(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記酸性基を有するラジカル重合性モノマーが、(メタ)アクリル酸、マレイン酸および無水マレイン酸から選ばれる少なくとも1以上のモノマーである請求項1に記載の水性導電性ペースト。
前記疎水基を有するラジカル重合性モノマーが、(メタ)アクリル酸ステアリル及びジイソブチレンから選ばれる少なくとも1以上のモノマーである請求項1又は2に記載の水性導電性ペースト。
前記アニオン性高分子分散剤が、(メタ)アクリル酸ステアリル/(メタ)アクリル酸共重合体のリチウム塩である請求項1〜3のいずれかの項に記載の水性導電性ペースト。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発者らは、水性導電性ペーストが、下記の炭素材料(成分A)、分散剤(成分B)、水性媒体(成分C)を含むことにより、高導電性と低粘性とを両立できることを見出した。
(成分A):灰分が1質量%以下、体積固有抵抗値が0.2Ωcm以下、BET比表面積が500m
2/g以上2630m
2/g以下の、炭素材料
(成分B):アニオン性高分子分散剤を含む分散剤。アニオン性高分子分散剤は、その原料モノマーが、少なくとも酸性基を有するラジカル重合性モノマーを10質量%以上90質量%以下と疎水基を有するラジカル重合性モノマーを10質量%以上70質量%以下含み、全酸性基のモル数を100モルとした場合の30モル以上100モル以下がリチウムイオンによって中和された、重量平均分子量が5000以上100000以下の高分子の中和物である。
(成分C):水性媒体
【0016】
本発明の効果発現のメカニズムの詳細は不明であるが、以下の様に推定している。
【0017】
例えば、導電性の炭素材料の、灰分が1質量%以下であり、体積固有抵抗値が0.2Ωcm以下であることで、材料固有の導電性が確保され、BET比表面積が500m
2/g以上2630m
2/g以下であることで、炭素材料粒子間の導電パス形成を容易にしていると考えられる。しかし、このようにBET比表面積が大きい炭素材料は、表面の疎水性が高く、強い凝集を起こし、実質的にペーストの原料として使用できない。これに対して、原料モノマーが、少なくとも、酸性基を有するラジカル重合性モノマーを10質量%以上90質量%以下と疎水基を有するラジカル重合性モノマーを10質量%以上70質量%以下含み、原料モノマーの全酸性基のモル数を100モルとした場合の30モル以上100モル以下がリチウムイオンによって中和された、重量平均分子量が5000以上100000以下の、高分子の中和物であるアニオン性高分子分散剤を、前記炭素材料と共存させることで、従来困難であった比表面積が大きい炭素材料の分散性が改善され、更には、水性導電性ペーストの高導電性と低粘性の両立が可能となると考えられる。アニオン性高分子分散剤の一部又は全部を中和しているリチウムイオンは、炭素材料の分散性の向上に寄与するとともに、水性導電性ペーストの導電パス形成にも作用しているものと推測している。但し、これらは推定であって、本発明は、これらメカニズムに限定されない。
【0018】
尚、「原料モノマーが、少なくとも、酸性基を有するラジカル重合性モノマーを10質量%以上90質量%以下と疎水基を有するラジカル重合性モノマーを10質量%以上70質量%以下含み、全酸性基のモル数を100モルとした場合の30モル以上100モル以下がリチウムイオンによって中和された、重量平均分子量が5000以上100000以下の、高分子の中和物」は、原料モノマーを重合させて高分子を得た後、全酸性基の一部又は全部を中和させることにより得られる高分子の中和物であってもよいし、前記原料モノマーが有する酸性基の一部又は全部を中和させてから、原料モノマーを重合させて高分子を得、必要に応じて更に酸性基の一部又は全部を中和させることにより得られる高分子の中和物であってもよい。
【0019】
本発明の水性導電性ペーストは、少なくとも、炭素材料、分散剤、及び水性媒体を含有する。
【0020】
[炭素材料]
前記炭素材料(成分A)において、導電性向上の観点、及び灰分の溶出による副次的なトラブルを起こす可能性を低減する観点から、灰分は1質量%以下であり、炭素の含有比率は、好ましくは99.5%以上、より好ましくは99.8%以上である。炭素材料中の灰分の含有量の測定はJIS K 6218−2に記載の方法により行うことができる。
【0021】
前記炭素材料の体積固有抵抗値は、高導電性と低粘性の両立の観点から、0.2Ωcm以下であり、好ましくは0.15Ωcm以下であり、更に好ましくは0.1Ωcm以下である。尚、炭素材料の体積固有抵抗値は、炭素材料のみを120kg/cm
2の圧力でプレスした際の導電抵抗を測定した値であり、下記の文献に記載された方法により測定することができる。
J. Sanchez-Gonzalez et al. Carbon 43 (2005) p741-747
【0022】
また、数種のカーボンブラックについては、カーボンブラック協会編, カーボンブラック便覧<第三版>, p553に具体的な数値の記載がある。
【0023】
前記炭素材料のBET比表面積は、高導電性と低粘性の両立の観点から、500m
2/g以上2630m
2/g以下であり、好ましくは600m
2/g以上であり、より好ましくは700m
2/g以上であり、また、好ましくは2000m
2/g以下であり、より好ましくは1500m
2/g以下である。炭素材料のBET比表面積は、JIS Z8830及び下記文献に記載の方法により測定できる。
S.BRUNAUER, P.H.EMMETT, E.TELLER, J.Am.Chem.Soc.1938, 60, pp.309-319
【0024】
前記炭素材料(成分A)は、高導電性と低粘性の両立の観点から、灰分、体積固有抵抗値、及びBET比表面積が、各々上記に記載の範囲内の値である、カーボンブラック、黒鉛(グラファイト)、カーボンナノチューブ、及びグラフェン等が挙げられる。これらの炭素材料は、単独、或いは2種以上を混合して使用してもよい。炭素材料(成分A)が、中でも、カーボンブラックの一種であるケッチェンブラックを含んでいると、高導電性と低粘性の両立の観点からから好ましく、ケッチェンブラックのみからなるとより好ましい。
【0025】
[分散剤]
前記分散剤(成分B)は、アニオン性高分子分散剤を主成分として含み、当該アニオン性高分子分散剤は、アニオン性高分子分散剤の製造に用いる全原料モノマー量を100質量%とすると、原料モノマーが、少なくとも、酸性基を有するラジカル重合性モノマーを10質量%以上90質量%以下と疎水基を有するラジカル重合性モノマーを10質量%以上70質量%以下含み、酸性基の対イオンのうちの30モル%以上100モル%以下がリチウムイオンであり、重量平均分子量が5000以上100000以下の高分子の中和物である。分散剤の主成分が前記アニオン性高分子分散剤であれば、他の分散剤が併用されてもよいが、分散剤中のアニオン性高分子分散剤の含有割合は、高導電性と低粘性の両立の観点から、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、更に好ましくは実質的に100質量%であり、更により好ましくは100質量%である。
【0026】
前記分散剤(成分B)に含まれる、前記他の分散剤としては、ノニオン性高分子分散剤、カチオン性高分子分散剤、両性高分子分散剤、低分子界面活性剤等が挙げられる。
【0027】
前記アニオン性高分子分散剤の重量平均分子量は、高導電性と低粘性の両立の観点から、5000以上100000以下であり、好ましくは8000以上、より好ましくは10000以上、更に好ましくは15000以上であり、好ましくは80000以下、より好ましくは60000以下、更に好ましくは50000以下である。尚、アニオン性高分子分散剤の重量平均分子量の測定方法は、実施例に記載の通りである。
【0028】
前記アニオン性高分子分散剤は、高導電性と低粘性の両立の観点から、その原料モノマーが酸性基を有するラジカル重合性モノマーを10質量%以上90質量%以下含み、好ましくは30質量%以上、より好ましくは45質量%以上、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下含む高分子の中和物である。
【0029】
酸性基を有するラジカル重合性モノマーは、カルボン酸、スルホン酸等の酸性基を有する不飽和モノマーであって、中和前の形態として酸無水物や酸ハロゲン化物も含まれる。カルボン酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、及びその無水物、ハロゲン化物、ハーフエステルやハーフアミド等が挙げられる。スルホン酸モノマーとしては、アリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。これらの酸性基を有するラジカル重合性モノマー中でも、高導電性と低粘性の両立の観点から、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、及び無水マレイン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーが好ましい。これらのモノマーは、予め一部又は全部の酸性基が中和されていてもよく、未中和のモノマーを用いて重合を行い、得られた高分子の酸性基の一部又は全部を中和してもよい。
