特許第6266201号(P6266201)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6266201放射性セシウム分離濃縮方法及び放射性セシウム分離濃縮装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6266201
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】放射性セシウム分離濃縮方法及び放射性セシウム分離濃縮装置
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/32 20060101AFI20180115BHJP
   G21F 9/28 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   G21F9/32 Z
   G21F9/28 Z
【請求項の数】14
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-114632(P2012-114632)
(22)【出願日】2012年5月18日
(65)【公開番号】特開2013-242194(P2013-242194A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2015年3月18日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 薫
(72)【発明者】
【氏名】阿部 清一
(72)【発明者】
【氏名】上林 史朗
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 淳
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 洋仁
(72)【発明者】
【氏名】釜田 陽介
(72)【発明者】
【氏名】宝正 史樹
(72)【発明者】
【氏名】西村 和基
【審査官】 藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−334511(JP,A)
【文献】 特開2013−120136(JP,A)
【文献】 特開2013−088323(JP,A)
【文献】 特開2013−122449(JP,A)
【文献】 特開2013−082604(JP,A)
【文献】 特開2013−108782(JP,A)
【文献】 特開2013−122440(JP,A)
【文献】 米国特許第6084147(US,A)
【文献】 災害廃棄物処理に向けた釜石溶融炉の再立上げ,JEFMA,日本,2012年 3月,No.60,p.40-43,URL,http://www.jefma/60/pdf/jefma60-4.pdf
【文献】 釜田陽介,他4名,溶融炉の熱化学分離機能を活用したセシウム、リンに関する実験的検討,廃棄物資源循環学会研究発表会講演集,日本,一般社団法人 廃棄物資源循環学会,2011年11月 7日,第22回廃棄物資源循環学会研究発表会,URL,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsmcwm/22/0/22_0_246/_pdf
【文献】 阿部清一,他5名,廃棄物溶融処理特性に対する四成分平衡状態図の適用に関する研究,廃棄物学会論文誌,日本,一般社団法人 廃棄物資源循環学会,2009年 2月17日,Vol.19,No.1,p.17-p.25,URL,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jswme/19/1/19_1_17/_pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/32
G21F 9/28
G21F 9/30
G01T 1/167
B09B 1/00−5/00
B09C 1/00−1/10
F23G 5/00
F23G 5/027
F23G 5/24−5/28
F23G 7/00−7/02
F23G 7/10−7/12
F23J 1/00−1/08
F23J 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転式表面溶融炉を用いて被処理物に含まれる放射性セシウムを分離濃縮する放射性セシウム分離濃縮方法であって、
被処理物に含まれる放射線量に基づいて前記回転式表面溶融炉への被処理物の投入量を調整することで、スラグに残存する放射線量が第一の所定レベルを下回りかつ飛灰に含まれる放射線量が第二の所定レベルを下回るように被処理物の単位時間当たりの溶融処理量を調整する調整工程と、
被処理物に塩素系助剤を添加する塩素系助剤添加工程と、
前記調整工程で調整され、塩素系助剤が添加された被処理物を還元性雰囲気で溶融して溶融スラグから放射性セシウムを揮散分離する分離工程と、
前記分離工程で揮散分離された放射性セシウムを捕集する捕集工程と、
を含む放射性セシウム分離濃縮方法。
【請求項2】
被処理物に融点降下剤を添加する融点降下剤添加工程を含む請求項記載の放射性セシウム分離濃縮方法。
【請求項3】
前記融点降下剤添加工程で被処理物に添加される融点降下剤が塩基度調整剤である請求項記載の放射性セシウム分離濃縮方法。
【請求項4】
前記塩基度調整剤が、カルシウム化合物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ホウ素化合物、鉄化合物の何れかから選択される何れか単一または複数の物質である請求項記載の放射性セシウム分離濃縮方法。
【請求項5】
前記分離工程で被処理物を還元性雰囲気で溶融するために、被処理物に還元剤を添加する還元剤添加工程をさらに含む請求項1からの何れかに記載の放射性セシウム分離濃縮方法。
