(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
導電性高分子と、水及び水混和性有機溶媒の少なくとも一方と、ドーパントと、多価アルコールと、水溶性多価カルボン酸とを少なくとも含む導電性高分子溶液であって、前記多価アルコールは、エチレングリコール、ブチレングリコール、プロピレングリコール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、イノシトール、キシロース、グルコース、マンニトール、トレハロース、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、ペンタエリトリトール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、およびポリビニルアルコールからなる群から選択される少なくとも1種であり、前記水溶性多価カルボン酸の少なくとも一部は、スルホ基を備えることを特徴とする導電性高分子溶液。
前記水溶性多価カルボン酸は、前記スルホ基を備える水溶性多価カルボン酸の含有率が、1モル%以上100モル%以下であることを特徴とする請求項1に記載の導電性高分子溶液。
前記スルホ基を備える水溶性多価カルボン酸は、4−スルホフタル酸、5−スルホイソフタル酸、2−スルホテレフタル酸、またはアセチレンジカルボン酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、オキサロ酢酸、グルタル酸、オキソグルタル酸、アジピン酸、クエン酸、オキサロコハク酸、ヘミメリト酸を各々スルホ化したものからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載の導電性高分子溶液。
導電性高分子と、水及び水混和性有機溶媒の少なくとも一方と、ドーパントと、多価アルコールと、水溶性多価カルボン酸とを分散または溶解する導電性高分子溶液の製造方法であって、前記多価アルコールは、エチレングリコール、ブチレングリコール、プロピレングリコール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、イノシトール、キシロース、グルコース、マンニトール、トレハロース、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、ペンタエリトリトール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、およびポリビニルアルコールからなる群から選択される少なくとも1種であり、前記水溶性多価カルボン酸の少なくとも一部は、スルホ基を備えることを特徴とする導電性高分子溶液の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(導電性高分子溶液)
本発明に係る導電性高分子溶液は、導電性高分子と、水及び水混和性有機溶媒の少なくとも一方と、ドーパントと、多価アルコールと、水溶性多価カルボン酸とを少なくとも含む導電性高分子溶液であって、水溶性多価カルボン酸の少なくとも一部は、スルホ基を備える。
【0024】
前述したが、特許文献2の技術では、水溶性多価アルコールの少なくとも1種と、水溶性多価アルコールと重縮合可能な官能基を2つ以上有する水溶性有機物の少なくとも1種からなる物質の反応によりエステル結合を起こしている。このため、導電性高分子溶液を製造する際に、カルボキシル基等を2つ以上持つ水溶性有機物と水溶性多価アルコールが反応する際にエステル結合に寄与せず、未反応物として残留してしまう場合がある。
【0025】
通常、膜等の導電性高分子材料は、導電性高分子溶液を加熱し乾燥させて得ることができる。この時、上記の未反応物が、ポリエステル樹脂を形成せず、偏析して導電性高分子材料中に残存し再結晶化等を生じた場合に、導電性高分子の粒子同士が接触する領域を減らすため、導電率の発現が低下する要因となってしまう。
【0026】
一方、本発明に係る導電性高分子溶液は、多価アルコールと、水溶性多価カルボン酸を重縮合反応させてエステル結合を起こす際に、水溶性多価カルボン酸の少なくとも一部がスルホ基を備えることで、エステル結合が促進されるため、未反応物の発生を大幅に低減することが可能となる。
【0027】
その結果、本発明の導電性高分子溶液から得た導電性高分子材料や、その導電性高分子材料を用いた固体電解コンデンサ等では、導電性高分子の粒子同士を結びつけるポリエステル樹脂が均一に形成されるため、導電率の発現の向上が可能となる。
【0028】
