特許第6266392号(P6266392)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6266392液体噴射ヘッドの製造方法、液体噴射ヘッド及び液体噴射装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6266392
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】液体噴射ヘッドの製造方法、液体噴射ヘッド及び液体噴射装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/16 20060101AFI20180115BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   B41J2/16 303
   B41J2/16 517
   B41J2/16 503
   B41J2/14 303
   B41J2/14 611
   B41J2/14 613
【請求項の数】14
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-56447(P2014-56447)
(22)【出願日】2014年3月19日
(65)【公開番号】特開2015-178219(P2015-178219A)
(43)【公開日】2015年10月8日
【審査請求日】2017年1月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】501167725
【氏名又は名称】エスアイアイ・プリンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100171251
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100142837
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 則彰
(74)【代理人】
【識別番号】100166305
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 徹
(72)【発明者】
【氏名】堀口 悟史
【審査官】 村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−171290(JP,A)
【文献】 特開2004−090374(JP,A)
【文献】 特開平10−315470(JP,A)
【文献】 米国特許第05983471(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01−2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータ基板の上面に吐出溝と非吐出溝を基準方向に交互に形成する溝形成工程と、
カバープレートの上面に凹部と前記凹部の底面から前記カバープレートの下面に貫通するスリットを形成するカバープレート加工工程と、
前記カバープレートの下面を前記アクチュエータ基板の上面に接合し、前記スリットと前記吐出溝とを連通させる基板接合工程と、
前記吐出溝の側面、前記非吐出溝の側面、前記スリットの内側面及び前記凹部の内表面に同時に導電膜を形成する電極形成工程と、を備え
前記電極形成工程は前記基板接合工程の後に行われる、
液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記基板接合工程は、前記アクチュエータ基板の上面の一部と前記非吐出溝の一部を露出させて前記カバープレートを前記アクチュエータ基板に接合する工程であり、
前記電極形成工程は、前記アクチュエータ基板の露出する上面に同時に前記導電膜を形成する工程である請求項1に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記電極形成工程は、メッキ法により前記導電膜を形成する工程である請求項1又は2に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記カバープレート加工工程は、前記カバープレートの上面を鏡面に、前記凹部の内表面及び前記スリットの内側面を粗面に加工する工程を含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記カバープレート加工工程は、前記カバープレートの下面を鏡面に加工する工程を含む請求項1〜4のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記溝形成工程は、前記非吐出溝と並列に配線用溝を形成する工程であり、
前記カバープレート加工工程は、前記カバープレートの上面に前記凹部と連通する付加凹部と、前記付加凹部の底面から前記カバープレートの上面とは反対側の下面に貫通する付加スリットを更に形成する工程であり、
前記基板接合工程は、前記付加スリットと前記配線用溝とを連通させる工程であり、
前記電極形成工程は、前記配線用溝の内表面、前記付加凹部の内表面及び前記付加スリットの内側面に同時に前記導電膜を形成する工程である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記カバープレートは、透光性の基板である請求項1〜6のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項8】
吐出溝と非吐出溝が基準方向に交互に配列するアクチュエータ基板と、
前記アクチュエータ基板に接合され、上面に凹部と前記凹部の底面から下面に貫通し前記吐出溝に連通するスリットとを備えるカバープレートと、を備え、
