(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
A.透明ポリイミド積層体の製造方法
本発明の製造方法では、支持基材と、透明ポリイミド層とを含む透明ポリイミド積層体であって、支持基材から透明ポリイミド層を剥離する際のピール強度が0.005〜0.20kN/mであり、好ましくは0.01〜0.15kN/m、さらに好ましくは0.05〜0.10kN/mである透明ポリイミド積層体を製造する。ピール強度は、JIS C−6471(剥離角度90°)に準拠して測定される値である。
【0020】
前述のように、一般的なキャスト法で支持基材上にポリイミドフィルムを作製すると、得られるポリイミドフィルムと支持基材との剥離が難しく、ポリイミドフィルム及び支持基材を水に浸漬したり、支持基材とポリイミドフィルムとの界面にレーザー照射して剥離する必要であった。また、ポリイミドフィルム上に素子を形成してから、フィルムを支持基材から剥離すると、素子に応力がかかったり、素子に水が付着して、素子を損傷するおそれがあった。
【0021】
これに対し、本発明の製造方法で製造される透明ポリイミド積層体では、透明ポリイミド層と支持基材とのピール強度が小さい。したがって、透明ポリイミド層上に素子を形成してからでも、容易に透明ポリイミド層を支持基材から剥離することができる。
【0022】
本発明の製造方法には、以下の2つの工程が含まれる。
a)テトラカルボン酸成分及びジアミン成分を反応させてなるポリイミド前駆体と溶剤とを含むポリイミド前駆体含有溶液を、支持基材上に塗布する工程
b)前記ポリイミド前駆体含有溶液の塗膜からなるポリイミド前駆体フィルムを、透明ポリイミド層のガラス転移温度以上で加熱する工程
【0023】
本発明の透明ポリイミド積層体は、例えば
図1に示される装置によって、長尺の透明ポリイミド積層体30として製造されうる。
図1に示される製造装置は、ポリイミド前駆体の塗布装置20と、無端ベルト21と、無端ベルト21の移動方向に沿って配置された複数の加熱炉10とを具備する。ロールから巻き出した支持基材11に、塗布装置20によってポリイミド前駆体を塗布し、ポリイミド前駆体の塗膜1を形成する。そして、ポリイミド前駆体の塗膜1を加熱炉10でイミド化し、支持基材11及び透明ポリイミド層1’が積層された透明ポリイミド積層体を得る。その後、長尺の透明ポリイミド積層体を巻き取って、ロール体30とする。
【0024】
1.工程a)について
テトラカルボン酸成分及びジアミン成分を反応させてなるポリイミド前駆体と溶剤とを含むポリイミド前駆体含有溶液を準備する。ポリイミド前駆体含有溶液に含まれるポリイミド前駆体の種類は、特に制限されないが、得られる透明ポリイミド層の全光線透過率を高めるとの観点から、ポリイミド前駆体の主鎖に、脂環族が含まれることが好ましい。このようなポリイミド前駆体を含むポリイミド前駆体含有溶液については、後で詳述する。
【0025】
準備したポリイミド前駆体含有溶液を支持基材上に塗布する。支持基材は、耐溶剤性及び耐熱性を有するものであれば特に制限されない。支持基材は、得られる透明ポリイミド層の剥離性が良好であるものが好ましく、金属または耐熱性ポリマーフィルム等からなるフレキシブル基材であることが好ましい。金属からなるフレキシブル基材の例には、銅、アルミニウム、ステンレス、鉄、銀、パラジウム、ニッケル、クロム、モリブデン、タングステン、ジルコニウム、金、コバルト、チタン、タンタル、亜鉛、鉛、錫、シリコン、ビスマス、インジウム、又はこれらの合金からなる金属箔が含まれる。金属箔表面には、離型剤がコーティングされていてもよい。
【0026】
また、耐熱性ポリマーフィルムからなるフレキシブル基材の例には、ポリイミドフィルム、アラミドフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエーテルエーテルスルホンフィルムが含まれる。耐熱性ポリマーフィルムからなるフレキシブル基材には、離型剤や耐電防止剤が含まれていてもよく、表面に離型剤や帯電防止剤がコーティングされていてもよい。得られる透明ポリイミド層との剥離性が良好であり、かつ耐熱性及び耐溶剤性が高いことから、支持基材はポリイミドフィルムであることが好ましい。
【0027】
支持基材の表面の十点平均粗さ(Rz)は、0.4μm未満であることが好ましく、より好ましくは0.2μm以下、更に好ましくは0.1μm以下である。支持基材の表面の十点平均粗さが小さいと、支持基材上に成膜される透明ポリイミド層のヘイズが小さくなりやすい。上記支持基材表面の十点平均粗さ(Rz)は、JIS B-0601に準拠して測定される値であり、支持基材の幅方向に向かって測定した値である。
【0028】
また、支持基材表面には異物の付着やスジ状の傷等からなる欠陥がないことが好ましい。上記十点平均粗さ(Rz)が低くとも、支持基材にこれらの欠陥がある場合には、得られる透明ポリイミド層のヘイズが大きくなりやすい。支持基材表面の欠陥は、「単位面積あたりの欠陥数」で評価することができる。欠陥は、目視観察で確認する。支持基材210mm×297mm(A4サイズ)当たりに含まれる欠陥の数は、通常10個以下であることが好ましく、より好ましくは5個以下であり、さらに好ましくは1個以下である。
【0029】
支持基材の形状は、製造する透明ポリイミド積層体の形状に合わせて適宜選択され、単葉シート状であってもよく、長尺状であってもよい。支持基材の厚みは、5〜150μmであることが好ましく、10〜70μmであることがより好ましい。支持基材の厚みが5μm未満であると、ポリイミド前駆体含有溶液の塗布中に、支持基材に皺が発生したり、支持基材が裂けたりする場合がある。
【0030】
ポリイミド前駆体含有溶液の支持基材への塗布は、ポリイミド前駆体含有溶液を一定の膜厚で塗布可能な方法であれば、特に制限されない。塗布装置の例には、ダイコータ、コンマコータ、ロールコータ、グラビアコータ、カーテンコータ、スプレーコータ、リップコータ等が含まれる。
【0031】
ポリイミド前駆体含有溶液の塗膜の厚み(塗布膜厚)は、所望の透明ポリイミド層の厚みや、ポリイミド前駆体含有溶液中のポリイミド前駆体の濃度に応じて適宜選択される。
【0032】
2.工程b)について
工程b)では、前述の工程a)で支持基材上に形成されたポリイミド前駆体含有溶液の塗膜;つまりポリイミド前駆体フィルムを加熱する。具体的には、i)ポリイミド前駆体フィルムを、150℃以下の温度から200℃超まで温度を上昇させながら加熱し、さらにii)得られる透明ポリイミド層のガラス転移温度以上の温度(一定温度)で、一定時間加熱する工程であることが好ましい。
【0033】
i)一般的なポリイミド前駆体がイミド化する温度は150〜200℃である。そのため、ポリイミド前駆体フィルムの温度を急激に200℃以上まで上昇させると、ポリイミド前駆体フィルムから溶剤が揮発する前に、塗膜表面のポリイミド前駆体がイミド化する。そして、塗膜内の溶剤が発泡したり、溶剤が外部に放出される際、塗膜表面に凹凸が生じたりする。したがって、150〜200℃の温度領域では、ポリイミド前駆体フィルムの温度を徐々に上昇させることが好ましい。具体的には150〜200℃の温度領域における昇温速度を0.25〜50℃/分とすることが好ましく、より好ましくは1〜40℃/分であり、さらに好ましくは2〜30℃/分である。
【0034】
昇温は、連続的でも段階的(逐次的)でもよいが、連続的とすることが、得られる透明ポリイミド層の外観不良抑制の面から好ましい。また、上述の全温度範囲において、昇温速度を一定としてもよく、途中で変化させてもよい。
【0035】
単葉状のポリイミド前駆体フィルムを昇温しながら加熱する方法の例には、ポリイミド前駆体フィルムを加熱するためのオーブン内温度を昇温する方法がある。この場合、昇温速度は、オーブンの設定によって調整する。また、長尺状のポリイミド前駆体フィルムを昇温しながら加熱する場合、例えば
図1に示されるように、ポリイミド前駆体フィルム1を加熱するための加熱炉10を、支持基材11の搬送(移動)方向に沿って複数配置し;加熱炉10の温度を、加熱炉10ごとに変化させる。例えば、支持基材11の移動方向に沿って、それぞれの加熱炉10の温度を高めればよい。この場合、昇温速度は、支持基材11の搬送速度で調整する。
【0036】
ii)ポリイミド前駆体フィルムを、温度を上昇させながら加熱した後、さらに得られる透明ポリイミド層のガラス転移温度以上の温度(一定温度)で、一定時間加熱する。このときの温度は、得られる透明ポリイミド層のガラス転移温度以上であれば特に制限されないが、より好ましくは得られる透明ポリイミド層のガラス転移温度より5〜30℃高い温度、さらに好ましくは得られる透明ポリイミド層のガラス転移温度より5〜20℃高い温度である。得られる透明ポリイミド層のガラス転移温度以上の温度で一定時間加熱することで、ポリイミド前駆体を十分にイミド化させることができる。また、得られる透明ポリイミド層のガラス転移温度より高い温度で一定時間加熱するため、透明ポリイミド層が軟化し、透明ポリイミド層内部の溶剤が十分に揮発する。ガラス転移温度以上の温度での加熱時間は、加熱温度、ポリイミド前駆体フィルムの厚み、ポリイミド前駆体含有溶液に含まれる溶剤量等に応じて、適宜選択される。通常0.5〜2時間程度である。
【0037】
ポリイミド前駆体フィルムを、一定温度で加熱する際の加熱方法は特に制限されず、例えば、一定温度に調整したオーブン等で加熱する。また、長尺状のポリイミド前駆体フィルムは、一定に温度を保持した加熱炉等で加熱する。
【0038】
