特許第6265917号(P6265917)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6265917ゴム製品を補強するための炭素繊維コードおよびそれを用いたゴム製品
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  • 特許6265917-ゴム製品を補強するための炭素繊維コードおよびそれを用いたゴム製品 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6265917
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】ゴム製品を補強するための炭素繊維コードおよびそれを用いたゴム製品
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/41 20060101AFI20180115BHJP
   D06M 15/693 20060101ALI20180115BHJP
   D02G 3/16 20060101ALI20180115BHJP
   D02G 3/44 20060101ALI20180115BHJP
   D07B 1/02 20060101ALI20180115BHJP
   D07B 1/16 20060101ALI20180115BHJP
   D06M 101/40 20060101ALN20180115BHJP
【FI】
   D06M15/41
   D06M15/693
   D02G3/16
   D02G3/44
   D07B1/02
   D07B1/16
   D06M101:40
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-559565(P2014-559565)
(86)(22)【出願日】2014年1月27日
(86)【国際出願番号】JP2014000402
(87)【国際公開番号】WO2014119280
(87)【国際公開日】20140807
【審査請求日】2016年8月19日
(31)【優先権主張番号】特願2013-15342(P2013-15342)
(32)【優先日】2013年1月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【弁理士】
【氏名又は名称】間中 恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100188802
【弁理士】
【氏名又は名称】澤内 千絵
(72)【発明者】
【氏名】片桐 真也
【審査官】 深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−006165(JP,A)
【文献】 特開昭58−109684(JP,A)
【文献】 特開2003−301334(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/001385(WO,A1)
【文献】 特開2004−285293(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/098123(WO,A1)
【文献】 米国特許第3318750(US,A)
【文献】 特開2001−098084(JP,A)
【文献】 特開昭62−141178(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/146708(WO,A1)
【文献】 特開2007−169643(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/169207(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00−15/715
D02G 3/16,3/44
D07B 1/02,1/16
D06M 101/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム製品を補強するための炭素繊維コードであって、
炭素繊維と、
前記炭素繊維上に形成された第1の被膜と、
前記第1の被膜を覆うように形成された第2の被膜と、を含み、
前記第1の被膜がフェノール樹脂を含み且つゴム成分を含まず、
前記第2の被膜が、ゴム成分を含んでおり、当該ゴム成分を含み且つレゾルシンとホルムアルデヒドとの初期縮合物を含まない処理剤を用いて形成されている、
