特許第6266226号(P6266226)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6266226
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】施錠可能バックル
(51)【国際特許分類】
   A44B 11/25 20060101AFI20180115BHJP
【FI】
   A44B11/25
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-93577(P2013-93577)
(22)【出願日】2013年4月26日
(65)【公開番号】特開2014-213036(P2014-213036A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2015年11月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006828
【氏名又は名称】YKK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095430
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 勲
(72)【発明者】
【氏名】高橋 義信
【審査官】 北村 龍平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−133032(JP,A)
【文献】 特開2001−211911(JP,A)
【文献】 特開2004−081694(JP,A)
【文献】 実開昭60−129467(JP,U)
【文献】 米国特許第07181936(US,B2)
【文献】 欧州特許出願公開第00792666(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B 11/00 − 11/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに連結及び連結解除可能で、各々他の部材に取り付けられる取付部(24,46)が設けられた雄部材(12)と雌部材(14)から成り、
前記雄部材(12)には、前記取付部(24)から突出した係合部(20)が形成され、
前記雌部材(14)は、表面部(41)と裏面部(43)及び側面部(45)に囲まれた収容空間(40)を有し、前記収容空間(40)は前記係合部(20)を収容可能に形成され、前記収容空間(40)の一方の端部が、前記雄部材(12)が挿入される開口部(42)として設けられ、
前記収容空間(40)内には、前記係合部(20)が係合する被係合部(50)が設けられ、
前記雌部材(14)の前記表面部(41)から前記収容空間(40)に連通するキー部材挿入孔(56)と、
前記キー部材挿入孔(56)から前記収容空間(40)に挿入され、前記係合部(20)に当接して前記係合部(20)と前記被係合部(50)との係合を解除するキー部材(60)とが設けられ、
前記キー部材(60)は、前記キー部材挿入孔(56)から前記収容空間(40)に挿入可能で、前記キー部材(60)が回動した際に前記係合部(20)に当接して一対の前記係合部(20)を左右方向に押し広げ可能に形成された差込片部(64)を備え、
前記キー部材挿入孔(56)に差し込まれた前記キー部材(60)の操作により、前記キー部材(60)が前記係合部(20)を弾性変形させて、前記被係合部(50)との係合を解除可能に設けられたことを特徴とする施錠可能バックル。
【請求項2】
前記雄部材(12)には、係合状態で前記係合部(20)の左右方向外側に位置するガイド部(26)が一体に設けられている請求項1記載の施錠可能バックル。
【請求項3】
前記係合部(20)と前記ガイド部(26)は板状の嵌合本体(22)として形成され、前記雌部材(14)は、前記嵌合本体(22)が嵌合する扁平な収容空間(40)を有して扁平に形成されている請求項2記載の施錠可能バックル。
【請求項4】
前記係合部(20)は、前記被係合部(50)の爪部(52)と、前記雄部材(12)の一対の前記係合部(20)の先端側の溝部(32)、または前記係合部(20)の基端部(22a)側の溝部(33)とが係合することにより、前記雄部材(12)と前記雌雄部材(14)が少なくとも2箇所の位置で連結可能に設けられている請求項1記載の施錠可能施錠可能バックル。
【請求項5】
前記雄部材(12)には帯体(16)を取り付ける帯体取付部(24)が設けられ、前記雄部材(12)と前記雌部材(14)の連結状態で、前記帯体取付部(24)の一部に前記雌部材(14)の側面の端縁部(41a、43a)が覆い被さるように位置する請求項1記載の施錠可能バックル。