【0030】
前記アニオン性高分子分散剤は、高導電性と低粘性の両立の観点から、その原料モノマーが疎水基を有するラジカル重合性モノマーを10質量%以上70質量%以下含み、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上であり、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下含む高分子の中和物である。また、疎水基を有するラジカル重合性モノマーは、20℃の水100gに3g以下、好ましくは1g以下の溶解度を示すモノマーである。
【0031】
疎水基を有するラジカル重合性モノマーとは、炭素−炭素不飽和結合とアルキル基、アルケニル基、アリール基等の疎水性官能基とを一分子内に有する化合物であり、具体的には、アルキル基、アルケニル基、アリール基等の疎水性官能基を有する、(メタ)アクリル酸エステル、ビニルエーテル、不飽和二塩基酸ジエステル、ビニルエステル及びアリルエステル、更にには、スチレン類、オレフィン類が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソステアリル、(メタ)アクリル酸ベヘニル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。不飽和二塩基酸ジエステルとしては、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、マレイン酸ビス(2−エチルヘキシル)、マレイン酸ジオクチル、マレイン酸ジラウリル、マレイン酸ジステアリル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジブチル、イタコン酸ビス(2−エチルヘキシル)、イタコン酸ジラウリル、イタコン酸ジステアリル等が挙げられる。ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、2−エチルヘキサン酸ビニル、安息香酸ビニル等が挙げられる。アリルエステルとしては、酢酸アリル、酪酸アリル、プロピオン酸アリル、2−エチルヘキサン酸アリル、ラウリン酸アリル、ステアリン酸アリル等が挙げられる。スチレン類としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン等が挙げられる。オレフィン類としては、α−オレフィンが好ましく、分岐α−オレフィンとして、イソブチレン、ジイソブチレン等が、直鎖α−オレフィンとして、1−ブテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。これらの疎水基を有するラジカル重合性モノマーの中でも、高導電性と低粘性の両立の観点から、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベンジル、スチレン、イソブチレン、ジイソブチレン、1−オクタデセン、及び1−エイコセンからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーが好ましく、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、及びジイソブチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、(メタ)アクリル酸ステアリル及びジイソブチレンから選ばれる少なくとも1種が更に好ましい。
【0032】
前記アニオン性高分子分散剤において、高導電性と低粘性の両立の観点から、前記高分子の全酸性基のモル数を100モルとした場合の30モル以上100モル以下が対イオンであるリチウムイオンによって中和されているが、好ましくは40モル以上、より好ましくは50モル以上がリチウムイオンによって中和されている。全酸性基のうちのリチウムイオンを対イオンとしていない酸性基は、未中和であるか、又は、他の陽イオンを対イオンとしている。他の陽イオンとしては、アンモニウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、又はアルミニウムイオン等が挙げられるが、アンモニウムイオン、又はナトリウムイオンが好ましい。
【0033】
酸性基は、モノマーの時点で中和されていてもよく、重合後に中和してもよいし、或いは重合後に、他の中和剤で酸性基の一部又は全部を中和した後にリチウムイオンによるイオン置換を行ってもよい。生産性向上の観点から、重合後に酸性基をリチウム化合物で中和するか、或いは重合後に他の中和剤で酸性基の一部又は全部を中和した後にリチウムイオンによるイオン置換を行う方法が好ましい。
【0034】
酸性基を有するラジカル重合性モノマーと疎水基を有するラジカル重合性モノマーの組み合わせとしては、高導電性と低粘性の両立の観点から、好ましくは(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸ステアリル、マレイン酸とジイソブチレン、又は無水マレイン酸とジイソブチレンであり、より好ましくはマレイン酸とジイソブチレン又は無水マレイン酸とジイソブチレンである。
【0035】
アニオン性高分子分散剤は、用途に応じた機能を付与する観点から、前記酸性基を有するラジカル重合性モノマー及び疎水基を有するラジカル重合性モノマー以外のモノマー(以下、その他のモノマー)に由来の構成単位を含んでいてもよいが、高導電性と低粘性の両立の観点から、アニオン性高分子分散剤の全構成単位は、前記酸性基を有するラジカル重合性モノマーに由来の構成単位と、前記疎水基を有するラジカル重合性モノマーに由来する構成単位のみからなると好ましい。
【0036】
前記その他のモノマーとしては、下記(1)〜(6)に列挙したモノマーから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0037】
(1)(メタ)アクリルアミド類、
(メタ)アクリルアミド類は、窒素原子に水素、アルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、ベンジル基等が直接結合している(メタ)アクリルアミドであって、具体的には、(メタ)アクリルアミド、エチル(メタ)アクリルアミド、イソプロピル(メタ)アクリルアミド、t−ブチル(メタ)アクリルアミド、ドデシル(メタ)アクリルアミド、オクタデシル(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジエチル(メタ)アクリルアミド、ジブチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドが挙げられ、(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミドが好ましい。これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0038】
(2)ノニオン基含有モノマー、
ノニオン基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、(メタ)アクリル酸ポリアルキレングリコールエステル、ポリアルキレングリコールビニルエーテルが挙げられ、具体的には、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、及び下記化学式(1)で表される(メタ)アクリル酸ポリアルキレングリコールモノエステルが挙げられる。
CH
2=C(R
1)COO(R
2O)
pR
3 (1)
但し、前記化学式(1)中、R
1は水素原子又はメチル基を示し、R
2はヘテロ原子を有していてもよい炭素数1以上6以下の2価の炭化水素基を示し、R
3はヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜22の1価の炭化水素基を示し、
pは平均付加モル数を示し、1以上100以下、好ましくは1〜60の数である。上記ノニオン基含有モノマーの中でも、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルおよび下記化学式(2)で表される(メタ)アクリル酸ポリアルキレングリコールモノエステルが好ましい。
CH
2=C(R
4)COO(R
5O)
pR
6 (2)
但し、前記化学式(2)中、R
4は水素原子又はメチル基を示し、R
5はエチレン基又はプロピレン基を示し、R
6は炭素数1〜4の1価の炭化水素基を示し、
