(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の被膜形成方法について詳細に説明する。なお、本明細書における数値範囲(例えば「A〜B」)は、特に断りのない限り「A以上B以下」を意味する。
【0011】
本発明の被膜形成方法は、被覆材(液体)を基材に塗付し、塗膜を乾燥させることにより被膜を形成する方法であって、
(1)前記被覆材は、
重量平均分子量1万〜30万の易溶解性樹脂(a)100重量部に対して、
粉体(b)を200〜2000重量部、
溶媒(c)を50〜500重量部、及び
前記易溶解性樹脂(a)よりも大きな重量平均分子量を有する遅溶解性樹脂(d)を1〜100重量部含有し、
(2)前記塗付と前記乾燥との組み合わせからなる1工程(すなわち、前記塗付と前記乾燥との1サイクル)により形成される前記被膜の乾燥膜厚が400μm以上である、
ことを特徴とする。
【0012】
易溶解性樹脂(a)(以下「(a)成分」ともいう。)は、被膜形成時にバインダーとして作用するものである。(a)成分は、重量平均分子量1万〜30万(好ましくは、2万〜20万)であり、後述する溶媒(c)と混合した際に、容易に溶解するもの(溶解速度が速いもの)である。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定したものである。
【0013】
本発明における「易溶解性」とは、溶媒(c)に対する溶解性を示すものであり、25℃下、300ccのビーカー中、溶媒(c)180gに(a)成分を18g混合し、直ちに直径36mmの撹拌羽根を用いて撹拌羽根の先端周速0.5m/sで攪拌した場合に10分以内に完全に溶解することをいう。
【0014】
なお、本明細書において、「完全に溶解」とは、「目視観察において、粉状の樹脂が認められず、液が白濁しておらず、透明である状態」を意味する。また、撹拌開始から完全に溶解させるまでに要する時間を「完全溶解時間」という。
【0015】
このような(a)成分としては、上記条件を満たすものが使用できる。具体的には、熱硬化性樹脂及び/又は熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0016】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリブタジエン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリルスチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、単独又は2種以上で使用できる。本発明では(a)成分として、熱可塑性樹脂を含むことが好ましく、特に、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリルスチレン樹脂等の少なくとも1種が好ましい。
【0017】
アクリル樹脂としては、重合体を構成するモノマーとして(メタ)アクリル酸エステルを含む樹脂が使用できる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、iso−ブチルアクリレート、iso−ブチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、アクリルアミド、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸エステルは、単独又は2種以上で使用できる。なお、本明細書における(メタ)アクリルはアクリル又はメタクリルを意味する。
【0018】
ポリスチレン樹脂としては、重合体を構成するモノマーとしてスチレン系モノマーを含むものを使用できる。スチレン系モノマーとしては、例えば、スチレン、メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、メトキシスチレン、ブチルスチレン、クロロスチレン等が挙げられる。これらのスチレン系モノマーは、単独又は2種以上で使用できる。
【0019】
本発明では、(a)成分として、上記(メタ)アクリル酸エステル及び上記スチレン系モノマーを含むモノマー成分の重合体であるアクリルスチレン樹脂が好ましい。具体的には、このような(a)成分としては、例えば、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体、ビニルトルエン−アクリル酸エステル共重合体、ビニルトルエン−メタクリル酸エステル共重合体、ビニルトルエン−アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体等の樹脂が挙げられる。これらのアクリルスチレン樹脂は、単独又は2種以上で使用できる。
