(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6265674
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】小型スロットアンテナ
(51)【国際特許分類】
H01Q 13/10 20060101AFI20180115BHJP
【FI】
H01Q13/10
【請求項の数】8
【外国語出願】
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-210736(P2013-210736)
(22)【出願日】2013年10月8日
(65)【公開番号】特開2014-87055(P2014-87055A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2016年10月6日
(31)【優先権主張番号】1260064
(32)【優先日】2012年10月23日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】501263810
【氏名又は名称】トムソン ライセンシング
【氏名又は名称原語表記】Thomson Licensing
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】ドミニク ロ ヒーネ トン
(72)【発明者】
【氏名】ケビン ナダード
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ ミナール
(72)【発明者】
【氏名】フランソワ バロン
【審査官】
佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−193416(JP,A)
【文献】
特開2012−114579(JP,A)
【文献】
特開2007−174153(JP,A)
【文献】
特開2010−206795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 1/38
H01Q 13/08
H01Q 13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層基板内に形成されたスロットアンテナであって、
前記多層基板は順に、少なくとも1つの第1の導電層、第1の誘電体層、第2の導電層、第2の誘電体層、及び第3の導電層を有し、
当該アンテナは、
前記第2の導電層内に実現された第1のスロットラインであり、当該アンテナの電源に接続される第1のスロットラインと、
前記第1及び第3の導電層内にそれぞれ実現された第2及び第3のスロットラインであり、該第2及び第3のスロットラインの各々が2つの導電ストリップによって画成され、該導電ストリップの給電側の第1の端部が、前記第2の導電層内に実現された窓部を通り抜けるビアによって相互接続され、第2の端部が前記第2の導電層に接続され、該第2の端部側で双方の導電ストリップは開回路又は短絡回路の何れかにある、第2及び第3のスロットラインと、
を有し、
前記第1、第2及び第3のスロットラインの電気長は、当該アンテナの動作周波数での波長の関数である、
スロットアンテナ。
【請求項2】
前記第1、第2及び第3のスロットラインは重ね合わされている、ことを特徴とする請求項1に記載のスロットアンテナ。
【請求項3】
前記第1、第2及び第3のスロットラインの全てが、当該スロットアンテナの動作周波数での波長λgの関数としての総電気長を有する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のスロットアンテナ。
【請求項4】
kは整数であるとして前記第1、第2及び第3のスロットラインの前記電気長がkλg/2に等しいとき、前記第2のスロットライン又は前記第3のスロットラインの一方は短絡回路にある、ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載のスロットアンテナ。
【請求項5】
k’は整数であるとして前記第1、第2及び第3のスロットラインの前記電気長がk’λg/4に等しいとき、前記第2のスロットライン又は前記第3のスロットラインの一方は短絡回路にある、ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載のスロットアンテナ。
【請求項6】
印刷回路基板であり、当該印刷回路基板内に請求項1乃至5の何れか一項に記載のスロットアンテナが少なくとも1つ実現された印刷回路基板。
【請求項7】
