【実施例1】
【0020】
本実施例は、カッターヘッド2に複数のローラーカッター3を装備したトンネル掘進機1に本発明を適用した場合の例である。尚、
図1の矢印Aが示す方向をトンネル掘進機1の前方とし、この前方に向って左右方向を左右方向として以下説明する。
【0021】
図1、
図2に示すように、トンネル掘進機1は、複数のローラーカッター3が装備されたカッターヘッド2と、チャンバー4の後端を仕切る隔壁5と、前胴6a及び後胴6bと、カッターヘッド2を回転自在に支持する機構および複数のカッター駆動モータ7と、ロータリジョント8、複数のシールドジャッキ9及び複数の中折れジャッキ10と、送水管11及び排泥管12と、複数のグリッパー13と、回転自在に支持された回転リング部材14及びこの回転リング部材14を回転駆動する回転駆動手段15と、回転リング部材14に装備され且つセグメント16をトンネル内面に覆工するエレクタ装置17と、後部プラットフォーム18などを備えている。
【0022】
このトンネル掘進機1では、カッターヘッド2と胴部材(前胴6aと後胴6b)を複数のシールドジャッキ9により覆工済のセグメント16に反力をとって前進駆動しながら、複数のカッター駆動モータ7によりカッターヘッド2を回転駆動して、前方の地山(切羽)を掘削してトンネルを掘削し、掘削した岩石片を含む泥水を排泥管12から排出し、トンネル内面にエレクタ装置17によりセグメント16を覆工していく。
【0023】
図2に示すように、カッターヘッド2は、例えば、センターフレーム20と、このセンターフレーム20から半径方向へ延びる複数のカッターフレーム21と、これらカッターフレーム21の外周端に連結された外周リング22と、チャンバー4内に配設され且つ正面視一字状で且つ閉断面部材からなる接続アーム2aとを有する。各カッターフレーム21には、複数のローラーカッター3が半径方向に適当間隔おきに装備されている。各ローラーカッター3はその軸心方向をカッターフレーム21と平行方向(カッターヘッド2の半径方向)に向けて配置されている。各ローラーカッター3は、カッターフレーム21に固定されたカッターホルダー23に夫々着脱可能に装着されている。
【0024】
図3、
図4に基づいて、ローラーカッター3の取付け構造について簡単に説明する。
尚、
図3、
図4において矢印A方向がトンネル掘進機1における前方である。
ローラーカッター3は、軸部材3aと、この軸部材3aに回転自在に装着されたローラーカッター本体3bとを有し、軸部材3aの両端部には六角部3cと、断面ほぼ正方形の角軸部3dとが形成されている。カッター支持部材であるカッターホルダー23は、カッターフレーム21の1対のカッター取付板21aの間に装着されて固定されている。
【0025】
カッターホルダー23は、カッター取付板21aと直交状の1対の支持部材24と、これら支持部材24の両端を連結する1対の連結板25であって1対のカッター取付板21aの内面に固定された1対の連結板25とを有する。このカッターホルダー23は、ローラーカッター3の交換の際に、ローラーカッター3をカッターヘッド2の後方へ取り出し可能にローラーカッター3の両端部の六角部3cと角軸部3dを支持する軸支持機構26を有する。
【0026】
前記軸支持機構26は、カッターホルダー23の1対の支持部材24を主体にして構成されている。前記軸支持機構26は、1対の角軸部3dをその軸心直交方向に出し入れ可能な軸支持穴27aを夫々有する1対のロータリーリング27及びスペーサ27bと、これら1対のロータリーリング27及びスペーサ27bを回転可能に支持すると共に角軸部3dを後方へ取り外し可能な開口部28aを有する1対のリング支持部28と、1対のロータリーリング27及びスペーサ27bの前面を回転自在に押える1対のカッター押え29とを備えている。前記カッター押え29が1対のボルト29aでリング支持部28に固定されている。さらに、軸部材3aの1対の六角部3dに夫々係合させて軸部材3aの回転を規制する1対のカッター回り止め30 が後方から装着されて、夫々1対のボルト30aでリング支持部28に固定されている。尚、トンネル掘進時には、ロータリーリング27が
図3に示す姿勢に保持されている。
【0027】
ローラーカッター3の交換の際には、
図4に示すように、カッターヘッド2の後側から、カッター回り止め30を後方へ取り外してから、工具31で軸部材3aの六角部3cを回動させることで、軸部材3aとロータリーリング27及びスペーサ27bを180°回動させると、1対の角軸部3dが開口部28aに臨む状態になるので、その状態でローラーカッター3をカッターヘッド2の後方へ取り外すことができる。新規のローラーカッター3は、上記の逆の手順にて装着することができる。