【請求項6】
前記還元剤が、活性炭、グラファイト、カーボンブラック、コークス、木炭、プラスチック、草木、下水汚泥の何れかから選択される単一または複数の物質である請求項記載の放射性セシウム分離濃縮方法。
【請求項7】
前記分離工程は、空気比を1.2以下として、被処理物を還元性雰囲気で溶融する請求項1からの何れかに記載の放射性セシウム分離濃縮方法。
【請求項8】
前記塩素系助剤添加工程で被処理物に添加される塩素系助剤が、無機塩化物、塩酸、塩素系プラスチック、焼却飛灰の何れかから選択される単一または複数の物質である請求項1からの何れかに記載の放射性セシウム分離濃縮方法。
【請求項9】
前記無機塩化物に、塩化カルシウムまたは塩化第二鉄が含まれる請求項記載の放射性セシウム分離濃縮方法。
【請求項10】
被処理物が、放射線セシウムを含有する土壌、下水汚泥、浚渫汚泥または焼却灰である請求項1からの何れかに記載の放射性セシウム分離濃縮方法。
【請求項11】
被処理物に含まれる放射性セシウムを分離濃縮する放射性セシウム分離濃縮装置であって、
被処理物に含まれる放射線量に基づいて被処理物の単位時間当たりの溶融処理量を調整することで、スラグに残存する放射線量が第一の所定レベルを下回りかつ飛灰に含まれる放射線量が第二の所定レベルを下回るように調整する投入量調整装置と、
被処理物に塩素系助剤を添加する塩素系助剤添加装置と、
塩素系助剤が添加された被処理物を溶融して放射性セシウムを揮散分離する回転式表面溶融炉と、
前記回転式表面溶融炉で、被処理物を還元性雰囲気で溶融する還元性雰囲気調整機構と、
前記回転式表面溶融炉で揮散分離された放射性セシウムを含む飛灰を捕集する集塵機と、
を備えている放射性セシウム分離濃縮装置。
【請求項12】
被処理物に融点降下剤を添加する融点降下剤添加装置をさらに備えている請求項11記載の放射性セシウム分離濃縮装置。
【請求項13】
還元性雰囲気調整機構は、被処理物に還元剤を添加する還元剤添加装置、または、理論燃焼空気量と略等しいか、または理論燃焼空気量より少ない燃焼用空気量で燃料を燃焼させる燃焼用空気調整機構である請求項11または12記載の放射性セシウム分離濃縮装置。
【請求項14】
被処理物が、放射線セシウムを含有する土壌、下水汚泥、浚渫汚泥または焼却灰である請求項11から13の何れかに記載の放射性セシウム分離濃縮装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性セシウム分離濃縮方法及び放射性セシウム分離濃縮装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所等の核分裂反応を利用する機器等から漏洩した放射性物質で汚染された土壌や草木、海や河川等の自然環境を回復するために、放射性物質を含む被処理物から放射性物質を分離して濃縮する様々な方策が研究されている。
【0003】
放射性物質のうちでもヨウ素131、セシウム134、セシウム137は軽量であるため飛散し易く、また水溶性であるため放射能汚染の原因となる主要三核種といわれており、健康への影響が大きい。特に半減期が30年と長いセシウム137は、アルカリ金属で反応性も高く、土壌に吸着されると容易に除染できない。
【0004】
特許文献1には、原子力発電所等から発生する核種を含む濃縮廃液から効率よく減容した処分用均質固化体を形成することを目的として、原子力発電所などから発生する核種を含む濃縮廃液またはその蒸発残留物を溶融炉において溶融する溶融工程と、溶融炉内の溶融物を水中で急冷して水砕スラグを得る急冷工程と、該水砕スラグをセメントで固化し処分用均質固化体を形成する固化工程とを含むことを特徴とする濃縮廃液処理方法が提案されている。
【0005】
また、特許文献2には、放射性核種をガラス固化することを目的として、二つ以上の室を備える溶融炉において、ガラスを溶融させ、放射性成分をカプセルに入れる方法であって、ガラス供給材料を該溶融炉の主室に加え、溶融ガラスになるまで前記供給材料を加熱し、該溶融ガラスを該溶融炉の一つ以上の副室に流入させ、放射性成分を前記副室の前記ガラス溶融材料に加え、該放射性成分をカプセルに入れる方法が提案されている。
【0006】
しかし、放射性核種の全てを確実にスラグやガラスに閉じ込めることは困難であり、揮発した放射性核種を別途捕集しなければならないという問題があった。
【0007】
そこで、特許文献3には、揮発性のセシウムを溶融固体化中に捕捉させるために、塩素とスラグ層との接触を防止できる放射性固体廃棄物のプラズマ溶融処理方法として、放射性固体廃棄物をプラズマ加熱によって溶融させる放射性固体廃棄物のプラズマ溶融処理方法において、前記放射性固体廃棄物を250℃以上でかつセシウムの沸点未満の温度で予熱した後に前記プラズマ加熱溶融処理を行うことを特徴とする放射性固体廃棄物のプラズマ溶融処理方法も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003‐84092号公報
【特許文献2】特開平09‐329692号公報
【特許文献3】特開平10‐26696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、これら従来技術は、原子力発電所等から発生する核種を含む廃棄物を減容してスラグやガラスに閉じ込める技術であり、放射性物質、特に放射性セシウムで汚染された大量の土壌や、汚染物質を焼却した灰等の残渣や、汚染水を浄化した後の汚泥等の処理に適用することは困難であった。
【0010】
これら汚染土壌、灰等の残渣、汚泥等は膨大な量に達し、放射性物質が閉じ込められたスラグやガラスが相当な量に達するため、長期に渡り管理可能な保管場所を確保することが困難なためである。
