特許第6266203号(P6266203)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6266203窒素含有炭素材料、その製造方法及び燃料電池用電極
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  • 特許6266203-窒素含有炭素材料、その製造方法及び燃料電池用電極 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6266203
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】窒素含有炭素材料、その製造方法及び燃料電池用電極
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/05 20170101AFI20180115BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20180115BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20180115BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20180115BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20180115BHJP
【FI】
   C01B32/05
   H01M4/96 B
   H01M4/88 C
   H01M4/90 M
   H01M4/90 Z
   !H01M8/10
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-250559(P2012-250559)
(22)【出願日】2012年11月14日
(65)【公開番号】特開2014-97912(P2014-97912A)
(43)【公開日】2014年5月29日
【審査請求日】2015年9月25日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「固体高分子形燃料電池実用化推進技術開発/基盤技術開発/カーボンアロイ触媒」にかかる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】市原 健生
(72)【発明者】
【氏名】日名子 英範
(72)【発明者】
【氏名】難波江 裕太
【審査官】 磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−230099(JP,A)
【文献】 特開平05−000811(JP,A)
【文献】 特開2004−330181(JP,A)
【文献】 特開2009−291706(JP,A)
【文献】 特開2010−184859(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/117855(WO,A1)
【文献】 特開平08−180866(JP,A)
【文献】 特開2007−273371(JP,A)
【文献】 豊田優一他,アズルミン酸(青酸重合物)炭化物を用いたEDLCの特性評価,電池討論会講演要旨集,日本,(社)電気化学会電池技術委員会,2009年11月30日,p.273
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/05
H01M 4/88
H01M 4/90
H01M 4/96
H01M 8/10
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素原子を含有する炭化物からなる原料炭素材料に酸化性ガス雰囲気下で熱処理を施して酸化加熱処理物を得る第1の工程と、前記酸化加熱処理物に金属を除去することなく不活性ガス雰囲気下で熱処理を施す第2の工程と、を有し、
前記第1の工程における前記熱処理の温度が150℃以上であり、
前記第2の工程における前記熱処理の温度が、前記第1の工程における前記熱処理の温度よりも高い、窒素含有炭素材料の製造方法。
【請求項2】
前記酸化性ガスが、酸素、空気、水蒸気及び二酸化炭素からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1に記載の窒素含有炭素材料の製造方法。
【請求項3】
前記不活性ガスが、窒素及び/又は希ガスである、請求項1又は2に記載の窒素含有炭素材料の製造方法。
【請求項4】
窒素含有炭素材料が遷移金属を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の窒素含有炭素材料の製造方法。
【請求項5】
前記遷移金属が鉄及び/又はコバルトである、請求項4に記載の窒素含有炭素材料の製造方法。
【請求項6】
前記原料炭素材料が、窒素原子を有する有機化合物を熱処理により炭化する方法、窒素原子を有する金属錯体を熱処理により炭化する方法、及び窒素原子を有する化合物と炭素原子を有する化合物とを含む混合物を熱処理により炭化する方法からなる群より選択される方法で合成される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の窒素含有炭素材料の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法により得られた窒素含有炭素材料。
【請求項8】
請求項7に記載の窒素含有炭素材料を含む燃料電池用電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素含有炭素材料、その製造方法及び燃料電池用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素材料は、従来、吸着材等として主に使用されていたが、導電性等の電子材料物性、高い熱伝導率、低い熱膨張率、軽さ、耐熱性等の基本的な性質を持つために幅広い用途が検討されるようになってきている。特に最近はその化学的機能に着目されており、リチウムイオン二次電池用負極、キャパシタ用電極、固体高分子形燃料電池用電極、化学反応の触媒等の分野で検討されている。
