(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6265610
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】電気柵用ワイヤ支持具及び樹木を利用した電気柵装置
(51)【国際特許分類】
A01M 29/30 20110101AFI20180115BHJP
【FI】
A01M29/30
【請求項の数】15
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-60956(P2013-60956)
(22)【出願日】2013年3月22日
(65)【公開番号】特開2014-183779(P2014-183779A)
(43)【公開日】2014年10月2日
【審査請求日】2016年1月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000105844
【氏名又は名称】サージミヤワキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100119987
【弁理士】
【氏名又は名称】伊坪 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100151459
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 健一
(72)【発明者】
【氏名】落合 一彦
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 豊
【審査官】
大熊 靖夫
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭53−103600(JP,U)
【文献】
実開平01−067257(JP,U)
【文献】
実開昭54−161600(JP,U)
【文献】
特開2007−214023(JP,A)
【文献】
特開2004−121119(JP,A)
【文献】
米国特許第04111400(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 1/00−99/00
A01K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹木(1)の幹部(2)を利用して樹木間に掛け渡されている通電可能なワイヤ(5)を、前記樹木(1)の幹部(2)から離間させて保持する電気柵用ワイヤ支持具(4)であって、
前記幹部(2)に取り付けられる絶縁部材製の本体(10)を備え、
前記本体(10)には、前記幹部(2)に打ち込まれて取り付けられる硬質合成樹脂製の釘部材(3)を挿通するための挿通孔(14)と、前記ワイヤ(5)が前記幹部(2)の上下方向に移動しないように形成された溝(12)とを備え、
前記本体(10)が筒状体であり、
前記溝(12)は前記本体(10)が前記釘部材(3)に取り付けられた状態で、前記幹部(2)から遠い側の端部(15)の対向位置に前記幹部(2)に向かって設けられており、
前記溝(12)の各個の底部には、前記ワイヤ(5)の前記幹部(2)の上下方向への移動を規制するワイヤ孔(11)が設けられており、
前記挿通孔(14)の直径は前記釘部材(3)の直径よりも大きく、前記挿通孔(14)の直径から前記ワイヤ孔(11)の直径を引いた長さの半分が前記釘部材(3)の直径よりも小さく形成され、
前記ワイヤ孔(11)に前記ワイヤ(5)が保持された状態では、前記ワイヤ(5)によって前記釘部材(3)が前記挿通孔(14)の内周面に押し付けられることを特徴とする電気柵用ワイヤ支持具。
【請求項2】
前記ワイヤ孔(11)の直径と前記溝(12)の幅が等しく形成され、前記溝(12)は前記本体(10)の長手方向において前記ワイヤ孔(11)に滑らかに接続していることを特徴とする請求項1に記載の電気柵用ワイヤ支持具。
【請求項3】
