【実施例1】
【0035】
なお、本発明の好ましい一実施例のクロノグラフ機構1及びこれを備えたクロノグラフ時計2について、
図1から
図3に基づいて説明する前に、
図14及び
図15に示した種類の従来のクロノグラフ機構101について、クロノグラフ時計のムーブメント自体が小さくなりそれに応じて復針レバー構造体の第二復針伝えレバー(又は単一の復針伝えレバー)の大きさを小さくする必要がある場合に生じる虞れがある問題について、説明する。
【0036】
クロノグラフ時計のムーブメントのサイズ(例えば外径)が
図14及び
図15に示したクロノグラフ時計102のムーブメント104のサイズ(例えば外径)よりも小さくなった場合において、セルフアラインメント式のクロノグラフ機構の変更を最低限に抑えようとすることを想定する。その場合、セルフアラインメント式のクロノグラフ機構の基本的部分をなし該クロノグラフ機構を構成する秒クロノグラフ車322、分クロノグラフ車342及びクロノグラフ真以外のダミー軸部の形態の力受体(又は時クロノグラフ車)332の相対配置及び大きさ(サイズ)を
図14及び
図15のクロノグラフ機構101の秒クロノグラフ車322、分クロノグラフ車342及びクロノグラフ真以外のダミー軸部の形態の力受体(又は時クロノグラフ車)332の相対配置及び大きさ(サイズ)と同一に保つものと想定する。
【0037】
そのような条件下では、典型的には、ムーブメントの外周に概ね沿うように配置される復針レバー構造体の第二復針伝えレバー(又は単一の復針伝えレバー)の入力側及び出力側の腕のうち出力側の腕の長さを短くし、第二復針伝えレバー(又は単一の復針伝えレバー)及び復針レバーの形状を変えることになる。
【0038】
この場合、典型的には、
図9に示したようにクロノグラフ帰零機構203を備えたクロノグラフ機構201の帰零動作は適切に行われ得るけれども
図10に示したように帰零の解除が適切には行われ得ないとき(
図9及び
図10に示した場合)と、
図12に示したようにクロノグラフ帰零機構303を備えたクロノグラフ機構301の帰零解除動作は適切に行われ得るけれども
図11に示したに示したように帰零動作が適切には行われ得ないとき(
図11及び
図12に示した場合)とがある。
【0039】
すなわち、クロノグラフ時計202のクロノグラフ機構201の場合、
図9に示したように、帰零動作の際には、帰零指示ボタン(図示せず)を押圧して復針レバー構造体を構成する第一復針伝えレバー(図示せず)を介して第二復針伝えレバー(又は単一の復針伝えレバー)582を回動中心482kのまわりでA1方向に回動させる。第二復針伝えレバー(又は単一の復針伝えレバー)582の先端係合溝部582cで復針レバー564の係合ピン564aをB51方向に押すことにより、復針レバー564をD51方向に変位させて、復針レバー564のハンマー部564d,564e及び564fで時ハートカム又はダミー軸部332d、秒ハートカム322d、及び分ハートカム342dを叩いて、帰零させ得る点では、
図14に示したクロノグラフ機構101と同様である。
【0040】
なお、このクロノグラフ機構201では、第二復針伝えレバー(又は単一の復針伝えレバー)582の回動中心482kの位置及び入力側腕部582iの形状はクロノグラフ機構101の場合(第二復針伝えレバー(又は単一の復針伝えレバー)482の回動中心482kの位置及び入力側腕部482iの形状)と同一である。クロノグラフ機構201では、第二復針伝えレバー(又は単一の復針伝えレバー)及び復針レバー及びその関連要素については、クロノグラフ機構101の対応する要素の符号のうち「100」の位の数値を「4」から「5」に変更した符号が用いられている。また、このクロノグラフ機構201では、復針レバー564に加える力の向き及び変位方向についても、「5」を加えて、夫々、B51,D51とした。
【0041】
クロノグラフ機構201において、帰零状態にある際に、発停ボタン(図示せず)を押圧することにより帰零解除指示を出して、発停レバー(図示せず)を回動させる。これにより、第二復針伝えレバー(又は単一の復針伝えレバー)582をA2方向に回動させた場合、第二復針伝えレバー(又は単一の復針伝えレバー)582の出力側腕部582fが短いので、