【0003】
かかる炭素材料は、従来、椰子殻、石炭コークス、石炭又は石油ピッチ、フラン樹脂、フェノール樹脂等を原料とし、炭化処理して製造されている。
【0004】
近年になって、かかる炭素材料に他の元素を含有させて炭素材料の物性の幅をさらに広げて発展させようとする試みがある。こうした中で、最近、窒素原子をドープした炭素材料(以下、「窒素含有炭素材料」という。)を用いて酸素還元活性を発現させて、燃料電池用電極に用いるという検討が進められている。特に、窒素原子及び/又は遷移金属を有する炭化物(以下、「原料炭素材料」という。)をアンモニアガス流通下で熱処理して得られる材料は、熱処理前の原料炭素材料に比べて、酸素還元活性が格段に向上することが知られている。例えば、特許文献1では、窒素原子を有する高分子の有機化合物、窒素原子を有する低分子有機化合物、遷移金属塩、及び導電性炭素材料を炭化した原料炭素材料をアンモニアガス流通下で熱処理して酸素還元活性の高い電極触媒を合成している。また、特許文献2では、窒素原子を有する金属錯体及び高分子有機化合物、又は窒素を有する高分子有機化合物及び金属塩を炭化した原料炭素材料をアンモニアガス流通下で熱処理している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2011/055739号
【特許文献2】特開2011−230099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、アンモニアガス流通下での熱処理を工業スケールで行う場合、例えば、液体アンモニア貯蔵タンク、液体アンモニア蒸発器、排気ガス中のアンモニア除去装置及び各種アンモニア漏洩対策用の機器(ガス検知器等)が必要となる。さらに、全ての機器をアンモニア耐性のある素材で構成することが求められてしまう。
【0007】
そこで、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、アンモニアを用いなくても酸素還元活性の高い窒素含有炭素材料、その製造方法、及び、窒素含有炭素材料を含む燃料電池電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、アンモニアを用いなくても、原料炭素材料に所定の熱処理を施すことにより、最終的に得られる窒素含有炭素材料は、燃料電池用電極等の用途において、酸素還元活性が高くなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、下記のとおりである。
[1]窒素原子を含有する炭化物からなる原料炭素材料に酸化性ガス雰囲気下で熱処理を施して酸化加熱処理物を得る第1の工程と、前記酸化加熱処理物に金属を除去することなく不活性ガス雰囲気下で熱処理を施す第2の工程と、を有し、前記第1の工程における前記熱処理の温度が150℃以上であり、前記第2の工程における前記熱処理の温度が、前記第1の工程における前記熱処理の温度よりも高い、窒素含有炭素材料の製造方法。
[2]前記酸化性ガスが、酸素、空気、水蒸気及び二酸化炭素からなる群より選択される少なくとも一種を含む、上記の窒素含有炭素材料の製造方法。
[3]前記不活性ガスが、窒素及び/又は希ガスである、上記の窒素含有炭素材料の製造方法。
[4]窒素含有炭素材料が遷移金属を含む、上記の窒素含有炭素材料の製造方法。
[5]前記遷移金属が鉄及び/又はコバルトである、上記の窒素含有炭素材料の製造方法。
[6]前記原料炭素材料が、窒素原子を有する有機化合物を熱処理により炭化する方法、窒素原子を有する金属錯体を熱処理により炭化する方法、及び窒素原子を有する化合物と炭素原子を有する化合物とを含む混合物を熱処理により炭化する方法からなる群より選択される方法で合成される、上記の窒素含有炭素材料の製造方法。
[7]上記の製造方法により得られた窒素含有炭素材料。
[8]上記の窒素含有炭素材料を含む燃料電池用電極。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、アンモニアを用いなくても酸素還元活性の高い窒素含有炭素材料を得ることができる、窒素含有炭素材料、その製造方法、及び、窒素含有炭素材料を含む燃料電池電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る窒素含有炭素材料の製造方法の一例を説明するための工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。
【0013】
図1は、本実施形態の窒素含有炭素材料の製造方法を説明するための工程図である。図1に示すように、本実施形態の窒素含有炭素材料の製造方法は、原料炭素材料に酸化性ガス雰囲気下で熱処理を施して酸化加熱処理物を得る第1の工程S10と、酸化加熱処理物に不活性ガス雰囲気下で熱処理を施して窒素含有炭素材料を得る第2の工程S11とを有する。また、本実施形態の窒素含有炭素材料の製造方法は、工程S10に先だって、原料炭素材料を合成する工程S09を有していてもよい。
【0014】
工程S10では、原料炭素材料に酸化性ガス雰囲気下で熱処理を施して酸化加熱処理物を得る。得られた酸化加熱処理物は、原料炭素材料よりも比表面積が増大する。工程S10では、例えば、回転炉、トンネル炉、管状炉、流動焼成炉、及びマッフル炉等を用いて、原料炭素材料に熱処理を施す。
【0015】
工程S10において用いる原料炭素材料としては、窒素原子を含有しているものであれば特に限定されず、市販品を入手して用いてもよく、工程S09において公知の方法で合成されたものを用いてもよい。工程S09における原料炭素材料の合成方法としては、例えば、窒素原子を有する有機化合物を熱処理により炭化する方法、窒素原子を有する金属錯体を熱処理により炭化する方法、及び、窒素原子を有する化合物と炭素原子を有する化合物とを含む混合物を熱処理により炭化する方法が挙げられる。
【0016】
窒素原子を有する有機化合物としては、窒素原子を有する低分子の有機化合物、窒素原子を有する高分子の有機化合物のいずれであってもよく、それらの2種以上の混合物であってもよい。
【0017】
