【実施例】
【0037】
実施例
1.材料及び方法
1.1.OCP及びOCP/HyA複合体
OCPは以前の記載(Suzuki O, et al., Tohoku J Exp Med 1991; 164:37-50)の通りにカルシウム溶液とリン酸塩溶液を混合することにより調製した。OCP結晶凝集物からなる顆粒を、OCP沈殿物を標準試験用篩いに通過させることにより調製した。300μmから500μmまでの範囲の直径の顆粒を使用した (
図1A)。篩い分けたOCP顆粒を120℃で2時間、加熱滅菌した。3種類の医療グレードの高分子量ヒアルロン酸(HyA)であるHyA90(Artz(登録商標),MW=500-1200kDa)、HyA190(Suvenyl(登録商標),MW=1900kDa)及び化学的に架橋したHyA600(Synvisc(登録商標),MW=6000kDa))を、生化学工業株式会社、 (日本国東京)、中外製薬株式会社(日本国東京)及びGenzyme Biosurgery社(米国マサチューセッツ州Cambridge)からそれぞれ購入した。OCP顆粒(100mg)を1mlの各HyAゲルに加え、混合した(
図1B)。
1.2.OCP/HyAゲルの特性化(キャラクタリゼーション)
室温で乾燥させた後のOCP/HyAゲル及びOCPを、XRDにより特性化した。XRDパターンは、30kV及び15mAの回折計(MiniFlex; 理学電機株式会社、日本国、東京)でCu KαX線を用いて3.0°から60.0°まで0.05°間隔でのステップ走査法により記録した。測定された2θ範囲は、4.7°でOCPの主要なピーク(100)を含んでいた。結晶相を識別するために、OCPに対しては26-1056A9、HyAに対しては9-432の粉末回折標準に関する合同委員会(JCPDS)の番号を使用した。臭化カリウムで希釈したサンプルに対し、複合体のFTIRスペクトルを4cm
-1の分解能で4,000-400cm
-1の範囲にわたりFTIR分光法により得た(FREEXACT-2、株式会社堀場製作所、日本国京都)。OCP及びOCP/HyAの形態を10kVの加速電圧で作動するJEOL分析走査電子顕微鏡JSM-6390LA(日本国東京)を使用して調べた。金のスパッタリングを観察前に行った。HyA溶液の粘度は電磁回転式粘度計(京都電子工業株式会社、日本国京都)を使用して測定した。
1.3 実験動物モデル
重量30-36gの8週齢の雄ICRマウス(日本エスエルシー株式会社、日本国静岡県浜松市)を使用した。実験動物の管理及び使用の原則及び国内法を遵守した。すべての手順は東北大学の動物実験委員会で承認されたものである。実験マウスを、ペントバルビタールナトリウム(50mg/kg)の腹腔内注射で麻酔し、エーテル吸入を補った。マウスが痛みを感じた場合には、手術中にエーテル吸入を施した。頭蓋冠の皮膚及び骨膜を注意深く除去し、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製のリング(内径6mm、厚さ1mm)を医療用組織接着剤(アロンアルファA、第一三共株式会社、日本国東京)を用いて縫合を横切って頭蓋冠の中心に配置した。
図1C及びDに示すように、頭蓋冠(1)にPTFEリング(2)を配置した後、OCP/HyA複合体(3)を14Gポリマーカテーテルを取り付けた注射器(4)を使用して注射した。次に、注射したOCP/HyA複合体(5)の流出を防ぐために、リング(2)を医療用組織接着剤を用いて直径8mm 、100μm厚のPTFEシート(6)で被覆した(
図1D)。マウスは、3週目及び6週目(それぞれ6匹のマウス)に過剰量の麻酔薬(ペントバルビタールナトリウム、200mg/kg)を腹腔内に投与して安楽死させた。したがって、OCP顆粒、OCP/HyA複合材料、及びPTFE(未処理)群の各々の12匹のマウスを、組織形態学的検査のために準備した。
1.4.組織標本及び組織形態学的分析
頭蓋冠を切除し、4%パラホルムアルデヒドの0.1Mリン酸緩衝液(PBS)で4℃で一晩維持した。固定した試験片を10%EDTA の0.01M PBS(pH 7.4)で4℃で2週間脱灰した。その後、サンプルを段階的な一連のエタノールで脱水し、パラフィン包埋した。厚さ4μmの連続切片を冠状に切断し、光学顕微鏡観察のためにヘマトキシリン−エオシン(HE)及びアルシアンブルーで染色した。また、画像は顕微鏡写真機(ライカDFC300 FX、ライカマイクロシステムズ株式会社、日本国東京)を使用して取得した。HEで染色された切片の光学顕微鏡写真は組織形態学的測定に使用した。新たに形成された骨の面積率は、新たに形成された骨の面積を合計移植面積で割った値として計算した。同様に、欠損中の残存インプラントの割合は、残存インプラントの面積を合計面積で割った値として計算した。面積率は、Adobe Photoshop Elements 8及びImage J 1.45(NIH Image、米国メリーランド州Bethesda)を使用してコンピュータで定量した。