ポリイミドは、200℃を超える温度で加熱すると酸化されやすい。ポリイミドが酸化されると、得られる透明ポリイミド層が黄変し、透明ポリイミド層の全光線透過率が低下する。そこで、200℃を超える温度領域では、(i)加熱雰囲気の酸素濃度を5体積%以下とする、もしくは(ii)加熱雰囲気を減圧することが好ましい。
【0039】
(i)加熱雰囲気の酸素濃度を5体積%以下とすると、ポリイミドの酸化反応が抑制される。200℃を超える温度領域における酸素濃度は、より好ましくは3体積%以下であり、さらに好ましくは1体積%以下である。酸素濃度を低下させる方法は、特に制限されないが、加熱雰囲気内に不活性ガスを導入する方法等でありうる。雰囲気中の酸素濃度は、市販の酸素濃度計(例えば、ジルコニア式酸素濃度計)により測定される。
【0040】
(ii)また、加熱雰囲気を減圧することでも、ポリイミドの酸化反応が抑制される。加熱雰囲気を減圧する場合には、雰囲気内の圧力を5kPa以下とすることが好ましく、より好ましくは1kPa以下である。加熱雰囲気を減圧する場合には、減圧オーブン等でポリイミド前駆体フィルムを加熱する。
【0041】
工程b)加熱終了時の透明ポリイミド層のイミド化率は90%以上であることが好ましく、より好ましくは93%以上、さらに好ましくは95%以上である。イミド化率が90%を下回ると、透明ポリイミド層の使用時にイミド化が進み、透明ポリイミド層から水分が放出されるおそれがある。イミド化率は、透明ポリイミド層のIR吸収スペクトルの測定値から算出できる。具体的には、以下の方法で算出する。
【0042】
透明ポリイミド層を支持基材から剥離し、そのIR吸収スペクトルを測定する。そして、1500cm
−1の吸収ピーク高さ(ベンゼン環のC=C伸縮振動によるピーク(基準))に対する、1370cm
−1の吸収ピーク高さ(イミド環のC−N伸縮振動)の比率Aを算出する。一方、同一の組成のポリイミド前駆体含有溶液からなるポリイミド前駆体フィルムを作製し、これを270℃で2時間以上加熱して、完全にイミド化させる。このフィルムについても、IR吸収スペクトルを測定し、同様に1500cm
−1の吸収ピーク高さ(ベンゼン環のC=C伸縮振動によるピーク(基準))に対する、1370cm
−1の吸収ピーク高さ(イミド環のC−N伸縮振動)の比率Bを算出する。そして、比率Bに対する比率Aの値(比率A/比率B)×100(%)を求め、これをイミド化率とする。
【0043】
一方、工程b)終了時に、透明ポリイミド層に残存する溶剤の量(残存する溶剤の質量×100/透明ポリイミド層の質量)は、1.0質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.8質量%以下であり、さらに好ましくは0.5質量%以下である。溶剤の残存量が1.0質量%を超えると、透明ポリイミド層の使用時に、透明ポリイミド層から溶剤が放出されるおそれがある。溶剤の残存量は、支持基材から透明ポリイミド層を剥離し、透明ポリイミド層を電気炉型熱分解炉等で熱分解し、熱分解された成分を、ガスクロマト質量分析装置で分析して特定する。
【0044】
上記加熱終了後、得られた透明ポリイミド積層体が長尺である場合には、前述のように、当該透明ポリイミド積層体を巻き取り、ロール体とするステップを行ってもよい。
【0045】
3.ポリイミド前駆体含有溶液について
工程a)で塗布するポリイミド前駆体含有溶液には、ポリイミド前駆体と溶剤とが含まれ、必要に応じて離型剤が含まれる。ポリイミド前駆体含有溶液に離型剤が含まれると、透明ポリイミド積層体における透明ポリイミド層と支持基材との剥離性が高まる。また、ポリイミド前駆体含有溶液には、必要に応じて各種添加剤が含まれてもよい。
【0046】
3−1.ポリイミド前駆体
ポリイミド前駆体は、テトラカルボン酸成分(A)と、ジアミン成分(B)とを反応させてなる。ポリイミド前駆体含有溶液に含まれるポリイミド前駆体の濃度は、5〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜40質量%である。ポリイミド前駆体の濃度が50質量%を超えると、ポリイミド前駆体含有溶液の粘度が過剰に高くなり、支持基材への塗布が困難となる場合がある。一方、5質量%未満であると、ポリイミド前駆体含有溶液の粘度が過剰に低く、ポリイミド前駆体フィルムを所望の厚みに塗布できない場合がある。また、溶剤の乾燥に時間がかかり、ポリイミドフィルムの製造効率が悪くなる。
【0047】
3−1−1.テトラカルボン酸成分(A)
ポリイミド前駆体を構成するテトラカルボン酸成分(A)には、下記一般式(a)で表されるテトラカルボン酸二無水物が含まれる。テトラカルボン酸成分(A)には、一般式(a)で表されるテトラカルボン酸二無水物が一種類のみが含まれてもよく、また2種類以上含まれてもよい。
【化8】
一般式(a)中、R
1は、炭素数4〜27である4価の有機基を示す。R
1は、脂肪族基;単環式脂肪族基;縮合多環式脂肪族基;単環式芳香族基;縮合多環式芳香族基;環式脂肪族基が直接もしくは架橋員により相互に連結された非縮合多環式脂肪族基;芳香族基が直接もしくは架橋員により相互に連結された非縮合多環式芳香族基でありうる。
【0048】
一般式(a)で表されるテトラカルボン酸二無水物は、特に芳香族テトラカルボン酸二無水物、または脂環族テトラカルボン酸二無水物であることが好ましい。
【0049】
一般式(a)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物の例には、ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、4,4'-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ビフェニル二無水物、2,2-ビス[(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,3-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシベンゾイル)ベンゼン二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシベンゾイル)ベンゼン二無水物、1,3-ビス(2,3-ジカルボキシベンゾイル)ベンゼン二無水物、1,4-ビス(2,3-ジカルボキシベンゾイル)ベンゼン二無水物、4,4'-イソフタロイルジフタリックアンハイドライドジアゾジフェニルメタン-3,3',4,4'-テトラカルボン酸二無水物、ジアゾジフェニルメタン-2,2',3,3'-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-チオキサントンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラキノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-キサントンテトラカルボン酸二無水物などが含まれる。
【0050】
一般式(a)で表される脂環族テトラカルボン酸二無水物の例には、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5-トリカルボン酸-6-酢酸二無水物、1-メチル-3-エチルシクロヘキサ-1-エン-3-(1,2),5,6-テトラカルボン酸二無水物、デカヒドロ-1,4,5,8-ジメタノナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-テトラリン-1,2-ジカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ジシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物などが含まれる。
【0051】
一般式(a)で表されるテトラカルボン酸二無水物にベンゼン環等の芳香環が含まれる場合には、芳香環上の水素原子の一部、もしくは全てが、フルオロ基、メチル基、メトキシ基、トリフルオロメチル基、およびトリフルオロメトキシ基等で置換されていてもよい。また、一般式(a)で表されるテトラカルボン酸二無水物にベンゼン環等の芳香環が含まれる場合には、目的に応じて、エチニル基、ベンゾシクロブテン−4’−イル基、ビニル基、アリル基、シアノ基、イソシアネート基、ニトリロ基、及びイソプロペニル基などから選ばれる架橋点となる基がテトラカルボン酸の構造中に含まれてもよい。特に、一般式(a)で表されるテトラカルボン酸二無水物には、成形加工性を損なわない範囲内で、ビニレン基、ビニリデン基、およびエチニリデン基などの架橋点となる基が、主鎖骨格中に組み込まれていることが好ましい。
【0052】
テトラカルボン酸成分(A)には、上記一般式(a)で表されるテトラカルボン酸二無水物以外に、ヘキサカルボン酸三無水物類、オクタカルボン酸四無水物類が含まれてもよい。これらの無水物類が含まれると、得られるポリイミドに、分岐鎖が導入される。これらの無水物類は一種類のみが含まれてもよく、また2種類以上が含まれてもよい。
【0053】
3−1−2.ジアミン成分(B)
ポリイミド前駆体を構成するジアミン成分(B)には、下記の一般式(b−1)〜(b−3)で表されるジアミンが含まれる。ジアミン成分(B)には、下記の一般式(b−1)〜(b−3)で表されるジアミンが1種のみ含まれてもよく、また2種以上含まれてもよい。また、ジアミン成分(B)には、一般式(b−1)〜(b−3)で表されるジアミン以外のジアミン(b−4)が含まれていてもよい。
【化9】
【化10】
【化11】
【0054】