【0020】
一般に、(a)成分が上記熱可塑性樹脂の場合、高熱下では樹脂成分が軟化して被膜のずれ等を生じ被膜物性が低下するおそれがある。また、塗膜の厚膜化は難しい傾向にある。しかしながら、本発明では、(a)成分が上記熱可塑性樹脂である場合においても良好な被膜物性を保持することができる上、塗膜の厚膜化ができるため好適である。
【0021】
粉体(b)(以下「(b)成分」ともいう。)は、公知の被覆材に使用される粉体であれば特に限定されず、例えば、公知の着色顔料、体質顔料、或いは各種機能性粉体等が挙げられる。なお、本発明の(b)成分は、溶媒(c)に難溶性又は不溶性の粉体であり、被覆材において溶媒(c)中に分散して存在するものである。
【0022】
着色顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、酸化第二鉄(ベンガラ)、黄色酸化鉄、酸化鉄、酸化珪素、群青、コバルトグリーン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化インジウム、アルミナ等の無機着色顔料;アゾ系、ナフトール系、ピラゾロン系、アントラキノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジスアゾ系、イソインドリノン系、ベンゾイミダゾール系、フタロシアニン系、キノフタロン系等の有機着色顔料;パール顔料、アルミニウム顔料、蛍光顔料等が挙げられる。
【0023】
体質顔料としては、例えば、重質炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、軽微性炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、カオリン、陶土、チャイナクレー、タルク、沈降性硫酸バリウム、炭酸バリウム、ホワイトカーボン、珪藻土等が挙げられる。
【0024】
機能性粉体としては、例えば、断熱性、耐熱性、紫外線遮蔽性、赤外線遮蔽性、耐汚染性等の所望の機能を発揮するものが使用できる。(b)成分として、このような機能性粉体を含むことにより、被膜に所望の性能を付与できる。このような機能性粉体としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【0025】
断熱性付与粉体として、例えば、中空セラミックビーズ、中空樹脂ビーズ等の中空粒子が挙げられる。中空セラミックビーズを構成するセラミック成分としては、例えば、珪酸ソーダガラス、アルミ珪酸ガラス、硼珪酸ソーダガラス、カーボン、アルミナ、シラス、黒曜石等が挙げられる。中空樹脂ビーズを構成する樹脂成分としては、例えば、アクリル樹脂、スチレン樹脂、アクリル−スチレン共重合樹脂、アクリル−アクリロニトリル共重合樹脂、アクリル−スチレン−アクリロニトリル共重合樹脂、アクリロニトリル−メタアクリロニトリル共重合樹脂、アクリル−アクリロニトリル−メタアクリロニトリル共重合樹脂、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合樹脂等が挙げられる。
【0026】
このような中空粒子は、通常密度が低い(0.01〜1g/cm
3程度、好ましくは0.01〜0.5g/cm
3程度)ため、断熱効果に加えて、被膜の軽量化を図ることができるとともに、少量の添加で塗膜の厚膜化が可能であり、かつ肉痩せが抑制できる。
【0027】
耐熱性付与粉体としては、高温時に脱水冷却効果、不燃性ガス発生効果、結合剤炭化促進効果、炭化断熱層形成効果等の少なくとも1つの効果を発揮し、燃焼を抑制する作用を有するものであればよく、例えば、難燃剤、発泡剤、炭化層形成剤等が挙げられる。
【0028】
