特許第6266380号(P6266380)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6266380
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】H形鋼の開先加工方法及び開先加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23C 3/12 20060101AFI20180115BHJP
【FI】
   B23C3/12 D
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-36933(P2014-36933)
(22)【出願日】2014年2月27日
(65)【公開番号】特開2015-160279(P2015-160279A)
(43)【公開日】2015年9月7日
【審査請求日】2017年1月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207285
【氏名又は名称】大東精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100093997
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀佳
(72)【発明者】
【氏名】芹田 正利
【審査官】 山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−277821(JP,A)
【文献】 特開平05−023911(JP,A)
【文献】 特開2011−148050(JP,A)
【文献】 特開平06−277924(JP,A)
【文献】 実開昭60−186101(JP,U)
【文献】 実開昭63−186515(JP,U)
【文献】 米国特許第05096346(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 3/12,5/02,
B23B 3/00−11/00,
B23D 79/00−79/12,
B23K 31/00,9/02−9/038,
E04B 1/38−1/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
H形鋼端部に対し、昇降可能なカッターヘッドに装着された、少なくとも追い込みカッターと内開先カッター及び外開先カッターにより、内・外開先加工を行う開先加工方法であって、前記H形鋼をクランプ手段で位置決め固定した状態で当該H形鋼の端部に追い込みカッターにより追い込み加工し、続いて前記H形鋼の端部に対する前記内開先カッターの、前記H形鋼長手方向における相対位置を調整したのち、前記H形鋼の一方のフランジに前記内開先カッターにより内開先を形成するとともに、他方のフランジに前記外開先カッターにより外開先を形成するようにしたことを特徴とする開先加工方法。
【請求項2】
前記H形鋼の両側に前記カッターヘッドと前記クランプ手段を有する一対の支持フレームを配設し、当該一対の支持フレームの少なくとも一方を前記H形鋼長手方向に移動可能に構成し、前記H形鋼の端部を追い込み加工し、続いて、前記H形鋼長手方向に移動可能な支持フレームのクランプ手段を解放し、当該移動可能な支持フレームを所定量移動させることで、前記内開先カッターのH形鋼長手方向における前記H形鋼端部との相対位置を調整した後、前記クランプ手段をクランプし直すことを特徴とする、請求項1の開先加工方法。
【請求項3】
前記H形鋼の端部を追い込み加工し、続いて、前記H形鋼長手方向に移動しない支持フレームのクランプ手段を開放し、前記H形鋼長手方向に移動可能な支持フレームのクランプ手段を閉じた状態のまま当該支持フレームを所定量移動させ、これにより前記H形鋼を長手方向に所定量移動させることで、前記内開先カッターのH形鋼長手方向における前記H形鋼端部との相対位置を調整した後、前記クランプ手段をクランプし直すことを特徴とする、請求項1の開先加工方法。
【請求項4】