一般式(b−1)で表されるシクロヘキサジアミンのシクロヘキサン骨格には、以下の2種類の幾何異性体(シス体/トランス体)がある。トランス体は、下記一般式(Z−1)で示され、シス体は下記一般式(Z−2)で表される。
【化12】
【0055】
一般式(Z−1)におけるシクロヘキサン骨格のシス/トランス比は、50/50〜0/100であることが好ましく、30/70〜0/100であることがより好ましい。トランス体の割合が高くなると、一般的にポリイミド前駆体の分子量が増大しやすい。そのため、膜の強度が高まりやすくなる。
【0056】
ポリイミド前駆体に含まれるシクロヘキサン由来のユニットのシス/トランス比は、核磁気共鳴分光法によって測定される。
【0057】
一般式(b−2)で表されるノルボルナンジアミンのアミノメチル基の位置は特に制限されない。例えば、一般式(b−2)で表されるノルボルナンジアミンには、アミノメチル基の位置が異なる構造異性体や、S体、R体を含む光学異性体等が含まれてもよい。これらはどのような割合で含まれてもよい。
【0058】
一般式(b−3)で表される1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンの1,4-ビスメチレンシクロヘキサン骨格(X)には、2種類の幾何異性体(シス体/トランス体)がある。トランス体は、下記一般式(X1)で示され、シス体は下記一般式(X2)で表される。
【化13】
【0059】
1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン由来のユニットのシス/トランス比は、40/60〜0/100であることが好ましく、20/80〜0/100であることがより好ましい。一般式(b−3)で表されるジアミンが構成成分に含まれるポリイミドのガラス転移温度は、上記シス/トランス比によって制御され、トランス体(X1)の割合が多くなると、ポリイミドのガラス転移温度が高まる。
【0060】
ポリイミド前駆体に含まれる1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン由来のユニットのシス/トランス比は、核磁気共鳴分光法によって測定される。
【0061】
ジアミン成分(B)には、上述の一般式(b−1)〜(b−3)で表されるジアミン以外の下記一般式で表されるジアミン(b−4)が含まれていてもよい。
【化14】
【0062】
一般式(b−4)において、R’は、炭素数4〜51の2価の基である。R’は、脂肪族基;単環式脂肪族基(但し、1,4−シクロヘキシレン基、下記一般式(X)で表される基、及び下記一般式(Y)で表される基を除く);縮合多環式脂肪族基;単環式芳香族基;縮合多環式芳香族基;環式脂肪族基が直接もしくは架橋員により相互に連結された非縮合多環式脂肪族基;芳香族基が直接もしくは架橋員により相互に連結された非縮合多環式芳香族基でありうる。
【化15】
【0063】
上記一般式(b−4)で表されるジアミンの例には、ベンゼン環を有するジアミン、芳香族置換基を有するジアミン、スピロビインダン環を有するジアミン、シロキサンジアミン類、エチレングリコールジアミン類、アルキレンジアミン類、脂環族ジアミン類等が含まれる。
【0064】
ベンゼン環を有するジアミンの例には、
<1>p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミンなどのベンゼン環を1つ有するジアミン;
<2>3,3'-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,3'-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4'-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4'-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3'-ジアミノジフェニルスルホン、3,4'-ジアミノジフェニルスルホン、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、3,3'-ジアミノベンゾフェノン、4,4'-ジアミノベンゾフェノン、3,4'-ジアミノベンゾフェノン、3,3'-ジアミノジフェニルメタン、4,4'-ジアミノジフェニルメタン、3,4'-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ジ(3-アミノフェニル)プロパン、2,2-ジ(4-アミノフェニル)プロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ジ(3-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ジ(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2-(3-アミノフェニル)-2-(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,1-ジ(3-アミノフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ジ(4-アミノフェニル)-1-フェニルエタン、1-(3-アミノフェニル)-1-(4-アミノフェニル)-1-フェニルエタンなどのベンゼン環を2つ有するジアミン;
<3>1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノ-α,α-ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノ-α,α-ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノ-α,α-ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-α,α-ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、2,6-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゾニトリル、2,6-ビス(3-アミノフェノキシ)ピリジンなどのベンゼン環を3つ有するジアミン;
<4>4,4'-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンなどのベンゼン環を4つ有するジアミン;
<5>1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル]ベンゼンなどのベンゼン環を5つ有するジアミン;
<6>4,4'-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4'-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4'-ビス[4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、4,4'-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ジフェニルスルホンなどのベンゼン環を6つ有するジアミンが含まれる。
【0065】
芳香族置換基を有するジアミンの例には、3,3'-ジアミノ-4,4'-ジフェノキシベンゾフェノン、3,3'-ジアミノ-4,4'-ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3'-ジアミノ-4-フェノキシベンゾフェノン、3,3'-ジアミノ-4-ビフェノキシベンゾフェノン等が含まれる。
【0066】
スピロビインダン環を有するジアミンの例には、6,6'-ビス(3-アミノフェノキシ)-3,3,3',3'-テトラメチル-1,1'-スピロビインダン、6,6'-ビス(4-アミノフェノキシ)-3,3,3',3'-テトラメチル-1,1'-スピロビインダン等が含まれる。
【0067】
シロキサンジアミン類の例には、1,3-ビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,3-ビス(4-アミノブチル)テトラメチルジシロキサン、α,ω-ビス(3-アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン、α,ω-ビス(3-アミノブチル)ポリジメチルシロキサン等が含まれる。
【0068】
エチレングリコールジアミン類の例には、ビス(アミノメチル)エーテル、ビス(2-アミノエチル)エーテル、ビス(3-アミノプロピル)エーテル、ビス[(2-アミノメトキシ)エチル]エーテル、ビス[2-(2-アミノエトキシ)エチル]エーテル、ビス[2-(3-アミノプロトキシ)エチル]エーテル、1,2-ビス(アミノメトキシ)エタン、1,2-ビス(2-アミノエトキシ)エタン、1,2-ビス[2-(アミノメトキシ)エトキシ]エタン、1,2-ビス[2-(2-アミノエトキシ)エトキシ]エタン、エチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、ジエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、トリエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル等が含まれる。
【0069】
アルキレンジアミンの例には、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカン等が含まれる。
【0070】
