特許第6266094号(P6266094)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6266094スライドファスナー用ポリアミド樹脂組成物、スライドファスナー用部品及びそれを備えたスライドファスナー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6266094
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】スライドファスナー用ポリアミド樹脂組成物、スライドファスナー用部品及びそれを備えたスライドファスナー
(51)【国際特許分類】
   A44B 19/26 20060101AFI20180115BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   A44B19/26
   C08L77/00
【請求項の数】15
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-512535(P2016-512535)
(86)(22)【出願日】2014年4月9日
(86)【国際出願番号】JP2014060348
(87)【国際公開番号】WO2015155861
(87)【国際公開日】20151015
【審査請求日】2016年6月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006828
【氏名又は名称】YKK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】水本 和也
(72)【発明者】
【氏名】小島 昌芳
(72)【発明者】
【氏名】小澤 貴敬
(72)【発明者】
【氏名】埴生 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀樹
【審査官】 米村 耕一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/038045(WO,A1)
【文献】 特開2011−088944(JP,A)
【文献】 特開2004−344310(JP,A)
【文献】 特許第4517277(JP,B2)
【文献】 国際公開第2013/098978(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B 19/00−19/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂及び強化繊維を含有するスライドファスナー用ポリアミド樹脂組成物であって、ポリアミド樹脂及び強化繊維の合計質量が前記組成物中の90質量%以上を占め、前記ポリアミド樹脂中の融点が200〜250℃である芳香族ポリアミドの割合が70質量%を超えており、前記ポリアミド樹脂及び前記強化繊維の合計質量中の前記強化繊維の含有量が45〜70質量%であるスライドファスナーの引手、引手カバー、上止め、下止め又はエレメント用ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリアミド樹脂中の融点が200〜250℃である芳香族ポリアミドの割合が80質量%を超える請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリアミド樹脂は吸水率が前記芳香族ポリアミドよりも小さく、融点が200〜250℃である脂肪族ポリアミドを更に含有する請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリアミド樹脂中の融点が200〜250℃であるポリアミドMXD6の割合が70質量%を超える請求項1〜3の何れか一項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリアミド樹脂中の融点が200〜250℃であるポリアミドMXD6の割合が80〜95質量%であり、前記ポリアミド樹脂中の吸水率が前記芳香族ポリアミドよりも小さく、融点が200〜250℃である脂肪族ポリアミドの割合が5〜20質量%である請求項1〜4の何れか一項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリアミド樹脂組成物のメルトフローレートが10〜50g/10分である請求項1〜5の何れか一項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載のポリアミド樹脂組成物を材料とした引手、引手カバー、上止め、下止め又はエレメントであるスライドファスナー用部品。
【請求項8】
エレメントである請求項7に記載のスライドファスナー用部品。
【請求項9】
染色されている請求項7又は8に記載のスライドファスナー用部品。
【請求項10】
ファスナーテープの側縁に請求項に記載のエレメントが複数取着されてエレメント列が形成されているファスナーストリンガー。
【請求項11】
請求項7又は8に記載のスライドファスナー用部品又は請求項10に記載のファスナーストリンガーを備えたスライドファスナー。
【請求項12】
請求項1〜6の何れか一項に記載のスライドファスナー用ポリアミド樹脂組成物を材料とした引手、引手カバー、上止め、下止め及びエレメント列よりなる群から選択される少なくとも1種の部品を備えたスライドファスナー。
【請求項13】
ポリアミド樹脂及び強化繊維を含有するポリアミド樹脂組成物であって、ポリアミド樹脂及び強化繊維の合計質量が前記組成物中の90質量%以上を占め、前記ポリアミド樹脂中の融点が220〜310℃である脂肪族ポリアミドの割合が60質量%以上であり、前記ポリアミド樹脂及び前記強化繊維の合計質量中の前記強化繊維の含有量が45〜70質量%であるポリアミド樹脂組成物を材料としたスライダー胴体を更に備えた請求項11又は12に記載のスライドファスナー。
【請求項14】
請求項1〜6の何れか一項に記載のスライドファスナー用ポリアミド樹脂組成物を材料とした引手及び引手カバーを備え、更に、ポリアミド樹脂及び強化繊維を含有するポリアミド樹脂組成物であって、ポリアミド樹脂及び強化繊維の合計質量が前記組成物中の90質量%以上を占め、前記ポリアミド樹脂中の融点が220〜310℃である脂肪族ポリアミドの割合が60質量%以上であり、前記ポリアミド樹脂及び前記強化繊維の合計質量中の前記強化繊維の含有量が45〜70質量%であるポリアミド樹脂組成物を材料としたスライダー胴体を備えた請求項12に記載のスライドファスナー。
【請求項15】
請求項1〜6の何れか一項に記載のスライドファスナー用ポリアミド樹脂組成物を材料としたエレメント列を備え、更に、ポリアミド樹脂及び強化繊維を含有するポリアミド樹脂組成物であって、ポリアミド樹脂及び強化繊維の合計質量が前記組成物中の90質量%以上を占め、前記ポリアミド樹脂中の融点が220〜310℃である脂肪族ポリアミドの割合が60質量%以上であり、前記ポリアミド樹脂及び前記強化繊維の合計質量中の前記強化繊維の含有量が45〜70質量%であるポリアミド樹脂組成物を材料としたスライダー胴体を備えた請求項12に記載のスライドファスナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスライドファスナー用樹脂組成物に関する。また、本発明は当該樹脂組成物を材料としたスライドファスナー用部品に関する。更に、本発明は当該部品を備えたスライドファスナーに関する。
【背景技術】
【0002】
スライドファスナーは衣料品、鞄類、靴類及び雑貨品といった日用品はもちろんのこと、貯水タンク、漁網及び宇宙服といった産業用品においても利用されている物品の開閉具である。