前記吐出溝の側面に共通駆動電極が形成され、前記非吐出溝の側面に個別駆動電極が形成され、前記スリットの内側面及び前記凹部の内表面には共通配線が形成され、
複数の前記吐出溝に形成される前記共通駆動電極は前記共通配線を介して電気的に接続される液体噴射ヘッド。
【請求項9】
前記非吐出溝は、前記アクチュエータ基板の一方側の端部から他方側の端部に亘って形成され、
前記吐出溝は、前記アクチュエータ基板の一方側の端部から他方側の端部の手前まで形成され、
前記カバープレートは、前記スリットと前記吐出溝が連通するように前記アクチュエータ基板の上面に接合され、
前記アクチュエータ基板の上面の他方側の端部近傍に個別端子が形成され、
前記個別端子は、前記吐出溝を挟んで隣接する2つの前記非吐出溝に形成される2つの前記個別駆動電極を電気的に接続する請求項8に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項10】
前記凹部の内表面及び前記スリットの内側面が粗面である請求項8又は9に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項11】
前記アクチュエータ基板は、前記基準方向の端部近傍に形成される配線用溝と、前記配線用溝の内表面に形成される配線用電極と、前記配線用溝が開口する上面に形成される共通端子と、を備え、
前記カバープレートは、前記凹部に連通する付加凹部と、前記付加凹部の底面から下面に貫通し前記付加凹部に連通する付加スリットと、前記付加凹部の内表面と前記付加スリットの内側面に形成される付加配線と、を備え、
前記共通端子は、前記配線用電極と前記付加配線を介して前記共通配線に電気的に接続する請求項8〜10のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項12】
前記アクチュエータ基板は、前記個別駆動電極に電気的に接続する個別端子と前記共通配線に電気的に接続する共通端子を備え、
前記共通端子は、前記アクチュエータ基板の上面の前記基準方向における端部側に形成され、前記個別端子は、前記アクチュエータ基板の上面の前記基準方向において前記共通端子よりも内部側に形成される請求項8に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項13】
前記カバープレートは透光性の基板である請求項8〜12のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項14】
請求項8に記載の液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドと被記録媒体とを相対的に移動させる移動機構と、
前記液体噴射ヘッドに液体を供給する液体供給管と、
前記液体供給管に前記液体を供給する液体タンクと、を備える液体噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被記録媒体に液滴を噴射して記録する液体噴射ヘッドの製造方法、液体噴射ヘッド及び液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、記録紙等にインク滴を吐出して文字や図形を記録する、或いは素子基板の表面に液体材料を吐出して機能性薄膜を形成するインクジェット方式の液体噴射ヘッドが利用されている。この方式は、インクや液体材料などの液体を液体タンクから供給管を介してチャンネルに導き、チャンネルに充填される液体に圧力を印加してチャンネルに連通するノズルから液滴として吐出する。液滴の吐出の際には、液体噴射ヘッドや被記録媒体を移動させて文字や図形を記録する、或いは所定形状の機能性薄膜や3次元構造を形成する。
【0003】
特許文献1にはこの種の液体噴射ヘッドが記載される。図9は液体噴射ヘッドの断面模式図である(特許文献1の図2)。液体噴射ヘッドは、インク滴を吐出するヘッドチップ110と、ヘッドチップ110にインクを供給するインクマニホールド部材120を備える。ヘッドチップ110はチャンネル部115を備える。チャンネル部115は、圧電体からなる図示されない2つの駆動壁と、下部及び上部基板111、113と、バックプレート119及びノズルプレート118と、に囲まれる。インクマニホールド部材120は、インク流路121と上面包持部122aを備え、上面包持部122aがヘッドチップ110の上部基板113を覆ってヘッドチップ110のバックプレート119に接合される。インク流路121に流入するインクは、バックプレート119のインク導入口119aを介してチャンネル部115に供給される。チャンネル部115の駆動壁が駆動するとノズル孔118aからインク滴が吐出される。
【0004】
上部基板113には板厚方向に貫通する導電性部材117bが設置される。導電性部材117bはチャンネル部115を駆動する駆動壁に設置される駆動電極に電気的に接続する。上面包持部122aは板厚方向に貫通する電極123を備え、電極123は導電性部材117bに対応する位置に設置される。電極123は、上部基板113の上面に形成される電極117cを介して導電性部材117bに電気的に接続する。電極123は、更に、上面120aに形成される電極124と電気的に接続して背面120bに引き出される。従って、駆動壁を駆動するための駆動波形は、背面120bの電極124に入力し、上面包持部122aに設置される電極123と上部基板113に設置される導電性部材117bを経由して駆動壁の駆動電極に供給される。
【0005】
