【文献】
Korean J. Food Sci. Technol., (1989), Vol. 21, No. 3, p. 379-386
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ヘテロ発酵乳酸菌が、ラクトバチラス・ブレビスSBC8803(受託番号:FERM BP−10632)、ラクトバチラス・ブレビスSBC8027(受託番号:FERM BP−10630)、ラクトバチラス・ブレビスSBC8044(受託番号:FERM BP−10631)、ラクトバチラス・ブレビスJCM1061、ラクトバチラス・ブレビスJCM1065、及びラクトバチラス・ブレビスJCM1170から選択される少なくとも1種である、請求項4に記載の製造方法。
前記発酵基質を、前記ヘテロ発酵乳酸菌に加えて、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococus thermophilus)、ラクトバチラス・デルブリュッキー亜種ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subspecies bulgaricus)及びラクトバチラス・デルブリュッキー亜種ラクチス(Lactobacillus delbrueckii subspecies lactis)からなる群より選ばれる少なくとも1種の乳酸菌で発酵させる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ヘテロ発酵乳酸菌は、糖から乳酸を生成するホモ発酵乳酸菌と異なり、乳酸の他にエタノールと二酸化炭素も生成する。このため、ヘテロ発酵乳酸菌は、ホモ発酵乳酸菌に比べて、発酵能力が比較的弱い。豆乳を原料にしてヘテロ発酵乳酸菌を用いて固体状発酵物を製造する場合、発酵が遅く、発酵基質を固めることができないという問題が生じる。
【0005】
そこで、本発明は、豆乳をヘテロ発酵乳酸菌で発酵させて固体状豆乳発酵物を得ることができる、固体状豆乳発酵物の製造方法を提供することを目的とする。本発明はまた、上記製造方法を用いて製造される固体状豆乳発酵物及びそれを含む飲食品の提供も目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、豆乳を含み、リンゴ酸及び遊離アミノ酸の濃度を調整された発酵基質を、ヘテロ発酵乳酸菌で発酵させる発酵工程を備える、固体状豆乳発酵物の製造方法を提供する。
【0007】
本発明者らは、豆乳を含む発酵基質中のリンゴ酸及び遊離アミノ酸の濃度を調整することにより、ヘテロ発酵乳酸菌を用いても、発酵基質を発酵させて固型化させることができることを見出した。したがって、本発明によれば、ヘテロ発酵乳酸菌を用いた固体状豆乳発酵物を製造することができる。なお、本明細書において、「固型化」との用語は「ゲル化」及び「ゾル化」を含み、「固体状」との用語は「ゲル状」及び「ゾル状」を含む。
【0008】
上記リンゴ酸及び上記遊離アミノ酸の濃度は、式(1)、式(2)かつ式(3)の関係を満たすように調整することが好ましい。これにより、発酵が進み過ぎることによる気泡の生成、離水の発生、並びにヒビ及び割れの発生をより抑制することができる。
0<x≦2000 (1)
0<y≦1500 (2)
y≧−27x+20189 (3)
式中、yはリンゴ酸の濃度(質量ppm)を表し、xは遊離アミノ酸の濃度(質量ppm)を表す。なお、本明細書において、「質量ppm」とは、10
−4質量%を表す。
【0009】
上記リンゴ酸及び上記遊離アミノ酸の濃度は、式(1)、式(2)、式(3)かつ式(4)の関係を満たすように調整することが好ましい。これにより、より外観が優れる固体状豆乳発酵物を製造することができる。
0<x≦2000 (1)
0<y≦1500 (2)
y≧−27x+20189 (3)
y≧−5.58x+4431 (4)
式中、yはリンゴ酸の濃度(質量ppm)を表し、xは遊離アミノ酸の濃度(質量ppm)を表す。
【0010】
