【文献】
Daniel SIEMASZKO,Alfred C. RUFER,"Power Compensation Approach and Double Frame Control for Grid Connected Converters",Proc.of IEEE Intrnl.Conf.of Power Electronics and Drive Systems,米国,IEEE,2013年 4月22日,pp.1263-1268
【文献】
Behrooz BAHRANI,Alfred RUFER,Stephan KENZELMANN,Luiz A.C.LOPES,Vector Control of Single-Phase Voltage-Source Converters Based on Fictive-Axis Emulation,IEEE TRANSACTIONS ON INDUSTRY APPLICATIONS,米国,IEEE,2010年12月23日,VOL. 47, NO. 2, MARCH/APRIL 2011,pp.831-840
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記電圧計測部は、計測された前記単相系統電圧から、DDSRF演算により系統電圧の正相のd軸成分及びq軸成分(以下、単に系統電圧のd軸成分及びq軸成分という)を抽出する電圧正相成分抽出部と、前記電圧正相成分抽出部が抽出した系統電圧のq軸成分を用いて前記系統電圧の角速度及び位相を取得する角速度位相取得部と、備え、前記電圧計測部は、前記DDSRF演算において前記角速度位相取得部で取得された前記位相を用いて前記系統電圧のd軸成分及びq軸成分を抽出するよう構成されている、請求項1に記載の電力変換装置。
前記AVRモデル部で用いられる、前記電圧計測部の計測に基づく系統電圧は、前記電圧正相成分抽出部が抽出した前記系統電圧のd軸成分及びq軸成分に基づく系統電圧である、請求項2に記載の電力変換装置。
前記制御器は、前記単相電力系統の電流である単相系統電流を計測し、且つ計測された前記単相系統電流から、DDSRF演算により系統電流の正相のd軸成分及びq軸成分(以下、単に系統電流のd軸成分及びq軸成分という)を抽出する電流計測部を更に備え、
前記電流制御部は、前記電流計測部が抽出した前記系統電流のd軸成分及びq軸成分をフィードバック電流値として、前記単相系統電流のフィードバック制御を行う、請求項2に記載の電力変換装置。
前記電流制御部は、フィーバック電流値と前記発電機モデル部で算出された電流指令値とに基づいて静止座標系のα軸電圧指令値及びβ軸電圧指令値を生成し、α軸電圧指令値に基づいて前記PWM信号を生成するよう構成されており、
前記電圧計測部は、
前記系統電圧のd軸成分及びq軸成分から前記位相を用いて静止座標変換を行ってβ軸電圧を算出する逆dq変換部と、
前記逆dq変換部により算出された前記β軸電圧と前記電流制御部により生成されたβ軸電圧指令値とに基づいて、FAE演算を行うことにより、β軸電流を算出するβ軸電流演算部と、
前記単相電力系統の電流である単相系統電流を計測し、計測された前記単相系統電流であるα軸電流と前記β軸電流演算部が算出したβ軸電流と、を前記位相を用いて系統電流のd軸成分及びq軸成分に変換し、この系統電流のd軸成分及びq軸成分を前記フィーバック電流値として前記電流制御部に出力するdq変換部と、を備える電圧電流計測部である、請求項2に記載の電力変換装置。
前記角速度位相取得部は、前記系統電圧のq軸成分を、位相検出誤差(θ−φ)(θ:系統電圧の推定位相、φ:系統電圧)として、前記電圧計測部を含む位相検出ループに入力する演算によって、前記系統電圧の角速度ω及び位相θを取得するよう構成されている、請求項2乃至6のいずれかに記載の電力変換装置。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(本発明の契機となる知見)
従来、Double Decoupled Synchronous Reference Frame(以下、DDSRFという)を用いて、不平衡な三相システムにおいて、正相成分と逆相成分とを分離することが知られている(例えば「D. Siemaszko, A. C. Rufer, “Power Compensation Approach and Double Frame Control for Grid Connected Converters,” Proc. of IEEE Intrnl. Conf. of Power Electronics and Drive Systems, pp.1263-1268,2013.」を参照)。ここで、「成分」は、dq回転座標系におけるd軸成分及びq軸成分である。また、DDSRFは、系統電圧の位相を変数として扱う推定演算であるので、系統電圧の角速度の変動に対応することができる。さらに、単相システムは三相システムの特別な不平衡状態と見なすことができる。発明者等は、これらの点に着目し、単相インバータにおける、周波数変動に対応可能な位相検出回路に、DDSRF技術を適用することを見出した。