なお、本発明では、前述したように、多価アルコールと、水溶性多価カルボン酸を重縮合反応させてエステル結合を促進させるため、スルホ基を備える多価カルボン酸を用いている。スルホ基を備える多価カルボン酸は、特許文献1のスルホン化ポリエステルと同様に、本来親水性を示す。引用文献1では、このスルホ基を備えたスルホン化ポリエステルが導電性高分子材料中で偏在しているため、耐水性の低下が生じてしまうことを述べた。
【0029】
本発明では、ポリエステルになる前のスルホ基を備える多価カルボン酸、多価アルコールが偏在無く導電性高分子の粒子の周囲に存在した導電性高分子溶液の状態で加熱し乾燥させて重縮合を行っている。これにより、得られた導電性高分子材料は、重縮合して得られたスルホ基を有するポリエステルが導電性高分子の粒子と均一に存在する状態となる。このような場合、導電性高分子の粒子の周囲に存在するポリエステル樹脂中のスルホ基は、プラスに帯電している導電性高分子に吸着し易い。そのため、ポリエステル樹脂中のスルホ基は、水分子と吸着することが抑制されるため耐水性を低下させることはない。
【0030】
本発明に係る導電性高分子溶液における水溶性多価カルボン酸は、スルホ基を備える水溶性多価カルボン酸の含有率が、1モル%以上100モル%以下であることが好ましく、親水性のスルホ基の影響をさらに抑制することから10モル%以上50モル%以下がより好ましい。
【0031】
本発明に係る導電性高分子溶液における水溶性多価カルボン酸は、スルホ基を備える水溶性多価カルボン酸の含有率が、1モル%以上100モル%以下であることにより、本発明に係る導電性高分子溶液を用いた導電性高分子材料や固体電解コンデンサ等で導電率の発現の向上が可能となり、また、十分な耐水性を持つことも可能になる。
【0032】
スルホ基を備える水溶性多価カルボン酸としては、導電率の発現の向上の観点から、4−スルホフタル酸、5−スルホイソフタル酸、2−スルホテレフタル酸が好ましい。また、アセチレンジカルボン酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、オキサロ酢酸、グルタル酸、オキソグルタル酸、アジピン酸、クエン酸、オキサロコハク酸、ヘミメリト酸をスルホン化したものを用いてもよい。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0033】
本発明に係る導電性高分子溶液における、含有する水溶性多価アルコールは、2つ以上のOH基を持つアルコールである。また、ここで言う「水溶性」とは、水を主溶媒とした溶液に完全に溶解することを意味する。水溶性多価アルコールは、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0034】
水溶性多価アルコールとしては、エチレングリコール、ブチレングリコール、プロピレングリコール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、イノシトール、キシロース、グルコース、マンニトール、トレハロース、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、ペンタエリトリトール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコールおよびこれらの誘導体等が好ましいが、エリスリトールまたはペンタエリトリトールがより好ましい。
【0035】
エリスリトールまたはペンタエリトリトールは、導電性高分子水溶液中の導電性高分子粒子の近傍に存在する未ドープのポリ酸アニオン(抵抗成分)と相互作用することで、導電性高分子粒子の間の抵抗を下げるとともに、導電性高分子の密度を高めるため、さらなる高導電率化が可能となる。
【0036】
また、水溶性多価アルコールは、3価以上であることが好ましい。3価以上の水溶性多価アルコールと、水溶性多価カルボン酸とを縮重合して得られる樹脂は架橋構造をとるため、直鎖構造の樹脂に比べて吸水性が低く、耐水性にも優れている。その観点からも、エリスリトールまたはペンタエリトリトールがより好ましい。
【0037】
エリスリトールは、例えば、ソルビトールやマルチトースなどに比べて結晶性が高いため、吸湿性が小さく、取扱いが容易である。また、エリスリトールは、甘味料として用いられる食品添加物として知られており、安全面および安定性にも優れており、さらに水に対する溶解度においても、例えば、エチレングリコールやグリセリンなどに比べて数倍高く、添加量の設計自由度が高い利点がある。
【0038】
ペンタエリトリトールは、加熱すると徐々に昇華し、融点以上の加熱で脱水して重合する特徴を有している。これによって、有機材料の物性が変化し、密度および強度が向上する利点を有する。このような反応は、その化学構造に起因しており、例えば、エリスリトールやソルビトールのような化学構造では起こり難い。
