特許第6266316号(P6266316)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6266316フレキシブル圧延されたストリップ材から成る製品を製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6266316
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】フレキシブル圧延されたストリップ材から成る製品を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/26 20060101AFI20180115BHJP
【FI】
   C25D5/26 H
【請求項の数】6
【外国語出願】
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-236028(P2013-236028)
(22)【出願日】2013年11月14日
(65)【公開番号】特開2014-132110(P2014-132110A)
(43)【公開日】2014年7月17日
【審査請求日】2016年7月25日
(31)【優先権主張番号】10 2012 110 972.9
(32)【優先日】2012年11月14日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】596179058
【氏名又は名称】ムール ウント ベンダー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Muhr und Bender KG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフガング エーバーライン
(72)【発明者】
【氏名】イェアク ディーター ブレヒト
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−079396(JP,A)
【文献】 特開平04−066690(JP,A)
【文献】 特表2010−521588(JP,A)
【文献】 特表2013−510233(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0279868(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/26,5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄鋼板から成るストリップ材(2)を提供するステップと、
前記ストリップ材(2)を圧延するステップ(V1)であって、前記ストリップ材(2)の長さに亘って変わる肉厚を形成するするステップ(V1)と、
少なくとも93%の亜鉛を含む金属製のコーティング材でもって電解コーティングを施すステップ(V3)であって、該電解コーティングを前記圧延(V1)後に実施するステップ(V3)と、
350℃より高くかつ前記コーティング材の固相線の下側の温度において熱処理するステップ(V4)であって、該熱処理を前記電解コーティング(V3)後に行うステップ(V4)と、
前記圧延されたストリップ材(2)からブランク(20)を形成するステップ(V5)と、
前記ブランク(20)を間加工するステップ(V6)と、
を有する、圧延されたストリップ材から製品を製造する方法。
【請求項2】
前記コーティング材は、前記熱間加工(V6)の導入の時点では固体の状態にあることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記熱処理(V4)後において、前記コーティング層は、8〜12%の鉄含有率を備えた亜鉛・鉄合金を有していることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記熱間加工(V6)後において、縁層における鉄含有率は80%を下回り、特に30%以下であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記熱処理(V4)をバッチ焼きなましにより実施し、該バッチ焼きなましを、10〜80時間の滞留時間において行うことを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記温度を前記熱処理(V4)中に高めることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブル圧延されたストリップ材から成るコーティングされた薄鋼板を製造するための方法に関する。このコーティングにより、薄鋼板を腐食から保護される。
【背景技術】
【0002】
例えばホット亜鉛めっき(溶融亜鉛めっき)又はガルバニック(電解)亜鉛めっきのように、亜鉛又は亜鉛合金層を備えた鋼から成る構成部材をコーティングするための様々な方法が公知になっている。ホット亜鉛めっきとは、液状の亜鉛から成る溶融物に、予め処理された鋼部材を浸漬させることにより、中実で金属製の亜鉛被覆部を備えた鋼部材の被覆であると理解される。ガルバニック亜鉛めっきにおいて、ワークピースは亜鉛電解質内に浸漬される。亜鉛から成る電極は、ワークピースに比べて卑金属であることに基づき、「犠牲アノード」として作用する。亜鉛めっきしたいワークピースは、カソードとして作用する。したがってコーティング層は、カソード型の防食部とも称呼される。
【0003】
特許文献1において、コーティングされた鋼ストリップをフレキシブル圧延する方法が公知になっている。熱延ストリップ又は冷延ストリップは、電解コーティングされ、次いでフレキシブル圧延プロセスが施される。この構成においてコーティングされた鋼ストリップは、長さに亘って種々異なる板厚を獲得する。コーティングは、フレキシブル圧延後に板厚に合わせられるか、若しくはフレキシブル圧延時に圧延圧に調節される。このために、コーティング層は種々異なった厚さで形成される。