本明細書において、「外観が優れる」とは、気泡がないか、気泡があっても少数、離水がないか、離水があっても少量、ヒビ及び割れがないか、ヒビ又は割れがあっても小さく、かつゲル状又はゾル状ではない固体状であることを意味する。
【0011】
上記リンゴ酸及び上記遊離アミノ酸の濃度は、式(3)、式(4)かつ式(5)の関係を満たすように調整することが好ましい。これにより、気泡がなく、離水がなく、かつヒビ及び割れもなく、かつゲル状又はゾル状ではない固体状の固体状豆乳発酵物、すなわちより一層外観が優れる固体状豆乳発酵物を得ることができる。
y≧−27x+20189 (3)
y≧−5.58x+4431 (4)
y≦−1.95x+2622 (5)
式中、yはリンゴ酸の濃度(質量ppm)を表し、xは遊離アミノ酸の濃度(質量ppm)を表す。ただし、y>0である。
【0012】
上記ヘテロ発酵乳酸菌は、ラクトバチラス・ブレビス(Lactobacillus brevis)に属する乳酸菌であることが好ましい。ラクトバチラス・ブレビスは、古くから発酵食品に利用されている乳酸菌の一種であり、生体への安全性が充分に確立されている。生体への安全性が高いことから、上記製造方法で得られる固体状豆乳発酵物は、長期間継続的に摂取することも可能となる。
【0013】
上記ヘテロ発酵乳酸菌は、ラクトバチラス・ブレビスSBC8803(受託番号:FERM BP−10632))、ラクトバチラス・ブレビスSBC8027(受託番号:FERM BP−10630)、ラクトバチラス・ブレビスSBC8044(受託番号:FERM BP−10631)、ラクトバチラス・ブレビスJCM1061、ラクトバチラス・ブレビスJCM1065、及びラクトバチラス・ブレビスJCM1170から選択される少なくとも1種であることが更に好ましい。これらの乳酸菌を発酵に利用することにより、固体状豆乳発酵物を得ることができるだけではなく、豆乳臭をより一層低減することができ、より一層爽やかさのある風味の良い固体状豆乳発酵物を得ることができる。
【0014】
なお、ラクトバチラス・ブレビスSBC8803は、2006年6月28日に独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566))に寄託された、受託番号がFERM BP−10632の菌株である。本明細書において、この菌株を「SBL88株」とも称する。
【0015】
また、ラクトバチラス・ブレビスSBC8027は、2006年6月28日に独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566))に寄託された、受託番号がFERM BP−10630の菌株であり、ラクトバチラス・ブレビスSBC8044は、2006年6月28日に独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566))に寄託された、受託番号がFERM BP−10631の菌株である。
【0016】
上記遊離アミノ酸の濃度は、タンパク質分解物により調整することが好ましい。タンパク質分解物には、遊離アミノ酸の他にペプチド、タンパク質等が含まれている。したがって、タンパク質分解物を添加することにより、発酵が促進され、発酵時間を短縮することができる。
【0017】
上記タンパク質分解物としては、大豆ペプチドが好ましい。これにより、発酵がより促進され、発酵時間をより短縮することができる。
【0018】
上記製造方法において、上記発酵基質を、上記ヘテロ発酵乳酸菌に加えて、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococus thermophilus)、ラクトバチラス・デルブリュッキー亜種ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subspecies bulgaricus)及びラクトバチラス・デルブリュッキー亜種ラクチス(Lactobacillus delbrueckii subspecies lactis)からなる群より選ばれる少なくとも1種の乳酸菌で発酵させてもよい。