前記ワイヤ孔(11)の直径と前記溝(12)の幅が等しく形成され、前記溝(12)の軸線は前記本体(10)の長手方向において前記ワイヤ孔(11)の中心に対してオフセットされた位置にあることを特徴とする請求項1に記載の電気柵用ワイヤ支持具。
【請求項4】
前記ワイヤ孔(11)には前記端部(15)方向に延伸された、前記溝(12)とは別の逃げ溝(13)が設けられていることを特徴とする請求項3に記載の電気柵用ワイヤ支持具。
【請求項5】
前記ワイヤ孔(11)と前記溝(12)の組が、前記本体(10)の軸線に直交する方向に、放射状に複数組設けられていることを特徴とする請求項2記載の電気柵用ワイヤ支持具。
【請求項6】
前記本体(10)の断面形状が、円形または多角形状であることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の電気柵用ワイヤ支持具。
【請求項7】
電気柵用ワイヤ支持具(4)は、前記端部(15)と反対側の端部(16)と前記幹部(2)との間に挿入され、前記端部(16)の外形よりも大きな外形を備えた板状の保護板(20)を備えており、
前記保護板(20)には前記釘部材(3)が挿通される釘部材挿通孔(21)が設けられていることを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の電気柵用ワイヤ支持具。
【請求項8】
前記保護板(20)に設けられる前記釘部材挿通孔(21)の中心は、前記保護板(20)の中心からオフセットされた位置にあることを特徴とする請求項7に記載の電気柵用ワイヤ支持具。
【請求項9】
前記保護板(20)は、前記本体(10)と一体的に形成されていることを特徴とする請求項7または8に記載の電気柵用ワイヤ支持具。
【請求項10】
前記保護板(20)は、前記ワイヤ(5)の延伸方向に対して湾曲していることを特徴とする請求項9に記載の電気柵用ワイヤ支持具。
【請求項11】
前記保護板(20)は、前記保護板(20)の湾曲度合を示す曲率半径が異なるものが複数種類用意されていることを特徴とする請求項10に記載の電気柵用ワイヤ支持具。
【請求項12】
前記保護板(20)がゴム部材から構成されており、前記本体(10)の前記幹部(2)への取付時に、前記端部(16)から前記本体(10)への水の侵入を防止することを特徴とする請求項7または8に記載の電気柵用ワイヤ支持具。
【請求項13】
電気柵用ワイヤ支持具(4)は、前記端部(15)に取り付けられて、前記端部(15)から前記本体(10)への水の侵入を防止する防水キャップ(40)を備えていることを特徴とする請求項12に記載の電気柵用ワイヤ支持具。
【請求項14】
林野において、所定の領域を取り囲むように樹木(1)の幹部(2)に所定の張力で掛け渡される導電性のワイヤ(5)と、
前記ワイヤ(5)に高電圧を供給する高電圧発生装置(50)、及び
前記ワイヤ(5)が掛け渡された前記幹部(2)の、前記ワイヤ(5)の係止部分の近傍に前記釘部材(3)によって取り付けられ、前記ワイヤ(5)を前記幹部(2)から引っ張って前記溝(12)内に移動させて保持することが可能な請求項1から13の何れか1項に記載の電気柵用ワイヤ支持具(4)とを備えることを特徴とする樹木を利用した電気柵装置。
【請求項15】
前記ワイヤ(5)を掛け渡して形成する前記領域以外の領域にある前記幹部(2)にも前記ワイヤ(5)を貼り巡らして別の領域を形成しておき、
前記別の領域に貼り巡らした前記ワイヤ(5)に対して、通電しない状態で前記幹部(2)の近傍に前記電気柵用ワイヤ支持具(4)を取り付け、前記ワイヤ(5)を新たに取り付けた前記電気柵用ワイヤ支持具(4)に保持させて通電することにより、前記導電ワイヤ(5)を掛け渡して形成する領域を変更することが可能な請求項14に記載の電気柵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気柵用ワイヤ支持具及び樹木を利用した電気柵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、野山、特に里山において野生動物の生息数が急増し、山に生えた下草や木の実等を食い荒らすと共に、山に餌がなくなると、里山に近接する農村部に現れて農作物を食い荒らすので、営農が困難になった農家が続出している。