【0004】
特許文献2において、カソード型の防食コーティング層を備えた鋼ストリップを製造するための方法が公知になっている。このために、鋼ストリップは熱延され、次いで冷延され、そして電解亜鉛めっきが施される。電解亜鉛めっき後に、鋼ストリップは250〜350℃の温度におけるバッチ焼きなまし炉において、4〜48時間の期間に亘って熱処理され、これにより亜鉛・鉄層が形成される。
【0005】
特許文献3において、カソード型の防食層を備えた、フレキシブル圧延されたストリップ材を形成するための方法が公知になっている。この方法は、熱延ストリップ又は冷延ストリップとして、カソード型の防食層を備えた圧延ストリップを提供するステップ、及び圧延中に可変な圧延ギャップでもって、コーティングされた圧延ストリップをフレキシブル冷延するステップを含む。
【0006】
特許文献4において、極めて高い機械的な特性を備えたワークピースを実現するための方法が公知になっている。このワークピースは、薄鋼板ストリップを起点にして深絞り加工により加工されている。ワークピースは熱延され、亜鉛から成る金属製の合金でもってコーティングされる。このために金属薄板は切断され、800〜1200℃の温度に加熱され、次いで熱間深絞り工程に置かれる。その後、切断により、深絞り工程に必要な金属薄板余剰部は除去される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】独国登録特許第102007013739号
【特許文献2】独国登録特許第102009051673号
【特許文献3】独国特許出願公開第102007019196号明細書
【特許文献4】EP特許の翻訳第60119826号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、特に良好な防食を提供する、フレキシブル圧延されたストリップ材から成るコーティングされた薄鋼板を製造するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、薄鋼板から成るストリップ材を提供するステップと、ストリップ材をフレキシブル圧延するステップであって、ストリップ材の長さに亘って変わる肉厚を形成するステップと、少なくとも93%の亜鉛を含有する金属製のコーティング材でもって電解コーティングを施すステップであって、電解コーティングをフレキシブル圧延後に実施するステップと、350℃より高くかつ前記コーティング材の固相線の下側の温度において熱処理するステップであって、熱処理を前記電解コーティング後に行うステップと、フレキシブル圧延されたストリップ材からブランクを形成する或いは取り出すステップと、ブランクを冷間又は熱間加工するステップとを有する、フレキシブル圧延されたストリップ材から製品を製造する方法により達成される。
さらに上記課題は、薄鋼板から成るストリップ材を提供し、ストリップ材をフレキシブル圧延するステップであって、ストリップ材の長さに亘って変わる肉厚を形成するステップと、少なくとも亜鉛及び鉄を含有する金属製のコーティング材で電解コーティングするステップと、フレキシブル圧延されたストリップ材からブランクを形成する或いは取り出すステップと、ブランクを冷間又は熱間加工するステップとを有する、フレキシブル圧延されたストリップ材から製品を製造する方法により達成される。
好ましくは、電解コーティング後に他の方法ステップとして熱処理が設定されていて、熱処理を、350℃より高くかつコーティング材の固相線の下側の温度において実施する。
好ましくは、少なくとも鉄5%、最大で鉄80%、の少なくとも一方の割合を有する鉄が含まれている。
好ましくは、析出された状態において、少なくとも部分的にδ1相、特にδ1相及びΓ相があるように、亜鉛及び鉄の割合を選択する。
好ましくは、上記温度を熱処理中に高める。
好ましくは、熱処理を誘導式に実施するか又はバッチ焼きなましにより実施し、バッチ焼きなましを、特に10〜80時間の滞留時間において行う。
好ましくは、他の方法ステップとして、電解コーティング前に、中間層、特にニッケル又はアルミニウム又はマンガンを含んだ層でもって、ストリップ材をコーティングするステップが設定されている。
好ましくは、他の方法ステップとして、電解コーティング後に、スケール保護部を提供するステップが設定されている。
好ましくは、熱間加工は、ブランクを予め冷間加工し、ブランクから予め冷間加工された構成部材の少なくとも一部分領域をオーステナイト化温度に加熱し、構成部材を熱間加工して最終輪郭を製造する、部分ステップ(間接的なプロセス)を有する。
好ましくは、熱間加工は、ブランクの少なくとも一部分領域をオーステナイト化温度へ加熱し、ブランクを熱間加工して最終輪郭を製造する、部分ステップ(直接的なプロセス)を有する。
好ましくは、コーティング材は、熱間加工の導入の時点では固体の状態にある。
さらに上記課題は、特に請求項1又は2記載の方法により製造されている、フレキシブル圧延後に金属製のコーティング層でもって電解コーティングされていて、コーティング後に熱間加工されているフレキシブル圧延された薄鋼板から成る製品により達成される。
第1の解決手段の特徴は、薄鋼板から成るストリップ材を提供するステップと、ストリップ材をフレキシブル圧延するステップであって、ストリップ材の長さに亘って変わる肉厚を形成するステップと、少なくとも93質量%の亜鉛を含有する金属製のコーティング材でもって電解コーティングを施すステップであって、電解コーティングを前記フレキシブル圧延後に実施するステップと、350℃より高くかつコーティング材の固相線の下側の温度において熱処理するステップであって、熱処理を電解コーティング後に行うステップと、フレキシブル圧延されたストリップ材からブランクを形成するステップと、ブランクを冷間又は熱間加工するステップと、を有する、フレキシブル圧延されたストリップ材から製品を製造する方法にある。
