(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
海藻には、(1)便遇改善作用、(2)抗血液凝固作用、(3)抗癌作用、(4)コレステロール低下作用、(5)血圧低下作用、(6)抗ウイルス作用、(7)抗アレルギー作用、(8)不定愁訴治療効果等種々の機能性を有することで、健康食品として、その利用が注目されている。一般的にはそのまま食材として利用されることが多く、海藻ペーストを使用した加工食品は少ない。
【0003】
また、海藻は、本来様々な色を鮮やかに発色するが、従来法を用いて食品として加工した場合には、色彩の鮮やかさが損なわれる。
【0004】
例えば、特許文献1(特開平10−155462号公報)に記載の従来方法では、70〜80℃の温度で1〜2時間加熱処理をする必要があるので、加熱処理によるワカメの退色、および、香気成分の損失が大きく、得られた食品の品質が低下するという欠点がある。また、処理時間が比較的長いため、生産性が低く生産コストが高くなるという欠点もある。
【0005】
また、従来法によって製造した海藻加工食品は、柔らかすぎ、また、歯につきやすいという難点もあった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そのため、色彩が鮮やかである、嗜好性の高い海藻加工食品、および、その製造方法が求められる。また、食感および歯につきやすさを改善することも、求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記の課題を解決するためになされたもので、本発明の一つの局面では、海藻を物理的に破砕して微小粒子とすることを特徴とする海藻ペーストの製造方法およびその方法によって製造された海藻ペーストが提供される。本発明の別の局面では、カルシウム塩を用いることによって食感および歯につきやすさが改善された海藻ペーストおよびその製造方法が提供される。
【0009】
例えば、本発明は、以下を提供する。
(項目1)
粉砕した海藻を含むペーストであって、ここで、
該粉砕した海藻の平均粒径が590μm以下であり、そして、
該海藻の粉砕方法が、海藻を物理的に粉砕する工程を包含する、
ペースト。
(項目2)
項目1に記載の粉砕した海藻を含むペーストであって、前記物理的に粉砕する工程において摩砕装置が使用される、ペースト。
(項目3)
粉砕した海藻を含むペーストであって、ここで、
該海藻の粉砕方法が、摩砕装置によって海藻を物理的に粉砕する工程を包含する、
ペースト。
(項目4)
項目1〜3のいずれか一項に記載の粉砕した海藻を含むペーストであって、前記海藻の粉砕方法がキレート剤処理を包含する、ペースト。
(項目5)
項目1〜4のいずれか一項に記載の粉砕した海藻を含むペーストであって、前記粉砕される海藻が、生の海藻または水戻しした海藻乾燥物である、ペースト。
(項目6)
項目1〜5のいずれか一項に記載のペーストを含む食品。
(項目7)
さらに、カルシウム塩を含む、項目6に記載の食品。
(項目8)
以下:
粉砕した海藻を含むペースト、および、
カルシウム塩
を含む、食品。
(項目9)
前記カルシウム塩が、乳酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、および、炭酸カルシウムからなる群から選択される、項目7または8に記載の食品。
(項目10)
さらに、米、米粉、および、デンプンからなる群から選択される物質を含む、項目6〜9のいずれか一項に記載の食品。
(項目11)
海藻を含むペーストの製造法であって、以下:
海藻を物理的に粉砕して、平均粒径を590μm以下とする工程、
を包含する方法。
(項目12)
項目11に記載の方法であって、前記物理的に粉砕する工程において摩砕装置が使用される、方法。
(項目13)
海藻を含むペーストの製造法であって、以下:
摩砕装置を用いて海藻を物理的に粉砕する工程、
を包含する方法。
(項目14)
項目11〜13のいずれか一項に記載の方法であって、前記海藻をキレート剤によって処理する工程を包含する、方法。
(項目15)