【請求項6】
前記雄部材(12)を前記雌部材(14)に係合させる際に、前記複数段の係合の前記係合部(20)先端側では、前記帯体取付部(24)には前記雌部材(14)が覆い被さらず、前記複数段の係合の前記基端部(22a)側では、前記帯体取付部(24)の一部に前記雌部材(14)の端縁部(41a,43a)が覆い被さるように位置する請求項4記載の施錠可能バックル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、雄部材と雌部材とを備え、互いに係合及び係合解除可能なバックルであって、施錠が可能なバックルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二つの連結対象物を着脱自在に連結するバックルとして、例えば特許文献1に開示されているように、雄部材と雌部材の連結状態で施錠が可能なバックルがあった。このバックルは、一対の係合部を有した雄部材と、雄部材の係合部が係合して互いを連結する被係合部を有した雌部材と、雌部材に設けられ、雄部材の係合部の間に位置して、係合部の係合解除動作の阻止及び許容を選択的に可能にするロック部材とにより構成されている。雄部材は、操作部を有した係合部が側方に位置し、雌部材の一対の側面には、側方に位置した操作部が露出する操作用開口部が形成されている。このバックルの連結及び連結解除は、連結状態で雄部材の操作部を押圧することにより、係合部と被係合部の係合が解除される。ロック部材は、長円状に形成され、長円の長軸の方向により、雄部材の係合部の係合解除位置への揺動を許容する位置と、阻止する位置とを選択可能に構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第7181936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示されたバックルは、雌部材に設けられたロック部材が別部品として取り付けられているもので、部品点数が多いという問題があった。さらに、ロック部材が別部材として設けられているため、このバックルの製造工程及び組み立て工程が複雑となり、製造コストが掛かるものであった。また、雌部材内にロック部材を収容しているため、雌部材を薄く構成することが難しく、種々の使用状況において、取り付けられる部材の表面の突出したバックルが邪魔になりやすく、外観上も好ましくないものであった。
【0005】
この発明は、上記背景技術の問題点に鑑みて成されたもので、部品点数が少なく、薄型化小型化が容易であり、製造コストも抑えることができる施錠可能バックルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この本発明は、互いに連結及び連結解除可能で、各々他の部材に取り付けられる取付部が設けられた雄部材と雌部材から成り、前記雄部材には、前記取付部から突出した係合部が形成され、前記雌部材は、表面部と裏面部及び側面部に囲まれた収容空間を有し、前記収容空間は前記係合部を収容可能に形成され、前記収容空間の一方の端部が、前記雄部材が挿入される開口部として設けられ、前記収容空間内には、前記係合部が係合する被係合部が設けられた施錠可能バックルである。さらに、前記雌部材の前記表面部から前記収容空間に連通するキー部材挿入孔と、前記キー部材挿入孔から前記収容空間に挿入され、前記係合部に当接して前記係合部と前記被係合部との係合を解除するキー部材とが設けられ、前記キー部材挿入孔に差し込まれた前記キー部材の操作により、前記キー部材が前記係合部を弾性変形させて、前記被係合部との係合を解除可能に設けられた施錠可能バックルである。
【0007】
前記キー部材は、前記キー部材挿入孔から前記収容空間に挿入可能で、前記キー部材が回動した際に前記係合部に当接して、一対の係合部を左右方向に押し広げ可能に形成された差込片部を備えるものである。
【0008】
前記雄部材には、係合状態で前記係合部の左右方向外側に位置するガイド部が一体に設けられているものである。
【0009】
前記係合部と前記ガイド部は板状の嵌合本体として形成され、前記雌部材は、前記嵌合本体が嵌合する扁平な収容空間を有して扁平に形成されているものである。
【0010】
また、前記被係合部の爪部と、前記雄部材の一対の前記係合部の先端側の溝部、または前記係合部の基端部側の溝部とが係合することにより、前記雄部材と前記雌雄部材が少なくとも2箇所の位置で連結可能に設けられているものである。
【0011】
前記雄部材には帯体を取り付ける帯体取付部が設けられ、前記雄部材と前記雌部材の連結状態で、前記帯体取付部の一部に前記雌部材の側面の端縁部が覆い被さるように位置するものである。