【0011】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、土壌や焼却灰等の被処理物に含まれる放射性セシウムを効率的に分離濃縮して、大きく減容化することができる放射性セシウム分離濃縮方法及び放射性セシウム分離濃縮装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の目的を達成するため、本発明による放射性セシウム分離濃縮方法の第一特徴構成は、特許請求の範囲の請求項1に記載した通り、回転式表面溶融炉を用いて被処理物に含まれる放射性セシウムを分離濃縮する放射性セシウム分離濃縮方法であって、被処理物に含まれる放射線量に基づいて前記回転式表面溶融炉への被処理物の投入量を調整することで、スラグに残存する放射線量が第一の所定レベルを下回りかつ飛灰に含まれる放射線量が第二の所定レベルを下回るように被処理物の単位時間当たりの溶融処理量を調整する調整工程と、被処理物に塩素系助剤を添加する塩素系助剤添加工程と、前記調整工程で調整され、塩素系助剤が添加された被処理物を還元性雰囲気で溶融して溶融スラグから放射性セシウムを揮散分離する分離工程と、前記分離工程で揮散分離された放射性セシウムを捕集する捕集工程と、を含む点にある。
【0013】
本発明者らは、放射性セシウムが含まれる被処理物を溶融処理して放射性セシウムを揮散分離させ、揮散した放射性セシウムを捕集することにより、放射性セシウムを大幅に減容化するとともに、放射性セシウムが除去されたスラグを産業用原材料として再生する放射性セシウム分離濃縮方法に想到したが、アルカリ金属である放射性セシウムは反応性が強く、例えば土壌中のイオン交換体や有機物と容易に結合し、また粘土鉱物と強固に結合しているために沸点が高く、かなりの高温で被処理物を加熱して溶融スラグにしても、溶融スラグに十数%の放射性セシウムが残存し、容易に分離除去することができない状況であった。
【0014】
本願発明者らが予め実験したところ、放射性セシウムが2049Bq/kg混入した焼却主灰と、10450Bq/kg混入した飛灰を、主灰/飛灰が36/64の比率で回転式表面溶融炉に投入し、スラグと溶融飛灰の放射性セシウムを計測すると、スラグからセシウムが揮散する結果、集塵機で捕集された溶融飛灰に放射性セシウムが86.8%含まれることが明らかになった。そして、スラグから揮散したセシウムがダストとして析出して集塵機で捕集される結果、集塵機出口部ではセシウムが検出されず、ダストの捕集によって排ガスに含まれる放射性セシウムを除去することができることが判明したが、スラグに13%の放射性セシウムが残存することが判った。
【0015】
しかし、本発明者らは、鋭意試験研究を重ねた結果、被処理物に塩素系助剤を添加して溶融すると、放射性セシウムを高効率に揮散させて分離除去できるという新知見を得たのである。これは、セシウムが添加された塩素系助剤に含まれる塩素と結合して沸点が降下するためであると推測される。このような方法を用いれば、放射性セシウムで汚染された被処理物からほぼ確実に放射性セシウムを揮散させ、分離濃縮して大幅に減容化できるので、保管管理する必要がある放射性物質の容量を減らしながらも、分離されたスラグを産業用資源として有効利用できるようになる。
【0016】
また本願発明者らは、鋭意研究を行なった結果、塩素系助剤が添加された被処理物を還元性雰囲気で溶融することにより、放射性セシウムの分離効率をさらに向上させることができるという新知見を得た。酸素分圧が低い状況下で溶融処理することによって、例えばセシウムの酸化化合物が還元されて塩素と結合し、セシウムが有機物との結合体である場合には酸化される前に塩素と結合するといったように、放射性セシウムが塩化物に移行する反応が促進されるためであると推測される。
【0017】
しかも、被処理物に含まれる放射線量に基づいて回転式表面溶融炉への被処理物の投入量を調整して、被処理物の単位時間当たりの溶融処理量を調整する調整工程を備えることにより、スラグに残存する放射線量が第一の所定レベルを下回りかつ飛灰に含まれる放射線量が第二の所定レベルを下回るように調整できるようになり、処理後のスラグ及び飛灰の処理が適切に行なえるようになる。
【0018】
同第の特徴構成は、同請求項に記載した通り、上述した第一の特徴構成に加えて、被処理物に融点降下剤を添加する融点降下剤添加工程を含む点にある。
【0019】
さらに本願発明者らは、鋭意研究を行なった結果、被処理物に融点降下剤を添加することによって、溶融スラグからの放射性セシウムの分離効率をさらに向上させることができるという新知見を得た。被処理物の融点が高いと、スラグの骨格構造の結合が強く、塩素成分がセシウムと結合しようとしてもセシウムは骨格構造から離れることが出来ず、塩素とセシウムの結合は阻害され、結果として溶融スラグに放射性セシウムが残存する傾向が強くなるが、融点降下剤を添加することによって、スラグの骨格構造の結合が弱くなり、添加された塩素系助剤に含まれる塩素と放射性セシウムとのイオン結合の機会が促進されるためであると推測される。被処理物に融点降下剤を添加する時期は、塩素系助剤の添加工程の前後何れであってもよい。
【0020】
被処理物に塩素系助剤及び融点降下剤を添加するとともに、被処理物を還元性雰囲気で溶融することにより、被処理物中の放射性セシウムと塩素との結合機会を十分に確保することができ、高効率に放射性セシウムを揮散分離させることができるようになる。
【0021】
同第の特徴構成は、同請求項に記載した通り、上述した第の特徴構成に加えて、前記融点降下剤添加工程で被処理物に添加される融点降下剤が塩基度調整剤である点にある。
【0022】
塩基度とは、スラグの機能を表す尺度であり、(全塩基性スラグ成分の重量%の和)/(全酸性スラグ成分の重量%の和)で表され、簡易的にCaO(%)/SiO(%)で表される。CaO(%)/SiO(%)が1に近づくと相対的に融点が低く、流動性が上昇する。塩基度調整剤を添加することによって融点を降下させ、流動性を上昇させることができるようになる。