図10に示した通り、復針レバー564が十分にはD52方向に戻され得ず、例えば、秒クロノグラフ車322の回転軌跡内に秒ハンマー564eの先端部の一部564erが残る。従って、本来のクロノグラフ運針動作が行われ得なくなる。
【0042】
一方、帰零解除の指示の際に復針レバーを十分に戻し得るように、係合溝ないし長穴の基端側の位置を後方にずらすと想定すると、クロノグラフ機構301は、概ね、
図11及び
図12の通りとなる。クロノグラフ機構301においてクロノグラフ機構101の要素と同一に保つ要素はクロノグラフ機構201の場合と同様であるけれども、クロノグラフ機構301においては、第二復針伝えレバー(又は単一の復針伝えレバー)682の出力側腕部及び関連要素の形状及び復針レバー664の形状、並びにクロノグラフ車322,342等の全体の向きや全体の配置は、クロノグラフ機構101とは異なる。
【0043】
このクロノグラフ時計302のクロノグラフ機構301では、
図12に示した通り、帰零解除動作が行われ、復針伝えレバー構造体を構成する第二復針伝えレバー(又は単一の復針伝えレバー)682がA2方向に回動され、出力側腕部682fの先端部の長穴682cの基端682c1に復針レバー664のピン664aが位置するとき、時ハンマー又はダミー軸部に対する当接部664dや分ハンマー664fだけでなく、秒ハンマー664eも、その先端部の部分664erを含む全体が対応するダミー軸部332dや分クロノグラフ車342及び秒クロノグラフ車322の領域から完全に離れる。従って、帰零解除が確実に行われて、その後、クロノグラフ機構301の発停動作が適切に行われ得る。
【0044】
クロノグラフ機構301では、第二復針伝えレバー(又は単一の復針伝えレバー)及び復針レバー及びその関連要素の符号については、クロノグラフ機構101の対応する要素の符号のうち「100」の位の数値を「4」から「6」に変更した符号が用いられている。また、このクロノグラフ機構301では、復針レバー664に加える力の向き及び変位方向についても、「6」を加えて、夫々、B61,D61とした。
【0045】
クロノグラフ機構301の場合、
図11に示した通り、帰零動作の際には、帰零指示ボタン(図示せず)を押圧して第一復針伝えレバー(図示せず)を回動させ、これにより、
図11に示したように、第二復針伝えレバー682を回動中心482kのまわりでA1方向に回動させ、第二復針伝えレバー682の先端係合溝部682cで復針レバー664の係合ピン664aをB61方向に押すことにより、復針レバー664をD61方向に変位させて、復針レバー664のハンマー部664d及び664eで時ハートカム又はダミー軸部332d及び秒ハートカム322dを叩いて帰零させ得る。この点では
図14に示したクロノグラフ機構101と同様である。しかし、第二復針伝えレバー682の長穴682cの側壁部682c2から復針レバー664のピン664aに対して加えられる帰零力の向きB61が、分ハンマー664f(より詳しくは分ハンマーの作動面664f)の延在方向と概ね平行になるので、分ハンマー664fでは分ハートカム342dに帰零力を加え得ず、分クロノグラフ車342を実際上帰零させ難い。
【0046】
より詳しくは、
図13に示したように、秒ハートカム322dの帰零が実際上完了し、ダミーピン332dへの当接(換言すれば、時クロノグラフ車がある場合における時ハートカム332dの帰零)も実際上完了した状態であって、分クロノグラフ車342の分ハートカム342dだけが完全には帰零されておらずその帰零途中にある状態において、復針伝えレバー682の長穴682cの側壁682c2が復針レバー664のピン664aを押す向きB61が秒クロノグラフ車322の中心軸線PCとダミー軸部332dの中心軸線PC2とを結ぶ仮想線PV1に対して概ね直角になる。そのため、セルフアラインメントの最終段階で復針レバー664を分ハートカム342dに押付ける力を実際上欠き、分クロノグラフ車342を実際上帰零させ難くなる。
【0047】
本発明者は、
図14及び
図15に示したような従来のセルフアラインメント式のクロノグラフ機構101では、帰零力受部となるクロノグラフ車やそのダミー軸部322,332d,342等の変更を最低限に抑えつつクロノグラフ時計102のムーブメント104のサイズ等の異なるものに適用しようとすると、上述のような種々の問題が生じることに気づき、本発明に到達した。次に、その一例について、詳しく説明する。