【0012】
前記雄部材を前記雌部材に係合させる際に、前記複数段の係合の前記係合部の先端側では、前記帯体取付部には前記雌部材が位置しておらず、前記複数段の係合の後半では、前記帯体取付部の一部に前記雌部材の端縁部が覆い被さるように位置するものである。
【発明の効果】
【0013】
この発明は、施錠可能なバックルの雌部材を一体の構造で形成することができ、部品点数が少なく、小型薄型化が容易である。これにより、コストを抑えることができ、不用意に連結状態が解除されず、安全性の高いバックルをより安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】この発明の第一実施形態の施錠可能バックルの斜視図である。
図2】第一実施形態の施錠可能バックルの雄部材の正面図(a)、右側面図(b)、及び縦断面図(c)である。
図3】第一実施形態の施錠可能バックルの雌部材の正面図(a)と、背面図(b)である。
図4】第一実施形態の施錠可能バックルの雌部材の横断面図である。
図5】第一実施形態の施錠可能バックルの第一段階の係合状態での部分断面図(a)と、A−A線断面図(b)である。
図6】第一実施形態の施錠可能バックルの第二段階の係合状態での部分断面図(a)と、B−B線断面図(b)である。
図7】第一実施形態の施錠可能バックルの第一段階の係合状態での帯体取付部の部分縦断面図(a)と、第二段階の係合状態での帯体取付部の部分縦断面図(b)である。
図8】第一実施形態の施錠可能バックルの帯体取付部により帯体が固定される状態を示す部分縦断面図(a)と、帯体取付部により帯体が固定される他の状態を示す部分縦断面図(b)である。
図9】第一実施形態の施錠可能バックルの係合状態の部分横断面図である。
図10】第一実施形態の施錠可能バックルの係合解除時の部分拡大断面図(a)と、係合解除後の部分拡大断面図(b)である。
図11】第一実施形態の施錠可能バックルのキー部材の底面図(a)と、キー部材の各変形例を示す底面図(b)〜(d)である。
図12】この発明の施錠可能バックルの雄部材の各変形例を示す正面図(a)、(b)である。
図13】この発明の施錠可能バックルの他の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の一実施形態の施錠可能バックル10について、図1図11を基にして説明する。この施錠可能バックル10は、雄部材12と、雄部材12が嵌合して係止される雌部材14とから成るもので、互いに任意に連結及び連結解除される部材に各々取り付けられ、例えば搬送品等を梱包して縛る帯体16の互いに連結される端部16aに取り付けられる。以後の説明において、雄部材12の後述する一対の係合部20が対向し互いに接近・離反する方向を左右方向、左右方向と直交する方向であって係合部20の突出方向を前後方向、左右方向及び前後方向に直交する方向を表裏方向と称す。
【0016】
雄部材12は、例えばポリアセタール、ポリアミド、ポリプロピレンなどの合成樹脂で一体成形により形成されている。雄部材12は、図2等に示すように、矩形の板状に形成され雌部材14に嵌合される嵌合本体22と、嵌合本体22から一体に連続して構成され、帯体16等が取り付けられる帯体取付部24から成る。
【0017】
嵌合本体22は、帯体取付部24のコ字状の側縁部24aから突出した各先端部24bに基端部22aが繋がり、基端部22aから前後方向に延出した一対のガイド部26と、一対のガイド部26間に位置して、互いに略平行に一対のガイド部26の表裏方向の厚みと等しい厚みで棒状に形成された一対の係合部20とを備える。嵌合本体22の基端部22aは、帯体取付部24の側縁部24aより僅かに左右方向の内側に位置している。
【0018】
各ガイド部26は、雄部材12の操作阻止部として機能するもので、基端部22aから前後方向に延出して形成されている。各ガイド部26の外側の側縁部26aは、前後方向に直線状に形成され、側縁部26aの先端部の外側角部26bにはアールが形成されて丸められ、雌部材14への挿入をスムーズにする。
【0019】
一対の係合部20は、ガイド部26間に位置して、ガイド部26と等しい長さで前後方向に延出し、ガイド部26との間及び一対の係合部20間に、弾性変形可能な空間部30,31が形成されている。係合部20の互いに対向する側面20aには、前後方向に同形状に形成された2つの溝部32,33が形成されている。各溝部32,33には、雌部材14の後述する爪部52が係合する係合段部34が先端部側に形成され、各係合段部34は各々基端部22aの左右方向中心に向かって傾斜して形成されている。係合部20の基端部20bは先端側よりもやや細く形成され弾性変形が容易に可能に設けられている。
【0020】
