囲気下で600℃で20分熱処理し、多孔質炭素材料(EL3)を得た。
得られた多孔質炭素材料(EL3)の平均繊維径は200nm、嵩密度は100kg/mであった。
【0105】
「EL4」
ポリアクリロニトリル樹脂のN,N−ジメチルホルムアミド溶液に、0.01質量%のホウ酸を加えた他は、EL2と同様にして、耐炎化ポリアクリロニトリル短繊維からなる目付量500g/m、厚み5.0mmの不織布を得た。該不織布を、アルゴンガス雰囲気に切り替えた後、2500℃まで昇温した他はEL2と同様にして炭化した。炭化した不織布を冷却後、酸素濃度7%の窒素ガス雰囲気下で600℃で20分熱処理し、多孔質炭素材料(EL4)を得た。
得られた多孔質炭素材料(EL4)の平均繊維径は170nm、嵩密度は100kg/mであった。またEL4のホウ素含有量は1.2質量%であった。
【0106】
「EL5」
平均繊維径16μmのポリアクリロニトリル樹脂繊維を空気中200〜300℃で耐炎化してなる耐炎化繊維の短繊維(長さ約70mm)をフェルト化し、目付量5000g/m、厚み5.0mmの不織布を作成した。
該不織布を窒素ガス雰囲気で1000℃まで100℃/分の昇温速度で昇温し、その後アルゴンガス雰囲気に切り替えて1800℃まで昇温し、この温度で1時間保持することにより炭化し、冷却した。その後、炭化した不織布を酸素濃度7%の窒素ガス雰囲気下、600℃で20分熱処理し、平均繊維径16μm、嵩密度5000kg/mの多孔質炭素材料(EL5)を得た。
【0107】
「EL6」
平均繊維径7μmのポリアクリロニトリル樹脂繊維を空気中200〜300℃で耐炎化してなる耐炎化繊維の短繊維(長さ約70mm)をフェルト化し、目付量45g/m、厚み5.0mmの不織布を作成した。
該不織布をEL1と同様に炭化し、冷却後、熱処理して、平均繊維径7μm、嵩密度440kg/mの多孔質炭素材料(EL6)を得た。
【0108】
「EL7」
EL2と同様にして得られた耐炎化ポリアクリロニトリル繊維の短繊維(長さ約10mm)を用いてフェルト化し、目付量20g/m、厚み200μmの不織布を作成した。
該不織布をEL2と同様にして炭化し、冷却した。その後、炭化した不織布をPTFEディスパージョン水溶液へ浸漬し、60℃で乾燥後、酸素濃度7%の窒素ガス雰囲気下、360℃で60分熱処理し、5質量%PTFE溶液で撥水処理された多孔質炭素材料(EL7)を得た。
得られた多孔質炭素材料の平均繊維径は200nm、嵩密度は100kg/mであった。
【0109】
「EL8」
大阪ガスケミカル社製の商品名:LEP−205を用いた。この多孔質炭素材料(EL8)は、炭素繊維の接点が炭化されておらず、絡み合いのみで形成されている。またこの多孔質炭化材料(EL8)の平均繊維径は13μm、嵩密度は100kg/mであった。
【0110】
なお、多孔質炭素材料の嵩密度は、下記の方法で測定した。
多孔質炭素材料を、それぞれ50×50mmの正方形の打抜き刃によって切断し、50×50mm(公差±0.5)の試験片を作製した。得られた試験片の厚みを、23.5kPaの一定圧力で測定し、試験片の体積を求めた。また得られた試験片の質量を精度0.001gで測定した。測定により得られた試験片の質量を、試験片の体積で除し、嵩密度を計算した。
【0111】
(実施例1)
樹脂組成物P01 100質量部と炭素質材料C1 600質量部とを、同方向二軸押出機(KTX−30、神戸製鋼社製)を用いて、設定温度210℃、回転数400rpmの条件で、オープンヘッドの状態でコンパウンドして混合物とした。その後、単軸のシート押出機を用いて、設定温度200℃で混合物を押出成形し、縦200mm、横200mm、厚さ1.5mmのシート状の第1層を形成した(第1成形工程)。
【0112】
また、樹脂組成物P08 100質量部と、炭素質材料C1 300質量部およびC4 100質量部とを、第1層と同様にコンパウンドして混合物とし、押出成形して、縦200mm、横200mm、厚さ1.5mmのシート状の第2層を形成した(第2成形工程)。続いて、得られたシート状の第2層をロール圧延し、厚さ0.1mmのシート状の第2層とした。
【0113】
