特許第6266368号(P6266368)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6266368アルミニウム合金押出形材からなるドアビーム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6266368
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】アルミニウム合金押出形材からなるドアビーム
(51)【国際特許分類】
   B60J 5/00 20060101AFI20180115BHJP
【FI】
   B60J5/00 Q
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-20970(P2014-20970)
(22)【出願日】2014年2月6日
(65)【公開番号】特開2015-147490(P2015-147490A)
(43)【公開日】2015年8月20日
【審査請求日】2016年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100100974
【弁理士】
【氏名又は名称】香本 薫
(72)【発明者】
【氏名】津吉 恒武
(72)【発明者】
【氏名】橋本 成一
(72)【発明者】
【氏名】下赤 真吾
【審査官】 岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】 特表平08−507272(JP,A)
【文献】 特開2001−225763(JP,A)
【文献】 特開平10−094844(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一のアルミニウム合金押出形材からなり、長さ方向の一部の領域に潰し加工が施されたドアビームであり、前記アルミニウム合金押出形材の長さ方向に垂直な断面が、アウターフランジ、インナーフランジ、アウターフランジとインナーフランジの間に配置された中間フランジ、アウターフランジと中間フランジを連結するアウターウエブ、及びインナーフランジと中間フランジを連結する複数のインナーウエブからなり、前記アルミニウム合金押出形材のインナーフランジから中間フランジまでの高さをh1とし、中間フランジからアウターフランジまでの高さをh2としたとき、0.2≦h2/h1≦0.5であり、前記領域においてアウターウエブが曲げ変形して中間フランジからアウターフランジまでの高さが元の高さより減少し、インナーフランジから中間フランジまでの高さが元の高さに維持されていることを特徴とするドアビーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用車、トラック等の自動車のドアの補強材として使用されるドアビームに関し、より詳しくは、アルミニウム合金押出形材からなり、長さ方向の一部の領域に潰し加工を施したドアビームに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金押出形材からなるドアビームが、自動車の側面が衝突したときに乗員を保護する目的で、ドア内部(アウターパネルとインナーパネルの間)に取り付けられている。従来のドアは、一般に外観(アウタパネルの形状)が車両の前後方向及び上下方向に丸みを帯びているため、図5(a)に示すように、曲がりのない直線状のドアビーム1とアウターパネル2の間には隙間が生じる。この隙間を埋めるために、ドアビーム1の長さ方向の一定間隔毎に、ドアビーム1とアウターパネル2の間にマスチック接着剤が充填されている。アウターパネル2の丸みが大きく、ドアビーム1とアウターパネル2の隙間が一定以上に大きくなる場合は、マスチック接着剤の充填が困難となる。そのような場合、図5(b)に示すように、ドアビーム1を緩やかに(小さい曲率で)曲げ加工し、ドアビーム1とアウターパネル2の間の隙間を減らしている。
【0003】
一方、特許文献1には、アルミニウム合金押出形材からなるドアビームの両端部に潰し加工を施し、同両端部を取付部とすることが記載されている。特許文献2,3には、アルミニウム合金押出形材からなるドアビームの長さ方向の一部の領域に潰し加工を施し、これにより、ドア内にモータ等の部品の収納スペースを確保することが記載されている。なお、アルミニウム合金押出形材からなる従来のドアビームは、一般にアウターフランジ、インナーフランジ及び両フランジを連結する複数のウエブからなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3465862号公報