アイソレーションスロットによって分離された少なくとも2つの前記スロットアンテナを有する請求項6に記載の印刷回路基板。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の印刷回路基板を組み込んだ端末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して小型スロットアンテナに関する。本発明は、より具体的には多層基板にて実現される小型スロットアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信分野において、送信回路の容量を増大させ且つシステム全体の動作を向上させるために、MIMO(Multiple Input Multiple Output)回路の使用がますます多く為されるようになっている。MIMO回路の使用は、一般に、単一のボードに実現されるアンテナ数の増加をもたらす。また、その回路の集積化を容易にするよう、現在、アンテナは印刷回路基板すなわちPCB上に直接的に製造されている。しかしながら、物理法則を適用すると、アンテナの長さは波長の関数である。故に、例えば2.4GHzの周波数域にあるWiFiにおいて動作可能にするためには、λgの関数としてのスロットアンテナの長さは数十ミリメートルになる。この長さは、大量生産で使用される印刷回路基板上にアンテナを集積しなければならないときに、無視できないものである。また、印刷回路基板は大抵、多層構造を有する基板によって構成されている。
【0003】
故に、基板の多層構造を用いて小型スロットアンテナを製造するのに最も自然な考えは、
図1及び2に示すようにしてスロットアンテナを折り返すことからなる。
【0004】
図1には、2つの誘電体層d1、d2と3つの導電層M1、M2、M3とを有する基板の断面図が図式的に示されている。このタイプの基板に小型スロットアンテナを製造するために、スロットライン1によって示されるように、スロットラインが導電層M3内に連続してエッチングされている。そして、誘電体層d2を通り抜けた後、スロットラインは、導電層M2内に作製されたスロットライン2によって続けられる。そして、スロットラインは、誘電体層d1を通り抜けて、導電層M1内に作製されたスロットライン3によって続けられる。スロットアンテナの給電点4は、スロットライン1の階層に形成されている。この給電は、“Knorr”として知られる技術に従って、電磁カップリングによる標準的な手法で実現される。この場合、スロットライン1、2、3は重ね合わされており、給電点4とスロットライン3の短絡回路端との間の総電気長としてλg/2に等しい長さを有する。ただし、λgは動作周波数でのスロット内の導波波長(guided wavelength)である。
【0005】
図1に示したもののような二重に折り返されたスロットアンテナの更に詳細な描写を、
図2の斜視図に示す。この例では、導電層M1、M2、M3のうち、本発明の正確な理解に必要な部分のみを示す。故に、スロットライン1が下側の導電層M3にエッチングされ、このスロットは一端で開回路にされ、図示しない他端は給電ラインに結合される。また、スロットライン2が、図示した形態ではL字形状を有する2つの導電ストリップB2、B’2によって画成される導電層M2にエッチングされる。次に、導電層M1に、やはりL字形状の2つの導電ストリップB3、B’3によって画成される第3のスロットライン3が作製される。2つの導電ストリップB3、B’3は、導電ストリップB”3によって示されるように、一方側に短絡回路端を有する。また、導電ストリップB3及びB2は、給電端側で、ビアV1によって相互に接続され、ビアV1それ自体は、導電層M3のアイソレートされた要素に接続されている。同様に、2つの導電ストリップB’3及びB’2は、ビアV’1によって、導電層M3のアイソレートされた要素に接続されている。
【0006】
また、
図2に示すように、開回路にあるスロットライン2を画成するストリップB2及びB’2の、他方の、反対側の端部は、それぞれビアV2及びV’2によって、導電層M1の2つのアイソレートされた要素と導電層M3とに接続されている。導電層M1の2つのアイソレートされた要素は、層B3及びB’3の延長にて実現されている。
図2に示されるように、3つのスロットライン1、2、3は重ね合わされている。
【0007】
給電点とスロット3の開回路端との間の3つのスロットライン1、2、3の電気長としてλg/2に等しい長さを有するこのタイプのアンテナを、2.4GHz帯のWiFi動作に関してシミュレーションした。シミュレーションは、0.5mmだけ間隔を空けた複数のメタライゼーション階層を有する基板としてFR4基板を用いることにより、電磁シミュレータMomentum d’Agilentを用いて行った。この例では、
図1及び2のもののような構造について、周波数の関数としてのインピーダンス整合曲線を
図3に示す。この曲線は、WiFi帯域の周波数より高い2.8GHzの周波数に共振を有している。また、3.7GHzに向かって派生的なスプリアス共振が現れている。これは、このようなスロットラインの積み重ねによって生じるスロットアンテナの特殊な挙動である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、故に、印刷回路基板の多層構造を使用して小型スロットアンテナを製造することを可能にし、それにより印刷回路基板のサイズを制限すること及び/又は複数のアンテナを集積することを可能にする、スロットラインを折り返す新たなソリューションを提案する。