【0048】
本発明の好ましい一実施例のセルフアラインメント式のクロノグラフ帰零機構3を備えたクロノグラフ機構1を有する本発明の好ましい一実施例のクロノグラフ時計2は、例えば、
図1から
図5に示した通りの構造を有する。
【0049】
クロノグラフ時計2のクロノグラフ機構1は、
図1に示した通り、クロノグラフ下板5の如き基板等によって支持された帰零力受部としての秒クロノグラフ車81(第一帰零力受部)、帰零力受部としての分クロノグラフ車82(第二帰零力受部)及び帰零力受部(第三帰零力受部)を構成するクロノグラフ真以外の軸部の力受体としてのダミーピン83(ダミー軸受部)や発停(スタート/ストップ)ボタン16及び帰零指示(リセット)ボタン17に加えて、帰零指示(リセット)レバー20、発停レバー30、復針伝えレバー40、及び復針レバー50を有する。なお、第一〜第三帰零力受部は帰零部に含まれる。また、第一帰零力受部は秒クロノグラフ車以外のクロノグラフ車又はダミーピンであってもよいし、第二帰零力受部は分クロノグラフ車以外のクロノグラフ車又はダミーピンであってもよいし、第三帰零力受部はダミーピン以外のクロノグラフ車であってもよい。クロノグラフ時計2のムーブメント4は概ねクロノグラフ下板5と同様な平面形状を有する。この例では、クロノグラフ機構1を構成する要素ないし部品はその細かい形状や長さや相対配置を除いて特許文献2の
図2等に示したものと概ね同様である(停止レバー等の一部の部品(要素)の図示は省略してある)。
【0050】
ダミーピン83は中心軸線C1(回転中心)に沿って立設されている。ダミーピン83の代わりに、特許文献2のように、時クロノグラフ車が設けられていてもよい。ダミーピン83の半径は、典型的には、時クロノグラフ車がある場合における時ハートカムの帰零面と回転中心軸線C1との間の距離に一致する。秒クロノグラフ車81は、中心軸線C(回転中心)のまわりで回転可能であって、秒ハートカム81dで帰零力を受ける。分クロノグラフ車82は、中心軸線C2(回転中心)のまわりで回転可能であって、分ハートカム82dで帰零力を受ける。
【0051】
帰零指示レバー20は中心軸線C4のまわりでE1,E2方向に回動可能であってその両側に入力側及び出力側腕部22,23を備える。ばね部(図示せず)によってF2方向復元力を受けた帰零指示ボタン17がF1方向に押圧されると、帰零指示レバー20は、該ボタン17の押圧力を入力側腕部22の突出部26で受けてE1方向に回動され、出力側腕部23の先端側縁の係合縁部29が前に進む向きにE1方向に回動される。
【0052】
発停レバー30も一端に位置する中心軸線C4のまわりでE2,E1方向に回動可能であって該端部から延在した腕部33の先端の内側に復針伝えレバー押圧用突出部35を備える。ばね部(図示せず)によってG2方向復元力を受けた発停ボタン16がG1方向に押圧されると、発停レバー30は、該ボタン16の押圧力を腕部33の基端部の外側の突出部36で受けてE2方向に回動され、腕部33の先端の内側縁の押圧用突出部35が前に進む向きにE2方向に回動される。
【0053】
復針伝えレバー40は中心軸線C5(回動中心)のまわりでH1,H2方向に回動可能であってその両側に入力側及び出力側腕部42,43を備える。復針伝えレバー40の入力側腕部42は、先端の一側に発停レバー係合部44を備えると共にクロノグラフ下板5に対面する主面からクロノグラフ下板5に向かって突出した帰零指示レバー係合用ピン状突起部45を備える。復針伝えレバー40の出力側腕部43は、先端部に、「L」字状の係合長穴部70(第一係合部の係合穴)を備える。出力側腕部43は、更に、復針伝えレバー40の回動位置を規定する復針伝えレバー用スイッチばね部64と係合するピン状突起部47を備える。スイッチばね部64は一側に山部64aを備える。
【0054】
係合長穴部70(第一係合部が係合穴の場合)は、端部71から端部72まで直線状に延び幅が一定の第一長穴部73と、該第一長穴部73の端部72から別の端部74まで直線状に延び幅が一定の第二長穴部75とを備え、該係合長穴部70は、全体として、復針伝えレバー40の出力側腕部43の先端部が描く円弧(
図1〜