【特許文献2】特許3919562号公報
【特許文献3】特許4111651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の自動車のドアは、外観となるアウターパネルが、単に外向きに緩く湾曲しているだけでなく、比較的大きい曲率で内向きに湾曲する曲面形状を一部に有するデザイン(図1のアウターパネル12参照)となってきている。このようなデザインのアウターパネルに対し、ドアビームを曲げ加工して、ドアビームとアウターパネルの間の隙間を減らすには、ドアビームをアウターパネルのデザインに合わせた大きい曲率で複雑に曲げ加工する必要がある。しかし、アルミニウム合金押出形材からなるドアビームは、アルミニウム合金の中でも高強度材が使用されているため、曲げ加工に際して割れが生じやすく、大きい曲率で曲げ加工するのは困難である。
【0006】
これに対し、特許文献1〜3に記載されているように、ドアビームに潰し加工を施すのであれば、アウターパネルの曲面形状に合わせてドアビームを変形させ、ドアビームとアウターパネルの間の隙間を減らすことができる。
しかし、アルミニウム合金押出形材からなる従来のドアビームに対し、長さ方向の一部の領域に潰し加工を行うと、同領域においてドアビームの断面性能が低下する。潰しの程度(断面高さの低減割合)が大きい場合、ドアビームの断面係数が大きく減少し、潰しの程度が小さい場合でも、屈曲させたウエブは衝突時に曲げ変形しやすく、いずれにしてもドアの補強材としての機能は大きく低下する。
【0007】
本発明は、アルミニウム合金押出形材からなるドアビームの長さ方向の一部の領域に潰し加工を行う場合に、ドアビームの断面性能が低下するのを抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、単一のアルミニウム合金押出形材からなり、長さ方向の一部の領域に潰し加工が施されたドアビームの改良に係り、前記アルミニウム合金押出形材の長さ方向に垂直な断面が、アウターフランジ、インナーフランジ、アウターフランジとインナーフランジの間に配置された中間フランジ、アウターフランジと中間フランジを連結するアウターウエブ、及びインナーフランジと中間フランジを連結するインナーウエブからなり、前記アルミニウム合金押出形材のインナーフランジから中間フランジまでの高さをh1とし、中間フランジからアウターフランジまでの高さをh2としたとき、0.2≦h2/h1≦0.5であり、前記領域においてアウターウエブが曲げ変形してアウターフランジから中間フランジのまでの高さが元の高さより減少し、インナーフランジから中間フランジまでの高さが元の高さに維持されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るドアビームは、長さ方向の一部の領域において、アウターフランジと中間フランジの間が潰し加工で潰されて断面高さ(中間フランジからアウターフランジまでの高さ)が減少している。これにより、前記領域において、ドアビームの高さをアウターパネルの曲面形状に合わせ、ドアビームアウターパネルの間の隙間を減らし、又はアウターパネルとの間に部品を設置するための収納スペースを確保することができる。
一方、同領域において、インナーフランジと中間フランジの間は潰されず、断面高さ(インナーフランジから中間フランジまでの高さ)は、元のアルミニウム合金押出形材の高さh1を維持し、インナーウエブは潰し加工で曲げ変形していない。このため、インナーフランジから中間フランジまでの部分は、元のアルミニウム合金押出形材と同じ断面性能を維持している。従って、前記領域においてドアビーム全体としての断面性能が低下することが抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ドアのアウターパネルとその内側に配置されたアルミニウム合金押出形材からなる本発明に係るドアビームの平面図である。
図2図1のI−I断面におけるドアビームの断面図である。破線は図1のII−II断面におけるアウターウエブ及びアウターフランジの断面を示す
図3】ドアのアウターパネルとその内側に配置されたアルミニウム合金押出形材からなる本発明に係る別のドアビームの平面図である。