【0023】
同第の特徴構成は、同請求項に記載した通り、上述の第の特徴構成に加えて、前記塩基度調整剤が、カルシウム化合物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ホウ素化合物、鉄化合物の何れかから選択される何れか単一または複数の物質である点にある。
【0024】
塩基度調整剤として、カルシウム化合物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ホウ素化合物、鉄化合物、例えば、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化ホウ素、ほう砂、ホウ酸、酸化第一鉄、四酸化三鉄、酸化第二鉄等が好適に利用できる。
【0025】
同第の特徴構成は、同請求項に記載した通り、上述の第一から第の何れかの特徴構成に加えて、前記分離工程で被処理物を還元性雰囲気で溶融するために、被処理物に還元剤を添加する還元剤添加工程をさらに含む点にある。
【0026】
被処理物に還元剤を添加しておけば、被処理物を容易く還元性雰囲気で溶融することができる。
【0027】
同第の特徴構成は、同請求項に記載した通り、上述の第の特徴構成に加えて、前記還元剤が、活性炭、グラファイト、カーボンブラック、コークス、木炭、プラスチック、草木、下水汚泥の何れかから選択される単一または複数の物質である点にある。
【0028】
還元剤として、活性炭、グラファイト、カーボンブラック、コークス、木炭、プラスチック、草木、下水汚泥が好適に利用できる。特にプラスチック、草木、下水汚泥を用いれば経済性に富んだ処理が可能になる。
【0029】
同第の特徴構成は、同請求項に記載した通り、上述の第一から第の何れかの特徴構成に加えて、前記分離工程は、空気比を1.2以下として、被処理物を還元性雰囲気で溶融する点にある。
【0030】
被処理物を溶融するときに供給される燃焼用空気量を制限することによって、容易く被処理物を還元性雰囲気で溶融することができる。
【0031】
同第の特徴構成は、同請求項に記載した通り、上述の第一から第の何れかの特徴構成に加えて、前記塩素系助剤添加工程で被処理物に添加される塩素系助剤が、無機塩化物、塩酸、塩素系プラスチック、焼却飛灰の何れかから選択される単一または複数の物質である点にある。
【0032】
被処理物に添加する塩素系助剤として、無機塩化物、塩酸、塩素系プラスチック、焼却飛灰を好適に用いることができる。
【0033】
同第の特徴構成は、同請求項に記載した通り、上述の第の特徴構成に加えて、前記無機塩化物に、塩化カルシウムまたは塩化第二鉄が含まれる点にある。
【0034】
沸点が低い無機塩化物を用いると、無機成分が揮散して放射性セシウムを含む捕集物の量が増加する。しかし、塩化カルシウムまたは塩化第二鉄のような高沸点の無機塩化物を用いれば、カルシウム成分や鉄成分が揮散することなくスラグに残存し、放射性セシウムを含む捕集物の量を減らすことができる。
【0035】
同第の特徴構成は、同請求項10に記載した通り、上述の第一から第の何れかの特徴構成に加えて、被処理物が、放射性セシウムを含有する土壌、下水汚泥、浚渫汚泥または焼却灰である点にある。
【0036】
放射性物質で汚染された土壌、草木を含む汚染物の焼却灰、雨水に溶けた放射性セシウムが流入する下水処理場の下水汚泥、放射線セシウムが沈降した海や河川等の浚渫汚泥には比較的高濃度の放射性セシウムが濃縮されている。このような被処理物に本発明を適用することにより、放射性セシウムを効果的に分離濃縮して減容でき、大規模な保管スペースを確保しなくても厳重な管理下で長期にわたり保管することができ、除染されスラグとなった被処理物を様々な資源として安全に再利用することができるようになる。
【0037】
本発明による放射性セシウム分離濃縮装置の第一の特徴構成は、同請求項11に記載した通り、被処理物に含まれる放射性セシウムを分離濃縮する放射性セシウム分離濃縮装置であって、被処理物に含まれる放射線量に基づいて被処理物の単位時間当たりの溶融処理量を調整することで、スラグに残存する放射線量が第一の所定レベルを下回りかつ飛灰に含まれる放射線量が第二の所定レベルを下回るように調整する投入量調整装置と、被処理物に塩素系助剤を添加する塩素系助剤添加装置と、塩素系助剤が添加された被処理物を溶融して放射性セシウムを揮散分離する回転式表面溶融炉と、前記回転式表面溶融炉で、被処理物を還元性雰囲気で溶融する還元性雰囲気調整機構と、前記回転式表面溶融炉で揮散分離された放射性セシウムを含む飛灰を捕集する集塵機と、を備えている点にある。
【0038】
同第二の特徴構成は、同請求項12に記載した通り、上述の第一特徴構成に加えて、被処理物に融点降下剤を添加する融点降下剤添加装置をさらに備えている点にある。
【0039】
同第三の特徴構成は、同請求項13に記載した通り、上述の第一または第二の特徴構成に加えて、還元性雰囲気調整機構は、被処理物に還元剤を添加する還元剤添加装置、または、理論燃焼空気量と略等しいか、または理論燃焼空気量より少ない燃焼用空気量で燃料を燃焼させる燃焼用空気調整機構である点にある。
【0040】
同第四の特徴構成は、同請求項14に記載した通り、上述の第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、被処理物が、放射線セシウムを含有する土壌、下水汚泥、浚渫汚泥または焼却灰である点にある。
【発明の効果】
【0041】
以上説明した通り、本発明によれば、土壌や焼却灰等の被処理物に含まれる放射性セシウムを効率的に分離濃縮して、大きく減容化することができる放射性セシウム分離濃縮方法及び放射性セシウム分離濃縮装置を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】放射性セシウム分離濃縮装置の説明図
