特許第6265623号(P6265623)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6265623
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】イオナイザー
(51)【国際特許分類】
   H05F 3/04 20060101AFI20180115BHJP
   H01T 19/04 20060101ALI20180115BHJP
   H01T 23/00 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   H05F3/04 J
   H01T19/04
   H01T23/00
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-96547(P2013-96547)
(22)【出願日】2013年5月1日
(65)【公開番号】特開2014-220041(P2014-220041A)
(43)【公開日】2014年11月20日
【審査請求日】2016年4月22日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236160
【氏名又は名称】株式会社テクノ菱和
(73)【特許権者】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 政典
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 朋且
(72)【発明者】
【氏名】水野 彰
【審査官】 高橋 学
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭56−154759(JP,A)
【文献】 特開平06−325894(JP,A)
【文献】 特表2007−513484(JP,A)
【文献】 特開平07−262944(JP,A)
【文献】 特開平06−260810(JP,A)
【文献】 特開2010−034321(JP,A)
【文献】 特開昭60−114363(JP,A)
【文献】 特開平06−005386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05F 3/04
H01T 19/00−19/04
H01T 23/00
H01J 27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオナイザー電極への不純物の析出を熱泳動力により防止するために、前記イオナイザー電極を加熱する加熱装置を有するイオナイザーにおいて、
前記イオナイザー電極は、
先端側が円錐状に形成された円柱状の部材であり、
前記イオナイザー電極の先端部分は、前記イオナイザー電極が設けられるケースから空気中に露出するように設けられ、
前記加熱装置は、
誘導加熱を用いる加熱装置であり、
前記イオナイザー電極との間の電界強度が30kV/cm以下になるように、前記イオナイザー電極の周囲に空間を介して設けられた加熱部を有し、
前記加熱部は、前記イオナイザー電極を周囲温度より20〜100℃高くなるように加熱することを特徴とするイオナイザー。
【請求項2】
前記加熱部は導体を有し、
前記導体は、高周波電源に接続され、前記イオナイザー電極の周囲に空間を介して巻回されていることを特徴とする請求項1記載のイオナイザー。
【請求項3】
前記加熱部は導体を有し、
前記導体は、高周波電源に接続され、前記イオナイザー電極の側部に空間を介して配置されていることを特徴とする請求項1記載のイオナイザー。
【請求項4】
前記導体が絶縁物で覆われていることを特徴とする請求項2又は3記載のイオナイザー。
【請求項5】
前記導体が、銅線、アルミ線、ホルマル線、ポリウレタン線、エナメル線のうち少なくとも一つであることを特徴とする請求項2〜4いずれか一項記載のイオナイザー。
【請求項6】
前記イオナイザー電極が、強磁性体で被覆されていることを特徴とする請求項1〜5何れか一項記載のイオナイザー。
【請求項7】
前記強磁性体が、鉄、ニッケル、コバルトのうち少なくとも一つであることを特徴とする請求項6記載のイオナイザー。
【請求項8】
イオナイザー電極への不純物の析出を熱泳動力により防止するために、前記イオナイザー電極を加熱する加熱装置を有するイオナイザーにおいて、
前記イオナイザー電極は、
先端側が円錐状に形成された円柱状の部材であり、
前記イオナイザー電極の先端部分は、前記イオナイザー電極が設けられるケースから空気中に露出するように設けられ、