また、特許文献2には、インクが充填される吐出用の溝とインクが充填されない非吐出用の溝が交互に配列するインク噴射装置が記載される。インク噴射装置は、上面に吐出用の溝と非吐出用の溝が交互に形成される圧電セラミックスプレートと、吐出用の溝と非吐出用の溝の両方の溝の上面開口を塞いで接合されるカバープレートを備える。吐出用の溝は圧電セラミックスプレートを貫通せず、従って上下方向が塞がれる。非吐出用の溝は圧電セラミックスプレートの上面から下面に貫通し、従って、上方がカバープレートにより塞がれ、下方は圧電セラミックスプレートの下面に開口する。吐出用の溝の両側面には上面から溝の深さの半分まで金属電極が形成される。非吐出用の溝の両側面と、カバープレートの圧電セラミックスプレート側の下面と、圧電セラミックスプレートの下面の全面とに金属電極が形成される。従って、複数の非吐出用の溝に形成される金属電極はすべて電気的に接続される。そして、非吐出用の溝の金属電極をGNDに接続し、吐出用の溝の金属電極に駆動波形を与えて、吐出用の溝と非吐出用の溝との間の隔壁を駆動し、吐出用溝に連通するノズルからインク滴を吐出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−210955号公報
【特許文献2】特開平7−178903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の液体噴射ヘッドでは、チャンネル部115の内部に無電解メッキ法により駆動電極を形成し、上部基板113に貫通孔を開穿し、銀ペースト等を充填して導電性部材117bを充填し、更に上部基板113の上面に電極117cを形成する。また、上面包持部122aにも貫通孔を開穿して電極123を充填し、インクマニホールド部材120の上面120aから背面120bにかけて電極124のパターンを形成する。そのため、電極形成が極めて複雑となる。また、チャンネル部115は図9の紙面奥方向に多数配列するため、ヘッドチップ110とインクマニホールド部材120を接合する際に、多数の電極117cと多数の電極123を高精度に位置を合わせ、同時に電気的に接続しなければならず、組み立てが極めて煩雑となる。
【0008】
また、特許文献2に記載のインク噴射装置では、吐出用の溝の側面の金属電極と、非吐出用の溝の側面及び圧電セラミックスプレートの下面の金属電極とを同時に形成することができない。そのため、複数回の電極形成工程を必要とする。特に、吐出用の溝の両側面には斜め蒸着法により金属電極を形成する必要があり、電極形成に長時間要する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の液体噴射ヘッドの製造方法は、アクチュエータ基板の上面に吐出溝と非吐出溝を基準方向に交互に形成する溝形成工程と、カバープレートの上面に凹部と前記凹部の底面から前記カバープレートの下面に貫通するスリットを形成するカバープレート加工工程と、前記カバープレートの下面を前記アクチュエータ基板の上面に接合し、前記スリットと前記吐出溝とを連通させる基板接合工程と、前記吐出溝の側面、前記非吐出溝の側面、前記スリットの内側面及び前記凹部の内表面に同時に導電膜を形成する電極形成工程と、を備えることとした。
【0010】
また、前記基板接合工程は、前記アクチュエータ基板の上面の一部と前記非吐出溝の一部を露出させて前記カバープレートを前記アクチュエータ基板に接合する工程であり、前記電極形成工程は、前記アクチュエータ基板の露出する上面に同時に導電膜を形成する工程であることとした。
【0011】
また、前記電極形成工程は、メッキ法により前記導電膜を形成する工程であることとした。
【0012】
また、前記カバープレート加工工程は、前記カバープレートの上面を鏡面に、前記凹部の内表面及び前記スリットの内側面を粗面に加工する工程を含むこととした。
【0013】
また、前記カバープレート加工工程は、前記カバープレートの下面を鏡面に加工する工程を含むこととした。
【0014】
また、前記溝形成工程は、前記非吐出溝と並列に配線用溝を形成する工程であり、
前記カバープレート加工工程は、前記カバープレートの上面に前記凹部と連通する付加凹部と、前記付加凹部の底面から前記カバープレートの上面とは反対側の下面に貫通する付加スリットを更に形成する工程であり、前記基板接合工程は、前記付加スリットと前記配線用溝とを連通させる工程であり、前記電極形成工程は、前記配線用溝の内表面、前記付加凹部の内表面及び前記付加スリットの内側面に同時に導電膜を形成する工程であることとした。
【0015】
また、前記カバープレートは、透光性の基板であることとした。
【0016】
本発明の液体噴射ヘッドは、吐出溝と非吐出溝が基準方向に交互に配列するアクチュエータ基板と、前記アクチュエータ基板に接合され、上面に凹部と前記凹部の底面から下面に貫通し前記吐出溝に連通するスリットとを備えるカバープレートと、を備え、前記吐出溝の側面に共通駆動電極が形成され、前記非吐出溝の側面に個別駆動電極が形成され、前記スリットの内側面及び前記凹部の内表面には共通配線が形成され、複数の前記吐出溝に形成される前記共通駆動電極は前記共通配線を介して電気的に接続されることとした。
【0017】
また、前記非吐出溝は、前記アクチュエータ基板の一方側の端部から他方側の端部に亘って形成され、前記吐出溝は、前記アクチュエータ基板の一方側の端部から他方側の端部の手前まで形成され、前記カバープレートは、前記スリットと前記吐出溝が連通するようにアクチュエータ基板の上面に接合され、前記アクチュエータ基板の上面の他方側の端部近傍に個別端子が形成され、前記個別端子は、前記吐出溝を挟んで隣接する2つの前記非吐出溝に形成される2つの前記個別駆動電極を電気的に接続することとした。
【0018】
また、前記凹部の内表面及び前記スリットの内側面が粗面であることとした。
【0019】
また、前記アクチュエータ基板は、前記基準方向の端部近傍に形成される配線用溝と、前記配線用溝の内表面に形成される配線用電極と、前記配線用溝が開口する上面に形成される共通端子と、を備え、前記カバープレートは、前記凹部に連通する付加凹部と、前記付加凹部の底面から下面に貫通し前記付加凹部に連通する付加スリットと、前記付加凹部の内表面と前記付加スリットの内側面に形成される付加配線と、を備え、前記共通端子は、前記配線用電極と前記付加配線を介して前記共通配線に電気的に接続することとした。
