(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アクチュエータには、いずれも前記主軸に直交するx方向およびy方向のうちx方向に前記ウェイトを振動変位させるx方向アクチュエータと、前記y方向に前記ウェイトを振動変位させるy方向アクチュエータとがあり、
前記制御回路部として、前記x方向アクチュエータを駆動制御するためのx方向制御回
路部と、前記y方向アクチュエータを駆動制御するためのy方向制御回路部とが個別に構成され、
前記駆動部として、前記x方向アクチュエータに電流を供給するx方向駆動部と、前記y方向アクチュエータに電流を供給するy方向駆動部とが個別に構成される、
請求項1から4のいずれか一項に記載の制振装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
加工機のラムは、上下動に伴ってサドルの下方に突き出す量が伸縮する。その突き出し量が大きいと、突き出し量が小さいときよりも動剛性が低下してしまう。ラムの突き出し量によらずに加工品位を確保するため、突き出し量が大きいときの振動を低減する必要がある。
能動型の制振を効果的に行うには、工具が取り付けられるラムの先端にウェイトを設けるとともに、そのウェイトをラムの固有振動数で加振し、ウェイトの振動する慣性力によってラムの振動を打ち消す。
ここで、ラムの固有振動数は突き出し量に応じて変わる。そのため、突き出し量が大きいときの低い固有振動数に合わせて加振すると、その他の突き出し量のときには十分な制振効果が得られないというジレンマがある。
【0005】
また、ラムは、固有振動を励振するほか、工具がワークを周期的に打撃することで強制振動を生じるので、ラムの固有振動を減衰させることができたとしても、強制振動により加工品位が低下するおそれがある。
本発明は、以上のような課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の制振装置は、加工機の
サドルに対して上下方向に移動可能であり、加工機の主軸を保持する
ラムに設けられるウェイトと、ウェイトを振動変位させるアクチュエータと、
ラムとウェイトとの相対変位を計測する変位計と、アクチュエータを駆動制御するための制御信号を演算する制御回路部と、制御回路部により演算された制御信号に基づく電流をアクチュエータに供給する駆動部と、を備える。
そして、本発明は、制御回路部が、
ラムの
サドルからの下方への突き出し量に対応する
ラムの固有振動数に応じて制御定数を設定する制御定数設定部と、制御定数および相対変位に基づいて、制御信号のゲインおよび位相を設定する演算部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明の第1の制振装置では、
ラムとウェイトとの相対変位を変位計で計測しながら、制御回路部および駆動部を動作させてウェイトを振動させることにより、ワークの加工時に
ラムに生じる固有振動を減衰させる。
制御回路部の各部は、次のように動作する。制御定数設定部は、
ラムの位置に対応する
ラムの固有振動数を取得し、その固有振動数に応じて制御定数を設定する。演算部は、制御定数および相対変位に基づいて、固有振動を減衰させるのに必要なゲインおよび位相を設定する。
本発明によれば、加工中の
ラムの位置に対応する固有振動数に応じて適切に設定された制御定数を制御に用いることにより、
ラムのストロークの全体に亘り、十分な制振効果を得ることができる。
【0008】
本発明の第2の制振装置は、加工機の主軸を保持する
ラムに設けられるウェイトと、ウェイトを振動変位させるアクチュエータと、
ラムとウェイトとの相対変位を計測する変位計と、アクチュエータを駆動制御するための制御信号を演算する制御回路部と、制御回路部により演算された制御信号に基づく電流をアクチュエータに供給する駆動部と、を備える。
そして、本発明は、制御回路部が、ワークに対して工具が周期的に打撃することで
ラムに生じる強制振動の周波数に応じて制御定数を設定する制御定数設定部と、制御定数および相対変位に基づいて、制御信号のゲインおよび位相を設定する演算部と、
ラムの加速度を計測する加速度計と、加速度を用いて、
ラムに生じている振動の複数の周波数成分を取得する周波数成分取得装置と、を備え、制御定数設定部は、複数の周波数成分のうちの強制振動の周波数成分に応じて制御定数を設定することを特徴とする。
【0009】
本発明では、
ラムとウェイトとの相対変位を変位計で計測しながら、制御回路部および駆動部を動作させてウェイトを振動させることにより、ワークの加工時に
ラムに生じる強制振動を減衰させる。
制御回路部の各部は、次のように動作する。制御定数設定部は、
ラムに生じる強制振動の周波数を取得し、その周波数に応じて制御定数を設定する。演算部は、制御定数および相対変位に基づいて、強制振動を減衰させるのに必要なゲインおよび位相を設定する。
本発明によれば、加工中、
ラムに生じる強制振動の周波数に応じて適切に設定された制御定数を制御に用いることにより、強制振動が加工品位に与える影響を排除することができる。
【0010】
第2の制振装置において、
ラムの加速度を計測する加速度計と、加速度を用いて、
ラムに生じている振動の複数の周波数成分を取得する周波数成分取得装置と、を備え、制御定数設定部は、複数の周波数成分のうちの強制振動の周波数成分に応じて制御定数を設定する。
