特許第6266103号(P6266103)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6266103
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】角度分解型FMCWレーダセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/02 20060101AFI20180115BHJP
   G01S 13/42 20060101ALI20180115BHJP
   G01S 13/34 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   G01S7/02 218
   G01S13/42
   G01S13/34
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-520324(P2016-520324)
(86)(22)【出願日】2014年5月14日
(65)【公表番号】特表2016-525209(P2016-525209A)
(43)【公表日】2016年8月22日
(86)【国際出願番号】EP2014059851
(87)【国際公開番号】WO2014206630
(87)【国際公開日】20141231
【審査請求日】2015年12月22日
(31)【優先権主張番号】102013212090.7
(32)【優先日】2013年6月25日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501125231
【氏名又は名称】ローベルト ボッシュ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(72)【発明者】
【氏名】ショール,ミヒャエル
【審査官】 請園 信博
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/083479(WO,A1)
【文献】 特開2006−003303(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/041652(WO,A1)
【文献】 特開2008−128657(JP,A)
【文献】 特開2010−145289(JP,A)
【文献】 特開2001−174539(JP,A)
【文献】 特開2011−064584(JP,A)
【文献】 特開平07−005252(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0309968(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 − 7/42
13/00 − 13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
角度分解型FMCWレーダセンサであって、複数のアンテナ素子(10,12,14,16)を備えており、これらのアンテナ素子は、レーダセンサが角度分解を行う方向で様々な位置に配置されていて、少なくとも3つの送信アレイ並びに少なくとも1つの受信アレイを形成しており、制御および評価装置(30)を備えており、該制御および評価装置(30)は、少なくとも3つの前記送信アレイが周期的に信号を送信し、これらの信号の周波数が変調ランプ(44,46;52,54)の連続に従って変調されていて、かつ、前記送信された信号のレーダエコーがそれぞれ少なくとも1つの前記受信アレイの複数のアンテナ素子によって受信され、位置測定された対象物の角度(θ)が前記レーダエコー間の、前記送信および受信アレイの様々な組み合わせに対応する振幅および/または位相関係を用いて決定される運転形式のために設計されている形式のものにおいて、
前記レーダセンサの測定サイクル(P)が少なくとも2つの周期(1,2,3,4)を有していて、これらの周期内で、前記送信および受信アレイのそれぞれ少なくとも2つの組み合わせ間の切替えが繰り返し行われ、前記少なくとも2つの周期のための、前記送信および受信アレイの関与した組み合わせが、互いに異なっていることを特徴とする、角度分解型FMCWレーダセンサ。
【請求項2】
前記各周期(1,2,3,4)が前記変調ランプ(44,46;52,54)の連続を含んでいて、個別の各変調ランプの後で別の送信アレイに切り替えられる、請求項1に記載のレーダセンサ。
【請求項3】
個別の周期(1,2,3,4)内において、2つの送信アレイ間で交互に切替えが行われる、請求項1または2に記載のレーダセンサ。
【請求項4】
少なくとも1つの周期(1,3)内において送信のために使用される少なくとも1つの前記送信アレイが、別個のアンテナ素子(10;16)より成っていて、少なくとも1つの周期(2,4)内において送信のために使用される少なくとも1つの別の送信アレイが、少なくとも2つのアンテナ素子(10,12;14,16)より成っていて、これらのアンテナ素子に同時に同じ周波数の信号が供給される、請求項1から3のいずれか1項に記載のレーダセンサ。
【請求項5】
前記アンテナ素子(10,12,14,16)のそれぞれが、選択的に受信アレイの一部として、および送信アレイの一部として運転可能である、請求項1から4のいずれか1項に記載のレーダセンサ。
【請求項6】
送信アレイの一部として運転可能な前記アンテナ素子(10,12,14,16)が、隣同士でそれぞれ異なる間隔を有している、請求項1から5のいずれか1項に記載のレーダセンサ。
【請求項7】
