(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体化した一実施形態の照明システム10について図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、照明システム10は、ベッド20(基台21、マットレス22、ヘッドボード23)、照明装置30(前面板31、照明用光源32a、照明用光源32b)、制御装置40(記憶装置40a、時計装置40b)、操作パネル41、荷重センサ42a〜42dなどを備える。
【0018】
ベッド20は、略直方体状の基台21と、基台21上に載置されて基台21の上面側を覆う略直方体状のマットレス22と、基台21の長手方向一端側に接続固定されて直立する略矩形板状のヘッドボード23とを備える。
照明装置30は、ヘッドボード23に内蔵され、前面板31および照明用光源32a,32bを備える。
前面板31は、略矩形板状を成し、ヘッドボード23の前面側から露出しており、照明用光源32a,32bの放射光を透過する材質(例えば、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ガラスなど)によって形成されており、塵埃から照明用光源32a,32bを保護するために設けられているが、必ずしも必要ではない。
【0019】
照明用光源32a,32bは、前面板31の背面側に配設されており、前面板31の前面側からは直視できないようになっている。
照明用光源32a,32bはそれぞれ少なくとも1個以上のLEDから成り、照明用光源32a,32bの放射光が、マットレス22に仰向けに横たわる就寝者の顔面に照射されるように、ヘッドボード23内における照明用光源32a,32bの取付位置が設定されている。
【0020】
例えば、照明用光源32a,32bのそれぞれの光軸が、ベッド20に仰向けに横たわる就寝者の顔面における特に目近辺の位置を通るように設定すればよい。
また、照明用光源32a,32bの放射光を就寝者の顔面に直接照射することによるグレアを防止するため、前面板31にて照明用光源32a,32bの光軸が交差する箇所に光拡散領域を設けてもよい。
【0021】
尚、前面板31に光拡散領域を設けるには、例えば、前面板31の材質として光拡散材質を用いる、前面板31の材質として透明材料に微細な光拡散剤を分散させたものを用いる、前面板31の表裏面の少なくともいずれか一方に模様や微細な凹凸を形成する、などの方法がある。
また、前面板31に光拡散領域を設けるのではなく、照明用光源32a,32bのそれぞれの前面側に光拡散領域を設けてもよい。
そして、照明用光源32a,32bをそれぞれ複数個のLEDによって構成し、それらLEDを水平方向に配列し、照明用光源32a,32bを水平方向に延在された線状光源にすれば、マットレス22に横たわる就寝者が寝返りを打った場合でも、照明用光源32a,32bの放射光が就寝者の目周辺に照射される状態を維持可能になる。
【0022】
制御装置40は、ヘッドボード23に内蔵されている。
操作パネル41は、ヘッドボード23に内蔵され、ヘッドボード23の側面から露出している。
尚、操作パネル41は、ヘッドボード23の側面に限らず、ベッド20に就寝する就寝者が操作し易い箇所であれば何処に配設してもよく、ヘッドボード23に内蔵するのではなく有線または無線のリモコンにしてもよい。
同一構成の荷重センサ42a〜42dは、基台21の上面側の四隅に配設され、マットレス22の下面側に接触し、マットレス22の上面側における荷重センサ42a〜42dの略直上箇所に印加された荷重を検出する。
尚、後述するように、ベッド20に就寝する就寝者が体を動かしていることを検出可能であるならば、例えば、荷重センサ42a〜42dを基台21の四隅に限らず適宜な箇所に配設してもよく、荷重センサの個数も4個に限らず適宜な個数にしてもよく、1枚のシート状の荷重センサを用いてもよい。
【0023】
図2に示すように、制御装置40は、記憶装置40aおよび時計装置40bを内蔵し、照明装置30の照明用光源32a,32b、操作パネル41、荷重センサ42a〜42dに対して、有線または無線によって接続されている。