誘電体で被覆され
前記加熱装置は、
マイクロ波加熱を用いる加熱装置であり、
前記イオナイザー電極との間の電界強度が30kV/cm以下になるように、前記イオナイザー電極の周囲に空間を介して設けられた加熱部を有し、
前記加熱部は、前記イオナイザー電極を周囲温度より20〜100℃高くなるように加熱し、
前記加熱部は導波管を有し、
前記導波管は、マイクロ波発振器に接続され、
前記導波管の開口部が、前記イオナイザー電極の側部に空間を介して配置されていることを特徴とするイオナイザー。
【請求項9】
前記導波管が、金属製であることを特徴とする請求項8記載のイオナイザー。
【請求項10】
前記導波管は、中心軸が第1の誘電体から形成され、当該中心軸の周囲に、前記第1の誘電体よりも屈折係数の低い第2の誘電体が設けられていることを特徴とする請求項8記載のイオナイザー。
【請求項11】
前記第1の誘電体がフッ素樹脂であることを特徴とする請求項10記載のイオナイザー。
【請求項12】
前記第2の誘電体がガラス、空気、プラスチックのうち少なくとも一つであることを特徴とする請求項10又は11記載のイオナイザー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極の放電により空気をイオン化させ、このイオンにより物体表面の静電気を中和させる、イオナイザーに関する。
【背景技術】
【0002】
集積回路の製造工程においては、埃などの浮遊微粒子がウェハやガラス基板上に付着し、回路パターン作成時に回路の断線や短絡が発生する原因となっていた。このような浮遊微粒子を減少させるべく、クリーンルームが導入されているが、クリーンルーム内は低湿度に保たれているため静電気が発生しやすい。さらに、ウェハやガラス基板のハンドリングに絶縁体であるプラスチック等が多数使用されているため、さらに静電気が発生しやすくなる。
【0003】
製造工程において静電気が発生すると、それにより帯電したウェハやガラス基板が、クリーンルーム内に僅かに残った微粒子を集めることによる、品質の劣化、静電気放電による回路の破壊、電磁波等の発生という不具合が生じる。このような静電気による障害を防ぐために、従来、クリーンルーム内の空気をイオン化し、それにより静電気を中和する方法が行われている。
【0004】
空気をイオン化する方法としては、コロナ放電式イオナイザーを用いる方法がある。このイオナイザーは、イオナイザー電極に高電圧を印加したときに生じるコロナ放電によってイオンを発生させ、このイオンによって静電気を中和する装置である。しかし、このようなイオナイザーを長期間運転すると、イオナイザー電極にSiOを主成分とする物質が析出し、この析出物が電極から飛散してクリーンルーム内を汚染する。
【0005】
そこで、イオナイザー電極の先端における析出物を減少させるために、イオナイザー電極を加熱する加熱装置を設ける技術が適用されていた。この加熱装置は、イオナイザー電極端部に例えばガラス繊維などの絶縁材を介して接触するように設けられた加熱部を有していた。この構成により、イオナイザー電極を加熱することでその電極周囲に発生する熱泳動力によって、イオナイザー電極の先端にSiOを主成分とする物質が析出することを防止していた(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−325894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、加熱装置を備えたイオナイザーを用いるには、加熱装置の電源を絶縁トランスのような高電圧耐圧電源とする必要があった。それは、イオナイザー電極を、ガラス繊維のような薄い絶縁物を介して、ニクロム線等の加熱部と接触させているため、イオナイザー電極に印加される高電圧が、イオナイザー電極から薄い絶縁物を貫通して加熱部に放電し、絶縁材が破壊され、高電圧が加熱装置の電源に印加されて電源が破損するのを防止するためである。
【0008】
しかし、高電圧耐圧電源を用いた場合であっても、イオナイザー電極に印加される高電圧が、イオナイザー電極から薄い絶縁材を貫通して加熱部に放電し、絶縁材の破壊や高電圧耐圧電源の破損が生じ、高電圧がリークする恐れがあった。そうするとコロナ放電電流が減少して除電性能が低下する可能性がある。コロナ放電電流は、元々μAオーダーの微少電流であるため、わずかにリークしただけで、除電性能が著しく低下する恐れがある。
【0009】
