(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6265896
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】無溶剤ワイヤエナメル組成物
(51)【国際特許分類】
B05D 7/20 20060101AFI20180115BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20180115BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20180115BHJP
B05D 3/06 20060101ALI20180115BHJP
B05D 5/12 20060101ALI20180115BHJP
C09D 179/08 20060101ALI20180115BHJP
C09D 5/25 20060101ALI20180115BHJP
H01B 13/14 20060101ALI20180115BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
B05D7/20
B05D7/24 302X
B05D3/02 Z
B05D3/06 101C
B05D3/06 102C
B05D5/12 D
C09D179/08 D
C09D5/25
H01B13/14 A
H01B13/00 517
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-524357(P2014-524357)
(86)(22)【出願日】2012年8月6日
(65)【公表番号】特表2014-529640(P2014-529640A)
(43)【公表日】2014年11月13日
(86)【国際出願番号】EP2012065363
(87)【国際公開番号】WO2013020953
(87)【国際公開日】20130214
【審査請求日】2015年7月31日
(31)【優先権主張番号】102011052518.1
(32)【優先日】2011年8月9日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】511204407
【氏名又は名称】エランタス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ELANTAS GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ロニー ハルファー
(72)【発明者】
【氏名】ザシャ テター−ケーニヒ
(72)【発明者】
【氏名】クラウス−ヴェー. リーネアト
(72)【発明者】
【氏名】ズィーモン ロスト
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ハートコップ
(72)【発明者】
【氏名】ハンス−ウルリヒ モーリッツ
【審査官】
横島 隆裕
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭49−047884(JP,A)
【文献】
特開昭58−013657(JP,A)
【文献】
特開昭51−096071(JP,A)
【文献】
米国特許第04075179(US,A)
【文献】
米国特許第04081427(US,A)
【文献】
特表2000−500289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00−7/26
C08L 1/00−101/14
C09D 1/00−10/00,101/00−201/10
H01B 13/00−13/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出しによりワイヤ上へ塗布するための、
ポリオールと、
ポリカルボン酸と、
五員の環状カルボン酸無水物基1個と、カルボキシル基及びカルボン酸無水物基から選択される少なくとも1個の更なる官能基とを有する化合物並びに第一級アミノ基1個と、第一級アミノ基、カルボキシル基及びヒドロキシル基から選択される少なくとも1個の更なる官能基とを有する化合物の反応により得られる、イミド形成成分と、