前記内開先カッターと前記H形鋼端部との相対位置の調整を、前記H形鋼のフランジ厚、開先角度及びルート面幅に基づいて決定するようにしたことを特徴とする、請求項2又は3の開先加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱・梁接合構造に使用するH形鋼の端部への「ノンスカラップ、内・外開先加工」を、能率よく、かつ精度よく行う開先加工方法と開先加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄骨建築において鉄骨柱に梁用H形鋼の端部を接合するには、「工場溶接」と「現場溶接」の二つの工法がある。工場溶接は、梁用H形鋼の端部を1m前後の長さに梁材から切り取って「仕口材」とし、この仕口材を工場で溶接する。工場溶接によると、超音波探傷検査等により溶接部の品質・性能を確保することが容易であり、建築現場では仕口材に梁材をボルト接合するだけなので作業性がよく、工期短縮をはかれるという利点がある。このため、従来はもっぱら工場溶接が用いられてきた。
【0003】
工場溶接では、横置きした柱の上向き側面に仕口用H形鋼を垂直に立てて溶接し、柱を90°ずつ回転させて同様の作業を順次行なっていく。このときの溶接は、溶接品質上や作業上もっとも好ましい「下向き溶接」がフランジの外側から行えるので、溶接前の開先加工はH形鋼の上下フランジとも「外開先」とするのが通例である。また同時に、フランジの内側に裏当て金を挿入するなどのために「スカラップ」加工(図6Aの34)が施されてきた。
【0004】
工場溶接工法では、梁の両端を仕口材として切り取った残りの中間部材を、建築現場において高力ボルトとスプライスプレートにより仕口材に締付接合する。そのため、多数のボルトやスプライスプレートを必要とする。また、柱の側面から仕口材が枝状に出っ張った形状になるため、トラックに積載可能な柱の本数が制限され運搬コストが高くつくという欠点がある。
【0005】
そこで最近、柱と梁を工場溶接ではなく「現場溶接」とする施工例が徐々に増えつつある。現場溶接なら仕口材もボルト接合も不要であり、トラックに積載可能な柱の本数を増やせるのでコストも低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−277821号公報
【特許文献2】特開平10−277827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが現場溶接では、垂直な柱の側面に、梁となるH形鋼を水平に接合するとき、H 形鋼の上下のフランジに下向き溶接を行うためには、溶接前の開先加工は上フランジには外開先、下フランジには内開先、すなわち「内・外開先」を施す必要がある。両フランジとも外開先にすると、下フランジは上向き溶接となって溶接垂れが生じ、接合が困難なためである。
【0008】
一方、1995年、阪神淡路大震災が発生。その建物被害状況から、H形鋼端部スカラップが応力集中による疲労亀裂発生の原因となることが判明し、その結果、2007年に日本建築学会の建築工事標準仕様書JASS6が改訂され、スカラップのない「ノンスカラップ」工法が推奨されるようになった。
【0009】
ここで、図6Aにスカラップ加工されたH形鋼の端部斜視図を示し、図6Bにコラムを使用した柱と当該H形鋼を使用した梁との接合部の側面図を示す。また、図7Aにノンスカラップ加工されたH形鋼の端部斜視図を示し、図7Bにコラムを使用した柱と当該H形鋼を使用した梁との接合部の側面図を示す。
【0010】
図6B図7Bにおいては、柱にダイアフラムを挿入したコラムを用いているが、H形鋼その他を用いる場合もある。図中、FはH形鋼のフランジ、Wはウェブである。また、31はルート面、32は外開先、33は内開先、34はスカラップである。図7Aの35は追い込みカッターによる追い込み加工跡である。
【0011】
しかし、ノンスカラップが推奨されているとはいえ、スカラップ加工は長年にわたって普及しているうえ、内開先加工が必要な場合にはカッターを軸方向に移動させることでルート面31の幅調整が簡単にできるという利便もあって、現在も広く行われているのが実状である。
【0012】
特許文献1(特開平5−277821号公報)には、内開先・外開先用の2つのカッターを切り替え可能にした開先加工装置が提案されている。しかし、左記装置はスカラップありの場合にはカッターを軸方向に移動できるからよいが、ノンスカラップの場合にはカッターを軸方向に移動できないので内開先加工についてはルート面の幅調整は不能となる。
【0013】
一般に開先加工装置は、H形鋼のフランジの多様な厚みに対して、フランジの内側を基準面として加工する。その際、追い込み面には規定寸法の、細いルート面を残さなくてはならない。ところが、図7A図7Bのように、スカラップ加工が施されていないH形鋼端部に内開先33・外開先32を加工する場合、外開先についてはカッターを軸方向に任意に移動してルート面の幅調整を行うことができるが、内開先についてはカッターを軸方向に移動する空間がないためルート面の幅調整はできない。