【0019】
ストレプトコッカス・サーモフィラス、ラクトバチラス・デルブリュッキー亜種ブルガリカス及びラクトバチラス・デルブリュッキー亜種ラクチスは、ヨーグルトスターターに非常によく使用されているスターター乳酸菌である。これらのスターター乳酸菌を発酵基質に添加することにより、発酵基質を発酵させて固型化させる時間を短縮することができる。
【0020】
本発明はまた、上記製造方法により得られる固体状豆乳発酵物を提供する。
【0021】
本発明は更に、上記固体状豆乳発酵物を含む飲食品を提供する。当該飲食品の摂取により、豆乳に豊富に含まれる大豆由来の栄養成分を効率良く摂取することが可能である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、豆乳をヘテロ発酵乳酸菌で発酵させて固体状豆乳発酵物を得ることができる、固体状豆乳発酵物の製造方法が提供される。また、上記製造方法により得られる固体状豆乳発酵物及びそれを含む飲食品が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態についてより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
本明細書において、「豆乳」とは、大豆から熱水等によりタンパク質その他の成分を溶出させ、繊維質を除去して得られる乳状の飲料を意味する。「豆乳」としては、大豆固形分の含有量が8質量%以上であるものが好ましい。「豆乳」には、例えば、原豆乳、無調整豆乳等が含まれる。
【0026】
[発酵基質]
発酵基質における豆乳の含有量は、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。豆乳の含有量が50質量%以上であれば、栄養価の高い固体状豆乳発酵物を得ることができる。発酵基質における豆乳の含有量の上限は特になく、リンゴ酸及び遊離アミノ酸の濃度の調整に用いる添加物以外は全て豆乳としてもよい。
【0027】
発酵基質のリンゴ酸の濃度は、ヘテロ発酵乳酸菌の種類及び使用量、発酵温度及び発酵時間等を勘案して適宜調整することができるが、例えば、150ppm以上1500ppm以下であることが好ましい。これにより、発酵基質をより充分に固型化させることができる。
【0028】
発酵基質のリンゴ酸の濃度はまた、300ppm以上1000ppm以下であることがより好ましい。これにより、より外観が優れる固体状豆乳発酵物を得ることができる。
【0029】
発酵基質のリンゴ酸の濃度の調整方法は特に限定されず、例えば、リンゴ酸を直接添加すること、りんご、イチゴ、梨、梅の絞汁液等を添加することが挙げられる。
【0030】
発酵基質の遊離アミノ酸の濃度は、ヘテロ発酵乳酸菌の種類及び使用量、発酵温度及び発酵時間等を勘案して適宜調整することができるが、例えば、700ppm以上2000ppm以下であることが好ましい。遊離アミノ酸は通常、乳酸菌が分泌したプロテアーゼにより発酵基質中のタンパク質が分解されることにより得られる。発酵基質中の遊離アミノ酸の濃度を予め調整することにより、ヘテロ発酵乳酸菌の中でも、プロテアーゼ分泌が弱い乳酸菌(ラクトバチラス・ブレビスの一部)を用いても、発酵を促進して発酵時間を短縮することができる。
【0031】
発酵基質の遊離アミノ酸の濃度は、1510ppm以下であることがより好ましい。また、発酵基質の遊離アミノ酸の濃度は、770ppm以上1200ppm以下であることがさらに好ましい。これにより、より外観が優れる固体状豆乳発酵物を得ることができる。
【0032】
発酵基質の遊離アミノ酸の濃度の調整方法は特に限定されず、例えば遊離アミノ酸を直接添加する方法、豆乳にペプチド結合加水分解酵素を添加して豆乳を加水分解する方法、遊離アミノ酸を含むタンパク質分解物を添加する方法等が挙げられる。中でも、遊離アミノ酸を含むタンパク質分解物を添加する方法が好ましい。
【0033】