【0003】
図1にはスライドファスナーの構成例が示されている。スライドファスナー10は一対の長尺テープ11、各テープの一側縁に沿って取着されるファスナーの噛合部分である多数のエレメント12、及びエレメント12を噛合及び分離することによりファスナーの開閉を制御するスライダー13の三つの部分から主に構成される。更に、スライダー13の脱落防止のために、上止め14及び開き具15を設けることができ、スライダー13の表面には引き手16の他、引き手16をスライダーに固定する部品である引手カバー17を取り付けることもできる。
【0004】
スライドファスナーの構成部品は射出成形によって製造可能な成形部品であり、ポリアミドを材料として製造可能であることが知られている。
【0005】
例えば、DE3444813号公報(特許文献1)には、寝具用のスライドファスナーに使用するスライダーの洗浄及びアイロンに対する耐久性、並びにスライダーの摺動に対する耐摩耗性を向上する目的で、ガラス繊維で強化されたポリアミドを材料としてスライダーを射出成形する方法が記載されている(請求項1)。ガラス繊維の長さは4〜8mmとし、その含有量を25重量%以上とすることが記載されている(請求項1)。スライダーは、成形後に再結晶処理を施すことが記載されている(請求項1)。また、ポリアミドとしてはポリアミド6,6を使用することが記載されている(請求項6)。潤滑剤やグライディング剤を含有しないポリアミドを使用し、ガラス繊維の含有量を約40重量%とすることも記載されている(請求項5)。
【0006】
特許第4517277号公報(特許文献2)にもポリアミド樹脂がスライドファスナー用部品として使用可能である旨が記載されている。当該文献では、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミドMXD6、ポリアミド6T、ポリアミド11、ポリアミド12などがポリアミド樹脂として挙げられている。特にカプラミド繰り返し単位を80モル%以上有するポリアミド樹脂及び/又はヘキサメチレンアジパミド繰り返し単位を80モル%以上有するポリアミド樹脂が好ましいと記載されている。
【0007】
WO2013/098978(特許文献3)においては、ポリアミド30〜50質量%、強化繊維を50〜70質量%含有し、ポリアミド中の50質量%以上が脂肪族ポリアミドであるポリアミド樹脂組成物を開示している。そして、めっき性の向上の観点ではポリアミド中の脂肪族ポリアミドは好ましくは80質量%以上であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】DE3444813号公報
【特許文献2】特許第4517277号公報
【特許文献3】国際公開第2013/098978号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
スライドファスナーを構成する部品のうち、引手カバー、引手、上止め、下止め及びエレメントは特に小さく、また、スライドファスナーの重要な機械的特性であるスライダー総合強度やチェーン横引き強度に直接関連する部品である。そして、これらの部品をポリアミド樹脂の射出成形品として提供する場合、美観の観点から、染色が実施されるのが通常である。
【0010】
上述した先行技術においては、スライドファスナー用部品をポリアミド樹脂を材料として作製する場合、ポリアミド6,6などの脂肪族ポリアミドを主体とすることや強化繊維を混入することが強度を発揮する上で好ましい態様として提案されている。実際、脂肪族ポリアミドと強化繊維を組み合わせてスライダー胴体を作製した場合、当該スライダー胴体は染色後も優れた強度を発揮することができる。しかしながら、本発明者の研究によれば、上述した引手カバー、引手、上止め、下止め及びエレメントといった小型部品を脂肪族ポリアミド及び強化繊維を組み合わせた材料で作製すると、染色後の強度低下が著しいことが分かった。
【0011】
本発明は上記事情に鑑み、染色後の強度に優れたスライドファスナー用部品の材料として好適なポリアミド樹脂組成物を提供することを課題の一つとする。また、本発明はポリアミド樹脂を材料とした小型のスライドファスナー用部品について、染色後の強度確保を図ることを別の課題の一つとする。更に、本発明は当該スライドファスナー用部品を備えたスライドファスナーを提供することを別の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記問題点の原因について検討し、次のように推論した。引手カバー、引手、上止め、下止め及びエレメントなどの小型部品はスライダー胴体に比べて小さい。そのため、ポリアミド樹脂のマトリクス中に分散した強化繊維の配向が揃わずに、強化繊維による強度向上効果が十分に享受できない。また脂肪族ポリアミドは吸水後の強度低下が大きい。これらのことから、脂肪族ポリアミド及び強化繊維を組み合わせた材料で作製された小型部品を染色すると、吸水により低下した脂肪族ポリアミドそのものの強度がファスナー部品に反映されてしまった。
【0013】
本発明者は、上記推論をベースにして、吸水後の強度が低下しにくく、しかも、小型部品に対する射出成形が容易なポリアミド樹脂材料を探求したところ、低融点の芳香族ポリアミドが有利であることを見出した。本発明は当該知見を基礎として完成したものである。
【0014】
本発明は一側面において、ポリアミド樹脂及び強化繊維を含有するスライドファスナー用ポリアミド樹脂組成物であって、ポリアミド樹脂及び強化繊維の合計質量が前記組成物中の90質量%以上を占め、前記ポリアミド樹脂中の融点が200〜250℃である芳香族ポリアミドの割合が70質量%を超えており、前記ポリアミド樹脂及び前記強化繊維の合計質量中の前記強化繊維の含有量が45〜70質量%であるスライドファスナー用ポリアミド樹脂組成物である。
【0015】
本発明に係るスライドファスナー用ポリアミド樹脂組成物の一実施形態においては、前記ポリアミド樹脂中の融点が200〜250℃である芳香族ポリアミドの割合が80質量%を超える。
【0016】
本発明に係るスライドファスナー用ポリアミド樹脂組成物の別の一実施形態においては、前記ポリアミド樹脂は吸水率が前記芳香族ポリアミドよりも小さく、融点が200〜250℃である脂肪族ポリアミドを更に含有する。
【0017】
本発明に係るスライドファスナー用ポリアミド樹脂組成物の更に別の一実施形態においては、前記ポリアミド樹脂中の融点が200〜250℃であるポリアミドMXD6の割合が70質量%を超える。
【0018】
本発明に係るスライドファスナー用ポリアミド樹脂組成物の更に別の一実施形態においては、前記ポリアミド樹脂中の融点が200〜250℃であるポリアミドMXD6の割合が80〜95質量%であり、前記ポリアミド樹脂中の吸水率が前記芳香族ポリアミドよりも小さく、融点が200〜250℃である脂肪族ポリアミドの割合が5〜20質量%である。
【0019】
本発明に係るスライドファスナー用ポリアミド樹脂組成物の更に別の一実施形態においては、前記ポリアミド樹脂組成物のメルトフローレートが10〜50g/10分である。
【0020】
本発明は別の一側面において、本発明に係るスライドファスナー用ポリアミド樹脂組成物を材料としたスライドファスナー用部品である。
【0021】
本発明に係るスライドファスナー用部品は一実施形態において、引手、引手カバー、上止め、下止め又はエレメントである。
【0022】
本発明に係るスライドファスナー用部品は別の一実施形態において、エレメントである。
【0023】
本発明に係るスライドファスナー用部品は更に別の一実施形態において、染色されている。
【0024】
本発明は更に別の一側面において、ファスナーテープの側縁に本発明に係るエレメントが複数取着されてエレメント列が形成されているファスナーストリンガーである。
