特許第6266125号(P6266125)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ローズマウント インコーポレイテッドの特許一覧

特許6266125ダイアフラム式圧力センサ向けの、ライン圧力スパン影響の補償
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6266125
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】ダイアフラム式圧力センサ向けの、ライン圧力スパン影響の補償
(51)【国際特許分類】
   G01L 13/06 20060101AFI20180115BHJP
   G01L 9/12 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   G01L13/06 C
   G01L9/12
【請求項の数】21
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-558667(P2016-558667)
(86)(22)【出願日】2015年1月22日
(65)【公表番号】特表2017-512994(P2017-512994A)
(43)【公表日】2017年5月25日
(86)【国際出願番号】US2015012393
(87)【国際公開番号】WO2015147976
(87)【国際公開日】20151001
【審査請求日】2016年11月22日
(31)【優先権主張番号】14/225,763
(32)【優先日】2014年3月26日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】597115727
【氏名又は名称】ローズマウント インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092772
【弁理士】
【氏名又は名称】阪本 清孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119688
【弁理士】
【氏名又は名称】田邉 壽二
(72)【発明者】
【氏名】ウィルコックス,チャールズ,レイ
【審査官】 公文代 康祐
(56)【参考文献】
【文献】 特表昭57−501494(JP,A)
【文献】 特表2008−542726(JP,A)
【文献】 特開2005−345300(JP,A)
【文献】 特表2008−542717(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0178827(US,A1)
【文献】 実開昭56−052234(JP,U)
【文献】 実開平04−131742(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 7/00−23/32
G01L 27/00−27/02
H01L 29/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセス流体の差圧を検出する差圧センサであって、
キャビティ形状を有するセンサキャビティが内部に形成され、前記センサキャビティは、ライン圧力に応答して変形するセンサ本体変形キャビティを含むセンサ本体と、
前記センサキャビティ内にあり、加えられた差圧に応答して偏向するよう構成されたダイアフラムであって、前記キャビティ形状と当該ダイアフラム形状との間のギャップが前記差圧の関数として変化するようなダイアフラム形状を有するダイアフラムと、を備え、
前記キャビティ形状及び前記ダイアフラム形状のうちの少なくとも1つは、ライン圧力の関数として変化することで、前記ライン圧力による前記センサ本体の変形による前記ギャップの変化を補償する、差圧センサ。
【請求項2】
前記センサ本体は、前記ライン圧力に応答して変形するセンサ本体変形キャビティを含む、請求項1に記載の差圧センサ。
【請求項3】
前記センサ本体変形キャビティに接続する少なくとも1つの通気口を含む、請求項2に記載の差圧センサ。
【請求項4】
前記センサ本体変形キャビティが環状である、請求項2に記載の差圧センサ。
【請求項5】
第2のセンサ本体変形キャビティを含む、請求項2に記載の差圧センサ。
【請求項6】
前記ダイアフラムは、前記ライン圧力に応答して変形するダイアフラム変形キャビティを含む、請求項1に記載の差圧センサ。