pは平均付加モル数を示し、1以上100以下、好ましくは1以上60以下の数である。これらのノニオン基含有モノマーは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0039】
(3)カチオン性モノマー
カチオン性モノマーとは、分子内にアンモニウム基を有するモノマーであって、(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルの中和塩及び4級化物、ジアリルジメチルアンモニウム塩、アリルアミンの中和塩及び4級化物が挙げられる。具体的には、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノプロピルのメチルハライド4級化物やベンジルハライド4級化物、ジアリルジメチルアンモニウムハライド、アリルジメチルアミンのメチルハライド4級化物やベンジルハライド4級化物が挙げられ、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルのメチルクロリド4級化物及びジアリルジメチルアンモニウムクロリドが好ましい。これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0040】
(4)不飽和ニトリル類
不飽和ニトリル類とは、一分子中に、炭素−炭素不飽和結合とニトリル基を有する化合物であり、(メタ)アクリロニトリル、シアノ酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸シアノエチル等が挙げられ、好ましくは(メタ)アクリロニトリルである。
【0041】
本発明のアニオン性高分子分散剤は、架橋構造や、ブロック構造を有してもよい。従って、前記その他のモノマーとして、以下の(5)、(6)のモノマーに由来する構成単位を有していてもよい。
【0042】
(5)架橋性モノマー
架橋性モノマーとは、一分子中に少なくとも2以上の炭素−炭素不飽和結合を有する化合物であり、好ましくは、ジビニル化合物、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ビス(メタ)アクリルアミドが挙げられる。具体的には、ジビニル化合物としては、ジビニルベンゼン、アジピン酸ジビニル、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、ポリエチレングリコールジビニルエーテルが挙げられ、ジビニルベンゼン、ジエチレングリコールジビニルエーテル、ポリエチレングリコールジビニルエーテルが好ましい。ポリ(メタ)アクリル酸エステルとしては、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸−1,4−ブタンジオール、ジ(メタ)アクリル酸−1,5−ペンタンジオール、ジ(メタ)アクリル酸−1,6−ヘキサンジオール、ジ(メタ)アクリル酸−1,4−フェニレン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートが挙げられ、ジ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールが好ましい。ビス(メタ)アクリルアミドとしては、ビス(メタ)アクリルアミド、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレンビス(メタ)アクリルアミド、ヘキサメチレンビス(メタ)アクリルアミドが挙げられ、メチレンビス(メタ)アクリルアミドが好ましい。これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0043】
(6)マクロモノマー
マクロモノマーとは、ラジカル重合性モノマーを重合して分子量1000〜100000としたポリマーの一末端に炭素−炭素不飽和結合を付与した反応性のポリマーであり、他のモノマーとの共重合によりグラフトポリマーを得ることができる。マクロモノマーとしては、ポリスチレンマクロマー、ポリ(メタ)アクリル酸エステルマクロマー、ポリシリコンマクロマーが挙げられる。ポリ(メタ)アクリル酸エステルマクロマーとしては、ポリ(メタ)アクリル酸メチルマクロマー、ポリ(メタ)アクリル酸ブチルマクロマー、ポリ(メタ)アクリル酸ベンジルマクロマーが挙げられる。中でも、ポリスチレンマクロマー、ポリ(メタ)アクリル酸メチルマクロマー、ポリ(メタ)アクリル酸ベンジルマクロマーが好ましい。マクロマーを構成するポリマーの分子量としては、2000以上が好ましく、3000以上がより好ましい。また、50000以下が好ましく、20000以下がより好ましく、10000以下が更に好ましい。
【0044】
[アニオン性高分子分散剤の製法]
前記アニオン性高分子分散剤の製造は、例えば、以下の方法で行うことができる。
【0045】
前記アニオン性高分子分散剤の製造に用いる全原料モノマー量を100質量%とすると、全原料モノマー中、前記酸性基を有するラジカル重合性モノマーが10質量%以上90質量%以下含まれ、疎水基を有するラジカル重合性モノマーが10質量%以上70質量%以下含まれる。
【0046】
前記アニオン性高分子分散剤の製造は、特に限定されないが、以下の沈殿重合法で行うことが好ましい。沈殿重合法では、溶媒とモノマー混合物及び必要に応じて重合開始剤等の成分を含有する液を加熱及び攪拌しながら、前記液に開始剤及び必要に応じてモノマー等の混合物を滴下して重合する。
【0047】
重合の際に使用される重合開始剤としては、公知のラジカル重合開始剤を用いることができ、例えば、アゾ系重合開始剤、ヒドロ過酸化物類、過酸化ジアルキル類、過酸化ジアシル類、ケトンぺルオキシド、無機過酸化物類等が挙げられる。
【0048】
重合開始剤の使用量は、原料モノマー全量を100モルとした場合、好ましくは0.01モル以上5モル以下、より好ましくは0.01以上3モル以下、更に好ましくは0.01以上1モル以下である。重合反応は、窒素気流下、30〜180℃の温度範囲で行うのが好ましく、反応時間は0.5〜20時間が好ましい。
【0049】
重合の際には、さらに連鎖移動剤を添加してもよい。連鎖移動剤の具体例としては、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、メルカプトエタノール、3−メルカプト−1,2−プロパンジオール、メルカプトプロピオン酸、メルカプトコハク酸等のメルカプタン類;チウラムジスルフィド類;不飽和ヘテロ環状化合物等が挙げられ、これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0050】
重合に使用される媒体が水性媒体ではない場合、重合後、溶媒置換や溶媒除去を行うと好ましい。また、水性媒体であっても精製や媒体組成の変更を目的として溶媒置換や溶媒除去を行ってもよい。溶媒置換や溶媒除去の方法は、加熱、減圧等により溶媒を留去するか、重合後の溶液を共重合体の貧溶媒に滴下して沈殿を回収する方法が一般的である。
【0051】
原料モノマーの重合により得られた高分子の未中和物の酸性基の一部又は全部は、水酸化リチウム等のリチウム化合物の添加により中和され、アニオン性高分子分散剤の水溶液又は水分散液(以下、アニオン性高分子分散剤組成物、或いは単に分散剤組成物と略する場合がある)が得られる。
【0052】
前記分散剤組成物の製造方法の一例は、前記高分子の未中和物及び水を含有する組成物と、リチウム化合物を含む中和剤とを混合して、重量平均分子量が5000以上100000以下であり、原料モノマーの全酸性基のモル数を100モルとした場合の30モル以上100モル以下がリチウムイオンによって中和された前記アニオン性高分子分散剤組成物を得る中和工程を含む。
【0053】
前記中和工程における前記高分子の未中和物及び水を含有する組成物の固形分の濃度は、分散剤組成物の収率向上の観点から、20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましく、30質量%以上が更に好ましい。また、増粘の抑制による攪拌性向上の観点から、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下が更に好ましい。
【0054】
前記リチウム化合物としては、水中にリチウムイオンを放出する化合物が好ましく、水酸化リチウム、リチウムアルコキシド、金属リチウム、水素化リチウム、アルキルリチウム、或いは、ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム等のリチウム金属酸化物、或いは、ヘキサフルオロリン酸リチウム、リン酸鉄リチウム等のリチウムリン酸塩等が挙げられる。これらの中でも、取り扱いおよび効率よく前記高分子のリチウム塩を製造する観点から水酸化リチウムが好ましい。
【0055】
前記中和工程におけるリチウム化合物の使用量は、分散性に優れる分散剤組成物を製造する観点から、前記高分子の未中和物に含まれる酸性基100molに対し、30mol以上が好ましく、40mol以上がより好ましく、50mol以上が更に好ましく、70mol以上がより更に好ましい。また、分散性に優れる分散剤組成物を製造する観点から、150mol以下が好ましく、130mol以下がより好ましく、110mol以下が更に好ましい。
