特許第6266376号(P6266376)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6266376
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】静圧形の非接触形メカニカルシール
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/34 20060101AFI20180115BHJP
【FI】
   F16J15/34 C
   F16J15/34 K
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-29971(P2014-29971)
(22)【出願日】2014年2月19日
(65)【公開番号】特開2015-155707(P2015-155707A)
(43)【公開日】2015年8月27日
【審査請求日】2016年9月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084342
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 久巳
(72)【発明者】
【氏名】坂倉 博之
(72)【発明者】
【氏名】大賀 光治
【審査官】 山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−105365(JP,A)
【文献】 特開平02−146374(JP,A)
【文献】 実開昭63−053074(JP,U)
【文献】 特開平11−287330(JP,A)
【文献】 実開昭60−028655(JP,U)
【文献】 実開平01−168064(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に固定された回転密封環と、シールケースに軸線方向移動可能に保持され且つ回転密封環の先端面である回転側密封端面に対向する先端面たる静止側密封端面に静圧発生溝を形成した静止密封環と、シールケースと静止密封環との間に介装されて静止密封環を回転密封環へと押圧附勢するスプリングと、シールケース及び静止密封環を貫通して静圧発生溝に至るシールガス供給路とを具備して、シールガス供給路からこれに配設したオリフィスを経て静圧発生溝にシールガスを供給することにより、静止密封環を密封端面間が接近する方向に押圧する閉力と静止密封環を密封端面間が離間する方向に押圧する開力とをバランスさせることにより、両密封環の密封端面間を非接触状態に保持しつつ被密封流体領域と非密封流体領域とをシールするように構成された静圧形の非接触形メカニカルシールにおいて、
静止密封環とシールケースとの対向周面間に一対のOリングでシールされたポケット圧導入空間を形成し、静止密封環又はシールケースにシールガス供給路におけるオリフィスより下流側の部分とポケット圧導入空間とを連通接続するポケット圧導入路を形成すると共に、ポケット圧導入空間内に臨む静止密封環部分にポケット圧導入空間内の圧力が作用することにより静止密封環を回転密封環から離間する方向へと押圧する軸線方向推力を発生させるポケット圧受圧面を形成して、前記開力が静圧発生溝から密封端面間に流出させたシールガスによって発生する第一開力に前記ポケット圧受圧面によって発生する前記軸線方向推力である第二開力を加重したものとなるように構成したことを特徴とする静圧形の非接触形メカニカルシール。
【請求項2】
前記オリフィスが静止密封環に形成されたシールガス供給路部分に配設されると共に、ポケット圧導入路が静止密封環に形成されていることを特徴とする、請求項1に記載する静圧形の非接触形メカニカルシール。
【請求項3】
前記オリフィスがシールケースに形成されたシールガス供給路部分に配設されると共に、ポケット圧導入路がシールケースに形成されていることを特徴とする、請求項1に記載する静圧形の非接触形メカニカルシール。
【請求項4】
シールガス供給路が、シールケースと静止密封環との対向周面間に形成された環状空間であって当該対向周面間に装填された第一及び第二Oリングによりシールされた連通空間と、シールケースに形成されて連通空間に連通するケース側通路と、静止密封環に形成されて静圧発生溝と連通空間とを連通接続する密封環側通路とからなることを特徴とする、請求項1〜請求項3の何れかに記載する静圧形の非接触形メカニカルシール。
【請求項5】
ポケット圧導入空間が、シールケースと静止密封環との対向周面間に形成された環状空間であって当該対向周面間に装填された第三及び第四Oリングによりシールされていることを特徴とする、請求項1〜請求項4の何れかに記載する静圧形の非接触形メカニカルシール。
【請求項6】
前記連通空間及びポケット圧導入空間がシールケースの内周面と静止密封環の外周面との間に形成されており、第二Oリングと第三Oリングとが兼用されていることを特徴とする、請求項4及び請求項5に記載する静圧形の非接触形メカニカルシール。
【請求項7】
前記ポケット圧導入空間が静止密封環の内周面とこれに径方向に対向するシールケース部分の外周面との間に形成されていることを特徴とする、請求項1〜5の何れかに記載する静圧形の非接触形メカニカルシール。
【請求項8】