【0039】
本発明に係る導電性高分子は、水および水混和性有機溶媒の少なくとも一方に溶解または分散している。導電性高分子としては、π共役系導電性高分子を用いることができ、例えばピロール、チオフェン、アニリン等の繰り返し単位を含む高分子が挙げられる。具体的な導電性高分子としては、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンおよびそれらの誘導体が挙げられる。特に、3,4−エチレンジオキシチオフェンまたはその誘導体の繰り返し単位を含む重合体が好ましい。具体的には、化1式で示される繰り返し単位を含むポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)またはその誘導体が好ましい。
【0041】
3,4−エチレンジオキシチオフェンの誘導体としては、3,4−(1−ヘキシル)エチレンジオキシチオフェン等の3,4−(1−アルキル)エチレンジオキシチオフェン等が挙げられる。導電性高分子はホモポリマーでもコポリマーでもよい。また、これらの導電性高分子は一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0042】
導電性高分子溶液における導電性高分子の含有量は、溶媒の全質量に対して、0.1質量部以上、30質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上、20質量部以下であることがより好ましい。本発明に係る導電性高分子の合成方法は特に限定されないが、例えば、ドーパントを含む溶媒中で導電性高分子を与えるモノマーを、酸化剤を用いて化学酸化重合させることにより合成することができる。
【0043】
ドーパントとしては、特に限定されないが、低分子スルホン酸またはポリ酸を用いることが好ましい。
【0044】
低分子スルホン酸としては、アルキルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、アントラキノンスルホン酸、カンファースルホン酸およびそれらの誘導体等が挙げられる。これらの低分子スルホン酸は、モノスルホン酸でもジスルホン酸でもトリスルホン酸でもよい。アルキルスルホン酸の誘導体としては、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。ベンゼンスルホン酸の誘導体としては、フェノールスルホン酸、スチレンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等が挙げられる。ナフタレンスルホン酸の誘導体としては、1−ナフタレンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸、1,3−ナフタレンジスルホン酸、1,3,6−ナフタレントリスルホン酸、6−エチル−1−ナフタレンスルホン酸等が挙げられる。アントラキノンスルホン酸の誘導体としては、アントラキノン−1−スルホン酸、アントラキノン−2−スルホン酸、アントラキノン−2,6−ジスルホン酸、2−メチルアントラキノン−6−スルホン酸等が挙げられる。これらの中でも、1−ナフタレンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸、1,3,6−ナフタレントリスルホン酸、アントラキノンジスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸が好ましい。これらの低分子スルホン酸は一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0045】
なお、低分子スルホン酸の重量平均分子量は、100以上、500以下であることが好ましい。
【0046】
ポリ酸としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸等のポリカルボン酸;ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸等のポリスルホン酸;およびこれらの構造単位を有する共重合体等が挙げられる。これらの中でも、ポリ酸としては化2式で示される繰り返し単位を含むポリスチレンスルホン酸が好ましい。
【0048】
本発明に係る導電性高分子溶液は、溶媒として水および水混和性有機溶媒の少なくとも一方を含む。水混和性有機溶媒としては、水と混和する有機溶媒であれば特に限定されないが、メタノール、エタノール、プロパノール、酢酸等のプロトン性極性溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、アセトン等の非プロトン性極性溶媒が好ましい。これらの中でも、ジメチルスルホキシドがより好ましい。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0049】