【0025】
本発明は更に別の一側面において、本発明に係るスライドファスナー用部品又はファスナーストリンガーを備えたスライドファスナーである。
【0026】
本発明に係るスライドファスナーは一実施形態において、本発明に係るスライドファスナー用ポリアミド樹脂組成物を材料とした引手、引手カバー、上止め、下止め及びエレメント列よりなる群から選択される少なくとも1種の部品を備える。
【0027】
本発明に係るスライドファスナーは別の一実施形態において、ポリアミド樹脂及び強化繊維を含有するポリアミド樹脂組成物であって、ポリアミド樹脂及び強化繊維の合計質量が前記組成物中の90質量%以上を占め、前記ポリアミド樹脂中の融点が220〜310℃である脂肪族ポリアミドの割合が60質量%以上であり、前記ポリアミド樹脂及び前記強化繊維の合計質量中の前記強化繊維の含有量が45〜70質量%であるポリアミド樹脂組成物を材料としたスライダー胴体を更に備える。
【0028】
本発明に係るスライドファスナーは更に別の一実施形態において、本発明に係るスライドファスナー用ポリアミド樹脂組成物を材料とした引手及び引手カバーを備え、更に、ポリアミド樹脂及び強化繊維を含有するポリアミド樹脂組成物であって、ポリアミド樹脂及び強化繊維の合計質量が前記組成物中の90質量%以上を占め、前記ポリアミド樹脂中の融点が220〜310℃である脂肪族ポリアミドの割合が60質量%以上であり、前記ポリアミド樹脂及び前記強化繊維の合計質量中の前記強化繊維の含有量が45〜70質量%であるポリアミド樹脂組成物を材料としたスライダー胴体を備える。
【0029】
本発明に係るスライドファスナーは更に別の一実施形態において、本発明に係るスライドファスナー用ポリアミド樹脂組成物を材料としたエレメント列を備え、更に、ポリアミド樹脂及び強化繊維を含有するポリアミド樹脂組成物であって、ポリアミド樹脂及び強化繊維の合計質量が前記組成物中の90質量%以上を占め、前記ポリアミド樹脂中の融点が220〜310℃である脂肪族ポリアミドの割合が60質量%以上であり、前記ポリアミド樹脂及び前記強化繊維の合計質量中の前記強化繊維の含有量が45〜70質量%であるポリアミド樹脂組成物を材料としたスライダー胴体を備える。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係るスライドファスナー用樹脂組成物を材料として引手カバー、引手、上止め、下止め及びエレメントなどの小型部品を作製することにより、染色後の強度に優れたスライドファスナーが得られる。特に、スライダー胴体を脂肪族ポリアミドを主体とする材料とする一方、これらの小型部品を芳香族ポリアミド主体の材料として、両者に強化繊維を配合することで、強度と往復開閉耐久性の両方に優れたスライドファスナーが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明に係るスライドファスナーの一構成例を示す正面図である。
図2】本発明に係るスライダーの一実施形態の分解斜視図である。
図3図2に示す各構成部品を組み立てて構成されるスライダーの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(1.小型部品に好適なポリアミド樹脂組成物)
<1−1 芳香族ポリアミド>
本発明に係るスライドファスナー用ポリアミド樹脂組成物の一実施形態においては、200〜250℃の融点をもつ芳香族ポリアミドを使用する点を特徴の一つとして挙げることができる。
【0033】
芳香族ポリアミドの融点を250℃以下とすることで、引手、引手カバー、上止め、下止め及びエレメントのような小型部品であっても射出成形に有利な流動性を与えることができる。とりわけ、エレメントは小さな部品であり、射出成形する際の流動性が重要となるところ、射出成形時の温度を高くしすぎるとファスナーテープが焼けてしまうという問題が生じることから、使用する芳香族ポリアミドの融点を250℃以下に抑えることは有利である。芳香族ポリアミドの融点は好ましくは245℃以下であり、より好ましくは240℃以下である。
【0034】
また、低融点のポリアミド樹脂は単位分子構造当たりのアミド結合の数が少なくなり、フレキシブルな鎖状となるため強度及び剛性が低下する傾向にある。そのため、融点が200℃以上の芳香族ポリアミドを使用することが好ましく、融点が210℃以上の芳香族ポリアミドを使用することがより好ましく、融点が220℃以上の芳香族ポリアミドを使用することが更により好ましい。
【0035】
本発明において、芳香族ポリアミドの融点はDSC(示差走査熱量計)により吸熱量を測定したときの吸熱ピークトップの温度とする。複数の芳香族ポリアミドを使用している場合、最も高温側の吸熱ピークトップの温度を融点とする。従って、複数の芳香族ポリアミドを使用している場合は、最も融点の高い芳香族ポリアミドをベースにした融点として測定されることになる。しかしながら、複数の芳香族ポリアミドを使用する場合でも、各ポリアミド樹脂の融点はすべて上述した範囲にあることが好ましい。
【0036】
本発明に係るスライドファスナー用ポリアミド樹脂組成物の一実施形態においては、前記ポリアミド樹脂中の融点が200〜250℃である芳香族ポリアミドの割合が70質量%を超えている点を更なる特徴の一つとして挙げることができる。引手、引手カバー、上止め、下止め及びエレメントのような小型部品において脂肪族ポリアミドを主成分とするポリアミド樹脂を使用すると、強化繊維による強度向上効果が発揮されにくく、染色工程を経てポリアミド樹脂が水分を吸収してしまうと、十分な強度をもつファスナー部品が得られなくなる。芳香族ポリアミドを主成分とするポリアミド樹脂を用いることで、引手、引手カバー、上止め、下止め及びエレメントのような小型部品における吸水後の強度の低下を抑制することが可能となる。
【0037】
前記ポリアミド樹脂中の融点が200〜250℃である芳香族ポリアミドの割合は75質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることが更により好ましい。前記ポリアミド樹脂中の融点が200〜250℃である芳香族ポリアミドの割合は100質量%でもよいが、後述するように、所定の融点及び吸水率を示す脂肪族ポリアミドを少量ポリアミド樹脂中に配合することで、ファスナー部品の強度を向上することができる。そのため、前記ポリアミド樹脂中の融点が200〜250℃である芳香族ポリアミドの割合は95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましい。
【0038】
芳香族ポリアミドとは分子中に少なくとも一つ芳香族環を有するポリアミドを指し、一般には芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸を原料として合成されるもの、芳香族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸を原料として合成されるもの、又は、脂肪族ジアミンと芳香族ジカルボン酸を原料として合成されるものに分類できる。
【0039】