静止密封環の基端部とこれに軸線方向に対向するシールケース部分との間にOリングでシールされた背圧室を形成すると共に、静止密封環に被密封流体領域と背圧室とを連通する背圧導入路を形成して、背圧室に導入された被密封流体領域の圧力により静止密封環を密封端面間が接近する方向に押圧する軸線方向推力を発生させることにより、前記閉力がスプリングによるものに当該軸線方向推力を加重したものとなるように構成したことを特徴とする、請求項1〜請求項7の何れかに記載する静圧形の非接触形メカニカルシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスを扱うブロワー、圧縮機、攪拌機等の回転機器の軸封手段として使用される静圧形の非接触形メカニカルシールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の静圧形の非接触形メカニカルシールとしては、回転軸に固定された回転密封環と、シールケースに軸線方向移動可能に保持され且つ回転密封環の先端面である回転側密封端面に対向する先端面たる静止側密封端面に静圧発生溝を形成した静止密封環と、シールケースと静止密封環との間に介装されて静止密封環を回転密封環へと押圧附勢するスプリングと、シールケース及び静止密封環を貫通して静圧発生溝に至るシールガス供給路とを具備して、シールガス供給路からこれに配設したオリフィスを経て静圧発生溝にシールガスを供給することにより、両密封環の密封端面間を非接触状態に保持しつつ被密封流体領域と非密封流体領域とをシールするように構成されたものが周知である(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
かかる非接触形メカニカルシールにあっては、静圧発生溝から密封端面間に導入されたシールガスにより密封端面間にこれを開く方向に作用する開力(密封端面間に導入されたシールガスによって発生する静圧によるもの)が発生し、この開力とスプリングにより密封端面間を閉じる方向に作用する閉力とがバランスすることにより、密封端面間に適正な隙間(一般に5〜15μmであり、以下「適正隙間」という)が形成される。
【0004】
而して、非接触形メカニカルシールを構成する静止側構成要素(シールケース及びこれに保持された静止密封環等)と回転側構成要素(回転密封環及びこれを回転軸に固定するスリーブ等)との軸線方向における相対位置(以下「構成要素相対位置」という)は上記開閉力がバランスされて密封端面間が適正隙間となるように設定され、静圧形の非接触形メカニカルシールはこのように設定された構成要素相対位置(以下「適正構成要素相対位置」という)が担保されるように組立てられる。
【0005】
ところで、回転機器の振動等により構成要素相対位置が変化して、密封端面間の隙間が適正隙間とならない場合があるが、かかる場合には、シールガス供給路にオリフィスが配設されていることから、オリフィスの効果により密封端面間の隙間が適正隙間に自動調整される(特許文献1の段落番号[0022]を参照)。すなわち、密封端面間の隙間が適正隙間より狭くなると、静圧発生溝から密封端面間に流出するシールガス量が減少して当該シールガスの流出量がオリフィスを通って静圧発生溝に供給されるシールガスの供給量より少なくなる。このように静圧発生溝におけるシールガスの流出量と供給量とが不均衡となるため、静圧発生溝内のシールガス圧(以下「ポケット圧」という)が、適正隙間が保持されているときのポケット圧(以下「適正ポケット圧」という)より上昇して、静圧発生溝から密封端面間に流出するシールガスによる開力がスプリングによる閉力より大きくなる。その結果、密封端面間の隙間が大きくなるように変化して、その隙間が適正隙間に調整される。また、密封端面間の隙間が適正隙間より広くなったときは、上記の場合とは逆に、静圧発生溝から密封端面間へのシールガスの流出量がオリフィスを通って静圧発生溝に供給されるシールガスの供給量より多くなって、ポケット圧が適正ポケット圧より下降して、静圧発生溝から密封端面間に流出するシールガスによる開力がスプリングによる閉力より小さくなる。その結果、密封端面間の隙間が小さくなるように変化して、その隙間が適正隙間に調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−211939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、構成要素相対位置が適正構成要素相対位置となるようにメカニカルシールを組立てるには高度の熟練が必要であるため、組み立て精度不良により構成要素相対位置が適正構成要素相対位置と異なる場合がある。また、適正構成要素相対位置に組み立てられたときにも、被密封流体が高温又は低温であるときにおいて常温の組み立て時と運転時とで温度条件が大きく変化することにより部品相互間に熱膨張差や熱収縮差によるギャップが生じて、構成要素相対位置が適正構成要素相対位置と異なる場合もある。このような組み立て精度不良や温度条件の変化(以下「組み立て精度不良等」という)によって構成要素相対位置が適正構成要素相対位置から偏倚した場合において、その偏倚量(ズレ量)が微小であるときには、上記したオリフィス効果による自動調整により密封端面間を適正隙間に保持させておくことができるが、当該偏倚量がこのような自動調整でカバーできない程度に大きい場合には、当該非接触形メカニカルシールによるシール機能(以下「非接触シール機能」という)が適正に発揮されず、メカニカルシール破損や大量漏れ等の大事故を招くことになる。
【0008】
すなわち、回転側構成要素の軸線方向位置が適正構成要素相対位置の場合より静止密封環を押圧する方向に偏倚しているとき又は静止側構成要素の軸線方向位置が適正構成要素相対位置の場合より回転密封環を押圧する方向に偏倚しているときは、適正構成要素相対位置にある場合に比してスプリングが圧縮されて(スプリングの圧縮量が増加されて)、スプリング荷重が増大することになる。したがって、スプリング荷重(閉力)が静圧発生溝から密封端面間に供給されたシールガスによる開力より大きくなって、密封端面間が殆ど開かないか、極端な場合は密封端面が接触した状態で相対回転することになる。その結果、非接触シール機能が適正に発揮されず、密封端面が焼き付く等の問題が生じる。
【0009】