不飽和カルボン酸、過酸化物架橋剤及びUV開始剤からなる群から選択される、押出し後に架橋可能である構造要素と
から製造された、押出しできるポリエステルイミド含有バインダーを含有する無溶剤ワイヤエナメル組成物の使用であって、
該ワイヤエナメル組成物を、押出機を用いて溶融させ、ワイヤ上へ塗布し、引き続き後架橋にかけることを特徴とする、無溶剤ワイヤエナメル組成物の使用。
【請求項2】
鎖中のイミド形成成分の割合が、樹脂材料を基準として30〜60質量%であり、不飽和カルボン酸の割合が、樹脂材料を基準として2〜20質量%である、請求項1記載の使用。
【請求項3】
該構造要素が、過酸化物架橋剤である、請求項1又は2記載の使用。
【請求項4】
該過酸化物架橋剤の割合が0.5〜6質量%である、請求項3記載の使用。
【請求項5】
該構造要素が、UV開始剤である、請求項1又は2記載の使用。
【請求項6】
該UV開始剤の割合が0.3〜6質量%である、請求項5記載の使用。
【請求項7】
ポリオールと、ポリカルボン酸と、五員の環状カルボン酸無水物基1個と、カルボキシル基及びカルボン酸無水物基から選択される少なくとも1個の更なる官能基とを有する化合物並びに第一級アミノ基1個と、第一級アミノ基、カルボキシル基及びヒドロキシル基から選択される少なくとも1個の更なる官能基とを有する化合物の反応により得られる、イミド形成成分と、不飽和カルボン酸、過酸化物架橋剤及びUV開始剤からなる群から選択される、押出し後に架橋可能である構造要素とから製造された、押出しできるポリエステルイミド含有バインダーを含有する無溶剤ワイヤエナメル組成物を、押出しにより塗布することにより、コーティングされたワイヤを製造する方法であって、
該ワイヤエナメル組成物を、押出機を用いて溶融させ、ワイヤ上へ塗布し、引き続き後架橋にかけることを特徴とする、コーティングされたワイヤを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な無溶剤ワイヤエナメル組成物及びその使用に関する。
【0002】
ポリエステルイミドエナメルは、技術水準から、例えばDE-A 1445263、DE-A 1495100及びWO 91/07469(PCT-EP 90/01911)から、知られている。この種のエナメルは、良好な機械的性質、熱的性質及び化学的性質を有する。それゆえに、これらはエナメル線工業において普及している。
【0003】
ポリエステルイミド含有ワイヤエナメル用のバインダーは、常用のエナメル溶剤に不溶も同然である中分子化合物からなる。ゆえに、これらのワイヤエナメル用の溶剤としてクレゾール系溶剤が使用される。これらには、フェノール類、クレゾールの異性体(モノメチル化フェノール類)並びにキシレノール、すなわちポリメチル化フェノール類が含まれる(このためにはL. Wells及びH. Strunk, 1993, Proc. Electrical Electronics Insulation Conference, p. 172を参照)。通常、該クレゾール系溶剤は、希釈剤と共に使用される。このためには、例えばキシレン、ソルベントナフサ
R、トルエン、エチルベンゼン、クメン、重質ベンゼン(Schwerbenzol)並びに多様なSolvesso
R及びShellsol
Rタイプ並びにDeasol
Rが考慮に値する。
【0004】
該ワイヤ上への塗布は、塗装工程及び引き続き焼付けにより行われる。その際に、該樹脂は架橋し、不溶性になり、かつ溶融不可能になる。これまでの技術水準によれば、この過程は、穴のない塗膜が得られるまで、何度も(10〜20回)繰り返される。その塗装速度は、該ワイヤの直径に依存している。その炉温度は通常、500〜700℃である。該ワイヤの温度は、最大300℃である。該塗装プロセス中に、該銅線は何度も加熱され、再び冷却される。ゆえに、エネルギーの観点からは、この方法は費用がかかる。
【0005】
代案は、バインダーを押出し法により塗布することにある。このためには、まず第一に、熱可塑性材料が考慮に値する。しかしながら、これらは、現代のワイヤエナメル及びエナメル線への要求を満たさない、なぜならその耐熱性は、通常、120℃に過ぎないからである。しかし、コイル組立及びエンジン組立における現代の使用のためには、155℃よりも高い温度での安定性が必要である。
【0006】