1.5. 酒石酸耐性酸性ホスファターゼ(TRAP)及びアルカリフォスファターゼ(ALP)による二重染色法
組織切片の酒石酸耐性酸性ホスファターゼ(TRAP)及びアルカリフォスファターゼ(ALP)を、TRAP/ALP二重染色キット(和光純薬工業株式会社、コード番号294-67001、日本国大阪)により評価した。切片を30分間TRAPバッファに浸漬し、蒸留水で洗浄した後、2-アミノ-2-メチルプロパン-1,3-ジオールで10分間浸漬し、次にALPバッファで30分間インキュベートした。対比染色はヘマトキシリンを用いて行った。
1.6. オステオカルシン
脱パラフィン化後、内因性ペルオキシダーゼ活性を除去するために連続切片を3%(体積比)のH
2O
2でインキュベートし、10%正常ヤギ血清(ヒストファインブロッキング試薬、株式会社ニチレイバイオサイエンス、日本国東京)でブロッキングした。調製したスライドをオステオカルシンの一次抗体(タカラバイオ株式会社、コード番号M188 R21C-01A、希釈率1:400)で4℃で一晩インキュベートし、これを、アミノ酸ポリマーとペルオキシダーゼ及びヤギ抗ラットIgG(Simple Stain Mouse MAX PO(RAT)、コード番号414311F、Histofine(登録商標)免疫組織染色試薬、株式会社ニチレイバイオサイエンス、日本国東京)と組み合せせることにより調製されたポリマーと共にインキュベートした。シグナルを3,3'-ジアミノベンジジン四塩酸塩 (DAB、Sigma-Aldrich社)を使用して検出した。対比染色はヘマトキシリンを用いて行った。オステオカルシンの一次抗体を使用せずに、陰性対照染色についても調べた。
1.7統計分析
組織形態学的分析は、各動物から各時点で得られた3つの切片を使用して行った。それらは信頼できる再現性を示した。試験片間の統計的な差はTukey-Kramer多重比較分析により評価した。P<0.05の値は統計学的に有意であるとみなした。
2.結果
2.1 OCP/HyAゲル
図1A及びBはそれぞれ篩い分けしたOCP顆粒及びOCP/HyA90複合材料の画像を示す。イメージを示す。
図2Aは乾燥後のOCP及びOCP/HyA複合体のX線回折(XRD)パターンを示す。合成OCPに関して観察された特徴的な2θ=4.9°の(100)反射及び2θ=33.6°の (700)反射を含むXRDのすべての反射は、OCP構造から予測される反射(Mathew M et al., J Crystallogr Spectrosc Res 1988;18:235-250)によく一致していた。特徴的な2θ=10.8°の(100)反射またはOCP由来の反射以外の反射は検出されず、合成OCPが単一のOCP結晶相から成ることが明らかとなった。
図2Bは、乾燥後のOCP及びOCP/HyA複合材のフーリエ変換赤外分光法(FTIR)スペクトルを示す。OCPのFTIRスペクトルは以前に報告した(Fowler BO et al., Arch Oral Biol 1966;11:477-92.)のとよく一致していた。1,030-1,130cm
-1付近のオルトリン酸伸縮吸着のv
3 P-Oに由来する3つの異なる特徴的バンドと、560-600cm
-1付近のv
4 PO
4の2つのシャープな吸収バンドが同定された。
図2C及びDは乾燥後の合成OCP顆粒及びOCP/HyAの走査電子顕微鏡(SEM)写真を示す。顆粒は、OCP結晶凝集体から成る不規則な形態を示した。OCP結晶は、長さ数μmの板状の形態を示した。これらのデータは、HyAの追加がOCPの構造的特性に影響を及ぼさないことを実証した。電磁回転式粘度計を使用した粘度の測定は、HyAゲルの粘度がそれらの分子量(表1)に依存することを実証した。
【0038】
【表1】
【0039】
2.2.組織学的検査
図3は、移植後3週目及び6週目のOCP自体及びOCP/HyAゲルインプラントのヘマトキシリン-エオシン染色した頭蓋冠周囲の組織切片の写真であり、
図4は同じく、その拡大写真である。以前の研究では、組織切片の調製中に脱灰化の結果として既に存在しないOCP結晶間の空間内にマトリクスタンパク質の蓄積が存在することにより、主として生じるへマトキシリンに親和性のあるタンパク質が鋳型となってOCP顆粒が認識可能であることが実証されていた。ほとんどのOCP顆粒は、すべての群で、新たに形成された骨で覆われる傾向があった。頭蓋冠表面からの新しい骨の形成はOCP群(
図3A)で観察され、OCP群に制限された。しかしながら、OCPとHyAとの組み合わせ、特にOCPとHyA90又はHyA600との組み合わせは、OCPのみの群と比較して骨形成を増強した。HyAが分子量によっては比較的高い骨再生能を有することは予想外のことである。新たに形成された骨の内部で、骨髄組織も形成された。OCP/HyA600群では、残りのHyAゲルが明瞭に認識された。ホスト骨領域、界面領域、及び材料領域の拡大像が