【0028】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。全ての図面を通じて同一又は相当する要素には同じ符号を付して、重複する説明は省略する。また、図面中のsの文字は一貫してラプラス演算子を表す。
【0029】
(実施の形態1)
[構成]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る電力変換装置の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、電力変換装置1は、例えば、マイクログリッドである単相電力系統100と、出力線5、出力リアクトル6、電流センサ7、フィルタコンデンサ8、変圧器9、及び電圧センサ10を介して接続されている。本実施の形態では、単相電力系統100の配電線11は、2本の単相2線式配線(100V)であるが、3本の単相3線式配線(100V/200V)でもよい。単相電力系統100として、一戸建て住宅や集合住宅、事務所等の配電線、船舶の電力系統、離島の電力網、自家発電設備を備えた工場等の電力系統等が例示される。単相電力系統100は、解列器(図示せず)によって商用電力網に対して接続及び切断される。単相電力系統100が商用電力系統と接続された場合、電力変換装置1は単相電力系統100を系統連系運転し、単相電力系統100が商用電力系統と切断された場合、電力変換装置1は単相電力系統100を自立運転する。
【0030】
電力変換装置1は、電力変換器2に直流電力を供給する直流電源4と、直流電力を交流電力に変換し、単相電力系統100に接続される出力線5へ出力するよう構成された電力変換器2と、電力変換器2が仮想発電機として動作するよう電力変換器2を制御するように構成される制御装置3とを備える。
【0031】
直流電源4は、本実施の形態では、太陽光発電用のソーラーパネル等の直流発電体及びニッケル水素電池等の二次電池を備える。直流電源4は、その他の再生可能エネルギーを用いた分散型電源であってもよい。
【0032】
電力変換器2は、特に限定されないが、本実施の形態では、それぞれ逆並列接続されたダイオードを備えた4個のスイッチング素子2a〜2dから構成されている。スイッチング素子には例えばIGBTが用いられる。電力変換器2は、制御部3から各スイッチング素子2a〜2dの制御端子(例えばIGBTのゲート端子)に入力される制御信号PWM
acに基づいて、各スイッチング素子2a〜2dをオンオフ動作することにより、インバータとして機能する。
【0033】
制御装置3は、電圧センサ10で検出される単相電力系統100の電圧である単相系統電圧V
aと電流センサ7で検出される単相電力系統100の電流である単相系統電流I
aとに基づいて、制御信号PWM
acを生成し、この生成した制御信号PWM
acを電力変換器2に供給する。これにより、制御装置3は、電力変換器2が仮想発電機として動作するよう電力変換器2を制御する。
【0034】
次に、制御装置3の構成について
図2を用いて説明する。
図2に示すように、制御装置3は、電圧電流計測部(電圧計測部及び電流計測部)21と、電力取得部22と、発電機制御部20と、発電機モデル部25と、電流制御部26と、を備える。この制御部は、例えば、FPGA(field programmable gate array)、PLC(programmable logic controller)、マイクロコントローラ等の演算装置で構成され、各部は、上記演算装置においてそれに内蔵されているプログラムが実行されることにより実現される機能ブロックである。
【0035】
電圧電流計測部21は、単相電力系統100の電圧である単相系統電圧V
aを計測し、且つ計測された当該単相系統電圧V
aから、系統電圧の位相を変数として扱う推定演算を用いて系統電圧の角速度ω及び位相θを取得する。また、電圧電流計測部21は、単相電力系統100の電流である単相系統電流I
aを計測する。
【0036】
電力取得部22は、単相電力系統100の有効電力P及び無効電力Qを取得する。本実施の形態では、電力取得部22は、電圧電流計測部21の計測に基づく系統電圧V
