(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6266383
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】カップ部を備えた衣類
(51)【国際特許分類】
A41C 3/00 20060101AFI20180115BHJP
A41C 3/10 20060101ALI20180115BHJP
A41C 3/12 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
A41C3/00 Z
A41C3/10 A
A41C3/12 A
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-40587(P2014-40587)
(22)【出願日】2014年3月3日
(65)【公開番号】特開2015-166500(P2015-166500A)
(43)【公開日】2015年9月24日
【審査請求日】2016年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】715003523
【氏名又は名称】株式会社ルシアン
(74)【代理人】
【識別番号】100103056
【弁理士】
【氏名又は名称】境 正寿
(74)【代理人】
【識別番号】100146064
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 玲子
(72)【発明者】
【氏名】小野 弘美
【審査官】
田中 尋
(56)【参考文献】
【文献】
登録実用新案第3186389(JP,U)
【文献】
特開2008−106381(JP,A)
【文献】
特開2013−245415(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41B 9/06
A41C 1/00− 5/00,
A41D 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下端縁が筒状に編成された縦横ともに伸縮性に富んだ編地からなり、
前身頃と、脇身頃と、後身頃と、前身頃と後身頃を連結して左右の肩に掛けられる肩部とを有するホルダー部と、
前記ホルダー部と別体の伸縮性編地からなる左右の乳房を被覆するカップ布と、
ホルダー部の表地の裾口下端縁を内側に折り返し一連に編成された裏当て布とからなり、
前記左右の乳房を被覆するカップ布の裏面側に裏当て布を重ね縫着してカップ部とし、
前記脇身頃の裏面側で、カップ布の側縁の一部が裏当て布と縫着されず開口してパッド挿脱口が形成されている
ことを特徴とするカップ部を備えた衣類。
【請求項2】
前記カップ部は、
カップ布と裏当て布の二枚の伸縮性編地で構成され、
端縁同士を合わせて伸縮性テープによって縫着一体化されている
ことを特徴とする請求項1に記載のカップ部を備えた衣類。
【請求項3】
前記左右の乳房を被覆するカップ布は、
下端縁が、前身頃と、折り返された裏当て布の間で縫合されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載のカップ部を備えた衣類。
【請求項4】
前記カップ部の肩紐は、
カップ部の頂部から延設されて背面側でX状に交差され、端部が後身頃の内面の裏当て布に縫着され、ホルダー部の肩部より首寄りに配されている
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のカップ部を備えた衣類。
【請求項5】
前記裾口下端縁の周縁部は、前記ホルダー部の表地を折り返して二重部とした締め付け力の大きいベルト状に編成されている
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のカップ部を備えた衣類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラジャー、ボディースーツ,ブラスリップ、レオタード、水着などバストカップ部を有し、特にスポーツやフィットネスなどの運動時に着用するのに適したカップ部を備えた衣類に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常のブラジャーは、土台布、カップ布、脇布、バック布、肩紐などそれぞれの部位に応じて伸縮力や組織の異なる生地を用い、その生地を所定形状に裁断して、裁断片を組み合わせ縫製することによって仕上げ、乳房の形を美しくなるよう造形しているが、縫製工程が多く複雑化し、高度の縫製技術が必要となり手間がかかってコスト高になる。
【0003】