脂環族ジアミン類の例には、シクロブタンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ジ(アミノメチル)シクロヘキサン〔1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンを除くビス(アミノメチル)シクロヘキサン〕、ジアミノビシクロヘプタン、ジアミノメチルビシクロヘプタン(ノルボルナンジアミンなどのノルボルナンジアミン類を含む)、ジアミノオキシビシクロヘプタン、ジアミノメチルオキシビシクロヘプタン(オキサノルボルナンジアミンを含む)、イソホロンジアミン、ジアミノトリシクロデカン、ジアミノメチルトリシクロデカン、ビス(アミノシクロへキシル)メタン〔またはメチレンビス(シクロヘキシルアミン)〕、ビス(アミノシクロヘキシル)イソプロピリデン等が含まれる。
【0071】
3−1−3.好ましいポリイミド前駆体
ポリイミド前駆体含有溶液に含まれるポリイミド前駆体は、前述のテトラカルボン酸成分(A)と、前述のジアミン成分(B)とが反応してなるものであれば特に制限されないが、ポリイミド前駆体は、上記一般式(a)で表されるテトラカルボン酸二無水物と一般式(b−1)で表されるジアミンとのポリアミド酸ブロック(下記一般式(G)で表される)と、一般式(a)で表されるテトラカルボン酸二無水物及び、一般式(b−2)、(b−3)、または(b−4)のいずれかで表されるジアミンのポリイミドブロック(下記一般式(H)で表される)とが、結合したブロックポリアミド酸イミドが好ましい。
【化16】
一般式(G)及び(H)中、R
6及びR
8はそれぞれ独立に、炭素数4〜27の4価の基を示す。R
6及びR
8はそれぞれ独立に脂肪族基;単環式脂肪族基;縮合多環式脂肪族基;単環式芳香族基;もしくは縮合多環式芳香族基;環式脂肪族基が直接もしくは架橋員により相互に連結された非縮合多環式脂肪族基;芳香族基が直接もしくは架橋員により相互に連結された非縮合多環式芳香族基でありうる。具体的には、上述の一般式(a)で表されるテトラカルボン酸二無水物におけるR
1と同様である。
【0072】
また、一般式(H)において、R
7は炭素数4〜51の2価の基を示す。R
7は脂肪族基;単環式脂肪族基(但し、1,4−シクロヘキシレン基を除く);縮合多環式脂肪族基;単環式芳香族基もしくは縮合多環式芳香族基;環式脂肪族基が直接もしくは架橋員により相互に連結された非縮合多環式脂肪族基;芳香族基が直接もしくは架橋員により相互に連結された非縮合多環式芳香族基でありうる。具体的には、上記一般式(b−4)で表されるジアミンのR’と同様、もしくは下記一般式(X)または(Y)で表される基でありうる。
【化17】
【0073】
一般式(H)におけるR
7は、ノルボルナン類(上記一般式(Y)で表される基)であることが特に好ましい。すなわち、一般式(H)で表されるポリイミドブロックは、上述の一般式(b−2)で表されるジアミンを含むポリイミドのブロックであることが好ましい。
【0074】
式(G)と式(H)におけるmとnは、各ブロックにおける繰返し構造単位の繰返し数を示す。mの平均値とnの平均値はそれぞれ独立して、2〜1000であることが好ましく、5〜500であることがさらに好ましい。
【0075】
mとnの比率は、mの平均値:nの平均値=9:1〜1:9であることが好ましく、mの平均値:nの平均値=8:2〜2:8であることがより好ましい。式(G)で表される繰返し構造単位の繰返し数mの割合が一定以上であると、得られるポリイミドフィルムの熱膨張係数が小さくなる。また、繰返し数mの割合が一定以上であると、得られるポリイミドフィルムの可視光透過率が高まる。一方、シクロヘキサンジアミンは一般的に高価であるため、式(G)で表される繰返し構造単位の繰返し数mの割合を小さくすると、低コスト化が図られる。
【0076】
ポリイミド前駆体でありうるブロックポリアミド酸イミドに含まれる、式(G)で表される繰返し構造単位の総数と、式(H)で表される繰返し構造単位の総数との比は、(G):(H)=9:1〜1:9であることが好ましく、(G):(H)=8:2〜2:8であることがより好ましい。
【0077】
3−2.溶剤
ポリイミド前駆体含有溶液に含まれる溶剤は、前述のテトラカルボン酸成分(A)及びジアミン成分(B)を溶解可能な溶剤であれば特に制限されない。例えば、非プロトン性極性溶剤または水溶性アルコール系溶剤等でありうる。
【0078】
非プロトン性極性溶剤の例には、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルフォスフォラアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等;エーテル系化合物である、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-(メトキシメトキシ)エトキシエタノール、2-イソプロポキシエタノール、2-ブトキシエタノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルなどが含まれる。
【0079】
水溶性アルコール系溶剤の例には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-ブテン-1,4-ジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール、ジアセトンアルコールなどが含まれる。
【0080】
ポリイミド前駆体含有溶液には、これらの溶剤が1種のみ含まれてもよく、また2種以上含まれてもよい。溶剤にはN,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、もしくはこれらの混合液が含まれることが好ましい。
【0081】
3−3.離型剤
ポリイミド前駆体含有溶液には離型剤が含まれていてもよい。ポリイミド前駆体含有溶液に含まれる離型剤は、支持基材と透明ポリイミド層との離型性を高められるものであれば特に制限されず、公知の内部離型剤でありうる。内部離型剤の例には、脂肪族アルコール、脂肪酸エステル、トリグリセリド類、フッ素系界面活性剤、高級脂肪酸金属塩、リン酸エステル系の離型剤が含まれる。得られる透明ポリイミド層の透明性を阻害し難いとの観点から、リン酸エステル系の離型剤であることが好ましい。リン酸エステル系の離型剤の例には、特開2000−256377号公報に記載の化合物が含まれる。
【0082】
ポリイミド前駆体含有溶液に含まれる離型剤の量は、ポリイミド前駆体含有溶液に含まれるポリイミド前駆体100質量部に対して0.01〜0.38質量部であることが好ましく、より好ましくは0.02〜0.30質量部、さらに好ましくは0.04〜0.20質量部である。離型剤の量が0.01質量部未満であると、透明ポリイミド層を支持基材から剥離する際のピール強度が大きくなる。一方、離型剤の量が0.38質量部を超えると、ポリイミド前駆体含有溶液を支持基材上に塗布し難しくなる。
【0083】
3−4.その他の添加剤
前述のように、ポリイミド前駆体含有溶液には、得られる透明ポリイミド層の透明性及び耐熱性が損なわれない範囲で、各種添加剤が含まれてもよい。各種添加剤の例には、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤が含まれる。
【0084】
3−5.ポリイミド前駆体含有溶液の調製方法
ポリイミド前駆体含有溶液は、前述のテトラカルボン酸成分(A)と、前述のジアミン成分(B)とを、前述の溶剤中で反応させて得られる。溶剤中のジアミン成分(B)のモル数をx、テトラカルボン酸成分(A)のモル数をyとしたとき、y/xは0.9〜1.1であることが好ましく、0.95〜1.05であることがより好ましく、0.97〜1.03であることがさらに好ましく、0.99〜1.01であることが特に好ましい。テトラカルボン酸成分(A)と、ジアミン成分(B)とをこのような比率で重合することにより、ポリイミド前駆体の分子量(重合度)を適度に調整することができる。
【0085】
重合反応の手順は特に制限されない。例えばまず、撹拌機及び窒素導入管を備える容器を用意する。窒素置換した容器内に後述の溶剤を投入し、得られるポリイミド前駆体の固形分濃度が50質量%以下となるようにジアミンを加えて、温度調整して攪拌及び溶解させる。この溶液に、ジアミン成分(B)に対して、モル比率が1となるようにテトラカルボン酸成分(A)を加え、温度を調整して1〜50時間程度攪拌することにより、ポリイミド前駆体を含有するポリイミド前駆体含有溶液を得ることができる。
【0086】
ポリイミド前駆体をブロックポリアミド酸イミドとする場合には、例えば、アミン末端のポリアミド酸溶液に、酸無水物末端のポリイミド溶液を加えて、攪拌することによりポリアミド酸イミドを生成させればよい。ポリアミド酸のジアミンユニットには、シクロヘキサン含有ジアミン(前述の一般式(b−1)または(b−3)で表されるジアミン)が含まれることが好ましく;ポリイミドのジアミンユニットには、シクロヘキサン含有ジアミン以外のジアミン(前述の一般式(b−2)または(b−4)で表されるジアミン)が含まれることが好ましい。構造中にシクロヘキサンが含まれるポリイミド((b−1)または(b−3)で表されるジアミン)は、溶剤に溶解しにくいことがあるからである。ポリアミド酸は、前述の方法で製造する。また、離型剤は、必要に応じて適宜添加する。
【0087】
4.透明ポリイミド層について