【0020】
また、前記アクチュエータ基板は、前記個別駆動電極に電気的に接続する個別端子と前記共通配線に電気的に接続する共通端子を備え、前記共通端子は、前記アクチュエータ基板の上面の前記基準方向における端部側に形成され、前記個別端子は、前記アクチュエータ基板の上面の前記基準方向において前記共通端子よりも内部側に形成されることとした。
【0021】
また、前記カバープレートは透光性の基板であることとした。
【0022】
本発明の液体噴射装置は、上記の液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドと被記録媒体とを相対的に移動させる移動機構と、前記液体噴射ヘッドに液体を供給する液体供給管と、前記液体供給管に前記液体を供給する液体タンクと、を備えることとした。
【発明の効果】
【0023】
本発明による液体噴射ヘッドの製造方法は、アクチュエータ基板の上面に吐出溝と非吐出溝を基準方向に交互に形成する溝形成工程と、カバープレートの上面に凹部と凹部の底面からカバープレートの下面に貫通するスリットを形成するカバープレート加工工程と、カバープレートの下面をアクチュエータ基板の上面に接合し、スリットと吐出溝とを連通させる基板接合工程と、吐出溝の側面、非吐出溝の側面、スリットの内側面及び凹部の内表面に同時に導電膜を形成する電極形成工程と、を備える。その結果、複数の吐出溝に形成される導電膜がスリットの内側面及び凹部の内表面に形成される導電膜を介して電気的に接続することになり、電極形成工程がきわめて簡素化される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第一実施形態に係る液体噴射ヘッドの説明図である。
図2】本発明の第一実施形態に係る液体噴射ヘッドの説明図である。
図3】本発明の第二実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法を示す工程図である。
図4】本発明の第三実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法を示す工程図である。
図5】本発明の第三実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法の説明図である。
図6】本発明の第三実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法の説明図である。
図7】本発明の第三実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法の説明図である。
図8】本発明の第四実施形態に係る液体噴射装置の模式的な斜視図である。
図9】従来公知の液体噴射ヘッドの断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第一実施形態)
図1及び図2は、本発明の第一実施形態に係る液体噴射ヘッド1の説明図である。図1は液体噴射ヘッド1の模式的な部分分解斜視図である。図1の点描領域は電極が形成される領域を示す(以降の図においても同じ)。図2は、図1に示す部分AAの方向の液体噴射ヘッド1の縦断面模式図である。アクチュエータ基板2は吐出溝3と非吐出溝4が同じ深さとなる領域を示し、液体噴射ヘッド1は基準方向Kの両端部まで示す。
【0026】
液体噴射ヘッド1は、アクチュエータ基板2と、アクチュエータ基板2に接合されるカバープレート6と、アクチュエータ基板2のカバープレート6とは反対側に設置される補強板19と、アクチュエータ基板2の端面に設置されるノズルプレート20と、を備える。アクチュエータ基板2は、吐出溝3と非吐出溝4が基準方向Kに交互に配列する。カバープレート6は、上面U2に凹部7と凹部7の底面から上面U2とは反対側の下面L2に貫通し吐出溝3に連通するスリット9を備える。吐出溝3の両側面に共通駆動電極12が形成され、非吐出溝4の両側面に個別駆動電極13が形成され、スリット9の内側面及び凹部7の内表面には共通配線15が形成される。そして、複数の吐出溝3に形成される共通駆動電極12は共通配線15を介して電気的に接続される。
【0027】
具体的に説明する。アクチュエータ基板2は、基板面の法線方向に分極される圧電体基板2aと、圧電体基板2aとは反対方向に分極される圧電体基板2bとが積層される、いわゆるシェブロン型の基板を用いている。圧電体基板2aと圧電体基板2bの境界Bは吐出溝3又は非吐出溝4の深さの略1/2の深さに位置する。非吐出溝4は、アクチュエータ基板2の一方側の端部Eaから他方側の端部Ebにわたって形成される。吐出溝3は、アクチュエータ基板2の一方側の端部Eaから他方側の端部Ebの手前まで形成される。カバープレート6はスリット9と吐出溝3が連通するようにアクチュエータ基板2の上面U1に接合される。つまり、カバープレート6は、スリット9を除いて吐出溝3を覆い、他方側の端部Eb近傍の上面U1が露出するようにアクチュエータ基板2に接合される。アクチュエータ基板2の他方側の端部Eb近傍の上面U1に個別端子17が形成される。個別端子17は、吐出溝3を挟んで隣接する2つの非吐出溝4の吐出溝3側の側面に形成される2つの個別駆動電極13を電気的に接続する。
【0028】
アクチュエータ基板2は、更に、基準方向Kの端部近傍に非吐出溝4と並列に形成される配線用溝5と、配線用溝5の内表面に形成される配線用電極14と、配線用溝5が開口する上面U1に形成される共通端子18と、を備える。カバープレート6は、凹部7に連通する付加凹部8と、付加凹部8の底面から下面L2に貫通し付加凹部8に連通する付加スリット10と、付加凹部8の内表面と付加スリット10の内側面に形成される付加配線16と、を備える。共通端子18は、配線用電極14と付加配線16を介して共通配線15に電気的に接続する。なお、配線用溝5はアクチュエータ基板2の基準方向Kの一方の端部近傍のみに形成してもよい。