本発明では、ワークの加工中、加速度を用いて、逐次、強制振動の周波数成分を取得し、それに基づく制御定数を設定して制御することができる。そのため、工具の回転数を変更したり、刃数の異なる工具に交換することで強制振動の周波数が変わっても、適切な制御定数を設定し、回転数変更や工具交換の前後に亘り、継続して強制振動を減衰させることができる。
【0011】
本発明の第1の制振装置および第2の制振装置において、演算部は、変位計により計測される相対変位、および制御定数に基づいてゲインを設定するゲイン設定部と、制御定数に対応する周波数を設定するとともに、
ラムの振動位相に対して位相を逆転させる位相シフト部と、を備えるように構成することができる。
また、本発明の第1の制振装置および第2の制振装置において、演算部は、変位計によ
り計測される相対変位、および制御定数に基づいてゲインを設定するゲイン設定部と、相対変位に対して位相を進ませる位相補償部と、を備えるように構成することができる。
【0012】
本発明の第1の制振装置および第2の制振装置において、アクチュエータには、いずれも主軸に直交するx方向およびy方向のうちx方向にウェイトを振動変位させるx方向アクチュエータと、y方向にウェイトを振動変位させるy方向アクチュエータとがあり、制御回路部として、x方向アクチュエータを駆動制御するためのx方向制御回路部と、y方向アクチュエータを駆動制御するためのy方向制御回路部とが個別に構成され、駆動部として、x方向アクチュエータに電流を供給するx方向駆動部と、y方向アクチュエータに電流を供給するy方向駆動部とが個別に構成されることが好ましい。
【0013】
そうすると、主軸に直交するx方向およびy方向の各々について、アクチュエータ、制御回路部、および駆動部が個別に形成されているので、
ラムのx方向およびy方向の各々の振動特性に応じた適切な制振制御が可能となる。
【0014】
本発明の第3の制振装置は、
サドルに対して上下方向に移動可能であり、加工機の主軸を保持する
ラムに設けられるウェイトと、ウェイトを振動変位させるアクチュエータと、
ラムとウェイトとの相対変位を計測する変位計と、アクチュエータを駆動制御するための第1制御信号を演算する第1制御回路部と、アクチュエータを駆動制御するための第2制御信号を演算する第2制御回路部と、第1制御回路部により演算された第1制御信号に基づく電流と、第2制御回路部により演算された第2制御信号に基づく電流とをアクチュエータに供給する駆動部と、を備える。
そして、本発明は、第1制御回路部が、
ラムの
サドルからの下方への突き出し量に対応する
ラムの固有振動数に応じて第1制御定数を設定する第1制御定数設定部と、第1制御定数および相対変位に基づいて、第1制御信号のゲインおよび位相を設定する第1演算部と、を備え、第2制御回路部が、ワークに対して工具が周期的に打撃することで
ラムに生じる強制振動の周波数に応じて第2制御定数を設定する第2制御定数設定部と、第2制御定数および変相対変位に基づいて、第2制御信号のゲインおよび位相を設定する第2演算部と、
ラムの加速度を計測する加速度計と、加速度を用いて、
ラムに生じている振動の複数の周波数成分を取得する周波数成分取得装置と、を備え、制御定数設定部は、複数の周波数成分のうちの強制振動の周波数成分に応じて制御定数を設定することを特徴とする。
【0015】
本発明では、加工中の
ラムの位置に対応する固有振動数に応じて適切に設定された第1制御定数と、加工中に
ラムに生じる強制振動の周波数に応じて適切に設定された第2制御定数との双方を制御に用いる。
そのため、
ラムのストロークの全体に亘り、
ラムの固有振動を減衰させることができる上、強制振動をも減衰させることができる。これらの相乗効果により、
ラムに生じる振動をより確実に制振することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、
ラムの位置に対応する固有振動数、および強制振動の周波数の少なくとも一方に応じた制御定数を用いる制御により、
ラムの制振を図り、
ラムの動剛性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面に示す実施形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
〔第1実施形態〕
〔全体構成〕
図1に示す加工機1は、立設されるコラム2,3と、コラム2,3の間に水平に設けられるクロスレール4と、クロスレール4に設けられるサドル5と、サドル5に設けられるラム6と、コラム2,3の間で送られるベッド7と、ベッド7により支持されるテーブル8と、それら各構造部材の動作を制御する制御装置10(
図2)とを備えている。
〔制御装置〕
制御装置10は、テーブル8に載せられて送られるワーク9の形状に応じてクロスレール4、サドル5、およびラム6の位置を演算するNC装置(Numerical Control装置)15と、ラム6の振動減衰のための制御を行うx方向制御回路部30Xおよびy方向制御回路部30Yとを備えている。制御装置10は、NC装置15の演算に基づいてクロスレール4を上下させる。さらに、サドル5をクロスレール4に沿った方向に、ラム6を上下方向にそれぞれ移動させながら、ラム6に取り付けられる工具によってテーブル8上のワーク9を加工する。
【0019】
〔ラム〕
ラム6は、
図3に示すように、上下方向に延びる主軸11を保持している。ラム6の先端(下端)から突出する主軸11の先端には、ワーク9に対する加工に応じて選択される工具が着脱可能に取り付けられる。主軸11の回転により、工具が回転駆動される。