記憶装置40aには、データを記憶可能な適宜な記憶装置(例えば、ROM、RAM、HDDなど)によって構成され、後述するデータ(照明用光源32a,32b毎の発光スペクトルSa(λ),Sb(λ)および照度Ea,Ebの時間積算値∫Eadt,∫Ebdtの閾値Ta,Tb、照明用光源32a,32bを同時に発光させた場合の発光スペクトルSab(λ)およびその場合の照度の時間積算値の閾値Tab、明所比視感度V(λ)、瞼透過スペクトルVe(λ)など)が予め記憶されている。
【0024】
時計装置40bは、時刻を計測する。
制御装置40は、操作パネル41の操作内容と、荷重センサ42a〜42dの検出結果と、記憶装置40aに記憶されている前記データと、時計装置40bが計測した時刻とに基づいて、照明用光源32a,32bをそれぞれ独立して駆動制御し発光させる。
【0025】
<照度の時間積算値の閾値Ta,Tb,Tabの設定方法>
図3は、照明装置30の照明用光源32a,32bの発光スペクトルSa(λ),Sb(λ)の相対強度と光の波長との関係を示すグラフである。
照明用光源32a,32bは波長特性が異なっており、その発光色と色温度が異なっている。
本実施形態では、照明用光源32aとして色温度が2300[K]のLEDを用い、照明用光源32bとして色温度が6700[K]のLEDを用いている。
尚、照明用光源32aの色温度である2300[K]は、一般の電球色よりも相関色温度が低い。
【0026】
図4は、人の瞼を透過した後の照明装置30の照明用光源32a,32bの強度(同照度相対値)と光の波長との関係を示すグラフであり、
図3に示す発光スペクトルSa(λ),Sb(λ)に、
図6に示す瞼透過スペクトルVe(λ)を乗算して求められる。
尚、照明用光源32bの放射光に比べて、照明用光源32aの放射光は人の瞼の透過率が高く、瞼を透過した後の光の実効スペクトル強度は、波長に対する強度積算値の比より、照明用光源32aの放射光が照明用光源32bの放射光の約1.4倍である。
【0027】
図5は、明所比視感度(分光視感効率)V(λ)と光の波長との関係を示すグラフである。
図6は、人の瞼の光透過率と光の波長との関係(瞼透過スペクトルVe(λ))を示すグラフである。
【0028】
数式1に示すように、照度Eは単位面積A当たりの光束φで与えられる。
数式2に示すように、光束φは、定数Kmと、光源の発光スペクトルS(λ)と明所比視感度V(λ)との乗算値の波長積分値とで与えられる。
【0029】
E=φ/A ………(数式1)
φ=Km∫S(λ)V(λ)dλ ………(数式2)
【0030】
ところで、ベッド20に就寝している就寝者は、睡眠中のため瞼を閉じている。
そのため、数式3に示すように、例えば光源xの放射光のうち就寝者が感じとることが
できる実光束φx´は、光源xの発光スペクトルSx(λ)と、就寝者の瞼の透過スペクトルVe(λ)との乗算値を、数式2の発光スペクトルS(λ)に代入することで与えられる。
【0031】
φx´=Km∫Sx(λ)Ve(λ)V(λ)dλ ………(数式3)
【0032】
瞼を閉じている就寝者が感じとることができる光源xからの光の照度(以下、「実照度」という)Ex´は数式1より、
Ex´=φx´/Aとなる。
ここで、本発明者らは、光源xからの光の照度Exとその光の照射時間とが、睡眠からの覚醒に影響を与えることを想到した。この照度Exは実測できる値であり、即ち、瞼の影響のない、数式1及び数式2で表される照度である。
そして、この照度Exの時間積分値(数式4参照)が睡眠からの覚醒に影響があるものと仮定した。
【0034】
そこで、この関係を検証するため、照明システム10のベッド20に被験者を就寝させ、照明用光源32aだけを用いて、さまざまな照度で被験者に照射することで、被験者を睡眠から覚醒に導くために要する
照度Exの時間積算値の閾値Taを各照度ごとに計測する実験を、多数の被験者について行った。
その結果、照明用光源32aでは
その照度Eaの時間積算値の閾値Taが2400[lx・min]に達した場合に、大部分の被験者が覚醒に導かれたことが判明した。
【0035】
Ta=∫Eadt≧2400[lx・min]
【0036】
また、照明用光源32bだけを発光させて同様の実験を行ったところ、照明用光源32bでは
その照度Ebの時間積算値の閾値Tbが3400[lx・min]に達した場合に、大部分の被験者が覚醒に導かれたことが判明した。
【0037】
Tb=∫Ebdt≧3400[lx・min]
【0038】