【0029】
従って、共通端子18は、共通駆動電極12に電気的に接続し、アクチュエータ基板2の上面U1の基準方向Kにおける両方の端部側に形成される。また、個別端子17は、個別駆動電極13に電気的に接続し、アクチュエータ基板2の上面U1の基準方向Kにおいて共通端子18よりも内部側に形成される。なお、共通端子18はアクチュエータ基板2の基準方向Kの一方の端部側のみに形成してもよい。このように、共通端子18をアクチュエータ基板2の端部側に形成するので、吐出溝3や非吐出溝4のピッチの制約を受けることなく共通端子18の電極幅を広く形成することができる。
【0030】
ノズルプレート20は、吐出溝3に連通するノズル21を備え、アクチュエータ基板2の一方側の端部Eaの端面に接着される。補強板19は、アクチュエータ基板2の下面L1に設置され、吐出溝3及び非吐出溝4が下面L1に開口する開口部を塞ぐ。なお、付加凹部8、付加スリット10又は配線用溝5は、付加配線16及び配線用電極14を形成後に、図2に示すように接着剤22等により封止し、凹部7に充填される液体が外部に漏洩するのを防ぐことが望ましい。また、個別端子17及び共通端子18は、図示しないフレキシブル回路基板の配線を介して駆動回路に電気的に接続される。
【0031】
ここで、アクチュエータ基板2はPZTセラミックス等の圧電体材料を使用することができる。カバープレート6は、PZTセラミックス材料、他の絶縁体材料、プラスチック材料、透光性の基板、例えばガラス材料を使用することができる。カバープレート6として透光性のガラス材料を使用すれば、カバープレート6をアクチュエータ基板2に接合後に、吐出溝3や非吐出溝4に形成される共通駆動電極12や個別駆動電極13の不良部をレーザー加工により修正等を行うことができる。ノズルプレート20はポリイミドフィルム等のプラスチック材料を使用することができる。補強板19は、必要に応じて設置する。例えば、圧電体基板2aを厚く形成し、吐出溝3や非吐出溝4を圧電体基板2aの必要な深さまで形成してもよい。
【0032】
なお、凹部7の内表面及びスリット9の内側面を粗面に加工し、無電解メッキ法により導電膜を形成すれば、共通配線15、共通駆動電極12及び個別駆動電極13を同時に形成することができる。また、凹部7の内表面及びスリット9の内側面を粗面に加工し、更に、アクチュエータ基板2の他方側の端部Eb近傍の上面U1をサンドブラスト法などにより粗面に加工した後に、無電解メッキ法により導電膜を形成すれば、共通配線15、共通駆動電極12、個別駆動電極13及び個別端子17を同時に形成することができる。更に、カバープレート6に凹部7と連通する付加凹部8と付加凹部8の底面から下面L2に貫通する付加スリット10を形成した後に、無電解メッキ法により導電膜を形成すれば、共通配線15と電気的に接続する共通端子18を他の電極と同時に形成することができる。なお、カバープレート6の上面U2及び端部Eb側の端面は鏡面に加工する。これにより、無電解メッキ法により導電膜を形成する際に、カバープレート6の上面U2及び端部Eb側の端面には導電膜が形成されない。
【0033】
液体噴射ヘッド1は次のように動作する。図示しない液体貯留部から図示しない流路部材を介して凹部7に液体が供給される。液体は、スリット9を介して吐出溝3に充填される。次に、共通端子18にGND電位、個別端子17に駆動波形を与える。吐出溝3の共通駆動電極12はGND電位となり、駆動波形は吐出溝3を挟む2つの非吐出溝4の吐出溝3側の2つの個別駆動電極13に伝達して、吐出溝3の両側壁を厚み滑り変形させる。例えば、吐出溝3の両側壁を吐出溝3の容積が増加するように変形させて凹部7から液体を引き込み、次に、両側壁を変形前の元の位置に、又は、元の位置よりも吐出溝3の容積が減少するように変形させてノズル21から液滴を吐出する。
【0034】
なお、本実施形態における液体噴射ヘッド1は、アクチュエータ基板2の一方側の端部Eaにノズルプレート20を設置するエッジシュート型であるが、これに変えて、アクチュエータ基板2の下面L1にノズルプレート20を設置するサイドシュート型としてもよい。この場合、アクチュエータ基板2の吐出溝3は一方側の端部Eaの手前から他方側の端部Ebの手前まで形成する。また、カバープレート6の一方側の端部近傍の上面U2に、新たに凹部とこの凹部の底面から下面L2に貫通するスリットを形成し、このスリットと吐出溝3の一方側の端部において連通させる。この凹部の内表面とスリットの内側面に共通配線15と同様の共通電極を形成してもよい。そして、補強板19に代えてノズルプレート20を下面L1に設置する。この場合、ノズルプレート20を例えばガラスなどの材料にすることによって、上述した単一の非吐出溝4で対向している個別駆動電極13を電気的に分離することができる。
【0035】
(第二実施形態)
図3は本発明の第二実施形態に係る液体噴射ヘッド1の製造方法を示す工程図である。本実施形態は本発明に係る液体噴射ヘッド1の基本的な製造方法を表す。同一の部分又は同一の機能を有する部分には同一の符号を付している。
【0036】
以下、図3について図1を参照して説明する。本発明の液体噴射ヘッド1の製造方法は、アクチュエータ基板2に吐出溝3と非吐出溝4を形成する溝形成工程S1と、カバープレート6に凹部7とスリット9を形成するカバープレート加工工程S2と、カバープレート6とアクチュエータ基板2を接合する基板接合工程S3と、導電膜(図1では共通駆動電極12、個別駆動電極13、共通配線15に該当する。)を形成する電極形成工程S4とを備える。ここで、溝形成工程S1では、アクチュエータ基板2の上面U1に吐出溝3と非吐出溝4を基準方向Kに交互に形成する。カバープレート加工工程S2では、カバープレート6の上面U2に凹部7と、凹部7の底面からカバープレート6の上面U2とは反対側の下面L2に貫通するスリット9を形成する。基板接合工程S3では、カバープレート6の下面L2をアクチュエータ基板2の上面U1に接合し、スリット9と吐出溝3とを連通させる。