ラム6には、図示しない送りねじが設けられている。この送りねじはサーボモータによって駆動される。制御装置10から送られる指令に基づいてサーボモータが送りねじを駆動することにより、ラム6がサドル5の下方で上下動される。ラム6を下限まで下方に移動させると、ラム6がサドル5から大きく突き出す。ラム6のストロークは、例えば500mm〜1000mmとされている。
ラム6は、加工時の反力によって振動変位する。その振動変位を抑制するため、ラム6の先端には、主軸11を囲むように制振装置20が設けられている。
【0020】
〔制振装置〕
制振装置20は、主軸11の外周を覆う主軸カバー110(
図3(b))を囲む円環状のウェイトWと、ウェイトWを水平方向に振動変位させるアクチュエータ21〜24と、変位計25と、制御装置10(
図2)に組み込まれるx方向制御回路部30Xおよびy方向制御回路部30Yと、アクチュエータ21〜24にそれぞれ交流電流を供給する4つの駆動部(そのうちの2つが34,35)とを備えて構成されている。
図3(a)では、主軸カバー110(
図3(b))の図示を省略している。
この制振装置20は、アクチュエータ21〜24によりウェイトWをラム6の振動変位の向きとは逆向きに加振してラム6の振動を減衰させる能動型とされている。
【0021】
ウェイトWおよびアクチュエータ21〜24は、ラム6の先端に固定される架台27に設けられるとともに、カバー28(
図3(a)参照。
図3(b)では図示省略)により覆われている。
ウェイトWは、円環状のゴム部材29を介して架台27に吊られている。ウェイトWがアクチュエータ21〜24により変位されるとき、ゴム部材29によりガイドされる。これにより、ウェイトWはラム6に対して変位される。
【0022】
変位計25は、ラム6の先端に設けられており、ラム6の変位からウェイトWの変位を差し引くことで得られる両者の相対変位を計測する。変位計25は、x方向の相対変位とy方向の相対変位との各々を計測する。それらの相対変位がいずれも0のとき、制振装置20によってラム6の振動が完全に打ち消されている。
なお、x方向の相対変位を計測する変位計と、y方向の相対変位を計測する変位計とを個別に設けることもできる。
【0023】
〔アクチュエータ〕
アクチュエータ21〜24の各々は、コイルおよび鉄心を有する電磁石12と、鉄などの強磁性体13を有している。電磁石12はウェイトWの内周に固定されている。強磁性体13は、架台27に固定されて電磁石12に対向する。電磁石12のコイルに通電されていないとき、電磁石12と強磁性体13との間には、ウェイトWの変位を許容する隙間があいている。
電磁石12のコイルに電流を供給すると発生する磁力により、強磁性体13に向けて電磁石12が吸引される。これにより、架台27が固定されるラム6に対してウェイトWが変位される。
【0024】
アクチュエータ21〜24のうち、対をなす2つのアクチュエータ21,22は、主軸11に直交するx方向およびy方向のうち、x方向に沿って配置されている。アクチュエータ21,22は、x方向制御回路部30Xに接続されている。
これらのアクチュエータ21およびアクチュエータ22は、主軸11に対して点対称に形成されている。これらアクチュエータ21およびアクチュエータ22の各々の電磁石には、直流電流が供給され、それに加えて、互いに逆位相となる交流電流が供給される。それにより、ウェイトWは、+x方向の変位と、−x方向の変位とを交互に繰り返して振動する。
【0025】
他の対をなす2つのアクチュエータ23,24は、y方向に沿って配置されている。アクチュエータ23,24は、y方向に対応するy方向制御回路部30Yに接続されている。
これらのアクチュエータ23およびアクチュエータ24も、主軸11に対して点対称に形成されている。そして、アクチュエータ23,24の各々の電磁石に直流電流に加えて、互いに逆位相となる交流電流が供給されることにより、ウェイトWは、+y方向の変位と、−y方向の変位とを交互に繰り返して振動する。
【0026】
〔制御回路部〕
図4を参照し、アクチュエータ21,22を駆動制御するx方向制御回路部30Xについて説明する。
x方向制御回路部30Xは、制御定数設定部31と、ゲイン設定部32と、位相シフトフィルタ33とを備えている。
ゲイン設定部32および位相シフトフィルタ33により、制御定数ωおよび変位計25により計測される相対変位dxに基づいて、ゲインおよび位相を設定する演算部が構成される。
以下、制御定数設定部31、ゲイン設定部32、および位相シフトフィルタ33について順に説明する。
併せて、x方向制御回路部30Xにより演算された制御信号に基づく電流をアクチュエータ21,22に供給する駆動部34,35についても説明する。
【0027】
〔制御定数設定部〕
制御定数設定部31は、制御装置10が備えるNC装置15に接続されている。制御定数設定部31は、NC装置15により得られるラム6の現在位置と、それに対応する固有振動数とを示すテーブルデータに基づいてラム6の固有振動数を割り出すことができる。ラム6の固有振動数は、突き出し量が多いほど低くなる。そして、突き出し量が多いほど、ラム6の動剛性が低下する。
なお、動剛性は、振幅Fの周期的な加振力が構造物(ここではラム6)に作用しており、周期的な応答として変位Xを得るとき、F/Xを伝達関数の形で表したものをいう。
制御定数設定部31は、さらに、割り出した固有振動数に応じた制御定数ωを設定する。制御定数ωは、固有振動数を補正した値に相当する。制御定数設定部31は、制御定数ωを制御電流I(制御信号)ととともにゲイン設定部32および位相シフトフィルタ33に出力する。
【0028】
〔ゲイン設定部〕