dq及び系統電流I
dqに基づいて、有効電力P及び無効電力Qを算出するように構成されている。
【0037】
発電機制御部20は、同期発電機の機能を所定の演算パラメータを用いてモデル化した演算ブロックである。本実施の形態では、発電機制御部20は、同期発電機を制御するガバナ及びAVR( Automatic Voltage Regulator)をそれぞれモデル化した演算ブロックであるガバナモデル部23及びAVRモデル部24を内部に備える。
【0038】
ガバナモデル部23は、有効電力指令値P
refに対する電力取得部22が取得した有効電力Pの偏差、仮想発電機のドループ特性、及び角速度ωに基づいて、位相差Δθを算出する。
【0039】
AVRモデル部24は、無効電力指令値Q
refに対する電力取得部22が算出した無効電力Qの偏差、電圧電流計測部21の計測に基づく系統電圧V
dqに基づいて、仮想発電機の誘起電圧の絶対値を算出する。ガバナモデル部23及びAVRモデル部24の具体的な構成については後述する。尚、誘起電圧の絶対値は、図面では次のようにベクトル表記しているが、本文中では単にEfと記述する。
【0041】
発電機モデル部25は、同期発電機本体をモデル化したものである。本実施の形態では、発電機モデル部25は、ガバナモデル部23で算出された位相差Δθ、AVRモデル部24で算出された誘起電圧の絶対値Ef、位相θに対応する系統電圧のd軸成分及びq軸成分V
dq、仮想発電機のインピーダンスに基づいて、仮想発電機の電機子電流に相当する電流指令値I
dq_refを算出する。
【0042】
電流制御部26は、発電機モデル部25で算出された電流指令値I
dq_refに基づいて、PWM信号PWM_acを生成して電力変換器2に出力する。
【0043】
以下、制御装置3を構成する各部の詳細について説明する。
図3は、電圧電流計測部21の構成を示すブロック図である。
図3に示すように、電圧電流計測部21は、電圧正相成分抽出部30と、角速度位相取得部31と、電流正相成分抽出部32を備える。
【0044】
電圧正相成分抽出部30において行われる一連の演算をDDSRF演算と称し、計測された単相系統電圧V
aから、DDSRF演算により系統電圧の正相のd軸成分V
d+及びq軸
成分V
q+(以下、単に系統電圧のd軸成分及びq軸成分ともいう)を抽出する。このDD
SRF演算においては、後述するようにして角速度位相取得部31で取得された系統電圧の位相θを用いて、これらの系統電圧のd軸成分及びq軸成分を抽出する。以下では、電圧又は電流のd軸成分及びq軸成分をまとめてV
dq(V
dq+,V
dq- )又はI
dq(I
dq+,I
dq-)と
表記する場合がある。電圧又は電流のα軸成分及びβ軸成分も同様にV
αβ又はI
αβと表記する場合がある。ここで、一般には、三相系統相電圧V
a、V
b、V
cをクラーク変換した後の
系統電圧Vα,Vβに対してDDSRF演算を行う。これに対し、本実施の形態では、電圧正相成分抽出部30にV
α=V
a,V
β=0を入力して、電圧に対するDDSRF演算を行う。つまり、本実施の形態では、単相システムを三相システムの特別な不平衡状態と見なすという新たな思想に基づいて、DDSRFを単相システムに適用している。
【0045】
角速度位相取得部31は、電圧正相成分抽出部30が抽出した系統電圧のq軸成分V
q+を用いて系統電圧の角速度ω及び位相θを取得する。この位相θは、上述のように電圧正相成分抽出部30に入力され、上述の単相系統電圧V
aに対するDDSRF演算に用いられる。
【0046】
電流正相成分抽出部32は、角速度位相取得部31が算出した系統電圧の位相θを用いて、計測された単相系統電流I
aから、DDSRF演算により系統電流の正相のd軸成分I
d+及びq軸成分I
q+(以下、単に系統電流のd軸成分及びq軸成分ともいう)抽出する。本実施の形態では、電流正相成分抽出部32にI
α=I
a,I
β=0を入力して、電流に対するDDSRF演算を行う。
【0047】
次に、電圧正相成分抽出部30の具体的な回路構成について
図4を用いて説明する。
図4に示すように、電圧正相成分抽出部30は、回転座標変換部35、36、37,38と、フィルタ部39,40と、加減算器41、42とを備える。
【0048】
回転座標変換部35及び36は、角速度位相取得部31で算出された系統電圧の位相θを用いて、入力された単相系統電圧V
α(V
β=0)に座標変換を施してd軸成分及びq軸成分を算出し、これを加減算器41に出力する。本実施の形態では、回転座標変換部35及び36は、次式(1)で与えられる回転行列により座標変換を行う。これらはαβ座標系の信号からdq座標系の信号へ変換するものである。
