(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の絶縁電線は、導体と絶縁皮膜とからなるものである。そして、当該絶縁皮膜は、下記式(1):
【0031】
(式中、R
f1及びR
f2は芳香環の置換基を表し、芳香環1つあたり4つの置換可能部位のうちいずれか1つが当該置換基で置換されていることを表す。R
f1及びR
f2は、同一又は異なって、フッ素原子、炭素数1〜8の含フッ素アルキル基を表す。)で表されるフッ素化ジアミン、及び/又は、下記式(2):
【0033】
(式中、R
f3は芳香環の置換基を表し、芳香環の4つの置換可能部位のうちいずれか1つが当該置換基で置換されていることを表す。R
f3は、フッ素原子、炭素数1〜8の含フッ素アルキル基を表す。)で表されるフッ素化ジアミンに基づく重合単位(A)と、下記式(3):
【0035】
(式中、R
f4及びR
f5は、同一又は異なって、フッ素原子、炭素数1〜8の含フッ素アルキル基を表す。)で表されるフッ素化酸無水物に基づく重合単位(B)と、を含み、重合単位(A)及び(B)が全重合単位の60モル%以上であるフッ素化ポリイミドからなるものである。
【0036】
上記式(1)において、R
f1及びR
f2は、同一又は異なって、フッ素原子、炭素数1〜8の含フッ素アルキル基を表すが、フッ素原子、炭素数1〜4の含フッ素アルキル基が好ましく、フッ素原子、炭素数1〜3の含フッ素アルキル基がより好ましい。具体的には、フッ素原子、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、HCF
2CF
2−、CF
3CF
2−、CF
3CH
2−、CF
3CF
2CF
2CF
2−、CF
3CF
2CF
2CH
2−が好ましく、フッ素原子、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、CF
3CF
2−、HCF
2CF
2−がより好ましい。特に好ましくは、トリフルオロメチル基である。
【0037】
上記式(1)で表されるフッ素化ジアミンとしては、具体的には、フッ素化されたビフェニルジアミンが好適な例として挙げられる。これらの中でも、2,2'−ビス(トリフルオロメチル)−4,4'−ジアミノビフェニル、2,2'−ビス(ヘキサフルオロエチル)−4,4'−ジアミノビフェニルがより好ましく、2,2'−ビス(トリフルオロメチル)−4,4'−ジアミノビフェニルが特に好ましい。
【0038】
上記式(2)において、R
f3は、フッ素原子、炭素数1〜8の含フッ素アルキル基を表すが、フッ素原子、炭素数1〜4の含フッ素アルキル基が好ましく、フッ素原子、炭素数1〜3の含フッ素アルキル基がより好ましい。具体的には、フッ素原子、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、HCF
2CF
2−、CF
3CF
2−、CF
3CH
2−、CF
3CF
2CF
2CF
2−、CF
3CF
2CF
2CH
2−が好ましく、フッ素原子、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、HCF
2CF
2−、CF
3CF
2−がより好ましい。特に好ましくは、トリフルオロメチル基である。
【0039】
上記式(2)で表されるフッ素化ジアミンとしては、具体的には、2−トリフルオロメチルジアミン、2−ヘキサフルオロエチルジアミンが好適な例として挙げられる。これらの中でも2−トリフルオロメチルジアミンが特に好ましい。
【0040】
上記式(3)において、R
f4及びR
f5は、同一又は異なって、フッ素原子、炭素数1〜8の含フッ素アルキル基を表すが、フッ素原子、炭素数1〜4の含フッ素アルキル基が好ましく、フッ素原子、炭素数1〜3の含フッ素アルキル基がより好ましい。具体的には、フッ素原子、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、HCF
2CF
2−、CF
3CF
2−、CF
3CH
2−、CF
3CF
2CF
2CF
2−、CF
3CF
2CF
2CH
2−が好ましく、フッ素原子、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、HCF
2CF
2−、CF
3CF
2−がより好ましい。特に好ましくは、トリフルオロメチル基である。
【0041】
上記式(3)で表されるフッ素化酸無水物の中でも、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物が特に好ましい。