図2】放射性セシウム分離濃縮方法のフロー図
図3】都市ごみ焼却灰の組成説明図で、(a)は安定セシウム添加灰の組成説明図、(b)は放射性セシウム含有混合灰の組成説明図
図4】(a)は溶融温度が1350℃のときの試料中の塩素濃度に対するセシウム揮散率の特性図、(b)は溶融温度をパラメータとする試料中の塩素濃度に対するセシウム揮散率の特性図、(c)は塩素系助剤(CaCl)と還元剤(活性炭)を添加した場合のトータル塩素濃度に対するセシウム揮散率の特性図
図5】土壌の組成説明図で、(a)は模擬土の組成説明図、(b)は福島県で採取された放射性セシウム汚染土壌の組成説明図
図6】(a)は融点降下剤による模擬土壌の溶融性の特性図、(b)は放射性セシウム汚染土壌の溶融温度をパラメータとする試料中の塩素濃度に対するセシウム揮散率の特性図、(c)は被処理物に塩素系助剤(CaCl)と融点降下剤(塩基度調整剤)を添加した場合をパラメータとするセシウム揮散率の特性図
図7】(a)は下水汚泥焼却灰と都市ごみ焼却灰の試料中の塩素濃度に対するセシウム揮散率の特性図、(b)は塩基度とセシウム揮散率の特性図
図8】(a)は放射性セシウム含有下水汚泥焼却灰と安定セシウムが添加された模擬下水汚泥焼却灰の試料中の塩素濃度に対するセシウム揮散率の特性図、(b)は還元剤添加によるセシウム揮散率の特性図
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明による放射性セシウム分離濃縮方法及び放射性セシウム分離濃縮装置の実施形態を説明する。
図1には、本発明による放射性セシウム分離濃縮装置が示されている。放射性セシウム分離濃縮装置1は、被処理物に含まれる放射性セシウムを分離濃縮する装置で、放射性セシウムを含有する被処理物を集積する受入部2と、被処理物を溶融して放射性セシウムを揮散分離する溶融炉7と、溶融炉7で揮散分離された放射性セシウムを含む飛灰を捕集する集塵機11を備えている。
【0044】
受入れ部2に集積された被処理物を溶融炉7に搬送する搬送機構3が設けられ、搬送機構3で搬送される被処理物に塩素系助剤を添加する塩素系助剤添加装置4、還元剤を添加する還元剤添加装置5、融点降下剤を添加する融点降下剤添加装置6が設置されている。
【0045】
溶融炉7として回転式表面溶融炉が用いられ、当該溶融炉7で溶融された被処理物は溶融スラグとして下方に設置された冷却水槽8に滴下し、急冷されて水砕スラグとなり、排出機構13により槽外に排出される。尚、溶融炉7として燃料式溶融炉である回転式表面溶融炉以外に、アーク式やプラズマ式等の電気式溶融炉やコークス炉を用いることも可能である。尚、回転式表面溶融炉の炉室及び煙道9は耐火レンガや耐火セメント等の耐火物で被覆されている。
【0046】
被処理物に含まれる放射性セシウムは、溶融の過程で塩素と反応して塩化セシウムとなり、その殆どが揮散して排ガスとともに煙道9から流出する。煙道9に沿って、冷却装置10、第1集塵機11、中和剤添加装置12、第2集塵機13、白煙防止装置、煙突が配置されている。
【0047】
排ガスは、エコノマイザや冷却水噴霧機構を備えた冷却塔等で構成される冷却装置10で200℃程度に冷却され、塩化セシウム等に固化した放射性セシウムや重金属類を含む飛灰が第1集塵機11で捕集される。さらに、中和剤添加装置12によって消石灰(Ca(OH))が添加されて排ガスに含まれるHClやSOx等の酸性ガスが中和され、第2集塵機13でカルシウム塩として捕集された後に白煙防止装置で加熱されて煙突から排気される。尚、乾式で中和する場合には中和剤として消石灰が好適に用いられるが、消石灰に限るものではなく、例えば、湿式洗浄装置を利用する場合には水酸化ナトリウム(NaOH)も用いられる。
【0048】
第2集塵機13で捕集されたカルシウム塩は融点降下剤として利用される。このカルシウム塩には塩化カルシウムが含まれるので、塩素系助剤としての機能も有している。このシステムでは、融点降下剤と塩素系助剤がシステムの中で得られるので、経済性が良いシステムとなる。
【0049】
上述の放射性セシウム分離濃縮装置によって、図2に示す本発明の放射性セシウム分離濃縮方法が実行される。即ち、塩素系助剤添加装置4で被処理物に塩素系助剤を添加する塩素系助剤添加工程が実行され、融点降下剤添加装置6で被処理物に融点降下剤を添加する融点降下剤添加工程が実行され、還元剤添加装置5及び溶融炉7で、塩素系助剤及び融点降下剤が添加された被処理物を還元性雰囲気で溶融して溶融スラグから放射性セシウムを揮散分離する分離工程が実行され、第1集塵機11で排ガスに含まれる放射性セシウムを捕集する捕集工程が実行される。
【0050】
自然界に放出された放射性セシウムは、土壌中のイオン交換体や有機物と容易に結合し、また粘土鉱物と強固に結合しているために沸点が高く、かなりの高温で被処理物を加熱して溶融スラグにしても、溶融スラグに十数%の放射性セシウムが残存し、容易に分離除去することができない。放射性セシウム単体の沸点は641℃と比較的低いのであるが、他の物質と化合して沸点がかなり高く容易に揮散しない物質が生成されているためである。
【0051】
しかし、被処理物に塩素系助剤を添加して溶融すると、このような沸点がかなり高い物質であっても、塩素系助剤に含まれる塩素と放射性セシウムが結合して塩化セシウムとなり沸点が降下するため、溶融スラグから放射性セシウムを高効率に分離除去できるようになる。因みに塩化セシウムの沸点は1295℃であり、溶融炉7での被処理物の溶融温度を1300℃以上、好ましくは1350℃以上に調整することにより、放射性セシウムを含有する被処理物からほぼ確実に放射性セシウムを揮散させて分離することができるようになる。
【0052】
