(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6266291
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】ニオブ酸系強誘電体の配向性薄膜とその作製方法
(51)【国際特許分類】
C01G 33/00 20060101AFI20180115BHJP
H01L 41/43 20130101ALI20180115BHJP
H01L 41/187 20060101ALI20180115BHJP
C04B 35/00 20060101ALI20180115BHJP
C30B 29/30 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
C01G33/00 A
H01L41/43
H01L41/187
C04B35/00
C30B29/30 A
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-207481(P2013-207481)
(22)【出願日】2013年10月2日
(65)【公開番号】特開2015-71506(P2015-71506A)
(43)【公開日】2015年4月16日
【審査請求日】2016年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】594023722
【氏名又は名称】サムソン エレクトロ−メカニックス カンパニーリミテッド.
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】馮 旗
【審査官】
村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−287918(JP,A)
【文献】
特開2009−256147(JP,A)
【文献】
特開2014−207429(JP,A)
【文献】
特開2006−306678(JP,A)
【文献】
特開2005−272266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00−47/00;49/10−99/00
C04B 35/00
C30B 29/30
H01L 41/187
H01L 41/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定方向に結晶面が配向したナノシート状粒子と、前記ナノシート状粒子と反応してニオブ酸系強誘電体を形成する補完物質とをあらかじめ設定した割合で混合してスラリー状混合物を形成する工程と、
基板上に前記スラリー状混合物を塗布する工程と、
前記スラリー状混合物を熱処理して前記ナノシート状粒子と前記補完物質とを反応させ、前記ナノシート状粒子をテンプレートとして結晶方位が配向制御された薄膜を作製する工程とを含み、
前記ナノシート状粒子の層状ニオブ酸塩は層状六ニオブ酸カリウム(K4Nb6O17)または層状六ニオブ酸カリウム水和物(K4Nb6O17・4.5H2O)であり、前記補完物質はカリウム塩であり、前記ニオブ酸系強誘電体はKとNbの比が1:1であるニオブ酸カリウム(KNbO3)であることを特徴とするニオブ酸系強誘電体薄膜の作製方法。
【請求項2】
前記補完物質の前記カリウム塩として硝酸カリウム(KNO3)を用いることにより、前記ニオブ酸系強誘電体である前記ニオブ酸カリウムの結晶方位を[100]に配向制御することを特徴とする請求項1に記載のニオブ酸系強誘電体薄膜の作製方法。
【請求項3】
前記補完物質の前記カリウム塩として炭酸水素カリウム(KHCO3)を用いることにより、前記ニオブ酸系強誘電体である前記ニオブ酸カリウムの結晶方位を[110]に配向制御することを特徴とする請求項1に記載のニオブ酸系強誘電体薄膜の作製方法。
【請求項4】
一定方向に結晶面が配向したナノシート状粒子と、前記ナノシート状粒子と反応してニオブ酸系強誘電体を形成する補完物質とをあらかじめ設定した割合で混合してスラリー状混合物を形成する工程と、
基板上に前記スラリー状混合物を塗布する工程と、
前記スラリー状混合物を熱処理して前記ナノシート状粒子と前記補完物質とを反応させ、前記ナノシート状粒子をテンプレートとして結晶方位が配向制御された薄膜を作製する工程とを含み、