タンパク質分解物としては、遊離アミノ酸の他にペプチド、タンパク質等が含まれているものであればよく、例えば、豆類由来のペプチド、穀類由来のペプチド、乳ペプチドが挙げられる。豆類としては、例えば、大豆、小豆、エンドウが挙げられる。穀類としては、例えば、小麦、大麦、とうもろこし、米、蕎麦、粟、キビが挙げられる。タンパク質分解物としては、大豆由来のペプチド(「大豆ペプチド」ともいう。)、小麦由来のペプチド(「小麦ペプチド」ともいう。)が好ましい。大豆ペプチドとしては、例えば、不二製油株式会社製のハイニュートシリーズ(ハイニュートーS、ハイニュートーAM、ハイニュートーHK等)が挙げられる。
【0034】
大豆ペプチドは、遊離アミノ酸を含有する他、ペプチドも多く含まれ、タンパク質と比べ、体内の吸収が速い。また、ビタミン、ミネラルも豊富に含まれている。したがって、大豆ペプチドを用いることにより、遊離アミノ酸を調整できるだけでなく、製造された固体状豆乳発酵物の栄養価を向上させることもできる。
【0035】
発酵基質のリンゴ酸及び遊離アミノ酸の濃度は、下記式(1)、式(2)かつ式(3)の関係を満たすように調整することが好ましい。
0<x≦2000 (1)
0<y≦1500 (2)
y≧−27x+20189 (3)
式中、yはリンゴ酸の濃度(質量ppm)を表し、xは遊離アミノ酸の濃度(質量ppm)を表す。
【0036】
発酵基質のリンゴ酸及び遊離アミノ酸の濃度が上記式(1)、式(2)かつ式(3)の関係を満たすと、ヘテロ発酵乳酸菌を用いても豆乳を発酵させて固型化することができ、さらに、発酵しすぎてpHが低くなりすぎることによってタンパク質が変性して凝集し、固体状豆乳発酵物の離水を引き起こすこと、更に固体状豆乳発酵物に気泡が含まれることやヒビ割れが生じることを抑制することができる。
【0037】
また、発酵基質のリンゴ酸及び遊離アミノ酸の濃度は、下記式(1)、式(2)、式(3)かつ式(4)の関係を満たすように調整することが好ましい。
0<x≦2000 (1)
0<y≦1500 (2)
y≧−27x+20189 (3)
y≧−5.58x+4431 (4)
式中、x及びyは上記と同様である。
【0038】
発酵基質のリンゴ酸及び遊離アミノ酸の濃度が上記式(4)の関係を満たすと、ゲル状でもゾル状でもない固体状豆乳発酵物を得ることができる。したがって、発酵基質のリンゴ酸及び遊離アミノ酸の濃度が上記式(1)、式(2)、式(3)かつ式(4)の関係を満たすと、より外観が優れる固体状豆乳発酵物を得ることができる。
【0039】
さらに、発酵基質のリンゴ酸及び遊離アミノ酸の濃度は、下記式(3)、式(4)かつ式(5)の関係を満たすように調整することが好ましい。
y≧−27x+20189 (3)
y≧−5.58x+4431 (4)
y≦−1.95x+2622 (5)
式中、x及びyは上記と同様である。ただし、y>0である。
【0040】
発酵基質のリンゴ酸及び遊離アミノ酸の濃度が上記式(4)の関係を満たすと、ゲル状でもゾル状でもない固体状豆乳発酵物を得ることができる。また、発酵基質のリンゴ酸及び遊離アミノ酸の濃度が上記式(5)の関係を満たすと、気泡、離水、ヒビ及び割れをより抑制することができる。したがって、上記式(3)、式(4)かつ式(5)の関係を満たすことにより、より一層外観が優れる固体状豆乳発酵物を得ることができる。
【0041】
発酵基質には、他の添加物を更に添加してもよい。このような添加物としては、例えば、糖(スクロース、マルトース、フルクトース、グルコース、スタキオース、ラフィノース等)、植物エキス(例えばモルトエキス)、香料(例えばヨーグルトフレーバー)、甘味料(例えばトレハロース、アスパルテーム、スクラロース、アセスルファムカリウム)、澱粉(例えば馬鈴薯澱粉)、加工澱粉(例えばアセチル化燐酸架橋澱粉)、デキストリン、増粘多糖類(例えばグアガム、ローカストビーンガム、ペクチン)等が挙げられる。
【0042】
[ヘテロ発酵乳酸菌]