(導電性高分子溶液の製造方法)
続いて、本発明に係る導電性高分子溶液の製造方法を説明する。
【0050】
水および水混和性有機溶媒の少なくとも一方からなる溶媒に、ドーパント、酸化剤、導電性高分子を与えるモノマーを添加し、10時間〜50時間空気を導入し、導電性高分子を含む初期溶液を作成する。
【0051】
この初期溶液に、多価アルコールと、少なくとも一部は、スルホ基を備える水溶性多価カルボン酸とを添加し、室温下で、10時間〜50時間攪拌し、本発明の導電性高分子溶液が得られる。
【0052】
なお、初期溶液には、未反応なモノマー、酸化剤由来の残留成分等の導電性の発現に不要な成分が含まれるため、限外濾過、遠心分離等による抽出やイオン交換処理、透析処理等によって除去する。導電性の発現に不要な成分は、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析やイオンクロマトグラフィー、UV吸収等により定性定量が可能である。
【0053】
(導電性高分子材料)
本発明に係る導電性高分子材料は、本発明に係る導電性高分子溶液を加熱して乾燥し、水および水混和性有機溶媒の少なくとも一方を除去して得られる。この加熱して乾燥する過程で、多価アルコールと、少なくとも一部がスルホ基を備える水溶性多価カルボン酸とが重縮合反応を生じ、エステル結合を形成してポリエステル樹脂が形成される。
【0054】
このポリエステル樹脂では、未反応物の発生を大幅に低減でき、導電性高分子の粒子同士を強固に結びつけるため、得られる導電性高分子材料における導電性の発現が十分に行われる。さらに、十分な耐水性を持つことが可能となる。
【0055】
また、このポリエステル樹脂は、導電性高分子の粒子同士を強固に結びつけるため、得られる導電性高分子材料の成膜性、膜強度が向上する。
【0056】
溶媒である水および水混和性有機溶媒の少なくとも一方を除去するための乾燥の温度は、導電性高分子の分解温度以下であれば特に制限されないが、300℃以下が好ましい。導電性および水溶性多価アルコールと水溶性多価カルボン酸との縮重合反応の観点から、80℃以上200℃以下が特には望ましい。
【0057】
なお、導電率(S/cm)は、導電性高分子材料からなる導電性高分膜の表面抵抗値と膜厚から算出することが可能である。
【0058】
(固体電解コンデンサ)
本発明に係る固体電解コンデンサは、本発明に係る導電性高分子溶液を用いて含浸または塗布し、乾燥することにより、コンデンサ素子における誘電体層の表面やエッジ部に固体電解質層が十分に形成される。これにより導電率が十分得られるものとなり、また低ESR化を実現することができる。また、漏れ電流(LC)の発生も抑制できる。
【0059】
図1は、本発明の実施の形態に係る固体電解コンデンサの構成を説明する概略断面図である。
【0060】
図1に示す固体電解コンデンサには、陽極導体1上に、誘電体層2、固体電解質層3および陰極層4が順次形成されている。
【0061】
陽極導体1は、弁作用金属を有する金属の板、箔または線、弁作用を有する金属微粒子からなる焼結体、エッチングによって拡面処理された多孔質体金属などによって形成される。弁作用金属としては、タンタル、アルミニウム、チタン、ニオブ、ジルコニウムおよびこれらの合金等が挙げられる。これらの中でも、弁作用金属としては、タンタル、アルミニウムおよびニオブからなる群から選択される少なくとも一種の金属であることが好ましい。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0062】
誘電体層2は、陽極導体1の表面を電解酸化させた膜であり、焼結体や多孔質体金属などの空孔部にも形成される。誘電体層2の厚みは、電解酸化の電圧によって適宜調整できる。
【0063】
固体電解質層3は、少なくとも本発明に係る導電性高分子材料を含む。固体電解質層3には、本発明に係る導電性高分子材料以外にも、二酸化マンガン、酸化ルテニウム等の酸化物誘導体、TCNQ(7,7,8,8,−テトラシアノキノジメタンコンプレックス塩)等の有機物半導体等が含まれていてもよい。
【0064】
固体電解質層3の形成方法としては、例えば、陽極導体1の表面に形成された誘電体層2上に本発明に係る導電性高分子溶液を塗布または含浸し、乾燥して固体電解質層3を形成する方法が挙げられる。
【0065】
また、固体電解質層3は二層以上の層からなっていてもよい。
図1に示す第一の導電性高分子層3aおよび第二の導電性高分子層3bからなる固体電解質層3の形成方法としては、例えば以下に示す方法が挙げられる。