上記とは逆に、回転側構成要素又は静止側構成要素の軸線方向位置が適正構成要素相対位置の場合より両密封環が離間する方向に偏倚しているときは、適正構成要素相対位置にある場合に比してスプリングが伸張して(スプリングの圧縮量が減少して)、スプリング荷重が減少することになる。したがって、スプリング荷重(閉力)が静圧発生溝から密封端面間に供給されたシールガスによる開力より小さくなって、密封端面間が適正隙間より大きく開いてしまうことになる。その結果、適正な非接触シール機能が発揮されず、シールガスが密封端面間から大量に流出したり、被密封流体の漏れを生じる。
【0010】
本発明は、上記した点に鑑みてなされたもので、組み立て精度不良等により構成要素相対位置が適正構成要素相対位置と異なる場合にも適正な非接触形シール機能を発揮しうる静圧形の非接触形メカニカルシールを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、回転軸に固定された回転密封環と、シールケースに軸線方向移動可能に保持され且つ回転密封環の先端面である回転側密封端面に対向する先端面たる静止側密封端面に静圧発生溝を形成した静止密封環と、シールケースと静止密封環との間に介装されて静止密封環を回転密封環へと押圧附勢するスプリングと、シールケース及び静止密封環を貫通して静圧発生溝に至るシールガス供給路とを具備して、シールガス供給路からこれに配設したオリフィスを経て静圧発生溝にシールガスを供給することにより、静止密封環を密封端面間が接近する方向に押圧する閉力と静止密封環を密封端面間が離間する方向に押圧する開力とをバランスさせることにより、両密封環の密封端面間を非接触状態に保持しつつ被密封流体領域と非密封流体領域とをシールするように構成された静圧形の非接触形メカニカルシールにおいて、上記の目的を達成すべく、特に、静止密封環とシールケースとの対向周面間に一対のOリングでシールされたポケット圧導入空間を形成し、静止密封環又はシールケースにシールガス供給路におけるオリフィスより下流側の部分とポケット圧導入空間とを連通接続するポケット圧導入路を形成すると共に、ポケット圧導入空間内に臨む静止密封環部分にポケット圧導入空間内の圧力が作用することにより静止密封環を回転密封環から離間する方向へと押圧する軸線方向推力を発生させるポケット圧受圧面を形成して、前記開力が静圧発生溝から密封端面間に流出させたシールガスによって発生する第一開力に前記ポケット圧受圧面によって発生する前記軸線方向推力である第二開力を加重したものとなるように構成しておくことを提案するものである。
【0012】
かかる静圧形の非接触形メカニカルシールの好ましい実施の形態にあっては、前記オリフィスは静止密封環に形成されるシールガス供給路部分に配設されると、ポケット圧導入路が静止密封環に形成される。或いは、前記オリフィスはシールケースに形成されるシールガス供給路部分に配設されると、ポケット圧導入路がシールケースに形成される。また、シールガス供給路は、シールケースと静止密封環との対向周面間に形成された環状空間であって当該対向周面間に装填された第一及び第二Oリングによりシールされた連通空間と、シールケースに形成されて連通空間に連通するケース側通路と、静止密封環に形成されて静圧発生溝と連通空間とを連通接続する密封環側通路とからなる。また、ポケット圧導入空間は、シールケースと静止密封環との対向周面間に形成された環状空間であって当該対向周面間に装填された第三及び第四Oリングによりシールされる。この場合、前記連通空間及びポケット圧導入空間がシールケースの内周面と静止密封環の外周面との間に形成されており、第二Oリングと第三Oリングとが兼用されていることが好ましい。また、シールケースが静止密封環の内周面に径方向に対向する部分を有するものである場合には、前記ポケット圧導入空間は静止密封環の内周面と当該シールケース部分の外周面との間に形成しておくこともできる。また、被密封流体領域が圧力変動する場合には、静止密封環の基端部とこれに軸線方向に対向するシールケース部分との間にOリングでシールされた背圧室を形成すると共に、静止密封環に被密封流体領域と背圧室とを連通する背圧導入路を形成して、背圧室に導入された被密封流体領域の圧力により静止密封環を密封端面間が接近する方向に押圧する軸線方向推力を発生させることにより、前記閉力がスプリングによるものに当該軸線方向推力を加重したものとなるように構成しておくことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の静圧形の非接触形メカニカルシールは、静圧発生溝から密封端面間に流出するシールガスの圧力による第一開力と静圧発生溝内のシールガスの圧力(ポケット圧)がポケット圧受圧面に作用することによって発生する第二開力とが開力として作用する構成となし、構成要素相対位置の適正構成要素相対位置からの偏倚によってスプリング荷重が増減変化した場合にこれに伴って第二開力も増減変化するように構成したものであるから、スプリング荷重の増減変化によって閉力が増減した場合にも、適正構成要素相対位置にある場合と同様に開力と閉力とをバランスさせることができ、適正構成要素相対位置にある場合と同等の非接触シール機能を発揮させることができる。
【0014】
このように、本発明の静圧形の非接触形メカニカルシールは、組み立て精度不良等により構成要素相対位置が適正構成要素相対位置から偏倚している場合にも、構成要素相対位置が適正構成要素相対位置である場合と同様に良好な非接触シール機能を発揮させることができるものであるから、組み立てを高度の熟練を必要とすることなく未熟練者でも容易に行うことができ、また組み立て時と運転時とで温度条件が大幅に異なる用途にも好適に使用することができる、実用的価値極めて大なるものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は本発明に係る静圧形の非接触形メカニカルシールの一例を示す断面図である。
図2図2図1の要部を拡大して示す詳細断面図である。