巻線、ひいてはワイヤエナメルの押出しコーティングは、技術水準から知られている。例えば、US 4145474には、ポリエチレンテレフタラートの押出しが記載されている。ポリエーテルスルホンでのワイヤの押出しコーティングも、DE 2911269及びEP 0017062から知られている。EP 0024674によれば、二酸化チタンを充填剤として含有するポリエチレンテレフタラートの押出しが記載される。最後に、EP 0030717からは、押出しによる二層ワイヤの製造が記載されている。
【0007】
しかし、前記の方法は、熱可塑性成分での純然たるコーティングである。不足している耐熱性のために、これらは、155℃よりも高い熱の発生を伴う現代の使用に適していない。不足している耐熱性の問題点への指摘は、これら全ての刊行物から読み取ることができない。
【0008】
本発明の課題は、目下、押出し法において塗布されるが、しかしそれにもかかわらず、コイル組立及びエンジン組立における現代の使用への要求を満たす、無溶剤ワイヤエナメル組成物を提供することである。特に、該使用は、155℃よりも高い温度範囲内でも要求を満たすものとする。得られるエナメル線は、巻線用の通常の規格を満たすものとする。
【0009】
この課題は、ポリオールと、ポリカルボン酸と、イミド形成成分と、押出し後に架橋可能である架橋可能な構造要素とから製造される、押出しできるポリエステルイミド含有バインダーを含有する無溶剤ワイヤエナメル組成物により解決される。
【0010】
該ポリエステルイミドの製造のためには、多様なアルコール、特にジオール及びトリオールが適している。例は、エチレングリコール、1,2−及び1,3−プロピレングリコール、1,2−、1,3−及び1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン及びトリス−2−ヒドロキシエチルイソシアヌラートである。
【0011】
特に好ましいのは、本発明によればジオールの使用である。この際に、特にエチレングリコール及びジエチレングリコールが使用される。
【0012】
ポリエステルイミドの製造に適したカルボン酸は、芳香族酸及びそれらの誘導体である。例は、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸及びそれらのエステル化可能な誘導体である。該エステル化可能な誘導体には、例えば、前記の酸の無水物及び低級アルキルエステル、例えばメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、アミルエステル、ヘキシルエステル及びオクチルエステルが含まれる。使用可能であるのは、そのハーフエステル、ジアシルエステル及びこれらの化合物の混合物でもある。同じように、酸ハロゲン化物も考慮に値する。使用可能であるのは、本発明によれば、脂肪族ジカルボン酸、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸又はソルビン酸並びにそれらのエステル化可能又はエステル交換可能な誘導体でもある。本発明によれば特に好ましいのは、テレフタル酸の使用である。
【0013】
本発明により使用されるイミド含有成分は、その熱的性質の要因となる。これらの成分は、例えば、化合物間の反応により得ることができ、それらのうち、一方の化合物が、五員の環状カルボン酸無水物基
1個と、少なくとも1個の更なる官能基とを有するのに対し、他方の化合物が、第一級アミノ基
1個以外に、更に少なくとも1個の更なる官能基を有する。これらの更なる官能基は、とりわけカルボキシル基又はヒドロキシル基である。しかし、更なる第一級アミノ基又はカルボン酸無水物基を使用してもよい。
【0014】
環状カルボン酸無水物基
1個と、更なる官能基とを有する化合物の例は、特にピロメリト酸二無水物及びトリメリト酸無水物である。そのうえ、更なる芳香族カルボン酸無水物、例えばナフタレンテトラカルボン酸無水物又は分子中に2個のベンゼン核を有し、カルボキシル基が3,3′,4及び4′位にあるテトラカルボン酸の二無水物も考慮に値する。
【0015】
第一級アミノ基を有する化合物の例は、特にジ第一級ジアミンである。
例えばエチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン及び他の脂肪族ジ第一級ジアミン。芳香族ジ第一級ジアミン、例えばベンジジン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジフェニルスルホキシド、ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノジフェニルチオエーテル、フェニレンジアミン、トルイレンジアミン並びに分子中に3個のベンゼン核を有するジアミン、例えばビス(4−アミノフェノキシ)−1,4−ベンゼンも考慮に値する。
【0016】
考慮に値するのは、本発明によれば、脂環式ジアミン、例えば4,4′−ジシクロヘキシルメタンジアミンでもある。
【0017】
更なる官能基を有するアミノ基含有化合物として、アミノアルコール、例えばモノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、アミノカルボン酸、例えばグリシン、アミノプロパン酸、アミノカプロン酸又はアミノ安息香酸も、使用可能である。特に好ましくは、トリメリト酸無水物2モルと、4,4′−ジアミノジフェニルメタン1モルとの反応生成物の使用である。
【0018】
本発明により使用される架橋可能な構造要素は、該ポリマーの主鎖中に又は末端基として組み込まれていてよい。経験上、紫外線及び赤外線による架橋のためには不飽和結合が必要である。鎖中に(kettenstaendig)組み込まれた構造は、本発明によるバインダー中で使用可能である不飽和カルボン酸からなる。これらは、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸、イタコン酸、それらのエステル、無水物又は酸塩化物である。
【0019】
末端に組み込まれた架橋できる基は、3−メチル−1−ブテン−1−オール、アリルエーテル、アクリル酸、メタクリル酸、ジシクロペンタジエンへの低級ジカルボン酸、例えばマレイン酸、コハク酸の付加により製造されるジシクロペンテン構造体、テトラヒドロフタル酸無水物と、更に第二の官能基を有する第一級アミン、例えばエタノールアミン、プロパノールアミン、ブタノールアミンとの反応生成物である。本発明によれば、ポリオールの異なるアリルエーテル、例えばトリメチロールプロパンモノアリルエーテル及びトリメチロールプロパンジアリルエーテルも、鎖中又は末端の架橋可能な基として適している。
【0020】
電子線が架橋に使用される場合には、必ずしも不飽和構造要素が存在している必要はない。
【0021】
該ポリエステルイミド樹脂の製造には、当業者に知られているような、公知のエステル交換触媒が使用される。これには、重金属塩、有機チタン酸塩、セリウム化合物及びスズ化合物並びに有機酸、例えばp−トルエンスルホン酸が含まれる。
【0022】
重金属塩の例は、酢酸鉛及び酢酸亜鉛である。使用可能なチタン酸塩には、例えばチタン酸テトラ−n−ブチル、チタン酸テトライソプロピル、チタン酸テトラプロピル、チタン酸テトラブチル、チタン酸テトラアミル、チタン酸テトラヘキシル、チタン酸テトラエチル、チタン酸テトラメチル、チタン酸ジイソプロピルジブチル又はチタン酸アリール、例えばチタン酸テトラフェニル、チタン酸テトラクレジル、チタン酸テトラヘキシル又はチタン酸トリエタノールアミンも属する。
【0023】
紫外線での架橋のためには、その放射体に合わされたUV開始剤が、本発明によるバインダーに添加される。これらの例は、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパノン、2−ヒドロキシ−1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ−フェニル]−2−メチル−1−プロパノン、メチルベンゾイルホルマートである。
【0024】