【0042】
上記重合単位(A)は、上記式(1)で表されるフッ素化ジアミン及び/又は上記式(2)で表されるフッ素化ジアミンに基づく重合単位であるが、上記式(1)で表されるフッ素化ジアミンの1種又は2種以上に基づくものであってもよいし、上記式(2)で表されるフッ素化ジアミンの1種又は2種以上に基づくものであってもよいし、上記式(1)で表されるフッ素化ジアミンの1種又は2種以上、及び、上記式(2)で表されるフッ素化ジアミンの1種又は2種以上に基づくものであってもよい。これらの中でも、上記重合単位(A)は、耐熱性、溶剤溶解性の観点から、上記式(1)で表されるフッ素化ジアミンに基づく重合単位であることが好ましい。
【0043】
また、上記重合単位(B)は、上記式(3)で表されるフッ素化酸無水物に基づく重合単位であるが、上記式(3)で表されるフッ素化酸無水物の1種又は2種以上に基づくものであってもよい。
【0044】
上記フッ素化ポリイミドにおいて、重合単位(A)及び(B)の構成比率((A):(B)(モル比))は、55:45〜45:55であることが好ましい。重合単位(A)及び(B)の構成比率がこのような範囲であると、フッ素化ポリイミドの誘電率が低いものとなる。重合単位(A)及び(B)の構成比率((A):(B)(モル比))としては、52:48〜48:52であることがより好ましく、51:49〜49:51であることが更に好ましい。
【0045】
上記フッ素化ポリイミドは、重合単位(A)及び(B)が全重合単位の60モル%以上であるが、重合単位(A)及び(B)を全重合単位の60モル%以上含む限り、その他の重合単位を含んでいてもよい。上記フッ素化ポリイミドにおける全重合単位中の重合単位(A)及び(B)の合計割合が、60モル%以上であることにより、フッ素化ポリイミドが溶剤に可溶となり、誘電率も低いものとなる。該重合単位(A)及び(B)の合計割合としては、65モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましい。上限は、100モル%とすることができる。
【0046】
上記フッ素化ポリイミドは、重合単位(B)が全重合単位の30モル%以上であることが好ましい。フッ素化ポリイミドの全重合単位中の重合単位(B)の割合がこのような範囲であることによって、特にケトン、エステル、エーテルへの溶剤溶解性が高くなる。より好ましくは、重合単位(B)が全重合単位の40モル%以上であり、更に好ましくは、50モル%以上である。
【0047】
上記その他の重合単位としては、非フッ素化ジアミン、非フッ素化酸無水物、フッ素化酸無水物(ただし、上記式(3)で表されるフッ素化酸無水物は除く。)などに基づく重合単位が挙げられる。この中でも、上記フッ素化ポリイミドが、更に、非フッ素化ジアミンに基づく重合単位(C)を含むこともまた、本発明の好適な実施形態の1つである。また、上記フッ素化ポリイミドが、更に、非フッ素化酸無水物や、上記式(3)で表されるフッ素化酸無水物を除くフッ素化酸無水物などの他種の酸無水物に基づく重合単位(D)を含むこともまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0048】
上記非フッ素化ジアミンとしては、例えば、ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルプロパン、ジアミノジフェニルスルホンなどが挙げられる。
【0049】
また、上記他種の酸無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)などの非フッ素化酸無水物;ピロメリット酸二無水物やビフェニルテトラカルボン酸二無水物の芳香環にトリフルオロメチル基やフルオロ基が置換したフッ素化酸無水物;などが挙げられる。
【0050】
上記フッ素化ポリイミドのイミド化率は、高ければ高いほど好ましく、上限は100%である。イミド化率が低いと比誘電率が低下してしまうおそれがあるため、下限は70%であることが好ましい。イミド化率は、IR分析により測定する。
【0051】
上記絶縁被膜は、アンモニウムイオンの含有量が絶縁被膜について100ppm以下であることが好ましい。アンモニウムイオンの含有量は、80ppm以下であることがより好ましく、50ppm以下であることが更に好ましく、下限は特に限定されないが、0.01ppmであってよい。アンモニウムイオンの含有量が上記の範囲内にあると、部分放電開始電圧及び耐電圧への悪影響が少ないという利点がある。