窒素原子を有する低分子の有機化合物とは、窒素原子を有する数平均分子量1000未満の有機化合物であり、具体的には、例えば、フタロシアニン、ポルフィリン、フェナントロリン、メラミン、アクリロニトリル、ピロール、ピリジン、ビニルピリジン、アニリン、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾ−ル、ベンゾイミダゾ−ル、ピリダジン、ピリミジン、ピペラジン、キノキサリン、ピラゾール、モルホリン、ヒドラジン、ヒドラジド、尿素、サレン、トリアジン及びシアヌル酸が挙げられる。窒素原子を有する高分子の有機化合物とは、窒素原子を有する数平均分子量1000以上の有機化合物であり、具体的には、例えば、アズルミン酸、メラミン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル−ポリメタクリル酸共重合体、ポリピロール、ポリビニルピロール、ポリビニルピリジン、ポリアニリン、ポリベンゾイミダゾ−ル、ポリイミド、ポリアミド、キチン、キトサン、ポリアミノ酸、絹、毛、核酸、DNA、RNA、ポリウレタン、ポリアミドアミン、ポリカルボジイミド、ポリビスマレイミド及びポリアミノビスマレイミドが挙げられる。
【0018】
また、窒素原子を有する金属錯体は、窒素原子を有する有機化合物又はイオンを配位子とする有機金属錯体であってもよく、配位子となる有機化合物又はイオンは、窒素原子を有するものであれば特に限定されず、例えば、フタロシアニン、ポルフィリン、フェナントロリン、アミン化合物、有機シアン化合物が挙げられる。有機金属錯体の金属種としては、例えば、Cr、Mn、Fe、Co、Ni及びCuが挙げられ、これらの中では、酸素還元活性の観点から、Fe及び/又はCoが好ましい。Feを含む有機金属錯体としては、例えば、鉄フタロシアニン、鉄ポルフィリン及び鉄フェナントロリンが挙げられ、Coを含む有機金属錯体としては、例えば、コバルトフタロシアニン、コバルトポルフィリン及びコバルトフェナントロリンが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0019】
炭素原子を有する化合物と混合する窒素原子を有する化合物としては、例えば、上記の窒素原子を有する有機化合物が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0020】
窒素原子を有する化合物と混合する炭素原子を有する化合物としては、炭化収率の高い(例えば、窒素ガス流通下で、1000℃、1時間熱処理を施して得られる炭素材料の収率が1%以上の)有機化合物及び炭素材料そのものが挙げられる。炭化収率の高い有機化合物としては、例えば、フェノール樹脂、ポリフルフリルアルコール、フラン、フラン樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、エポキシ樹脂、ポリ塩化ビニリデン、ポリチオフェン、ポリスルフォン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエステル、ポリ乳酸、ポリエ−テル、ポリエーテルエーテルケトン、セルロース、カルボキシメチルセルロース、リグニン、ピッチ、ポリカルバゾール、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル及びポリメタクリル酸が挙げられる。炭素材料そのものとしては、例えば、黒鉛、活性炭、アモルファスカーボン、カーボンブラック、石炭、木炭、コークス、カーボンナノチューブ、フラーレン及びグラフェンが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0021】
また、原料炭素材料は金属を有していなくてもよいが、酸素還元活性の観点から遷移金属を有していることが好ましく、あるいは、工程S10において原料炭素材料に遷移金属を添加したものに熱処理を施すことが好ましい。遷移金属としては、例えば、Cr、Mn、Fe、Co、Ni及びCuが好ましく、Fe及び/又はCoがより好ましい。遷移金属は窒素含有炭素材料の触媒活性点になると考えられるが、一方で遷移金属の含有量を少なくすることにより、工程S10において、原料炭素材料の酸化反応が過剰に促進するのを防ぎ、窒素含有炭素材料の収率が低下するのを抑制することができる。したがって、原料炭素材料における遷移金属と原料炭素材料に添加した遷移金属との含有量として、原料炭素材料中の遷移金属元素の濃度が質量基準で10ppm〜500000ppmであることが好ましく、50ppm〜20000ppmであることがより好ましく、100ppm〜10000ppmであることが更に好ましい。
【0022】
遷移金属を有する原料炭素材料の製造方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、窒素原子を有する有機化合物又はイオンを配位子とする有機金属錯体に熱処理を施す方法、及び、窒素原子を有する有機化合物と金属塩とを混合して、その混合物に熱処理を施す方法が挙げられる。これに加えて又は代えて、工程S10に先だって、原料炭素材料に金属錯体及び/又は金属塩を添加してもよく、原料炭素材料に金属錯体及び/又は金属塩を添加した後に熱処理を施してもよい。
【0023】
原料炭素材料を合成する際の熱処理(加熱処理)の条件は特に限定されないが、熱処理温度は、400℃〜1500℃であることが好ましく、500℃〜1200℃であることがより好ましく、600℃〜1000℃であることが更に好ましい。熱処理温度が400℃以上であると、最終的に得られる窒素含有炭素材料の収率をより高めることが可能となり、熱処理温度が1500℃以下であると原料炭素材料中の窒素含有量をより高く維持することが可能となる。また、同様の観点から、熱処理時間としては、5分間〜50時間であることが好ましく、15分間〜20時間であることがより好ましく、30分間〜10時間であることが更に好ましい。また、熱処理の際の周囲雰囲気は、特に限定されず、例えば、窒素ガス雰囲気下、希ガス雰囲気下、及び真空(減圧)下が挙げられる。
【0024】
また、原料炭素材料が遷移金属を有する場合、上記熱処理の後に、遷移金属の一部を除去するために、上記熱処理後の原料炭素材料を溶剤に接触させてもよい。接触させる方法は、後述の酸化加熱処理物及び/又は窒素含有炭素材料を溶剤に接触させる方法と同様であればよい。