本発明は、上記のような問題点を解決するために提案されたものである。本発明の目的は、加熱されたイオナイザー電極を用いた場合であっても除電性能の低下を防止することができるイオナイザーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のイオナイザーは、次の構成を有することを特徴とする。
【0011】
(1) イオナイザー電極への不純物の析出を熱泳動力により防止するために、前記イオナイザー電極を加熱する加熱装置を有するイオナイザーにおいて、前記イオナイザー電極は、先端側が円錐状に形成された円柱状の部材であり、前記イオナイザー電極の先端部分は、前記イオナイザー電極が設けられるケースから空気中に露出するように設けられ、前記加熱装置は、誘導加熱を用いる加熱装置であり、前記イオナイザー電極との間の電界強度が30kV/cm以下になるように、前記イオナイザー電極の周囲に空間を介して設けられた加熱部を有し、前記加熱部は、前記イオナイザー電極を周囲温度より20〜100℃高くなるように加熱する。
【0012】
本発明の一態様であるイオナイザーは、さらに以下の構成を有していても良い。
(2)前記加熱部は導体を有し、前記導体は、高周波電源に接続され、前記イオナイザー電極の周囲に空間を介して巻回されていても良い。また、前記加熱部は導体を有し、前記導体は、高周波電源に接続され、前記イオナイザー電極の側部に空間を介して配置されていても良い。前記導体が、銅線、アルミ線、ホルマル線、ポリウレタン線、エナメル線のうち少なくとも一つであっても良い。
【0013】
(3)前記イオナイザー電極が、強磁性体で被覆されていても良い。前記強磁性体が、鉄又はニッケル、コバルトのうち少なくとも一つであっても良い。
【0014】
また、本発明の一態様であるイオナイザーは、さらに以下の構成を有していて良い。
(4)イオナイザー電極への不純物の析出を熱泳動力により防止するために、前記イオナイザー電極を加熱する加熱装置を有するイオナイザーにおいて、前記イオナイザー電極は、先端側が円錐状に形成された円柱状の部材であり、前記イオナイザー電極の先端部分は、前記イオナイザー電極が設けられるケースから空気中に露出するように設けられ、誘電体で被覆され、前記加熱装置は、マイクロ波加熱を用いる加熱装置であり、前記イオナイザー電極との間の電界強度が30kV/cm以下になるように、前記イオナイザー電極の周囲に空間を介して設けられた加熱部を有し、前記加熱部は、前記イオナイザー電極を周囲温度より20〜100℃高くなるように加熱し、前記加熱部は導波管を有し、前記導波管は、マイクロ波発振器に接続され、前記導波管の開口部が、前記イオナイザー電極の側部に空間を介して配置されていても良い。
【0015】
(5)前記導波管が、金属製であっても良い。
【0016】
(6)前記導波管は、中心軸が第1の誘電体から形成され、当該中心軸の周囲に、前記第1の誘電体よりも屈折係数の低い第2の誘電体が設けられていても良い。前記第1の誘電体がフッ素樹脂であっても良い。前記第2の誘電体がガラス、空気、プラスチックのうち少なくとも一つであっても良い。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、コロナ放電電流の減少や加熱装置の破損を防止し、除電性能の低下を防止することができるイオナイザーを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1の実施形態に係るイオナイザーの構成を示す模式図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係るイオナイザーの加熱構成を示す模式図である。
図3】本発明の第1の実施形態に係るイオナイザーの加熱構成を示す模式図である。
図4】本発明の第1の実施形態に係るイオナイザーの加熱構成を示す模式図である。
図5】本発明の第1の実施形態の変形例に係るイオナイザーの加熱構成を示す模式図である。
図6】本発明の第2の実施形態に係るイオナイザーの構成を示す模式図である。
図7】本発明の第2の実施形態に係るイオナイザーの加熱構成を示す模式図である。
図8】本発明の第2の実施形態に係るイオナイザーの加熱構成に用いられる導波管の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[1.第1の実施形態]
[1−1.構成]
(1)イオナイザーの概略構成