芳香族ジアミンとしては、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、メタフェニレンジアミン及びパラフェニレンジアミンなどが挙げられる。脂肪族ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2−メチルプロパンジアミン、3−メチルプロパンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカンジアミン及びドデカンジアミンなどの直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族ジアミンが挙げられる。芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、及び5−ナトリウムスルホイソフタル酸及び1,5−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられる。脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、プロパン二酸、ブタン二酸、ペンタン二酸、アジピン酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸、ドデカン二酸、ウンデカン二酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸などの直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。
【0040】
芳香族ポリアミドの具体的例しては、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミド6T)、ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)、ポリパラキシリレンアジパミド(ポリアミドPXD6)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンテレフタルアミド(ポリアミドPACMT)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンイソフタルアミド(ポリアミドPACMI)、ポリテトラメチレンテレフタルアミド(ポリアミド4T)、ポリペンタメチレンテレフタルアミド(ポリアミド5T)、ポリ−2−メチルペンタメチレンテレフタルアミド(ポリアミドM−5T)、ポリヘキサメチレンヘキサテレフタルアミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド(ポリアミド6T(H))、ポリ2−メチル−オクタメチレンテレフタルアミド、ポリ2−メチル−オクタメチレンテレフタルアミド、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ポリアミド9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド10T)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド11T)、ポリドデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド12T)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンテレフタルアミド(ポリアミドPACMT)、ポリビス(3−メチル−4−アミノヘキシル)メタンイソフタルアミド(ポリアミドPACMI)等が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。
【0041】
ポリアミド樹脂は分子構造及び分子量によって融点が異なる。また、分子構造が同じでも分子量が異なると融点も変わってくる。そこで、これら芳香族ポリアミドの融点は分子量の制御により調節可能である。分子量を高くすることで融点を上昇させることができ、逆に分子量を低くすることで融点を低下させることができる。
【0042】
芳香族ポリアミドの中でも、吸水後にも優れた強度を与えるという理由と上述した範囲の融点をもつ市販品が入手しやすいという理由から、ポリアミドMXD6が好ましい。従って、本発明に係るポリアミド樹脂中で使用する芳香族ポリアミド成分中、90質量%以上がポリアミドMXD6で構成されることが好ましく、95質量%以上がポリアミドMXD6で構成されることがより好ましく、99質量%以上がポリアミドMXD6で構成されることが更により好ましく、100質量%がポリアミドMXD6で構成されることが更により好ましい。
【0043】
<1−2 脂肪族ポリアミド>
本発明に係るスライドファスナー用ポリアミド樹脂組成物の一実施形態においては、吸水率が前述した芳香族ポリアミドよりも小さく、融点が200〜250℃である脂肪族ポリアミドを配合することを特徴の一つとして挙げることができる。本発明で使用するポリアミド樹脂においては、芳香族ポリアミドを主成分とすることが特徴の一つであることは先述した通りであるが、所定の脂肪族ポリアミドを副成分として配合することにより、芳香族ポリアミド単独で用いた場合よりも染色後の強度が向上するという利点が得られる。
【0044】
本発明者は、使用する芳香族ポリアミド(例えばMXD6だと吸水率は5%以上である。)よりも吸水率の低い脂肪族ポリアミドを配合することで、染色後に高い強度をもつファスナー部品が安定して得られることを見出した。使用する脂肪族ポリアミドの吸水率としては、5%未満が好ましく、4%以下がより好ましく、3.5%以下が更により好ましく、3%以下が更により好ましい。
【0045】
本発明において、吸水率はJIS K7209:2000に準拠して、射出成形にて射出された平板に対して測定した飽和吸水率を意味する。
【0046】
また、脂肪族ポリアミドの融点を200〜250℃とすることのメリットは芳香族ポリアミドの説明箇所で述べた通りであるが念のため好ましい態様を説明する。脂肪族ポリアミドの融点は好ましくは245℃以下であり、より好ましくは240℃以下である。脂肪族ポリアミドの融点は好ましくは210℃以上であり、より好ましくは220℃以上である。
【0047】
本発明において、脂肪族ポリアミドの融点はDSC(示差走査熱量計)により吸熱量を測定したときの吸熱ピークトップの温度とする。複数の脂肪族ポリアミドを使用している場合、最も高温側の吸熱ピークトップの温度を融点とする。従って、複数の脂肪族ポリアミドを使用している場合は、最も融点の高い脂肪族ポリアミドをベースにした融点として測定されることになる。しかしながら、複数の脂肪族ポリアミドを使用する場合でも、各ポリアミド樹脂の融点はすべて上述した範囲にあることが好ましい。
【0048】
前述した所定の融点及び吸水率を示す脂肪族ポリアミドのポリアミド樹脂中の配合割合については、吸水後の強度向上効果が得られる好適な範囲がある。強度向上効果が有意に発現するのはポリアミド樹脂中の当該脂肪族ポリアミドの配合割合が5質量%以上のときであり、10質量%以上が好ましい。但し、当該脂肪族ポリアミドの配合割合を過剰に配合するとかえって強度を低下させる原因となることから、当該脂肪族ポリアミドの配合割合はポリアミド樹脂中で40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下が更により好ましい。
【0049】
脂肪族ポリアミドとは脂肪族骨格で構成されたポリアミドを指し、一般には脂肪族アミンと脂肪族ジカルボン酸を原料として合成されるもの、又は、脂肪族ω−アミノ酸若しくはそのラクタムを原料として合成されるポリアミドに分類できる。
【0050】