その熱架橋のためには、過酸化物が添加される。例は、ジクミルペルオキシド、過酸化ジベンゾイル、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、過酸化ジ−t−ブチル、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、t−ブチル−クミルペルオキシド、ジ(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ブチル−4,4−ジ(t−ブチルペルオキシ)−バレラート、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルペルオキシベンゾアート、ジ(4−メチルベンゾイルペルオキシド、ジ(2,4−ジクロロベンゾイル)ペルオキシドである。C−C不安定な開始剤、例えば1,1,2,2−テトラフェニルエタンジオール(ベンズピナコール)、ベンゼン核上で置換されたベンズピナコール、1,2−ジt−ブチルエタンジオール及びその誘導体、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、ポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼンも使用可能である。
熱による及び放射線硬化の組合せは、熱による及び放射線開始剤の添加により可能である。
【0025】
本発明による押出しできるポリエステルイミド含有バインダーは、好ましくは次のものから製造される:
該樹脂材料を基準として、鎖中のイミド形成成分30〜60質量%、好ましくは35〜55質量%、特に好ましくは40〜50質量%、
不飽和カルボン酸2〜20質量%、好ましくは5〜15質量%、特に好ましくは7〜11質量%。100質量%に対する差は、常用の構成要素を含有するポリエステルイミド樹脂からなる。その量の記載は、該樹脂材料を基準とする質量%である。
【0026】
熱による後架橋性は、過酸化物架橋剤0.5〜6質量%、好ましくは1〜5質量%、特に好ましくは1.5〜4質量%の混合により達成される。
【0027】
光化学的な後架橋性は、UV開始剤0.3〜6質量%、好ましくは0.6〜5質量%、特に好ましくは1〜4質量%の混合により達成される。
【0028】
混合される成分に関する量の記載は、その押出し可能な配合物を基準とした質量%である。
【0029】
本発明によるワイヤエナメル組成物は、更に常用の助剤及び添加剤を含有してよい。好ましくは、該成分の全質量を基準として、1質量%までの量になる。該ワイヤエナメル組成物用の助剤として、例えば流展及び付着を改善する添加剤を使用してもよい。
【0030】
該ポリエステルイミド樹脂の製造は、本発明によれば通常、該アルコール成分、該カルボン酸成分及び該イミド形成成分が、溶融縮合において反応されることにより行われる。その反応制御のためには、生じる留出物、酸価又はOH価を利用することができる。
【0031】
該縮合後に、該樹脂が冷却され、粉砕され、かつふるい分けされる。その後、該架橋に必要な開始剤が添加され、かつ均質化される。
【0032】
こうして製造される本発明による押出しできるポリエステルイミド含有バインダーは、該ワイヤエナメル上へ塗布することができる。このためには、これらは押出機中で溶融される。コーティングされたワイヤは次いで、硬化帯域に導かれる。ここでは、該架橋は、熱を用いて及び/又は放射線を用いて実施される。
【0033】
コーティングすべきワイヤは通常、室温で供給されるが、しかし予熱されていてもよく、又は灼熱されていてもよい。常用の引取速度は、コーティングすべきワイヤの厚さに応じて、5〜600m/分である。
【実施例】
【0034】
例1 樹脂1
温度計、撹拌機及び還流冷却器を備えた三つ口フラスコに、1,2,3,6−テトラヒドロ−N−(2−ヒドロキシエチル)フタルイミド30.596g、メチルヒドロキノン0.017g及びエチレングリコール14.275gを充填し、130℃に加熱する。130℃で、トリメリト酸無水物32.386gを添加し、190℃に加熱する。留出物2.7gが得られると直ちに、該混合物を130℃に冷却する。ジアミノジフェニルメタン14.442gの添加後に、150℃に加熱し、1時間撹拌し、引き続き、190℃に加熱し、全部で5.9gの留出物が得られるまで撹拌する。次いで、150℃に冷却し、反応混合物に無水マレイン酸8.251g及びメチルヒドロキノン0.033gを添加する。195℃に加熱し、付加的に1.2gの留出物が得られるまで撹拌する。引き続き、ダイアフラムポンプ真空中で、更に2.4gの留出物が得られるまで更に撹拌する。反応生成物を更に後処理せずに排出する。
【0035】
例2 樹脂2