前記炭素繊維と前記第1の被膜との合計の質量に占める前記第1の被膜の割合が、0.5質量%〜10質量%の範囲にある、炭素繊維コード。
【請求項2】
前記フェノール樹脂が、レゾルシン以外のフェノール類と、レゾルシンと、ホルムアルデヒドとの共重合体である、請求項1に記載の炭素繊維コード。
【請求項3】
前記フェノール類が、パラクロロフェノールまたはフェノールである、請求項2に記載の炭素繊維コード。
【請求項4】
前記第2の被膜が水素化ニトリルゴムを含む、請求項1に記載の炭素繊維コード。
【請求項5】
請求項1に記載の炭素繊維コードを含むゴム製品。
【請求項6】
前記処理剤はさらに架橋剤を含む、請求項1に記載の炭素繊維コード。
【請求項7】
前記架橋剤は、ジイソシアネート化合物、ポリイソシアネート、芳香族ニトロソ化合物およびマレイミド系架橋剤から選ばれる少なくとも1つである、請求項6に記載の炭素繊維コード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム製品を補強するための炭素繊維コードおよびそれを用いたゴム製品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用の内燃機関のカムシャフト駆動、インジェクションポンプなどの補機駆動、および、産業機械の動力の伝達には、ゴムベルトやチェーンが使用されている。一般的に、ゴムベルトは、ゴムとゴムに埋め込まれた補強用コードとを含む。ゴムベルトの強度は補強用コードの強度に依存するため、補強用コードはゴムベルトの寿命を決定する重要な部材である。そのような補強用コードが従来から提案されている(たとえば特許文献1)。
【0003】
ゴム製品の補強用コードに用いられる補強用繊維としては、ガラス繊維が主に用いられてきた。しかし、近年の科学技術の発展に伴い、ガラス繊維では求められる性能を充分に達成できないケースが増えてきている。そのため、ガラス繊維に代わる補強用繊維として、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維および炭素繊維などの繊維が検討されてきた。これらの繊維の中でも、炭素繊維は、強度および弾性率が高いという利点を有するため、補強用繊維として特に好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2006/001385号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、近年、補強用コードに求められる性能の高まりから、さらなる耐屈曲疲労性が求められている。また、補強用繊維として炭素繊維を用いた場合に、炭素繊維とマトリクスゴムとの接着性が充分でないという問題があった。そこで、本発明の目的の1つは、耐屈曲疲労性および接着性が共に高い炭素繊維コードを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、ゴム製品を補強するための炭素繊維コードを提供する。その炭素繊維コードは、炭素繊維と、前記炭素繊維上に形成された第1の被膜と、前記第1の被膜を覆うように形成された第2の被膜と、を含み、前記第1の被膜がフェノール樹脂を含み且つゴム成分を含まず、前記第2の被膜がゴム成分を含み、前記炭素繊維と前記第1の被膜との合計の質量に占める前記第1の被膜の割合が、0.5質量%〜10質量%の範囲にある。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐屈曲疲労性および接着性が共に高い炭素繊維コードが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例で行った屈曲試験を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明では、本発明の実施形態について例を挙げて説明するが、本発明は以下で説明する例に限定されない。以下の説明では、具体的な数値や材料を例示する場合があるが、本発明の効果が得られる限り、他の数値や材料を適用してもよい。また、以下で説明する化合物は、特に記載がない限り、単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0010】
(炭素繊維コード)
ゴム製品を補強するための本発明の炭素繊維コードについて以下に説明する。本発明の炭素繊維コードは、炭素繊維と、炭素繊維上に形成された第1の被膜と、第1の被膜を覆うように形成された第2の被膜と、を含む。第1の被膜は、フェノール樹脂を含み且つゴム成分を含まない。第2の被膜はゴム成分を含む。炭素繊維と第1の被膜との合計の質量に占める第1の被膜の割合は、0.5質量%〜10質量%の範囲にある。