位置測定された対象物の距離(D)を決定するために、様々な変調パターン(M1,M2,M3)に属する、受信されたレーダエコーの位相状態の差が評価され、同時に位置測定された複数の対象物のレーダエコーを識別するために、互いに連続する複数の変調パターンのために得られた結果が互いに調整され、この場合、前記変調パターンのそれぞれ少なくとも1つが先行する測定サイクル(P)に由来する、請求項1から6のいずれか1項に記載のレーダセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に自動車のための角度分解型FMCWレーダセンサであって、複数のアンテナ素子を備えており、これらのアンテナ素子は、レーダセンサが角度分解を行う方向で様々な位置に配置されていて、少なくとも3つの送信アレイ並びに少なくとも1つの受信アレイを形成しており、制御および評価装置を備えており、該制御および評価装置は、少なくとも3つの前記送信アレイが周期的に信号を送信し、これらの信号の周波数が変調ランプの連続に従って変調されていて、かつ、送信された信号のレーダエコーがそれぞれ少なくとも1つの受信アレイの複数のアンテナ素子によって受信され、位置測定された対象物の角度が前記レーダエコー間の、前記送信および受信アレイの様々な組み合わせに対応する振幅および/または位相関係を用いて決定される運転形式のために設計されている形式のものに関する。
【背景技術】
【0002】
レーダセンサは、例えば自車の前方で位置測定された車両またはその他の対象物の距離、相対速度および方位角を測定するために自動車に搭載される。次いで、別個のアンテナ素子が、例えば互いに間隔を保って水平位置に配置され、それによって、位置測定された対象物の様々な方位角から、レーダ信号が対象物から各アンテナ素子まで到達する時間の差が得られる。これらの到達時間の差によって、アンテナ素子によって受信されかつ所属の評価チャンネルで評価される信号の位相の、相応の差が得られる。様々なチャンネル内で受信された(複素)振幅を、アンテナ線図内の相応の振幅により調整することによって、レーダ信号の入射角、およびひいては位置測定された対象物の方位角を決定することができる。
【0003】
高い角度分解能が得られるようにするために、アンテナの開口面はできるだけ大きくなければならない。しかしながら、隣接し合うアンテナ素子間の間隔が大きすぎると、角度測定に曖昧さが生じることになる。何故ならば、波長λの整数倍だけ異なる到達時間差のために、受信信号間の同じ位相関係が得られるからである。明瞭な角度測定は、例えばULA構造(Uniform Linear Array:一様線形アレイ)によって得ることができ、このULA構造においては、アンテナ素子がλ/2の間隔を保って配置されている。しかしながらこの場合、開口面が大きくなるにつれて、アンテナ素子の数も増大し、ひいては必要な評価チャンネルの数も増大するので、相応に高価なハードウエア費用が発生する。
【0004】
MIMOレーダ(Multiple Input/Multiple Output:多重入力/多重出力)においては、より大きい角度分解能は、複数の受信アンテナ素子だけで作業するのではなく、複数の送信アンテナ素子によっても作業することによって得られ、この場合、送信アンテナ素子と受信アンテナ素子との様々な組み合わせが、例えば時間マルチプレックスまたは選択的に周波数マルチプレックスまたはコードマルチプレックスで評価される。送信アンテナ素子の変化する位置によって、追加的な位相差が得られ、ひいては、別個の送信アンテナ素子および追加的な(仮想の)受信アンテナ素子を有する配置構成により得られる信号と同じ信号が得られる。このような形式で、開口面は仮想的に増大され、ひいては角度分解能が改善される。
【0005】
この場合、できるだけ高い角度分解能を考慮して、仮想のアテナアレイは、別個のアンテナ素子が互いに比較的大きい間隔を保つように、減らされていれば、好適である。しかしながらこのような状況下では、明瞭性条件は満たされないので、特にノイズのあるレーダエコーにおいて曖昧さが生じ、ひいては「変動する」角度測定が生じる。つまりレーダターゲットが長い継続時間に亘って追跡されると、時々、測定された方位角の急激な変化が生じる。
【0006】
FMCWレーダセンサ(Frequency Modulated Continuous Wave)においては、連続的なレーダ信号の送信周波数はランプ状に変調される。受信信号から、送信信号との混合によってベースバンド信号が生成され、次いでこのベースバンド信号が評価される。
【0007】
各レーダ対象物は、ベースバンド信号の周波数スペクトル内のピークの形で表され、このピークの位置は、レーダ信号の到達時間およびドップラー偏移に依存しているので、個別の周波数変調ランプにより得られたベースバンド信号から、相対速度および距離を明瞭に決定することはまだできない。むしろ、得られたピークの周波数は、速度(相対速度)と距離との間の線形関係としての関係だけを確定する。(概念「linear:線形」とは、これによって表された関係が線形係数および加法項を含んでいてよい、と解釈される。)
【0008】
FMCW法においては、複数のレーダ対象物を識別し、かつその相対速度および距離を推定するために、様々なランプ勾配を有する複数の周波数変調ランプが必要とされる。別個の周波数ランプにおいて得られた様々な関係を調整することによって、レーダ対象物の相対速度Vおよび距離Dが演算され得る。この調整は、マッチングとも呼ばれ、D−V空間内の複数の直線の交点の検索に相当する。FMCW法は、僅かなレーダ対象物だけを検出する場合、特に効果的である。
【0009】
送信信号が同形式の周波数変調された信号パルス(チャープ)の連続から成るチャープシーケンス変調法に従って作業するレーダセンサも公知である。従って、変調パターンは、別個の変調ランプから成るのではなく、互いに連続するチャープの完全な1セットから成る。これは、パルス圧縮を有するパルスドップラー法に関するものであり、この場合、まずレーダ対象物の分離がその距離に従って行われ、次いで、個別の信号パルスの反射間の位相状態の差を用いて、レーダ対象物の位置変化およびひいては速度が算出される。典型的な変調パターンにおいては、チャープからチャープへの個別のチャープの平均周波数が均一に増大または減少するので、チャープ自体は、「低速ランプ」と呼ばれるランプを形成し、一方、チャープは「高速ランプ」とも呼ばれる。従って、この方法は、「Multi−Speed−FMCW(マルチスピードFMCW:MSFMCW)」とも呼ばれる。
【0010】