【0056】
リチウム化合物は、取扱い容易性の観点から、水溶液として用いることが好ましい。リチウム化合物を水溶液として用いる場合、前記水溶液におけるリチウム化合物と水との質量比(水酸化リチウム/水)は、分散剤組成物の収率及び作業性の向上の観点から、2/98以上が好ましく、3/97以上がより好ましく、5/95以上が更に好ましく、8/92以上が更により好ましい。
【0057】
更に、前記中和剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で、リチウム化合物以外の成分を含有してもよい。前記中和剤におけるリチウム化合物の含有量は、分散剤組成物を効率よく製造できる観点及び分散性に優れる分散剤組成物を製造する観点から、30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましく、90質量%以上が更により好ましく、100質量%が特に好ましい。
【0058】
前記高分子の未中和物及び水を含有する組成物とリチウム化合物を含む中和剤との混合方法は、特に限定されないが、分散剤組成物の製造の容易性の観点から、前記高分子の未中和物及び水を含有する組成物を攪拌しながら、中和剤を加える方法が好ましく、徐々に添加する方法が更に好ましい。中和剤を滴下する場合、滴下に要する時間は、高分子の未中和物の凝集や反応槽への付着を抑制する観点から、0.5時間以上が好ましい。また、前記滴下に要する時間は、分散剤組成物を効率よく製造できる観点から、3時間以下が好ましい。
【0059】
前記中和工程における前記高分子の未中和物及び水を含有する組成物の温度は、中和を均一に進行させる観点及び中和速度向上の観点から、20℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましい。また、水の蒸発を抑制する観点から、90℃以下が好ましく、85℃以下がより好ましく、80℃以下が更に好ましい。
【0060】
原料モノマーの重合により得られた高分子の未中和物の酸性基の一部又は全部を中和する中和工程において、高分子の未中和物が凝集し、直接リチウム塩を得ることが困難な場合は、中和工程を2段階で実施することができる。
【0061】
すなわち、分散剤組成物の製造方法の一例は、下記の中和工程1と中和工程2とを含む。
(中和工程1):酸性基を有するラジカル重合性モノマーと疎水基を有するラジカル重合性モノマーとを含む原料モノマーを重合させて得た高分子と水とを含有する組成物と、アミン型中和剤を含む第1の中和剤とを混合する工程
(中和工程2):前記高分子と第1の中和剤との混合物と、リチウム化合物を含む第2の中和剤とを混合して、重量平均分子量が5000以上100000以下であり、原料モノマーの全酸性基のモル数を100モルとした場合の30モル以上100モル以下がリチウムイオンによって中和された前記アニオン性高分子分散剤組成物を得る工程
【0062】
[中和工程1]
中和工程1では、原料モノマーを重合して得た高分子の未中和物と水とを含有する組成物と、アミン系中和剤を含む第1中和剤とを混合する。中和作業の容易さの観点から、予め高分子の未中和物に水を混合しておいてもよい。
【0063】
アミン系中和剤としては、取扱いの容易性の観点、アニオン性高分子分散剤の製造容易性の観点及び分散性に優れる分散剤組成物を製造する観点から、アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン及びトリイソプロパノールアミンが好ましく、アンモニア及びトリエタノールアミンが更に好ましく、アンモニアが特に好ましい。
【0064】
中和工程1におけるアミン系中和剤の使用量は、中和工程における高分子の未中和物の凝集を抑制する観点及び分散性に優れる分散剤組成物を製造する観点から、前記高分子の未中和物に含まれる酸性基100molに対し、0.5mol以上が好ましく、1mol以上がより好ましく、2mol以上が更に好ましく、2.5mol以上がより更に好ましい。また、中和工程における高分子の未中和物の凝集を抑制する観点及び分散性に優れる分散剤組成物を製造する観点から、70mol以下が好ましく、50mol以下がより好ましく、30mol以下が更に好ましい。
【0065】
アミン系中和剤は、水溶液として用いてもよい。アミン系中和剤の沸点が100℃より低い場合、取扱い容易性の観点から、アミン系中和剤は水溶液として用いることが好ましい。アミン系中和剤を水溶液として用いる場合、前記水溶液におけるアミン系中和剤と水との質量比(アミン系中和剤/水)は、分散剤組成物の収率向上の観点から、10/90以上が好ましく、20/80以上がより好ましい。また、第1の中和剤の取扱い容易性の観点から、40/60以下が好ましく、30/70以下がより好ましい。尚、水溶液を構成する水はイオン交換水であると好ましい。
【0066】
中和工程1における高分子の未中和物と水とを含有する組成物とアミン系中和剤との混合方法は、特に限定されないが、分散剤組成物の製造の容易性の観点から、高分子の未中和物及び水を含有する組成物を攪拌しながらアミン系中和剤を加える方法が好ましい。また、アミン系中和剤は、一度に加えても徐々に加えても良い。アミン系中和剤を添加してから下記リチウム化合物を添加するまでの時間は、中和を均一に進行させる観点及び中和速度向上の観点から、5分以上が好ましい。また、分散剤組成物を効率よく製造する観点から、30分以下が好ましい。
【0067】
中和工程1における前記高分子の未中和物及び水を含有する組成物の温度は、中和を均一に進行させる観点及び中和速度向上の観点から、50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、70℃以上が更に好ましい。また、前記高分子の未中和物及び水を含有する組成物の泡立ちを抑制して攪拌性を向上する観点並びに第1の中和剤の揮発及び水の蒸発を抑制する観点から、90℃以下が好ましく、85℃以下がより好ましく、80℃以下が更に好ましい。
【0068】
中和工程1における前記高分子の未中和物及び水を含有する組成物の固形分の濃度は、分散剤組成物の収率向上の観点から、20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましく、30質量%以上が更に好ましい。また、増粘の抑制による攪拌性向上の観点から、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下が更に好ましい。
【0069】
[中和工程2]
中和工程2では、中和工程1で得た前記高分子の未中和物とアミン系中和剤との混合物と、リチウム化合物を含む第2の中和剤とを混合する。
【0070】
前記リチウム化合物としては、水中にリチウムイオンを放出する化合物が好ましく、水酸化リチウム、金属リチウム、水素化リチウム、アルキルリチウム、或いは、ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウムなどのリチウム金属酸化物、或いは、ヘキサフルオロリン酸リチウム、リン酸鉄リチウムなどのリチウムリン酸塩などが挙げられる。取り扱いおよび効率よく前記高分子のリチウム塩を製造する観点から水酸化リチウムが好ましい。
【0071】
中和工程2におけるリチウム化合物の使用量は、分散性に優れる分散剤組成物を製造する観点から、前記高分子の未中和物に含まれる酸性基100molに対し、30mol以上が好ましく、40mol以上がより好ましく、50mol以上が更に好ましく、70mol以上がより更に好ましい。また、分散性に優れる分散剤組成物を製造する観点から、150mol以下が好ましく、125mol以下がより好ましく、115mol以下が更に好ましい。
【0072】
中和工程1におけるアミン系中和剤の使用量と、中和工程2で使用するリチウム化合物の使用量の合計は、中和工程における高分子の未中和物の凝集を抑制する観点及び分散性に優れる分散剤組成物を製造する観点から、前記高分子の未中和物に含まれる酸性基100molに対し、30mol以上が好ましく、40mol以上がより好ましく、50mol以上が更に好ましく、70mol以上が更により好ましい。また、中和工程1におけるアミン系中和剤の使用量と、中和工程2におけるリチウム化合物の使用量の合計は、中和工程における高分子の未中和物の凝集を抑制する観点、分散性に優れる分散剤組成物を製造する観点、及びアミン系中和剤に由来する臭いを抑制する観点から、150mol以下が好ましく、130mol以下がより好ましく、110mol以下が更に好ましい。
【0073】
リチウム化合物は、取扱い容易性の観点から、水溶液として用いることが好ましい。リチウム化合物を水溶液として用いる場合、前記水溶液におけるリチウム化合物と水との質量比(リチウム化合物/水)は、分散剤組成物の収率向上および作業性の観点から、2/98以上が好ましく、3/97以上がより好ましく、5/95以上が更に好ましく、8/92以上がより更に好ましい。