【0052】
アンモニウムイオンの含有量は、一定量の絶縁被膜(ポリイミド)をN−メチルピロリドン(NMP)などの溶剤に溶解させ、撹拌した水中に滴下して水中に溶解したアンモニウムイオンをイオンクロマトグラフィーで測定してその濃度を変換していく、という方法で測定される値である。
具体的には、10gの絶縁被膜を50mlのNMPに溶解させて150mlの水に滴下する、という手段をとることができる。
【0053】
上記絶縁被膜は、アンモニウムイオン以外の着色イオンの含有量が絶縁被膜について200ppm以下であることが好ましく、50ppm以下であることがより好ましく、10ppm以下であることが更に好ましい。上記着色イオンの含有量が上記の範囲内にあると、絶縁抵抗に影響が少ないため、部分放電開始電圧及び耐電圧への悪影響が少ないという利点がある。
【0054】
上記着色イオンとしては、Fe
2+、Fe
3+、Ni
2+等の遷移金属カチオン、Cl
−、SO
42−等の強酸のアニオン等が挙げられる。
上記着色イオンの含有量は、一定量の絶縁被膜をNMPなどの溶剤に溶解させ、撹拌した水中に滴下して水中に溶解した着色イオンをイオンクロマトグラフィーで測定してその濃度を変換していく、という方法で測定される値である。
具体的には、10gの絶縁被膜を50mlのNMPに溶解させて150mlの水に滴下する、という手段をとることができる。
【0055】
本発明におけるフッ素化ポリイミドは、上記式(1)で表されるフッ素化ジアミン及び/又は上記式(2)で表されるフッ素化ジアミンと、上記式(3)で表されるフッ素化酸無水物と、必要に応じて、その他のジアミンや酸無水物とを原料モノマーとして開環重付加反応を行うことでポリアミド酸を生成させ、当該ポリアミド酸を脱水環化反応することで得られる。
【0056】
上記開環重付加反応は、通常行われる方法により行うことができるが、例えば、上記原料モノマーを溶剤中で撹拌して反応を行う方法などが挙げられる。
【0057】
上記溶剤としては、例えば、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなどのアミド類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;γ−ブチロラクトン、酢酸ブチル、酢酸エチル、乳酸エチルなどのエステル類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;などを使用することができる。これらの中でも、ケトン類及び/又はエステル類の合計が全溶剤の40質量%以上を占める溶剤が好ましく、より好ましくはケトン類及び/又はエステル類の合計が全溶剤の50質量%以上を占める溶剤であり、更に好ましくはケトン類及び/又はエステル類の合計が全溶剤の75質量%以上を占める溶剤である。
【0058】
上記モノマーを用いた閉環重付加反応は、反応中、不活性ガス、好ましくは窒素ガス、で置換しながら行ってもよい。また、反応温度、及び、反応時間は、適宜設定することができるが、例えば、0〜150℃、好ましくは室温(25℃)〜100℃、及び、2〜24時間、好ましくは、2〜12時間とすることができる。
【0059】
上記脱水環化反応は、通常行われる方法により行うことができるが、例えば、上記開環重付加反応により得られたポリアミド酸を加熱処理する方法、上記開環重付加反応により得られたポリアミド酸を化学処理する方法などが挙げられる。
【0060】
上記ポリアミド酸を加熱処理する方法としては、具体的には、ポリアミド酸を不活性ガスの雰囲気下、20〜300℃、好ましくは50〜200℃の反応温度で、1〜48時間、好ましくは2〜24時間、加熱する方法などが挙げられる。
上記不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガスなどが挙げられる。この際、リン酸等の脱水剤を用いてもよい。
【0061】
上記ポリアミド酸を化学処理する方法としては、具体的には、ポリアミド酸を、脱水剤、イミド化剤で処理する方法などが挙げられる。当該イミド化剤による処理の方法は、通常行われる方法により行うことができる。
上記処理方法としては、例えば、脱水剤として無水酢酸を、イミド化剤としてピリジンを用いる方法などが挙げられる。
【0062】
イミド化率は高ければ高いほど好ましく、上限は100%である。イミド化率が低いと比誘電率が低下してしまうおそれがあるため、下限は70%であることが好ましい。イミド化率は、IR分析により測定する。