この縫製ブラジャーは、生地の特性による締め付けでバストを寄せたり、持ち上げたりして補整しているが、どうしても締付け感や窮屈感が強く着心地がよくなかった。また、縫製ブラジャーには、各部位を縫製することによって仕上げており、継目部や縫着部などの凹凸が肌当接面に現れると共に、カップワイヤー、フック・アイ、アジャスターなどの部材が付いているので、特にスポーツやフィットネスなど激しい運動時に着用すると、これらが擦れて肌を傷めるおそれがある。また、肩紐は肩からずれ落ちたり、アンダーバスト部がずれ上がったり、ずれ下がったりしてバストをサポートする効果がないことから一般的には着用されない。
【0004】
上記のような縫製ブラジャーとは別に、成型編み機で筒状に編成された全体的にソフトで、締付け感や窮屈感がなく、カップワイヤー、フック・アイ、アジャスターなどのない着心地の良いブラジャーがスポーツやフィットネスなどを行う時に着用されている。
【0005】
そのようなブラジャーとしては、例えば、縦横方向に伸縮性の優れた素材にて筒状に連続して編成され、胸部を覆う前身頃と、背中部を覆う後身頃と、前身頃と後身頃を連結する肩紐部とからなり、胸部被覆部には乳房に沿ってワイヤーが取り付けられていると共に、胸部被覆部の内面側に別生地の当て布が縫着されて袋部が形成され、その中にパッドを入れるのが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
上記の特許文献1のブラジャーは、胸部被覆部の内面側に別生地の当て布を縫着して袋部を形成し、その袋部の中にパッドを入れ、バストを中心方向に寄せて持ち上げ、バストアップを図って補整しているが、袋部の段差および袋部を縫い付ける縫着糸などが肌当接面に現れる。また、バストの整容目的で、乳房に沿ってU字状のワイヤーが取り付けてあるから、バストが大きく上下左右に揺れたり、腕を旋回したり、身体を捩じったり激しい動作をすると、どうしても肌に喰い込んで圧迫感があり痛みが生じて着心地が悪いという問題点があった。
【0007】
上記のような問題点を解決するものとして、特許文献1のように、胸部被覆部の内面に別生地を縫い付けて袋部を形成するのではなく、
図8,9に示すように、丸編地からなり、表地31の裾口下端縁を折り返して裏当て布32をバストに対応する位置まで連続編成し、一対の二重カップ部33を設けたトップ下着が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−296308号公報
【特許文献2】特開2003−193302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の特許文献2のトップ下着は、表地31の裾口下端より折り返して裏当て布32をバストの対応する位置まで連続編成してあり、その上端部が途中で終わっており、パッド33の出し入れ口34になり、下部に袋部35が連設されているから袋部35による段差ができる。そして、パッド出し入れ口34が直接肌に当たり着心地が悪くなる。また、表地31と裏地32は、前身において左右の半円形状縫合線36で縫着されているから、表地31にその半円形状縫合線36が出て外観がよくない。
【0010】
さらに、パッド33は袋部35の中で動きやすく、所定の位置からずれてしまいパッド33によって乳房を所定の位置に保持させて、乳房の揺れを防ぐことができない。また、バストを支持する効果が、身生地の編組織によるだけでは、バストを前中心に寄せる効果がなく、乳房を保持して形を美しく整えることが難しかった。
【0011】
本発明は、上記のような問題点を解決することを課題として研究開発されたもので、肌に当たる面に継目部や縫着線などによる段差がなくなり、長い時間着用しても肌を傷めず着け心地がよく、スポーツ時にバストが上下左右に揺れるのを抑止でき、バストへのフィット性および支持性に優れて美しいバストラインを形成でき、かつ身体の捻りや腕の旋回にも対応する肩部を持つカップ部を備えた衣類を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明に係るカップ部を備えた衣類は、筒状に編成された縦横ともに伸縮性に富んだ編地からなり、前身頃と、脇身頃と、後身頃と、前身頃と後身頃を連結して左右の肩に掛けられる肩部とを有するホルダー部と、前記ホルダー部と別体の伸縮性編地からなる肩紐付きの左右の乳房を被覆するカップ布と、ホルダー部の表地の裾口下端縁を内側に折り返して一連に編成された裏当て布とからなり、前記左右の乳房を被覆するカップ布の裏面側に裏当て布を重ね縫着してカップ部とし、前記脇身頃の裏面側で、カップ布の側縁の一部が裏当て布と縫着されず開口してパッド挿脱口が形成されていることを特徴とするものである。