以下、本発明に係るイオナイザーの実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本実施形態のイオナイザーの構成を示す図である。クリーンルーム等の除電対象室内の天井には、本体ケース1が設けられている。本体ケース1内には、交流高圧電源2および高周波電源3が設けられている。交流高圧電源2は、コロナ放電用の電源であり、図示しないイオナイザー電源供給トランスを介して交流100V電源に接続されている。高周波電源3は、例えば周波数50Hz〜400kHz、数mA〜数Aの交流電流を流す電源であり、図示しない交流100V電源に接続されている。
【0020】
本体ケース1には、複数のイオナイザー電極4が着脱可能に設けられている。イオナイザー電極4は例えばタングステンやトリウムタングステンなどの金属からなる円柱状の部材であり、先端側が円錐状に形成されている。イオナイザー電極4の根元側は交流高圧電源2に接続されている。
【0021】
本実施形態のイオナイザーは、イオナイザー電極4への不純物の析出を熱泳動力により防止するために、イオナイザー電極4を加熱する加熱装置を有しており、加熱装置は、イオナイザー電極4の周囲に空間を介して設けられた加熱部を有している。本実施形態は、誘導加熱を用いる加熱装置に関するものである。すなわち本実施形態の加熱部は導体5を有し、この導体5は、高周波電源3に接続され、イオナイザー電極4の周囲に空間を介して巻回されている。以下、本実施形態の加熱構成について、詳細に説明する。
【0022】
(2)加熱構成
図2に示すイオナイザー電極4の一例は、イオナイザー電極4の長手方向の長さが23mm、直径が2mmとなるように形成されている。導体5はイオナイザー電極4に接触していない。例えば、イオナイザー電極4の周囲には、所定の空間(1mm)を介して導体5が巻回されているため、巻回された導体5の直径は4mmとなる。所定の空間は、イオナイザー電極4の周面においてほぼ均一となるように設けられている。導体5は、イオナイザー電極4の長手方向の長さが12mmとなるように巻回されている。以上の寸法は実施形態を説明するための一例に過ぎないため、本実施形態はこれに限定されるものではない。
【0023】
導体5としては、アルミ線又は銅線等、電気伝導率の高い導体を用いることが好ましい。また、これらの導体が絶縁物で被覆されたホルマル線、ポリウレタン線、エナメル線を用いることもできる。高周波電源3から供給される電流によって、所望の温度にイオナイザー電極4を加熱できるように、イオナイザー電極4の抵抗を鑑みて、導体5の断面積や巻回する長さを調整しておく。電極は、周囲温度(常温)より20〜100℃高く加熱されることが好ましい。
【0024】
(3)実験例
ここで、実験例を示して本実施形態をさらに説明する。実験に用いられたイオナイザー電極と導体は以下の通りである。
・イオナイザー電極:タングステン合金製、直径2mm、長さ23mm
・導体:ホルマル線、直径0.6mm
【0025】
実験例では、イオナイザー電極の周囲に空間を介してホルマル線を19周巻回した。イオナイザー電極の長手方向における、巻回された導体(ホルマル線コイル)の長さは12mmで、直径は5mmであった。ホルマル線コイルを高周波電源に接続して、電流を供給した。ホルマル線コイルに流れる電流(以下、コイル電流という)は3Arms、周波数は80.8kHzであった。また、実験日の室温は22.6℃であった。イオナイザー電極に温度測定用の熱電対を取り付けて、経時的にイオナイザー電極の温度を測定した結果を表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
表1からも明らかな通り、実験開始2分後には、イオナイザー電極の温度が105℃を超えていた。イオナイザー電極は、特に、100℃以上に加熱されれば、熱泳動力により不純物の析出を十分に防止することができる。よって、イオナイザー電極に空間を介して加熱装置の加熱部を設置した場合であっても、所望のイオナイザー電極温度を得られることが明らかになった。また、コイル電流値を変化させて、イオナイザー電極の飽和温度を測定した結果を表2に示す。
【0028】
【表2】
【0029】
表2からも明らかな通り、実用レベルの高周波電源(3Arms、80.8kHz)を用いて、本実施形態のイオナイザーにより、イオナイザー電極を100℃付近まで加熱できることが分かった。なお、この実験例では、コイル電流を3Armsとしたが、コイルの巻数、イオナイザー電極とコイルとの距離を調節することにより、mAオーダーのコイル電流でも同様に加熱することが可能である。
【0030】
(4)絶縁物