野生動物の多くは、昼間は山に身を潜め、夜間になると里に下りて来る傾向が強い。農家では野生動物による農産物の被害を防ぐために、山際に各種フェンスを設置している。フェンスは地中に所定距離を隔てて埋めたポール間に網を張るものであるが、丈夫で耐久性のあるフェンスは施工性が悪く、反対に施工性が良いフェンスは耐久性が劣るという問題があった。また、フェンスは地中にポールを埋め、ポール間に網を張り巡らして行くので、コストが高かった。そこで、設置コストが安く、施工性が良く、しかも耐久性のあるフェンスが望まれている。
【0003】
このような山際に設置する野生動物の侵入防止用のフェンスに対して、特許文献1に森や林に生えている樹木を利用した野生動物の侵入防止用の牧柵用架線支持具が提案されている。特許文献1に提案の技術は、林や森の中に生える樹木の幹を杭として使用し、幹に硬質合成樹脂製の200〜300mmの長さを備えた釘に金属製の架線張設用金具を取り付け、この金具にある輪穴に架線(以後架線はワイヤという)を通して牧柵とするものである。特許文献1には、釘に絶縁性を持たせれば、ワイヤに高電圧を印加して動物を撃退する電気柵にも応用できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平1−67257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1に開示の牧柵を電気柵として使用する場合、ワイヤを挿通させる金具の形状から、樹脂製の紐にステンレス等の導線部を編み込んだ簡易型の電気柵用ワイヤしか利用できず、この簡易型の電気柵用ワイヤの強度が弱いために山中での使用では切断の虞があった。即ち、簡易型の電気柵用ワイヤを山中で使用すると、樹木からの枝の落下や倒木によって切断される可能性が高かった。また、特許文献1の
図4に記載の形状の支持具では、ワイヤが引っ張られた時に
図5のように変形する問題があった。
【0006】
本発明はこのような前記従来の電気柵用のワイヤ及びワイヤ支持具に特有の課題を解消し、施工が容易であると共に、耐久性に優れる強度の強いワイヤを使用することができ、且つワイヤ張設後の引っ張り力に対しても耐えることができる電気柵用ワイヤ支持具を提供することを目的とする。更に、本発明は、このような電気柵用ワイヤ支持具を樹木に取り付け、通電可能なワイヤを張設することができる樹木を利用した電気柵装置を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成する本発明の実施形態の一観点によれば、樹木の幹部を利用して樹木間に掛け渡されている通電可能なワイヤを、樹木の幹部から離間させて保持する電気柵用ワイヤ支持具であって、幹部に取り付けられる絶縁部材製の本体を備え、本体には、幹部に打ち込まれて取り付けられる硬質合成樹脂製の釘部材を挿通するための挿通孔と、ワイヤが幹部の上下方向に移動しないように形成された溝とを備えることを特徴とする電気柵用ワイヤ支持具が提供される。
【0008】
また、前記目的を達成する本発明の実施形態の他の観点によれば、林野において、所定の領域を取り囲むように樹木の幹部に所定の張力で掛け渡される導電性のワイヤと、ワイヤに高電圧を供給する高電圧供給装置、及びワイヤが掛け渡された幹部の、ワイヤの係止部分の近傍に釘部材によって取り付けられ、ワイヤを幹部から引っ張って溝内に移動させて保持することが可能な電気柵用ワイヤ支持具とを備えることを特徴とする樹木を利用した電気柵装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電気柵用ワイヤ支持具によれば、山における電気柵の施工が容易であると共に、耐久性に優れる強度の強いワイヤを使用することができ、更に、ワイヤ張設後の引っ張り力に対しても耐えることができるという効果がある。また、本発明の樹木を利用した電気柵装置によれば、施工が容易であり、耐久性に優れ、ワイヤの張り替えによる柵の移動が簡単に行えるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】(a)は本発明の電気柵用ワイヤ支持具を用いてワイヤが張り巡らされた林間の状態を示す説明図、(b)は本発明の第1の実施例の電気柵用ワイヤ支持具を樹木の幹部に取り付ける作業を示す組立斜視図、(c)は(b)の手順にて樹木に取り付けられた第1の実施例の電気柵用ワイヤ支持具を示す斜視図である。
