(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
所定周期で周波数が変わる送信信号と、該送信信号に基づく送信波の物標での反射波を受信した受信信号との差分周波数から得られるピーク信号を前記送信信号の周波数が上昇する第1期間と周波数が下降する第2期間とで抽出し、該抽出したピーク信号に基づいて物標の情報を導出するレーダ装置であって、
前回得られたピーク信号に基づいて、今回のピーク信号を予測したピーク信号を導出する予測手段と、
前記第1期間及び第2期間の各々で、前記予測したピーク信号を基点とした所定の周波数の範囲内に含まれるピーク信号を抽出する抽出手段と、
前記第1期間で抽出したピーク信号と第2期間で抽出したピーク信号とをペアリングするペアリング手段と、を備え、
前記ペアリング手段は、前記各期間で抽出したピーク信号の数に応じて、ペアリング方法を変え、前記第1期間及び第2期間のうちの一方の期間で抽出されたピーク信号の数が複数であり、他方の期間で抽出されたピーク信号の数が1である場合には、前記一方の期間で抽出したピーク信号のうちの最も周波数の低いピーク信号と、他方の期間で予測したピーク信号とをペアリングすることを特徴とするレーダ装置。
所定周期で周波数が変わる送信信号と、該送信信号に基づく送信波の物標での反射波を受信した受信信号との差分周波数から得られるピーク信号を前記送信信号の周波数が上昇する第1期間と周波数が下降する第2期間とで抽出し、該抽出したピーク信号に基づいて物標の情報を導出する信号処理方法であって、
(a)前回得られたピーク信号に基づいて、今回のピーク信号を予測したピーク信号を導出する工程と、
(b)前記第1期間及び第2期間の各々で、前記予測したピーク信号を基点とした所定の周波数の範囲内に含まれるピーク信号を抽出する工程と、
(c)前記第1期間で抽出したピーク信号と第2期間で抽出したピーク信号とをペアリングする工程と、を備え、
前記(c)工程では、前記各期間で抽出したピーク信号の数に応じて、ペアリング方法を変え、前記第1期間及び第2期間のうちの一方の期間で抽出されたピーク信号の数が複数であり、他方の期間で抽出されたピーク信号の数が1である場合には、前記一方の期間で抽出したピーク信号のうちの最も周波数の低いピーク信号と、他方の期間で予測したピーク信号とをペアリングすることを特徴とする信号処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
【0022】
<1.構成>
図1は、車両CRの全体図である。車両CRは、本実施の形態の車両制御システム10に含まれるレーダ装置1と、車両制御装置2とを備えている。車両CRは、レーダ装置1を車両前方のバンパー近傍に備えている。このレーダ装置1は、一回の走査で所定の走査範囲を走査して、車両CRと物標との車両進行方向に対応する距離、つまり、物標から反射した反射波がレーダ装置1の受信アンテナに到達するまでの距離(縦距離)を導出する。また、レーダ装置1は、車両CRと物標との車両横方向(車幅方向)に対応する距離、つまり、車両CRの進行方向に仮想的に延伸する基準軸BLに対して略直交する方向の車両CRに対する物標の距離(横距離)を導出する。なお、横距離は車両CRに対する物標の角度の情報に対して三角関数の演算を行うことで導出される。このように、レーダ装置1は、車両CRに対する物標の位置情報を導出する。また、レーダ装置1は、車両CRの速度に対する物標の速度である相対速度を導出する。
【0023】
なお、
図1にはレーダ装置1の後述する2つの送信アンテナ(
図2に示す送信アンテナ13aおよび送信アンテナ13b)から送信される送信波のビームパターンが示されている。基準軸BLを角度±0度とした場合、送信アンテナ13aから出力される送信波のビームパターンNAは、送信アンテナ13bから出力される送信波のビームパターンBAと比べて角度範囲が狭く(例えば、±6度)、縦距離が大きいシャープなビームパターンで出力される。縦距離が大きいのは送信波を出力する出力レベルが比較的大きいためである。
【0024】
また、これとは逆に送信アンテナ13bから出力される送信波のビームパターンBAは、送信アンテナ13aから送信される送信波のビームパターンNAと比べて角度範囲が広く(例えば±10度)、縦距離が小さいブロードなビームパターンで出力される。縦距離が小さいのは送信波を出力する出力レベルが比較的小さいためである。そして、送信アンテナ13aで送信波を出力する送信期間と、送信アンテナ13bで送信波を出力する送信期間とのそれぞれの送信期間で異なるビームパターンの送信波を出力することで、物標の位相折り返しによる角度導出の誤りを防止できる。物標の角度導出処理については後述する。
【0025】
また、
図1のレーダ装置1は、その搭載位置を車両前方のバンパー近傍としているが、前方のバンパー近傍に限らず、車両CRの後方のバンパー近傍及び車両CRの側方のサイドミラー近傍等、後述する車両制御装置2の車両CRの制御目的に応じて物標を導出できる搭載位置であれば他の部分であってもよい。
【0026】
また、車両CRは、車両CRの内部に車両制御装置2を備える。この車両制御装置2は、車両CRの各装置を制御するECU(Electronic Control Unit)である。
【0027】
図2は、車両制御システム10のブロック図である。車両制御システム10は、レーダ装置1と車両制御装置2とが電気的に接続され、主にレーダ装置1で導出された位置情報及び相対速度の物標情報を車両制御装置2に出力する。つまり、レーダ装置1は、車両CRに対する物標の縦距離、横距離及び相対速度の情報である物標情報を車両制御装置2に出力する。そして、車両制御装置2が、物標情報に基づき車両CRの各種装置の動作を制御する。また、車両制御装置2は、車速センサ40及びステアリングセンサ41などの車両CRに設けられる各種センサと電気的に接続されている。さらに、車両制御装置2は、ブレーキ50及びスロットル51などの車両CRに設けられる各種装置と電気的に接続されている。
【0028】
レーダ装置1は、信号生成部11、発振器12、送信アンテナ13、受信アンテナ14、ミキサ15、LPF(Low Pass Filter)16、AD(Analog to Digital)変換器17、及び信号処理部18を備えている。
【0029】
信号生成部11は、後述する送信制御部107の制御信号に基づいて、例えば三角波状に電圧が変化する変調信号を生成する。
【0030】
発振器12は、電圧で発振周波数を制御する電圧制御発振器であり、信号生成部11で生成された変調信号に基づき所定周波数の信号(例えば、76.5GHz)を周波数変調し、76.5GHzを中心周波数とする周波数帯の送信信号として送信アンテナ13に出力する。
【0031】
送信アンテナ13は、送信信号に係る送信波を車両外部に出力する。本実施の形態のレーダ装置1は、送信アンテナ13a及び送信アンテナ13bの2本の送信アンテナを有している。送信アンテナ13a及び13bは、切替部131のスイッチングにより所定の周期で切り替えられ、発振器12と接続された送信アンテナ13から送信波が連続的に車両外部に出力される。送信アンテナ13aと送信アンテナ13bとはアンテナ素子の配置(アンテナパターン)が異なる。これにより、
図1に示したように送信アンテナ13aおよび13bから送信される送信波のビームパターンが異なるものとなる。
【0032】
切替部131は、発振器12に接続する送信アンテナ13を切替えるスイッチであり、送信制御部107の信号により送信アンテナ13a及び送信アンテナ13bのいずれかの送信アンテナと発振器12とを接続する。
【0033】
受信アンテナ14は、送信アンテナ13から連続的に送信される送信波が物体に反射した反射波を受信する複数のアレーアンテナである。本実施の形態では、受信アンテナ14a(ch1)、14b(ch2)、14c(ch3)、及び14d(ch4)の4本の受信アンテナを備えている。なお、受信アンテナ14a〜14dのそれぞれのアンテナは等間隔に配置されている。
【0034】
ミキサ15は、各受信アンテナに設けられている。ミキサ15は、受信信号と送信信号とを混合する。そして、受信信号と送信信号との混合により送信信号と受信信号との差の信号であるビート信号が生成されて、LPF16に出力される。
【0035】
ここで、ビート信号を生成する送信信号と受信信号について、