図3図3図1のIII−III線に沿う断面図である。
図4図4は本発明に係る静圧形の非接触形メカニカルシールの変形例を示す図1対応の断面図である。
図5図5は本発明に係る静圧形の非接触形メカニカルシールの他の変形例を示す図1対応の断面図である。
図6図6は本発明に係る静圧形の非接触形メカニカルシールの更に他の変形例を示す図1対応の断面図である。
図7図7は本発明に係る静圧形の非接触形メカニカルシールの更に他の変形例を示す図1対応の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて具体的に説明する。
【0017】
図1は本発明に係る静圧形の非接触形メカニカルシールの一例を示す断面図であり、図2図1の要部を拡大して示す詳細断面図であり、図3図1のIII−III線に沿う断面図である。
【0018】
図1に示す静圧形の非接触形メカニカルシールM1は、被密封流体領域である機内ガス領域Hと非密封流体領域である機外ガス領域(この例では大気領域)Lとを遮蔽シールするものであり、回転機器のハウジング(機器ハウジング)1に取り付けられた筒状のシールケース2と、シールケース2を同心状に洞貫する当該回転機器の回転軸3に挿通固定されたスリーブ4と、シールケース2に軸線方向移動可能に保持された静止密封環5と、静止密封環5より機内ガス領域H側に位置して静止密封環5に直対向した状態で回転軸3に固定された回転密封環6と、シールケース2と静止密封環5との間に介装されて静止密封環5を回転密封環6へと押圧附勢するスプリング7と、第一開力Fo1を発生させる第一開力発生手段8と、第二開力Fo2を発生させる第二開力発生手段9とを具備して、スプリング荷重Fc1による閉力Fc(=Fc1)と開力Fo(=Fo1+Fo2)とをバランスさせることにより両密封環5,6の対向端面間である密封端面5a,6a間を非接触状態に保持しつつ、両密封端面5a,6aの相対回転部分においてその外周側領域である機内ガス領域Hとその内周側領域である機外大気領域Lとの間をシールするように構成されている。なお、以下の説明において、前後とは図1及び図2における左右を意味するものとする。
【0019】
シールケース2は、図1に示す如く、機器ハウジング1の外部端(前端部)1aに水平をなして取り付けられた円筒状のケース本体2aとその基端部(前端部)に取り付けられた円環状のフランジ体2bとを適当数の取付ボルト2cにより連結してなり、両体2a,2bを貫通する適当数の取付ボルト2dにより機器フランジ1に取り付けられている。
【0020】
スリーブ4は、図1に示す如く、回転軸3に挿通された円筒状の本体部4aとその先端部(後端部)に膨出形成された円環状の受止部4bとで一体構成された第一スリーブ部分と、回転軸3に挿通された厚肉円筒状の固定部4cとその先端外周部(後端外周部)から軸線方向に延びて本体部4aに外嵌された薄肉円筒状の押圧部4dとで一体構成された第二スリーブ部分とに分割構成されている。而して、スリーブ4は、図1に示す如く、固定部4cに挿通させた適当数の連結ボルト4eを本体部4aに螺着することにより第一スリーブ部分4a,4bと第二スリーブ部分4c,4dとを一体連結してなるものである。而して、スリーブ4は、固定部4cにおけるシールケース2から大気領域L側に突出する部分に螺合させた適当数のセットスクリュー4fを回転軸3へと締付けることにより、回転軸3に挿脱可能に固定される。なお、スリーブ4の外径は受止部4bにおいて最大となっており、受止部4bより大気領域L側における外径は同一(一定)である。
【0021】
静止密封環5は、スリーブ4の押圧部4dに同心状に遊嵌された状態で、シールケース2に軸線方向(前後方向)移動可能に且つ相対回転不能に保持されている。すなわち、静止密封環5は、図1に示す如く、その外周面とシールケース2のケース本体2aの内周面との間に軸線方向に所定間隔を隔てて並列する前後一対の第一及び第二Oリング10,11を介在させた二次シール状態でシールケース2に軸線方向に移動可能に保持されている。また静止密封環5は、図1に示す如く、その基端部(前端部)に穿設した適当数の係合凹部5bにシールケース2のフランジ体2bに植設したドライブピン12を係合させることによって、一定範囲での軸線方向移動が許容された状態で、シールケース2に対する相対回転が阻止されている。この例では、静止密封環5がカーボン製の環状体であり、その先端面(後端面)は軸線に直交する平滑な環状平面である密封端面(静止側密封端面)5aに構成されている。なお、静止密封環5の外周面には第一及び第二Oリング10,11間に位置して両Oリング10,11の相互接近方向への移動を規制する環状突起5cが形成されており、フランジ体2bにはケース本体2aと静止密封環5との対向周面間に突出して第一Oリング10の第二Oリング11から離間する方向への移動を規制する円筒状突起2eが形成されており、ケース本体2aの内周面には第二Oリング11の第一Oリング10から離間する方向への移動を規制する環状段部2fが形成されている。また、環状突起5cは、シールケース2を機器ハウジング1から取り外した場合において、第二Oリング11に衝合することにより、スプリング7の附勢力による静止密封環5のシールケース2(ケース本体2a)からの脱落を防止するものである。
【0022】
回転密封環6は、静止密封環5より機内ガス領域H側(後方側)に配して、回転軸3にスリーブ4を介して固定されている。すなわち、回転密封環6は、図1に示す如く、シールケース2のケース本体2a内に配して、静止密封環5と直対向した状態でスリーブ4の本体部4aに嵌合されると共に連結ボルト4eを締付けてスリーブ4の受止部4bと押圧部4dとの間に挟圧させることにより、スリーブ4に固定されている。回転密封環6の先端面(前端面)は軸線に直交する平滑な環状平面である密封端面(回転側密封端面)6aに構成されている。この例では、回転密封環6がステンレス鋼等の金属製の円環状体であり、その先端面にはセラミックス層6bが被覆形成されており、このセラミックス層6bで回転側密封端面6aが構成されている。また、回転密封環6は、その基端部(後端部)に形成した係合凹部6cにスリーブ4の受止部4bに植設したドライブピン13を係合させることによって、スリーブ4つまり回転軸3に対する相対回転が阻止されている。