MSFMCW法は、距離および相対速度のより正確な測定を可能にし、特に多数の対象物が同時に位置測定される状況において、より頑強である。もちろん、低速ランプは比較的大きい長さを有している。従って個別の測定間の時間的な間隔は、対象物の固有運動に基づいて、MIMO原理を使用するために必要な、信号間の位相相関が失われる程度に大きい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、改善された測定精度を有するMIMOレーダを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この課題は、冒頭に述べた形式のレーダセンサにおいて、レーダセンサの測定サイクルが少なくとも2つの周期を有していて、これらの周期内で、送信および受信アレイのそれぞれ少なくとも2つの組み合わせ間の切替えが行われ、前記少なくとも2つの周期のための、送信および受信アレイの関与した組み合わせが、互いに異なっていることによって、解決される。
【0013】
送信および受信アレイの3つまたはそれ以上の異なる組み合わせを使用することによって、アレイのより大きい(仮想の)開口面および/または充填が可能であるので、角度推定の精度および/または明瞭性が改善される。しかしながら、個別の周期内ですべての可能な組み合わせが利用されるわけではないので、様々な送信アレイにより送信された信号のレーダエコーが評価され得る時間的な間隔は短縮される。これによって、この信号のコヒーレンスは改善され、ひいては測定精度が改善される。
【0014】
本発明の好適な実施態様および変化実施例は従属請求項に記載されている。
【0015】
好適な実施例によれば、各周期、例えば各低速の変調ランプ内の各チャープの後ろで、使用された送信アレイが切り替えられる。例えば、2つの異なる送信アレイにより交互に送信され、この場合、その直後に、1つのアレイにより送信された各チャープは、同じ周波数状態および同じ偏移でもう一度送信されるが、より高い周波数を有する、次のチャープの第1の送信アレイにより再び送信される前に、別の送信アレイによりもう一度送信される。
【0016】
「送信アレイ」は、別個のアンテナ素子または複数のアンテナ素子の組み合わせから成っている。アレイが、同じ周波数の信号を供給される隣接し合う2つのアンテナ素子を有していれば、これら2つのアンテナ素子により算出されたレーダ波は、変化された位相状態を有する信号に重畳される。この信号は、2つのアンテナ素子間に位置するポイントから放射される信号と等量である。このポイントは、2つの信号のいわゆる位相中心を形成する。この位相中心は、実際のアンテナ素子が存在していない位置にあるので、2つまたはそれ以上のアンテナ素子が一緒に励磁されることによって、追加的な(仮想の)送信側のアンテナ素子が得られ、これらのアンテナ素子は、実際の受信側のアンテナ素子と組み合わせることができ、それによって仮想のアンテナアレイの充填が得られる。このような形式で、ULA構造の配置構成に近づき、曖昧さの確率が低減される。
【0017】
さらに、2つまたはそれ以上のアンテナ素子の回路接続は、より高い送信効率が得られ、ひいてはレーダセンサの到達距離が改善される、という利点を有している。
【0018】
好適な実施例によれば、実際のアンテナ素子は不均一な間隔を保って配置されているので、アンテナ配置構成は、可能な限り低い対称性を有しており、これによって曖昧さをさらに抑制することができる。しかもこれによって、様々な送信および受信素子の組み合わせによって得られる仮想のアンテナ位置が位置的に重なり合うことを避けることができる。
【0019】
レーダセンサは、好適な形式でモノスタティックなレーダセンサとして構成されており、つまり各アンテナ素子は送信素子としても受信素子としても使用することができる。
【0020】
2つまたはそれ以上のアンテナ素子に同じ周波数の信号が供給される場合、2つまたはそれ以上の素子に信号が供給される位相および振幅は、必ずしも同じである必要はない。これによって、本発明の変化実施例によれば、放射線成形の可能性が得られる。
【0021】
今日一般的なFMCW法においては、サイクル時間、つまり個別の測定サイクルの継続時間は、周波数変調の周期時間に一致する。1回の測定サイクル内で、所定数の変調パターン(低速ランプ)が送信され、受信された信号は、受信されたすべての変調パターンのために記録され、評価される。従って、サイクル時間は、変調パターンを送信するために必要とされる時間と、受信された信号を処理しかつ距離および速度データを算出するためにプロセッサが必要とする追加的な演算時間とから構成されている。
【0022】
しかしながら、安全にかかわる支援機能においては、できるだけ高い時間的な分解能で交通事象を追跡できることが重要である。すなわち、サイクル時間はできるだけ短くなければならない。測定精度の理由により、変調パターンの継続時間は短縮できないので、サイクル時間の短縮は演算時間の短縮によってのみ得られる。このためには、高性能ひいては高価なプロセッサを使用することが必要となる。
【0023】
本発明の変化実施例によれば、最新の測定サイクル内で変調パターンのために得られた信号を、別の変調パターンのために得られた単数または複数の信号により調整するために、少なくとも1つの、より早期の測定サイクルより成る信号が用いられる。
【0024】
この場合、本発明は、測定サイクルから測定サイクルに亘って、関与した自動車の慣性に基づいて速度が僅かしか変化しないので、1つの測定サイクルから次の測定サイクルに亘って重要な変化を蒙るのは、基本的には距離だけである、という状況を利用したものである。従って、実際の測定サイクルからのデータの代わりに、単数または複数の、直接先行する測定サイクルからのデータを使用すれば、速度情報が基本的に狂うことはない。N個の様々な変調パターンを使って処理される場合、Mは、個別の変調パターンを送信するために必要な時間であり、Tは、個別の変調パターンを評価するために必要な演算時間であるので、従来の方法において、サイクル時間Zは、
Z=N(M+T)によって与えられる。
【0025】
これに対して、本発明による方法において、サイクル時間は、
Z=M+Tに短縮される。