次に、シート状の第1層の両面に接してシート状の第2層を配置して、100×100×1.5mmの金型へ仕込み、50t熱プレスによって230℃、面圧20MPaで加圧しながら2分間加熱し、その後面圧20MPaをキープして60℃以下まで冷却した。このことにより、第1層に第2層が溶着され、第1層と、第1層の両面に接して配置された第2層とが一体化されてなる縦100mm、横100mm、厚み1.5mmの積層体を形成した。
【0114】
次に、積層体の両面に接して多孔質炭素材料EL1を配置して、熱プレスによって145℃、面圧3MPaで加圧しながら10分間加熱し、その後80℃以下まで冷却した。このことにより、第2層に第3層を溶着した。以上の工程により、実施例1のカーボン部材を得た。
【0115】
(実施例2)
実施例1と同様にして第1層となる混合物を製造し、引き続き、得られた混合物を二軸押出機のダイスで賦形して押し出すことにより、縦100mm、横100mm、厚み1.5mmのシート状の第1層を成形する工程を行った。
【0116】
表4に示す樹脂組成物および炭素質材料を、第1層と同様にして、第2層となる混合物とする工程と、縦100mm、横100mm、厚み1.5mmのシート状の第2層を成形する工程とを連続して行った。続いて、得られたシート状の第2層をロール圧延し、厚さ0.1mmのシート状の第2層とした。
得られたシート状の第1層およびシート状の第2層を用いた他は、実施例1と同様にして第1層、第2層および第3層を積層し、実施例2のカーボン部材を得た。
【0117】
(実施例3)
実施例1で製造した第1層となる混合物と、第2層となる混合物とを用いて、設定温度230℃で第1層と第2層とを共押出成形することにより、シート状の第1層の両面に接してシート状の第2層が配置され、第1層と第2層とが一体化されてなる縦100mm、横100mm、厚み1.5mmの積層体を形成した。
次に、得られた積層体の両面に、実施例1と同様にして、第3層となる多孔質炭素材料EL1を溶着した。以上の工程により、実施例3のカーボン部材を得た。
【0118】
(実施例4〜29)
表4〜表8に示す樹脂組成物、炭素質材料、多孔質炭素材料を用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例4〜29のカーボン部材を得た。
【0119】
(参考例1および2)
表8に示す樹脂組成物、炭素質材料、多孔質炭素材料を用い、溶着操作を行っていないこと以外は、実施例1と同様にして参考例1および2のカーボン部材を得た。
【0120】
(比較例1)
実施例1と同様にして、縦100mm、横100mm、厚さ1.5mmのシート状の第1層を形成した。
次に、シート状の第1層から縦20mm、横20mm、厚さ1.5mmのシート片を切り出した。
次に、シート片の両面に縦20mm、横20mm、厚さ1.5mmの表3に示す第3層を配置した。以上の工程により、比較例1のカーボン部材を得た。
【0121】
(比較例2)
実施例1と同様にして製造した、第1層となる混合物および第2層となる混合物を、それぞれ縦100mm、横100mm、厚さ1.3mmの金型へ仕込み、50t熱プレスによって230℃、面圧20MPaで加圧しながら2分間加熱し、その後面圧20MPaをキープして60℃以下まで冷却して、縦100mm、横100mm、厚み1.3mmのシート状の第1層および第2層を成形した。
【0122】
シート状の第1層と、シート状の第2層と、第3層となる多孔質炭素材料EL1をそれぞれ縦20mm、横20mmの大きさに切断して、第3層/第2層/第1層/第2層/第3層の順に積層した。以上の工程により、比較例2のカーボン部材を得た。
【0123】
(比較例3〜5)
表9に示す樹脂組成物、炭素質材料、多孔質炭素材料を用いたこと以外は、実施例1と同様にして比較例3〜5のカーボン部材を得た。
【0124】
(比較例6)
表9に示す材料を用いたこと以外は、実施例1と同様にして第1層の両面に第2層が溶着された積層体を形成した。
【0125】
次に、積層体の両面に接して第3層となる多孔質炭素材料EL1を配置して、熱プレスによって170℃、面圧3MPaで加圧しながら10分間加熱し、その後80℃以下まで冷却した。このことにより、第2層に第3層を溶着した。以上の工程により、比較例6のカーボン部材を得た。