図4の図面において下に凸の円弧)とは逆向きに凸状に曲がっている。より詳しくは、第一長穴部73と第二長穴部75とは全体として概ね「L」字状の形状をなす。更に言えば、「L」の二辺を構成する第一長穴部73と第二長穴部75とは鈍角をなすように端部72において連続的に繋がっている。第一長穴部73の側壁ないし側面73a,73bは端部71,72間では実際上直線状であり、第二長穴部75の側壁ないし側面75a,75bも端部72,74間では実際上直線状である。側面73a及び側面75aは端部72において湾曲して滑らかにつながり、側面73b及び側面75bも端部72において湾曲して滑らかにつながっている。
【0055】
長穴部75の側面75aの向き、換言すれば該側面75aに対して垂直に働く力Kの向きは、中心軸線C,C1を結ぶ仮想線V1に対して斜め方向であって且つ該仮想線V1に対して直交する仮想線V2に対して、分クロノグラフ車82の中心軸線C2に対面する側に傾いて(向いて)いる。
【0056】
帰零指示ボタン17のF1方向の押圧により帰零指示レバー20がE1方向に回動されると、該帰零指示レバー20は出力側腕部23の先端側縁の係合縁部29で復針伝えレバー40のピン状突起部45を押して復針伝えレバー40をH1方向に回動させる。これにより、ピン状突起部47がスイッチばね部64の山部64aの基端側側面64bに当接する位置に設定される。
【0057】
一方、クロノグラフ機構1が帰零状態にある際に、発停ボタン16のG1方向の押圧により帰零解除の指示が出されて発停レバー30がE2方向に回動されると、該発停レバー30は腕部33の先端内側縁の押圧用突出部35で復針伝えレバー40の対向する発停レバー係合部44を押して復針伝えレバー40をH2方向に回動させる。これにより、ピン状突起部47がスイッチばね部64の山部64aの先端側側面64cに当接する位置に設定される。
【0058】
復針レバー50は、概ね直線状に延びた案内胴部51と、該案内胴部51の先端側に形成された第一復針レバー部52、並びに該胴部51の中間部においてその両側に形成された第二及び第三復針レバー部53,54とを有する。第一、第二及び第三復針レバー部52,53,54の先端部は、秒ハンマー52a(第一ハンマー部)、分ハンマー53a(第二ハンマー部)及び時ダミーハンマー54a(第三ハンマー部)になっていて、先端面52b(第一打面),53b(第二打面)及び54b(第三打面)が秒ハンマー52a、分ハンマー53a及び時ダミーハンマー54aの叩き面になっている。なお、第一ハンマー部は秒ハンマー52a以外のハンマーであってもよいし、第二ハンマー部は分ハンマー53a以外のハンマーであってもよいし、第三ハンマー部は時ダミーハンマー以外のハンマーであってもよい。案内胴部51には、クロノグラフ下板5に立設された一対のガイドピンとしての円柱状案内ピン5a,5bが嵌った一対の案内溝としての先端側の案内用長穴55(案内部が案内用長穴の場合)及び後端側の案内用長溝56(案内部が案内用長穴の場合)とが形成されている。セルフアラインメントを可能にするように、案内用長穴55及び案内用長溝56の手前側端部には円柱状案内ピン5a,5bの径よりの多少大きい(幅広の)拡径部55a,56aが形成されている。つまり、帰零力に応じて第一及び第二ハンマー部がそれぞれ第一及び第二帰零力受部に当接し帰零する位置において、ガイドピンが位置する近傍の案内用長穴はガイドピンの径よりも大きい拡径部を有する。
【0059】
なお、第二復針レバー部53の先端部近傍には、側方に突出した力入力部57が形成され、該力入力部57には、復針伝えレバー40の係合長穴部70に係合した係合ピン58が形成されている。この係合ピン58の径は係合長穴部70を構成する第一及び第二長穴部73,75の幅に概ね一致している(長穴部73,75内でその長手方向に移動可能なように長穴部73,75の幅よりも僅かに小さい)。
【0060】
以上において、クロノグラフ帰零機構3は、帰零指示ボタン17と、帰零指示レバー20と、復針伝えレバー40と、復針レバー50と、秒クロノグラフ車81と、分クロノグラフ車82とダミーピン83とを含み、より詳しくは、復針レバー用スイッチばね部64等の関連要素を含む。クロノグラフ機構1は、クロノグラフ帰零機構3に加えて、発停ボタン16や、発停レバー30や停止レバー(図示せず)等を含む。
【0061】
以上の如く構成されたクロノグラフ帰零機構3を備えたクロノグラフ機構1を有するクロノグラフ時計2におけるクロノグラフ動作について、より詳しく説明する。
【0062】