【0074】
更に、第2の中和剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で、リチウム化合物以外の成分を含有してもよい。第2の中和剤におけるリチウム化合物の含有量は、分散剤組成物を効率よく製造できる観点及び分散性に優れる分散剤組成物を製造する観点から、30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましく、90質量%が更により好ましく、100質量%が特に好ましい。
【0075】
中和工程2における中和工程1で得られた混合物とリチウム化合物との混合方法は、特に限定されないが、分散剤組成物の製造の容易性の観点から、中和工程1で得られた混合物を攪拌しながら、リチウム化合物水溶液を、前記混合物中に加える方法が好ましく、滴下する方法が更に好ましい。リチウム化合物水溶液を滴下する時間は、高分子の未中和物の凝集や反応槽への付着を抑制する観点から、0.5時間以上が好ましい。また、リチウム化合物水溶液を滴下する時間は、分散剤組成物を効率よく製造できる観点から、3時間以下が好ましい。
【0076】
中和工程2における中和工程1で得られた混合物の温度は、中和を均一に進行させる観点及び中和速度向上の観点から、50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、70℃以上が更に好ましい。また、中和工程1で得られた混合物の泡立ちを抑制して攪拌性を向上する観点及び水の蒸発を抑制する観点から、90℃以下が好ましく、85℃以下がより好ましく、80℃以下が更に好ましい。
【0077】
前記高分子の未中和物の酸性基の一部又は全部のリチウム化合物による中和は、炭素材料との混合前、混合中、混合後のいずれか、或いは混合前、混合中、及び混合後のうちの2つ以上の段階で実施してもよく、例えば、炭素材料との混合前に酸性基の一部の中和を行い、炭素材料との混合中に酸性基の他の一部の中和を実施してもよい。高導電性と低粘性の両立の観点から、酸性基の中和は、炭素材料との混合前或いは混合中に実施することが好ましく、混合前に実施することがより好ましい。即ち、本発明の水性導電性ペーストの製造方法の一例では、炭素材料と、原料モノマーが、少なくとも酸性基を有するラジカル重合性モノマーを10質量%以上90質量%以下と疎水基を有するラジカル重合性モノマーを10質量%以上70質量%以下含み、全酸性基のモル数を100モルとした場合の30モル以上100モル以下がリチウムイオンによって中和され、重量平均分子量が5000以上100000以下の、高分子の中和物であるアニオン性高分子分散剤と、前記水性媒体とを混合する工程を含んでいてもよいし、前記炭素材料と、前記高分子の未中和物又は前記酸性基の一部がリチウムイオンによって中和された前記高分子の中和物と、前記水性媒体とを、混合しながら又はこれらの混合後に、前記酸性基をリチウムイオンによって中和して、前記炭素材料と前記アニオン性高分子分散剤と前記水性媒体とを含む混合液を得る工程を含んでいてもよい。
【0078】
[水性媒体]
水性媒体(成分C)は、水に均一混和する有機溶媒を含んでいてもよいが、高導電性と低粘性の両立の観点から、水性媒体(成分C)中の水の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、更により好ましくは実質的100質量%、特に好ましくは100質量%である。
【0079】
水に均一混和する前記有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、アセトン、2−ブタノン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、N−メチルピロリドン、又は2−ピロリドン等が挙げられるが、好ましくはエタノール、2−プロパノール、アセトン、2−ブタノン、又はN−メチルピロリドンである。
【0080】
[水性導電性ペースト]
本発明の水性導電性ペースト中の炭素材料の含有量は、高導電性と低粘性の両立の観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上であり、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
【0081】
本発明の水性導電性ペーストの粘度は、高導電性と低粘性の両立の観点から、回転粘度計(25℃)で測定して、好ましくは1mPa・s以上であり、より好ましくは2mPa・s以上であり、更に好ましくは5mPa・s以上であり、好ましくは1000000mPa・s以下であり、より好ましくは100000mPa・s以下であり、更に好ましくは10000mPa・s以下である。
【0082】
また、粘度を相対的に評価する基準として、例えば炭素材料(成分A)を10%含有するように調整された水性導電性ペーストの粘度は、高導電性と低粘性の両立の観点から、好ましくは1mPa・s以上であり、より好ましくは2mPa・s以上であり、更に好ましくは5mPa・s以上であり、好ましくは1000mPa・s以下であり、より好ましくは500mPa・s以下であり、更に好ましくは200mPa・s以下である。
【0083】
本発明の水性導電性ペーストにおける前記分散剤組成物の含有量は、前記炭素材料100質量部に対し、分散剤組成物の固形分換算で0.1質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、2質量部以上がさらに好ましい。また、高導電性と低粘性の両立の観点から、前記炭素材料100質量部に対し、分散剤組成物の固形分換算で100質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましい。
【0084】
本発明の水性導電性ペーストは、炭素材料、分散剤、及び水性媒体以外に、必要に応じて、無機フィラー、バインダー樹脂、活物質、粘性調整剤、その他の添加剤等を含む。
【0085】
前記無機フィラーとしては、高導電性と低粘性の両立を大きく妨げないものであれば、その種類について特に制限はなく、例えば、シリカ、マイカ、金属酸化物、金属ハロゲン化物の他、前記炭素材料以外の炭素材料であってもよい。
【0086】
前記バインダー樹脂としては、SBR樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、エチレン樹脂、又はPET樹脂等が挙げられる。
【0087】
前記活物質としては、コバルト、ニッケル、マンガン等を含む金属酸リチウム、酸化マンガン等が挙げられる。
【0088】
本発明の水性導電性ペーストは、公知の分散方法により製造できる。炭素材料等の成分の分散に用いる分散機としては、ロールミル、ニーダー、エクストルーダ等の混練機、ディスパー、ホモミキサー、ジェットミル、サンドミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー等が挙げられる。
【0089】
各成分の混合順序は特に制限がなく、炭素材料と分散剤組成物と水性媒体を一括して混合してもよいし、炭素材料と水性媒体の混練物に分散剤組成物を徐々に添加する方法でもよい。また、分散剤組成物や水性媒体を炭素材料に対して分割して添加する方法でもよい。
【0090】
本発明の水性導電性ペーストは、炭素材料の分散性が良いため塗工性に優れているが、本発明の水性導電性ペーストは、従来の水性導電性ペーストよりも炭素材料の分散性が良く低粘度であるため、場合によっては、水性導電性ペーストの製造過程で、水性導電性ペーストの全成分又は一部の成分を混合して得たペーストをろ過して、粗大粒子を除去することも可能である。故に、本発明の水性導電性ペーストを用いれば、より一層高い塗工性を可能とし、ハンドリング性、及び導電膜の製造効率も向上する。
【0091】
粗大粒子の除去は、例えば、前記ペーストをストレーナーに通過させることで行え、ストレーナーの目開きは、塗工性の向上の観点から、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下であり、生産性の観点から、好ましくは10μm以上、より好ましくは30μm以上である。
【0092】
本発明は、さらに以下<1>〜<28>を開示する。
【0093】
<1> 炭素材料、分散剤、水性媒体を含有し、
前記炭素材料の、灰分が1%質量以下、体積固有抵抗値が0.2Ωcm以下、BET比表面積が500m
2/g以上2630m
2/g以下であり、
前記分散剤は、アニオン性高分子分散剤を含み、
前記アニオン性高分子分散剤は、その原料モノマーが、少なくとも、酸性基を有するラジカル重合性モノマーを10質量%以上90質量%以下と疎水基を有するラジカル重合性モノマーを10質量%以上70質量%以下含み、全酸性基のモル数を100モルとした場合の30モル以上100モル以下がリチウムイオンによって中和された、重量平均分子量が5000以上100000以下の、高分子の中和物である、水性導電性ペースト。