【0014】
特許文献2(特開平10−277827号公報)では、開先カッターを軸方向に位置調整可能にすることでスカラップ工法とノンスカラップ工法の両方に対応可能にした開先加工装置が提案されているが、当該装置は外開先だけに対応しており、内開先は加工できるようになっていない。
【0015】
本発明は、このような実態に鑑み、H形鋼の端部にノンスカラップで内・外開先を能率・精度よく機械加工することができる開先加工方法及び開先加工装置を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題解決のために、昇降可能なカッターヘッドに追い込みカッター、内開先カッター及び外開先カッターを装着し、前記H形鋼をクランプ手段で位置決め固定した状態で当該H形鋼の端部を追い込みカッターにより追い込み加工し、続いて、前記H形鋼に対する前記外開先カッターの切り込み量を当該外開先カッターの軸方向移動により設定し、前記内開先カッターの切り込み量を当該内開先カッターと前記H形鋼の長手方向との相対位置調整により設定した後、前記内開先カッター及び外開先カッターで内・外開先加工を行うようにした。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、追い込み加工に続いて、内・外の開先カッターのH形鋼に対する相対位置を、外開先については外開先カッターの軸方向移動により、内開先については内開先カッターと前記H形鋼の長手方向との相対位置調整により設定して内開先カッター及び外開先カッターで開先加工を行うので、H形鋼の端部への「ノンスカラップ、内・外開先」加工を、自動で、精度よく、能率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1A】本発明に係る方法を実施するための開先加工装置の正面図である(H形鋼搬入時)。
図1B】本発明に係る方法を実施するための開先加工装置の平面図である(H形鋼搬入時)。
図2】開先加工装置のカッターヘッド正面図である。
図3A】開先加工装置のカッターヘッド側面図である(追い込み加工前)。
図3B】開先加工装置のカッターヘッド側面図である(追い込み加工完了時)。
図3C】開先加工装置のカッターヘッド側面図である(内・外開先加工前)。
図3D】開先加工装置のカッターヘッド側面図である(内・外開先加工完了時)。
図3E】別の実施形態のカッターヘッド側面図である(内・外開先加工前)。
図3F】別の実施形態のカッターヘッド側面図である(内・外開先加工完了時)。
図4】内・外開先加工時のカッター相対移動量算出式の説明図である。
図5A】本発明の変形実施形態に係る開先加工装置の平面図である(H形鋼前端加工時)。
図5B】本発明の変形実施形態に係る開先加工装置の平面図である(H形鋼後端加工時)。
図6A】スカラップ加工されたH形鋼の端部斜視図である。
図6B】当該H形鋼を使用した柱と梁接合部の側面図である。
図7A】ノンスカラップ加工されたH形鋼の斜視図である。
図7B】当該H形鋼を使用した柱・梁接合部の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明を実施するための開先加工装置と、当該装置による開先加工方法の実施形態を図面に基づいて説明する。この実施例では、開先加工装置のカッターヘッドに追い込みカッター、内開先カッター及び外開先カッターの3つのカッターを装着しているが、従来の開先加工装置が装着しているスカラップカッターは装着していない。
【0020】
(開先加工装置の構造)
図1A図1Bに示すように、開先加工装置1は基台2上に前ローラテーブル3と後ローラテーブル4を有する。これら前後のローラテーブル3、4上においてH形鋼Sが矢印A方向から搬送される。
【0021】
前後のローラテーブル3、4の両側に、左支持フレーム5と右支持フレーム6が基台2上に左右対称に立設されている。左支持フレーム5は、基台2上の左部分において前後のローラテーブル3、4の長手方向と直角に配設された一対のレール25上に、移動可能に搭載されている。
【0022】
この一対のレール25間の基台2上に水平な油圧シリンダ7が配設され、この油圧シリンダ7のピストンロッドが左支持フレーム5の下部に連結されている。そして油圧シリンダ7の伸縮作動によって左支持フレーム5がレール25に沿って左右動可能とされ、これによってH形鋼Sの品種による幅(ウェブ幅)の広狭に対応できるようになっている。
【0023】