前記ナノシート状粒子の層状ニオブ酸塩は層状六ニオブ酸カリウム(K4Nb6O17)及び層状六ニオブ酸カリウム水和物(K4Nb6O17・4.5H2O)であり、前記補完物質はナトリウム塩であり、前記ニオブ酸系強誘電体はニオブ酸ナトリウムカリウム(Na1−xKxNbO3,0<x<2/3)であることを特徴とするニオブ酸系強誘電体薄膜の作製方法。
【請求項5】
前記補完物質の前記ナトリウム塩として硝酸ナトリウム(NaNO3)を用いることにより、前記ニオブ酸系強誘電体である前記ニオブ酸ナトリウムカリウムの結晶方位を[100]に配向制御することを特徴とする請求項4に記載のニオブ酸系強誘電体薄膜の作製方法。
【請求項6】
一定方向に結晶面が配向したナノシート状粒子と、前記ナノシート状粒子と反応してニオブ酸系強誘電体を形成する補完物質とをあらかじめ設定した割合で混合してスラリー状混合物を形成する工程と、
基板上に前記スラリー状混合物を塗布する工程と、
前記スラリー状混合物を熱処理して前記ナノシート状粒子と前記補完物質とを反応させ、前記ナノシート状粒子をテンプレートとして結晶方位が配向制御された薄膜を作製する工程とを含み、
前記ナノシート状粒子の層状ニオブ酸塩は層状六ニオブ酸カリウム(K4Nb6O17)または層状六ニオブ酸カリウム水和物(K4Nb6O17・4.5H2O)であり、前記補完物質はナトリウム塩とカリウム塩との混合物であり、前記ニオブ酸系強誘電体はニオブ酸ナトリウムカリウム(Na1-xKxNbO3,2/3<x<1)であることを特徴とするニオブ酸系強誘電体薄膜の作製方法。
【請求項7】
前記補完物質の前記ナトリウム塩として硝酸ナトリウム(NaNO3)を用い、前記カリウム塩として硝酸カリウム(KNO3)を用いることにより、前記ニオブ酸系強誘電体である前記ニオブ酸ナトリウムカリウムの結晶方位を[100]に配向制御することを特徴とする請求項6に記載のニオブ酸系強誘電体薄膜の作製方法。
【請求項8】
前記ナノシート状粒子は、ソルボサーマル法で合成することを特徴とする請求項1乃至請求項7のうち何れか1つに記載のニオブ酸系強誘電体薄膜の作製方法。
【請求項9】
一定方向に結晶面が配向したナノシート状粒子と、前記ナノシート状粒子と反応してニオブ酸系強誘電体を形成する補完物質とをあらかじめ設定した割合で混合してスラリー状混合物を形成する工程と、
基板上に前記スラリー状混合物を塗布する工程と、
前記スラリー状混合物を熱処理して前記ナノシート状粒子と前記補完物質とを反応させ、前記ナノシート状粒子をテンプレートとして結晶方位が配向制御された薄膜を作製する工程とを含み、
前記ニオブ酸系強誘電体としてニオブ酸カリウム(KNbO3)を作製し、
前記ナノシート状粒子の層状ニオブ酸塩として層状六ニオブ酸カリウム(K4Nb6O17)または層状六ニオブ酸カリウム水和物(K4Nb6O17・4.5H2O)であり、前記補完物質は炭酸水素カリウム(KHCO3)であり、前記ニオブ酸系強誘電体である前記ニオブ酸カリウムの結晶方位を[110]に配向制御することを特徴とするニオブ酸系強誘電体薄膜の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶方位を配向させたニオブ酸系強誘電体の配向性薄膜とその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高特性の圧電材料を得るために、融液からの単結晶成長と共に、固相での配向多結晶の作製が盛んに行われている。結晶方位が一方向に配向した材料を作製することができれば、多結晶でも単結晶に近い特性を発現するという予想のもとに、圧電セラミックスの配向化が研究されている(非特許文献1を参照。)。
【0003】
また、近年、圧電素子やマイクロマシン(MEMS)インクジェットプリンター等の応用分野において圧電薄膜が重要になってきている。特に、Pb(Zr,Ti)O
3(PZT)薄膜は良好な特性を持つために広く研究され、色々なデバイスとして実用に供されている。
【0004】
しかし、PZT材料はPbを含むため、人体に対する安全性の観点から問題が指摘されており、ヨーロッパ(EU)ではRohs指令により原則的にPbを含む製品が規制されている。ただし、現状ではPZTの代替材料がないためやむをえず使用が認められている。
【0005】
そのため、例えば、ニオブ酸カリウム(KNbO
3),ニオブ酸ナトリウム(NaNbO
3),ニオブ酸リチウム(LiNbO