図3を用いてFM−CW(Frequency Modulated Continuous Wave)の信号処理方式を例に説明する。なお、本実施の形態では、以下にFM−CWの方式を例に説明を行うが、送信信号の周波数が上昇するUP区間と、送信信号の周波数が下降するDOWN区間といった複数の区間を組み合わせて物標を導出する方式であれば、このFM−CWの方式に限定されない。
【0036】
また、下記に記載の数式や
図3に示すFM−CWの信号やビート周波数等についての各記号は以下に示すものである。f
r:距離周波数、f
d:速度周波数、f
o:送信波の中心周波数、△F:周波数偏移幅、f
m:変調波の繰り返し周波数、c:光速(電波の速度)、T:車両CRと物標との電波の往復時間、f
s:送信/受信周波数、R:縦距離、V:相対速度、θ
m:物標の角度、θ
up:UP区間のピーク信号に対応する角度、θ
dn:DOWN区間のピーク信号に対応する角度。
【0037】
図3はFM−CW方式の信号を示す図である。
図3上段の図は、FM−CW方式の送信信号TX、および、受信信号RXの信号波形を示す図であり、縦軸は周波数[GHz]を示し、横軸は時間[msec]を示している。図中の送信信号TXは、中心周波数をf
0(例えば、76.5GHz)として、所定周波数(例えば76.6GHz)まで上昇した後に所定周波数(例えば、76.4GHz)まで下降をするように200MHzの間で一定の変化を繰り返す。このように所定周波数まで周波数が上昇する区間(「UP区間」ともいい、例えば、
図3に示す、区間U1、U2、U3、および、U4がUP区間となる。)と、所定周波数まで上昇した後に所定の周波数まで下降する区間(「DOWN区間」ともいい、例えば、区間D1、D2、D3、および、D4がDOWN区間になる。)とがある。また、送信アンテナ13から送信された送信波が物体にあたって反射波として受信アンテナ14に受信されると、受信アンテナ14を介して受信信号RXがミキサ15に入力される。この受信信号RXについても送信信号TXと同じように所定周波数まで周波数が上昇する区間と、所定周波数まで周波数が下降する区間とが存在する。
【0038】
なお、本実施の形態のレーダ装置1では、一つのUP区間である区間と一つのDOWN区間である区間の組み合わせを送信信号TXの1周期として、送信信号TXの2周期分に相当する送信波を車両外部に送信する。例えば、1周期目(送信期間t0〜t1のUP区間の区間U1と、送信期間t1〜t2のDOWN区間の区間D1)では送信アンテナ13aからビームパターンNAの送信波が出力される。次の2周期目(送信期間t2〜t3のUP区間の区間U2と、送信期間t3〜t4のDOWN区間の区間D2)では送信アンテナ13bからビームパターンBAの送信波が出力される。そして、信号処理部18が送信信号TXと受信信号RXとにより物標情報を導出するための信号処理を行う(t4〜t5の信号処理区間)。その後、3周期目(送信期間t5〜t6のUP区間の区間U3と、送信期間t6〜t7のDOWN区間の区間D3)では送信アンテナ13aからビームパターンNAの送信波が出力され、4周期目(送信期間t7〜t8のUP区間U4と、送信期間t8〜t9のDOWN区間D4)では送信アンテナ13bからビームパターンBAの送信波が出力され、その後、信号処理部18が物標情報を導出するための信号処理を行う。そして、以降は同様の処理が繰り返される。
【0039】
なお、車両CRに対する物標の距離に応じて、送信信号TXに比べて受信信号RXに時間的な遅れ(時間T)が生じる。さらに、車両CRの速度と物標の速度との間に速度差がある場合は、送信信号TXに対して受信信号RXにドップラーシフト分の差が生じる。
【0040】
図3中段の図は、UP区間およびDOWN区間の送信信号TXと受信信号RXとの差分により生じるビート周波数を示す図であり、縦軸は周波数[kHz]を示し、横軸は時間[msec]を示している。例えば、区間U1ではビート周波数BF1が導出され、区間D1ではビート周波数BF2が導出される。このように各区間において、ビート周波数が導出される。
【0041】
図3の下段の図は、ビート周波数に対応するビート信号を示す図であり、縦軸は振幅[V]を示し、横軸は時間[msec]を示している。図中には、ビート周波数に対応するアナログ信号のビート信号BSが示されており、当該ビート信号BSが後述するLPF16でフィルタリングされた後、AD変換器17によりデジタルデータに変換される。なお、
図3では1つの反射点から受信した場合の受信信号RXに対応するビート信号BSが示されているが、送信信号TXに対応する送信波が複数の反射点で反射し、複数の反射波として受信アンテナ14にて受信された場合は、受信信号RXは複数の反射波に応じた信号が発生する。この場合、送信信号TXとの差分を示すビート信号BSは、複数の受信信号RXと送信信号TXとのそれぞれの差分を合成したものとなる。
【0042】
そして、ビート信号BSがAD変換器17によりデジタルデータに変換された後、UP区間、DOWN区間夫々に対して信号処理部18によりFFT処理されることでUP区間、DOWN区間で夫々ビート信号BSの周波数ごとの信号レベルの値および位相情報を有するFFTデータが取得される。尚、FFTデータは各受信アンテナ14a〜14d毎に取得される。
【0043】
そして、このようにして導出された複数のFFTデータを用いて車両CRに対する物標の縦距離、相対速度、および、横距離が導出される。主に角度導出においては、空間平均などの演算手法を行う場合にこのような複数のFFTデータを用いて演算することで正確な角度情報が導出できる。
【0044】
車両CRに対する物標の縦距離は(1)式により導出され、車両CRに対する物標の相対速度は(2)式により導出される。また、車両CRに対する物標の角度は(3)式により導出される。そして、(3)式により導出された角度と物標の縦距離の情報から三角関数を用いた演算により、車両CRに対する物標の横距離が導出される。
【0047】
【数3】
図2に戻り、LPF(Low Pass Filter)16は、所定周波数より低い周波数の成分を減少させることなく、所定周波数より高い周波数の成分を減少させるフィルタである。なお、LPF16もミキサ15と同様に各受信アンテナに設けられている。
【0048】
AD変換器17は、アナログ信号であるビート信号を所定周期でサンプリングして、複数のサンプリングデータを導出する。そして、サンプリングされたデータを量子化することで、アナログデータのビート信号をデジタルデータに変換して、デジタルデータを信号処理部18に出力する。なお、AD変換器17もミキサ15と同様に各受信アンテナに設けられている。
【0049】
信号処理部18は、CPU181、および、メモリ182を備えるコンピュータであり、AD変換器17から出力されたデジタルデータのビート信号をFFT処理してFFTデータを取得し、FFTデータのビート信号の中から信号レベルの値が所定の閾値を超える信号をピーク信号として抽出する。そして、信号処理部18は、UP区間のピーク信号とDOWN区間のピーク信号とをペアリングして物標情報を導出する。また、信号処理部18は、抽出されたピーク信号が実際には存在しない物標に対応するゴーストピークか否かを判定して、ゴーストのピーク信号に対応する物標情報をレーダ装置の出力対象から除外する処理を行う。
【0050】
メモリ182は、CPU181により実行される各種演算処理などの実行プログラムを記録する。また、メモリ182は、信号処理部18が導出した複数の物標情報を記録する。例えば、過去の処理、および、今回の処理において導出された物標情報(物標の縦距離、横距離、および、相対速度)を記録する。さらに、メモリ182は、FFT処理により取得されたFFTデータ182aを記録する。このFFTデータ182aには、今回の物標導出処理におけるFFTデータを含む過去の物標導出処理のFFTデータが記憶されている。
【0051】
送信制御部107は信号処理部18と接続され、信号処理部18からの信号に基づき、変調信号を生成する信号生成部11に制御信号を出力する。また送信制御部107は、信号処理部18からの信号に基づき、送信アンテナ13a、および、送信アンテナ13bのいずれかの送信アンテナと発振器12とが接続する切替部131に制御信号を出力する。
【0052】