【0037】
電極形成工程S4では、吐出溝3の側面、非吐出溝4の側面、スリット9の内側面及び凹部7の内表面に同時に導電膜11を形成する。つまり、図1において、吐出溝3の側面の共通駆動電極12、非吐出溝4の側面の個別駆動電極13、スリット9の内側面及び凹部7の内表面の共通配線15を同時に形成する。その結果、複数の吐出溝3に形成される導電膜11(共通駆動電極12)がスリット9の内側面及び凹部7の内表面に形成される導電膜11(共通配線15)を介して電気的に接続することになり、電極形成工程S4がきわめて簡素化される。
【0038】
(第三実施形態)
図4は、本発明の第三実施形態に係る液体噴射ヘッド1の製造方法を示す工程図である。図5図7は、本発明の第三実施形態に係る液体噴射ヘッド1の製造方法の説明図である。同一の部分又は同一の機能を有する部分には同一の符号を付している。
【0039】
図4に示すように、本発明の液体噴射ヘッド1の製造方法は、アクチュエータ基板2に吐出溝3と非吐出溝4を形成する溝形成工程S1と、カバープレート6に凹部7とスリット9を形成するカバープレート加工工程S2と、カバープレート6とアクチュエータ基板2を接合する基板接合工程S3と、アクチュエータ基板2の上面U1とは反対側の下面L1を切削する基板切削工程S5と、導電膜11を形成する電極形成工程S4と、アクチュエータ基板2の下面L1に補強板19を接合する補強板接合工程S6とを備える。従って、第二実施形態の製造方法に加えて基板切削工程S5と補強板接合工程S6を備える。第二実施形態と同様に、複数の吐出溝3に形成される導電膜11がスリット9の内側面及び凹部7の内表面に形成される導電膜11を介して電気的に接続することになり、電極形成工程S4がきわめて簡素化される。更に、基板切削工程S5を導入し、アクチュエータ基板2の下面L1に吐出溝3及び非吐出溝4が開口する状態で電極形成工程S4を行うので、吐出溝3及び非吐出溝4の両側面に導電膜11を形成することが容易となる。以下、具体的に説明する。
【0040】
図5(s1)に示すように、溝形成工程S1において、アクチュエータ基板2の上面U1に吐出溝3と非吐出溝4を基準方向Kに交互に形成する。アクチュエータ基板2は、PZTセラミックス等の圧電体材料を使用し、上下方向に分極方向が異なるシェブロン基板を使用する。即ち、アクチュエータ基板2として、基板面の法線方向に分極される圧電体基板2aと圧電体基板2aとは反対方向に分極される圧電体基板2bとが積層される積層基板を使用する。吐出溝3及び非吐出溝4は、円盤状のブレードの外周に研削用の砥粒が埋め込まれるダイシングブレード(ダイヤモンドブレードとも言う。)を用いて切削して形成することができる。吐出溝3は上面U1の一方側の端部Eaから他方側の端部Ebの手前まで切削する。非吐出溝4は上面U1の一方側の端部Eaから他方側の端部Ebまでストレートに切削する。各溝の溝幅を20μm〜200μm、最終的な溝の深さを150μm〜700μmとし、圧電体基板2aと圧電体基板2bの境界Bが最終的な深さの略1/2となるように切削する。
【0041】
溝形成工程S1は、更に、アクチュエータ基板2の基準方向Kの端部近傍であり、かつ、他方側の端部Eb側の上面U1に非吐出溝4と並列に配線用溝5を形成する。配線用溝5は非吐出溝4よりも浅く形成する。配線用溝5はアクチュエータ基板2の他方側の端部Ebまで延長してもよい。なお、吐出溝3及び非吐出溝4を形成後に吐出溝3及び非吐出溝4の下部に圧電体基板2bを残してアクチュエータ基板2の強度を確保する。
【0042】
図5(s2)に示すように、カバープレート加工工程S2において、カバープレート6の上面U2に凹部7と凹部7の底面から上面U2とは反対側の下面L2に貫通するスリット9を形成する。カバープレート6は、アクチュエータ基板2と同程度の線膨張係数を有するPZTセラミックス材料、他のセラミックス材料、絶縁体材料、ガラス材料、あるいは、プラスチック材料を使用することができる。凹部7及びスリット9はサンドブラスト法やエッチング法等により形成することができる。
【0043】
カバープレート加工工程S2は、カバープレート6の上面U2を鏡面に、凹部7の内表面及びスリット9の内側面を粗面に加工する工程を含む。例えば、サンドブラスト法により凹部7及びスリット9を形成すれば、凹部7の内表面やスリット9の内側面が粗面となり、無電解メッキ法による導電膜11の堆積が容易となる。また、カバープレート6の上面U2及び下面L2を鏡面に加工しておけば、無電解メッキ液に上面U2や下面L2が浸漬しても導電膜11は析出されない。カバープレート加工工程S2は、更に、カバープレート6の上面U2に凹部7と連通する付加凹部8、付加凹部8の底面から上面U2とは反対側の下面L2に貫通する付加スリット10を形成する工程を含める。そして、スリット9の内側面及び凹部7の内表面と同様に付加スリット10の内側面及び付加凹部8の内表面を粗面に加工する。
【0044】
次に、図6(s3)に示すように、基板接合工程S3において、カバープレート6の下面L2をアクチュエータ基板2の上面U1に接着剤を介して接合し、スリット9と吐出溝3を連通させ、同時に、付加スリット10と配線用溝5を連通させる。基板接合工程S3は、アクチュエータ基板2の他方側の端部Eb近傍の上面U1と、他方側の端部Eb近傍の非吐出溝4を露出さて、カバープレート6をアクチュエータ基板2に接合する。なお、カバープレート6は、他方側の端部Ebの側の端面は鏡面に加工しておくことが望ましい。また、アクチュエータ基板2の他方側の端部Eb近傍の露出する上面U1は粗面に加工しておく。