項目11〜14のいずれか一項に記載の方法であって、前記粉砕した海藻が、生の海藻または水戻しした海藻乾燥物を物理的に粉砕することによって得られる、方法。
【発明の効果】
【0010】
海藻を物理的に破砕して微小粒子とすることを特徴とする本発明の海藻ペースト製造方法を用いることによって、色彩が鮮やかである、嗜好性の高い海藻加工食品を製造することが可能となった。さらに、本発明にしたがい、海藻加工食品にカルシウム塩を添加することによって、歯につきにくく、しかも風味、食感のよい海藻加工食品(例えば、団子や大福等の和菓子用皮肉)ができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を説明する。本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0012】
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0013】
本明細書において使用される用語「ペースト」とは、それ自体で形状が保持できる粘性体を意味する。
【0014】
本明細書において使用される用語「摩砕装置」とは、臼式摩砕装置をいい、好ましくは、上方の砥石と下方の砥石とは密着することなく、一定のクリアランスを有する。例えば、外周部を摩砕平坦面とし内側をくぼみ状の円錐台形部とし、それぞれに一定の数と深さの溝を彫ったリング状砥石を上下に対向させ、上方を固定砥石、下方を回転砥石として配置した摩砕装置とすることができる。好ましくは、固定砥石と回転砥石との間には、0.01〜0.1mm程度のクリアランスを設ける。このような摩砕装置として、例えば、「マスコロイダー」(商品名、増幸産業社製)を使用することができる(例えば、MKCA6−2)。
【0015】
(海藻の物理的破砕)
本発明において、海藻は物理的に破砕されて、微小粒子となる。本発明において、海藻の微小粒子の平均粒径は、590μm以下、550μm以下、400μm以下、好ましくは300μm以下、より好ましくは100μm以下、さらにより好ましくは60μm以下、最も好ましくは40μm以下である。本発明において、海藻の微小粒子の平均粒径は、28メッシュ以下、好ましくは48メッシュ以下、より好ましくは150メッシュ以下、さらにより好ましくは250メッシュ以下、最も好ましくは400メッシュ以下である。
【0016】
海藻の微小粒子は、例えば、マスコロイダーなどのような摩砕装置を利用して調製することができる(例えば、増幸産業社製 MKCA6−2)。マスコロイダーなどのような摩砕装置に使用するグラインダー(砥石)は、目的とする平均粒径に応じて当業者が適宜選択することができる。例えば、グラインダーとしては、「MKE−6−46# 深溝 K」を用いることができる。マスコロイダーは、常法に従って使用する。マスコロイダー以外に、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、ナノマイザーなどを使用することができる。
【0017】
海藻を摩砕装置に供する前に、予め海藻を細断することが好ましい。このような予備的な細断には、例えば、フードカッターあるいはステファンカッター(ステファン社製 UM−5)などを用いることができる。
【0018】
(海藻の化学的破砕)
海藻の物理的破砕を行う際に、キレート剤(例えば、クエン酸、リン酸、グルコン酸、フイチン酸、及びそれらの塩類、メチオニン、システィン、EDTA、および生分解性キレート剤HIDSからなる群から選択される少なくとも一種のキレート剤)を添加して、物理的破砕と同時に化学的破砕を行ってもよい。あるいは、海藻の物理的破砕の前あるいは後に化学的破砕を行ってもよい。
【0019】
(海藻の生化学的破壊)
海藻の物理的破砕を行う際に、酵素(例えば、キシラナーゼ、マンナーゼ(特開平10−52243号公報)、パパイン(特開平10−4931号公報のような多糖類分解酵素などの植物組織分解酵素)からなる群から選択される少なくとも一種の酵素)を添加して、物理的破砕と同時に生化学的破砕を行ってもよい。あるいは、海藻の物理的破砕の前あるいは後に生化学的破砕を行ってもよい。