前述の方法によって得られる透明ポリイミド積層体における、透明ポリイミド層の全光線透過率は、80%以上であり、より好ましくは83%以上であり、さらに好ましくは85%以上である。全光線透過率が80%以上であれば、透明性が必要とされる用途に透明ポリイミド層を適用できる。透明ポリイミド層の全光線透過率は、ポリイミドの種類、前述の工程b)における雰囲気の酸素濃度や圧力等で調整される。特に工程b)の200℃を超える温度領域における雰囲気の酸素濃度を低くしたり、雰囲気の圧力を低くすることで、ポリイミドの酸化が抑制され、透明ポリイミド層の全光線透過率が高まる。全光線透過率は、支持基材から透明ポリイミド層を剥離し、透明ポリイミド層についてJIS−K7105に準じて、光源D65にて測定される。
【0088】
また、透明ポリイミド積層体における透明ポリイミド層の面内位相差は、10nm以下であり、好ましくは5nm以下、さらに好ましくは3nm以下である。透明ポリイミド層の面内位相差が10nm以下であれば、透明ポリイミド層を、フレキシブルディスプレイ装置のパネル基板等に適用することができる。前述の工程b)終了後に部分的にイミド化が進行したり、溶剤が揮発したりすると、面内位相差が大きくなりやすい。したがって、面内位相差を小さくするためには、前述の工程b)終了時のイミド化率を十分に高め、工程b)終了時の残存溶剤量を十分に少なくしておくことが好ましい。面内位相差は、光弾性定数測定装置により25℃、波長550nmの光で測定される値である。具体的には、支持基材から透明ポリイミド層を剥離し、光弾性定数測定装置で透明ポリイミド層の屈折率を測定し、屈折率が最大となる方向をX軸、このX軸に垂直な方向をY軸とする。そして、X軸方向の屈折率をnx、Y軸方向の屈折率をny、透明ポリイミド層の厚みをdとしたときに、(nx−ny)×dで表される値を、面内位相差とする。
【0089】
透明ポリイミド積層体における透明ポリイミド層のガラス転移温度(Tg)は260℃以上であり、好ましくは270℃以上であり、さらに好ましくは300℃以上である。透明ポリイミド層のガラス転移温度が260℃以上であると、透明ポリイミド層を高い耐熱性が要求される用途にも適用できる。例えば一般に電子素子を形成する際の工程温度は250℃であり、本発明で得られる上記透明ポリイミド層は、このような電子素子を含む装置のパネル基板等にも適用可能である。透明ポリイミド層のガラス転移温度は、例えばポリイミド中に含まれるイミド基の当量、ポリイミドを構成するジアミン成分またはテトラカルボン酸二無水物成分の構造等によって調整される。上記ガラス転移温度は、熱機械分析装置(TMA)にて測定される。
【0090】
透明ポリイミド積層体における、透明ポリイミド層のヘイズは5%以下であり、好ましくは3%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。透明ポリイミド層のヘイズが5%以下であると、当該透明ポリイミド層を各種光学フィルムに適用できる。透明ポリイミド層のヘイズは、ポリイミド前駆体含有溶液の加熱条件やポリイミドの結晶性、支持基材の表面粗さ等で調整される。
【0091】
さらに、透明ポリイミド積層体における、透明ポリイミド層のL*a*b表色系で表されるb値の絶対値が5以下であり、好ましくは3以下である。一方、b値は正の値(0以上)であることが好ましい。L*a*b表色系は、JIS Z 8729で規格されている。b値が正の値であると、透明ポリイミド層が黄味を帯びることを示し、b値が負の値であると、透明ポリイミド層が青みを帯びることを示す。そして、一般的なポリイミドフィルムは、b値が大きく、黄色や茶褐色であることが多い。これに対し、本発明の透明ポリイミド積層体における透明ポリイミド層は、b値の絶対値が5以下であり、着色が少ない。したがって、当該ポリイミド層は、各種ディスプレイの基板等にも適用できる。
【0092】
透明ポリイミド積層体における透明ポリイミド層の厚みは特に制限されないが、5〜100μmであることが好ましく、より好ましくは10〜50μmである。このような厚みの透明ポリイミド層とすると、各種フレキシブルデバイス用の基板等として利用可能である。
【0093】
ここで、本発明は、ガラス転移温度が260℃以上、全光線透過率が80%以上、ヘイズが5%以下、L*a*b表色系におけるb値の絶対値が5以下、かつ面内位相差が10nm以下であるポリイミドフィルムも提供する。当該ポリイミドフィルムは上述の透明ポリイミド積層体の製造方法で得られる透明ポリイミド層からなることが好ましい。さらに、当該ポリイミドフィルムの物性は、上述のポリイミド層と同様の範囲であることが好ましい。
【0094】
B.透明ポリイミド積層体の用途について
前述の透明ポリイミド積層体の透明ポリイミド層を、支持基材から剥離して得られる透明ポリイミドフィルムは、種々のフレキシブルデバイスの基板や光学フィルムに適用可能である。また、透明ポリイミドフィルムは全光線透過率が高く、かつ面内位相差が非常に小さいため、特にフレキシブルディスプレイの基板に好適である。フレキシブルディスプレイの例には、タッチパネル、液晶表示ディスプレイ、有機ELディスプレイ等が含まれる。
【0095】
タッチパネルは、、一般的に、(i)透明電極(検出電極層)を有する透明基板、(ii)接着層、及び(iii)透明電極(駆動電極層)を有する透明基板からなるパネル体である。前述の透明ポリイミドフィルムは、検出電極層側の透明基板、及び駆動電極層側の透明基板のいずれにも適用できる。
【0096】
また、液晶表示ディスプレイ装置の液晶セルは、通常、(i)第一の透明板、(ii)透明電極に挟まれた液晶材料、及び(iii)第二の透明板がこの順に積層された積層構造を有するパネル体である。前述の透明ポリイミドフィルムは、上記第一の透明板、及び第二の透明板のいずれにも適用可能である。また、前述の透明ポリイミドフィルムは、液晶ディスプレイ装置におけるカラーフィルタ用の基板にも、適用可能である。
【0097】
有機ELパネルは、通常、透明基板、アノード透明電極層、有機EL層、カソード反射電極層、対向基板がこの順に積層されたパネルである。前述の透明ポリイミドフィルムは、上記透明基板、及び対向基板のいずれにも適用できる。
【0098】
前述の透明ポリイミド積層体の透明ポリイミド層(透明ポリイミドフィルム)は、支持基材から容易に剥離される。したがって、フレキシブルディスプレイを得る際に、透明ポリイミド層を剥離してから、透明ポリイミド層上に素子を形成してもよく、透明ポリイミド層上に素子を形成してから、透明ポリイミド層を支持基材から剥離してもよい。
【0099】
透明ポリイミド層を支持基材から剥離する際には、剥離帯電により透明ポリイミド層に異物が吸着したり、素子にダメージが生じる可能性がある。したがって、透明ポリイミド積層体の帯電を防止する措置を行うことが好ましい。具体的には、(a)ポリイミド前駆体含有溶液に帯電防止剤を添加する、(b)支持基材に帯電防止剤をコーティングする、(c)ポリイミド前駆体含有溶液の塗布装置や透明ポリイミド層の剥離装置に静電気除去部材(例えば除電バー、除電糸、イオン送風型静電気除去装置等)を設置することが好ましい。これらの対策は1種のみ行ってもよく、複数の対策を行ってもよい。
【0100】
透明ポリイミド層上に素子を形成する方法には、以下の3つの方法が含まれる。なお、いずれの方法においても、素子の形成方法は特に制限されず、公知の方法でありうる。
【0101】
(i)第1の方法
第1の方法は、
図2の概略断面図に示されるように、透明ポリイミド積層体12における支持基材11から、透明ポリイミドフィルム(透明ポリイミド層)1’を剥離してから(
図2(a))、透明ポリイミドフィルム1’上に素子13を形成する方法である(
図2(b))。第1の方法では、剥離した透明ポリイミドフィルム1’を他の基板(図示せず)に貼り合わせてから、透明ポリイミドフィルム1’上に素子13を形成することもできる。
【0102】
(ii)第2の方法
第2の方法は、
図3の概略断面図に示されるように、支持基材11と積層された透明ポリイミド層1’上に素子13を形成した後(
図3(a))、支持基材11から透明ポリイミドフィルム(透明ポリイミド層)1’を剥離して(
図3(b))、素子13が形成された透明ポリイミドフィルム1’を得る方法である(
図3(c))。第2の方法では、素子13の形成時に透明ポリイミド層1’にかかる応力が支持基材11に吸収されやすい。したがって、素子13の形成時に透明ポリイミド層1’が裂けたり割れたりし難い。
【0103】
(iii)第3の方法
第3の方法は、
図4の概略断面図に示されるように、透明ポリイミド積層体12における支持基材11側を他の基板14に貼り合わせてから(
図4(a))、透明ポリイミド層1’上に各種素子13を形成し(
図4(b))、支持基材11から透明ポリイミドフィルム(透明ポリイミド層)1’を剥離して(
図4(c))、素子13が形成されたポリイミドフィルム1’を得る方法である(
図4(d))。第3の方法では、他の基板14を透明ポリイミド積層体12と貼り合わせるため、素子13の作製時に透明ポリイミド積層体12が撓まない。したがって、種々の方法で透明ポリイミド層1’上に素子13を形成できる。また、第3の方法でも、素子13の形成時に透明ポリイミド層1’にかかる応力が支持基材11に吸収されやすい。したがって、素子13の形成時に透明ポリイミド層1’が裂けたり割れたりし難い。
【0104】
透明ポリイミド積層体12と貼り合わせる他の基板14は、剛性を有する基板であれば特に制限されず、ガラス基板や、金属製基板、セラミック製基板、樹脂製基板等でありうる。透明ポリイミド積層体12の支持基材11と他の基板14との接着方法は特に制限されず、例えば接着剤等で貼り合わせる方法等でありうる。
【0105】
5.その他