ここで、照明用光源32aと照明用光源32bとで照度の時間積算値の閾値Ta,Tbが異なる結果になったのは、照明用光源32aと照明用光源32bの発光スペクトルSa(λ),Sb(λ)の違いによって就寝者が感じ取ることが可能な
光の強度に差異が生じるためである。
この光の強度の差異の度合いは、照明用光源32a,32bの実強度(瞼を透過して目に入る光の強さ)の比(同じ照度の時の強度の比)αとして表すことができ、数式1〜3により数式5が与えられる。
【0039】
α=[∫Sb(λ)V(λ)Ve(λ)dλ]/[∫Sa(λ)V(λ)Ve(λ)dλ] ………(数式5)
ここで、数式5に図3,図5,図6に示した光源a、光源bの値を代入すると、実強度の比α≒1.0/1.4が算出される。
【0040】
一方、
実験で実測された照度Ea、Ebの時間積算値の閾値Ta,Tbは、数式4,5により数式6,7から求められる。
【0041】
Tb=∫Ebdt=
∫βEadt=βTa ………(数式6)
β=Tb/Ta ………(数式7)
【0042】
前記実験により得られた照度Ea、Ebの時間積算値の閾値Ta,Tb(Ta=2400[lx・min]、Tb=3400[lx・min])を、数式7に代入すると、
閾値の比β≒1.4が算出される。
従って、図3,図5,図6に示した実験光源の特性値と数式5によって求められる実強度の比αは、数式7によって求められる照度の時間積分値の閾値の比βの逆数となる。
【0043】
以上の結果より、ある1つの基準となる光源(基準用光源)xの発光スペクトルSx(λ)と、睡眠から覚醒に導くために要する照度の時間積算値の閾値Txとがわかっていれば、使用したい光源の発光スペクトル(分光分布)のみを調べることで、その時間積算値の閾値を数式5〜7により算出できることがわかった。
【0044】
また、前記数式は照明用光源32a,32bなどの変数を元に記述しているが、発光させる光源が変わった場合には適宜各変数を代入するなどすればよいことは自明である。
【0045】
ところで、2種類の照明用光源32a,32bを用いるのに限らず、1種類または3種類以上の波長特性が異なる光源を用いてもよい。
その場合には、数式8により、発光スペクトルS
1(λ)〜S
n(λ)のn個の照明用光源を同時に発光させた場合に、睡眠から覚醒に導くために要する照度の時間積算値の閾値T
1〜nを、閾値Tx(発光スペクトルSx(λ)の基準用光源xのみを発光させた場合に、睡眠から覚醒に導くために要する照度の時間積算値の閾値)に基づいて算出できる。
尚、係数m
1〜m
nは、個々の照明用光源の発光スペクトルS
1(λ)〜S
n(λ)の発光強度の比を示す係数であり、係数m
1〜m
nの合計値は1である(m
1+m
2+………+m
n=1)。
また、照明用光源の個数nは1以上の整数である。
【0046】
T
1〜n=
{[∫Sx(λ)V(λ)Ve(λ)dλ]/[∫(m1S1(λ)+m2S2(λ)+………+mnSn(λ))V(λ)Ve(λ)dλ]}×Tx ………(数式8)
【0047】
ここで、照明用光源32a,32bを同時に発光させた場合の発光スペクトルSab(λ)について、照明用光源32a,32b毎の発光スペクトルSa(λ),Sb(λ)の強度比Sa(λ):Sb(λ)=m
1:m
2(m
1+m
2=1)の場合には、基準用光源xの発光スペクトルSx(λ)と数式5,7により、数式9に示すように照度比αが求められる。
そのため、発光スペクトルSx(λ)とその照度の時間積算値の閾値Txと、発光スペクトルSa(λ),Sb(λ)とがわかれば、照明用光源32a,32bを同時に発光させた場合に、睡眠から覚醒に導くために要する照度の時間積算値の閾値Tabを求めることができる。
尚、数式9は数式8からも求められる。
【0048】
α=[∫Sab(λ)V(λ)Ve(λ)dλ]/[∫Sx(λ)V(λ)Ve(λ)dλ]
=[∫(m
1Sa+m
2Sb)(λ)V(λ)Ve(λ)dλ]/[∫Sx(λ)V(λ)Ve(λ)dλ]
=
1/β=Tx/Tab ………(数式9)
【0049】
また、照明用光源32a,32bを同時に発光させ、照明用光源32a,32b毎の発光スペクトルSa(λ),Sb(λ)の強度比Sa(λ):Sb(λ)=Pi:Qi(Pi+Qi=1)を時間変化させる場合には、基準用光源xの発光スペクトルSx(λ)と数式5,7により、数式10に示すように照度比αが求められる。