温度計、撹拌機及び還流冷却器を備えた三つ口フラスコに、1,2,3,6−テトラヒドロ−N−(2−ヒドロキシエチル)フタルイミド30.596g、メチルヒドロキノン0.017g及びエチレングリコール14.275gを充填し、130℃に加熱する。130℃で、トリメリト酸無水物32.386gを添加し、190℃に加熱する。留出物2.7gが得られると直ちに、該混合物を130℃に冷却する。ジアミノジフェニルメタン14.442gの添加後に、150℃に加熱し、1時間撹拌し、引き続き、190℃に加熱し、全部で5.9gの留出物が得られるまで撹拌する。次いで、150℃に冷却し、反応混合物に、無水マレイン酸7.373g、ジメチルテレフタラート1.622g及びメチルヒドロキノン0.033gを添加する。195℃に加熱し、付加的に1.3gの留出物が得られるまで撹拌する。引き続き、ダイアフラムポンプ真空中で、更に2.4gの留出物が得られるまで更に撹拌する。反応生成物を更に後処理せずに排出する。
【0036】
例3 樹脂3
温度計、撹拌機及び還流冷却器を備えた三つ口フラスコに、3−メチル−3−ブテン−1−オール6.303g、無水マレイン酸7.178g、メチルヒドロキノン0.008gを充填し、120℃に加熱する。激しい発熱反応を水浴中で冷却する。該反応の終了後に、130℃に加熱する。エチレングリコール20.600g及びエチルジグリコール11.788g及びトリメリト酸無水物30.230gを添加する。反応混合物を190℃に加熱し、留出物2.5mlが得られるまで撹拌する。130℃に冷却し、ジアミノジフェニルメタン13.480gを添加する。190℃に加熱し、全部で8.1gの留出物が得られるまで撹拌する。150℃に冷却し、メチルヒドロキノン0.031g、無水マレイン酸3.851g、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸6.454g及びチタン酸ブチル0.078gを添加する。反応混合物を、190℃に加熱し、1.2gの付加的な留出物が捕集されるまで撹拌する。引き続き、ダイアフラムポンプ真空中で、更に4.4gの留出物が生じるまで更に撹拌する。反応生成物を更に後処理せずに排出する。
【0037】
例4 樹脂4
温度計、撹拌機及び還流冷却器を備えた三つ口フラスコに、水2.575g、無水マレイン酸6.935g、メチルヒドロキノン0.008gを充填し、100℃に加熱し、30分撹拌する。引き続き、130℃に加熱し、ジシクロペンタジエン10.025gを一滴ずつ添加する。該添加の終了後に、130℃で1時間撹拌する。エチルジグリコール11.390g、ジエチレングリコール15.369g及びトリメリト酸無水物29.209gを添加し、190℃に加熱する。水性留出物3.3gが得られると直ちに、130℃に冷却し、ジアミノジフェニルメタン13.025gを添加する。190℃に加熱し、全部で5.8gの留出物が得られるまで撹拌する。150℃に冷却し、無水マレイン酸7.442g、メチルヒドロキノン0.030g及びエチレングリコール3.991gを添加する。反応混合物を190℃に加熱し、1.4gの付加的な留出物が得られるまで撹拌する。ダイアフラムポンプ真空下に、更に2.57gの留出物が生じるまで更に撹拌する。反応生成物を更に後処理せずに排出する。
【0038】
例5 押出し樹脂1
テトラヒドロフラン(THF)中の例1からの樹脂の30%溶液を製造する。該溶液を、ジクミルペルオキシド2.5%と混合する(樹脂を基準として)。0.3mm銅板をこれでコーティングする。コーティングした板を、90℃で30分乾燥させる。引き続き、該板を250℃で15分硬化させる。塗膜厚10μmを有し、丈夫で、滑らかで良好に付着する塗膜が得られる。
【0039】
その絶縁破壊電圧は(IEC 60464)2.4kVである。1mmマンドレルによるマンドレル折曲げ試験(IEC 60464第2部)では維持される。
【0040】
該溶剤を慎重に真空中で除去する場合には、固体樹脂が得られ、該樹脂をその後で粉砕し、ふるい分けし、改造した押出機中で0.9mm銅線上へ押し出した。該ワイヤを、300℃で1分、後架橋させる。滑らかで、良好に付着するエナメル線が得られる。該架橋前に、該塗膜はN−メチルピロリドンではがすことができるが、その後はもはや不可能である。
【0041】
例6 押出し樹脂2
