特許第6266045号(P6266045)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6266045ポリ乳酸と木繊維を用いた環境にやさしいボードの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6266045
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】ポリ乳酸と木繊維を用いた環境にやさしいボードの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B27N 3/04 20060101AFI20180115BHJP
   C08L 101/16 20060101ALI20180115BHJP
   C08L 67/04 20060101ALI20180115BHJP
   C08K 5/3492 20060101ALI20180115BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20180115BHJP
   C08J 3/28 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   B27N3/04 D
   C08L101/16
   C08L67/04
   C08K5/3492
   C08K5/14
   C08J3/28CFD
   B27N3/04 B
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-135326(P2016-135326)
(22)【出願日】2016年7月7日
(62)【分割の表示】特願2015-503097(P2015-503097)の分割
【原出願日】2012年12月27日
(65)【公開番号】特開2016-179694(P2016-179694A)
(43)【公開日】2016年10月13日
【審査請求日】2016年7月7日
(31)【優先権主張番号】10-2012-0033120
(32)【優先日】2012年3月30日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】509286787
【氏名又は名称】エルジー・ハウシス・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】LG HAUSYS,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】特許業務法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ファン・チョンチェ
(72)【発明者】
【氏名】カン・チャンウォン
(72)【発明者】
【氏名】ソン・ジヒャン
【審査官】 松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】 特許第6005839(JP,B2)
【文献】 特開2005−200470(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/081558(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08L 1/00 − 101/14
C08K 3/00 − 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸樹脂100重量部、
水分含量が3.0重量%未満でかつ比重が700kg/m3以下の木繊維50重量部〜300重量部、
架橋剤0.001重量部〜10重量部、および
トリアリルイソシアヌレートである架橋助剤、
を含む組成物を昇温してボード形態に熱成形するステップ;および
前記ボードを形成する前記組成物を架橋させるステップ;を含むことを特徴とする環境にやさしいボードの製造方法。
【請求項2】
前記の架橋させるステップは、
前記ボードに熱成形温度より高い温度の熱を加えて、前記組成物を架橋させることを特徴とする請求項1に記載の環境にやさしいボードの製造方法。
【請求項3】
前記の架橋させるステップは、
前記ボードに電磁線を照射して、前記組成物を架橋させることを特徴とする請求項1に記載の環境にやさしいボードの製造方法。
【請求項4】
前記電磁線の照射量は、