具体的には、難燃剤としては、例えば、トリクレジルホスフェート、ジフェニルクレジルフォスフェート、ジフェニルオクチルフォスフェート、トリ(β−クロロエチル)フォスフェート、トリブチルフォスフェート、トリ(ジクロロプロピル)フォスフェート、トリフェニルフォスフェート、トリ(ジブロモプロピル)フォスフェート、クロロフォスフォネート、ブロモフォスフォネート、ジエチル−N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノメチルフォスフェート、ジ(ポリオキシエチレン)ヒドロキシメチルフォスフォネート、三塩化リン、五塩化リン、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム等のリン化合物;塩素化ポリフェニル、塩素化ポリエチレン、塩化ジフェニル、塩化トリフェニル、塩素化パラフィン、五塩化脂肪酸エステル、パークロロペンタシクロデカン、塩素化ナフタレン、テトラクロル無水フタル酸等の塩素化合物;三酸化アンチモン、五塩化アンチモン等のアンチモン化合物;ホウ酸亜鉛、ホウ酸ソーダ、ホウ砂、ホウ酸等のホウ素化合物等が挙げられる。これらの難燃剤は、単独又は2種以上で使用できる。
【0029】
発泡剤としては、例えば、膨張性黒鉛;メラミン及びその誘導体、ジシアンジアミド及びその誘導体、アゾジカーボンアミド、尿素、チオ尿素等の含窒素発泡剤等が挙げられる。これらの発泡剤は、単独又は2種以上で使用できる。
【0030】
炭化層形成剤としては、例えば、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等の多価アルコール;デンプン、カゼイン等が挙げられる。これらの炭化層形成剤は、単独又は2種以上で使用できる。
【0031】
紫外線遮蔽性付与粉体としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム等が挙げられる。これらの紫外線遮蔽性付与粉体は、単独又は2種以上で使用できる。
【0032】
赤外線遮蔽性付与粉体としては、例えば、酸化亜鉛、アンチモン含有酸化亜鉛、アルミニウム含有酸化亜鉛、ガリウム含有酸化亜鉛、酸化錫、アンチモン含有酸化錫、リン含有酸化錫、酸化アンチモン、酸化インジウム、錫含有酸化インジウム、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化銅、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化タングステン、複合タングステン酸化物、ホウ化ランタン、酸化ルテニウム、複合ルテニウム酸化物等が挙げられる。これらの赤外線遮蔽性付与粉体は、単独又は2種以上で使用できる。
【0033】
耐汚染性付与粉体としては、例えば、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化亜鉛等が挙げられる。これらの耐汚染性付与粉体は、単独又は2種以上で使用できる。
【0034】
上記以外にも、その他各種機能性を付与する粉体を使用できる。
【0035】
本発明では、上記(b)成分として、上記耐熱性付与粉体を含むことが好ましい。耐熱性付与粉体による性能は、被覆材の高固形分化、塗膜の厚膜化等によって高めることができる。そのため、耐熱性付与粉体は、(b)成分に適している。この場合、高熱下における被膜のずれ等を抑制することもできる。特に、上記(a)成分が熱可塑性樹脂である場合に効果的である。
【0036】
上記(b)成分の配合比率は、上記(a)成分100重量部に対して、200〜2000重量部(好ましくは300〜1000重量部)である。このような配合比率であれば、塗膜の厚膜化に有利となる。また、(b)成分として機能性粉体を含む場合は、それら粉体の機能を十分に発揮させることもできる。
【0037】
溶媒(c)(以下「(c)成分」ともいう。)としては、非水系溶媒、水系溶媒のいずれも使用可能である。
【0038】
非水系溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ等の芳香族炭化水素系溶剤;石油ベンゼン、n−ヘキサン、n−ペンタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン、n−ウンデカン、n−ドデカンのほか、テルピン油やミネラルスピリット、ターペン、ケロシン等の脂肪族炭化水素系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ジクロルエタン、トリクレン、パークレン等の塩素化炭化水素類;メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール等のアルコール類;メチルセロソルブ、セロソルブソルベント、ブチルセロソルブ、イソブチルセロソルブ等のエーテルアルコール類等が挙げられる。これらの非水系溶媒は、単独又は2種以上で使用できる。
【0039】