図3E,F,G,H,M,N,O及びPに示される。骨形成は、3週目の頭蓋冠(
図3F)からの反応性骨形成に加えて、頭蓋冠(
図3G及び
図3H)とは無関係にOCP顆粒の周囲で直接認識された。骨形成は増加し、6週目でホスト頭蓋冠骨と統合されるようになった。(
図3M−
図3P)。
【0040】
図5はOCP/HyA600移植群のアルシアンブルーで染色した切片の写真及び拡大写真であり、(A)及び(C)は移植後3週目、(B)及び(D)は移植後6週目である。OCP/HyA90及びOCP/HyA190では3週目でも残存HyAゲルは無いが(データ非図示)、HyA600は移植後3及び6週目とも部分的に吸収されずに残っていた。
2.3 OCP/HyAインプラント周囲のTRAP陽性破骨用細胞及びALP陽性骨芽細胞の検出
図6及び7は、OCP及びOCP/HyA複合材の移植後の3週目(
図6)及び6週目(
図7)の頭蓋冠組織のTRAP及びALP染色を示す。TRAPはHyAの存在にかかわらず(
図6E−H)OCP顆粒に緊密に関連して検出された。OCP/HyA90(
図6F)及びOCP/HyA600(
図6H及び7P)のTRAPはOCP/HyA190(
図6G及び
図7O)のTRAPよりも比較的高いように見える。対照 (PTFEリングのみ)のTRAPは、OCP/HyA複合体(
図6A及び7I)のTRAPよりもはるかに低かった。ALPは、3週目のOCPの無いHyA90(
図6B)及びHyA600(
図6D)の頭蓋冠表面と、6週目のHyA190(
図7K)及びHyA600(
図7L)の頭蓋冠表面とで検出された。ALPも、3週目のOCP/HyA90(
図6F)及び6週目のOCP/HyA90(
図7N)でOCP顆粒の周囲で検出された。
2.4 骨形成の周囲のオステオカルシンの局在性
図8は、6週目のオステオカルシンの免疫染色を示す。移植されたOCPは、オステオカルシンに関して陽性に染色された。オステオカルシン陽性細胞は新しい骨の周囲で観察された。残りのHyA(HyA600(
図8D)はオステオカルシンで染色されなかった。OCP顆粒も骨組織も、対照群では染色されなかった(
図8I,J,K,及びL)。
2.5 組織形態学的検査
新しい骨の形成のパーセンテージに関する組織形態学的知見を
図9A及び9Cに示す。3週目では、PTFEリング、OCP顆粒、HyA90、OCP/HyA90、HyA190、OCP/HyA190、HyA600及びOCP/HyA600における新たな骨の平均面積はそれぞれ3.9±4.2、5.6±4.3、13.6±6.2、17.1±12.5、0.9±0.7、9.9±8.0、15.5±9.2%、及び15.0±10.2%であった。PTFEリング群とHyA600及びOCP/HyA600群との間には有意差が見られた。移植後6週目では、PTFEリング、OCP顆粒、HyA90、OCP/HyA90、HyA190、OCP/HyA190、HyA600及びOCP/HyA600における新たな骨の平均面積はそれぞれ5.6±7.6、20.8±7.1、13.4±5.1、33.0±8.3、3.6±5.9、21.5±8.4、27.4±7.9、及び36.0±5.6%であった。有意差はPTFEリング群と、OCP/HyA90、OCP/HyA190、HyA600及びOCP/HyA600間とで観察された。また、OCP/HyA90及びOCP/HyA190の新たな骨の面積率はHyA90及びHyA190のそれよりもそれぞれ有意に高かった。OCP/HyA90及びOCP/HyA600群の新たに形成された骨のパーセンテージが、OCP顆粒群よりも有意に高かったことは注目に値する(
図9A、6週目)。つまり、OCP/HyAはOCP単独あるいはHyA単独と比較して高い骨再生能を示す。残存インプラントのパーセンテージに関する組織形態学的知見を
図9Bに示す。移植後3週目では、OCP顆粒、OCP/HyA90、OCP/HyA190及びOCP/HyA600群の残存インプラントの平均パーセンテージは、それぞれ21.7±16.3、20.8±10.4、14.9±5.2及び16.8±11.9%であった。OCP/HyA複合材の群間では、残存インプラントのパーセンテージの有意差は見られなかった。移植後6週目では、OCP顆粒、OCP/HyA90、OCP/HyA190及びOCP/HyA600群の残存インプラントの中間のパーセンテージは、それぞれ12.7±5.1、8.3±3.5、13.7±6.2及び14.4±6.8%であり、これはOCP/HyA複合材の群間で有意差はなかった。
HyA90及びHyA190は3週目でもHyAゲルが吸収されているのに対し、HyA600は吸収されていないのに骨伝導能を示すのは、HyA90はHyAの分解中に骨形成での刺激能に関与した可能性があるのに対し、架橋処理したHyA600の骨伝導能はマトリックスがOCP顆粒と新たな骨形成の足場として機能し、それぞれ骨伝導能のメカニズムが異なる可能性がある。