【0126】
(比較例7)
表10に示す材料を用いたこと以外は、比較例6と同様にして比較例7のカーボン部材を得た。
【0127】
(比較例8)
表10に示す材料を用いたこと以外は、比較例1と同様にして、縦100mm、横100mm、厚さ1.5mmのシート状の第1層を形成した。
次に、シート状の第1層の両面に接して第3層となる多孔質炭素材料EL1を配置して、熱プレスによって170℃、面圧3MPaで加圧しながら10分間加熱し、その後80℃以下まで冷却した。このことにより、第1層に第3層を溶着した。以上の工程により、比較例8のカーボン部材を得た。
【0128】
(比較例9)
表10に示す材料を用いたこと以外は、実施例1と同様にして第1層となる混合物を得た。その後、単軸のシート押出機を用いて、設定温度200℃で混合物の押出成形を試みたが、混合物中の炭素質材料の含有量が多いため、圧力が上昇して押出すことができなかった。
【0129】
このため、第1層となる混合物を縦100mm、横100mm、厚さ1.5mmの金型へ仕込み、50t熱プレスによって230℃、面圧20MPaで加圧しながら2分間加熱し、その後面圧20MPaをキープして60℃以下まで冷却して、縦100mm、横100mm、厚み1.5mmのシート状の第1層を成形した。
【0130】
また、表10に示す材料を用いたこと以外は、実施例1と同様にして第2層となる混合物を得た。その後、実施例1と同様にして縦200mm、横200mm、厚さ1.5mmのシート状の第2層を形成した(第2成形工程)。続いて、得られたシート状の第2層をロール圧延し、厚さ0.1mmのシート状の第2層とした。
【0131】
次に、シート状の第1層の両面に接してシート状の第2層を配置して、実施例1と同様にして縦100mm、横100mm、厚み1.5mmの積層体を形成した。
次に、積層体の両面に接して表3に示す第3層を配置して、実施例1と同様にして、第2層に第3層を溶着した。以上の工程により、比較例9のカーボン部材を得た。なお、比較例9のカーボン部材では、第2層と第3層とは接合できなかった。
【0132】
(比較例10)
表10に示す材料を用いたこと以外は、実施例1と同様にして第1層となる混合物を得た。その後、実施例1と同様にして縦200mm、横200mm、厚さ1.5mmのシート状の第1層を形成した。
【0133】
表10に示す材料を用いたこと以外は、実施例1と同様にして第2層となる混合物を得た。その後、単軸のシート押出機を用いて、設定温度200℃で混合物の押出成形を試みたが、混合物中の炭素質材料の含有量が多いため、圧力が上昇して押出すことができなかった。
このため、第2層となる混合物を縦100mm、横100mm、厚さ1.5mmの金型へ仕込み、50t熱プレスによって230℃、面圧20MPaで加圧しながら2分間加熱し、その後面圧20MPaをキープして60℃以下まで冷却して、縦100mm、横100mm、厚み1.5mmのシート状の第2層を成形した。
【0134】
次に、シート状の第1層の両面に接してシート状の第2層を配置して、実施例1と同様にして縦100mm、横100mm、厚み1.5mmの積層体を形成した。
次に、積層体の両面に接して第3層となる多孔質炭素材料EL3を配置して、実施例1と同様にして、第2層に第3層を溶着しようとしたが、比較例10のカーボン部材では、第2層と第3層とは接合できなかった。
【0135】
このようにして得られた実施例1〜実施例29、参考例1および2、比較例1〜比較例10のカーボン部材をそれぞれ、以下に示す方法により貫通抵抗、曲げ特性、溶着性を評価した。その結果を表4〜表10に示す。
【0136】
(貫通抵抗)
図4は、貫通抵抗を測定する方法を説明するための説明図である。図4において符号11は定電流電源を示し、符号12はCIP材を示し、符号13はカーボン部材の試験片を示し、符号15は電圧計を示している。
【0137】