【0010】
第2の解決手段の特徴は、薄鋼板から成るストリップ材を提供し、ストリップ材をフレキシブル圧延するステップであって、ストリップ材の長さに亘って変わる肉厚を形成するステップと、少なくとも亜鉛及び鉄を含有する金属製のコーティング材で電解コーティングするステップと、フレキシブル圧延されたストリップ材からブランクを形成するステップと、ブランクを冷間又は熱間加工するステップとを有する、フレキシブル圧延されたストリップ材から製品を製造する方法にある。
【0011】
上記2つの方法の利点は、電解コーティングがフレキシブル圧延後に行われる、という点にある。これによって、提供されたコーティング層は、フレキシブル圧延されたストリップ材の長さに亘って均一な厚さを有する、ということが達成される。この点において、強力に圧延されているストリップ材の領域も、確実に腐食から保護する層厚さを有する。全体的に、製品を製造するためのプロセス期間を短縮することができ、やはり製造コストに有利に作用する少ないコーティング材しか必要とならない。
【0012】
フレキシブル圧延された製品とは、本願においては、種々異なる厚さを備えた鋼ストリップとも、方形ブランク若しくは形状切断部とも理解される。この形状切断部は、機械的といった切断又はレーザ切断により、フレキシブル圧延された鋼ストリップから得られる。フレキシブル圧延用のストリップ材として、熱延ストリップ又は冷延ストリップを使用することができる。この概念は、専門用語の意味において理解することができる。熱延ストリップとは、事前の加熱後の圧延により製造される圧延鋼最終製品(鋼ストリップ)と理解される。冷延ストリップとは、冷延された鋼ストリップ(平坦鋼)と理解される。この鋼ストリップにおいては、圧延による最後の厚さ削減は先の加熱を伴わずに行われる。
【0013】
上記両解決手段において、個々の方法ステップの間に、さらに別のステップを介在させることができると認識される。
【0014】
例えばフレキシブル圧延後に、ストリップ矯正を設定することができる。ストリップ材からのブランクの形成は、電解コーティング前又は後に実施することができる。概念的に形成とは、金属薄板ブランクがストリップ材から打抜き加工される、つまりストリップに、その後使用されない縁部が残ると理解され、また部分部材へストリップ材を簡単に切断して短くすることが、特に切断過程により実施されるとも理解される。
【0015】
第1の解決手段においては、少なくとも93質量%の亜鉛から成るコーティング層がストリップ材に析出される。この構成において、亜鉛割合は、特に95質量%,97質量%又は99質量%であってよく、また100質量%であってもよい(純粋亜鉛コーティング層)。電解コーティングのために、純粋亜鉛若しくは亜鉛から成るアノード、及び通電時に金属イオンを電解質に放出する他の合金素子が使用される。亜鉛イオン、場合によっては他の合金素子のイオンが、カソードとして接続されているストリップ材に、原子として析出されコーティング層を形成する。第1の解決手段において設定されているように、93質量%を超える高い亜鉛割合を備えたコーティング層の析出時に、後続の熱処理が、好ましくは、析出された亜鉛とストリップ材内に包含される鉄との間の合金形成をもたらすので、全体的に亜鉛・鉄コーティング層が発生する。
【0016】
第2の解決手段において、電解式の析出により予め亜鉛・鉄合金層が得られる。亜鉛及び鉄の割合は、好ましくは少なくとも1つの以下の条件に当てはまるように選択されている。つまり、合金層が少なくとも5重量%の鉄を包含するという条件、合金層が最大で80重量%の鉄を含有するという条件、合金層が少なくとも20重量%の亜鉛を含有するという条件及び/又は合金層が最大で95重量%の亜鉛を含有するという条件。亜鉛及び鉄の割合が、析出された状態において少なくとも部分的にδ1相、特にδ1相及びΓ相、又は単に金属間のΓ相があるように選択されると特に好ましい。このことは、例えば10〜30質量%の鉄割合若しくは70〜90質量%の亜鉛割合でもって達成される。この構成において、別の合金素子の付加は排除されていない。この構成において、コーティング層自体は既に亜鉛及び鉄を含有しているので、続く熱処理を回避することができる。亜鉛原子及び鉄原子は、数ナノメートルの間隔を置き、その結果、特に短い拡散経路が与えられる。しかしながら、亜鉛・鉄合金の電解式の析出時においても、上記熱処理を実施することができると理解される。短い拡散経路により、例えば誘導による極めて短い熱処理で十分である。全体的に、上記方法の態様により好ましくはプロセス時間の短縮を達成することができる。
【0017】
第2の解決手段による方法は、熱処理を伴わない第1の可能な構成によれば、電解コーティングの後又は加工若しくは成形前に実施することができる。第2の解決手段の第2の可能な構成によれば、別のステップとして電解コーティング後に、350℃より上側でかつコーティング材の溶融温度の下側(固相線)の温度領域における熱処理を設定することができる。固相線は、コーティング素材用の状態図において、単に固相がその下側にある線を示す。固相線の上側ではコーティング素材は、少なくとも部分的に溶融形状である。
【0018】
鉄原子は母材からコーティング材に拡散するので、加熱時間が進むに伴い、コーティング層における鉄割合は上昇する。コーティング層における鉄割合が増大することにより、固相線に達するか又は超過することなく、熱処理温度を上げることができる。このことは適切なプロセス実施において、最大781℃までの温度が可能である。熱処理中の温度上昇の可能性は、当然に第1の構成にも適用される。温度は、鉄割合が上昇するに伴い段階的に又は連続的に上昇することができる。
【0019】