<2> 前記アニオン性高分子分散剤の重量平均分子量が、好ましくは8000以上、より好ましくは10000以上、更に好ましくは15000以上であり、好ましくは80000以下、より好ましくは60000以下、更に好ましくは50000以下である前記<1>に記載の水性導電性ペースト。
<3> 前記原料モノマーが、酸性基を有するラジカル重合性モノマーを、好ましくは30質量%以上、より好ましくは45質量%以上、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下含む、前記<1>又は<2>に記載の水性導電性ペースト。
<4> 前記酸性基を有するラジカル重合性モノマーの酸性基が、カルボン酸基又はスルホン酸基である、前記<1>〜<3>のいずれかに記載の水性導電性ペースト。
<5> 前記酸性基を有するラジカル重合性モノマーが、(メタ)アクリル酸、マレイン酸及び無水マレイン酸から選ばれる少なくとも1以上のモノマーである、前記<1>〜<4>のいずれかに記載の水性導電性ペースト。
<6> 前記原料モノマーが、疎水基を有するラジカル重合性モノマーを、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上であり、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下含む、前記<1>〜<5>のいずれかに記載の水性導電性ペースト。
<7> 前記疎水基を有するラジカル重合性モノマーは、好ましくは(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベンジル、スチレン、イソブチレン、ジイソブチレン、1−オクタデセン、及び1−エイコセンからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーであり、より好ましくは(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、及びジイソブチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーであり、更に好ましくは(メタ)アクリル酸ステアリル及びジイソブチレンから選ばれる少なくとも1以上のモノマーである、前記<1>〜<6>のいずれかに記載の水性導電性ペースト。
<8> 前記全酸性基のモル数を100モルとした場合の好ましくは40モル以上、より好ましくは50モル以上がリチウムイオンによって中和されている、前記<1>〜<7>のいずれかに記載の水性導電性ペースト。
<9> 前記酸性基を有するラジカル重合性モノマーと前記疎水基を有するラジカル重合性モノマーの組み合わせは、好ましくは(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸ステアリル、マレイン酸とジイソブチレン、又は無水マレイン酸とジイソブチレンであり、より好ましくはマレイン酸とジイソブチレン、又は無水マレイン酸とジイソブチレンである、前記<1>〜<8>のいずれかに記載の水性導電性ペースト。
<10> 前記アニオン性高分子分散剤が、ジイソブチレン/無水マレイン酸共重合体のリチウム塩である前記<1>〜<8>のいずれかに記載の水性導電性ペースト。
<11> 前記アニオン性高分子分散剤が、(メタ)アクリル酸ステアリル/(メタ)アクリル酸共重合体のリチウム塩である前記<1>〜<8>のいずれかに記載の水性導電性ペースト。
<12> 前記炭素材料がケッチェンブラックである、前記<1>〜<11>のいずれかに記載の水性導電性ペースト。
<13>前記水性媒体中の水の含有量が、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、更により好ましくは実質的100質量%、特に好ましくは100質量%である、前記<1>〜<12>のいずれかに記載の水性導電性ペースト。
<14>
前記<1>〜<13>のいずれかにに記載の水性導電性ペーストの製造方法であって、
灰分が1質量%以下、体積固有抵抗値が0.2Ωcm以下、BET比表面積が500m
2/g以上2630m
2/g以下の炭素材料と、原料モノマーが、少なくとも酸性基を有するラジカル重合性モノマーを10質量%以上90質量%以下と疎水基を有するラジカル重合性モノマーを10質量%以上70質量%以下含み、全酸性基のモル数を100モルとした場合の30モル以上100モル以下がリチウムイオンによって中和され、重量平均分子量が5000以上100000以下の、高分子の中和物であるアニオン性高分子分散剤と、前記水性媒体とを混合する工程、又は、
前記炭素材料と、前記高分子の未中和物又は前記酸性基の一部がリチウムイオンによって中和された前記高分子の中和物と、前記水性媒体とを、混合しながら又はこれらの混合後に、前記酸性基をリチウムイオンによって中和して、前記炭素材料と前記アニオン性高分子分散剤と前記水性媒体とを含む混合液を得る工程を含む、水性導電性ペーストの製造方法。
<15> 前記アニオン性高分子分散剤の重量平均分子量が、好ましくは8000以上、より好ましくは10000以上、更に好ましくは15000以上であり、好ましくは80000以下、より好ましくは60000以下、更に好ましくは50000以下である前記<14>に記載の水性導電性ペーストの製造方法。
<16> 前記原料モノマーが、酸性基を有するラジカル重合性モノマーを、好ましくは30質量%以上、より好ましくは45質量%以上、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下含む、前記<14>又は<15>に記載の水性導電性ペーストの製造方法。
<17> 前記酸性基を有するラジカル重合性モノマーの酸性基が、カルボン酸基又はスルホン酸基である、前記<14>〜<16>のいずれかに記載の水性導電性ペーストの製造方法。
<18> 前記酸性基を有するラジカル重合性モノマーが、(メタ)アクリル酸、マレイン酸及び無水マレイン酸から選ばれる少なくとも1以上のモノマーである、前記<14>〜<17>のいずれかに記載の水性導電性ペーストの製造方法。
<19> 前記原料モノマーが、疎水基を有するラジカル重合性モノマーを、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上であり、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下含む、前記<14>〜<18>のいずれかに記載の水性導電性ペーストの製造方法。
<20> 前記疎水基を有するラジカル重合性モノマーは、好ましくは(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベンジル、スチレン、イソブチレン、ジイソブチレン、1−オクタデセン、及び1−エイコセンからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーであり、より好ましくは(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、及びジイソブチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーであり、更に好ましくは(メタ)アクリル酸ステアリル及びジイソブチレンから選ばれる少なくとも1以上のモノマーである、前記<14>〜<19>のいずれかに記載の水性導電性ペーストの製造方法。
<21> 前記全酸性基のモル数を100モルとした場合の好ましくは40モル以上、より好ましくは50モル以上がリチウムイオンによって中和されている、前記<14>〜<20>のいずれかに記載の水性導電性ペーストの製造方法。
<22> 前記酸性基を有するラジカル重合性モノマーと前記疎水基を有するラジカル重合性モノマーの組み合わせは、好ましくは(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸ステアリル、マレイン酸とジイソブチレン、又は無水マレイン酸とジイソブチレンであり、より好ましくはマレイン酸とジイソブチレン又は無水マレイン酸とジイソブチレンである、前記<14>〜<21>のいずれかに記載の水性導電性ペーストの製造方法。
<23> 前記アニオン性高分子分散剤が、ジイソブチレン/無水マレイン酸共重合体のリチウム塩である前記<14>〜<21>のいずれかに記載の水性導電性ペーストの製造方法。
<24> 前記アニオン性高分子分散剤が、(メタ)アクリル酸ステアリル/(メタ)アクリル酸共重合体のリチウム塩である前記<14>〜<21>のいずれかに記載の水性導電性ペーストの製造方法。
<25> 前記炭素材料がケッチェンブラックである、前記<14>〜<24>のいずれかに記載の水性導電性ペーストの製造方法。
<26>前記水性媒体中の水の含有量が、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、更により好ましくは実質的100質量%、特に好ましくは100質量%である、前記<14>〜<25>のいずれかに記載の水性導電性ペーストの製造方法。