図1からわかるように、クロノグラフ機構1が帰零状態にある際に発停ボタン16がG1方向に押されて帰零解除指示が出される場合、発停レバー30が中心軸線C4のまわりでE2方向に回動されるので、復針伝えレバー40が該発停レバー30の押圧用突出部35によって係合部44でH2方向に力を受けて、復針伝えレバー40が、中心軸線C5のまわりでH2方向に回動される。
【0063】
従って、
図1に加えて
図3からわかるように、復針伝えレバー40の出力側腕部43のH2方向回動に伴い、出力側腕部43のピン状突起部47がスイッチばね部64の基部側側面64bから山部64aを越えて先端側側面64cに至る。また、復針伝えレバー40の出力側腕部43のH2方向回動に伴い、該腕部43の先端の係合長穴部70もH2方向に回動されるので、該係合長穴部70に係合している復針レバー50の係合ピン58が係合長穴部70の先端側長穴部75から基端側長穴部73に移動し、基端側長穴部73の端部71近傍に至る。ここで、係合ピン58を備える復針レバー50の変位は、案内用長穴55及び後端側の案内用長溝56で係合したガイドピン5a,5bによって規定されているので、復針レバー50は、実際上D2方向に並進されて
図3に示した帰零解除位置ないし発停位置P1に設定される。復針レバー50の帰零解除位置(発停位置)P1では、復針レバー50のハンマー部52a,53a,54aは、関連するクロノグラフ車ないしそのダミー81,82,83と干渉する領域から完全に離脱する。ここで、復針レバー50について、帰零状態の解除が完了した帰零解除位置P1は実際上クロノグラフ計測動作が開始される位置(開始位置)や該クロノグラフ計測動作が停止された際の停止位置や該クロノグラフ計測動作が再開された際の位置である再開位置と一致する。なお、発停動作に際しては停止レバー(特許文献2において符号70で示される部材)や関連規制部材が係わるけれども、その種の動作自体は周知であり、例えば、特許文献2の関連要素がそのまま適用され得るので、ここではその説明は省略する。
【0064】
図8は、
図3に示した復針レバー50が帰零解除位置ないし発停位置P1にあって帰零解除状態ないし発停状態S1にあるクロノグラフ機構1と
図12に示した復針レバー664が帰零解除位置ないし発停位置Pb1にあって帰零解除状態ないし発停状態Sb1にあるクロノグラフ機構301とを重ねて示した。
図8からわかるように、この状態では、クロノグラフ機構1の係合長穴部70の形状とクロノグラフ機構301の係合長穴682cとの形状が異なる点を除いて、クロノグラフ機構1はクロノグラフ機構301と実際上同一の形状を有し、クロノグラフ機構1の復針レバー50の係合ピン58がクロノグラフ機構301の復針レバー664の係合ピン664aと実際上同一位置を採るので、復針レバー50のハンマー部52a,53a,54aは、関連するクロノグラフ車ないしそのダミーピン81,82,83と干渉する領域から完全に離脱する(例えば、復針レバー50の秒ハンマー部52aの先端部52dが秒クロノグラフ車81の領域に残るのを確実に避け得る点は、
図13のクロノグラフ機構301の場合と同様である)。
【0065】
図7は、
図3に示した復針レバー50が帰零解除位置(発停位置)P1にあって帰零解除状態(発停状態)S1にあるクロノグラフ機構1と
図10に示した復針レバー564が帰零解除位置(発停位置)Pa1にあって帰零解除状態(発停状態)Sa1にあるクロノグラフ機構201とを重ねて示した。
図7からわかるように、この状態では、クロノグラフ機構1の係合長穴部70のうちの長穴部73およびその端部71がクロノグラフ機構201の係合溝部582cよりもD2方向に引いた(ずれた)ところに位置するので、帰零解除位置(発停位置)P1にあるクロノグラフ機構1の復針レバー50は、帰零解除位置(発停位置)Pa1にあるクロノグラフ機構201の復針レバー564よりもD2方向に引いた(ずれた)ところに位置する。従って、帰零解除位置(発停位置)P1にあるクロノグラフ機構1の復針レバー50の秒ハンマー部52aの先端部52dは、帰零解除位置(発停位置)Pa1にあるクロノグラフ機構201の秒ハンマー部の先端部564erと異なり、秒クロノグラフ車81(秒クロノグラフ車322に対応)と干渉することのないD2方向に引いた(ずれた)ところ(即ち秒クロノグラフ車81からD2方向により離れたところ)に位置する。