【0066】
陽極導体1の表面に形成された誘電体層2上に、単量体と、ドーパントと、金属塩、硫酸塩等の酸化剤と、を塗布または浸漬し、化学酸化重合または電解重合することにより第一の導電性高分子層3aを形成する。
【0067】
単量体としては、ピロール、チオフェン、アニリン等を用いることができる。この中でも、後述する第二の導電性高分子層3bの形成に用いる導電性高分子溶液に含まれる導電性高分子を構成する単量体と同じ単量体を用いることが好ましい。即ち、第一の導電性高分子層3aと第二の導電性高分子層3bとにおいて、同じ導電性高分子を用いることが好ましい。
【0068】
ドーパントとしては、ナフタレンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、フェノールスルホン酸、スチレンスルホン酸およびその誘導体などのスルホン酸系化合物が好ましい。ドーパントの分子量としては、単量体から高分子量体まで適宜選択して用いることができる。
【0069】
その後、第一の導電性高分子層3a上に本発明に係る導電性高分子溶液を塗布または含浸し、乾燥して第二の導電性高分子層3bを形成する。乾燥して溶媒を除去する際の乾燥温度としては、溶媒除去が可能な温度範囲であれば特に限定されないが、熱による素子劣化防止の観点から300℃未満であることが好ましい。乾燥時間は、乾燥温度によって適宜最適化する必要があるが、導電性が損なわれない範囲であれば特に制限されない。
【0070】
第二の導電性高分子層3bは、第一の導電性高分子層3aを完全に被覆していることが好ましい。これにより、固体電解質層3と陰極層4とが十分に接続され、より低いESRを示す。
【0071】
陰極層4は、導体であれば特に限定されない。例えば、グラファイト等からなるカーボン層4aと、銀導電性樹脂層4bとからなる2層構造としてもよい。
【実施例】
【0072】
以下、本実施の形態を実施例に基づき、さらに具体的に説明するが、本実施の形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0073】
(実施例1)
まず、重量平均分子量50000のポリスチレンスルホン酸(5g)、3,4−エチレンジオキシチオフェン(1.25g)及び硫酸鉄(III)(0.125g)を水(500ml)とジメチルスルホキシド(100ml)に溶解した。この溶液に24時間にわたって空気を導入し、導電性高分子の初期溶液である、ポリチオフェン溶液を製造した。
【0074】
続いて、ポリチオフェン溶液中の導電性高分子(100g)に対してペンタエリトリトール、4−スルホフタル酸、オルト−フタル酸(合計1.3g)を添加した。この際、ペンタエリトリトールは、4−スルホフタル酸とオルト−フタル酸との合計のモル比で1:1である。また、4−スルホフタル酸とオルトフタル酸とのモル比は0.1:99.9(スルホ基を備える水溶性多価カルボン酸の含有率0.1モル%)である。上記の化合物を添加後24時間攪拌し化合物が完全に溶解した導電性高分子溶液を得た。この導電性高分子溶液を室温下、24時間攪拌して、本発明の導電性高分子溶液を得た。
【0075】
得られた導電性高分子溶液を、ガラス基板上に15μl滴下し、125℃の恒温槽中で水を揮発させ乾燥し、導電性高分子材料として、膜厚約5μmの導電性高分子膜を作製した。この導電性高分子膜における、表面抵抗(Ω/□)を測定した。測定は、四探針法の抵抗率計(ロレスタ(登録商標)GP、三菱化学アナリテック社製)を用いて行った。
【0076】
また、インジケータ検査機(アイ・チェッカ(登録商標)IC1000、ミツトヨ社製)を用いて膜厚を測定した。測定した表面抵抗値と膜厚とから、導電率(S/cm)を算出した。
【0077】
なお、得られた導電性高分子膜について、ペンタエリトリトールと4−スルホフタル酸、オルト−フタル酸によりエステル結合が形成されていることが、フーリエ変換赤外分光法(FT−IR)(Spectrum One/AutoIMAGE、PerkinElmer社製)により確認された。
【0078】
また、得られた導電性高分子膜を水に10分間浸漬して、導電性高分子膜の変化を観察したが、膨潤は確認されなかった。
【0079】
続いて、浸漬試験を行っていない同水準の導電性高分子膜を85℃85%RHの恒温恒湿層に24時間入れた後、カールフィッシャー法水分計(型番:CA−200 型+水分気化装置VA−200、三菱化学アナリテック社製)により導電性高分子膜に含まれる水分率を測定した。これらにより耐水性の評価とした。以上の結果を表1に示す。
【0080】
(実施例2)