カーボン部材の貫通抵抗を測定するために、まず、カーボン部材から縦20mm、縦20mmの試験片13を切り出した。次いで、図4に示すように、試験片13を、縦30mm、横30mm、厚み2mmの2枚のCIP材12(IGS−744、新日本テクノカーボン社製)間に挟んで圧縮し、試験片13の最外層に配置されている第3層の厚みがそれぞれ3mmとなるようにした。その後、定電流電源11を用いて一定電流(1A)を流し、2枚のCIP材12間の電圧を、電圧計15を用いて測定し、以下に示す式を用いて貫通抵抗を算出した。
貫通抵抗=電圧×面積(4cm)/電流(mΩcm
【0138】
(曲げ特性)
曲げ特性として曲げ強度と曲げ歪みを測定した。曲げ強度および曲げ歪みは、島津製作所(株)製のオートグラフ(AG−10kNI)を用いて測定した。具体的には、縦80mm、横10mm、厚み4mmの試験片を作製し、JIS K6911法でスパン間隔64mm、曲げ速度1mm/minの条件で3点式曲げ強度測定法により測定した。
【0139】
(溶着性)
溶着性は、東洋精機製作所製のストログラフを用いて10mm/minの速度でカーボン部材の第3層を剥離した。その結果、凝集破壊したものを○、界面剥離したものを△、溶着していなかったもの(接合していなかったもの)を×とした。
【0140】
表4〜表10に示すように、実施例1〜実施例29は、いずれも曲げ強度が44MPa以上と高く、貫通抵抗が41mΩcm以下で優れた導電性を有し、溶着性の評価は○であった。
また、実施例2では、第1層となる混合物とする工程とシート状の第1層を成形する工程とを連続して行った。また、実施例2では、第2層となる混合物とする工程とシート状の第2層を成形する工程とを連続して行った。このことから、実施例2のカーボン部材は、容易に効率よく製造できた。
【0141】
また、実施例3では、第1層と第2層とを共押出成形して、第1層と第2層とが一体化されてなる積層体を形成した。このことから、実施例3のカーボン部材は、容易に効率よく製造できた。
炭素質材料として炭素繊維C5を含む実施例6〜実施例9、実施例12、実施例21、実施例22、実施例26、実施例27では、貫通抵抗が25mΩcm以下であり、非常に優れた導電性を有している。
また、多孔質炭素材料として、ホウ素を含むEL4を用いた実施例12、実施例26、実施例27は、貫通抵抗が15mΩcm以下であり、非常に優れた導電性を有している。
【0142】
参考例1、参考例2は溶着操作をしなかったため、表8に示すように、貫通抵抗が非常に高い値を示した。
比較例1、比較例2は溶着操作をしなかったため、表9に示すように、貫通抵抗が非常に高い値を示した。
また、比較例3は、第2層となる樹脂組成物としてMFRが低い高分子量バインダーを用いたため、溶着性が不充分であり、カーボン部材の第3層が剥離しやすかった。また、比較例3は、溶着性が不充分であるため、貫通抵抗が高かった。
【0143】
比較例4は、第1層となる樹脂組成物としてMFRが高い低分子量バインダーを用いたため、曲げ強度が低く、割れやすいものとなった。
比較例5は、第1層よりも第2層の融点が高く、さらに第1層となる樹脂組成物としてMFRが高い低分子量バインダーを用い、第2層となる樹脂組成物としてMFRが低い高分子量バインダーを用いている。このため、比較例5のカーボン部材は、溶着性が悪いものとなり、貫通抵抗が高く、曲げ強度も低かった。
【0144】
比較例6は、第1層と第2層との融点の差が小さいため、溶着性が悪く、貫通抵抗が高かった。
比較例7は、第1層よりも第2層の融点が高いため、溶着性が悪く、貫通抵抗が高かった。
【0145】
比較例8は、第2層がないものであるため、第1層と第3層とを溶着できず、貫通抵抗が高いものとなった。
比較例9は、第1層における炭素質材料の含有量が多すぎるため、第1層を押出成形できなかった。このため、生産性が悪かった。また、比較例9は、第1層における炭素質材料の含有量が多すぎるため、曲げ強度が低かった。
【0146】
比較例10は、第2層における炭素質材料の含有量が多すぎるため、第2層を押出成形できなかった。このため、生産性が悪かった。また、比較例10は、第2層における炭素質材料の含有量が多すぎるため、第2層と第3層とを溶着できなかった。また、比較例10は、第2層と第3層とを溶着できなかったため、貫通抵抗が高かった。