【0011】
本発明の炭素繊維コードでは、第1の被膜の樹脂成分によって炭素繊維が保護される。そのため、摩擦による炭素繊維のダメージが減少し、炭素繊維コードの耐屈曲疲労性が向上する。また、樹脂成分を用いることによって炭素繊維と第1の被膜との接着性が向上し、その結果、炭素繊維コードの接着強度が向上する。
【0012】
炭素繊維に特に限定はなく、補強用繊維として用いられている公知の炭素繊維を用いてもよい。なお、本発明の炭素繊維コードに含まれる補強用繊維は基本的に炭素繊維のみであるが、本発明の効果が得られる限り、炭素繊維以外の繊維を少量含んでもよい。本発明の炭素繊維コードに含まれる補強用繊維に占める炭素繊維の割合は、通常99質量%以上であり、典型的には100質量%である。炭素繊維は、炭素繊維フィラメントを束ねたものであってもよい。
【0013】
本発明の炭素繊維コードは、炭素繊維を1本のみ含んでもよいし、炭素繊維を複数本含んでもよい。本発明の炭素繊維コードが複数本の炭素繊維を含んでいる場合、下撚りされていてもよい。また、それらは撚りあわされて、上撚りされていてもよい。撚り合せの本数に特に限定はなく、2〜10本の範囲、または、それ以上としてもよい。下撚りおよび上撚りの撚り数に特に限定はなく、通常0.1〜8.0回/25mmの範囲、好ましくは0.6〜4.0回/25mmの範囲である。撚りをかける方法についても限定はなく、フライヤー撚糸機やリング撚糸機などを用いて一般的な方法で撚りをかけることができる。下撚りおよび上撚りの方向は、同じでも異なってもよい。下撚りおよび上撚りの方向を同方向とすることによって、耐屈曲疲労性を向上させることができる。
【0014】
炭素繊維を構成するフィラメント数は、たとえば500〜48000本の範囲にある。炭素繊維フィラメントの種類に特に限定はない。炭素繊維フィラメントの直径に特に限定はない。炭素繊維フィラメントの直径は、4μm〜12μmの範囲にあることが好ましく、5μm〜8μmの範囲にあることがより好ましく、5μm〜7μmの範囲にあることがさらに好ましい。
【0015】
(第1の被膜)
第1の被膜は、炭素繊維上に直接形成される被膜である。上述したように、第1の被膜は、フェノール樹脂を含み且つゴム成分を含まない被膜である。ここで、フェノール樹脂とは、フェノール類(フェノールを含む)とホルムアルデヒドとの共重合体を意味する。フェノール類とは、少なくともヒドロキシル基(−OH)で置換された芳香族炭化水素(ベンゼンやナフタレン)を意味する。フェノール類の例には、フェノール(1価フェノール)、2価フェノール、ハロゲン化フェノール、アルキルフェノール、ニトロフェノール、フェノールスルホン酸、およびナフトールが含まれる。2価フェノールの例には、レゾルシン(レゾルシノール)、カテコール、ヒドロキノンが含まれる。ハロゲン化フェノールの例には、クロロフェノールやブロモフェノールが含まれる。アルキルフェノールの例には、クレゾールやブチルフェノールが含まれる。
【0016】
フェノール樹脂は、2種類以上のフェノール類とホルムアルデヒドとの共重合体であってもよい。たとえば、フェノール樹脂は、レゾルシン以外のフェノール類と、レゾルシンと、ホルムアルデヒドとの共重合体であってもよい。この場合のフェノール類は、パラクロロフェノールまたはフェノールであってもよい。具体的には、たとえばナガセケムテックス株式会社のデナボンド、吉村油化学株式会社のユカレジン(たとえば、品番:KE910またはKE912)を挙げることができる。
【0017】
本発明の炭素繊維コードにおいて、(炭素繊維+第1の被膜)の合計質量に占める第1の被膜の割合は、0.5質量%〜10質量%の範囲にあり、好ましくは1.0質量%〜6.0質量%の範囲にあり、より好ましくは2.0質量%〜4.0質量%の範囲にある。
【0018】
(その他の被膜)
第2の被膜は、通常、ゴム成分を含む。第2の被膜に含まれるゴム成分の例には、ブタジエン−スチレン共重合体、ジカルボキシル化ブタジエン−スチレン共重合体、ブタジエンゴム、ジクロロブタジエン、ビニルピリジン−ブタジエン−スチレンターポリマー、クロロプレン、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、水素化ニトリルゴム(H−NBR)が含まれる。なお、水素化ニトリルゴムは、カルボキシル変性された水素化ニトリルゴムであってもよい。
【0019】
第2の被膜は、後述する第2の処理剤を用いて形成できる。(炭素繊維+第1の被膜+第2の被膜)の合計質量に占める第2の被膜の割合は、たとえば5質量%〜30質量%の範囲にあり、好ましくは10質量%〜25質量%の範囲にあり、より好ましくは13質量%〜19質量%の範囲にある。