ゲイン設定部32は、変位計25により計測されるx方向の相対変位dxと、制御定数ωに基づいて、制御電流Iのゲイン(利得)を設定する。ゲインは、制御定数または相対変位に比例する比例ゲインとすることができる。
ここで、変位計25により計測される相対変位dx(ラム6のx方向変位−ウェイトWのx方向変位)からは次のように判断できる。この相対変位dxが「0」または「0」に近ければ、ラム6の振動とは逆位相で加振されるウェイトWの振幅がラム6の振幅とつり合っているためにラム6の振動が十分に減衰されている。つまり、駆動部34,35によってアクチュエータ21,22に供給される電流により、アクチュエータ21,22がウェイトWを振動変位させる力(加振力)が過不足なく得られている。
一方、相対変位dxが絶対値で所定値以上であれば、ウェイトWに与える加振力を増減させる必要がある。つまり、相対変位dxが正のとき、加振力を増大させ、相対変位dxが負のとき、加振力を減少させる必要がある。
【0029】
また、制御定数ωからは、次のように判断できる。制御定数ωが大きいと(固有振動数が高い)、ラム6の突き出し量が少ないことを意味するから、ラム6の動剛性が高い。したがって、ラム6の振幅が小さいので、小さい加振力で足りる。これとは逆に、制御定数ωが小さいと(固有振動数が低い)、ラム6の突き出し量が多いことを意味するから、ラム6の動剛性が低い。したがって、ラム6の振幅が大きいので、制振には大きな加振力が必要となる。
以上より、ゲイン設定部32は、ラム6とウェイトWの相対変位dxと、制御定数ωとを重み付けし、両者に基づいて必要な加振力を導く。その加振力に基づいて、ゲインを増減、あるいは維持する。
【0030】
〔位相シフトフィルタ〕
位相シフトフィルタ33は、ゲイン設定部32から制御定数ωおよび制御電圧Vを受け取り、制御定数ωに基づいて制御電圧Vを演算する。
位相シフトフィルタ33は、特定周波数およびその近傍の信号のみを通過させる帯域通過フィルタと、帯域通過フィルタを通過した信号の符号を反転させる反転フィルタとを含んで構成されている。この位相シフトフィルタ33に制御電圧Vおよび制御定数ωを入力すると、帯域通過フィルタにより、制御定数ωに対応する共振周波数に設定されるとともに、反転フィルタによってラム6の振動位相に対して位相が逆転された制御電圧Vが出力される。
【0031】
〔駆動部〕
駆動部34は、位相シフトフィルタ33から制御電圧Vを受け取り、駆動電流に変換してアクチュエータ21に供給する。
駆動部35は、位相シフトフィルタ33から制御電圧Vの位相を逆転させた電圧を受け取り、駆動電流に変換してアクチュエータ22に供給する。
そうすると、アクチュエータ21にはラム6の振動位相とは逆位相の電流が供給され、アクチュエータ22にはラム6の振動位相とは同相の電流が供給されるので、ウェイトWは、ラム6の振動位相とは逆位相で振動変位する。
【0032】
y方向制御回路部30Yは、アクチュエータ23,24を制御対象とする点を除いてx方向制御回路部30Xと同様に構成されている。y方向制御回路部30Yも、制御定数設定部と、ゲイン設定部と、位相シフトフィルタとを備えている。y方向制御回路部30Yは、変位計25により計測されたy方向の相対変位dyに基づいて演算を行う。y方向制御回路部30Yによる演算結果は、y方向に係る一対の駆動部(図示しない)に渡される。これらの駆動部は、y方向制御回路部30Yにより演算された制御信号に基づく電流をy方向のアクチュエータ23,24に供給する。
ここで、y方向制御回路部30Yの制御定数設定部では、ラム6の固有振動数を補正して制御定数ωを設定するときに、その補正量をx方向制御回路部30Xとは変えることができる。これにより、ラム6の固有振動数がx方向とy方向で異なる場合でも効率よく制振できる。
なお、x方向、y方向で同じ制御定数ωを用いる場合には、x方向制御回路部30Xおよびy方向制御回路部30Yの一方の制御定数設定部を省いて、これら制御回路部30X,30Yが同じ制御定数設定部を用いるように構成することもできる。
【0033】
〔制振装置の作用および効果〕
上記のように構成された加工機1では、ラム6とウェイトWの相対変位dx,dyを変位計25で観測しながら、x方向制御回路部30Xおよびy方向制御回路部30Yの各々を動作させてウェイトWを振動させることにより、ワーク9の加工時にラム6に生じる振動を減衰させる。
x方向制御回路部30Xは、上述のように、制御定数設定部31により、NC装置15から得られるラム6の位置に応じたラム6の固有振動数を求め、その固有振動数に基づいて制御定数ωを設定する。そして、ゲイン設定部32により、制御定数ωと、相対変位dxに基づいて必要な加振力に対応するゲインを定めるとともに、位相シフトフィルタ33により、ラム6の共振周波数に対応する周波数、およびラム6のx方向の振動位相とは逆の位相を定める。そして、駆動部34,35によりアクチュエータ21,22を動作させることでウェイトWを加振すると、ラム6のx方向の振動が打ち消される。
【0034】
y方向制御回路部30Yも、同様に、NC装置15から得られるラム6の位置に基づいてラム6の固有振動数を求め、その固有振動数に応じた制御定数ωを設定する。そして、制御定数ωと、相対変位dyに基づいて必要な加振力に対応するゲインを定めるとともに、ラム6の共振周波数に対応する周波数、およびラム6のy方向の振動位相とは逆の位相を定める。そして、アクチュエータ23に対応する駆動部と、アクチュエータ24に対応する駆動部とによってアクチュエータ23,24を動作させることでウェイトWを加振すると、ラム6のy方向の振動が打ち消される。
【0035】