液相線は、コーティング素材に対する状態図において、その下側に二相域又は多相域、固体−液体がある線を示す。液相線の上側においてコーティング素材は溶融形状にある。二相域の下側の境界は固相線と称呼される。固相線の温度は、合金の割合に応じた組成に基づく。純粋な亜鉛においては、固相線は419.5℃であり、亜鉛・鉄合金においては、Γ相の割合がまだ存在する場合には最大782℃である。したがって、鉄の適切な割合でもって、フレキシブル圧延されたストリップ材を圧延硬質に電解コーティングし、次いで500℃より高く最大782℃の比較的高温において、溶融相が発生することなく、熱処理を施すことが可能である。
【0020】
さらに500℃〜782℃の温度範囲における熱処理は、再結晶焼きなましを実施することに適しているので、形成された材料は、特に間接的な熱間加工に適している。したがって、通常であれば必要不可欠な、フレキシブル圧延後であってコーティング前の再結晶焼きなましを省略できる。例えば、純粋亜鉛(100%亜鉛のコーティング材)を使用した最初に述べた解決手段において、熱処理プロセスは、380℃の焼きなまし温度において開始することができ、拡散工程に基づき増大する鉄割合と共に、段階的に最大781℃の温度にまで高められる。
【0021】
2つの解決手段に、コーティング材が、例えばマンガン、クロム、シリコン又はモリブデンといったさらに別の合金素子を含むことができるということが当てはまる。合金素子の種類及び数に関係なく、本発明の特殊性は、亜鉛・鉄合金層の形成という目的のための温度調節にある。プロセス中に夫々実際に存在する組成において、亜鉛・鉄相の二相図の合金形成、若しくは2つより多い合金素子から成る層形成の時点で、コーティング材の固相線に達しないか又はコーティング材の固相線を超過しないように、各々の合金温度が選択されている。つまり合金は、固相拡散により形成される。
【0022】
熱処理時において、コーティングされる材料から金属製のコーティング層への鉄の拡散が行われる。この構成において亜鉛がコーティング層から、カソード型の防食を提供する亜鉛・鉄合金へと変化する。350℃の上側及び固相線の下側の所定の温度範囲は、拡散が比較的迅速に行われる限りは特に有利である。鉄含有により、コーティング層の亀裂傾向は減じられるので、構成部材の耐用性が向上する。
【0023】
上述のように相変化は、第1の可能な実施の形態によれば、誘導式の加熱により達成することができる。この方法の構成は、短い拡散距離が存在するので、特に亜鉛及び鉄の電解析出において適している。その結果、短い熱処理により既に所望の相変化に繋がる。第2の可能な構成によれば、熱処理はバッチ焼きなましにより実施することができる。このバッチ焼きなましは、特に純粋亜鉛の電解析出において適している。好ましくは、バッチ焼きなまし時に、10〜80時間、好ましくは30〜60時間の滞留時間が設定されるので、拡散により亜鉛・鉄合金が形成されるように十分に時間が提供される。滞留時間は、好ましくはブランク若しくはストリップ材が熱処理される全時間を表し、つまり加熱位相、保持位相、冷却位相を一緒に含むことができる。別の可能な構成は、伝導性の加熱である。この構成において他の技術的に可能な熱処理方法は、当然に排除されていない。
【0024】
別の方法ステップとして、電解コーティング前に、ストリップ材を介在層によってコーティングするようになっていてよい。介在層として、特にニッケル又はアルミニウム含有層を使用することができる。この層は、少なくとも部分的にニッケル若しくはアルミニウムを含有する層であると理解できる。このことは純粋なニッケル層又はアルミニウム層を共に含む。ニッケル層は、表面の付加的な保護を形成し、続いて提供される亜鉛を含有するコーティング層の接着性を改良する。ニッケルコーティング層は、例えば電解式又は外部電流なしの析出により形成することができる。中間層用の他の素材が、排除されていないことは明らかである。例えばマンガン又はクロムを含有するコーティング層を使用することもできる。マンガン及びクロムの両者は、立方格子を有しかつ合金特性に良好な影響を与える、鉄における良好な溶解度を有する。
【0025】
別の可能な構成によれば、ストリップ材には電解コーティング後に、スケール保護部を設けることができる。このことは特に、後の熱間加工のためにオーステナイト化が、保護ガス雰囲気においては行われない場合に有効である。スケールとは、高温において、空気又は他の酸素含有ガス内での金属素材の反応時に発生する、十分に酸化性の腐食生成物であると理解される。スケール保護部の提供は、溶射又は圧延により行うことができる。酸化に対する保護に加えて、スケール保護層のその他の利点は、表面が高い品質を有するという点にある。特に金属薄板の後のラッカ処理の前に、ショットブラストのような清浄処理は必要でない。さらにスケール保護により熱間加工中の摩擦係数及び熱吸収特性にポジティブに影響を与えることができる。スケール保護部のさらなる利点は、その下側にあるカソード型の防食保護層の接着が改良される、という点にある。さらに、オーステナイト化の枠内における温度・時間窓の拡大が、例えばスケール保護材の、その下側にある層との合金形成により可能である。スケール保護部は、固相線の下側において実施される熱処理前又は後に提供することができる。
【0026】
プロセスの適切な個所において、フレキシブル圧延されたストリップ材から、ブランク又は形状切断部を製造する。このことは、機械的な切断又はレーザ切断により実施することができる。ブランクとは、ストリップ材から切り離されている、特に方形の金属薄板と理解される。形状切断部として、ストリップ材から形成された、最終製品の形状に既に適合されている外側輪郭を有する金属薄板エレメントが理解される。この構成において、ブランクという表示は統一して、方形ブランクにも形状切断部にも使用される。ブランクの製造は、電解コーティングの前又は後に行うことができ、場合によってはスケール保護部の提供前又は後に行うことができる。