4−スルホフタル酸とオルト−フタル酸とのモル比を1:99(スルホ基を備える水溶性多価カルボン酸の含有率1モル%)とした以外は実施例1と同様にして導電性高分子水溶液を製造した。そして、得られた導電性高分子水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、導電性高分子膜を形成し、その導電率および浸漬性、水分率を評価した。結果を表1に示す。
【0081】
(実施例3)
4−スルホフタル酸とオルト−フタル酸とのモル比を10:90(スルホ基を備える水溶性多価カルボン酸の含有率10モル%)とした以外は実施例1と同様にして導電性高分子水溶液を製造した。そして、得られた導電性高分子水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、導電性高分子膜を形成し、その導電率および浸漬性、水分率を評価した。結果を表1に示す。
【0082】
(実施例4)
4−スルホフタル酸とオルト−フタル酸とのモル比を50:50(スルホ基を備える水溶性多価カルボン酸の含有率50モル%)とした以外は実施例1と同様にして導電性高分子水溶液を製造した。そして、得られた導電性高分子水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、導電性高分子膜を形成し、その導電率および浸漬性、水分率を評価した。結果を表1に示す。
【0083】
(実施例5)
4−スルホフタル酸とオルト−フタル酸とのモル比を100:0(スルホ基を備える水溶性多価カルボン酸の含有率100モル%)とした以外は実施例1と同様にして導電性高分子水溶液を製造した。そして、得られた導電性高分子水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、導電性高分子膜を形成し、その導電率および浸漬性、水分率を評価した。結果を表1に示す。
【0084】
(実施例6)
ペンタエリトリトール、4−スルホフタル酸、オルト−フタル酸に変えて、エリスリトール、5−スルホイソフタル酸、アジピン酸とした以外は実施例1と同様にして導電性高分子水溶液を製造した。この際、エリスリトールは、5−スルホイソフタル酸とアジピン酸との合計のモル比で1:1である。また、5−スルホイソフタル酸とアジピン酸とのモル比は0.1:99.9(スルホ基を備える水溶性多価カルボン酸の含有率0.1モル%)である。そして、得られた導電性高分子水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、導電性高分子膜を形成し、その導電率および浸漬性、水分率を評価した。結果を表1に示す。
【0085】
(実施例7)
5−スルホイソフタル酸とアジピン酸とのモル比を1:99(スルホ基を備える水溶性多価カルボン酸の含有率1モル%)とした以外は実施例6と同様にして導電性高分子水溶液を製造した。そして、得られた導電性高分子水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、導電性高分子膜を形成し、その導電率および浸漬性、水分率を評価した。結果を表1に示す。
【0086】
(実施例8)
5−スルホイソフタル酸とアジピン酸とのモル比を10:90(スルホ基を備える水溶性多価カルボン酸の含有率10モル%)とした以外は実施例6と同様にして導電性高分子水溶液を製造した。そして、得られた導電性高分子水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、導電性高分子膜を形成し、その導電率および浸漬性、水分率を評価した。結果を表1に示す。
【0087】
(実施例9)
5−スルホイソフタル酸とアジピン酸とのモル比を50:50(スルホ基を備える水溶性多価カルボン酸の含有率50モル%)とした以外は実施例6と同様にして導電性高分子水溶液を製造した。そして、得られた導電性高分子水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、導電性高分子膜を形成し、その導電率および浸漬性、水分率を評価した。結果を表1に示す。
【0088】
(実施例10)
5−スルホイソフタル酸とアジピン酸とのモル比を100:0(スルホ基を備える水溶性多価カルボン酸の含有率100モル%)とした以外は実施例6と同様にして導電性高分子水溶液を製造した。そして、得られた導電性高分子水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、導電性高分子膜を形成し、その導電率および浸漬性、水分率を評価した。結果を表1に示す。
【0089】
(実施例11)