図5は、本実施形態におけるラム6のコンプライアンス曲線(実線)と、比較例におけるラム6のコンプライアンス曲線(破線)を示す。
コンプライアンスは、構造物(ここではラム6)が外力を受けることで変位する傾向を示す数値で、単位外力当たりの構造物の振幅変位により定められる。つまり、コンプライアンスは動剛性の逆数である。コンプライアンスが大きい程、構造物の動剛性が低くなる。コンプライアンス曲線は、コンプライアンス(縦軸)を周波数(横軸)の関数として示すものである。
【0036】
比較例でも、本実施形態と同じ動剛性のラム6と、ウェイトWおよびアクチュエータ21〜24を有する制振装置を備えている。そして、変位計25により計測されるラム6とウェイトWの相対変位をフィードバック制御することで、アクチュエータ21〜24によりウェイトWを振動変位させる。
但し、比較例における制御は、ある突き出し量のときのラム6の固有振動数に基づいてチューニングされたものであって、本実施形態のようにラム6の突き出し量に応じて可変な固有振動数に基づいて行われるものではない。
【0037】
図5に示すコンプライアンス曲線のピークは、ラム6の突き出し量が最大で、それよりも突き出し量が小さいときに対して動剛性が最も低い状態を示す。ここで、本実施形態(実線)におけるラム6の共振のピークP1は、比較例(破線)におけるラム6の共振のピークP2よりも小さい。これは、制振装置20の作用によってラム6の固有振動が減衰されるためである。
一方、ピークP1付近以外は、本実施形態のコンプライアンス曲線(実線)は比較例のコンプライアンス曲線(破線)と同様である。
以上より、本実施形態によれば、ラム6の突き出し量が大であるときの動剛性を高めながら、ラム6のストロークの全体に亘り、制振効果を発揮させることができる。
【0038】
〔第2実施形態〕
上記実施形態では、位相シフトフィルタ33の出力に基づいて、ラム6の振動位相に対して逆の位相でウェイトWを振動変位させることによってラム6の振動低減を図っている。
その位相シフトフィルタ33に代えて、
図6に示す第2実施形態では、制御回路部30X,30Yの変位信号に対して位相補償する位相補償回路43を用いる。その点を除いて、第2実施形態は第1実施形態と同様に構成されている。
第2実施形態以降の各実施形態においては、第1実施形態で説明した構成と同様の構成には同じ符号を付す。
【0039】
位相補償回路43は、変位計25によりフィードバックされるラム6とウェイトWの相対変位を受け取り、その相対変位に対して、制御遅延の分だけ位相を進ませる。
このように、ラム6とウェイトWの相対変位に対して進み位相の加振力によりウェイトWを振動させることによって、ラム6に振動減衰効果を与える。
ここで、位相進み回路(要素)は、入力側の電圧をe1、出力側の電圧をe2、時定数をT1、定数をαとおくと、式(1)に示すように、分母側の時定数αT1[s]と分子側の時定数T1[s]で表すことができる。
【数1】
ここでは、分母側の時定数をT2(=αT1)と表す代わりに、T2とT1の比をとって定数αとしている。
また、位相進み回路が有効な周波数領域の中心周波数は式(2)で表される。減衰される周波数は、式(2)に基づいて自動的に定まる。
【数2】
第2実施形態によれば、ゲイン設定部32によりゲインを大きく設定しても、位相補償回路43により、共振周波数減衰を与えることができて、ラム6の振動を減衰することができる。
【0040】
第2実施形態によっても、
図5に実線で示すのと同様のコンプライアンス曲線が得られる。したがって、ラム6のストロークの全体に亘り、制振効果を発揮させながら、ラム6の突き出し量が大であるときの動剛性を高めることができる。
【0041】
x方向制御回路部30Xおよびy方向制御回路部30Yには、上記の位相シフトフィルタ33、および位相補償回路43のいずれかを任意に選択して適用することができる。
位相シフトフィルタ33および位相補償回路43の選択は、ラム6およびウェイトWの振動特性や、ラム6とウェイトWの相対変位などに基づいて行うことができる。
例えば、ラム6とウェイトWのx方向の相対変位が大きいためにx方向ではゲインを大きく設定したいので、x方向制御回路部30Xには位相補償回路43を適用し、y方向の相対変位が小さいためにy方向ではゲインをさほど上げる必要がないので、y方向制御回路部30Yには位相シフトフィルタ33を適用する、といった使い方ができる。
【0042】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
本発明者らが、切削加工中のラム6の振動状況を調べるため、周波数分析を行ったところ、
図7に示す結果が得られた。
【0043】
図7に示すように、切削加工中にラム6に生じている振動には、周波数(周波数域)により区別される複数の成分が含まれる。その成分のことを周波数成分と定義する。以下では、周波数成分のことを単に成分と言うことがある。
図7に示す例では、周波数が最も低いものがラム6の固有振動数(共振周波数)に対応する周波数成分(f
0)である。その他に、ラム6に取り付けられた工具(例えばフライス)の刃によりワーク(例えば、
図1のワーク9)が打撃されることで生じる強制振動の一次成分(f
1)および二次成分(f
2)がある。なお、強制振動の一次成分(f
1)の周波数が固有振動数の成分(f
0)の周波数よりも低い場合もある。
回転される工具がワークを打撃すると、ラム6の固有振動が励起されるとともに、工具がワークを周期的に打撃することで強制振動が生じる。強制振動の一次成分は、工具の刃の数と工具の回転数とを乗じた周波数(打撃周波数)に対応する。この強制振動は、二次以上の高調波成分を含んでおり、強制振動の二次成分は、打撃周波数の2倍の周波数に対応する。