【0023】
スプリング7は、図1に示す如く、静止密封環5とシールケース2のフランジ体2bとの間に周方向に等間隔を隔てて介装された複数個のコイルスプリング(一個のみ図示)で構成されていて、静止密封環5を回転密封環6へと押圧附勢するものであり、静止密封環5を密封端面5a,6a間が接近する方向に押圧附勢する軸線方向推力、つまり密封端面5a,6aを閉じる方向に作用する閉力Fcを発生させるものである。
【0024】
第一開力発生手段8は、図1に示す如く、静止側密封端面5aに形成した静圧発生溝81と、シールケース2及び静止密封環5に形成されてシールガスSを静圧発生溝81に供給するシールガス供給路82と、シールガス供給路82に配設されたオリフィス83とを具備して、静圧発生溝81から密封端面5a,6a間に流出させたシールガスSにより静止密封環5を密封端面5a,6a間が離間する方向に押圧する軸線方向推力、つまり密封端面5a,6a間を開く方向に作用する第一開力Fo1を発生させるものである。
【0025】
静圧発生溝81は、図1図3に示す如く、静止側密封端面5aの径方向における中央部又は略中央部に形成されており、静止側密封端面5aと同心状の環状をなして連続又は断続する断面三角形状の浅い凹溝であり、この例では後者を採用している。すなわち、静圧発生溝81は、図3に示す如く、静止側密封端面5aと同心環状をなして並列する複数の円弧状凹溝81aで構成されている。
【0026】
シールガス供給路82は、図1に示す如く、シールケース2及び静止密封環5に形成された一連のものであり、シールケース2と静止密封環5との対向周面間に形成された連通空間82aと、シールケース2のケース本体2aを貫通して連通空間82aに連通するケース側通路82bと、静止密封環5を貫通して連通空間82aから静圧発生溝81に至る密封環側通路82cとからなる。
【0027】
連通空間82aは、図1に示す如く、シールケース2のケース本体2aの内周面と静止密封環5の外周面との間に形成された環状空間であって、当該周面間に装填された第一及び第二Oリング10,11によってシールされている。なお、静止密封環5の外周面における第一及び第二Oリング10,11の接触面(シール面)の径は同一に設定されていて、静止密封環5に連通空間82a内の圧力による軸線方向推力が発生しないように工夫されている。
【0028】
ケース側通路82bは、その上流端に所定のシールガス供給源(図示せず)から導かれたシールガス供給管84を接続したもので、機内ガス領域Hのガス(機内ガス)より高圧のシールガスSを連通空間82aに供給する。
【0029】
密封環側通路82cは、図2に示す如く、その上流端を静止密封環5の環状突起5cの外周面において連通空間82aに開口させたもので、その下流側部分は分岐されていて、各分岐部分82dが静圧発生溝81の各円弧状凹溝81aに連通接続されている。
【0030】
オリフィス83は、図1及び図2に示す如く、密封環側通路82cの上流側部分つまり分岐されていない密封環側通路部分の適所に配設されている。
【0031】
したがって、第一開力発生手段8によれば、ケース側通路82bから連通空間82aに供給されたシールガスSが密封環側通路82cからオリフィス83を経た上、各分岐部分82dから静圧発生溝81の各円弧状凹溝81aに供給され、静圧発生溝81から密封端面5a,6a間に流出するシールガスSによって、密封端面5a,6a間にこれを開く方向に作用する静圧による第一開力Fo1を発生させる。
【0032】
なお、シールガスSとしては、大気中に放出しても無害であり且つ機内ガスに悪影響を及ぼさない性状のものを、シール条件に応じて適宜に選定する。この例では、各種物質に対して不活性であり且つ人体に無害である清浄な常温の窒素ガスが使用されている。また、シールガス供給管84から供給されるシールガスSの圧力(シールガス元圧)は、一般に、静圧発生溝81内の圧力(ポケット圧)Pが機内ガス圧(機内ガス領域Hの圧力)より0.5〜1.5bar高くなるように、機内ガス圧より1〜3bar程度高く設定されている。また、シールガス供給路82から静圧発生溝81へのシールガスSの供給は当該回転機器の運転中(回転軸3の駆動中)において行われ、運転停止後には停止される。当該回転機器の運転は、シールガスSの供給が開始された後であって、密封端面5a,6a間が非接触状態に保持された後において開始され、シールガスSの供給停止は、当該回転機器の運転停止後であって回転軸3が完全に停止した後に行なわれる。
【0033】
第二開力発生手段9は、図1及び図2に示す如く、静止密封環5とシールケース2との対向周面間に形成されたポケット圧導入空間91と、静止密封環5に形成されたポケット圧導入路92及びポケット圧受圧面93とからなる。
【0034】
ポケット圧導入空間91は、図2に示す如く、静止密封環5の外周面とこれに対向するシールケース2のケース本体2aの内周面との間に連通空間82aより静止側密封端面5a側(後方)に位置して形成された環状空間であって、当該対向周面間に装填した第三及び第四Oリング94,95によってシールされている。この例では、第三Oリング94を前記第二Oリング11で兼用して、ポケット圧導入空間91と前記連通空間82aとを第二Oリング11(第三Oリング94)を挟んで軸線方向に隣接させてある。また、第四Oリング95の第三Oリング94から離間する方向への移動は、ケース本体2aの内周部に形成した環状突起2gによって阻止されている。また、静止密封環5の外周面における第四Oリング95の接触面(シール面)の径を当該外周面における第三Oリング94(第二Oリング11)の接触面(シール面)の径より小さく設定して、両シール面を連結する環状段部(後述するポケット圧受圧面)93により第四Oリング95の第三Oリング94に接近する方向への移動を阻止している。