ペンタエリトリトール、4−スルホフタル酸、オルト−フタル酸に変えて、エチレングリコール、2−スルホテレフタル酸、クエン酸とした以外は実施例1と同様にして導電性高分子水溶液を製造した。この際、エチレングリコールは、2−スルホテレフタル酸とクエン酸との合計はモル比で1:1である。また、2−スルホテレフタル酸とクエン酸とのモル比は0.1:99.9(スルホ基を備える水溶性多価カルボン酸の含有率0.1モル%)である。そして、得られた導電性高分子水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、導電性高分子膜を形成し、その導電率および浸漬性、水分率を評価した。結果を表1に示す。
【0090】
(実施例12)
2−スルホテレフタル酸、クエン酸とのモル比を1:99(スルホ基を備える水溶性多価カルボン酸の含有率1モル%)とした以外は実施例11と同様にして導電性高分子水溶液を製造した。そして、得られた導電性高分子水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、導電性高分子膜を形成し、その導電率および浸漬性、水分率を評価した。結果を表1に示す。
【0091】
(実施例13)
2−スルホテレフタル酸、クエン酸とのモル比を10:90(スルホ基を備える水溶性多価カルボン酸の含有率10モル%)とした以外は実施例11と同様にして導電性高分子水溶液を製造した。そして、得られた導電性高分子水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、導電性高分子膜を形成し、その導電率および浸漬性、水分率を評価した。結果を表1に示す。
【0092】
(実施例14)
2−スルホテレフタル酸、クエン酸とのモル比を50:50(スルホ基を備える水溶性多価カルボン酸の含有率50モル%)とした以外は実施例11と同様にして導電性高分子水溶液を製造した。そして、得られた導電性高分子水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、導電性高分子膜を形成し、その導電率および浸漬性、水分率を評価した。結果を表1に示す。
【0093】
(実施例15)
2−スルホテレフタル酸、クエン酸とのモル比を100:0(スルホ基を備える水溶性多価カルボン酸の含有率100モル%)とした以外は実施例11と同様にして導電性高分子水溶液を製造した。そして、得られた導電性高分子水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、導電性高分子膜を形成し、その導電率および浸漬性、水分率を評価した。結果を表1に示す。
【0094】
(実施例16)
4−スルホフタル酸とオルト−フタル酸に変えて、スルホコハク酸、コハク酸とした以外は実施例1と同様にして導電性高分子水溶液を製造した。そして、得られた導電性高分子水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、導電性高分子膜を形成し、その導電率および浸漬性、水分率を評価した。結果を表1に示す。
【0095】
(実施例17)
スルホコハク酸とコハク酸とのモル比を1:99(スルホ基を備える水溶性多価カルボン酸の含有率1モル%)とした以外は実施例1と同様にして導電性高分子水溶液を製造した。そして、得られた導電性高分子水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、導電性高分子膜を形成し、その導電率および浸漬性、水分率を評価した。結果を表1に示す。
【0096】
(実施例18)
スルホコハク酸とコハク酸とのモル比を10:90(スルホ基を備える水溶性多価カルボン酸の含有率10モル%)とした以外は実施例1と同様にして導電性高分子水溶液を製造した。そして、得られた導電性高分子水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、導電性高分子膜を形成し、その導電率および浸漬性、水分率を評価した。結果を表1に示す。
【0097】
(実施例19)
スルホコハク酸とコハク酸とのモル比を50:50(スルホ基を備える水溶性多価カルボン酸の含有率50モル%)とした以外は実施例1と同様にして導電性高分子水溶液を製造した。そして、得られた導電性高分子水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、導電性高分子膜を形成し、その導電率および浸漬性、水分率を評価した。結果を表1に示す。
【0098】
(実施例20)
スルホコハク酸とコハク酸とのモル比を100:0(スルホ基を備える水溶性多価カルボン酸の含有率100モル%)とした以外は実施例1と同様にして導電性高分子水溶液を製造した。そして、得られた導電性高分子水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、導電性高分子膜を形成し、その導電率および浸漬性、水分率を評価した。結果を表1に示す。