10kGy〜100kGy範囲であることを特徴とする請求項3に記載の環境にやさしいボードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境にやさしいボードの製造方法に関するものであり、より詳しくは、ポリ乳酸、架橋剤および/または架橋助剤を含む組成物を用いて一定の条件で架橋されたポリ乳酸樹脂と木繊維を用いた環境にやさしいボードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既存のMDF(Medium Density Fiberboard)およびHDF(High Density Fiberboard)は、木質材料を高温で解繊して得られる木繊維(wood fiber)に接着剤を塗布して成形、熱圧を通じて製造される木質板状製品であり、複雑な機械加工等が可能なため室内建築の仕上げ用や家具の全分野に亘って広く使用されている。これと関連する技術は、韓国特許公開公報第10−2000−007214号のような文献に開示されている。
【0003】
しかし、前記繊維板の製造に使用される接着剤は、主に尿素(urea)−ホルムアルデヒド樹脂またはメラミン(melamine)−尿素−ホルムアルデヒド樹脂であって接着力に優れ、安価であるが、硬化後にも、目、鼻、皮膚を刺激するだけでなく、アトピー、気管支喘息を誘発し得、長期間吸い込み続けると癌を誘発し得るホルムアルデヒドを徐々に放出する。そして、メラミンは過量摂取すると、腎臓結石による死亡にまで至り得る。また、化石資源を原料に製造されたメラミン、尿素、ホルムアルデヒド等は、化石資源の枯渇によって持続的な価格上昇をもたらすだけでなく、製造過程で多くのエネルギーを消耗すると同時に、大量の温室ガスを放出し、焼却方式で廃棄すると、環境ホルモン、有毒ガス等、人体に有害な物質を多く放出する。
【0004】
PLA(Polylactic Acid or Polylactide)は、再生可能な植物資源(トウモロコシ、ジャガイモ、サツマイモ等)から抽出したでん粉を発酵させて得た乳酸(Lactic Acid)を重合させて製造した樹脂であり、CO2が低減されるだけでなく、非再生エネルギー(non renewable energy)を節減できる環境にやさしい樹脂である。
【0005】
しかし、PLAは、一定の湿度および温度条件で簡単に加水分解される熱可塑性樹脂であり、木繊維と複合して作ったボードは、湿気に弱いだけでなく、加工時に熱を受けると加工道具にくっ付き易いという問題点がある。
【0006】
よって、有害物質の放出を最小化し、再生可能な環境にやさしい樹脂を用いたボードの製造を急いでいる実情にある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、環境にやさしいボードの製造方法に関するものであり、より詳しくは、ポリ乳酸、架橋剤および/または架橋助剤を含む組成物を用いて一定の条件で架橋されたポリ乳酸樹脂と木繊維を用いた環境にやさしいボードの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するための本発明の一実施例にかかる環境にやさしいボードは、ポリ乳酸樹脂、架橋剤および木繊維(wood fiber)を含む生分解性樹脂組成物で形成されることを特徴とする。
【0009】
前記目的を達成するための本発明のまた別の一実施例にかかる環境にやさしいボードの製造方法は、ポリ乳酸樹脂100重量部、木繊維50重量部〜300重量部、及び架橋剤0.001重量部〜10重量部を含む組成物を昇温してボード形態に熱成形するステップ、及び前記ボードを形成する組成物を架橋させるステップを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、再生可能な植物資源を原料に製造されたポリ乳酸樹脂と木繊維を用いて、温室ガスの低減、化石資源の節約効果があるだけでなく、既存のMDF、HDF及び合板に比べてホルムアルデヒド(formaldehyde)等のTVOCs(Total Volatile Organic Compounds)放出および燃焼時の有毒ガスの放出を最小化できる効果がある。
【0011】
また、本発明はPLA架橋を通じて製品の耐水性を確保でき、加工時に熱を受けても加工道具に容易にくっ付かなくなるという効果がある。
【0012】
また、本発明はPLA樹脂と木粉を用いたボードに比べて反り強度に優れるという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の利点および特徴、そしてそれらを達成する方法は、添付の図面と併せて詳しく後述してある実施例を参照すると明確になると考える。しかし、本発明は以下で開示する実施例に限定されるのではなく、相違する多様な形態で具現でき、単に本実施例は本発明の開示が完全になるようにし、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者に発明の範疇を完全に知らせるために提供するものであり、本発明は請求項の範疇によって定義されるだけである。
【0014】