<27> 前記高分子の中和物は、前記原料モノマーを重合させて高分子を得た後、前記高分子が有する酸性基を中和させることにより得たものであり、
前記酸性基の中和は、前記高分子と水とを含有する組成物と、アミン型中和剤を含む第1の中和剤とを混合した後、前記組成物と第1の中和剤との混合物に、リチウム化合物を含む第2の中和剤とを混合することにより行う、前記<14>〜<26>のいずれかに記載の水性導電性ペーストの製造方法。
<28> 前記炭素材料と前記アニオン性高分子分散剤と前記水性媒体とを混合して得たペーストを、目開き200μm以下のストレーナーを通過させる工程を更に含む、前記<14>〜<27>のいずれかに記載の水性導電性ペーストの製造方法。
【実施例】
【0094】
[アニオン性高分子の未中和物の製造例1:アニオン性高分子の未中和物Aの製造]
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管、滴下ロートを備えたガラス製反応容器内に、ジイソブチレン(丸善石油化学社製) 621.8g及びルトナールA−50(BASF社製、ポリビニルエチルエーテル) 3.1gを仕込んだ。反応容器内を窒素雰囲気とし、攪拌を開始した。反応容器内容物を105℃まで加熱し、これ以降、重合反応を完結させるまで、反応容器内容物の温度を105℃に保った。70℃に保温した溶融状態の無水マレイン酸(三井化学ポリウレタン社製) 190.0g、及びジイソブチレン23.1gにパーブチルO(日油社製、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート)10.3gを溶解させて得た開始剤溶液を、それぞれ別の滴下ロートから反応容器内に4時間かけて滴下した。滴下の終了から20分後に、ジイソブチレン7.3gに溶解させたパーブチルO 1.2gを反応容器内に加え、さらに2時間40分熟成を行って重合反応を完結させ、アニオン性高分子の未中和物Aを含む溶液を得た。反応容器内にイオン交換水 800gを加え、アニオン性高分子の未中和物Aの沈殿物を析出させた。次いで、水蒸気蒸留によって、未反応のジイソブチレンの留去を行った。前記水蒸気蒸留は、常圧で反応容器を加熱し、反応容器内容物が100℃に達し、ジイソブチレンの留出が無くなるまで行った。デカンテーションにより水を除去したのち、水で湿潤したアニオン性高分子の未中和物Aの沈殿物を105℃100mmHg24時間で乾燥させた。以上の操作を経て、アニオン性高分子の未中和物A(共重合比:ジイソブチレン/無水マレイン酸=53.4質量%/46.6質量%)を得た。アニオン性高分子の未中和物Aの重量平均分子量は25000であった。
【0095】
[アニオン性高分子の未中和物の製造例2:アニオン性高分子の未中和物Bの製造]
開始剤溶液として、ジイソブチレン23.1gにパーブチルO13.5gを溶解させて得た開始剤溶液を用いたこと以外は、前記アニオン性高分子の未中和物Aの製造例1に従い、アニオン性高分子の未中和物B(共重合比:ジイソブチレン/無水マレイン酸=53.4質量%/46.6質量%)を得た。アニオン性高分子の未中和物Bの重量平均分子量は12000であった。
【0096】
[アニオン性高分子の未中和物の製造例3:アニオン性高分子の未中和物Cの製造]
開始剤溶液として、ジイソブチレン23.1gにパーブチルO2.6gを溶解させて得た開始剤溶液を用いたこと以外は、前記アニオン性高分子の未中和物Aの製造例1に従い、アニオン性高分子の未中和物C(共重合比:ジイソブチレン/無水マレイン酸=53.4質量%/46.6質量%)を得た。アニオン性高分子の未中和物Cの重量平均分子量は97000であった。
【0097】
[アニオン性高分子の未中和物の製造例4:アニオン性高分子の未中和物Dの製造]
攪拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管、滴下ロートを備えたガラス製反応容器内に、2−プロパノール(三井化学社製) 74.7gを仕込んだ。反応容器内を窒素雰囲気とし、攪拌を開始した。反応容器内容物を80℃まで加熱し、これ以降、重合反応を完結させるまで、反応容器内容物の温度を80℃に保った。滴下ロートに、アクリル酸(東亜合成社製) 180.9g、アクリル酸ステアリル(大阪有機化学工業社製) 89.1g、2,2‘−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル(V−601;和光純薬工業社製) 1.44g、2−プロパノール 102.9gを仕込み、反応容器内に4時間かけて滴下した。滴下の終了から1時間後に、V−601 0.72gと2−プロパノール 6.5gを同じく滴下ロートから反応容器内に30分かけて滴下した。滴下の終了から6時間熟成を行い、イオン交換水 1060gを加えて希釈した。次いで、水蒸気蒸留によって、未反応のモノマーと2−プロパノールの留去を行ったのち、溶液をフッ素樹脂シートを敷いたステンレス角型バット(底部面積約1200cm
2)に流しいれ、105℃100mmHg48時間で乾燥させた。以上の操作を経て、アニオン性高分子の未中和物D(共重合比:アクリル酸ステアリル/アクリル酸=33.3質量%/66.7質量%)を得た。アニオン性高分子の未中和物Dの重量平均分子量は15000であった。
【0098】
[アニオン性高分子分散剤組成物の製造例1:アニオン性高分子分散剤組成物A1の製造]
製造例1で得られたアニオン性高分子の未中和物Aを、以下に示す中和工程で中和した。アニオン性高分子の未中和物A100gと水100gを反応容器に仕込み撹拌しながら75℃とし、以降、中和反応を完結させるまで、反応容器内の液体の温度を75℃に保った。最初に、中和工程1として、25質量%アンモニア水溶液(昭和電工社製) 3.3gを反応容器内に加えて15分間保持した。次に、中和工程2として、4N 水酸化リチウム水溶液 238mlを反応容器内に1.5時間かけて滴下し、中和反応を完結させた。遊離したアンモニアを揮散させるために減圧度47kPaの条件下で3時間保持し、常圧に戻して室温まで冷却し、固形分が25質量%となるようにイオン交換水を加え、30分間保持してから攪拌を停止し、アニオン性高分子分散剤組成物A1を得た。アニオン性高分子分散剤組成物A1中のアニオン性高分子分散剤の重量平均分子量は25000であった。
【0099】
[アニオン性高分子分散剤組成物の製造例2〜5:アニオン性高分子分散剤組成物A2〜5の製造]
中和工程1及び中和工程2において使用するアンモニア水溶液及びアルカリ金属水酸化物の水溶液の量及び種類を表1記載の内容としたこと以外は、前記アニオン性高分子分散剤組成物A1の製造例に従い、アニオン性高分子分散剤組成物A2〜5を得た。
【0100】
[アニオン性高分子分散剤組成物の製造例6〜7:アニオン性高分子分散剤組成物B1〜2の製造]
アニオン性高分子の未中和物Aの代わりに製造例2で得られたアニオン性高分子の未中和物Bを使用し、中和工程1及び2において使用するアンモニア水溶液及びアルカリ金属水酸化物の水溶液の量及び種類を表1記載の内容としたこと以外は、前記アニオン性高分子分散剤組成物A1の製造例に従い、アニオン性高分子分散剤組成物B1〜2を得た。
【0101】
[アニオン性高分子分散剤組成物の製造例8〜9:アニオン性高分子分散剤組成物C1〜2の製造]
アニオン性高分子の未中和物Aの代わりに製造例3で得られたアニオン性高分子の未中和物Cを使用し、中和工程1及び2において使用するアンモニア水溶液及びアルカリ金属水酸化物の水溶液の量及び種類を表1記載の内容としたこと以外は、前記アニオン性高分子分散剤組成物A1の製造例に従い、アニオン性高分子分散剤組成物C1〜2を得た。
【0102】
[アニオン性高分子分散剤組成物の製造例10:アニオン性高分子分散剤組成物D1の製造]
製造例4で得られたアニオン性高分子の未中和物Dを、以下に示す中和工程で中和した。アニオン性高分子の未中和物D 50gと水450gを反応容器に仕込み、25℃で撹拌を行った。中和工程として、4N 水酸化リチウム水溶液 117mlを反応容器内に1時間かけて滴下し、中和反応を完結させた。固形分が8質量%となるようにイオン交換水を加え、30分間保持してから攪拌を停止し、アニオン性高分子分散剤組成物D1を得た。アニオン性高分子分散剤組成物D1中のアニオン性高分子分散剤の重量平均分子量は15000であった。
【0103】
[アニオン性高分子分散剤組成物の製造例11〜12:アニオン性高分子分散剤組成物D2〜3の製造]
中和工程において使用するアルカリ金属水酸化物の水溶液を表1記載の内容としたこと以外は、前記アニオン性高分子分散剤組成物D1の製造例に従い、アニオン性高分子分散剤組成物D2〜3を得た。
【0104】
[アニオン性高分子分散剤組成物の製造例13:アニオン性高分子分散剤組成物E1の製造]