【0035】
ポケット圧導入路92は、図1及び図2に示す如く、静止密封環5に形成されてポケット圧導入空間91と密封環側通路82dにおけるオリフィス83より下流側の部分である一つの分岐部分82dとを連通接続して、当該分岐部分82dから円弧状凹溝81aに供給されるシールガスSの一部をポケット圧導入空間91に導入させる、つまり静圧発生溝81内の圧力であるポケット圧Pをポケット圧導入空間91に導入させる。なお、ポケット圧導入路92の下流端は、第三Oリング94の第四Oリング方向への移動を阻止する環状段部2fと第四Oリング95の第三Oリング方向への移動を阻止する環状段部93との間において、第三Oリング94(第二Oリング11)が接触する静止密封環5の外周面部分に開口されている。
【0036】
ポケット圧受圧面93は、図1及び図2に示す如く、ポケット圧導入空間93内に臨む静止密封環5部分に形成された環状面であって、ポケット圧導入空間91内の圧力(ポケット圧)Pが作用することにより静止密封環5を密封端面5a,6a間が離間する方向へと押圧する軸線方向推力、つまり密封端面5a,6a間を開く第二開力Fo2を発生させる。この例では、ポケット圧受圧面93が、静止密封環5の外周面における第三Oリング94が接触する大径部分と第四Oリング95が接触する小径部分とを連結している、軸線方向に直交する円環状面で構成されている。なお、ポケット圧受圧面93の面積は、ポケット圧Pの大きさに拘らず、第二開力Fo2が第一開力Fo1よりも小さくなるように、密封端面5a,6aの面積よりも小さく設定されている。
【0037】
また、この例では、当該メカニカルシールM1をカートリッジ形のものに構成してある。すなわち、回転側構成要素(スリーブ4及びこれに固定された回転密封環6)Maと静止側構成要素(シールケース2及びこれに保持された静止密封環5等)Mbとを、図1に鎖線図示する如く、シールケース2のフランジ体2bに取付ボルト14により取り付けたセット爪15をスリーブ4の固定部4cに形成した環状凹部4gに係合させることにより当該メカニカルシールM1の組立状態と同一状態に連結するように構成して、この連結状態のまま取付ボルト2d及びセットスクリュー4fを操作することにより機器ハウジング1及び回転軸3に組み込み或いは取り外しできるように工夫してある。
【0038】
以上のように構成された静圧形の非接触形メカニカルシールM1にあっては、第一開力発生手段8により第一開力Fo1が発生する。すなわち、シールガスSがケース側通路82bから連通空間82a及び密封環側通路82cを経て静圧発生溝81に供給されると、静圧発生溝81から密封端面5a,6a間に流出されたシールガスSにより、密封端面5a,6a間にこれを開く方向に作用する第一開力Fo1が発生する。この第一開力Fo1は、静圧発生溝81から密封端面5a,6a間に流出されたシールガスSによって発生する静圧によるものであり、この静圧は静圧発生溝81内のシールガス圧力であるポケット圧Pより小さいが、両領域H,Lの圧力より高いことから、シールガスSは密封端面5a,6a間から両領域H,Lに流出することになる。
【0039】
また、第一開力Fo1の発生と同時に、第二開力発生手段9により第二開力Fo2が発生する。すなわち、密封環側通路82cにおけるオリフィス83より下流側の部分つまり分岐部分82dに接続されたポケット圧導入路92から静圧発生溝81(円弧状凹溝81a)に供給されるシールガスSの一部がポケット圧導入空間91に導入されて、ポケット圧導入空間91内のポケット受圧面93に静圧発生溝81内の圧力と同一の圧力(ポケット圧)Pが作用し、静止密封環5にこれを回転密封環6から離間させる方向の軸線方向推力が発生する。この軸線方向推力が密封端面5a,6aを開く方向に作用する第二開力Fo2である。この第二開力Fo2はポケット圧Pとポケット圧受圧面91の面積との積で得られる。
【0040】
一方、密封端面5a,6aを接近させる方向に作用する閉力Fcはスプリング7のみによって生じる。すなわち、この例では閉力Fcはスプリング荷重Fc1で得られる。
【0041】
したがって、回転密封環6等の回転側構成要素Maと静止密封環5等の静止側構成要素Mbとの軸線方向における相対位置(構成要素相対位置)が適正な構成要素相対位置である適正構成要素相対位置にある場合において、スプリング7のバネ定数及びシールガス供給管84から供給されるシールガスSの圧力(シールガス元圧)を開力Fo(第一開力Fo1に第二開力Fo2を加重したものであり、Fo=Fo1+Fo2である)と閉力Fc(スプリング荷重Fc1)とがバランス(Fo1+Fo2=Fc1)するように設定しておくことによって、密封端面5a,6aが適正隙間(一般に、5〜15μm)の非接触状態で相対回転して、当該相対回転部分5a,6aにおいて両領域H,L間が良好に遮蔽シールされる。以下、適正構成要素相対位置にある場合におけるスプリング荷重Fc1を「適正スプリング荷重」といい、適正隙間が保持されているときのポケット圧Pを「適正ポケット圧」という。
【0042】