【0051】
以上のように、実験または算出により求めた照度の時間積算値の閾値Ta,Tb,Tabは、制御装置40の記憶装置40aに記憶させておく。
【0052】
<照明用光源32a,32bの制御方法>
制御装置40による照明用光源32a,32bの制御方法には、以下の[A]〜[F]などの方法がある。
【0053】
[A]
図7は、発光させる照明用光源32a,32bが同じで、照度の時間積算値が閾値に達するまで照度のみを時間変化させた制御例1〜3を示すグラフである。
制御例1〜3において、制御装置40は照明用光源32a,32bのいずれか一方だけ若しくは両方を発光させる。
そして、制御装置40は、照明用光源32a,32bのいずれか一方だけ若しくは両方を消灯状態(照度=0)から徐々に照度が高くなるように制御することにより、強い照度の光をいきなり照射する場合に比べ、就寝者に不快感を抱かせることなく覚醒を促すようにしている。
【0054】
ここで、制御装置40は、照度の時間積算値が、記憶装置40aに予め記憶されている閾値Ta,Tb,Tabに達するまで、照明用光源32a,32bを発光させる。
例えば、照明用光源32aの照度の時間積算値が閾値Taに達するまで、照明用光源32aのみを発光させる。
または、照明用光源32bの照度の時間積算値が閾値Tbに達するまで、照明用光源32bのみを発光させる。
または、照明用光源32a,32bの同時発光の照度の時間積算値が閾値Tabに達するまで、照明用光源32a,32bを同時発光させる。
制御例1は、照射時間=10[min]で照度の時間積算値が閾値Ta,Tb,Tabに達するように、照度をリニアに時間変化させた例である。
制御例2は、照射時間=20[min]で照度の時間積算値が閾値Ta,Tb,Tabに達するように、照度をリニアに時間変化させた例である。
制御例3は、照射時間=30[min]で照度の時間積算値が閾値Ta,Tb,Tabに達するように、照度をリニアに時間変化させた例である。
【0055】
照明システム10を使用する就寝者は、照明用光源32a,32bの発光開始から短時間に覚醒したいならば、照度の時間変化量を大きく設定すればよく、その設定は操作パネル41を用いて行うことが可能であり、就寝者の好みに合わせることで気分の良い覚醒を実現できる。
また、本発明者らは、多数の被験者について行った実験により、瞼の透過率が高い放射光を発生する照明用光源32aだけを発光させる場合、制御例1よりも制御例3のように、照度の時間変化量を小さく設定することを好む被験者が多いことを確認した。
【0056】
[B]
図8は、発光させる照明用光源32a,32bが同じで、所定の照射時間(30[min])で照度の時間積算値が閾値に達するまで照度のみを時間変化させた制御例4〜6を示すグラフである。
制御例1〜3と同様に、制御例4〜6においても、制御装置40は、照明用光源32a,32bのいずれか一方だけ若しくは両方を発光させると共に、照明用光源32a,32bのいずれか一方だけ若しくは両方を消灯状態から徐々に照度が高くなるように制御する。
【0057】
制御例4は、制御例1〜3と同様に、照度をリニアに時間変化せた例である。
制御例5は、照明用光源32a,32bの発光開始から短時間に照度を立ち上げた後に、照度の時間変化量を小さくしてリニアに時間変化させた例である。
制御例6は、照度を指数関数的に時間変化させた例である。
【0058】
制御例4〜6はいずれも、照射時間=30[min]で照度の時間積算値が閾値Ta,Tb,Tabに達するように、照度を時間変化させている。
照明システム10を使用する就寝者は、制御例4〜6の中から好みの制御例を選択して設定すればよく、その設定は操作パネル41を用いて行うことが可能であり、就寝者の好みに合わせることで気分の良い覚醒を実現できる。
【0059】
[C]
図9は、所定の照射時間における照度の時間積算値が同じになるように個々の照明用光源32a,32bの照度を時間変化させた制御例7〜9を示すグラフである。
制御例1〜6と同様に、制御例7〜9においても、制御装置40は照明用光源32a,32bのいずれか一方だけ若しくは両方を消灯状態から徐々に照度が高くなるように制御する。
【0060】
制御例7は、照明用光源32aだけを発光させ、照度をリニアに時間変化させた例である。