排ガス中に揮散した放射性セシウムは、冷却装置10で温度が下がると塩化セシウム等の固体となり、第1集塵機11で飛灰とともに捕集される。飛灰として捕集された放射性セシウムは十分に濃縮且つ減容化されているので、所定の管理下で長期に渡って保管するためにそれほど広大な保管スペースを確保する必要が無い。通常、スラグと飛灰の重量比は8:2であり、飛灰は被処理物に比して1/5になっている。つまり、被処理物と飛灰の比重が同じとすると、1/5に減容される。
【0053】
他方、分離されたスラグは、例えばコンクリート骨材、セメント材料、道路舗装材等の産業用資源として有効利用される。尚、スラグに含まれる放射性セシウムは極めて微量となるが、再利用のための用途がその放射線量に応じて制限される場合もある。この場合は、塩素系助剤や融点降下剤、還元剤等の量や被処理物に含まれる放射性セシウムの濃度、溶融炉の運転温度等を調整し、制限された放射線量となるように調整を行なう。
【0054】
塩素系助剤添加工程で被処理物に添加される塩素系助剤として、無機塩化物、塩酸、塩素系プラスチック、焼却飛灰の何れかから選択される単一または複数の物質が用いられ、無機塩化物として、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウムまたは塩化第二鉄が用いられ、高沸点の塩化物として塩化カルシウムまたは塩化第二鉄が好適に用いられる。尚、塩素が含まれていれば塩素系助剤として用いることができ、塩素ガスや有機系塩化物等であってもよい。
【0055】
沸点が低い無機塩化物を用いると、無機成分が揮散して放射性セシウムを含む捕集物の量が増加するとともに、揮散した無機物と塩素分とが再結合する頻度が高くなり、塩化セシウムに移行する放射性セシウムが減少し、放射性セシウムの揮散効率が抑制される虞があるが、塩化カルシウムや塩化第二鉄のような高沸点無機塩化物を用いれば、カルシウム成分や鉄成分が揮散することなくスラグに残存し、放射性セシウムを揮散させるために塩素を効率的に利用できるようになり、より好適である。また、カルシウム成分がスラグに残存することで、放射性セシウムを含む飛灰の量を減らすこともできる。
【0056】
塩素系助剤として塩素系プラスチックのうち塩素系廃プラスチックを用いれば別途の廃プラスチック処理設備で塩素系廃プラスチックを処理する必要が無くなり経済性が上がる。塩素系プラスチックの排ガスを中和処理するために消石灰等の中和剤が添加された焼却飛灰には本来的に塩素成分が多量に含まれているため、塩素系助剤として好適に利用でき、塩素系助剤として利用することで焼却灰を埋立て等の処理をする必要が無くなり経済性が上がる。
【0057】
塩素系助剤として塩素そのものを用いることも可能である。この場合には、溶融炉7に投入された被処理物に塩素ガスを吹き込むノズルを溶融炉に設置すればよい。さらに、塩素系助剤として、塩酸を用いることも可能である。この場合には、被処理物に塩酸を噴霧するノズルを設置すればよい。
【0058】
土壌のように被処理物の塩基度(CaO(%)/SiO(%))が低い場合には、被処理物に融点降下剤を添加することによって、溶融スラグからの放射性セシウムの分離効率をさらに向上させることができる。
【0059】
被処理物の塩基度(CaO(%)/SiO(%))が1から離れると融点が高くなり、被処理物の融点が高いと、SiOを主成分として陽イオン結合で構成されるスラグの骨格構造の結合が強く、骨格構造と結合しているセシウムとの結合力も強い。そのため、塩素成分がセシウムと結合しようとしてもセシウムは骨格構造から離れることが出来ず、塩素とセシウムの結合は阻害され、結果として溶融スラグに放射性セシウムが残存する傾向が強くなる。
【0060】
一方、融点降下剤を添加することによって、より低い温度で被処理物が溶融して流動性が上昇する。つまり、スラグの骨格構造の結合が弱くなり、セシウムはスラグの骨格構造から離れやすくなる。添加された塩素系助剤に含まれる塩素と放射性セシウムはイオン結合の機会が増加し、塩化セシウムに移行する反応が促進されるためである。そのため、放射性セシウムの揮散が促進されると推測される。被処理物に融点降下剤を添加する時期は、塩素系助剤の添加工程の前後何れであってもよい。
【0061】
尚、上述した実施の形態では、塩基度として簡易的な(CaO(%)/SiO(%))を指標として用いる場合を説明したが、塩基度はこれ以外にも様々な定義があり、廃棄物学会論文誌(Vol.19,No19,pp17-25,2008)に開示されている。例えば、以下の式で示すように、複数の成分で表すものもある。
(CaO+MgO+Fe+KO+NaO)/(SiO+Al)
このように複数の成分で表される塩基度では、単純に1で融点が低くなるのではなく、各成分の含有量にり複雑に定まるものである。
【0062】
融点降下剤添加工程で被処理物に添加される融点降下剤として塩基度調整剤が好適に用いられ、カルシウム化合物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ホウ素化合物、鉄化合物の何れかから選択される何れか単一または複数の物質、例えば、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化ホウ素、ほう砂、ホウ酸、酸化第一鉄、四酸化三鉄、酸化第二鉄等から選択される何れか単一または複数の物質が好適に用いられる。
【0063】
尚、融点降下剤として塩基度調整剤が好適に用いられるのは、被処理物の融点や溶融時の流動性を見る指標として塩基度が利用されるからである。簡易的な塩基度(CaO(%)/SiO(%))では1に近くなるほど融点は下がり、1から低い方に離れても、高い方に離れても融点は上がる傾向にある。また、前述の複数の成分で表される塩基度では、融点との相関は単純に一意の数値で表されるのではなく、各成分の比率により規定される塩基度の値が融点の指標となる。
【0064】