この新たなソリューションは、上述の問題を有しないものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、多層基板内に形成されるスロットアンテナに関し、多層基板は順に、少なくとも1つの第1の導電層、第1の誘電体層、第2の導電層、第2の誘電体層、及び第3の導電層を有し、当該アンテナは、第2の導電層内に実現された第1のスロットラインであり、当該アンテナの電源に接続される第1のスロットラインと、第1及び第3の導電層内にそれぞれ実現された第2及び第3のスロットラインであり、該第2及び第3のスロットラインの各々が2つの導電ストリップによって画成され、該導電ストリップの給電側の第1の端部が、第2の導電層内に実現された窓部を通り抜けるビアによって相互接続され、第2の端部が第2の導電層に接続され、該第2の端部側で双方の導電ストリップは開回路又は短絡回路の何れかにある、第2及び第3のスロットラインと、を有し、第1、第2及び第3のスロットラインの電気長は、当該アンテナの動作周波数での波長の関数である。
【0010】
第1、第2及び第3のスロットラインは重ね合わされ、当該スロットアンテナの動作周波数での波長λgの関数としての総電気長を有する。
【0011】
一実施形態によれば、kは整数であるとして第1、第2及び第3のスロットラインの電気長がkλg/2に等しいとき、第2のスロットライン又は第3のスロットラインの一方は短絡回路にある。
【0012】
他の一実施形態において、k’は奇数の整数であるとして第1、第2及び第3のスロットラインの電気長がk’λg/4に等しいとき、第2のスロットライン又は第3のスロットラインの一方は開回路にある。
【0013】
古典的には、アンテナの電源へのスロットラインのカップリングは、“Knorr”原理の名の下で知られる技術に従って、第1又は第3の導電層の何れか上で実現されるマイクロストリップを用いた電磁カップリングによって実現されている。
【0014】
本発明は、後述の実施形態に従って基板上に実現される少なくとも1つのスロットアンテナを有した、多層基板上に実現される印刷回路基板に関する。
【0015】
本発明はまた、上述の印刷回路基板を組み込んだ端末に関する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
添付図面を参照して為される様々な実施形態の説明を読むことにより、本発明のその他の特徴及び利点が明らかになる。
【
図1】当業者によって自然に実現されるような折り返しスロットアンテナの一形態を示す断面図である。
【
図3】
図1及び2に示したアンテナの、周波数の関数としての、dB単位でのインピーダンス整合を示す図である。
【
図4A】本発明に係るスロットアンテナの第1実施形態を示す図式的な断面図である。
【
図4B】本発明に係るスロットアンテナの第2実施形態を示す図式的な断面図である。
【
図6A】
図5Aに示したスロットアンテナの周波数の関数としてのインピーダンス整合を示す曲線である。
【
図6B】
図5Bに示したスロットアンテナの周波数の関数としてのインピーダンス整合を示す曲線である。
【
図7】本発明に係るスロットアンテナの他の一実施形態を示す上面図及び斜視図である。
【
図8】
図7のスロットアンテナの、周波数の関数としての、(A)インピーダンス整合曲線と、(B)指向性及び利得の曲線とを示す図である。
【
図9】上述のようなアンテナを実装したPCB回路を図式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
先ず、
図4−6を参照して、多層基板上に実現される電気長λg/2の小型スロットアンテナの2つの実施形態を説明する。
【0018】
より具体的に
図4A及び4Bに示すように、多層基板は、2つの誘電体層d1及びd2と3つの導電層とを有する基板である。これら3つの導電層は、誘電体層d1の上面上の上部導電層M1、誘電体層d1と誘電体層d2との間の中間導電層M2、及び、誘電体層d2の下面上の下部導電層M3である。
【0019】
図4Aの実施形態において、スロットアンテナは先ず、中間導電層M2内にエッチングされるスロットライン10によって形成される。スロットライン10は、マイクロストリップ技術にて誘電体層d1の上面又は誘電体層d2の下面の何れかに実現される給電ラインとの電磁カップリングによって、給電点13にて給電される。アンテナのこの給電モードは、単に例示目的で与えられるものである。
【0020】
第1実施形態において、スロットライン10は、上部導電層M1内に実現されるスロットライン11によって続けられ、次いで、下部導電層M3内に実現されるスロットライン12によって続けられる。スロットライン10、11、12は重ね合わされており、それらの総電気長は、動作周波数での波長をλgとして、kλg/2に等しい。
【0021】
より具体的には、
図5Aに示すように、導電層M1内に実現されるスロットライン11は、図示した実施形態においてはL字形状を有する2つの導電ストリップB11及びB’11によって画成される。また、下部導電層M3内に、L字形状を有する2つの導電ストリップB12及びB’12によって画成されるスロットライン12が実現されている。これら2つの導電ストリップB12及びB’12は導電ストリップB”12によって相互接続されており、故に、スロットライン12は短絡回路にて終端している。また、放射スロットラインを得るため、これらの様々な導電ストリップが以下のようにして相互接続される。