【0050】
フィルタ部39は、電圧正相成分抽出部30が抽出した系統電圧のd軸成分及びq軸成分V
dq+にフィルタリング処理を施して、これを回転座標変換部37に出力する。フィルタ部39は、逆相成分を除去するための正相成分に使用されるローパスフィルタ(LPF)である。LPFの遮断周波数は系統の基本周波数の2倍以下の周波数に設定する。
【0051】
回転座標変換部37は、角速度位相取得部31で取得された系統電圧の位相2θを用いて、フィルタリング処理された系統電圧のd軸成分及びq軸成分V
dq+に座標変換を施して、これを加減算器42に出力する。
【0052】
フィルタ部40は、電圧正相成分抽出部30が抽出した系統電圧の逆相成分のd軸成分及びq軸成分V
dq-にフィルタリング処理を施して、これを回転座標変換部38に出力する。フィルタ部40は、正相成分を除去するための逆相成分に使用されるLPFである。ここでもLPFの遮断周波数は系統の基本周波数の2倍以下の周波数に設定する。
【0053】
回転座標変換部38は、角速度位相取得部31で取得された系統電圧の位相2θを用いて、フィルタリング処理された系統電圧の逆相成分のd軸成分及びq軸成分V
dq-に座標変換を施して、これを加減算器41に出力する。
【0054】
本実施の形態では、回転座標変換部37及び38は、次式(2)で与えられる回転行列により座標変換を行う。
【0056】
加減算器41は、回転座標変換部35から入力されるdq変換後の単相系統電圧のd軸成分及びq軸成分から、回転座標変換部38から入力されるフィルタ処理及びdq逆変換後の逆相成分のd軸成分及びq軸成分V
dq-を減算して正相成分V
dq+を算出し、これを出力する。ここで加減算器41は、正相成分の電圧V
dq+のq軸成分V
q+を角速度位相取得部31に出力する。
【0057】
加減算器42は、回転座標変換部36から入力されるdq逆変換後の単相系統電圧のd軸成分及びq軸成分から、回転座標変換部37から入力される正相成分のd軸成分及びq軸成分V
dq+を減算して逆相成分V
dq-を算出し、これを出力する。
【0058】
このようにして、電圧正相成分抽出部30は、DDSRF演算により系統電圧を正相成分V
dq+と
逆相成分Vdq-に分離して、系統電圧のd軸成分及びq軸成分V
dq+を抽出する。
【0059】
次に、角速度位相取得部31の具体的な回路構成について
図4及び
図5を用いて説明する。
【0060】
角速度位相取得部31は、PI制御部45と、積分器46とを備える。
【0061】
PI制御部45は、電圧正相成分抽出部30で抽出された系統電圧のq軸成分V
q+に比例積分補償を施して系統電圧の角速度ωを算出し、これを積分器46に出力する。ここで本実施の形態では、
図5(a)に示すように、PI制御部45は、比例制御部82と、積分制御部81と、加減算器83とを備える。ここで系統電圧のq軸成分V
qと系統電圧V
gとの間には、次式(3)が成り立つ。
V
q = V
g sin(θ−φ)・・・(3)
ここでV
q:系統電圧のq軸成分、V
g:系統電圧、θ:系統電圧の推定位相、φ:系統電圧の位相である。
図5(b)は式(3)をベクトル図で示したものである。ここで位相推定誤差θ−φがゼロに近ければ、次式(4)は充足される。
【0063】
よって、角速度位相取得部31は、系統電圧のq軸成分を、位相検出誤差(θ−φ)として、電圧正相成分抽出部30を含む位相検出ループに入力する演算によって、系統電圧の角速度ω及び位相θを取得するよう構成されている。本実施の形態では、系統電圧のq軸成分V
qが位相推定誤差θ−φとして比例制御部82及び積分制御部81に入力される。
【0064】
加減算器83は、比例制御部82及び積分制御部81の両者の演算結果を加算することにより、位相推定誤差θ−φに比例積分補償を施し、これを積分器46に出力する。
【0065】
積分器46は、加減算器83から入力された系統電圧の角速度推定値ωを積分して位相θを推定し、これを積分器46及び電圧正相成分抽出部30に出力する。そして、電圧正相成分抽出部30は、この位相θを用いて、系統電圧のq軸成分を算出する。そして、この算出された系統電圧のq軸成分が角速度位相取得部31に入力される。つまり、PI制御部45、積分器46、及び電圧正相成分抽出部30が、位相検出ループを構成している。なお、PI制御部45は、PI制御でなくてもよく、例えば位相補償器等によっても構成できる。
【0066】
図6は、電流正相成分抽出部32の具体的な回路構成を示すブロック図である。