さらに、被処理物を還元性雰囲気、つまり酸素分圧が低い状況下で溶融することにより、被処理物中の放射性セシウムは酸素と結合する機会が減少し、塩素との結合機会を十分に確保することができるようになり、例えばセシウムの酸化化合物が還元されて塩素と結合し、セシウムが有機物との結合体である場合には酸化される前に塩素と結合するといったように、放射性セシウムが塩化物に移行する反応が促進され、高効率に溶融スラグから放射性セシウムを揮散分離させることができるようになる。
【0065】
そのために、還元剤添加工程で被処理物に添加される還元剤として、活性炭、グラファイト、カーボンブラック、コークス、木炭、プラスチック、草木、乾燥下水汚泥の何れかから選択される単一または複数の物質が好適に用いられる。下水汚泥には生物処理によって有機物が分解された炭素成分が含まれているため、還元剤として好適に利用できる。尚、プラスチックのうち廃プラスチックを用いれば経済性が上がり、塩素系プラスチックであれば塩素系助剤の役割も果たし、より好適に用いられる。
【0066】
被処理物を還元性雰囲気で溶融するために、還元剤添加工程で還元剤を添加することなく、分離工程つまり溶融炉7で被処理物を溶融処理する際に空気比が1.2以下となるように燃焼用空気を供給して還元性雰囲気で溶融しても良い。
【0067】
回転式表面溶融炉では空気比を1.1以下とすることでより安定した還元性雰囲気での溶融を行うことができる。また、回転式表面溶融炉であれば、バーナーに必要な空気と被処理物に含まれる可燃物を燃焼させる空気を調整する燃焼用空気調整機構14(図1中、破線で示されている。)を備えても良い。
【0068】
尚、理論燃焼空気量とは溶融に利用する燃料と被処理物に含まれる可燃物の燃焼に理論上必要な空気量のことであり、例えば、化石燃料を溶融熱源にする場合には、化石燃料の燃焼に必要な理論上の空気量と被処理物に含まれる炭素や水素などの可燃物の燃焼に必要な理論上の空気量の合計であり、電力を溶融熱源にする場合は、被処理物に含まれる炭素や水素などの可燃物の燃焼に必要な理論上の空気量のことである。
【0069】
空気比とは「実際に供給する空気量と理論燃焼空気量の比」つまり、(実際に供給する空気量)/(理論燃焼空気量)のことである。通常の溶融では未燃物が残らないよう完全燃焼を目指して、空気比は約1.3で運転し、排ガスには燃焼に利用されなかった酸素が含まれている。
【0070】
尚、溶融炉としてコークス炉を用いる場合には本来的に還元性雰囲気で溶融処理が実行される。また電気式溶融炉を用いる場合には空気比を1.2以下、つまり被処理物の理論燃焼空気量の1.2倍以下の燃焼用空気を供給する燃焼用空気調整機構を備えればよい。
【0071】
放射線セシウムを含有する土壌、下水汚泥、浚渫汚泥または焼却灰が被処理物として上述の放射性セシウム分離濃縮装置で好適に処理される。ここで、焼却灰には下水汚泥、家庭ごみ、産業廃棄物や瓦礫等の焼却灰と飛灰が含まれる。また、溶融炉7の煙道、特に炉室から冷却装置10の間に構成された後燃焼ゾーンの耐火レンガや耐火セメント等の耐火物には、排ガスの温度の低下とともに、揮散した放射性セシウムが析出して付着または浸透するため、耐火物の張替えメンテナンス時に汚染された耐火物を粉砕して被処理物として同様に処理することも可能である。
【0072】
ここに、全ての被処理物に対して上述の融点降下剤添加工程、還元剤添加工程を実行する必要は無い。例えば、被処理物が土壌であれば、塩基度が低いため融点降下剤添加工程を実行することが好ましいが、それほど塩基度が低くない焼却灰であれば必ずしも融点降下剤添加工程を実行する必要は無い。
【0073】
また、塩素系助剤、融点降下剤、または還元剤の添加量は、被処理物の性状に応じて適宜調整すればよい。例えば、被処理物が焼却灰(例えば焼却主灰と焼却飛灰の混合物)であれば、十分に塩素含有量が高いため、それほど大量に塩素系助剤を添加する必要は無い。
【0074】
さらに、塩素系助剤、融点降下剤、還元剤をそれぞれ別に添加する例を説明したが、被処理物の性状に大きな変化がない場合等では、同一の装置でまとめて投入してもよい。
【0075】
スラグに残存する放射線量が所定レベルを下回るように、被処理物に含まれる放射線量に基づいて溶融炉7に投入される被処理物の単位時間当たりの投入量を調整する投入量調整機構を備えてもよい。同様に、濃縮分離される飛灰に含まれる放射線量が所定レベルを下回るように、被処理物に含まれる放射線量に基づいて溶融炉7に投入される被処理物の単位時間当たりの投入量を調整する投入量調整機構を備えてもよい。
【0076】
つまり、投入量調整機構は、溶融処理によって放射線セシウムがスラグから揮散分離される比率に基づいて、処理後のスラグ或いは飛灰の処理が適切に行なえるように被処理物の単位時間当たりの投入量を調整するのである。
【0077】
上述の実施形態では第2集塵機13を備えた構成を説明したが、第2集塵機13を備えずに、中和剤を第1集塵機11の上流側で投入してもよい。集塵機として、バグフィルタ、電気集塵機、サイクロン等、どのような形態の集塵機を用いてもよいが、捕集率やメンテナンスを考慮するとバグフィルタが最適である。
【実施例】
【0078】
以下に実験例を説明する。第1の実験では、都市ごみ焼却灰に含まれる放射性セシウムを被処理物として本願発明方法を適用した場合の放射性セシウムの分離濃縮特性を調べた。図3(a)には、基材1として用いた放射性セシウムが含まれていない都市ごみ焼却灰に炭酸セシウム試薬を0.5%添加した模擬焼却灰の組成が示され、図3(b)には、基材2として用いた数千Bq/kgの放射性セシウムを含む都市ごみ焼却残渣である焼却灰と焼却飛灰及び混合灰の組成が示されている。
【0079】
両基材1,2に塩素系助剤として塩化カルシウム(CaCl)試薬及び還元剤として活性炭試薬を適量添加した複数の試料を作成し、各試料を所定温度に調整した電気マッフル炉の中で加熱溶融した。基材1では加熱前後のセシウム含有濃度変化からセシウムの揮散率を算出し、基材2では加熱前後の放射能濃度変化からセシウムの揮散率を算出した。これは放射性セシウムの量が非常に微量のため、重量を測定できないためである。