【0045】
次に、図6(s5)に示すように、基板切削工程S5において、アクチュエータ基板2の下面L1を切削して吐出溝3及び非吐出溝4を下面L1に開口させる。切削後の下面L1は、鏡面に仕上げておくことにより、無電解メッキ液に浸漬したとき導電膜11が堆積しない。なお、吐出溝3及び非吐出溝4の側壁は、上部がカバープレート6により固定されるので底部が開口しても分解しない。吐出溝3及び非吐出溝4の底部を開口させて次の導電膜11の堆積を容易とする。なお、圧電体基板2aと圧電体基板2bの境界Bは溝の深さの略1/2の位置となるように下面L1を切削する。
【0046】
次に、図7(s4)に示すように、電極形成工程S4において、吐出溝3の両側面、非吐出溝4の両側面、配線用溝5の内表面(側面及び底面)、スリット9の内側面、凹部7の内表面、付加凹部8の内表面、付加スリット10の内側面及びアクチュエータ基板2の他方側の端部Eb近傍の上面U1に同時に導電膜11を形成する。具体的には、まず、カバープレート6及びアクチュエータ基板2の外表面に触媒を選択的に吸着させる。次に、無電解メッキ法により触媒が吸着される領域に金属膜を析出させて選択的に導電膜11を形成する。より具体的には、カバープレート6とアクチュエータ基板2の積層基板をパラジウム触媒が分散する溶液に浸漬し洗浄する。すると、表面が粗面の領域にパラジウム触媒が吸着し、鏡面の領域からパラジウム触媒が洗い流される。そして、この積層基板をニッケル無電解メッキ液と金無電解メッキ液に順次浸漬する。これにより、パラジウム触媒が吸着する粗面領域にニッケルと金が析出して導電膜11が形成され、パラジウム触媒が吸着しない鏡面の領域にはニッケルや金が析出せず導電膜11が形成されない。なお、無電解メッキ法によりニッケルや金の他に銅、銀、その他の金属や合金を析出させることができる。
【0047】
その結果、吐出溝3の両側面には共通駆動電極12(図1を参照)が形成され、スリット9の内側面及び凹部7の内表面には共通配線15が形成され、付加スリット10の内側面及び付加凹部8の内表面には付加配線16が形成され、配線用溝5の内表面には配線用電極14が形成され、アクチュエータ基板2の他方側の端部Eb近傍の上面U1であり、基準方向Kの端部領域には共通端子18が形成される。そして、これらの共通駆動電極12、共通配線15、付加配線16、配線用電極14及び共通端子18は電気的に接続される。更に、非吐出溝4の両側面に個別駆動電極13が形成され、アクチュエータ基板2の他方側の端部Eb近傍の上面U1であり、吐出溝3より端部Eb側には個別端子17が形成される。そして、非吐出溝4の両側面に形成される個別駆動電極13は互いに電気的に分離し、吐出溝3を挟む2つの非吐出溝4の吐出溝3側の側面に形成される2つの個別駆動電極13は個別端子17に電気的に接続する。
【0048】
なお、上述したように、単一の非吐出溝4の対向している個別駆動電極13は電気的に分離する必要がある。この構成を実現するために、カバープレート6は例えばガラス材料を使用し、カバープレート加工工程S2において、カバープレート6の下面L2を鏡面に加工する。これにより、無電解メッキ液に下面L2が浸漬しても導電膜11は析出されない。これにより、非吐出溝4の上面(カバープレート6の下面L2)に導電膜11が形成されず、単一の非吐出溝4で対向している個別駆動電極13を電気的に分離することが出液る。
【0049】
また、電極形成工程S4において、無電解メッキを行う前にアクチュエータ基板2の下面L1又はカバープレート6の上面U2にドライフィルム等のマスクを貼り付け、無電解メッキを行って下面L1又は上面U2に導電膜11が析出するのを防止することができる。この場合は、アクチュエータ基板2の下面L1やカバープレート6の上面U2を予め鏡面に加工する必要がない。また、電極形成工程S4において、カバープレート6の上面U2又はアクチュエータ基板2の下面L1に無電解メッキを行った後に、カバープレート6の上面U2又はアクチュエータ基板2の下面L1を研削して析出した導電膜11を除去してもよい。
【0050】
次に、図7(s6)に示すように、補強板接合工程S6において、アクチュエータ基板2の下面L1に接着剤を介して補強板19を接合する。補強板19はアクチュエータ基板2と同じPZTセラミックス材料、ガラス材料、その他の絶縁材料、プラスチック材料等を使用することができる。次に、面一に形成されるアクチュエータ基板2、補強板19及びカバープレート6の一方側の端面にノズルプレート20を接着し、ノズルプレート20に形成するノズル21と吐出溝3とを連通させる。なお、配線用溝5又は付加スリット10に接着剤等を充填して閉塞し、凹部7に流入する液体が外部に漏洩しないようにする。
【0051】
液体噴射ヘッド1をこのように製造すれば、共通駆動電極12(図1を参照)、共通配線15、付加配線16、配線用電極14及び共通端子18を電気的に接続し、同時に、個別駆動電極13及び個別端子17を電気的に接続する。更に、各個別端子17、及び、個別端子17と共通端子18は互いに電気的に分離して形成することができる。また、電極接続のための位置合わせを必要としない。その結果、電極形成工程がきわめて簡素化される。
【0052】
なお、本実施形態では、複数の吐出溝3に形成される共通駆動電極12を、共通配線15、付加配線16及び配線用電極14を介して共通端子18に電気的に接続するが、これに代えて、共通端子18をカバープレート6の上面U2に設置してもよい。この場合は、溝形成工程S1において配線用溝5を形成せず、カバープレート加工工程S2において付加凹部8及び付加スリット10を形成せず、これに代えて、カバープレート6の上面U2に凹部7の開口端から連続する粗面領域を形成する。この粗面の領域にパラジウム触媒を吸着させ、無電解メッキ法によりニッケル膜及び金膜等からなる共通端子18を形成してもよい。