水系溶媒としては、水を主成分とするものであり、必要に応じ、例えば、上記アルコール類、上記エーテルアルコール類等の親水性溶媒を混合することもできる。
【0040】
本発明では、(c)成分が非水系溶媒である場合に有利である。一般に、非水系溶媒を含む場合、被覆材の高固形分化等の手法により塗膜の垂れ防止、厚膜化は難しい傾向にある。しかしながら、本発明では、(c)成分が上記非水系溶媒である場合においても、被覆材を高固形分化することができ、塗膜の垂れ防止、厚膜化等において十分な効果を発揮することができる。
【0041】
上記(c)成分の混合比率は、上記(a)成分100重量部に対して、50〜500重量部(好ましくは60〜400重量部、より好ましくは80〜300重量部、さらに好ましくは100〜250重量部)である。このような場合、被膜物性を十分確保できるとともに、塗膜の垂れ防止と厚膜化が可能となる。また、各樹脂の溶解性、各粉体の分散性等の点でも好適である。
【0042】
遅溶解性樹脂(d)(以下「(d)成分」ともいう。)は、被覆材の粘性を制御するとともに、被膜形成時にバインダーとしても作用するものである。(d)成分は、上記(a)成分よりも大きな重量平均分子量を有するもの(30万超過、好ましくは40万以上)であり、溶媒(c)と混合した際に、容易に溶解しないもの(溶解速度が遅いもの)である。なお、(d)成分の重量平均分子量の好ましい上限値は500万であり、より好ましい上限値は400万である。
【0043】
本発明における「遅溶解性」とは、25℃下、300ccのビーカー中、溶媒(c)180gに(d)成分を18g混合し、直ちに直径36mmの撹拌羽根を用いて撹拌羽根の先端周速0.5m/sで攪拌した場合に10分以内では完全に溶解しないことをいう。(d)成分としては、このような条件で10分撹拌後に放置した場合、完全に溶解するまでに30分以上(より好ましくは1時間以上)要するもの(撹拌開始時を基準とする)が好適である。完全溶解時間の上限は限定的ではないが、48時間以下が好ましく、より好ましくは24時間以下である。
【0044】
このような(d)成分は、当初は粉状であり、溶媒(c)に対して僅かずつ溶解し、被覆材に粘性を付与する。具体的には、上記(a)成分、(b)成分、(c)成分との混合初期には、(d)成分は溶解し難いため被覆材の粘度は低く保持され、各成分が均一に分散することができる。その後、(d)成分が(c)成分に対して徐々に溶解し、被覆材に粘性を付与し、厚膜の塗膜を形成することができる。本発明では、(c)成分が比較的少量であっても、(b)成分等の分散性と、(d)成分の溶解性とを確保することができ、被覆材の高固形分化が可能となる。また、(d)成分は高分子量であるため、造膜性に優れ、形成被膜の物性を確保することができるとともに、高熱下における被膜のずれ抑制等にも寄与する。さらに、被覆材の塗付時に刷毛、ローラー等での作業性にも優れる。
【0045】
このような(d)成分としては、上記条件を満たすものが使用できる。(d)成分の樹脂種としては、具体的には、上記(a)成分と同種の樹脂が挙げられる。本発明では(d)成分として、熱可塑性樹脂が好ましく、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリルスチレン樹脂等の少なくとも1種が好ましい。さらに、(d)成分としては、上記(メタ)アクリル酸エステル及び上記スチレン系モノマーを含むモノマー成分の重合体であるアクリルスチレン樹脂が好ましい。具体的に、このような(d)成分としては、例えば、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体、ビニルトルエン−アクリル酸エステル共重合体、ビニルトルエン−メタクリル酸エステル共重合体、ビニルトルエン−アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体等の樹脂が挙げられる。これらのアクリルスチレン樹脂は、単独又は2種以上で使用できる。
【0046】
上記(d)成分の混合比率は、上記(a)成分100重量部に対して、1〜100重量部(好ましくは5〜80重量部)である。
【0047】
さらに、本発明の被覆材には、上記効果を損なわない程度に、各種の添加剤、例えば、増粘剤、可塑剤、乾燥調整剤、紫外線吸収剤、艶調整剤、分散剤、消泡剤、酸化防止剤、防黴剤、防腐剤等を適宜配合してもよい。なお、本発明の被覆材において、これらの添加剤は粉体(b)とは区別される成分である。
【0048】