【0020】
本発明の炭素繊維コードは、第2の被膜を覆うように形成された第3の被膜をさらに備えてもよい。第3の被膜を形成することによって、マトリックスゴムとの接着性をさらに高めることが可能である。(炭素繊維+第1の被膜+第2の被膜+第3の被膜)の合計質量に占める第3の被膜の割合は、たとえば0.5質量%〜8.0質量%の範囲にあり、好ましくは1.0質量%〜5.0質量%の範囲にあり、より好ましくは1.8質量%〜3.8質量%の範囲にある。
【0021】
(炭素繊維コードの製造方法の一例)
本発明の炭素繊維コードを製造する方法の一例について以下に説明する。まず、炭素繊維を準備する。次に、その炭素繊維を覆うように第1の被膜を形成する。第1の被膜は、第1の被膜を形成するための第1の処理剤を用いて形成できる。具体的には、炭素繊維に第1の処理剤を塗布したのち、乾燥させることによって第1の被膜を形成できる。
【0022】
第1の処理剤は、第1の被膜の成分を含む。具体的には、第1の処理剤は、上述したフェノール樹脂を含み、ゴム成分(ラテックスなど)を含まない。第1の処理剤の一例は、上述したフェノール樹脂が水に分散された水性処理剤である。
【0023】
第1の被膜を形成した後、第1の被膜を覆うように第2の被膜を形成する。第2の被膜は、第2の被膜を形成するための第2の処理剤を用いて形成できる。具体的には、第1の被膜を覆うように第2の処理剤を塗布したのち、乾燥させることによって第2の被膜を形成できる。
【0024】
第2の処理剤の例には、上述したゴム成分が水性溶媒に分散された水性処理剤が含まれる。第2の処理剤の一例は、後述する実施例1で用いられている第2の水性処理剤(表1参照)である。また、被膜を形成するための処理剤として国際公開第2006/001385号に開示されている処理剤を、第2の処理剤として用いてもよい。
【0025】
第2の処理剤は、通常、ゴム成分に加えて架橋剤を含む。架橋剤には、公知の架橋剤を用いることができる。第2の処理剤の典型的な一例は、いわゆるRFL液ではない水性処理剤である。RFL液は、レゾルシンとホルムアルデヒドとの初期縮合物と、ゴムラテックスとの混合物を主成分とする処理液である。第2の処理剤の典型的な一例は、レゾルシンとホルムアルデヒドとの初期縮合物を含まず、ゴムラテックスと架橋剤とを含む水性処理剤である。この一例においては、例えば、ゴムラテックス100質量部に対し、架橋剤を5〜100質量部含んでいてもよい。第2の処理剤の典型的な別の例は、ゴムラテックスと架橋剤以外に、カーボンブラックやシリカなどの充填材や、樹脂、可塑剤、老化防止剤、安定剤、金属酸化物などを含んでいてもよい。
【0026】
架橋剤としては、たとえば、p−キノンジオキシムなどのキノンジオキシム系架橋剤を用いてもよい。また、ラウリルメタアクリレートやメチルメタアクリレートなどのメタアクリレート系架橋剤を用いてもよい。また、DAF(ジアリルフマレート)、DAP(ジアリルフタレート)、TAC(トリアリルシアヌレート)およびTAIC(トリアリルイソシアヌレート)などのアリル系架橋剤を用いてもよい。また、ビスマレイミド、フェニルマレイミドまたはN,N’−m−フェニレンジマレイミドなどのマレイミド系架橋剤(マレイミドまたはマレイミド誘導体)を用いてもよい。また、ジイソシアネート化合物(有機ジイソシアネート)を用いてもよいし、ポリイソシアネートを用いてもよいし、芳香族ニトロソ化合物を用いてもよい。また、硫黄やその他の架橋剤を用いてもよい。これらの中でも、ジイソシアネート化合物、ポリイソシアネート、芳香族ニトロソ化合物およびマレイミド系架橋剤から選ばれる少なくとも1つを用いることが好ましく、たとえば、マレイミド系架橋剤を用いることが好ましい。これらの架橋剤を用いることによって、補強用繊維とマトリックスゴムとの接着性を特異的に高めることができる。
【0027】
第1の処理剤および第2の処理剤を塗布する方法に限定はなく、公知の方法を適用してもよい。たとえば、炭素繊維やコードを、処理剤に浸漬してもよい。また、塗布された処理剤を乾燥する方法・条件に特に限定はなく、公知の方法を適用してもよい。たとえば、80〜300℃の雰囲気下で0.1〜3分間乾燥することによって、水分を除去してもよい。なお、第3の被膜の形成方法も特に限定はなく、公知の方法を適用できる。
【0028】
(ゴム製品)