前述のポリイミド積層体の製造方法は、支持基材と各種樹脂層とを有する樹脂積層体の製造方法にも適用可能である。具体的には、(a)各種樹脂を含むワニスを支持基材上に塗布する工程と、(b)当該ワニスの塗布膜を加熱硬化させる工程とを有する、樹脂積層体の製造方法とすることができる。当該樹脂積層体の製造方法によれば、支持基材から容易に剥離可能な樹脂フィルムが得られる。各種樹脂の例には、前述した以外のポリイミド樹脂(ポリイミド前駆体)、アラミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、及びポリエーテルスルホン樹脂等が含まれる。
【実施例】
【0106】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。しかしながら、本発明の範囲はこれによって何ら制限を受けない。実施例及び比較例では、ピール強度、イミド化率、溶剤の残存量、ガラス転移温度、全光線透過率、ヘイズ値、L*a*b表色系におけるb値、面内位相差、及び支持基材の十点平均粗さを以下の方法で測定した。
【0107】
1)ピール強度
実施例及び比較例で作製した透明ポリイミド積層体を、長さ50mm、幅3.5mmに切出した。この透明ポリイミド積層体を、JIS C−6471に規定される方法に従ってピール強度を測定した。具体的には、透明ポリイミド積層体の短辺の端を把持し、支持基材から剥離角度90°、剥離速度50mm/分で剥離し、剥離時の応力を測定した。応力は、島津製作所製 引張試験機EZ−S、粘着テープ引きはがし試験装置で測定した。
【0108】
2)イミド化率
実施例及び比較例で作製した透明ポリイミド積層体から透明ポリイミド層を剥離し、当該透明ポリイミド層のイミド化率を、以下のように算出した。なお、IR吸収スペクトルの測定は、FT-IR分光器(FT/IR 300E、日本分光社製)に、多重反射型赤外スペクトル測定装置(ATR PR0410-M 日本分光社製)を取り付けて行った。
【0109】
実施例及び比較例で作製した透明ポリイミド層について、それぞれIR吸収スペクトルを測定した。そして、それぞれのフィルムについて、1500cm
−1の吸収ピーク高さ(ベンゼン環のC=C伸縮振動によるピーク(基準))に対する、1370cm
−1の吸収ピーク高さ(イミド環のC−N伸縮振動)の比率Aを算出した。一方、各実施例及び比較例と同様に透明ポリイミド層を作製し、これを270℃で2時間以上加熱して、完全にイミド化させた。これらのフィルムについて、それぞれ、IR吸収スペクトルを測定し、上記と同様に1500cm
−1の吸収ピーク高さ(ベンゼン環のC=C伸縮振動によるピーク(基準))に対する、1370cm
−1の吸収ピーク高さ(イミド環のC−N伸縮振動)の比率Bを算出した。
そして、対応するフィルムの比率Bに対する比率Aの値(比率A/比率B)×100(%)を求め、これをイミド化率とした。
【0110】
3)溶剤残存量
実施例及び比較例で作製した透明ポリイミド積層体から透明ポリイミド層を剥離し、当該透明ポリイミド層の溶剤残存量を測定した。測定は、電気炉型熱分解炉(島津製作所製PYR−2A(熱分解温度 320℃))と、ガスクロマト質量分析装置(島津製作所製GC−8A(カラムUniport HP 80/100 KG−02))とを接続し、フィルム中に含まれる溶剤量を特定した。このとき、装置のインジェクタ及びディテクタ温度は200℃、カラム温度は170℃とした。
【0111】
4)全光線透過率
実施例及び比較例で作製した透明ポリイミド積層体から透明ポリイミド層を剥離し、当該透明ポリイミド層の全光線透過率を測定した。具体的には、JIS−K−7105に準じて、日本電色工業製ヘーズメーターNDH2000にて、光源D65で測定した。
【0112】
5)ヘイズ
実施例及び比較例で作製した透明ポリイミド積層体から透明ポリイミド層を剥離し、当該透明ポリイミド層のヘイズを測定した。具体的には、JIS−K−7105に準じて、日本電色工業製ヘーズメーターNDH2000にて、光源D65で測定した。
【0113】
6)b値
実施例及び比較例で作製した透明ポリイミド積層体から透明ポリイミド層を剥離し、透明ポリイミド層のb値を測定した。測定には、色彩色差計(測定ヘッド:CM−2500d コニカミノルタ社製)を使用し、C光源・2°、視野・SCIモードにて、校正白色板上で透明ポリイミド層のb値を3回計測した。b値は、3回の計測値の平均値とした。
【0114】
7)面内位相差R0
実施例及び比較例で作製した透明ポリイミド積層体から透明ポリイミド層を剥離した。当該透明ポリイミド層の面内位相差を、Uniopt社製光弾性定数測定装置PEL−3A−102CのX,Yモードで測定した。測定温度は25℃、測定波長は550nmとした。具体的には、光弾性定数測定装置でポリイミドフィルムの屈折率を測定し、屈折率が最大となる方向をX軸、このX軸に垂直な方向をY軸とし、X軸方向の屈折率nxと、Y軸方向の屈折率nyとを導き出した。そして、フィルムの厚みをdとしたときに、(nx−ny)×dで表される値を、面内位相差とした。
【0115】
8)支持基材の十点平均粗さ
実施例及び比較例で使用した支持基材の十点平均粗さを、JIS B0601に準拠して測定した。このとき、カットオフ値0.25mm、測定長さ2.5mmとして、支持基材の幅方向の十点平均粗さを、表面粗さ・輪郭形状測定機(サーフコム1400D 東京精密製)で測定した。
【0116】
実施例および比較例で用いた化合物の略称は、以下の通りである。
[ジアミン成分]
14BAC:1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン
NBDA:ノルボルナンジアミン
ODA:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
CHDA:トランス−1,4−シクロヘキサンジアミン
[テトラカルボン酸成分]
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BPDA:3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
[溶剤]
DMAc:N,N-ジメチルアセトアミド
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
【0117】
(合成例1)
温度計、攪拌機、及び窒素導入管を備えた300mLの5つ口セパラブルフラスコに、14BAC 469.4g(3.3モル)と、DMAc 5761gとを加えて撹拌した。この混合液に、粉体状のBPDA 970.9g(3.3モル)を添加した。BPDAの添加後、120℃に保持したオイルバスに反応容器を5分間浴した。BPDAの添加から約3分後に、塩が析出したが、その後、速やかに溶解した。この混合液を室温でさらに18時間攪拌して、ポリイミド前駆体含有溶液を得た。
【0118】
(合成例2)
温度計、攪拌機、及び窒素導入管及び滴下ロートを備えた300mLの5つ口セパラブルフラスコに、PMDA 39.7g(0.180モル)と、DMAc 130gとを加えて攪拌し、PMDAのスラリーを得た。一方、NBDA 27.8g(0.180モル)とDMAc 27.8gとの混合溶液を準備した。この混合溶液を、前記スラリー中に、温度を一定に保持しながら120分間かけて滴下した。その後、混合液を50℃で5時間攪拌し、ポリイミド前駆体含有溶液を得た。
【0119】
(合成例3)
温度計、攪拌機、窒素導入管を備えた300mLの5つ口セパラブルフラスコに、14BAC 14.1g(0.099モル)、NBDA 1.7g(0.011モル)と、DMAc 189gとを加えて撹拌した。この混合液に、粉体状のBPDA 29.1g(0.099モル)、PMDA 2.4g(0.011モル)を添加した。BPDA、PMDAの添加後、120℃に保持したオイルバスに反応容器を5分間浴した。BPDA、PMDAの添加から約3分後に、塩が析出したが、その後、速やかに溶解した。この混合液を室温でさらに18時間攪拌して、ポリイミド前駆体含有溶液を得た。
【0120】
(合成例4)
温度計、攪拌機、及び窒素導入管を備えた300mLの5つ口セパラブルフラスコに、ODA 10.0g(0.050モル)と、DMAc 119gとを加えて攪拌した。この混合液に、粉体状のPMDA 10.9g(0.050モル)を、温度を一定に保持しながら添加した。その後、混合液を50℃で5時間攪拌し、ポリイミド前駆体含有溶液を得た。
【0121】
(合成例5)
・アミド酸オリゴマー溶液の合成
温度計、攪拌機、窒素導入管を備えた300mLの5つ口セパラブルフラスコに、CHDA 11.4g(0.100モル)と、溶媒のNMP 116gとを加え、溶液が透明になるまで攪拌した。当該溶液に、BPDA 27.1g(0.092モル)を粉状のまま装入し、反応容器を120℃に保持したオイルバス中に5分間浴した。BPDA装入後しばらくして塩が析出した。その後、塩は溶解し、均一系となって溶液の粘度が増大した。オイルバスを外してから、更に18時間室温で攪拌し、末端にCHDA由来のアミノ基を有するアミド酸オリゴマー溶液を得た。
【0122】
・イミドオリゴマー溶液の合成
温度計、攪拌機、窒素導入管を備えた300mLの5つ口セパラブルフラスコに、NBDA 11.1g(0.072モル)と、NMP 94.5gとを加え、溶液が透明になるまでて攪拌した。当該溶液に、BPDA 29.4g(0.100モル)を粉状のまま装入し、反応容器を120℃に保持したオイルバス中に5分間浴した。BPDA装入後、一時的に塩が析出した。その後、粘度増大を伴いながら再溶解し均一透明溶液となることを確認した。