右支持フレーム6は、基台2上の右部分において前後のローラテーブル3、4の長手方向と平行に配設された一対のレール11上に、移動可能に搭載されている。この一対のレール11間の基台2上に水平な油圧シリンダ8が配設され、この油圧シリンダ8のピストンロッドが右支持フレーム6の下部に連結されている。
【0024】
左右の支持フレーム5、6の互いに対向する面側の中央には、クランプ手段としての上クランプシリンダ9と下クランプシリンダ(図示せず)が配設されている。上クランプシリンダ9は下向きに伸びた押さえ具10を有し、この押さえ具10でH形鋼Sのフランジ上端を押し下げてH形鋼Sを固定する。
【0025】
H形鋼Sのフランジ下端は、上向きに上下方向摺動自在に配設された受け具12を油圧シリンダによって押し上げることにより支持される(図2参照)。この受け具12は左右各1個ずつ配設され、この各1個の受け具12の前後においてフランジ下端を支える合計4つの小ローラ13が、支持フレーム5、6に対して回転自在に配設されている。なお、このローラ13の高さは前述した前ローラテーブル3及び後ローラテーブル4の高さと同じである。
【0026】
左支持フレーム5と右支持フレーム6には、それぞれ左カッターヘッド14と右カッターヘッド15が昇降自在に配設されている。各カッターヘッド14、15は平面視でL字状を成しており、ローラテーブル3、4の長手方向と平行な部分が左右の支持フレーム5、6の背面側に摺動自在に嵌合している。
【0027】
左右の支持フレーム5、6の背面側上端に昇降駆動手段としてのカッターヘッド昇降用モータ16が配設されている。このモータ16に垂直方向下方に伸びた送りねじ17が連結され、この送りねじ17の正逆回転によって、送りねじ17に螺合されたカッターヘッド14、15が昇降するようになっている。
【0028】
左右のカッターヘッド14、15の互いに対向する面に下から順に、追い込みカッター18、内開先カッター19、外開先カッター20が、水平方向に若干の変位をもって縦列に配設されている(図2参照)。
【0029】
左右のカッターヘッド14、15の背面側にはモータ21が配設され、このモータ21で各カッターヘッド14、15にある合計3本の回転軸を複数の歯車を介して駆動するようになっている。各カッターヘッド14、15は、各カッター18〜20の3本の回転軸の後端に個別に連結された、カッター移動手段としてのカッター左右移動用モータ22を有する。
【0030】
このカッター左右移動用モータ22によって、各カッター18〜20を、H形鋼Sに対する加工位置と、H形鋼Sと干渉しない退避位置の間を移動させるようになっている。なお、カッター左右移動用モータ22に代えて同様の機能を果たすシリンダを配設することも可能である。カッター左右移動用モータ22は外開先加工におけるルート面幅の調整用としても機能する。
【0031】
(開先加工方法)
次に、前述した開先加工装置1を使用した本発明の開先加工方法の実施形態について、図3A図3Fを参照して説明する。図3A図3Bは、左右のカッターヘッドで追い込み加工をする場合を示している。図3C図3Dは、右カッターヘッドで内開先加工、左カッターヘッドで外開先加工をする場合を示している。図3E図3Fは、これとは反対に左カッターヘッドで内開先加工、右カッターヘッドで外開先加工をする場合を示している。
【0032】
図1Aに示すように、H形鋼搬入前に左右のカッターヘッド14、15を、実線で示すように同じ高さの原位置に上昇させておく。このとき、左右の追い込みカッター18、外開先カッター20及び内開先カッター19は、すべて退避位置に保持しておく。
【0033】
この状態でH形鋼Sを、図1Bで矢印A方向に搬送してその前端部E1が二点鎖線で示す位置、すなわち、追い込みカッター18による所定の追い込み加工量に対応する位置までくると、H形鋼Sの搬送を停止する。H形鋼Sの搬送停止と同時に、上クランプシリンダ9と下クランプシリンダ(図示せず)を駆動して、押さえ具10と受け具12によってH形鋼Sのフランジ上下端を押圧し、これによってH形鋼Sを固定する。
【0034】
次に、図3Aのように、カッター左右移動用モータ22を駆動して左右の追い込みカッター18を加工位置に左右移動させる。この加工位置は、左右とも追い込みカッター18の先端面がH形鋼Sのフランジ内面から若干中心に寄った所定の位置である。左右の外開先カッター20と内開先カッター19は、退避位置に保持しておく。
【0035】