車両制御装置2は、車両CRの各種装置の動作を制御する。つまり、車両制御装置2は、車速センサ40、および、ステアリングセンサ41などの各種センサから情報を取得する。そして、車両制御装置2は、各種センサから取得した情報、および、レーダ装置1の信号処理部18から取得した物標情報に基づき、ブレーキ50、および、スロットル51などの各種装置を作動させて車両CRの挙動を制御する。
【0053】
車両制御装置2による車両制御の例としては次のようなものがある。車両制御装置2は、車両CRが走行する自車線内で、車両CRの前方を走行する前方車両を追従対象として走行する制御を行う。具体的には、車両制御装置2は、車両CRの走行に伴いブレーキ50、および、スロットル51の少なくとも一の装置を制御して、車両CRと前方車両との間で所定の車間距離を確保した状態で車両CRを前方車両に追従走行させるACC(Adaptive Cruise Control)の制御を行う。
【0054】
また、車両制御装置2による車両制御の例としては、車両CRの障害物への衝突に備え、車両CRの乗員を保護する制御もある。詳細には、車両CRが障害物に衝突する危険性がある場合に、車両CRのユーザに対して図示しない警報器を用いて警告の表示を行ったり、ブレーキ50を制御して車両CRの速度を低下させるPCS(Pre-Crash Safety System)の制御を行う。さらに、車両制御装置2は、車室内のシートベルトにより乗員を座席に固定し、または、ヘッドレストを固定して衝突時の衝撃による車両CRのユーザへのダメージを軽減するPCSの制御を行う。
【0055】
車速センサ40は、車両CRの車軸の回転数に基づいて車両CRの速度に応じた信号を出力する。車両制御装置2は、車速センサ40からの信号に基づいて、現時点の車両速度を取得する。
【0056】
ステアリングセンサ41は、車両CRのドライバーの操作によるステアリングホイールの回転角を検知し、車両CRの車体の角度の情報を車両制御装置2に送信する。
【0057】
ブレーキ50は、車両CRのドライバーの操作により車両CRの速度を減速させる。また、ブレーキ50は、車両制御装置2の制御により車両CRの速度を減速させる。例えば、車両CRと前方車両との距離を一定の距離に保つように車両CRの速度を減速させる。
【0058】
スロットル51は、車両CRのドライバーの操作により車両CRの速度を加速させる。また、スロットル51は、車両制御装置2の制御により車両CRの速度を加速させる。例えば、車両CRと前方車両との距離を一定の距離に保つように車両CRの速度を加速させる。
【0059】
<2.全体の処理>
図4〜
図6は、信号処理部18が行う物標情報の導出処理のフローチャートである。最初に信号処理部18は、送信波を生成する指示信号を送信制御部107に出力する(ステップS101)。そして、信号処理部18から指示信号が入力された送信制御部107により信号生成部11が制御され、送信信号TXに対応する送信波が生成される。生成された送信波は、車両外部に出力される。
【0060】
次に、送信波が物標に反射することによって到来する反射波を受信アンテナ14が受信し、反射波に対応する受信信号RXと送信信号TXとがミキサ15によりミキシングされ、送信信号と受信信号との差分の信号であるビート信号が生成される。そして、アナログ信号であるビート信号BSが、LPF16によりフィルタリングされ、AD変換器17によりデジタルデータに変換され、信号処理部18に入力される。
【0061】
信号処理部18は、デジタルデータのビート信号に対してFFT処理を行い(ステップS102)、周波数ごとのビート信号の信号レベルの値および位相情報を有するFFTデータを取得する。
【0062】
次に、信号処理部18は、FFTデータのビート信号のうち信号レベルの値が所定の閾値を超えるビート信号をピーク信号として抽出する(ステップS103)。なお、この処理で送信期間2周期分のUP区間と、DOWN区間との全て区間のピーク信号が抽出され、ピーク信号数が確定する。
【0063】
そして、信号処理部18はピーク抽出処理で抽出されたピーク信号の中から、過去の物標導出処理で導出された物標と時間的な連続性を有するピーク信号を抽出する履歴ピーク抽出処理を行う(ステップS104)。
【0064】
次に、信号処理部18は、車両CRの車速センサ40の自車速の情報からUP区間のピーク信号とDOWN区間のピーク信号との周波数差がその速度に対応する各区間のピーク信号を静止物に対応するピーク信号として抽出する処理を行う(ステップS105)。ここで、静止物とは、車両CRの速度と略同じ相対速度を有する物標をいう。また、特定速度で移動し、車両CRの速度と異なる相対速度を有する物標を以下では移動物という。
【0065】
なお、このように履歴ピーク抽出(ステップS104)、および、静止物ピーク抽出(ステップS105)の処理を行うのは、信号処理部18が車両制御装置2に対して優先的に出力する必要性のある物標に対応するピーク信号を選択するためである。例えば、前回処理で導出された物標と時間的な連続性を有する今回処理の物標のピーク信号は、前回処理で導出されていない新規に導出された物標と比べて物標が実際に存在する確率が高いため優先順位が高い場合があり、また、移動物に対応するピーク信号は静止物に対応するピーク信号よりも車両CRと衝突する可能性が高いため優先順位が高い場合がある。
【0066】
そして、信号処理部18はUP区間およびDOWN区間のそれぞれの区間において、ピーク信号に基づいて方位演算を行う(ステップS106)。詳細には信号処理部18は、所定の方位演算アルゴリズムによって物標の方位(角度)を導出する。例えば、方位演算アルゴリズムは、ESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)であり、各受信アンテナ14a〜14dにおける受信信号の位相情報から相関行列の固有値、および、固有ベクトル等が演算されて、UP区間のピーク信号に対応する角度θ
upと、DOWN区間のピーク信号に対応する角度θ
dnとが導出される。そして、UP区間およびDOWN区間の各ピーク信号がペアリングされた場合に、上述の(3)式により物標の角度が導出される。また、1つのピーク信号の周波数の情報は、物標の距離と相対速度の情報に対応しているが、1つのピーク信号の周波数に複数の物標の情報が含まれているときがある。例えば、車両CRに対する物標の位置情報において、距離が同じ値で角度が異なる値の複数の物標の情報が、同じ周波数のピーク信号に含まれている場合がある。このような場合、異なる角度からの複数の反射波の位相情報はそれぞれ異なる位相情報となるため、信号処理部18は、各反射波の位相情報に基づいて1つのピーク信号に対して異なる角度に存在する複数の物標情報を導出する。
【0067】
ここで、方位演算を行う場合、物標の角度によっては、位相が360度回転して物標が存在する本来の角度とは異なる角度情報が導出される場合がある。具体的には、例えば、受信アンテナで受信した物標からの反射波の位相情報が420度の場合、実際の物標は、
図1で示したビームパターンNA以外のビームパターンBAの領域に物標が存在するときでも、位相折り返しにより位相情報が60度(420度-360度)と判定され、ビームパターンBAには含まれないビームパターンNAの領域に物標が存在するとする誤った角度情報が導出されるときがある。そのため、送信アンテナ13aおよび13bの2つのビームパターンの送信波を出力するより物標の正確な角度を導出する。
【0068】
具体的には各ビームパターンの送信波に対する反射波に基づいて次のように角度を導出する。反射波の位相情報が60度の場合に、送信アンテナ13aの送信波の反射波と、送信アンテナ13bの送信波の反射波とに対応するそれぞれの角度スペクトラムの信号レベルの値を比べて、送信アンテナ13aの送信波の反射波に対応する角度スペクトラムの信号レベルの値が大きい場合は、ビームパターンBAの領域を除くビームパターンNAの領域内の位相情報60度に対応する角度を物標の角度として導出する。また、送信アンテナ13bの送信波の反射波に対応する角度スペクトラムの信号レベルの値が大きい場合は、ビームパターンNAの領域を除くビームパターンBAの領域内の位相情報420度に対応する角度を物標の角度として導出する。このように送信信号TXの2周期分の送信波で各周期ごとに異なるビームパターンの送信波を出力することで、方位演算を行う場合の位相折り返しによる物標の誤った角度情報の導出を防止している。
【0069】