【0028】
次に、ローラーカッター3の刃先の摩耗状態を検知する摩耗検知装置について説明する。
尚、カッターヘッド2には多数のローラーカッター3が装備されているが、例えば、センターフレーム20に近い位置の1つのローラーカッター3と、外周リング22の近くの1つのローラーカッター3と、カッターフレーム21の半径方向中間位置の1つのローラーカッター3に、摩耗検知装置が夫々装備される。但し、本実施例では、1組の摩耗検知装置について説明する。
【0029】
図5、
図6に示すように、この摩耗検知装置は、ローラーカッター3の刃先の摩耗状態を検知可能な摩耗検知手段40と、ローラーカッター3の所定の原点位置を基準とするローラーカッター3の回転位相を検知可能な位相検知手段50とを備えている。
摩耗検知手段40は、ローラーカッター3の半径方向における刃先の先端位置を検出してローラーカッター3の摩耗状態を検知するもので、後述の変位センサ41と、制御ユニット60とで構成されている。
【0030】
位相検知手段50は、ローラーカッター3が予め設定された回転方向原点位置に位置したことを検出可能な原点センサ51と、ローラーカッター3が原点位置から全周を複数等分した設定角度(本実施例では30°)の整数倍回転した位置を検出可能な位相センサ52と、前記制御ユニット60とで構成されている。
【0031】
前記制御ユニット60は、トンネル掘進機本体側に装備されるもので、後方台車(図示略)の制御室に設置されている。この制御ユニット60は、入出力インターフェイスとコンピュータを内蔵した制御部61と、その前面のディスプレイ62と、操作盤63とを有する。この摩耗検知装置は、位相検知手段50で検知した複数の回転位相において摩耗検知手段40で前記刃先の先端位置を夫々検知することで、ローラーカッター3の刃先の全周に亙る摩耗状態を検知可能に構成してある。
【0032】
最初に、摩耗検知手段40について説明する。
摩耗検知手段40は、ローラーカッター3の刃先の先端に対向するように、カッターフレーム21のカッター取付板21aに付設された変位センサ41と、この変位センサ41に電気的に接続された制御ユニット60とで構成されている。
【0033】
図5、
図6に示す変位センサ41は、例えばカッターフレームの前進側(カッターヘッド2の回転によりローラーカッター3が周回する周回方向の前進側、
図5の矢印L方向)のカッター取付板21aに付設された接触型の変位センサ41であり、この変位センサ41は、例えば、差動トランス式変位センサまたはポテンショメータ式変位センサであり、ローラーカッター3の半径方向における刃先の先端位置を精密に検出可能である。尚、変位センサ41を保護する保護ケース(図示略)もカッター取付板21aに付設される。
【0034】
変位センサ41のセンサ本体41aは、鍔付きスリーブ41bを介してカッター取付板21aに装着され、その検出ロッド41cがカッターホルダー2の連結板25に形成したロッド挿通孔に進退自在であり、ローラーカッター3の摩耗状態を検出する際には、検出ロッド41cの先端をローラーカッター3の刃先の先端に当接させ、検出ロッド41cの移動量から刃先の先端位置を検出するようになっている。
【0035】
但し、上記以外の接触型の変位センサでもよく、又は非接触型の変位センサ(例えば、レーザー方式の変位センサ、超音波式の変位センサ、その他)も採用可能である。この変位センサ41に接続された配線42は、接続アーム2a内に導入後ロータリジョント8の筒部材内に導入され、ロータリジョント8の後端部に連結されたロータリコネクタ8aを介して制御ユニット60に接続されている。
【0036】
前記位相検知手段50の原点センサ51は、カッターホルダー23に装備された第1近接スイッチ51aと、この第1近接スイッチ51aに対向可能にローラーカッター3に装備された1つの第1磁石片51bとを有する。第1近接スイッチ51aは磁気検知形近接スイッチであり、第1磁石片51bに対向した時の磁束変化から第1磁石片51bを検出する。第1近接スイッチ51aは、ローラーカッター3の軸心と平行方向に向けて、カッターホルダー23の1対の支持部材24のうちの外周側の支持部材24とそのカッター押え29に貫通状に装着されている。第1磁石片51bは、細い円柱状の磁石であり、S極からN極へ向う磁界の方向を第1近接スイッチ51aの方に向けた状態にして、ローラーカッター3のうちの軸心と直交状の回転側面に開口する装着穴に装着されている。