【請求項7】
前記ダイアフラム変形キャビティが環状である、請求項6に記載の差圧センサ。
【請求項8】
前記ダイアフラム変形キャビティに接続する少なくとも1つの通気ポートを含む、請求項6に記載の差圧センサ。
【請求項9】
前記キャビティ形状上に支持された少なくとも1つのキャパシタ電極を含む、請求項1に記載の差圧センサ。
【請求項10】
少なくとも1つのキャパシタ電極と前記ダイアフラムとの間に形成される静電容量に基づいて前記差圧を測定することを含む、請求項9に記載の差圧センサ。
【請求項11】
前記センサ本体の形状上に支持された少なくとも2つの環状のキャパシタプレート電極を含む、請求項1に記載の差圧センサ。
【請求項12】
前記ライン圧力が加わった際の前記センサ本体変形キャビティの変形は、流体経路の半径方向に大きくなる請求項2に記載の差圧センサ。
【請求項13】
前記ライン圧力が加わった際の前記ダイアフラム変形キャビティの変形は、流体経路の半径方向に大きくなる請求項6に記載の差圧センサ。
【請求項14】
前記ダイアフラムは金属製である請求項1に記載の差圧センサ。
【請求項15】
前記ダイアフラムはセラミック製である請求項1に記載の差圧センサ。
【請求項16】
前記センサ本体は金属製である請求項1に記載の差圧センサ。
【請求項17】
前記センサ本体は絶縁体製である請求項1に記載の差圧センサ。
【請求項18】
前記センサ本体は、金属及び絶縁体によって製造されている請求項1に記載の差圧センサ。
【請求項19】
プロセス流体の差圧を検出する方法であって、
キャビティ形状を有するセンサキャビティを内部に形成し、前記センサキャビティは、ライン圧力に応答して変形するセンサ本体変形キャビティを含むセンサ本体へ、第1及び第2のプロセス圧力を加えることと、
前記センサ本体の前記センサキャビティ内にダイアフラムを配置することであって、前記第1の加えられた圧力と前記第2の加えられた圧力との間の圧力差に応答して前記センサ本体が偏向するように構成すると共に、前記ダイアフラムが前記キャビティ形状と当該ダイアフラム形状との間でギャップを形成するようなダイアフラム形状を有するようにし、当該ダイアフラムの偏向によって前記ギャップが前記圧力差の関数として変化するようにすることと、
前記センサ本体に加えられた前記ライン圧力による差圧測定誤差を、前記キャビティ形状及びダイアフラム形状のうち少なくとも1つを前記ライン圧力の関数として変化させることによって補償することと、
前記センサ本体内の前記ダイアフラムの偏向に基づいて差圧測定することと、を備える方法。
【請求項20】
センサ本体変形キャビティを前記センサ本体内に形成することを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
ダイアフラム変形キャビティを前記ダイアフラム内に形成することを含む、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロセス流体の圧力を測定するために使用されるタイプの圧力センサに関する。より詳細には、本発明は、ライン圧力による差圧測定の誤差を補償することに関する。
【背景技術】
【0002】
伝送器(トランスミッタ)は、プロセス監視および制御システムにおいて、産業プロセスの様々なプロセス変数を測定するために使用される。1つのタイプの伝送器として、プロセス中のプロセス流体の圧力を測定するものがある。このような伝送器に使用される圧力センサには、様々な技術が利用されている。周知の容量測定技術の1つとして、偏向可能なダイアフラムを使用することによるものがある。ここで、静電容量が2つの対向する表面間で測定されるが、この際、ダイアフラムがコンデンサの容量板の一方を形成し、もう一方の固定電極が第二のコンデンサ容量板を形成するという構成が利用され、当該固定電極は通常、センサ本体へと取り付けられている。ダイアフラムが加えられた圧力によって偏向することで、測定対象の静電容量が変化する。このような構成において、圧力測定の誤差要因が多数存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6,295,875号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうした誤差に対処する技術の一つが、フリック(Frick)らに2011年10月2日に発行された米国特許第6,295,875号「改良された誤差補償を有するプロセス圧力測定装置」に記載されている。ここで、当該特許文献はその全体が参照により本明細書に組み込まれるものとする。当該特許文献には、測定誤差の低減用の追加電極を含む差圧センサが記載されている。しかしながら、場合によっては、圧力センサに加えられるライン圧力によって、測定差圧に誤差が発生してしまうことがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