【0147】
<レドックスフロー実施例>
(実施例30)
図5に示すレッドクスフロー電池を形成し、以下に示す方法により、電極の圧力損失および内部抵抗を求め、評価した。
図5に示すレッドクスフロー電池は、隔膜24の両側にそれぞれ、隔膜24側から順に第3層3と第2層2と第1層1とが配置されてなるカーボン部材10aを有するセル20aを備えている。セル20aは、銅板28、28間に配置されている。2つのカーボン部材10aのうち一方の第3層3が正極として機能し、他方の第3層3が負極として機能する。また、第1層1が双極板本体として機能し、第2層2が双極板表面層として機能する。
【0148】
実施例30では、カーボン部材として、第3層の多孔質炭素材料を1×10cmの大きさとした他は、実施例1と同様に作製したものを用いて、図5に示すレッドクスフロー電池を形成し、60mA/cmで充放電評価した。
【0149】
なお、正極内には、正極用配管25を介して正極電解液を供給し、負極内には、負極用配管26を介して負極電解液を供給した。正極電解液および負極電解液としては、全バナジウム濃度が2モル/リットルで、全硫酸根濃度が4モル/リットルのものを用いた。
また、第3層の面積を10cmとし、隔膜としてナフィオン膜(N115:商品名、Dupont社製)を用いた。また、セルを組む際には、第3層である厚み5.0mmの多孔質炭素材料が、厚み4.0mmとなるように圧縮した。
【0150】
また、電極の圧力損失は、負極電解液の入り口と出口とにおける圧力の差により求めた。内部抵抗Rは、VM:無負荷電圧、VC:負荷時の端子電圧、I:導通電流として、下記の式により求めた。
R=|(VM−VC)/I|
【0151】
(実施例31)
第3層の多孔質炭素材料を1×10cmの大きさとした他は、実施例8と同様に作製したカーボン部材を用いて図5に示すレッドクスフロー電池を形成し、実施例30と同様にして充放電評価した。
(比較例11)
実施例30において第2層と第3層とを熱溶着せずにセルを組み立ててレッドクスフロー電池を形成し、充放電評価した。
【0152】
(参考例3)
比較例11において第3層の多孔質炭素材料を、EL5(参考例1の構成)に置き換えてレッドクスフロー電池を形成し、充放電評価した。
【0153】
(参考例4)
比較例11において第3層の多孔質炭素材料を、EL6(参考例2の構成)に置き換えてレッドクスフロー電池を形成し、充放電評価した。
【0154】
【表11】
【0155】
表11に電極の圧力損失および内部抵抗の評価結果を示す。
実施例30では、第1層から第3層を溶着により一体化しているため、比較例11と比べて内部抵抗が低い値を示した。また、実施例31は、第3層の多孔質炭素材料として、平均繊維径が0.16μmであるEL2を用いているため、さらに内部抵抗が低く、圧損も小さくなった。
一方、参考例3から、第3層の多孔質炭素材用の嵩密度が大きすぎると、極液の流れが阻害されて圧損が大きくなることがわかる。また、参考例4から、第3層の多孔質炭素材料の嵩密度が低すぎると、内部抵抗が大きくなることがわかる。
【0156】
<燃料電池実施例>
(実施例32)
図6に示す燃料電池の評価用セルを形成し、以下に示す方法により、評価用セルの発電特性を評価した。
図6に示す燃料電池の評価用セルは、カーボン部材10c以外のものについては日本自動車研究所(JARI)標準セルと同様のものである。
【0157】
図6に示す燃料電池の評価用セルは、MEA膜34の両側にそれぞれ、MEA膜34側から順に第3層3と第2層2と第1層1とが配置されてなるカーボン部材10cを有する単セル30aが備えられたものである。単セル30aは、集電板39、39の間に配置されている。2つのカーボン部材10cのうち一方の第3層3が第1ガス拡散層として機能し、他方の第3層3が第2ガス拡散層として機能する。また、第1層1がセパレータ本体として機能し、第2層2がセパレータ表面層として機能する。
【0158】
実施例32では、単セルとして、以下に示す方法により製造したものを用いた。