脂肪族ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2−メチルプロパンジアミン、3−メチルプロパンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカンジアミン及びドデカンジアミンなどの直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族ジアミンなどが挙げられる。脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、プロパン二酸、ブタン二酸、ペンタン二酸、アジピン酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸、ドデカン二酸、ウンデカン二酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸などの直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。脂肪族ω−アミノ酸としては、例えば、6−アミノヘキサン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸などが挙げられる。ラクタムとしては、ε−カプロラクタム、ウンデカンラクタム及びラウリルラクタムなどが挙げられる。
【0051】
脂肪族ポリアミドの具体的な構造としては、限定的ではないが、次式:−NHR1NHC(=O)R2C(=O)−又は−NHR1C(=O)−(式中、R1とR2は同一又は異なる基であって、少なくとも2個の炭素原子を有するアルキレン基であり、好ましくは2〜12個、より好ましくは6〜10個の炭素原子を有するアルキレン基である。)で表される繰返単量体単位又はこれらの組合せを有するポリアミドが代表的である。脂肪族ポリアミドの具体例としては、ポリテトラメチレンアジポアミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンアジポアミド(ポリアミド66)、ポリヘキサメチレンアゼラインアミド(ポリアミド69)、ポリヘキサメチレンセバシンアミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンドデカンジアミド(ポリアミド612)、ポリヘプタメチレンピメリンアミド(ポリアミド77)、ポリオクタメチレンスベリンアミド(ポリアミド88)、ポリノナメチレンアゼライトアミド(ポリアミド99)、及びポリデカメチレンアゼラインアミド(ポリアミド109)等の脂肪族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸の共縮重合反応で合成される脂肪族ポリアミドのほか、ポリ(4−アミノ酪酸)(ポリアミド4)、ポリ(6−アミノヘキサン酸)(ポリアミド6)、ポリ(7−アミノヘプタン酸)(ポリアミド7)、ポリ(8−アミノオクタン酸)(ポリアミド8)、ポリ(9−アミノノナン酸)(ポリアミド9)、ポリ(10−アミノデカン酸)(ポリアミド10)、ポリ(11−アミノウンデカン酸)(ポリアミド11)、及びポリ(12−アミノドデカン酸)(ポリアミド12)等のω−アミノ酸の重縮合反応やラクタムの開環重合で合成される脂肪族ポリアミドが挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。
【0052】
更に、脂肪族ポリアミドの繰返単位の任意の組合せで得られる共重合体も用いることができる。限定的ではないが、このような脂肪族ポリアミド共重合体としては、カプロラクタム/ヘキサメチレン・アジポアミド共重合体(ナイロン6/6,6)、ヘキサメチレン・アジポアミド/カプロラクタム共重合体(ナイロン6,6/6)、ヘキサメチレン・アジポアミド/ヘキサメチレン−アゼラインアミド共重合体(ナイロン6,6/6,9)等が挙げられる。
【0053】
これら脂肪族ポリアミドの融点は、芳香族ポリアミドと同様に、分子量の制御により調節可能である。分子量を高くすることで融点を上昇させることができ、逆に分子量を低くすることで融点を低下させることができる。
【0054】
脂肪族ポリアミドの中でも、吸水後にも優れた強度を与える観点と上述した範囲の融点をもつ市販品が入手しやすいという観点から、ポリアミド66、ポリアミド610及びポリアミド612よりなる群から選択される1種以上が好ましく、ポリアミド612がより好ましい。従って、本発明に係る脂肪族ポリアミド成分中、90質量%以上がこれらの3種類で構成されることが好ましく、95質量%以上がこれらの3種類で構成されることがより好ましく、99質量%以上がこれらの3種類で構成されることが更により好ましく、100質量%がこれらの3種類で構成されることが更により好ましい。更には、本発明に係る脂肪族ポリアミド成分中、90質量%以上がポリアミド612で構成されることが好ましく、95質量%以上がポリアミド612で構成されることがより好ましく、99質量%以上がポリアミド612で構成されることが更により好ましく、100質量%がポリアミド612で構成されることが更により好ましい。
【0055】
<1−3 強化繊維>
ポリアミド樹脂組成物中に強化繊維を含有させることで、ファスナー部品の強度を強化することができる。ポリアミドはシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤又はアルミネート系カップリング剤などで表面処理することにより、ポリエステルに比べて強化繊維へ親和性向上が見込めるため、強化繊維を多量に添加しても強度を損なうこと無く高剛性化することが可能である。具体的には、ポリアミド樹脂と強化繊維の合計質量中、強化繊維の濃度を45質量%以上とすることが好ましく、50質量%以上とすることがより好ましい。但し、強化繊維の濃度が高すぎると成形性が悪化し、また、強度も低下することから、ポリアミド樹脂と強化繊維の合計質量中の強化繊維の濃度は70質量%以下とするのが好ましく、60%質量以下とするのがより好ましい。
【0056】
本発明に使用する強化繊維としては、限定的ではないが、例えば、炭素繊維、アラミド繊維等の有機繊維のほか、ガラス繊維、針状ワラストナイト、ウィスカー(例:チタン酸カルシウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー)等の無機繊維を用いることができる。一定以上の流動性を保持しつつ、強度を向上させることができる点で、ガラス繊維、アラミド繊維及び炭素繊維から選択される何れか1種以上を用いることが好ましく、ガラス繊維がより好ましい。これらは単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用しても良い。
【0057】
樹脂にコンパウンドする前の平均繊維径としては3〜20μm程度が好ましく、5〜12μm程度がより好ましい。樹脂にコンパウンドする前の平均繊維長としては1mm〜10mm程度が好ましく、3mm〜6mm程度がより好ましい。ここで、繊維径は、強化繊維の断面積を求め、その断面積を真円として計算したときの直径を指す。また、樹脂にコンパウンドする前のアスペクト比=平均繊維径:平均繊維長は1:50〜3:10000が好ましく、1:300〜1:1200がより好ましい。樹脂にコンパウンドして成形した後には、強化繊維の平均繊維長は1/10〜1/20になるのが一般的であり、例えば0.1〜1mmであり、典型的には0.1〜0.5mmである。
【0058】
ポリアミド樹脂組成物中のポリアミド樹脂と強化繊維の合計含有量は、所望の強度を達成する観点から90質量%以上であることが好ましく、より好ましくは95質量%以上である。
【0059】
<1−4 顔料及びその他の添加剤>
ポリアミド樹脂は黄変しやすいため色再現性が低いが、顔料を添加することで色再現性を高めることができる。一方で、顔料の添加量が多くなると強度が低下したり、白すぎることにより染色時に高濃度色がでない問題があるため高濃度での添加は好ましくない。ポリアミド樹脂組成物中の顔料の含有量は色再現性の観点から、ポリアミド樹脂及び強化繊維の合計質量に対して0.5質量%以上とすることが好ましく、1.0質量%以上とすることがより好ましい。また、ポリアミド樹脂組成物中の顔料の含有量は濃色染色性の観点から、ポリアミド樹脂及び強化繊維の合計質量に対して5.0質量%未満とすることが好ましく、4.5質量%以下とすることがより好ましい。顔料が多すぎると、白色が強すぎるので、例えば赤色がピンク色になってしまい、濃色が表出しにくくなる。顔料の例としては、限定的ではないが、硫化亜鉛、酸化アンチモン、酸化チタン、酸化亜鉛が挙げられ、安全性の観点から硫化亜鉛が好ましい。