【0025】
工程S10では、原料炭素材料の表面が酸化性ガスと反応してCOxになることによって比表面積が増大する。酸化性ガスとしては、例えば、酸素、空気、二酸化炭素、水蒸気、窒素酸化物及び硫黄酸化物が挙げられる。これらの中では、入手の容易性及び安全性の観点から、酸素、空気、水蒸気及び二酸化炭素からなる群より選択される少なくとも一種を含むと好ましく、これらを不活性ガスで希釈したものであってもよい。また、不活性ガスとしては、例えば、窒素、並びに、ヘリウム、ネオン及びアルゴンなどの希ガスが挙げられる。酸化性ガスにおける酸素、空気、二酸化炭素、水蒸気などの濃度は特に限定されないが、例えば、酸素であれば、1体積%〜100体積%であってもよく、空気であれば、5体積%〜100体積%であってもよく、二酸化炭素であれば、10体積%〜100体積%であってもよい。また、水蒸気は、100℃以上の100体積%の水蒸気であってもよいし、不活性ガスを水中でバブリングすることにより発生する飽和水蒸気であってもよく、その場合のバブリングにおける雰囲気の温度は10〜100℃であってもよい。
【0026】
上述のとおり、工程S10における熱処理(加熱処理)の条件は特に限定されないが、本発明による効果をより有効且つ確実に奏する観点から、酸化性ガスとして酸素又は空気を用いる場合の熱処理温度は、150℃〜700℃であることが好ましく、200℃〜500℃であることがより好ましい。同様の観点から、熱処理時間としては、10分間〜5時間であることが好ましく、20分間〜3時間であることがより好ましい。また、同様の観点から、ガスの流量は、原料炭素材料の量(g)に対して、0.01〜100NL/minであることが好ましく、0.1〜10NL/minであることがより好ましい。
【0027】
酸化性ガスとして二酸化炭素を用いる場合の熱処理温度は、本発明による効果をより有効且つ確実に奏する観点から、400℃〜1200℃であることが好ましく、500℃〜1100℃であることがより好ましい。同様の観点から、熱処理時間としては、10分間〜5時間であることが好ましく、20分間〜3時間であることがより好ましい。また、同様の観点から、ガスの流量は、原料炭素材料の量(g)に対して、0.01〜100NL/minであることが好ましく、0.1〜10NL/minであることがより好ましい。
【0028】
酸化性ガスとして水蒸気を用いる場合の熱処理温度は、本発明による効果をより有効且つ確実に奏する観点から、400℃〜1200℃であることが好ましく、500℃〜1100℃であることがより好ましい。同様の観点から、熱処理時間としては、10分間〜5時間であることが好ましく、20分間〜3時間であることがより好ましい。また、同様の観点から、ガスの流量は、原料炭素材料の量(g)に対して、0.01〜100NL/minであることが好ましく、0.1〜10NL/minであることがより好ましい。
【0029】
次に、工程S11では、工程S10を経て得られた酸化加熱処理物に、不活性ガス雰囲気下で熱処理(加熱処理)を施して、酸素還元活性の高い窒素含有炭素材料を得る。一般に、高い酸素還元活性を発現するためには、活性点が多く、比表面積が大きく、導電性が高い酸素還元触媒が求められる。工程S10を経ることにより、酸化加熱処理物の比表面積は増大するが、酸化によって活性点が被毒され、導電性が低下すると考えられる。そこで、更に工程S11を経ることによって、活性点及び導電性が回復するものと推察される。工程S11では、例えば、回転炉、トンネル炉、管状炉、流動焼成炉、及びマッフル炉等を用いて、酸化加熱処理物に熱処理を施す。
【0030】
工程S11において用いる不活性ガスとしては、例えば、窒素、並びに、ヘリウム、ネオン及びアルゴンなどの希ガス又は減圧下が挙げられるが、設備の簡略化の観点から、窒素及び希ガスが好ましい。不活性ガスには、熱処理中に酸化加熱処理物から発生するガスと加熱処理物との再反応を抑制する機能がある。そのような機能をより有効かつ確実に発揮させる観点から、工程S11において、不活性ガスを系内に流通させながら熱処理を施すことが好ましい。この場合、同様の観点から、酸化加熱処理物の量(g)に対する不活性ガスの流量は0.001NL/min以上であることが好ましく、0.01NL/min以上であることがより好ましく、0.1NL/min以上であることが更に好ましい。
【0031】
工程S11における熱処理は、炭素材料の還元を十分に行い、かつ酸化加熱処理物からの窒素原子の脱離を抑制する条件であることが好ましい。このような観点から、熱処理温度は、工程S10における熱処理温度よりも高いことが好ましく、また、600℃〜1300℃であることが好ましく、700℃〜1200℃であることがより好ましく、800℃〜1100℃であることが更に好ましい。また、同様の観点から、熱処理時間は10分間〜5時間であることが好ましく、20分間〜3時間であることがより好ましく、30分間〜2時間であることが更に好ましい。
【0032】
上記工程S11を経て得られる本実施形態の窒素含有炭素材料は、その用途によって、所望の平均粒子径を有するように調整され得る。窒素含有炭素材料を電極として用いる場合、電極としての性能を効率的に発揮するためには、その平均粒子径(体積基準のメディアン径:50%D)を適切に調整することが好ましい。具体的には、電極の比活性と電極内の物質輸送との観点から、窒素含有炭素材料の平均粒子径は、1nm以上100μm以下であることが好ましく、5nm以上10μm以下であることがより好ましく、10nm以上1μm以下であることが更に好ましい。窒素含有炭素材料の粒子径を調整する方法は特に限定されず、所定の粒子径である原料炭素材料を用いてもよいし、工程S10及び/又は工程S11の後に粉砕を行ってもよい。粉砕の方法としては、以下の方法に限らないが、例えば、酸化加熱処理物及び/又は窒素含有炭素材料をボールミル、ビーズミル、ジェットミル等にて粉砕する方法が挙げられる。
【0033】