【0020】
(海藻の破壊)
海藻の物理的破砕を行う際に、あるいは、海藻の物理的破砕を行う前または後に、化学的破砕または生化学的破砕のいずれか一方のみを行っても、あるいは、化学的破砕および生化学的破砕の両方を行ってもよい。
【0021】
当業者は、海藻原料の色が残り、かつ、風味の良い海藻加工食品を提供するために、本発明の物理的破砕・化学的破壊・生化学的破壊の条件を適宜選択することができる。
【0022】
(添加物質)
本発明の海藻加工食品は、本発明に従って製造した海藻ペーストに対して、例えば、米、米粉、澱粉、および、カルシウム塩からなる群から選択される物質を添加して製造することができる。添加する物質の量は、当業者が適宜選択することができる。一般的には、海藻加工食品中の海藻ペーストの濃度は、1重量%以下の場合には風味や着色が弱く、30重量%以上の場合では餅らしい食感が損なわれるため、好ましくは、1〜30重量%であるがこれに限定されない。
【0023】
(カルシウム塩)
本発明の発明者らは、海藻加工食品にカルシウム塩を添加することによって、海藻由来の色どりの良く、歯につきにくく、しかも風味、食感のよい団子や大福等の和菓子用皮肉ができることを見出した。カルシウム塩としては、例えば、乳酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、および、炭酸カルシウムが挙げられるがこれらに限定されない。一般的に、カルシウム塩濃度を0.05重量%以下とすると食感改善効果が弱く、その一方で、1重量%以上はえぐ味が感じられるため、海藻加工食品中のカルシウム塩の濃度は、好ましくは0.05%以上〜1%未満あるがこれに限定されない。
【0024】
(原料として使用する海藻)
本発明において原料として使用する海藻は、特に限定されない。本発明で使用される海藻としては、例えば、繰色系のペーストではワカメ、コンブ、および、モズクが、赤色系のペーストでは赤トサカ、および、赤色フノリが、白色系のペーストでは白色フノリが挙げられるがこれらに限定されない。キリンサイ(例えば、白キリンサイ)、および、ミルなども原料として使用可能である。
【0025】
原料としての海藻は、生の海藻を水洗して使用に供することができる。あるいは、塩蔵および乾燥した海藻を洗浄、水戻して使用することもできる。
【0026】
(海藻加工食品)
本発明の海藻ペーストは、あらゆる食品に添加することが可能である。例えば、本願発明の海藻加工食品としては、団子や大福等の和菓子、ういろう、羊羹、麺類、パン類、餅類、水産練り製品が挙げられるがこれらに限定されない。
【0027】
以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、以下の実施例は、例示の目的のみに提供される。従って、本発明の範囲は、上記発明の詳細な説明にも下記実施例にも限定されるものではなく、請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0028】
(1.カルシウム塩添加の効果)
(実施例1)
生のコンブlkgに水200gを入れて、フードカッターで細かくカットした後、マスコロイダー(増幸産業株式会社 MKCA6−2)で処理し、コンブペースト約1.2kgを調製した。マスコロイダーで粉砕した海藻の平均粒径は、約60μmであった。
【0029】
次に、米粉lkgに水900gを添加混合し蒸煮・放冷したもの1.9kgにコンブペースト480g及び堪化カルシウム12gを添加混合し、団子状に成形した後、常法にしたがって蒸煮・放冷し、緑色の団子状食品を得た。
【0030】
(実施例2)
赤トサカ乾燥物50gを水戻し、水戻品約500gを得た。次に、水100gを添加し、フードカッターで細かくカットした後、マスコロイダー(増幸産業株式会社 MKCA6−2)で処理し、赤トサカペースト約600gを得た。マスコロイダーで粉砕した海藻の平均粒径は、約55μmであった。次に、米粉1kgに水900gを添加混合し、蒸煮・放冷したもの1.9kgに対して赤トサカペースト約480g及び塩化カルシウム12gを添加し、団子状に成形した後、常法に従って蒸煮・放冷し、ピンク色の団子状食品を得た。