図6に示すように、電流正相成分抽出部32は、回転座標変換部35、36、37,38と、フィルタ部39,40と、加減算器41、42とを備える。電流正相成分抽出部32は、入力された単相信号I
α=I
a,I
β=0に対し、電圧正相成分抽出部30と同様なDDSRF演算を電流に対して行う。つまり、電圧電流計測部21において、電流正相成分抽出部32は、DDSRF演算により系統
電流を正相成分I
dq+と
逆相成分Idq-に分離して、系統電流のd軸成分及びq軸成分I
dq+を抽出する。
【0067】
次に、仮想発電機制御部20を構成するガバナモデル部23及びAVRモデル部24の具体的な構成について
図7を用いて説明する。
図7に示すように、ガバナモデル部23には、外部(ここでは例えばマイクログリッド制御装置)から有効電力指令値P
ref、角速度基準値ω
refとが入力される。更に、電力取得部22から有効電力Pが入力され、且つ電圧電流計測部21から角速度ωが入力される。ここでガバナモデル部23に入力される有効電力指令値P
refは発電機のトルクに相当し、発電機を電力系統に同期させる周波数を設定する。
【0068】
具体的には、ガバナモデル部23は、加減算器51と、ドループブロック52と、加減算器53と、積分器54とを備える。加減算器51は、有効電力指令値P
refから有効電力Pを減算した値をドループブロック52へ出力する。ドループブロック52は、加減算器51の出力に対しガバナの垂下特性に応じて所定の演算が施された値(例えば実定数のゲインK
gdを掛けたもの)を加減算器53へ出力する。加減算器53は、角速度基準値ω
ref及びドループブロック52の出力値を加算した値から角速度ωを減算した値を、積分器54へ出力する。積分器54は、加減算器53から入力された角速度の偏差を積分して位相差Δθを算出し、これを発電機モデル部25へ出力する。
【0069】
また、AVRモデル部24には、外部(ここでは例えばマイクログリッド制御装置)から無効電力指令値Q
refが入力される。ここでAVRモデル部24に入力される無効電力指令値Q
refは発電機の界磁に相当し、誘起電圧を調整する。更に、AVRモデル部24には、電力取得部22から無効電力Qが入力され、且つ電圧電流計測部21の計測に基づく系統電圧V
gが入力される。系統電圧V
gは、電圧正相成分抽出部30が抽出した系統電圧のd軸成分V
d+及びq軸成分V
q+に基づく系統電圧である。系統電圧V
gは、次式(5)を用いて算出される。
【0071】
具体的には、AVRモデル部24は、加減算器55と、ドループブロック56と、加減算器57と、PI制御ブロック58とを備える。
【0072】
加減算器55は、無効電力指令値Q
refから無効電力Qを減算した値(無効電力偏差)をドループブロック56へ出力する。ドループブロック56は、加減算器55の出力に対しAVRの垂下特性に応じて所定の演算を施した値(例えば実定数のゲインK
adを掛けたもの)に一次遅れを付与して、これを加減算器57へ出力する。加減算器57は、ブロック56の出力から、系統電圧V
gを減算した値を、PI制御ブロック58へ出力する。PI制御ブロック58は、加減算器57の出力に比例積分補償を行って誘起電圧の絶対値Efを算出し、これを発電機モデル部25へ出力する。
【0073】
このように、ガバナモデル部23とAVRモデル部24のそれぞれは、仮想発電機にドループ特性を持たせるための1次遅れ関数を備える。ガバナモデル部23で演算される仮想発電機の位相差Δθと、AVRモデル部24で演算される誘起電圧の絶対値Efは、仮想発電機モデル部25に入力される。
【0074】
図8は、仮想発電機モデル部25の詳細を示している。仮想発電機は、仮想発電機の界磁による誘起電圧の絶対値Efと、仮想発電機の位相差Δθと、仮想発電機の仮想的な電機子の巻線リアクタンスx及び巻線抵抗rによる仮想発電機のインピーダンスと、仮想発電機が出力する電圧、すなわち系統電圧(複素電圧ベクトル)及び電流(複素電流ベクトル)と、を用いてモデル化される。
図8は、仮想発電機モデル部25における各ベクトルの
ベクトル図である。尚、図面では、系統電圧の複素電圧ベクトル及び電流の複素電流ベクトルを次のようにベクトル表記している。数5で示されるV
gは数6に示される系統電圧の複素電圧ベクトルの絶対値である。
【0076】
数6の複素電流ベクトルのd軸成分及びq軸成分であるI
d_ref,I
q_refは、次式(6)、(7)により計算される。
【0078】
ここで、式(6)における系統電圧のd軸成分V
d及びq軸成分V
qは、電圧正相成分抽出部30が抽出した系統電圧のd軸成分V