本発明のゴム製品は、本発明の炭素繊維コードを含む。すなわち、本発明のゴム製品は、本発明の炭素繊維コードで補強されている。ゴム製品に特に限定はない。本発明のゴム製品の例には、自動車や自転車のタイヤ、および、伝動ベルトなどが含まれる。伝動ベルトの例には、噛み合い伝動ベルトや摩擦伝動ベルトなどが含まれる。噛み合い伝動ベルトの例には、自動車用タイミングベルトなどに代表される歯付きベルトが含まれる。摩擦伝動ベルトの例には、平ベルト、丸ベルト、Vベルト、Vリブドベルトなどが含まれる。
【0029】
本発明のゴム製品は、本発明の炭素繊維コードをゴム組成物(マトリックスゴム)に埋め込むことによって形成されている。炭素繊維コードをマトリックスゴム内に埋め込む方法は特に限定されず、公知の方法を適用してもよい。本発明のゴム製品(たとえばゴムベルト)には、本発明の炭素繊維コードが埋め込まれている。そのため、本発明のゴム製品は、高い耐屈曲疲労性を備えている。したがって、本発明のゴム製品は、車輌用エンジンのタイミングベルトなどの用途に特に適している。
【0030】
本発明の炭素繊維コードが埋め込まれるゴム組成物のゴムは、特に限定されず、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、水素化ニトリルゴムなどであってもよい。水素化ニトリルゴムおよびアクリル酸亜鉛誘導体を分散させた水素化ニトリルゴムから選ばれる少なくとも1つのゴムは、耐水性および耐油性の観点から、好ましい。マトリックスゴムは、さらに、カルボキシル変性された水素化ニトリルゴムを含んでもよい。なお、炭素繊維コードの最表面の被膜とゴム製品のゴム組成物とが同じ種類のゴムを含むか、または、同じ種類のゴムからなることが、接着性の点で好ましい。
【実施例】
【0031】
以下では、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。
【0032】
(実施例1)
まず、炭素繊維フィラメント6000本を束ねて、フィラメントの束とした。炭素繊維フィラメントには、平均直径が7μmのものを用いた。次に、炭素繊維フィラメントの束を、第1の水性処理剤に浸漬した。第1の水性処理剤には、パラクロロフェノール−レゾルシン−ホルムアルデヒド共重合体を水に分散させたものを用いた。具体的には、ナガセケムテックス株式会社のデナボンドを、水で8倍に希釈したものを第1の水性処理剤として用いた。以下では、実施例1で用いた第1の水性処理剤を、「処理剤(A)」という場合がある。
【0033】
次に、第1の水性処理剤が塗布された炭素繊維を150℃で2分間乾燥させることによって、第1の被膜を有する1本の炭素繊維コードを得た。この炭素繊維コードに、表1に示す第2の水性処理剤を塗布し、200℃で2分間乾燥させることによって、第2の被膜を形成した。
【0034】
【表1】
【0035】
次に、第2の被膜が形成された炭素繊維コードに対して、2.0回/25mmの割合で一方向に撚りをかけた。なお、実施例1では、(炭素繊維+第1の被膜)に占める第1の被膜の割合が0.5質量%となるように第1の被膜を形成した。また、(炭素繊維+第1の被膜+第2の被膜)に占める第2の被膜の割合が16質量%となるように第2の被膜を形成した。
【0036】
次に、上記コードに、表2に示す組成を有する第3の処理剤を第2の被膜の上に塗布して乾燥することによって、第3の被膜を形成した。(炭素繊維+第1の被膜+第2の被膜+第3の被膜)の合計質量に占める第3の被膜の割合は3.0%であった。このようにして、実施例1の炭素繊維コードを作製した。
【0037】
【表2】
【0038】
(実施例2〜11)
第1および第2の被膜の割合を変えたことを除いて実施例1と同様の条件で、実施例2〜11の炭素繊維コードを作製した。それらの割合は、後掲する表4に示す。なお、コード全体に占める第3の被膜の割合は、実施例1と同じとした(以下の実施例および比較例においても同様である)。
【0039】
(実施例12〜17)
第1の水性処理剤を変えたこと、および、コード全体に占める第1および第2の被膜の割合を変えたことを除いて、実施例1と同様の条件で、実施例12〜17の炭素繊維コードを作製した。それらの割合は、後掲する表5に示す。
【0040】
実施例12〜17では、第1の水性処理剤として、フェノール−レゾルシン−ホルムアルデヒド共重合体を水に分散させたものを用いた。具体的には、吉村油化学株式会社のユカレジン(品番:KE912)を、水で8倍に希釈したものを第1の水性処理剤として用いた。以下では、実施例12〜17で用いた第1の水性処理剤を、「処理剤(C)」という場合がある。
【0041】
(比較例1)
比較例1では、フェノール樹脂を含む第1の被膜を形成しなかった。また、第2の被膜は、RFL液を塗布して乾燥することによって形成した。ここで、RFL液には、レゾルシンとホルムアルデヒドとの初期縮合物に、変性水素化ニトリルゴムラテックスを混合した処理液を用いた。(炭素繊維+第2の被膜)に占める第2の被膜の割合は、20質量%とした。