この場合、調整時に、最後の(N−1)測定サイクルの結果が用いられる。
【0026】
つまり、サイクル時間は、(N−1)(M+T)だけ短縮される。
このサイクル時間の短縮の結果、様々な変調パターン間の時間的な間隔も相応に小さくなり、それによって、速度データのエラーもさらに少なくなる。
【0027】
さらに本発明の枠内で、様々な送信アレイ間での切替えだけではなく、様々な受信アレイ間の切替えも可能である。このために、追加的なアンテナ素子を設ける必要はあるが、追加的な評価チャンネルを設ける必要はない。受信アレイの切替えは、選択された別の送信アンテナが評価チャンネルに接続されることによって、行われる。様々な送信アレイとの組み合わせによって、仮想のMIMOアレイがさらに拡大かつ/または圧縮される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明によるレーダセンサのブロック線図である。
図2】センサ信号の周波数変調ランプ(チャープ)の連続を示す概略図である。
図3】個別のチャープの周波数スペクトル内のピークの振幅および位相状態の概略図である。
図4】複数のチャープの周波数スペクトル内のピークの振幅値を示す概略図である。
図5】チャープの連続の評価からレーダ対象物の相対速度Vと距離Dとの関係を示す概略図である。
図6】周波数ランプの2つの連続が割り当てられている信号から、VとDとの間の、算出された様々な関係の調整について説明するための概略図である。
図7】本発明によるレーダセンサのためのサイクルパターンの一例を示す図である。
図8図1図6に示したレーダセンサの機能形式を説明するための線図である。
図9】レーダセンサの利点を説明するための線図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の複数の実施例を、以下に図面を用いて詳しく説明する。
【0030】
図1に示したレーダセンサは、4つのアンテナ素子10,12,14,16を有しており、これらのアンテナ素子は一緒に1つの平面的なグループアンテナ18を形成している。レーダセンサは、アンテナ素子10〜16が同じ高さ位置で互いに並列配置されるように、自動車内に組み込まれているので、レーダセンサの角度分解能は、水平(方位角の)状態で得られる。図1には、アンテナ素子によって方位角θで受信されるレーダ放射線が象徴的に示されている。
【0031】
アンテナ素子を制御するための高周波部分20は、例えば単数または複数のMMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit:モノリシックマイクロ波集積回路)によって形成されていて、切替えネットワーク22を有しており、この切替えネットワーク22を介して別個のアンテナ素子が、送信しようとするレーダ信号を生成する局所的な発振器24に選択的に接続可能である。アンテナ素子10〜16によって受信されたレーダエコーは、それぞれサーキュレータ26を用いて出力され、混合器28に供給され、ここで、発振器24から提供された送信信号と混合される。このような形式で、各アンテナ素子のために中間周波数信号Zf,Zf,Zf,Zfが得られ、この中間周波数信号は、電子式の制御および評価ユニット30に供給される。
【0032】
制御および評価ユニット30は制御部32を有しており、この制御部32は、発振器24および切替えネットワーク22の機能を制御する。発振器24により提供された送信信号の周波数は、周期的に上昇および/または下降する周波数ランプの連続の形で変調される。
【0033】
さらに、制御および評価装置30は、4チャンネル式のアナログ/デジタル変換器34を備えた評価部を有しており、このアナログ/デジタル変換器34は、4つのアンテナ素子から得られた中間周波数信号Zf〜Zfをデジタル化し、それぞれ個別の周波数ランプの継続時間に亘って記録する。次いで、このようにして得られた時間信号は、チャンネル毎に変換段36において、迅速なフーリエ変換によって相応の周波数スペクトルに変換される。この周波数スペクトルにおいて、それぞれ位置測定された対象物がピークの形で記録され、このピークの周波数状態は、レーダセンサから対象物へ達し再びレーダセンサに戻るまでの信号到達時間に依存しており、また、ドップラー効果に基づく対象物の相対速度に依存しているが、同じ対象物のために得られた2つのピークの周波数状態、しかも異なる勾配例えば上昇するランプおよび下降するランプを有する周波数ランプから、当該の対象物の距離Dおよび相対速度Vを演算することができる。
【0034】
次に、図2から図6を参照して、MSFMCWレーダの機能原理を説明する。
【0035】
図2には、時間tに対する送信信号の周波数fが、それぞれ偏移Ffastおよび継続時間Tfastを有する(迅速な)周波数ランプ(チャープ)の連続の形で示されている。個別の周波数ランプは、時間的な間隔Tr2r(“ramp−to−ramp”;ランプからランプ)を保って互いに連続している。図2に示した例では、TfastはTr2rと同じであるので、個別の周波数ランプは互いに直接的に連続している。
【0036】
図2は、個別の周波数ランプの平均周波数が連続の過程で変化する、一般的な図面を示している。特に迅速なランプの平均周波数はそれ自体が、時点tにおいて平均周波数fを有する線形の周波数ランプを描く。この周波数ランプは、以下では低速ランプとも呼ばれる。この周波数ランプは、ランプ継続時間Tslow=(Nslow−1)r2rのときに周波数偏移Fslowを有し、この式中、Nslowが高速ランプの数を示す。
【0037】
低速ランプが周波数偏移0を有している場合、連続の高速ランプは同じである、つまり同じ周波数変化を描く。
【0038】
1回の測定サイクルで、高速ランプの2つまたはそれ以上の異なる連続が用いられ、この場合、それぞれの連続内において、高速ランプ(チャープ)が、それぞれ同じ周波数偏移Ffast、同じランプ継続時間Tfastおよびランプ間の同じ時間的な間隔Tr2rを有している。1回の測定サイクル内の少なくとも2つの連続は、高速ランプの周波数偏移Ffastの符号および/または大きさの様々な値、高速ランプの様々なランプ継続時間、高速ランプの様々なランプ繰り返し時間Tr2r、低速ランプの様々な平均周波数f、高速ランプの様々な数値Nsolwおよび/または低速ランプの様々な周波数偏移Fslowが異なっている。