最終的に得られる窒素含有炭素材料は、遷移金属を含有していなくてもよいが、酸素還元活性の観点から遷移金属を含有していることが好ましい。遷移金属としてはCr、Mn、Fe、Co、Ni及びCuが好ましく、Fe及び/又はCoであることがより好ましい。ただし、遷移金属の状態によっては、工程S10、工程S11の熱処理中に、原料炭素材料、酸化加熱処理物から窒素原子を引き抜いて活性点を減少させたり、電極として使用する際に有害な不純物として機能したりすることがある。そのため、工程S10、工程S11の間において、あるいは、最終的に得られる窒素含有炭素材料中の遷移金属濃度は適正な範囲に保つことが必要であり、金属元素の質量濃度が10ppm〜100000ppmであることが好ましく、50ppm〜10000ppmであることがより好ましく、100ppm〜1000ppmであることが更に好ましい。遷移金属濃度を調整する方法として、所定の遷移金属濃度である原料炭素材料を用いる方法、原料炭素材料に遷移金属を添加する方法、工程S10及び/又は工程S11の後に遷移金属を添加する方法、工程S10及び/又は工程S11の後に遷移金属の少なくとも一部を除去する方法が挙げられる。
【0034】
工程S10及び/又は工程S11の後に遷移金属を添加する方法としては、特に限定されないが、金属塩若しくは金属錯体を含有する液に酸化加熱処理物及び/又は窒素含有炭素材料を浸漬し、その後に乾燥させる方法が好ましい。鉄塩若しくは鉄錯体として、具体的には、鉄(II)フタロシアニン、鉄(III)アセチルアセトネート、鉄(II)メトキシド、鉄(III)エトキシド、鉄(III)イソプロポキシド、ビス(シクロペンタジエニル)鉄、ビス(メチルシクロペンタジエニル)鉄、ビス(エチルシクロペンタジエニル)鉄、ビス(イソプロピルシクロペンタジエニル)鉄、ビス(テトラメチルシクロペンタジエニル)鉄、塩化第二鉄、クエン酸第二鉄、リン化第二鉄、酒石酸第二鉄、フマル酸第一鉄、ヘキサシアノ鉄(II)酸アンモニウム、ヘキサシアノ鉄(II)酸アンモニウム鉄(III)、シュウ酸アンモニウム鉄(III)三水和物、硫酸鉄(III)アンモニウム、硫酸アンモニウム鉄(III)、ビス(シクロペンタジエニル)鉄、塩化第二鉄、エチレンジアミン四酢酸鉄、クエン酸鉄アンモニウム、硝酸第二鉄、酢酸鉄(II)、フマル酸鉄(II)、グルコン酸鉄(II)、シュウ酸鉄及び水酸化鉄(III)を例示できる。また、コバルト塩若しくはコバルト錯体として、具体的には、コバルト(II)フタロシアニン、コバルト(II)トリフルオロアセチルアセトナート、ビス(シクロペンタジエニル)コバルト、ビス(イソプロピルシクロペンタジエニル)コバルト、ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)コバルト、ビス(テトラメチルシクロペンタジエニル)コバルト、ホウ酸コバルト、ヒドロキシ酢酸コバルト、ナフテン酸コバルト、ビス(エチルシクロペンタジエニル)コバルト、硫酸コバルト(II)アンモニウム、ビス(1,5−シクロオクタジエン)コバルト、ビス(テトラメチルシクロペンタジエニル)コバルト、臭化ヘキサアンミンコバルト(II)、塩化ヘキサアンミンコバルト(II)、酢酸コバルト(II)四水和物、アセチルアセトン酸コバルト(II)、硫酸コバルトアンモニウム、塩化コバルト(II)、臭化コバルト、炭酸コバルト(II)、ギ酸コバルト(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトコバルト(II)、酸化コバルト(II)、ヒドロキシ酢酸コバルト(II)、乳酸コバルト(II)、硝酸コバルト、シュウ酸コバルト(II)、2,4−ペンタンジオン酸コバルト(II)、硫酸コバルト、アミド硫酸コバルト、及び水酸化コバルトを例示できる。上記液の媒質には、用いる金属塩若しくは金属錯体を溶解する溶媒を用いることが好ましい。
【0035】
工程S10及び/又は工程S11において、遷移金属の少なくとも一部を除去する方法としては、酸化加熱処理物及び/又は窒素含有炭素材料を溶剤に接触させる方法が好ましい。これに用いる溶剤としては、硫酸、硝酸、塩化水素及びリン酸に代表される酸、並びにそれらの酸の水溶液が例示できる。これらの中では、取り扱いの観点から水溶液が好ましい。溶剤として酸の水溶液を用いて酸化加熱処理物及び/又は窒素含有炭素材料に接触させる場合、遷移金属をより効率的に除去する観点から、溶剤のpHが4以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましく、2以下であることが特に好ましい。このようなpHになるよう、酸の水溶液中の酸濃度を調整すればよい。酸又は酸の水溶液の温度は特に限定されないが、酸又は酸の水溶液が安定的な状態で効率的に除去処理を行う観点から、0〜100℃であることが好ましく、10〜50℃であることがより好ましい。溶剤を接触させる方法としては、酸化加熱処理物及び/又は窒素含有炭素材料を溶剤に浸漬する方法、酸化加熱処理物及び/又は窒素含有炭素材料に溶剤を噴霧する(吹き付ける)方法が挙げられる。酸化加熱処理物及び/又は窒素含有炭素材料を溶剤に浸漬する際、酸化加熱処理物や窒素含有炭素材料及び/又は溶剤を撹拌等により揺動すると、遷移金属の除去効率が更に向上するから好ましい。
【0036】
本実施態様の窒素含有炭素材料は、炭素原子に対する窒素原子の原子数比(N/C)が0.001〜0.6であると好ましい。また、CuKα線をX線源として得られるX線回折図において、回折角(2θ)が23.5〜27.0°の位置にピークを有していることが好ましい。これらが上記数値範囲内にあることにより、窒素含有炭素材料は、本発明による作用効果をより有効且つ確実に奏することができる。
【0037】
上記(N/C)は、より好ましくは0.003以上、更に好ましくは0.005以上、特に好ましくは0.01以上である。また、上記(N/C)は、より好ましくは0.5以下、更に好ましくは0.4以下、特に好ましくは0.3以下である。
【0038】
上記回折角(2θ)は、より好ましくは24.0〜26.5°の位置に、更に好ましくは24.5〜26.4°の位置にピークを有する。
【0039】
本実施形態の窒素含有炭素材料は、固体高分子型に代表される燃料電池用電極、金属−空気電池用電極等の各種電極の材料として用いることができ、その電極としての活性は従来のアンモニア処理炭素材料と同等以上の酸素還元活性を有し、かつアンモニア処理炭素材料よりも簡便な設備において製造可能である。また、本実施形態の窒素含有炭素材料は、各種化学反応の触媒としても用いることが可能である。