【0042】
(比較例2〜4)
比較例2〜4では、フェノール樹脂を含む第1の被膜を形成しなかった。また、第2の被膜は、実施例1で用いた第2の水性処理剤を塗布して乾燥することによって形成した。ただし、(炭素繊維+第2の被膜)に占める第2の被膜の割合を変更した。それらの割合は、後掲する表6に示す。
【0043】
(比較例5〜8)
比較例5〜8では、第1および第2の被膜の割合を変えたことを除いて実施例1と同様の条件で、比較例5〜8の炭素繊維コードを作製した。被膜の形成に用いた処理剤およびそれらの割合は、後掲する表6に示す。なお、コード全体に占める第3の被膜の割合は、実施例1と同じとした。
【0044】
上記実施例および比較例で作製した炭素繊維コードを、表3に示す組成を有するマトリックスゴムに埋め込み、幅10mm、長さ300mm、厚さ3mmの平ベルトを形成した。
【0045】
【表3】
【0046】
得られた平ベルトについて、5万回および10万回屈曲させる屈曲試験を行った。屈曲試験は、図1に示す屈曲試験機10を用いて行った。それぞれの試験片について、屈曲試験前および屈曲試験後の引張強度を測定した。ここで、引張強度は、一般的に用いられる引張試験機と一般的に用いられるコードグリップとを用いて引張試験を実施し、その際に得られた破断強度である。なお、単位はN/ベルトである。
【0047】
図1の屈曲試験機10は、1個の平プーリ21(直径10mm)と、4個のガイドプーリ23と、モータ22とを備える。まず、作製された試験片20(平ベルト)を、5個のプーリに架けた。そして、試験片20の一端20aにおもりをつけて、試験片20に9.8Nの荷重を加えた。その状態で、試験片20の他端20bをモータ22によって往復運動させ、平プーリ21の部分で試験片20を繰り返し屈曲させた。屈曲試験は室温で行った。このようにして、試験片20の屈曲試験を行ったのち、屈曲試験後の試験片の引張強度を測定した。
【0048】
そして、屈曲試験前の試験片の引張強度を100%としたときの、屈曲試験後の試験片の引張強度の割合、すなわち強度保持率(%)を求めた。この強度保持率の値が高いほど耐屈曲疲労性に優れていることを示す。5万回屈曲試験後の強度保持率を「強度保持率(1)」とし、10万回屈曲試験後の強度保持率を「強度保持率(2)」として、後掲する表4〜6に示す。
【0049】
また、作製した炭素繊維コードについて、マトリックスゴムとの接着力を評価するための接着試験を行った。具体的には、まず、帆布、炭素繊維コード、およびマトリックスゴムのシートをこの順に重ね、160℃で30分の条件でプレスをすることによって、接着試験用の試験片を作製した。試験片の寸法は、幅25mm、長さ150mm、厚さ3mmとした。マトリックスゴムには、水素化ニトリルゴムを主成分とするものを用いた。試験では、まず、炭素繊維コードとマトリックスゴムとを、それぞれ引張試験機の上と下のチャックで挟んだ。次に、コードとマトリックスゴムとを引き剥がし、破壊の形態を観察した。結果を表4〜6に示す。表4〜6中の「ゴム破壊」とは、炭素繊維コードとマトリックスゴムとの界面で剥離するのではなく、マトリックスゴム内に亀裂が入って破壊された形態である。表4〜6中の「スポット」とは、大部分がコードとマトリクスゴムとの界面で剥離しており、ところどころに、ゴム破壊の部分が存在する形態である。「ゴム破壊」は、「スポット」に比べて、補強用コードとマトリクスゴムとの接着強度が高いこと、すなわち、炭素繊維と被膜との接着強度が高いことを示している。
【0050】
表4〜6にゴム残存率を示す。ゴム残存率とは、剥離試験後の試験片でゴム破壊を行い、コード側にゴムが残っている部分の面積が、試験片の接着面全体の面積の何%かを示す値である。ゴム残存率が80%未満であることは悪い接着の状態を示し、80%以上90%未満であることはよく接着している状態を示し、90%以上であることはよりよく接着している状態を示している。
【0051】
実施例および比較例の炭素繊維コードの作製条件、ならびに、評価結果を表4〜6に示す。
【0052】
【表4】
【0053】
【表5】
【0054】
【表6】
【0055】
表4〜6に示すように、所定の第1の被膜を所定の割合となるように形成することによって、耐屈曲疲労性と接着性が高い炭素繊維コードが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、ゴムを補強するための炭素繊維コード、およびそれを用いたゴム製品に利用できる。
図1