【0039】
以下では、まず図面を単純化するために、送信信号の高速ランプの個別の連続のための測定信号の評価について説明する。
【0040】
送信信号の周波数は、例えば76GHzの範囲内にある。例えば低速ランプの平均周波数は76GHzである。
【0041】
混合器28から提供されたベースバンド信号内で、各高速ランプに、継続時間Tfastを有する部分信号が連続して割り当てられている。この場合、レーダセンサシステムの検出範囲内のレーダ対象物のための信号到達時間がランプ継続時間Tfastに対して短いことが前提とされる。
【0042】
評価の第1ステップで、少なくとも1つの部分信号の周波数スペクトルが評価される。高速ランプに相当するベースバンド信号の部分信号は、等距離時点の数Nfastで走査され、つまりデジタル化され、部分信号の周波数スペクトルが決定される。周波数スペクトルは、例えば迅速なフーリエ変換(FFT)の演算によって算出される。
【0043】
図3は、周波数ビンkに対する、得られた信号の位相χbbおよび振幅Abbが、極座標で概略的に示されている。
【0044】
別個のレーダ対象物によって反射される信号のために、例えば周波数ビンk内に振幅Abb(k)を有するピークが含まれ、この振幅に相応の位相χbb(k)が割り当てられている。この場合、周波数ビンkは、部分信号の当該の周波数スペクトル内のレーダ対象物の周波数状態を特徴付ける。
【0045】
送信信号の線形の周波数変調において、レーダ対象物に割り当てられたピークの周波数状態が、2つの項の合計から構成されており、これらの項のうちの第1の項が、レーダセンサのレーダ対象物の距離Dおよびランプ偏移Ffastの積に比例していて、第2の項が、レーダ対象物の相対速度V、高速ランプの平均周波数およびランプ継続時間Tfastの積に比例している。これはFMCW方程式に相当する。
【0046】
【数1】
【0047】
この式中、cは光速度、D0,rはr回のランプの平均時点に対する対象物の距離、r=1,2,…,Nslowであり、f0,rは、r回のランプの平均周波数、V0,rは、r回の高速ランプの平均時点におけるレーダ対象物の相対速度である。従って、算出されたピークの周波数状態は、レーダ対象物の距離Dと相対速度Vとの間の線形関係に相当する。この関係は、レーダ対象物の相対速度および距離に関する第1の情報を表す。この関係は特に、高速ランプのランプ偏移Ffast、ランプ継続時間Tfastおよび平均周波数f0,rに依存している。
【0048】
レーダ対象物の、高すぎない加速度および相対速度Vにおいて、高速ランプの連続に亘ってピークのほぼ同じ周波数状態が得られ、以下では、kが、連続のすべての高速ランプに亘ってのレーダ対象物の平均周波数ビンを表す。
【0049】
周波数状態kにおける、ピークに割り当てられた位相χbb(k)が、特に、高速ランプの連続の経過中のレーダ対象物の距離の変化に敏感である。従って、レーダ信号の波長の半分の距離変化によって、既に振動の全周期の位相変化が生ぜしめられる。
【0050】
図4は、高速ランプの連続の経過中の周波数スペクトル内のレーダ対象物の周波数状態kにおける、調和振動に相当するスペクトルの実数部、Abb*COSχbb(k)の経時変化を、実線により概略的に示す。この場合、実線により示された調和振動は、レーダ対象物の加速度なしの場合に相当する。
【0051】
概ね76GHzのレーダ信号周波数において、波長は概ね4mmである。従って、24m/secに相当する86km/hの相対速度において、位相は12000Hzの周波数で変化する。この周波数に相当する1つのピークは、実数部の経時変化の周波数スペクトル内で見込まれ、この場合、経時変化は、連続する高速ランプに相当し、各ランプは、経時変化の走査値に相当する。位相変化の低すぎる走査周波数によって、つまり長すぎるランプ連続時間Tr2rによって、ナイキストシャノンの走査定理が損なわれるので、位相変化の周波数は明瞭に決定することはできない。
【0052】
図4は、このような形式のアンダースキャンを概略的に示している。各高速ランプの平均時点における実数部の値がマーキングされている。位相変化の実周波数が、実線で描かれた曲線によって示されるか、または破線で描かれた曲線によって示されるかどうかを決定することはできない。つまり周波数は曖昧である。
【0053】
位相変化に相当する調和振動の周波数状態は、対象物のために測定された位相χbb(r)をランプ指数rの関数として表す関数を、新たにフーリエ変換することによって、決定することができる。この周波数状態は、その周波数ビンIによって定められ、近似的に加法により、低速ランプのランプ偏移Fslowおよび平均距離Dに比例する項と、平均相対速度V、低速ランプのランプ継続時間Tslowおよび低速ランプの平均周波数fに比例する項とから成っている。これはやはり、低速ランプのためのFMCW方程式に相当する。
【0054】
【数2】
【0055】
これによって、算出された周波数状態から、一般的な場合、つまり低速ランプFslow≠0のランプ偏移を有する場合、レーダ対象物の距離と相対速度との間の線形関係が得られる。もちろん、この線形関係は、相対速度Vおよび距離Dに関連して曖昧である。この関係は、レーダ対象物の距離および相対速度に関する第2の情報を表している。Fslow=0である特別な場合においても、以下では低速ランプであるとみなされる。この低速ランプは、勾配0を有していて、速度だけに関する第2の情報が得られる。この第2の情報は、相対速度Vに関連して、半分の波長と低速ランプの走査周波数1/Tr2rとの積の整数倍まで明瞭である。
【0056】