【0037】
前記位相検知手段50の位相センサ52は、カッターホルダー3に装備された第2近接スイッチ52aと、この第2近接スイッチ52aに対向可能にローラーカッター3の全周を複数等分(例えば、12等分)した位置に装備された複数(例えば、12個)の第2磁石片52bとを有する。第2近接スイッチ52aは第1近接スイッチ51aと同様の磁気検知形近接スイッチであり、ローラーカッター3の軸心と平行方向に向けて、カッターホルダー3の1対の支持部材24のうちの内周側の支持部材24とそのカッター押え29に貫通状に装着されている。
【0038】
前記複数の第2磁石片52bは、第1磁石片51bと同様のもので、ローラーカッター3のうちの軸心と直交状の回転側面の全周複数等分位置に開口する複数の装着穴に、S極からN極へ向う磁界の方向を第2近接スイッチ52aの方に向けた状態にして装着されている。 第1,第2近接スイッチ51a,52aに接続された配線は、接続アーム2a内に導入されてからロータリジョンイント8の筒部材内に導入され、ロータリジョンイント8の後端部に連結されたロータリコネクタ8aを介して制御ユニット60に接続されている。
【0039】
次に、ローラーカッター3の刃先の摩耗量を測定する摩耗量測定制御について、
図7のフローチャートに基づいて説明する。この摩耗量測定制御の制御プログラムは、制御ユニット60に予め格納されている。尚、図中の符号Si(i=1,2,・・)は各ステップを示す。操作盤63の操作を介して測定モードが設定されると、この制御が開始され、最初にカウンタCを「0」にする等の初期設定が実行される(S1)。
【0040】
次に、S2ではカッターヘッド2を低速回転させ、複数のシールドジャッキ9の推力を通常掘削時の推力より小さい適当な推力に設定して胴部材(前胴6aと後胴6b)及びカッターヘッド2を前進駆動する。次に、S3では原点センサ51の検出信号(原点信号)を読み込み、第1近接スイッチ51aが第1磁石片51bを検出したか否かを判定する。第1近接スイッチ51aが第1磁石片51bを検出して原点信号が検出されると(S3:Yes)、S4において第2近接スイッチ52aにより位相信号が検出された否か判定し、その判定がNoのうちはS4を繰り返し、その判定がYesになると、S5においてカッターヘッド2の回転を停止し、位相カウンタCを「1」だけインクリメントする(S6)。
【0041】
次に、S7において、ローラーカッター3の刃先の先端位置の測定を行ってその測定データをメモリに格納する。この測定の際には変位センサ41に駆動制御信号を送信して検出ロッド41cを進出動作させ、検出ロッド41cの先端がローラーカッター3の刃先に当接した時の刃先先端位置に関する測定データを送信させる。次に、S8において、予めメモリに格納している初期値(ローラーカッター3が新品の時の刃先の先端位置)と、今回の測定データとに基づいて刃先摩耗量を演算し、回転位相の情報と対応つけてメモリに格納する。
【0042】
次に、S9では、位相カウンタCのカウント値が12より大きいか否か判定し、その判定がNoのときはS10へ移行し、S10においてカッターヘッド2の低速回転を再開させてからS4へ移行し、S4以降を実行するのを繰り返す。S4〜S8を12回繰り返すことで、ローラーカッター3の全周に亙る摩耗量測定データが蓄積され、全周に亙る摩耗量を演算することができる。その後、位相カウンタCのカウント値が12より大きくなった場合にはS9の判定がYesとなるため、S11においてはS8において演算してメモリに格納していた回転位相情報(カウンタCのカウント値)と刃先摩耗量のデータに基づいて、ローラーカッター3の全周に亙る摩耗量を演算する。
【0043】
S12では、ローラーカッター3の全周に亙る摩耗量に基づいて、ローラーカッター3の交換が必要否か判定する。この場合、例えば、ローラーカッター3の軸心から刃先までの平均半径を演算し、その平均半径が所定のしきい値以下である場合には、ローラーカッター3の交換が必要と判定したり、或いは、刃先の摩耗量が所定値以上になっている箇所(回転位相)の数が所定数(例えば、4)以上になっている場合にローラーカッター3の交換が必要と判定したりする。S12の判定がYesの場合には、S13においてローラーカッター3の交換が必要である旨をディスプレイ62や音声を介して報知し、この摩耗量測定制御を終了する。
【0044】
次に、このローラーカッター3の摩耗検知装置の作用、効果について説明する。