【0066】
従って、長穴部73を備えた係合長穴部70を有する復針レバー50を具備するクロノグラフ機構1では、発停動作が、復針レバー50によって妨げられることなく、適切に行われ得る。
【0067】
一方、
図1からわかるように、帰零ボタン17がF1方向に押された場合、帰零指示レバー20が中心軸線C4のまわりでE1方向に回動されるので、復針伝えレバー40が該帰零指示レバー20の係合縁部29によって係合ピン45でH1方向に力を受けて、復針伝えレバー40が、中心軸線C5のまわりでH1方向に回動される。
【0068】
従って、
図1に加えて
図2及び
図4からわかるように、復針伝えレバー40の出力側腕部43のH1方向回動に伴い、出力側腕部43のピン状突起部47がスイッチばね部64の先端側側面64cから山部64aを越えて基部側側面64bに至る。また、復針伝えレバー40の出力側腕部43のH1方向回動に伴い、該腕部43の先端の係合長穴部70もH1方向に回動されるので、該係合長穴部70に係合している復針レバー50の係合ピン58が係合長穴部70の基端側長穴部73から先端側長穴部75に移動し、先端側長穴部75の端部74近傍に至る(
図4)。
【0069】
ここで、係合ピン58を備える復針レバー50の変位は、案内用長穴55及び後端側の案内用長溝56で係合したガイドピン5a,5bによって規定されているので、復針レバー50は、実際上D1方向に並進されて
図4に示した帰零近傍位置P2nに設定される。復針レバー50の帰零近傍位置P2nでは、復針レバー50のハンマー部52a,53a,54aのうち秒ハンマー部52a及びダミーハンマー部54aはその先端叩き面52b及び54bが対応する秒ハートカム81dの帰零面及びダミーピン83の周面に当接する状態に達するけれども、分ハンマー53aは分クロノグラフ車82を完全には帰零させておらずその途上にあって分ハンマー53aの叩き面53bと分ハートカム82dの帰零面との間には多少の隙間Mが楔状に残っている。
【0070】
図4からわかるように、このとき、復針伝えレバー40は、L字状の係合長穴部70のうち先端側長穴部75の先端部74の近傍で復針レバー50の係合ピン58に係合した状態になる。従って、復針伝えレバー40は、そのH1方向回動に伴い、先端側長穴部75の側縁75aで該側縁75aに実際上垂直な向きKに復針レバー50の係合ピン58を押す。また、このセルフアラインメントの最終段階では、
図4からわかるように、ガイドピン5a,5bが案内用長穴55及び後端側の案内用長溝56の拡径部55a及び56aに位置し該拡径部55a及び56aの壁部とガイドピン5a,5bの周面との間に隙間ができるので、ガイドピン5a,5bが案内用長穴55及び案内用長溝56の長手方向D2だけでなく該長手方向D2に対して交差する向きにも変位可能になる。なお、この段階では、秒ハンマー部52a及びダミーハンマー部54aが秒ハートカム81d及びダミーピン83に当接しているので、V1方向に垂直な向きの変位は禁止されてV1方向の変位だけが許容されるから、復針レバー50は、K方向力のうちV1方向に平行な方向の成分の力の作用下でV1方向に平行な方向(すなわちV2方向に対して直角な方向)に変位される。すなわち、復針レバー50の該V1方向変位に伴って、分ハンマー53aが叩き面53bで分ハートカム82dの帰零面に密接されて、分クロノグラフ車82の帰零も完了し、クロノグラフ機構1の復針レバー50が帰零位置P2に達する(
図2)。
【0071】
なお、クロノグラフ分針(図示せず)を有する分クロノグラフ車82が慣性によって回り過ぎた場合にも、復針レバー50が
図2の帰零位置P2を越えて
図4の帰零近傍位置P2n又はこれに近い位置に達することがある。その場合、分ハートカム82dが更に回ると(例えば、
図4において時計回りに回ると)復針レバー50がD2方向に押し戻される。このとき、係合長穴部70の先端側長穴部75の長さが比較的短いと復針レバー50の係合ピン58が先端側長穴部75を越えて基端側長穴部73に入って(戻って)しまうと、復針レバー50の分ハンマー部53aが分ハートカム82dに対して帰零力を及ぼし得なくなるので、そのような事態の生起をさけるべく、先端側長穴部75は十分な長さを有するように形成されている。
【0072】
以上の通り、クロノグラフ機構1のセルフアラインメントの最終段階を示す