次に、信号処理部18は、UP区間のピーク信号とDOWN区間のピーク信号とをペアリングするペアリング処理を行う(ステップS107)。このペアリング処理は、ステップS103の処理で導出された全ピーク信号のうち履歴ピーク抽出処理(ステップS104)で抽出された履歴ピーク信号については、UP区間の履歴ピーク信号とDOWN区間の履歴ピーク信号とでペアリング処理が行われる。また、静止物ピーク抽出処理(ステップS105)で抽出された静止物ピーク信号については、UP区間の静止物ピーク信号とDOWN区間の静止物ピーク信号とでペアリング処理が行われる。さらに、ピーク抽出処理で抽出された全ピーク信号のうち履歴ピーク信号と静止物ピーク信号とを除いた残りのピーク信号については、UP区間の残りのピーク信号とDOWN区間の残りのピーク信号とでペアリングの処理が行われる。
【0070】
なお、UP区間のピーク信号とDOWN区間のピーク信号とのペアリング処理は、例えば、マハラノビス距離を用いた演算を用いて行われる。具体的には、レーダ装置1を車両CRに搭載する前に試験的にUP区間のピーク信号とDONW区間のピーク信号とをペアリングする中で正しい組み合わせでペアリングされた正常ペアデータと、誤った組み合わせでペアリングされたミスペアデータとのデータを複数取得し、複数の正常ペアデータにおけるUP区間のピーク信号とDOWN区間のピーク信号との「信号レベルの値の差」、「角度の値の差」、および、「角度スペクトラムの信号レベルの値の差」の3つのパラメータ値から、複数の正常ペアデータの3つのパラメータごとの平均値を導出し、予めメモリ182に記憶する。
【0071】
そして、レーダ装置1を車両CRに搭載した後に、信号処理部18が物標情報を導出する場合、今回処理で取得されたFFTデータのピーク信号のうちUP区間のピーク信号とDOWN区間のピーク信号のすべての組み合わせの3つのパラメータ値と、複数の正常ペアデータの3つのパラメータごとの平均値とを用いて以下に示す(4)式によりマハラノビス距離を導出する。信号処理部18は、マハラノビス距離が最小の値となる今回処理のペアデータを正常ペアデータとして導出する。ここで、マハラノビス距離は、平均がμ=(μ1, μ2, μ3)T で、共分散行列がΣであるような多変数ベクトルx=(x1, x2, x3)で表される一群の値に対するもので(4)式により導出される。なお、μ1, μ2, μ3は正常ペアデータの3つのパラメータの値を示し、x1, x2, x3は今回処理のペアデータの3つのパラメータの値を示す。
【0072】
【数4】
そして、信号処理部18は、このペアリング処理において正常ペアデータのパラメータの値と上述の(1)式〜(3)式とを用いて、正常ペアデータの縦距離、相対距離、および、角度に基づく横距離を導出する。なお、履歴ピーク信号を用いたペアリング処理の詳細については後述する。
【0073】
次に、信号処理部18は、今回の物標導出処理によりペアリングされた今回ペアデータと、前回の処理によってペアリングされた前回ペアデータとの間に時間的に連続する関係が存在するか否かの連続性判定処理を行う(ステップS108)。ここで、両者に時間的に連続する関係がある(連続性がある)場合とは、例えば、前回ペアデータに基づいて今回ペアデータを予測した予測ペアデータを生成し、今回ペアデータと予測ペアデータとの縦距離、横距離、および、相対速度における差の値が所定値以内の場合である。この場合、今回処理により導出された物標と、過去処理により導出された物標とが同一物標であると判定される。なお、信号処理部18は、所定値以内に複数の今回ペアデータが存在する場合、最も予測ペアデータとの差の値が小さい今回ペアデータを前回の処理の物標情報と時間的に連続する関係を有するものと判定することができる。
【0074】
また、信号処理部18は、今回ペアデータと予測ペアデータとの縦距離、横距離、および、相対速度の差の値が所定値以内ではない場合に、今回ペアデータと前回物標情報とに時間的に連続する関係がない(連続性がない)と判定する。そして、このように連続性がないと判定されたペアデータは今回の物標導出処理において初めて導出されたデータ(新規ペアデータ)となる。なお、新規ペアデータの場合は、以下で説明するフィルタ処理等の処理では、予測ペアデータが存在しないため、新規ペアデータの距離、相対速度、角度、および、信号レベルの値が今回の物標導出処理における一つの物標の距離、相対速度、角度、および、信号レベルの値の情報となる。また、信号処理部18は、連続性判定において、所定回数連続して連続性があると判定された場合(すなわち、同一物標であると判定された場合)は、検出した物標を真の物標として確定する処理も行う。
【0075】
次に信号処理部18は、車両CRの速度とペアデータの相対速度の情報から移動物に対応するペアデータを導出する(ステップS109)。この処理を行うことで優先的に処理する必要性のあるペアデータを判定できる。
【0076】
そして、信号処理部18は、今回ペアデータと予測ペアデータとに時間的に連続する関係が存在する場合は、今回ペアデータと予測ペアデータとの間で縦距離、相対速度、横距離、および、信号レベルの値のフィルタリングを行い(ステップS110)、フィルタリングされたペアデータ(過去対応ペアデータ)を今回の処理の物標情報として導出する。
【0077】
例えば、両者に時間的に連続する関係が有る場合に、信号処理部18は、横距離について予測ペアデータの横距離に0.75の値の重み付けを行い、今回ペアデータの横距離に0.25の値の重み付けを行って、両方の値を足し合わせたものを今回の物標導出処理の過去対応ペアデータの横距離として導出する。なお、縦距離、相対速度、および、信号レベルの値についても同様にフィルタ処理を行う。
【0078】
次に、信号処理部18は、車両CRの制御には必要のない静止物を導出する上下方物処理を行う(ステップS111)。具体的には、静止物の車両CRの車高方向の位置が所定の高さよりも高い(例えば、車両CRの車高よりも高い)位置に存在する静止物(例えば、車道の上方に設けられている片持式や門型式の道路標識など)を導出する。また、車両CRの車高よりも低い位置に存在する静止物(例えば、道路の中央分離帯やカーブに設置されている反射板の付いたチャッターバーなどの道路鋲など)を導出する。このようにして導出された静止物は後述する不要物除去処理で物標情報が除去され、レーダ装置1から物標情報として車両制御装置2に出力されることはない。
【0079】
そして、信号処理部18は、今回処理の次に行われる処理(次回処理)において、履歴ピーク抽出処理(ステップS104)に用いる次回物標データの予測値(予測縦距離、予測相対速度、予測横距離等)を導出する(ステップS112)。具体的には、車両制御を行う上で優先順位の高い20個の物標情報を導出して、UP区間、DOWN区間夫々のピーク信号の予測値を算出しておくことで次回処理における履歴ピークの導出処理に用いる。優先順位については、ACC制御を行う場合は、車両CRの走行している自車線上に相当する横位置を有し、車両CRとの縦距離が比較的小さい物標の優先順位が高く、隣接車線に相当する横位置で、車両CRとの縦距離が比較的大きい物標の優先順位が低い。また、PCSの場合は、衝突余裕時間(Time-To-Collision、以下「TTC」という。)の比較的短い物標の優先順位が高く、TTCの比較的長い物標の優先順位が低い。
【0080】
次に、信号処理部18は、車両CRの走行する自車線のカーブ半径の情報と、物標の縦距離、および、横距離の情報とから、カーブ半径に応じた物標の横距離を導出する。詳細には車両CRの図示しないステアリングホイールを車両CRのドライバが操作することでステアリングセンサ41から入力されるステアリングホイールの回転角の情報に応じて直線および曲線に仮想的に変化する基準軸BLに対する物標の横距離(相対横距離)を導出し、車両CRに対する物標の相対横距離と縦距離とに基づき、予めメモリ182に記憶された相対横距離と縦距離とをパラメータとする二次元のマップデータから物標が自車線上に存在する確率(自車線確率)を導出する(ステップS113)。
【0081】
そして、信号処理部18は、これまでの処理で導出された物標情報に対して、車両制御装置2への出力が不要な物標を除去する処理を行う(ステップS114)。例えば、信号処理部18は、上述のステップS111の上下方物処理で導出された物標情報の除去や、所定距離以上に存在する実際の物標に対応するピーク信号と、レーダ装置1の電源装置のDC-DCコンバータのスイッチングノイズとの干渉(相互変調)で生じる実際に存在しない物標に対応するゴーストピークの物標情報の除去などを行う。