嵌合本体22の基端部22aから連続して設けられた帯体取付部24は、嵌合本体22の基端部22aに繋がる先端部24bと、先端部24bより僅かに表裏方向及び側方に幅広に突出して側縁部24aが形成され、基端部22aから連続してコ字形に形成されている。そして、帯体取付部24のコ字状の内側空間が、帯体16が挿通される帯体挿通孔36として形成されている。帯体挿通孔36の基端部22a側は、基端部22aの側面により閉鎖されて、基端部22aの側面部分が、帯体16を挟む第一横材23となり、コ字状の帯体取付部24の奥側の側面が、帯体16を挟む第二横材25として機能する。
【0021】
帯体取付部24は、その帯体挿通孔36内に、帯体16が巻き付けられる移動中軸38を備えている。移動中軸38の両端部には、中間部より僅かに細く形成された突出部38aを備え、突出部38aの間が、ベルト16が巻き付けられる巻き付け部38bとして形成されている。帯体取付部24のコ字形の両側の互いに対向する内側面24cには、両側縁部24aから先端部24bにかけて形成され側方に貫通した軸穴部29が各々設けられ、移動中軸38の突出部38aが所定の移動空隙を有して遊嵌されている。
【0022】
雌部材14は、例えばポリアセタール、ポリアミド、ポリプロピレンなどの合成樹脂で、一体成形により扁平な平板状の6面体の箱状に形成されている。雌部材14には、図3図6等に示すように、雄部材12の嵌合本体22を収容可能な収容空間40を有し、6面体の一側面に、側面全体が開口した開口部42が形成されている。収容空間40は、比較的扁平な空間であり、収容空間40を形成した表面部41と裏面部43を備え、開口部42を除く側面部45で囲まれている。側面45は、係合部20の外部からの操作を阻止する操作阻止部としても機能する。開口部42と直交し厚み方向の面を有した一対の側面の開口部42から遠い位置の側面端部には、収容空間40に連通した抜き型孔44が形成されている。抜き型孔44は、雌部材14を成型する際の型を抜く穴である。開口部42と対向する側面には、帯部材16の端部が取り付けられる取付部46が形成されている。取付部46には、帯体16が巻き付けられる帯体巻き付け部48と、帯体16が挿通される帯体挿通孔49が設けられている。
【0023】
雌部材14の表裏面のほぼ中央部には、断面が略矢印状で中空の被係合部50が、雌部材14の表面部41と裏面部43を繋ぐように形成され、中空部50bが裏面部43を貫通している。被係合部50は、表裏方向と直交する断面形状が同形状に形成され、雄部材12の各係合部20の溝部32,33に係合する一対の爪部52が左右方向に突出して形成されている。爪部52は、開口部42の中央に向かう方向に傾斜した側面を有し、取付部46側の傾斜面54が、係合部20の溝部32,33に形成された各係合段部34と対面して係合可能に設けられている。
【0024】
雌部材14の被係合部50と取付部46との間には、キー部材60が挿入されるキー部材挿入孔56とキー軸孔57が、収容空間40を形成する表面部41と裏面部43に対向して形成されている。キー部材挿入孔56の被係合部50側と帯体巻付け部48側の2箇所には、キー部材60を択一的に挿入可能にする凸部58が、キー部材挿入孔56を中心に回転対称に形成されている。この凸部58の位置は、キー部材60により異なり、所定のキー部材60でのみ連結解除可能にする。
【0025】
この実施形態のキー部材60は、円柱状の軸部62に差込片部64が回転対称に一対形成され、差込片部64には、雌部材14の収容空間40内に設けられた被係合部50の凸部58と択一的に嵌合可能となる凹部66が形成されている。被係合部50の凸部58の位置は、キー部材60の種類に対応して異なる。例えば図11に示すように、4種類のキー部材60において、差込片部64に形成された凹部66の位置は、図11(a)の差込片部64の端部に凹部66が形成されている場合、被係合部50の凸部58も図9等に示すように各々対応する端部の位置に形成されている。同様に、図11(b)の差込片部64の中央部に凹部66が形成されている場合、被係合部50の凸部58も、各々対応する中央部に形成され、図11(c)の差込片部64の中心側に凹部66が形成されている場合、被係合部50の凸部58も、各々対応する中心側に形成されている。また、図11(d)に示すように、差込片部64の凹部66が複数形成されている場合、被係合部50の凸部58も各々対応する位置に複数形成されている。
【0026】