【0063】
本発明の絶縁電線は、導体と絶縁皮膜とからなるものであるが、絶縁皮膜が導体の外周に形成され、導体と絶縁皮膜とが接するものであってもよいし、導体と絶縁皮膜との間に、他の層、例えば他の樹脂層、を介して、絶縁皮膜が導体の外周に形成されたものであってもよい。絶縁皮膜は、導体と接するものであることが好ましく、その場合、導体と絶縁皮膜との接着が強固な絶縁電線が得られる。
【0064】
上記絶縁皮膜の膜厚は、特に制限されないが、例えば、1〜200μmであることが好ましい。より好ましくは2〜120μmであり、更に好ましくは、3〜60μmである。また、30μm以下まで薄くすることもできる。絶縁皮膜の膜厚を薄くすることは、放熱性能に優れる点で有利である。
絶縁皮膜の膜厚は、レーザー外径測定機や渦流変位系、またはそれらの組み合わせにより測定することができる。
【0065】
上記絶縁皮膜は、膜厚公差が±20%以内のものである。本発明の絶縁電線はその絶縁皮膜の膜厚公差がこのような範囲であるために、被覆材料の膜厚の均一性が高く、部分放電開始電圧の高いものである。該絶縁皮膜の膜厚公差としては、±15%以内が好ましく、±10%以内がより好ましい。
上記膜厚公差は、連続して絶縁皮膜の膜厚を測定し、その平均値と上下限値との差から算出することができる。
【0066】
上記絶縁皮膜は、本発明におけるフッ素化ポリイミド及び溶剤を含むワニスを導体の外周に形成することで得ることができ、本発明の絶縁電線は、例えば、上述した本発明におけるフッ素化ポリイミドを製造する工程と、該フッ素化ポリイミド及び溶剤を含むワニスを調製して、該ワニスを導体上に塗布し、80〜250℃で焼付けする工程とを含む製造方法により製造することができる。
すなわち、本発明におけるフッ素化ポリイミド及び溶剤を含むワニスを導体上に塗布し、80〜250℃で焼付けする絶縁電線の製造方法もまた、本発明の1つである。
また、本発明におけるフッ素化ポリイミド及び溶剤を含む上記ワニスも、本発明の1つである。
【0067】
上記ワニスに含まれる溶剤としては、上述した開環重付加反応において用いられる溶剤と同様のものを用いることができるが、開環重付加反応において用いた溶剤と同一の溶剤であってもよいし、異なる溶剤であってもよい。すなわち、上記フッ素化ポリイミド製造工程において得られるフッ素化ポリイミドは溶剤に溶解した溶液の状態で得られるが、当該溶液をそのままワニスとして用いてもよいし、当該溶液に同一の溶剤を加えたり、一部溶剤を除去したりしてフッ素化ポリイミド濃度を調整してからワニスとして用いてもよいし、当該溶液に異なる溶剤を加えてワニスとして用いてもよい。
これらのうち、ワニスに含まれる溶剤が、溶剤全体の40質量%以上がケトン及び/又はエステルである形態もまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0068】
上記ワニスの濃度としては、上記フッ素化ポリイミドが溶剤中に均一に分散するような濃度であればよく、特に制限されないが、固形分濃度として1〜40モル%、より好ましくは5〜30モル%であることが望ましい。
【0069】
本発明におけるフッ素化ポリイミドの特徴はその溶剤溶解性にある。通常、ポリイミドは閉環後溶剤不溶であり、また、閉環後溶剤に可溶にした溶剤可溶ポリイミドもアミド類を主溶剤とするものであった。
【0070】
しかしながら、アミド類は銅線等の導体との濡れ性が悪いことがあるため、アミドに溶解させた閉環ポリイミドを導体に塗布すると大きな膜厚差が表れる場合があり、膜厚差が大きい場合、耐電圧のばらつき、部分放電開始電圧のばらつき、巻姿のばらつきや、導体同士の摩擦係数向上など望ましくない影響が多数現れることがあった。他方、ポリイミドをフィルム加工して被覆材料とした場合にも、フィルムを重ね合わせることになるため、膜厚差は大きくなる。
これに対して、本発明におけるフッ素化ポリイミドは、上述した特定の重合単位を特定割合で含むものであるために、ワニスの溶剤として、ケトン及び/又はエステルの合計が全溶剤の40質量%以上を占める溶剤を用いることができる。そしてこれにより、ワニスが銅線等の導体にはじかず、膜厚公差なく塗れて、均一性の高い被覆とすることができるため、上述した膜厚差が大きい場合に現れるような悪影響の発生を抑えることが可能となる。
【0071】
上記ワニスは、上記フッ素化ポリイミド及び溶剤を含む限り、その他の成分を含んでいてもよく、例えば、顔料、染料、無機フィラー、有機フィラー、潤滑剤、密着向上剤等の添加剤や反応性低分子、相溶化剤等を含んでいてもよい。更には、本発明の効果を損ねない範囲で他の樹脂を含んでいてもよい。