当該セパラブルフラスコに冷却管とディーンスターク型濃縮器を取付けて、キシレン 80.0gを反応溶液に追加し、攪拌しながら180℃で4時間、脱水熱イミド化反応させた。当該反応後、キシレンを留去し、末端にBPDA由来の酸無水物構造を有するイミドオリゴマー溶液を得た。
【0123】
・ブロックポリアミド酸イミド溶液の合成
前述のアミド酸オリゴマー溶液 40.0gと、前述のイミドオリゴマー溶液 9.99gとを混合し、高粘度材料撹拌脱泡ミキサ(株式会社ジャパンユニックス社製、製品名:UM−118)にて10分間攪拌し、ブロックポリアミド酸イミド溶液を得た。
【0124】
(実施例1)
合成例1で調製したポリイミド前駆体含有溶液を、ガラス基板にカプトンテープで固定した宇部興産製のポリイミドフィルム(UPILEX50S(50μm))上にドクターブレードで塗工した。そして、ガラス基板、支持基材、及びポリイミド前駆体フィルムからなるサンプルをイナートオーブンに入れた。その後、イナートオーブン内の酸素濃度を0.0%に制御し、30℃から270℃まで120分かけて昇温(昇温速度2℃/分)し、さらに270℃で2時間保持し、ガラス基板上に透明ポリイミド積層体を作製した。得られた透明ポリイミド層の厚みは30μmであった。
ガラス基板上から取り外した透明ポリイミド積層体の支持基材/透明ポリイミド層界面のピール強度は0.039kN/mであった。
剥離後の透明ポリイミドフィルムのガラス転移温度(Tg)は260℃、全光線透過率は87%、面内位相差(R0)は0.8nm、イミド化率は98%であり、溶剤残存量は0.2質量%であった。
【0125】
(実施例2)
イナートオーブン内の酸素濃度を5.0%に変更した以外は実施例1と同様にし、ガラス基板上に透明ポリイミド積層体を作製した。ガラス基板上から取り外した透明ポリイミド積層体の支持基材/透明ポリイミド層界面のピール強度は0.039kN/mであった。
剥離後の透明ポリイミドフィルムのガラス転移温度(Tg)は261℃、全光線透過率は87%、面内位相差(R0)は0.8nm、イミド化率は98%であり、溶剤残存量は0.2質量%であった。
【0126】
(実施例3)
昇温速度を10℃/分に変更した以外は実施例1と同様にし、ガラス基板上に透明ポリイミド積層体を作製した。ガラス基板上から取り外した透明ポリイミド積層体の支持基材/透明ポリイミド層界面のピール強度は0.032kN/mであった。
剥離後の透明ポリイミドフィルムのガラス転移温度(Tg)は260℃、全光線透過率は87%、面内位相差(R0)は0.7nm、イミド化率は95%であり、溶剤残存量は0.5質量%であった。
【0127】
(実施例4)
イナートオーブンの最高到達温度を280℃に変更し、昇温速度を2℃/分とした以外は実施例3と同様にし、ガラス基板上に透明ポリイミド積層体を作製した。ガラス基板上から取り外した透明ポリイミド積層体の支持基材/透明ポリイミド層界面のピール強度は0.040kN/mであった。
剥離後の透明ポリイミドフィルムのガラス転移温度(Tg)は261℃、全光線透過率は86%、面内位相差(R0)は0.7nm、イミド化率は100%であり、残存溶剤は検出されなかった。
【0128】
(実施例5)
合成例1で調製したポリイミド前駆体含有溶液を、ガラス基板にカプトンテープで固定した宇部興産製のポリイミドフィルム(UPILEX50S)上にドクターブレードで塗工した。そして、ガラス基板、支持基材、及びポリイミド前駆体フィルムからなるサンプルをイナートオーブンに入れた。その後、イナートオーブン内の酸素濃度を20%に制御し、30℃から180℃まで75分かけて昇温(昇温速度2℃/分)し、さらに180℃で2時間保持した。その後、サンプルを減圧オーブンに移し、フルバキュームにて減圧度1kPa以下としてから、昇温を開始した。減圧オーブンを30℃から270℃まで60分かけて昇温(昇温速度4℃/分)し、さらに270℃で1時間保持し、ガラス基板上に透明ポリイミド積層体を作製した。
ガラス基板上から取り外した透明ポリイミド積層体の支持基材/透明ポリイミド層界面のピール強度は0.031kN/mであった。
剥離後の透明ポリイミドフィルムのガラス転移温度(Tg)は260℃、全光線透過率は86%、面内位相差(R0)は0.5nm、イミド化率は96%であり、溶剤残存量は0.7質量%であった。
【0129】
(実施例6)
合成例2で調製したポリイミド前駆体含有溶液を、ガラス基板にカプトンテープで固定した宇部興産製のポリイミドフィルム(UPILEX50S)上にドクターブレードで塗工した。そして、ガラス基板、支持基材、及びポリイミド前駆体フィルムからなるサンプルをイナートオーブンに入れた。その後、イナートオーブン内の酸素濃度を0.0%に制御し、30℃から300℃まで135分かけて昇温(昇温速度2℃/分)し、さらに300℃で2時間保持し、ガラス基板上に透明ポリイミド積層体を作製した。
ガラス基板上から取り外した透明ポリイミド積層体の支持基材/透明ポリイミド層界面のピール強度は0.029kN/mであった。
剥離後の透明ポリイミドフィルムのガラス転移温度(Tg)は290℃、全光線透過率が88%、面内位相差(R0)は0.3nm、イミド化率は98%であり、溶剤残存量は0.6質量%であった。
【0130】
(実施例7)
使用するポリイミド前駆体含有溶液を合成例3で調整したものに変更し、昇温速度を2℃/分とした以外は実施例1と同様にし、ガラス基板上に透明ポリイミド積層体を作製した。ガラス基板上から取り外した透明ポリイミド積層体の支持基材/透明ポリイミド層界面のピール強度は0.041kN/mであった。
剥離後の透明ポリイミドフィルムのガラス転移温度(Tg)は266℃、全光線透過率が88%、面内位相差(R0)は0.6nm、イミド化率は96%であり、溶剤残存量は0.3質量%であった。
【0131】
(参考例1)
合成例1で調製したポリイミド前駆体含有溶液を、ガラス基板にカプトンテープで固定した東海アルミ製のアルミ箔(50μm)上にドクターブレードで塗工した。そして、ガラス基板、支持基材、及びポリイミド前駆体フィルムからなるサンプルをイナートオーブンに入れた。その後、イナートオーブン内の酸素濃度を0.0%に制御し、30℃から270℃まで120分かけて昇温(昇温速度2℃/分)し、さらに270℃で2時間保持し、ガラス基板上に透明ポリイミド積層体を作製した。ガラス基板上から取り外した透明ポリイミド積層体の支持基材/透明ポリイミド層界面のピール強度は0.19kN/mであった。
剥離後の透明ポリイミドフィルムのガラス転移温度(Tg)は261℃、全光線透過率が85%、面内位相差(R0)は1.4nm、イミド化率は99%であり、溶剤残存量は0.1質量%であった。
【0132】
(参考例2)
合成例1で調製したポリイミド前駆体含有溶液100gにデュポン製離型剤ゼレックUNを0.01g配合(固形分に対して500ppm相当)した剥離成分含有ポリイミド前駆体含有溶液を使用したこと以外は実施例8と同様にし、ガラス基板上に透明ポリイミド積層体を作製した。ガラス基板上から取り外した透明ポリイミド積層体の支持基材/透明ポリイミド層界面のピール強度は0.007kN/mであった。
剥離後の透明ポリイミドフィルムのガラス転移温度(Tg)は260℃、全光線透過率が85%、面内位相差(R0)は1.1nm、イミド化率は99%であり、溶剤残存量は0.1質量%であった。
【0133】
(参考例3)
使用する支持基材をSUS304(50μm)に変更した以外は実施例9と同様にし、ガラス基板上に透明ポリイミド積層体を作製した。ガラス基板上から取り外した透明ポリイミド積層体の支持基材/透明ポリイミド層界面のピール強度は0.009kN/mであった。
剥離後の透明ポリイミドフィルムのガラス転移温度(Tg)は262℃、全光線透過率が86%、面内位相差(R0)は1.2nm、イミド化率は99%であり、溶剤残存量は0.2質量%であった。
【0134】
(実施例8)
合成例1で調製したポリイミド前駆体含有溶液を、宇部興産製のポリイミドフィルム(UPILEX50S(50μm))上にダイコーターを用いて、連続的に直接流延塗布し、酸素濃度を0.0%に制御した乾燥炉を用いて、段階的に昇温を実施し(昇温速度5℃/分相当)、最高温度270℃まで加熱を実施し、透明ポリイミド積層体を作製した。ガラス基板上から取り外した透明ポリイミド積層体の支持基材/透明ポリイミド層界面のピール強度は0.039kN/mであった。
剥離後の透明ポリイミドフィルムのガラス転移温度(Tg)は261℃、全光線透過率が87%、面内位相差(R0)は2.0nm、イミド化率は97%であり、溶剤残存量は0.8質量%であった。
【0135】
(実施例9)
合成例5で調製したブロックポリアミド酸イミド溶液を、ガラス基板にカプトンテープで固定した宇部興産製のポリイミドフィルム(UPILEX50S(50μm、Rz=0.03μm))上にドクターブレードで塗工した。そして、ガラス基板、支持基材、及びブロックポリアミド酸イミドフィルムからなるサンプルをイナートオーブンに入れた。その後、イナートオーブン内の酸素濃度を0.0%に制御し、30℃から270℃まで120分かけて昇温(昇温速度2℃/分)し、さらに270℃で2時間保持し、ガラス基板上に透明ポリイミド積層体を作製した。得られた透明ポリイミド積層体の、透明ポリイミド層の厚みは30μmであった。ガラス基板上から取り外した透明ポリイミド積層体の支持基材/透明ポリイミド層界面のピール強度は0.030kN/mであった。
剥離後の透明ポリイミドフィルムのガラス転移温度(Tg)は286℃、全光線透過率は85%、ヘイズが1.0%、b値が1.8、面内位相差(R0)は0.9nm、イミド化率は98%であり、溶剤残存量は0.5質量%であった。