【0013】
これによれば、カップ布の内面に裏当て布があり、肌の当接面に継目や縫着線による段差がなく、パット挿脱口も直接肌に当たらず、長い時間着用しても肌を傷めず着心地がよい。また、ホルダー部でカップ部がサポートされ、バスト下部を持ち上げ、脇から前側に寄せるので美しいバストラインを創出することができる。さらに、腕や肩を動かす運動時においては、バストを体幹に追随させるカップ部の肩紐と、身体の捻りや腕の旋回に対応するホルダー部の肩部と、それぞれ動きに対する機能が分散されるから、身体全体の運動にも追随し、ずれ動きを防ぐことができ、特にスポーツやフィットネスなどの運動時に着用するのに適するものである。
【0014】
ここで、前記カップ部は、カップ布と裏当て布の二枚の伸縮性編地で構成され、端縁同士を合わせて伸縮性テープによって縫着一体化されているのが望ましい。
【0015】
これによれば、カップ布と裏当て布で二重になりカップ部の強度が増し、胸が大きくても小さくても充分に保持でき、バストへの接触圧が強くなり乳房の上下左右に揺れるのを抑制できる。また、カップ布と裏当て布は端縁同士を合わせて伸縮性テープによって縫着一体化されているので、伸縮性生地と相俟って着用するとバストにぴったりとフィットしカップ部の浮き上がりを防止できる。
【0016】
ここで、前記左右の乳房を被覆するカップ布は、下端縁が、前身頃と、折り返された裏当て布の間で縫合されているのが望ましい。
【0017】
これによれば、カップ布の下端縁が丈夫になり、乳房の下部をしっかり支持できると共に、カップ布は上下左右どの方向にも伸縮性が良いので、乳房の大きな揺れに対応できる。また、下端縁が隠れているから、取り付け縫合線が見えなくて見栄えがよくなる。
【0018】
ここで、前記カップ部の肩紐は、カップ部の頂部から延設されて背面側でX状に交差され、端部が後身頃の内面の裏当て布に縫着され、ホルダー部の肩部より首寄りに配されているのが望ましい。
【0019】
これによれば、カップ部の肩紐によって、バストの下垂れを防ぐと同時に、ホルダー部の前身頃でバストの下部を前中心に寄せ上げるので綺麗なバストシルエットを造形できる。また、腕や肩を動かす運動時においては、バストを体幹に追随させるカップ部の肩紐と、身体の捻りや腕の旋回に対応するホルダー部の肩部と、それぞれ動きに対する機能が分散されるから、身体全体の運動にも追随し、ずれ動きを防ぐことができる。さらに、肩紐は背面側でX状に交差されていてホルダー部の肩部より首寄りにあるから肩からずれ落ちることがない。
【0020】
ここで、前記裾口
下端縁の周縁部は、
前記ホルダー部の表地を折り返して二重部とした締め付け力の大きいベルト状に編成されていることが望ましい。
【0021】
これによれば、アンダーバスト部がずれ上がったり、ずれ下がったりせず、一定位置で安定して保持することができる。
【発明の効果】
【0022】
このように、本発明に係るカップ部を備えた衣類によれば、ホルダー部の表地の裾口下端縁を内側に折り返して上方に延設して裏当て布とすることにより、肌当接面に継目部や縫着部が出なくなり、長い時間着用しても肌当たりが良くて着心地がよくなる。また、カップ部はホルダー部でサポートされ、バストの下部を前中心に寄せ上げるので綺麗なバストラインを形成することができる。さらに、腕や肩を動かす動作時においては、バストを体幹に追随させるカップ部の肩紐と、身体の捻りや腕の旋回に対応するホルダー部の肩部と、それぞれ動きに対する機能が分散されるから、身体全体の運動にも追随し、ずれ動きを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明のカップ部を備えた衣類を示す正面図である。
【
図3】本発明のカップ部を備えた衣類を示す背面図である。
【
図5】アームホールを捲ってカップ布を表わした正面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、本発明の第1実施の形態を添付の
図1〜
図7に基づいて説明すれば、1は自動成型円筒編機で筒状に編成された縦横方向に伸縮性の優れたホルダー部であり、前襟刳り部2を略凹状に深く形成した前身頃3と、脇身頃4と、後身頃5と、前身頃3と後身頃5とを連結して左右の肩に掛けられる幅広の肩部6,6とを有している。
【0025】
7はカップ部で、左右に細い肩紐8,8が取り付けられており、カップ布9と裏当て布10の二枚の伸縮性編地で形成されている。この二枚の伸縮性編地は素材や編み組織が異なるものを使用しているが、同じものでもよい。そして、ホルダー部1の表地の裾口下端縁を内側に折り返して上方に一連に延設した裏当て布10を、カップ布9の裏面全面を覆うように重ね、端縁同士を合わせて伸縮性テープ11によって縫着一体化されている。