3)等の非鉛圧電材料が注目されている。この非鉛圧電薄膜の結晶方位の配向制御は、例えば、液相エピタキシャル成長(LPE:Liquid-Phase Epitaxy)や有機金属気相成長法(MOCVD:Metalorganic Chemical Vapor Deposition),パルスレーザ蒸着法(PLD:Pulsed Lase Deposition)によって実現できる(例えば、非特許文献2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−281340号公報
【特許文献2】特開2013−10642号公報
【特許文献3】特開2007−22857号公報
【特許文献4】特開2006−83025号公報
【特許文献5】特開2011−121794号公報
【特許文献6】特開2010−202440号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】R&D Review of Toyota CRDL Vol.36 No.3 (2001.9)
【非特許文献2】ULVAC TECHNICAL JOURNAL No.66 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1に記載の作製方法(RTGG法)は、異方形状単結晶粉末をテンプレートとして用い、目的物質の組成となるように補完物質を混合して配向成形し、熱処理により固相反応に続いて配向粒成長を生じさせる手法であり、バルクのセラミック材料を作製することを目的としている。すなわち、テンプレート粒子の形状が大きいことから、基本的に本手法で薄膜を作製することはできない。
【0009】
また、LPE、MOCVDやPLDなどによる薄膜作製方法は、単結晶基板上にエピタキシャル成長で作製する手法であり、良好な特性の圧電性薄膜を作製することができるが、単結晶基板が必要で、かつ装置コストも高く量産性も課題であり、デバイスコストを安価にできないという問題があった。
【0010】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、単結晶基板が不要で、作製コストが低廉で、大面積化が容易なニオブ酸系強誘電体の配向性薄膜とその作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は前記課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載のニオブ酸系強誘電体薄膜の作製方法は、一定方向に結晶面が配向したナノシート状粒子と、前記ナノシート状粒子と反応してニオブ酸系強誘電体を形成する補完物質とをあらかじめ設定した割合で混合してスラリー状混合物を形成する工程と、基板上に前記スラリー状混合物を塗布する工程と、前記スラリー状混合物を熱処理して前記ナノシート状粒子と前記補完物質とを反応させ、前記ナノシート状粒子をテンプレートとして結晶方位が配向制御された薄膜を作製する工程とを含むことを特徴としている。
【0012】
請求項2に記載のニオブ酸系強誘電体薄膜の作製方法は、請求項1において、前記ナノシート状粒子として層状ニオブ酸塩を用い、前記補完物質としてカリウム塩を用い、前記ニオブ酸系強誘電体としてニオブ酸カリウム(KNbO
3)を作製することを特徴としている。
【0013】
請求項3に記載のニオブ酸系強誘電体薄膜の作製方法は、請求項2において、前記ナノシート状粒子の前記層状ニオブ酸塩として層状六ニオブ酸カリウム水和物(K
4Nb
6O
17・4.5H
2O)を用い、前記補完物質の前記カリウム塩として硝酸カリウム(KNO
3)を用いることにより、前記ニオブ酸系強誘電体である前記ニオブ酸カリウムの結晶方位を[100]に配向制御することを特徴としている。
【0014】
請求項4に記載のニオブ酸系強誘電体薄膜の作製方法は、請求項2において、前記ナノシート状粒子の前記層状ニオブ酸塩として層状六ニオブ酸カリウム水和物(K
4Nb
6O
17・4.5H
2O)を用い、前記補完物質の前記カリウム塩として炭酸水素カリウム(KHCO
3)を用いることにより、前記ニオブ酸系強誘電体である前記ニオブ酸カリウムの結晶方位を[110]に配向制御することを特徴としている。
【0015】
請求項5に記載のニオブ酸系強誘電体薄膜の作製方法は、請求項1において、前記ナノシート状粒子として層状ニオブ酸塩を用い、前記補完物質としてナトリウム塩を用い、前記ニオブ酸系強誘電体としてニオブ酸ナトリウム(NaNbO