図4を、クロノグラフ機構301のセルフアラインメントの最終段階を示す
図13と対比すればわかるように、クロノグラフ機構1では、係合長穴部70がL字状形状であって、基端側長穴部73に加えてこれに対して斜めに延びた先端側長穴部75を連続的に備えるので、セルフアラインメントの最終段階において、該長穴部75の側壁75aから係合ピン58を介して復針レバー50に対して、分クロノグラフ車82の帰零力を付与し得る。
【0073】
すなわち、
図2に示した復針レバー50が帰零位置P2にあって帰零状態S2にあるクロノグラフ機構1と
図9に示した復針レバー564が帰零位置Pa2にあって帰零状態Sa2にあるクロノグラフ機構201とを重ねて示した
図5からわかるように、この状態では、クロノグラフ機構1の係合長穴部70の形状とクロノグラフ機構201の係合長穴582cの形状とが図示された状態では動作に直接係わっていない部分(復針レバー50の係合ピン58と係合している部分以外の部分)において異なる点を除いて、クロノグラフ機構1はクロノグラフ機構201と実際上同一の形状を有し、クロノグラフ機構1の復針レバー50の係合ピン58がクロノグラフ機構201の復針レバー564の係合ピン564aと実際上同一位置を採るので、復針レバー50のハンマー部52a,53a,54aは、関連するクロノグラフ車ないしダミーピン81,82,83に対して帰零動作が完了した位置を採る(例えば、復針レバー50の分ハンマー部53aの先端面53bが分ハートカム82dに向かう力を受けてこれを帰零させ得る点は、
図5のクロノグラフ機構201の場合と同様である)。
【0074】
換言すれば、
図2に示した復針レバー50が帰零位置P2にあって帰零状態S2にあるクロノグラフ機構1と
図11に示した復針レバー664が(仮想)帰零位置Pb2にあって(仮想)帰零状態Sb2のクロノグラフ機構301とを重ねて示した
図6からわかるように、この状態では、クロノグラフ機構1の係合長穴部70のうちの長穴部75の向きがクロノグラフ機構301の長穴部682cよりも分クロノグラフ車82の回転中心C2の方に向いていて仮想線V1に対して斜めになっていて、帰零状態S2にあるクロノグラフ機構1の帰零位置P2にある復針レバー50の係合長穴部70の長穴部75の側壁75aが係合ピン58に対して加える力の向きKは、(仮想)帰零位置Pb2にあるクロノグラフ機構301の係合長穴部682cの側壁が被係合ピン664aに対して加える力の向きB61とは異なり、セルフアラインメントの最終段階において分ハートカム82dに対して有効な帰零力を及ぼして分クロノグラフ車82を帰零させ得る。
【0075】
すなわち、長穴部75を備えた係合長穴部70を有する復針レバー50を具備するクロノグラフ機構1では、セルフアラインメントの最終段階においても、帰零力が復針レバー50を介して適切にハートカムに伝達されて、すべてのクロノグラフ車の帰零動作が適切に行われ得る。
【0076】
以上においては、復針伝えレバー40の出力側腕部43の長さが変わることに応じて三つの帰零力受部の相対配置を保ったままその全体の向き等を変更する場合において、復針伝えレバー40の出力側腕部43にある係合長穴部70の形状や向きを変更する例について説明したけれども、例えば、復針伝えレバー40の入力側腕部42の長さや、帰零指示レバー20や発停レバー30の長さや形状や相対配置等を変更する場合に、復針伝えレバー40の出力側腕部43にある係合長穴部70の形状や向きを変更するようにしてもよい。また、上記においては、復針伝えレバーが単一のレバーからなる例について図示して説明したけれども、復針伝えレバーが複数のレバーからなる復針伝えレバー構造体であってもよい。
【0077】
また、以上においては、ムーブメントが小型化される場合を例にとって説明したけれども、ムーブメントが小型化と同様に、クロノグラフ帰零機構を構成するレバー類の長さや形状や相対配置等やクロノグラフ機構を構成するレバー類の長さや形状や相対配置等の変更を要するような変更が必要な場合においても、係合長穴部の形状(向きを含み得る)を変更することにより帰零及びその解除を効果的に行い得るようにする本発明は、そのまま適用され得る。
【0078】