【0027】
金属薄板ブランクは、2つの解決手段に当てはまる可能な方法の構成により熱間加工される。熱間加工とは、ワークピースが加工前に熱間加工の領域における温度に加熱される加工過程と理解される。加熱は、適切な加熱装置、例えば炉において行われる。熱間加工は、第1の可能な構成によれば、ブランクの冷間加工により予め成形された構成部材を形成する部分ステップと、次いで予め冷間加工された構成部材の少なくとも部分領域を、オーステナイト化温度に加熱する部分ステップと、続いて熱間加工により製造品の最終輪郭を形成するという部分ステップとを含む、間接的なプロセスとして実施することができる。オーステナイト化温度とは、少なくとも一部分オーステナイト化(フェライト及びオーステナイトの二相域における構造条件)がある温度範囲と理解できる。さらに、例えば部分的な硬化を可能にするために、ブランクの部分領域だけをオーステナイト化することも可能である。熱間加工は、第2の可能な構成によれば、ブランクの少なくとも部分領域が、直接的にオーステナイト化温度に加熱され、次いで所望の最終輪郭へと所定のステップにおいて熱間加工されることを特徴とする直接的なプロセスとして実施することもできる。事前の(冷間)加工は、この構成においては行われない。直接的なプロセスにおいても、部分領域のオーステナイト化により、部分的な硬化を達成することができる。構成部材の部分領域の硬化が、種々異なって温度調節された工具により可能であるか、若しくは種々異なる冷却速度を可能にする複数の工具材料の使用により可能であるということが、両プロセスに当てはまる。最後の構成において、ブランク全体若しくは構成部材全体を完全にオーステナイト化することができる。
【0028】
各構成において、2つの熱間加工プロセスに当てはまる有利な方法の構成によれば、コーティング材は、熱間加工の導入時点において固体状態にある、つまり温度はコーティング材の固相線の下側の範囲にまで冷却されたということになっている。熱間加工後に、縁層における鉄含有率は80%を下回る、好ましくは60%以下、特に好ましくは30%以下であることが望ましい。
【0029】
原則的に2つの上記解決手段に有効な択一的な方法の構成によれば、金属薄板ブランクを冷間加工することもできる。冷間加工とは、この構成において、ブランクが加工前には適切に加熱されない加工過程と理解される。したがって加工は、空間温度において実施される。ブランクは、供給されたエネルギの拡散により加熱される。冷間加工は、特に軟質のボデー鋼を加工するためのプロセスとして使用される。
【0030】
さらに上記課題の解決の特徴は、フレキシブル圧延後に金属製のコーティング層でもって電解式に被覆されていて、この被覆後に熱間加工されているフレキシブル圧延された薄鋼板から成る金属薄板ブランクにある。したがって、フレキシブル圧延されたストリップ若しくはこのストリップから形成されたブランクの長さに亘る一定の層厚さという上記利点がもたらされる。ブランクを、1つ又は複数の方法ステップにより形成することができるので、ステップ及びこのステップに付随する利点に関しては、上記説明が参照される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明に係る方法をフローチャートにして、第1の実施の形態において概略的に示す図である。
図2】本発明に係る方法をフローチャートにして、第2の実施の形態において概略的に示す図である。
図3】本発明に係る方法をフローチャートにして、第3の実施の形態において概略的に示す図である。
図4】亜鉛・鉄相の図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に、本発明の有利な実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
【0033】
図1に、第1の方法の実施の形態に基づく、フレキシブル圧延されたストリップ材2から成る製品を製造するための本発明に係る方法を示す。方法ステップV1において、出発状態においてコイル3に巻かれているストリップ材2は圧延加工、とりわけフレキシブル圧延によって圧延加工される。このために、フレキシブル圧延前に広範囲で一定の金属薄板厚(以下、単に板厚)を長さに亘って有するストリップ材2を、ロール4,5により、ストリップ材2が、圧延方向に沿って変わる板厚を得るように圧延する。圧延中にプロセスは監視されかつ制御される。この実施の形態において、板厚測定部6によって測定されたデータは入力信号としてロール4,5の制御のために使用される。フレキシブル圧延の後で、ストリップ材2は、圧延方向で種々異なる厚さを有する。ストリップ材2は、フレキシブル圧延後に再びコイル3に巻き付けられて、ストリップ材2を、次の方法ステップに供給することができる。
【0034】
フレキシブル圧延後に、ストリップ材2は方法ステップV2において平滑にされる。このことはストリップ矯正装置7において行われる。平滑化の方法ステップは選択的であり、省略することもできる。
【0035】
フレキシブル圧延(V1)若しくは平滑化(V2)の後で、ストリップ材2に、方法ステップV3において防食部が設けられる。このためにストリップ材2は、電解式のストリップコーティング装置8を通過する。ストリップコーティングは連続法において行われ、つまりストリップ材2はコイル3から取り出され、コーティング装置8を通過して、コーティング後に再びコイル3に巻き上げられる、ということが看取可能である。この方法の実施の形態は、ストリップ材2への防食部を提供するための取扱いの手間が小さく、プロセス速度も高いので、特に有利である。この実施の形態において、ストリップコーティング装置8のうち、ストリップ材2が通過する電解液10で充填されている浸漬槽9が看取可能である。ストリップ材2の案内は、ロールセット11,12によって行われる。
【0036】