【0040】
本実施形態の窒素含有炭素材料を用いた、すなわちこれを含む電極を作製する方法は特に限定されず、従来の炭素材料と同様の一般的な方法で作製することができる。例えば、窒素含有炭素材料とプロトン伝導性物質とを溶媒中で混合してペースト状とし、これをプロトン伝導性膜に直接塗布した後に、その塗布層を乾燥させることにより電極を作製することができる。プロトン伝導性物質としてはプロトンを伝達できる材料であれば特に制限なく用いることができ、例えば、ナフィオン(商品名、デュポン社製)、フレミオン(商品名、旭硝子社製)、アシプレックス(商品名、旭化成イーマテリアルズ社製)などのスルホン酸基を有する含フッ素系イオン交換樹脂が挙げられる。また、プロトン伝導性膜としては、プロトン伝導性物質と同様の材料からなる膜を用いることができる。電極を作製する方法として、プロトン伝導性膜に直接ペーストを塗布する方法だけでなく、テトラフルオロエチレンシート等のシート上にペーストを塗布して電極を作製した後に、プロトン伝導性膜にその電極を転写する方法も採用できる。
【0041】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【実施例】
【0042】
以下に本発明の実施例等を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、これらは例示的なものであり、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。当業者は、以下に示す実施例に様々な変更を加えて本発明として実施することができ、かかる変更は本願の特許請求の範囲に包含される。
なお、電気化学測定は下記に示すとおりに行った。
【0043】
(電気化学測定)
電極作製法及び回転電極法によるリニアスイープボルタンメトリーの測定方法(日厚計測製の回転リングディスク電極装置「RRDE−1」を使用。)を以下に示す。まず、バイアル瓶に、含窒素炭素材料5mgを秤取し、そこに、ガラスビーズを約50mg、5質量%ナフィオン(商品名)分散液(シグマアルドリッチジャパン製)を50μL、並びにイオン交換水及びエタノールをそれぞれ150μLずつ添加し、それらの混合物に20分間超音波を照射してスラリーを作製した。このスラリーを4μL秤取し、回転電極のガラス状炭素上(0.2828cm2)に塗布し、飽和水蒸気下で乾燥した。乾燥後の回転電極を作用極とし、可逆水素電極(RHE)を参照極として、炭素電極を対極とした。0.5M硫酸を電解液とし、その電解液に酸素を30分間バブリングした後、掃引速度5mV/s、回転速度1500rpmで1.1Vから0Vまで掃引して電気化学測定を行った。また、酸素還元開始電位E0は−10μA/cm2の電流を与える電位と定義した。
【0044】
[比較例1]
<原料炭素材料の合成>
1Lナス型フラスコに特開2011−256093号公報に記載の方法で合成したアズルミン酸12g、硝酸鉄(III)・9水和物0.030g及び純水400gを加え、90℃の油浴中で1時間撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターにて溶媒を除去し、真空乾燥機にて80℃で8時間乾燥させアズルミン酸と鉄との混合物として9.0g得た。得られたアズルミン酸と鉄との混合物の全量を、石英ボートに載置し、それを内径70mmの石英管状炉に収容し、炉内を大気圧、1NL/minの窒素流通下で60分間かけて室温から600℃まで昇温し、600℃のまま5時間保持して炭化させた。室温まで冷却後、これを遊星ボールミル(フリッチュ製、商品名「Pulverisette−7」)にて粉砕及び分級することにより、平均粒子径を約1μmに調整した原料炭素材料を得た。その後、33質量%の塩酸400mLに分級後の原料炭素材料を浸漬して2時間撹拌した後に濾過することを3回繰り返すことにより、最終的に、鉄の一部を除去した原料炭素材料を4.1g得た。最終的に得られた原料炭素材料について、堀場製作所製の商品名「JY138」を用いてICP−AES測定を行ったところ、鉄の質量濃度は1000ppmであった。最終的に得られた原料炭素材料について、上記電気化学測定を行った。酸素還元開始電位E0の結果を表1に示す。また、日本電子製の商品名「JPS−9010MC」を用いたXPS測定によって求めた炭素原子に対する窒素原子の原子数比(N/C)、及び、リガク製の商品名「Ultima−IV」を用いたXRD測定によって求めた回折角(2θ)25°付近のピーク位置も表1に示す。
【0045】
[比較例2]
<原料炭素材料の空気流通下での熱処理>
比較例1において最終的に得られた原料炭素材料1.0gを石英ボートに載置し、それを内径70mmの石英管状炉に収容し、炉内を大気圧、1NL/minの空気流通下で60分間かけて室温から450℃まで昇温し、450℃のまま1時間保持し、酸化加熱処理物を0.63g得た。得られた酸化加熱処理物について、上記電気化学測定を行った。酸素還元開始電位E0の結果を表1に示す。また、日本電子製の商品名「JPS−9010MC」を用いたXPS測定によって求めた炭素原子に対する窒素原子の原子数比(N/C)、及び、リガク製の商品名「Ultima−IV」を用いたXRD測定によって求めた回折角(2θ)25°付近のピーク位置も表1に示す。
【0046】
[実施例1]
<酸化性ガスに空気を用いて合成した窒素含有炭素材料>
比較例2において得られた酸化加熱処理物0.60gを石英ボートに載置し、それを内径70mmの石英管状炉に収容し、炉内を大気圧、1NL/minの窒素流通下で60分間かけて室温から1000℃まで昇温し、1000℃のまま1時間保持することにより窒素含有炭素材料を0.15g得た。得られた窒素含有炭素材料について、上記電気化学測定を行った。酸素還元開始電位E0の結果を表1に示す。また、日本電子製の商品名「JPS−9010MC」を用いたXPS測定によって求めた炭素原子に対する窒素原子の原子数比(N/C)、及び、リガク製の商品名「Ultima−IV」を用いたXRD測定によって求めた回折角(2θ)25°付近のピーク位置も表1に示す。
【0047】
[比較例3]
<酸化性ガスによる熱処理を施さず、不活性ガスによる熱処理を施した場合>