【0072】
上記ワニスは、アンモニウムイオンの含有量が100ppm以下であることが好ましい。アンモニウムイオンの含有量は、80ppm以下であることがより好ましく、50ppm以下であることが更に好ましく、下限は特に限定されないが、0.01ppmであってよい。アンモニウムイオンの含有量が上記の範囲内にあると、部分放電開始電圧及び耐電圧への悪影響が少ないという利点がある。
【0073】
アンモニウムイオンの含有量は、一定量のワニスを撹拌した水中に滴下して水中に溶解したアンモニウムイオンをイオンクロマトグラフィーで測定してその濃度を変換していく、という方法で測定される値である。
具体的には、ワニスのフッ素化ポリイミドの濃度を20質量%に調整した後、100mlのワニスを150mlの水に添加する、という手段をとることができる。
アンモニウムイオンの含有量が少ないワニスは、後述するワニスの製造方法により好適に製造できる。
【0074】
上記ワニスは、アンモニウムイオン以外の着色イオンの含有量が200ppm以下であることが好ましく、50ppm以下であることがより好ましく、10ppm以下であることが更に好ましい。上記着色イオンの含有量が上記の範囲内にあると、部分放電開始電圧及び耐電圧への悪影響が少ないという利点がある。
上記着色イオンとしては、Fe
2+、Fe
3+、Ni
2+等の遷移金属カチオン、Cl
−、SO
42−等の強酸のアニオン等が挙げられる。
上記着色イオンの含有量は、一定量のワニスを撹拌した水中に滴下して水中に溶解した着色イオンをイオンクロマトグラフィーで測定してその濃度を変換していく、という方法で測定される値である。
具体的には、ワニスのフッ素化ポリイミドの濃度を20質量%に調整した後、100mlのワニスを150mlの水に添加する、という手段をとることができる。
アンモニウムイオン以外の着色イオンの含有量が少ないワニスは、後述するワニスの製造方法により好適に製造できる。
【0075】
本発明においては、上記ワニスを導体上に直接又は他の層を介して塗布し、焼付けすることにより導体上に絶縁皮膜が形成される。本発明は、従来と異なり、ポリイミドを含むワニスを塗布、焼付けするものであり、焼付け工程においてポリアミド酸をイミド化してポリイミドとする必要がない。そのため、上記焼付け温度は、イミド化を行うほどの高温である必要がなく、80〜250℃とすることができることから、本発明の絶縁電線の製造方法は、従来の製造方法に比べ、導体の酸化の進行といった導体への悪影響が低く、生産性の高いものである。
これらのことから、例えば300℃以上に30分以上加熱することなく絶縁電線を製造することができることは、本発明の絶縁電線の製造方法の好ましい特徴の1つである。
【0076】
上記ワニスを導体上に塗布し、80〜250℃で焼付けする工程の具体的な形態としては、例えば、上記ワニスを導体上に直接又は他の層を介して塗布した後、設定温度を80〜250℃とした炉内を1パスあたり5〜10秒間通過させて焼付けする作業を数回繰り返して絶縁皮膜を形成する形態が挙げられる。
【0077】
上記他の層は、絶縁皮膜とは異なるものである。該他の層としては、例えば、芳香族ポリエーテルケトン樹脂、フッ素樹脂、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン及び、ポリフェニレンスルフィドからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂からなる層であることが好ましい。
【0078】
上記導体の形成材料としては、導電性が良好な材料であれば特に制限されず、例えば、銅、銅合金、銅クラッドアルミニウム、アルミニウム、銀、金、亜鉛めっき鉄等が挙げられる。
【0079】
上記導体は、その形状に特に限定はなく、円形であっても平形であってもよい。円形導体である場合、導体の直径は、0.3〜2.5mmであってよい。
【0080】
本発明におけるフッ素化ポリイミドの特徴の1つとして、その透明性が挙げられる。本発明におけるフッ素化ポリイミドは、上述した特定の重合単位を特定割合で含むものであるために、絶縁電線の絶縁皮膜としたときに透明な被覆材料となる。このように絶縁電線の絶縁皮膜が透明であると、被覆されている導体の検査を行うのが容易になる。すなわち、本発明の絶縁電線は、絶縁皮膜によって被覆される前の導体と、絶縁皮膜によって被覆された後の絶縁電線との反射率の差が20%以内であることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。当該反射率の差としては、15%以内がより好ましく、10%以内が更に好ましい。