d+及びq軸成分V
q+を用いる。
【0080】
本実施の形態では、電流制御部26は、発電機モデル部25で算出されたd軸成分及びq軸成分のI
d_ref及びI
q_refを電流指令値とし、電圧電流計測部21が抽出した系統電流のd軸成分I
d及びq軸成分I
qをフィードバック電流値として、単相系統電流のフィードバック制御を行う。
【0081】
図9は、電流制御部26の構成を示すブロック図である。
図9に示すように、電流制御部26は、加減算器61、62と、PI制御ブロック63、64と、加減算器65,66と、回転座標変換部36、37と、乗算器67、68と、PWM信号算出部69とを備える。
【0082】
加減算器61は、仮想発電機モデル部25から入力されたd軸電流指令値I
d_refから、電圧電流計測部21から入力された系統電流のd軸成分I
d(正確には正相成分I
d+)を減算し、その値をPI制御ブロック63へ出力する。PI制御ブロック63は、加減算器61の出力に対して、比例積分補償を行って正相成分のd軸電圧指令値PWM
d+を算出し、これを加減算器65に出力する。ここでPI制御ブロック63から出力されるd軸電圧指令値は正相成分PWM
d+のみであるが、単相では、逆相成分PWM
d-は、正相成分PWM
d+と同一であるので、そのまま逆相成分PWM
d-として回転座標変換部37に出力する。
【0083】
加減算器62は、仮想発電機モデル部25から入力されたq軸電流指令値I
q_refから、電圧電流計測部21から入力された系統電流のq軸成分I
q(正確には正相成分I
q+)を減算し、その値をPI制御ブロック64へ出力する。PI制御ブロック64は、加減算器62の出力に対して、比例積分補償を行って正相成分のq軸電圧指令値PWM
q+を算出し、これを加減算器66に出力する。ここでPI制御ブロック64から出力されるq軸電圧指令値は正相成分PWM
q+のみであるが、単相では逆相成分PWM
q-は正相成分PWM
q+と符号が異なるので乗算器68により正相成分PWM
q+を−1倍したものを逆相成分PWM
q-として回転座標変換部37に出力する。
【0084】
回転座標変換部37は、角速度位相取得部31で取得された系統電圧の位相2θを用いて、d軸成分及びq軸成分の電圧指令値の逆相成分PWM
d-及びPWM
q-に座標変換を施して、これらを加減算器65及び66に出力する。
【0085】
加減算器65は、PI制御ブロック63から入力された正相成分のd軸電圧指令値PWM
d+に、回転座標変換部37から入力された座標変換後のd軸電圧指令値の逆相成分を加算してd軸電圧指令値V
d_refを算出し、これを回転座標変換部36に出力する。
【0086】
加減算器66は、PI制御ブロック64から入力された正相成分のq軸電圧指令値PWM
q+に、回転座標変換部37から入力された座標変換後のq軸電圧指令値の逆相成分を加算してq軸電圧指令値V
q_refを算出し、これを回転座標変換部36に出力する。
【0087】
回転座標変換部36は、角速度位相取得部31で取得された系統電圧の位相θを用いて、d軸成分及びq軸成分の電圧指令値のV
d_ref及びV
q_refに座標変換を施してα軸成分及びβ軸成分の電圧指令値のV
α_ref及びV
β_refを算出し、これらをPWM信号算出部69に出力する。
【0088】
PWM信号算出部69は、回転座標変換部36から入力されたα軸成分及びβ軸成分の電圧指令値のV
α_ref及びV
β_refに基づいてPWM信号PWM
acを算出し、これを電力変換器2に出力する。
【0089】
[作用効果]
以上のような構成の電力変換装置1によれば、電圧電流計測部21が系統電圧の位相を変数として扱う推定演算を用いることにより、変化を伴う系統電圧の位相(系統周波数ω)に対して、系統電圧の角速度ω及び位相θを当該推定演算を用いて取得し、また、電圧正相成分抽出部30が、単相系統電圧からDDSRF演算により系統電圧の正相のd軸成分V
d+及びq軸成分V
q+を抽出することにより、単相電力系統100においても仮想発電機制御を実現することができる。これらにより、位相差や誘起電圧を状況に応じて変化させて、系統の周波数や負荷の変動に追従しながら電力制御を実現するという仮想発電機制御の特性を生かして、電力変換装置1による単相電力系統100の連系運転と自立運転との間における移行が制御を切り替えることなく可能となる。
【0090】
また、上述の推定演算において、角速度位相取得部31が、系統電圧のq軸成分V
q+を用いて系統電圧の角速度ω及び位相θを検出するので、従来例のように、逆正接関数の演算を行う必要がなく、逆正接関数の演算を行う場合に比べて、演算を簡素化することができる。