3)を作製することを特徴としている。
【0016】
請求項6に記載のニオブ酸系強誘電体薄膜の作製方法は、請求項5において、前記ナノシート状粒子の前記層状ニオブ酸塩として層状六ニオブ酸カリウム水和物(K
4Nb
6O
17・4.5H
2O)を用い、前記補完物質の前記ナトリウム塩として硝酸ナトリウム(NaNO
3)を用いることにより、前記ニオブ酸系強誘電体である前記ニオブ酸ナトリウムの結晶方位を[100]に配向制御することを特徴としている。
【0017】
請求項7に記載のニオブ酸系強誘電体薄膜の作製方法は、請求項1において、前記ナノシート状粒子として層状ニオブ酸塩を用い、前記補完物質としてナトリウム塩とカリウム塩との混合物を用い、前記ニオブ酸系強誘電体としてニオブ酸ナトリウムカリウム(Na
1-xK
xNbO
3,0<x<1)を作製することを特徴としている。
【0018】
請求項8に記載のニオブ酸系強誘電体薄膜の作製方法は、請求項7において、前記ナノシート状粒子の前記層状ニオブ酸塩として層状六ニオブ酸カリウム水和物(K
4Nb
6O
17・4.5H
2O)を用い、前記補完物質の混合物うち、前記ナトリウム塩として硝酸ナトリウム(NaNO
3)を用い、前記カリウム塩として硝酸カリウム(KNO
3)を用いることにより、前記ニオブ酸系強誘電体である前記ニオブ酸ナトリウムカリウムの結晶方位を[100]に配向制御することを特徴としている。
【0019】
請求項9に記載のニオブ酸系強誘電体薄膜の作製方法は、請求項1乃至請求項8のうち何れか1つにおいて、前記ナノシート状粒子は、ソルボサーマル法で合成することを特徴としている。
【0020】
請求項10に記載のニオブ酸系強誘電体薄膜は、少なくとも表面が多結晶又は非晶質からなる基板の前記表面に、ニオブ酸塩が50%以上の配向度で一定の結晶方位に配向していることを特徴としている。
【0021】
請求項10に記載のニオブ酸系強誘電体薄膜は、請求項9において、前記ニオブ酸塩が、ニオブ酸ナトリウムカリウム(Na
1-xK
xNbO
3,0≦x≦1、x=0のとき、ニオブ酸ナトリウムであり、x=1のとき、ニオブ酸カリウムである。)であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、単結晶基板が不要で、製造コストが低廉で、大面積化が容易なニオブ酸系強誘電体の配向性薄膜とその作製方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施例1において、焼成時間を12時間と固定して、510℃,530℃,550℃,570℃,590℃と焼成温度を変化させて作製したニオブ酸カリウム薄膜(以下、KN薄膜という。)のX線回折図形である。
【
図2】実施例1において、焼成温度を550℃と固定して、3h,6h,9h,12h,15h,18hと焼成時間を変化させて作製したKN薄膜のX線回折図形である。
【
図3】実施例1において、550℃で18時間焼成して作製したKN薄膜のSEM写真であって、(A)表面、(B)断面の写真である。
【
図4】実施例2において、焼成温度を550℃と固定して、3h,6h,9h,12h,15h,18hと焼成時間を変化させて作製したKN薄膜のX線回折図形である。
【
図5】実施例2において、550℃で18時間焼成して作製したKN薄膜のSEM写真であって、(A)表面、(B)断面の写真である。
【
図6】実施例3において、580℃で24時間焼成して作製したニオブ酸ナトリウム薄膜(以下、NN薄膜という。)のX線回折図形である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を適用した実施の形態について、具体的な実験結果を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0025】
実施例1では、ソルボサーマル法で合成された層状六ニオブ酸カリウム水和物(K
4Nb
6O
17・4.5H
2O、以下、層状KN水和物という。)のナノシート状粒子をテンプレートとして用い、有機溶媒によってナノシート状テンプレート粒子と硝酸カリウム(KNO
3)との混合物スラリーを形成し、ガラス基板にこの混合物スラリーを塗布した後、熱処理をすることで、結晶方位が[100]に配向したKN薄膜を作製できることを示す。
【0026】
1.テンプレートの合成