図5は、周波数ランプの1つの連続に対する測定信号を評価することにより得られる、相対速度Vおよび距離Dに関する情報の一例が示されている。周波数変調のパラメータは次の通りである。Ffast=425MHz、Tfast=0.25ms、各高速ランプはNfast=512走査時点で走査され、低速ランプの周波数偏移はFslow=0、高速ランプの時間的な間隔はTr2r=0.25msであり、高速ランプの数、つまり低速ランプの走査時点の数はNslow=16であり、従って、低速ランプの継続時間Tslow=4msが得られる。走査されたレーダ対象物は、d=40mの距離、v=−20m/sの相対速度を有している。
【0057】
部分信号の周波数スペクトルの評価から、相対速度Vと距離Dとの間の線形関係に相当する、垂直に対して傾いた直線が得られる。低速ランプのランプ偏移はFslow=0であるので、レーダ対象物の周波数状態kにおいて部分信号の周波数スペクトルの値のフーリエ分析から、図5の線図に示された、互いに一定の間隔を保って位置する破線で示された水平な線に相当する、相対速度Vのための曖昧な値が得られる。この曖昧な値は、相対速度に関する第2の情報を表している。前記曖昧さを考慮して、第1の情報と第2の情報とを関連づけることによって、仮想の値対(V,D)が得られる。これは、図5では、調整を行うための公差範囲を示す丸印によって表されている。実際のターゲットは、V=−20m/sで、星印によってマーキングされている。
【0058】
相対速度および距離に関する別の第1の情報および/または、相対速度および追加的な距離に関する別の第2の情報が考慮されることによって、レーダ対象物の相対速度および距離の算出の明瞭性が得られる。
【0059】
図6は、各測定サイクル内で2つの異なる変調パターンを使用した場合における、レーダ対象物の距離および相対速度の明瞭な決定を概略的に示す。
【0060】
第1の変調パターンのパラメータは、次の通りである。Ffast=425MHz,Tfast=0.10ms,Nfast=1024,Fslow=0,Tr2r=0.10ms,Nslow=32であるので、Tslow=3.2msが得られる。
【0061】
2つの変調パターンのパラメータは、次の通りである。Ffast=−250MHz,Tfast=0.115ms,Nfast=512,Fslow=0,Tr2r=0.115ms,Nslow=32であるので、Tslow=3.68msが得られる。
【0062】
この実施例では、D=5m〜D=250mの距離範囲でV=−30m/sの相対速度の一列のレーダ対象物が存在すると仮定されており、この場合、レーダ対象物はそれぞれ互いに5mの距離を有している。これは例えば静止しているターゲットであってよく、このターゲットに向かって、自車が30m/sの速度で移動する。
【0063】
VとDとの間の線形関係は、2つの変調パターンのために異なっている。第1の変調パターンは、下降する平行な複数の直線の1つの群れを提供し、この場合、各対象物のためにそれぞれ1つの直線を提供する。相応に第2の変調パターンは、上昇する複数の直線の1つの群れを提供する。さらに、2つの変調パターンから算出された、レーダ対象物の速度Vに関する第2の情報は、様々な曖昧さの幅を有している。
【0064】
図6では、図5と同様に直線の交点が丸印で示されている。2つの変調パターンから得られた信号の調整は、相対速度Vおよび距離Dのために、2つの変調パターンにより提供された直線の交点が最適に合致する値を検索することによって、行われる。これによって、図示の実施例では、すべての対象物のために相対速度V=−30m/sが得られる。
【0065】
V=−30m/sの相対速度において、静止しているレーダ対象物の連鎖は分解され、150mの距離まで検出される。
【0066】
様々な相対速度を有する複数の対象物が同時に位置測定される状況において、この方法をより頑強にするために、2つの異なる変調パターンによってのみ作業するのではなく、測定サイクル毎に少なくとも3つの異なる変調パターンを使用すれば、好適である。
【0067】
しかしながら、より短いサイクル時間が得られるようにするために、好適には、図7に示したようなサイクルパターンで作業される。この実施例では、(簡略化のために、低速ランプは勾配0を有している)2つの完全な測定サイクルPのための送信信号の周波数fが、時間tに亘ってグラフで示されている。各測定サイクルP内で、3つの異なる変調パターンM,M,Mに従って周波数が変調される。各変調パターンに長さTの演算時間間隔が続いており、この演算時間間隔内で、当該の変調パターンのために得られたベースバンド信号が評価される。
【0068】
しかも、各演算時間間隔内で、最後の3つの変調パターンのために得られた結果の調整が行われる。図7では、これは、第2の測定サイクル内の演算時間間隔として象徴的に示されている。この測定サイクルは、3つの部分サイクルZ,Z,Zを有している。部分サイクルZ内で最新の測定サイクル内の変調パターンMのために得られた結果(V−D線図における複数の直線の群れ)が、2つの先行する部分サイクル内(先行する測定サイクルP内)の変調パターンM,Mのために得られた結果によって調整される。この調整によって各対象物のために、距離および相対速度の明瞭な値対が得られ、この値対は、この部分サイクルの終わりにアウトプットされ得る。相応に、部分サイクルZ内で、変調パターンMのためにこの部分サイクル内で得られた結果が、直接先行する変調パターンMおよびこれに先行する変調パターンMのための結果によって調整される。同じことが、部分サイクルZのためにも行われる。
【0069】
このような形式で、各対象物の相対速度および距離のための更新された値が、個別の変調パターンの継続時間と演算時間Tとからのみ構成されるサイクル時間後に既に得られる。
【0070】
以下に、図1図7および図8を参照して、MIMO原理および、MIMO原理と前記MSFMCW法との組み合わせについて説明する。
【0071】