制御例8は、照明用光源32a,32bの両方を発光させると共に、照明用光源32b,32aの放射光の強度比率を等しくし、照度を等しくしてリニアに時間変化させた例である。
制御例9は、照明用光源32bだけを発光させ、照度をリニアに時間変化させた例である。
【0061】
制御例7,9において、制御装置40は、照度の時間積算値が、記憶装置40aに予め記憶されている閾値Ta,Tbに達するまで、照明用光源32a,32bを発光させる。
制御例8において、制御装置40は、照度の時間積算値が、記憶装置40aに予め記憶されている閾値Tabに達するまで、照明用光源32a,32bを発光させる。
【0062】
照明システム10を使用する就寝者は、制御例7〜9の中から好みの制御例を選択して設定すればよく、その設定は操作パネル41を用いて行うことが可能であり、就寝者の好みに合わせることで気分の良い覚醒を実現できる。
そして、照明用光源32b,32aの放射光の強度比率を等しくするのではなく、適宜な強度比率に設定してもよい。
例えば、色温度の低い照明で起床することを好む就寝者の場合には、照明用光源32bよりも照明用光源32aの放射光の強度比率を高くし、照度の時間変化量を小さくするか、または、照射時間を短く設定すればよい。
【0063】
また、色温度の高い照明で起床することを好む就寝者の場合には、照明用光源32aよりも照明用光源32bの放射光の強度比率を高くし、照度の時間変化量を大きくするか、または、照射時間を長く設定すればよい。
また、就寝者が短時間で起床したい場合には、照明用光源32bよりも照明用光源32aの放射光の強度比率を高くし、照度の時間変化量を大きく設定することにより、短時間に多くの光量を照射すれば、効率的に覚醒を促すことができる。
また、就寝者がゆっくりと長い時間を掛けて起床したい場合には、照明用光源32aよりも照明用光源32bの放射光の強度比率を高くし、照度の時間変化量を小さく設定することにより、長い時間を掛けて十分な光量を照射すれば、効率的に覚醒を促すことができる。
【0064】
[D]
図10は、発光させる光源を照明用光源32aから照明用光源32bに途中で切り替えた場合の制御例10を示すグラフである。
制御例10において、制御装置40は、まず最初に、照明用光源32aだけを発光させて、照明用光源32aの照度をゼロからリニアに時間変化させ、所定時間J(
図10に示す例では15[min])が経過した時点で照明用光源32aの発光を停止させ、その時点における照明用光源32aの照度と照明用光源32bの照度が等しくなるように照明用光源32bだけを発光させて、照明用光源32bの照度をリニアに時間変化させる。
【0065】
尚、照明用光源32aの発光を停止させた時点の照度と、照明用光源32bの発光を開始させた時点の照度とを等しくしているのは、照度が急減に変化すると就寝者に不快感を抱かせるからである。
また、前記所定時間Jは、実験的に最適値を見つけて設定すればよく、後述する[E]のように、荷重センサ42a〜42dの検出結果に基づいて設定してもよい。
【0066】
ところで、
図3に示すように、照明用光源32aの放射光に比べて、照明用光源32bの放射光はメラトニンの分泌を抑制する効果が高く、脳の松果体から分泌されるホルモンであるメラトニンの分泌抑制率は、照明用光源32bの放射光が照明用光源32aの放射光の約1.2〜2倍である。
すなわち、照明用光源32aの放射光は、人の瞼の透過率が高い反面、メラトニンの分泌抑制率が低いという性質がある。
反対に、照明用光源32bの放射光は、人の瞼の透過率が低い反面、メラトニンの分泌抑制率が高いという性質がある。
前記のように、メラトニンは睡眠からの覚醒に影響を与え、メラトニンの分泌を抑制すると覚醒が促され、人の網膜上の光受容体に光刺激を与えるとメラトニンの分泌が抑制される(特許文献1,2を参照)。
【0067】
一般に、就寝者は、深い睡眠中には瞼を完全に閉じているが、睡眠が浅くなり覚醒に近づくにつれて薄く瞼を開けるようになる。
そこで、まず最初に、瞼の透過率が高い放射光を発生する照明用光源32aだけを発光させることにより、深い睡眠中で瞼を完全に閉じている状態の就寝者を覚醒に導き、睡眠が浅くなって薄く瞼を開けた状態になったら、メラトニンの分泌抑制率が高い放射光を発生する照明用光源32bだけを発光させることにより、就寝者を確実な覚醒に導くことができる。
【0068】