電解コーティングは、この方法の実施の形態においては、少なくとも93%の亜鉛を含む金属製のコーティング材でもって行われる。高い亜鉛割合により、特に良好な腐食耐性が達成される。亜鉛割合はより高くてもよく、例えば95%より大きい、特に97%より大きい、及び100%(純亜鉛)であってもよいと、認識される。
【0037】
コーティングのために、例えば亜鉛から成るアノードを使用することができる。このアノードは、通電時に亜鉛イオンを電解質に放出する。亜鉛イオンは、カソードとして接続されているストリップ材2に亜鉛原子として析出され亜鉛層を形成する。択一的には、不活性なアノード及び亜鉛電解質を使用することもできる。
【0038】
上記亜鉛割合の他に、コーティング層はさらに別の合金要素、例えばアルミニウム、クロム、マンガン、モリブデン、シリコンを含んでいてもよい。場合によっては添加される合金要素の割合は7%より少ない。マンガンは鉄への良好な溶解度を有する。このことは加熱時の合金形成に有利に作用する。
【0039】
電解コーティング(V3)後に、コイル3に巻き付けられたストリップ材2に、方法ステップV4において熱処理が施される。熱処理は、基本的に各技術的に適した形式で行うことができ、2つの方法だけを例示すれば、例えばバッチ焼きなましにおいて行うことができるか、又は誘導加熱により行うこともできる。この実施の形態において、炉13における加熱処理が示されている。
【0040】
熱処理は、350℃より高くかつコーティング材の固相線の下側の温度において実施される。固相線の温度推移は、合金の割合に基づく組成に依存している。与えられている範囲の下側の温度においては、鉄から亜鉛層への拡散が発生するので、熱源の作用時間が進むに伴い拡散層が形成される。
【0041】
熱処理時には、コーティングされるストリップ材から金属製のコーティング層への鉄の拡散が行われる。この実施の形態において、亜鉛はコーティング層から、カソード防食部を提供する亜鉛・鉄合金へと変化する。350℃の上側及び固相線の下側の温度範囲を通じて、拡散は比較的迅速に行われる。バッチ焼きなましにおける熱処理の滞留時間は、好ましくは10〜80時間、好ましくは30〜60時間であり、拡散により亜鉛・鉄合金が形成されるように十分な時間が提供される。
【0042】
熱処理の別の効果は、圧延時に発生する材料の硬化が減じられるか若しくは解消されるので、圧延されたストリップ材2は再びより高い靱性及び延性を得ることである。ストリップ材は、続く方法ステップにおいて簡単に引き続き加工することができ、さらに製造される最終製品の材料特性に積極的に影響を与える。
【0043】
熱処理(V4)後に、次の方法ステップV5において、ストリップ材2から個々の金属薄板ブランク(以下、薄板ブランク)20が形成される。ストリップ材2から薄板ブランク20を形成することは、好ましくは抜き加工又は切断加工により行われる。製造される薄板ブランク20の形状に応じて、薄板ブランク20を、ストリップ材2から形状切断部として打ち抜くことができる。この実施の形態において、引き続き使用されない縁が、ストリップ材に残ったままであるか、又はストリップ材2を、簡単に部分部材に短く切断することができる。ストリップ材2から形成された、三次元的な薄板ブランク(3D−TRB)とも称呼できる薄板ブランク20を概略的に示す。
【0044】
ストリップ材2からブランク20を製造した後に、方法ステップV5において、ブランク20を変形させて所望の最終製品を形成することが行われる。第1の可能な実施の形態によれば、ブランク20は熱間加工されるか、又は第2の可能な実施の形態によれば、冷間加工される。
【0045】
熱間加工は、直接的な又は間接的なプロセスとして実施することができる。直接的なプロセスにおいて、ブランク20は、加工前に、オーステナイト化温度にまで加熱される。このことは例えば誘導又は炉内において行うことができる。オーステナイト化温度とは、少なくとも一部オーステナイト化(フェライト及びオーステナイトの二成分相における構造)がある温度範囲と理解することができる。また、例えば部分的な硬化を可能にするために、ブランクの部分領域だけをオーステナイト化することもできる。オーステナイト化温度に加熱した後に、加熱されたブランクは、形状を与える型14において成形され、これと同時に高い冷却速度で冷却される。この場合に、構成部材20は最終輪郭を獲得し、これと同時に硬化される。
【0046】
間接的な熱間加工の場合、ブランク20にはオーステナイト化前にさらにプレ成形が施される。このプレ成形は、ブランクの常温若しくは低温状態において、つまり事前に加熱しないで行われる。プレ成形時に構成部材は、まだ最終形状には相当しないが、最終形状に近いプロファイル或いは輪郭を獲得する。こうしてプレ成形後には、直接的なプロセスにおいてのように、オーステナイト化及び熱間加工が行われる。この実施の形態において、構成部材はその最終輪郭を獲得し、硬化される。
【0047】
鋼材は、熱間加工が(直接的又は間接的に)設定されている限りは、少なくとも0.1質量%〜0.35質量%の炭素割合を有することが望ましい。
【0048】
形状付与プロセスとしての熱間加工に対して択一的には、ブランクを冷間加工することもできる。冷間加工は、特に軟性のボデー鋼若しくは、強度に関して特別な要求がない構成部材に適している。冷間加工の場合、ブランクは室温において成形される。
【0049】
本発明に係る方法の特別性は、電解コーティング(V3)が、フレキシブル圧延(V1)後に行われる、という点にある。ストリップ材2に提供されたコーティング層は、長さに亘って、とりわけストリップ材2の各々の厚さに関係なく、均一な厚さを有する。より強力に圧延された領域も、確実に腐食に対して保護する、十分に肉厚なコーティング層を有する。さらなる特別性は、350℃とコーティング材の固相線の下側との間の温度範囲における電解コーティング後の熱処理のステップにある。熱処理により、亜鉛はコーティング層から母材へと拡散し、鉄は母材からコーティング層へと拡散する。コーティング層における鉄割合が上昇するに伴い、熱処理プロセスの枠内の温度は、固相線の移動に基づき、より高い温度へと徐々に上昇することができる。後続で場合によっては実施される熱成形プロセスの比較的高い温度に耐え、確実な腐食保護を提供するコーティング層として亜鉛・鉄合金が発生する。