ところで、回転機器の振動等により構成要素相対位置が適正構成要素相対位置から偏倚して密封端面5a,6aの隙間が適正隙間から変化した場合にあって、スプリング長が殆ど変化せずスプリング荷重Fc1が適正スプリング荷重と略同一又はこれに近似するものとなるときには、冒頭で述べたと同様に、オリフィス83の効果により当該隙間は適正隙間に自動的に調整復帰される。すなわち、密封端面5a,6aの隙間が適正隙間より大きくなったときは、ポケット圧Pが適正ポケット圧より低下するため、開力Fo(=Fo1+Fo2)が閉力Fc(=Fc1)より小さくなり、その結果、密封端面5a,6a間の隙間が小さくなるように変化して、その隙間が適正隙間に調整される。逆に、密封端面5a,6a間の隙間が適正隙間より小さくなったときは、ポケット圧Pが適正ポケット圧より高くなるため、開力Foが閉力Fcより大きくなり、その結果、密封端面5a,6a間の隙間が大きくなるように変化して、その隙間が適正隙間に調整される。なお、このとき、密封端面5a,6a間の隙間が適正隙間に調整されることによりポケット圧Pも適正ポケット圧に復帰されることになる。
【0043】
而して、当該非接触形メカニカルシールM1にあっては、組み立て精度不良等により、構成要素相対位置が適正構成要素相対位置からオリフィス効果による自動調整によってカバーできる範囲を超えて偏倚した場合にも、構成要素相対位置が適正構成要素相対位置にある場合と同様に良好な非接触シール機能が発揮される。
【0044】
すなわち、回転側構成要素Maの軸線方向位置が適正構成要素相対位置の場合より静止密封環5を押圧する方向(前方)に偏倚しているとき又は静止側構成要素Mbの軸線方向位置が適正構成要素相対位置の場合より回転密封環6を押圧する方向(後方)に偏倚しているときは、適正構成要素相対位置にある場合に比してスプリング7が圧縮されて(スプリング7の圧縮量が増加されて)、スプリング荷重Fc1が適正スプリング荷重より増大することになる。そして、スプリング荷重Fc1(閉力Fc)が適正スプリング荷重より増大すると、閉力Fcが開力Foより大きくなるため密封端面5a,6a間が適正隙間となるまで開かず、静圧発生溝81内の圧力(ポケット圧)Pが適正ポケット圧より高くなる。これに伴って、ポケット圧受圧面93に作用する圧力(ポケット圧)Pも高くなり、第二開力Fo2が増大する。したがって、閉力Fc及び開力Foが何れも適正構成要素相対位置にある場合より増大することになる。
【0045】
また、上記とは逆に、回転側構成要素又は静止側構成要素の軸線方向位置が適正構成要素相対位置の場合より両密封環が離間する方向に偏倚(回転側構成要素については後方に、また静止側構成要素については前方に偏倚)しているときは、適正構成要素相対位置にある場合に比してスプリング7が伸張されて(スプリング7の圧縮量が減少されて)、スプリング荷重Fc1が適正スプリング荷重より減少することになる。そして、スプリング荷重Fc1(閉力Fc)が適正スプリング荷重より減少すると、開力Foが閉力Fcより大きくなるため密封端面5a,6a間が適正隙間より大きく開くことになり、静圧発生溝81内の圧力(ポケット圧)Pが適正ポケット圧より低くなる。これに伴って、ポケット圧受圧面93に作用する圧力(ポケット圧)Pが低くなり、第二開力Fo2が減少する。したがって、閉力Fc及び開力Foが何れも適正構成要素相対位置にある場合より減少することになる。
【0046】
このように、スプリング荷重Fc1が増加する場合はこれに応じて第二開力Fo2が増加し、またスプリング荷重Fc1が減少する場合はこれに応じて第二開力Fo2も減少することから、ポケット受圧面93の面積を適宜に設定しておくことにより、スプリング荷重Fc1の増加量と第二開力Fo2の増加量との差及びスプリング荷重Fc1の減少量と第二開力Fo2の減少量との差を極めて小さくすることができる。
【0047】
したがって、構成要素相対位置が適正構成要素相対位置から偏倚した場合にも、開力Foと閉力Fcとのバランス上、スプリング荷重Fc1が実質的に大きく増減変化しないものとなり、スプリング荷重Fc1が増減変化してもその変化量は前記オリフィス83の効果による自動調整でカバーできる程度となる。その結果、密封端面5a,6a間の隙間を適正隙間に保持することができ、適正構成要素相対位置にある場合と同様に良好な非接触シール機能を発揮させることができる。
【0048】
なお、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の基本原理を逸脱しない範囲において適宜に改良、変更することができる。
【0049】
例えば、ポケット圧導入空間91及びポケット圧導入路92は、図4図5又は図6に示す如く構成しておくことができる。
【0050】
すなわち、図4に示す静圧形の非接触形メカニカルシールM2では、シールケース2のフランジ体2bにその内周部から静止密封環5の内周部へと突出する円筒状の保持体2hを一体形成し、静止密封環5を、その外周面とシールケース2のケース本体2aの内周面との間に軸線方向に所定間隔を隔てて並列する前後一対の第一Oリング10及び第二Oリング11(第三Oリング94)を介在させると共に静止密封環5の内周面とシールケース2の保持体2hの外周面との間に第五Oリング16を介在させた二次シール状態でケース本体2aと保持体2hとの間に嵌合させることにより、シールケース2に軸線方向に移動可能に保持し、第四Oリング95をシールケース2のケース本体2aの内周部に形成した環状のOリング溝2iに係合保持させると共に、密封環側通路82cにおけるオリフィス83より下流側の部分(分岐部分82d)に接続させたポケット圧導入路92の下流端を、静止密封環5の外周面であって第四Oリング95が接触する面(シール面)においてポケット圧受圧面93とOリング溝2iとの間に開口させてある。なお、静止密封環5とシールケース2のフランジ体2bとの軸線方向対向端面間に形成される空間(スプリング7及びドライブピン12が配置された空間)はOリング10,16でシールされているが、当該空間はフランジ体2bに形成した開放孔2kにより非密封流体領域である大気領域Lに開放されている。
【0051】