【0026】
カップ布9は、ホルダー部1とは別体の伸縮性編地から形成されており左右の乳房を被覆するもので、このカップ布9は、前記ホルダー部1の編地と同じように、縦横方向に伸縮性の優れた肌当たりの良い編地で編成されたものである。
【0027】
脇身頃4から後身頃5にかけての折り返しの裏当て布10は、
図4に示す通り、後中心から脇身頃4に向かって徐々に折り返し幅Hが大きくなっており、上縁辺12が弧状に形成され、両側上端部13が袖刳り部14に縫着されるが、弧状の上縁辺12は後身頃5に縫着されず遊離している。
【0028】
本実施例では、脇身頃4の折り返し裏当て布10の両側上端部13を袖刳り部14に縫着した場合を説明したが、必ずしもこれに限定されることはなく、両側上端部13とカップ部7の脇縁15を縫着せず一連一体にする場合もある。
【0029】
カップ部7に取り付けられた肩紐8,8は、前記ホルダー部1の左右の肩に掛けられる幅広の肩部6,6より首寄り側にあって肩からずれ落ち難くなっていて、前記のカップ布9と裏当て布10を一体に縫着した伸縮性テープ11を延長して形成されている。そして、カップ部7の頂部から延設され背面側でX状に交差されて端部16が背部の折り返し裏当て布10の内面に縫着され、その端部16が肌に当たらないようになっている。
【0030】
前記カップ部7は、左右の肩部6,6の間を略凹状に深く切り込まれた前襟刳り部2に現出されており、前身頃3の上端縁3aが遊離され、下端縁9aが、前身頃3と、折り返された裏当て布10の間で縫着されていると共に、側縁の上端部9bは、カップ布9と裏当て布10が縫着され、その下端縁9aと上端部9bの間が未縫着部分9cとしてパッド挿脱口17が形設されている。
【0031】
前記パッド挿脱口17は、ホルダー部1の脇身頃4の裏面側に形成され、外部から見えない状態になっており、しかも直接肌にも当たることがなく、挿脱口17に収納されたパッド18は妄りに動いたりすることがない。
【0032】
ホルダー部1の編地は、前身頃3と後身頃5が強圧編地19に編成され、後身頃5の後面中央部位20と肩部6が強圧編地より弱い締付け力の中圧編地21に編成されており、裾口下端縁は幅広の締め付け力の強いベルト状22に編み込まれている。
【0033】
このように構成した本発明の実施形態の使用例を説明すれば、ホルダー部1の裾口下端縁を広げて頭から被って頭と両腕を通して下方に引っ張り、カップ部7が乳房の位置になるまで引き下げ、両乳房がカップ部7に収容されたパッド18の位置になるように、ホルダー部1の幅広の肩部6,6を肩に掛けると共に、カップ部7の細い肩紐8,8を肩部6,6の内側になるようにし、寄せて持ち上げるように引張り調整を行って着用するものである。
【0034】
本発明のカップ部を備えた衣類は、各身頃の表地の下端縁を内側に折り返して上方に延設して一連に編成された裏当て布10を、カップ布9の裏面に縫着して肌当接面に縫着線などの段差がなくなって着心地がよくなる。また、ホルダー部1によりカップ部7をサポートしてバストの下部を持ち上げ、脇から前中心に寄せるので美しいバストシルエットを造形できる。さらに、腕や肩を動かす動作時において、バストを体幹に追随させるカップ部7の肩紐8と、身体の捻りや腕の旋回に対応するホルダー部1の肩部6とそれぞれの動きに対する機能が分散されるから、身体全体の運動にも追随することになりずれを防ぐことができる。
【0035】
以上、本発明の実施の形態においては、前身頃3と後身頃5を強圧編地19に、後身頃5の後面中央部位20と肩部6を中圧編地21に編成され、かつ、カップ部7の肩紐8を背面側でX状にした例で説明したが、必ずしもこれらに限定されるものではなく、本発明の目的を達成でき、かつ発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の設計変更が可能であり、それらも全て本発明の範囲内に包含されることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、ブラジャーだけでなく、ボディースーツ,ブラスリップ、レオタード、水着などバストカップとショルダーストラップを備えた各種の女性用衣類に好適に利用できるものである。
【符号の説明】
【0037】
1 ホルダー部
2 前襟刳り部
3 前身頃
4 脇身頃
5 後身頃
6 肩部
7 カップ部
8 肩紐0
9 カップ布
10 裏当て布
11 伸縮性テープ
12 上縁辺
13 上端部
14 袖刳り部
15 脇縁
16 端部
17 パッド挿脱口
18 パッド
19 強圧編地
20 後面中央部位
21 中圧編地
22 ベルト状