すなわち、実施例1と同様に作製したシート状の第1層を2枚重ね、同じく実施例1と同様に作製したシート状の第2層で挟み、JARI標準セルと同様の流路を成形加工できる230℃に加熱された金型へ挿入し、予熱5分後、圧縮成形機により圧力25MPaで圧縮して2分間保持した。その後、冷却プレスにて圧力25MPaで金型温度50℃まで冷却することにより、表面が第2層の樹脂組成物で覆われ、一方の面にJARI標準セルと同様の流路(幅1mm×山幅1mm×深さ1mm)が形成された厚み3mmのセパレータを成形した。
【0159】
次に、MEAの両面にそれぞれ第3層を重ねたものを、セパレータの流路の形成された側の面が第3層と対向するように配置した2枚のセパレータで挟み、熱プレスによって145℃、面圧2MPaで加圧しながら10分間加熱し、その後60℃以下まで冷却した。
このことにより、第2層に第3層を溶着して単セルとし、これを用いて評価用セルを形成した。
【0160】
なお、実施例32においては、表12に示すように、第3層として、SGL社製のガス拡散電極(以下GDL)(商品名SIGRACET:登録商標、標準マイクロポーラス(MPL)層付5wt%PTFE撥水化処理基材(厚み200μm、平均繊維径8μm、嵩密度250kg/m))を用いた。
また、MEA膜として、FC25−MEA PEFC(25cm)用スタンダードMEA:触媒量1mg/cmPt、20wt.%Pt/C触媒(東陽テクニカ社製)を用いた。
【0161】
【表12】
【0162】
(実施例33)
表12に示すように、第3層として、SGL社製GDLに替えてEL7を用いた他は、実施例32と同様にして評価用セルを製作した。
【0163】
(比較例12)
表12に示すように、シート状の第2層を用いず、シート状の第1層の2枚のみを金型に仕込んで作製した、第1層のみからなる厚み3mmのセパレータを用いた他は、実施例32と同様にして、GDLからなる第3層にセパレータ(第1層)を溶着しようとしたが、この条件では、第1層と第3層は溶着しなかった。
このため、第3層にセパレータを積層して単セルとし、これを用いて評価用セルを形成した。
【0164】
実施例32、33および比較例12で得られた評価用セルにおいて、面圧0.8MPa、及び0.3MPaとなるように締め付けた時の発電特性として、電圧と電流密度との関係を調べた。その結果を図7および図8に示す。
なお、発電特性を調べる際には、図6に示す評価用セルの第1ガス拡散層内に配管35を介して流量500ml/min一定の水素を供給し、第2ガス拡散層に配管36を介して流量2080ml/min一定の空気を供給し、配管35および配管36の出口側を大気開放して行った。また、評価用セルにラバーヒーターを貼り付けて温度調整を行って、セル温度80℃、アノード露点80℃、カソード露点70℃とした。
【0165】
図7および図8より、実施例32、33では、第2層に第3層を溶着したことで、比較例12と比較して、高い電圧となっており、発電特性が向上している。また、実施例33は、第3層の多孔質炭素材料として、平均繊維径が200nmであるEL7を用いているため、特に優れた発電特性が得られることがわかる。
また、実施例32、33では、第1層と第2層と第3層が溶着されて一体化されているため、締め付けの面圧に関わらず、優れた発電特性が得られている。これに対し、比較例12では、図8に示すように、セルの締め付けの面圧が0.3MPaである場合、図7に示す面圧が0.8MPaである場合と比較して、発電特性が低下している。
【符号の説明】
【0166】
1:第1層 2:第2層 3:第3層 10:カーボン部材 11:定電流電源 12:CIP材 13:試験片 15:電圧計 20:レドックスフロー電池 20a:セル 20a:セル 21:双極板本体 22:双極板表面層 23:電極 23a:正極 23b:負極 24:隔膜 25:正極用配管 26:負極用配管 27:双極板 28:銅板 30:燃料電池 30a:単セル 31:セパレータ本体 32:セパレータ表面層 33a:第1ガス拡散層 33b:第2ガス拡散層 34:MEA膜 37:セパレータ 38a:第1ガス流路 38b:第2ガス流路 39:集電板。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8