なお、
図7では、固有振動の成分、強制振動の一次成分、および強制振動の二次成分が、各々、単一の周波数に収束しているが、各々が所定の周波数域に分布している場合もある。
【0044】
上記に示したように、ラム6に生じる振動には強制振動の成分も含まれる。
図7に示す例のように、強制振動の一次成分の振幅が固有振動の振幅よりも大きい場合もあり、ラム6の強制振動が加工品位に与える影響は大である。
そこで、本実施形態では、強制振動の周波数で、強制振動とは逆位相でウェイトWを加振することにより、ラム6の制振を図る。
【0045】
図8に示すように、本実施形態の制振装置50は、加工機1(
図1)の主軸11を保持するラム6に設けられるウェイトWと、ウェイトWを振動変位させるアクチュエータ21〜24と、変位計25と、加速度計26と、周波数分析装置16(周波数成分取得装置)と、アクチュエータ21,22を駆動制御するx方向制御回路部30Xと、アクチュエータ23,24を駆動制御する図示しないy方向制御回路部と、アクチュエータ21〜24にそれぞれ交流電流を供給する4つの駆動部(そのうちの2つが34,35)とを備える。
【0046】
加速度計26は、ラム6に設けられており、ラム6の加速度を計測する。
加速度計26は、ラム6のx方向の加速度とy方向の加速度との各々を計測する。
なお、x方向の相対変位を計測する加速度計と、y方向の相対変位を計測する加速度計とを別々に設けることもできる。
【0047】
周波数分析装置16は、加速度計26により計測されたラム6の加速度を用いてラム6の振動の周波数を分析する。周波数分析装置16により、例えば
図7に示すような分析結果が得られる。
【0048】
本実施形態のx方向制御回路部30Xは、制御定数設定部51と、ゲイン設定部32と、位相シフトフィルタ33とを備える。
制御定数設定部51は、周波数分析装置16による分析結果に含まれる複数の周波数成分から、強制振動の一次成分を選択し、その周波数に応じた制御定数を設定する。
強制振動の一次成分が単一の周波数ではなく、近接する周波数の集合(周波数域)からなるものである場合には、その周波数域の代表値(例えば中心値)を制御定数ωに設定する。
制御定数設定部51は、制御定数ωを制御電流I(制御信号)ととともにゲイン設定部32および位相シフトフィルタ33に出力する。
【0049】
分析結果に含まれる固有振動成分、強制振動の一次成分、および強制振動の二次以上の成分を互いに判別するために、適宜な閾値やテーブルデータ、相関式等を用いることができる。
例えば、NC装置15(
図4)から得られるラム6の現在位置と、それに対応する固有振動数とを示すテーブルデータに基づいてラム6の固有振動数を割り出し、分析結果から固有振動数に適合するものを除き、残された成分のうち、振幅が閾値以上の成分を強制振動の一次成分であると判定することができる。
分析結果から固有振動数の成分を除くと、閾値以上の振幅のものが残されない場合は、固有振動数と強制振動の一次成分の周波数とがほぼ一致する場合に該当する。この場合には、分析結果において固有振動数に適合するものを強制振動の一次成分でもあると判定することができる。
【0050】
ゲイン設定部32および位相シフトフィルタ33は、第1実施形態と同様に作用するので、簡略に説明する。
ゲイン設定部32は、制御定数設定部51により設定された制御定数ωと、変位計25により計測された相対変位dxとに基づいて、制御電流Iのゲインを設定する。
ここで、上述したように、ラム6とウェイトWの相対変位dxが「0」または「0」に近ければ、アクチュエータ21,22がウェイトWを振動変位させる力(加振力)が過不足なく得られている。一方、相対変位dxが絶対値で所定値以上であれば、ウェイトWに与える加振力を増減させる必要がある。
また、制御定数ωが大きいと(強制振動の周波数が高い)、ラム6の振幅が小さいので、小さい加振力で足りる。これとは逆に、制御定数ωが小さいと(強制振動の周波数が低い)、ラム6の振幅が大きいので、制振には大きな加振力が必要となる。
以上より、ゲイン設定部32は、相対変位dxと、制御定数ωとを重み付けし、両者に基づいて必要な加振力を導く。その加振力に基づいて、ゲインを増減、あるいは維持する。
【0051】
また、位相シフトフィルタ33は、ゲイン設定部32から制御定数ωおよび制御電圧Vを受け取り、制御定数ωに基づいて制御電圧Vを演算する。位相シフトフィルタ33の演算結果として、制御定数ωに対応する共振周波数であり、ラム6に生じる強制振動の一次成分の振動位相に対して位相が逆転された制御電圧Vが出力される。
【0052】
なお、本実施形態において、位相シフトフィルタ33の代わりに位相補償回路43(
図6)を用いることもできる。
【0053】
駆動部34は、位相シフトフィルタ33から制御電圧Vを受け取り、駆動電流に変換してアクチュエータ21に供給する。
駆動部35は、位相シフトフィルタ33から制御電圧Vの位相を逆転させた電圧を受け取り、駆動電流に変換してアクチュエータ22に供給する。
そうすると、アクチュエータ21にはラム6の強制振動の一次成分の位相とは逆位相の電流が供給され、アクチュエータ22にはラム6の強制振動の一次成分の位相とは同相の電流が供給されるので、ウェイトWは、ラム6の強制振動の一次成分の位相とは逆位相で振動変位する。
【0054】
本実施形態のy方向制御回路部は、本実施形態のx方向制御回路部30Xと同様に、制御定数設定部51と、ゲイン設定部32と、位相シフトフィルタ33と、アクチュエータ23に交流電流を供給する駆動部と、アクチュエータ24に交流電流を供給する駆動部とを備えて構成される。