先ず、層状KN水和物のナノシート状粒子からなるテンプレートをソルボサーマル法によって合成した。
【0027】
Nb
2O
5,KOHを出発原料として、オートクレーブを使用した。Nb
2O
55gと3mol/dm
3のKOH水溶液30mLを内容積85mLのオートクレーブに入れ、230℃で2時間水熱処理して、溶液を得た。
【0028】
この溶液にエタノールを加え、沈殿物を生成し、この沈殿物0.5gと0.3mol/dm
3のKOHの水−エタノール混合溶液(水−エタノール体積比=1:1)30mLを内容積85mLのオートクレーブに入れ、200〜250℃、12時間ソルボサーマル処理して、層状KN水和物(K
4Nb
6O
17・4.5H
2O)のナノシート状粒子を合成した。
【0029】
最適な条件で得られた層状KN水和物[Y1]の平均直径は2μmで、厚みが約0.1μmである。分析の結果、層状KN水和物の組成はK
4Nb
6O
17・4.5H
2Oに相当し、結晶構造はJCPDSファイルNo.21−1296に対応し、単斜晶系であることが確認された。
【0030】
2.スラリーの形成及び塗布
目的のニオブ酸カリウム(KNbO
3)のNbとKの比が、Nb:K=1:1であるから、K
4Nb
6O
17はKが足りないこととなる。Kを補充するため、層状KN水和物にKNO
3を添加し、バインダーとともに有機溶媒に混ぜて、スラリー(ペースト状の混合物)を作製し、ドクターブレード法を用いて、このスラリーをガラス基板に塗布して約3[Y2]μm(薄膜の厚み)に伸ばした。
【0031】
3.焼成
ガラス基板にスラリーを塗布した後、KN薄膜の配向性に関する温度依存性と時間依存性を検討するために、温度と時間を変えて焼成しKN薄膜を得た。
【0032】
その後、作製したKN薄膜のX線回折分析及び表面並びに断面のSEM観察を行った。
【0033】
4.実験結果及び考察
焼成温度の最適値を決定するために、焼成時間を12時間と固定して、510℃,530℃,550℃,570℃,590℃と焼成温度を変化させてKN薄膜を作製した。
図1に得られたKN薄膜のX線回折図形を示す。なお、ここで示される配向度とは、2θ−θ法X線回折(以下、XRDという。)パターンのピーク強度から、以下の式により計算するLotgering配向度Fの%表記である。
F=(p−p
0)/(1−p
0)
ここで、pは対象試料、すなわちKN薄膜のΣI(00l)/ΣI(hkl)、p
0は参照試料、すなわち無配向KN粉末のp値にあたる。単結晶ではF=1、無配向多結晶ではF=0となる。
【0034】
焼成温度510℃では未反応のK
4Nb
6O
17が部分的に残ったが、530℃以上ではすべてニオブ酸カリウム(KNbO
3)結晶相となった。焼成温度が510℃,530℃,550℃,570℃,590℃の何れにおいても、結晶方位が[100]方向へ配向することが判明した。また、焼成温度が530℃〜570℃の範囲で、配向度が高まることが確認されたので、550℃を最適な焼成温度とした。
【0035】
次に、焼成時間の最適値を決定するために、焼成温度を550℃と固定して、3h,6h,9h,12h,15h,18hと焼成時間を変化させてKN薄膜を作製した。
図2に得られたKN薄膜のX線回折図形を示す。
【0036】
焼成時間3hでは未反応のK
4Nb
6O
17が部分的に残ったが、6h以上ではすべてニオブ酸カリウム(KNbO
3)結晶相となった。焼成時間が3h,6h,9h,12h,15h,18hの何れにおいても、結晶方位が[100]方向へ配向することが判明した。また、焼成時間が12h〜18hの範囲で、配向度が高まることが確認されたので、12hを最適な焼成時間とした。
【0037】
図3に、550℃で18時間焼成して作製したKN薄膜の表面並びに断面のSEM写真を示す。
図3が示すように、結晶粒の大きさが0.5μm〜5μm程度、厚みが約2.5μmのKN薄膜を作製することができた。
【0038】
以上のように、ソルボサーマル法で合成された層状KN水和物のナノシート状粒子をテンプレートとして用い、有機溶媒によってナノシート状テンプレート粒子と硝酸カリウム(KNO
3)との混合物スラリーを形成し、ガラス基板にこの混合物スラリーを塗布した後、熱処理をすることで、結晶方位が[100]に配向したKN薄膜を作製できることが明らかとなった。
【実施例2】
【0039】