ヘテロ発酵乳酸菌とは、糖から乳酸の他にエタノールと二酸化炭素も生成する乳酸菌を意味する。ヘテロ発酵乳酸菌としては例えば、ラクトバチラス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチラス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチラス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)等のラクトバチラス(Lactobacillus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、オエノコッカス(Oenococcus属)、ワイセラ(Weissella)属、カルノバクテリアム(Carnobacterium)属及びラクトスフェアエラ(Lactosphaera)属が挙げられる。ヘテロ発酵乳酸菌は、1種を単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0043】
ヘテロ発酵乳酸菌としては、好ましくはラクトバチラス属に属する乳酸菌であり、より好ましくはラクトバチラス・ブレビス種に属する乳酸菌である。
【0044】
ラクトバチラス・ブレビスに属する乳酸菌としては、より一層豆乳臭が低減され、かつより一層爽やかさのある風味の良い豆乳発酵飲料とすることができるため、SBL88株、ラクトバチラス・ブレビスSBC8027(受託番号:FERM BP−10630)、ラクトバチラス・ブレビスSBC8044(受託番号:FERM BP−10631)、ラクトバチラス・ブレビスJCM1061、ラクトバチラス・ブレビスJCM1065、ラクトバチラス・ブレビスJCM1170が好ましい。ラクトバチラス・ブレビスに属する乳酸菌は、1種を単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0045】
なお、ラクトバチラス・ブレビスJCM1061、ラクトバチラス・ブレビスJCM1065、ラクトバチラス・ブレビスJCM1170等は、理研バイオリソースセンター、JCRB等の公知の細胞バンクから購入することもできる。
【0046】
発酵工程における上記ヘテロ発酵乳酸菌の使用量は特に制限がなく、使用するヘテロ発酵乳酸菌の種類に応じて最適な条件を設定すればよい。例えば、ヘテロ発酵乳酸菌としてSBL88株を使用する場合、発酵基質に対してヘテロ発酵乳酸菌を1×10
4〜1×10
7cfu/mLになるように添加することができる。
【0047】
[スターター菌]
上記ヘテロ発酵乳酸菌と併用して他の乳酸菌を用いることができる。かかる乳酸菌は、ヨーグルトのスターター乳酸菌(以下、「スターター菌」ともいう。)であることが好ましく、ストレプトコッカス・サーモフィラス、ラクトバチラス・デルブリューキ亜種ブルガリカス及びラクトバチラス・デルブリューキ亜種ラクチスからなる群より選ばれる少なくとも1種の乳酸菌であることがより好ましい。ヘテロ発酵乳酸菌と、ヨーグルトのスターター菌とを併用することにより、発酵時間を短縮することができる。
【0048】
発酵工程における上記スターター菌の使用量は特に制限がなく、使用するスターター菌の種類に応じて最適な条件を設定すればよい。これに限定されるものではないが、例えば、発酵基質に対してスターター菌を1×10
4〜1×10
7cfu/mLになるように添加することができる。
【0049】
[発酵工程]
発酵工程は、発酵基質をヘテロ発酵乳酸菌で発酵する工程である。発酵工程では、上記発酵基質に上記ヘテロ発酵乳酸菌を添加し、上記ヘテロ発酵乳酸菌により乳酸発酵して固体状豆乳発酵物を得る。また、ヘテロ発酵乳酸菌に加えて、発酵基質をスターター菌で発酵させてもよい。ヘテロ発酵乳酸菌とスターター菌の添加順序は任意である。また、ヘテロ発酵乳酸菌とスターター菌とにより、並行複発酵させてもよく、単行複発酵させてもよい。
【0050】