図1にレーダレーダ放射線を用いて概略的に示されているように、アンテナ素子10〜16の様々な位置により、同じアンテナ素子によって算出されたレーダ放射線が対象物によって反射され、次いで様々なアンテナ素子によって受信され、様々な到達長さを進み、従って、対象物の方位角θに依存する位相差を有するようになる。所属の中間周波数信号Zf〜Zfも、相応の位相差を有している。受信された信号の振幅(大きさ)も、アンテナ素子毎に異なっていて、やはり方位角θに依存している。複素振幅、つまり受信された信号の純粋な大きさおよび位相の、方位角θによる依存性は、各アンテナ素子のためにアンテナ線図の形で制御および評価ユニット30に記録されてよい。角度推定器38が、それぞれ位置測定された対象物(周波数スペクトル内の各ピーク)のために、4つの受信チャンネル内で得られた複素振幅をアンテナ線図と比較し、それによって対象物の方位角θを推定する。この場合、方位角の最尤推定値として、測定された振幅がアンテナ線図内で読み取られた値と最適に相関する値が想定される。
【0072】
しかしながら、上記MIMOレーダにおいては、4つのチャンネル内の複素振幅は、4つのアンテナ素子10,12,14,16のうちのどれが送信素子として使用されるかにも依存している。例えば切替えネットワーク22は、第1の周波数ランプまたは周波数ランプの連続をアンテナ素子10によって送信し(この場合、送信アレイは唯一のアンテナ素子10からのみ成っている)、次いでアンテナ素子12、それからアンテナ素子14および16に相次いで切替え、次いで新たなサイクルを開始することができる。このような形式で、4×4=16の異なるコンステレーションが得られ、このコンステレーションは以下の信号モデルによって記述される。
【0073】
受信アレイとしてのアンテナ素子10,12,14,16を有する平面的な線形のアンテナアレイのために(等方性のアンテナ素子の理想化された仮定の下で)、制御ベクトルarμ(θ)が次の成分を有している。
【0074】
【数3】
【0075】
この制御ベクトルは、4つのアンテナ素子によって受信される信号の複素振幅間の位相関係を決定する。この式中、指数μはアンテナ素子を示す、値drμは、いずれかの任意に選択された原点に関連した、水平状態におけるアンテナ素子の位置を示す。
【0076】
相応に、受信アレイのための制御ベクトルatv(θ)は以下の成分を有している。
【0077】
【数4】
【0078】
図1に示した、4つのアンテナ素子を有するモノスタティックアレイの例において、アンテナ素子10の位置を座標原点とすることができ、従って、次式が適用される。
【0079】
【数5】
【0080】
角度推定のために、クロネッカー積がatv(θ)およびarμ(θ)から形成されることによって、MIMO原理に従って仮想のアレイベクトルが形成される。
【0081】
【数6】
【0082】
この積ベクトルは、仮想のアンテナ素子の16の位置に従って、16の成分を有している。ベクトルのこれらの成分は、次の式を有している。
【0083】
【数7】
【0084】
従って、仮想のアンテナ位置は、値d〜dから形成することができる合計に相当する。これによって、仮想のアレイは水平状態で著しく大きい間隔に亘って延在している、つまり、より大きい開口面を有しており、従ってより高い角度分解能が得られる。何故ならば、方位角θの僅かな変化によって、既により大きい位相差が得られるからである。
【0085】
しかしながら、できるだけ大きい開口面を得るために、値d〜dは、λ/2よりも明らかに大きく選定されるので、係数sin(θ)の周期性に基づいて、アレイベクトルの成分内に個別のケースにおいて方位角が発生し、この方位角において、アンテナ線図はすべての仮想のアンテナ素子のために類似の複素振幅を有しており、従って対象物の実際の方位角は明瞭に決定することができない。
【0086】
従って、好適には、仮想のアレイは追加的な仮想の素子によって満たされる。このために、切替えネットワーク22は所定の作動モードで次のように、つまり、2つのスイッチが同時に閉鎖され、つまり2つの所属のアンテナ素子10,12,14,16に同時に同じ信号が供給されるように、制御される。次いで、送信された信号は、その波形パターンが、例えばあたかも当該のアンテナ素子間の中間の時点から出発するような形を有する信号に重なり合う。
【0087】
アンテナ素子10および12に一緒に給電されると、送信アレイのための制御ベクトル内に、追加的な成分exp(2πi・(d/2λ)・sin(θ))が、位置d/2内の追加的なアンテナ素子に応じて得られる。仮想のアレイのベクトル内に、位置d/2,d/2+d,d/2+dおよびd/2+dにおける仮想の成分に応じて4つの追加的な成分が得られる。対象物の実際の方位角のために、仮想の素子に属するアンテナ線図も、対象物のピークのために測定された、中間周波数信号Zf〜Zfの複素振幅を提供する必要がある。このような形式で、追加的な素子は、場合によっては生じる曖昧さを避けるために寄与する。
【0088】
実際には、アンテナ素子10〜16のすべての可能な組み合わせが送信アレイとして使用される必要はなく、むしろ効果的な選択が行われる。可能な運転形式のための一例は、図8に線図の形で示されている。
【0089】
この線図の上部には、アンテナ素子10〜16によって送信された信号の周波数f〜fが、時間tの関数としてグラフで示されている。第1の周期1内では、アンテナ素子10および16だけがアクティブであり、これらのアンテナ素子10,16は、チャープ44,46を有する、上昇する低速の周波数ランプ40,42より成る信号(周波数f,f)を送信する。この場合、チャープ44および46は、互いに時間的に重畳することなしに、互いに交替する。これによって、送信された信号の重畳は避けられる。アンテナ素子16によって送信される第1のチャープ46は、アンテナ素子10によって送信される第1のチャープ44と同じ周波数状態および同じ偏移を有している。つまり、2つのチャープは同じコピーまたは繰り返しである。同じことが、それぞれ後続のチャープ44,46の対にも当てはまる。チャープ44,46の連続は、この実施例では発振器24によって生成され、この発振器24は、切替えネットワーク22によってアンテナ素子10および16に交互に接続される。
【0090】
第2の周期2内で、周波数ランプ40,42が繰り返される。切替えネットワーク22は発振器を、チャープ44中では2つのアンテナ素子10および12に接続し、チャープ46中では2つのアンテナ素子14および16に接続するので、送信アレイは、それぞれ隣接するアンテナ素子の1対より成っている。
【0091】