この状態で左右のカッター駆動用モータ21を駆動し、左右のカッターヘッド14、15を同時に下降させる(図3Aの丸数字1)。そして、図3Bのように左右の追い込みカッター18がH形鋼Sのフランジ下端部まで下降することで、H形鋼Sの左右のフランジ端部の追い込み加工が完了する。この間、内・外の開先カッター19・20は、退避位置で空転している。
【0036】
H形鋼Sの左右のフランジの追い込み加工が完了すると左右のカッター駆動用モータ21を停止する。次に、左右のカッターヘッド14、15を同時に上昇させる(図3Bの丸数字2)。上昇させる高さは、右カッターヘッド15については、その内開先カッター19がH形鋼Sのフランジ上部に干渉しない高さ、左カッターヘッド14については、その外開先カッター20がH形鋼Sのフランジ上部に干渉しない高さである。
【0037】
次いで、図3Cのように、カッター左右移動用モータ22を駆動して左右の追い込みカッター18を退避位置に戻す(図3Cの丸数字3)。それと同時に、右カッターヘッド15の内開先カッター19を、その先端面がH形鋼Sの追い込み加工跡の左面に一致する位置へ移動するとともに、左カッターヘッド14の外開先カッター20を、その切削面が前記追い込み加工跡のフランジ面に所定寸法のルート面幅を残す位置へ移動する(図3Cの丸数字3')。
【0038】
続いて、右支持フレーム6の上クランプシリンダ9と下クランプシリンダ(図示せず)によるH形鋼Sのクランプを一旦解除し、左支持フレーム5のクランプを保持したままで、右支持フレーム6を油圧シリンダ8によりH形鋼長手方向に所定量だけ前進移動させる。この移動量yは、図4を参照して以下の数式により求められる。
【0039】
y=(Du/2)−((De/2)−X)−(T−r)tanθ
Du:内開先カッターの先端側直径
De:追い込みカッターの直径
X:追い込みカッターと内開先カッターとの水平変位量
T:H形鋼のフランジ厚
r:ルート面幅
θ:内開先の開先角度
【0040】
前記追い込みカッターと内開先カッターとの水平変位量Xは、追い込みカッター18の軸線と内開先カッター19の軸線との間の水平距離である。すなわち、左右のカッターヘッド14、15における内開先カッター19の水平位置は、図4において、追い込みカッター18よりも前記Xだけ左に変位している。
【0041】
右支持フレーム6が前記の数式に基づく所定の位置に到達すると、右支持フレーム6の上クランプシリンダ9と下クランプシリンダによりH形鋼Sをクランプし直した後、左右のカッター駆動用モータ21を駆動し、左右のカッターヘッド14、15を同時に下降させる(図3Cの丸数字5)。
【0042】
そして図3Dのように、右カッターヘッド15の内開先カッター19と左カッターヘッド14の外開先カッター20がH形鋼Sのフランジの下端部に到達すると、H形鋼Sの左右のフランジ端部の開先加工が完了する。この間、左右の追い込みカッター18と左カッターヘッド14の内開先カッター19及び右カッターヘッド15の外開先カッター20は、退避位置で空転している。
【0043】
開先加工が完了すると左右のカッターヘッド14、15を上方の原位置に戻し、次いで、カッター左右移動用モータ22を駆動して、右カッターヘッド15の内開先カッター19と左カッターヘッド14の外開先カッター20を退避位置に戻す。
【0044】
続いて、左右の支持フレーム5、6の上クランプシリンダ9と下クランプシリンダを解放して加工済みのH形鋼Sを取り出す。最後に、右支持フレーム6を、油圧シリンダ8により、H形鋼Sの長手方向の原位置、すなわち、左の支持フレーム5の対向位置に戻す。
【0045】
次に、図3E図3Fにより、左カッターヘッド14で内開先加工、右カッターヘッド15で外開先加工をする場合を説明する。この場合も、図3Aから図3Bまでの追い込み加工は前述と同じである。追い込み加工が完了した図3Bの状態から、左右のカッターヘッド14、15を上昇させる(図3Bの丸数字2)。
【0046】
次いで、図3Eのように、カッター左右移動用モータ22を駆動して左右の追い込みカッター18を退避位置に戻す(図3Eの丸数字3)。それと同時に、左カッターヘッド14の内開先カッター19を、その先端面がH形鋼Sの追い込み加工跡の右面に一致する位置へ移動するとともに、右カッターヘッド15の外開先カッター20を、その切削面が前記追い込み加工跡のフランジ面に所定寸法のルート面幅を残す位置へ移動する(図3Eの丸数字3')。
【0047】
続いて、左支持フレーム5の上クランプシリンダ9と下クランプシリンダ(図示せず)によるH形鋼Sのクランプを一旦解除し、右支持フレーム6のクランプを保持したままで、右支持フレーム6を油圧シリンダ8によりH形鋼長手方向に所定量だけ後退移動させる。このときH形鋼Sは、右支持フレーム6にクランプされているから右支持フレームSにつれて後退移動する。この移動量yは、前記数式[y=(Du/2)−((De/2)−X)−(T−r)tanθ]から求められる。