【0060】
その他、ポリアミド樹脂組成物中には耐熱安定剤、耐候剤、耐加水分解剤、酸化防止剤など常用の添加剤を例えば合計で10.0質量%以下、典型的には5質量%以下、より典型的には2質量%以下となるように添加してもよい。
【0061】
特に、サイズが小さいエレメントにおいては、強度を犠牲にすることなく射出成形を容易にできることから、炭素数が20以上40以下の脂肪酸の金属塩、好ましくはモンタン酸金属塩を添加することが好ましい。モンタン酸金属塩の具体例としては、モンタン酸カルシウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸亜鉛、モンタン酸リチウム、モンタン酸マグネシウム、モンタン酸アルミニウムが挙げられる。脂肪酸塩の含有量は好ましくはポリアミド樹脂と強化繊維の合計100質量部に対して0.1〜2.0質量部である。0.1質量部以上とすることによって、成形性向上効果が有意に発揮できると共に、2.0質量部以下とすることによって経年劣化によるブリードアウト、黄変よる色調変化を抑制することができる。脂肪酸塩の含有量はより好ましくはポリアミド樹脂と強化繊維の合計100質量部に対して0.3〜1.0質量部である。
【0062】
<1−5 メルトフローレート>
本発明においては、使用するポリアミド樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)を制御することが好ましい。MFRはポリアミドの分子量や強化繊維の含有量などに影響を受けて変化する。MFRが過度に低くなると流れ性の悪化によりファスナー部品を射出成形する際の充填率が悪くなり、歩留まり低下や成形サイクルの長期化などの問題が生じる。一方、MFRが過剰に高くなると、強度が低下するのみならず、分子量分布の広がりにより流れムラが発生して外観不良となったり、ポリマー成分由来の吸水率の影響により夏場環境の寸法安定性が悪くなったりするなどの問題が発生する。好ましいMFRは5〜40g/10分であり、より好ましいMFRは8〜30g/10分であり、更により好ましいMFRは10〜25g/10分である。本発明においては、MFRはJIS K7210(A法)に準拠して280℃、測定荷重2.16kgで測定する。MFRがこの範囲にある樹脂組成物を用いることにより、成形性及び品質安定性に優れたスライドファスナー用成形部品を高い生産効率で製造することが可能である。
【0063】
(2.スライダー胴体に好適なポリアミド樹脂組成物)
ファスナー部品の中でも、引手、引手カバー、上止め、下止め及びエレメントのような小型部品については、上述した芳香族ポリアミド主体のポリアミド樹脂を使用することが好ましい。しかしながら、スライダー胴体は強度のみならず往復開閉耐久性に対する要請が強い。また、スライダー胴体はファスナー部品の中では比較的大きい部品であり、射出成形時の困難性は小さいことから、比較的融点の高い材料も使用できる。融点の高い材料を使用することで強度の向上が期待できる。そして、比較的大きな部品なので、強化繊維による強度向上効果が発揮されやすく、染色時の吸水による強度の低下も心配する必要はない。
【0064】
本発明に係るスライダー胴体に好適なポリアミド樹脂組成物は一実施形態において、ポリアミド樹脂及び強化繊維を含有し、ポリアミド樹脂及び強化繊維の合計質量が前記組成物中の90質量%以上を占め、前記ポリアミド樹脂中の融点が220〜310℃である脂肪族ポリアミドの割合が60質量%以上であり、前記ポリアミド樹脂及び前記強化繊維の合計質量中の前記強化繊維の含有量が45〜70質量%である。
【0065】
<2−1 脂肪族ポリアミド>
本発明に係るスライダー胴体に好適な脂肪族ポリアミドの一実施形態においては、融点が220〜310℃である脂肪族ポリアミドを使用することができる。スライダー胴体は比較的大きな部品のため、高い融点でも射出成形可能であるが、過度に高い融点をもつ脂肪族ポリアミドを使用すると、成形温度が高くなり、黄変しやすくなることから、融点が310℃以下の脂肪族ポリアミドを使用することが好ましく、融点が305℃以下の脂肪族ポリアミドを使用することがより好ましく、融点が300℃以下の脂肪族ポリアミドを使用することが更により好ましい。また、低融点のポリアミド樹脂は単位分子構造当たりのアミド結合の数が少なくなり、フレキシブルな鎖状となるため強度及び剛性が低下する傾向にあるため、融点が220℃以上の脂肪族ポリアミドを使用することが好ましく、融点が240℃以上の脂肪族ポリアミドを使用することがより好ましく、融点が250℃以上の脂肪族ポリアミドを使用することが更により好ましい。
【0066】
本発明に係るスライダー胴体に好適な脂肪族ポリアミドの一実施形態においては、前記ポリアミド樹脂中の融点が220〜310℃である脂肪族ポリアミドの割合が60質量%以上である。脂肪族ポリアミドの配合割合を高めることで往復開閉耐久性の向上を図ることができる。スライダー胴体はエレメントとの摺動による摩擦をもっとも頻繁に受ける部品であり、往復開閉耐久性を高めることが重要である。往復開閉耐久性を高める観点からは、前記ポリアミド樹脂中の融点が220〜310℃である脂肪族ポリアミドの割合が65質量%以上であることが好ましい。但し、後述するように、所定の融点をもつ芳香族ポリアミドを配合することで、ファスナー部品の強度を向上することができる。そのため、前記ポリアミド樹脂中の融点が220〜310℃である脂肪族ポリアミドの割合は90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、75質量%以下が更により好ましい。
【0067】
当該脂肪族ポリアミドの融点はDSC(示差走査熱量計)により吸熱量を測定したときの吸熱ピークトップの温度とする。複数の脂肪族ポリアミドを使用している場合、最も高温側の吸熱ピークトップの温度を融点とする。従って、複数の脂肪族ポリアミドを使用している場合は、最も融点の高い脂肪族ポリアミドをベースにした融点として測定されることになる。しかしながら、複数の脂肪族ポリアミドを使用する場合でも、各ポリアミド樹脂の融点はすべて上述した範囲にあることが好ましい。
【0068】
脂肪族ポリアミドの分子構造や具体例は、「1.小型部品に好適なポリアミド樹脂組成物」の段落で先述した通りである。また、好ましい脂肪族ポリアミドの種類についても同様である。
【0069】
<2−2 芳香族ポリアミド>
本発明に係るスライダー胴体に好適なポリアミド樹脂組成物の一実施形態においては、融点が230〜310℃である芳香族ポリアミドを配合することができる。芳香族ポリアミドを配合することで強度向上効果が期待できる。
【0070】
スライダー胴体は比較的大きな部品のため、高い融点でも射出成形可能であるが、過度に高い融点をもつ芳香族ポリアミドを使用すると、成形温度が高くなり、黄変しやすくなることから、融点が310℃以下の芳香族ポリアミドを使用することが好ましく、融点が305℃以下の芳香族ポリアミドを使用することがより好ましく、融点が300℃以下の芳香族ポリアミドを使用することが更により好ましい。また、低融点のポリアミド樹脂は単位分子構造当たりのアミド結合の数が少なくなり、フレキシブルな鎖状となるため強度及び剛性が低下する傾向にあるため、融点が230℃以上の芳香族ポリアミドを使用することが好ましく、融点が240℃以上の芳香族ポリアミドを使用することがより好ましく、融点が250℃以上の芳香族ポリアミドを使用することが更により好ましい。