【0022】
図5Aに示すように、中間導電層M2は、スロットライン10の各々の側に、給電側の2つのウィンドウ(窓部)F、F’を有し、それぞれを、導電ストリップB12の端部のうちの一方を導電ストリップB11の対応する端部に接続するビアV、導電ストリップB’12の端部のうちの一方を導電ストリップB’11の対応する端部に接続するビアV’が通り抜けている。また、導電ストリップB11の自由端は、ビアV”を介して、中間導電層M2と、導電ストリップB12の延長にある導電層M3のアイソレートされた要素EM3とに接続されている。同様に、導電ストリップB’11の自由端は、ビアV”を介して、中間導電層M2と、導電ストリップB’12の延長にある導電層M3のアイソレートされた要素EM3’とに接続されている。これは、
図4Aに矢印で示したような、様々なスロットライン10、11、12間の接続、を得ることを可能にする。
【0023】
続いて、
図5Bを参照して、電気長λg/2のスロットアンテナの第2実施形態を説明する。この例では、
図4Bに示すように、先ず中間導電層M2内にスロットライン20がエッチングされ、給電点23が、
図4Aの実施形態の給電点13と同様に実現される。この例では、下部導電層M3内に第2のスロットライン21が実現される。
図5Bに示すように、このスロットライン21は、2つの導電ストリップB21、B’21によって画成される。第3のスロットライン22が上部導電層M1内に実現される。
図5Bに示すように、このスロットライン22は、給電点の反対側で短絡回路のスロットラインを形成する導電要素B”22によって相互接続される2つの導電ストリップB22、B’22によって画成される。
図5Aの実施形態においてのように、導電ストリップはL字形状を有している。また、
図5Bに示すように、中間導電層M2は2つのウィンドウF、F’を有しており、これらはそれぞれ、L字形状部分の下側アームのレベルでの、導電ストリップB21と導電ストリップB22との相互接続のためのビアV、及び導電ストリップB’21と導電ストリップB’22との相互接続のためのビアV’の通過を可能にしている。さらに、
図4Bに矢印で表したようなスロットライン20、21、22の接続を得るために、導電ストリップB22、B’22の延長にそれぞれある、ともに第1の導電層M1内に実現された、アイソレートされた導電要素EM1及びアイソレートされた導電要素EM1’が、それぞれビアV”及びV’’’によって、第2の導電層M2とそれぞれ導電ストリップB21及び導電ストリップB’21とに接続されている。
【0024】
これら2つの構造を、
図1に示した基板と同じ基板上に
図4A及び4Bのアンテナを実現し、
図2に示したアンテナに関して使用したのと同じシミュレーション方法を用いることによってシミュレーションした。
この例において、
図6A及び6Bは、
図5A及び5Bのスロットアンテナの周波数の関数としてのインピーダンス整合曲線を示している。見て取れるように、この例において、インピーダンス整合曲線は、所望のWiFi周波数に一致する2.5GHzの周波数で共振を示している。
図3の曲線との関係において、
図6A及び6Bではスプリアス共振がないことが観察されるが、これは、単一層上に印刷される基本的なスロットアンテナと同様の応答である。また、
図3においては共振周波数が
図6A及び6Bで観察される共振周波数より高くなっているが、これは、単一のスロットライン総長さに関するものである。等しい共振周波数において、本発明の双方の実施形態は、より小型化されたアンテナサイズを伴う。
【0025】
続いて、
図7及び8を参照して、λg/4の電気長を有するスロットアンテナを説明する。
【0026】
図7の左側部分に図式的に示すように、先ず、給電ラインAによって給電されるスロットライン30が中間導電層M2内に実現される。給電ラインAは、スロットライン30との例えばKnorrに従った電磁カップリングを実現するように、マイクロストリップ技術にて上部導電層M1内に実現される。
【0027】
図7の右側部分に図式的に示すように、上部導電層M1内には、2つの導電ストリップB31、B’31によって画成されるスロットライン31が実現されている。このスロットライン31は、
図7に示すように、開回路にて終端している。
【0028】
また、導電層M3内に、2つの導電ストリップB32及びB’32によって画成されるスロットライン32が実現されている。導電ストリップB31、B’31、B32及びB’32は全て、それらの相互接続を容易にするよう、概してL字形状である。
【0029】
図7に示すように、導電ストリップB31、B’31の各々の延長に、それぞれ、導電層M1内のアイソレートされた要素EM1、EM1’が実現されている。これらの要素EM1及びEM1’は、それぞれ、ビアV”及びV’’’によって導電ストリップB32及びB’32の端部に接続されるが、これらのビアは中間導電層M2には接続されない。また、