また、前記[C]と[D]を組み合わせ、制御装置40は、まず最初に、照明用光源32bよりも照明用光源32aの放射光の強度比率を高くして照明用光源32a,32bを同時に発光させて、照度をゼロからリニアに時間変化させ、所定時間が経過したら、照明用光源32aよりも照明用光源32bの放射光の強度比率を高くして照明用光源32a,32bを同時に発光させて、照度をリニアに時間変化させてもよい。
また、照度をリニアに時間変化させるのではなく、前記[B]の制御例5,6のように強度に変化をつけてもよい。
【0069】
[E]制御装置40は、荷重センサ42a〜42dの検出結果に基づき、ベッド20に就寝する就寝者が頻繁に体を動かしているかどうかを判定する。
そして、制御装置40は、まず最初に、照明用光源32aだけを発光させて、照明用光源32aの照度をゼロから漸増させ、荷重センサ42a〜42dの検出結果に基づいて就寝者が頻繁に体を動かしていると判定した時点(前記所定時間Jが経過した時点)で照明用光源32aの発光を停止させ、その時点における照明用光源32aの照度と照明用光源32bの照度が等しくなるように照明用光源32bだけを発光させて、照明用光源32bの照度を増大させる。
尚、照明用光源32a,32bの両方を発光させ、その発光スペクトルSa(λ),Sb(λ)の強度比Sa(λ):Sb(λ)を変化させてもよい。
【0070】
一般に、就寝者は、深い睡眠中にはほとんど体を動かさないが、睡眠が浅くなり覚醒に近づくにつれて頻繁に体を動かすようになる。
そして、前記[D]のように、就寝者は、深い睡眠中には瞼を完全に閉じているが、睡眠が浅くなり覚醒に近づくに連れて薄く瞼を開けるようになる。
そこで、まず最初に、瞼の透過率が高い放射光を発生する照明用光源32aだけを発光させることにより、深い睡眠中でほとんど体を動かさない状態(瞼を完全に閉じている状態)の就寝者を覚醒に導き、睡眠が浅くなって頻繁に体を動かす状態(薄く瞼を開けた状態)になったら、メラトニンの分泌抑制率が高い放射光を発生する照明用光源32bだけを発光させることにより、就寝者を確実な覚醒に導くことができる。
【0071】
また、前記[C]と[E]を組み合わせ、制御装置40は、まず最初に、照明用光源32bよりも照明用光源32aの放射光の強度比率を高くして照明用光源32a,32bを同時に発光させて、照度をゼロからリニアに時間変化させ、荷重センサ42a〜42dの検出結果に基づいて就寝者が頻繁に体を動かしていると判定したら、照明用光源32aよりも照明用光源32bの放射光の強度比率を高くして照明用光源32a,32bを同時に発光させて、照度をリニアに増大させてもよい。
また、照度をリニアに時間変化させるのではなく、前記[B]の制御例5,6のように時間変化させてもよい。
【0072】
[F]制御装置40は、前記[A]の制御例1〜3において、時計装置40bが計測した時刻に従い、照明システム10を使用する就寝者が操作パネル41を用いて設定した起床時刻に、照度の時間積算値が、記憶装置40aに予め記憶されている閾値Ta,Tb,Tabに達するまで、照明用光源32a,32bを発光させる。
このようにすれば、就寝者が設定した起床時刻に気分良く自然に覚醒させることができる。
【0073】
以上のように、発光させる光源の個数、発光スペクトル(分光特性)、照度などが時間変化した場合であっても、その照度の時間積算値が所定の閾値に達すれば、睡眠から覚醒に導くことができる。
尚、制御装置40は、前記[B]〜[E]の各制御例においても、時計装置40bが計測した時刻に従い、照明システム10を使用する就寝者が操作パネル41を用いて設定した起床時刻に、照度の時間積算値が記憶装置40aに予め記憶されている閾値に達するまで、照明用光源32a,32bを発光させるようにしてもよい。
【0074】
<照明システム10の作用・効果>
本実施形態の照明システム10によれば、以下の作用・効果を得ることができる。
【0075】
[1]照明システム10は、照明用光源32a,32bから放射される放射光について、その照度の時間積算値を算出し、その照度の時間積算値が、予め設定しておいた閾値Ta,Tb,Tabに達するまで照明用光源32a,32bを発光させる。
【0076】
照明システム10では、照度の時間積算値が閾値に達するまで光源を発光させるため、過剰な光量の光を過剰な時間に渡って照射するのを防止可能であり、光が無駄にならないことから効率を高くできる。