次に、この実施形態の施錠可能バックル10の使用方法について以下に説明する。まず、この施錠可能バックル10の雄部材12について、帯体16の取り付け方法について説明する。帯体16は、雌部材14に雄部材12を嵌合する前に、図7の雄部材12に示すように、帯体取付部24の移動中軸38の巻き付け部38bに、帯体16の端部16aを巻き付けて取り付ける。巻き付け方向は、帯体16の端部16aを雄部材12の帯体挿通孔36の裏面側から挿入し、移動中軸38と嵌合本体22の基端部22aである第一横材23との間を通過させ、移動中軸38の表面側から再び端部16aを、移動中軸38と帯体取付部24の端縁部である第二横材25との間に挿通し、帯体16の表面同士を重ねるようにする。そして、帯体16の長さを調節するように端部16aを引き出す。このとき、移動中軸38の突出部38aは、軸穴部29に遊嵌されているので、図7(a)に示すように、移動中軸38は僅かに前後方向及び表裏方向に揺動し、帯体16の端部16aを引くと、帯体取付部24の第二横材25から離れる方向に力がかかり、端部16aを摺動させて引き出すことができる。雌部材14と図示しない他の帯体との連結は、他の帯体の端部を雌部材14の帯体挿通孔49に挿入して、帯体巻付け部48に巻き付けて帯体の端部同士を固定し、長さ調節不能に固定される。
【0027】
雄部材12と雌部材14の連結は、図5図6に示すように、係合部20の2箇所の溝部32,33に対応して2段階で行われる。まず、雄部材12の嵌合本体22を雌部材14の収容空間40内に挿入すると、係合部20間の空間部31が矢印状の被係合部50のガイド斜面50aに接し、押し込みに従い左右の係合部20の間隔が広げられて、係合部20の先端部内側の側面20aが爪部52を挟むようにして挿入される。さらに押し込むと、図5に示すように、係合部20の先端側の溝部32に爪部52が嵌合し、1段目の係合が完了する。
【0028】
図5に示す状態で雄部材12と雌部材14は確実に連結され、帯体16を引いても係合は外れないので、帯体16の端部16aを雄部材12の帯体取付部24から引いて、帯体16の長さを調節し緩みを取る。このときも、帯体16の端部16aを引くと、図7(a)に示すように、移動中軸38の巻き付け部38bが帯体取付部24の第二横材25から離れるように帯体16の端部16aにより押され、端部16aの摺動が可能となる。端部16aの引き出しとともに帯体16に掛かる張力が増大すると、帯体16により移動中軸38が横材25側に押し付けられるように力が働く。このとき、第二横材25の角部25aと移動中軸38の角部38cが帯体16の表面に強く接触し、帯体16を挟持して帯体16の端部16aが摺動することなく確実に固定することができる。
【0029】
この後、さらに雄部材12を雌部材14内に押し込むと、被係合部50のガイド斜面50aにより、再び係合部20の間隔が広げられ、爪部52に係合部20が乗り上がるように押し込まれる。そして、図6に示すように、係合部20の基端側である基端部22a側の溝部33に爪部52が嵌合して、2段目の係合が完了する。この状態でも、雄部材12と雌部材14は強固に連結され、雄部材12は雌部材14から引き抜き不能に連結される。これにより、帯体16の増し締めができる。さらに、係合部20はガイド部26間に位置し雌部材14内に収容されているので、外部からキー部材60を用いることなく係合部20を押し広げて、爪部52との係合を解除することは不能となる。雌部材14の側面には抜き型孔44が形成されているが、抜き型孔44全体を塞ぐようにガイド部26の側縁部26aが位置し、抜き型孔44を介して係合部20を操作することはできない。
【0030】
さらに、図7(b)に示すように、雄部材12の嵌合本体22の基端部22aから帯体取付部24の移動中軸38の約半分を覆うように、雌部材14の表裏面部41,43の開口部42側の端縁部41a,43aが位置しているので、帯体16と移動中軸38が確実に保護され、帯体16に不用意に外部からの力が作用しない。即ち特に、表裏面部41,43の端縁部41a,43aは、係合部20の溝部32に爪部52が嵌合した1段目の連結状態では、図5図7(a)に示すように、一方の端縁部43aが帯体取付部24の移動中軸38に僅かにかかる程度で、他方の端縁部41aが前記移動中軸38にかかっておらず、雄部材12の帯体取付部24に覆い被さる状態にはならない。次に、係合部20の溝部33に爪部52が嵌合した2段目の連結状態では、図6図7(b)、図8に示すように、移動中軸38の嵌合本体22側の外側の一部を端縁部41a、43aの両方が覆うように位置し、移動中軸38の表裏面の嵌合本体22側の一部に端縁部41a,43aが覆い被さる。これにより、帯体16の端部16aを引く力が作用しても、図8(a)に示すように、移動中軸38が表面部41の端縁部41a側に僅かに揺動して移動中軸38の動きが抑制され、その状態で帯体16が挟持され、帯体16が緩むことがない。同様に、移動中軸38に巻き付けられた帯体16の基端部側から張力がかかった場合も、図8(b)に示すように、移動中軸38が端縁部43a側に僅かに揺動して移動中軸38の動きが抑制され、その状態で帯体16が挟持され、帯体16が緩むことがない。