実施例2では、ソルボサーマル法で合成された層状KN水和物のナノシート状粒子をテンプレートとして用い、有機溶媒によってナノシート状テンプレート粒子と炭酸水素カリウム(KHCO
3)との混合物スラリーを形成し、ガラス基板にこの混合物スラリーを塗布した後、熱処理をすることで、結晶方位が[110]に配向したKN薄膜を作製できることを示す。
【0040】
1.テンプレートの合成
先ず、層状KN水和物のナノシート状粒子からなるテンプレートをソルボサーマル法によって合成した。
【0041】
テンプレートの合成は、実施例1と同様であるので省略する。
【0042】
2.スラリーの形成及び塗布
層状KN水和物にKHCO
3を添加し、バインダーとともに有機溶媒に混ぜて、スラリー(ペースト状の混合物)を作製し、ドクターブレード法を用いて、このスラリーをガラス基板に塗布して約2.5μm(薄膜の厚み)に伸ばした。
【0043】
3.焼成
ガラス基板にスラリーを塗布した後、KN薄膜の配向性に関する温度依存性と時間依存性を検討するために、温度と時間を変えて焼成しKN薄膜を得た。
【0044】
その後、作製したKN薄膜のX線回折分析及び表面並びに断面のSEM観察を行った。
【0045】
4.実験結果及び考察
焼成時間の最適値を決定するために、焼成温度を550℃と固定して、3h,6h,9h,12h,15h,18hと焼成時間を変化させてKN薄膜を作製した。
図4に得られたKN薄膜のX線回折図形を示す。
【0046】
焼成時間3hでは未反応のK
4Nb
6O
17が部分的に残ったが、6h以上ではすべてニオブ酸カリウム(KNbO
3)結晶相となった。焼成時間が3h,6h,9h,12h,15h,18hの何れにおいても、結晶方位が[110]方向へ配向することが判明した。また、焼成時間が12h〜18hの範囲で、配向度が高まることが確認されたので、12hを最適な焼成時間とした。
【0047】
図5に、550℃で18時間焼成して作製したKN薄膜の表面並びに断面のSEM写真を示す。
図5が示すように、結晶粒の大きさが0.5μm〜5μm程度、厚みが約2μmのKN薄膜を作製することができた。
【0048】
以上のように、ソルボサーマル法で合成された層状KN水和物のナノシート状粒子をテンプレートとして用い、有機溶媒によってナノシート状テンプレート粒子と炭酸水素カリウム(KHCO
3)との混合物スラリーを形成し、ガラス基板にこの混合物スラリーを塗布した後、熱処理をすることで、結晶方位が[110]に配向したKN薄膜を作製できることが明らかとなった。
【0049】
層状KN水和物のナノシート状粒子と硝酸カリウム(KNO
3)や炭酸水素カリウム(KHCO
3)カリウム塩との混合物スラリー薄膜を焼成してKN配向性薄膜を生成させる反応においては、先ず、200℃付近で層状KN水和物が脱水して層状KNとなってからカリウム塩と反応する。したがって、ナノシート状粒子としては、層状六ニオブ酸カリウム水和物に限定されず、層状六ニオブ酸カリウム(K
4Nb
6O
17)でもよい。
【0050】
層状六ニオブ酸カリウムとカリウム塩との反応は、カリウム塩が分解するときに、K
+(カリウムイオン)が層状六ニオブ酸カリウムの層間に挿入し、トポタクチック構造変換反応でペロブスカイト構造のKNへ変化する。トポタクチック構造変換反応により、ナノシート状KN配向性粒子が生成し、さらに焼結することでKN配向性薄膜となる。
【0051】
したがって、補完物質は、硝酸カリウム(KNO
3)や炭酸水素カリウム(KHCO
3)に限らず、焼成温度で分解するカリウム塩でよく、特に、分解しやすいカリウム塩が望ましい。例えば、無機塩では、K
2CO
3,K
2SO
4,KHSO
4,K
2SO
3,KHSO
3,KCl、有機塩では、酢酸カリウム,安息香酸カリウム,酒石酸カリウム,クエン酸カリウム,クエン酸二水素カリウム,ギ酸カリウム,シュウ酸カリウム,シュウ酸水素カリウム等が挙げられる。さらに、水酸化カリウムも熱処理で分解することが一般的に知られているので、カリウム塩の代わりに利用できる。
【0052】
さらに、層状六ニオブ酸カリウムに限らず、その他の層状構造を有する層状ニオブ酸塩でも同様なトポタクチック構造変換反応が起こるので、その他の層状ニオブ酸塩のナノシート状粒子、例えばKNb
3O
8のナノシート状粒子も同様にテンプレートとして利用できる。
【0053】
層状ニオブ酸塩から結晶方位が[110]に配向したニオブ酸カリウム(KNbO