本発明の被覆材は、上記易溶解性樹脂(a)、上記粉体(b)、上記溶媒(c)、及び上記遅溶解性樹脂(d)を均一に混合し、放置することにより調製することができる。つまり、上記易溶解性樹脂(a)、上記粉体(b)、上記溶媒(c)及び上記遅溶解性樹脂(d)を含有する混合物を調製し、当該混合物中で上記遅溶解性樹脂(d)を溶解させることにより被覆材を調製することができる。なお、(a)成分自体は樹脂であり、固形分を意味するが、被覆材を調製する段階では、予め(a)成分の一部又は全部を溶媒(c)に溶解させて溶液状として使用してもよい。この場合、(a)成分の一部又は全部を溶解するのに用いた溶媒(c)は、最終的に被覆材中の溶媒(c)の含有量に含まれる。
【0049】
上記易溶解性樹脂(a)、上記粉体(b)、上記溶媒(c)、及び上記遅溶解性樹脂(d)を均一に混合すると、上記(a)成分は上記(c)成分に容易に溶解するのに対し、上記(d)成分は上記(c)成分に徐々に溶解する。このような(a)成分と(d)成分の溶解性の特徴により、被覆材は、各成分を混合した当初は低粘度であるが、上記(d)成分の溶解により、被覆材に粘性が付与されて徐々に被覆材の粘度が上昇する。最終的に得られる被覆材の粘度は、好ましくは10〜80Pa・s(より好ましくは20〜50Pa・s)である。なお、当該粘度は、BH型粘度計による20rpmにおける粘度であり、測定温度は25℃である。
【0050】
本発明では、各成分を混合する際の手順として、例えば、上記(a)成分、上記(b)成分、及び上記(c)成分を含む混合物に、上記(d)成分を混合することが好ましい。具体的な各構成成分の混合手順としては、例えば、
[1]上記(a)成分と上記(b)成分を混合した後、上記(c)成分を混合し、次いで上記(d)成分を混合する方法。
[2]上記(a)成分と上記(c)成分を混合した後、上記(b)成分を混合し、次いで上記(d)成分を混合する方法。
等が挙げられる。なお、上記手順とは異なり、(d)成分を(c)成分に完全に溶解させた後に、他の成分と混合した場合は、高固形分化に不利となり、本発明の効果が得られ難くなる。
【0051】
上記手順において、(d)成分は粉末の状態で混合すればよいが、予め(c)成分に膨潤させた状態(完全に溶解していない状態)で混合してもよい。この場合、(d)成分を膨潤させるのに用いた溶媒(c)は、最終的に被覆材中の溶媒(c)の含有量に含まれる。
【0052】
また、上記手順において各成分の混合は、攪拌下で行うことができる。上記手順により各成分を混合した後は、常温(0〜45℃)下で、好ましくは30分以上(より好ましくは1時間以上)放置し、上記(d)成分を徐々に溶解させることにより被覆材が調製される。この間、必要に応じて攪拌を行ってもよい。このような手順により被覆材を調製することにより、本発明の効果を十分に発揮することができる。
【0053】
本発明の被覆材は、建築物・土木構築物等の構造物の表面被覆に適用することができる。具体的には、壁、柱、床、梁、屋根、階段、天井、戸等の各種基材に施工することができる。適用可能な基材としては、例えば、コンクリート、モルタル、サイディングボード、押出成形板、石膏ボード、パーライト板、煉瓦、プラスチック、木材、金属、ガラス、磁器タイル等が挙げられる。これらの基材は、その表面に既に被膜が形成されたもの、何らかの下地処理(防錆処理、難燃処理等)が施されたもの、壁紙が貼り付けられたもの等であってもよい。
【0054】
本発明の被覆材を塗付する際には、例えば、スプレー、ローラー、刷毛、こて等の塗付具を使用して、1工程又は数工程塗り重ねて塗付すればよいが、塗付と乾燥との組み合わせからなる1工程あたりの乾燥膜厚が400μm以上(好ましくは500〜2000μm)となるように塗膜を形成する。これにより、少ない塗工工程で、厚膜を形成することができる。乾燥条件は限定的ではないが、常温乾燥又は加熱乾燥により実施でき、加熱乾燥の場合には加熱温度は、50〜100℃程度である。乾燥時間は乾燥方法又は加熱温度により適宜調整することができる。
【0055】
最終的に形成される被膜の厚さは、所望の機能性、適用部位等により適宜設定すれば良いが、好ましくは0.4〜5mm程度である。本発明は、耐熱性を付与すべき基材に対して、(b)成分として耐熱性付与粉体を含む被覆材を塗付し、塗膜を乾燥させることにより耐熱性被膜を形成する用途に好適である。
【0056】