【0031】
(実施例3)
生コンブ1kgにクエン酸ソーダ8%水溶液200gを添加し、フードカッターで細かく細断した後、マスコロイダー(増幸産業株式会社 MKCA6−2)にて処理し、コンブペースト約1.2kgを得た。マスコロイダーで粉砕した海藻の平均粒径は、約65μmであった。次に、実施例1と同様に米粉lkgに水900gを添加混合したものの蒸煮物に上記のコンブペースト480g及び塩化カルシウム12gを添加混合し、常法に従って蒸煮混合し、縁色の団子状食品を得た。
【0032】
(比較例1)
塩化カルシウム製剤を使用しない以外は実施例1と同様の方法で実施し、団子状食品を得た。
【0033】
(比較例2)
乳酸カルシウム製剤を使用しない以外は実施例2と問様の方法で実施し、団子状食品を得た。
【0034】
(比較例3)
塩化カルシウム製剤を使用しない以外は実施例3と同様の方法で実施し、団子状食品を得た。
【0035】
(結果)
上記実施例1〜3及び比較例1〜3で得た団子状食品について官能評価を15名のパネラーにて実施した。官能評価は、実施例および比較例で得られた各団子状食品について、固さ、歯につきやすさ、風味について各自が官能評価した。なお、風味の官能評価は、比較例と実施例との比較で行った。結果を、以下の表1および表2に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
上記のとおり、本発明の海藻加工食品は、ちょうどよい食感であり、歯につきにくいことが実証された。また、本発明の海藻加工食品はカルシウム塩を含むが、風味が損なわれることはなく、むしろ風味が優れていた。
【0039】
(2.物理的破壊法と化学的破壊法の比較)
(実施例4:物理的破壊法を用いるペースト調製法)
物理的破壊法の手順は、以下のとおりである。
・赤トサカおよび白キリンサイそれぞれの乾燥物50gを水戻しし、水戻品約500gを得た。
・この水戻品約500gに水100gを添加し、フードカッターで細かくカットした後、マスコロイダー(増幸産業株式会社 MKCA6−2)で処理し、海藻ペースト約600gを得た。マスコロイダーで粉砕した海藻の平均粒径は、約55μmであった。
・次に、米粉1kgに水900gを添加混合し、蒸煮・放冷したもの1.9kgに対して海藻ペースト約480g及び塩化カルシウム12gを添加し、団子状に成形した後、常法に従って蒸煮・放冷し、団子状食品を得た。
【0040】
(比較例4:化学的破壊法を用いるペースト調製法)
物理的破壊法と比較するために、キレート剤を用いる化学的破壊法によって、海藻ペーストを以下のとおり調製した。
・赤トサカおよび白キリンサイそれぞれの乾燥物50gを水戻しし、水戻品約500gを得た。
・この水戻品約500gにキレート剤であるクエン酸ナトリウム(8% 溶液)100gを添加し、フードカッターで細かくカットし、海藻ペースト約600gを得た。マスコロイダーで粉砕した海藻の平均粒径は、約590μmであった。
・次に、米粉1kgに水900gを添加混合し、蒸煮・放冷したもの1.9kgに対して海藻ペースト約480g及び塩化カルシウム12gを添加し、団子状に成形した後、常法に従って蒸煮・放冷し、団子状食品を得た。
【0041】
(結果)
上記実施例4(物理的破壊法)および比較例4(化学的破壊法)で得た団子状食品について、15名のパネラーにて官能評価を実施した。官能評価は、各団子状食品の色どりについて各パネラーが評価することによって、行った。結果を、以下の表3に示す。
【0042】
【表3】
【0043】
上記の結果から明らかなように、本願発明の物理的破壊法は、従来法であるキレート剤を用いる化学的破壊法と比較して、ペーストでの発色が優れていることが判明した。
【0044】
上記から、本発明の特定の実施態様が例示の目的について本明細書に記載されるが、種々の改変が、本発明の意図および範囲から逸脱せずに行われ得ることは、明らかである。したがって、本発明は、特許請求の範囲以外によっては限定されない。