3)への構造変換過程は、トポタクチック反応が関与しているものと考えられるが、塗布するスラリーの含有物の種類によって、結晶方位の配向具合が異なることが明らかとなった。
【実施例3】
【0054】
実施例3では、ソルボサーマル法で合成された層状KN水和物のナノシート状粒子をテンプレートとして用い、有機溶媒によってナノシート状テンプレート粒子と硝酸ナトリウム(NaNO
3)(又は硝酸ナトリウム(NaNO
3)と硝酸カリウム(KNO
3)との混合物でもよい。)との混合物スラリーを形成し、ガラス基板にこの混合物スラリーを塗布した後、熱処理をすることで、結晶方位が[100]に配向したNN薄膜(又はニオブ酸ナトリウムカリウム(以下、NKN薄膜という。))を作製できることを示す。
【0055】
1.テンプレートの合成
先ず、層状KN水和物のナノシート状粒子からなるテンプレートをソルボサーマル法によって合成した。
【0056】
テンプレートの合成は、実施例1及び実施例2と同様であるので省略する。
【0057】
2.スラリーの形成及び塗布
層状KN水和物にNaNO
3[Y4]を添加し、バインダーとともに有機溶媒に混ぜて、スラリー(ペースト状の混合物)を作製し、ドクターブレード法を用いて、このスラリーをガラス基板に塗布して約2.5μm(薄膜の厚み)に伸ばした。
【0058】
3.焼成
ガラス基板にスラリーを塗布した後、580℃で24時間焼成し、NN薄膜(又はNKN薄膜)を得た。その後、作製したNN薄膜(又はNKN薄膜)のX線回折分析を行った。作製したNKN薄膜の組成は、NaNO
3の添加量によって変化した。スラリー中のNaNO
3/Nb=1/3の場合、Na
1/3K
2/3NbO
3が生成した。NaNO
3/Nb=2/1の場合、Kが殆ど含まれないNaNbO
3となった。
【0059】
図6に、スラリー中のNaNO
3/Nb=2/1、580℃で24時間焼成して得られたNN薄膜のXRDパターンを示す。
図6が示すように、結晶方位が[100]方向へ配向することが判明した。
【0060】
4.実験結果及び考察
以上のように、ソルボサーマル法で合成された層状KN水和物のナノシート状粒子をテンプレートとして用い、有機溶媒によってナノシート状テンプレート粒子と硝酸ナトリウム(NaNO
3)(又は硝酸ナトリウム(NaNO
3)と硝酸カリウム(KNO
3)との混合物でもよい。)との混合物スラリーを形成し、ガラス基板にこの混合物スラリーを塗布した後、熱処理をすることで、結晶方位が[100]に配向したNN薄膜(又はNKN薄膜)を作製できることが明らかとなった。
【0061】
層状KN水和物(K
4Nb
6O
17・4.5H
2O)のナノシート状粒子とカリウム塩補完物質と反応する場合、KNbO
3薄膜が得られる。補完物質がNaNO
3の場合、NaNO
3/Nb=1/3の場合、Na
1/3K
2/3NbO
3が生成する。NaNO
3/Nb>1/3の場合、K
4Nb
6O
17のカリウムイオンがナトリウムイオンに置換され、Na
1-xK
xNbO
3(0<x<2/3)が生成する。また、NaNO
3が過剰の場合(NaNO
3/Nb>2/1)、殆どのカリウムイオンはナトリウムイオンに置換され、カリウムが殆ど含まれないNaNbO
3が生成する。
【0062】
したがって、補完物質としてNaNO
3を使用すれば、ニオブ酸ナトリウムカリウムNa
1-xK
xNbO
3(0<x<2/3)薄膜を作製することができ、補完物質としてNaNO
3とKNO
3との混合物を使用すれば、ニオブ酸ナトリウムカリウムNa
1-xK
xNbO
3,(2/3<x<1)の薄膜を作製することができる。
【0063】
なお、本発明は前述した実施の形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることは勿論である。
【0064】
例えば、本実施例においては、KN薄膜とNN薄膜(又はNKN薄膜)の作製について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、ニオブ酸リチウム薄膜についても同様に作製可能である。
【0065】
また、本実施例においては、ナノシート状粒子をテンプレートとして、それに補完物質を含むスラリーを塗布して熱処理することで配向性薄膜を得たが、このように作製した配向性薄膜上に、例えばスパッタリングによりKN薄膜を形成することでさらに配向性を改善することもできる。