【0053】
また、本実施形態では、エッジシュート型の液体噴射ヘッド1であるが、これに代えてサイドシュート型の液体噴射ヘッド1を形成することができる。即ち、溝形成工程S1において、吐出溝3をアクチュエータ基板2の上面U1の一方側の端部Eaの手前から他方側の端部Ebの手前まで形成する。カバープレート加工工程S2において、吐出溝3の一方側の端部に連通する凹部及びスリットと、吐出溝3の他方側の端部に連通する他の凹部及びスリットを形成する。そして、アクチュエータ基板2の下面L1に設置する補強板19に代えてノズルプレート20を接着し、ノズルプレート20のノズル21を吐出溝3に連通させる。
【0054】
また、カバープレート6や補強板19として、ガラス材料等の透光性の基板を用いることができる。透光性のカバープレート6を用いれば、例えば、電極形成工程S4において非吐出溝4の両側面の導電膜11(個別駆動電極13)が短絡する場合等に、短絡部にカバープレート6又は補強板19を通してレーザー光を照射し、短絡部の導電材を飛散させて修復することができる。
【0055】
また、本実施形態では、補強板接合工程S6は電極形成工程S4の後に実施する工程として説明したが、補強板接合工程S6は電極形成工程S4の前に実施しても構わない。つまり、アクチュエータ基板2とカバープレート6との接合体に補強板19を接合した後に、導電膜11を形成する電極形成工程S4を実施しても構わない。この場合、上述したように、単一の非吐出溝4の対向している個別駆動電極13は電気的に分離する必要がある。この構成を実現するために、補強板19は例えばガラス材料を使用し、補強板19の表面は粗面加工せず鏡面状態とする。これにより、補強板19の表面に無電解メッキ法による導電膜が形成されないため、非吐出溝4の底面に導電膜が形成されず、単一の非吐出溝4で対向している個別駆動電極13を電気的に分離することができる。
【0056】
(第四実施形態)
図8は本発明の第四実施形態に係る液体噴射装置30の模式的な斜視図である。液体噴射装置30は、液体噴射ヘッド1、1’を往復移動させる移動機構40と、液体噴射ヘッド1、1’に液体を供給し、液体噴射ヘッド1、1’から液体を排出する流路部35、35’と、流路部35、35’に連通する液体ポンプ33、33’及び液体タンク34、34’とを備えている。液体ポンプ33、33’として、流路部35、35’に液体を供給する供給ポンプとそれ以外に液体を排出する排出ポンプのいずれかもしくは両方を設置し、液体を循環させることができる。また、図示しない圧力センサーや流量センサーを設置し、液体の流量を制御することができる。液体噴射ヘッド1、1’は、第一実施形態の液体噴射ヘッド1、又は、第二又は第三実施形態の製造方法により製造した液体噴射ヘッド1を使用することができる。
【0057】
液体噴射装置30は、紙等の被記録媒体44を主走査方向に搬送する一対の搬送手段41、42と、被記録媒体44に液体を噴射する液体噴射ヘッド1、1’と、液体噴射ヘッド1、1’を載置するキャリッジユニット43と、液体タンク34、34’に貯留した液体を流路部35、35’に押圧して供給する液体ポンプ33、33’と、液体噴射ヘッド1、1’を主走査方向と直交する副走査方向に走査する移動機構40とを備えている。図示しない制御部は液体噴射ヘッド1、1’、移動機構40、搬送手段41、42を制御して駆動する。
【0058】
一対の搬送手段41、42は副走査方向に延び、ローラ面を接触しながら回転するグリッドローラとピンチローラを備えている。図示しないモータによりグリッドローラとピンチローラを軸周りに移転させてローラ間に挟み込んだ被記録媒体44を主走査方向に搬送する。移動機構40は、副走査方向に延びた一対のガイドレール36、37と、一対のガイドレール36、37に沿って摺動可能なキャリッジユニット43と、キャリッジユニット43を連結し副走査方向に移動させる無端ベルト38と、この無端ベルト38を図示しないプーリを介して周回させるモータ39とを備えている。
【0059】
キャリッジユニット43は、複数の液体噴射ヘッド1、1’を載置し、例えばイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4種類の液滴を噴射する。液体タンク34、34’は対応する色の液体を貯留し、液体ポンプ33、33’、流路部35、35’を介して液体噴射ヘッド1、1’に供給する。各液体噴射ヘッド1、1’は駆動信号に応じて各色の液滴を噴射する。液体噴射ヘッド1、1’から液体を噴射させるタイミングや、キャリッジユニット43を駆動するモータ39の回転及び被記録媒体44の搬送速度を制御することにより、被記録媒体44上に任意のパターンを記録することできる。
【0060】
なお、本実施形態は、移動機構40がキャリッジユニット43と被記録媒体44を移動させて記録する液体噴射装置30であるが、これに代えて、キャリッジユニットを固定し、移動機構が被記録媒体を2次元的に移動させて記録する液体噴射装置であってもよい。つまり、移動機構は液体噴射ヘッドと被記録媒体とを相対的に移動させるものであればよい。
【符号の説明】
【0061】
1 液体噴射ヘッド
2 アクチュエータ基板
2a、2b 圧電体基板
3 吐出溝
4 非吐出溝
5 配線用溝
6 カバープレート
7 凹部、8 付加凹部
9 スリット、10 付加スリット
11 導電膜
12 共通駆動電極
13 個別駆動電極
14 配線用電極
15 共通配線
16 付加配線
17 個別端子
18 共通端子
19 補強板
20 ノズルプレート、21 ノズル
22 接着剤
K 基準方向、Ea 一方側の端部、Eb 他方側の端部
U1、U2 上面、L1、L2 下面、B 境界
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9