次の周期3および4で、同じパターンに従って下降する、チャープ52,54を有する低速の周波数ランプ48,50が送信される。これによって、この簡略化された例では2つの変調パターン(上昇し、かつ下降する低速ランプ)だけを有している完全な測定サイクルが形成される。
【0092】
線図の下部には、各周期のための、送信側のアンテナ素子(太字で示された角度)の位置d、並びにそれぞれの仮想のアンテナ素子(細字の角度)の位置が象徴的に示されている。第1の周期で、チャープ44のために仮想の位置が実際の位置と重なり合っている。チャープ46のために、位置がdだけずらされている。何故ならば、この距離だけアンテナ素子10に対してずらされたアンテナ素子16によって送信されるからである。
【0093】
次の周期2で、チャープ44のための送信アレイは、位置d/2における唯一のアンテナ素子を有するアレイと同じ作用を有していて、チャープ46のための送信アレイは、位置(d+d)/2における唯一のアンテナ素子を有するアレイと同じ作用を有している。このような形式で、周期3および4においても仮想の位置が得られる。
【0094】
図8の線図の下部の最も右側の列に、このような形式で得られた、アンテナ素子のすべての仮想位置が一緒に示されている。仮想アレイが追加的な仮想素子によって高い程度で満たされているので、高い角度分解能(大きい開口面に従って)を有しているだけではなく、高い程度の明瞭さ(アレイ内の仮想素子の密度に基づいて)も得られる。
【0095】
アンテナ素子10〜16が均一な間隔を保って配置されている場合、幾つかの仮想アンテナ素子の位置が重なり合うことになる。しかしながら、これは、図示した実施例では、アンテナ素子間の間隔が不均一で、d−d>d−d>dであることによって、避けられる。実際には、以下の値が有効であると実証された(波長λの単位で)。
=0
=1.2
=5.5
=10.2
【0096】
各仮想アレイのために、4つの評価チャンネルに受信された信号の振幅および/または位相関係をレーダエコーの仮想の入射角θに依存して提供するアンテナ線図が作成され得る。一般的に、位置測定された対象物の方位角、つまり実際の入射角αは、仮想の入射角θに相当し、この仮想の入射角θのために、実際に評価チャンネル内で測定された振幅および/または位相関係と対応するアンテナ線図内の値との間の最適な一致が得られる。評価のために、DML関数(Deterministic Maximum Likelihood:最大尤度法)を算出することができる。このDML関数は、実際に測定された値とアンテナ線図内の値との間の差の相関を、入射角θの関数として示す。DML関数の関数値は、0(相関関係なし)と1(完全な一致)との間で変化する。(この実施例では)4つの評価チャンネル内で測定された振幅および/または位相(複素振幅)を、4つの成分から成るベクトルとして解釈することができる。相応に、各入射角θのためのアンテナ線図内の値も4つの成分より成るベクトルを形成する。DML関数は、これら2つのベクトルをそれぞれ1に規格化し、次いでスカラー積またはスカラー積の値若しくはこの値の2乗を形成することによって演算することができる。次いで、DML関数の最大値が、対象物の方位角のための最適な推定値を提供する。
【0097】
この推定値を決定するために、角度推定器38が各チャープ44,52のための、およびこれらのチャープ内の(位置測定された各対象物の)各ピークのための4つの成分より成る振幅ベクトルを形成し、周期1および3内において使用される仮想のアレイのためのアンテナ線図を用いて、DML関数を演算する。相応に、チャープ46および54のためのDML関数が、周期2および4内において使用される仮想のアレイのためのアンテナ線図を用いて演算される。
【0098】
図9(a)および(b)に、これら2つのDML関数の例が示されており、この場合、それぞれレーダ放射線が正面から入射し(実際の入射角α=0°)、受信された信号がノイズを発生しないと仮定する。上側の線図(a)は、周期2および4のためのDML関数を示し、線図(b)は周期1および3のためのDML関数を示す。想定通りに、この関数はθ=0において実最大値を有する。しかしながら別の角度において副最大値も発生する。
【0099】
図9の線図(c)は、線図(a)および(b)の組み合わせ(重み付けされた合計)に相当するDML関数を示す。この例では、線図(a)が2回重み付けされる。何故ならば所属の切替え状態で、それぞれ2つのアンテナ素子(10および12若しくは14および16)によって同時に送信されるからである。しかしながら、別の形式の重み付け並びに別の形の組み合わせ(例えば中間値)も考えられる。
【0100】
この合計ではθ=0において明瞭に示された最大値が1つだけ存在し、これに対してその他の最大値は、ノイズを考慮しても値1に達しない程度に抑えられている。
【0101】
実際の入射角αの別の値のために、最大値が別の位置に存在している別の(左右非対称の)DML関数が得られる。これによって、各関数は、θ=αの位置に実最大値を有している。
【符号の説明】
【0102】
1,2,3,4 周期
10,12,14,16 アンテナ素子
18 グループアンテナ
20 高周波部分
22 切替えネットワーク
24 発振器
26 サーキュレータ
28 混合器
30 制御および評価ユニット
32 制御部
34 アナログ/デジタル変換器
36 変換段
38 角度推定器
44,46;52,54 変調ランプ
α 実際の入射角
θ 仮想の入射角
λ 波長
bb 振幅
rμ(θ) 制御ベクトル
tv(θ) 制御ベクトル
d アンテナ素子の位置
rμ
D 距離
f 周波数
fast,Fslow ランプ偏移
0,r 平均周波数
I,k 周波数ビン
,M,M 変調パターン
fast,Nslow 走査時点
P 測定サイクル
T 演算時間
t 時間
fast,Tslow ランプ継続時間
r2r 時間的な間隔、ランプ連続時間
V 相対速度
χbb 位相
Zf,Zf,Zf,Zf 中間周波数信号
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9a
図9b
図9c