【0071】
本発明に係るスライダー胴体に好適なポリアミド樹脂組成物の一実施形態においては、ポリアミド樹脂中の融点が230〜310℃である芳香族ポリアミドの割合が10質量%以上である。強度向上効果を更に高める上では、ポリアミド樹脂中の融点が230〜310℃である芳香族ポリアミドの割合を20質量%以上とするのが好ましく、25質量%以上とするのがより好ましい。但し、往復開閉耐久性と強度の両立の観点からは先述した脂肪族ポリアミドが主体となるべきであるから、前記ポリアミド樹脂中の融点が230〜310℃である芳香族ポリアミドの割合は40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましい。
【0072】
当該芳香族ポリアミドの融点はDSC(示差走査熱量計)により吸熱量を測定したときの吸熱ピークトップの温度とする。複数の芳香族ポリアミドを使用している場合、最も高温側の吸熱ピークトップの温度を融点とする。従って、複数の芳香族ポリアミドを使用している場合は、最も融点の高い芳香族ポリアミドをベースにした融点として測定されることになる。しかしながら、複数の芳香族ポリアミドを使用する場合でも、各ポリアミド樹脂の融点はすべて上述した範囲にあることが好ましい。
【0073】
芳香族ポリアミドの分子構造や具体例は、「1.小型部品に好適なポリアミド樹脂組成物」の説明箇所で先述した通りである。また、好ましい芳香族ポリアミドの種類についても同様である。
【0074】
<2−3 強化繊維>
ポリアミド樹脂組成物中に強化繊維を含有させることで、スライダー胴体の強度を強化することができる。強化繊維の具体的な態様や含有量に関する説明は「1.小型部品に好適なポリアミド樹脂組成物」の段落で先述した通りである。そして、スライダー胴体においても、ポリアミド樹脂組成物中のポリアミド樹脂と強化繊維の合計含有量は、所望の強度を達成する観点から90質量%以上であることが好ましく、より好ましくは95質量%以上である。
【0075】
<2−4 顔料及びその他の添加剤>
ポリアミド樹脂は黄変しやすいため色再現性が低いが、顔料を添加することで色再現性を高めることができる。一方で、顔料の添加量が多くなると強度が低下したり、白すぎることにより染色時に高濃度色がでない問題があるため高濃度での添加は好ましくない。ポリアミド樹脂組成物中の顔料の含有量は色再現性の観点から、ポリアミド樹脂及び強化繊維の合計質量に対して0.5質量%以上とすることが好ましく、1.0質量%以上とすることがより好ましい。また、ポリアミド樹脂組成物中の顔料の含有量は濃色染色性の観点から、ポリアミド樹脂及び強化繊維の合計質量に対して5.0質量%未満とすることが好ましく、4.5質量%以下とすることがより好ましい。顔料が多すぎると、白色が強すぎるので、例えば赤色がピンク色になってしまい、濃色が表出しにくくなる。顔料の例としては、限定的ではないが、硫化亜鉛、酸化アンチモン、酸化チタン、酸化亜鉛が挙げられ、安全性の観点から硫化亜鉛が好ましい。
【0076】
その他、ポリアミド樹脂組成物中には耐熱安定剤、耐候剤、耐加水分解剤、酸化防止剤など常用の添加剤を例えば合計で10.0質量%以下、典型的には5質量%以下、より典型的には2質量%以下となるように添加してもよい。
【0077】
(3.スライドファスナー)
本発明に係るポリアミド樹脂組成物を材料として各種のスライドファスナー用部品を作製し、これらを組み立ててスライドファスナーとすることができる。具体的には、「1.小型部品に好適なポリアミド樹脂組成物」の段落で記載したポリアミド樹脂組成物を材料とし、射出成形により、引手、引手カバー、上止め、下止め及びエレメント等の小型部品を作製することができる。ファスナーテープの側縁にエレメントが複数取着されてエレメント列が形成されているファスナーストリンガーを作製することもできる。また、「2.スライダー胴体に好適なポリアミド樹脂組成物」の段落で記載したポリアミド樹脂組成物を材料とし、射出成形により、スライダー胴体を作製することができる。
【0078】
本発明に係るスライドファスナーの一実施形態においては、「1.小型部品に好適なポリアミド樹脂組成物」の段落で記載したポリアミド樹脂組成物を材料とした引手及び引手カバーを備え、更に、「2.スライダー胴体に好適なポリアミド樹脂組成物」の段落で記載したポリアミド樹脂組成物を材料としたスライダー胴体を備えたスライダーを作製することができる。また、当該スライダーを備えたスライドファスナーを作製することができる。当該スライダーは、染色後のスライダー総合強度や引手ねじり強度に対して有利であると共に、往復開閉耐久性にも優れている。
【0079】
このようなスライダーの構成例を図2及び図3に示す。当該スライダー20は、スライダー胴体21と、スライダー胴体21の上翼板21a側に連結されて、エレメント列を噛合ないし分離させるべくスライダー20を摺動変位させる際に使用者によって挟持される引手23と、上翼板21aとの間で引手23の一端部22を挟み込んで、その上翼板21aの外表面上に、引手2を一端部22で回動可能に保持するための引手カバー24とを備える。そして、上翼板21aと引手カバー24との間には、自動停止機能を付与すべく、金属製の弾性板状部材25が挟み込まれる。上翼板21aと引手カバー24の連結は、上翼板21aの外表面から突設された一対の爪部26a、26bが引手カバー24の前部及び後部に形成された一対の爪部27a、27bと係合することで行われる。
【0080】
当該スライダーと組み合わせるエレメントの材料としては、上述した「1.小型部品に好適なポリアミド樹脂組成物」の段落で記載したポリアミド樹脂組成物がチェーン横引き強度や衝撃強度などの機械強度の観点で好ましいが、それに限られるものではなく、ポリオキシメチレン(POM)などの熱可塑性ポリエーテル樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などの熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリプロピレンなどの熱可塑性ポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)などの熱可塑性ポリビニル樹脂、エチレンテトラフルオロエチレンなどの熱可塑性フッ素樹脂等の各種材料で作製したエレメントと組み合わせてスライドファスナーを構築することができる。
【0081】
また、「1.小型部品に好適なポリアミド樹脂組成物」で記載したポリアミド樹脂組成物を材料としてエレメントを作製することにより、染色後にも高強度を保持したエレメントを提供することができる。そして、当該エレメントと組み合わせるスライダー胴体の材料としては、「2.スライダー胴体に好適なポリアミド樹脂組成物」の段落で記載したポリアミド樹脂組成物が往復開閉耐久性の点で好ましいが、それに限られるものではなく、ポリオキシメチレン(POM)などの熱可塑性ポリエーテル樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などの熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリプロピレンなどの熱可塑性ポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)などの熱可塑性ポリビニル樹脂、エチレンテトラフルオロエチレンなどの熱可塑性フッ素樹脂等の各種材料で作製された樹脂スライダー、ステンレス、亜鉛、銅、鉄、アルミ及びこれらを用いた合金等の金属スライダーと組み合わせてスライドファスナーを構築することができる。