図7に示すように、導電ストリップB32、B31、B’32、B’31の他方の端部は、ビアV及びV’によって接続されている。ビアV及びV’はまた、
図7に示すように、主の中間導電層M2に割り込まされたアイソレートされた要素EM2、EM2’にも接続されている。
【0030】
この例において、3つのスロットライン素子30、31、32の総電気長は、動作周波数での波長をλgとして、λg/4に等しい。このタイプのスロットアンテナを、
図2又は5に示したスロットアンテナに対してと同じ基準及び同じツールを用いてシミュレーションした。
【0031】
図8(A)は、
図7に示したスロットアンテナの周波数に従ったインピーダンス整合曲線を示している。この
図8(A)は、WiFiで使用される周波数に一致する2.4GHzと2.5GHzとの間の周波数で共振を示している。このアンテナは、動作帯域内で−10dB未満のインピーダンス整合を有する。また、
図7のアンテナは、
図8(B)に示すような利得及び指向性を有する。得られた利得の値(およそ2dBi)及び指向性の値(およそ3.5dBi)は、非折り返し式のスロットアンテナのそれらに迫るものである。
【0032】
続いて、
図9を参照して、
図7に示したように折り返された1/4波長スロットアンテナの実装を手短に説明する。この実装は、例えばMIMO2×2アプリケーションで使用される。1つの導電層及び2つの外側の導電層によって離隔された少なくとも2つ誘電体層を有する多層基板を有した、PCBと表記した印刷回路基板上に、2つの1/4波長アンテナA1及びA2が実現される。これらのアンテナはスロットS1、S2、S3、S4によってアイソレートされる。
図9のアンテナは、40mm×120mmの寸法を有する回路上に実現され得る。
図9に示したもののようなアンテナを用いて実現されるアンテナシステムの2.4−2.5GHz帯域での性能は、以下の通りである:
−14dBより低い損失レベル;
17dBより高いアンテナアイソレーション;
3dBiより高い指向性、及び2dBiに近い利得;
標準的な放射パターン。
【0033】
その小型性により、折り返しスロットアンテナは、数ある利点の中でとりわけ、電子基板上での配置や向きの多大なる柔軟性を実現する。これは、例えば特定のカバレッジ要求を満たすものであり、あるいは、小型化された低コストのエレクトロニクス製品に特有の機械的応力が頻繁に生じるゾーンをマスキングすることを回避するものである。
【0034】
故に、特定の折り返しを用いて多層基板内にスロットアンテナを実現することにより、アンテナの総電気長より遙かに短い物理長を有する小型のスロットアンテナを得ることが可能である。
(付記1) 多層基板内に形成されたスロットアンテナであって、
前記多層基板は順に、少なくとも1つの第1の導電層、第1の誘電体層、第2の導電層、第2の誘電体層、及び第3の導電層を有し、
当該アンテナは、
前記第2の導電層内に実現された第1のスロットラインであり、当該アンテナの電源に接続される第1のスロットラインと、
前記第1及び第3の導電層内にそれぞれ実現された第2及び第3のスロットラインであり、該第2及び第3のスロットラインの各々が2つの導電ストリップによって画成され、該導電ストリップの給電側の第1の端部が、前記第2の導電層内に実現された窓部を通り抜けるビアによって相互接続され、第2の端部が前記第2の導電層に接続され、該第2の端部側で双方の導電ストリップは開回路又は短絡回路の何れかにある、第2及び第3のスロットラインと、
を有し、
前記第1、第2及び第3のスロットラインの電気長は、当該アンテナの動作周波数での波長の関数である、
スロットアンテナ。
(付記2) 前記第1、第2及び第3のスロットラインは重ね合わされている、ことを特徴とする付記1に記載のスロットアンテナ。
(付記3) 前記第1、第2及び第3のスロットラインの全てが、当該スロットアンテナの動作周波数での波長λgの関数としての総電気長を有する、ことを特徴とする付記1又は2に記載のスロットアンテナ。
(付記4) kは整数であるとして前記第1、第2及び第3のスロットラインの前記電気長がkλg/2に等しいとき、前記第2のスロットライン又は前記第3のスロットラインの一方は短絡回路にある、ことを特徴とする付記1乃至3の何れか一に記載のスロットアンテナ。
(付記5) k’は整数であるとして前記第1、第2及び第3のスロットラインの前記電気長がk’λg/4に等しいとき、前記第2のスロットライン又は前記第3のスロットラインの一方は短絡回路にある、ことを特徴とする付記1乃至3の何れか一に記載のスロットアンテナ。
(付記6) 印刷回路基板であり、当該印刷回路基板内に付記1乃至5の何れか一に記載のスロットアンテナが少なくとも1つ実現された印刷回路基板。
(付記7) アイソレーションスロットによって分離された少なくとも2つの前記スロットアンテナを有する付記6に記載の印刷回路基板。
(付記8) 付記6又は7に記載の印刷回路基板を組み込んだ端末。
【符号の説明】
【0035】
10、11、12、20、21、22、30、31、32 スロットライン
13、23 給電点
d1、d2 誘電体層
M1、M2、M3 導電層
B 導電ストリップ
EM アイソレートされた要素
F ウィンドウ(窓部)
V ビア