【0048】
右支持フレーム6が前記の算式に基づく所定の位置に到達すると、左支持フレーム5の上クランプシリンダ9と下クランプシリンダによりH形鋼Sをクランプした後、左右のカッター駆動用モータ21を駆動し、左右のカッターヘッド14、15を同時に下降させる(図3Eの丸数字5')。そして図3Fのように、左の内開先カッター19と右の外開先カッター20がH形鋼Sのフランジの下端部に到達すると、H形鋼Sの左右のフランジ端部の開先加工が完了する。この間、左右の追い込みカッター18と左カッターヘッド14の外開先カッター20及び右カッターヘッド15の内開先カッター19は、退避位置で空転している。
【0049】
開先加工が完了すると左右のカッターヘッド14、15を上方の原位置に戻し、次いで、カッター左右移動用モータ22を駆動して左カッターヘッド14の内開先カッター19と右カッターヘッド15の外開先カッター20を退避位置に戻す。
【0050】
続いて、左右の支持フレーム5、6の上クランプシリンダ9と下クランプシリンダを解放して加工済みのH形鋼Sを取り出す。最後に、右支持フレーム6を油圧シリンダ8によりH形鋼Sの長手方向の原位置、すなわち、左の支持フレーム5の対向位置に戻す。
【0051】
以上二つの実施形態とも、内開先のルート面31の幅調整はH形鋼Sと内開先カッター19とのH形鋼長手方向の距離を変えることによって行い、外開先のルート面31の幅調整は外開先カッター20の左右移動によって行う。
【0052】
以上、本発明の二つの実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。図5A図5Bは、他の変形実施形態に係る開先加工装置1の平面図である。この装置は、前述した左右のカッターヘッド14'、15'に、追い込みカッター18、内開先カッター19、外開先カッター20を、上クランプシリンダ9と下クランプシリンダ(図示せず)を中心にしてそれぞれ前後一対形式で配設している。
【0053】
この変形実施形態によれば、H形鋼Sを図5Aのように矢印A方向から搬入して、前述したようにH形鋼Sの前端部E1を開先加工し、その後、当該H形鋼Sを図5Bのように長手方向に移動してその後端部E2を押さえ具10と受け具12でクランプし、3つのカッター18〜20によって後端部の開先加工を行う。
【0054】
この変形実施形態では、前後のカッター18〜20の位置から押さえ具10および受け具12に至るまでの水平距離が等しいので、H形鋼Sの前後両端におけるクランプ条件は同一となる。
【0055】
このように左右のカッターヘッド14'、15'を前後一対形式とすることで、H形鋼Sを長手方向に移動させてその前端と後端にそれぞれ内・外開先加工することが可能になる。カッターヘッドを前後一対形式としない場合、H形鋼Sの一端部に内開先と外開先を形成した後、H形鋼Sを反転させて反対側の端部に前述と同様に内開先と外開先を形成しなければならない。H形鋼Sの反転は広い作業スペースを必要とし、大掛かりな危険作業となるから実際的ではない。
【0056】
図1A図1Bの装置を前後に対向して2台使用すれば同様の開先加工が可能ではあるが、設備のコストが2倍になるとともに1台分のスペースが余計になる。
【0057】
図5A図5Bの装置では、前端と後端の両方の加工に共通のクランプを使用するので、部品点数削減による低コスト化はもちろんのこと、各カッターとクランプとの位置関係を前端加工と後端加工で揃えることができる。従って、加工に伴う振動等の条件を合わせることで前端と後端で加工品質のばらつきを防止することができる。また、前後カッターヘッド14'、15'間のスペースを材料クランプ用として有効利用するので、装置全体をコンパクト化できる。
【符号の説明】
【0058】
1:開先加工装置 5:左支持フレーム
6:右支持フレーム 9:上クランプシリンダ
10:押さえ具 12:受け具
14:左カッターヘッド 15:右カッターヘッド
16:カッターヘッド昇降用モータ 17:送りねじ
18:追い込みカッター 19:内開先カッター
20:外開先カッター 21:カッター駆動用モータ
22:カッター左右移動用モータ 31:ルート面
32:外開先 33:内開先
34:スカラップ 35:追い込み加工跡
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B