プロセス流体の差圧を検知するための差圧センサは、センサキャビティが内部に形成されると共にキャビティ形状を有するセンサ本体を含む。センサキャビティ内のダイアフラムは、加えられた差圧に応じて偏向する。ダイアフラムは、ダイアフラム形状を有する。キャビティ形状とダイアフラム形状との間に形成されるギャップは、差圧の関数として変化する。キャビティ形状及びダイアフラム形状の少なくとも1つは、ライン圧力の関数として変化し、センサ本体のライン圧力による変形に起因するギャップの変化を補償する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本発明に即して構成されたプロセス伝送器が用いられるプロセス測定システムを示す図である。
図2図1の伝送器の概略図である。
図3図2のプロセス伝送器の一部分の断面図である。
図4A】差圧および平行平板変位(図4C)の適用を示す、ダイアフラムおよびセンサ管のギャップの側面断面図である。
図4B】差圧および平行平板変位(図4C)の適用を示す、ダイアフラムおよびセンサ管のギャップの側面断面図である。
図4C】差圧および平行平板変位(図4C)の適用を示す、ダイアフラムおよびセンサ管のギャップの側面断面図である。
図5】圧力センサ本体に対するライン圧力の影響を示す断面図である。
図6】ライン圧力が印加されたダイアフラムの表面変化を示す図である。
図7】ライン圧力が印加された圧力センサのキャビティ形状の変化を示す図である。
図8】ライン圧力が印加されたダイアフラムの表面変化を示す図である。
図9】印加されたライン圧力による、ダイアフラムの表面変化とキャビティ形状の変化との複合的な影響を示す図である。
図10】内部キャビティを有するダイアフラムを含む圧力センサを示す側断面図である。
図11図10のダイアフラムの拡大断面図である。
図12図10のダイアフラムの平面図である。
図13A】ライン圧力の印加及びこれによるダイアフラム形状への影響を示す図である。
図13B】ライン圧力の印加及びこれによるダイアフラム形状への影響を示す図である。
図14】ライン圧力によるキャビティ形状変化の複合的効果を示す図である。
図15】センサ本体内の空洞を含む、別実施形態に係る圧力センサの側面断面図である。
図16A】圧力センサの片側部セルの断面図であり、当該センサ片側部セルの形状に対する印加されたライン圧力の影響を示す図である。
図16B】圧力センサの片側部セルの断面図であり、当該センサ片側部セルの形状に対する印加されたライン圧力の影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
背景技術の項で説明したように、差圧を測定する1つの技術として、ダイアフラムの偏向(たわみ、deflection)を測定することによるものがある。ダイアフラムは圧力センサ本体(body、ボディ)内に保持されている。しかしながら、センサ本体に印加される絶対圧またはゲージ圧(本明細書では「ライン圧力」と呼ぶ)は、センサ本体の変形を引き起こし、測定差圧に誤差をもたらすことがある。本発明は、センサ本体の形状におけるこれらの変化を補償し、それによってライン圧力の誤差を低減するセンサ構成を提供する。
【0008】
図1は、プロセス測定システム32の環境を概略的に示す図である。図1は、プロセス圧力を測定できるようにプロセス測定システム32へと結合されている加圧流体を含んだ、プロセス配管30を示している。プロセス測定システム32は、配管30に接続されたインパルス配管34を含む。インパルス配管34は、プロセス圧力伝送器36に接続されている。オリフィスプレート、ベンチュリ管、フローノズルなどの一次要素33は、インパルス配管34のパイプ間におけるプロセス配管30内の位置においてプロセス流体に接触している。一次要素33は、当該一次要素33を通過する際に流体に圧力変化を生じさせる。
【0009】