【0081】
本発明の絶縁電線は、ラッピング電線、自動車用電線、ロボット用電線等に好適に使用できる。また、コイルの巻き線(マグネットワイヤー)としても好適に使用でき、本発明の絶縁電線を使用すれば巻線加工での損傷を生じにくい。上記巻き線は、モーター、回転電機、圧縮機、変圧器(トランス)等に好適であり、高電圧、高電流及び高熱伝導率が要求され、高密度な巻線加工が必要となる、小型化・高出力化モーターでの使用にも充分に耐えうる特性を有する。また、配電、送電又は通信用の電線としても好適である。
【0082】
上記ワニスは、
フッ素化ジアミンとフッ素化酸無水物とを重付加反応させてポリアミド酸の溶液を得る工程(1)、
得られたポリアミド酸の溶液から脱水環化反応によりフッ素化ポリイミドの溶液を得る工程(2)、
得られた溶液を貧溶媒に滴下して上記フッ素化ポリイミドを沈殿させ、粉末状のフッ素化ポリイミドを回収する工程(3)、
上記粉末状のフッ素化ポリイミドを良溶媒に溶解させた後、得られた溶液を貧溶媒に滴下して上記フッ素化ポリイミドを沈殿させ、精製された粉末状のフッ素化ポリイミドを回収する精製工程(4)、及び、
上記フッ素化ポリイミドを溶剤に溶解させてワニスを得る工程(5)
を含むことを特徴とする製造方法によっても、好適に製造できる。
【0083】
この製造方法によれば、アンモニウムイオンをほとんど含まないワニスを製造することができる。また、この製造方法によれば、アンモニウムイオン以外の着色イオンをほとんど含まないワニスを製造することができる。
【0084】
工程(1)における重付加反応及び工程(2)における脱水環化反応については上述したとおりである。
【0085】
工程(3)では、工程(2)で得られた溶液を貧溶媒に滴下して上記フッ素化ポリイミドを沈殿させ、粉末状のフッ素化ポリイミドを回収する。上記貧溶媒としては、例えば、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、シクロヘキサノール、トルエン等が挙げられる。
【0086】
工程(4)では、工程(3)で得られた粉末状のフッ素化ポリイミドを良溶媒に溶解させた後、得られた溶液を貧溶媒に滴下して上記フッ素化ポリイミドを沈殿させ、精製された粉末状のフッ素化ポリイミドを回収する。
上記良溶媒としては、例えば、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;γ−ブチロラクトン、酢酸ブチル、酢酸エチル、乳酸エチル等のエステル類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン、シクロヘキサノン等のケトン類;等が挙げられる。これらの中でも、ケトン類及び/又はエステル類の合計が全溶剤の40質量%以上を占める溶剤が好ましく、より好ましくはケトン類及び/又はエステル類の合計が全溶剤の50質量%以上を占める溶剤であり、更に好ましくはケトン類及び/又はエステル類の合計が全溶剤の75質量%以上を占める溶剤である。
上記貧溶媒としては、例えば、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、シクロヘキサノール、トルエン等が挙げられる。
【0087】
工程(4)は上記製造方法において重要な工程の1つである。上記製造方法は、フッ素化ポリイミドを精製するための工程(4)を含むことから、最終的に得られるワニスに含まれるアンモニウムイオンを所望の含有量に調整することができる。また、上記製造方法は、フッ素化ポリイミドを精製するための工程(4)を含むことから、最終的に得られるワニスに含まれるアンモニウムイオン以外の着色イオンを所望の含有量に調整することができる。
【0088】
工程(4)は任意の回数を繰り返すことが可能であり、アンモニウムイオンを所望の量にまで低減できるまで繰り返すことが好ましく、3回以上繰り返すことがより好ましく、5回以上繰り返すことが更に好ましい。得られた粉末状のフッ素化ポリイミドを乾燥させてもよい。
上記粉末状のフッ素化ポリイミドは、アンモニウムイオンの含有量がフッ素化ポリイミドに対して100ppm以下であることが好ましい。アンモニウムイオンの含有量は、80ppm以下であることがより好ましく、50ppm以下であることが更に好ましく、下限は特に限定されないが、0.01ppmであってよい。アンモニウムイオンの含有量が上記の範囲内にあると、部分放電開始電圧及び耐電圧への悪影響が少ないという利点がある。