【0082】
次に、信号処理部18は、複数の物標情報に対して一つの物体に対応する物標情報にまとめる処理を行う(ステップS115)。これは、例えば、レーダ装置1の送信アンテナ13から送信波を射出した場合、送信波が前方車両に反射するとき、受信アンテナ14に受信される反射波は複数存在する。つまり、同一物体における複数の反射点からの反射波が受信アンテナ14に到来する。その結果、信号処理部18はそれぞれの反射波に基づき位置情報の異なる物標情報を複数導出するが、もともとは一つの車両の物標情報なので、各物標情報を一つにまとめて同一物体の物標情報として取り扱う処理である。そのため、複数の物標情報の各相対速度が略同一で、各物標情報の縦距離および横距離が所定範囲内であれば、信号処理部18は複数の物標情報を同一物体における物標情報とみなし、当該複数の物標情報を一つの物標に対応する物標情報にまとめる結合処理を行う。
【0083】
そして、信号処理部18は、ステップS108の処理で結合処理された物標情報から車両制御装置2に出力する優先順位の高い物標情報を車両制御装置2に出力する(ステップS116)。
【0084】
<3.ペアリング処理>
次に、本実施の形態に係るペアリング処理(ステップS107)の詳細について
図7〜
図18に基づいて説明する。
図7は、ペアリング処理を示すフローチャートである。本実施の形態におけるペアリング処理は、ピーク抽出処理(ステップS103)で抽出されたUP区間のピーク信号とDOWN区間のピーク信号とをペアリングし、ペアリングしたペアデータを基に距離や相対速度等の物標情報を導出する処理である。以下、具体的に説明する。
【0085】
まず、信号処理部18は、履歴ペアリング処理(ステップS117)を行う。履歴ペアリング処理とは、ピーク抽出処理で抽出されたピーク信号のうち、さらに履歴ピーク抽出処理(ステップS104)にて抽出された履歴ピーク信号をペアリングする処理である。また、履歴ペアリング処理は、前回処理で導出したペアデータ(前回ペアデータ)に基づいて今回ペアデータを予測したペアデータ(予測ペアデータ)を導出し、この予測ペアデータを用いて実際の今回ペアデータを導出する処理である。
【0086】
具体的には、信号処理部18は、ピーク信号をペアリングしてペアデータを導出する処理と逆の処理を行い、前回ペアデータの各ピーク信号(前回ピーク信号)を導出する。そして、信号処理部18は、前回ピーク信号から、今回のピーク信号を予測したピーク信号(予測ピーク信号)を導出し、予測ピーク信号と履歴ピーク信号とを比較して、予測ピーク信号に対応する履歴ピーク信号を抽出する。
【0087】
すなわち、信号処理部18は、前回ペアデータから、UP区間のピーク信号及びDOWN区間のピーク信号(前回UPピーク信号及び前回DOWNピーク信号)を導出する。そして、前回UPピーク信号から、今回のUP区間のピーク信号を予測したピーク信号(予測UPピーク信号)を導出し、前回DOWNピーク信号から、今回のDOWN区間のピーク信号を予測したピーク信号(予測DOWNピーク信号)を導出する。
【0088】
そして、信号処理部18は、その予測UPピーク信号とUP区間の履歴ピーク信号とを比較して、予測UPピーク信号に対応する履歴ピーク信号(履歴UPピーク信号)を抽出する。また、信号処理部18は、予測DOWNピーク信号とDOWN区間の履歴ピーク信号とを比較して、予測DOWNピーク信号に対応する履歴ピーク信号(履歴DOWNピーク信号)を抽出する。そして、履歴UPピーク信号と履歴DOWNピーク信号とをペアリングすることで今回のペアデータ(履歴ペアデータ)を導出する。
【0089】
なお、予測ピーク信号に対応する履歴ピーク信号とは、予測ピーク信号を基点にした所定の周波数の範囲内に存在する履歴ピーク信号のことであり、今回のピーク信号としてペアリングする候補となるピーク信号である。また、本実施の形態においては、後述するように、抽出された履歴UPピーク信号及び履歴DOWNピーク信号の数に応じてペアリングする方法を変えるようになっている。
【0090】
ここで、
図8を用いて履歴ペアリング処理を詳細に説明する。
図8は、履歴ペアリング処理を示すフローチャートである。信号処理部18は、まず、第1正常履歴ピーク判定処理(ステップS121)を行う。第1正常履歴ピーク判定処理とは、予測ピーク信号を基点にした所定周波数の範囲内に含まれる履歴ピーク信号の中から予測UPピーク信号及び予測DOWNピーク信号に対応する履歴ピーク信号を抽出する処理である。
【0091】
図9を用いて第1正常履歴ピーク判定処理について具体的に説明する。信号処理部18は、前回の走査で導出された全ペアデータのうち、履歴フラグがONに設定されているペアデータを抽出する(ステップS127)。履歴フラグとは、履歴ペアリング処理を実行するか否かを示すフラグであり、本実施の形態ではONの場合に実行するようにしている。履歴フラグは、ペアデータが連続性を有する場合にONとなる。次に、信号処理部18は、履歴フラグがONに設定されているペアデータの中から、優先自車レーン先行車状態フラグがONに設定されているペアデータを抽出する(ステップS128)。優先自車レーン先行車状態フラグとは、自車両と同じレーンを走行する先行車のうち、最も自車両に近い位置に存在する先行車である場合にONに設定され、それ以外の場合にはOFFに設定されるフラグである。
【0092】
そして、信号処理部18は、抽出した前回ペアデータから予測ピーク信号を導出する(ステップS129)。具体的には、信号処理部18は、UP区間及びDOWN区間の各ピーク信号をペアリングしてペアデータを導出する処理と逆の処理を実行して、前回ペアデータをUP区間及びDOWN区間の各ピーク信号に分離する。そして、信号処理部18は、各ピーク信号の周波数及び角度情報を用いて予測UPピーク信号(予測周波数と予測角度とを持つ)及び予測DOWNピーク信号(予測周波数と予測角度とを持つ)を導出する。
【0093】
次に、信号処理部18は、UP区間及びDOWN区間の各々について、予測ピーク信号を基準にした所定周波数の範囲内にある今回の履歴ピーク信号の中から、予測ピーク信号に対応する履歴ピーク信号を抽出する(ステップS130)。具体的には、まず、信号処理部18は、予測UPピーク信号の周波数を中心にした6BIN(低周波数側及び高周波数側に各々3BINずつ)の範囲内に存在する履歴UPピーク信号を抽出する。なお、履歴UPピーク信号は、6BINの範囲内に1つ存在する場合や複数存在する場合があり、存在しない場合もある。また、信号処理部18は、予測DOWNピーク信号の周波数を中心にした6BINの範囲内に存在する履歴DOWNピーク信号を抽出する。同様に、履歴DOWNピーク信号も、6BINの範囲内に1つ存在する場合や複数存在する場合があり、存在しない場合もある。なお、1BINは、約468Hzである。
【0094】
そして、信号処理部18は、抽出した履歴ピーク信号から導出される角度と、予測ピーク信号から導出される角度(予測角度)との差が4度以下の履歴ピーク信号を抽出する(ステップS131)。具体的には、信号処理部18は、抽出した履歴UPピーク信号から上述した方位演算と同様の処理により角度を導出する。そして、信号処理部18は、この導出した角度と、予測UPピーク信号から導出した予測角度とを比較し、その角度の差が4度以内である履歴UPピーク信号を抽出する。なお、角度の差が4度以内の履歴UPピーク信号は、1つ又は複数存在する場合があり、存在しない場合もある。また、信号処理部18は、履歴DOWNピーク信号も同様に、履歴DOWNピーク信号から導出した角度と、予測DOWNピーク信号から導出した予測角度とを比較して、その角度の差が4度以内である履歴DOWNピーク信号を抽出する。同様に、角度の差が4度以内の履歴DOWNピーク信号も、1つ又は複数存在する場合があり、存在しない場合もある。なお、これら6BINの範囲内に存在し、かつ、角度の差が4度以内の履歴UPピーク信号及び履歴DOWNピーク信号が、各々ペアリングの候補となる。
【0095】
これらステップS130及びステップS131の処理について
図10及び
図11を用いて説明する。
図10は、履歴ピーク信号を示す図であり、
図10(a)は、UP区間の履歴ピーク信号を示しており、