伝送器36は、インパルス配管34を通じてプロセス圧力を受け取るプロセス測定デバイスである。伝送器36は、プロセス圧力の差圧を検知し、当該検知した差圧をプロセス圧力の関数となる標準化された伝送信号に変換する。
【0010】
プロセス制御ループ38は、制御室40から送信機36へ向けての電力信号と双方向通信との両方を提供し、多数のプロセス通信プロトコルに従って構成することができる。図示の例では、プロセスループ38は2線式ループである。2線式ループを使用することで、4-20mA信号を用いた通常動作中に伝送器36との間ですべての電力および通信を送信することができる。ネットワークインターフェイス44を介したコンピュータ42または他の情報処理システムが、伝送器36との通信に使用される。リモート(遠隔)の電圧電源46が、伝送器36に電力を供給する。上述のループ構成に加えて、プロセス制御ループ38はまた、任意の適切なプロセス制御ループを備えていてもよい。例としては、デジタル情報が4-20mA電流上へと変調されるHART(登録商標)通信プロトコルや、Foundation Fieldbus又はProfibus通信プロトコルなどといったものが挙げられる。プロセス制御ループ18はまた、無線通信技術を用いて実装されてもよい。無線通信技術の一例として、IEC62591に従ったWirelessHART(登録商標)通信プロトコルがある。また、イーサネット(登録商標)または光ファイバを使用して実装されたものを含む、他の技術を用いるようにしてもよい。
【0011】
図2は、圧力伝送器36の簡略ブロック図である。圧力伝送器36は、互いにデータバス66を介して結合されたセンサモジュール52と電子回路基板72とを含む。センサモジュール電子回路60は、加えられる差圧54を受ける圧力センサ56へと接続している。データ接続部58は、センサ56をアナログ・デジタル変換器62へと接続する。オプションの温度センサ63も、センサモジュールメモリ64と共に示されている。電子回路基板72は、マイクロコンピュータシステム74、電子回路メモリモジュール76、デジタル・アナログ信号変換部78及びデジタル通信ブロック80を含む。フリック(Frick)らの米国特許第6,295,875号に記載された技術に従って、圧力伝送器36は差圧を測定する。しかしながら、本発明はこのような構成に限定されるものではない。
【0012】
図3は、センサモジュール52の一実施形態の簡略断面図であり、圧力センサ56を示すものである。圧力センサ56は、プロセス流体をキャビティ(空洞部、空間部)92から隔離する隔離ダイアフラム90を介して、プロセス流体に結合している。複数のキャビティ92はインパルス配管94を通じて圧力センサモジュール56へと結合している。実質的に非圧縮性の充填流体が、キャビティ92およびインパルス配管94を充填している。プロセス流体からの圧力がダイアフラム90に加えられると、当該圧力は圧力センサ56へと伝達される。
【0013】
圧力センサ56は、圧力センサの2つの片側部分(半分部分)114,116から形成され、好ましくは脆性(brittle)であり実質的に非圧縮性かつ電気絶縁性の材料105が充填されている。ダイアフラム106は、センサ56内に形成されたキャビティ132,134内に懸架(支持)されている。キャビティ132,134の外壁が、電極146,144,148,150を担持(支持)している。これらは一般に、一次又はメイン電極144,148、および二次電極146,150と呼ばれる。これらの電極は、可動であるダイアフラム106に対してキャパシタを形成する。同様にして、これらキャパシタは一次又はメインのキャパシタ、及び二次又はリング(環状)キャパシタと呼ばれる。
【0014】
図3に示すように、センサ56内の各種の電極は電気的接続部103,104,108及び110によってアナログ・デジタル変換器62へと接続されている。さらに、偏向(たわみ)可能なダイアフラム106が、接続部109を介してアナログ・デジタル変換器62へと接続されている。米国特許第6,295,875号に記載されているように、センサ56に印加される差圧を、電極144?150を用いて測定することができる。本明細書で使用される場合、「センサ本体」は、センサ片側部114,116によって形成されるものである。「センサキャビティ」は、領域132および134によって形成されるものである。「キャビティ形状」という用語は、キャビティ132または134の形状(プロファイル)を指すものである。図3に示す特定構成においては、電極144,146,148および150は、キャビティ形状上に担持されている。「ダイアフラム形状」という用語は、ダイアフラム106の形状(プロファイル)を指すものである。「ギャップ」という用語は、ダイアフラム形状上の点と空洞形状上の点との間の距離を指すものである。このギャップの大きさは、キャビティ形状の湾曲、ダイアフラム106の撓み(たわみ)、およびセンサ本体114,116の変形によるキャビティ形状の変形によって、半径方向に変化することに注意されたい。