【
図2】(a)は本発明の第1の実施例の電気柵用ワイヤ支持具の斜視図、(b)は(a)に示した第1の実施例の電気柵用ワイヤ支持具に釘部材を相通した状態を示す正面図、(c)は(b)に示した第1の実施例の電気柵用ワイヤ支持具が釘部材によって樹木に取り付けられ、ワイヤが支持された状態を示す正面図、(d)は本発明の第1の実施例の変形例の電気柵用ワイヤ支持具の斜視図である。
【
図3】(a)は本発明の第2の実施例の電気柵用ワイヤ支持具の正面図、(b)は(a)に示した電気柵用ワイヤ支持具の変形例の正面図、(c)は本発明の第1の実施形態の第3の実施例の電気柵用ワイヤ支持具の正面図、(d)は(c)に示した電気柵用ワイヤ支持具の変形例の正面図である。
【
図4】(a)は
図2(c)に示した第1の実施例の電気柵用ワイヤ支持具を側面から見た側面図、(b)は(a)に示した電気柵用ワイヤ支持具と樹木との間に保護板を挿入した第1の実施例の変形例の側面図である。
【
図5】(a)は
図4(b)に示した保護板の斜視図及び断面図、(b)は
図4(b)に示した保護板の別の形態の斜視図及び断面図である。
【
図6】(a)は
図4(b)に示した電気柵用ワイヤ支持具と樹木との間に挿入した保護板をゴム材を使用したシール板とし、更に電気柵用ワイヤ支持具の自由端部側に防水キャップを取り付けた第1の実施例の別の変形例の側面図、(b)は(a)に示した保護板の斜視図、(c)は(a)に示した防水キャップの一実施例の斜視図、(d)は(c)に示した防水キャップの側面図である。
【
図7】(a)は本発明の第4の実施例の電気柵用ワイヤ支持具の斜視図、(b)は(a)に示した2つの電気柵用ワイヤ支持具を同じ向きに重ねて使用する実施例を示す斜視図、(c)は(a)に示した2つの電気柵用ワイヤ支持具を向い合わせて重ねた実施例を示す斜視図である。
【
図8】(a)は本発明の第5の実施例の電気柵用ワイヤ支持具の斜視図、(b)は(a)に示した電気柵用ワイヤ支持具を2つ同じ向きに重ねて使用する実施例を示す斜視図、(c)は(a)に示した電気柵用ワイヤ支持具を2つ向い合わせて重ねた実施例を示す斜視図である。
【
図9】(a)は本発明の第6の実施例の電気柵用ワイヤ支持具の側面図、(b)は(a)に示した電気柵用ワイヤ支持具の変形例の側面図である。
【
図10】(a)は本発明の第7の実施例の電気柵用ワイヤ支持具の斜視図、(b)は(a)に示した電気柵用ワイヤ支持具の変形例の斜視図、(c)は(a)に示した電気柵用ワイヤ支持具の更に別の変形例の斜視図である。
【
図11】(a)は本発明の第8の実施例の電気柵用ワイヤ支持具の正面図、(b)は(a)に示した電気柵用ワイヤ支持具の側面図、(c)は第8の実施例の電気柵用ワイヤ支持具の使用状態を示す平面図である。
【
図12】(a)は本発明の電気柵用ワイヤ支持具を用いて山に電気柵で囲まれた領域を形成した状態を示す平面図、(b)は本発明の電気柵用ワイヤ支持具を用いて山に電気柵で囲まれた領域を移動した状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を用いて本出願の実施の形態を、具体的な実施例に基づいて詳細に説明する。
【0012】
図1(a)は本発明の電気柵用ワイヤ支持具を用いて導電ワイヤ5が張り巡らされた林間の状態を示すものである。導電ワイヤ5は、樹木1の幹部2に打ち込まれた釘部材3に取り付けた本発明の電気柵用ワイヤ支持具4に保持させることによって、簡単に樹木間に掛け渡すことができ、導電ワイヤ5(以後単にワイヤ5と記す)で囲まれた領域を作ることができる。この釘部材3に取り付ける本発明の電気柵用ワイヤ支持具4の実施の形態を以下に、いくつかの実施例に基づいて説明する。
【0013】