【0082】
射出成形技術は公知であり、特段の説明を要しないと考えられるが、射出成形の手順の一例を挙げる。まず、樹脂組成物の成分であるポリアミド及び強化繊維等を成分の偏りがないように十分に混練する。混練は単軸押出機、二軸押出機、及びニーダー等を使用することができる。混練後の樹脂組成物を、所定のファスナー部品形状を有する金型を利用して射出成形すると、無染色状態のスライドファスナー用部品が完成する。エレメントを作製する場合、ファスナーテープの側縁に直接射出成形することが一般的であり、これによりファスナーテープの側縁にエレメントが複数取着されてエレメント列が形成されているファスナーストリンガーが作製可能である。射出成形の条件については特に制限はないが、二軸押出機が好適に使用できる。そして、サイドフィーダーを用いてガラス繊維を溶融状態の樹脂に混合することが、高濃度のガラス繊維の場合、生産性の点で望ましい。
【0083】
無染色状態のスライドファスナー用部品に対して染色を施すことが可能である。染色方法に特に制限はないが、浸染及び捺染が代表的である。染料としては、限定的ではないが、含金染料、酸性染料、スレン染料及び分散染料が好適であり、中でも染着性及び堅牢性が良いことから、酸性染料が特に好適に使用できる。染色はスライドファスナーの他の構成部品と同時に実施することもでき、別々に実施することもできる。
【0084】
本発明に係るファスナー部品に対しては各種の金属めっきを施すこともできる。金属めっきとしては、限定的ではないが、例えば、クロムめっき、ニッケルめっき、銅めっき、金めっき、真鍮めっき、その他の合金めっき等が挙げられる。金属めっきの方法としては特に制限はなく、電気めっき法(電気めっきの前に無電解めっきを行うことが好ましい。)の他、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の乾式めっきを適宜実施すればよい。これらの方法を組み合わせても良い。中でも、小型で複雑形状の部品内部までしっかりと被覆することができる電気めっき法が好ましく、無電解めっきを予備的に行った後に、電気めっきすることがより好ましい。
【実施例】
【0085】
以下、本発明の実施例を示すが、これらは本発明及びその利点をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図しない。
【0086】
<1.引手、引手カバー及びエレメントの作製>
引手、引手カバー及びエレメント用のポリアミド樹脂として以下を用意した。
・MXD6(融点:235℃、吸水率:5.5%(カタログ値))
・PA610(融点:225℃、吸水率:4.0%(カタログ値))
・PA612(融点:212℃、吸水率:3.0%(カタログ値))
・PA6T(融点:295℃、吸水率:6.2%(カタログ値))
・PA6(融点:225℃、吸水率:10.7%(カタログ値))
【0087】
強化繊維としてガラス繊維(平均繊維径:11μm、成形前の平均繊維長:3mm、成形後の平均繊維長:0.25mm)を使用した。
【0088】
上記ポリアミド樹脂及びガラス繊維を表1に記載の各配合割合(質量基準)となるように、二軸押出機を用いて混練し、その後、溶融樹脂をストランド状に押出し、冷却水槽にて固化させた後、ストランドをペレタイザーでカットすることで、各樹脂組成物のペレットを調製した。当該ペレットを射出成形して、ファスナーテープの側縁に図1に示す形態(登録商標:ビスロン)(JIS S3015:2007に規定されるM級サイズ)のエレメント列が取着したファスナーストリンガーを作製した。また、図2に示す形状の引手カバー及び引手も同様に、当該ペレットから射出成形により作製した。その後、これらの部品を72時間23℃の水に浸漬した。
【0089】
<2.スライダー胴体の作製>
PA66(融点:265℃、吸水率:8.8%(カタログ値))とガラス繊維(平均繊維径:11μm、成形前の平均繊維長:3mm、成形後の平均繊維長:0.25mm)をPA66:ガラス繊維=40:60の配合割合(質量基準)となるように、二軸押出機を用いて混練し、その後、溶融樹脂をストランド状に押出し、冷却水槽にて固化させた後、ストランドをペレタイザーでカットすることで、ポリアミド樹脂組成物のペレットを調製した。これを射出成形して、JIS S3015:2007に規定されるM級(チェーン幅が5.5mm以上7.0mm未満)のスライドファスナー用のスライダー胴体を作製した。当該スライダー胴体を72時間23℃の水に浸漬した。
【0090】
<3.スライダー及びファスナーチェーンの組み立て>
上記で作製した吸水後の引手、引手カバー及びスライダー胴体を用いて、図3に示す形状のスライダーを組み立てた。また、一対のファスナーストリンガーのエレメント列を噛み合わせてファスナーチェーンを組み立てた。
【0091】
<4.試験>
(融点)
各ポリアミド樹脂の融点はDSC(セイコーインスツルメント社製:EXTAR6000)を用いて、先述した定義に基づき、以下の条件で測定した。
・サンプル量:5〜10mg
・雰囲気:窒素ガス
・昇温スピード:10℃/min
・測定温度範囲:0〜350℃
・リファレンスパン:空
(スライダー及びチェーンの強度)
作製したスライダーに対してはスライダー総合強度、スライダー引手ねじり強度を、作製したスライドファスナーチェーンに対してはチェーン横引き強度試験をそれぞれJIS S3015:2007に準拠して行った。
(MFR)
引手、引手カバー及びエレメント用のポリアミド樹脂組成物について、先述した測定条件によりMFRを測定した。
【0092】
結果を表1に示す。実施例1〜5では、ポリアミド樹脂組成物の配合が適切であったため、吸水後のスライダー総合強度が169N以上、吸水後のスライダー引手ねじり強度は58N以上、吸水後のチェーン横引き強度が741N以上と高い機械的強度を有していた。特に、少量の脂肪族ポリアミドを添加した実施例3及び実施例4は吸水後のスライダー総合強度が突出して優れていた。通常の金属製のチェーンの場合、横引き強度は750N程度であることを考えると、本発明に係るポリアミド樹脂組成物を材料としたエレメントは極めて優れた強度を示しているといえる。
【0093】
一方、比較例1はガラス繊維の割合が少なすぎたことで、吸水後に十分なスライダー総合強度及びチェーン横引き強度が得られなかった。
比較例2は芳香族ポリアミドであるMXD6の割合が少なすぎたことで、吸水後、スライダー総合強度、引手ねじり強度及びチェーン横引き強度が何れも満足行くものとはならなかった。
比較例3は融点の高い芳香族ポリアミドを使用したことで流動性が悪化し、特に小さな部品であるエレメント列を射出成形できなかった。
比較例4は脂肪族ポリアミドであるPA6を用いたことで、スライダー総合強度、引手ねじり強度及びチェーン横引き強度が何れも満足行くものとはならなかった。
【0094】
なお、実施例1〜実施例5におけるスライダーの往復開閉耐久性(JIS S3015:2007)は何れも1500回以上であったが、PA66の代わりにMXD6をスライダー胴体に配合してスライダーの往復開閉耐久性の試験を行ったところ、何れも100回以下の往復で異常が生じた。
【0095】
【表1-1】
【0096】
【表1-2】
【符号の説明】
【0097】
10 スライドファスナー
11 長尺テープ
12 エレメント
13 スライダー
14 上止め
15 開き具
16 引き手
17 引手カバー
20 スライダー
21 スライダー胴体
21a 上翼板
22 引手の一端部
23 引手
24 引手カバー
25 弾性板状部材
26a、26b スライダー胴体の爪部
27a、27b 引手カバーの爪部
図1
図2
図3