y方向制御回路部は、変位計25により計測されたy方向の相対変位dyを参照する点、およびアクチュエータ23,24を駆動対象とする点を除いて、x方向制御回路部30Xと同様に動作する。
【0055】
以上で説明した本実施形態の構成によれば、ラム6とウェイトWの相対変位dx,dyを変位計25で観測しながら、x方向制御回路部30Xおよびy方向制御回路部の各々を動作させてウェイトWを振動させることにより、ワーク9の加工時にラム6に生じる振動を減衰させる。
x方向制御回路部30Xは、上述のように、周波数分析結果から強制振動の一次成分に応じて制御定数ωを設定する。そして、ゲイン設定部32により、制御定数ωと、相対変位dxに基づいて必要な加振力に対応するゲインを設定するとともに、位相シフトフィルタ33により、強制振動の一次成分に対応する周波数、およびラム6のx方向の振動位相とは逆の位相を設定する。そして、駆動部34,35によりアクチュエータ21,22を動作させることでウェイトWを加振すると、ラム6に生じるx方向の強制振動が減衰される。
【0056】
y方向制御回路部も、x方向制御回路部30Xと同様に動作する。そうしてアクチュエータ23,24が動作することでウェイトWが加振されると、ラム6に生じるy方向の強制振動が減衰される。
【0057】
本実施形態では、ワークの加工中、ラム6の加速度を用いて周波数分析装置16により逐次、強制振動の周波数を取得し、それに基づく制御定数ωを設定して制御することができる。そのため、工具の回転数を変更したり、刃数の異なる工具に交換することで強制振動の周波数が変わっても、適切な制御定数を設定し、回転数変更や工具交換の前後に亘り、継続して強制振動を減衰させることができる。
【0058】
本実施形態において、強制振動の二次成分の周波数に応じた制御定数を用いる制御系を追加することもできる。その場合は、本実施形態のx方向制御回路部30Xは、一次成分用の制御定数設定部51、ゲイン設定部32、および位相シフトフィルタ33とは別に、二次成分用の制御定数設定部、ゲイン設定部、および位相シフトフィルタを備える。y方向制御回路部30Yも同様である。
そして、二次成分用の制御回路部は、周波数分析装置16による分析結果を受け取り、強制振動の二次成分の周波数に応じた制御定数を設定する。以降、一次成分について上述したのと同様の処理を行えばよい。
【0059】
ところで、ワークの加工中、工具の回転数が一定で、用いる工具の刃数も一定である場合は、周波数分析装置16により逐次、強制振動の周波数を取得し、それに基づく制御定数ωを設定し直す必要がない。
上述したように、工具の回転数と工具の刃数とを乗じて得られる値が、強制振動の一次成分の周波数に相当する。また、その値を2倍した値が強制振動の二次成分の周波数に相当する。
したがって、本実施形態の構成(
図8)から加速度計26および周波数分析装置16を廃し、工具の回転数および工具の刃数の計算により得られる値に応じた一律の制御定数ωを用いて制御を行うことも可能である。
ここで、強制振動の周波数が一意に定まる場合でも、ラム6の位置(突き出し量)に応じて強制振動の振幅は変化する。そのため、強制振動を減衰させるのに必要な加振力が得られるように、ゲイン設定、およびその後の位相操作が逐次行われる。
【0060】
〔第4実施形態〕
次に、本発明の第4実施形態について説明する。
第4実施形態の制振装置は、第1実施形態の構成(
図4)と第3実施形態の構成(
図8)とを備える。
図9に示すように、本実施形態の制振装置60は、加工機1(
図1)の主軸11を保持するラム6に設けられるウェイトWと、ウェイトWを振動変位させるアクチュエータ21〜24と、変位計25と、加速度計26と、周波数分析装置16(周波数成分取得装置)と、アクチュエータ21,22を駆動制御するx方向制御回路部30Xと、アクチュエータ23,24を駆動制御する図示しないy方向制御回路部と、アクチュエータ21〜24にそれぞれ交流電流を供給する4つの駆動部(そのうちの2つが34,35)とを備える。
【0061】
x方向制御回路部30Xは、ラム6に生じる固有振動を制振対象とする第1制御回路部61と、ラム6に生じる強制振動を制振対象とする第2制御回路部62とを備える。
【0062】
第1制御回路部61は、第1制御定数設定部31と、ゲイン設定部32と、位相シフトフィルタ33とを備える。
第2制御回路部62は、第2制御定数設定部51と、ゲイン設定部32と、位相シフトフィルタ33とを備える。
【0063】
まず、第2制御回路部61の各構成について説明する。
第1制御定数設定部31は、第1実施形態の制御定数設定部31(
図4)と同様に構成されており、NC装置15から得られるラム6の位置の位置と、それに対応する固有振動数とを示すテーブルデータに基づいてラム6の固有振動数を割り出す。そして、この固有振動数に応じた制御定数ω1(第1制御定数)を設定する。
第1制御定数設定部31は、制御定数ω1を制御電流I1(制御信号)とともにゲイン設定部32および位相シフトフィルタ33に出力する。
また、第1制御定数設定部31は、割り出した固有振動数を第2制御定数設定部51に送信する(
図9の破線参照)。
【0064】
ゲイン設定部32および位相シフトフィルタ33は、第1実施形態と同様に作用する。
ゲイン設定部32は、制御定数ω1と、変位計25により計測された相対変位dxとに基づいて、制御電流I1のゲインを設定する。