図1(b)は本発明の電気柵用ワイヤ支持具4の第1の実施例を、硬質合成樹脂製の釘部材3を用いて樹木の幹部2に取り付ける作業を示すものである。樹木の幹部2には予めワイヤ5が所定の張力で掛け渡されているものとする。この状態において、釘部材3をワイヤ5が係止されている幹部2の近傍に打ち込む。釘部材3は長いので、この時図示のように、釘部材3が電気柵用ワイヤ支持具4に挿入されていても良い。
【0014】
図1(b)に示すのは本発明の第1の実施例の電気柵用ワイヤ支持具4であり、筒状の本体10を備える。本体10は、
図2(a)にその単体の形状を詳しく示すが、所定の肉厚を備えた筒状体であり、釘部材3を挿通するための挿通孔14を備える。そして、本体10には、釘部材3に取り付けられた状態で、幹部2から遠い側の端部15の近傍に、ワイヤ5を貫通させるための2つのワイヤ孔11と、ワイヤ5を端部15側からワイヤ孔
11に導く溝12とが設けられている。第1の実施例では、ワイヤ孔11の直径と溝12の幅が等しく形成され、溝12は本体10の長手方向においてワイヤ孔11と滑らかに接続している。通常は、樹木の幹部2に先に釘部材3を打ち込んで固定し、釘部材3に本体10の挿通孔14を挿入する。
【0015】
樹木の幹部2に釘部材3が打ち込まれて固定され、釘部材3に電気柵用ワイヤ支持具4が取り付けられると、
図1(a)に示した幹部2に掛け渡されていたワイヤ5を、幹部2から引き上げ、釘部材3に取り付けられた電気柵用ワイヤ支持具4の溝12に挿入する。この状態が
図1(c)に示される。ここで、本発明の第1の実施例における本体10の、釘部材3の直径に対する挿通孔14の内径、ワイヤ孔11及び溝12の位置と、本体10で保持するワイヤ5の状態について
図2(b)、
図2(c)及び
図4(a)を用いて説明する。
【0016】
図2(b)に示すように、本体10の、挿通孔14の内径をA、釘部材3の直径をB,ワイヤ孔11の直径をaとし、ワイヤ5の直径をDとする。次に、対向するワイヤ孔11の中心を結ぶ線をCとし、線Cは挿通孔14の中心を通るものとする。挿通孔14の内径Aは、釘部材3を挿通するために、釘部材3の直径Bよりも大きく、ワイヤ孔11の直径aはワイヤ5の直径Dよりも大きい。一方、挿通孔14の内径Aを大きくし過ぎると、2つのワイヤ孔11の間を貫通するワイヤ5が釘部材3と接触しなくなり、ワイヤ5が張設後に2つのワイヤ孔11の間で動いてしまい、損傷する可能性がある。
【0017】
そこで、第1の実施例では、挿通孔14の直径Aからワイヤ孔11の直径aを引いた長さの半分の長さ(A−a)/2が釘部材3の直径Bよりも小さく形成した。また、2つのワイヤ孔11の直径aの半分の長さa/2を、ワイヤ5の直径Dよりも小さくした。この結果、2つのワイヤ孔11の間に直径Dのワイヤ5が保持された状態では、ワイヤ5によって釘部材3が挿通孔14の内周面に押し付けられる。このため、2つの樹木の地上から同じ高さ位置に本体10を取り付け、ワイヤ5を水平に張った状態では、ワイヤ5は釘部材3から押し上げられる状態になるので、2つの樹木の間でワイヤ5がバタつかない。
【0018】
図4(b)は
図4(a)に示した本体10と樹木の幹部2との間に、保護板20を挿入した第1の実施例の変形例を示す側面図である。
図4(a)に示すように、幹部2に直接本体10を取り付けた場合は、本体10の幹部2側の端部16の形状は円形であるので、ワイヤ5が幹部2側に引っ張られた場合に、本体10の端部16による押圧力により、幹部2が傷つく可能性がある。変形例はこれを防止するものであり、本体10の幹部2側の端部16と幹部2との間に、本体10の端部16の外形よりも大きな外形を備えた板状の保護板20を挿入したものである。保護板20により、本体10の端部16による幹部2側への押圧力が分散されるので、幹部2が損傷しなくなる。
【0019】
なお、実施可能な本体10では、挿通孔14の内径A=20mm、釘部材3の直径B=10mm,ワイヤ孔11の直径a=7mmとし、ワイヤ5の直径D=5mmとすることができる。また、本体10の全長は用途に合わせて適宜定めることが可能である。本体10の全長を長くすれば、ワイヤ5を樹木から離して保持することができる。