図3(a)はイオナイザーの加熱構成を示す模式図であり、(b)は(a)のA―A’断面図である。本実施形態のイオナイザーでは、イオナイザー電極4の周囲に巻回された導体5を絶縁物6により覆っても良い。絶縁物6は、イオナイザー電極4に接触していない。すなわち、イオナイザー電極4に空間を介して配置されている導体5の周囲をのみ覆うように形成されている。絶縁物6は、モールド成形により形成することができる。絶縁物6としては、エポキシ、シリコン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン等の樹脂を用いることができる。他にも、石英等のガラスや、炭化珪素やアルミナ等のセラミックス等、より電気抵抗率が高い材料を用いても良い。
【0031】
(5)強磁性体
また、図4に示すように、イオナイザー電極4の外周面が強磁性体7で被覆されていても良い。この場合、導体5は、イオナイザー電極4に被覆された強磁性体7に接触しないように、空間を介して巻回されることとなる。強磁性体7としては、鉄やニッケル等、透磁率が高い材料を用いることが好ましい。絶縁物6と強磁性体7は、それぞれ独立して適用することもできるし、組み合わせて用いても良い。すなわち、イオナイザー電極4に被覆された強磁性体7の周囲に空間を介して導体5を巻回し、この導体5を絶縁物6で覆うこともできる。
【0032】
[1−2.作用]
以上のような構成を有する本実施形態の作用を、電流の流れに沿って以下に説明する。図1に示すように、交流100V電源からの電流は、交流高圧電源2を介して数μAの交流高圧電流に変換され、イオナイザー電極4に流される。
【0033】
図1に示すように、イオナイザー電極4に到達した電流は、イオナイザー電極4の根元から先端部に向かって流れる。この電流により、イオナイザー電極4の先端部からコロナ放電が発生し、イオナイザー電極4の先端周囲の空気がイオン化される。このイオン化された空気Aが帯電した物体Bにクリーンルームの下降整流C(0.3m/s)により供給され、そのイオンによって、イオンと逆極性の帯電物体B上の静電荷Dが中和される。
【0034】
また、イオナイザー電極4の周囲に巻回された導体5には、高周波電源3から50Hz〜400kHzの交流電流が供給される。導体5に電流が流れると、その周囲に磁力線が発生する。この磁力線の影響を受けて、イオナイザー電極4内には渦電流が流れることとなる。金属からなるイオナイザー電極4は電気抵抗を有するため、イオナイザー電極4に
渦電流が流れることによりイオナイザー電極4が自己発熱する。
【0035】
従来のように、加熱対象に絶縁材を介して直接導体5を巻回した場合には、イオナイザー電極4にかかる高電圧により、絶縁材と高周波電源3が破損する可能性があった。しかし、本実施形態の導体5は、イオナイザー電極4に空間を介して巻回されているため、イオナイザー電極4と導体5の距離が従来例に比べて長くなる。よって、イオナイザー電極4から導体5へ向かう放電の発生が抑制される。
【0036】
導体5を絶縁物6で覆うことにより、さらにその放電の発生が低減される。すなわち、イオナイザー電極4に高電圧を印加した際、イオナイザー電極4と導体5の間の電界強度が30kV/cm以上になると、イオナイザー電極4から導体5に向かって放電が生じる。しかし、導体5を電気抵抗率の高い絶縁物6で覆った場合には、10kV/mmまでイオナイザー電極4から導体5への放電を防止できる。
【0037】
イオナイザー電極4を強磁性体7で被覆することにより、導体5周囲の磁力線により、強磁性体7に渦電流が流れ、強磁性体7も自己発熱することになる。強磁性体7は、透磁率が高い材料で形成されているため、効率よく自己発熱する。よって、イオナイザー電極4が透磁率の低い材料で形成されていた場合であっても、強磁性体7の自己発熱によってイオナイザー電極4が加熱される。よって、イオナイザー電極4の加熱効率が向上される。
【0038】
以上のようにして加熱されたイオナイザー電極4では、先端部の周囲に熱泳動力の作用が生じる。すなわち、温度勾配のある環境に微粒子が存在する場合には、微粒子は低温側に向かう力を受け移動することとなる。従って、先端部の周囲に生じた熱泳動力の作用によって、イオナイザー電極4の先端における微粒子の析出が軽減される。
【0039】
[1−3.効果]
以上のような本実施形態の効果は以下の通りである。
(1)本実施形態のイオナイザー電極4の周囲には、加熱装置の加熱部が空間を介して設けられている。従って、イオナイザー電極4と加熱部の距離を長くすることができ、イオナイザー電極4から加熱部に向かう放電が低減されるため、コロナ放電電流の減少、加熱装置の破損が生じることがなく、除電性能の低下を防止することができる。
【0040】
(2)従来では電極を加熱するために数A以上の電流が必要だったが、本実施形態のイオナイザーでは、イオナイザー電極を数mAの電流で加熱を行うこともできるため、実用性に富んでいる。