【0099】
(比較例1)
ペンタエリトリトール、オルト−フタル酸、4−スルホフタル酸に変えて、ペンタエリトリトール、オルト−フタル酸(スルホ基を備える水溶性多価カルボン酸の含有率0モル%)とした以外は実施例1と同様にして導電性高分子水溶液を製造した。この際、ペンタエリトリトールは、オルト−フタル酸とモル比で1:1である。そして、得られた導電性高分子水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、導電性高分子膜を形成し、その導電率および浸漬性、水分率を評価した。結果を表1に示す。
【0100】
なお、実施例1〜20、比較例1で得られた導電性高分子膜を水に10分間浸漬して、導電性高分子膜の変化を観察したが、膨潤は確認されなかった。
【0101】
【表1】
【0102】
(実施例21)
弁作用金属からなる陽極導体として多孔質性のタンタルの焼結体を用い、陽極酸化によりタンタルの表面に誘電体層となる酸化皮膜を形成した。次いで、誘電体層を形成した陽極導体の陰極部を、実施例1で製造した導電性高分子水溶液に浸漬し引き上げた後、恒温槽中で125℃5分、180℃1時間の乾燥を行い、完全に溶媒を揮発させて乾燥することで、固体電解質層を形成した。そして、固体電解質層の上に、グラファイト層および銀層を順番に形成して、固体電解コンデンサを製造した。
【0103】
さらに、得られた固体電解コンデンサのESRを、LCRメーターを用いて100kHzの周波数で測定した。ESRの値は、全陰極部面積を単位面積(1cm
2)に規格化した。また、85℃85%RHの恒温恒湿槽に250時間放置後のESRを同様に測定した。以上の結果を表2に示す。
【0104】
(実施例22)
実施例2で製造した導電性高分子水溶液を用いた以外は実施例21と同様にして、固体電解コンデンサを製造した。さらに、実施例21と同様にして、ESRを評価した。結果を表2に示す。
【0105】
(実施例23)
実施例3で製造した導電性高分子水溶液を用いた以外は実施例21と同様にして、固体電解コンデンサを製造した。さらに、実施例21と同様にして、ESRを評価した。結果を表2に示す。
【0106】
(実施例24)
実施例4で製造した導電性高分子水溶液を用いた以外は実施例21と同様にして、固体電解コンデンサを製造した。さらに、実施例21と同様にして、ESRを評価した。結果を表2に示す。
【0107】
(実施例25)
実施例5で製造した導電性高分子水溶液を用いた以外は実施例21と同様にして、固体電解コンデンサを製造した。さらに、実施例21と同様にして、ESRを評価した。結果を表2に示す。
【0108】
(実施例26)
弁作用金属からなる陽極導体として多孔質性のタンタルの焼結体を用い、陽極酸化によりタンタルの表面に誘電体層となる酸化皮膜を形成した。次いで、誘電体層を形成した陽極導体の陰極部を、導電性高分子のモノマーとしての3,4−エチレンジオキシチオフェン(10g)を添加した、ドーパント兼酸化剤としてのp−トルエンスルホン酸第二鉄エタノール溶液に浸漬と引き上げを10回繰り返し行い、化学酸化重合を行うことで、第一の導電性高分子層を形成した。
【0109】
さらに、第一の導電性高分子層が形成された陽極導体陰極部を、実施例3で製造した導電性高分子水溶液に浸漬し引き上げた。その後、恒温槽中で125℃で5分間乾燥させ、さらに180℃で1時間の乾燥を行い、完全に溶媒を揮発させて乾燥することで、第二の導電性高分子層を形成した。
【0110】
そして、第一の導電性高分子層および第二の導電性高分子層からなる固体電解質層の上に、グラファイト層および銀層を順番に形成して、固体電解コンデンサを製造した。得られた固体電解コンデンサのESRを実施例21と同様の方法で測定した。結果を表2に示す。
【0111】
(比較例2)
比較例1で製造した導電性高分子水溶液を用いた以外は実施例21と同様にして、固体電解コンデンサを製造した。さらに、実施例21と同様にして、ESRを評価した。結果を表2に示す。
【0112】
【表2】
【0113】
表1に示したように、実施例1〜20で作製した導電性高分子溶液より得られた導電性高分子膜は、比較例1で得られた導電性高分子膜に比べて、導電率の発現の増加が確認され、耐水性も向上している。
【0114】
表2に示したように、実施例21〜26で得られた固体電解コンデンサは、比較例2で得られた
固体電解コンデンサに比べて、ESRの増加率が低減され、耐水性も向上している。
【0115】
本発明は、上記で説明した固体電解コンデンサに限定されるものではなく、帯電防止膜、透明導電膜(ITO代替材料)、有機EL、太陽電池、フレキシブルプリント配線板等に利用することができる。