【0050】
本発明に係る方法の実施の形態を変更することもできることが理解される。例えば、上記ステップの間に、別個に記載していない中間ステップが設けられていてもよい。例えば、ストリップ材には、電解コーティング前に中間層、特にニッケル層、アルミニウム層又はマンガン層を設けることができる。この中間層は表面の付加的な保護を形成し、続いて提供される亜鉛を含むコーティング層の接着性能を改良する。ストリップ材又はこのストリップ材から製造されているブランクには、電解コーティング(V3)後及び熱処理(V4)前若しくは後にスケール保護部(Zunderschutz)が設けられるようになっていてもよい。このことは、後の熱間加工のためのオーステナイト化が保護ガス雰囲気において行われない場合に特に評価できる。スケール保護層を、溶射又は圧延加工により提供することができる。酸化に対する保護の他に、スケール保護層のさらなる利点は、表面が高い品質を有する点にある。さらに、スケール保護層により熱間加工中の摩擦係数及び熱吸収特性に積極的に影響を与えることができる。スケール保護部のさらに別の利点は、その下にあるカソード型の防食層の接着が改良される点にある。さらに、オーステナイト化の枠内における温度・時間窓の拡大が、例えばスケール保護材とその下にある層との合金形成により可能である。その一例は、スケール保護ラッカにおけるアルミニウム積層である。
【0051】
さらに、本発明に係るプロセスの実施の形態は、実施されるステップの順序において変更することもできると理解される。例えば、ブランクの形成は、他の個所において、例えば電解コーティング前又は場合によってはスケール保護部の提供前又は後に行うこともできる。
【0052】
図2に、第2の方法の実施の形態に基づき、金属薄板ブランクをストリップ材2から製造するための本発明に係る方法を示す。この第2の方法の実施の形態は、多くの部分で図1に示した方法に一致するので、共通部分に関しては上記説明が参照される。この実施の形態において同じ若しくは変更された構成部材若しくはステップには、図1と同じ符号を付ける。以下、主に、この実施の形態の方法の相違点について記載する。
【0053】
方法ステップV1(圧延加工)、V2(ストリップ矯正)、V5(打抜き加工)及びV6(加工若しくは成形)は、図1に示した対応する方法ステップV1、V2、V5及びV6と同一である。
【0054】
図1に示した方法との第1の相違点は、電解コーティングの方法ステップV3にある。図2に示す方法の実施の形態においては、ストリップ材は、少なくとも亜鉛及び鉄を含む金属製のコーティング材によってコーティングされる。亜鉛・鉄合金層は、亜鉛・鉄層の電解析出により得られる。亜鉛及び鉄の割合は、有利な方法の実施の形態によれば、合金層が少なくとも5重量%及び/又は最大80重量%の鉄を含むか、若しくは合金層が少なくとも20重量%及び/又は最大95重量%の亜鉛を含むように選択される。
【0055】
亜鉛及び鉄の割合が、析出された状態において少なくとも部分的にδ1相、特にδ1相及びΓ相、又は専ら金属間Γ相にあるように選択されると特に有利である。このために、例えばコーティング層における鉄の割合が10〜30重量%、若しくは亜鉛の割合が70〜90重量%に選択することができてよい。この割合でもって析出された状態においては、少なくとも部分的に金属間相が形成される。
【0056】
Γ相の含有率が比較的高く、δ1相の含有率が可能な限り少ないと、直接的な熱間加工の実施にとって有利である。亀裂形成を回避するために、熱間加工用のコーティング層の溶融温度は比較的高くなっていることが望ましい。鉄含有率が高くなるに伴い、ひいてはΓ相の割合が高くなるに伴い、固相線は、亜鉛・鉄(図4参照)の二元状態図において、より高い温度に移動する。
【0057】
電解コーティング(V3)後に、方法ステップV5において、ストリップ材2からブランクが形成される。この実施の形態において、ブランクは、変更された方法の実施の形態において、コーティング前に切り出しすることができると、理解される。
【0058】
図2に基づくこの方法の実施の形態の別の特殊性は、コーティング(V3)と方法ステップV6における加工若しくは成形との間において、固相温度の下側での介在された熱処理が実施されないということである。したがって図2に示した方法は、時間的に特に短い。
【0059】
最後に実施される加工のステップは、図1に示したステップに相当し、これに関しては上記説明が参照される。ブランク20は冷間又は熱間により(直接的又は間接的に)加工することができる。
【0060】
この方法の実施の形態の場合であっても、変化態様、特に追加の中間ステップ又は後続の方法ステップを実施することができると理解される。これに関しては、繰り返しを避けるために、上記説明が参照される。
【0061】
図3に、第3の方法の実施の形態に基づいて、ストリップ材2から金属薄板ブランクを製造するための本発明に係る方法を示す。この第3の方法の実施の形態は、実質的に図1及び図2に示した方法の組合せに相当するので、共通する点に関しては、上記説明が参照される。この実施の形態において、同一若しくは変化した構成部材若しくはステップには、同じ符号が用いられている。
【0062】
ステップV1(圧延処理)、V2(ストリップ矯正)、V3(電解コーティング)、V5(打抜き加工)及びV6(加工若しくは成形)は、図2に示した対応する方法ステップに一致する。図2に示した方法との唯一の相違点は、電解コーティング(V3)の後で方法ステップV4において、図1に示した方法においてのように熱処理が行われるという点にある。