【0041】
(3)イオナイザー電極4の周囲に空間を介して導体5を設けているため、コロナ放電電流の減少や加熱装置の破損を生じさせることなく誘導加熱によりイオナイザー電極4を効率的に加熱することができる。イオナイザー電極4が空間を介して加熱されることにより除電性能の低下を防止することができ、かつ、熱泳動力による不純物の析出を防止することができる。また、より電気伝導率が高い材料で導体5を形成した場合には、イオナイザー電極4の自己発熱効率をさらに向上させることができる。
【0042】
(4)導体5を絶縁物6で覆うことにより、イオナイザー電極4から導体5へ向かう放電を防止することができるため、コロナ放電電流の減少や加熱装置の破損が生じることがなく、除電性能の低下を防止することができる。
【0043】
(5)イオナイザー電極4を強磁性体7で被覆することにより、イオナイザー電極4を効率的に加熱することができる。イオナイザー電極4が透磁率の低い材料で形成されている場合であっても、イオナイザー電極4を空間を介して加熱することができる。よって、除電性能の低下を防止することができ、かつ、熱泳動力による不純物の析出を防止することができる。
【0044】
[第1の実施形態の変形例]
第1の実施形態の変形例であるイオナイザーの加熱構成を図5に示す。第1の実施形態の変形例は、導体5の配置にかかるものである。第1の実施形態と同じ部分については同一符号を付して説明は省略する。
【0045】
第1の実施形態の変形例における導体5は、イオナイザー電極4の少なくとも一部に対して、空間を介して配置されている。導体5は、例えばイオナイザー電極4の側部に沿うように、空間を介して配置されていても良い。導体5は、イオナイザー電極4の近傍において、Z字状やコイル状に形成することができる。すなわち、導体5の形状や長さは、高周波電源3から供給される電流によって、所望の温度にイオナイザー電極4を加熱できるように、イオナイザー電極4の抵抗を鑑みて調整しておく。
【0046】
図5では、強磁性体7と組み合わせた例を示しているが、上記実施形態と同様に、絶縁物6および強磁性体7はそれぞれ独立して適用することもできるし、組み合わせて用いても良い。
【0047】
以上のような第1の実施形態の変形例によると、イオナイザーの寸法や設置環境によりイオナイザー電極4の周囲に導体5を巻回できない場合であっても、第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。また、導体5はイオナイザー電極4の近傍に配置すれば良いため、設置が容易になる。
【0048】
[2.第2の実施形態]
[2−1.構成]
第2の実施形態のイオナイザーの断面図を図6および7に示す。第2の実施形態は、マイクロ波加熱を用いる加熱装置に関するものである。すなわち、本実施形態の加熱部は導波管9を有しており、この導波管9は、マイクロ波発振器8に接続されている。この導波管9の開口部が、イオナイザー電極4の側部に空間を介して配置されている。また、イオナイザー電極4は誘電体10で被覆されている。第1の実施形態と同じ部分については同一符号を付して説明は省略する。
【0049】
本実施形態のイオナイザーの本体ケース1内には、交流高圧電源2およびマイクロ波発振器8が設けられている。マイクロ波発振器8は、例えば2.54GHzのマイクロ波を発するマグネトロンであり、図示しない交流100V電源に接続されている。マイクロ波発振器8には、導波管9が取り付けられている。
【0050】
イオナイザー電極4には、マイクロ波損失係数の大きな誘電体で形成されている誘電体10が被覆されている。誘電体10としては、ゴムやウレタンなどを用いることができる。図7に示すイオナイザー電極4の一例は、イオナイザー電極4の長手方向の長さが23mm、直径が2mmとなるように形成されている。誘電体10は、イオナイザー電極4の長手方向の長さが12mmとなるように被覆されている。本実施形態はこれに限定されるものではない。
【0051】
誘電体10は、マイクロ波発振器8から供給されるマイクロ波によって、所定の温度にイオナイザー電極4を加熱できるように、誘電体10の被覆面積を調整しておく。電極は、周囲温度(常温)より、20〜100℃高く加熱されることが好ましい。
【0052】
導波管9の開口部は、イオナイザー電極4の少なくとも一部に対して、空間を介して配置されている。導波管9の開口部は、例えばイオナイザー電極4の側部の一部に対して、空間を介して配置されている。すなわち、導波管9の開口部はイオナイザー電極4に接触していない。