以下、本発明にかかるポリ乳酸/木繊維を用いた環境にやさしいボード及びその製造方法に関して詳しく説明する。
【0015】
ポリ乳酸/木繊維を用いた環境にやさしいボード
本発明の一実施例にかかる環境にやさしいボードは、ポリ乳酸樹脂、架橋剤および木繊維(wood fiber)を含む生分解性樹脂組成物で形成されることを特徴とする。
【0016】
先ず、本発明の環境にやさしいボードは、ポリ乳酸樹脂を含む。前記ポリ乳酸樹脂は、ラクチド又は乳酸を重合して得た熱可塑性ポリエステルであり、製造例を挙げると、トウモロコシ、ジャガイモ等から抽出したでん粉を発酵させて製造される乳酸またはラクチドを重合させて製造することができる。前記のトウモロコシ、ジャガイモ等は、いくらでも再生できる植物資源のため、これらから確保できるポリ乳酸樹脂は、石油資源の枯渇による問題に効果的に対処することができる。
【0017】
また、ポリ乳酸樹脂は、使用または廃棄過程でCO2等の環境有害物質の排出量が石油基盤素材に比べて遥かに少なく、廃棄時にも自然環境の下で容易に分解できるという環境にやさしい特性を持つ。
【0018】
前記ポリ乳酸は、結晶質ポリ乳酸(c−ポリ乳酸)と非晶質ポリ乳酸(a−ポリ乳酸)に分けられ、本発明で特に制限されて使用されるのではない。前記ポリ乳酸は、L−ポリ乳酸、D−ポリ乳酸およびL,D−ポリ乳酸から選ばれる1種以上を使用できる。
【0019】
そして、既存の繊維板の製造に使用される接着剤として、尿素(urea)−ホルムアルデヒド樹脂またはメラミン(melamine)−尿素−ホルムアルデヒド樹脂は、硬化後にも、目、鼻、皮膚を刺激するだけでなく、アトピー、気管支喘息を誘発し得る。また、長期間吸い込み続けると癌を誘発し得るホルムアルデヒドを徐々に放出するという問題点がある。しかし、本発明に使用されるPLA樹脂は、このような問題点を全て解決できる環境にやさしい特性を有する。
【0020】
本発明のボード形成用樹脂組成物は、木繊維(wood fiber)を含む。前記木繊維は、建築用内装材に使用される公知の木繊維であれば特に制限されずに使用でき、例えば、木片、おが屑またはかんな屑、再生クラフト(kraft)または古段ボール、古新聞紙または別の形態の再生紙を回転式円盤型精錬装置で粉砕して作った木繊維を挙げることができる。
【0021】
前記木繊維の含量は、ポリ乳酸樹脂100重量部基準で50重量部〜300重量部含まれることが好ましい。前記木繊維の含量が50重量部未満だと天然原木に相応する外観あるいは質感を提供し難く、逆に300重量部を超えると木繊維相互間の結合力低下により目的とする程度の強度および耐久性を提供し難い。
【0022】
前記木繊維は、比重が700kg/m3以下であることが、製造原価の面で好ましい。前記比重が700kg/m3を超えると製造原価が嵩むという問題点がある。
【0023】
また、前記木繊維は、水分含量が3.0重量%未満であることが、耐久性の面で好ましい。前記水分含量が3.0重量%を超えると、製造された環境にやさしいボード内のポリ乳酸が水分によって加水分解されるという問題点がある。
【0024】
さらに、本発明の環境にやさしいボードを形成する組成物は、ポリ乳酸を架橋するために架橋剤を含む。
【0025】
ここで、前記架橋剤はポリ乳酸の架橋反応に用いられる。前記架橋剤は、有機過酸化物が好ましいが、具体的に、ジクミルパーオキサイド(DCP)又はパーブチルパーオキサイド(PBP)、ジメチルジ−t−ブチルパーオキシヘキサン、t−ブチルエチルヘキシルモノパーオキシカーボネート等を挙げることができるが、これに制限されるのではない。
【0026】
前記架橋剤は、前記組成物中ポリ乳酸100重量部に対して0.001重量部〜10重量部含まれることが好ましい。架橋剤の含量が前記0.001重量部未満だと架橋反応が開始されないという問題点があり、10重量部を超えると架橋度が過度に高くなって熱硬化性を帯びるため加工時に問題になる。
【0027】
本発明において、前記生分解性樹脂組成物は、架橋剤以外に架橋助剤をさらに含み得る。
【0028】
先ず、前記架橋助剤は、本発明の架橋反応がスムーズに起こるように助ける役割をする。前記架橋助剤は、TAIC(トリアリルイソシアヌレート)であることが好ましいが、これに制限されるのではない。
【0029】
ここで、前記架橋助剤の含量は、ポリ乳酸樹脂100重量部に対して1.0重量部以下であることが好ましい。前記含量が1.0重量部を超えると、過度に架橋が形成されて熱硬化性樹脂または加工し難い樹脂に転換されるという問題がある。
【0030】
前記で説明した本発明の環境にやさしいボードは、架橋剤によってポリ乳酸が架橋されて、耐水性、加工性に優れるという効果がある。以下では、本発明による環境にやさしいボードの製造方法を説明する。
【0031】
ポリ乳酸/木繊維を用いた環境にやさしいボードの製造方法