カッターヘッド3を回転させながら、原点センサ51の検出信号からローラーカッター3の原点位置を把握し、その後位相センサ52の検出信号を検出する毎にカッターヘッド2の回転を停止させて、摩耗検知手段50によりローラーカッター3の摩耗状態を検知し、摩耗状態の検知後に再度カッターヘッド2を回転させることを繰り返すことにより、ローラーカッター3の全周の回転位相(設定角度おきの複数の回転位相)における刃先の摩耗状態を検知することができる。
【0045】
それ故、ローラーカッター3の刃先が偏摩耗している場合を含めて、ローラーカッター3の摩耗状態を的確に把握して、ローラーカッター3を適切な時期に交換することができ、トンネル掘進機1を効率的に稼動させることができる。
【0046】
原点センサ51が、カッターホルダー23に装備された第1近接スイッチ51aと、この第1近接スイッチ51aに対向可能にローラーカッター3に装備された第1磁石片51bとを有するので、第1近接スイッチ51aによってローラーカッター3の原点の位置を確実に検知することができる。
【0047】
位相センサ52が、カッターホルダー23に装備された第2近接スイッチ52aと、この第2近接スイッチ52aに対向可能にローラーカッター3の全周を複数等分した位置に装備された複数の第2磁石片52bとを有するので、第2近接スイッチ52aによってローラーカッター3の全周を複数等分した位置(複数の回転位相)を確実に検知することができる。
【実施例2】
【0048】
次に、前記実施例1を部分的に変更した実施例2について説明する。
尚、前記実施例1の構成要素と同様の構成要素に同様の符号を付して説明を省略する。
このローラーカッター3の摩耗検知装置は、前記実施例と同様の摩耗検知手段40と位相検知手段50とを有し、カッターヘッド2側に装備された変位センサ41及び第1,第2近接スイッチ51a,52aと、トンネル掘進機本体側に装備された制御ユニット60Aとの間で無線にて通信する無線通信手段70が設けられている。尚、制御ユニット60Aは前記実施例の制御ユニット60と同様のものである。
【0049】
この無線通信手段70は、接続アーム2aの中心部内に配置された通信用制御器71と、ロータリジョント8の筒部材の後端部に付設された送受信機72であって制御ユニット60Aに接続された送受信機72とを備えている。
【0050】
前記変位センサ41や第1,第2近接スイッチ51a,52aに接続された配線は、十文字フレーム2a内に導入されて前記通信用制御器71に接続されている。この通信用制御器71は、変位センサ41や第1,第2近接スイッチ51a,52aからの検出信号をA/D変換するA/D変換器や変位センサ41へ出力する駆動信号を生成する駆動回路等を含む入出力インターフェイスと、コンピュータと、無線通信回路などを備えている。無線通信回路から制御ユニット60Aへの送信信号はロータリジョント8の筒部材内の空間を伝播して送受信機72に送信される。
【0051】
以上のように、前記変位センサ41や第1,第2近接スイッチ51a,52aと、制御ユニット60Aの間で前記無線通信手段70を介してデータの送受信が可能であるため、前記実施例1において採用したロータリコネクタ8aを省略できるから、変位センサ41や第1,第2近接スイッチ51a,52aと制御ユニット60Aとの間で信号を授受する配線系統が非常に簡単になるから、製作費節減を図ることができる。
【0052】
次に、前記実施例を部分的に変更する例について説明する。
1)ローラーカッター3の取り付け構造は
図3、
図4に示す構造に限定されるものではなく、種々のローラーカッター取り付け構造の場合にも本発明を適用可能である。
2)前記変位センサ41は、ローラーカッター3の周回方向の前進側のカッター取付板21aに限らず、追従側のカッター取付板21aに取り付けてもよい。
【0053】
3)第1,第2磁石片51b,52bは、
図3に示す六角部3cの外周近傍の回転側面3eであって、カッター押え29の内側面に接近対向する1対の回転側面3e(
図3参照)に装着してもよい。この場合、第1,第2近接スイッチ51a,52aは前記回転側面3eに対向するように支持部材24とそのカッター押え29に装着してもよい。
【0054】
4)前記変位センサ41として、流体圧シリンダ又は電動アクチュエータにて検出ロッドを進退させ、検出ロッドの移動量を超音波センサ又は種々の変位検出手段等で検出する方式の変位センサを採用してもよい。
5)その他、当業者ならば本発明の趣旨を逸脱することなく、種々の変更を付加した形態で本発明を実施することができる。