【0015】
静電容量型圧力センサでは、ライン圧が加えられるにつれてキャビティが膨張するので、ライン圧力スパン(span line pressure)における誤差が生じる。キャビティサイズがこのように増加することによって、センサの有効スパンが減少し、ライン圧力の誤差が発生することとなる。結果として、静電容量型センサ、特に自由端ダイアフラムを組み込んだセンサは、補償されていないライン圧力スパンの影響を受けることとなる。
【0016】
自由端ダイアフラムの静電容量センサにおいてライン圧力スパンの誤差がどのように補正されるかを理解すべく、以下の説明において、図3に示すセンサ(リング電極を組み込んでいる)が様々な圧力状況下で機能する態様を簡潔に概観することとする。ここで、メイン電極が配置されているキャビティ中心におけるギャップ変化(δXmain)と、リング電極が配置されている外側半径におけるギャップ変化(δXring)と、の間の「差」に依存する、加えられた差圧(DP)に比例する出力を有する伝達関数を考え、Tfで表すものとする。図4Aおよび図4Bに、加えられたDPによってメインギャップおよびリングギャップが変化する態様を示す。DPが加えられている際にセル(個室)キャビティの湾曲がダイアフラムの湾曲と同じ形状をたどる場合は常に、リングギャップの変化率(fractional change;部分的変化)及びメインギャップの変化率は互いにスケーリングする、すなわち等しくなることに注意されたい。しかしながら、これらの「絶対」値は異なっており、このことによってDP測定が可能となっている。
【0017】
より詳細には、圧力が加えられていないダイアフラムを示す図4Aを参照されたい。リング偏向(たわみ)及びメイン偏向(たわみ)はゼロであるので、伝達関数もまたゼロとなる。次に、図4Bに示す場合を考えると、ここでは、ダイアフラムに差圧が加えられている。ここで、ダイアフラムは放物線状に偏向する。メイン位置とリング位置での絶対偏位(偏向の量)が異なるため、伝達関数出力は非ゼロとなり、加えられているDP圧力に比例する値となる。
【0018】
ここで、図4Cに示す場合を考えると、ダイアフラムは、静電容量センシング領域にわたってフラット(平坦)なオフセットを有することで、中心位置およびリング位置において計測されるギャップ変位が同じになっている。したがって、前述の説明の伝達関数の場合、出力は変化しないこととなる。換言すると、メイン電極及びリング電極におけるギャップ変位が同じである場合には常に、伝達関数Tfは「不変」(invariant)となる。このタイプの偏向を、従来呼ばれていたのと同様に、「平行平板」(pararell-plate)変位と呼ぶこととする。
【0019】
以下の式1で定義される伝達関数は、前述の伝達関数Tfの所望の特性を有していること、すなわち、当該関数は差圧に応答するが、リングギャップ及びメインギャップ間での変位が等しい場合は不変である、という特性を有していることを示すことができる。容量値を用いることによって、当該関数は次のように定義される。
【0020】
【数1】
【0021】
式1において、LおよびHはそれぞれ低圧側(Low)および高圧側(High)を表し、Aは前述の所望の不変性を満たすように選択された利得係数である。すなわち、当該利得係数Aの大きさは、メイン電極位置におけるギャップ変化とリング電極位置におけるギャップ変化との大きさが等しい場合は常に、メイン静電容量の「動的」な変化が、リング静電容量(の「動的」な)変化に固定利得係数Aを乗じたものと等しくなるように選択される。静電容量に基づくセンサ設計においては、ライン圧力が増加するにつれてキャビティの深さが増加することにより、スパンが減少する傾向があるという問題がある。この影響は、高いライン圧力において特に問題となる。数学的には、式2のように、半径(r)の関数としてのキャビティ深さは放物線の法則に従う。