本発明のまた別の一実施例にかかる環境にやさしいボードの製造方法は、ポリ乳酸樹脂100重量部、木繊維50重量部〜300重量部および架橋剤0.001重量部〜10重量部を含む組成物を昇温してボード形態に熱成形するステップ、及び前記ボードを形成する組成物を架橋させるステップを含むことを特徴とする。
【0032】
先ず、本発明のポリ乳酸樹脂、木繊維および架橋剤を含む組成物に対して、一定の温度を加えることによりボード形態に熱成形する。
【0033】
前記熱成形の温度は、100℃〜200℃の温度で行うことが好ましい。熱成形温度が100℃未満だと使用されたポリ乳酸のゲル化が行われないため成形物が形成されないという問題があり、200℃を超えるとポリ乳酸の熱分解が行われて強度が低下するという問題がある。
【0034】
次に、前記ボードを形成する組成物を架橋させるステップを含む。
【0035】
前記の架橋させるステップは、前記ボードに熱成形温度より高い温度の熱を加えて、前記組成物を架橋させることができる。
【0036】
この過程で必要な温度は、前記熱成形時の温度より高い温度であって、約100℃〜250℃であることが好ましい。このとき、前記組成物に含まれた架橋剤がラジカルに分解されながらポリ乳酸樹脂間の架橋反応を開始させる。このとき、一定温度雰囲気を有するオーブンを用いることができる。
【0037】
また、前記の架橋させるステップは、前記ボードに電磁線を照射して、前記組成物を架橋させることができる。
【0038】
電磁線の照射量は、特に制限されるのではなく、10kGy〜100kGyであることが好ましい。10kGy未満だと架橋がうまく行われないという問題が発生し、100kGyを超えると架橋が過度に行われてポリ乳酸の分解が発生し得る。
【0039】
前記のような本発明の環境にやさしいボードの製造方法によると、PLA架橋を通じて製品の耐水性を確保することができ、加工時に熱を受けても加工道具に容易にくっ付かない環境にやさしいボードの製造が可能になる。こうして製造された環境にやさしいボードは、PLA樹脂と木粉を用いたボードに比べて反り強度に優れるという効果がある。
【0040】
実施例および比較例によるボードの製造
以下では、本発明の好ましい実施例による環境にやさしいボードの製造例、及び比較例による製造例を提示する。但し、これは本発明の好ましい例示として提示するものであり、如何なる意味でもこれによって本発明が制限されると解釈してはならない。
【0041】
ここに記載していない内容は、本技術分野における熟練者であれば十分に技術的に類推できるもののため、その説明は省略する。
【0042】
実施例1
結晶質ポリ乳酸樹脂40重量%に、架橋剤であるt−ブチル−2−エチルヘキシルモノパーオキシカーボネート0.4重量%および木繊維59.6重量%を混合して生分解性樹脂組成物を製造した。
【0043】
その後、前記組成物を120℃でボード形態に熱成形し、180℃の熱を提供するプレスを通じて架橋反応させた後、実施例にかかる環境にやさしいボードを製造した。
【0044】
実施例2
結晶質ポリ乳酸樹脂40重量%に、架橋剤であるt−ブチル−2−エチルヘキシルモノパーオキシカーボネート0.3重量%、架橋助剤であるトリアリルイソシアヌル酸塩0.1重量%および木繊維59.6重量%を混合して生分解性樹脂組成物を製造した。
【0045】
その後の環境にやさしいボードの製造は、前記実施例1と同様である。
【0046】
実施例3
架橋剤を、ジメチルジ−t−ブチルパーオキシヘキサンを使用した点を除いては、実施例2と同一条件で実施例3にかかるボードを製造した。
【0047】
比較例1
架橋剤および架橋助剤を入れない点を除いては、実施例1と同一条件で比較例1にかかるボードを製造した。
【0048】
比較例2
木繊維の代わりに木粉を含む点を除いては、実施例1と同一条件で比較例2にかかるボードを製造した。
【0049】
評価
実施例と比較例の反り強度に対する評価結果は、下記表1に示した通りである。
【0050】
【表1】
【0051】
前記評価結果の通り、本発明による環境にやさしいボードは、ポリ乳酸および木繊維を用いてこれらを架橋させることにより、優れた物性を有することが分かった。これと異なり、比較例にかかるボードは、架橋剤により架橋されなかったり、木繊維ではない木粉を含んでいるため、実施例に比べて反り強度が良くないことが分かった。
【0052】
以上では、本発明の実施例を中心に説明したが、これは例示的なものに過ぎなく、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する技術者であれば、これにより多様な変形および均等な他実施例が可能だという点を理解すると考える。よって、本発明の真正な技術的保護範囲は、以下に記載する特許請求の範囲によって判断しなければならない。