比較例1において最終的に得られた原料炭素材料1.0gを石英ボートに載置し、それを内径70mmの石英管状炉に収容し、炉内を大気圧、1NL/minの窒素流通下で60分間かけて室温から1000℃まで昇温し、1000℃のまま1時間保持することにより窒素含有炭素材料を0.30g得た。得られた窒素含有炭素材料について、上記電気化学測定を行った。酸素還元開始電位E0の結果を表1に示す。また、日本電子製の商品名「JPS−9010MC」を用いたXPS測定によって求めた炭素原子に対する窒素原子の原子数比(N/C)、及び、リガク製の商品名「Ultima−IV」を用いたXRD測定によって求めた回折角(2θ)25°付近のピーク位置も表1に示す。
【0048】
[比較例4]
<酸化性ガスによる熱処理と不活性ガスによる熱処理の順番を入れ替えた場合>
比較例1において最終的に得られた原料炭素材料1.0gを石英ボートに載置し、それを内径70mmの石英管状炉に収容し、炉内を大気圧、1NL/minの窒素流通下で60分間かけて室温から1000℃まで昇温し、1000℃のまま1時間保持した。冷却後、大気圧、1NL/minの空気流通下で60分間かけて室温から450℃まで昇温し、450℃のまま1時間保持することにより窒素含有炭素材料を0.24g得た。得られた窒素含有炭素材料について、上記電気化学測定を行った。酸素還元開始電位E0の結果を表1に示す。また、日本電子製の商品名「JPS−9010MC」を用いたXPS測定によって求めた炭素原子に対する窒素原子の原子数比(N/C)、及び、リガク製の商品名「Ultima−IV」を用いたXRD測定によって求めた回折角(2θ)25°付近のピーク位置も表1に示す。
【0049】
[比較例5]
<原料炭素材料の二酸化炭素流通下での熱処理>
比較例1において最終的に得られた原料炭素材料1.0gを石英ボートに載置し、それを内径70mmの石英管状炉に収容し、炉内を大気圧、1NL/minの二酸化炭素流通下で60分間かけて室温から900℃まで昇温し、900℃のまま1時間保持し、酸化加熱処理物を0.25g得た。得られた酸化加熱処理物について、上記電気化学測定を行った。酸素還元開始電位E0の結果を表1に示す。また、日本電子製の商品名「JPS−9010MC」を用いたXPS測定によって求めた炭素原子に対する窒素原子の原子数比(N/C)、及び、リガク製の商品名「Ultima−IV」を用いたXRD測定によって求めた回折角(2θ)25°付近のピーク位置も表1に示す。
【0050】
[実施例2]
<酸化性ガスに二酸化炭素を用いて合成した窒素含有炭素材料>
比較例5において得られた酸化加熱処理物0.20gを石英ボートに載置し、それを内径70mmの石英管状炉に収容し、炉内を大気圧、1NL/minの窒素流通下で60分間かけて室温から1000℃まで昇温し、1000℃のまま1時間保持することにより窒素含有炭素材料を0.10g得た。得られた窒素含有炭素材料について、上記電気化学測定を行った。酸素還元開始電位E0の結果を表1に示す。また、日本電子製の商品名「JPS−9010MC」を用いたXPS測定によって求めた炭素原子に対する窒素原子の原子数比(N/C)、及び、リガク製の商品名「Ultima−IV」を用いたXRD測定によって求めた回折角(2θ)25°付近のピーク位置も表1に示す。
【0051】
[比較例6]
<原料炭素材料の飽和水蒸気含有窒素流通下での熱処理>
比較例1において最終的に得られた原料炭素材料1.0gを石英ボートに載置し、それを内径70mmの石英管状炉に収容し、炉内を大気圧、1NL/minの窒素を水中を潜らせることによって室温での飽和水蒸気を含む窒素流通下で60分間かけて室温から800℃まで昇温し、800℃のまま1時間保持し、酸化加熱処理物を0.24g得た。得られた酸化加熱処理物について、上記電気化学測定を行った。酸素還元開始電位E0の結果を表1に示す。また、日本電子製の商品名「JPS−9010MC」を用いたXPS測定によって求めた炭素原子に対する窒素原子の原子数比(N/C)、及び、リガク製の商品名「Ultima−IV」を用いたXRD測定によって求めた回折角(2θ)25°付近のピーク位置も表1に示す。
【0052】
[実施例3]
<酸化性ガスに飽和水蒸気含有窒素を用いて合成した窒素含有炭素材料>
比較例6において得られた酸化加熱処理物0.20gを石英ボートに載置し、それを内径70mmの石英管状炉に収容し、炉内を大気圧、1NL/minの窒素流通下で60分間かけて室温から1000℃まで昇温し、1000℃のまま1時間保持することにより窒素含有炭素材料を0.16g得た。得られた窒素含有炭素材料について、上記電気化学測定を行った。酸素還元開始電位E0の結果を表1に示す。また、日本電子製の商品名「JPS−9010MC」を用いたXPS測定によって求めた炭素原子に対する窒素原子の原子数比(N/C)、及び、リガク製の商品名「Ultima−IV」を用いたXRD測定によって求めた回折角(2θ)25°付近のピーク位置も表1に示す。
【0053】
[比較例7]
<原料炭素材料の合成>
500mLフラスコに0.5M塩酸200mLを入れて氷浴にて0℃まで冷却し、マグネチックスターラーで撹拌しながら、アニリン(シグマアルドリッチジャパン製)4.0g、塩化鉄(III)(関東化学社製)0.1g、ペルオキソ二硫酸アンモニウム(和光純薬社製)4.0gを加え、室温で20時間撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターにて溶媒を除去し、真空乾燥機にて80℃で8時間乾燥させてポリアニリンを含む固形分を7.9g得た。得られた固形分全量を石英ボートに載置し、それを内径70mmの石英管状炉に収容し、炉内を大気圧、1NL/minの窒素流通下で60分間かけて室温から900℃まで昇温し、900℃のまま1時間保持して炭化させた。これを遊星ボールミル(フリッチュ製、商品名「Pulverisette−7」)にて粉砕及び分級することにより、平均粒子径を約2μmに調整した原料炭素材料を得た。次に、33質量%の塩酸400mLに分級後の原料炭素材料を浸漬して2時間撹拌した後に濾過することを3回繰り返すことにより、鉄の少なくとも一部を除去した原料炭素材料を得た。濾残を真空乾燥機にて80℃で8時間乾燥させて、最終的に、原料炭素材料を1.1g得た。最終的に得られた原料炭素材料について、堀場製作所製の商品名「JY138」を用いてICP−AES測定を行ったところ、鉄の質量濃度は5500ppmであった。最終的に得られた原料炭素材料について、上記電気化学測定を行った。酸素還元開始電位E0の結果を表1に示す。また、日本電子製の商品名「JPS−9010MC」を用いたXPS測定によって求めた炭素原子に対する窒素原子の原子数比(N/C)、及び、リガク製の商品名「Ultima−IV」を用いたXRD測定によって求めた回折角(2θ)25°付近のピーク位置も表1に示す。