【0091】
また、AVRモデル部24及び発電機モデル25では、電圧正相成分抽出部30において逆相成分が完全に除去された系統電圧のd軸成分及びq軸成分に基づく系統電圧を用いるので、単相系統電圧波形のゼロクロスやピーク値、実効値等から直接位相と振幅を計算してd軸成分及びq軸成分を取得する場合に比べて、逆相電圧が混入する余地がなく、逆相電圧による擾乱が排除されるため、仮想発電機制御を安定且つ円滑に動作させることができる。
【0092】
また、制御装置3は、単相電力系統100の電流である単相系統電流を計測し、且つ計測された単相系統電流から、DDSRF演算により系統電流の正相のd軸成分及びq軸成を抽出する電圧電流計測部21を備え、電流制御部26は、電圧電流計測部21が抽出した系統電流のd軸成分I
d及びq軸成分I
qをフィードバック電流値として、単相系統電流のフィードバック制御を行うことにより、単相系統電流を好適にフィードバック制御することが可能となる。
【0093】
また、角速度位相取得部31は、系統電圧のq軸成分について、V
q = V
g sin(θ−φ)(V
q:系統電圧のq軸成分、V
g:系統電圧、θ:系統電圧の推定位相、φ:系統電圧の位相)の式を用いて(θ−φ)を算出し、これを位相検出誤差(θ−φ)として位相検出ループに入力する演算によって、系統電圧の角速度ω及び位相θを取得するよう構成されているので、系統電圧のq軸成分V
qから系統電圧の角速度ω及び位相θを好適に取得することができる。
【0094】
[検証実験]
本発明者等は、本実施の形態の電力変換装置1による効果を検証するために所定の条件下において実験を行った。
図10は、電力変換装置1のテストシステムの概略図である。
図10に示すように、テストシステムは、商用単相電力系統101と、単相商用電力系統101に接続された電力変換装置1と、マイクログリッドを模擬した単相電力系統100’と、スイッチMC1〜MC4と、電力変換装置1に有効電力指令値P
ref及び無効電力指令値Q
refを供給する監視装置200と、を含む。単相電力系統100’、は電力変換装置1の負荷12a〜12dのみを含む。
【0095】
商用単相電力系統101及び単相電力系統100’の基本周波数は60Hzである。電力変換装置1の定格容量は50kVAである。負荷12a〜12cはそれぞれ10kWであり、負荷12dは7.75kWである。スイッチMC1〜MC4は、マグネットコンタクタであり、オンオフの切り替えは手動で操作する。
【0096】
実験では、まず、監視装置200により電力変換装置1へ有効電力指令値P
ref及び無効電力指令値Q
refを供給して系統連系運転させる。その後スイッチを適宜切り替えて電力変換装置1の負荷12を変動させ、更に電力変換装置1を商用単相電力系統101から解列させて自立運転に移行させる。また、負荷の追加に伴い、有効電力指令値を増加させる。なお、本検証実験においては、無効電力指令値Q
refは常にゼロに設定されている。表1に実験における運転状態の推移を示す。
【0098】
実験開始時には、MC1は閉じており、MC2〜MC4は開いている。この場合、電力変換装置1は負荷12aのみに接続された状態であるので、テストシステムの全負荷は10kWである。また、有効電力指令値P
refを0kWに設定する。
【0099】
開始から5秒間を経過した後に、有効電力指令値P
refを10kWに増加する。開始から9秒間を経過した後にMC2を閉じて、電力変換装置1に負荷12bを追加する。この場合、電力変換装置1は負荷12a及び12bに接続された状態であるので、全負荷は20kWである。
【0100】
次に、開始から10秒間を経過した後に、有効電力指令値P
refを20kWに増加する。開始から14秒間を経過した後にMC3を閉じて、電力変換装置1に負荷12cを追加する。この場合、電力変換装置1は負荷12a、12b及び12cに接続された状態であるので、テストシステムの全負荷は30kWである。
【0101】
次に、開始から15秒間を経過した後に、有効電力指令値P
refを30kWに増加する。
【0102】
次に、開始から20秒間を経過した後に、商用単相電力系統101で発生した事故を模擬する。MC1を開いて単相電力系統101’を商用単相電力系統100から解列させる。この場合、電力変換装置1は負荷12a、12b及び12cに接続された状態で、系統連系運転から自立運転に移行する。
【0103】
次に、開始から26秒間を経過した後に、更にMC4を閉じて、テストシステムに負荷12dを増加する。この場合、電力変換装置1は全ての負荷12a〜12dに接続された状態であるので、テストシステムの全負荷は37.5kWである。