図4】本発明に係るアルミニウム合金押出形材の断面形状(長さ方向に垂直)の他の形態を示す断面図である。
図5】ドアのアウターパネルとその内側に配置されたアルミニウム合金押出形材からなる従来のドアビームの平面図(左側の図)、及び前記ドアビームの断面図(右側の図)である。(a)は曲がりのないドアビームの例、(b)は緩く曲げ加工されたドアビームの例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図1〜4を参照して、本発明に係るドアビームについて詳細に説明する。
図1,2において、ドアビーム11はアルミニウム合金押出形材を所定長さに切断し、潰し加工を行ったものである。図2に実線で示すように、アルミニウム合金押出形材の断面(潰し加工されていない箇所)は、いずれも平板状で、互いに平行なアウターフランジ13、インナーフランジ14及び中間フランジ15と、各フランジに垂直な各一対のアウターウエブ16及びインナーウエブ17からなる。アウターフランジ13、インナーフランジ14及び中間フランジ15は、いずれも両端に、ウエブから左右に突出した突出フランジを有する。アウターウエブ16はアウターフランジ13と中間フランジ15を連結し、インナーウエブ17はインナーフランジ14と中間フランジ15を連結し、アウターウエブ16とインナーウエブ17は一列に連なっている。
【0012】
アルミニウム合金押出形材は、トータルの断面高さがh、内側高さ(インナーフランジ14の内端から中間フランジ15までの高さ)がh1、外側高さ(中間フランジ15からアウターフランジ13の外端までの高さ)がh2、h=h1+h2である。
ドアビーム11は、ドアのアウターパネル12の内側に、アウターフランジ13を車幅方向外側に向け、インナーフランジ14を車幅方向内側に向け、略鉛直面内に配置されている。ドアビーム11の両端は、ドアの図示しないインナーパネルに直接、又は図示しないブラケット(特許文献1の図5参照)を介して固定される。アウターパネル12は、全体として外向きに緩く湾曲し、その一部が比較的大きい曲率で内側に湾曲している(湾曲部18)。
【0013】
ドアビーム11は、全体として曲がりのない直線状であり、長さ方向の一部の領域Aに、アウターフランジ13側からインナーフランジ14側に向けて潰し加工が施されている。この領域Aはアウターパネル12の湾曲部18にほぼ対応する領域である。
この潰し加工により、領域Aにおいて、アウターフランジ13と中間フランジ15の間が潰され、図1の破線に示すように、ドアビーム11の内側高さが元のh2から最も高さの小さい箇所でh3へと減少している。なお、潰し加工の程度(h3の大きさ)は任意に選択できる。領域Aでは、アウターウエブ16が曲げ変形して外側に折れ曲がっている。一方、領域Aにおいて、中間フランジ15とインナーフランジ14の間は潰されず、ドアビーム11の内側高さは、元のアルミニウム合金押出形材の高さh1を維持している。また、インナーウエブ14は曲げ変形していない。
【0014】
図3に示すドアビーム21は、ドアビーム11と同じ断面形状(図2参照)のアルミニウム合金押出形材からなり、ドアのアウターパネル12の内側に配置されている。ドアビーム21は、ドアビーム11と同様に、一部の領域(領域B)においてアウターフランジ13から中間フランジ15までの間が潰し加工されている。一方、ドアビーム21は、全体として小さい曲率で曲げ加工されて外向きに緩く湾曲している点でドアビーム11と異なり、これにより、アウターパネル12との隙間が、ドアビーム11に比べて減少し、かつ長手方向に沿って均一となっている。
【0015】
また、ドアビーム21は、一方の端部22が斜めに切り落とされ、かつ他方の端部23がアウターフランジ13側からインナーフランジ14側に向けて潰し加工されている点で、ドアビーム11と異なる。端部23において、アウターフランジ13と中間フランジ15の間、及び中間フランジ15とインナーフランジ14の間が潰され、かつアウターウエブ16及びインナーウエブ15は共に曲げ変形して外側に折れ曲がっている。端部22は特開平10−94844号公報の図8に記載されているように、端部23は特許文献1の図5に記載されているように、それぞれドアの図示しないインナーパネルに対する取付部となる。このような端部22,23を形成することにより、ドアビーム21をブラケットレス化できる。
【0016】