【0080】
図4(a)には、基材1の模擬焼却灰及び基材2の混合灰にそれぞれ塩化カルシウムを添加した試料と、基材2に用いた焼却飛灰と混合灰に対して、加熱温度が1350℃のときの試料中のトータル塩素濃度に対するセシウムの揮散率が示されている。図からも判るように、塩化カルシウムを添加することによりセシウムの揮散率が上昇することが確認された。
【0081】
図4(b)には、基材2の混合灰にそれぞれ異なる量の塩化カルシウムを添加した試料を用いて加熱温度を複数に振った場合の試料中のトータル塩素濃度に対するセシウムの揮散率が示されている。
【0082】
塩化セシウムの沸点1295℃より低い加熱温度ではセシウムの揮散率が低下するが、それより高い温度1350℃及び1450度では塩化カルシウムの添加量が増加するほどセシウムの揮散率が上昇することが確認された。
【0083】
図4(c)には、基材1及び基材2に塩化カルシウム及び活性炭を添加した場合のセシウムの揮散率が示されている。アルカリ金属であるセシウムは一価の形態が安定であり、金属単体への還元が起こり難いため、活性炭を単独で添加してもセシウムの揮散率の上昇は見られなかった。しかし、活性炭と塩化カルシウムを同時添加すると、基材近傍の酸素分圧が低下して相対的に塩化物への移行率が上昇するためと推測され、セシウムの揮散促進効果が発現して99%以上の揮散率が得られることが判明した。
【0084】
第2の実験では、土壌に含まれる放射性セシウムに対する本発明による分離濃縮特性を調べた。図5(a)には、基材3として真砂土とベントナイトを混合した模擬土の組成が示され、図5(b)には、基材4,5として福島県内で採取されたセシウム汚染土壌1,2の組成が示されている。
【0085】
基材3を用いて融点降下剤として酸化第二鉄(Fe)を添加したときの1350℃での溶融特性を調べた。長さ140mmの磁性ボードの上半分に融点降下剤の添加量が異なる複数の基材3を充填して5°傾斜させて配置し、1350℃に調整した電気炉で15分加熱し、その間に下半分の余長70mmのうち流下する比率を調査した。通常、この流下長割合(溶流度)が60%となる温度を溶流点とし、60%以上であれば溶融性が高いと判断する。
【0086】
このときの特性図が図6(a)に示されている。基材3に融点降下剤を添加しない場合には1500℃でも溶流しないが、酸化第二鉄を10重量%以上添加する(このとき塩基度が約0.4以上になる)と溶流度が60%以上となり溶融性が高まることが判明した。融点降下剤により融点が低下し、溶融スラグの粘性が低下したと評価できる。
【0087】
基材4,5に塩素系助剤として塩化カルシウムを添加した複数の試料を用いて、試料中のトータル塩素量に対するセシウムの揮散率を確認した。図6(b)に示すように、塩化カルシウムの添加量を増加するほどにセシウムの揮散率が上昇することが判明した。また、基材4,5に塩素系助剤として塩化カルシウムを添加し、融点降下剤として炭酸カルシウムを添加したときの各添加量に対するセシウムの揮散率を調べた。このときの加熱温度は1350℃である。図6(c)に示すように、塩素系助剤の添加量が同じでも融点降下剤を添加することにより塩基度(CaO/SiO)を1に近づけるほどセシウムの揮散率が上昇し、1から離れる場合は、塩基度の値が大きいほうがセシウムの揮散率が高いことが判明した。
【0088】
第3の実験では、下水汚泥を焼却処理した焼却灰の基材6と、図3(a)の基材1に対して、塩化カルシウムを添加した場合の揮散率の変化を確認した。図7(a)に示すように、下水汚泥の焼却灰は、都市ごみ焼却灰(図4(a))と比較して塩素系助剤の添加率が等しくてもセシウムの揮散率が低いという特性が確認された。
【0089】
図7(b)には、都市ごみ焼却灰に二酸化ケイ素(SiO)を添加して塩基度(CaO/SiO)を低下させた場合のセシウム揮散率と、図7(a)の塩化カルシウム5%添加時のセシウム揮散率28.3%とを対比した特性図が示されている。都市ごみ焼却灰の塩基度が低下するに連れてセシウムの揮散率が低下していることが確認できる。このことから、下水汚泥の焼却灰のような塩基度が低い被処理物であっても、塩基度を上昇させることによりセシウムの揮散率が上昇することが推測できる。
【0090】
図8(a)には、放射性セシウムで汚染された下水汚泥の焼却灰を基材7と、下水汚泥を焼却処理した焼却灰に炭酸セシウム試薬を添加した基材8とのトータル塩素濃度に対するセシウムの揮散率の特性が示されている。双方とも塩素濃度が上昇するに連れてセシウムの揮散率が上昇することが確認され、基材7は模擬焼却灰である基材8よりも高い揮散率であることも確認された。
【0091】
図8(b)には、この基材7に対して還元剤を添加した場合の特性の変化が示されている。塩化カルシウム30%と活性炭10%を同時に添加した場合、塩化カルシウム30%のみ添加するよりもセシウムの揮散率が上昇することが確認され、塩化カルシウム7%と乾燥汚泥を還元剤として添加すると、塩化カルシウム20%のみ添加する場合よりも高いセシウム揮散率であることが確認された。つまり乾燥汚泥が還元剤として有効に機能することが確認された。尚、塩化カルシウム7%という数値は、乾燥汚泥も含めた全灰分に対する割合で見ると20%程度に相当する。
【符号の説明】
【0092】
1:放射性セシウム分離濃縮装置
2:受入部
3:搬送機構
4:塩素系助剤添加装置
5:還元剤添加装置
6:融点降下剤添加装置
7:溶融炉
8:冷却水槽
9:煙道
10:冷却装置
11:第1集塵機
12:中和剤添加装置
13:第2集塵機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8