また、照明用光源32a,32bの制御条件(照度の時間積算値が閾値に達するまで光源照明用光源32a,32bを発光させる)が明確であるため、十分な覚醒効果を得ることができる。
従って、本実施形態によれば、自然で確実な覚醒効果を得ることが可能で、高効率で省エネルギーな照明システム10を提供することができる。
【0077】
[2]照明システム10は、前記閾値を、基準用光源xにおける照度の時間積算値の閾値Txに基づいて算出して設定する。
従って、基準用光源xにおける照度の時間積算値の閾値Txを実験により求めておけば、照明システムを構成する照明用光源の前記閾値を新たに実験により求める必要が無いため、前記閾値の設定を簡単に行うことができる。
【0078】
[3]照明システム10は、数式8に示すように、前記閾値を、基準用光源xの発光スペクトルSx(λ)と、照明用光源の発光スペクトルとに基づく比を用いて算出して設定する。
従って、発光スペクトルを用いることにより、前記閾値の算出・設定をより高精度に行うことができる。
【0079】
[4]照明システム10は、数式8により、1個または複数個の照明用光源を同時に発光させた場合における前記閾値を算出して設定する。
従って、複数個の照明用光源から構成された照明システムでも、前記閾値の算出・設定を簡単かつ高精度に行うことができる。
【0080】
[5]照明システム10は、予め設定しておいた時刻に、照度の時間積算値が閾値に達するように照明用光源を発光させるため、就寝者が設定した起床時刻に気分良く自然に覚醒させることができる。
【0081】
[6]照明システム10は、瞼の透過率の高い波長域の発光スペクトルの放射光を放射する照明用光源32a(第1光源)と、メラトニンの分泌抑制効果の高い波長域の発光スペクトルの放射光を放射する照明用光源32b(第2光源)とを備える。
従って、照明用光源32aまたは照明用光源32bの一方だけの発光や、照明用光源32aと照明用光源32bの両方の発光について、前記[A]〜[E]の方法のように制御することで、就寝者の好みに合わせて確実な覚醒を促すことができる。
【0082】
[7]照明システム10は、照明用光源32a,32bとしてLEDを用いるため、発光の制御が容易であることに加え、異なる波長特性を容易に実現可能であることから、前記[1]〜[6]の作用・効果を確実に得ることができる。
【0083】
[8]
図11は、色温度が3000[K]の2種類の光La,Lbについて、発光スペクトルの相対強度と光の波長との関係を示すグラフである。
図11に示すように、同じ色温度の光でも、発光スペクトルが異なる場合がある。
図12は、
図11に示す2種類の光La,Lbについて、照度の時間積算値が等しくなるように、照度をリニアに時間変化させた例を示すグラフである。
光La,Lbは発光スペクトルが異なるため、照度の時間積算値を等しくするには、照度の時間変化量を異なる値に設定する必要がある。
【0084】
<別の実施形態>
本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、以下のように具体化してもよく、その場合でも、前記実施形態と同等もしくはそれ以上の作用・効果を得ることができる。
【0085】
[ア]前記実施形態では照明用光源32a,32bとしてLEDを用いたが、照明用光源32a,32bは、どのような光源(例えば、有機ELなどの半導体発光素子、蛍光灯、白熱灯など)によって構成してもよく、太陽光の一部を採光して光源として構成してもよい。
また、前記各種光源から成るグループから選択された2個以上の光源を併用してもよい。
【0086】
[イ]前記実施形態では照明装置30をヘッドボード23に内蔵したが、照明装置30を独立したスタンドとしてベッド20とは別体に設けてもよい。
また、照明装置30は、ソファ、ソファーベッド、布団などと併用してもよく、更には単独の照明装置として使用してもよい。
【0087】
本発明は、前記各局面および前記実施形態の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様も本発明に含まれる。本明細書の中で明示した特許公報の内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。