図10(b)は、DOWN区間の履歴ピーク信号を示している。信号処理部18は、予測UPピーク信号の周波数feupを中心にして、高周波数側と低周波数側の各々3BINの範囲内で予測UPピーク信号に対応する履歴ピーク信号を検索する。
図10(a)に示す場合には、対応する履歴ピーク信号がPu1の1つ存在しており、信号処理部18は、この履歴ピーク信号Pu1を履歴UPピーク信号(周波数fup)として抽出する。同様に、信号処理部18は、予測DOWNピーク信号の周波数fednを中心にして、高周波数側及び低周波数側の各々3BINの範囲内で予測DOWNピーク信号に対応する履歴ピーク信号を検索する。
図10(b)に示す場合には、対応する履歴ピーク信号がPd1の1つ存在しており、信号処理部18は、この履歴ピーク信号Pd1を履歴DOWNピーク信号(周波数fdn)として抽出する。
【0096】
次に、信号処理部18は、抽出した履歴UPピーク信号Pu1から方位演算により角度UPピーク信号を分離導出する。
図11(a)は、履歴UPピーク信号Pu1から導出された角度スペクトラムである。信号処理部18は、予測UPピーク信号から導出された予測角度θeupから4度以内に今回の角度UPピーク信号が含まれているか否かを判定する。
図11(a)に示す場合には、対応する角度UPピーク信号がPu1θ1の1つ存在しており、信号処理部18は、この角度UPピーク信号Pu1θ1の角度θupを予測UPピーク信号に対応する履歴UPピーク信号の角度として抽出する。すなわち、この場合の予測UPピーク信号に対応する履歴UPピーク信号は、周波数fup、角度θupの情報を持つ。この角度θupがθeupから4度以内にない場合には、履歴UPピーク信号Pu1を履歴ピーク信号として抽出しない。
【0097】
同様に、信号処理部18は、抽出した履歴DOWNピーク信号Pd1から方位演算により角度DOWNピーク信号を分離導出する。
図11(b)は、履歴DOWNピーク信号Pd1から導出された角度スペクトラムである。信号処理部18は、予測DOWNピーク信号から導出された予測角度θednから4度以内に今回の角度DOWNピーク信号が含まれているか否かを判定する。
図11(b)に示す場合には、対応する角度DOWNピーク信号がPd1θ1の1つ存在しており、信号処理部18は、この角度DOWNピーク信号Pd1θ1を予測DOWNピーク信号に対応する履歴DOWNピーク信号の角度として抽出する。すなわち、この場合の予測DOWNピーク信号に対応する履歴DOWNピーク信号は、周波数fdn、角度θdnの情報を持つ。角度θdnがθednから4度以内にない場合には、履歴DOWNピーク信号Pd1を履歴ピーク信号として抽出しない。
【0098】
次に、ステップS130の処理において予測UPピーク信号及び予測DOWNピーク信号の周波数を中心とした所定範囲に履歴UPピーク信号及び履歴DOWNピーク信号が、各々2つ抽出された例について
図12を用いて説明する。
図12(a)は、UP区間の履歴ピーク信号を示しており、
図12(b)は、DOWN区間の履歴ピーク信号を示している。信号処理部18は、予測UPピーク信号の周波数feupを中心にして、高周波数側と低周波数側の各々3BINの範囲内で予測UPピーク信号に対応する履歴ピーク信号を検索する。
図12(a)に示す場合には、対応する履歴ピーク信号がPu1(周波数fup1)とPu2(周波数fup2)の2つ存在しており、信号処理部18は、これらの履歴ピーク信号を履歴UPピーク信号Pu1及びPu2として抽出する。
【0099】
同様に、信号処理部18は、予測DOWNピーク信号の周波数fednを中心にして、高周波数側及び低周波数側の各々3BINの範囲内で予測DOWNピーク信号に対応する履歴ピーク信号を検索する。
図12(b)に示す場合には、対応する履歴ピーク信号がPd1(周波数Pdn1)とPd2(周波数Pdn2)の2つ存在しており、信号処理部18は、この履歴ピーク信号を履歴DOWNピーク信号Pd1及びPd2として抽出する。
【0100】
また、図示していないが、
図11と同様にして、信号処理部18は、抽出した履歴UPピーク信号Pu1及びPu2から方位演算により角度θup1及びθup2を導出し、抽出した履歴DOWNピーク信号Pd1及びPd2から方位演算により角度θdn1及びθdn2を導出する。そして、信号処理部18は、予測UPピーク信号から導出された予測角度θeupから4度以内にθup1及びθup2が含まれているか否かを判定する。角度θup1及びθup2が予測角度θeupから4度以内にある場合には、履歴UPピーク信号Pu1及びPu2を予測UPピーク信号に対応する履歴ピーク信号として抽出する。この場合、これら履歴UPピーク信号Pu1及びPu2がペアリングの候補となる。一方、DOWN区間の場合も同様に、角度θdn1及びθdn2が予測角度θednから4度以内にある場合に、履歴DOWNピーク信号Pd1及びPd2を予測DOWNピーク信号に対応する履歴ピーク信号として抽出する。この場合も、これら履歴DOWNピーク信号Pd1及びPd2がペアリングの候補となる。
【0101】
なお、上記4度の範囲内に、履歴UPピーク信号から導出された角度θupが複数ある場合には、予測角度θeupに最も近い角度θupを用いる。履歴DOWNピーク信号についても同様である。
【0102】
また、履歴UPピーク信号及び履歴DOWNピーク信号のいずれか一方が抽出できない場合の例について
図13を用いて説明する。
図13は、履歴DOWNピーク信号が抽出できない場合の例である。
図13は、
図11と同様にして抽出された履歴UPピーク信号及び履歴DOWNピーク信号から導出された角度スペクトラムを示す図である。
図13に示す例では、履歴UPピーク信号Puから導出された角度θupは、予測角度θeupの4度以内に含まれており、履歴UPピーク信号Puは予測UPピーク信号に対応する履歴ピーク信号として抽出される。
【0103】
これに対して、履歴DOWNピーク信号から導出された角度スペクトラムは、本来存在するはずの角度θdnがピークとして現れず検出できないため、この履歴DOWNピーク信号は、ステップS131の条件を満たさない。この要因は、例えば、先行車と同じ距離に存在する路側物等からの反射波の強度が強く、先行車の角度ピークが路側物等の角度ピークに含まれてしまい、ピークとして現れなくなってしまうことにある。この場合、信号処理部18は、予測DOWNピーク信号に対応する履歴ピーク信号は存在しないと判定し、履歴DOWNピーク信号は抽出されないこととなる。
【0104】
また、履歴UPピーク信号及び履歴DOWNピーク信号の双方の角度がピークとして検出できずステップS131の条件を満たさない場合には、履歴UPピーク信号及び履歴DOWNピーク信号の双方が抽出されないこととなる。このように、予測ピーク信号に対応する履歴ピーク信号は、UP区間及びDOWN区間の各々で1つ又は複数抽出される場合や1つも抽出されない場合がある。1つ又は複数抽出された場合には、その抽出された履歴ピーク信号がペアリングの候補となる。
【0105】
次に、
図9に戻り、信号処理部18は、正常履歴ピーク判定処理を行う(ステップS132)。正常履歴ピーク判定処理とは、履歴UPピーク信号及び履歴DOWNピーク信号の双方ともに存在するか否かを判定する処理である。また、履歴UPピーク信号及び履歴DOWNピーク信号が共に存在する場合には、ペアリングに用いる履歴ピーク信号を選択する処理も含む。
【0106】
これらの処理について
図14を用いて説明する。
図14は、正常履歴ピーク判定処理を示すフローチャートである。
図14に示すように、信号処理部18は、ステップS130及びステップS131の条件を満たす、すなわち予測UPピーク信号及び予測DOWNピーク信号の周波数及び角度を中心とした所定範囲内(以下「予測範囲内」という)に履歴UPピーク信号及び履歴DOWNピーク信号が存在するか否かを判定する(ステップS133)。いずれか一方又は双方の履歴ピーク信号が存在しない場合(すなわち、抽出できなかった場合)には(ステップS133でNo)、正常履歴ピーク信号が存在しないと判定する。そして、正常履歴ピーク判定処理を終了して次の処理に進む(
図14のC)。
【0107】