アンモニウムイオンの含有量は、一定量の粉末状のフッ素化ポリイミドをN−メチルピロリドン(NMP)などの溶剤に溶解させ、撹拌した水中に滴下して水中に溶解したアンモニウムイオンをイオンクロマトグラフィーで測定してその濃度を変換していく、という方法で測定される値である。
具体的には、10gの粉末状のフッ素化ポリイミドを50mlのNMPに溶解させて150mlの水に滴下する、という手段をとることができる。
上記粉末状のフッ素化ポリイミドは、アンモニウムイオン以外の着色イオンの含有量が200ppm以下であることが好ましく、50ppm以下であることがより好ましく、10ppm以下であることが更に好ましい。上記着色イオンの含有量が上記の範囲内にあると、部分放電開始電圧及び耐電圧への悪影響が少ないという利点がある。
上記着色イオンとしては、Fe
2+、Fe
3+、Ni
2+等の遷移金属カチオン、Cl
−、SO
42−等の強酸のアニオン等が挙げられる。
上記着色イオンの含有量は、一定量の粉末状のフッ素化ポリイミドをNMPなどの溶剤に溶解させ、撹拌した水中に滴下して水中に溶解した着色イオンをイオンクロマトグラフィーで測定してその濃度を変換していく、という方法で測定される値である。
具体的には、10gの粉末状のフッ素化ポリイミドを50mlのNMPに溶解させて150mlの水に滴下する、という手段をとることができる。
【0089】
工程(5)では、工程(4)で得られたフッ素化ポリイミドを溶剤に溶解させてワニスを得る。
【0090】
上記ワニスを得るための溶剤については、ワニスに含まれる溶剤として上述したものが使用できる。
【0091】
上記製造方法により得られたワニスを導体上に塗布し、80〜250℃で焼付けする工程を含む製造方法により、絶縁電線を製造することも可能である。この製造方法により、アンモニウムイオンの含有量が少ない絶縁被膜からなる絶縁電線を製造できる。また、この製造方法により、アンモニウムイオン以外の着色イオンの含有量が少ない絶縁被膜からなる絶縁電線を製造できる。
【実施例】
【0092】
つぎに本発明を実施例をあげて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0093】
(実施例1)
2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、及び、2,2'−ビス(トリフルオロメチル)−4,4'−ジアミノビフェニルを、滴下ろうと、撹拌装置、還流管、温度計を備えた1L4つ口フラスコに、窒素気流下で組成比率50/50(モル%比)になるように、N−メチルピロリドン(NMP)溶液中に固形分濃度20重量%になるようにいれた。次に水浴にして無水トリフルオロ酢酸をモノマー量に対して3モル等量滴下した。滴下と同時に反応熱の発生がみられ60℃まで反応熱が上昇した。発熱反応が収まったのちにピリジンを1.5モル等量滴下した。ついで、80℃まで昇温し100℃で1時間加熱し、更に3時間加熱した。冷却したのち、エタノールに反応溶液を滴下していき、粉末を得た。その粉末を再度NMPに溶解させ、エタノールで再沈する操作を3回繰り返した。そのようにして得た粉末状の白色重合体を熱風乾燥炉中80℃で1時間乾燥させ粉末状の重合体を得た。得られた閉環ポリマーをメチルエチルケトンに固形分濃度10モル%で溶解させた。その後、当該溶液を用いて電線被覆装置(ペースト押し出し電線成形機)を用いて、電線を被覆した。
電線被覆装置(ペースト押し出し電線成形機)を用いた電線の被覆は、上記閉環ポリマーを含む溶液中に直径7mmの銅線を2m/minで通過させ、その後当該銅線を、80℃、120℃、150℃、150℃にそれぞれ設定された乾燥炉に順に入れ、乾燥させることで行われる。
得られた被覆電線について、被覆膜厚、膜厚公差、部分放電開始電圧を、次の方法により、測定、算出した結果、被覆膜厚は10μm、膜厚公差は±8%、部分放電開始電圧は350Vであった。
【0094】
(被覆膜厚)
レーザー外径測定機を用いて被覆電線の外径を測定し、そこから電線自身の外径を差し引くことで被覆膜厚を算出した。
【0095】
(膜厚公差)
被覆膜厚の平均を算出し、そこから上下限を差し引きすることで算出した。
【0096】
(部分放電開始電圧)
作製した被覆電線を2本よりあわせたコイルを作成した。次いで、部分放電試験機で10V/sで昇圧し、10pCとなったときの電圧を部分放電開始電圧とした。
【0097】