発酵時間は、使用されるヘテロ発酵乳酸菌の種類、使用量、温度、発酵基質のリンゴ酸及び遊離アミノ酸の濃度等の条件に応じて適宜設定することができる。一例として、ヘテロ発酵乳酸菌としてSBL88株を用いて、発酵基質のリンゴ酸及び遊離アミノ酸の濃度が上記式(1)、式(2)かつ式(3)の条件を満たす場合、上記式(1)、式(2)、式(3)かつ式(4)の条件を満たす場合、及び上記式(3)、式(4)かつ式(5)の条件を満たす場合、発酵時間は4時間から26時間とすることができる。発酵時間は、より好ましくは6時間から24時間であり、更に好ましくは8時間から22時間であり、最も好ましくは10時間から20時間である。発酵時間が10時間以上であれば、豆乳をより充分に固型化することができる。また、発酵時間が26時間以下であれば、発酵しすぎて気泡、離水、ヒビ及び割れ等が生じることを防ぐことができる。更に製造コストの増加及びコンタミネーションリスクを低減することができる。
【0051】
スターター菌を併用する場合、発酵時間を短縮することができる。併用する場合の発酵時間の一例として、ヘテロ発酵乳酸菌としてSBL88株を用いて、発酵基質のリンゴ酸及び遊離アミノ酸の濃度が上記式(1)、式(2)かつ式(3)の条件を満たす場合、上記式(1)、式(2)、式(3)かつ式(4)の条件を満たす場合、及び上記式(3)、式(4)かつ式(5)の条件を満たす場合、発酵時間は4時間から13時間とすることができる。
【0052】
発酵温度は、使用されるヘテロ発酵乳酸菌の種類及びスターター菌の種類に応じて、適宜設定することができる。一例として、ヘテロ発酵乳酸菌としてSBL88株を用いる場合、発酵温度は25〜35℃、好ましくは30℃とすることができる。
【0053】
[固体状豆乳発酵物]
上記製造方法により、ヘテロ発酵乳酸菌を用いて豆乳を固型化することができる。得られる固体状豆乳発酵物は、大豆に由来する栄養成分が豊富に含まれるうえ、気泡の形成、離水及びひび割れも低減される。したがって、上記固体状豆乳発酵物は、そのまま飲食品として使用することもでき、また、飲食品素材として使用することもできる。
【0054】
[飲食品]
本発明の飲食品は、上記固体状豆乳発酵物そのものであっても良く、上記固体状豆乳発酵物を含む飲食品であってもよい。上記固体状豆乳発酵物そのものである飲食品としては、例えば、発酵豆乳、ヨーグルト、チーズ等が挙げられる。また、上記固体状豆乳発酵物を含む飲食品としては、乳化調味料(マーガリン、ドレッシング、マヨネーズ等)、調味料(ソース、ケチャップ等)、菓子類(アイスクリーム、キャンディー、キャラメル、チョコレート等)、飲料(非アルコール飲料、アルコール飲料等)等が挙げられる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。なお、下記表1に示される製造例は、表5、8及び13に対応し、下記表2に示される製造例は、表6、9及び14に対応し、表3に示される製造例は、表7、10、15に対応する。また、下記表4に示される製造例は、表11、12及び16に対応する。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
【表4】
【0060】
[測定及び評価方法]
<リンゴ酸濃度の測定方法>
発酵基質のリンゴ酸濃度は、有機酸分析システム(Prominence、株式会社島津製作所製)を用いて測定した。
【0061】
<遊離アミノ酸濃度の測定方法>
発酵基質の遊離アミノ酸濃度はアミノ酸分析装置(L−8800、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて測定した。
【0062】
<pHの測定方法>
発酵基質及び発酵物のpHは、pHメーター(IM−55G、東亜ディーケーケー株式会社製)を用いて測定した。
【0063】
<菌体数の測定方法>
SBL88株の菌体数は、以下の方法で測定した。まず、生理食塩水にて希釈した発酵基質又は発酵物を10〜100μL採取し、イソアルファ酸を15質量ppm含有するMRS寒天培地に播種し、30℃にて48時間静置培養した。培養後、形成されたコロニーの数を計数し、SBL88株の菌体数を算出した。なお、この条件で培養することにより、SBL88株のみを増殖させることができると考えられる。したがって、形成されたコロニーの数を計数することにより、SBL88株の菌体数を測定することができる。