【0031】
次に、この施錠可能バックル10の雄部材12と雌部材14の連結を解除するには、図9に示すように、キー部材60をキー部材挿入孔56に挿入し、図10(a)に示すように、キー部材60を時計回りに回動させる。すると、キー部材60の差込片部64により、雄部材12の左右の係合部20が弾性変形してその間隔が広げられ、係合部20の溝部33と被係合部50の爪部52との係合が解除される。係合が解除されると、差込片部64の両端部と係合部20の側面20aとの接触状態での傾斜と、係合部20が弾性変形したことにより生じた弾発力とにより、雄部材12を雌部材14から押し出す方向の分力が係合部20に作用する。この力により、雄部材12が雌部材14から押し出される。このとき、押出力が一定以上でスムーズに押し出されると、係合部20は、被係合部50の爪部52に係合した溝部33から次の溝部32を飛び越して、図10(b)に示す位置まで雄部材12が押し出される。この状態でも、係合部20の弾発力により雄部材12が雌部材14から飛び出る方向に付勢され、雄部材12は雌部材14から抵抗なく容易に引き出すことができる。
【0032】
この実施形態の施錠可能バックル10によれば、雄部材12と雌部材14の一対の部材のみで、施錠が可能なバックルを構成することができ、施錠状態を安全に維持することができる。特に、各ガイド部26は、雄部材12の操作阻止部として機能し、係合部20はガイド部26間に位置して雌部材14内に収容され、外部からキー部材60を用いることなく係合部20を押し広げて、爪部52との係合を解除することは不可能である。しかも、構造が簡単であり、薄型に形成することができ、帯体16により部材を固定した状態でも、施錠可能バックル10が表面に大きく突出することがなく、外観上良好であり、この施錠可能バックル10を利用して縛った部材等を積み重ねることも安定に可能である。
【0033】
さらに、係合部20の溝部が2段階に設けられ、連結状態で確実に帯体16を締め付けることができ、安定な連結状態を形成することができ、操作性も良い。また、帯体取付部24の移動中軸38は、連結状態で、雌部材14の表裏面部41,43の端縁部41a,43aにより一部が覆われ、外部からの不用意な力が作用しにくく、より安定に帯体16の固定を維持することができる。
【0034】
なお、この発明の施錠可能バックルは、上記各実施形態に限定されるものではなく、雄材12は、図12(a)に示すように、係合部20に3箇所の溝部32,33,35が形成されていてもよく、係合の段数は適宜設定可能なものである。また、図12(b)に示すように、係合部20の長さは、ガイド部26よりも短いものでも良く、長さや形状は問わない。さらに、係合部と被係合部の溝部と爪部は、各々逆に設けられていても良く、互いに連結状態を維持可能に係合及び係合解除可能に形成されたものであれば良い。
【0035】
また、雄材12は、図13に示すように、係合部20のみが雌部材14の収容空間40内に嵌合する構造でも良い。この雄部材12の帯体取付部24は、嵌合本体22と同じ厚さ及び幅で、表裏が面一に形成され、帯体挿通孔36には、帯体16が巻き付けられる固定中軸39が帯体取付部24と一体に設けられている。雌部材14の収容空間40は、雄部材12の係合部20のみを覆い、嵌合本体22の基端部22aまでは覆わない大きさに形成されている。従って、上記実施形態のように帯体取付部24の移動中軸38の移動を制限するように、収容部40の表裏面部41,43が帯体取付部24まで延びた構造ではない。この構造によっても、確実に雄部材12と雌部材14との係合が保持され、外部からの係合解除が防止され、安定に係合状態を維持することができる。さらに、雌部材14を小型化することも可能である。
【符号の説明】
【0036】
10 施錠可能バックル
12 雄部材
14 雌部材
16 帯体
20 係合部
22 嵌合本体
22a 基端部
24 帯体取付部
26 ガイド部
30,31 空間部
32,33 溝部
34 係合段部
36,49 帯体挿通孔
38 移動中軸
40 収容空間
41 表面部
43 裏面部
45 側面部
46 取付部
50 被係合部
52 爪部
54 傾斜面
56 キー部材挿入孔
57 キー軸孔
58 凸部
60 キー部材
62 キー軸部
64 差込片部
66 凹部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
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図13