【0063】
図1に示した方法の実施の形態においてのように、図3に示す方法の実施の形態においても特殊性は、亜鉛・鉄合金層の形成という目的のための温度制御にある。熱処理(V4)における各合金温度は、亜鉛・鉄の二元状態図(図4参照)の固相線若しくは2つより多い合金素子から成る層構造の固相線が、合金形成の時点では達成されないか又は超過されないように選択されている。
【0064】
上記層構造の一例は、例えば亜鉛、鉄及びマンガンから成る三元合金であり、マンガンは鋼基板から成っていて、かつマンガンは上記加熱中に拡散プロセスにより、電解析出される亜鉛層若しくは亜鉛・鉄合金層へと到達し、電解析出の構成要素ではない。マンガンの代わりに、例えばクロム又はアルミニウム又はシリコン又はモリブデンは、電解析出された層に拡散することも考慮可能である。コーティングのために鋼合金素子が設けられていてもよいと理解される。この鋼合金素子は、上述されておらず、上記加熱プロセスによる電解析出された層へ拡散することに適している。
【0065】
この方法の実施の形態においても、変化態様、特に追加の中間ステップ又は以下の方法ステップを実施することができる。これに関しては繰り返しを回避するために、上記説明が参照される。
【0066】
図4に、亜鉛・鉄のための状態図を示す。X軸線上に、鉄(Fe)若しくは亜鉛(Zn)の割合が与えられている。この場合、左側の端において材料は、鉄100%、亜鉛0%である一方で、右側の端においてはその逆で、鉄0%、亜鉛100%である。上記端の間には、X軸線上に示された百分率組成が夫々明らかになっている。Sは溶融相であり、α及びγは、鉄・亜鉛混晶(鉄リッチ)であり、ζ及びδ若しくはδ1及びΓは、金属間相であり、ηは亜鉛・鉄混晶(亜鉛リッチ)である。
【0067】
以下に、本発明に係る方法に基づく電解析出の種々異なる可能な実施の形態を、亜鉛・鉄状態図に基づいて例示的に説明する。
【0068】
図1に示した方法の実施の形態において製造することができるように、純粋亜鉛層の析出時に、最初に、350℃の上側であって419.5℃の溶融温度(固相線)の下側の合金温度、例えば400℃が選択される。この温度において、鉄から亜鉛層への拡散が生じるので、熱処理(V4)の枠内において作用期間が進行するに伴い、拡散層、例えばδ層が形成される。別の温度制御は、各温度が常に亜鉛・鉄の二元状態図の固相線を下回っているように形成されている。
【0069】
図3に示した方法の実施の形態において製造することができるような、既に鉄を亜鉛層内に含むコーティング層の電解析出時に、純粋亜鉛の溶融温度の上側で始動温度を選択することができる。例えば亜鉛85%及び鉄15%の電解析出された層の組成において、600℃の始動温度を選択することができる。この温度は、確かに亜鉛の溶融温度の上側にあるが、二相領域Γ+δ1の固相線の下側にある。
【0070】
亜鉛60%及び鉄40%から成る亜鉛・鉄層の電解析出において、782℃より小さい始動温度が可能である。層が後続の熱処理中に、オーステナイト性の鉄混晶(例えば鉄70質量%及び850℃)だけが存在する程度に鉄を多く含む場合にのみ、この温度を超えることが可能である。
【0071】
上述したように熱処理の種類は確定していない。例えば誘導加熱又はバッチ焼きなましにおける加熱、又は高熱体、例えば、熱をブランク若しくは形状切断部に放出する肉厚の鋼板との接触による加熱であってよい。
【0072】
本発明の特別な実施の形態において、電解式の亜鉛・鉄合金は、8〜12%の鉄含有率を備える。これはいわゆる「ガルバニール(Galvannealed)」コーティング層を備えた鋼のために使用される組成である。この組成の利点は、構成要素である亜鉛及び鉄は、ナノメートル範囲における間隔を有するという点にある。上記範囲において、長時間に亘る拡散処理を回避することができる。むしろ方法ステップV4における短い熱処理により、金属間のδ1相を、電解析出された、8〜12%の鉄含有率を備える亜鉛鉄合金から製造することができる。上記組成は、冷間加工にも熱間加工にも使用することができる。
【0073】
本発明のさらに別の特別な実施の形態において、電解式の亜鉛・鉄合金が析出される。この亜鉛・鉄合金の化学量論的組成は、Γ相に相当する。択一的には上記組成は、少ない鉄含有率を備えた亜鉛・鉄層の析出及び続く熱処理により調節することもできる。熱処理の終わりにはΓ相が生じる。この相は、まず782℃の温度において溶融し始めるので、上記相は特に熱間加工に適している。その理由は、溶融相の形成を制限することができるか、若しくはマンガンといった鋼基板から成る構成要素による層の安定化によって回避することができる(鉄・亜鉛・マンガンの三成分系)。
【0074】
同様に熱間加工(V6)のために設けられているさらに別の実施の形態において、熱間加工(例えば900℃)用の最大限のオーステナイト化温度への加熱時ですら、可溶性でない層が電解析出される。この種のコーティング層は、例えば20質量%の亜鉛及び80質量%の鉄の組成を有する。この実施の形態において、鉄・亜鉛の二成分系の鉄ベース合金である。
【0075】
全体的に本発明に係る方法でもって、確実なカソード型の防食保護部を備えた製品を製造することができる。この製品は、熱間加工プロセスに非常に良好に適している。プロセス中のコーティング層における液状相の発生を少なくとも十分に回避することにより、製品の亀裂形成の傾向は有利に最小に抑えられる。
【符号の説明】
【0076】
2 ストリップ材
3 コイル
4 ロール
5 ロール
6 厚さ制御部
7 平滑化装置
8 コーティング装置
9 浸漬槽
10 電解質
11 ロールセット
12 ロールセット
13 炉
14 加工工具
20 ブランク
V1〜V6 方法ステップ
図1
図2
図3
図4