【0054】
[実施例4]
<酸化性ガスに空気を用いて合成した窒素含有炭素材料>
比較例7において最終的に得られた原料炭素材料1.0gを石英ボートに載置し、それを内径70mmの石英管状炉に収容し、炉内を大気圧、1NL/minの空気流通下で60分間かけて室温から450℃まで昇温し、450℃のまま1時間保持した。その後、室温まで冷却してから、1NL/minの窒素流通下で60分間かけて室温から1000℃まで昇温し、1000℃のまま1時間保持し、窒素含有炭素材料を0.33g得た。得られた窒素含有炭素材料について、上記電気化学測定を行った。酸素還元開始電位E0の結果を表1に示す。また、日本電子製の商品名「JPS−9010MC」を用いたXPS測定によって求めた炭素原子に対する窒素原子の原子数比(N/C)、及び、リガク製の商品名「Ultima−IV」を用いたXRD測定によって求めた回折角(2θ)25°付近のピーク位置も表1に示す。
【0055】
[比較例8]
<原料炭素材料の合成>
コバルト(II)フタロシアニン(東京化成工業製)10gを石英ボートに載置し、それを内径70mmの石英管状炉に収容し、炉内を大気圧、1NL/minの窒素流通下で室温から800℃まで昇温し、800℃のまま1時間保持した。これを遊星ボールミル(フリッチュ製、商品名「Pulverisette−7」)にて粉砕及び分級することにより、平均粒子径約2μmに調整した。次に、33質量%の塩酸400mLに分級後の原料炭素材料を浸漬して2時間撹拌した後に濾過することを3回繰り返すことにより、コバルトの少なくとも一部を除去した原料炭素材料を得た。濾残を真空乾燥機にて80℃で8時間乾燥させて、最終的に、原料炭素材料を5.5g得た。最終的に得られた原料炭素材料について、堀場製作所製の商品名「JY138」を用いてICP−AESを行ったところ、コバルトの質量濃度は9800ppmであった。最終的に得られた原料炭素材料について、上記電気化学測定を行った。酸素還元開始電位E0の結果を表1に示す。また、日本電子製の商品名「JPS−9010MC」を用いたXPS測定によって求めた炭素原子に対する窒素原子の原子数比(N/C)、及び、リガク製の商品名「Ultima−IV」を用いたXRD測定によって求めた回折角(2θ)25°付近のピーク位置も表1に示す。
【0056】
[実施例5]
<酸化性ガスに空気を用いて合成した窒素含有炭素材料>
比較例8において最終的に得られた原料炭素材料1.0gを石英ボートに載置し、それを内径70mmの石英管状炉に収容し、炉内を大気圧、1NL/minの空気流通下で60分間かけて室温から350℃まで昇温し、350℃のまま1時間保持した。その後、室温まで冷却してから、1NL/minの窒素流通下で60分間かけて室温から1000℃まで昇温し、1000℃のまま1時間保持し、窒素含有炭素材料を0.50g得た。得られた窒素含有炭素材料について、上記電気化学測定を行った。酸素還元開始電位E0の結果を表1に示す。また、日本電子製の商品名「JPS−9010MC」を用いたXPS測定によって求めた炭素原子に対する窒素原子の原子数比(N/C)、及び、リガク製の商品名「Ultima−IV」を用いたXRD測定によって求めた回折角(2θ)25°付近のピーク位置も表1に示す。
【0057】
[比較例9]
<原料炭素材料の合成>
ポリピロール(シグマアルドリッチジャパン製)10gを石英ボートに載置し、それを内径70mmの石英管状炉に収容し、炉内を大気圧、1NL/minの窒素流通下で室温から800℃まで昇温し、800℃のまま1時間保持した。これを遊星ボールミル(フリッチュ製、商品名「Pulverisette−7」)にて粉砕及び分級することにより、平均粒子径約2μmに調整し、原料炭素材料2.7gを得た。得られた原料炭素材料について、堀場製作所製の商品名「JY138」を用いてICP−AESを行ったところ、遷移金属は検出されなかった。得られた原料炭素材料について、上記電気化学測定を行った。酸素還元開始電位E0の結果を表1に示す。また、日本電子製の商品名「JPS−9010MC」を用いたXPS測定によって求めた炭素原子に対する窒素原子の原子数比(N/C)、及び、リガク製の商品名「Ultima−IV」を用いたXRD測定によって求めた回折角(2θ)25°付近のピーク位置も表1に示す。
【0058】
[実施例6]
<酸化性ガスに空気を用いて合成した窒素含有炭素材料>
比較例9において最終的に得られた原料炭素材料1.0gを石英ボートに載置し、それを内径70mmの石英管状炉に収容し、炉内を大気圧、1NL/minの空気流通下で60分間かけて室温から450℃まで昇温し、450℃のまま1時間保持した。その後、室温まで冷却してから、1NL/minの窒素流通下で60分間かけて室温から1000℃まで昇温し、1000℃のまま1時間保持し、窒素含有炭素材料を0.10g得た。得られた窒素含有炭素材料について、上記電気化学測定を行った。酸素還元開始電位E0の結果を表1に示す。また、日本電子製の商品名「JPS−9010MC」を用いたXPS測定によって求めた炭素原子に対する窒素原子の原子数比(N/C)、及び、リガク製の商品名「Ultima−IV」を用いたXRD測定によって求めた回折角(2θ)25°付近のピーク位置も表1に示す。
【0059】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の窒素含有炭素材料は、燃料電池用電極、金属−空気電池の電極等の各種電極の他、化学反応の触媒等として有用である。また、本発明の窒素含有炭素材料は、アンモニア処理を経て得られる窒素含有炭素材料と同等の酸素還元活性を示し、かつアンモニア処理を経て得られる窒素含有炭素材料よりも簡便な設備において製造可能である。
図1