(実施例2〜4、比較例1〜2)
閉環ポリマーを溶解させる溶剤の種類及びその濃度を下記表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして、被覆電線を得た。
得られた被覆電線について、被覆膜厚、膜厚公差、部分放電開始電圧を、実施例1と同様に測定、算出した結果、下記表1の通りであった。
【0098】
【表1】
【0099】
表1中、略号は以下の通りである。
MEK:メチルエチルケトン
MIBK:メチルイソブチルケトン
γ−BL:γ−ブチロラクトン
NMP/MEK(3/7):N−メチルピロリドンとメチルエチルケトンとの質量比3:7の混合溶剤
NMP:N−メチルピロリドン
NMP/MEK(7/3):N−メチルピロリドンとメチルエチルケトンとの質量比7:3の混合溶剤
【0100】
表1の結果から、ケトン及び/又はエステルの合計が全溶剤の40質量%以上を占める溶剤を用いて塗布した被覆材では、膜厚公差が小さく、部分放電開始電圧を上げることができることが分かった。
【0101】
(比較例3)
2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物と2,2'−ビス(トリフルオロメチル)−4,4'−ジアミノビフェニルを50/50のモル比率でN−メチルピロリドン(NMP)に固形分濃度20モル%で溶解させ、撹拌することによりポリアミド酸の溶液を得た。その後、当該溶液をSUS板上に塗布し、200℃で1時間加熱したのち、350℃で1時間加熱して閉環させ膜厚12μmのフィルムを形成した。
SUS板からフィルムを引き剥がし、そのフィルムを銅線に巻き付けて被覆電線を得た。得られた被覆電線について、被覆膜厚、膜厚公差、部分放電開始電圧を、実施例1と同様に測定、算出した結果、下記表2の通りであった。
【0102】
(比較例4)
2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物と2,2'−ビス(トリフルオロメチル)−4,4'−ジアミノビフェニルを50/50のモル比率でN−メチルピロリドン(NMP)に固形分濃度20モル%で溶解させ、撹拌することによりポリアミド酸の溶液を得た。その後、当該溶液(前駆体塗料)を用いて実施例1と同様に電線被覆装置を用いて、電線を被覆した後、350℃で1時間加熱閉環し、被覆電線を得た。得られた被覆電線について、被覆膜厚、膜厚公差、部分放電開始電圧を実施例1と同様に測定、算出した結果、下記表2の通りであった。
【0103】
【表2】
【0104】
表2の結果から、フィルムをはりつけた比較例3では、フィルムと銅線の空隙を抑制することが難しいため、部分放電開始電圧が下がってしまうことが分かった。また、前駆体塗料を用いた比較例4では、塗布の際にアミド溶剤に起因した銅線に対するはじきがみられ、また、塗布後に閉環させる際のガスにより膜厚公差が大きくなり、部分放電開始電圧が下がることが分かった。
【0105】
(実施例5、6)
実施例1で作成した開環ポリマー(粉末状の重合体)(実施例5)、および実施例1でエタノールへの再沈操作を1回しか行わずに得られた開環ポリマー(実施例6)をイオン分の測定ののち、メチルエチルケトンに固形分5質量%に溶解させ、実施例1同様の試験条件でコイルを作成した。膜厚は4μmであった。
ここに一部アルミを蒸着させ、芯の銅線をアースにつなぎ、耐電圧試験をおこなった。
【0106】
【表3】
【0107】
表3の結果から、アンモニウムイオンの含有量を抑えることで、耐電圧及び部分放電開始電圧の低下が抑制されることが確認された。
【0108】
(実施例7)
実施例5同様のポリマー溶液にFeCl
3水溶液をポリマーに対して250ppm加え、同様の試験をおこなった。Feイオンを多く含む被覆ポリマーは薄赤色を示した。
【0109】
【表4】
【0110】
表4の結果から、着色イオンの含有量を抑えることで、耐電圧及び部分放電開始電圧の低下が抑制されることが確認された。
【0111】
(アンモニウムイオンの含有量)
アンモニウムイオンの含有量は、イオンクロマトグラフィーにより測定した。具体的には、ポリマーを水に入れて超音波で2時間程度処理を行った後、ポリマーを濾過し、濾液中に溶解したアンモニウムイオンをイオンクロマトグラフィーで測定した。イオンクロマトグラフは、ダイオネクス株式会社製DX500を用いた。
【0112】
(耐電圧)
耐電圧測定機(菊水電子工業株式会社製 TOS9201)を用いて、10V/sで昇圧し、漏れ電流が10mAを超えた電圧を耐電圧とした。