【0064】
一方、スターター菌の菌体数は、以下の方法で測定した。まず、生理食塩水にて希釈した発酵基質又は発酵物を10〜100μL採取し、イソアルファ酸を有しないMRS寒天培地に播種し、43℃にて48時間静置培養した。培養後、形成されたコロニーの数を計数し、スターター菌の菌体数を算出した。なお、この条件で培養することにより、スターター菌のみを増殖させることができると考えられる。したがって、形成されたコロニーの数を計数することにより、スターター菌の菌体数を測定することができる。
【0065】
<性状の評価方法>
性状判断の経験豊富な複数の評価員が、発酵物の性状(液状、固体状等)を目視にて評価した。
【0066】
<気泡の評価方法>
気泡の有無の判断の経験豊富な複数の評価員が、発酵物の気泡の有無を目視にて評価した。
【0067】
<離水の評価方法>
離水の有無の判断の経験豊富な複数の評価員が、発酵物の離水の有無を目視にて評価した。
【0068】
<ヒビ又は割れの評価方法>
ヒビ又は割れの有無の判断の経験豊富な複数の評価員が、発酵物のヒビ又は割れの有無を目視にて評価した。
【0069】
<最大菌体数の測定方法>
発酵期間中、経時的にサンプリングし、上述の菌体数の測定方法にて測定し、最も菌体数の多い測定結果を、最大菌体数とした。
【0070】
[単独発酵(製造例1〜33)]
<原料>
豆乳:おいしい無調整豆乳(キッコーマン株式会社製)
ヘテロ発酵乳酸菌:SBL88株
大豆ペプチド:ハイニュートーS(不二製油株式会社製)
リンゴ酸:L−リンゴ酸(シグマアルドリッチジャパン合同会社製)
糖:ニューフラクト55(昭和産業株式会社製、ぶどう糖果糖液糖(果糖55%以上含有の異性化糖))
【0071】
<発酵基質>
豆乳に糖、リンゴ酸、大豆ペプチドを混合融解した。
【0072】
リンゴ酸は、添加したリンゴ酸(豆乳に含まれるリンゴ酸を除いたものを意味する)の濃度が、発酵基質全量を基準として、0質量%、0.0025質量%、0.005質量%、0.01質量%、0.0125質量%、0.025質量%、0.05質量%、0.10質量%、0.15質量%又は0.2質量%となるように添加した。これにより発酵基質中のリンゴ酸濃度を、それぞれ155ppm、202ppm、238ppm、288ppm、340ppm、446ppm、647ppm、918ppm、1452ppm又は2155ppm(いずれも実測値)に調整することができた。発酵基質中のリンゴ酸濃度は、上述の方法で測定した。
【0073】
大豆ペプチドは、発酵基質全量を基準として、0質量%、0.01質量%、0.025質量%、0.05質量%、0.1質量%、0.2質量%、0.25質量%、0.5質量%、0.75質量%又は1質量%となるように添加した。これにより発酵基質中の遊離アミノ酸濃度を、それぞれ738ppm、746ppm、757ppm、776ppm、815ppm、891ppm、930ppm、1121ppm、1313ppm又は1505ppm(いずれも実測値)に調整することができた。発酵基質中の遊離アミノ酸濃度は、上述の方法で測定した。
【0074】
<発酵工程>
発酵基質を80℃で60分殺菌した後、30℃まで冷却した。これに、SBL88株を3×10
6cfu/mLとなるように添加し、30℃で静置培養した。その後、性状を上述の方法で確認し、発酵基質の固型化が確認された時間、すなわち固型化までにかかった発酵時間を測定し、結果を表5〜7に示した。また、固型化が確認された時のSBL88株の菌体数及び発酵物のpHを上述の方法で測定し、結果を表5〜7に示した。なお、固型化が確認されなかった場合は、発酵開始から24時間後のSBL88株の菌体数及び発酵基質のpHを上述の方法で測定し、結果を表5〜7に示した。
【0075】
<発酵物の評価>