位相シフトフィルタ33は、ゲイン設定部32から制御定数ω1および制御電圧V1を受け取り、制御定数ω1に基づいて制御電圧V1を演算したものを駆動部34,35に出力する。位相シフトフィルタ33からは、ラム6の振動位相に対して位相が逆転された制御電圧V1が出力される。
【0065】
次に、第2制御回路部62の各構成について説明する。
第2制御定数設定部51は、第3実施形態の制御定数設定部51(
図8)と同様に構成される。第2制御定数設定部51は、周波数分析装置16による分析結果から、ラム6に生じる強制振動の周波数を取得し、その周波数に応じた制御定数ω2(第2制御定数)を設定する。
ここで、第2制御定数設定部51は、周波数分析装置16による分析結果において強制振動の周波数成分を抽出するために、第1制御定数設定部31から受信する固有振動数を用いることができる。つまり、分析結果から固有振動数に適合するものを除き、残された成分のうち、振幅が閾値以上の成分を強制振動の一次成分であると判定することができる。
但し、第2制御定数設定部51は、第1制御定数設定部31から固有振動数を受信することなく、NC装置15から得られるラム6の現在位置と、それに対応する固有振動数とを示すテーブルデータに基づいてラム6の固有振動数を割り出すこともできる。
第2制御定数設定部51は、制御定数ω2を制御電流I2(制御信号)とともにゲイン設定部32および位相シフトフィルタ33に出力する。
【0066】
第2制御回路部62は、制御定数ω2を設定するプロセス(制御定数設定部)が第1制御回路部61とは異なるだけで、その後のゲイン設定部32および位相シフトフィルタ33による処理は、第1制御回路部61と同様である。
【0067】
つまり、ゲイン設定部32は、制御定数ω2と、変位計25により計測された相対変位dxとに基づいて、制御電流I2のゲインを設定する。
位相シフトフィルタ33は、ゲイン設定部32から制御定数ω2および制御電圧V2を受け取り、制御定数ω2に基づいて制御電圧V2を演算したものを駆動部34,35に出力する。位相シフトフィルタ33からは、強制振動の一次成分の振動位相に対して位相が逆転された制御電圧V2が出力される。
【0068】
次に、駆動部34,35について説明する。
駆動部34は、第1制御回路部61の位相シフトフィルタ33から制御電圧V1を受け取り、その電圧を駆動電流に変換してアクチュエータ21に供給する。また、駆動部35は、第2制御回路部62の位相シフトフィルタ33から制御電圧V2を受け取り、その電圧を駆動電流に変換してアクチュエータ21に供給する。
一方、駆動部35は、第1制御回路部61の位相シフトフィルタ33から制御電圧V1の位相を逆転させた電圧を受け取り、その電圧を駆動電流に変換してアクチュエータ22に供給する。また、駆動部35は、第2制御回路部62の位相シフトフィルタ33から制御電圧V2の位相を逆転させた電圧を受け取り、その電圧を駆動電流に変換してアクチュエータ22に供給する。
【0069】
以上より、アクチュエータ21,22は、第1制御回路部61の演算結果に基づく駆動電流と、第2制御回路部62の演算結果に基づく駆動電流との双方により駆動される。そうすると、ウェイトWが、ラム6の振動位相とは逆位相で加振されるとともに、ラム6に生じる強制振動の一次成分とは逆位相で加振される。
【0070】
本実施形態では、上述の通り、第1制御回路部61および第2制御回路部62の各々の演算結果が、アクチュエータ21用の同じ駆動部34にそれぞれ出力される。アクチュエータ22も同様である。
但し、第1制御回路部61の演算結果が出力されるアクチュエータ21用の駆動部と、第1制御回路部61の演算結果が出力されるアクチュエータ21用の駆動部とが個別に構成されていてもよい。アクチュエータ22も同様に、第1制御回路部61および第2制御回路部62の各々に対して、個別に構成されていてもよい。
【0071】
本実施形態のy方向制御回路部は、本実施形態のx方向制御回路部30Xと同様に、第1制御回路部61と、第2制御回路部62とを備える。
y方向制御回路部は、変位計25により計測されたy方向の相対変位dyを参照する点、およびアクチュエータ23,24を駆動対象とする点を除いて、x方向制御回路部30Xと同様に動作する。
【0072】
以上で説明した本実施形態の構成によれば、ラム6とウェイトWの相対変位dx,dyを変位計25で観測しながら、x方向制御回路部30Xおよびy方向制御回路部の各々を動作させてウェイトWを振動させる。ウェイトWは、ラム6の固有振動数および相対変位に応じて設定されたゲインおよび位相で加振されるとともに、ラム6の強制振動の周波数および相対変位に応じて設定されたゲインおよび位相で加振される。
したがって、ラム6の固有振動と、工具がワークを打撃することで生じる強制振動との双方を減衰させることができる。
【0073】
なお、本実施形態において、位相シフトフィルタ33の代わりに位相補償回路43(
図6)を用いることもできる。下記の変形例(
図10)においても同様である。
【0074】
第4実施形態における第1制御定数設定部31は、NC装置15を利用してラム6の固有振動数を割り出すが、
図10に示すように、周波数分析装置16による分析結果から、ラム6の現在位置に対応する固有振動数を得ることもできる。その場合、分析結果に含まれる固有振動成分、強制振動の一次成分、および強制振動の二次以上の成分を判別するために、適宜な閾値やテーブルデータ、相関式等を用いることができる。
【0075】
上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
本発明は、主軸が水平に設けられる横中ぐり盤にも適用することができる。