THF中の例2からの樹脂の30%溶液を製造し、樹脂を基準としてジクミルペルオキシド2.5%と混合する。0.3mm銅板をこれでコーティングする。コーティングした板を、90℃で30分乾燥させる。引き続き、該コーティングを250℃で15分硬化させる。塗膜厚10μmを有し、丈夫で、滑らかで良好に付着する塗膜が得られる。
【0042】
その絶縁破壊電圧は(IEC 60464)2.6kVである。1mmマンドレルによるマンドレル折曲げ試験(IEC 60464第2部)では維持される。
【0043】
該溶剤を慎重に真空中で除去する場合には、固体樹脂が得られ、該樹脂をその後で粉砕し、ふるい分けし、改造した押出機中で0.9mm銅線上へ押し出した。該ワイヤを、300℃で1分、後架橋させる。滑らかで、良好に付着するエナメル線が得られる。該架橋前に、該塗膜はN−メチルピロリドンではがすことができるが、その後はもはや不可能である。
【0044】
例7 押出し樹脂3
THF中の例3からの樹脂の30%溶液を製造する。該溶液を、ジクミルペルオキシド2.5%と混合する(樹脂を基準として)。0.3mm銅板をこれでコーティングする。コーティングした板を90℃で30分乾燥させる。引き続き、該コーティングを、250℃で15分硬化させる。塗膜厚10μmを有し、丈夫で、滑らかで良好に付着する塗膜が得られる。
【0045】
その絶縁破壊電圧は(IEC 60464)2.4kVである。1mmのマンドレルによるマンドレル折曲げ試験(IEC 60464第2部)では維持される。
【0046】
該溶剤を慎重に真空中で除去する場合には、固体樹脂が得られ、該樹脂をその後で粉砕し、ふるい分けし、改造した押出機中で0.9mm銅線上へ押し出した。該ワイヤを、300℃で1分、後架橋させた。滑らかで、良好に付着するエナメル線が得られた。該架橋前に、該塗膜はN−メチルピロリドンではがすことができるが、その後はもはや不可能である。
【0047】
例8 押出し樹脂4
THF中の例4からの樹脂の30%溶液を製造する。該溶液を、ジクミルペルオキシド2.5%と混合する(樹脂を基準として)。0.3mm銅板をこれでコーティングする。コーティングした板を、90℃で30分乾燥させる。引き続き、該コーティングを、250℃で15分間硬化させた。塗膜厚10μmを有し、丈夫で、滑らかで良好に付着する塗膜が得られる。
【0048】
その該絶縁破壊電圧は(IEC 60464)2.5kVである。1mmマンドレルによるマンドレル折曲げ試験(IEC 60464第2部)では維持される。
【0049】
該溶剤を慎重に真空中で除去する場合には、固体樹脂が得られ、該樹脂をその後で粉砕し、ふるい分けし、改造した押出機中で0.9mm銅線上へ押し出した。該ワイヤを、300℃で1分、後架橋させた。滑らかで、良好に付着するエナメル線が得られた。該架橋前に、該塗膜はN−メチルピロリドンではがすことができるが、その後はもはや不可能である。
【0050】
例9 押出し樹脂5
THF中の例4からの樹脂の30%溶液を製造する。該溶液を、ベンジルジメチルケタール2%と混合する(樹脂を基準として)。0.3mm銅板をこれでコーティングする。コーティングした板を、90℃で30分乾燥させる。その後、該板に、タイプHoehnle UV 400F/2、380Wのランプを用いて紫外線2400mJ/cm
2(すなわち距離24cm、2.5分)で照射する。塗膜厚10μmを有し、丈夫で、滑らかで良好に付着する塗膜が得られる。
【0051】
その絶縁破壊電圧は(IEC 60464)2.6kVである。1mmマンドレルによるマンドレル折曲げ試験(IEC 60464第2部)では維持される。
【0052】
該溶剤を慎重に真空中で除去する場合には、固体樹脂が得られ、該樹脂をその後で粉砕し、ふるい分けし、改造した押出機中で0.9mm銅線上へ押し出した。放射体Hoehnle UV 400F/2、380を用いる後架橋は、滑らかで、良好に付着する塗膜をもたらした。該架橋前に、該塗膜はN−メチルピロリドンではがすことができるが、その後はもはや不可能である。
【0053】
比較例10 PETを用いる比較例
市販のポリエチレンテレフタラートを液体窒素で冷却し、次いで粉砕し、次いで選択的にジクミルペルオキシド2.5%又はジメチルベンジルケタール2%と混合し、改造した押出機中で0.9mm銅線上へ押し出す。熱的にも、光化学的にも、後架橋は不可能である。そのガラス転移は70℃のままである。架橋はすなわち行われない。