以上説明した通り、本発明のクロノグラフ帰零機構は、復針伝えレバー40と、復針レバー50と、帰零部(例えば帰零力受部81、82)とを備える。復針伝えレバー40は、回動中心の一方側に帰零力を入力する入力側腕部42と、他方側に帰零力を出力する出力側腕部43と、出力側腕部43に形成される第一係合部(例えば係合長穴部70)とを備える。復針レバー50は、第一係合部と係合し帰零力を入力する第二係合部(例えば係合ピン58)と、帰零力に応じて移動する方向を案内する案内部(例えば案内用長穴55、案内用長溝56)と、第一打面(例えば先端面52b)が形成される第一ハンマー部(例えば秒ハンマー52a)と、第二打面(例えば先端面53b)が形成される第二ハンマー部(例えば分ハンマー53a)とを有する。帰零部は、第一打面が当接して帰零される第一帰零力受部(例えば帰零力受部81)と、第二打面が当接して帰零される第二帰零力受部(例えば帰零力受部82)とを有する。
【0079】
ここで、第一及び第二係合部は、一方が係合穴(例えば係合長穴部70)からなり他方が係合穴と係合する係合ピン(例えば係合ピン58)からなり、係合穴は凸状に曲がって長穴からなる。この場合に、既に説明したように、復針伝えレバー40に第一係合部の係合穴としての係合長穴部70を設け、復針レバー50に第二係合部の係合ピン(係合ピン58)を設けることに代えて、復針伝えレバー40に係合ピンを設け復針レバー50に係合穴を設けることができる。このように構成しても、既に説明したと同様の作用を奏することができる。
ここで、本実施形態では、係合長穴部70は復針伝えレバー40に、係合ピン58は復針レバー50にそれぞれ設けられているが、これに限定されず、係合長穴部70を復針レバー50に、係合ピン58を復針伝えレバー40にそれぞれ設けるようにしてもよい。
この様な構成によって、本願発明では、係合長穴部70及び係合ピン58のいずれか一方が、中心軸線C5(回動中心)とした周方向に対して、斜めに他方をガイドするようになっている。
【0080】
また、復針レバー50の案内部に、既に説明した案内用長穴(例えば案内用長穴55、案内用長溝56)を設けることに代えて、ガイドピン(例えばガイドピン5a、ガイドピン5b)を設け、例えばクロノグラフ下板5に案内用長穴55又は案内用長溝56を設けることができる。このように構成しても既に説明したと同様の作用を奏することができる。
【0081】
また、第一又は第二係合部の係合穴は、復針レバー50が帰零力に応じて移動するD1方向に凸である凸状に曲がった長穴とすることができる。また、第一又は第二係合部の係合穴は、入力側腕部42が帰零力に応じて移動する移動方向に凸である凸状に曲がった長穴とすることができる。また、第一又は第二係合部の係合穴は、直線状の2つの長穴部(例えば第一長穴部73と第二長穴部75)が折れ曲がって連結して「L」字形状を有する凸状に曲がった長穴とすることができる。この場合も、帰零力に応じて復針レバー50が移動するD1方向に凸となる、また、帰零力に応じて入力側腕部42が移動する移動方向に凸となるように設置することができる。
【0082】
また、第一帰零力受部(例えば秒クロノグラフ車81)の回転中心(中心軸線C)と第二帰零力受部(例えば分クロノグラフ車82)の回転中心(中心軸線C2)とを結ぶ直線は第二打面(先端面53b)により形成される平面に対して傾斜するように構成することができる。案内用長穴55とガイドピン5aとの間、また、案内用長溝56とガイドピン5bとの間に隙間を設けてガタを作ることによりこの傾斜角を吸収することができるからである。
【0083】
また、第一打面(例えば先端面52b)は第二打面(例えば先端面53b)と直交するように構成することができる。また、復針レバー50は第一打面に平行な第三打面(例えば先端面54b)を有し、帰零部は第三打面が当接する第三帰零力受部(例えばダミーピン83)を備える。なお、第三帰零力受部をダミーピン83に代えて時ハートカム及び時クロノグラフ真からなる帰零力受部とすることができる。そして、この第三打面は、復針レバー50が帰零力に応じて移動するD1方向に対し第一打面により形成される平面よりも前方又は後方に設けることができる。
【0084】
また、復針レバー50の案内部は、帰零力に応じて第一及び第二ハンマーがそれぞれ第一及び第二帰零力受部に当接し帰零する位置において、ガイドピン5a、5bが位置する近傍の案内用長穴(案内用長穴55や案内用長溝56)はガイドピンの径よりも大きい拡径部55a、56aを設けることができる。