本発明に係るドアビームにおいて、トータルの断面高さh(=h1+h2)が大きいと、アウターフランジ及びインナーフランジの断面中立軸からの距離が大きくなる。このため、衝突時にドアビームが曲げ変形したとき、アウターフランジ及びインナーフランジに掛かる圧縮力及び引張力が大きくなり、破断しやすくなる。従って、断面高さh(=h1+h2)は余り大きくできない。
本発明に係るドアビームにおいて、アルミニウム合金押出形材の外側高さh2が大きすぎると、衝突時にドアビームがねじれ変形する可能性がある。また、上記のようにトータルの断面高さhに制限がある中で、外側高さh2が大きいと、相対的に内側高さh1が小さくなり、ドアビームの断面性能が低下し、ドア補強材としての機能が低下する。一方、外側高さh2が小さすぎると、潰し加工が困難となり、また、潰し加工後に所定の形状を出しにくい。
以上の点を総合的に判断して、本発明に係るアルミニウム合金押出形材は、断面の内側高さh1と、外側高さh2の比(h2/h1)を、0.2≦h2/h1≦0.5に設定することが好ましい。
【0017】
本発明に係るドアビーム用アルミニウム合金押出形材の断面形状は、図2に示すもののほか、種々の形態を取り得る。例えば、アウターフランジは他のフランジに対し平行でなくてもよく、各フランジに突出フランジが形成されていなくてもよい。アウターウエブは各フランジに垂直でなくてもよく、インナーウエブは複数本必要であるが、アウターウエブは1本でも複数本でもよい。また、アウターウエブとインナーウエブはドアの内外方向に一列に連なっていなくてもよく、インナーウエブは当初から屈曲又は湾曲した形状でもよい。
【0018】
図4(a)〜(i)に、本発明に係るドアビーム用アルミニウム合金押出形材の断面形状の他の例を示す。これらの断面形状は、図2に示すアルミニウム合金押出材と同じく、アウターフランジ、インナーフランジ、中間フランジ、一対のアウターウエブ、及び一対のインナーウエブにより構成される。図4において、図2に示す断面形状と実質的に同じ部位には、同じ番号を付与している。
【0019】
図4(a)に示す断面形状は、アウターフランジ13がインナーフランジ14と中間フランジ15に対し傾斜している点で、図2に示す断面形状と異なる。
図4(b)に示す断面形状は、アウターウエブ16が当初から外向きに湾曲している点で、図2に示す断面形状と異なる。
図4(c)に示す断面形状は、一対のアウターウエブ16,16の間隔が一対のインナーウエブ17,17の間隔より広く設定されている点で、図2に示す断面形状と異なる。
図4(d)に示す断面形状は、インナーウエブが3本であり、一対のアウターウエブ16,16の間隔が両側のインナーウエブ17,17の間隔より狭く設定されている点で、図2に示す断面形状と異なる。
【0020】
図4(e)に示す断面形状は、一対のアウターウエブ16,16の間隔が一対のインナーウエブ17,17の間隔より広く設定され、アウターフランジ13に突出フランジが形成されていない点で、図2に示す断面形状と異なる。
図4(f)に示す断面形状は、一対のアウターウエブ16,16の間隔が一対のインナーウエブ17,17の間隔より狭く設定され、アウターフランジ13に突出フランジが形成されていない点で、図2に示す断面形状と異なる。
図4(g)に示す断面形状は、アウターウエブ16,16が共に傾斜している点で、図2に示す断面形状と異なる。
図4(h)に示す断面形状は、アウターウエブ16,16が共に傾斜し、アウターフランジ13に突出フランジが形成されていない点で、図2に示す断面形状と異なる。
図4(i)に示す断面形状は、アウターウエブ16が1本である点で、図2に示す断面形状と異なる。
【0021】
本発明に係るドアビーム用アルミニウム合金押出形材の材料として、6000(Al−Mg−Si(−Cu))系又は7000(Al−Zn−Mg(−Cu))系の熱処理型アルミニウム合金が好ましい。このアルミニウム合金を所定の断面形状に押出成形した後、例えば次の工程によりドアビームを作製する。アルミニウム合金押出形材を、必要に応じてドアのアウターパネルの形状に対応した曲率で曲げ加工した後、自然時効硬化した材料を通常の時効硬化処理温度より高い温度に加熱して軟化させる復元処理を施し、成形性を向上させたうえで潰し加工を行い、時効硬化処理を施す。
【符号の説明】
【0022】
11,21 ドアビーム
12 ドアのアウターパネル
13 アウターフランジ
14 インナーフランジ
15 中間フランジ
16 アウターウエブ
17 インナーウエブ
図1
図2
図3
図4
図5