【0104】
図11は検証実験の結果のグラフである。上段の
図11(a)は出力電力の応答波形を示している。グラフ中の実線は無効電力(kVar)を示し、一点鎖線は有効電力(kW)を示している。中段の
図11(b)は出力電圧(p.u.)の応答波形を示している。下段の
図11(c)は周波数(Hz)の応答波形を示している。
図11(a)〜(c)の時間軸はいずれも一致している。
【0105】
図11より、系統連系中は負荷の変化によらず、電力変換装置1の出力は有効電力基準値P
refに追従し、負荷の変化分は系統が担っている。また、解列して自立運転中は有効電力基準値P
refにかかわらず、負荷に応じた電力を電力変換装置1が出力している。
【0106】
図12は検証実験の瞬時応答波形のグラフである。電力変換装置1の解列前後(開始から20秒後)の出力電流及び出力電圧の波形を示している。解列前後で電流及び電圧が変動することはない。これらにより、連系運転中の系統との負荷分担、連系運転から自立運転への移行、及びその後の自立運転の継続が良好に行えていることが示された。また、連系運転と自立運転との間で電力変換装置1の制御を切り替える必要が無いことが示された。
【0107】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2について、
図13及び
図14を用いて説明する。尚、実施の形態1と共通する構成の説明は省略し、相違する構成についてのみ説明する。
【0108】
本実施の形態は、実施の形態1と比較すると、FAE(Fictive Axis Emulation)演算に基づいて得られた系統電流のd軸成分及びq軸成分を用いて、単相系統電流のフィードバック制御を行う点が相違する。
【0109】
図13は、本発明の第2の実施の形態に係る電力変換装置の電流フィードバック制御の構成を示すブロック図である。
図13に示すように、電流制御部26aは、フィーバック電流値I
dqと発電機モデル部25で算出された電流指令値I
dq_refとに基づいて静止座標系のα軸電圧指令値V
α_ref及びβ軸電圧指令値V
β_refを生成し、α軸電圧指令値V
α_refに基づいてPWM信号PWM
acを生成するよう構成されている。
【0110】
また、本実施の形態の電圧電流計測部21aは、回転座標変換部(逆dq変換部ともいう)36と、β軸電流演算部70と、回転座標変換部(dq変換部ともいう)37とを備えている。逆dq変換部36は、系統電圧のd軸成分及びq軸成分V
dq+から位相θを用いて静止座標変換を行ってβ軸電圧V
β+を算出する。β軸電流演算部70は、逆dq変換部36により算出されたβ軸電圧V
β+と電流制御部26aにより生成されたβ軸電圧指令値V
β_refとに基づいて、FAE演算を行うことにより、β軸電流I
βを算出する。dq変換部37は、単相系統電流であるα軸電流I
α(=I
a)とβ軸電流演算部70が算出したβ軸電流I
βとを位相θを用いて系統電流のd軸成分及びq軸成分I
dqに変換し、この系統電流のd軸成分及びq軸成分I
dqをフィーバック電流値として電流制御部26aに出力する。
【0111】
図14は、
図13のβ軸電流演算部70の構成を示す回路図である。
図14に示すように、β軸電流演算部70は、加減算器72、73と、演算ブロック74と、フィードバックブロック75とを備える。ブロック74のL及びブロック75のRは、それぞれ電力変換器2から見た系統のインダクタンス成分及び抵抗成分である。単相の系統に対して、このように仮想的に直交する軸を想定して、その応答を求める演算をFAE演算と称する。このような構成によれば、FAE演算に基づいて得られた系統電流のd軸成分及びq軸成分を用いて、好適に単相系統電流のフィードバック制御が可能となる。またFAE演算として、DDSRFにより求めた系統の正相成分のβ軸の電圧V
β+と電流制御系から得られるβ軸電圧指令値V
β_refからβ軸電流I
βを推定するものであれば、
図14の構成に限定されるものではない。
【0112】
(その他の実施の形態)
実施の形態1及び2では、DDSRF演算を用いた位相(角速度)検出回路を採用しているが、位相(角速度)検出回路はこれには限定されない。位相(角速度)検出回路は、単相系統電圧から、系統電圧の位相を変数として扱う推定演算を用いて系統電圧の角速度及び位相を取得するものであればよい。
【0113】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び機能の少なくとも一方の詳細を実質的に変更できる。