【0022】
【数2】
【0023】
ここで、Rhは外側キャビティ(ヒンジ点)半径であり、X0は中心におけるキャビティ深さである。中心(半径=0)におけるLP(ライン圧力)印加によるキャビティ変化をΔX0で表す。半径とLP(ライン圧力)との関数としての、正味(net)のキャビティ深さは、次の式3によって記述することができる。
【0024】
【数3】
【0025】
次に、半径及びLP(ライン圧力)の関数としてのギャップ変化をδCLPと表記することとし、次の式4によって定義する。
【0026】
【数4】
【0027】
こうして、式3は次の式5のように書き直すことができる。
【0028】
【数5】
【0029】
適切に設計されたセンサセル本体の場合、δCLPで表記されるキャビティの変化は、近似的に放物線型の変化を示すと共に、rとLPの両方に依存する。δCLPの半径方向の依存性は放物線型であるため、ライン圧力によって引き起こされるキャビティ変化が見かけ上、DP変化のように見える。したがって、伝達関数はこのLP変化を実際のDP変化と区別することができず、結果として、当該LPの影響が出力誤差の原因となる。
【0030】
ここで、次の式6のように、これを「平行平板」オフセットδによって引き起こされる空洞変化と対比する。
【0031】
【数6】
【0032】
δはrとは独立であることに注意されたい。したがって、式5から新しい項を減算して、δCLPにおける半径方向依存性を相殺(キャンセル)して、正味変位の項をrとは独立にすることが可能であるが、当該変位の項は依然としてLPによって変化し得るものである。
この所望の関数をδCLPとして表記することで、式5は次の式7のようになる。
【0033】
【数7】
【0034】
結果として、求めるべき対象としての等式は次の式8の形をとる。
【0035】
【数8】
【0036】
ここで、δLPはLPにのみ依存し、半径rには依存しない。
数式検討より次の式9が得られる。
【0037】
【数9】
【0038】
こうして、δLPは簡潔に次の式10のように書ける。
【0039】
【数10】
【0040】
これは、所望の要件を満たす(すなわち、rに依存しない)ものとなっている。
【0041】
グラフィカルに示すと、図6に示すように、δDLPは半径rと共に変化するものである。δDLPをδCLPから減算することによる複合的な効果によって、半径とは独立であり、LPに伴ってのみ変化するギャップの有効変化が発生する。これは、図7図8及び図9に示されている。ここで、セル・キャビティにおける変化とダイアフラムにおける変化との組み合わせによって、キャビティ内の正味の固定されたオフセットがもたらされ、当該オフセットは半径によって変化しないようになっている態様に注意されたい。このことは、ギャップにのみ依存する静電容量の変化が、キャビティ内の任意の位置において、特に、メイン電極の位置またはリング電極の位置のいずれにおいても、同じになることを意味している。したがって、当該修正されたセンサは、平行平板オフセットのような伝達関数に現れるような方式によってLPと共に変化し、その結果変化しないものとなる。したがって、このようにして、LP影響に対して不変となるセンサがもたらされる。
【0042】
前述したギャップ形状の所望の変化(所望のように変化すること)は、任意の所望の構成によって実現することができる。一例の実施形態では、ダイアフラム、センサ本体、またはダイアフラムとセンサ本体の両方を変更(修正)することによって、当該所望の変化が実現される。図10は、本発明の一例の実施形態に係るダイアフラム106を含むセンサ本体56の拡大断面図である。図11は、ダイアフラム106の断面図であり、図12は、ダイアフラム106の平面図である。ダイアフラム106は、図11に示すダイアフラム変形キャビティ200を含む。図12に示すように、複数の通気口(通気ポート)202によって、ダイアフラム106のダイアフラム変形キャビティ200へと通気が提供される。通常は、これら通気口202は大気圧に通気されるが、本発明はこのような構成に限定されない。この構成では、ダイアフラム106は、ライン圧力が加えられると放物線状に形状が変化するように構成されている。具体的に、図13Aは、ライン圧力が加えられていない際のダイアフラム106の断面図を示している。