【0053】
導波管9は、一端がマイクロ波発振器8に接続され、他端である開口部が各イオナイザー電極4に空間を介して配置されている。従って、導波管9は複数の分岐点を有し、当該分岐点において、複数の導波管9が接続されている。導波管9としては、中空の金属導波管を用いることができる。例えば、アルミパイプや鉄パイプを用いることができる。導波管9の直径は、例えば4mm程度とすることが好ましい。なお、金属導波管としては、断面が円形のものに代えて方形のものを用いることもできる。
【0054】
他にも、導波管9としては、誘電体導波管を用いることができる。誘電体導波管は、同軸ケーブル構造を有しており、図8に示すように中心軸が第1の誘電体9aであるマイクロ波損失係数の小さい誘電体から形成されている。中心軸の周囲には、第2の誘電体9bである第1の誘電体9aよりも、マイクロ波の屈折計数が低い誘電体が設けられている。
【0055】
第1の誘電体9aとしては、高性能誘電体であるポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂を用いることができる。第2の誘電体9bとしては、ガラス、空気、プラスチック等を用いることができる。第2の誘電体9bを空気とする場合には、第1の誘電体9aの周囲に、中空のプラスチック管を設ければ良い。
【0056】
[2−2.作用]
以上の様な構成を有する本実施形態特有の作用を以下に説明する。イオナイザー電極4の少なくとも一部に対して配置された導波管9の開口部には、マイクロ波発振器8から2.54GHzのマイクロ波が供給される。このマイクロ波が導波管9を伝播してイオナイザー電極4側に供給されると、イオナイザー電極4に被覆されている誘電体10にマイクロ波が吸収され、誘電体10が加熱される。従って、イオナイザー電極4が加熱されることとなる。
【0057】
以上のようにして加熱されたイオナイザー電極4では、先端部の周囲に熱泳動力の作用が生じる。すなわち、温度勾配のある環境に微粒子が存在する場合には、微粒子は低温側に向かう力を受け移動することとなる。従って、先端部の周囲に生じた熱泳動力の作用によって、イオナイザー電極4の先端における微粒子の析出が軽減される。
【0058】
[2−3.効果]
以上のような第2の実施形態によると、第1の実施形態の効果の(1)および(2)に加えて、以下のような作用・効果を得ることが可能となる。
【0059】
(1)イオナイザー電極4の周囲に空間を介して導波管9の開口部を設けているため、コロナ放電電流の減少や加熱装置の破損を生じさせることなくマイクロ波加熱によりイオナイザー電極4を効率的に加熱することができる。
【0060】
(2)導波管9を金属製導波管とした場合には、金属製導波管は中空であるため、中心導体による導体損がなくなる。また、誘電体が空気であることから誘電体損を低減できるため、低損失でマイクロ波を伝播することができる。
【0061】
(3)導波管9を誘電体導波管とした場合には、イオナイザー本体1内での配線を容易にすることができる。すなわち、誘電体導波管は屈曲可能であるため、イオナイザー電極4の配置に併せて適宜配線することが可能となる。
【0062】
[その他の実施の形態]
(1)上記の実施形態では、高周波電源3およびマイクロ波発振器8は、本体ケース1内に設けられる構成としたが、本体ケース1の外部に設けられていても良い。高周波電源3およびマイクロ波発振器8を、本体ケース1の外部に配置する場合には、導体5や導波管9の配線を適宜変更すれば良い。本体ケース1の外部に配置することにより、イオナイザー本体をコンパクト化し、例えば既存のスペースに取り付けることが可能になる。
【0063】
(2)上記の実施形態では、マイクロ波発振器8を一つ設ける構造としたが、マイクロ波発振器8は複数設けても良い。すなわち、イオナイザー電極4が多数配置されている場合には、減衰によりマイクロ波がすべてのイオナイザー電極4まで伝播しない場合がある。この場合には、複数配置されたイオナイザー電極4を挟むように、イオナイザー本体1の両端にマイクロ波発振器8を一つずつ設けても良い。もちろん、一つのマイクロ発振器8が伝播できるマイクロ波の距離を鑑みてイオナイザー電極4の個数を変更しても良い。
【符号の説明】
【0064】
1 本体ケース
2 交流高圧電源
3 高周波電源
4 イオナイザー電極
5 導体
6 絶縁体
7 強磁性体
8 マイクロ波発振器
9 導波管
9a 第1の誘電体
9b 第2の誘電体
10 誘電体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8