【0020】
図5(a)は、
図4(b)に示した保護板20の斜視図及び断面図である。この実施例の保護板20にはその中央部に釘部材挿通孔21が設けられている。また、
図5(b)は、
図4(b)に示した保護板20の変形例の保護板20Aの斜視図及び断面図である。変形例の保護板20Aでは、釘部材挿通孔21の周囲に盛り上がり部22が設けられており、本体10の位置決めがやり易くなっている。
【0021】
また、
図2(a)に示した第1の実施例の本体10では、ワイヤ孔11の直径と溝12の幅が同じであったが、溝12は、
図2(d)に示すように、端部15側の幅をワイヤ孔11側の幅よりも広く形成して、ワイヤを挿入し易くすることが可能である。
【0022】
更に、第1の実施例では本体10の断面形状が円形であったが、本体10の断面形状を多角形状にすることができる。
図3(a)は本体10の断面形状を三角形状にした第2の実施例の本体10を示している。また、
図3(a)に示す第2の実施例では、断面が三角形状の本体10の頂点側を下側にしているが、
図3(b)に示す変形例のように、頂点を下側にした変形例が可能である。
【0023】
これに加えて、
図3(c)は本体10の断面形状を四角形とした第3の実施例を示している。
図3(c)は本体10の断面形状を四角形状にし、対角線が水平方向と垂直方向を向けて使用する実施例を示している。また、
図3(c)に示す第3の実施例では、対角線を水平方向と垂直方向にしているが
図3(d)に示す変形例のように、各辺を水平方向と垂直方向を向けて使用する変形例が可能である。
【0024】
第2と第3の実施例においても、本体10に設けたワイヤ孔11と溝12、及び挿通孔14に挿通される釘部材3の寸法を考慮し、2つのワイヤ孔11の間にワイヤ5が保持された状態では、ワイヤ5によって釘部材3が挿通孔14の内周面に押し付けられるようにすることができる。
【0025】
図6(a)は第1の実施例の別の変形例を示すものであり、
図4(b)に示した電気柵用ワイヤ支持具と樹木との間に挿入した保護板20をゴム材を使用したシール板20Rとしたものである。更に、
図6(a)に示す変形例では、電気柵用ワイヤ支持具4の端部15側にゴム材で形成された防水キャップ40を取り付け、本体10内に外部から水が浸入しないようにしている。これは、本体10内に水が浸入すると、ワイヤ5に印加されていいる高い電圧が本体10を通じて漏電する可能性があるからである。
図6(b)は
図6(a)に示したシール板20Rを示しており、釘部材挿通孔21がシール板20Rの中心からオフセットされた位置に設けられている。また、水分がシール板20R側に行き難くするために、本体10の外側にフランジや庇を設けることも可能である。
【0026】
また、
図6(c)は
図6(a)に示した防水キャップ40の一実施例の構造を示す斜視図であり、
図6(d)は
図6(a)に示した防水キャップ40の側面図である。防水キャップ40は、釘部材3を挿通する釘部材挿通孔41、スカート部42、脚部43、ワイヤ挿通スリット44、ワイヤ保持孔45及びスリット46を備えている。スカート部42はその内周面が本体10の端部に密着する。脚部43は対向位置に2つ設けられており、本体の端部16方向に延伸され、その長さは、防水キャップが端部15に被せられた時に、本体10のワイヤ孔11を完全に覆う長さである。脚部43の先端部にはワイヤ挿通スリット44が設けられており、ワイヤ孔11に重なる位置にワイヤ保持孔45及びスリット46が設けられている。防水キャップ40はワイヤ5が本体10に保持された後に、端部15に嵌められ、ワイヤ挿通スリット44を介してワイヤ5がワイヤ保持孔45にはめ込まれることにより、本体10の内部への端部15側からの水の侵入を防止する。
【0027】
図7(a)は本発明の第4の実施例の本体10Sを示すものである。第4の実施例の本体10Sでは、その全長を第1の実施例の本体10の半分程度としている。第4の実施例の本体10Sは、
図7(b)に示すように、同じ向きに重ねることにより、第1の実施例の本体10と同様に使用することができる。また、