一方、信号処理部18は、履歴UPピーク信号及び履歴DOWNピーク信号が共に存在する場合には(ステップS133でYes)、正常履歴ピーク信号が存在すると判定し、ペアリングに用いる履歴ピーク信号を選択する処理に進む。具体的には、まず、信号処理部18は、物標までの距離が所定距離以上であるか否かを判定する(ステップS134)。これは、距離が近い物標の場合、周波数方向に多数のピーク信号が抽出されることがある。このため、後述する履歴ピーク信号の数に応じてペアリング方法を切り替える処理を実行すると、誤ったペアデータを生成してしまう可能性が高くなることから、本実施の形態では一定の距離以上離れた物標に限定している。従って、所定距離は、誤ったペアデータを生成してしまう可能性が低くなる距離であればよい。このような距離としては、例えば14mとすることができるが、他の距離でもよく適宜設定可能である。なお、物標までの距離は、前回の走査によって検出された値を用いればよい。
【0108】
物標までの距離が所定距離未満である場合には(ステップS134でNo)、信号処理部18は、予測ピーク信号の周波数と最も近い周波数の履歴ピーク信号を選択する(ステップS135)。すなわち、予測UPピーク信号の周波数と最も近い周波数の履歴UPピーク信号を選択し、予測DOWNピーク信号の周波数と最も近い周波数の履歴DOWNピーク信号を選択する。これら選択された履歴UPピーク信号及び履歴DOWNピーク信号が履歴ペアデータを導出する際の履歴ピーク信号となる。
【0109】
一方、物標までの距離が所定距離以上である場合には(ステップS134でYes)、予測範囲内に存在する履歴ピーク信号の数を導出する(ステップS136)。すなわち、信号処理部18は、抽出された履歴UPピーク信号の数を導出し、履歴DOWNピーク信号の数を導出する。これは、抽出された履歴UPピーク信号及び履歴DOWNピーク信号の数に応じて、履歴ペアデータを導出する際に用いるピーク信号を変えるためである。
【0110】
次いで、信号処理部18は、導出した履歴ピーク信号の数が次の(a)〜(c)のいずれであるかを判定する(ステップS137)。(a)履歴UPピーク信号の数及び履歴DOWNピーク信号の数がいずれも2以上である、(b)履歴UPピーク信号の数及び履歴DOWNピーク信号の数のいずれか一方が2以上で他方が1である、(c)履歴UPピーク信号の数及び履歴DOWNピーク信号の数がいずれも1である。
【0111】
信号処理部18は、履歴ピーク信号の数が上述の(a)〜(c)のいずれであるかに応じて履歴ペアデータを導出する際に用いるピーク信号を変える。具体的には、履歴UPピーク信号の数及び履歴DOWNピーク信号の数がいずれも2以上である場合には(ステップS137の(a))、信号処理部18は、周波数の最も低い履歴ピーク信号同士を選択する(ステップS138)。すなわち、予測範囲内で抽出された履歴UPピーク信号のうち、周波数の最も低い履歴UPピーク信号を選択し、予測範囲内で抽出された履歴DOWNピーク信号のうち、周波数の最も低い履歴DOWNピーク信号を選択する。
【0112】
ここで、履歴UPピーク信号及び履歴DOWNピーク信号がいずれも2つ抽出された場合について
図15を用いて説明する。
図15は車両上方から見た図であり、
図15(a)はUP区間、
図15(b)はDOWN区間を示す図である。図中の「+」は予測ピーク信号に対応する予測位置を示したものであり、破線で囲まれた領域は予測範囲である。
図15に示すように、予測範囲は、予測ピーク信号の周波数を中心にして低周波数側及び高周波数側に各3BINの範囲と、予測ピーク信号の角度を中心にして左右方向に各4度の範囲で囲まれた領域である。また、図中の「●」は今回抽出された履歴ピーク信号である。Pu1及びPu2は履歴UPピーク信号であり、Pu1の周波数の方がPu2の周波数よりも低い。Pd1及びPd2は履歴DOWNピーク信号であり、Pd1の周波数の方がPd2の周波数よりも低い。すなわち、
図15に示すような場合には、周波数の低い方の履歴UPピーク信号Pu1と、周波数の低い方の履歴DOWNピーク信号同士Pd1とが選択されることになる。
【0113】
このように、履歴UPピーク信号及び履歴DOWNピーク信号が複数存在する場合に、周波数の低い履歴ピーク信号同士を選択することでミスペアリングを防止することができる。つまり、周波数の最も低い履歴ピーク信号同士を選択するということは、距離が最も近い履歴ピーク信号同士を選択することであり、同じ部分からの反射波による履歴ピーク信号を選択することになる。このため、同程度のパワーを有する履歴ピーク信号が複数存在する場合に、予測ピーク信号の周波数に近い履歴ピーク信号を選択すると、距離が異なる部分からの反射波による履歴ピーク信号同士を選択してしまう可能性があるものの、これを防止することができる。
【0114】
図14に戻り、履歴UPピーク信号の数及び履歴DOWNピーク信号の数のいずれか一方が2以上で他方が1である場合には(ステップS137の(b))、信号処理部18は、周波数の最も低い履歴ピーク信号と予測ピーク信号とを選択する(ステップS139)。具体的には、信号処理部18は、2以上抽出された方の最低周波数の履歴ピーク信号を選択し、1つだけ抽出された方は予測ピーク信号を選択する。例えば、履歴UPピーク信号が2以上抽出され、履歴DOWNピーク信号が1つ抽出された場合には、信号処理部18は、履歴UPピーク信号のうち周波数の最も低い履歴UPピーク信号と、予測DOWNピーク信号とを選択することになる。これは、一方が2つ以上抽出されているのに対して、他方が1つしか抽出されていないということは、その抽出された1つの履歴ピーク信号の信頼性は低い可能性がある。このため、抽出した履歴ピーク信号はペアリングに採用せず、予測ピーク信号をペアリングに採用することとしている。
【0115】
また、履歴UPピーク信号の数及び履歴DOWNピーク信号の数がいずれも1である場合には(ステップS137の(c))、信号処理部18は、これら抽出した履歴UPピーク信号及び履歴DOWNピーク信号を選択する(ステップS140)。
【0116】
このように、正常履歴ピーク信号が存在する場合には、抽出された履歴UPピーク信号及び履歴DOWNピーク信号の数に応じて、履歴ペアデータを導出する際に用いられるピーク信号を変えることによって、ペアリング方法を切り替えている。
【0117】
図8に戻り、信号処理部18は、第1正常履歴ピーク判定の結果、正常履歴ピーク信号が存在すると判定した場合には(ステップS122でYes)、履歴ペアデータ導出処理を行う(ステップS126)。この場合、選択された履歴ピーク信号(履歴UPピーク信号、履歴DOWNピーク信号及び予測ピーク信号のいずれか2つ)をペアリングすることで履歴ペアデータが導出される。一方、信号処理部18は、正常履歴ピーク信号が存在しない場合には(ステップS122でNo)、第2正常履歴ピーク判定処理を行う(ステップS123)。
【0118】
第2正常履歴ピーク判定処理とは、第1正常履歴ピーク判定処理とは異なる周波数の範囲内で履歴UPピーク信号及び履歴DOWNピーク信号を抽出する処理である。本来存在するはずの角度にピークが現れない場合であっても、他の周波数の履歴ピーク信号に、目的とする角度ピークが現れる可能性があるため、検索する周波数の範囲を広げ、かつ検索する角度の範囲を狭くして第1正常履歴ピーク判定処理と同様の処理を行う。
【0119】
信号処理部18は、第2正常履歴ピーク判定処理の結果、正常履歴ピーク信号が存在すると判定した場合には(ステップS124でYes)、履歴ペアデータ導出処理を行う(ステップS126)。信号処理部18は、履歴UPピーク信号及び履歴DOWNピーク信号の双方とも存在する場合に、正常履歴ピーク信号が存在すると判定する。この場合、抽出した履歴UPピーク信号と履歴DOWNピーク信号とをペアリングすることで履歴ペアデータが導出される。一方、信号処理部18は、正常履歴ピーク信号が存在しないと判定した場合には(ステップS124でNo)、片側履歴ピーク判定処理を行う(ステップS125)。
【0120】
片側履歴ピーク判定処理とは、第1正常履歴ピーク判定処理と同じ条件を満たす履歴ピーク信号の中から、予測UPピーク信号及び予測DOWNピーク信号に対応する履歴UPピーク信号及び履歴DOWNピーク信号のいずれか一方のみが抽出されている履歴ピーク信号を検索する処理である。
【0121】
上述の第1正常履歴ピーク判定処理においては、信号処理部18は、履歴UPピーク信号と履歴DOWNピーク信号との双方が存在するか否かを判定している。従って、いずれか一方が存在しない場合には正常履歴ピーク信号とは判定しないものの、一方のみが存在する旨の判定結果は保持している。このため、片側履歴ピーク判定処理では、信号処理部18は、第1正常履歴ピーク判定処理の結果から、一方のみ存在する履歴ピーク信号を抽出する。そして、信号処理部18は、このような履歴ピーク信号が存在する場合には、片側履歴ピーク信号が存在すると判定し、このような履歴ピーク信号が存在しない場合には、片側履歴ピーク信号は存在しないと判定する。