得られた発酵物の気泡、離水及びヒビ又は割れの有無、並びにそれらが確認された時間を上述の方法で評価し、結果を表8〜10に示した。また、SBL88株の最大菌体数及び最大菌体数に到達するまでの発酵時間(表8〜10中、「発酵時間」と表示。)を上述の方法で評価し、結果を表8〜10に示した。
【0076】
【表5】
【0077】
【表6】
【0078】
【表7】
【0079】
【表8】
【0080】
【表9】
【0081】
【表10】
【0082】
[併用発酵(製造例34〜45)]
<原料>
豆乳:おいしい無調整豆乳(キッコーマン株式会社製)
ヘテロ発酵乳酸菌:SBL88株
スターター菌:Yomix495LYO(ダニスコ社製、ストレプトコッカス・サーモフィラス菌及びラクトバチラス・デルブリューキ亜種ブルガリカス菌の混合品)
大豆ペプチド:ハイニュートーS(不二製油株式会社製)
リンゴ酸:L−リンゴ酸(シグマアルドリッチジャパン合同会社製)
糖:ニューフラクト55(昭和産業株式会社製)
【0083】
<発酵基質>
上記[単独発酵]と同様に発酵基質を調製した。
【0084】
<発酵工程>
発酵基質を80℃で60分殺菌した後、30℃まで冷却した。これに、SBL88株を3×10
6cfu/mL、スターター菌(Yomix495LYO)を8×10
4cfu/mLとなるように添加し、30℃で静置培養した。その後、上記[単独発酵]と同様に、固型化までにかかった発酵時間及びpHを測定し、結果を表11に示した。また、上述の方法で固型化が確認された時のSBL88株の菌体数及びスターター菌の菌体数を測定し、結果を表11に示した。
【0085】
<発酵物の評価>
得られた発酵物の気泡、離水及びヒビ又は割れの有無、並びにそれらが確認された時間を上述の方法で評価し、結果を表12に示した。また、SBL88株及びスターター菌の最大菌体数及び最大菌体数に到達するまでの発酵時間を上述の方法で評価し、結果を表12に示した。
【0086】
【表11】
【0087】
【表12】
【0088】
<総合評価方法>
得られた固体状豆乳発酵物を、以下の基準に従い、総合的に評価した。結果を表13〜15(単独発酵)及び表16(併用発酵)に示す。
◎:気泡がなく、離水がなく、ヒビ及び割れもなく、かつゲル状又はゾル状ではない固体状である
○:気泡がないか、気泡があっても少数、離水がないか、離水があっても少量、ヒビ及び割れがないか、ヒビ又は割れがあっても小さく、かつゲル状又はゾル状ではない固体状であるが◎に該当しない
△:気泡がなく、離水がなく、かつヒビ及び割れもないが、24時間発酵後でも非常に柔いゲル(傾けると崩れるゲル)である
□:固体状であるが、多数の気泡がある、多量の離水がある、又はヒビ若しくは割れがある、のいずれかに該当する
×:24時間発酵後も液状で固型化していない
【0089】
また、単独発酵した場合のリンゴ酸及び遊離アミノ酸濃度と、総合評価の結果の関係を
図1で示す。
【0090】
【表13】
【0091】
【表14】
【0092】
【表15】
【0093】
【表16】
【0094】
ヘテロ発酵乳酸菌は、発酵が遅く、発酵基質を固めることができないという問題があったが、発酵基質(豆乳)中のリンゴ酸及び遊離アミノ酸濃度を調整することにより、充分に固型化することができた。また、本実施例における発酵条件では、リンゴ酸及び遊離アミノ酸濃度が、上記式(1)、式(2)かつ式(3)の条件を満たすことにより、総合評価が◎、○又は△となり、気泡の生成、離水の発生、並びにヒビ及び割れの発生をより抑制することができた。また、リンゴ酸及び遊離アミノ酸濃度が、上記式(1)、式(2)、式(3)かつ式(4)の条件を満たすことにより、総合評価が◎又は○となり、より外観が優れる固体状豆乳発酵物を得ることができた。さらに、リンゴ酸及び遊離アミノ酸濃度が、上記式(3)、式(4)かつ式(5)の条件を満たすことにより、総合評価が◎となり、より一層外観が優れる固体状豆乳発酵物を得ることができた(製造例1〜33)。
【0095】
また、スターター菌を併用することにより、より短時間で、外観が優れる固体状豆乳発酵物を得ることができた(製造例34〜45)。