図7(c)に示すように、溝12同士を向い合せて重ねることにより、ワイヤの樹木の幹部からの高さを半分にし、更に、ワイヤ5が本体10Sから抜け難くすることができる。
【0028】
図8(a)は本発明の第5の実施例の本体10Hの構造を示す斜視図であり、全長は第2の実施例の本体10Sと同じになっている。第4の実施例の本体10Sでは一方の端部15にワイヤ孔11と溝12の組が対向する位置に設けられているだけであった。一方、第5の実施例の本体10Hでは、一方の端部15にワイヤ孔11と溝12の組が、本体10Hの軸線に直交する方向に、放射状に複数組(第5の実施例では2組)設けられている。第5の実施例の本体10Hも、第4の実施例の本体10Sと同様に、
図8(b)に示すように2つ同じ向きに重ねて使用することも、
図8(c)に示すように2つ向い合わせて重ねて使用することも可能である。なお、一方の端部15に設けるワイヤ孔11と溝12の組の数はこれらの実施例に限定されるものではない。また、ワイヤ孔11と溝12の組の数も偶数ではなく、奇数でも良い。
【0029】
図9(a)は、本発明の第6の実施例の本体10Fの構造を示す側面図である。第1から第5の実施例の本体10,10S,10Hでは、ワイヤ孔11の軸線と溝12の軸線が同じ位置にあり、溝12は本体10の長手方向においてワイヤ孔11と滑らかに接続している。一方、第6の実施例の本体10Fでは、ワイヤ孔11の直径と溝12の幅は等しく形成されているものの、溝12の軸線は本体10Fの長手方向においてワイヤ孔11の中心に対してオフセットされた位置にある。このため、第6の実施例の本体10Fでは、ワイヤ孔11に挿入されたワイヤ(図示省略)が端部15方向に引っ張られた場合でも、ワイヤが溝12の方向に移動せず、ワイヤが本体10Fから外れ難い。
【0030】
図9(b)は
図9(a)に示した第6の実施例の本体10Fの変形例を示すものである。変形例の本体10Fでは、ワイヤ孔11に、溝12とは別の、端部15方向に延伸された逃げ溝13が設けられている。このため、第6の実施例の変形例の本体10Fでは、ワイヤ孔11に挿入されたワイヤが端部15方向に引っ張られた場合は、ワイヤが逃げ溝13方向に移動する。このため、ワイヤの少々の変動は逃げ溝13内で納めることができ、ワイヤが本体10Fから外れ難い。
【0031】
図10(a)は、本発明の第7の実施例を示すものであり、
図4(b)で説明した保護板20が本体10と一体になった保護板付支持具30を示している。
図10(a)に示す第7の実施例では保護板付支持具30が筒状部31と保護板部32とから構成されている。筒状部31の構造は第1の実施例の本体10の構造と同じであるので、ここではその説明を省略する。第7の実施例の保護板付支持具30では、釘部材3を挿通する釘部材挿通孔21が保護板部32の中央部に設けられている。
【0032】
図10(b)は、
図10(a)で説明した本発明の第7の実施例の変形例の保護板付支持具30の構成を示すものである。
図10(b)に示す変形例でも、保護板付支持具30は筒状部31と保護板部32とから構成されている。筒状部31の構造は第1の実施例の本体10の構造と同じであるので、ここではその説明を省略する。変形例の保護板付支持具30では、釘部材3を挿通する筒状部31が保護板部32の中央部に設けられている点が
図10(a)で説明した本発明の第5の実施例の保護板付支持具30と異なる。
【0033】
図10(c)は本発明の第7の実施例の更に別の変形例の保護板付支持具30Aの構成を示すものである。この変形例の保護板付支持具30Aでも、保護板付支持具30Aは筒状部31と保護板部32Aとから構成されている。筒状部31の構造は第1の実施例の本体10の構造と同じであるので、ここではその説明を省略する。一方、変形例の保護板部32Aは、第7の実施例と異なり、その外形が矩形である。筒状部31は保護板部32Aの中央部に設けられている。変形例の保護板付支持具30Aが第7の実施例の保護板付支持具30と異なる点は、保護板部32Aの形状が矩形であると共に、保護板部32Aがワイヤ孔11に保持されるワイヤ5の延伸方向に対して湾曲している点である。