【0136】
(比較例1)
使用するポリイミド前駆体含有溶液を合成例4で調整したものに変更し、30℃から300℃まで135分かけて昇温(昇温速度2℃/分)し、300℃で2時間保持した以外は実施例1と同様にし、ガラス基板上に透明ポリイミド積層体を作製した。ガラス基板上から取り外した透明ポリイミド積層体の支持基材/透明ポリイミド層界面のピール強度は0.025kN/mであった。
剥離後の透明ポリイミドフィルムのガラス転移温度(Tg)は検出されず、全光線透過率が78%、面内位相差(R0)は0.9nm、イミド化率は95%であり、溶剤残存量は0.9質量%であった。
【0137】
(比較例2)
イナートオーブン内の酸素濃度を10.0%に変更した以外は実施例1と同様にし、ガラス基板上に透明ポリイミド積層体を作製した。ガラス基板上から取り外した透明ポリイミド積層体の支持基材/透明ポリイミド層界面のピール強度は0.031kN/mであった。
剥離後の透明ポリイミドフィルムのガラス転移温度(Tg)は259℃、全光線透過率が79%、面内位相差(R0)は0.8nm、イミド化率は97%であり、溶剤残存量は0.5質量%であった。
【0138】
(比較例3)
イナートオーブンの最高到達温度を230℃に変更した以外は実施例1と同様にし、ガラス基板上に透明ポリイミド積層体を作製した。ガラス基板上から取り外した透明ポリイミド積層体の支持基材/透明ポリイミド層界面のピール強度は0.010kN/mであった。
剥離後の透明ポリイミドフィルムのガラス転移温度(Tg)は250℃、全光線透過率が90%、面内位相差(R0)は0.8nm、イミド化率は78%であり、溶剤残存量は3.0質量%であった。
【0139】
(比較例4)
使用する支持基材を三井金属鉱業製の銅箔(NA−DFF(12μm))に変更した以外は実施例1と同様にし、ガラス基板上に透明ポリイミド積層体を作製した。ガラス基板上から取り外した透明ポリイミド積層体の銅箔(支持基材)から透明ポリイミド層を引き剥がそうと試みたが、剥がすことが出来なかった。
【0140】
(比較例5)
合成例1で調製したポリイミド前駆体含有溶液100gにデュポン製離型剤ゼレックUNを0.10g配合(固形分に対して5000ppm相当)した剥離成分含有ポリイミド前駆体含有溶液を、ガラス基板にカプトンテープで固定した東海アルミ製のアルミ箔(支持基材;50μm)上にドクターブレードで塗工した。そして、ガラス基板、支持基材、及びポリイミド前駆体フィルムからなるサンプルをイナートオーブンに入れた。その後、イナートオーブン内の酸素濃度を0.0%に制御し、30℃から270℃まで120分かけて昇温(昇温速度2℃/分)し、さらに270℃で2時間保持した。オーブンから出した透明ポリイミド積層体は支持基材上で透明ポリイミド層が“はじき”により一部凝集しており、製膜困難であることを確認した。
【0141】
(比較例6)
合成例1で調製したポリイミド前駆体含有溶液を、ガラス基板上に直接ドクターブレードで塗工した。そして、ガラス基板、ポリイミド前駆体フィルムからなるサンプルをイナートオーブンに入れた。その後、イナートオーブン内の酸素濃度を0.0%に制御し、30℃から270℃まで120分かけて昇温(昇温速度2℃/分)し、さらに270℃で2時間保持し、ガラス基板上に透明ポリイミド層を作製した。得られた透明ポリイミド層の厚みは30μmであった。
ガラス基板から透明ポリイミド層の剥離を試みたが、容易に剥離することは困難であった。そこで、ガラス基板/透明ポリイミド層を蒸留水に浸漬してガラス基板から透明ポリイミドフィルムを剥離した。
剥離後の透明ポリイミドフィルムのガラス転移温度(Tg)は260℃、全光線透過率は87%、面内位相差(R0)は0.8nm、イミド化率は98%であり、溶剤残存量は0.1質量%であった。
【0142】
(比較例7)
合成例1で調製したポリイミド前駆体含有溶液を、ガラス基板にカプトンテープで固定した宇部興産製のポリイミドフィルム(UPILEX50S(50μm、Rz=0.03μm))上にドクターブレードで塗工した。そして、ガラス基板、支持基材、及びポリイミド前駆体フィルムからなるサンプルをイナートオーブンに入れた。その後、イナートオーブン内の酸素濃度を0.0%に制御し、30℃から200℃まで85分かけて昇温(昇温速度2℃/分)し、さらに200℃で2時間保持した。ガラス基板上から取り外した透明ポリイミド積層体の支持基材/透明ポリイミド層界面のピール強度は0.008kN/mであった。
【0143】
剥離後の透明ポリイミドフィルムをステンレス製の金属枠にカプトンテープで、全周固定した。これをイナートオーブンに入れ、イナートオーブン内の酸素濃度を0.0%に制御し、30℃から250℃まで110分かけて昇温(昇温速度2℃/分)した。そして250℃で2時間保持して、膜厚30μmの透明ポリイミドフィルムを得た。得られた透明ポリイミドフィルムのガラス転移温度(Tg)は258℃、全光線透過率は87%、ヘイズが3.7%、b値が0.9、面内位相差(R0)は80nm、イミド化率は88%であり、溶剤残存量は1.5質量%であった。
【0144】
(比較例8)
合成例1で調製したポリイミド前駆体含有溶液を、ガラス基板にカプトンテープで固定した宇部興産製のポリイミドフィルム(UPILEX50S(50μm、Rz=0.03μm))上にドクターブレードで塗工した。そして、ガラス基板、支持基材、及びポリイミド前駆体フィルムからなるサンプルをイナートオーブンに入れた。その後、イナートオーブン内の酸素濃度を0.0%に制御し、30℃から270℃まで120分かけて昇温(昇温速度2℃/分)し、さらに270℃で2時間保持し、ガラス基板上に透明ポリイミド積層体を作製した。ガラス基板上から取り外した透明ポリイミド積層体の支持基材/透明ポリイミド層界面のピール強度は0.039kN/mであった。
【0145】
剥離後のフィルムをステンレス製の金属枠にカプトンテープで、全周固定した。これをイナートオーブンに入れ、イナートオーブン内の酸素濃度を0.0%に制御し、30℃から270℃まで120分かけて昇温(昇温速度2℃/分)し、さらに270℃で2時間保持して、膜厚30μmの透明ポリイミドフィルムを得た。得られた透明ポリイミドフィルムのガラス転移温度(Tg)は260℃、全光線透過率は88%、ヘイズが1.5%、b値が0.8、面内位相差(R0)は12nm、イミド化率は100%であり、溶剤は検出されなかった。
【0146】
【表1】
【0147】
表1に示されるように、ポリイミド前駆体を、得られる透明ポリイミド層のガラス転移温度以上の温度で加熱した場合(実施例1〜9、参考例1〜3、比較例2、6、及び比較例8)には、溶剤残存量がいずれも1.0質量%以下であり、イミド化率も95%以上であった。これに対し、得られる透明ポリイミド層のガラス転移温度未満で加熱した場合(比較例3及び比較例7)には、溶剤残存量が3.0質量%、かつイミド化率は90%未満であり、溶剤の乾燥やポリイミド前駆体のイミド化が不十分であった。
【0148】
また、支持基材上でガラス転移温度以上に加熱してポリイミドフィルムを得た場合(実施例1〜9、参考例1〜3、及び比較例1、2、6)には、面内位相差は10nm以下であった。これに対し、支持基材上でガラス転移温度以下で加熱した後、ポリイミドフィルムを支持基材から剥離し、これを金属枠に固定して更に加熱した場合(比較例7)、あるいは、支持基材上でガラス転移温度以上に加熱した後、ポリイミドフィルムを支持基材から剥離し、これを金属枠に固定して更にガラス転移温度以上で加熱した場合(比較例8)は、面内位相差は10nm超となった。面内位相差が10nm超であると、光学フィルムとしての用途が制限される。
【0149】
また、支持基材をポリイミドフィルムとした場合(実施例1〜9、比較例1〜3、7、8)には、支持基材から透明ポリイミド層を剥離する際のピール強度が0.041kN/m以下であり、透明ポリイミド層の剥離性が良好であった。
一方、支持基材をアルミ基板とした場合には、支持基材から透明ポリイミド層を剥離する際のピール強度が0.19kN/mと比較的高かった(参考例1)。これに対し、支持基材をアルミ基板とした場合であっても、ポリイミド前駆体含有溶液に離型剤が含まれる(参考例2)とピール強度が大きく低下した。ただし、離型剤の量が多すぎると、ポリイミド前駆体含有溶液を均一に塗布することができなかった(比較例5)。また、SUS板を支持基材とし、ポリイミド前駆体含有溶液に離型剤が含まれる場合には、支持基材から透明ポリイミド層を剥離する際のピール強度が低く、剥離性が良好であった(参考例3)。
【0150】
一方、支持基材を銅箔とし、ポリイミド前駆体含有溶液に離型剤が含まれない場合(比較例4)には、支持基材と透明ポリイミド層とのピール強度が高く、これらを剥離できなかった。また、支持基材をガラス基板とした場合(比較例6)には、支持基材と透明ポリイミド層とのピール強度が高く、水に浸漬しないと透明ポリイミド層を剥離できなかった。
【0151】
また、支持基材がアルミ基板やSUS板等であると、支持基材の表面の十点平均粗さ(Rz)が粗く、当該支持基材上に成膜される透明ポリイミド層のヘイズが高まりやすかった(参考例1〜3)。
【0152】
また、ポリイミドの主鎖に、脂環族が含まれる場合には、全光線透過率が高かった(実施例1〜9、参考例1〜3、及び比較例3、6〜8)。これに対し、全芳香族の透明ポリイミドフィルム(比較例1)は、全光線透過率が低かった。また、ポリイミドの主鎖に、脂環族が含まれていたとしても、ポリイミド前駆体含有溶液の加熱時の酸素濃度が5体積%を超える場合(比較例2)には、全光線透過率が低下した。加熱時に、ポリイミドが酸化されてしまい、フィルムが黄変したと推察される。