【0122】
そして、上記各判定処理の結果に基づいて履歴ペアデータを導出する(ステップS126)。第1正常履歴ピーク判定処理及び第2正常履歴ピーク判定処理において、正常履歴ピーク信号が存在すると判定された場合には、履歴UPピーク信号及び履歴DOWNピーク信号の双方が存在しているため、信号処理部18は、これらをペアリングすることで履歴ペアデータを導出する。
【0123】
一方、片側履歴ピーク判定処理において、片側履歴ピーク信号が存在すると判定された場合には、一方の履歴ピーク信号のみが存在するため、信号処理部18は、一方の履歴ピーク信号と、他方の角度情報が取得できなかった履歴ピーク信号とをペアリングすることで履歴ペアデータを導出する。例えば、上述の例の場合、信号処理部18は、FFT処理後のピーク信号が存在し角度情報も導出できた履歴UPピーク信号と、FFT処理後のピーク信号は存在するものの角度情報が導出できない履歴DOWNピーク信号とをペアリングして履歴ペアデータを導出する。この場合、履歴ペアデータが持つ周波数情報は履歴UPピーク信号の周波数と履歴DOWNピーク信号の周波数となり、角度情報はそれを導出できた履歴UPピーク信号の角度情報を採用する。
【0124】
なお、一方の履歴ピーク信号は存在するが、他方の履歴ピーク信号が存在しない場合(すなわち、FFT処理後のピーク信号も存在せず、角度情報も導出できない場合)には、信号処理部18は、一方の存在する履歴ピーク信号と、他方の予測ピーク信号とをペアリングすることで履歴ペアデータを導出する。
【0125】
図7に戻り、履歴ペアリング処理を実行した後は、静止物ペアリング処理を行う(ステップS118)。これは、静止物ピーク抽出処理で抽出された静止物ピークに対して行うペアリング処理である。この処理は、上述したステップS107のペアリング処理と同様の方法で行うことができる。
【0126】
また、静止物ペアリング処理を実行した後は、新規ペアリング処理を行う(ステップS119)。これは、ピーク抽出処理で抽出したピーク信号のうち、履歴ピーク信号及び静止物ピーク信号を除いたピーク信号に対して行うペアリング処理である。この処理についても、上述したステップS107のペアリング処理と同様の方法で行うことができる。
【0127】
次に、信号処理部18は、距離や相対速度等を導出する(ステップS120)。すなわち、信号処理部18は、上記各ペアリング処理にて導出したペアデータに基づいて縦距離、相対速度、角度及び横距離等の導出処理を実行する。静止物ペアリング処理にて導出した静止物ペアデータと、新規ペアリング処理にて導出した新規ペアデータとに基づいて導出する場合は、上記(1)式〜(3)式を用いた場合と同様にして行うことができる。
【0128】
履歴ペアリング処理にて導出した履歴ペアデータに基づいて導出する場合は次のように行う。まず、信号処理部18は、正常履歴ピーク信号が存在するか否かを判定する。正常履歴ピーク信号が存在する場合には、抽出した各区間の履歴ピーク信号のFFTピーク信号を用いて距離及び相対速度を導出すると共に、各区間の履歴ピーク信号のFFTピーク信号から導出した角度情報を用いてペアデータの角度を導出する。
【0129】
一方、正常履歴ピーク信号が存在しない場合には、信号処理部18は、片側履歴ピーク信号が存在するか否かを判定する。片側履歴ピーク信号が存在する場合には、信号処理部18は、片側履歴ピーク信号に基づいて距離等を導出する。
【0130】
片側履歴ピーク信号が存在しない場合(すなわち、正常履歴ピーク信号も片側履歴ピーク信号も存在しない場合)には、UP区間及びDOWN区間の双方で予測ピーク信号を用いて距離、相対速度及び角度を導出する。
【0131】
このように、本実施の形態では、所定の周波数の範囲内に複数のピーク信号が抽出された場合や、ピーク信号が1つも抽出されなかった場合等であっても、ペアリングするピーク信号を抽出されたピーク信号の数に応じて変えている。すなわち、抽出されたピーク信号の数に応じてペアリング方法を変えている。このため、複数のピーク信号が抽出された場合に、ミスペアリングしてしまうことを防止することができる。
【0132】
また、本実施の形態では、片方のピーク信号から角度情報が導出できない場合であっても、FFTピーク信号が抽出できている場合には、予測ピーク信号のFFTピーク信号ではなく、実際に抽出したFFTピーク信号を用いてペアデータを導出し、距離等の情報を導出している。実際に抽出したFFTピーク信号を用いることで、予測ピーク信号を用いた場合よりも信頼性の高い距離等の情報を導出することができる。
【0133】
<4.変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、この発明は上記実施の形態に限定されるものではなく様々な変形が可能である。以下では、このような変形例について説明する。上記実施の形態及び以下で説明する形態を含む全ての形態は、適宜に組み合わせ可能である。
【0134】
上記実施の形態では、ステップS137において、履歴UPピーク信号の数及び履歴DOWNピーク信号の数のいずれか一方が2以上で他方が1である場合には、信号処理部18は、一方では周波数の最も低い履歴ピーク信号を選択し、他方では予測ピーク信号を選択していたが、これに限定されるものはなく、以下のような形態であってもよい。
【0135】
例えば、予測ピーク信号の周波数と近い周波数の履歴ピーク信号を選択してもよい。具体的には、履歴UPピーク信号が2以上抽出され、履歴DOWNピーク信号が1つ抽出された場合には、信号処理部18は、2以上の履歴UPピーク信号のうち、周波数が予測UPピーク信号の周波数に近い方の履歴UPピーク信号を選択する。また、履歴DOWNピーク信号は1つだけ抽出されているため、この抽出された履歴DOWNピーク信号が選択される。その後、選択した各ピーク信号を用いて上述と同様にして履歴ペアデータを導出する。
【0136】
また、例えば、履歴UPピーク信号及び履歴DOWNピーク信号のマッチング度の高いペアを選択してもよい。具体的には、履歴UPピーク信号が2以上抽出され、履歴DOWNピーク信号が1つ抽出された場合には、信号処理部18は、2以上の履歴UPピーク信号の1つと、履歴DOWNピーク信号とのマッチング度合いを導出し、最もマッチング度が高くなる履歴ピーク信号のペアを選択してもよい。マッチング度は、例えばマハラノビス距離を用いて導出することができ、この場合、マハラノビス距離が最も小さくなる履歴ピーク信号のペアを選択することになる。その後、選択した各ピーク信号を用いて上述と同様にして履歴ペアデータを導出する。
【0137】
また、例えば、2以上抽出された履歴ピーク信号の周波数を平均化してもよい。具体的には、履歴UPピーク信号が2以上抽出され、履歴DOWNピーク信号が1つ抽出された場合には、信号処理部18は、各履歴UPピーク信号の周波数を平均し、この周波数が平均化された履歴UPピーク信号と、抽出された履歴DOWNピーク信号とを用いて履歴ペアデータが導出される。
【0138】
また、例えば、2以上抽出された履歴ピーク信号のうち、周波数の最も低い履歴ピークを選択してもよい。具体的には、履歴UPピーク信号が2以上抽出され、履歴DOWNピーク信号が1つ抽出された場合には、履歴UPピーク信号のうち、周波数の最も低い履歴UPピーク信号と、抽出された1つの履歴DOWNピーク信号とが選択され、これら各履歴ピーク信号を用いて履歴ペアデータが導出される。
【0139】
また、例えば、UP区間及びDOWN区間共に予測ピーク信号を選択してもよい。具体的には、履歴UPピーク信号が2以上抽出され、履歴DOWNピーク信号が1つ抽出された場合に、抽出された履歴UPピーク信号も履歴DOWNピーク信号も採用せず、UP区間及びDOWN区間の双方で予測ピーク信号を採用し、履歴ペアデータを導出してもよい。
【0140】
また、上記各実施の形態では、プログラムに従ったCPUの演算処理によってソフトウェア的に各種の機能が実現されると説明したが、これら機能のうちの一部は電気的なハードウェア回路により実現されてもよい。また逆に、ハードウェア回路によって実現されるとした機能のうちの一部は、ソフトウェア的に実現されてもよい。