【0034】
保護板部32Aの湾曲方向は保護板付支持具30が取り付けられる樹木の幹部の湾曲形状に一致させることができる。変形例の保護板付支持具30Aは、取り付ける樹木の幹部の湾曲形状に合わせて、保護板部32Aの湾曲度合
を示す曲率半径が異なるものを複数種類用意することが可能である。また、変形例の保護板付支持具30Aは、保護板部32Aを柔軟な部材から構成して、第6の実施例の保護板付支持具30Aの樹木への取付時に、保護板部32Aが樹木の直径に合わせて変形するようにしても良い。
【0035】
図11(a)は本発明の第8の実施例の電気柵用ワイヤ支持具4の正面図であり、
図11(b)は
図11(a)に示した電気柵用ワイヤ支持具4の側面図である。第8の実施例の電気柵用ワイヤ支持具4は、本体10が円板を湾曲させ形状であり、中央部に釘部材挿通孔21を備える。また、本体10の突状の端面17(幹部2から遠い側の端面17)には、本体10が釘部材3によって幹部2取り付けられた状態で、ワイヤ5の延伸方向に平行に少なくとも1条の溝12、本実施例では4状の溝12が設けられている。端面17に形成される溝12の数は特に限定されない。
図11(c)は第8の実施例の電気柵用ワイヤ支持具4の使用状態を示すものである。電気柵用ワイヤ支持具4は釘部材3によって幹部2に取り付けられ、予め幹部2に掛け渡されていたワイヤ5が電気柵用ワイヤ支持具4の溝12内に移されると、
図11(c)に示す状態になる。
【0036】
図12(a)は樹木1が生えた林野に本発明の電気柵用ワイヤ支持具4と釘部材3とを用いてワイヤ5を張り巡らし、ワイヤ5で囲まれた領域R1を形成し、ワイヤ5に高電圧発生装置50から高電圧を印加して電気柵装置8を形成した状態を示すものである。ワイヤ5は領域R1を囲むように樹木1に掛け渡された後に、高電圧発生装置50に接続される。ワイヤ5に通電を行わない状態で、ワイヤ5が係止された樹木1のワイヤ係止部の近くに釘部材3を打ち込み、打ち込んだ釘部材3に本発明の電気柵用ワイヤ支持具4を取り付ける。そして、樹木1に係止されているワイヤ5を樹木1から離す方向に引っ張り、縦方向に移動させて電気柵用ワイヤ支持具4の溝12にワイヤ5を落とし込む。この実施例では、ワイヤ5を保持させない釘部材3には、電気柵用ワイヤ支持具4を取り付けていない。
【0037】
このような電気柵装置8の中には、例えば鹿等を放牧しておく。鹿は林野においてまず下草を食べ、下草が無くなると樹木に生える木の実を食べることが知られている。鹿が下草を食べる分には都合が良いが、木の実まで食べられると、林業に影響が生じる。そこでまず、電気柵用ワイヤ支持具4とワイヤ5を用いて、
図12(a)に示すような領域R1を作ってこの中に鹿を追い込んで下草を食べさせる。そして、下草が無くなった状態で、
図12(b)に示すように、ワイヤ5を別に張って領域R2を作る。そして、領域R1の時と同様に、ワイヤ5に通電しない状態で樹木1のワイヤ係止部の近くに釘部材3を打ち込んで電気棚用ワイヤ支持具4を取り付けてワイヤ5を保持させる。その後、鹿を領域R2に移すことにより、鹿が木の実を食べてしまう被害を防げる。鹿が領域R2に移った後の領域R1のワイヤ5と釘部材3は取り外せば良い。
【0038】
以上説明した電気柵装置8に使用されるワイヤ5としては、直径が1.6mm、2.0mm及び2.5mmの高張力鋼線を用いることができ、ワイヤ5を樹木間に掛け渡す際の引っ張り張力は800N/mm
2以上が可能である。そして、ワイヤ5を破断強度の70%の強さで樹木間に掛け渡した場合、全長に対して2%以上の長さまで伸長するので、樹木間に掛け渡したワイヤ5を引っ張って伸ばし、本発明のワイヤ支持具の溝まで移動させることが可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 樹木
2 幹部
3 釘部材
4 電気柵用ワイヤ支持具
5 ワイヤ(導電ワイヤ)
10 本体
11 ワイヤ孔
12 溝
13 逃げ溝
20 保護板
20R シール板
30 保護板付板状部材
31 筒状部
32 保護板部
33 係止突起
40 防水キャップ