また、図5に示す静圧形の非接触形メカニカルシールM3では、シールケース2のフランジ体2bにその内周部から静止密封環5の内周部へと突出する円筒状の保持体2jを一体形成し、静止密封環5を、その外周面とシールケース2のケース本体2aの内周面との間に軸線方向に所定間隔を隔てて並列する前後一対の第一及び第二Oリング10,11を介在させると共に静止密封環5の内周面とシールケース2の保持体2jの外周面との間に軸線方向に所定間隔を隔てて並列する前後一対の第三及び第四Oリング94,95を介在させた二次シール状態でケース本体2aと保持体2jとの間に嵌合させることにより、シールケース2に軸線方向に移動可能に保持し、静止密封環5の内周面を第三Oリング94が接触する小径面5dと第四Oリング95が接触する大径面5eとからなるものとして、小径面5dと大径面5eとの環状境界面をポケット圧受圧面93とすると共に静止密封環5の内周面とこれに径方向に対向するシールケース部分である保持体2jの外周面との間の環状空間を第三及び第四Oリング94,95でシールされたポケット圧導入空間91となし、密封環側通路82cにおけるオリフィス83より下流側の部分(分岐部分82d)に接続させたポケット圧導入路92の下流端をポケット圧受圧面93と第三Oリング94(保持体2jの外周面に形成した環状のOリング溝に係合保持されている)との間においてポケット圧導入空間91に開口させてある。
【0052】
また、図6に示す静圧形の非接触形メカニカルシールM4では、オリフィス83をケース側通路82bに配設して、ポケット圧導入路92をシールケース2(ケース本体2a)に形成してある。すなわち、ポケット圧導入路92の上流端をケース側通路82bにおけるオリフィス83より下流側の部分に接続すると共に、その下流端をケース本体2aの内周面であって第四Oリング95が接触している部分において第三Oリング94(第二Oリング11)と第四Oリング95とでシールされたポケット圧導入空間91に開口させてある。なお、図4図6に示す非接触形メカニカルシールM2,M3,M4の構成は上記した点を除いて図1に示す非接触形メカニカルシールM1と同様であるから、この非接触形メカニカルシールM1の構成に対応する部分については、図4図6において図1と同一の符号を使用することによって、その詳細な説明は省略する。
【0053】
また、本発明の静圧形の非接触形メカニカルシールは、機内ガス領域Hが圧力変動する条件下でも好適に使用することができるが、かかる条件下で使用する場合には図7に示す如く構成しておくことが好ましい。
【0054】
すなわち、図7に示す静圧形の非接触形メカニカルシールM5では、静止密封環5の基端部5fとこれに軸線方向に対向するシールケース部分であるフランジ体2bとの間に第一及び第五Oリング10,16でシールされた背圧室17を形成すると共に、静止密封環5に被密封流体領域(機内ガス領域)Hと背圧室17とを連通する背圧導入路18を形成して、背圧室17に背圧導入路18から導入された機内ガス(被密封流体)の圧力によって静止密封環5の基端部5fに第二閉力Fc2としての推力が作用するように構成されている。かかる構成によれば、閉力Fcがスプリング荷重Fc1に上記第二閉力Fc2が加重されたものとなって機内ガス領域Hの圧力変動に応じて変化することから、機内ガス領域Hの圧力変動に拘らず、開力Fo(=Fo1+Fo2)と閉力Fc(=Fc1+Fc2)とがバランスされて密封端面5a,6aが適正な非接触状態に保持される。この静圧形の非接触形メカニカルシールM5においても、取り付け精度不良等により構成要素相対位置が適正構成要素相対位置から偏倚して、スプリング荷重Fc1が増加又は減少した場合、上記したと同様に、スプリング荷重Fc1の増加量又は減少量に応じて第二開力Fo2が増加又は減少することにより、開閉力Fo,Fcのバランス上、スプリング荷重Fc1が実質的に適正スプリング荷重と略同一又は近似するものとなり、適正構成要素相対位置にある場合と同等の非接触シール機能が発揮されることになる。なお、図7に示す非接触形メカニカルシールM4の構成は上記した点を除いて図4に示す非接触形メカニカルシールM2と同一であるから、この非接触形メカニカルシールM2の構成に対応する部分については、図7において図4と同一の符号を使用することによって、その詳細な説明は省略する。
【符号の説明】
【0055】
1 機器ハウジング(ハウジング)
1a 機器ハウジングの外部端
2 シールケース
2a ケース本体
2b フランジ体
2c 取付ボルト
2d 取付ボルト
2e 円筒状突起
2f 環状段部
2g 環状突起
2h 保持体
2i Oリング溝
2j 保持体
2k 開放孔
3 回転軸
4 スリーブ
4a 本体部
4b 受止部
4c 固定部
4d 押圧部
4e 連結ボルト
4f セットスクリュー
4g 環状凹部
5 静止密封環
5a 静止側密封端面
5b 係合凹部
5c 環状突起
5d 小径面
5e 大径面
5f 静止密封環の基端部
6 回転密封環
6a 回転側密封端面
6b セラミックス層
6c 係合凹部
7 スプリング
8 第一開力発生手段
9 第二開力発生手段
10 第一Oリング
11 第二Oリング
12 ドライブピン
13 ドライブピン
14 取付ボルト
15 セット爪
16 第五Oリング
17 背圧室
18 背圧導入路
81 静圧発生溝
81a 円弧状凹溝
82 シールガス供給路
82a 連通空間
82b ケース側通路
82c 密封環側通路
82d 分岐部分
83 オリフィス
84 シールガス供給管
91 ポケット圧導入空間
92 ポケット圧導入路
93 ポケット圧受圧面(環状段部)
94 第三Oリング
95 第四Oリング
H 機内ガス領域(被密封流体領域)
L 大気領域(非密封流体領域)
M1 静圧形の非接触形メカニカルシール
M2 静圧形の非接触形メカニカルシール
M3 静圧形の非接触形メカニカルシール
M4 静圧形の非接触形メカニカルシール
M5 静圧形の非接触形メカニカルシール

Ma 回転側構成要素
Ma 静止側構成要素
S シールガス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7