本発明では、上記被覆材により形成される被膜を保護するために、必要に応じてさらに上塗材を塗付することもできる。このような上塗材は、公知の被覆材を塗付することによって形成することができる。上塗材としては、例えばアクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、アクリルシリコン樹脂系、フッ素樹脂系等の被覆材を用いることができる。上塗材の塗付は、公知の塗付方法によればよく、例えば、スプレー、ローラー、刷毛等の塗装器具を使用することができる。
【実施例】
【0057】
以下に実施例を示して、本発明の特徴をより明確にする。但し、本発明はこの範囲には限定されない。
【0058】
(被覆材1〜11の調製)
表1に示す配合に従い、易溶解性樹脂(a)、粉体(b)、溶媒(c)及び添加剤を常法により混合した混合物に、遅溶解性樹脂(d)を混合し、25℃下、24時間放置し、当該遅溶解性樹脂(d)を溶解させることによって被覆材1〜11を調製した。被覆材9〜11は比較品である。なお、原料としては以下のものを使用した。
【0059】
・易溶解性樹脂1:スチレン−アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体(重量平均分子量8万、完全溶解時間1分)
・易溶解性樹脂2:スチレン−アクリル酸エステル共重合体(重量平均分子量6万、完全溶解時間1分)
・易溶解性樹脂3:スチレン−アクリル酸エステル共重合体(重量平均分子量18万、完全溶解時間2分)
・易溶解性樹脂4:スチレン−アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体(重量平均分子量2万、完全溶解時間1分)
・遅溶解性樹脂1:スチレン−アクリル酸エステル共重合体(重量平均分子量110万、完全溶解時間5時間)
・遅溶解性樹脂2:スチレン−アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体(重量平均分子量130万、完全溶解時間6時間)
・遅溶解性樹脂3:スチレン−アクリル酸エステル共重合体(重量平均分子量55万、完全溶解時間2時間)
・遅溶解性樹脂4:スチレン−アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体(重量平均分子量310万、完全溶解時間20時間)
なお、上記溶解時間は、25℃下、300ccのビーカー中、下記溶媒(芳香族炭化水素系溶剤)180gに各樹脂を18g混合し、直ちに直径36mmの撹拌羽根を用いて撹拌羽根の先端周速0.5m/sで10分撹拌し、その後放置したときの完全溶解時間(撹拌開始時を基準とする)を測定したものである。但し、易溶解性樹脂1〜4は、撹拌開始時から1分又は2分で完全溶解時間が認められた。
【0060】
・粉体1:酸化チタン
・粉体2:メラミン
・粉体3:ジペンタエリスリトール
・粉体4:ポリリン酸アンモニウム
・添加剤1:ワックス系増粘剤
・添加剤2:分散剤、消泡剤等
・溶媒:芳香族炭化水素系溶剤(キシレン)
【0061】
【表1】
【0062】
(実施例1〜8、比較例1〜3)
上記被覆材1〜11を用いて、次の各種評価を行った。結果を表2に示した。
【0063】
・垂れ性評価
予めさび止め塗装した鋼板(縦150mm×横70mm×厚さ1.6mm)の下部を養生テープ(幅30mm、厚さ5mm)で養生し垂直に立て、全面に被覆材をスプレーで塗付(乾燥膜厚1mm)した後、養生テープを剥がし、被覆材の塗付部から未塗付部への垂れを目視で評価した。評価基準は以下の通りである。
A:垂れは認められなかった(合格)。
B:未塗付部へ許容範囲の若干の垂れが認められた(合格)。
C:未塗付部へ顕著な垂れが生じた(不合格)。
【0064】
次いで、垂れ性評価で使用した被覆材が塗付された鋼板を25℃で7日間養生させたものを試験体とし、以下の評価を実施した。ただし、垂れ性評価において垂れが生じたもの(C判定)については、以下の評価を行わなかった。
・付着強度評価
上記試験体を使用し、水に24時間浸漬後、JIS K5600 付着強さの試験方法に準じて付着強度を測定した。評価基準は以下の通りである。
A:付着強さ3N/mm
2以上
B:付着強さ2N/mm
2以上3N/mm
2未満
C:付着強さ2N/mm
2未満
【0065】
・耐熱性評価
上記試験体の裏面から25mmの位置にヒーター(ヒーター温度680℃)を設置し、ヒーターにより試験体を加熱し、被膜のずれの有無を評価した。評価基準は以下の通りである。
A:被膜のずれは認められなかった(合格)。
B:許容範囲の若干の被膜のずれが認められた(合格)。
C:顕著な被膜のずれが生じた(不合格)。
【0066】
【表2】