市販のポリアクリル酸(和光純薬工業社製;ポリアクリル酸 5,000)を、以下に示す中和工程で中和した。ポリアクリル酸 100gと水 200gを反応容器に仕込み、25℃で撹拌を行った。中和工程において、4N 水酸化リチウム水溶液 347mlを反応容器内に1時間かけて滴下し、中和反応を完結させた。固形分が10質量%となるようにイオン交換水を加え、30分間保持してから攪拌を停止し、アニオン性高分子分散剤組成物E1を得た。
【0105】
[アニオン性高分子の未中和物及びアニオン性高分子分散剤の重量平均分子量測定]
アニオン性高分子の未中和物及びアニオン性高分子分散剤の重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により、下記条件で測定した。重量平均分子量は、予め作成した検量線に基づき算出した。検量線の作成には、下記の標準試料を用いた。
測定装置:HLC−8120GPC(東ソー社製)
カラム:TSK α−M + α−M(いずれも東ソー株式会社製)
カラム温度:40℃
検出器:RI
溶離液:H
3PO
4(60mmol/L)及びLiBr(50mmol/L)を加えたN,N−ジメチルホルムアミド溶液
流速:1.0mL/min
試料濃度:0.1質量%(固形分)
試料注入量:0.1mL
標準試料:東ソー社製ポリスチレン 5.26×10
2、1.02×10
5、8.42×10
6;西尾工業社製ポリスチレン 4.0×10
3、3.0×10
4、9.0×10
5(数字はそれぞれ分子量)
【0106】
[組成物中の固形分の測定]
各組成物における固形分の測定は以下の方法で行った。質量W3(g)のシャーレに試料1gを採り、前記試料を含んだシャーレ全体の質量を測定し、W1(g)とした。シャーレ全体を、熱風循環型乾燥機(いすゞ製作所製 Hot Air Rapid Drying Oven Soyokaze)で170℃2時間の条件で乾燥させ、さらにデシケータで30分放冷した後、前記試料の不揮発分を含んだシャーレ全体の質量を測定し、W2(g)とした。次式より得られた値を固形分とした。
固形分(質量%)=100−(W1−W2)/(W1−W3)×100
【0107】
[水性導電性ペーストの製造例1:水性導電性ペースト1の製造]
100mLのポリ広口ビン(ニッコー・ハンセン社製)内に、炭素材料として、灰分が0.1質量%、BET比表面積800m
2/g、荷重120kg/cm
2における体積固有抵抗値0.10
Ωcmのケッチェンブラック(ケッチェンブラックインターナショナル社製、商品名EC300Jパウダー) 4g、分散剤組成物として、アニオン性高分子分散剤組成物A1 1.6g、及び水性媒体としてイオン交換水を全量で40gとなるように仕込み、さらに1mmφジルコニアビーズ(ニッカトー社製) 80gを仕込んで、容器を密閉した後、ペイントシェーカー(浅田鉄工社製)で3時間分散した。得られたペーストを30メッシュ(約600μm)のステンレス金網でジルコニアビーズを除去し、水性導電性ペースト1を得た。
【0108】
[水性導電性ペーストの製造例2〜16:水性導電性ペースト2〜16の製造]
炭素材料、分散剤組成物及び水性媒体の組成を表2記載の内容に変更し、前記水性導電性ペースト1の製造例に従い、水性導電性ペースト2〜16を得た。水性導電性ペースト11の製造に用いたアセチレンブラック(電気化学工業社製、商品名デンカブラック)の灰分は0.05質量%、BET比表面積は76m
2/g、荷重120kg/cm
2における体積固有抵抗値は0.17
Ωcmである。
【0109】
[水性導電性ペーストの製造例17:水性導電性ペースト17の製造]
製造例1で得られたアニオン性高分子の未中和物A 100gと水 100gを反応容器に仕込み撹拌しながら75℃とし、中和工程1として、25質量%アンモニア水溶液 33gを反応容器内に加えて30分間保持した。撹拌をしたまま室温まで冷却した。得られた懸濁液 0.93g、ケッチェンブラック 4g、4N 水酸化リチウム水溶液 0.95mlを100mlのポリ広口ビンに仕込み、さらに全量が40gとなるようにイオン交換水を加え、1mmφジルコニアビーズ 80gを仕込んで、容器を密閉した後、ペイントシェーカーで3時間分散した。得られたペーストを30メッシュのステンレス金網でジルコニアビーズを除去し、水性導電性ペースト17を得た。水性導電性ペースト17中の組成は、ケッチェンブラック10%、分散剤1%であり、分散剤の全酸性基のモル数を100モルとした場合のリチウムイオンによって中和された酸性基は100モルである。
【0110】
[全酸性基のモル数を100モルとした場合のリチウムイオン(対イオン)によって中和された酸性基の割合(モル%)]
全酸性基の一部が中和されている高分子については、高分子に存在する全酸基をA(モル)とし、系内に存在するリチウムイオンの量をB(モル)として、下記式により、リチウムイオンによって中和された酸性基の割合を得た。
B/A×100(モル%)
全酸性基が全部中和され、系内に全酸性基と同量もしくは過剰量の陽イオンが存在する場合であって、全陽イオンの一部又は全部がリチウムである場合は、全陽イオン中に占めるリチウムイオンの割合で全酸性基が中和されているとみなし、全陽イオンの量をC(モル)とし、リチウムイオンの量をD(モル)として、下記式により、リチウムイオンによって中和された酸性基の割合を得た。
D/C×100(モル%)
水性導電性ペースト中のイオン量については、電位差滴定等の方法により測定でき、アルカリ金属等の量や割合については、水性導電性ペーストに強酸を添加する等して固体と液体とを分離した後、液相を元素分析等で定量すれば測定できる。
【0111】
[ろ過性の測定]
100メッシュのステンレスサポートスクリーン上に200メッシュ(目開き約75μm)のステンレス金網を設置したADVANTEC社製減圧濾過用フィルターホルダーKGS−25をストレーナーとして用い、得られた水性導電性ペースト 10gを、減圧度を60kPaに設定してろ過した際の、ろ過時間と金網上の残渣量を測定した。ろ過時間が1分以下で金網上に残渣がほとんどないものを良好(A)とし、それ以外を不良(C)とした。
【0112】
[分散性の測定]
粒径測定器(Malvern社製Zetasizer Nano−S)を用いて、水性導電性ペースト中の粉体の平均粒径/nmを測定した。平均粒径が小さい程、分散性が優れることを示す。測定にはGlass cubetteセルを使用し、測定用に採取したサンプルは予め光が透過する程度にイオン交換水で希釈したのち、直ちに測定を行い、下記の評価基準に従って分散性の評価を行った。尚、測定時のパラメーターは、機器に付属の資料に掲載されているカーボンブラックの数値(屈折率1.800、吸収10.000)を使用した。本評価基準においてA及びBは分散性が良好である。
<分散性の評価基準>
A:300nm以下
B:300nmを超えて1000nm以下
C:1000nmを超える
【0113】
[粘性の測定]
得られた水性導電性ペーストについて、E型粘度計(BROOKFIELD社製;DV−II+Pro)で、測定プレートCPE−52を用いて25℃での粘度を測定し、下記の
評価基準に従って水性導電性ペーストの粘性の評価を行った。本評価基準においてA及びBは粘性が良好である。
A:200mPa・s以下
B:200mPa・sを超えて1000mPa・s以下
C:1000mPa・sを超える
【0114】
[塗工性の測定]
得られた水性導電性ペーストを、グラインドメーター(安田精機製作所製;No.527、測定可能範囲:0−25μm)を用いて塗工し、スジ発生時の粒径/μm(すなわち粗大粒子の大きさ)を測定した。スジ発生時の粒径が小さい程、粗大粒子が少なく塗工性が優れることを示す。下記の評価基準に従って塗工性の評価を行った。本評価基準においてA及びBは塗工性が良好である。
A:10μm以下
B:10μmを超えて25μm以下
C:25μmを超える
【0115】
[導電性の測定]
得られた水性導電性ペーストとフッ素樹脂エマルション(ダイキン工業社製POLYFLON D−1E)とを、炭素材料量/フッ素樹脂樹脂量(固形分)=8/2となるように配合し、これを、PET100μm二軸延伸フィルムに、100μmアプリケータを用いて塗布した。得られた塗膜を、100℃で10分間乾燥した後、温度25℃、相対湿度50%に調整した室内で、JIS K 7194に基づき、体積抵抗を測定した。なお、体積抵抗は、数値が小さいほど導電性に優れることを示す。下記の評価基準に従って導電性の評価を行った。本評価基準においてA及びBは導電性が良好である。
A:10Ωcm以下
B:10Ωcmを超えて100Ωcm以下
C:100Ωcmを超える
【0116】
[測定結果]
水性導電性ペースト1〜16について、前述の[ろ過性の測定]、[分散性の測定]、[粘性の測定]、[塗工性の測定]、及び[導電性の測定]を行った。その結果を表2に示す。
【0117】
表2に示されるように、実施例の水性導電性ペーストを用いた場合は、比較例の水性導電性ペーストを用いた場合よりも、良好な、ろ過性、高分散性、低粘性、優れた塗工性、及び高導電性が両立可能である。
【0118】
【表1】
【0119】
【表2】