しかし、図13Bに示されるように、ライン圧力が加えられた際に、センシング領域(すなわちメイン部及びリング部)に渡って偏向が所望の放物線形状を取ることで、破線によって示されるようにδDLPに要求される形状となることに注意されたい。このダイアフラムがセル片側部(半分の部分)と組み合わされると、キャビティの深さの複合変化(組み合わせられた変化)は半径とは独立のものとなり、リングのセンシング位置およびメインのセンシング位置に渡るライン圧力にのみ依存するものとなる。このことは図14に示されている。したがって、この修正されたダイアフラム106は、リング電極位置及びメイン電極位置において互いに等しいギャップ変化を生じるようなものとなる。したがって、前述の伝達関数と共に使用すれば、その出力はライン圧力に依存しないものとなる。
【0043】
図15は、本発明の別の一例の実施形態を示す図である。図15に示すように、センサ56の本体114,116には、センサ本体変形キャビティ210が形成されて含まれている。これらは、通気口212を介して外部圧力に接続される。この圧力は、例えば大気圧であってもよいが、本発明はこの構成に限定されない。図15では、ダイアフラム106は、標準的な自由端ダイアフラムとして示されている。
【0044】
図16Aは、ライン圧力が印加されていない際のセンサ56の片側部セル(ハーフセル)114を示す図である。図16Bに示すように、ライン圧力が加えられると、センサ本体変形キャビティ210は、ライン圧力によるギャップ変化が半径とは無関係となるような形で、変形する。
【0045】
上述の構成は、加えられるライン圧力による差圧測定におけるスパン誤差を大幅に低減する。たとえば、ライン圧が100 psi(重量ポンド毎平方インチ)の場合、改善されうる精度は10倍を容易に上回るものである。
【0046】
センサ本体114,116及び/又はダイアフラム106の製造は、任意の所望の技術に即したものとすることができる。特定の1つの製造技術として、金属または絶縁材料の印刷を含む3D印刷技術の使用によるものが含まれる。3D印刷技術は、所望のように金属または絶縁材料構造内にキャビティを形成することを可能にする。
本発明を好ましい実施形態を参照して説明してきたが、当業者は、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、形態および詳細に変更を加えることができることを認識するであろう。ダイアフラムおよびセンサ本体に関して、特定のキャビティ構成を示したが、他の構成を使用することもできる。キャビティには、変形するか、または形状が変化する材料が含まれてもよく、ガスまたは空気が含まれてもよい。任意の数のキャビティまたはキャビティ構成を採用することができる。キャビティ構成は、センサ本体のみ、ダイアフラムのみ、またはセンサ本体とダイアフラムの両方で使用することができる。上述においてはキャビティの説明を行ったが、本発明は、当該センサ本体及び/又はダイアフラムの剛性(rigidity)が、加えられるライン圧力とは比較的独立となるギャップ形状を達成するような形で、当該ギャップ形状が半径依存で変化しているような、センサ本体及び/又はダイアフラムを含むものである。本明細書で使用される場合、「キャビティ」という用語は、このような構成を含むものとする。様々な態様において、本発明は、半径方向に変化する表面形状を有するダイアフラムを提供し、特定の一実施形態では放射状に放物線形状を有するようなダイアフラムを提供する。1つの構成では、ダイアフラム及び/又はセンサの内部変形キャビティは、一般に半径方向に拡大するものである。当該ダイアフラムは、金属、セラミック、化合物またはその他の材料から製造することができる。特定の1つの製造技術として、3D印刷技術を利用するものが含まれる。別の態様では、本発明は、その中に形成されたキャビティを有するセンサ本体を提供する。センサ本体のキャビティ形状は半径方向に変化し、ある特定の実施形態では放物線状に変化する。1つの構成では、変形キャビティのサイズは半径方向に増大する。センサ本体は、金属、絶縁体、それらの組み合わせ、または他の材料で形成することができる。特定の構成では、センサ本体は3D印刷技術を用いて製造される。
【符号の説明】
【0047】
56…差圧センサ、132,134…センサキャビティ、114,116…センサ本体、106…ダイアフラム
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14
図15
図16A
図16B